説明

光学部材とそれを備える画像表示装置

【課題】複屈折性を示す光学部材であって、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性(逆波長分散性)を示すとともに光学的な設計の自由度が高い光学部材を提供する。
【解決手段】固有複屈折が正である第1の樹脂層と、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体を含み、固有複屈折が負である第2の樹脂層とを含む積層構造を有する光学部材とする。第1の樹脂層は、例えば(メタ)アクリル重合体、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種を含み、α,β−不飽和単量体単位は、例えばビニルカルバゾール単位である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光に対して複屈折性を示す光学部材と、この光学部材を備える画像表示装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子の配向により生じる複屈折を利用した光学部材が、画像表示分野において幅広く使用されている。このような光学部材の一つに、色調の補償、視野角の補償などを目的として画像表示装置に組み込まれる位相差板がある。例えば、反射型の液晶表示装置(LCD)では、複屈折により生じた位相差に基づく光路長差(リターデーション)が波長の1/4である位相差板(λ/4板)が使用される。有機ELディスプレイ(OLED)では、外光の反射防止を目的として、偏光板とλ/4板とを組み合わせた反射防止板が用いられることがある(特許文献1を参照)。これら複屈折性を示す光学部材は、今後のさらなる用途拡大が期待される。
【0003】
従来、光学部材には、ポリカーボネート、シクロオレフィンが主に用いられてきたが、これら一般的な高分子は、光の波長が短くなるほど複屈折が大きくなる(即ち、位相差が増大する)波長分散性を示す。表示特性に優れる画像表示装置とするためには、これとは逆に、光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(即ち、位相差が減少する)波長分散性を示す光学部材が望まれる。なお、本明細書では、少なくとも可視光領域において光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を、一般的な高分子ならびに当該高分子により形成された光学部材が示す波長分散性とは逆であることに基づいて、「逆波長分散性」と呼ぶ。
【0004】
これまで、光の波長が短くなるほど複屈折が大きくなる波長分散性を改善するために、位相差が異なる2種の光学部材を積層したり(特許文献2)、λ/4板とλ/2板とを積層したり(特許文献3)することが試みられている。しかし、これらの方法では、可視光領域における複屈折の波長分散性をほぼフラットな状態にできる(特許文献2の図4参照)ものの、逆波長分散性を示す光学部材の実現は難しい。
【0005】
一方、特許文献4に、正の固有複屈折を有する重合体と、負の固有複屈折を有する重合体とを含む樹脂組成物からなる位相差板が開示されている。また、特許文献5に、正の固有複屈折を有する分子鎖と、負の固有複屈折を有する分子鎖とを有する共重合体からなる位相差板が開示されており、これらの位相差板は、単層でありながら逆波長分散性を示す。しかし、特許文献4、5に開示の位相差板では、固有複屈折の符号が互いに異なる重合体(分子鎖)間の相容性、ならびに位相差板としての成形性、耐熱性などの諸特性を考慮しながら樹脂組成物(共重合体)の組成を定める必要があり、事実上、樹脂組成物(共重合体)がとりうる組成範囲が限定される。このため、特許文献4、5に開示の位相差板は、その光学的な設計の自由度が必ずしも十分ではない。なお、特許文献4には、正の固有複屈折を有する重合体としてポリノルボルネンが、負の固有複屈折を有する重合体としてスチレン系重合体が例示されている。特許文献5には、正の固有複屈折を有する分子鎖としてノルボルネン鎖が、負の固有複屈折を有する分子鎖としてスチレン鎖などのスチレン系の分子鎖が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−273275号公報
【特許文献2】特開平5−27118号公報
【特許文献3】特開平10−68816号公報
【特許文献4】特開2001−337222号公報
【特許文献5】特開2001−235622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、複屈折性を示す光学部材であって、逆波長分散性を示すとともに光学的な設計の自由度が高い光学部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学部材は、固有複屈折が正である第1の樹脂層と、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位(以下、不飽和単量体単位)を構成単位として有する重合体(B)を含み、固有複屈折が負である第2の樹脂層と、を含む積層構造を有し、少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を示す。
【0009】
本発明の画像表示装置は、本発明の光学部材を備える。
【0010】
樹脂層の固有複屈折の正負は、樹脂層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層の配向軸に平行な振動成分に対する樹脂層の屈折率n1から、配向軸に垂直な振動成分に対する樹脂層の屈折率n2を引いた値「n1−n2」に基づいて判断できる。樹脂層の配向軸とは、当該層に含まれる重合体の分子鎖が一軸配向したと仮定したときにおける当該分子鎖の配向方向である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光学部材は、固有複屈折の符号が互いに異なる2種類の層(第1および第2の樹脂層)が積層された構造を有しているが、このような積層構造では、入射した光に対する両層の複屈折が互いに打ち消し合う現象が生じる。ここで、複屈折の打ち消しあう程度が波長によって異なるために、本発明の光学部材は逆波長分散性を示す。
【0012】
また、本発明の光学部材では、第1および第2の樹脂層がそれぞれ独立して配置されており、固有複屈折の符号が互いに異なる重合体(分子鎖)間の相容性を考慮することなく層を形成できるため、各層がとりうる組成範囲が広い。さらに、第2の樹脂層は不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(B)を含むが、このような層が示す複屈折の波長分散性は、一般的な重合体を含む樹脂層(例えば第1の樹脂層)が示す複屈折の波長分散性よりもかなり大きい。
【0013】
このように、本発明の光学部材では、複屈折の波長分散性が大きく異なる2種類の独立した樹脂層を組み合わせており、これにより、逆波長分散性の制御の自由度をはじめとする光学的な設計の自由度が高い光学部材となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の光学部材の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書における「樹脂」は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、例えば1種または2種以上の重合体からなってもよいし、必要に応じて、重合体以外の材料、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤などを含んでいてもよい。
【0016】
図1に、本発明の複屈折性を示す光学部材の一例を示す。図1に示す光学部材1は、固有複屈折が正である第1の樹脂層2と、固有複屈折が負である第2の樹脂層3とが積層された構造を有する。第2の樹脂層3は、不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(B)を含む。
【0017】
[第1の樹脂層]
第1の樹脂層の構成は、固有複屈折が正である限り特に限定されず、例えば、当該層が含む重合体は特に限定されない。
【0018】
第1の樹脂層は、例えば、(メタ)アクリル重合体(A)、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種を含む。これらの重合体を含む第1の樹脂層における複屈折の波長分散性は、不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(B)を含む第2の樹脂層における複屈折の波長分散性に比べて非常に小さい。このため、第1の樹脂層が(メタ)アクリル重合体(A)、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種の重合体を含む場合、第1および第2の樹脂層間における複屈折の波長分散性の差がより大きくなり、本発明の光学部材における逆波長分散性の制御の自由度がより向上する。
【0019】
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造をさらに含む重合体の場合、(メタ)アクリル酸エステル単位および環構造の合計が全構成単位の50モル%以上であれば、(メタ)アクリル重合体である。
【0020】
シクロオレフィン重合体は、シクロオレフィン単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。
【0021】
セルロース誘導体は、トリアセチルセルロース(TAC)単位、セルロースアセテートプロピオネート単位、セルロースアセテートブチレート単位、セルロースアセテートフタレート単位などの繰り返し単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。
【0022】
第1の樹脂層は、(メタ)アクリル重合体(A)を含むことが好ましい。(メタ)アクリル重合体は、透明度が高く、表面強度などの機械的特性に優れる。このため、第1の樹脂層が(メタ)アクリル重合体を含む場合、本発明の光学部材は、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置への使用に好適である。
【0023】
第1の樹脂層が(メタ)アクリル重合体(A)を含む場合、当該層における重合体(A)の含有率は、50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。
【0024】
(メタ)アクリル重合体(A)、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体自身は、必ずしも正の固有複屈折を有さなくてもよいが、第1の樹脂層の固有複屈折が正である必要があることから、正の固有複屈折を有することが好ましい。重合体の固有複屈折の正負は、分子鎖が一軸配向した当該重合体からなる層(例えば、シートあるいはフィルム)において、当該層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層における分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な振動成分に対する層の屈折率n3から、配向軸に垂直な振動成分に対する層の屈折率n4を引いた値「n3−n4」に基づいて判断できる。固有複屈折の値は、重合体の分子構造に基づく計算により求めることができる。樹脂層における固有複屈折の正負は、当該層に含まれる各重合体に由来して生じる複屈折の兼ね合いにより決定される。
【0025】
第1の樹脂層では、当該層に含まれる重合体の配向により複屈折が生じる。この観点からは、第1の樹脂層は、当該重合体または当該重合体を含む樹脂(樹脂組成物)に配向を与えて形成した層である。重合体または重合体を含む樹脂に配向を与えるには、所定の形状(例えばシート、フィルム)に成形した重合体または樹脂を延伸すればよい。
【0026】
(メタ)アクリル重合体(A)は、主鎖に環構造を有することが好ましい。主鎖に環構造を有する重合体(A)とすることにより、第1の樹脂層の耐熱性が向上し、光学部材の耐熱性が向上する。耐熱性が向上した光学部材は、例えば画像表示装置において、光源などの発熱部に近接した配置が可能となる。また、耐熱性の向上によって、後加工、例えばコーティングなどの表面処理、時の加工温度を上げられるため、光学部材の生産性が高くなる。
【0027】
重合体(A)が主鎖に有していてもよい環構造(以下、環構造)は特に限定されず、例えば、エステル基、イミド基または酸無水物基を有する環構造である。
【0028】
より具体的には、環構造は、ラクトン環構造、グルタルイミド構造または無水グルタル酸構造である。これらの環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体(A)は、配向によって大きな正の固有複屈折を示すため、当該重合体の含有により、第1の樹脂層の固有複屈折は正に大きくなる。第1の樹脂層の固有複屈折が正に大きくなると、本発明の光学部材における逆波長分散性の制御の自由度がより高くなり、例えば、用途に応じた良好な逆波長分散性の実現が可能となる。
【0029】
環構造は、ラクトン環構造および/またはグルタルイミド構造が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。これらの環構造、特にラクトン環構造を主鎖に有する重合体(A)は、配向によって生じる複屈折の波長分散性が特に小さい。このため、当該重合体の含有により、第1の樹脂層が示す複屈折の波長分散性がさらに小さくなる。これに対して、重合体(B)を含む第2の樹脂層が示す複屈折の波長分散性は非常に大きい。このような第1および第2の樹脂層を組み合わせることにより、本発明の光学部材における逆波長分散性の制御の自由度はさらに高くなる。
【0030】
重合体(A)が有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば、以下の式(1)に示す構造である。
【0031】
【化1】

【0032】
式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0033】
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基または上記芳香族炭化水素基における水素原子の1つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
【0034】
式(1)に示すラクトン環構造は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させて形成できる。このとき、R1はH、R2はCH3、R3はCH3である。
【0035】
重合体(A)が有していてもよいグルタルイミド構造は、以下の式(2)に示す環構造である。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体群を重合した後、得られた重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
【0036】
【化2】

【0037】
式(2)において、R4、R5およびR6は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0038】
重合体(A)が有していてもよい無水グルタル酸構造は、以下の式(3)に示す環構造である。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体を分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0039】
【化3】

【0040】
式(3)において、R7およびR8は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0041】
なお、式(1)〜(3)の説明において例示した、環構造を形成する各方法では、環構造の形成に用いる重合体は全て(メタ)アクリル重合体であり、形成される環構造は全て(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である。
【0042】
重合体(A)が主鎖に環構造を有する場合、重合体(A)における環構造の含有率は特に限定されないが、通常5〜90重量%であり、20〜90重量%が好ましい。当該含有率は、30〜90重量%、35〜90重量%、40〜80重量%および45〜75重量%になるほど、さらに好ましい。環構造の含有率は、特開2001−151814号公報に記載の方法により求めることができる。
【0043】
重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単位およびその誘導体である環構造以外の構成単位を含んでいてもよい。
【0044】
重合体(A)は、公知の方法により製造できる。
【0045】
例えば、環構造としてラクトン環構造を有する重合体(A)は、分子鎖内に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)を触媒存在下で加熱し、脱アルコールを伴うラクトン環化縮合反応を進行させて得ることができる。
【0046】
重合体(a)は、例えば、以下の式(4)に示す単量体を含む単量体群の重合により形成できる。
【0047】
【化4】

【0048】
式(4)において、R9およびR10は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0049】
式(4)に示す単量体は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルである。なかでも2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、高い透明性および耐熱性を有する光学部材得られることから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)が特に好ましい。なお、ここに例示した(メタ)アクリル酸エステル単量体の重合により形成される構成単位は、環化により、当該単位を有する重合体に対して正の固有複屈折を与える作用を有する。
【0050】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、式(4)に示す単量体を2種以上含んでもよい。
【0051】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、式(4)に示す単量体以外の単量体を含んでもよい。このような単量体は、式(4)に示す単量体と共重合できる単量体である限り特に限定されず、例えば、式(4)に示す単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルである。
【0052】
このような(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸カルバゾイルエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ナフチル、アクリル酸アントラセニルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸カルバゾイルエチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ナフチル、メタクリル酸アントラセニルなどのメタクリル酸エステル;である。なかでも、高い透明性および耐熱性を有する光学部材が得られることから、メタクリル酸メチル(MMA)が特に好ましい。
【0053】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、これらの(メタ)アクリル酸エステルを2種以上含んでもよい。
【0054】
第1の樹脂層は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤を含むことができる。
【0055】
[第2の樹脂層]
第2の樹脂層の構成は、不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(B)を含むとともに、固有複屈折が負である限り、特に限定されない。
【0056】
不飽和単量体単位は、当該単位を構成単位として有する重合体(B)の複屈折の波長分散性を大きく増加させる作用を有する。このため、重合体(B)を含む第2の樹脂層が示す複屈折の波長分散性は非常に大きい。このような第2の樹脂層と、第1の樹脂層、特に(メタ)アクリル重合体(A)、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種の重合体を含む樹脂層、との積層構造を有することにより、本発明の光学部材では、逆波長分散性の制御の自由度をはじめとする光学的な設計の自由度が高くなる。
【0057】
なお、特許文献4(特開2001−337222号公報)に例示されている重合体の組み合わせに基づいて第1および第2の樹脂層を形成したとしても(例えば、第1の樹脂層をポリノルボルネンにより形成し、第2の樹脂層をスチレン系重合体により形成したとしても)、それぞれの層が示す複屈折の波長分散性の差がそれほど大きくないために、本発明のような高い光学的設計の自由度が得られない。
【0058】
ところで、芳香環は、当該環を含む重合体の光弾性係数を増大させる。重合体(B)が有する不飽和単量体単位は複素芳香族基を有するが、当該単位に由来して生じる複屈折の波長分散性が大きいため、本発明の光学部材は、光弾性係数の増大が抑制された光学部材となる。重合体(B)の全構成単位に占める不飽和単量体単位の割合(重合体(B)における不飽和単量体単位の含有率)が低い場合にも、重合体(B)は大きな複屈折の波長分散性を示し(本願比較例3の表5を参照)、逆波長分散性の制御の自由度をはじめとする光学的な設計の自由度が高い光学部材が得られるからである。なお、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリメタクリル酸メチルなど、負の固有複屈折を示す層の形成に従来用いられている重合体は、ホモポリマーであっても、本願実施例で示す可視光域内のR/R0値にして、およそ0.95〜1.15程度の範囲に収まる波長分散性しか示さない。光弾性係数の増大が抑制された光学部材は、画像表示装置への使用に好適である。
【0059】
重合体(B)自身は、必ずしも負の固有複屈折を有さなくてもよいが、第2の樹脂層の固有複屈折が負である必要があることから、負の固有複屈折を有することが好ましい。
【0060】
重合体(B)は、構成単位として不飽和単量体単位のみを含むホモポリマーであってもよい。しかし、不飽和単量体単位の含有率が低い場合においても、重合体(B)における複屈折の波長分散性を大きくできるとともに、その固有複屈折を負にできること、ならびに不飽和単量体単位の含有率が高くなるほど光弾性係数が増大し、また、製造コストも増大することを考慮すると、重合体(B)は、不飽和単量体単位以外の構成単位を含む共重合体であることが好ましい。
【0061】
不飽和単量体単位以外の構成単位は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単位である。この場合、重合体(B)は、重合により不飽和単量体単位となる不飽和単量体(複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体)と、(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体である。
【0062】
重合体(B)は、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である上述した環構造を主鎖に有していてもよく、この場合、第2の樹脂層の耐熱性が向上し、光学部材の耐熱性が向上する。重合体(B)が、第1の樹脂層に含まれる重合体(A)とともに上記環構造を主鎖に有する場合、光学部材の耐熱性がさらに向上し、当該部材のガラス転移温度(Tg)は、例えば110℃以上となる。環構造の種類、各重合体における環構造の含有率ならびに各層における各重合体の含有率によっては、光学部材のTgを、120℃以上さらには130℃以上とすることが可能である。Tgは、JIS K7121に準拠して求めることができる。
【0063】
共重合体である重合体(B)における不飽和単量体単位の含有率は、例えば、0.1〜30重量%であり、0.5〜20重量%が好ましい。
【0064】
重合体(B)における不飽和単量体単位の含有率は、公知の手法、例えば1H核磁気共鳴(1H−NMR)あるいは赤外線分光分析(IR)により求めることができる。その他の重合体における構成単位の含有率ならびに各樹脂層における重合体の含有率についても、同じ手法により求めることができる。
【0065】
第2の樹脂層は、その固有複屈折が負である限り、重合体(B)以外の重合体を含んでいてもよい。即ち、第2の樹脂層は、重合体(B)を含む樹脂組成物からなってもよい。
【0066】
第2の樹脂層では、当該層に含まれる重合体の配向により複屈折が生じる。この観点からは、第2の樹脂層は、当該重合体または当該重合体を含む樹脂(樹脂組成物)に配向を与えて形成した層である。重合体または重合体を含む樹脂に配向を与えるには、所定の形状(例えば、シート、フィルム)に成形した重合体または樹脂を延伸すればよい。
【0067】
重合体(B)が構成単位として有する不飽和単量体単位は限定されない。複素芳香族基におけるヘテロ原子は、例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子である。なかでも、重合体(B)における複屈折の波長分散性を増大させる作用が強いことから、窒素原子が好ましい。
【0068】
不飽和単量体単位は、例えば、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である。なかでも、重合体(B)における複屈折の波長分散性を増大させる作用が強いことから、ビニルカルバゾール単位およびビニルピリジン単位から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ビニルカルバゾール単位がより好ましい。
【0069】
ビニルカルバゾール単位を、以下の式(5)に示す。なお、式(5)に示す環上の水素原子の一部が、式(1)における有機残基として例示した基により置換されていてもよい。
【0070】
【化5】

【0071】
重合体(B)は、公知の方法により製造できる。例えば、構成単位として不飽和単量体単位(例えばビニルカルバゾール単位)および(メタ)アクリル酸エステル単位を有する重合体(B)は、上述した(メタ)アクリル酸エステルと、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体(例えば以下の式(6)に示すビニルカルバゾール単量体)とを含む単量体群を重合して形成できる。単量体群が含む(メタ)アクリル酸エステルの種類を選択し、形成した重合体を環化縮合させることにより、不飽和単量体単位を構成単位として有するとともに、主鎖に環構造を有する重合体(B)としてもよい。
【0072】
【化6】

【0073】
式(6)に示す環上の水素原子の一部は、式(1)における有機残基として例示した基により置換されていてもよい。
【0074】
第2の樹脂層は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの任意の添加剤を含むことができる。
【0075】
[光学部材]
本発明の光学部材は逆波長分散性を示す。即ち、本発明の光学部材は、少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折(あるいは位相差もしくはリターデーション)が小さくなる光学特性を示す。このような広帯域の光学部材を用いることによって、表示特性に優れる画像表示装置を構築できる。
【0076】
本発明の光学部材が備える第1および第2の樹脂層の層数は特に限定されない。本発明の光学部材は、典型的には図1に示すように、一層の第1の樹脂層と一層の第2の樹脂層とが積層された構造を有するが、光学的な設計事項に合わせて、複数の第1または第2の樹脂層が積層された構造を有していてもよい。また、第1の樹脂層と第2の樹脂層とは必ずしも接していなくてもよく、それぞれの層の間に任意の層が配置されていてもよい。
【0077】
本発明の光学部材における第1および第2の樹脂層の積層状態(例えば、第1および第2の樹脂層の積層パターン、あるいは光学部材の表面に垂直な方向から見た、第1の樹脂層の配向軸と第2の樹脂層の配向軸とがなす角度など)は特に限定されず、光学的な設計事項に合わせて選択、調整できる。なお、第1および第2の樹脂層を、それぞれの延伸方向がほぼ一致するように積層した場合に、光学部材が示す逆波長分散性が最も強くなる。
【0078】
本発明の光学部材の固有複屈折は正であっても負であってもよく、第1および第2の樹脂層の積層状態により、正とすることも負とすることもできる。
【0079】
本発明の光学部材の具体的な形状は特に限定されない。光学部材としての用途に応じて選択すればよく、例えば、フィルムまたはシートである。
【0080】
本発明の光学部材は、用途に応じて、他の光学部材と組み合わせて用いてもよい。
【0081】
本発明の光学部材は、例えば、位相差板としてもよいし、得られる位相差に基づくリターデーションを光の波長の1/4とすることで、位相差板の一種であるλ/4板としてもよい。また、本発明の光学部材を、偏光板などの他の光学部材と組み合わせて、反射防止板とすることもできる。
【0082】
本発明の光学部材の用途は特に限定されず、従来の光学部材と同様の用途(例えば、LCD、OLEDなどの画像表示装置)に使用が可能である。
【0083】
本発明の光学部材を形成する方法は特に限定されず、公知の手法に従えばよい。例えば、重合体(A)または重合体(A)を含む樹脂をフィルムに成形し、得られたフィルムを所定の方向に延伸(典型的には一軸延伸または逐次二軸延伸)することで重合体(A)の分子鎖を配向させて、フィルムである第1の樹脂層を形成する。これとは別に、重合体(B)または重合体(B)を含む樹脂をフィルムに成形し、得られたフィルムを所定の方向に延伸することで重合体(B)の分子鎖を配向させて、フィルムである第2の樹脂層を形成する。次に、形成した双方の樹脂層を積層して、図1に示す本発明の光学部材を形成できる。
【0084】
重合体(A)、(B)または重合体(A)、(B)を含む樹脂(樹脂組成物)は、キャスト法、溶融成形法(例えば溶融押出成形、プレス成形)などの公知の手法により、フィルムに成形できる。
【0085】
形成した第1および第2の樹脂層は、公知の手法により積層すればよく、その際、アクリル系の接着剤などにより両層を接着してもよい。
【0086】
また、本発明の光学部材は、第1および第2の樹脂層から選ばれる一方の樹脂層の表面に、他方の樹脂層を構成する重合体の溶液または当該重合体を含む樹脂の溶液を塗布し、塗布した溶液から溶媒を除去した後、全体を延伸することによっても形成できる。この方法では、溶液を塗布した後に全体を延伸することから、一方の樹脂層の前駆体であるフィルム(延伸によって当該樹脂層となるフィルム)の表面に溶液を塗布してもよい。
【0087】
その他、本発明の光学部材は、共押出成形と延伸とを組み合わせることによっても形成できる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0089】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、15重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、35重量部のメタクリル酸メチル(MMA)および重合溶媒として50重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、3.34重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0090】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.1重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0091】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、主鎖にラクトン環構造を有する透明な(メタ)アクリル重合体(A−1)を形成した。
【0092】
(製造例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、15重量部のMHMA、25重量部のMMA、10重量部のメタクリル酸ベンジルおよび重合溶媒として50重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、3.34重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06重量部を溶解した溶液を6時間かけて滴下しながら、約105〜111℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに2時間の熟成を行った。
【0093】
次に、得られた重合溶液に、環化触媒として、0.1重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0094】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、主鎖にラクトン環構造を有する透明な(メタ)アクリル重合体(A−2)を形成した。
【0095】
(製造例3)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、10重量部のビニルカルバゾール、18重量部のMHMA、72重量部のMMAおよび重合溶媒として80重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.1重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.2重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0096】
次に、得られた重合溶液に、トルエン10重量部に溶解させた0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、還流下において2時間、上記重合により形成した重合体中のMHMA単位とMMA単位との間に環化縮合反応を進行させた。
【0097】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、ビニルカルバゾール単位を構成単位として有する透明な重合体(B−1)を形成した。なお、得られた重合体(B−1)は、その主鎖にラクトン環構造を有する。
【0098】
(製造例4)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、10重量部のビニルカルバゾール、18重量部のMHMA、72重量部のMMAおよび重合溶媒として90重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.04重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.08重量部を溶解した溶液を3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0099】
次に、得られた重合溶液に、0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、80〜105℃の還流下において2時間、上記重合により形成した重合体中のMHMA単位とMMA単位との間に環化縮合反応を進行させた。さらに、重合溶液をオートクレーブを用いて240℃、90分加熱した後、全体をトルエンで希釈して、ビニルカルバゾール単位を構成単位として有する重合体(B−2)のトルエン溶液(D−1)を得た。トルエンによる希釈は、得られたトルエン溶液(D−1)における固形分濃度が約20重量%となるように行った。なお、重合体(B−2)は、その主鎖にラクトン環構造を有する。
【0100】
(実施例1)
製造例1で作製した重合体(A−1)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約70μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、二軸延伸装置(東洋精機製作所社製TYPE EX4、以降の実施例、比較例においても同じ)により、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、延伸温度145℃で一軸延伸して、厚さ約50μmの延伸フィルム(F−A1)を得た。
【0101】
これとは別に、重合体(A−1)の代わりに製造例3で作製した重合体(B−1)を用いた以外は上記と同様にして、厚さ約100μmの延伸フィルム(F−B1)を得た。
【0102】
次に、作製した延伸フィルム(F−A1)を第1の樹脂層、延伸フィルム(F−B1)を第2の樹脂層として、各々のフィルムの延伸方向(延伸軸)を合わせながら両フィルムを積層した。
【0103】
積層によって得た延伸フィルム積層体における位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表1に示す。なお、表1ならびに以降の実施例・比較例における各表では、測定波長を589nmまたは590nmとしたときの位相差を基準(R0)として、その他の波長における位相差RとR0との比(R/R0)を併せて示す。また、各表に示す面内位相差は、膜厚100μmあたりの値である。
【0104】
【表1】

【0105】
表1に示すように、実施例1で作製した延伸フィルム積層体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0106】
実施例1で作製した延伸フィルム積層体の配向角(φ)は−0.8°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0107】
(実施例2)
製造例2で作製した重合体(A−2)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約70μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度138℃で一軸延伸して、厚さ約50μmの延伸フィルム(F−A2)を得た。
【0108】
これとは別に、製造例3で作製した重合体(B−1)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約210μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度138℃で一軸延伸して、厚さ約150μmの延伸フィルム(F−B2)を得た。
【0109】
次に、作製した延伸フィルム(F−A2)を第1の樹脂層、延伸フィルム(F−B2)を第2の樹脂層として、各々のフィルムの延伸方向を合わせながら両フィルムを積層した。積層によって得た延伸フィルム積層体における位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表2に示す。
【0110】
【表2】

【0111】
表2に示すように、実施例2で作製した延伸フィルム積層体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0112】
実施例2で作製した延伸フィルム積層体の配向角(φ)は0.6°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0113】
(実施例3)
(メタ)アクリル重合体(A)としてアクリルイミド重合体(ロームアンドハース社製、KAMAX T−240)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約70μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度143℃で一軸延伸して、厚さ約50μmの延伸フィルム(F−A3)を得た。
【0114】
これとは別に、製造例3で作製した重合体(B−1)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約180μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度138℃で一軸延伸して、厚さ約125μmの延伸フィルム(F−B3)を得た。
【0115】
なお、重合体(A)として用いたアクリルイミド重合体は、以下の式(7)に示すように、その構成単位としてN−メチル−ジメチルグルタルイミド単位およびメチルメタクリレート単位を有する。
【0116】
【化7】

【0117】
次に、作製した延伸フィルム(F−A3)を第1の樹脂層、延伸フィルム(F−B3)2枚の積層体を第2の樹脂層として、各々のフィルムの延伸方向を合わせながら両フィルムを積層した。積層によって得た延伸フィルム積層体における位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表3に示す。
【0118】
【表3】

【0119】
表3に示すように、実施例3で作製した延伸フィルム積層体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0120】
実施例3で作製した延伸フィルム積層体の配向角(φ)は0.3°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0121】
(比較例1)
実施例1で作製した延伸フィルム(F−A1)のみを用いて光学部材とすることを想定し、当該延伸フィルムにおける位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表4に示す。
【0122】
【表4】

【0123】
表4に示すように、延伸フィルム(F−A1)は、光の波長が変化しても位相差がほぼ変化しないフラットな波長分散性を示した。
【0124】
延伸フィルム(F−A1)の配向角(φ)は−0.7°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0125】
(比較例2)
実施例2で作製した延伸フィルム(F−A2)のみを用いて光学部材とすることを想定し、当該延伸フィルムにおける位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表5に示す。
【0126】
【表5】

【0127】
表5に示すように、延伸フィルム(F−A2)は、延伸フィルム(F−A1)ほどフラットではないものの、光の波長が変化しても位相差がほぼ変化しない波長分散性を示した。
【0128】
延伸フィルム(F−A2)の配向角(φ)は−0.7°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0129】
(比較例3)
製造例3で作製した重合体(B−1)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約70μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度138℃で一軸延伸して、厚さ約50μmの延伸フィルム(F−B4)を得た。
【0130】
この延伸フィルム(F−B4)のみを用いて光学部材とすることを想定し、当該延伸フィルムにおける位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表6に示す。
【0131】
【表6】

【0132】
表6に示すように、延伸フィルム(F−B4)は、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる波長分散性を示したが、その分散性は、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの樹脂に比べて非常に大きかった。
【0133】
延伸フィルム(F−B4)の配向角(φ)は89.8°であり、即ち、その固有複屈折は負であった。
【0134】
(比較例4)
実施例3で使用したアクリルイミド重合体(ロームアンドハース社製、KAMAX T−240)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約140μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度143℃で一軸延伸して、厚さ約100μmの延伸フィルム(F−A4)を得た。
【0135】
この延伸フィルム(F−A4)のみを用いて光学部材とすることを想定し、当該延伸フィルムにおける位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表7に示す。
【0136】
【表7】

【0137】
表7に示すように、延伸フィルム(F−A4)は、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる波長分散性を示した。
【0138】
延伸フィルム(F−A4)の配向角(φ)は−0.9°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0139】
(実施例4)
製造例3で作製した重合体(B−1)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約70μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、オートグラフ(島津製作所社製)により、延伸倍率が2倍となるように延伸温度142℃で自由端一軸延伸して、厚さ45μmの延伸フィルム(F−B5)を得た。
【0140】
これとは別に、シクロオレフィン重合体フィルム(日本ゼオン製、ゼオノアZF14)を、上記オートグラフにより、延伸倍率が2倍となるように延伸温度142℃で自由端一軸延伸して、厚さ63μmの延伸フィルム(F−C1)を得た。
【0141】
次に、作製した延伸フィルム(F−C1)を第1の樹脂層、延伸フィルム(F−B5)を第2の樹脂層として、各々のフィルムの延伸方向を合わせながら両フィルムを積層した。積層によって得た延伸フィルム積層体における位相差(面内位相差)の波長分散性を、実施例1と同様に評価した。評価結果を以下の表8に示す。
【0142】
【表8】

【0143】
表8に示すように、実施例4で作製した延伸フィルム積層体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0144】
(比較例5)
実施例4で作製した延伸フィルム(F−C1)における位相差(面内位相差)の波長分散性を、実施例1と同様に評価した。評価結果を以下の表9に示す。
【0145】
【表9】

【0146】
表9に示すように、延伸フィルム(F−C1)は、光の波長が変化しても位相差がほぼ変化しないフラットな波長分散性を示した。
【0147】
なお、延伸フィルム(F−C1)における固有複屈折の正負を、当該フィルムの配向角を求めることで評価したところ、正であった。
【0148】
(実施例5)
製造例1で作製した重合体(A−1)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約180μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度145℃で固定端一軸延伸して、厚さ約90μmの延伸フィルム(F−A5)を得た。
【0149】
得られた延伸フィルム(F−A5)の一方の主面に、製造例4で作製した重合体(B−2)のトルエン溶液(D−1)をバーコーターで塗布し、塗布層からトルエンを揮発させて、延伸フィルム(F−A5)上に重合体(B−2)からなる層(厚さ約20μm)が積層された積層フィルム(F−D1)を得た。次に、得られた積層フィルム(F−D1)を、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度145℃で固定端一軸延伸して、厚さ約50μmの延伸フィルム積層体を得た。なお、積層フィルム(F−D1)の延伸は、延伸後の積層フィルム(延伸フィルム積層体)における遅相軸が延伸フィルム(F−A5)の延伸方向と直交するように延伸方向を定め、延伸倍率を2.2倍として行った。
【0150】
得られた延伸フィルム積層体における位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表10に示す。
【0151】
【表10】

【0152】
表10に示すように、実施例5で作製した延伸フィルム積層体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0153】
実施例5で作製した延伸フィルム積層体の配向角(φ)は0.8°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0154】
(実施例6)
シクロオレフィン重合体フィルム(日本ゼオン製、ゼオノアZF14)を、上記二軸延伸装置により、延伸倍率が1.8倍となるように延伸温度142℃で固定端一軸延伸して、厚さ約60μmの延伸フィルム(F−C2)を得た。
【0155】
得られた延伸フィルム(F−C2)の一方の主面に、製造例4で作製した重合体(B−2)のトルエン溶液(D−1)をバーコーターで塗布し、塗布層からトルエンを揮発させて、延伸フィルム(F−C2)上に重合体(B−2)からなる層(厚さ約20μm)が積層された積層フィルム(F−D2)を得た。次に、得られた積層フィルム(F−D2)を、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度145℃で固定端一軸延伸して、厚さ約40μmの延伸フィルム積層体を得た。なお、積層フィルム(F−D2)の延伸は、延伸後の積層フィルム(延伸フィルム積層体)における遅相軸が延伸フィルム(F−C2)の延伸方向と直交するように延伸方向を定め、延伸倍率を2倍として行った。
【0156】
得られた延伸フィルム積層体における位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表11に示す。
【0157】
【表11】

【0158】
表11に示すように、実施例6で作製した延伸フィルム積層体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0159】
実施例6で作製した延伸フィルム積層体の配向角(φ)は0.3°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0160】
(実施例7)
セルロースアセテートプロピオネート(アルドリッチ社製、数平均分子量Mn=15000)の塩化メチレン溶液(濃度15重量%)をガラス板上に流延し、乾燥させて、厚さ70μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルム(F−E1)を得た。
【0161】
得られたフィルム(F−E1)の一方の主面に、製造例4で作製した重合体(B−2)のトルエン溶液(D−1)をバーコーターで塗布し、塗布層からトルエンを揮発させて、フィルム(F−E1)上に重合体(B−2)からなる層(厚さ約40μm)が積層された積層フィルム(F−E2)を得た。次に、得られた積層フィルム(F−E2)を、上記二軸延伸装置を用いて延伸温度160℃で固定端一軸延伸して、厚さ約60μmの延伸フィルム積層体を得た。なお、積層フィルム(F−E2)の延伸は、延伸倍率を1.8倍として行った。
【0162】
得られた延伸フィルム積層体における位相差(面内位相差)の波長分散性および配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を以下の表12に示す。
【0163】
【表12】

【0164】
表12に示すように、実施例7で作製した延伸フィルム積層体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0165】
実施例7で作製した延伸フィルム積層体の配向角(φ)は1.1°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の光学部材は、従来の複屈折性を有する光学部材と同様に、液晶表示装置(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)をはじめとする画像表示装置に広く使用でき、本発明の光学部材の使用により、画像表示装置の表示特性を向上できる。
【符号の説明】
【0167】
1 光学部材
2 第1の樹脂層
3 第2の樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有複屈折が正である第1の樹脂層と、
複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(B)を含み、固有複屈折が負である第2の樹脂層と、を含む積層構造を有し、
少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を示す光学部材。
【請求項2】
前記第1の樹脂層が、(メタ)アクリル重合体(A)、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記第1の樹脂層が、(メタ)アクリル重合体(A)を含む請求項1に記載の光学部材。
【請求項4】
前記α,β−不飽和単量体単位が、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の光学部材。
【請求項5】
前記α,β−不飽和単量体単位が、ビニルカルバゾール単位である請求項1に記載の光学部材。
【請求項6】
前記アクリル重合体(A)が、主鎖に環構造を有する請求項2に記載の光学部材。
【請求項7】
前記環構造が、ラクトン環構造、グルタルイミド構造または無水グルタル酸構造である請求項6に記載の光学部材。
【請求項8】
前記環構造が、以下の式(1)に示すラクトン環構造である請求項6に記載の光学部材。
【化1】

上記式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の光学部材を備える画像表示装置。

【図1】
image rotate