説明

光学部材の製造方法

【課題】光学部材の凹凸形状をより簡易に決定するための光学部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】転写型53の形状を異なる転写率(h3/h1)で転写することにより、互いに異なる凹凸形状を有する複数の光学部材試作品30を成形するステップと、複数の光学部材試作品30それぞれの光学特性を評価するステップと、光学特性に基づいて光学部材の凹凸形状を決定するステップと、光学部材試作品30を成形する際に使用される転写型53の形状を、決定された凹凸形状に対応する転写率で転写することにより、光学部材を成形するステップと、を含む、光学部材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸形状を有する光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導光板、光拡散板等の光学シートは、所望の光学特性が発揮されるように設計された凹凸形状をその表面に有していることがある。凹凸形状を有する光学シートを製造する方法として、連続樹脂シートの表面に転写型の形状を転写する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−220555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光学シートのような光学部材では、一般に、シミュレーションによって凹凸形状を設計し、設計された凹凸形状を有する試作品の作製及びその評価を行って、凹凸形状が最適化される。所望の光学特性を達成するためには凹凸形状が精密に調整される必要があることから、凹凸形状の最適化のために、試作品の作製及びその評価を試行錯誤的に繰り返す場合が多い。
【0005】
しかし、従来の方法では、試作品を作製するたびに転写型を新たに作製する必要があるため、凹凸形状の最適化のために多大な費用と時間を要しているのが実情である。
【0006】
そこで、本発明の主な目的は、光学部材の凹凸形状をより簡易に決定することができる光学部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、転写型の形状を異なる転写率で転写することにより、互いに異なる凹凸形状を有する複数の光学部材試作品を成形するステップと、複数の光学部材試作品それぞれの光学特性を評価するステップと、光学特性に基づいて光学部材の凹凸形状を決定するステップと、光学部材試作品を成形する際に使用される転写型の形状を、決定された凹凸形状に対応する転写率で転写することにより、光学部材を成形するステップと、を含む、光学部材の製造方法に関する。
【0008】
上記本発明に係る方法によれば、成形の際の転写率を変化させることにより凹凸形状の異なる複数の試作品を準備するため、試作品を準備するために試作用の転写型を新たに作製する必要がない。したがって、光学部材の凹凸形状を、従来よりも簡易に決定することができる。また、光学部材試作品を成形する際に使用される転写型をそのまま使用して、光学部材を製造するので、光学部材製造用の転写型を新たに作製する必要もない。以上により、優れた光学特性を有する光学部材をより効率的に且つ低コストで製造することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光学部材の凹凸形状をより簡易に決定することができる光学部材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】光学シートの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】光学シートの製造方法の一実施形態を示す模式図である。
【図3】光学部材試作品を成形するステップの一実施形態を示す拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、光学部材である光学シートの一実施形態を示す斜視図である。図1に示す光学シート30は、平面視形状が矩形の一対の主面を有しており、一方の主面S1が、複数の凸状部35を有する凹凸形状を形成している。凸状部35は、光学シート30の主面の一辺に沿う方向に延在しており、凸状部35の延在方向に直交する断面の形状は山型である。複数の凸状部35が、その延在方向に垂直な方向に並列配置されている。凸状部35を有する凹凸形状は、転写型からの転写により形成される。
【0013】
光学シート30は、例えば、透過型画像装置に搭載される面光源装置(バックライト)の導光板、又は、光源からの光を均一に拡散させるための光拡散板として用いられ得る。光学シート30が導光板として用いられる場合、例えば、光源からの光が側面33から光学シート30内に入射され、凹凸形状を有する主面S1から面状の光が出射される。光学シート30が光拡散板として用いられる場合、例えば、主面S1の裏の背面S2側に光源が配置される。
【0014】
光学シート30は、主として透明材料から構成される透光性シートである。透明材料の屈折率は、通常1.48以上1.62以下又は1.56以上1.62以下である。透明材料としては、透明樹脂及び透明ガラスが例示できる。
【0015】
光拡散板の場合、透明樹脂は、好ましくは、ポリカーボネート樹脂(屈折率:1.59)、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体樹脂)(屈折率:1.56〜1.59)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂)(屈折率:1.56〜1.59)、ポリスチレン樹脂(屈折率:1.59)、及びシクロオレフィン樹脂(屈折率1.51〜1.55)から選択される。導光板の場合、透明樹脂は好ましくはポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂である。
【0016】
透明材料として透明樹脂を用いる場合、光学シート30は、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、加工安定剤、難燃剤及び滑剤等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤はそれぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0017】
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、マロン酸エステル系紫外線吸収剤、シュウ酸アニリド系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの中でもベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤及びトリアジン系紫外線吸収剤が好ましい。
【0018】
光学シート30は、光拡散剤を含んでいてもよい。光拡散剤としては、光学シート30を主に構成する上述の透明材料とは屈折率が異なる粒子が好適に用いられる。光拡散剤としては、例えばスチレン樹脂粒子、メタクリル樹脂粒子などの有機粒子、炭酸カリウム粒子、シリカ粒子等の無機粒子が用いられる。光拡散剤の粒子径は通常0.8μm〜50μmである。
【0019】
図2は、光学シートの製造方法の一実施形態を示す模式図である。図2に示す光学シート製造装置50によれば、凹凸形状を有する光学シート30が、樹脂の押出成形により成形される。光学シート製造装置50は、加熱溶融状態の樹脂を押し出す押し出し機58と、押し出し機58に取り付けられた、樹脂を投入するための樹脂投入口57と、押し出し機58により押し出された樹脂を排出して連続樹脂シート3を形成するダイ51と、ダイ51の下流側において互いに離間して順に配置された予圧ロール52D、第1押圧ロール52A及び第2押圧ロール52Bとから主として構成される。第2押圧ロール52Bの周面には、光学シート30の凹凸形状に対応する転写型53が形成されている。
【0020】
ダイ51から排出された連続樹脂シート3は、予圧ロール52Dと第1押圧ロール52Aとの間を通過する。連続樹脂シート3の厚みは、主として、予圧ロール52Dと第1押圧ロール52Aとの間隔により制御される。連続樹脂シート3がこれらロールの間に侵入する位置には、溶融した樹脂が滞留するメルトバンク4が形成されることが多い。
【0021】
予圧ロール52Dと第1押圧ロール52Aとの間を通過した連続樹脂シート3は、第1押圧ロール52Aの周面上を、第1押圧ロール52Aと第2押圧ロール52Bとの間で押圧される位置まで搬送される。
【0022】
連続樹脂シート3は、第1押圧ロール52Aと第2押圧ロール52Bとの間を通過する際に厚み方向の両側から押圧されて、転写型53の形状が連続樹脂シート3の表面S1に転写される。形状が転写された連続樹脂シート3は、第2押圧ロール52Bの周面上を、冷却されつつ搬送されてから、光学シート30として引き取られる。光学シート30の一方の主面S1には、転写型53から転写された凹凸形状が形成されている。
【0023】
光学シート30が光学部材試作品として成形される場合、転写型53を用いて、転写率を変えながら複数回成形を行うことにより、互いに異なる凹凸形状を有する複数の試作品が作製される。
【0024】
図3は、光学部材試作品としての光学シート30を成形するステップの一実施形態を示す模式図である。図3の(a)に示すように、転写型53は、光学部材30の凹凸形状が有する凸状部35と対応する、深さh1の溝である凹部53aが形成された反転形状を有している。図3の(b)に示すように、連続樹脂シート3が押圧されて凹部53a内に充填される。樹脂が転写型53に密着している状態で凹部35a内に形成される凸状部35の高さh2は、最大深さh1よりも小さく、樹脂と転写型53との間に空隙が残される。樹脂が凸部35a内に完全に充填されて、h1=h2となることもある。樹脂温度がある程度低下した後、光学シート30が転写型53から脱型される。その後、樹脂が熱弾性変形により収縮するため、樹脂が固化した状態の光学シート30の凸状部35の高さh3は、高さh2よりも小さくなる。充填率(h2/h1)が小さいときでも、最終的な凸状部35の裾部の形状は、転写型53の形状を正確に反映している場合が多い。
【0025】
転写率(%)は、式:(h3/h1)×100により算出される値として定義することができる。この転写率を例えば30〜100%の範囲で変化させることにより、一種類の転写型から、多様な凹凸形状を有する複数種の試作品を簡易に且つ短期間で作製することができる。
【0026】
当業者には理解されるように、転写型からの形状の転写率は、光学シートの成形条件を適宜調節することにより制御することできる。例えば、転写型の凹部53aへの樹脂の充填率(h2/h1)に着目して条件を設定する方法がある。この方法では、例えば、ダイから排出される樹脂の温度を上げたき、ラインスピードを上げたとき、メルトバンクを小さくしたとき、又は、転写型を有する押圧ロールの温度を上げたときに、充填される際の樹脂の流動性が大きくなることから、転写率が大きくなる傾向がある。あるいは、脱型後の樹脂の熱弾性変形の程度(h3/h2)に着目してロール温度、ラインスピード等の条件を設定してもよい。
【0027】
図3に示す実施形態では、転写型53の凹部53aの断面形状が山型であるが、転写型の形状はこれに限られるものではない。例えば、断面形状が三角プリズム形状である凹部を有する転写型を好適に用いることができる。三角プリズム形状の低角が異なる複数種の転写型を用いることにより、光学特性の異なる多様な試作品を短期間で簡易に作製することができる。
【0028】
異なる凹凸形状を有する転写型を複数種準備し、それぞれの転写型について異なる転写率で試作品を成形することもできる。凹凸形状が異なる複数の領域から構成される転写型を用いることもできる。異なる凹凸形状を有する転写型を予め複数種準備しておくことにより、新たな光学シートを設計する際に、転写型を改めて作製することなく、多様な凹凸形状の試作品を短期間で作製できる。
【0029】
更に、試作品を作製する際に、光学シートを構成する材料等も変化させることにより、より効率的に光学シートを最適化することができる。例えば、光拡散剤の屈折率、粒径及び濃度、更には、光学シート表面のエンボス加工の特性を調整することができる。
【0030】
試作品それぞれの光学特性を評価し、各試作品の光学特性と目標とする光学特性とを比較して、所望の光学特性が良好に達成される凹凸形状を、製品の光学部材を製造する際に目標として設定される凹凸形状に決定することができる。必要により、試作品を成形するステップ及び各試作品の光学特性を評価するステップを、転写型の形状及び転写率等を変えながら繰り返して、光学シートの凹凸形状及び場合により材料構成、エンボス加工等が最適化される。
【0031】
試作品の中から良品を選択して凹凸形状を決定するための指標としての光学特性は、例えば、出射光のムラ、輝度、全光線透過率及びヘイズから選択される。通常、出射光の面内のムラが小さい(均一性が高い)ことが望ましく、輝度は出射光の均一性が著しく損なわれない範囲で高いことが望ましい。光学特性の評価は、使用が想定される面光源装置等に組み込んだ状態で行ってもよい。必要により、断面形状観察、シミュレーション等を併用して光学シートが最適化される。
【0032】
以上のような方法により、目標とする光学特性を達成する光学シートの設計が完了した後、試作品を成形する際に使用される上記の転写型53をそのまま用いて、製品としての光学シートを成形する。具体的には、目標とする凹凸形状を有している試作品を成形したときの転写率で、転写型53の形状を転写することにより、光学シートが製造される。
【0033】
以上のように本実施形態においては、転写型53を用いて、転写率を変えながら成形を行うことで、凹凸形状の異なる複数の試作品を作製するので、試作品を作製するたびに試作用の転写型を新たに設計・作製する必要がない。したがって、光学シート30の凹凸形状を簡易に決定することができる。また、試作品を成形する際に使用される転写型53をそのまま使用し、転写型53からの転写により光学シートを製造するので、光学部材製造用の転写型を新たに設計・作製する必要もない。以上により、優れた光学特性を有する光学シート30を効率的に製造しつつ、製造コストを削減することができる。
【0034】
本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形が可能である。例えば、光学シートの製品又は試作品の成形方法は、押出成形に限られず、射出成形等の他の成形方法であってもよい。本発明により決定される凹凸形状は、図1の光学シートのような1次元的なレンチキュラーレンズに限られるものではなく、例えば、マイクロレンズ、ピラミッド型プリズム等の2次元的な凹凸形状を本発明により決定することができる。また、本発明により凹凸形状が決定される光学シートは、導光板及び光拡散板に限られるものではなく、例えば、他の面光源装置用光学フィルム、AGフィルム、又は、光拡散性を付与された保護フィルムであってもよい。面光源装置用の光学シートとしては、例えば、マイクロレンズフィルム、レンチキュラーレンズフィルム、先端部に丸みを帯びたプリズムシートがある。拡散性を付与された保護フィルムとしては、反射型偏光フィルム用保護フィルム、偏光板用保護フィルムがある。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写型の形状を異なる転写率で転写することにより、互いに異なる凹凸形状を有する複数の光学部材試作品を成形するステップと、
前記複数の光学部材試作品それぞれの光学特性を評価するステップと、
前記光学特性に基づいて光学部材の凹凸形状を決定するステップと、
前記光学部材試作品を成形する際に使用される前記転写型の形状を、前記決定された凹凸形状に対応する転写率で転写することにより、前記光学部材を成形するステップと、
を含む、光学部材の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−103450(P2013−103450A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249948(P2011−249948)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】