説明

光学部材

【課題】本発明は、指紋跡などの汚染物質が付着した場合でも、汚染物質が視認されにくく、かつ汚染物質が拭き取られやすい光学部材を提供する。
【解決手段】本発明に係る光学部材3は、透明な基材1と、前記基材1を覆う保護層2とを備える。前記保護層2が、アクリル樹脂の硬化物と、前記硬化物中に分散している平均粒径50〜500nmのSiO2粒子とを含む。前記保護層2に対する前記SiO2粒子の割合が5〜50質量%の範囲である。前記保護層2の膜厚が0.5μm以上である。前記保護層2の表面のオレイン酸に対する接触角が20°以下である。前記保護層2の表面粗さRaが20〜100nmの範囲である。光学部材3のヘイズが、1.0%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器を保護するために用いられる光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやタッチパネル等の光学機器の最表面には、表面を保護するために、透明な基材と、この基材を覆う保護層とを備える光学部材が貼着されることがある(図1参照)。
【0003】
光学部材には透明性が要求されるが、指紋跡や手垢など人間の手の接触に伴う汚染物質が光学部材の表面に付着すると、この汚染物質が白く光って見えて非常に目立ってしまい、このため光学機器による画像等の視認性が著しく低下してしまうという問題があった。これは、汚染物質である油脂等が光学部材上で半球状の膜を形成し、この膜が光を散乱することによる。
【0004】
そこで、光学部材の表面に汚染物質が付着しにくいこと、並びに付着した汚染物質を除去し易いことが、求められている。例えば特許文献1には、コロイダルシリカを主成分とする無機酸化物微粒子と、該無機酸化物微粒子に−O−Si−R−結合(Rは炭素数2〜10の直鎖または分岐のアルキレン基を表す。)を介して結合している有機ポリマーとを有する有機無機複合体を含み、前記有機ポリマーは、耐汚染性付与基と、該耐汚染性付与基とは独立に活性エネルギー線を照射して重合可能な基とを有し、かつ、該有機無機複合体を100μm厚のPET基材上に塗布し、活性エネルギー線を照射して重合することにより形成される厚み5μmの膜は、鉛筆硬度がF以上であり、水に対する接触角が80度以上である、耐汚染性付与剤が、開示されている。特許文献1によると、この耐汚染性付与剤を用いることで、塗膜に指紋が付着しても除去し易くなる。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術では、指紋跡等が目立たなくなる効果は非常に低く、また付着した指紋跡等が容易に除去され得る程の実用レベルの耐指紋性を得ることは難しかった。
【0006】
また、特許文献2には、基材上に電離放射線硬化型樹脂とマット化剤を含む塗料を硬化させて形成した樹脂層を有し、前記樹脂層の最表面がマット化されてなり、当該マット化面のぬれ張力が25mN/m以上であり、前記マット化面の表面粗さが十点平均粗さRzで0.2〜2.0μmである指紋消去性フィルムが開示されている。引用文献2によると、この指紋消去性フィルムでは指紋視認性が低下する。
【0007】
しかし、特許文献2に記載の技術では指紋消去性フィルムのヘイズが増大してしまい、光学部材に必要とされる高い透明性が確保できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−160802号公報
【特許文献2】特許第4627437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、指紋跡などの汚染物質が付着した場合でも、汚染物質が視認されにくく、かつ汚染物質が拭き取られやすく、更に高い透明性が確保されている光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る光学部材は、
透明な基材と、前記基材を覆う保護層とを備え、
前記保護層が、アクリル樹脂の硬化物と、前記硬化物中に分散している平均粒径50〜500nmのSiO2粒子とを含み、
前記保護層に対する前記SiO2粒子の割合が、5〜50質量%の範囲であり、
前記保護層の厚みが、0.5μm以上であり、
前記保護層の表面のオレイン酸に対する接触角が、20°以下であり、
前記保護層の表面粗さRaが、20〜100nmの範囲であり、
ヘイズが、1.0%以下である。
【0011】
本発明において、前記保護層の鉛筆硬度が、2H以上であることも好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光学部材に汚染物質が付着しても、汚染物質が視認されにくくなり、且つ汚染物質が光学部材から拭き取られやすくなり、更に高い透明性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における光学部材を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0015】
本実施形態による光学部材3は、図1に示すように、透明な基材1と、この基材1を覆う保護層(ハードコート層)2とを備える。保護層2は、アクリル樹脂の硬化物と、前記硬化物中に分散している平均粒径50〜500nmのSiO2粒子とを含む。保護層2に対するSiO2粒子の割合は、5〜50質量%の範囲である。また、保護層2の厚みは0.5μm以上である。また、保護層2の表面のオレイン酸に対する接触角は、20°以下である。更に保護層2の表面粗さRaは、20〜100nmの範囲である。
【0016】
基材1は、透明性を有する適宜の材質から形成される。例えば基材1は、ポリエステル系フィルム、トリアセチル系フィルム、アクリル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ノルボルネン系フィルム等の、透明性を有する樹脂フィルムから形成される。また基材1がガラス等の透明性を有する板材から形成されてもよい。
【0017】
保護層2はアクリル樹脂の硬化物を含む。このため保護層2の透明性が高くなると共に、その硬度が高くなる。このアクリル樹脂の硬化物は、保護層2の母相を構成する。アクリル樹脂としては、特に制限されないが、例えば多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0018】
保護層2内でアクリル樹脂の硬化物中に分散するSiO2粒子の平均粒径は、上記の通り50〜500nmである。この平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分析計でレーザー回折散乱法により測定される体積平均粒径のことである。SiO2粒子の平均粒径が50nm以上であると、保護層2の表面に適度な凹凸が形成されやすくなり、これにより保護層2に汚染物質が付着してもこの汚染物質が視認されにくくなる。また、SiO2粒子の平均粒径が500nm以下であることで、SiO2粒子による光散乱作用が抑制され、これにより光学部材3の高い透明性が維持される。SiO2粒子としては、特に制限されず、球状シリカ、破砕シリカ、不定形シリカ、中空シリカ、多孔質シリカ等の適宜の粒子が使用され得る。
【0019】
保護層2内でのSiO2粒子の割合は、上記の通り保護層2全体に対して5〜50質量%の範囲である。このSiO2粒子の割合が5質量%以上であることで、保護層2の表面に適度な凹凸が形成されやすくなり、これにより保護層2に汚染物質が付着してもこの汚染物質が視認されにくくなる。また、このSiO2粒子の割合が50質量%以下であることで、保護層2の強度が充分に高くなる。

【0020】
保護層2は、例えばアクリル樹脂とSiO2粒子を含有する樹脂組成物を基材1上に塗布し、更にこの保護層2上の樹脂組成物を硬化させることで、形成される。この場合、樹脂組成物は、例えばアクリル樹脂及びSiO2粒子を含有し、更に必要に応じて適宜の添加剤を含有する。樹脂組成物が光重合開始剤を含有する場合には、樹脂組成物に紫外線を照射するなどして光硬化させることで、保護層2が形成され得る。樹脂組成物中の光硬化剤の割合は、例えば1〜10質量%の範囲である。
【0021】
基材1上への樹脂組成物の塗布方法としては、特に制限されないが、ロールコート、バーコート、フローコート等が挙げられる。また、紫外線硬化性の樹脂組成物が用いられる場合の紫外線硬化法として、高圧水銀灯、超高圧水銀灯等を用いる方法が挙げられる。
【0022】
保護層2の表面粗さRaは、上記の通り100〜100nmの範囲である。この表面粗さRaは、JIS B0601−2001に規定される算術平均高さRaである。このように保護層2の表面粗さRaが10nm以上であると、光学部材3表面に適度な粗さが付与され、保護層2に指紋跡などの汚染物質が付着してもこの汚染物質が拭き取られやすくなり、十分な耐指紋性が発現する。また、光学部材3の表面粗さRaが100nm以下であることで、保護層2における光散乱作用が抑制され、このため光学部材3の透明性が向上する。
【0023】
保護層2の表面粗さRaの範囲を20〜100nmとすることは、SiO2粒子の平均粒径を50〜500nm範囲、SiO2粒子の含有量を保護層2全体に対して5〜50質量%の範囲、保護層2の膜厚を0.5μm以上の範囲とすることで、達成することができる。
【0024】
保護層2は、その表面のオレイン酸に対する接触角が20°以下になるように形成される。この場合、保護層2の表面上で油滴及び水滴が形成されにくくなり、更に保護層2の表面上に指紋跡等の汚染物質が付着してもこの汚染物質が視認されにくくなる。すなわち、保護層2表面において指紋跡等の汚染物質の主成分である皮脂の接触角が小さくなることで、保護層2に汚染物質が付着しても汚染物質が濡れ広がりやすくなり、このため汚染物質が目立ちにくくなる。尚、汚染物質の主成分の皮脂は中性脂肪(トリグリセリドなど)および中性脂肪が分解した脂肪酸(オレイン酸やパルミチン酸など)である。このため、皮脂の代表的な成分であるオレイン酸の付着しやすさ、オレイン酸のぬれ性、オレイン酸が付着した際の目立ちやすさなどが、耐指紋性を左右する。保護層2表面のオレイン酸接触角が20°以下であると、保護層2表面に汚染物質が付着しても、汚染物質が大きく濡れ広りやすくなり、指紋跡等が目立たなくなって、耐指紋性が向上する。
【0025】
保護層2のオレイン酸に対する接触角を20°以下とすることは、保護層2に平均粒径50〜500nmのシリカ粒子を5〜50質量%の割合で含有させることで達成される。
【0026】
保護層2の厚みは0.5μm以上であることが好ましい。この場合、保護層2の表面に適度な凹凸が形成されやすくなると共に、光学部材3の透明性が向上する。
【0027】
光学部材3のヘイズは1.0%以下である。この場合、光学部材3の透明性が高くなる。光学部材3のヘイズが1.0%以下であることは、上記のように保護層2の透明性が向上することで達成され得る。
【0028】
保護層2の鉛筆硬度はH以上であることが好ましい。この場合、光学部材3に、耐指紋性と共に十分な耐擦傷性が付与される。尚、保護層2の鉛筆硬度はJIS K5600により求めることができる。
【0029】
本実施形態による光学部材3は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の光学機器の最表面に貼付されることで用いられる。
【実施例】
【0030】
<実施例1>
基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績株式会社製、品番A4300、厚み100μm)を準備した。
【0031】
アクリル系紫外線硬化型樹脂(大日精化工業株式会社製、品番PET−HC301、固形分60%)とシリカ粒子(CIKナノテック株式会社製、品番SIRMIBK15WT%−H24、平均粒子径50nm)とを、シリカ粒子の割合(固形分換算)が10質量%となるように配合し、これらを混合することで、紫外線硬化型の樹脂組成物を得た。
【0032】
基材上に樹脂組成物をワイヤーバーコーター#10番で塗布し、続いてこの樹脂組成物を80℃で5分間加熱することにより乾燥させ、続いてこの樹脂組成物に紫外線を500mJ/cmの条件で照射することで、樹脂組成物を硬化させた。これにより、厚み3.0mの保護層が形成された。これにより基材と保護層とを備える光学部材を得た。
【0033】
<実施例2>
実施例1において、シリカ粒子として、日産化学工業株式会社製の品番IPA−ST−ZL(平均粒子径100nm)を使用した。それ以外は実施例1の場合と同じ方法及び条件で、光学部材を得た。
【0034】
<実施例3>
実施例1において、シリカ粒子として、日産化学工業株式会社製の品番MEK−ST2040(平均粒子径200nm)を使用した。それ以外は実施例1の場合と同じ方法及び条件で、光学部材を得た。
【0035】
<実施例4>
実施例1において、シリカ粒子として、CIKナノテック株式会社製の品番SIRMIBK15WT%−E94(平均粒子径300nm)を使用した。それ以外は実施例1の場合と同じ方法及び条件で、光学部材を得た。
【0036】
<実施例5>シリカ粒子の平均粒子径:500nm
実施例1において、シリカ粒子として、CIKナノテック株式会社製の品番SIRMIBK15WT%−E68(平均粒子径500nm)を使用した。それ以外は実施例1と同じ方法及び条件で、光学部材を得た。
【0037】
<実施例6>
実施例1において、シリカ粒子として日産化学工業株式会社製の品番MEK−ST2040(平均粒子径200nm)を使用し、且つ紫外線硬化型の樹脂組成物中のシリカ粒子の割合(固形分換算)を5質量%とした。それ以外は実施例1と同じ方法及び条件で、光学部材を得た。
【0038】
<実施例7>
実施例1において、シリカ粒子として日産化学工業株式会社製の品番MEK−ST2040(平均粒子径200nm)を使用し、且つ紫外線硬化型の樹脂組成物中のシリカ粒子の割合(固形分換算)を50質量%とした。それ以外は実施例1と同じ方法及び条件で、光学部材を得た。
【0039】
<比較例1>
実施例1において、シリカ粒子として、日産化学工業株式会社製の品番IPA−ST(平均粒子径10nm)を使用した。それ以外は実施例1と同じ方法及び条件で、光学部材を得た。
【0040】
<比較例2>
実施例1において、シリカ粒子として、CIKナノテック株式会社製の品番SIRMIBK15WT%−N01(平均粒子径700nm)を使用した。それ以外は実施例1と同じ方法及び条件で、光学部材を得た。
【0041】
<比較例3>
実施例1において、シリカ粒子として日産化学工業株式会社製の品番MEK−ST2040(平均粒子径200nm)を使用し、且つ紫外線硬化型の樹脂組成物中のシリカ粒子の割合(固形分換算)を2質量%とした。それ以外は実施例1と同じ方法及び条件で、光学部材を得た。
【0042】
<比較例4>
実施例1において、シリカ粒子として日産化学工業株式会社製の品番MEK−ST2040(平均粒子径200nm)を使用し、且つ紫外線硬化型の樹脂組成物中のシリカ粒子の割合(固形分換算)を60質量%とした。それ以外は実施例1と同じ方法及び条件で、光学部材を得た。
【0043】
<比較例5>
実施例3において、紫外線硬化型樹脂組成物の塗布時にワイヤーバーコーター#4番を使用することで保護層の厚みを0.4μmとした。それ以外は実施例3と同じ方法及び条件で、光学部材を得た。
【0044】
<評価試験>
各実施例及び比較例で得られた光学部材に対し、次に示す評価試験を実施した。その結果を下記表に示す。
【0045】
[オレイン酸接触角]
接触角計(協和界面科学株式会社製、型番DM−500)を用い、室温(20℃、50%RH)、液滴径1μLの条件で、保護層の表面でのオレイン酸の接触角を測定した。
【0046】
[表面粗さ]
保護層の表面粗さRaを、株式会社キーエンス製のレーザーマイクロスコープ(型番VK−9700)を用いて測定した。
【0047】
[防指紋性試験]
光学部材における保護層の表面を人が指で触った後、指紋跡を保護層の表面に対して垂直な方向から目視により観察し、次の基準により評価した。
○:指紋跡がほとんど視認できない。
△:指紋跡が視認しにくい。
×:指紋跡がはっきり視認できる。
【0048】
[指紋拭取り性]
光学部材nにおける保護層の表面を人が指で触ることで保護層の表面に指紋跡を付着させた。続いて保護層の表面を不織布ワイパー(旭化成せんい株式会社製、品名BEMCOT M−3)で擦った。これにより、保護層の表面を目視で観察した場合に指紋跡が認められなくなるまでに、保護層を不織布ワイパーで何回擦る必要があったかを、調査した。
【0049】
[ヘイズ]
光学部材のヘイズを、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業株式会社製のへイズメータ(型番NDH2000)を用いて測定した。
【0050】
[鉛筆硬度]
JIS K5600に示される試験法により保護層の鉛筆硬度を測定した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【符号の説明】
【0053】
1 基材
2 保護層
3 光学部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基材と、前記基材を覆う保護層とを備え、
前記保護層が、アクリル樹脂の硬化物と、前記硬化物中に分散している平均粒径50〜500nmのSiO2粒子とを含み、
前記保護層に対する前記SiO2粒子の割合が、5〜50質量%の範囲であり、
前記保護層の厚みが、0.5μm以上であり、
前記保護層の表面のオレイン酸に対する接触角が、20°以下であり、
前記保護層の表面粗さRaが、20〜100nmの範囲であり、
ヘイズが、1.0%以下である光学部材。
【請求項2】
前記保護層の鉛筆硬度が、2H以上である請求項1に記載の光学部材。

【図1】
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【公開番号】特開2013−68693(P2013−68693A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205660(P2011−205660)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】