説明

光学顕微鏡、及びスペクトル測定方法

【課題】短時間にスペクトル測定を行うことができる光学顕微鏡、及びスペクトル測定方法を提供すること。
【解決手段】本発明の第1の態様にかかる光学顕微鏡は、対物レンズ23を介してレーザ光を試料24に照射するステップと、対物レンズ23を介して、試料で反射した反射光を検出するステップと、レーザ光の焦点位置を光軸方向に変化させるステップと、レーザ光の焦点位置を変化させたときの反射光の検出結果に基づいて、スペクトル測定を行う焦点位置を抽出するステップと、抽出された焦点位置になるように調整するステップと、焦点位置を調整した状態で、レーザ光の照射により試料から出射される出射光をレーザ光から分岐するステップと、レーザ光から分岐された出射光のスペクトルを分光器31で測定するステップと、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学顕微鏡及びスペクトル測定方法に関し、特に詳しくは、スペクトルを測定するための分光器を用いた光学顕微鏡及びスペクトル測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン分光測定は、試料が気体、液体、結晶、無定形固体であることを問わず、温度は高温でも低温でも可能であり、測定において、真空などの特殊な測定雰囲気を必要としないという利点を持つ。さらに、試料の前処理を特に必要とせず、試料をそのままの状態で測定可能であるなどの長所があり、これらの長所を生かした測定が多くなされている。ラマン分光測定を利用することによって、分子を非染色で観測すること、及び半導体中の不純物を観測することができる。
【0003】
このようなラマン分光測定を行うため、分光器を用いたラマン顕微鏡が開示されている(特許文献1、特許文献2)。このラマン顕微鏡では、試料にレーザ光を集光して照射している。そして、試料からのラマン散乱光を分光器で分光することにより、ラマンスペクトルを測定することができる。さらに、これらのラマン顕微鏡では、試料を移動させて測定することにより、特定の波長におけるラマン散乱光強度の空間分布を測定することができる。また、測定時間を短縮するため、シリンドリカルレンズにより試料をライン状に照明して、CCDカメラにより検出するラマン顕微鏡も開示されている(非特許文献1)。このラマン顕微鏡では、ライン状に照明しているため一度に広い領域を照射することができ、測定時間を短縮することができる。しかしながら、シリンドリカルレンズを用いて光をライン状にした場合、均一に光を照射することが困難であり、周辺領域が暗くなってしまう。
【0004】
さらに、レーザ光を偏向させて、走査する光学顕微鏡が開示されている(特許文献3)。この文献では、X方向の走査装置、及びY方向の走査装置を設けている。そして、分光器に設けられたカメラの露光時間よりもY走査装置の走査周期を短くしている(段落0042)。これにより、カメラの1フレームでライン状の領域におけるラマンスペクトルを測定することができる。
【特許文献1】特開2002−14043号公報
【特許文献2】特開2003−344776号公報
【特許文献3】特開2007−179002号公報
【非特許文献1】CHARLENE A.DRUMM、他1名「Microscopic Raman Line−Imaging With Principal Component Analysis」 APPLIED SPECTROSCOPY、1995年、49巻、第9号、p.1331−1337
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、特許文献3や非特許文献1では、ラマンスペクトルを測定するために、分光器を用いている。しかしながら、上記のラマン顕微鏡では、分光器を通して反射光を分光器用カメラで撮像することになるため、以下に示す問題点がある。分光器用のカメラは、低雑音であることが要求されるため、読み出し速度が遅くなってしまう。すなわち、分光器用カメラでは、高速で撮像することが困難になってしまう。すなわち、通常の反射光で撮像を行うカメラに比べて、撮像時間が長くなってしまう。さらに、試料の表面に凹凸がある場合、試料の存在しない空間にフォーカスを合わせて測定することになってしまう。すなわち、表面が平坦でない試料では、焦点位置が試料表面以外の位置になってしまうことがある。従って、試料の任意の点に対して、試料表面からのラマンスペクトルを測定しようとする場合、各点において試料をZ方向に動かして、複数回スペクトル測定を行う必要がある。よって、ラマンスペクトルの測定が長時間になってしまうという問題点がある。
【0006】
このように従来の光学顕微鏡では、スペクトルを測定するための分光器を用いた場合、測定時間が長くなってしまうという問題点があった。
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、スペクトルを測定するための分光器を用いた構成であっても、短時間でスペクトルを測定することができる光学顕微鏡、及びスペクトル測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様にかかるスペクトル測定方法は、対物レンズを介してレーザ光を試料に照射するステップと、前記試料で反射した反射光を、前記対物レンズを介して検出するステップと、前記レーザ光の焦点位置を光軸方向に変化させるステップと、前記レーザ光の焦点位置を変化させたときの前記反射光の検出結果に基づいて、スペクトル測定を行う焦点位置を抽出するステップと、前記抽出された焦点位置になるように調整するステップと、前記焦点位置を調整した状態で、前記レーザ光の照射により前記試料から出射される出射光を前記レーザ光から分岐するステップと、前記レーザ光から分岐された出射光のスペクトルを分光器で測定するステップと、を備えるものである。これにより、スペクトルを測定する回数を減らすことができる。よって、測定時間を短縮することができる。
【0008】
本発明の第2の態様にかかるスペクトル測定方法は、上記のスペクトル測定方法であって、前記試料に対する前記レーザ光の入射位置を変化させて試料上の複数の測定位置からの反射光を順次検出するステップと、前記複数の測定位置における前記焦点位置をそれぞれ抽出し、前記試料の表面形状を測定するステップと、前記試料の表面に沿って前記焦点位置が移動するように前記レーザ光を3次元走査して、前記スペクトルを測定するステップをさらに有するものである。これにより、試料表面において出射した出射光のスペクトルを測定することができる。よって、短い測定時間で精度の高い測定を行うことができる。
【0009】
本発明の第3の態様にかかるスペクトル測定方法は、上記のスペクトル測定方法であって、前記反射光の検出結果に基づいて、前記焦点位置が前記試料の表面に追従するように3次元走査して、前記スペクトルを測定するものである。これにより、より短時間での測定が可能になる。
【0010】
本発明の第4の態様にかかるスペクトル測定方法は、上記のスペクトル測定方法であって、前記出射光を前記レーザ光から分岐するステップでは、波長に応じて光を分岐する第1の光分岐手段によって前記レーザ光の波長と異なる波長の前記出射光を前記レーザ光から分岐して、前記第1の光分岐手段によって出射光を前記レーザ光と分岐した後、第2の光分岐手段によって前記試料で反射した反射光を分岐して、共焦点光学系を介して前記反射光を光検出器で検出して、前記試料の反射光による反射像を撮像するものである。これにより、反射像の撮像とスペクトルの測定を同時に行うことができるようになる。
【0011】
本発明の第5の態様にかかるスペクトル測定方法は、上記のスペクトル測定方法であって、前記レーザ光を第1の方向に走査する第1の走査手段によって、前記試料に対する前記レーザ光の入射位置を変化させるステップと、前記レーザ光を前記第1の方向と直交する第2の方向に走査する第2の走査手段によって、前記試料に対する前記レーザ光の入射位置を変化させるステップと、をさらに備え、前記試料からの出射光が前記第1の走査手段、及び前記第2の走査手段によってデスキャンされて分光器に入射することを特徴とするものである。これにより、分光器の同じ位置に出射光が入射するため、測定精度を向上することができる。
本発明の第6の態様にかかるスペクトル測定方法は、上記のスペクトル測定方法であって、前記第1の走査手段と前記第2の走査手段とが合わせて3つのスキャナーを備え、前記3つのスキャナーのうち、2つでデスキャンされ、1つでデスキャンされないことを特徴とするものである。これにより、簡便な構成で反射像の撮像とスペクトルの測定を行うことができる。
【0012】
本発明の第7の態様にかかる光学顕微鏡は、レーザ光源と、前記レーザ光源からの光を集光する対物レンズと、前記対物レンズを介して試料に入射した光ビームのうち前記試料から前記対物レンズ側に出射する出射光と前記レーザ光源から前記試料に入射する入射光とを分離する第1の光分岐手段と、前記試料で反射した反射光を、前記対物レンズを介して検出する光検出器と、前記レーザ光の焦点位置を光軸に沿って変化させる焦点位置変化手段と、前記焦点位置を変化させたときの前記光検出器の検出結果から、スペクトル測定を行う焦点位置を抽出する抽出手段と、前記抽出手段によって抽出された焦点位置で、前記第1の光分岐手段により分岐された出射光のスペクトルを測定する分光器と、を備えるものである。これにより、スペクトルを測定する回数を減らすことができる。よって、測定時間を短縮することができる。
【0013】
本発明の第8の態様にかかる光学顕微鏡は、上記の光学顕微鏡であって、前記試料に対する前記レーザ光の入射位置を変化させて試料上の複数の測定位置からの反射光を順次検出して、前記複数の測定位置における前記焦点位置をそれぞれ抽出し、前記試料の表面形状を測定し、前記試料の表面に沿って前記焦点位置が移動するように前記レーザ光を3次元走査して、前記スペクトルを測定するものである。これにより、試料表面において出射した出射光のスペクトルを測定することができる。よって、短い測定時間で精度の高い測定を行うことができる。
【0014】
本発明の第9の態様にかかる光学顕微鏡は、上記の光学顕微鏡であって、前記反射光の検出結果に基づいて、前記焦点位置が前記試料の表面に追従するように走査するオートフォーカス機構をさらに備え、前記オートフォーカス機構によって、前記試料の表面に追従させて前記スペクトル測定を行うものである。れにより、試料表面において出射した出射光のスペクトルを測定することができる。よって、短い測定時間で精度の高い測定を行うことができる。
【0015】
本発明の第10の態様にかかる光学顕微鏡は、上記の光学顕微鏡であって、前記第1の光分岐手段によって分岐した後、前記試料で反射した反射光と前記試料に入射するレーザ光とを分岐する第2の光分岐手段をさらに備え、前記第1の光分岐手段が波長に応じて前記レーザ光と異なる波長の出射光を取り出し、共焦点光学系を介して前記反射光を光検出器で検出して、前記試料の反射光による反射光画像を撮像するものである。これにより、反射像の撮像とスペクトルの測定を同時に行うことができるようになる。
【0016】
本発明の第11の態様にかかる光学顕微鏡は、上記の光学顕微鏡であって、前記レーザ光を第1の方向に走査して、前記試料に対する前記レーザ光の入射位置を変化させる第1の走査手段と、前記レーザ光を前記第1の方向と直交する第2の方向に走査して、前記試料に対する前記レーザ光の入射位置を変化させる第2の走査手段と、をさらに備え、前記試料からの出射光が前記第1の走査手段、及び前記第2の走査手段によってデスキャンされて分光器に入射することを特徴とするものである。これにより、分光器の同じ位置に出射光が入射するため、測定精度を向上することができる。
本発明の第12の態様にかかる光学顕微鏡は、上記の光学顕微鏡であって、前記第1の走査手段と前記第2の走査手段とが合わせて3つのスキャナーを備え、前記3つのスキャナーのうち、2つでデスキャンされ、1つでデスキャンされないことと特徴とするものである。これにより、簡便な構成で反射像の撮像とスペクトルの測定を行うことができる。
【0017】
本発明の第13の態様にかかる光学顕微鏡は、レーザ光源と、前記レーザ光源からの光を集光する対物レンズと、波長に応じて光を分岐して、前記対物レンズを介して試料に入射した光ビームのうち前記試料から前記対物レンズ側に出射する出射光からレーザ光の波長と異なる波長の出射光を取り出す第1の光分岐手段と、前記第1の光分岐手段により分岐された出射光のスペクトルを測定する分光器と、前記試料で反射した反射光を前記レーザ光から分岐する第2の光分岐手段と、共焦点光学系を介して、前記試料で反射した反射光を検出する光検出器と、を備えるものである。これにより、反射像の撮像とスペクトルの測定を同時に行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、スペクトルを測定するための分光器を用いた構成であっても、短時間でスペクトルを測定することができる光学顕微鏡、及びスペクトル測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明を適用可能な実施の形態が説明される。以下の説明は、本発明の実施形態を説明するものであり、本発明が以下の実施形態に限定されるものではない。説明の明確化のため、以下の記載は、適宜、省略及び簡略化がなされている。又、当業者であれば、以下の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能であろう。尚、各図において同一の符号を付されたものは同様の要素を示しており、適宜、説明が省略される。
【0020】
発明の実施の形態1.
本発明の実施の形態にかかる光学顕微鏡について図1を用いて説明する。図1は本実施の形態にかかる光学顕微鏡100の光学系の構成を模式的に示す図である。光学顕微鏡100は、試料24を観察するための構成として、レーザ光源10と、ビームエキスパンダ11と、レーザラインフィルタ12、Y走査装置40、リレーレンズ17、リレーレンズ18、エッジフィルタ19、X走査装置20、リレーレンズ21、チューブレンズ22、対物レンズ23、ハーフミラー25、結像レンズ26、切換えミラー27、分光器31、ラインCCDカメラ50、ステージ60と、を有している。
【0021】
光学顕微鏡100はラマン顕微鏡であり、レーザ光源10からの光ビームを試料24に入射させ、試料24からのラマン散乱光を分光器31で検出する。ラマン散乱光を分光器31で分光するため、ラマンスペクトルを測定することができる。さらに、光学顕微鏡100では、XY方向(水平方向)及びZ方向(鉛直方向)に走査することができるため、3次元のラマンスペクトルイメージを測定することができる。さらに、光学顕微鏡100は、コンフォーカル光学系を介して反射像を撮像するために、ラインCCDカメラ50が設けられている。すなわち、試料24を反射した反射光は、ラインコンフォーカル光学系を介して検出される。ラマン散乱光のスペクトル測定を行うための光学系と、反射像を撮像するための光学系とを切換えることができる。ラマン散乱光のスペクトル測定を行うための光学系と、反射像を撮像するための光学系とは、一部の光路が共通しており、切換えミラー27によって、切換が行われる。
【0022】
光学顕微鏡100の全体構成について説明する。まず、ラマンスペクトルを測定するときの照明光学系について説明する。照明光学系では、レーザ光源10は、励起光となるレーザ光を出射する。レーザ光源10は、所定のレーザ波長の光を出射する。レーザ光源10は、例えば、赤色や緑色の単色光を出射する。レーザ光源10には、例えば、スペクトラフィジックス社製Millenniaを用いることができる。このレーザ光源10はレーザ波長532nm、線幅0.24nm、最大出力が10WのNd/YVO4レーザである。レーザ光源10はこのレーザ波長を有するレーザ光を出射する。
【0023】
レーザ光は、ビームエキスパンダ11で拡大される。すなわち、ビームエキスパンダ11は、レーザ光のスポットが所定の大きさとなるように、ビーム径を拡大する。この後、レーザ光は、レーザラインフィルタ12に入射する。レーザラインフィルタ12は、レーザ波長以外の光を遮光する。これにより、ノイズとなる迷光を低減することができる。そして、レーザ光は、レーザラインフィルタ12を通過して、高速スキャナ13に入射する。
【0024】
高速スキャナ13は、エッジフィルタ19の後段側に配置されている低速スキャナ16とともに、Y走査装置40を構成する。すなわち、Y走査装置40は、高速スキャナ13と低速スキャナ16とを含んでいる。Y走査装置40は、レーザ光をY方向に偏向して、走査する。Y走査装置40は、入射した光ビームの出射角を変化させて、光ビームを偏向させる。これにより、試料24上で光ビームの入射位置がY方向に沿って変化する。例えば、高速スキャナ13は、共振型ガルバノミラーであり、約8kHzでレーザ光を走査する。具体的には、ガルバノミラーの反射面の角度が変化することで、レーザ光の方向が変わる。低速スキャナ16は、サーボガルバノミラーであり、高速スキャナ13よりも低速で動作する。これにより、レーザ光が走査される。なお、高速スキャナ13、及び低速スキャナ16はレーザ光をY方向に走査する。なお、Y走査装置40の動作については後述する。
【0025】
高速スキャナ13と低速スキャナ16の間には、リレーレンズ17、18とエッジフィルタ19が設けられている。リレーレンズ17、18は、レーザ光を屈折して、像をリレーする。なお、リレーレンズ17とリレーレンズ18との間には、絞りが設けられていてもよい。そして、リレーレンズ18からのレーザ光は、エッジフィルタ19に入射する。
【0026】
エッジフィルタ19は、波長に応じて光を反射又は透過する。すなわち、エッジフィルタ19は、波長に応じた透過率、及び反射率を有している。具体的には、エッジフィルタ19は、レーザ波長の光を反射して、レーザ波長よりも波長の長い光を透過する。これにより、効率よく、ラマン散乱光を測定することができる。すなわち、励起光となるレーザ光のほとんどは、エッジフィルタ19で反射して、試料24の方向に向かう。一方、レーザ光よりも長い波長を有するラマン散乱光のほとんどは、エッジフィルタ19を透過して、分光器31の方向に向かう。ここでは、Semrock社製のエッジフィルタ19を用いている。
【0027】
エッジフィルタ19で反射されたレーザ光は、低速スキャナ16に入射する。低速スキャナ16は、上記のように、ガルバノミラーであり、Y方向にレーザ光を走査する。そして、低速スキャナ16で反射されたレーザ光は、X走査装置20に入射する。X走査装置20は、例えばサーボガルバノミラーであり、反射面の角度が変化することによって、光ビームを偏向させる。すなわち、光軸に対するX走査装置20の反射面の傾斜角度が変化するため、光ビームの出射角を変化させることができる。これにより、試料24上で光ビームの入射位置がX方向に沿って変化する。試料24上で、光ビームをX方向に走査することができる。なお、X走査装置20での偏向角は、電気信号によって制御される。また、X方向とY方向とは互いに直交する方向であるため、X走査装置20及びY走査装置40によってXY方向に走査することにより、試料24上において2次元領域を走査することができる。
【0028】
そして、X走査装置20で反射されたレーザ光は、リレーレンズ21、チューブレンズ22で屈折され、対物レンズ23に入射する。対物レンズ23は、光ビームを集光して、試料24上に入射させる。すなわち、対物レンズ23は、試料24上に光ビームを集光して、試料24を照明する。これにより、試料24のスポット状の領域が照明される。対物レンズ23には、例えば、ニコン製アポクロマート NA 1.2 x60を用いることができる。
【0029】
対物レンズ23は、レーザ光を集光して、試料24に入射させる。このとき、X走査装置20、及びY走査装置40によって、レーザ光がXY方向に走査されている。すなわち、試料24上におけるレーザ光の入射位置が、X走査装置20、及びY走査装置40の動作に応じて変化している。これにより、試料24上において2次元領域を走査することができる。
【0030】
対物レンズ23から試料24に入射した入射光は、試料24で反射される。また、試料24に入射した入射光の一部はラマン散乱される。試料24に入射した入射光のうち、対物レンズ23側に出射した光を出射光とする。すなわち、試料24から対物レンズ23側に向かう光を出射光と称する。この出射光には、レーザ波長と同じ波長のレイリー散乱光、及びレーザ波長と異なる波長のラマン散乱光が含まれている。さらに、試料24が蛍光物質を含む場合、出射光に蛍光が含まれている。
【0031】
ラマン散乱された出射光は、入射光と異なる波長となっている。すなわち、ラマンシフトによって出射光は入射光の振動数からずれて散乱される。この出射光のスペクトルがラマンスペクトルとなる。したがって、出射光のスペクトルを測定することにより、試料24中に含まれる物質の化学構造及び物理的状態を特定することができる。すなわち、ラマンスペクトルには、試料24を構成する物質の振動数の情報が含まれるため、出射光を分光器31で分光して検出することにより、試料24中の物質を特定することができる。測定したラマンスペクトルのうち、特定の波長に注目することにより、特定物質の空間分布の測定も可能となる。具体的には、試料24を生体細胞とした場合、核酸や脂質の空間分布あるいはスクロースやポリスチレン球の空間分布を測定することができる。
【0032】
なお、試料24はステージ60の上に載置されている。ステージ60は、例えば、XYZステージである。このステージ60は可動ステージであり、試料24の任意の位置を照明することができる。また、ステージ60をZ方向に駆動することによって、対物レンズ23と試料24との距離を変化させることができる。従って、対物レンズ23の焦点位置を光軸方向に沿って変化させることができる。光学顕微鏡100は、後述するようにレーザコンフォーカル顕微鏡を構成しているため、焦点位置を変化させることによって、Z方向の走査が可能となる。すなわち、Z方向にステージを移動させることによって、試料24の断層画像を撮像することができる。試料24の任意の高さからのラマン散乱光の検出することができる。
【0033】
次に、試料24からの出射光を検出するための光学系について説明する。ステージ60上に載置された試料24からの出射光は、入射光と同じ光路上を伝播していく。すなわち、対物レンズ23により屈折され、チューブレンズ22及びリレーレンズ21で屈折されて、X走査装置20に入射する。X走査装置20は、入射した出射光をエッジフィルタ19の方向に反射する。このとき、出射光は、X走査装置20によってデスキャンされる。すなわち、X走査装置20で反射されることによって、出射光は、レーザ光源10からX走査装置20に入射した入射光の進行方向と反対方向に伝播する。また、試料24からのレイリー散乱光もラマン散乱光と同じ光路で伝播していく。
【0034】
X走査装置20によって、反射された出射光は、低速スキャナ16を介して、エッジフィルタ19に入射する。エッジフィルタ19は、試料24からの出射光と、レーザ光源10から試料24に入射する入射光とを波長に基づいて分岐する。すなわち、エッジフィルタ19は、その反射面が入射光の光軸に対して傾いて設けられている。試料24からの出射光がエッジフィルタ19を透過することによって、試料24からの出射光の光軸が、レーザ光源10から試料24に入射する入射光の光軸と異なるものとなる。よって、試料24からの出射光を、レーザ光源10から試料24に入射する入射光から分離することができる。このように、エッジフィルタ19は、入射光と出射光とを分岐する第1の光分岐手段として機能する。
【0035】
光分岐手段として用いるエッジフィルタ19は、波長に応じて光を透過又は反射する。エッジフィルタ19に対する光ビームの入射角度を小さくすることが好ましい。ここで、光ビームの入射角度は、光ビームの主光線とエッジフィルタ19の反射面の垂線との間の角度である。エッジフィルタ19の反射面に対するリレーレンズ18からの光ビームの入射角度を、例えば12°以下とすることが好ましく、さらに、入射角度を10°とすることがより好ましい。このように、エッジフィルタ19に対して垂直方向に近い方向から光ビームを入射させる。また、リレーレンズ18と光路が重ならないように入射角度を8°以上とすることが好ましいが、設計によっては、8°以下とすることも可能である。これにより、エッジフィルタ19の特性を向上させることができ、レイリー散乱光とラマン散乱光と確実に分離することができる。すなわち、エッジフィルタ19のレイリー散乱光に対する反射率及び、エッジフィルタ19のラマン散乱光に対する透過率を向上することができる。したがって、レイリー散乱光とラマン散乱光との波長の差に基づいて、レイリー散乱光とラマン散乱光とを確実に分離することができる。もちろん、本発明にかかる光学顕微鏡において、光ビームのエッジフィルタ19に対する入射角度は、上記の値に限定されるものではない。
【0036】
さらに、エッジフィルタ19は、レーザ波長の光を反射して、ラマン散乱光を透過するような、特性を有している。従って、試料24からのレイリー散乱光は、エッジフィルタ19で反射され、ラマン散乱光は、エッジフィルタ19を透過する。すなわち、エッジフィルタ19を用いることによって、レイリー散乱光とラマン散乱光との波長に差に基づいてレイリー散乱光を除去することができる。さらに、レーザ光源10からのレーザ光のほとんどはエッジフィルタ19で反射され、試料24に向かう。これにより、レーザ光のロスを低減することができ、効率よくラマン散乱光のみを検出することができる。なお、エッジフィルタ19の反射特性は、測定するスペクトルの範囲に応じて決定すればよい。
ここで、エッジフィルタ19は、低速スキャナ16と高速スキャナ13との間に配置されている。ラマンスペクトルを測定する場合、高速スキャナ13を固定して、低速スキャナ16のみでスキャンする。すなわち、高速スキャナ13を動作させない状態として、低速スキャナ16のみを動作させる。従って、エッジフィルタ19は、低速スキャナ16によってデスキャンされた後の出射光と、レーザ光源10からのレーザ光とを分離する。
【0037】
エッジフィルタ19を透過した出射光は、結像レンズ26に入射する。結像レンズ26は、試料24の像を入射スリット30またはラインCCDカメラ50上に結像する。さらに、結像レンズ26で屈折された出射光は、切換えミラー27で反射して、分光器31の入射側に設けられた入射スリット30に入射する。このとき、結像レンズ26は入射スリット30上に出射光を集光している。すなわち、結像レンズ26は、入射スリット30上に、試料24が照明された領域の拡大像を結像している。入射スリット30には、ライン状の開口部が設けられている。この開口部は、Y方向に対応する方向に沿って設けられている。すなわち、入射スリット30の開口部は試料24上におけるY走査装置40の走査方向(Y方向)に対応する方向に沿って設けられている。
【0038】
結像レンズ26は出射光を屈折させて、入射スリット30上に結像する。ここで、試料24面上において入射光はスポット状に結像されているため、入射スリット30上において出射光はスポット状に集光される。入射スリット30の開口部の方向とY走査装置40の走査方向とを一致させる。出射光は、Y走査装置40の低速スキャナ16によってデスキャンされて、エッジフィルタ19に入射している。このため、低速スキャナ16で走査しても、入射スリット30上で光ビームのスポット位置が入射スリット30の同じ位置に入射する。試料24上でY方向に走査された光が入射スリット30の開口部に結像するように配置する。換言すると入射スリット30と試料24とは互いに共役な関係となるよう配置される。
【0039】
したがって、ラマン顕微鏡はコンフォーカル光学系として構成される。例えば、絞り(不図示)と試料24面上とが互いに共役な関係となるように配置され、試料24面上と入射スリット30とが互いに共役な関係となるように配置されている。絞りが設けられたXY平面及び試料24面上において、入射光がスポット状に集光される。そして、試料24から散乱して出射した出射光は入射スリット30上でスポット状に集光される。入射スリット30はY方向に沿った開口部を有しており、この開口部に入射した出射光のみを分光器31の2次元アレイ光検出器に透過させる。レーザ光源10から試料24までの照明光学系及び試料24からアレイ光検出器まで観察光学系をこのような結像光学系とすることにより、共焦点ラマン顕微鏡とすることができる。これにより、Z方向の分解能の高い測定を行うことができる。そして、ステージ60をZ方向に移動することにより、試料24の任意の高さからのラマン散乱光を他の高さからのラマン散乱光から分離して検出することができる。
【0040】
この入射スリット30を通過した出射光は、分光器31の本体に入射する。この分光器31について、図2を用いて説明する。図2は、分光器31の構成に示す図である。ここでは、ツェルニターナ型の分光器31を示している。分光器31には、入射スリット30、ミラー32、凹面鏡33、グレーティング34、凹面鏡35、及びアレイ光検出器36が設けられている。
【0041】
入射スリット30は、分光器31の入射側に配置されている。また、入射スリット30は、Y方向に沿って配置されている。入射スリット30を通過して出射光は、ミラー32、凹面鏡33で反射され、グレーティング34に入射する。グレーティング34は、入射スリット30から入射した光をその波長に応じて空間的に分散させる。ここでは、グレーティング34として、反射型回折格子を用いている。そして、グレーティング34は、入射スリット30の方向と垂直な方向に、出射光を分散させる。そして、グレーティング34で分散した光は、凹面鏡35で反射されて、アレイ光検出器36に入射する。
【0042】
もちろん、上記以外の構成を有する分光器31を用いてもよい。出射光は分光器31によって入射スリット30の方向と垂直な方向に分散される。すなわち、分光器31は、入射スリット30のライン状の開口部と垂直な方向に出射光を波長分散する。分光器31により分光された出射光はアレイ光検出器36に入射する。アレイ光検出器36は受光素子がマトリクス状に配列されたエリアセンサである。具体的には、アレイ光検出器36は画素がアレイ状に配置されたCCDカメラなどの2次元アレイ光検出器である。
【0043】
アレイ光検出器36には、例えば、冷却CCDを用いることができる。具体的には、アレイ光検出器36として、プリンストン・インスツルメンツ社製1024×256画素の電子冷却CCDを用いることができる。また、アレイ光検出器36にイメージインテンシファイアを取り付けることも可能である。アレイ光検出器36の画素は、入射スリット30に対応する方向に沿って配置されている。したがって、アレイ光検出器36の画素の一方の配列方向は入射スリット30の方向と一致し、他方の配列方向は、分光器31の分散方向と一致する。アレイ光検出器36の入射スリット30の方向に対応する方向がY方向となり、入射スリット30と垂直な方向、すなわち、分光器31によって出射光が分散される方向がX方向となる。
【0044】
アレイ光検出器36は各画素で受光した出射光の光強度に応じた検出信号を処理装置71に出力する。処理装置71は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)などの情報処理装置であり、アレイ光検出器36からの検出信号をメモリなどに記憶していく。そして、検出結果に所定の処理を行い、モニターに表示する。さらに、処理装置71は、Y走査装置40及びX走査装置20の走査や、ステージ60の駆動を制御している。ここで、アレイ光検出器36のX方向は出射光の波長(振動数)に対応している。すなわち、X方向に配列されている画素列において、一端の画素は長波長(低振動数)の出射光を検出し、他端の画素は短波長(高振動数)の出射光を検出する。このように、アレイ光検出器36のX方向における光強度の分布はラマンスペクトルの分布を示すことになる。
【0045】
次に、反射光による反射像を撮像するための光学系について、図1を用いて説明する。反射像を撮像する場合、エッジフィルタ19を光路上から取り除く。そして、エッジフィルタ19が挿入されていた位置に、ハーフミラー25を挿入する。すなわち、エッジフィルタ19、及びハーフミラー25を挿脱可能に設けて、いずれか一方のみを光路中に挿入するようにする。エッジフィルタ19、及びハーフミラー25は排他的に使用される。レーザ波長と同じ波長の反射光を検出する場合、ハーフミラー25が使用され、ラマン散乱光を検出する場合、エッジフィルタ19が使用される。さらに、レーザ波長と同じ波長の反射光を検出する場合、切換えミラー27が光路上から取り除かれる。また、高速スキャナ13をスキャンして、低速スキャナ16を固定する。すなわち、低速スキャナ16を動作させない状態として、高速スキャナ13のみを動作させる。なお、これら以外の構成については、ラマン散乱光を検出する場合と同じであるため、説明を省略する。
【0046】
レーザラインフィルタ12からのレーザ光は、高速スキャナ13で走査される。そして、上記と同様に、リレーレンズ17、リレーレンズ18に入射する。リレーレンズ18からのレーザ光は、ハーフミラー25に入射する。ハーフミラー25は、入射した光の一部を反射し、一部を透過する。ここでは、ハーフミラー25に入射したレーザ光の半分が低速スキャナ16の方向に反射される。ハーフミラー25で反射したレーザ光は、固定された低速スキャナ16を介して、X走査装置20に入射する。そして、ラマン散乱光を検出する場合と同様に、レーザ光が試料24に入射する。試料24からの出射光が同様に、X走査装置20でデスキャンされる。X走査装置20からの出射光は、固定された低速スキャナ16を介して、ハーフミラー25に入射する。ハーフミラー25は、出射光の半分を結像レンズ26の方向に透過する。なお、ハーフミラー25は、波長によらず、透過率及び反射率が一定である。このため、ラマン散乱光の一部もハーフミラー25を透過するが、ラマン散乱光は、反射光(レイリー散乱光)に比べて十分に弱いため、反射像の撮像には、問題ない。
【0047】
そして、ハーフミラー25を透過した出射光は、結像レンズ26で屈折される。ラインCCDカメラ50の方向に向かう。このとき、切換えミラー27が光路上から離脱している。このため、出射光が、分光器31の方向に反射されずに、ラインCCDカメラ50の方向に向かう。結像レンズ26が出射光をラインCCDカメラ50の受光面に結像している。ラインCCDカメラ50は、Y方向に対応する方向に沿って配列された受光画素を有している。
【0048】
さらに、Y走査装置40は、1フレーム撮像する間に、光ビームをY方向に1回以上走査する。すなわち、Y走査装置40の走査周期を露光時間よりも短くして、ラインCCDカメラ50の1フレームの露光時間内で、Y方向に1回以上走査する。これにより、ラインCCDカメラ50の1フレームで、走査範囲に応じたライン状の領域の反射光を検出することができる。すなわち、露光時間内に、Y走査装置40の走査領域の全体を走査する。したがって、反射光はラインコンフォーカル(スリットコンフォーカル)光学系を介して検出される。上記の1フレームの撮像が終了したら、X走査装置20によってX方向に1照明領域分、照明位置をずらす。そして、同様に1フレームの撮像を行い、ライン状の領域の反射光を検出する。これを繰り返し行なうことによって、試料24上の2次元領域の反射像を撮像することができる。なお、ラインCCDカメラ50での検出信号は、処理装置71に出力される。そして、処理装置71で処理が行われて、反射光画像(反射像)となる。
【0049】
ラインCCDカメラ50は、アレイ光検出器36よりも読み出し速度が速くなっている。よって、高速に反射像を撮像することができる。すなわち、撮像時間を短縮することができる。さらに、分光器31を介さずに、出射光がラインCCDカメラ50に入射する。よって、画像が分光器の収差の影響を受けることがなくなり、高分解能での撮像が可能になる。よって、ラマンスペクトルを測定可能な光学顕微鏡100でも、高速、かつ高分解能で、反射像を撮像することができる。また、Y方向に高速に走査することで、ラインCCDカメラ50の露光時間内では、光がライン状となる。すなわち、ラインCCDカメラ50の露光時間を考慮すると、試料24がライン状に照明されていることになる。
【0050】
本実施の形態では、出射光の光路を切換える切換え手段として、切換えミラー27が設けられている。切換えミラー27は、出射光の光路中に挿脱可能に設けられている。切換えミラー27が光路中に挿入されることで、出射光が反射されて、分光器31の方向に向かう。一方、切換えミラー27が光路中から取り除かれると、出射光が切換えミラー27の挿入位置を直進して、ラインCCDカメラ50の方向に向かう。このように、切換えミラー27を挿脱することで、ラマンスペクトル測定か、反射像の撮像かを切換えることができる。もちろん、切換えミラー27を挿入時に、反射像を撮像してもよい。この場合、スペクトル測定時には、切換えミラー27が光路から取り除かれる。切換えミラー27を動作させることで、分光器31による測定か、ラインCCDカメラ50による測定かを選択することができる。入射光から分離された出射光が分光器31に向かう光路51又はラインCCDカメラ50に向かう光路52を伝播するように、切換えミラー27が光路を切換える。なお、光路を切換える切換え手段は、切換えミラー27に限られるものではない。例えば、光を屈折するプリズムなどであってもよい。
【0051】
次に、Y走査装置40について説明する。本実施の形態では、Y方向に走査するY走査装置40として、高速スキャナ13、及び低速スキャナ16の2つが設けられている。そして、用途に応じて、一方のスキャナを駆動する。高速スキャナ13は、例えば、共振型ガルバノミラーであり、例えば、8kHzの周波数で動作する。
【0052】
低速スキャナ16は、サーボ型ガルバノミラーであり、高速スキャナ13よりも低い周波数で動作する。高速スキャナ13は低速スキャナ16よりも高速にレーザ光を走査する。なお、いずれか一方のスキャナで十分な場合は、一方のスキャナのみでY走査装置40を構成してもよい。
【0053】
例えば、ラマン散乱光を検出するラマンモードの場合、高速スキャナ13を固定して、低速スキャナ16を動作させる。このとき、アレイ光検出器36と低速スキャナ16を同期させる。ラマンモードの場合、X走査装置20も同期して動作させる。すなわち、ある測定位置でのスペクトル測定が終了したら、次の測定位置に、レーザ光が入射するよう、レーザ光を走査する。このとき、光路上からは、ハーフミラー25が取り除かれ、光路中にはエッジフィルタ19が挿入されている。また、切換えミラー27も光路中に挿入されている。これにより、分光器31で分光測定が可能になる。
ラマンモードの場合、光は、X走査装置20、及び低速スキャナ16でデスキャンされて、分光器31に入射する。従って、XY方向に走査しても、分光器31の入射スリット30の同じ位置上に光が入射する。すなわち、試料上における測定位置によらず、光は入射スリット30の同じ点を通過する。これにより、スペクトルの測定精度を向上することができる。
【0054】
一方、ラインCCDカメラ50の露光時間は、アレイ光検出器36の露光時間よりも短い。よって、レーザ光と同じ波長の反射光を検出する反射モードでは、高速スキャナ13を動作させて、低速スキャナ16を固定する。これにより、ラインCCDカメラ50の露光時間で、Y方向に、レーザ光が1回以上走査される。反射モードの場合、X走査装置20も動作させる。このとき、光路上からは、エッジフィルタ19が取り除かれ、光路中にはハーフミラー25が挿入されている。また、切換えミラー27が光路上から取り除かれている。これにより、ラインCCDカメラ50で反射光検出が可能になる。ラインCCDカメラ50は、アレイ光検出器36よりも露光時間が短いため、高速スキャナ13で走査することが好ましい。
【0055】
また、試料24の特定位置を観察する場合、位置制御可能な低速スキャナ16でレーザ光をその特定位置に照射する。そして、レーザ光の走査を停止して、照射位置をその位置で固定する。このとき、高速スキャナ13の動作は停止している。これにより、特定の位置での像の変化を観察することができる。このように、位置決め精度が必要な場合、低速スキャナ16のみを用いてレーザ光の照射位置を移動させる。すなわち、特定の位置を照明するため、低速スキャナ16で位置決めする。これにより、レーザ光の照射位置が特定の位置で固定される。一方、高速スキャナ13は、反射光の検出時に用いる。もちろん、1つのスキャナで十分な場合は、1つのスキャナのみでY方向に走査してもよい。このように、Y方向に走査する走査手段として、低速スキャナ16と高速スキャナ13を設ける。そして、2つのスキャナを用途に応じて使い分ける。
【0056】
本実施の形態では、Y走査機構に高速スキャナ13と低速スキャナ16の2個のスキャナを組み合わせて使用している。このような構成とすることで、例えば、共振ガルバノミラーのように、特定の角度で停止させることができないスキャナを高速スキャナ13に採用する場合においても、もう一方の低速スキャナを用いることで、試料上の特定の位置を測定することができる。このように、X走査装置20とY走査装置40が合わせて三つのスキャナー(Y方向の高速スキャナ13、Y方向の低速スキャナ16、X方向のスキャナ)を有している。そして、そのうちの2つにおいてデスキャンし、1つにおいてデスキャンしない構成とする。これにより、簡便な構成で反射像の撮像とスペクトルの測定を行うことができる。
【0057】
試料上の特定の位置を測定する場合には、測定の高速性よりも、測定精度が重要となる場合が多い。本実施の形態では、低速スキャナ16をエッジフィルタ19(またはハーフミラー)よりも試料側に設置することで、低速スキャナ16によって走査される場合、試料からの光は、デスキャンされた後にラインCCDカメラ50またはアレイ光検出器36によって検出される。よって、試料上における測定位置によらず、光は入射スリット30の同じ点を通過するため、スペクトルの測定精度が向上する。
【0058】
一方、高速スキャナ13をエッジフィルタ19(またはハーフミラー)よりもレーザー光源10側に配置される。高速スキャナ13によって走査される場合には、試料からの光は、デスキャンされずにラインCCDカメラ50またはアレイ光検出器36に入射する。このため、ライン状の領域における複数の点を同時に測定することができ、高速に測定が行える。
【0059】
このように、Y走査機構に高速スキャナ13と低速スキャナ16の2個のスキャナを組み合わせて使用し、一方のみをデスキャンする。このようにすることで、必要に応じて、スペクトルの測定精度を向上するか、測定を高速に行うかを選択することができる。
【0060】
さらに、この構成では、蛍光を検出することができる。蛍光を検出する蛍光モードの場合、高速スキャナ13を動作させて、低速スキャナ16を固定する。蛍光モードの場合、X走査装置20も動作させる。このとき、光路上からは、ハーフミラー25が取り除かれ、光路中にはエッジフィルタ19が挿入されている。これにより、蛍光から励起光を分岐することができる。すなわち、レーザ波長と異なる波長の蛍光がエッジフィルタ19を通過し、レーザ光がエッジフィルタ19で反射される。また、切換えミラー27が光路上から取り除かれている。これにより、ラインCCDカメラ50で蛍光像を取得することができる。このように、蛍光モード、反射モード、ラマンモードの切り替えを簡便に行うことができる。さらに、エッジフィルタ19とハーフミラー25を排他的に使用することで、別途、帯域フィルタ等を設ける必要がなくなる。よって、装置構成を簡便にすることができる。
【0061】
本実施の形態では、試料の表面に沿って、レーザ光を走査している。これにより、ラマンスペクトルの測定時間を短縮することができる、すなわち、Z方向における測定点数を1点として、ラマンスペクトル測定を行う測定点数を減らしている。よって、測定時間を短くすることができる。そのための制御と処理について、図3を用いて説明する。図3は、本実施の形態にかかる光学顕微鏡に用いられる処理装置71の構成を模式的に示すブロック図である。図3に示すように、処理装置71には、ステージ制御部72、X走査制御部73、Y走査制御部74、焦点位置抽出部75、反射光データ記憶部76、表面形状記憶部77、スペクトルデータ記憶部78が設けられている。
【0062】
ステージ制御部72は、ステージ60の動作を制御する。なお、ステージ60はXYZステージであり、試料24を3次元的に移動させる。これにより、所望の位置に試料24を移動させることができる。ステージ制御部72は、ステージ60の3次元座標を認識している。ステージ制御部72が、ステージ60をZ方向に移動させることで、対物レンズ23と試料24の距離が変化する。すなわち、試料24に対するレーザ光の焦点位置が光軸に沿って変化する。このように、ステージ60のZ座標がレーザ光の焦点位置を示すことになる。
【0063】
X走査制御部73は、X走査装置20による走査を制御する。すなわち、X方向におけるレーザ光の偏向角度は、X走査制御部73によって制御される。X走査制御部73は、X走査装置20を駆動して、ステージ60上の試料24におけるレーザ光の入射位置をX方向に移動させる。従って、X走査制御部73、及びステージ制御部72によって、測定位置のX座標を認識することができる。すなわち、試料24の任意の点におけるX座標を求めることができる。
【0064】
Y走査制御部74は、Y走査装置40による走査を制御する。すなわち、Y走査制御部74は、高速スキャナ13、及び低速スキャナ16の動作をそれぞれ制御する。Y方向におけるレーザ光の偏向角度は、Y走査制御部74によって制御される。Y走査制御部74は、Y走査装置40を駆動して、ステージ60上の試料24におけるレーザ光の入射位置をY方向に移動させる。Y走査制御部74、及びステージ制御部72によって、測定位置のY座標を認識することができる。すなわち、試料24の任意の点におけるY座標を求めることができる。従って、XY平面において試料24の異なる点は、異なるXY座標で示される。
【0065】
ステージ制御部72、X走査制御部73、Y走査制御部74を用いて、試料24を3次元的に走査する。そして、反射光による反射像を撮像する。ここで、試料24の測定位置はXY座標で示され、試料24に対する焦点位置はZ座標で示される。従って、各測定位置において、焦点位置をZ方向に変化させて、複数回の測定を行う。すなわち、焦点位置を変化させたときの各焦点位置において、それぞれ、反射光をラインCCDカメラ50で検出する。
【0066】
たとえば、ステージ60、X走査装置20、および低速スキャナ16を固定した状態で、高速スキャナ13を動作させる。そして、1ライン分の反射光をラインCCDカメラ50で検出する。そして、Z方向に焦点位置を順次変化させ、それぞれの焦点位置で反射光の検出を行う。すなわち、ある焦点位置での反射光の検出が終了したら、焦点位置をZ方向にずらして、反射光を検出する。そして、Z方向の走査が終了したら、X走査装置20によって1ライン分、測定位置をずらす。次のラインも同様に、反射光をラインCCDカメラ50で検出する。X方向の走査が終了したら、ステージ60を動作させる。そして、試料24をY方向に移動させて、同様に反射光を検出する。このように、試料全面を走査して、同様に反射光を検出する。このようにして、3次元的な走査を行う。もちろん、走査する順番は上記の順番に限られるものはない。
【0067】
ラインCCDカメラ50で検出された反射光の強度が反射光データとして反射光データ記憶部76に記憶される。ここで、各XYZ座標における反射光強度が、その座標と対応付けられて記憶される。すなわち、異なる高さで反射光強度を測定することで、座標毎に反射光データが取得される。このようにして、各断層における反射像が撮像される。
【0068】
焦点位置抽出部75は、反射光データに基づいて、ラマンスペクトルを測定する焦点位置を抽出する。すなわち、各測定位置において反射光を検出して、反射光を検出した複数のZ座標の中からラマンスペクトルを測定するZ座標を選択する。本実施の形態では、共焦点光学系を介して、反射光を検出している。従って、試料表面以外では反射光強度が低下する。レーザ光の焦点位置が試料24の表面にある時に、反射光強度が最大となる。レーザ光の焦点位置が試料表面から外れると、ラインCCDカメラ50の受光面において像がぼやける。よって、反射光強度が最大となるZ座標を求める。そして、このZ座標を、ラマンスペクトルを測定する焦点位置とする。すなわち、反射光強度が最大となる焦点位置を抽出して、抽出した焦点位置をラマンスペクトル測定用焦点位置とする。換言すると、各測定位置において、ラマンスペクトルを測定しないZ座標を決定することになる。
【0069】
このように、焦点位置抽出部75は、各XY座標において、反射光強度が最大となる焦点位置を順次求めていく。たとえば、図4に示すように、各XY座標において、反射光強度の測定を複数回行う。なお、図4は、試料の表面形状を模式的に示す図である。Z方向に焦点位置を変えて、反射光を検出する。すなわち、異なる高さで反射強度の測定を行う。これにより、各断層における2次元の反射像が撮像される。焦点位置抽出部75は、複数の焦点位置の中から、反射光強度が最大となる焦点位置を抽出する。そして、抽出された焦点位置の座標が、表面形状として、表面形状記憶部77に記憶される。表面形状記憶部77には、各XY座標に対して、反射光が最大となる焦点位置のZ座標が対応付けて記憶される。図4に示すように、試料24の表面に凹凸がある場合、測定位置ごとにZ座標が異なることになる。
【0070】
なお、試料24が屈折率の異なる材料から構成される場合、それらの界面で反射光強度が高くなることがある。すなわち、屈折率の異なる材料同士の界面で反射光強度にピークが現れることになる。この場合、Z方向における反射光強度分布に、複数のピークが現れることになる。このような場合、試料表面を示すZ座標は、隣の測定位置におけるZ座標に応じて決めることができる。すなわち、隣の測定位置との間で、試料の表面形状が滑らかになる焦点位置のZ座標を抽出する。そして、抽出した焦点位置をつなぎ合わせて、試料24の表面形状を形成する。
【0071】
このように表面形状の測定が終了したら、図5に示すように試料24の表面に沿ってラマンスペクトル測定を行う。すなわち、XY方向に測定位置を移動するときに、記憶されている表面形状にしたがってステージをZ方向に駆動させる。隣の測定位置でラマンスペクトルを測定しようとするときに、試料24と対物レンズ23との距離が変わることになる。このように、表面形状記憶部77に記憶されている表面形状を参照して、ラマンスペクトルの測定点を3次元的に移動させていく。具体的には、試料24の表面に焦点位置があうように、ステージ60を調整する。そして、焦点位置を調整した状態で、スペクトルを測定する。これにより、ラマンスペクトルの測定回数を減らすことができるため、測定時間を短縮することができる。
【0072】
なお、試料表面に沿ってラマンスペクトルを測定する場合、図6に示すように、X方向、及びY方向にレーザ光を走査するとともに、ステージ60をZ方向に駆動する。すなわち、低速スキャナ16、X走査装置20、及びステージ60を制御することで、3次元走査が可能になる。これにより、各測定位置において、対物レンズ23と試料24との距離を調整することができる。あるいは、図7に示すように、ステージ60の駆動のみで3次元走査することも可能である。すなわち、ステージ60をXYZ方向に駆動して、これにより、測定点が試料表面に沿って移動する。試料表面に沿って、ラマンスペクトルを測定することができる。よって、測定時間を短縮することができる。なお、対物レンズ23と試料24との距離を、ステージ60ではなくて、対物レンズ23を移動させることによって、調整してもよい。
【0073】
本実施の形態では、入射光を3次元的に走査して、試料24の表面形状に沿ってラマンスペクトルを測定している。このため、スペクトルの測定時間を短縮化することができる。すなわち、試料24の広い領域におけるラマンスペクトルの測定を短時間で行うことができる。試料24の観察領域を広くした場合でも、各測定位置における測定回数を低減することができる。よって、長い測定時間が必要とならない。ラマンスペクトルの波長分解能を向上した場合や、より広い範囲のスペクトルを測定した場合でも、測定時間が長時間とならず、実用的な観察を行なうことができる。例えば、任意の波長(振動数)のラマン散乱光に着目した2次元像の観察や試料24の特定の点におけるラマンスペクトルの測定を高い分解能で行なうことができる。
【0074】
さらに、本実施の形態では、ラマン散乱光を集光するコンフォーカル光学系として構成している。これにより、Z方向の分解能を向上することができる。試料表面のスペクトルを測定することで、様々なスペクトル解析を行なうことができる。そして、解析結果を処理装置のディスプレイに表示させることにより、より高度な分析が可能になる。
【0075】
さらに、反射光や蛍光を検出するための光学系をスリットコンフォーカル光学系としている。よって、ステージ60をZ方向に移動させることで、任意の高さにおける反射像や蛍光像を取得することができる。これにより、断層画像を高速かつ高分解能で取得することができる。よって、3次元観察を容易に行うことができる。
【0076】
なお、上記の説明では、アレイ光検出器36、及びラインCCDカメラ50をCCDカメラとして説明したが、これらはCCDカメラに限られるものではない。すなわち、受光画素がマトリクス状に配列されている2次元光検出器を分光測定用に用いることができる。また、受光画素が1列に配列された1次元光検出器を反射光検出用に用いることができる。
【0077】
さらに、ラマン散乱光とレーザ光を分岐するビームスプリッタは、エッジフィルタ19に限られるものではない。例えば、波長に応じて光を分岐するダイクロイックミラーをビームスプリッタとして用いてもよい。また、X走査装置20はビームを偏向させるものに限られるものではなく、ステージ60を駆動するものでもよい。なお、Y走査装置40の代わりにシリンドリカルレンズなどを用いてスリットコンフォーカル光学系を構成してもよい。すなわち、光をライン状にする光変換手段をY走査装置40の代わりに用いる。そして、ライン状の光のスポットを試料24上に形成すれば、スリットコンフォーカル光学系を構成することができる。さらに、光分岐手段として、ハーフミラー25とエッジフィルタ19を排他的に用いることが好ましい。
【0078】
本実施形態にかかるスペクトル測定方法では、対物レンズ23を介してレーザ光を試料24に照射するステップと、対物レンズ23を介して、前記試料で反射した反射光を検出するステップと、レーザ光の焦点位置を光軸方向に変化させるステップと、レーザ光の焦点位置を変化させたときの反射光の検出結果に基づいて、スペクトル測定を行う焦点位置を抽出するステップと、抽出された焦点位置になるように調整するステップと、焦点位置を調整した状態で、レーザ光の照射により前記試料から出射される出射光を前記レーザ光から分岐するステップと、レーザ光から分岐された出射光のスペクトルを分光器で測定するステップと、を備えている。さらに、試料に対する前記レーザ光の入射位置を変化させて試料上の複数の測定位置からの反射光を順次検出するステップと、複数の測定位置における焦点位置をそれぞれ抽出し、試料の表面形状を測定するステップと、試料の表面に沿って焦点位置が移動するようにレーザ光を3次元走査して、前記スペクトルを測定するステップをさらに有していてもよい。
【0079】
発明の実施の形態2.
本実施の形態にかかる光学顕微鏡100について、図8を用いて説明する。図8は、本実施形態にかかる光学顕微鏡の光学系を示す図である。本実施の形態では、高速スキャナ13とレーザラインフィルタ12との間に、ビームスプリッタ56が設けられている。そして、ビームスプリッタ56で分岐された光はAF(オートフォーカス)機構53に入射する。これ以外の構成については、実施の形態1と同様であるため、重複する部分については説明を省略する。このような構成によって、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0080】
本実施の形態では、AF機構53によって試料表面にトラッキングしながらラマンスペクトル測定を行う。すなわち、ラマンスペクトル測定中にAF機構53を用いて自動焦点合わせ(AF)を行う。AF機構53は、4分割フォトダイオードや、レンズ、シリンドリカルレンズ等を有している。そして、4分割フォトダイオードに対する反射光の入射位置に応じて、オートフォーカス(AF)を行う。具体的には、シリンドリカルレンズなどで反射光を非対称のスポット形状にする。そして、4分割フォトダイオードにおける反射光強度の分布によって、焦点位置を合わせる。AF機構53の出力に応じて、ステージ60をZ方向に駆動する。
【0081】
具体的には、ラマンモードにする場合、実施の形態1と同様に、エッジフィルタ19、及び切換えミラー27を光路上に配置する。図8に示すように、レーザラインフィルタ12と高速スキャナ13の間にビームスプリッタ56が配置されている。ビームスプリッタ56は、入射した一部の光を透過して、一部を反射する。すなわち、ビームスプリッタ56は、所定の割合で、光を透過、又は反射する。従って、レーザラインフィルタ12からのレーザ光は、ビームスプリッタ56を介して、高速スキャナ13に入射する。そして、実施の形態1におけるラマンモードと同様に、レーザ光は、エッジフィルタ19で反射され、試料24に入射する。試料24で発生したラマン散乱光は、実施の形態1と同様にエッジフィルタ19を透過して、入射スリット30で検出される。これにより、ラマンスペクトルを測定する。
【0082】
一方、試料24で反射した反射光は、エッジフィルタ19によって、反射される。そして、リレーレンズ18、リレーレンズ17、及び高速スキャナ13を介してビームスプリッタ56に入射する。ビームスプリッタ56は、入射した反射光の一部をAF機構53の方向に反射する。そして、ビームスプリッタ56で反射されて、AF機構53に入射する。すなわち、ビームスプリッタ56はレーザ光と、反射光とを分岐する光分岐手段として機能する。AF機構53は、上記のように、4分割フォトダイオードを有しており、反射光を検出する。そして、AF機構53での検出結果に基づいて、ステージ60を駆動する。これにより、XY方向に測定位置を移動する際に、試料表面に沿って焦点位置が移動する。すなわち、試料24の表面形状に追従して、焦点位置がZ方向に動く。このように、AF機構53を用いて、焦点位置が試料24の表面に沿って追従するように、3次元的に走査する。
【0083】
本実施の形態でも、処理装置71がレーザ光の焦点位置を変化させたときの反射光の検出結果に基づいて、スペクトル測定を行う焦点位置を抽出する。そして、試料24の表面に沿って、焦点位置を3次元的に移動させる。すなわち、測定位置をXY方向に移動させる際、AF機構53での検出結果に応じて、焦点位置の高さを調整する。焦点位置が試料24の表面になるように、対物レンズ23と試料24との間隔を調整する。このように、試料表面に焦点合わせしながら、ラマンスペクトルを測定する。すなわち、試料表面に焦点位置が合うようにトラッキングしながら、ラマンスペクトルの測定を行う。これにより、ラマンスペクトルの測定回数を減らすことができる。よって、測定時間を短くすることができる。このように、本実施の形態にかかるスペクトル測定方法では、反射光の検出結果に基づいて、焦点位置が試料24の表面に追従するように3次元的に走査して、スペクトルを測定している。よって、より短時間で、試料表面からのラマン散乱光のスペクトルを測定することができる。
【0084】
発明の実施の形態3.
本実施の形態では、反射像の撮像と、ラマンスペクトルの測定を同時に行うことが可能な光学系を採用している。そのため、本実施の形態では、実施の形態1に比べて、ラインCCDカメラ50の配置が異なっている。さらに、エッジフィルタ19とリレーレンズ18の間にビームスプリッタ55が設けられている。そして、ビームスプリッタ55で分岐された反射光が結像レンズ54を介してラインCCDカメラ50に入射する。なお、これら以外の構成については、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0085】
本実施の形態では、反射像の撮像と、ラマンスペクトル測定が同時に行われる。そのため、反射像の撮像時でも、エッジフィルタ19と切換えミラー27が光路上に配置される。さらに、光路上にはレーザ光と反射光とを分岐するビームスプリッタ55が配置されている。ビームスプリッタ55は、入射した光の一部を反射して、一部を透過する。すなわち、ビームスプリッタ55は、所定の割合で、光を透過、又は反射する。従って、リレーレンズ18からのレーザ光の一部はビームスプリッタ55を通過して、エッジフィルタ19に入射する。また、エッジフィルタ19からの反射光の一部は、ビームスプリッタ55で反射されて、結像レンズ54に入射する。すなわち、ビームスプリッタ55は、レーザ光と反射光とを分岐する光分岐手段として機能する。なお、Y方向の走査は低速スキャナ16によって行う。
【0086】
結像レンズ54は、入射した反射光を屈折する。これにより、ラインCCDカメラ50の受光面に反射光が結像する。実施の形態1と同様に、ラインCCDカメラ50は、コンフォーカル光学系を介して、反射光を検出する。これにより、共焦点反射像を撮像することができる。また、エッジフィルタ19を通過した出射光を分光器31で検出する。これにより、ラマンスペクトルを測定することができる。このようにすることで、ラマンスペクトル測定と、反射像の撮像とを同時に行うことができる光学顕微鏡を実現することができる。
【0087】
さらに、反射像の撮像と、ラマンスペクトルの測定とを切り換える際に、光学系の構成を変更する必要がなくなる。すなわち、エッジフィルタ19、及び切換えミラー27を光路上から取り除かなくてもよくなる。これにより、光学系を固定することができる。光学系の切り換え時において発生する、微小な焦点位置のずれを防ぐことができる。よって、精度の高い観察、測定を行うことができる。
【0088】
なお、図9では、エッジフィルタ19でラマン散乱光を取り出した後、ビームスプリッタ55で反射光と入射光とを分岐している。これにより、ラマン散乱光のロスを低減することができるため、測定時間を短くすることができる。もちろん、光を分岐する順番はこれに限られるものではない。たとえば、出射光を入射光からビームスプリッタ56で分岐した後、出射光のうちの反射光とラマン散乱光とをエッジフィルタで分岐する配置としてもよい。この場合、ビームスプリッタ56で取り出された出射光の光路中にエッジフィルタ19を配置する。そして、エッジフィルタ19で出射光を波長に応じて分岐する。なお、図9において、ハーフミラー25を設けなくてもよい。これにより、光学系を簡素化することができる。もちろん、本実施の形態においても、反射像の撮像と、スペクトル測定を同時に行わなくてもよい。
【0089】
このように、本実施の形態では、出射光を前記レーザ光から分岐するステップにおいて、波長に応じて光を分岐する第1の光分岐手段(エッジフィルタ19)によって出射光をレーザ光から分岐して、第1の光分岐手段によってレーザ光の波長と異なる波長の出射光をレーザ光と分岐した後、第2の光分岐手段(ビームスプリッタ55)によって前記試料で反射した反射光を分岐して、共焦点光学系を介して反射光を光検出器で検出して、試料の反射光による反射像を撮像している。
【0090】
上記の実施の形態1〜3にかかる光学顕微鏡によれば、試料表面で発生するラマン散乱光のスペクトル測定を短時間に行うことができる。すなわち、試料24の表面形状に沿ってスペクトル測定を行うため、必要な測定だけを行うことができる。さらに、試料の表面に焦点位置が合わせられている。コンフォーカル光学系を介してスペクトルを測定する構成であっても、画像のコントラストが低下することなく、精度の高い測定を行うことができる。入射スリット30の幅を狭くすることができ、Z方向の分解能を向上することができる。
【0091】
なお、上記の実施形態1〜3では、ラインコンフォーカル光学系を用いて反射像を撮像したが、反射像の撮像に用いられる光学系はこれに限られるものではない。例えば、ピンホールを用いたコンフォーカル光学系を用いて、反射像の撮像を行ってもよい。すなわち、コンフォーカル光学系を介して反射像の撮像を行う構成であればよい。また、分光器31の入射側に入射スリット30を設けた構成について説明したが、入射側にピンホールを設けた構成としてもよい。これにより、空間分解能を向上することができる。また、各実施の形態を適宜組み合わせてもよい。たとえば、実施の形態3の光学顕微鏡に対してAF機構53などを追加してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる光学顕微鏡の構成を示す図である。
【図2】光学顕微鏡に用いられる分光器の構成を模式的に示す斜視図である。
【図3】光学顕微鏡に用いられる処理装置の構成を示すブロック図である。
【図4】試料の表面形状を模式的に示す図である。
【図5】試料の表面に沿って走査する様子を示す図である。
【図6】試料の表面に沿って走査する走査方法の一例を説明するための図である。
【図7】試料の表面に沿って走査する走査方法の他の例を説明するための図である。
【図8】実施の形態2にかかる光学顕微鏡の構成を示す図である。
【図9】実施の形態3にかかる光学顕微鏡の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0093】
10 レーザ光源
11 ビームエキスパンダ
12 レーザラインフィルタ
13 高速スキャナ
14 リレーレンズ
15 リレーレンズ
16 低速スキャナ
17 リレーレンズ
18 リレーレンズ
19 エッジフィルタ
20 X走査装置
21 リレーレンズ
22 チューブレンズ
23 対物レンズ
24 試料
25 ハーフミラー
26 結像レンズ
27 切換えミラー
30 入射スリット
31 分光器
32 ミラー
33 凹面鏡
34 グレーティング
35 凹面鏡
36 アレイ光検出器
37 受光画素
40 Y走査装置
50 ラインCCDカメラ
53 AF機構
54 レンズ
55 ビームスプリッタ
56 ビームスプリッタ
60 ステージ
71 処理装置
72 ステージ制御部
73 X走査制御部
74 Y走査制御部
75 焦点位置抽出部
76 反射光データ記憶部
77 表面形状記憶部
78 スペクトルデータ記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズを介してレーザ光を試料に照射するステップと、
前記試料で反射した反射光を、前記対物レンズを介して検出するステップと、
前記レーザ光の焦点位置を光軸方向に変化させるステップと、
前記レーザ光の焦点位置を変化させたときの前記反射光の検出結果に基づいて、スペクトル測定を行う焦点位置を抽出するステップと、
前記抽出された焦点位置になるように調整するステップと、
前記焦点位置を調整した状態で、前記レーザ光の照射により前記試料から出射される出射光を前記レーザ光から分岐するステップと、
前記レーザ光から分岐された出射光のスペクトルを分光器で測定するステップと、を備えるスペクトル測定方法。
【請求項2】
前記試料に対する前記レーザ光の入射位置を変化させて試料上の複数の測定位置からの反射光を順次検出するステップと、
前記複数の測定位置における前記焦点位置をそれぞれ抽出し、前記試料の表面形状を測定するステップと、
前記試料の表面に沿って前記焦点位置が移動するように前記レーザ光を3次元走査して、前記スペクトルを測定するステップをさらに有する請求項1に記載のスペクトル測定方法。
【請求項3】
前記反射光の検出結果に基づいて、前記焦点位置が前記試料の表面に追従するように3次元走査して、前記スペクトルを測定する請求項1に記載のスペクトル測定方法。
【請求項4】
前記出射光を前記レーザ光から分岐するステップでは、波長に応じて光を分岐する第1の光分岐手段によって前記レーザ光の波長と異なる波長の前記出射光を前記レーザ光から分岐して、
前記第1の光分岐手段によって出射光を前記レーザ光と分岐した後、第2の光分岐手段によって前記試料で反射した反射光を分岐して、
共焦点光学系を介して前記反射光を光検出器で検出して、前記試料の反射光による反射像を撮像する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスペクトル測定方法。
【請求項5】
前記レーザ光を第1の方向に走査する第1の走査手段によって、前記試料に対する前記レーザ光の入射位置を変化させるステップと、
前記レーザ光を前記第1の方向と直交する第2の方向に走査する第2の走査手段によって、前記試料に対する前記レーザ光の入射位置を変化させるステップと、をさらに備え、
前記試料からの出射光が前記第1の走査手段、及び前記第2の走査手段によってデスキャンされて分光器に入射することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスペクトル測定方法。
【請求項6】
前記第1の走査手段と前記第2の走査手段とが合わせて3つのスキャナーを備え、
前記3つのスキャナーのうち、2つでデスキャンされ、1つでデスキャンされないことと特徴とする請求項5に記載のスペクトル測定方法。
【請求項7】
レーザ光源と、
前記レーザ光源からの光を集光する対物レンズと、
前記対物レンズを介して試料に入射した光ビームのうち前記試料から前記対物レンズ側に出射する出射光と前記レーザ光源から前記試料に入射する入射光とを分離する第1の光分岐手段と、
前記試料で反射した反射光を、前記対物レンズを介して検出する光検出器と、
前記レーザ光の焦点位置を光軸に沿って変化させる焦点位置変化手段と、
前記焦点位置を変化させたときの前記光検出器の検出結果から、スペクトル測定を行う焦点位置を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段によって抽出された焦点位置で、前記第1の光分岐手段により分岐された出射光のスペクトルを測定する分光器と、を備える光学顕微鏡。
【請求項8】
前記試料に対する前記レーザ光の入射位置を変化させて試料上の複数の測定位置からの反射光を順次検出して、
前記複数の測定位置における前記焦点位置をそれぞれ抽出し、前記試料の表面形状を測定し、
前記試料の表面に沿って前記焦点位置が移動するように前記レーザ光を3次元走査して、前記スペクトルを測定する請求項7に記載の光学顕微鏡。
【請求項9】
前記反射光の検出結果に基づいて、前記焦点位置が前記試料の表面に追従するように走査するオートフォーカス機構をさらに備え、
前記オートフォーカス機構によって、前記試料の表面に追従させて前記スペクトル測定を行う請求項7に記載の光学顕微鏡。
【請求項10】
前記第1の光分岐手段によって分岐した後、前記試料で反射した反射光と前記試料に入射するレーザ光とを分岐する第2の光分岐手段をさらに備え、
前記第1の光分岐手段が波長に応じて前記レーザ光と異なる波長の出射光を取り出し、
共焦点光学系を介して前記反射光を光検出器で検出して、前記試料の反射光による反射光画像を撮像する請求項7乃至9のいずれか1項に記載の光学顕微鏡。
【請求項11】
前記レーザ光を第1の方向に走査して、前記試料に対する前記レーザ光の入射位置を変化させる第1の走査手段と、
前記レーザ光を前記第1の方向と直交する第2の方向に走査して、前記試料に対する前記レーザ光の入射位置を変化させる第2の走査手段と、をさらに備え、
前記試料からの出射光が前記第1の走査手段、及び前記第2の走査手段によってデスキャンされて分光器に入射することを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の光学顕微鏡。
【請求項12】
前記第1の走査手段と前記第2の走査手段とが合わせて3つのスキャナーを備え、
前記3つのスキャナーのうち、2つでデスキャンされ、1つでデスキャンされないことを特徴とする請求項11に記載の光学顕微鏡。
【請求項13】
レーザ光源と、
前記レーザ光源からの光を集光する対物レンズと、
波長に応じて光を分岐して、前記対物レンズを介して試料に入射した光ビームのうち前記試料から前記対物レンズ側に出射する出射光からレーザ光の波長と異なる波長の出射光を取り出す第1の光分岐手段と、
前記第1の光分岐手段により分岐された出射光のスペクトルを測定する分光器と、
前記試料で反射した反射光を前記レーザ光から分岐する第2の光分岐手段と、
共焦点光学系を介して、前記試料で反射した反射光を検出する光検出器と、を備える光学顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−127726(P2010−127726A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301820(P2008−301820)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(503138134)ナノフォトン株式会社 (19)
【Fターム(参考)】