説明

光学顕微鏡観察用試料の製造方法及び観察方法

【課題】 観察対象物を構成する各材料を視覚的に区別できる光学顕微鏡観察用試料の製造方法を提供することを課題としている。
【解決手段】 光学顕微鏡によって観察対象物を観察するための観察用試料を製造する光学顕微鏡観察用試料の製造方法であって、複数種の構成材料を含む前記観察対象物の少なくとも1種の材料が変質する温度で前記観察対象物を加熱する加熱工程を実施することにより、前記観察用試料を製造する光学顕微鏡観察用試料の製造方法等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学顕微鏡によって観察対象物を観察するための観察用試料を製造する光学顕微鏡観察用試料の製造方法に関する。また、該製造方法によって製造した光学顕微鏡観察用試料を光学顕微鏡によって観察する観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の光学顕微鏡観察用試料の製造方法としては、様々な方法が知られており、例えば、表面に凹凸のある均質な集積回路基板を観察対象物として用い、該基板上に金の薄膜を形成することにより、光学顕微鏡観察用試料を製造する方法などが知られている(特許文献1)。
【0003】
斯かる光学顕微鏡観察用試料の製造方法によれば、製造された試料の表面において、可視光が正反射することが薄膜によって抑えられ、観察を妨げる正反射した光を抑制することができる。従って、試料を観察した観察像における意図しない光が抑えられる。意図しない光が抑えられる分、観察対象物表面の凹凸が、観察像において明確に明暗の差となって表される。このため、製造された試料を観察した観察像において、観察対象物表面の凹凸を認識することができる。このように、斯かる光学顕微鏡観察用試料の製造方法によれば、観察対象物の表面の凹凸を認識できる観察用試料を得ることができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1のごとく、表面に凹凸のある均質な観察対象物に対して薄膜を形成しただけの観察用試料は、光学顕微鏡観察において、観察対象物の凹凸を認識できるものであるものの、観察対象物が複数種の構成材料を含むものについて、観察対象物に複数種の構成材料が含まれていることを必ずしも明確に確認できないという問題がある。具体的には、例えば、観察対象物を構成する各材料が同じ色で観察され、光学顕微鏡観察において各材料が明確に確認できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−168339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点等に鑑み、観察対象物を構成する各材料が視覚的に確認される光学顕微鏡観察用試料を得ることができる光学顕微鏡観察用試料の製造方法を提供することを課題とする。また、観察対象物を構成する各材料を視覚的に確認できる観察方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明に係る光学顕微鏡観察用試料の製造方法は、光学顕微鏡によって観察対象物を観察するための観察用試料を製造する光学顕微鏡観察用試料の製造方法であって、複数種の構成材料を含む前記観察対象物の少なくとも1種の材料が変質する温度で前記観察対象物を加熱する加熱工程を実施することにより、前記観察用試料を製造することを特徴とする。
【0008】
上記構成からなる光学顕微鏡観察用試料の製造方法によれば、前記加熱工程において、前記観察対象物を構成する少なくとも1種の材料が変質する温度で前記観察対象物を加熱することにより、観察対象物を構成する少なくとも1種の材料が変質する。即ち、少なくとも1種の材料の反射率又は屈折率が変化する。このため、変質した材料の表面にて反射された光の態様は、加熱工程前とは異なるものになる。そして、変質した材料の表面にて反射した光が、観察像において明暗又は色の異なるものとなって表れる。従って、観察像において各材料を確認できる。このように、前記加熱工程を実施することにより、観察対象物を構成する各材料が観察像において確認できる観察用試料を得ることができる。
【0009】
本発明に係る光学顕微鏡観察用試料の製造方法においては、少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を前記観察対象物の表面に形成する薄膜形成工程を、前記加熱工程の前又は後に実施することが好ましい。
【0010】
本発明に係る観察方法は、光学顕微鏡によって観察対象物を観察する観察方法であって、複数種の構成材料を含む前記観察対象物の少なくとも1種の材料が変質する温度で前記観察対象物を加熱する加熱工程を実施することにより、観察用試料を作製し、さらに、該観察用試料を光学顕微鏡によって観察する観察工程を実施することを特徴とする。
また、本発明に係る観察方法においては、少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を前記観察対象物の表面に形成する薄膜形成工程を前記加熱工程の前又は後に実施することにより、前記観察用試料を作製することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る光学顕微鏡観察用試料の製造方法は、観察対象物を構成する各材料が視覚的に確認される光学顕微鏡観察用試料を得ることができるという効果を奏する。また、本発明に係る観察方法は、観察対象物を構成する各材料が視覚的に確認できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例及び比較例1における光学顕微鏡観察像の写真。
【図2】比較例2における光学顕微鏡観察像の写真。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る光学顕微鏡観察用試料の製造方法の実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態の光学顕微鏡観察用試料の製造方法は、光学顕微鏡によって観察対象物を観察するための観察用試料を製造する光学顕微鏡観察用試料の製造方法であって、複数種の構成材料を含む前記観察対象物の少なくとも1種の材料が変質する温度で前記観察対象物を加熱する加熱工程を実施することにより、前記観察用試料を製造するものである。
【0015】
前記光学顕微鏡観察用試料の製造方法では、前記加熱工程の前又は後に、少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を前記観察対象物の表面に形成する薄膜形成工程を実施することが好ましい。また、前記薄膜形成工程の前に、前記観察対象物の表面を研磨する研磨工程を実施することが好ましい。
具体的には、前記光学顕微鏡観察用試料の製造方法では、前記観察対象物の表面を研磨する研磨工程と、少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を前記観察対象物の研磨された表面に形成する薄膜形成工程とを実施した後、前記観察対象物を構成する少なくとも1種の材料が変質する温度で前記観察対象物を加熱する加熱工程を実施することにより、前記観察用試料を製造することが好ましい。
【0016】
前記観察対象物は、異なる屈折率又は異なる反射率を有する複数種の構成材料が混在したものである。
前記観察対象物としては、例えば、セメントが水和反応したセメント水和物と骨材とが少なくとも構成材料として混在しているセメント硬化物が挙げられる。
該セメント硬化物の原料であるセメントとしては、例えば、JIS R5211〜5213により規定されるセメントが挙げられる。具体的には、高炉スラグを含む高炉セメント(JIS R5211)、シリカを含むシリカセメント(JIS R5212)、フライアッシュを含むフライアッシュセメント(JIS R5213)などが挙げられる。
また、前記セメント硬化物としては、セメント水和物と細骨材とが混在したモルタル、又は、セメント水和物と粗骨材と細骨材とが混在したコンクリート、セメント水和物とガラス繊維と細骨材とが混在したガラス繊維強化セメント(GRC)等が挙げられる。
さらに、前記観察対象物としては、具体的には例えば、粘板岩を薄い板状に加工したスレート、石膏ボード、ピータイル、疑灰岩等が挙げられる。
【0017】
前記観察対象物の構成材料としては、具体的には、例えば、具体的には、例えば、セメント水和物などのセメント由来物質、結晶性シリカや非結晶性シリカなどのシリカ材料、ガラス材料、アスベスト、高炉スラグ、フライアッシュ(石炭灰)、骨材などが視覚的に確認できるものとして挙げられる。
【0018】
なお、前記観察対象物の構成材料は、観察像において観察される形状から確認することができる。具体的には、観察像においては、アスペクト比の大小により、例えば、ガラス材料としてのガラス粉及びガラスファイバーを確認できる。
また、後述する観察方法においては、5000倍程度の倍率で観察することにより、セメント水和物の種類、即ち、原料として用いられたセメントの種類が確認され得る。
【0019】
前記研磨工程では、光学顕微鏡によって観察する観察対象物の表面を物理的に研磨する。斯かる研磨を行うことにより、光学顕微鏡観察において、観察対象物表面の凹凸により生じ得る悪影響、即ち、観察対象物表面における光の拡散反射などを抑えることができるという利点がある。物理的な研磨方法としては、例えば、バフ研磨方法を採用することができる。
また、前記研磨工程では、必要に応じて、エッチングなどの化学的な研磨を行うことができる。
【0020】
前記研磨工程では、JIS B0601(1994)に規定される算術平均粗さ(Ra)が5μm未満となるように観察対象物の表面を研磨することが好ましく、1μm以下となるように観察対象物の表面を鏡面研磨することがより好ましい。
なお、前記研磨工程は、従来公知の方法により、一般的な装置を用いて実施することができる。また、算術平均粗さ(Ra)は、市販の表面粗さ計を用いて測定することができる。
【0021】
前記薄膜形成工程では、観察対象物の表面に、少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を形成する。好ましくは、前記研磨工程で研磨した観察対象物の表面に、少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を形成する。
該薄膜が光を吸収又は散乱できるため、光学顕微鏡観察において、試料表面にて正反射する光を抑制することができる。従って、光学顕微鏡による観察像において、観察を妨げる意図しない光が抑制され、観察対象物を構成する各材料をより確実に確認することができる。
前記薄膜は、少なくとも光を吸収又は散乱するものである。光の散乱としては、具体的には、例えば、光の反射又は屈折が挙げられる。また、前記薄膜は、さらに光を回折する性能を有していてもよい。
【0022】
前記薄膜は、少なくとも光を吸収又は散乱するものであれば、材質が特に限定されるものではなく、該薄膜の材質としては、金属や炭素などの導電性物質、又は、無機酸化物などが挙げられる。
【0023】
前記金属としては、金(Au)、白金(Pt)、白金−パラジウム(Pt−Pd)合金などを用いることができる。
前記無機酸化物としては、二酸化ケイ素(SiO2)や二酸化チタン(TiO2)などを用いることができる。
【0024】
前記薄膜の材質としては、蒸着によって薄膜を形成させやすいという点、薄膜の成膜性及び安定性に優れるという点、可視光などの光を適度に吸収又は散乱できるという点で、前記導電性物質としての金属又は炭素が好ましく、金(Au)がより好ましい。また、後述する加熱工程にて電子線を照射する加熱方法を採用する場合において、より確実に加熱できるという点で、前記導電性物質としての金属又は炭素が好ましい。
また、前記薄膜としては、例えば、所定の屈折率を有する樹脂、微粒子が分散されて所定の屈折率を有するように調整された反射防止塗料などの塗料、又は、光学顕微鏡の技術分野において一般的に用いられている浸液、屈折率調整液、屈折液等の観察用液体を用いて形成したものを採用することができる。
【0025】
前記薄膜は、光が透過できる厚みに形成する。該薄膜の厚みは、特に限定されないが、通常、1nm〜1μmである。
なお、前記薄膜の厚みによって、観察される観察像の色が変わり得る。具体的には、光源として白色光を用いた場合、金で形成された薄膜の厚みが変わることにより、観察像全体の色調が、例えばオレンジ系〜黄系の色になり得る。
【0026】
前記薄膜形成工程では、前記薄膜を従来公知の一般的な方法によって形成することができる。具体的には、例えば、蒸着によって金を含む薄膜を形成することができる。
【0027】
前記薄膜形成工程において行う蒸着としては、物理的蒸着、化学的蒸着などが挙げられ、観察対象物を変質させるおそれが小さいという点で、物理的蒸着が好ましい。
前記物理的蒸着としては、抵抗加熱蒸着や電子ビーム(EB)蒸着などの真空蒸着、イオン化蒸着、スパッタリングなどを採用することができる。前記物理的蒸着としては、より簡便に行うことができ、しかも観察対象物表面における凹凸を覆うように成膜できるという点で、抵抗加熱蒸着や電子ビーム(EB)蒸着などの真空蒸着が好ましい。
なお、前記薄膜形成工程では、電気鍍金や化学鍍金によっても薄膜を形成することができる。
【0028】
前記薄膜形成工程は、同種の薄膜材料を用いて、又は、異種の薄膜材料を用いて、複数回実施することができる。即ち、前記薄膜形成工程を複数回実施することにより、同種の又は異種の膜が複数積層したものを作製することができる。複数の膜が積層していることにより、特定の屈折率を有する材料を確認することがより確実に行えるという利点がある。
具体的には、例えば、細骨材とガラス粒子とが混在した観察対象物に対して、二酸化ケイ素の薄膜を形成した後に金の薄膜を形成した観察用試料を作製した場合、光学顕微鏡を用いた観察において白色光を光源として用いることにより、より確実に細骨材を確認することができる。詳しくは、二酸化ケイ素及びガラスの屈折率が近似しているため、観察像において、ガラス粒子の形状が確認できなくなる。また、二酸化ケイ素の薄膜表面からの反射光は、外側に積層された金の薄膜によって吸収させることができる。従って、観察像において、ガラス粒子が確認できなくなる分、細骨材をより確実に確認することができる。
【0029】
前記加熱工程では、前記観察対象物を構成する少なくとも1種の材料が変質する温度で、前記観察対象物を加熱する。加熱することにより、観察対象物を構成する少なくとも1種の材料が変質する。斯かる変質は、材料の少なくとも屈折率又は反射率が変わることである。即ち、例えば、水和物により構成された材料から結晶水が脱水すること、重合体により構成された材料の重合度が変わり分子構造が変化すること、材料の密度が変化すること等によって変質が起こり、材料の屈折率又は反射率が変わる。
そして、前記加熱工程では、加熱により少なくとも1種の材料の屈折率又は反射率が変わるため、該材料の表面にて反射又は屈折した光によって観察像が加熱前とは異なるものになる。従って、加熱前には光学顕微鏡の観察像において他の材料と区別できず確認されなかった材料が確認されることとなる。
【0030】
具体的には、前記加熱工程において、セメント水和物と細骨材と高炉スラグとを含むコンクリートを観察対象物として用い、且つ、前記薄膜形成工程において金の薄膜を形成した場合、例えば、300℃の加熱によって、観察対象物のセメント水和物と高炉スラグとが変質する一方で、細骨材が変質しない。その結果、加熱前に黒系の色となって確認できるセメント水和物が、加熱後において、より濃い黒系の色となって確認できる。また、加熱前に細骨材と同じオレンジ系の色となって表される高炉スラグが、加熱後において緑系の色となって確認できる。また、細骨材が、加熱前及び加熱後の両方において、オレンジ系の色となって表される。このように、前記加熱工程を実施することにより、観察対象物の高炉スラグとセメント水和物とを視覚的に確認することできる。
【0031】
前記加熱工程では、観察対象物を構成する材料の少なくとも1種がより確実に変質するという点で、100℃以上の温度で加熱することが好ましい。また、必要以上に加熱しないという点で、通常、1000℃以下の温度で加熱する。
【0032】
前記加熱工程では、加熱する方法が特に限定されるものでなく、加熱方法としては、例えば、観察対象物を所定の温度に保った加熱槽内に静置する加熱方法、所定の温度に加熱できるように観察対象物に熱風を所定時間あてる加熱方法、薄膜が形成された観察対象物に光線又は電子線を照射する加熱方法などを採用することができる。
【0033】
前記加熱工程において照射する光線は、その種類が特に限定されるものではなく、光線の種類としては、赤外光線、可視光線、紫外光線などが挙げられる。また、前記加熱工程において照射する光線としては、例えば、光線が束となって照射されるレーザー光線を用いることができる。
【0034】
前記加熱工程において照射する電子線は、通常、束となった電子ビームの態様で照射される。電子線の照射条件は、特に限定されるものではなく、例えば、その照射条件としては、5kV〜30kV、0.1A〜1.0A、10〜100m秒、照射直径φ0を超え300μm以下などを採用することができる。
【0035】
前記加熱工程においては、比較的短時間で加熱することができ、しかもより確実に材料の少なくとも1種を変質させることができるという点で、電子線を照射する加熱方法を採用することが好ましい。
なお、前記光学顕微鏡観察用試料の製造方法においては、上述したように前記薄膜形成工程の後に、前記加熱工程を実施することができる。前記加熱工程において電子ビームによる加熱方法を採用する場合には、前記薄膜形成工程において導電性を有する金属や炭素の薄膜を形成することが好ましい。
【0036】
前記光学顕微鏡観察用試料の製造方法においては、前記加熱工程を実施したあと、製造された観察用試料を室温に静置することなどにより、観察用試料の温度を下げることができる。
製造された光学顕微鏡観察用試料は、その後、光学顕微鏡を用いた観察において使用される。
【0037】
次に、本発明の観察方法の実施形態について説明する。
【0038】
本実施形態の観察方法は、光学顕微鏡によって観察対象物を観察する観察方法であって、複数種の構成材料を含む前記観察対象物の少なくとも1種の材料が変質する温度で前記観察対象物を加熱する加熱工程を実施することにより、観察用試料を作製し、さらに、該観察用試料を光学顕微鏡によって観察する観察工程を実施するものである。
【0039】
前記観察方法においては、上述のごとく前記加熱工程を実施することができる。また、さらに上述のごとく前記研磨工程及び前記薄膜形成工程を実施することが好ましい。
【0040】
前記観察工程においては、上述のごとく作製した観察用試料を、光源として紫外光、赤外光、又は可視光を用いて光学顕微鏡によって観察する。
【0041】
前記光学顕微鏡としては、観察用試料に対する光の反射又は屈折を利用して観察できるものであれば、特に限定されるものではなく、従来公知の一般的なものを用いることができる。
前記光学顕微鏡としては、具体的には、例えば、実体顕微鏡、偏光顕微鏡、金属顕微鏡、コンフォーカル(共焦点)顕微鏡、レーザー顕微鏡、CCDカメラ付き顕微鏡、C−MOSカメラ付き顕微鏡等が挙げられる。
前記観察工程においては、光源として可視光以外の紫外光又は赤外光を採用しても、上記のCCDカメラ付き顕微鏡を用いることなどにより、観察像を視覚的に認識することができる。
なお、前記観察工程においては、光学顕微鏡を一般的な方法で操作することができる。
【0042】
前記光源としての紫外光は、10nm以上360nm未満の波長の光を含むものである。また、赤外光は、700nm以上1000μm以下の波長の光を含むものである。前記光源としての可視光は、360nm以上700nm未満の波長の光を含むものである。
【0043】
前記観察工程においては、通常、光源として可視光を用いる。また、可視光の白色光を用いることが好ましい。また、観察対象物の構成材料をより確実に確認できる可視光の着色光を用いることができる。
【0044】
本発明は、上記例示の光学顕微鏡観察用試料の製造方法又は観察方法に限定されるものではない。
また、一般の光学顕微鏡観察用試料の製造方法又は観察方法において用いられる種々の態様を、本発明の効果を損ねない範囲において、採用することができる。
【実施例】
【0045】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
まず、以下に示すようにして、光学顕微鏡観察用試料を製造した。
【0047】
(作製例1)
観察対象物として、高炉スラグ、セメント水和物、細骨材、及び粗骨材を含むコンクリート(セメント硬化物)を用いた。
コンクリートを40mm×40mm×10mmの直方体状に切り出し、その1面を、平面研磨装置(マルトー社製 機器名「MG−403」カップ刃を改造したもの)及び回転式乾式鏡面研磨装置(ムサシノ電子社製 機器名「MA−300D」)を用いて、算術平均粗さ(Ra)が5μm未満となるように平滑に研磨することにより、研磨工程を行った。
次に、研磨面に対して、抵抗加熱方式の真空蒸着装置(日本電子社製 製品名「JEE−4X」)を用いて金を蒸着し、厚み100〜500オングストロームの範囲となるように薄膜を形成し、薄膜形成工程を行った。なお、真空度1×10-6torrの蒸着条件とし、45°傾斜させた被蒸着試料を回転させながら蒸着を行った。
続いて、EPMA装置(日本電子社製 製品名「JXA−8200」)を用いて、形成した薄膜及び該薄膜の内方側にある観察対象物に対して、加熱温度が300℃となるように電子線を照射し、加熱工程を行った。なお、電子線は、走査しながら照射し、電子線照射条件は、15kV、0.5A、照射時間50m秒、照射直径φ150μmとした。
このようにして、光学顕微鏡観察用試料を製造した。
【0048】
(作製例2)
作製例1の観察用試料において、加熱工程を実施しなかった部分を作製例2とした。
【0049】
(作製例3)
薄膜形成工程及び加熱工程のいずれも実施しなかった点以外は、作製例1と同様にして光学顕微鏡観察用試料を製造した。
【0050】
続いて、光学顕微鏡を用いて、作製した各観察用試料を観察し、観察工程を実施した。
【0051】
(実施例)
作製例1の試料を光学顕微鏡(CCDカメラ付きデジタルマイクロスコープ キーエンス社製 製品名「VHX−500」)を用いて観察し、観察像を得た。なお、光源として白色光を用い、倍率を1000倍とした。
【0052】
(比較例1)
作製例2の観察用試料を観察した点以外は、実施例1と同様にして観察像を得た。
【0053】
(比較例2)
作製例3の観察用試料を等倍率にて観察した点以外は、実施例1と同様にして観察像を得た。
【0054】
実施例及び比較例1の観察像の写真を図1に、比較例2の観察像の写真を図2に示す。なお、図2の写真における上方側四角内を拡大したものが図1である。
【0055】
図2に示すように、薄膜形成工程及び加熱工程のいずれも実施しなかった観察用試料は、観察像において、観察対象物の構成材料を明確に確認することができない。具体的には、セメント水和物などの水和部分を確認すること、及び、高炉スラグを確認することが困難である。
一方、図1における上方側の長方形範囲に示すように、実施例の観察用試料においては、黒系〜暗オレンジ系の色となった部分が、セメント水和物1であると確認できる。また、緑系の色となった部分が高炉スラグ3であると確認できる。従って、観察像において、セメント水和物1と高炉スラグ3とをそれぞれ確認することができる。なお、細骨材2と高炉スラグ3とは、形状の違いによってそれぞれ確認できる。
これに対し、図1の上記長方形範囲以外に示すように、加熱工程を実施しなかった観察用試料の観察像においては、黒系〜暗オレンジ系の色となった部分がセメント水和物1であると確認でき、また、骨材2及び高炉スラグ3の両者が同じオレンジ系の色となっており、両者は形状によってのみ確認することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の製造方法によって製造した光学顕微鏡観察用試料を光学顕微鏡によって観察する観察方法は、観察対象物の構成材料を視覚的に確認でき、例えば、様々な無機物質材料が混在した複合物の分析のために使用され得る。具体的には、例えば、透明材料、又は、モルタルやコンクリートの簡易的材料分析において好適に使用される。
【符号の説明】
【0057】
1:セメント水和物、 2:骨材(細骨材)、 3:高炉スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学顕微鏡によって観察対象物を観察するための観察用試料を製造する光学顕微鏡観察用試料の製造方法であって、
複数種の構成材料を含む前記観察対象物の少なくとも1種の材料が変質する温度で前記観察対象物を加熱する加熱工程を実施することにより、前記観察用試料を製造することを特徴とする光学顕微鏡観察用試料の製造方法。
【請求項2】
少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を前記観察対象物の表面に形成する薄膜形成工程を前記加熱工程の前又は後に実施する請求項1記載の光学顕微鏡観察用試料の製造方法。
【請求項3】
光学顕微鏡によって観察対象物を観察する観察方法であって、
複数種の構成材料を含む前記観察対象物の少なくとも1種の材料が変質する温度で前記観察対象物を加熱する加熱工程を実施することにより、観察用試料を作製し、さらに、該観察用試料を光学顕微鏡によって観察する観察工程を実施することを特徴とする観察方法。
【請求項4】
少なくとも光を吸収又は散乱する薄膜を前記観察対象物の表面に形成する薄膜形成工程を前記加熱工程の前又は後に実施することにより観察用試料を作製し、さらに、前記観察工程を実施する請求項3記載の観察方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−215387(P2012−215387A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78909(P2011−78909)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(594018267)株式会社中研コンサルタント (10)
【Fターム(参考)】