説明

光導波路回路とその製造方法

【課題】 クラッドモードの光が導波路コアへ入射したり、他のポートへ漏れ込むことを抑えることが可能な光導波路回路とその製造方法を提供する。
【解決手段】 基板1a上に所望形状の導波路コア1b,1cが形成された光導波路回路1とその製造方法。光導波路回路1は、導波路コア1b,1cの両側あるいは片側に沿って、導波路コアの屈折率と実質的に同一の光閉じ込め部1d,1eが配置されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光導波路回路とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】近年、光通信においては、伝送容量を飛躍的に増加させる手段として波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)通信の研究開発が盛んに行われている。この波長分割多重通信を実現するためには、波長の分波性が高い、即ち、高いアイソレーション特性を有する光導波路回路の開発が要望されている。
【0003】ここで、図10に既存の一般的な光導波路回路の一例を示す。図10に示す光導波路回路20は、マッハツェンダ型の波長合分波器で、基板20a上にコアとクラッドとによって導波路コア20b,20cが形成されている。光導波路回路20においては、例えば、光ファイバ等の光導波路から導波路コア20bのポートP1に入射した波長λ1,λ2の光は、光合分波領域Abで波長λ1と波長λ2の光に分波され、導波路コア20b,20cのそれぞれのポートP2,P3に導かれ、ポートP2,P3に光接続された光ファイバ等の他の光導波路へ出射される。
【0004】このとき、光導波路回路20において、導波路コア20bのポートP1でコアに入射せずクラッドに入射した光や光導波路回路20内で生じる光の放射モードは、クラッドモードとなってクラッド内を伝搬し、光合分波領域Abの後の領域Aaで導波路コア20b,20cに入射したり、ポートP2,P3へ漏れ込む。このため、光導波路回路20においては、クラッドモードの光が発生すると、アイソレーション特性が劣化してクロストークが発生する等、光通信の品質に悪影響を与えるという問題があった。
【0005】本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、クラッドモードの光が導波路コアへ入射したり、他のポートへ漏れ込むことを抑えることが可能な光導波路回路とその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため本発明の光導波路回路においては、基板上に所望形状の導波路コアが形成された光導波路回路において、前記導波路コアの両側あるいは片側に沿って、前記導波路コアの屈折率と実質的に同一の光閉じ込め部が配置されている構成としたのである。
【0007】ここで、本明細書において、光閉じ込め部の屈折率が、導波路コアの屈折率と実質的に同一とは、光閉じ込め部と導波路コアとの屈折率が同一かあるいは非常に近いことを言う。従って、この部分を構成するコアとクラッドとの比屈折率差から光の閉じ込め効果を最大限に発揮させる幅に設定する。このような光閉じ込め部の幅は、好ましくは約1μm以上、より好ましくは3〜20μm、最も好ましくは5〜9μmである。
【0008】また、前記導波路コアは分岐部を有し、当該分岐部に導波路コアを横切って光フィルタを配置する。更に、上記目的を達成するため本発明の光導波路回路の製造方法においては、基板上に所望形状の導波路コアと、前記導波路コアの両側あるいは片側に沿って光閉じ込め部とを形成する光導波路回路の製造方法であって、前記導波路コアと光閉じ込め部とを同時に形成する構成としたのである。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の光導波路回路とその製造方法に係る一実施形態を図1乃至図9に基づいて詳細に説明する。光導波路回路1は、マッハツェンダ型の構造を有する公知の光導波路回路を改良した第1の実施形態に係るもので、図1に示すように、シリコン(Si),石英ガラス,サファイア,ガリウムヒ素(GaAs)等の化合物半導体材料からなる基板1a上にコアとクラッドとによって導波路コア1b,1cと、導波路コア1b,1cの両側に沿って、導波路コア1b,1cの屈折率と実質的に同一の光閉じ込め部1d,1eが配置されている。ここで、以下の説明においては、光導波路回路1は、図1において、導波路コア1b,1cの点線Abで示す領域を光合分波領域、点線Aaで示す領域を領域Aaと呼ぶ。
【0010】ここで、光閉じ込め部1dは、光導波路回路1で発生するクロストークを低減する目的で形成され、図1に示すように、導波路コア1b,1cの外側に沿って基板1aの全長に亘って、光閉じ込め部1eは導波路コア1b,1cの内側に沿って基板1aの長手方向両端側に、それぞれ形成されている。以上のように構成される光導波路回路1は、以下に述べる方法により製造される。例えば、酸水素炎バーナを用いたFHD(flame hydrolysis deposition)法における火炎加水分解反応により、P(リン)やB(ホウ素)等を添加したSiO2(二酸化シリコン)系ガラス微粒子を基板上に堆積させ、堆積したガラス微粒子を高温熱処理することによって透明ガラス化する方法を用いる。
【0011】先ず、図3(a)に示すように、基板1a上に石英系ガラス材料からなる下部クラッド層2をFHD法により形成した。その後、図3(b)に示すように、石英系ガラス材料からなり、下部クラッド層2及び後述する上部クラッド層4よりも屈折率が大きいコア膜3をFHD法により形成した。
【0012】次に、反応性イオンエッチング(RIE: reactive ion etching)法によりコア膜3にエッチング処理を施し、図3(c)に示すように、導波路コア1b,1cと光閉じ込め部1d,1eとを同時に形成した。次いで、これらの上に、図3(d)に示すように、石英系ガラス材料からなる上部クラッド層4をFHD法により形成し、光導波路回路1を製造した。製造方法としては、FHD法に限るものではなく、スパッタや蒸着,CVD(chemicalvapor deposition)を用いてもよい。また、下部クラッド層2,コア膜3及び上部クラッド層4は、ポリイミド等の有機材料であってもよい。
【0013】このとき、光閉じ込め部1d,1eは、下部クラッド層2及び上部クラッド層4よりも屈折率が大きいので、この部分に光が閉じ込められ、この部分から下部クラッド層2や上部クラッド層4に光が漏れ出すことはない。特に、本実施形態の光閉じ込め部1d,1eは、導波路コア1b,1cと同時に前記RIE法によって形成するので、導波路コア1b,1cと同じ材料で構成されている。
【0014】ここで、導波路コア1b,1cと光閉じ込め部1d,1eとの距離Dは、例えば、図2に示す導波路コア1bと光閉じ込め部1dの関係においては、導波路コア1bと光閉じ込め部1dとの間で光の結合が直接起こらない30〜70μm程度以上の間隔とした。また、図1に示す光合分波領域Abに近接する領域Aaにおいては、前記と同様に、導波路コア1b,1cと光閉じ込め部1d,1eとの間で光の結合が直接起こらない30〜70μm程度以上の間隔(=距離D)となるように、光閉じ込め部1d,1eを配置する。このとき、光閉じ込め部1eは、導波路コア1b,1cとの間で光の結合が直接起こらない間隔であれば、光合分波領域Ab内であっても配置する。
【0015】一方、光閉じ込め部1d等の幅W(図2参照)は、光の閉じ込め効果を最大限に発揮できる幅に設定する必要があり、好ましくは約1μm以上、より好ましくは3〜20μm、最も好ましくは5〜9μmに設定する。以上のように構成される光導波路回路1は、例えば、光ファイバ等の光導波路から導波路コア1bのポートP1に波長λ1,λ2の光が入射すると、光合分波領域Abで波長λ1と波長λ2の光に分波されて導波路コア1b,1cのそれぞれのポートP2,P3に導かれ、ポートP2,P3に光接続された光ファイバ等の他の光導波路へと出射される。
【0016】このとき、光導波路回路1においては、ポートP1で導波路コア1bでなくクラッド層2,4へ入射した光や光導波路回路1内(導波路オフセット(モードスクランブラ),方向性結合器部,導波路曲り部等)で生じる光の放射モードが、クラッドモードとなって伝搬する漏れ光となる。しかし、光導波路回路1は、導波路コア1b,1cの両側に沿って配置した光閉じ込め部1d,1eにクラッドモードの漏れ光が入り、その中に閉じ込められる。このため、光導波路回路1においては、光合分波領域Abの後の領域Aaで導波路コア1b,1cに入射したり、直接ポートP2,P3へ漏れ光が漏れ込むことが抑えられ、高いアイソレーション特性が得られる。
【0017】ここで、光閉じ込め部は、図4に示す光導波路回路5のように、基板5a上に形成した導波路コア5b,5c両側に沿った、導波路コア5b,5cと直接に光結合しない斜線で示した領域全面に光閉じ込め部5d,5eとして配置してもよい。また、図5に示す光導波路回路7のように、基板7a上に形成した導波路コア7b,7cの片側に沿って基板7aの全長に亘って光閉じ込め部7dを配置してもよい。光導波路回路5,7においては、上記構成とすることによってもクラッドモードの光の他のポートへの漏れ込みを抑えることができる。
【0018】更に、光閉じ込め部は、クラッドモード光の他のポートへの漏れ込みを抑えることができれば、導波路コアの全長に亘って配置する必要はない。例えば、図6に示す光導波路回路9のように、基板9a上に形成した導波路コア9b,9cの片側に沿って両端近くまで光閉じ込め部9dを配置すると共に、両端付近で導波路コア9b,9cから離れるように形成してもよい。即ち、導波路コア9b,9c間におけるクロストークを十分防止できるように、光閉じ込め部9dの長さを決定すれば良い。
【0019】次に、本発明の光導波路回路とその製造方法に係る第2の実施形態に関する光導波路回路を図7乃至図9に基づいて説明する。光導波路回路10は、図7に示すように、シリコン(Si),石英ガラス,サファイア,ガリウムヒ素(GaAs)等の化合物半導体材料からなる基板10a上にコアとクラッドとによってY字状に分岐した導波路コア10bと、導波路コア10bの両側に沿って、導波路コア10bの屈折率と実質的に同一の複数本の光閉じ込め部10cとが配置されている。また、光導波路回路10は、導波路コア10bの分岐部に基板10aの幅方向に延びる溝10dが形成され、溝10dに誘電体多層膜構造のフィルタ11が配置されている。このとき、光導波路回路10は、導波路コア10bと光閉じ込め部10cとを、双方の間で光の結合が直接起こらない30〜70μm程度以上の間隔で配置する。
【0020】フィルタ11は、所望の波長λ1の光を透過させ、所望の波長λ2の光を反射させる公知の光フィルタである。以上のように構成される光導波路回路10は、前記実施形態の光導波路回路1と同様に、RIE法により導波路コア10bと光閉じ込め部10cとを同時に形成して製造した。
【0021】以上のように構成される光導波路回路10においては、導波路コア10bのポートP1が波長λ1,λ2の光が入出射する共通ポート、ポートP2が波長λ1の光が入出射するポート、ポートP3が波長λ2の光が入出射するポートとなる。従って、光導波路回路10は、ポートP2から導波路コア10bに入射した波長λ1の光は、フィルタ11を透過してポートP1に導波される。このとき、光導波路回路10においては、導波路コア10bの分岐部やポートP1においてクラッドモードの光が生じ、特に、波長λ2の光が入出射するポートP3に波長λ1の光成分が伝搬されてアイソレーション特性を低下させる原因となる。
【0022】一方、ポートP1から導波路コア10bに入射した波長λ1,λ2の光は、フィルタ11で波長λ1の光が透過してポートP2へ、波長λ2の光が反射されてポートP3へ、それぞれ導波される。このとき、光導波路回路10は、導波路コア10bのポートP1やフィルタ11を配置した分岐部において同様にクラッドモードの光が生じ、また、前記分岐部やフィルタ11の部分で光散乱や反射(波長λ1の光がフィルタ11を完全に透過しきれず、部分的に反射される成分を含む)されてポートP3へ伝搬され、アイソレーション特性を低下させる原因となる。
【0023】しかし、光導波路回路10は、導波路コア10bの両側に沿って複数本の光閉じ込め部10cとが配置されている。従って、光導波路回路10においては、上記クラッドモードの光が光閉じ込め部10cに入ってその中に閉じ込められるので、他のポートへ漏れ込むことが抑えられ、高いアイソレーション特性が得られる。
【0024】ここで、光導波路回路10は、基板10a上に半導体レーザ(LD)やフォトダイオード(PD)等の光素子を搭載する領域をエッチングにより形成すると共に、電極及び半田パターンを形成し、前記光素子を搭載してもよい。また、光導波路回路10は、図8(a),(b)に示すように、基板10a上の複数本の光閉じ込め部10cの内外に遮光溝10eをエッチング等によって形成したり、図9に示すように、複数本の光閉じ込め部10cの溝10d側の端部に遮光溝10fを形成したり、これら遮光溝10e,10fにおいて基板10aを露出させた構造としてもよい。このような構造とすることで、光導波路回路10は、クラッドモードの光の他のポートへの漏れ込みを抑え、より一層高いアイソレーション特性が得られる。
【0025】
【発明の効果】請求項1,2の発明によれば、クラッドモードの光が導波路コアへ入射したり、他のポートへ漏れ込むことを抑えることが可能な光導波路回路とその製造方法を提供することができる。しかも、請求項2の発明によれば、導波路コアと光閉じ込め部とを同時に形成するので、製造工程が簡単で安価に光導波路回路を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法によって製造される光導波路回路の第1の実施形態を示す平面図である。
【図2】図1の光導波路回路における導波路コアと光閉じ込め部との距離を説明する断面図である。
【図3】図1の光導波路回路の製造方法を説明する製造工程図である。
【図4】図1の光導波路回路の変形形態を示す平面図である。
【図5】図1の光導波路回路の他の変形形態を示す平面図である。
【図6】図1の光導波路回路の更に他の変形形態を示す平面図である。
【図7】本発明の光導波路回路の第2の実施形態を示す平面図である。
【図8】図7の光導波路回路の変形形態を示す平面図(a)と、断面図(b)である。
【図9】図7の光導波路回路の他の変形形態を示す平面図である。
【図10】従来の光導波路回路を示す平面図である。
【符号の説明】
1 光導波路回路
1a 基板
1b,1c 導波路コア
1d,1e 光閉じ込め部
2 下部クラッド層
3 コア膜
4 上部クラッド層
5 光導波路回路
5a 基板
5b,5c 導波路コア
5d,5e 光閉じ込め部
7 光導波路回路
7a 基板
7b,7c 導波路コア
7d 光閉じ込め部
9 光導波路回路
9a 基板
9b,9c 導波路コア
9d 光閉じ込め部
10 光導波路回路
10a 基板
10b 導波路コア
10c 光閉じ込め部
10d 溝
10e,10f 遮光溝
11 フィルタ
Aa 領域
Ab 光合分波領域
P1,P2,P3 ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に所望形状の導波路コアが形成された光導波路回路において、前記導波路コアの両側あるいは片側に沿って、前記導波路コアの屈折率と実質的に同一の光閉じ込め部が配置されていることを特徴とする光導波路回路。
【請求項2】 前記導波路コアは分岐部を有し、当該分岐部に導波路コアを横切って光フィルタが配置されている、請求項1の光導波路回路。
【請求項3】 基板上に所望形状の導波路コアと、前記導波路コアの両側あるいは片側に沿って光閉じ込め部とを形成する光導波路回路の製造方法であって、前記導波路コアと光閉じ込め部とを同時に形成することを特徴とする光導波路回路の製造方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate


【図9】
image rotate


【図10】
image rotate


【公開番号】特開2000−241645(P2000−241645A)
【公開日】平成12年9月8日(2000.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−346209
【出願日】平成11年12月6日(1999.12.6)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)