説明

光導波路型デバイスの製造方法及び光導波路型デバイス

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光導波路型デバイスの製造方法に関し、さらに詳しくは、光損傷耐性の高い光偏向器、光変調器等の光導波路型デバイスを得ることのできる光導波路型デバイスの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】各種の光エレクトロニクスシステムを構成する上で、外部から加える制御信号に従って光波の強度、位相、進行方向等を変化させることは不可欠となる場合が多い。このため、たとえば光偏向デバイス、光変調デバイス等の光導波路型デバイスに関する研究が進められている。
【0003】従来、これらの光導波路型デバイスは、ニオブ酸リチウム(LiNbO3 )単結晶の表面にチタン(Ti)膜を成膜し、その後、該LiNbO3 単結晶の熱処理を行なうTi拡散法により光導波路を形成し、次いで、該LiNbO3 単結晶上にアルミニウム(Al)電極を形成することにより製造されていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記の方法により製造された光導波路型デバイスにおいては、可視レーザー光を照射すると、結晶中の不純物(例えばFe)準位から電子が伝導帯に励起されて+z方向にドリフトし、この途中で励起電子がトラップ準位に落ち込んで結晶中に正に帯電した部分と負に帯電した部分とが生じて空間電界が発生し、電気光学効果により屈折率が変化してしまう現象、すなわち、いわゆる光損傷が生じてデバイスの特性が著しく劣化してしまうという問題があった。
【0005】そこで、本発明者が光導波路型デバイスにおける光損傷について検討を重ねたところ、この光損傷はLiNbO3単結晶の表面にAl電極を形成する際に電極材料により光導波路の表面が還元されてしまうことに起因することが判明した。本発明はかかる事情に基づいてなされたものであり、本発明の第一の目的は、光損傷耐性が向上していて所期の特性が劣化することのない光導波路型のデバイスを得ることのできる光導波路型デバイスの製造方法を提供することにある。また、本発明の第二の目的は、光損傷耐性が向上していて所期の特性が劣化することのない光導波路型デバイスを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶の表面にチタン(Ti)膜の導波路パターンを形成し、その後、該ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶内に熱処理を伴うチタン(Ti)拡散法により光導波路を形成し、次いで、前記光導波路上に電極を形成する光導波路型デバイスの製造方法において、前記電極を形成してから酸化雰囲気中において300℃以上00℃未満の温度で熱処理を行なうことを特徴とする光導波路型デバイスの製造方法である。請求項2に記載の発明は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶の表面にチタン(Ti)膜により形成された導波路パターンと、熱処理を伴うチタン(Ti)拡散法により前記ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶内に形成された光導波路と、前記光導波路上に形成され、2000Å以上3000Å以下の厚さを有するアルミニウム(Al)電極と、を備える光導波路型デバイスであって、前記アルミニウム(Al)電極を形成後、酸化雰囲気中において300℃以上450℃以下の温度で熱処理が施されている。
【0007】図1は本発明の製造方法を工程順に示す流れ図である。図1に示すように、本発明の光導波路型デバイスの製造方法においては、先ず、LiNbO3 単結晶の表面にTi膜の導波路パターンを形成する。このTi膜の導波路パターンの形成方法には、たとえば、LiNbO3 単結晶の表面にTi膜を成膜してから通常のフォトリソグラフィーによりレジストパターンを形成し、その後、Tiをエッチングしてパターン化する方法を採用することもできるし、あるいはレジストなどの反転パターンを形成してからTi膜を成膜し、続いて有機溶剤に浸すことによりレジストを溶解・除去するいわゆるリフトオフ法を採用することもできる。なお、Ti膜は、たとえば真空蒸着法、スパッタリング法を好適に採用して形成することが可能であり、Ti膜の膜厚は、通常、100〜1000Å程度である。なお、光偏向器等の場合、この導波路のパターンニングはLiNbO3 単結晶の全面を導波路とするものであっても良い。
【0008】本発明の方法においては、このようにしてLiNbO3 単結晶単結晶の表面にTi膜の導波路パターンを形成した後、Ti拡散法により該結晶中に光導波路を形成する。ここで、Tiの拡散条件は、一般に次の通りである。すなわち、拡散温度は結晶の分極状態を保持するためにキュリー温度以下に設定する。具体的には、900〜1100℃である。なお、基板(LiNbO3 単結晶)を1000℃以上に加熱した場合には、LiO2 の外拡散が生じるのを防止するために水蒸気を含ませた酸素ガス、空気等の酸化雰囲気中で拡散させる。ここで、酸化雰囲気を用いるのは、作製される導波路が光損傷を起しにくい状態とするためである。拡散時間は、通常、数時間〜10時間程度である。拡散時間が10時間を超えると、LiNbO3 単結晶の欠陥が生じて光伝送損失が増加することがある。また、拡散は通常炉心管内で行なうが、レーザーアニールによる加熱も可能である。
【0009】このようにしてLiNbO3 単結晶中にTiを拡散させて光導波路を形成した後、このLiNbO3 単結晶上に電極を形成する。ここで、電極材料としては、たとえばアルミニウム(Al)等が挙げられる。電極の形成は、電極材料を用いたリフトオフ法により、所望の電極パターンをLiNbO3 単結晶上に形成することにより行なうことができる。電極膜厚は例えばSAW電極の場合、2000〜3000Å程度である。ここで、導波路上に電極を形成する場合、導波路上に直接金属膜を形成すると、TMモードを使用する場合に大きな光吸収が生じるので、電極と光導波路との間にバッファー層を設けることが好ましい。このバッファー層は透明で光導波路よりも屈折率が小さい絶縁膜により形成する。具体的には、スパッタリング法、CVD法等の方法により成膜されるSiO2 膜、Al2 3 膜等によりバッファー層を形成することができる。バッファー層の厚さは、たとえばSiO2 膜の場合には1000Å程度以上である。なお、SiO2 膜によりバッファー層を形成する場合、SiO2 膜の絶縁性はスパッター膜よりもCVD膜の方が優れていることからCVD法を採用して成膜することが好ましい。また、このSiO2 膜をさらに高温で酸素アニール処理することも好ましい。一方、導波路上以外の部位に電極を形成する場合には、電極の密着性を補償するために電極とLiNbO3 単結晶との間に、たとえばTi膜を形成することが好ましい。このTi膜の膜厚は、200〜300Å程度である。
【0010】本発明の方法においては、以上のようにしてLiNbO3 単結晶中に光導波路を形成するとともに、該結晶上に電極を形成した後、該結晶につき酸化雰囲気中で熱処理を行なって前記の電極形成時に電極材料によって還元状態にされた導波路表面を酸化して電極を形成する前の状態に戻す。これにより本発明の方法によって製造される光導波路型のデバイスは光損傷耐性が著しく向上したものとなる。
【0011】この熱処理の条件は次の通りである。すなわち、温度は通常300〜450℃、好ましくは350〜400℃である。この温度が300℃よりも低いと、酸化反応速度が充分でないことがあり、効率の低下を招くことがある。一方、熱処理温度が450℃よりも高いと、電極の劣化を招くことがある。また、熱処理時間は、前記の熱処理温度により相違するので一様に決定することは困難であるが、通常は3〜5時間程度で充分である。いずれにせよ、この熱処理においては前記の電極形成時に還元状態になった導波路表面を酸化して電極形成前の状態に戻すことが可能であるとともに電極の劣化を招かない条件を設定する。また、この熱処理は、たとえばO2 ガス等を存在させて酸化雰囲気中で行なう。たとえばO2 ガスを存在させる場合の流量は、熱処理炉の大きさにもよるが、容積が2リットル程度の場合、通常、100ml/分〜500ml/分程度である。なお、この熱処理は、たとえば図2に示すように、光導波路および電極を形成したLiNbO3 単結晶1を電熱炉10の炉心管11内に設置することにより行なうことができる。なお、図2中、3はLiNbO3 単結晶1上に形成されたSAW電極である。
【0012】本発明の方法においては、以上のようにして熱処理を行なって得られる光導波路型デバイスの導波路の表面状態をより安定なものとするために光導波路型デバイスの表面に、たとえばSiO2 膜、Al2 O膜等の酸化物膜を形成しても良い。このような酸化物膜は、たとえばスパッタリング法、CVD法等の方法により形成することが可能であり、その膜厚は、通常、200〜300Å程度である。
【0013】以上のようにして得られる光導波路型デバイスは光損傷耐性が著しく向上したものである。
【0014】
【作用】請求項1に記載の光導波路型デバイスの製造方法においては、チタン(Ti)拡散法によりニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶中に光導波路を形成した後、該光導波路上に電極を形成し、その後、酸化雰囲気中において300℃以上400℃未満の温度で熱処理を行なう。この酸化雰囲気中における300℃以上400℃未満の温度での熱処理により、形成された電極の酸化を抑制しつつ当該電極形成の際に電極材料により還元された光導波路の表面が酸化され、光導波路の表面は電極形成前の状態となる。したがって、容易な温度制御により実現可能な請求項1に記載の方法により製造される光導波路型デバイスは、光導波路表面の還元状態が解消しているため光損傷耐性が著しく向上したものとなる。また、請求項2に記載の光導波路型デバイスにおいては、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶の表面にチタン(Ti)膜により導波路パターンが形成されている。次に、光導波路が、熱処理を伴うチタン(Ti)拡散法によりニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶内に形成されている。更に、当該光導波路上に2000Å以上3000Å以下の厚さを有するアルミニウム(Al)電極が形成されている。そして、アルミニウム(Al)電極の形成後、酸化雰囲気中において300℃以上450℃以下の温度で熱処理が施されている。このとき、当該酸化雰囲気中における300℃以上400℃未満の温度での熱処理により、形成された電極の酸化を抑制しつつ当該電極形成の際に電極材料により還元された光導波路の表面が酸化され、光導波路の表面は電極形成前の状態となっている。よって、請求項2に記載の光導波路型デバイスでは、容易な温度制御による熱処理により光導波路表面の還元状態が解消しているため光損傷耐性が著しく向上したものとなる。
【0015】
【実施例】以下、本発明の実施例として2次元導波路を用いた光偏向器を示し、本発明についてさらに具体的に説明する。y軸方向にカットしたニオブ酸リチウム単結晶(LiNbO3 )を充分に洗浄してから該結晶上の全面にわたって厚さ200Åのチタン(Ti)膜をスパッタリングにより形成した。なお、スパッタリングは、マグネトロン型RFスパッタ装置を使用し、Tiターゲット径10cm、RFパワー100w、Arガス圧2×10-2Torrの条件下で行なった。
【0016】次いで、拡散温度1000℃、拡散時間7時間、酸素および水蒸気の混合ガス雰囲気中でTi拡散を行なって光導波路を形成した。続いて、このLiNbO3 単結晶表面に、その全面にわたってレジストを1μmの厚さで塗布し、露光処理および現像処理を行なってレジストパターンを形成した後、全面に膜厚250ÅのTi膜を介して厚さ1,750ÅのAl膜をスパッタリング法により形成した。その後、有機溶剤(アセトン)によりレジストおよび不要なTi膜、Al膜を除去するリフトオフ法を採用してSAW電極を形成した。
【0017】次に、このLiNbO3 単結晶につき、温度400℃、O2 ガス流量100ml/分の条件で3時間の熱処理を行なって導波長40mmの光導波路型デバイスを作製した。図3はこの光導波路型デバイスを模式的に示す説明図である。この光導波路型デバイスは、図3R>3に示すように、LiNbO3 単結晶1中に光導波路2が形成されているとともにLiNbO3 単結晶1上にSAW電極3が形成されたものである。
【0018】この光導波路型デバイスにHe−Neレーザー光(TE0 モード)を導波させ、各インプットパワーで5分間導波させた後のアウトプットパワーを測定した。結果を図4に示す。なお、アウトプット光は1.5mmφの絞りを通して検出した。一方、上記光導波路型デバイスの作製において、熱処理を行なわなかった以外は上記光導波路型デバイスの作製と同様にして比較サンプルを作製し、この比較サンプルについて上記と同様にしてインプットパワーとアウトプットパワーとの関係を求めた。結果を図5に示す。
【0019】図4および図5から明らかなように、比較サンプルではアウトプットパワーの低下が見られることから光損傷が発生しているものと推測されるのに対し、本発明の方法により作製された光導波路型デバイスにおいてはアウトプットパワーとインプットパワーとは比例関係を示し、光損傷が生じていないことが確認された。
【0020】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1に記載の発明によれば、容易な温度制御により実現可能であると共に電極の酸化を抑制しつつ光損傷耐性を著しく向上させた光導波路型デバイスを効率良く得ることのできる光導波路型デバイスの製造方法を提供することができる。また、請求項2に記載の発明によれば、容易な温度制御による熱処理により電極の酸化を抑制しつつ光導波路型デバイスにおける光損傷耐性を著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光導波路型デバイスの製造方法の工程の流れを示すフローチャートである。
【図2】本発明の光導波路型デバイスの製造方法における熱処理法の一例を示す説明図である。
【図3】本実施例で製造された光導波路型デバイスの一例を模式的に示す説明図である。
【図4】本実施例で製造された光導波路型デバイスにHe−Neレーザー光を導波させた場合のインプットパワーとアウトプットパワーとの関係を示すグラフである。
【図5】比較サンプルにHe−Neレーザー光を導波させた場合のインプットパワーとアウトプットパワーとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 LiNbO3 単結晶
2 光導波路
3 SAW電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶の表面にチタン(Ti)膜の導波路パターンを形成し、その後、該ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶内に熱処理を伴うチタン(Ti)拡散法により光導波路を形成し、次いで、前記光導波路上に電極を形成する光導波路型デバイスの製造方法において、前記電極を形成してから酸化雰囲気中において300℃以上400℃未満の温度で熱処理を行なうことを特徴とする光導波路型デバイスの製造方法。
【請求項2】 ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶の表面にチタン(Ti)膜により形成された導波路パターンと、熱処理を伴うチタン(Ti)拡散法により前記ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶内に形成された光導波路と、前記光導波路上に形成され、2000Å以上3000Å以下の厚さを有するアルミニウム(Al)電極と、を備える光導波路型デバイスであって、前記アルミニウム(Al)電極を形成後、酸化雰囲気中において300℃以上450℃以下の温度で熱処理が施されていることを特徴とする光導波路型デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3213619号(P3213619)
【登録日】平成13年7月19日(2001.7.19)
【発行日】平成13年10月2日(2001.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−14502
【出願日】平成3年2月5日(1991.2.5)
【公開番号】特開平4−249215
【公開日】平成4年9月4日(1992.9.4)
【審査請求日】平成10年1月22日(1998.1.22)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【参考文献】
【文献】特開 昭61−47928(JP,A)
【文献】特開 平4−214527(JP,A)
【文献】Applied Optics,Vol.17 No.20 pp.3259−3263(October.1978),G.L.Tangonen et.al.,「Electrooptic modulation in Ti−diffused LiTaO▲下3▼」