説明

光弾性を有する光学素子

【課題】非晶性であり、そして外部からの応力又はひずみに対して、複屈折が広範囲で直線的に変化し且つ複屈折の制御が簡易である、光弾性を有する光学素子を提供すること。
【解決手段】一般式(1)で表される、エポキシドと二酸化炭素とが交互に結合して得られ且つ1H−NMR分析により検出可能なエーテル結合成分を含まない脂肪族ポリカーボネートを含む、光弾性を有する光学素子であって、0.1〜2.0GPa-1の範囲の応力光学係数を有することを特徴とする光学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光弾性を有する光学素子に関する。本発明はまた、非晶性であり、そして外部からの応力又はひずみに対して、複屈折が広範囲で直線的に変化し且つ複屈折の制御が簡易である、光弾性を有する光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートを含む合成樹脂の製造分野において、二酸化炭素を炭素源として利用することは、資源活用及び環境保護の観点から重要な課題である。また、ポリカーボネートは、耐衝撃性、軽量性、透明性、耐熱性等の優れた特性を有し、なかでも、脂肪族ポリカーボネートは生分解性であることから、環境負荷が低く、重要な樹脂といえる。
また、二酸化炭素を炭素源として利用してポリカーボネート等を製造する方法が、種々検討され、例えば、触媒として、亜鉛錯体、アルミニウム錯体、ポルフィリン錯体、サレン錯体(特許文献1)等を用いる方法が検討されている。
従って、二酸化炭素を炭素源として利用した脂肪族ポリカーボネートの新たな用途を見出すことは、資源活用及び環境保護の観点から意義がある。
【0003】
光学用樹脂の分野では、微結晶による光の散乱に起因する透明性の低下を防止するために、大きな側鎖を有する樹脂、例えば、PMMA、又は主鎖の運動性を落としたうえで多少の立体障害を持たせた樹脂、例えば、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート等が用いられている。しかし、PMMAは、その側鎖の影響により、複屈折の変化が非常に小さいので、位相差フィルム等素材の複屈折性を利用する光学素子として利用することはできなかった。また、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネートは、固有複屈折が大きく、剛直なベンゼン環ユニットを有していることから、応力を加えた際の複屈折の変化が顕著に大きいため、光学素子として用いるためには、応力の制御を非常に高精度で行う必要があり、実用化は難しかった。
【0004】
また、光学素子を利用して複雑な機能を有する光学デバイスを作製するために、外部からの入力により動的に光学特性を変更できる動的な光学素子が求められている。現在、このような用途としては液晶性の分子を利用したデバイスが使用されているが、基本的に液晶を利用した動的光学デバイスにおいては、その光学機能性は外部から与える電圧によって変化するため、電圧を制御する複雑な電気回路が必要であるうえ、一定の光学特性を保つためには電圧を与え続ける必要があり、それを組み込んだ装置の複雑化と、消費電力の増加につながっている。このため、電気以外の入力により特性を変化しうる光学素子や、外部より与えた入力を停止してもその光学特性を保つような光学素子が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−215529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、光学素子の分野では、非晶性であり、そして外部からの応力又はひずみに対して、複屈折が広範囲で直線的に変化し且つ複屈折の制御が簡易である光学素子が望まれている。さらに、通常用いられる温度環境又はそれに近い温度において、外部からの応力又はひずみに対して複屈折が変化する、動的な光学素子が強く望まれている。
従って、本発明は、上記特性を有する、特定の脂肪族ポリカーボネートを含む、光弾性を有する光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、次の一般式(1):
【化1】

(式中、R1及びR2は、同一又は異なり、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基であるか、又はR1とR2とが互いに結合して置換若しくは非置換の脂肪族環を形成する)
で表される、エポキシドと二酸化炭素とが交互に結合して得られ且つ1H−NMR分析により検出可能なエーテル結合成分を含まない脂肪族ポリカーボネートを含む、光弾性を有する光学素子であって、0.1〜2.0GPa-1の範囲の応力光学係数を有することを特徴とする光学素子により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
具体的には、本発明は以下の態様に関する。
[態様1]
次の一般式(1):
【化2】

(式中、R1及びR2は、同一又は異なり、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基であるか、又はR1とR2とが互いに結合して置換若しくは非置換の脂肪族環を形成する)
で表される、エポキシドと二酸化炭素とが交互に結合して得られ且つ1H−NMR分析により検出可能なエーテル結合成分を含まない脂肪族ポリカーボネートを含む、光弾性を有する光学素子であって、
0.1〜2.0GPa-1の範囲の応力光学係数を有することを特徴とする、
上記光学素子。
【0009】
[態様2]
引張速度1000%/分において、ひずみ400%まで延伸し、応力値及び複屈折値を、それぞれ、x軸及びy軸としてプロットし、原点を通る直線で回帰した場合の決定係数が、0.95以上である、態様1に記載の光学素子。
[態様3]
上記エポキシドが、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドである、態様1又は2に記載の光学素子。
【0010】
[態様4]
上記脂肪族ポリカーボネートの合成に用いられた触媒が、次の一般式(I):
【化3】

(式中、Rは、それぞれ独立して、H、炭素数1〜10のアルキル基若しくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、F、Cl、Br、I、又は−Si(R2−R−X(式中、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数6〜20のアリール基から選択され、Rは、炭素数1〜8の二価の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br又はIから選択される。)から選択されるが、Rの少なくとも1つは−Si(R2−R−Xであり、Rは、各ベンゼン環上の0〜3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、又はF、Cl、Br若しくはIから選択され、Yは、2個の炭素原子を介して2個のイミノ窒素を連結する二価の連結基であって、その2個の炭素原子に1又は複数の、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数6〜20のアリール基が結合していてもよく、あるいはその2個の炭素原子が置換又は非置換の、飽和若しくは不飽和の脂肪族環又は芳香環の一部を構成してもよく、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である)
で表されるコバルト錯体である、態様1〜3のいずれか1つに記載の光学素子。
【0011】
[態様5]
0.3〜1.0GPa-1の範囲の応力光学係数を有する、態様1〜4のいずれか1つに記載の光学素子。
[態様6]
25℃において、100%以上の破断伸度を有し、100%伸長後の伸長回復率が90%以上である、態様5に記載の光学素子。
【0012】
[態様7]
シャッター、位相差板、及び波長フィルターから成る群から選択される、態様1〜6のいずれか1つに記載の光学素子。
[態様8]
態様1〜7のいずれか1つに記載の光学素子を含む機器。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光弾性を有する光学素子は、非晶性であり、そして外部からの応力又はひずみに対して、複屈折が広範囲で直線的に変化し且つ複屈折の制御が簡易である。
また、本発明の光弾性を有する光学素子は、通常用いられる温度環境又はそれに近い温度において、外部からの応力又はひずみに対して複屈折が変化する、動的な光学素子である。
さらに、本発明の光弾性を有する光学素子は、二酸化炭素を原料の一部とし且つ生分解性を有する脂肪族ポリカーボネートを含むので、環境適応性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、光学遅延測定システムの概略図である。
【図2】図2は、製造例1で製造したPPCの、ひずみと複屈折との関係を示す図である。
【図3】図3は、製造例2で製造したPECの、ひずみと複屈折との関係を示す図である。
【図4】図4は、製造例1で製造したPPCの、時間と複屈折との関係を示す図である。
【図5】図5は、製造例2で製造したPECの、時間と複屈折との関係を示す図である。
【図6】図6は、製造例1で製造したPPCの、応力と複屈折との関係を示す図である。
【図7】図7は、製造例2で製造したPECの、応力と複屈折との関係を示す図である。
【図8】図8は、比較例1で用いたTOPAS(商標)6015の、応力と複屈折との関係を示す図である。
【図9】図9は、実施例2で用いられたシャッターユニットの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の光弾性を有する光学素子について、以下、詳細に説明する。
[脂肪族ポリカーボネート]
本発明に用いられる脂肪族ポリカーボネートの原料として用いられる一般式(1):
【化4】

で表されるエポキシドにおいて、R1及びR2は、同一又は異なり、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基であるか、又はR1とR2とが互いに結合して置換若しくは非置換の脂肪族環を形成することができる。
【0016】
1及びR2のアルキル基としては、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐鎖状の置換又は非置換のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、1−メチル−1−エチル−n−ペンチル基、1,1,2−トリメチル−n−プロピル基、1,2,2−トリメチル−n−プロピル基、3,3−ジメチル−n−ブチル基、n−ヘプチル基、2−ヘプチル基、1−エチル−1,2−ジメチル−n−プロピル基、1−エチル−2,2−ジメチル−n−プロピル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられ、より好ましくはメチル基である。上記アルキル基は、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルファニル基、シアノ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子、芳香族基等から選択される1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0017】
1とR2とは、互いに結合して置換又は非置換の脂肪族環を形成してもよく、好ましくは炭素数4〜10の置換又は非置換の脂肪族環を形成してもよい。例えば、R1とR2とが−(CH24−を介して互いに結合した場合、シクロヘキサン環を形成する。このように形成された環は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基等から選択される1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0018】
一般式(1)で表されるエポキシドの中で特に好ましいものの具体例としては、次の式(1−1)〜(1−3)のものが挙げられる。
【化5】

【0019】
式(1−1)〜(1−3)のエポキシドの中で、式(1−1)で示されるエチレンオキシドと、式(1−2)で示されるプロピレンオキシドとが特に好ましい。
【0020】
本発明に用いられる脂肪族ポリカーボネートは、一般式(2):
【化6】

で表され、ここでR1及びR2は上記の通りである。
【0021】
一般式(2)で表される脂肪族ポリカーボネートの数平均分子量は、好ましくは約5,000〜1,000,000、より好ましくは約10,000〜200,000、特に好ましくは約50,000〜130,000での範囲である。
【0022】
本発明に用いられる脂肪族ポリカーボネートは、その脂肪族ポリカーボネートが成型可能な温度において、少なくとも100%の破断伸度を有することが好ましく、少なくとも200%の破断伸度を有することがより好ましく、少なくとも400%の破断伸度を有することがさらに好ましく、そして少なくとも400%の破断伸度を有することが最も好ましい。上記破断伸度を有することにより、成型時のひずみに伴う応力により、従来のTOPASから形成された光学素子の複屈折値を含む、広範囲の複屈折値を有することができ、従来のTOPASから形成された光学素子を置換することができる。
なお、本明細書において、「破断伸度」は、所定の温度において、初期試料長5mm、1000%/分の条件において伸長した際の、破断時のひずみ量を意味する。
【0023】
さらに、本発明に用いられる脂肪族ポリカーボネートは、25℃において、少なくとも100%の破断伸度を有することが好ましく、少なくとも200%の破断伸度を有することがより好ましく、少なくとも400%の破断伸度を有することがさらに好ましく、そして少なくとも400%の破断伸度を有することが最も好ましい。
【0024】
さらに、本発明に用いられる脂肪族ポリカーボネートは、伸長100%後の伸長回復率が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましく、99.5%以上であることが最も好ましい。通常の室温に近い25℃において、上記破断伸度と伸長回復特性とを有することにより、上記脂肪族ポリカーボネートを含む光学素子は、通常の使用環境において、応力、ひずみ等の付与によりその光学特性が調節されうる、動的な光学素子として利用されうる。さらに、ひずみにより複屈折を制御する場合には、ひずみを調節するためにモーター等の外部からのエネルギーの供給が必要となるが、調節後にねじ止め、ブレーキ機構等によりひずみを固定すれば、その後のエネルギー供給を行わなくても光学特性を保持することができるので、常時電圧を印加することが必要な液晶素子と比較して、エネルギー消費の非常に少ない素子となりうる。
【0025】
なお、本明細書において、「伸長回復率」は、初期試料長20mmの試料を、100%/分の条件下でひずみ量100%まで伸長させ、次いで、伸長時とは逆に100%/分の条件でひずみ量0%まで収縮させ、次いで、試料を試験機から取り出し、試料長L(mm)を測定し、次の式:
伸長回復率(%)=(2−L/20)×100
に従って算出した値を意味する。
【0026】
一般式(2)で表される脂肪族ポリカーボネートの中で特に好ましいものの具体例としては、次の式(3−1)〜(3−3)のものが挙げられる。
【化7】

【0027】
式(3−1)〜(3−3)の中でも、式(3−1)で表わされるポリエチレンカーボネートと、式(3−2)で表わされるポリプロピレンカーボネートとが特に好ましい。
【0028】
本発明に用いられる脂肪族ポリカーボネートは、エポキシドと二酸化炭素とが交互に結合して得られ且つ1H−NMR分析により検出可能なエーテル結合成分を含まない脂肪族ポリカーボネートであって、本発明の効果を奏するものを重合することができる方法であれば特に制限されず、任意の方法で製造することができるが、例えば、特開2009−215529号明細書、特開2008−285545号明細書、米国特許出願公開第2006/89252号明細書、国際公開第2008/150033号パンフレット及び同第2009/137540号パンフレットに開示される方法に従って、製造することができる。
【0029】
また、本発明に用いられる脂肪族ポリカーボネートはまた、次の式(I):
【化8】

のコバルト錯体を用いて重合することができる。上記式(I)のコバルト触媒は、特に、ポリプロピレンカーボネートの合成に適している。
【0030】
上記式(I)において、Rは、それぞれ独立して、H、炭素数1〜10のアルキル基若しくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換若しくは非置換の、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜14のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、F、Cl、Br、I、又は−Si(R2−R−Xから選択されるが、Rの少なくとも1つは−Si(R2−R−Xである。ここで、−Si(R2−R−Xはシリル置換基を表し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜14のアリール基から選択され、Rは、炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜3の二価の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br又はIから選択される。
【0031】
シリル置換基−Si(R2−R−Xにおける、Rの具体例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の、直鎖又は分岐のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基等の置換又は非置換のアリール基等が挙げられる。また、Rの具体例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチルメチレン基、メチルエチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等の直鎖又は分岐の二価の炭化水素基が挙げられる。Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、又はフェニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、又はフェニル基であることがより好ましく、メチル基であることが特に好ましい。Rは、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基であることが好ましく、メチレン基であることがより好ましい。Xは、Cl、Br又はIであることが好ましく、Clであることがより好ましい。
【0032】
の具体例として、H;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の、直鎖又は分岐のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基等の置換又は非置換のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、ビニルオキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、アリルオキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基等のアルコキシ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、デカノイル基等のアシル基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基等のアシロキシ基;F、Cl、Br、I;フロロメチルジメチルシリル基、クロロメチルジメチルシリル基、ブロモメチルジメチルシリル基、ヨードメチルジメチルシリル基、クロロメチルジエチルシリル基、クロロメチルジ(イソプロピル)シリル基、クロロメチルジフェニルシリル基、(1−クロロエチル)ジメチルシリル基、(2−クロロエチル)ジメチルシリル基、(2−クロロプロピル)ジメチルシリル基、(3−クロロプロピル)ジメチルシリル基、(4−クロロブチル)ジメチルシリル基、(6−クロロヘキシル)ジメチルシリル基、(8−クロロオクチル)ジメチルシリル基等のシリル置換基が挙げられる。Rがシリル置換基以外である場合、H、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、メトキシ基、エトキシ基、ビニルオキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、アリルオキシ基、アセチル基、アセトキシ基、F、Cl、Br、又はIであることが好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基であることがより好ましく、tert−ブチル基であることが特に好ましい。Rがシリル置換基である場合、クロロメチルジメチルシリル基、(2−クロロエチル)ジメチルシリル基、又は(3−クロロプロピル)ジメチルシリル基であることが好ましく、クロロメチルジメチルシリル基であることがより好ましい。Rの両方ともシリル置換基であることがより好ましい。
【0033】
は、各ベンゼン環上の0〜3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換若しくは非置換の、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜14のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、又はF、Cl、Br若しくはIから選択される。Rの具体例として、シリル置換基以外のRについて上述した有機基を挙げることができ、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、メトキシ基、エトキシ基、ビニルオキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、アリルオキシ基、アセチル基、アセトキシ基、F、Cl、Br、又はIであることが好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基であることがより好ましく、tert−ブチル基であることが特に好ましい。Rは各ベンゼン環について1個であることが好ましく、このとき、Rの位置は、配位子のサリチルアルデヒドに相当する部位の3位であることが好ましい。
【0034】
Yは、2個の炭素原子を介して2個のイミノ窒素を連結する二価の連結基である。その2個の炭素原子に、1又は複数の、炭素数1〜10のアルキル基若しくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の、炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜14のアリール基が結合していてもよい。このような二価の連結基Yの炭素原子に結合する基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の、直鎖又は分岐のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基等の置換又は非置換のアリール基を挙げることができる。また、二価の連結基Yにおいて、その2個の炭素原子が、置換又は非置換の、飽和若しくは不飽和の脂肪族環又は芳香環の一部を構成してもよい。このような飽和若しくは不飽和の脂肪族環又は芳香環として、例えば、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ベンゼン環等が挙げられ、これらの脂肪族環又は芳香族環は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基等の、1又は複数の置換基で置換されていてもよい。
【0035】
そのような二価の連結基Yの具体例として、上述したような炭素数1〜10のアルキル基若しくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよいエチレン基が挙げられ、このエチレン基は無置換であるか、1又は複数のメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、又はフェニル基で置換されていることが好ましい。また、二価の連結基Yの具体例として、隣接する2個の炭素原子がそれぞれ別のイミノ窒素に結合している置換又は非置換のシクロアルキレン基(例えば、シクロヘキサン−1,2−ジイル基)又はフェニレン基(例えば、1,2−フェニレン基)も挙げられる。これらの中でシクロヘキサン−1,2−ジイル基が好ましい。
【0036】
Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。アニオン性配位子は、エポキシドのエポキシド炭素に対して求核性を有する場合がある。Zの具体例として、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、アセタート、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、プロピオナート、シクロヘキシルカルボキシラート等の脂肪族カルボキシラート;ベンゾアート、p−メチルベンゾアート、3,5−ジクロロベンゾアート、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾアート、4−ジメチルアミノベンゾアート、4−tert−ブチルベンゾアート、ペンタフルオロベンゾアート(-OBzF5)、ナフタレンカルボキシラート等の芳香族カルボキシラート;メトキシド、エトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド等のアルコキシド;フェノキシド、o−ニトロフェノキシド、p−ニトロフェノキシド、m−ニトロフェノキシド、2,4−ジニトロフェノキシド、3,5−ジニトロフェノキシド、3,5−ジフルオロフェノキシド、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェノキシド、1−ナフトキシド、2−ナフトキシド等のアリールオキシド等が挙げられる。Zは、F-、Cl-、Br-、I-、アセタート、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、ベンゾアート、又はペンタフルオロベンゾアートであることが好ましく、F-、Cl-、Br-、I-、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、又はペンタフルオロベンゾアートであることがより好ましく、F-、Cl-又はペンタフルオロベンゾアートであることが特に好ましい。
【0037】
上述したコバルト錯体の中でも、次の式(II):
【化9】

又は次の式(III):
【化10】

(式中、R、X及びZは上述の通りである。)
で表されるものが好ましい。
【0038】
上述したコバルト錯体の中でも、次の式(IV):
【化11】

又は次の式(V):
【化12】

(式中、Zは上述の通りである。)
で表されるものがより好ましく、式(IV)で表されるものが特に好ましい。
【0039】
上記コバルト錯体に助触媒を組み合わせた触媒システムを用いて、エポキシドと二酸化炭素との共重合を行うこともできる。助触媒を併用することにより、共重合の反応速度を高める、及び/又は共重合体の交互規則性を高める、及び/又は副生成物である環状カーボネートの生成を抑制することができる。
【0040】
上記コバルト錯体と組み合わせることが可能な助触媒の一例は、リン及び/又は窒素を含むカチオンと対アニオンとからなる塩である。そのような助触媒として、次の式:
[R34N]+
[R34P]+、又は
[R33P=N=PR33+
(式中、R3は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)及び式(VI):
【化13】

(式中、R4は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数6〜20のアリール基であり、R5は、イミダゾリウム環の炭素上の0〜3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)からなる群から選択されるリン及び/又は窒素を含むカチオンと、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンとの塩を使用できる。
【0041】
上記塩を構成するカチオン[R34N]+、[R34P]+、[R33P=N=PR33+における、R3の具体例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、アリル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等の、直鎖又は分岐のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,6−キシリル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントリル基等の置換又は非置換のアリール基が挙げられる。式(VI)のイミダゾリウムにおけるR4及びR5の具体例として、R3について上述したような、直鎖又は分岐のアルキル基、シクロアルキル基、及び置換又は非置換のアリール基が挙げられる。これらのR3、R4及びR5は、上記カチオン([R34N]+、[R34P]+、[R33P=N=PR33+、式(VI)のイミダゾリウム)が全体として共重合反応に有利な立体的効果を発揮する、すなわち適切な嵩高さを有するように、選択して組み合わせることができる。
【0042】
上記塩を構成するカチオンとして、[R34N]+、[R33P=N=PR33+、又は式(VI)のイミダゾリウムを使用することが好ましく、[R33P=N=PR33+を使用することがより好ましい。
【0043】
四級アンモニウム[R34N]+の具体例として、テトラブチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、トリシクロヘキシルメチルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム等が挙げられる。
四級ホスホニウム[R34P]+の具体例として、テトラブチルホスホニウム、テトラヘキシルホスホニウム、テトラシクロヘキシルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、テトラ(メトキシフェニル)ホスホニウム等が挙げられる。
【0044】
ビス(ホスホラニリデン)アンモニウム[R33P=N=PR33+の具体例として、ビス(トリブチルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(エチルジフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(n−ブチルジフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(ジメチルフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(トリトリルホスホラニリデン)アンモニウム、ビス(トリナフチルホスホラニリデン)アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムが好ましい。
【0045】
式(VI)のイミダゾリウムの具体例として、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1,3−ジエチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチル−イミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0046】
上記塩を構成するアニオンとして、Zについて上述したものを挙げることができ、F-、Cl-、Br-、I-、アセタート、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、ベンゾアート、又はペンタフルオロベンゾアートであることが好ましく、F-、Cl-、Br-、I-、トリフルオロアセタート、トリクロロアセタート、又はペンタフルオロベンゾアートであることがより好ましく、F-、Cl-又はペンタフルオロベンゾアートであることが特に好ましい。
【0047】
上記カチオン及びアニオンからなる塩として、例えば、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムアセタート、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムフルオリド(PPNF)、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムペンタフルオロベンゾアート(PPNOBzF5)、1,3−ジメチルイミダゾリウムクロリド、1−エチル−2,3−ジメチル−イミダゾリウムクロリド等が挙げられ、PPNF、PPNCl及びPPNOBzF5が好ましい。
【0048】
コバルト錯体と助触媒とを組み合わせた触媒システムにおいて、コバルト錯体を、式(II)又は式(III)の化合物とすることが好ましく、式(IV)又は式(V)の化合物とすることがより好ましく、式(IV)の化合物とすることが特に好ましい。
【0049】
このような触媒システムの中で、
式(IV):
【化14】

(式中、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である。)で表される化合物と、[R33P=N=PR33+(式中、R3は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数6〜20のアリール基である。)で表されるリン及び窒素を含むカチオン、並びにF-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオンの塩からなる助触媒とを含むものがより好ましく、ここで、Zがペンタフルオロベンゾアートであり、助触媒がビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリドであることが特に好ましい。
【0050】
エポキシドと二酸化炭素との共重合は、加圧可能な公知の重合反応装置、例えば、オートクレーブを用いて行うことができる。共重合の反応温度は、一般に約0℃以上、約100℃以下とすることができ、約10℃以上、約90℃以下であることが好ましく、約20℃以上、約60℃以下であることがより好ましい。共重合を低温で行うと環状カーボネートの生成を抑制でき、高温で行うと反応速度が増加してTOF及び/又はTONを向上させることができる。本発明のコバルト錯体を用いると、従来の触媒又は触媒システムと比べて広い温度範囲で共重合を行うことができる。
【0051】
共重合時の二酸化炭素の分圧は、一般に約0.1MPa以上、約10MPa以下とすることができ、約5MPa以下であることが好ましく、約2MPa以下であることがより好ましい。窒素、アルゴン等の不活性ガスが二酸化炭素と一緒に反応雰囲気中に存在してもよい。
【0052】
エポキシドと、触媒であるコバルト錯体とのモル比は、一般に、エポキシド:コバルト錯体=約1000:1以上とすることができ、約2000:1以上であることが好ましい。上記コバルト錯体は、反応温度を適宜上げることによって、エポキシド:コバルト錯体=約4000:1以上、約8000:1以上、約32000:1以上といった、錯体濃度が非常に低い条件で共重合することもできる。錯体濃度が低いと一般に反応時間が長くなるため、エポキシド:コバルト錯体=約100000:1以下、又は約50000:1以下とすることが一般的である。必要に応じて使用される助触媒の量は、コバルト錯体1モルに対して、一般に約0.1〜約10モルとすることができ、約0.3〜約5モルであることが好ましく、約0.5〜約1.5モルであることがより好ましい。
【0053】
共重合は無溶媒で行ってもよく、必要に応じて溶媒を使用して行ってもよい。使用可能な溶媒として、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、ジメチルホルムアミド等のアミド、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル及びそれらの組み合わせを用いることができ、ジクロロメタン、トルエン、ジメチルホルムアミド及び1,2−ジメトキシエタンが好ましく、ジクロロメタン及び1,2−ジメトキシエタンがより好ましい。溶媒を使用する場合、その量は、エポキシド1質量部に対して、一般に約0.1〜約100質量部とすることができ、約0.2〜約50質量部であることが好ましく、約0.5〜約20質量部であることがより好ましい。
【0054】
所望量のエポキシドが重合した後、公知の後処理を行うことができる。例えば、塩酸、メタノール、塩酸/メタノール混合物等を反応停止剤として反応混合物に投入し、必要に応じて昇温及び/又は攪拌して反応を終了することができる。その後、例えば、貧溶媒としてメタノール、ヘキサン等を用いてポリマーを再沈殿してもよく、ソックスレー抽出器を利用して固体状混合物から錯体を抽出してもよい。また、カラムクロマトグラフィー等の周知の手段を用いて、ポリマーをさらに精製してもよい。
【0055】
[光弾性を有する光学素子]
本発明の光学弾性を有する光学素子の応力光学係数は、0.1〜2.0GPa-1の範囲にあり、好ましくは0.2〜1.5GPa-1の範囲にあり、そして最も好ましくは0.3〜1.0GPa-1の範囲にある。応力光学係数が、0.1GPa-1を下回ると、ひずみ、応力等を付加しても十分な複屈折が発生せず、光学素子として使用できない場合があり、そして2.0GPa-1を上回ると、光学素子の形状によっては成形時にかかる応力の履歴により過剰な複屈折が残存する場合がある。
なお、上記応力光学係数は、ポリカーボネートのTg超の温度で測定することが好ましく、ポリカーボネートのTg+10℃以上の温度で測定することがより好ましい。
【0056】
上記応力光学係数は、以下に説明する装置及び測定原理により測定することができる。
[光学遅延測定システム]
測定に用いる光学遅延測定システムの概略図を図1に示す。
光学遅延測定システム1は、He−Neレーザー発振器(オーテック株式会社製、LGK 7786P100)(図示せず)、偏光板2,2’及び2’’、1/4λ板3及び3’、回転偏光板4、ビームスプリッター(図示せず)、並びに受光器5及び5’から構成される。Aは入射したレーザー光の侵入方向を示し、そして識別子6及び7は、それぞれ、試料及び座標系を示す。
【0057】
ビームスプリッターで、入射したレーザー光を二つに分岐させ、試料6を通過した光(以下、「測定光」と称する)の強度と、試料6を通過させない光(以下、「参照光」と称する)の強度とを、それぞれ、受光器5及び5’で電圧として測定する。測定光の位相角を参照光の位相角と比較することにより、光学遅延を計測する。
なお、回転偏光板4の回転数を2500rpmとする。
【0058】
−データの収集−
A/Dコンバータ(KEYENCE社製、NR−500)を用いて、引張試験機の荷重データと、光学遅延測定システムの参照光の量及び測定光の量とをデジタル化し、サンプリング周期500μs(2kHz)でサンプリングする。
【0059】
−解析−
参照光と測定光との位相差は、200データ(0.1秒)毎のデータの相互相関関数を計算し、その最大値から算出する。延伸過程における試料の厚み変化は、均一なアフィン変形を仮定して求める。
試料の断面積S(t)及び厚みd(t)は、それぞれ、次の式(a)及び(b):
【数1】

(式中、S0は試料の初期断面積であり、d0は初期厚みであり、l0は初期長であり、そしてΔlは長さの変化量である)
と表すことができる。
【0060】
また、応力σ(t)及び複屈折Δn(t)は、それぞれ、次の式(c)及び(d):
【数2】

(式中、L(t)は延伸時の加重であり、Г(t)は延伸時の光学遅延である)
と表せる。
複屈折を縦軸、応力を横軸にとったグラフを作成し、解析したデータをプロットすると、直線の傾きが、応力光学係数となる。
【0061】
光学遅延測定原理は、以下の通りである。
図1に示すように、光の進行方向に対して鉛直方向をα軸とするα−β直交座標系と、α−β直交座標系を45°左方向に回転させたx−y直交座標系を考える。単色光源であるHe−Neレーザー光は、1/4λ板3を通過すると円偏光となり、そして回転偏光板4(周波数42Hz)通過後は回転する直線偏光となる。
【0062】
回転偏光板4を通過後の、x軸及びy軸方向における、光の電場ベクトル成分Ex及びEyは、それぞれ、次の式(e)及び(f):
x=Asinφ(t)sinωt (e)
y=Acosφ(t)sinωt (f)
(式中、Aは振幅であり、ω はレーザー光の角振動数であり、そしてφ (t)は回転偏光板4の回転角度である)
となる。
【0063】
参照光強度の時間平均Iref(t)は、ハーフミラーでの減衰分を無視すると、次の式(g):
【数3】

により表わすことができる。
【0064】
一方、1/4λ板3’を通過した後の、x軸及びy軸方向における、光の電場ベクトル成分Ex及びEyは、それぞれ、次の式(h)及び(i):
【数4】

により表わすことができる。
【0065】
従って、α軸及びβ軸方向における電場ベクトル成分Eα及びEβは、それぞれ、次の式(j)及び(k):
【数5】

となる。
【0066】
試料6が光学的異方性を有し、EαがEβに対してδの位相差を有する場合には、試料通過後の電場ベクトル成分Eα及びEβは、それぞれ、次の式(l)及び(m):
【数6】

と表すことができる。
【0067】
従って、受光器5でのx方向の成分Exは、次の式(n):
【数7】

となり、
測定光強度の時間平均Imeas(t)は次の式(o):
【数8】

となる。
【0068】
ビームスプリッター、偏光板2,2’及び2’’、並びに試料6の表面において、反射等により光の強度が減衰することを考慮すると、式(g)及び(o)は、それぞれ、次の式(p)及び(q):
【数9】

と表され、参照光は測定光に対しδの位相差を有することになる。
当該δが、試料の、α方向の、β方向に対する光学遅延となる。
【0069】
本発明の光弾性を有する光学素子は、引張速度1000%/分において、好ましくはひずみ400%まで、より好ましくは500%まで、そして最も好ましくは600%まで延伸し、応力値及び複屈折値を、それぞれ、x軸及びy軸としてプロットし、原点を通る直線で回帰した場合の決定係数が、好ましくは0.95以上、より好ましくは0.97以上、そして最も好ましくは0.98以上である。決定係数が0.95以下であると、素子に加えた応力に対する複屈折の変化に直線性が乏しく、光学機能性の制御が難しくなる場合がある。
【0070】
本発明の、光弾性を有する光学素子は、光弾性の特性を利用する素子であれば、特に制限されず、例えば、シャッター、位相差板、波長フィルター等が挙げられる。
また、本発明の、光学素子を含む機器としては、例えば、透明度が段階的に変化できるシェード機構付きの窓、色を自由に変化できるランプ、視野角を周辺環境に合わせて変更できるディスプレイ等が挙げられる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本実施例で得られた化合物の1H−NMRスペクトルの測定は、JEOL社製JNM−ECP500(500MHz)及びJEOL社製JNM−ECS400(400MHz)を用いて行った。ポリカーボネートの分子量測定は、ジーエルサイエンス社製高速液体クロマトグラフィーシステム(DG660B・PU713・UV702・RI704・CO631A)と、SHODEX社製KF−804Fカラム2本とを用いて、テトラヒドロフラン又はクロロホルムを溶出液として(40℃,1.0mL/分)、ポリスチレン標準を基準に換算して測定し、解析ソフトウェア(Scientific Software社製EZ Chrom Elite)で処理して求めた。
【0072】
[触媒の調製]
以下の合成例に溶媒として使用したトルエン、テトラヒドロフラン(以下、「THF」と称する)、ヘキサン、及びジエチルエーテルは、関東化学株式会社から入手した脱水グレードの試薬をGlass Contour社製溶媒精製装置に通したものを使用した。メタノール及びエタノールは、脱水グレードの試薬を関東化学から入手したものをそのまま使用した。また、酢酸エチルは、和光純薬株式会社から入手したものをそのまま使用した。
【0073】
tert−ブチルリチウムn−ペンタン溶液、トリエチルアミン、及び酢酸コバルトは、関東化学から入手したものをそのまま使用した。クロロメチルジメチルシリルクロリド、ペンタフルオロ安息香酸は東京化成工業株式会社から、(1R,2R)−ジアミノシクロヘキサンは和光純薬株式会社から入手した試薬をそのまま使用した。塩化マグネシウム、パラホルムアルデヒドは、Aldrich社から入手した試薬をそのまま使用した。
【0074】
以下の配位子合成において原料に用いられる4−ブロモ−2−tert−ブチルフェノール、及び3−tert−ブチル−5−[(3’−クロロプロピル)ジメチルシリル]サリチルアルデヒドは、J.Am.Chem.Soc.,2007,129,8082に従って調製したものを使用した。
【0075】
[合成例A:コバルト錯体(1)の合成]
[A−1:シリル置換サリチルアルデヒドの合成]
Ar雰囲気下、4−ブロモ−2−tert−ブチルフェノール5.4gを、THF200mLに溶解させ、−78℃に冷却した後、tert−ブチルリチウム(1.6M n−ペンタン溶液)41mLを2時間かけて滴下した。滴下後、−78℃で2時間攪拌し、クロロメチルジメチルシリルクロリド7.1mLを加えた。溶液を室温まで徐々に温め、4時間攪拌した後、水300mLを加え4時間撹拌した。酢酸エチル200mLで抽出を行い、有機層を減圧濃縮した。得られた黄色オイルをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=20:1、Rf=0.47)により精製し、2−tert−ブチル−4−[(クロロメチル)ジメチルシリル]フェノール6.3gを薄黄色オイルとして得た(収率79%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ7.43(s,1H),7.25(dd,1H),6.69(d,1H),4.84(s,1H),2.92(s,2H),1.41(s,9H),0.38(s,6H)ppm
【0076】
2−tert−ブチル−4−[(クロロメチル)ジメチルシリル]フェノール2.1gと、トリエチルアミン3.5mLと、塩化マグネシウム2.62gとを、THF120mL内で、室温で30分撹拌した。そこに、パラホルムアルデヒド0.8gを加え、3時間還流した。反応後、酢酸エチル100mL及び水100mLを加え、室温で30分撹拌した後、分液し、水層をさらに酢酸エチル100mLで抽出した。有機層を水で洗浄し、そして硫酸マグネシウムで乾燥した後、揮発分を減圧濃縮し得られた薄黄色オイルをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=20:1、Rf=0.09)で精製した。3−tert−ブチル−5−[(クロロメチル)ジメチルシリル]サリチルアルデヒド1.4gを白色固体として得た(収率63%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ11.89(s,1H),9.90(s,1H),7.67(s,1H),7.56(s,1H),2.94(s,2H),1.42(s,9H),0.43(s,6H)ppm
【0077】
【化15】

【0078】
[A−2:サレン配位子の合成]
3−tert−ブチル−5−[(クロロメチル)ジメチルシリル]サリチルアルデヒド808.9mgと、(1R,2R)−ジアミノシクロヘキサン136mgとを、無水エタノール20mL内で、室温で6時間攪拌した。揮発分を減圧濃縮後、析出物をろ過し、冷ヘキサン5mLで洗浄し、サレン化合物770mgを黄色粉末として得た(収率85%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ14.10(s,2H),8.31(s,2H),7.39(s,2H),7.15(s,2H),3.37(t,2H),2.84(s,4H),2.07−1.68(m,8H),1.40(s,18H),0.33(s,12H)ppm
【0079】
【化16】

【0080】
[A−3:コバルト錯体の合成]
Ar雰囲気下、サレン配位子770mgを、脱水メタノール5mL及びトルエン1mLの混合物中に溶解させ、そこに無水酢酸コバルト212mgを加え、室温で3時間攪拌した。生じた沈殿をろ過で集め、冷メタノール5mLで洗浄し、赤色粉末のコバルト(II)錯体を得た。これを塩化メチレン10mLに溶解させ、ペンタフルオロ安息香酸240mgを加え、空気下、15時間攪拌した。揮発分を減圧濃縮した後、残留物を冷ヘキサンで洗浄し、緑褐色固体のコバルト(III)錯体(1)527mgを得た(収率48%)。
1H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ7.93(s,2H),7.55(s,2H),7.41(s,2H),3.65(m,2H),3.14(s,4H),2.05−1.85(m,8H),1.73(s,18H),0.37(s,6H),0.23(s,6H)ppm
【0081】
【化17】

【0082】
[合成例B:コバルト錯体(2)の合成]
[B−1:サレン配位子の合成]
3−tert−ブチル−5−[(3’−クロロプロピル)ジメチルシリル]サリチルアルデヒド313mgと、(1R,2R)−ジアミノシクロヘキサン57mgとを、エタノール10mLに溶解させ、室温で12時間撹拌した。揮発分を減圧留去した後、残留物を冷ヘキサン1mLで洗浄し、サレン化合物330mgを黄色粉末として得た(収率94%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ14.11(s,2H),8.45(s,2H),7.34(s,2H),7.23(s,2H),3.53−3.44(m,6H),2.00−1.93(m,2H),1.90−1.68(m,14H),1.40(s,18H),0.70(t,4H),0.26(s,6H),0.21(s,6H)ppm
【0083】
【化18】

【0084】
[B−2:コバルト錯体の合成]
Ar雰囲気下、サレン配位子200mgを塩化メチレン2mLに溶解させ、そこに無水酢酸コバルト50mgを加え、室温で2時間攪拌した。揮発分を減圧留去した後、ジエチルエーテル1mLで洗浄し、赤色粉末のコバルト(II)錯体を得た。これを塩化メチレン2mL及びトルエン2mLの混合物中に溶解させ、ペンタフルオロ安息香酸60mgを加え、空気下、16時間攪拌した。揮発分を減圧濃縮した後、残留物を冷ヘキサン5mLで洗浄し、緑褐色粉末のコバルト(III)錯体(2)162mgを得た(収率60%)。
1H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ7.91(s,2H),7.52(s,2H),7.42(s,2H),3.63−3.57(m,6H),2.04−1.80(m,6H),1.77(s,18H),1.71−1.55(m,8H),0.76(t,4H),0.31(s,6H),0.24(s,6H)ppm
【0085】
【化19】

【0086】
[合成例C:コバルト−非対称サレン錯体(3)の合成]
[C−1:非対称サレン配位子の合成]
Ar雰囲気下、(R,R)−シクロヘキサンジアミンモノ塩酸塩(216mg、1.74mmol)と、3,5−ジ−tert−ブチルサリチルアルデヒド(336mg、1.74mmol)と、モレキュラーシーブス4A(200mg)とを、無水エタノール(6mL)及び無水メタノール(6mL)の混合溶媒中で、室温で4時間撹拌した。そこに3−tert−ブチル−5−[(クロロメチル)ジメチルシリル]サリチルアルデヒド(648mg、1.74mmol)と、トリエチルアミン(0.4mL、2.88mmol)とを塩化メチレン(12mL)に溶解させた溶液を加え、室温で4時間撹拌した。反応溶液を、シリカゲルを用いてろ過し、シリカゲルを塩化メチレンで洗浄後、ろ液を濃縮した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1、Rf=0.57)で精製し、黄色固体(701mg)を得た(収率67%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ14.10(s,2H),8.31(s,1H),8.12(s,1H),7.39−7.15(m,4H),3.37(t,2H),2.84(s,2H),2.07−1.68(m,8H),1.40(s,18H),1.25(s,9H),0.33(s,6H)ppm
【0087】
【化20】

【0088】
[C−2:コバルト錯体の合成]
Ar雰囲気下、非対称サレン配位子(700mg、1.17mmol)を、脱水メタノール5mL及びトルエン1mLの混合物に溶解させ、そこに無水酢酸コバルト(207mg、1.28mmol)を加え、室温で3時間攪拌した。生じた沈殿をろ過で集め、冷メタノール5mLで洗浄し、赤色粉末のコバルト(II)錯体を得た。これを塩化メチレン10mLに溶解させ、ペンタフルオロ安息香酸(270mg、1.28mmol)を加え、空気下、15時間攪拌した。揮発分を減圧濃縮した後、残留物を冷ヘキサンで洗浄し、緑褐色固体のコバルト(III)錯体512mgを得た(収率51%)。
1H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ7.96(s,1H),7.87(s,1H),7.77(s,1H),7.48(m,3H),3.59(m,2H),3.11(s,2H),2.01−1.92(m,8H),1.75(s,18H),1.32(s,9H),0.37(s,6H)ppm
【0089】
【化21】

【0090】
[合成例D:コバルト錯体(4)の合成]
[D−1:サレン配位子の合成]
Ar雰囲気下、合成例Aのサレン配位子600mgと、ヨウ化ナトリウム347mgとを、アセトニトリル10mLに溶解し、90℃で24時間撹拌した。生じた沈殿をろ過し、ろ液を減圧濃縮後、残留物を塩化メチレン20mLに溶解させ、飽和重曹水10mL、次いで飽和食塩水10mLで洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮し、塩素がヨウ素で置換されたサレン配位子643mgを黄色粉末として得た(収率82%)。
1H−NMR(CDCl3,500MHz)δ14.09(s,2H),8.30(s,2H),7.39(s,2H),7.14(s,2H),3.33(t,2H),2.07(s,4H),1.98−1.74(m,8H),1.40(s,18H),0.36(s,12H)ppm
【0091】
【化22】

【0092】
[D−2:コバルト錯体の合成]
Ar雰囲気下、配位子100mgを塩化メチレン5mLに溶解させ、酢酸コバルト22mgを加え、室温で2時間撹拌した。揮発分を減圧留去した後、真空下3時間乾燥すると、赤色固体が得られた。これをトルエン5mLに溶解させ、ペンタフルオロ安息香酸28mgを加え、室温、空気下で15時間撹拌した。揮発分を減圧留去し、残留物を冷ヘキサンで洗浄し、コバルト錯体(4)99mgを暗緑色粉末として得た(収率75%)。
1H−NMR(DMSO−d6,500MHz)δ8.30(s,2H),7.39(s,2H),7.14(s,2H),3.33(t,2H),2.07(s,4H),1.98−1.74(m,8H),1.40(s,18H),0.36(s,12H)ppm
【0093】
【化23】

【0094】
[製造例1 ポリプロピレンカーボネートの製造]
内容積3Lのステンレス製オートクレーブに、コバルト錯体(1)393mg、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド(以下、「PPNCl」と称する)(Strem社から購入したものを、塩化メチレン/ジエチルエーテルから再結晶して用いた)246mgを入れ、Ar雰囲気に置換した後、プロピレンオキシド600mL(コバルト錯体(1)1モルに対し、20,000モル)、二酸化炭素1.4MPaを仕込み、50℃で107時間反応させた。二酸化炭素の圧力は、反応の進行と共に減少するので、系の圧力が0.8MPaまで下がったところで、1.8MPaの圧力まで、二酸化炭素を追加で圧入した。1H−NMRを測定した後、内容物を塩化メチレンに溶解させ、1N塩酸で洗浄後、メタノールを用いて析出させ、白色固体として、ポリプロピレンカーボネート(PPC)を282g得た。上記ポリプロピレンカーボネートの屈折率は1.47であり、そしてTgは39℃であった。
なお、屈折率は、干渉顕微鏡(カールツアイス・イエナ製インターファコ)により測定し、Tgは、DSC(TAインスツルメント社製QSC Q100)により、サンプル量5mg、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0095】
得られたポリプロピレンカーボネートは、下記に示すように、1H−NMRにより、環状カーボネート及びポリエーテルを含まない、すなわち、得られたポリプロピレンカーボネートは、エポキシド(プロピレンオキシド)と二酸化炭素とが交互に結合して得られ且つ1H−NMR分析により検出可能なエーテル結合成分を含まないポリプロピレンカーボネートであることが確認された。
ポリカーボネート:環状カーボネート:ポリエーテル=100:0:0、収率:32%、TOF:60h-1、TON:441g/g−cat(触媒の質量は、コバルト錯体と、PPNClの総量として計算した)、Mn=101,400、Mw/Mn=1.53
【0096】
【化24】

【0097】
[製造例2 ポリエチレンカーボネートの製造]
内容積3Lのステンレス製オートクレーブに、特開2009−215529号明細書の[0063]に記載されるコバルト錯体(3−2)252mg、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムフルオリド(以下、「PPNF」と称する)272mgを入れ、Ar雰囲気に置換した後、エチレンオキシド600mL(コバルト錯体1モルに対し、25,000モル)、二酸化炭素2.0MPaを仕込み、43℃で90時間反応させた。1H−NMRを測定した後、内容物を塩化メチレンに溶解させ、1N塩酸で洗浄後、メタノールを用いて析出させ、白色固体として、ポリエチレンカーボネート(PEC)を324g得た。上記ポリエチレンカーボネートの屈折率は1.46であり、そしてTg(℃)は、15℃であった。
【0098】
得られたポリエチレンカーボネートは、下記に示すように、1H−NMRにより、環状カーボネート及びポリエーテルを含まない、すなわち、得られたポリエチレンカーボネートは、エポキシド(エチレンオキシド)と二酸化炭素とが交互に結合して得られ且つ1H−NMR分析により検出可能なエーテル結合成分を含まないポリエチレンカーボネートであることが確認された。
ポリカーボネート:環状カーボネート:ポリエーテル=100:0:0、収率:30%、TOF:83h-1、TON:618g/g−cat(触媒の質量は、コバルト錯体と、PPNFの総量として計算した)、Mn=96,700、Mw/Mn=1.41
【0099】
【化25】

【0100】
[実施例1]
製造例1及び2において、それぞれ、製造された、PPC及びPECを、加熱プレス機を用いて、100℃で、フィルム状の引張試験用の試料を成形した。
上述の光学遅延測定システムと、卓上型引張試験機(井元製作所作製、引張・圧縮小型試験機(200℃恒温槽付))とを用いて、変形時の複屈折率の変化を測定した。
測定条件は以下の通りである。
初期試料長:5mm
引張速度:1000%/分(50mm/分)
測定温度:PECは室温(約24℃)、PPCは50℃
He−Neレーザー光:直線偏光、波長543nm
25℃における破断伸度及び伸長回復率は、上述の卓上型引張試験機を用いて測定した。
【0101】
PPC及びPECについて、ひずみと複屈折との関係を、それぞれ、図2及び図3に示す。図2及び図3から、製造例1及び2で製造したPPC及びPECは、柔軟で、そして高い破断伸度を示すことが分かる。また、少なくともひずみ約600%の範囲まで、ひずみ及び応力が比例関係を有することが分かる。
【0102】
次いで、応力と複屈折とが比例関係にあるひずみ600%の時点で延伸を停止し、その後、ひずみ一定の条件の下で緩和させ、時間と複屈折との関係を測定した。PPC及びPECの結果を、それぞれ、図4及び表5に示す。
図4及び図5から、製造例1及び2で製造されたPPC及びPECは、緩和時も、応力及び複屈折の比例関係を保持し続けることが分かる。
【0103】
PPC及びPECについて、応力と複屈折との関係を、それぞれ、図6及び図7に示す。図6において、各プロットを、原点を通る直線で回帰したところ、y=0.52xの関係式が得られ、決定係数は、0.98であった。同様に、図7では、y=0.56xの関係式が得られ、決定係数は、0.99であった。
上記関係式の傾きから、0.52GPa-1のPPCの応力光学係数と、0.56GPa-1のPECの応力光学係数とを得た。
【0104】
さらに、上記PECの引張試験用の試料に関して、25℃で破断伸度を測定したところ、破断伸度は1060%であり、非常に高い変形性を示した。また、このフィルムの伸長回復率を測定したところ、99.6%と非常に高い伸長回復率を示した。従って、上記PECは、室温において繰り返しひずみ、荷重等を付与する動的な素子として利用可能なことが示唆される。
【0105】
[比較例1]
TOPAS ADVANCED POLYMERS GmbHから市販されるTOPAS(商標)6015(Tg:158℃)を、加熱プレス機を用いて、180℃で、引張試験用の試料を成形した。測定温度を175℃とし、ひずみ速度を500%/分とした以外は実施例1の条件に従って、複屈折率の変化を測定した。しかし、上記条件下におけるTOPASの破断伸度は、約80%と非常に低いものであった。そこで、破断伸度以下であるひずみ40%まで延伸を行い、その後一定ひずみ下で緩和過程を評価した。応力と複屈折との関係を、図8に示す。図8のプロットを、原点を通る直線で回帰したところ、y=1.53xの関係が得られ、決定係数は0.99であった。これより、TOPAS(商標)6015の応力光学係数、1.53GPa-1を得た。
【0106】
[実施例2]
実施例1と同様にPECのフィルム状試験片を作製し、図9に示すシャッターユニットを作製した。図9に示すシャッターユニット8では、偏光方向を互いに90°異なるように設定した2枚の偏光板9及び9’の間に、PEC試験片10が配置されている。シャッターユニット8を、文字の書いてある紙の上に設置したところ、PEC試料片10にひずみを付与しない状態においては、偏光板9及び9’により光が遮断され、ユニット後方の文字を読み取ることは不可能であった。次に、偏光板9及び9’の偏光方向と、それぞれ、45°の角度を有する方向Bに沿って、PEC試験片10に25%のひずみを付与したところ、PEC試験片に複屈折が生じて偏光方向が変化し、光が透過し、ユニット後方の文字を読み取ることができた。
【符号の説明】
【0107】
1 光学遅延測定システム
2,2’,2’’ 偏光板
3,3’ 1/4λ板
4 回転偏光板
5,5’ 受光器
6 試料
7 座標系
8 シャッターユニット
9,9’ 偏光フィルム
10 PEC試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1):
【化1】

(式中、R1及びR2は、同一又は異なり、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基であるか、又はR1とR2とが互いに結合して置換若しくは非置換の脂肪族環を形成する)
で表される、エポキシドと二酸化炭素とが交互に結合して得られ且つ1H−NMR分析により検出可能なエーテル結合成分を含まない脂肪族ポリカーボネートを含む、光弾性を有する光学素子であって、
0.1〜2.0GPa-1の範囲の応力光学係数を有することを特徴とする、
前記光学素子。
【請求項2】
引張速度1000%/分において、ひずみ400%まで延伸し、応力値及び複屈折値を、それぞれ、x軸及びy軸としてプロットし、原点を通る直線で回帰した場合の決定係数が、0.95以上である、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記エポキシドが、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドである、請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記脂肪族ポリカーボネートの合成に用いられた触媒が、次の一般式(I):
【化2】

(式中、Rは、それぞれ独立して、H、炭素数1〜10のアルキル基若しくは炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、F、Cl、Br、I、又は−Si(R2−R−X(式中、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数6〜20のアリール基から選択され、Rは、炭素数1〜8の二価の炭化水素基であり、Xは、F、Cl、Br又はIから選択される。)から選択されるが、Rの少なくとも1つは−Si(R2−R−Xであり、Rは、各ベンゼン環上の0〜3個の置換基であって、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜10のアシル基、炭素数2〜10のアシロキシ基、又はF、Cl、Br若しくはIから選択され、Yは、2個の炭素原子を介して2個のイミノ窒素を連結する二価の連結基であって、その2個の炭素原子に1又は複数の、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、又は置換若しくは非置換の炭素数6〜20のアリール基が結合していてもよく、あるいはその2個の炭素原子が置換又は非置換の、飽和若しくは不飽和の脂肪族環又は芳香環の一部を構成してもよく、Zは、F-、Cl-、Br-、I-、N3-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及びアリールオキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である)
で表されるコバルト錯体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項5】
0.3〜1.0GPa-1の範囲の応力光学係数を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項6】
25℃において、100%以上の破断伸度を有し、100%伸長後の伸長回復率が90%以上である、請求項5に記載の光学素子。
【請求項7】
シャッター、位相差板、及び波長フィルターから成る群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学素子を含む機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−191687(P2011−191687A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59846(P2010−59846)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】