説明

光弾性現象を用いた精度向上する複屈折測定方法及びその方法を用いた複屈折測定装置

【課題】 光弾性測定方法の測定信号にかかる変調信号の強度が微弱なので、複屈折の2乗の信号成分と微弱な信号のかかった1乗(1次)の項からなる高周波成分の複屈折とでは、前者の方が大きい。2乗の成分の複屈折と高周波成分の微弱な複屈折から検出する為、複屈折の検出精度が悪くなっている。
【解決手段】 測定信号の2乗を基礎とした複屈折の上にその1乗に比例した微弱な複屈折が重畳している複屈折の内、該2乗を基礎とした複屈折を除去する手段を備え、1乗に比例した複屈折を用いて応力や歪みなどの物理量に変換して精度良く測定をおこなう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルやプラズマディスプレイパネルなどのような透過性を有する測定対象物に作用する応力や歪みなどを測定するための光弾性現象を用いた複屈折測定方法およびその装置に係る。特に、微小間隙をおいて配備された複数の貼合せ基板の個々の基板に作用している複屈折を応力や歪みなどの物理量に変換して精度良く測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板のような透過性を有する測定対象物に作用している応力を求める方法として、次のような方法が知られている。第1の方法として、平坦なテーブルに平面保持された測定対象物に光を照射し、測定対象物の表面および裏面から反射して戻る反射光を測定する。このとき、その反射光の変化から測定対象物に作用している主応力の差と主応力の作用している方向を求めている。(例えば、特許文献1参照)
また、第2の方法として、測定対象物に向けて照射した光のうち、測定対象物を透過した透過光の変化から測定対象物に作用している主応力の差と主応力の作用している方向を求めている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、共焦点方式で、かつ反射方式の光学系が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
さらに、光弾性現象を用いた複屈折測定方法であって、照射手段からの照射光を光学手段を介して直線偏光にする過程と、複数の層からなる透過性を有する測定対象物にレンズを介して前記直線偏光を照射しながら、レンズと測定対象物を光軸方向に沿って、光源側を前として相対的に前後移動させて層同士が接触する複数の接触界面のうち所定の接触界面に焦点を合わせる過程と、前記測定対象物から反射して戻る反射光を前記光学手段に透過させて照射手段からの照射光の光路(以下初期光路という)を戻る第1偏光(以降「反射信号」という)と、分離された前記第2偏光(以降「弾性信号」という)のうち焦点面から反射して戻る偏光のみをピンホールに通過させて検出する偏光検出過程とを1サイクル処理とし、前記1サイクル処理後に、前記測定対象物に照射した偏光と、この測定対象物とを光軸回りに相対的に回転させ、少なくとも所定の3箇所ごとに前記1サイクル処理を行い、各サイクル処理時に検出された前記偏光の光強度の変化量と検出角度の位置情報とに基づいて回転角の2倍を変数とする正弦波の2乗からなるsinの2乗カーブとして求め、このsinの2乗カーブから測定対象物の各層に作用している主応力の差と主応力の作用している方向を求める演算過程とを備えた光弾性現象を用いた複屈折測定方法が記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】最新応力・ひずみ測定・評価技術(49頁〜66頁) 監修:河田 幸三 発行:株式会社技術センタ
【非特許文献2】2003年度博士論文「反射型レーザ光弾性実験装置の開発と皮膜の応力評価への応用」東京電機大学大学院研究科機械システム工学専攻 博士課程 島 靖郎
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2008/069272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載されている光弾性変調器を用いた共焦点方式による光弾性現象を用いた複屈折測定方法およびこれを用いた複屈折測定装置では、弾性信号と反射信号を計
測している。弾性信号は近似(モデル化)できる。前記弾性信号を演算過程のロックインアンプへ入力する。しかし、当該弾性信号は、回転を通して変動するsinの2乗カーブを基礎にした2乗信号成分と高周波成分が重畳した値となっている。但し、前者は、時間をあらわに含むのではなく、回転に伴って現れるのであるが、アナログデジタル変換回路を通して測定したデータの変化は、時間変動なのか回転によるものなのかの区別が付かなくなる。
【0008】
また、光弾性現象を用いた複屈折測定方法の前提として、検出信号にかかる変調信号の強度が微弱なので、複屈折の2乗の2乗信号成分と微弱な信号のかかった1乗(1次)の項からなる高周波成分とでは、前者の方が大きい。すなわち前記2乗信号成分の方が大きいので、その分ロックインアンプの入力範囲を大きくする必要があり、その中から高周波成分の微弱な信号を検出するので、検出精度が悪くなっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、上記課題を解決する手段として、「透過性を有する測定対象物の複屈折を測定する光弾性現象を用いた複屈折測定方法において、複屈折(以降検出信号とも称する)の2乗を基礎とした量の上にその1乗に比例した微弱な複屈折が重畳している検出信号の内、該2乗を基礎とした複屈折を除去する手段を備え、1乗に比例した複屈折を用いて複屈折計算をおこなう」ことを特徴とするものである。
【0010】
すなわち、特許文献1に記載の光弾性現象を用いた複屈折測定装置では、検出信号として弾性信号と反射信号を計測している。弾性信号の近似モデルψは、下記(式1)の様にあらわされる。
【0011】
ψ=k[2δ−(1/2)φsin(2(θ+θ))] (式1)

これは、直線偏光を基準角から計って角度(θ)分回転させた時、測定対象物に作用している主応力の方向が(−θ)であり、それに基づく微小な複屈折φのモデルである。ここで、角度(θ)は、θ=θ(t)で時間に基づく回転角である。δは、光弾性変調器の変調量、kは、照射光量である。実施例での回転角の速度は、約0.125秒で180度回転している。従い、360度回転に0.25秒かかるのでその時の周波数は、4Hzである。
【0012】
複屈折φは、

φ=2π×Δn・d/λ (式2)

ここで、Δn:屈折差 d:厚さである。また,光弾性変調器の変調周波数(ω)を ω=2π・fsとすると、fs:基準周波数は、50KHz程度の値であり、時間をtとすると(式1)のδは、

δ=δsin(2π・fs・t)

ここで、δは、光弾性変調器の変調振幅となる。
【0013】
上記(式1)を分解すると、

ψ=k[4δ−2δφsin2(θ+θ)+(φ/4)sin2(θ+θ)]
(式3)
となる。
【0014】
(式3)に、光弾性変調器による変調δを代入すると、回転角(θ)を通して変動する上記2乗の項 [(φ/4)sin2(θ+θ)] に 上記1次の項 [2δφsin2(θ+θ)sin2πft] なる高周波成分が重畳している。但し、前者には、時間はあらわに表現されず、回転に伴って周波数が現れる。しかし、アナログデジタル変換回路を通して測定したデータでは、時間変動なのか回転によるものなのか区別がつかなくなる。
【0015】
また、測定の前提として、振幅の大きさが(δ/φ)<0.1なので、

δφ < φ

より、複屈折φの2乗の2乗信号成分とその1乗(1次)と変調振幅(δ)のかかった高周波成分とでは、前者の方が大である。ここで、意味ある信号は、高周波成分の振幅

δφsin2(θ+θ) (式4)

である。そこで、周波数の差を利用して、2乗信号成分[(φ/4)sin2(θ+θ)]とその上の高周波成分[2δφsin2(θ+θ)]とを分離し、高周波成分のみを測定して検出精度を上げる。
【0016】
ここで、上記(1次の項)の(fs)は、50KHzの高周波の基準周波数であり、(2乗の項)は、それより遅い回転速度であれば良い。実施例では、4Hz程度の低周波である。上記(式3)で表される弾性信号ψをそのままロックインアンプへ入力した場合は、入力範囲を大きくする必要があり、その結果大きな入力範囲の中から微小な信号を抽出することになるため、検出の機能が劣ることになる。
【0017】
本発明では、4Hzで変動する低周波信号の基礎の上に50KHzのオーダーで変調された微小な信号が重畳した状態の中から、記載の低周波信号を除去し、50KHzのオーダーに変調された微小な高周波信号のみを抽出し、該高周波信号の最大値最小値をロックインアンプの入力範囲に合わせ設定し、該ロックインアンプに入力する。
【0018】
上記の様に、低周波信号を除去する方法として、本発明では、アナログ方式(パッシブフィルター)のHPF(高域通過濾過器)回路を採用しているが、その他WEVELET変換、高速フーリエ変換(FFT)、有限インパルス応答フィルタ等を用いたデジタルフィルター方式や、アナログ方式のアクティブフィルターでも対応することはできる。
【0019】
次に、本発明のHPF回路について、記載する。本発明で、信号強度は、2乗信号成分になる周波数つまりは、分離すべき信号の周波数は、概ね4Hzであり、基準周波数fは、50KHzである。これを分離する方法について説明する。前記の様に、分離すべき周波数成分4Hzと基準周波数fsとは大きく周波数が離れているので、図9に示すようなHPF回路を用いた実施例について説明する。
【発明の効果】
【0020】
本願発明では、特許文献1に記載の光弾性現象を用いた複屈折測定装置を用いて得られる弾性信号の内、値の大きい複屈折φの2乗の項からなる成分の弾性信号を除いた1乗(1次)の項からなる微弱な成分の弾性信号のみをロックインアンプへの入力信号として入力することにより、ロックインアンプの入力範囲を微弱な弾性信号の最大値最小値を含む入力範囲に設定し高い検出能力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例に係る光弾性現象を用いた複屈折測定方法を実現する装置の概略構成を示す図。
【図2】平行度検出器による偏光の受光状態を示す平面図。
【図3】主応力の差と主応力の作用している方向を測定する一巡の処理および動作を示すフローチャート。
【図4】測定対象物の各焦点面で反射する反射光の状態を示す図。
【図5】第2偏光の光強度の検出状態を示す図。
【図6】弾性信号中の複屈折の2乗信号成分を除去し精度向上する仕組みを説明する図。
【図7】本発明のHPF回路(高域通過路濾波器)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0023】
図1は、本発明の光弾性現象を用いた複屈折測定方法を利用した実施装置の代表的な概略構成を示す図であり、本発明の光弾性現象を用いた複屈折測定方法を利用した実施例装置の概略構成を示す図である。
【0024】
この実施例装置は、液晶パネルやプラズマディスプレイのように2枚の透過性を有するガラス基板W1・W2を、微小間隔をおいて重ね合わせた測定対象物Wと、中央に開口Hの形成された載置台8に平面保持した測定対象物Wに向けて光を照射する光源1とが配備され、さらに、この光源1から測定対照物Wまでの光路上に第1偏光検出部3を構成する第1偏光ビームスプリッタ10、および偏光板40、直線偏光板41、λ/2波長板42、第3偏光ビームスプリッタ43、λ/4波長板44、光学系ユニット5を構成するλ/4波長板13とBDP(Beam Displacing Prism)12と光弾性変調器30を経過して、可動台7の付いた対物レンズ6および上記主装置を統括管理制御する制御ユニット23および、載置台8可動台7を可動するアクチュエータ28、さらに、光学系ユニット5を回転駆動する回転駆動機構27が配備されている。以下、これら各構成について詳述する。
【0025】
ここで、当該図1では、光源1側を上流とし、測定対象物W側を下流として説明する。
また、前後の記載についても、光源1側を前とし測定対象物W側を後と記載し説明する。
【0026】
光源1は、所定の中心周長の光を発生させる。例えば、本実施例の場合、中心周長が635nmの半導体レーザが利用される。この光源1は、出力されるレーザ光が水平偏光成分(ここでの水平は、当該装置全体を配備している光学定盤に平行な向きを意味する)からなるように設置される。この光源1から出力された光は、第1偏光検出部3を構成する第1偏光ビームスプリッタ10を直進透過し、偏光板40、直線偏光板41に向う。また、さらに進んで、測定対象物Wまで到達し反射して戻る反射光を45度更に回転し、この光学系では垂直偏光成分のみに変換する。その結果反射光のすべての光量が、第1偏光ビームスプリッタ10を直進透過せず、初期光路の光軸と直交する第1偏光検出部3に設けられた第1フォトダイオード21に向かうようになる。
【0027】
直線偏光板41は、往復透過する光源1から出力された光と測定対象物Wから反射して戻る第1偏光Aを直線偏光にする。
【0028】
λ/2波長板42は、直線偏光板41から入射する45度の直線偏光を透過させる過程で、さらに45度戻し、元の水平成分である直線偏光に戻して第3偏光ビームスプリッタ43に向かわせる。なお、第1偏光Aについても45度戻し、このλ/2波長板42および下流側のλ/4波長板44との協働により偏光方向を90度回転させ第1偏光ビームスプリッタ10への反射光を垂直成分のみにする。
【0029】
第3偏光ビームスプリッタ43は、初期光路および下流側のBDP12で分離出力される2つの直線偏光の光路にまたがって配備されている。また、第3偏光ビームスプリッタ43は、極性を有し、水平偏光成分の直線偏光を直進させ、垂直偏光成分は直交する方向に向かわせる。つまり、λ/2波長板42からの直線偏光は全て透過させ下流側のλ/4波長板44に向かわせ、反射光のうち測定対象物Wを透過する過程で応力の影響を受けて発生した水平偏光成分は、初期光路と直交する方向に向かわせる。つまり、第2偏光検出部9内の第2フォトダイオード9bに向かわせる。
【0030】
λ/4波長板44は、初期光路および下流側のBDP12で分離出力される2つの直線偏光の光路にまたがって配備されている。つまり、第3偏光ビームスプリッタ43から到達する直線偏光を透過させ、45度さらに回転し、円偏光にする。また、測定対象物Wから反射し、BDP12で分離されて上流側のλ/4波長板13を透過して戻る2つの反射信号である第1偏光Aおよび弾性信号である第2偏光Bの両方とも、さらに45度回転させて円偏光から直線偏光に戻す。つまり、測定対象物Wのガラス基板W1やW2に応力が作用している場合、光弾性現象により、偏光の位相が変化し、この変化の生じた楕円偏光を通過させて、複屈折の変化量を含む直線偏光に変換する。
【0031】
光学系ユニット5は、光源1の側から順にλ/4波長板13、BDP12、および光弾性変調器30から構成されている。
【0032】
λ/4波長板13は、初期光路および下流側のBDP12で分離出力される2つの直線偏光の光路にまたがって配備されている。つまり、上流側からの円偏光を透過させ、さらに45度回転させて直線偏光に戻す。また、測定対象物Wからの反射光である楕円偏光をその内部に通過させることにより、45度さらに回転し、円偏光にする。
【0033】
BDP12は、到達した直線偏光を全透過させて下流側の光弾性変調器30に向かわせる。また、さらに可動台7に支持された対物レンズ6を透過して、測定対象物Wから反射して戻る偏光を透過させたとき、入射時と同じ偏光面を有する直線偏光(垂直偏光成分である第1偏光A)を同一光路に戻し、測定対象物Wを透過する過程で測定対象物Wに作用している応力の影響を受けて偏光状態が変化した成分(水平偏光成分の第2偏光Bのみ)を抽出し、第1偏光Aとは異なる方向に出力する。つまり、第1偏光Aおよび第2偏光Bは、BDP12の同じ面の異なる位置から出力される。
【0034】
光弾性変調器30は、測定対象物Wに向う直線偏光を楕円偏光にする。また、測定対象物Wから反射し、測定対象物Wに作用している応力の影響で楕円偏光の向きが、光軸回りに微小に回転した楕円偏光をそのまま全透過させる。
【0035】
なお、光弾性変調器30は、予め決まった複屈折の変化量を有するので、第2偏光検出部9で検出される第2偏光Bの光強度(弾性信号)Isの値を変調する。
【0036】
載置台8は、矩形状の測定対象物Wの端縁部分を保持しつつ、中央部分では光を通過させるように開口Hが形成されている。
【0037】
第2偏光検出部9は、レンズ9a、ピンホール15の形成された板状物16、第2フォトダイオード9bから構成されている。つまり、第3偏光ビームスプリッタ43で光路の変更された垂直偏光成分の第2偏光Bがレンズ9aで集光され、ピンホール15により焦点から反射して戻る偏光のみが抽出される。この偏光は、第2フォトダイオード9bで受光され、検出信号(弾性信号)Isに変換されて制御ユニット23に入力される。 第1偏光検出部3は、第1偏光ビームスプリッタ10、第2非偏光ビームスプリッタ17、ピンホール19の形成された板状物20、および第1フォトダイオード21から構成されている。
【0038】
第2非偏光ビームスプリッタ17は、光を直進方向と直交方向に2分する。つまり、第1偏光ビームスプリッタ10から到達した光を分岐する。各々の光を第1フォトダイオード21と平行度検出器22に向かわせる。
【0039】
第1フォトダイオード21は、ピンホール19を通過した第1偏光Aを受光して、検出信号(反射信号)Irに変換して制御ユニット23に入力する。
【0040】
平行度検出器22は、載置台8に保持された測定対象物Wの撓みや反りの発生状態を検出する。図2に示すように、平行度検出器22は、4個のフォトダイオード22aないし22dが2次元アレー状に隣接配備されており、第2非偏光ビームスプリッタ17から到達する直線偏光の光軸が互いに隣接し合う中心点Cに位置し、4個のフォトダイオード22aないし22dにまたがって均等に受光されるようになっている。各フォトダイオード22aないし22dで受光した直線偏光を光強度の検出信号に変換して制御ユニット23の中の演算処理部24に入力する。つまり、平行度検出器22は、第1偏光Aの光路のズレを検出している。
【0041】
制御ユニット23は、ロックインアンプ31、演算処理部24、駆動制御部25、および操作部26と本願発明に関するHPF回路51を含み、処理および機能する。
【0042】
次に、上記実施例の測定対象物Wに作用する複屈折を測定する一巡の処理について説明する。まず(式1)の弾性信号の近似モデルψを検出し、sin関数のモデルを作り、最後にsin関数の振幅から複屈折φを算出します。
【0043】
光源1から出力された水平偏光成分のレーザ光は、第1偏光ビームスプリッタ10を全透過し、偏光板40に到達する。この偏光板40を透過するとき、光は偏光面が45度回転し、直線偏光板41に向う。
【0044】
直線偏光板41を透過する光は、45度の直線偏光となり、λ/2波長板42に向う。λ/2波長板42を透過するとき、直線偏光の偏光面が、45度戻されて元の水平成分の直線偏光に戻される。
【0045】
この直線偏光は、第3偏光ビームスプリッタ43を透過し、次のλ/4波長板44を
透過する過程で45度傾き、円偏光にされる。
【0046】
この円偏光は、光学系ユニット5のλ/4波長板13を透過する過程で、垂直成分になり、BDP12をそのまま透過して光弾性変調器30を透過する。このとき、垂直成分からなる直線偏光が楕円偏光に変えられて対物レンズ6で集光され、所定の層の焦点面で反射して同一光路に戻される。
【0047】
反射光は、応力の作用している層を透過して所定の焦点面で反射して戻るとき、光弾性現象により偏光の位相が変化して戻される。
【0048】
この反射光は、対物レンズ6、光弾性変調器30をそのまま透過し、BDP12を透過する。このとき、光源1から測定対象物Wへの光路を戻る垂直偏光成分の第1偏光Aと、偏光面に変化の生じた水平偏光成分からなる第2偏光Bとに分離される。第1偏光Aは、光源1から測定対象物Wへの光路を戻り、第2偏光Bは、別光路に出力される。
【0049】
第2偏光Bは水平成分からなり、λ/4波長板13を透過して45度傾き、円偏光にされ、さらにλ/4波長板44を透過して、さらに45度傾き、垂直偏光成分の偏光にされる。この第2偏光Bは、第3ビームスプリッタ43で光源1から測定対象物Wへの光路と直交する方向にある第2フォトダイオード9bに全量が向かわされる。この過程でピンホール15によって焦点面から反射して戻る偏光のみが抽出され、第2フォトダイオード9bにより受光される。この光強度の検出信号(弾性信号)Isが、制御ユニット23のHPF回路51、ロックインアンプ31を経て演算処理部24に入力される。
【0050】
また、BDP12で分離された第1偏光Aは、垂直成分からなり、光源1から測定対象物Wへの光路のλ/4波長板13で円偏光にされ、その後のλ/4波長板44で水平成分になって、第3偏光ビームスプリッタ43を全量が透過する。さらに、この第1偏光Aは、λ/2波長板42、直線偏光板41を全透過し、45度の直線偏光になり、偏光板40を透過するときに45度回転して垂直偏光成分のみになり全反射して第1偏光検出部3に向う。
【0051】
第1偏光検出部3に到達した第1偏光Aは、初期光路の水平成分の光と直交する第1フォトダイオード21の方向に全反射され、第2非偏光ビームスプリッタ17に向う。この第2非偏光ビームスプリッタ17で第1フォトダイオード21と平行度検出器22に向う偏光に分岐される。これら第1フォトダイオード21および平行度検出器22で受光された反射信号Irは、制御ユニット23内の演算処理部24に入力される。
【0052】
以上で1回の測定が終了し、この処理を測定対処物Wの厚み分だけ対物レンズ6を走査させ、一点でIs、Irをそれぞれ得ることによって1サイクルの測定を完了し、さらに、少なくとも3箇所の所定角度ごとに1サイクル処理を繰り返しおこなって、各層に作用する主応力の差と主応力の作用している方向を求める。
【0053】
上記実施例の装置によれば、測定対象物Wの各層に作用している主応力の差と主応力の作用している方向を求めることができるとともに、応力の作用している層を特定することができる。
【0054】
また、実施例の装置構成では、光源1に半導体レーザを利用し、かつ、光学系ユニット5に光弾性変調器30を用いることにより、光学系ユニット5の構成部材を少なくして小型な装置となる。したがって、光学系ユニット5を光軸回りに回転させる回転駆動機構27を小型かつ低出力のものとすることができる。
【0055】
また、第1偏光検出部3の第1偏光ビームスプリッタ10を利用することにより、光源1から出力されるレーザ光を全て測定対象物Wに向かわせることができる。また、測定対象物Wから反射して戻る反射光を、光源1側に戻すことなく、第1フォトダイオード21で検出することができる。すなわち、光源1から出力された光と第1偏光Aの衝突による光源の不安定性を抑制し、主応力の差と主応力の作用している方向の測定を精度よく行うことができる。
【0056】
さらに、光源1からの光は水平成分からなるので、第1偏光ビームスプリッタ10に透過させることにより、光源1からの光を測定対象物Wに100%入射させることができるとともに、測定対象物Wからの反射光を100%利用することができる。その結果、検出精度を向上させることができる。
【0057】
次に、上記実施例の装置を示す図1、図2を用いて、測定対象物Wの各ガラス基板W1・W2に作用する主応力の差と主応力の差と主応力の作用している方向を測定する一巡の動作および処理について、図3に示すフローチャートに沿って説明する。なお、測定対象物Wを構成するガラス基板W1・W2の両方に応力が作用している場合を例にとって説明する。
【0058】
オペレータは、操作部26を操作して測定対象物Wの総厚み、光学系ユニット5の回転角と測定回数などの測定条件を設定入力する(ステップS1)。なお、この実施例の場合、回転角は、基準0度、45度および90度の3箇所で測定対対象物Wの各ガラス基板W1・W2に作用する主応力の差と主応力の作用している方向の測定を行うように設定する。
【0059】
条件設定が完了すると、載置台8に測定対象物Wが載置保持されるとともに、各駆動機構が作動制御されて測定開始できる状態となる。この時点で可動台7が作動し、対物レンズ6による焦点位置が、測定対象物Wの最表面に合せられる。これら測定条件が整うと、オペレータは、テスト照射をする(ステップS2)。このとき、光源1から測定対象物Wに向けて直線偏光が照射され、反射して戻る第1偏光Aを平行度検出器22で受光し、フォトダイオード22aから22dまでの光強度の検出信号を制御ユニット23の演算処理部24に入力する。
【0060】
演算処理部24は、フォトダイオード22aから22dまでの光強度値と平均値から光源1から測定対象物Wまでの光路のズレの有無を判断する(ステップS3)。光路のズレがあることが確認できた場合、演算処理部24は、測定対象物Wの反りなどの影響で起こる煽りを補正するための補正量を求めて信号変換する(ステップS4)。この補正信号に基づいて、駆動制御部25は、アクチュエータ28を作動させて載置台8を傾斜させ、第1偏光Aが平行度検出器22の各フォトダイオード22aから22dまで均等に照射させるようにする(ステップS5)。
【0061】
光路ズレの煽りの補正処理が完了すると、再度テスト照射を行う。この時点で光路ズレが解消されていれば、所定の設定角度での1回目の第1測定を開始する(ステップS6)。光路ズレが解消されていなければ、ステップS2からの煽りの補正処理が繰り返し行われる。
【0062】
第1測定では、光学系ユニット5をX,Y軸の基準0度に位置合せされた状態で測定を開始する。具体的には、光源1から測定対象物Wに向けて光を照射する。光は、第1偏光ビームスプリッタ10、偏光板40、直線偏光板41、λ/2波長板42、第3偏光ビームスプリッタ43、2個のλ/4波長板44、13を直進し、BDP12を全透過して測定対象物Wに到達する。
【0063】
この光を照射しながら測定対象物Wの厚み分だけ可動台7で支えられている対物レンズ6を光源1方向から適宜前後移動させ、ガラス基板W1・W2の各表裏面で反射して戻る第1偏光Aと第2偏光Bを第1フォトダイオード21および第2フォトダイオード9b、で受光する。これら各光強度の変化をリアルタイムに検出信号(反射信号)Irおよび検出信号(弾性信号)Isに変換して、検出信号(反射信号)Irは演算処理部24に入力する。検出信号(弾性信号)IsはHPF回路51に入力し、その出力をロックインアンプ31に入力しその出力を演算手段24に入力する。
【0064】
ところで、ガラス基板W1・W2に応力が作用している場合、各焦点面で反射して戻る反射光に第2偏光Bが含まれている。つまり、図4に示すように、ガラス基板W1の表面と空気層との接触界面(焦点面P1)で反射して戻る反射光R1、ガラス基板W1とガラス基板W2との微小間隙の空気層とガラス基板W1の裏面との接触界面(焦点面P2)で反射して戻る反射光R2、空気層とガラス基板W2の表面との接触界面(焦点面P3)で反射して戻る反射光R3、およびガラス基板W2と載置台8との界面(焦点面P4)で反射して戻る反射光R4のそれぞれに、第2偏光Bの光強度の検出信号(弾性信号)Isの成分が含まれている。
【0065】
次に、検出された検出信号(反射信号)Irおよび検出信号(弾性信号)Isについて説明する。
【0066】
各焦点面P1ないしP4で反射して戻る反射光は、光源1からの入射光と同一光路に戻され、再びBDP12を透過する。このとき、応力の影響を受けて生じた第2偏光Bと影響のない第1偏光Aとに分離される。分離された第1偏光Aは、上流側の第1フォトダイオード21で受光される。第2偏光Bは、第1偏光Aとは別光路に出力され、実施例の場合では、ピンホール15を通過して第2フォトダイオード9bに向かう。第2フォトダイオード9bで受光された各焦点面P1ないしP4から反射して戻る第2偏光Bの光強度は、図5に示すように、3つのピークとして現れる。
【0067】
この実施例では焦点面P1ないしP4の4箇所あるので4つのピークが発生するはずであるが、3つのピークとなって現れる。この現象は、空気層の前後のガラス面で反射する光で干渉が生じて光強度が高められ焦点面P2およびP3で反射して戻る反射光R2およびR3が合成されたものとなっていることが新たな知見として得られた。この図5で示す実線が、検出対象の弾性信号であり、破線が測定対象物Wで反射して戻る反射光の信号である。
【0068】
したがって、演算処理部24は、まず、これら第1フォトダイオード21および第2フォトダイオード9bからの検出信号のうち焦点面P2、P3で反射して戻る合成された反射光に含まれる検出信号と焦点面P2で反射して戻る検出信号を抽出し、両検出信号IrおよびIsの値を補正する。つまり、第2偏光Bの弾性信号Isを第1偏光Aの反射信号Irで除算したIs/Irで補正する。そして、この補正後の光強度値と測定時の光学系ユニット5の回転角の位置情報を関連付けして記憶しておく。以上で第1測定が終了する 第1測定が終了すると、駆動制御部25は、可動台7を測定開始位置に復帰させながら同時に光学系ユニット5を光軸回りに45度回転させて第1測定と同じ処理の第2測定を行い(ステップS7)、さらに、第2測定が終了すれば、第3測定を継続して行う(ステップS8)。
【0069】
第1測定から第3測定が終了すると、演算処理部24は、ガラス基板W1・W2に作用している各主応力の差と主応力の作用している方向を求める(ステップS9)。具体的には、演算処理部24は、記憶しておいた3つの回転角の補正された光強度値と位置情報を、同じ焦点面ごとに一群のデータとして整理し、データ群ごとに本光強度値を水平軸を角度としてプロットし、得られる補正された弾性信号から(式4)に示すsin関数で近似する。そして、得られるsin関数の最大振幅(2δφ)から主応力の差、sin関数の振幅0の角度(−θ)から主応力の方向が求められる。以上で、測定対象物Wの各ガラス基板W1・W2に作用している主応力の差と主応力方向の測定が完了する。
【0070】
上述の構成を有する光弾性現象を用いた複屈折測定装置によれば、測定対象物Wのガラス基板W1の表面に焦点を合せ、測定対象物Wの層厚み分対物レンズ6を測定対象物W側へ前進移動させ、各ガラス基板W1,W2に対する焦点を変位させることにより、各焦点面P1ないしP4から反射して戻る反射光のうち、ガラス基板W1・W2を透過する過程で両ガラス基板W1・W2に作用している応力の影響で偏光状態が変化して生じた垂直成分の第2偏光BのみをBDP12で分離して取り出すことができる。このBDP12で分離した第2偏光Bをさらに第2偏光検出部9に具備されているピンホール15を通過させることにより、ガラス基板W1の裏面(焦点面P2)とガラス基板W2の表面(焦点面P3)から反射して戻るガラス基板W1の応力の影響を受けた第2偏光Bと、ガラス基板W2の裏面(焦点面P4)から反射して戻るガラス基板W2の応力の影響を受けた第2偏光Bのみを抽出することができる。換言すれば、共焦点を利用することにより、任意のガラス基板(層)に作用している応力の影響を受けた第2偏光Bを測定できる。
【0071】
さらに、光学系ユニット5を光軸回りに回転させ、少なくとも3箇所の所定の回転角から同じ条件で取得した一群の第2偏光Bの光強度値を焦点面ごとに整理し、水平軸を角度としてプロットし、得られる補正された弾性信号を(式4)に示すsin関数で近似する。すなわち、この情報からsin関数の最大振幅としてδφ(δは既知)を主応力の差として求めることができる。このときのsin関数の振幅0の角度から−θを主応力の方向として特定することができる。
【0072】
また、平行度検出器22を利用することにより、測定光の光路ズレを補正することができ、第1偏光Aの反射信号Irを第1フォトダイオード21でおよび第2偏光Bの弾性信号Isを第2フォトダイオード9bで精度よく受光できる。
【0073】
さらに、複屈折量が既知の光弾性変調器30を光学系ユニット5に介在させておくことにより、第2偏光Bの弾性信号が微弱であってもロックインアンプ31を用いることで基準周波数(fs)成分の信号のみを抽出させることができる。すなわち、ガラス基板W1・W2に作用している微小な応力であっても精度よく測定することができる。
【0074】
ここで、上記記載の光弾性現象を用いた計測方法および複屈折測定装置では、ガラス基板W1・W2の各表裏面で反射して戻る第1偏光A(反射信号,Ir)を第1フォトダイオード21で、第2偏光B(弾性信号,Is)を第2フォトダイオード9bで受光し、これら各光強度の変化をリアルタイムに反射信号Ir、弾性信号Isに変換して、反射信号Irは演算処理部24に直接入力し、弾性信号Isはロックインアンプ31に入力していた。
【0075】
本発明では、弾性信号IsをHPF回路51を用いて2乗信号成分を取り除いた後、高周波成分のみとした検出信号をロックインアンプ31に入力する。これにより、ロックインアンプ31では、微弱な信号成分のみを処理することとなり、検出精度が向上する。
【0076】
次に、HPF回路51を用いて弾性信号中の複屈折の2乗信号成分をカットする前とカット後の状態を図面を用いて説明する。図6には、カットする前のイメージとカット後のイメージを示している。つまり、図6−(a)に記載の図はHPF回路設置前(実施前)をイメージする図であり、信号データは、2乗信号成分の低周波成分である値の大きい入力成分が大きく占める図が記載されている。その場合、得たい信号成分(高周波部分)は全体の入力範囲に比較して小さい。それに比べ図6−(b)に記載の図は本発明のHPF回路設置後(実施後)に示すように2乗信号成分を取り除くと測定したい信号の最大値最小値に対して最適にロックインアンプ31への入力範囲が設定でき、ロックインアンプ31での検出精度を向上することができた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、液晶パネルやプラズマディスプレーパネルなどのような透過性を有する測定対象物に作用する応力や歪みなどの測定に際し、測定精度の高い測定をおこなうのに適している。特に、ロックインアンプの位相検出性能が向上し、繰り返し測定精度が従来5%であったものが1%まで改善された。また、測定下限に近い応力値も精度良く測定が出来た。
【符号の説明】
【0078】
1 光源
3 第1偏光検出部
4 反射ミラー
5 光学系ユニット
6 対物レンズ
7 可動台
8 載置台
9 第2偏光検出部
9a レンズ
9b 第2フォトダイオード
10 第1偏光ビームスプリッタ
12 BDP(Beam Displacing Prism)
15、19 ピンホール
16、20 板状物
17 第2非偏光ビームスプリッタ
21 第1フォトダイオード
22 平行度検出器
22a〜22dフォトダイオード
23 制御ユニット
24 演算処理部
25 駆動制御部
26 操作部
27 回転駆動機構
28 アクチュエータ
30 光弾性変調器
31 ロックインアンプ
40 偏光板(Faraday Rotator)
41 直線偏光板
42 λ/2波長板
43 第3偏光ビームスプリッタ
44,13 λ/4波長板
51 HPF回路
W(W1、W2)測定対象物
A 第1偏光=反射信号=Ir
B 第2偏光=弾性信号=Is

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過性を有する測定対象物の応力を測定する光弾性現象を用いた複屈折測定方法において、
複屈折の2乗を基礎とした量の上にその1乗に比例した微弱な複屈折が重畳している複屈折の内、該2乗を基礎とした複屈折を除去する手段を備え、1乗に比例した複屈折を用いて複屈折計算をおこなうことを特徴とする複屈折測定方法。
【請求項2】
透過性を有する測定対象物の応力を測定する光弾性現象を用いた複屈折測定装置において、
複屈折の2乗を基礎とした量の上にその1乗に比例した微弱な複屈折が重畳している複屈折の内、該2乗を基礎とした複屈折を除去し、1乗に比例した複屈折を用いて複屈折計算ができることを特徴とする複屈折測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−179927(P2011−179927A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43472(P2010−43472)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】