説明

光応答人工興奮膜

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
この発明は、高濃度及び低濃度塩溶液間を仕切っている細胞膜等の生体膜が膜電位を生じ興奮し情報発現、情報伝達、情報処理を行なっていることを模倣した人工的な興奮膜(人工興奮膜と称する。)に関するもので、特に光により膜電位変化を制御出来る人工興奮膜(これを光応答人工興奮膜と称することにする。)に関するものである。
(従来の技術)
従来のコンピューターは、主に、シリコン半導体素子等の無機系材料によって構成されており、その処理機能はフォン・ノイマン(Von Neumann)方式によって直列型の論理演算を実行するものであった。この方式は正確な論理演算を行うことができるが、例えば高等生物の脳が得意とするパターン認識に必要な、多数の情報処理を同時に並行して行うことが困難であるという欠点を有していた。
一方、近年、生体の認識機能に関する研究が急速に進んでおり、例えば上述の脳を構成する複数の神経細胞(ニューロン)が、生体の学習や記憶に伴なって、互いの結合関係を適宜に変化させ、所謂、可塑性を有することが明らかに成りつつ有る。しかしながら、脳に見い出されるようなパターン認識や学習・記憶といった機能が、どのような原理に基づいて実行され、さらには、どのような構成成分で営まれているのかについては不明点が多く、多数の研究者によって解明が進められている。
生物は、外界から承ける種々の刺激を知覚器官で受け入れ、ヒューロンや複数のニューロン間を接合するシナプスを介して脳に伝達した後、多数のニューロンから成る脳で情報認識を行なう。このような認識機能の一例につき説明すれば、まず、外界からの刺激(情報)は電気的な信号に変換され、神経インパルスが発生する。この神経インパルスがニューロンを構成する軸索の末端に到達すると、神経伝達物質と称される、小胞中に内包された化学物質が放出される。このような神経伝達物質としてアセチルコリン、アドレナリン、セロトニン、グルタミン酸等が知られている。細胞外に放出された神経伝達物質は、例えばばシナプスの生体膜に存在する受容体を介して次の細胞内に受け取られる。そしてこの細胞では、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のイオンが細胞内へ流入又は細胞外へ流出することにより細胞膜等のような生体膜に膜電位が生じる。この結果新たな神経インパルスを誘起する。さらに、神経インパルスを受けたシナプスのシナプス前膜からは、上述と同様に神経伝達物質の放出が生じ、隣接するシナプス後膜まで拡散し、受容体を介して取り込み、神経インパルスの誘起が行なわれる。このような神経インパルスを介した一連の情報伝達は興奮と称され、複数のシナプスを経て脳に達する。また、脳内に達したインパルスは、脳内の膨大な数の神経細胞を興奮させ、この結果種々の情報処理が行なわれる。
そこで、前述した生体膜を構成する脂質を利用し生体系を模倣した機能素子を実現しようとする試みが、例えば文献(「合成脂質膜における相転移と自励発振現象」(都甲 潔他,膜(MEM−BRANE),12(1),P.12〜21,1987年)に開示されている。この文献によれば、多孔質膜に合成脂質(以下、脂質類似物質と称する。)を吸着させた人工興奮膜の自励発振現象等が報告されている。ここで、脂質類似物質とは、ジオレイン酸、トリオレイン酸、スパン80、ジオレイルホスフオスフェート等のような両親媒性物質、界面活性剤等である。
以下、上述の自励発振現象につき簡単に説明する。
数μm程度の孔径を有する多孔質膜に、脂質類似物質であるジオレイルホスフェートを吸着させて人工興奮膜を作製する。このような人工興奮膜の一方の面を高濃度の塩溶液に接触させ、かつ他方の面を低濃度の塩溶液に接触させた状態とする。係る状態に置かれた人工興奮膜は、数分〜数十分の周期で、これら塩溶液の間に所定の電位差を生じ、電気的インパルスが発生する。
上述の自励発振のメカニズムは、油滴状態から多層膜状態への脂質の集合体構造の変化に伴なうものと考えられている。このメカニズムにつき上述の文献を引用していま少し詳細に説明する。
第4図(A)及び(B)は、その説明に供する図であり、微小な貫通孔11aを有する支持体11の微小孔11a中に脂質又は脂質類似物質が含浸されて構成されている人工興奮膜により低濃度の塩溶液13と高濃度の塩溶液15との間を仕切った状態を示した図である。特に1つの微小孔周辺に着目して示してある。
脂質や脂質類似物質(以下、脂質等と略称することもある。)は、ある塩濃度を境として、低濃度の塩溶液中では油滴状態が安定であり高濃度の塩溶液中では多層膜状態が安定である。従って、第4図(A)に示すように、微小孔11aの低濃度の塩溶液側の出口では脂質等は油滴17になり微小孔をふさいでおり、微小孔11a中ではカチオン19が高濃度の塩溶液側から流入しているために油滴が多層膜21へと変化している。このような状態では、微小孔11a中には塩溶液中のアニオンよりもカチオンのほうが選択的に多く流入しているので、アニオンが支持体11上に残され、膜電位が生じる。ところが、第4図R>図(B)に示すように、油滴17の多層膜21への変化が進み微小孔11aをふさいでいた油滴17が小さくなり出口が開かれ微小孔11aが貫通すると、微小孔11a中の高濃度なカチオンが拡散により低濃度な塩溶液側に流出し、微小孔11a内のカチオン濃度は低下する。支持体11上に残されていたアニオンは、この時から、アニオン自身の拡散や拡散してきたカチオンとの再結合により、ある緩和時間で無くなる。その後は、微小孔内のカチオンの濃度が低くなったことから脂質等は油滴状態が安定状態であるので、再び第4図(A)に示した状態にもどる。このようにして人工興奮膜は自励的な発振を繰り返す。人工興奮膜の、第4図(A)及び(B)を用いて説明した特性を第1表にまとめて示した。


上述のような人工興奮膜を用いるとニューロンやシナプスを模倣したバイオ素子を構成することが可能になる。その一例としては、この出願に係る発明者等によって、特願昭63−96851号及び特願昭63−192116号に提案されている素子が有り、例えばバイオコンピューターや種々のセンサ等への応用が期待されている。
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、第4図を用いて説明したような従来の人工興奮膜は、例えば高濃度の塩溶液側からこの溶液を加圧しかつこの溶液に電流を印加すること等により自励的な発振をさせることは出来るが、発振の停止、発振の進行、を光刺激により制御出来るものではなかった。即ち、膜電位の制御を光刺激により行なえるものではなかった。自励発振の制御を光刺激により行なえれば、人工興奮膜によりバイオセンサ等が実現されたときの当該センサの制御を無接触で行なえる等の利点が得られ非常に有用である。
この発明は、このような点に鑑みなされたものであり、従ってこの発明の目的は、人工興奮膜の膜電位の変化に起因する発振の停止・開始を光により無接触で然も可逆的に制御出来る光応答人工興奮膜を提供することにある。
(課題を解決するための手段)
この目的の達成を図るため、この発明の光応答人工興奮膜によれば、その一方の面を高濃度塩溶液に接触させ、その他方の面を低濃度塩溶液に接触させ、膜電位変化を発生させる自励発振可能な人工興奮膜であって、微小孔を有する支持体に下記■式で示されるジオレイルホスフェートと下記■式で示されるアゾベンゼンとの混合物を吸着させてなり、自励発振の発振開始及び発振停止が可視光及び紫外光により制御されるものであることを特徴とする。




この発明の光応答人工興奮膜によれば、微小孔を有する支持体に、上記■式で示されるジオレイルホスフェートと上記■式で示されるアゾベンゼンとの混合物を吸着させてあり、微小孔内にこの混合物が含浸された状態にある。ここで上記アゾベンゼンは可視光照射時と紫外光照射時とで構造が立体的に変化するから、この構造変化における一方の状態が、第4図を用いて説明した多層膜化を阻害するようになる。このため、微小孔は油滴によりふさがれたままとなり微小孔の貫通が阻止される。この結果人工興奮膜の膜電位変化が阻止され発振の停止が可能になり、発振の制御が出来る。
このことについて、以下に詳述する。
アゾベンゼンは、紫外光(UV)と可視光(VIS)とを選択的に照射することにより、下記■式に示すように可逆的にシス型−トランス型の幾何異性化反応を行なうことが知られている(文献:ポリマー(Polymer)22(1981)p.1511)。


トランス型のアゾベンゼン分子は、横から見ると2つのベンゼン環平面が一平面上に位置する構造になり、シス型のアゾベンゼン分子は2つのベンゼン環がV字状に折れ曲がった嵩高い構造になる。
従って、アゾベンゼンとジオレイルホスフェートとの混合物に対し紫外線を照射しアゾベンゼンをシス型にした場合、これが嵩高い構造であるので配列分子の間隔を広げ、この結果ジオレイルホスフェートの多層膜構造を不安定化するようになる。このため、微小孔の貫通が阻止され人工興奮膜の発振の停止が可能になり、結果的に発振の制御が出来る。
(実施例)
以下、図面を参照して、この発明の光応答人工興奮膜の実施例につき説明する。なお、以下の説明では、この発明が理解し得る程度に特定の条件を例示して説明するが、この発明は、これら条件にのみ限定されるものではないことを理解されたい。また、以下の実施例で用いた薬品類の出所を一部省略する場合もあるが、いずれの薬品も容易に入手出来るものでありかつ化学的に充分に純粋なものを用いた。
人工興奮膜の作製手順の説明 始めに、微小孔を有する支持体を孔径8μmの貫通孔を多数有するセルロースエステル製の多孔質膜(ミリポアフィルター、ミリポア社製)とし、脂質類似物質を下記の構造式■で表されるジオレイルホスフェート(Dioleyl Phosphate。以下、DOPHと略称することもある。)とし、光により構造が立体的に変化する物質を上記■式で表されるアゾベンゼンとした例の実施例の光応答人工興奮膜(以下、単に実施例の人工興奮膜と云う場合もある。)の作製手順につき説明する。


DOPHは、この実施例の場合以下のように合成し精製したものを用いた。
出発物質として、オレイルアルコール(関東化学(株)製)とオキシ塩化リン(POCl3)(関東化学(株)製)とを用い、これらを周知の合成手段によって反応させた後、得られた合成物質を加水分解する。このようにして、前述の構造式■に示すようなDOPHを得、これをクロマト法により精製した。
アゾベンゼンは、この実施例の場合東京化成工業製のものを再結晶法により精製したものを用いた。
次に、アゾベンゼンをDOPHの5重量%となるように秤量し、然る後、これらDOPHとアゾベンゼンとを溶媒としてのベンゼンに溶かす。
次に、この溶液中に上述のセルロース・エステル製の多孔質膜を浸漬する。浸漬後この多孔質膜を取り出しベンゼンを蒸発させ、DOPHとアゾベンゼンとの混合物を吸着させた実施例の人工興奮膜を得る。なお、この実施例の場合、混合物の吸着量が4(mg/cm2)となるようにした。
また、実施例との比較を行なうため、DOPHのみを用いて多孔質膜に吸着させたことを除いては上述と同一の手順で、従来技術に係る人工興奮膜(以下、比較例の人工興奮膜と称する。)を4(mg/cm2)の吸着量で作製した。
自励発振用装置の説明 次に、実施例及び比較例の人工興奮膜の自励発振を確認するための装置(以下、自励発振用装置と云う。)の説明を行なう。第2図は、この実施例で用いた自励発振用装置の概略的な構成を示す説明図である。なお、同図中、断面を示すハッチング等は一部省略する。
この第2図に示すように、実施例或いは比較例の人工興奮膜(図中では代表して31で示す。)は、一方の面が第一の電解槽33aに収容された100mMのKCl水溶液35aと接し、他方の面が第二の電解槽33bに収容された5mMのKCl水溶液35bと接した状態で支持される。
第一及び第二の電解槽33a,33bの周囲には図示せずも恒温水を循環させる設備が設けてあり、槽内温度を任意の値に制御出来る。この実施例の場合、KCl水溶液35a,35bの温度が20℃±1℃となるようにしている。また、第二の電解槽33bの一部には人工興奮膜31に対し紫外光及び可視光を照射するための光透過窓37cを設けてある。
2種類のKCl水溶液35a及び35bには、銀−塩化銀(Ag−AgCl)で構成される標準電極37a或いは37bを夫々浸漬させてある。そして、高濃度側である100mMKCl水溶液35a中に浸漬された標準電極37aを、直流電源39の陽極側に接続し、低濃度側である5mMKCl水溶液35b中の標準電極37bを、上述した直流電源39の陰極側に接続させ人工興奮膜に対し定電流を印加している。
さらに、この自励発振装置は、人工膜31に加わる電位差の時間変化を測定して記録するため、高インピーダンス電位計とX−Yレコーダーとからなる測定器41を具えている。そしてこの測定器41に接続する標準電極43a或いは43bを、上述したKCl水溶液35aと35bとの夫々に浸漬させてある。
さらにこの自励発振装置は、第一の電解槽33aに接続されているマノメーター45を具え、このマノメータ45を介してのみ、図中に矢印aを付して示す外的な圧力を、人工膜31に対して加えることが可能な構成となっている。なお、この実施例では、上述したマノメーター45によって加えた圧力を印加圧力として説明する。
上述した印加電流と印加圧力は、実施例及び比較例の人工興奮膜の発振を生じさせるために必要な条件であり、ある値に設定されるものである。
さらにこの自励発振用装置は、電解槽33a,33bを収納する暗箱47と、光透過窓37cを通して人工興奮膜31に紫外光及び可視光のいずれを選択的に照射するための光源49を具える。光源49は、紫外光用光源としての理化学用水銀ランプと、可視光用光源として波長450nm以下の光を除去する色ガラスフィルタ及び波長700nm以上の光を除去する多層フィルタを装備したハロゲンランプとを具えている。
自励発振の測定結果説明次に、上述した自励発振用装置を用いて、実施例及び比較例の人工興奮膜の自励発振の測定を以下に説明するように行なった。
<発振条件の測定> 先ず、実施例及び比較例の人工興奮膜の自励発振条件を測定した。この測定は、直流電源39を用い人工興奮膜39に対し0.5(μA)の定電流を印加しながら印加圧力aを徐々に増加させて行なった。ただし、実施例の人工興奮膜に対しては、上記条件に加え、これに含まれるアゾベンゼンの90%以上がトランス型に異性化するように可視光を照射した場合と、アゾベンゼンの90%以上がシス型に異性化するように紫外光を照射した場合との2つの条件の下で測定した。なお、上記異性化を達成する光照射条件は、各々予め決定してある。
この測定結果によれば、比較例の人工興奮膜は、発振開始印加圧力として18cmH2Oを必要とし、そのときの発振周波数が0.57sec-1であることが分った。一方、実施例の人工興奮膜は、可視光を照射した場合は発振が現われ、発振開始印加圧力として16cmH2Oを必要とし、そのときの発振周波数が0.60sec-1であることが分ったが、紫外光を照射した場合は、膜電位の上昇は認められたものの電位はもとにもどらず発振が現われないことが分った。
第3図は、上述の発振条件の測定結果を説明するため、横軸に印加圧力をとり、縦軸に発振周波数をとり、印加圧力と発振周波数との関係を示した図である。第3図R>図中、Iで示す曲線は実施例の人工興奮膜の可視光照射後の特性、IIは比較例の人工興奮膜の特性である。曲線I及びIIを比較すると、実施例の人工興奮膜で可視光照射したもののほうが、比較例の人工興奮膜よりわずかに発振し易いと云えるが、これは誤差範囲内と考えられ両者は実質的に同一と考えて良いと思われる。
上述の実験結果からも明らかなように、DOPHにアゾベンゼンを含有させても、アゾベンゼン分子がトランス型になっている時は、アゾベンゼン分子はDOPHの多層膜構造の安定性を低下させることがないと云える。しかし、このアゾベンゼンがシス型になっている時は、これがDOPHの多層膜構造を不安定なものとするため、DOPHは多層膜構造を取らず油滴状態を取る。この理由は、多層膜構造を取って配列しているDOPH分子間のシス型アゾベンゼン分子はV字型の嵩高い構造を取るため配列している分子の間隔を広げDOPHの多層膜構造を不安定化するためと考えられる。
<光応答性の確認> 次に、実施例及び比較例の人工興奮膜の発振が光により制御されるものであるか否かにつき、以下に説明するような実験により調べた。
先ず第2図を用いて説明した自励発振用装置に実施例の人工興奮膜をセット後、この人工興奮膜に対し可視光を照射した。次いで、自励発振用装置の印加圧力を20cmH2Oとし、印加電流を0.5μAとした。この結果、実施例の人工興奮膜は、油滴状態と多層膜状態とを繰り返し、膜電位変化が周期的に現われ、自励発振した。次に、この発振状態の実施例の人工興奮膜に対し、紫外光を照射したところ、発振は停止し膜電位は高い状態で一定値となった。次に、紫外光照射により発振が停止した実施例の人工興奮膜に対し、紫外光の照射停止後しばらくした後今度は可視光を照射した。するとこの人工興奮膜は再び自励発振した。実施例の人工興奮膜の上述の発振の光応答性の様子を、縦軸に膜電位をとり、横軸に時間をとり、第1図(A)に示した。
続いて、比較例の人工興奮膜についても、実施例の人工興奮膜の場合と同様に、20cmH2Oの圧力及び0.5μAの電流を印加することで自励発振させ、実施例の人工興奮膜の場合と同様に紫外光及び可視光を順に照射した。しかし、比較例の人工興奮膜の発振状態は、光照射によってはなんら変わることがなかった。比較例の人工興奮膜の上述の発振の光応答性の様子を、縦軸に膜電位をとり、横軸に時間をとり、第1図(B)に示した。
このように、この発明に係る人工興奮膜は、これに対し紫外光及び可視光を選択的に照射することにより、自励発振の停止・開始の制御が出来ることが分った。
以上がこの発明の実施例の説明である。しかしこの発明は上述の実施例のみに限定されるものではなく以下に説明するような種々の変更を加えることが可能である。
例えば、実施例中で述べたDOPHと、アゾベンゼンとの混合比、また、DOPHと、アゾベンゼンとから成る混合物の支持体への吸着量は、単なる例示にすぎない。これら値は、自励発振及び光制御性を確保出来る範囲内で設計に応じ種々に変更されるものであることは理解されたい。なお、上記吸着量の制御は、例えばDOPHとアゾベンゼンのベンゼンに溶解させる量を変えることで容易に行なえる。
また、実施例で用いた支持体も単なる例示にすぎず、材質、微小孔の直径等は設計に応じ変更出来る。原理的には、支持体は微小孔が1個であっても良いと云える。また、例えばシリコン基板に微小孔を設けたような無機材料の支持体でも良い。
また、上述の実施例では、効果の説明を容易とするため、特定の実験装置を例示して、種々の特性を測定した場合につき説明した。しかしながら、この発明の人工興奮膜の効果は、特定の装置によってのみ達成されるものではないこと明らかである。
(発明の効果)
上述した説明からも明らかなように、この発明の光応答人工興奮膜は、塩濃度差のある溶液を当該光応答人工興奮膜により仕切ると膜電位を生じ自励発振するという従来の人工興奮膜の物性に加え、当該人工興奮膜に対し外部から紫外光を照射すると自励発振が停止し、可視光を照射すると自励発振が再開するという新たな物性を有する。
従って、この発明の光応答人工興奮膜を用い神経細胞や五感センサ等を模倣した素子を構築した場合、当該素子の制御を無接触で可逆的に行なえる等の利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
第1図(A)及び(B)は、実施例及び比較例の人工興奮膜の発振の光応答性の説明に供する図、
第2図は、自励発振を確認するために用いた装置の説明に供する図、
第3図は、印加圧力と、発振周波数との関係を示す図、
第4図(A)及び(B)は、自励発振のメカニズムの説明に供する図である。
11……支持体、11a……微小孔
13……低塩濃度の塩溶液、15……高塩濃度の塩溶液
17……油滴状態の脂質等、19……カチオン
21……多層膜状態の脂質等
31……比較例或いは実施例の人工興奮膜
33a……第一の電解槽、33b……第二の電解槽
35a……100mMのKCl水溶液
35b……5mMのKCl水溶液
37a,37b,43a,43b……標準電極
37c……光透過窓、39……直流電源
41……測定器、45……マノメーター
a……外的な圧力、47……暗箱
49……光源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】その一方の面を高濃度塩溶液に接触させ、その他方の面を低濃度塩溶液に接触させ、膜電位変化を発生させる自励発振可能な人工興奮膜であって、微小孔を有する支持体に下記■式で示されるジオレイルホスフェートと下記■式で示されるアゾベンゼンとの混合物を吸着させてなり、自励発振の発振開始及び発振停止が可視光及び紫外光により制御されるものであることを特徴とする光応答人工興奮膜。




【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【特許番号】第2523181号
【登録日】平成8年(1996)5月31日
【発行日】平成8年(1996)8月7日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−154823
【出願日】平成1年(1989)6月17日
【公開番号】特開平3−20623
【公開日】平成3年(1991)1月29日
【出願人】(999999999)沖電気工業株式会社
【参考文献】
【文献】特開昭63−191929(JP,A)
【文献】特開昭63−32364(JP,A)