説明

光応答性に優れる光触媒薄膜を与える光触媒塗工液及び該光触媒薄膜

【課題】光照射下、特に紫外線照射下および可視光照射下の両方における光触媒活性が高く、透明性および均一性に優れる光触媒薄膜を与える光触媒塗工液ならびに該光触媒薄膜を提供する。
【解決手段】光触媒、ポリ酸化合物および分散媒を含む光触媒塗工液;光触媒とポリ酸化合物とを有してなり、基体上に形成された光触媒薄膜。前記塗工液は、更に、水溶性チタン化合物からなるバインダー成分を前記光触媒に対して1.0〜100質量%含んでいてもよい。また、前記光触媒薄膜は、更に、非晶質酸化チタン系材料からなるバインダーを有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光応答性、特に紫外線応答性および可視光応答性の両方に優れる光触媒薄膜を与える光触媒塗工液に関するものである。更に詳しくは、光触媒の分散状態を維持したまま、光応答性、特に紫外線応答性および可視光応答性の両方に優れる光触媒薄膜を与え、該光触媒薄膜は多様な基材への高い密着性を保持している光触媒塗工液に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の基材表面に形成された光触媒薄膜は、その中に含まれる酸化チタン等の光触媒が光の照射により有機物分解力及び親水性を発揮することから、基材表面の清浄化、脱臭、抗菌等の用途に活用されている。現在、このような光触媒薄膜は、外装用タイル、ガラス、外壁塗装、空気清浄機内部のフィルター、無機系の基材(セラミック、金属等)への応用が主体であるが、プラスティック材料等の有機材料からなる基材への応用も近年盛んに検討されている(特許文献1及び2)。しかし、従来、有機材料からなる基材上に形成された光触媒薄膜は、膜厚がナノレベル(1μm未満)である場合には不均一になることがあり、また、可視光下での光触媒活性が不十分であり、その向上が望まれている。殊に可視光応答性に優れ、様々な基材と複合化させた上で充分な透明性および密着性を維持する事ができる光触媒薄膜は未だ創出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-116461号公報
【特許文献2】特開2006-272757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点を鑑み、光照射下、特に紫外線照射下および可視光照射下の両方における光触媒活性が高く、透明性および均一性に優れる光触媒薄膜を与える光触媒塗工液ならびに該光触媒薄膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決する手段として、本発明は第一に、光触媒、ポリ酸化合物および分散媒を含む光触媒塗工液を提供する。
本発明は第二に、光触媒とポリ酸化合物とを有してなり、基体上に形成された光触媒薄膜を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の光触媒塗工液から得られる光触媒薄膜は、光応答性、特に、紫外線応答性のみならず可視光応答性に優れ、更に、密着性、透明性および均一性に優れる。該塗工液は、中性であるため安全に取り扱うことができ、加えて水性である場合には更に安全に取り扱うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「酸化チタン系」材料とは多様な酸化チタンおよび多様なペルオキソチタン酸、並びにそれらの塩基あるいは酸との化合物を包含する。
【0008】
[光触媒]
本発明において光触媒としては従来知られているいずれのものも使用することができ、例えば、酸化チタン系光触媒、酸化タングステン系光触媒、酸化亜鉛系光触媒、酸化ニオブ系光触媒等のn型半導体金属酸化物系光触媒が挙げられる。光触媒は可視光応答性光触媒であることが好ましい。光触媒は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0009】
より具体的には、光触媒としては、(A)n型半導体金属酸化物(即ち、異種元素が担持もドープもされていない未処理のものである)からなる光触媒、(B)n型半導体金属酸化物に該金属酸化物中の元素とは異種の元素もしくは該異種の元素の化合物が担持されてなる光触媒、(C)n型半導体金属酸化物に該金属酸化物中の元素とは異種のドーパント元素がドープされてなる光触媒、またはこれらの2種以上の組み合わせを用いることができる。
【0010】
上記(A)の光触媒としては、例えば、アナターゼ型の二酸化チタン(TiO2)、ルチル型の二酸化チタン、ブルッカイト型の二酸化チタン、三酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、Gaドープ酸化亜鉛(GZO)、酸化ニオブ(Nb2O5)等が挙げられる。また、上記(A)の光触媒には、ペルオキソ基(-O-O-)を有するn型半導体金属酸化物からなる光触媒も含まれ、その例としては、ペルオキソチタン結晶(特にアナターゼ型結晶構造を持つペルオキソチタン結晶)等が挙げられる。なお、ペルオキソチタンは、下記構造式に示すような、Ti-O-Ti結合の一部がTi-O-O-Ti結合に転化した化合物(錯体)である。
【0011】
【化1】

【0012】
上記(B)の光触媒としては、例えば、上記(A)の光触媒の具体例として挙げたn型半導体金属酸化物に銅、鉄、ニッケル、金、銀、白金、炭素等の元素または該元素の化合物、例えば、水酸化物、塩化物、窒化物、硫化物等を担持したものが挙げられる。
【0013】
上記(C)の光触媒としては、例えば、上記(A)の光触媒の具体例として挙げたn型半導体金属酸化物に窒素、硫黄、リン、炭素等のドーパント元素をドープしたものが挙げられる。
【0014】
中でも、可視光応答性光触媒としては、上記(B)もしくは(C)の光触媒またはこれらの組み合わせを好適に使用することができる。
【0015】
可視光応答性光触媒の具体例としては、白金を担持したルチル型酸化チタン、鉄を担持したルチル型酸化チタン、銅を担持したルチル型酸化チタン、水酸化銅を担持したルチル型酸化チタン、金を担持したアナターゼ型酸化チタン、白金を担持した三酸化タングステン等が挙げられる。
【0016】
光触媒としては、一次粒子径が微細な粉体が好適に使用される。具体的には、該一次粒子径は好ましくは1nm〜100nmの範囲であり、更に好ましくは1nm〜50nmの範囲である。また、光触媒は、平均粒径1〜100nmの粉体であることが好ましく、平均粒径1〜50nmの粉体であることがより好ましい。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、動的光散乱法を用いた粒度分布測定装置により求めた累積分布の50%に相当する体積基準の平均粒径をいう。
【0017】
可視光応答性光触媒の市販の材料としては、MPT-623(商品名、可視光応答性光触媒、粉体状、白金を担持したルチル型二酸化チタン、石原産業製)、MPT-625(商品名、可視光応答性光触媒、粉体状、鉄を担持したルチル型二酸化チタン、石原産業製)等が挙げられる。
【0018】
本発明の光触媒塗工液において光触媒の含有量は、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%である。
【0019】
[ポリ酸化合物]
ポリ酸化合物は、ポリオキソメタレート類、ポリオキソメタレート系化合物、金属オキソ酸化合物等とも呼ばれ、クラスター状ポリアニオンとそのカウンターカチオンとを含む化合物である。ポリ酸化合物は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0020】
ポリ酸化合物としては、例えば、上記カウンターカチオンがプロトンであるポリ酸、上記カウンターカチオンがプロトン以外のカチオンであるポリ酸塩が挙げられる。プロトン以外のカチオンとしては、例えば、アンモニウムイオン;テトラメチルアンモニウムイオン等の有機アンモニウムイオン等が挙げられ、中でもアンモニウムイオンが好ましい。ポリ酸化合物は、イソポリ酸化合物であってもヘテロポリ酸化合物であってもよい。
【0021】
具体的には、ポリ酸化合物としては、例えば、式:
Yx[XLMmOn]
(式中、MはMo、V、W、Ti、AlおよびNbのいずれかの金属原子であり、
XはH、B、C、N、O、Al、Si、P、S、Ga、In、Sn、Bi、Eu、Tb、Ce、ErおよびLaから選ばれるヘテロ原子であり、
Yは独立にHまたはNRkH4-k(式中、Rは1価有機基であり、kは0〜4の整数である。)であり、
Lは0以上の整数であり、m、nおよびxは1以上の整数であり、ただし、L、m、nおよびxは式:x=2n-V1L-V2m(ただし、V1はXの酸化数であり、V2はMの酸化数である。)を満たす。)
で表される化合物が挙げられる。なお、上記Xのうち、B、C、N、O、Al、Si、P、S、Ga、In、SnおよびBiはPブロック元素であり、Eu、Tb、Ce、ErおよびLaは希土類元素である。
【0022】
上記Rの1価有機基としては、例えば、アルキル基等の1価炭化水素基等が挙げられ、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素原子数1〜8のアルキル基等が挙げられる。上記のNRkH4-kとしては、例えば、NH4、N(CH3)4、N(CH2CH3)4等が挙げられ、中でもNH4が好ましい。
【0023】
より具体的には、ポリ酸化合物としては、例えば、リンモリブデン酸H3[PMo12O40]・nH2O(n=30)、リンタングステン酸H3[PW12O40]・nH2O(n=30)、ケイモリブデン酸H4[SiMo12O40]・nH2O(n=30)、ケイタングステン酸H4[SiW12O40]・nH2O(n=24)、モリブデン酸H2MoO4、タングステン酸H2WO4、メタタングステン酸H6[H2W12O40]、モリブデン酸アンモニウム(NH4)6Mo7O24・4H2Oが挙げられ、特にリンモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、メタタングステン酸が好適に用いられる。
【0024】
ポリ酸化合物の含有量は、前記光触媒に対して、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.02〜10質量%である。
【0025】
[分散媒]
本発明の光触媒塗工液において、光触媒は分散媒中に分散した状態で存在している。該分散媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール;またはこれらの混合物が挙げられる。該アルコールは1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0026】
[バインダー成分]
水溶性チタン化合物からなるバインダー成分は、本発明の光触媒塗工液に添加される任意成分であり、後述する所定の加熱乾燥条件により、非晶質酸化チタン系材料からなるバインダーに転換する。その結果、製膜性に特に優れた光触媒薄膜を得ることができる。
【0027】
前記水溶性チタン化合物としては、例えば、ペルオキソチタン酸等の水溶性ペルオキソチタン系化合物;水溶性チタンアルコキシド化合物、水溶性チタンアシレート化合物、水溶性チタンキレート化合物等の水溶性有機チタン化合物が挙げられる。
【0028】
上記水溶性チタンアルコキシド化合物としては、例えば、一般式(1):
Ti(OR (1)
〔式中、Rはアルキル基を示す。〕
で表されるものが挙げられる。
【0029】
一般式(1)中のRで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素原子数1〜8のアルキル基が挙げられる。
【0030】
上記の一般式(1)で表される水溶性チタンアルコキシド化合物の具体例としては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン等が挙げられる。
【0031】
上記水溶性チタンアシレート化合物としては、例えば、一般式(2):
Ti(O(CO)R (2)
〔式中、Rは一価の有機基であり、好ましくは一価の脂肪族炭化水素基である。〕
で表されるものが挙げられる。
【0032】
一般式(2)中のRで表される有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、1−プロペニル基等のアルケニル基等の脂肪族不飽和炭化水素基;アクリロイル基、メタクリロイル基等の脂肪族不飽和結合を有するアシル基;シクロヘキシル基、1−シクロヘキセニル基等の脂環式炭化水素基;フェニル基、スチリル基、トリル基、キシリル基等の芳香族炭化水素基の他、エポキシ基、グリシジル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等の含酸素複合基、ウレイド基、アミノ基、アミド基、イソシアネート基等の含窒素複合基等が挙げられる。
【0033】
更に、上記水溶性チタンアシレート化合物としては、例えば、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、オキソチタンビス(モノアンモニウムオキサレート)等も挙げられ、好ましくはチタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩等である。
【0034】
上記水溶性チタンキレート化合物として、例えば、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンテトラアセチルアセトネート等を用いることができる。
【0035】
これらの水溶性チタン化合物の中でも、水溶性ペルオキソチタン系化合物が好ましく、ペルオキソチタン酸が特に好ましい。
【0036】
このような水溶性チタン化合物の市販の材料としては、サガンコートPTAゾル(商品名、ペルオキソチタン酸中性水溶液、固形分含有量1.70質量%、鯤コーポレーション社製)、ティオスカイコートTAK-B(商品名、ペルオキソチタン酸水溶液、固形分含有量0.85質量%、ティオテクノ社製)、オルガチックスTC-400(商品名、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)の80質量%2−プロパノール溶液、チタン分含有率9.3質量%、マツモトファインケミカル(株)製)、オルガチックスTC-310(商品名、チタンラクテートの水/2−プロパノール混合溶媒溶液、チタン分含有率8.2質量%、マツモトファインケミカル(株)製)等が挙げられる。
【0037】
これらの水溶性チタン化合物は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0038】
水溶性チタン化合物からなるバインダー成分の含有量は、前記光触媒に対して、通常、1.0〜100質量%、好ましくは10〜70質量%である。
【0039】
[塗工液]
本発明の塗工液は、上記の光触媒、ポリ酸化合物および必要に応じて水溶性チタン化合物からなるバインダー成分を上記の分散媒に添加し混合することにより調製することができる。添加の順序は特に制限されず、分散媒以外の成分を同時に分散媒に添加してもよいし、まず、可視光応答性光触媒を分散媒に添加して光触媒分散液を得、これにポリ酸化合物および必要に応じてバインダー成分を添加してもよい。
【0040】
[基体]
本発明の塗工液が塗布される基体は光触媒薄膜を形成することができる限り、特に限定されない。基体の材料としては、例えば有機材料、無機材料が挙げられ、無機材料には、例えば、非金属無機材料、金属無機材料が包含される。これらはそれぞれの目的、用途に応じた様々な形状を有することができる。
【0041】
有機材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリアセタール、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、メラミン樹脂等の合成樹脂材料;天然、合成もしくは半合成の繊維材料および繊維製品が挙げられる。これらは、フィルム、その他の成型品、積層体などの所要の形状、構成に製品化されていてよい。
【0042】
非金属無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック材料等が挙げられる。これらはタイル、碍子、ミラー等の様々な形に製品化されうる。
【0043】
金属無機材料としては、例えば、鋳鉄、鋼材、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、亜鉛ダイキャスト等が挙げられ、それらはメッキが施されていてもよいし、有機塗料が塗布されていてもよい。また、非金属無機材料または有機材料の表面に施された金属メッキ被覆であってもよい。
【0044】
基体が有機材料からなる場合は特に、基体上に光触媒薄膜を形成させる前に、該基体を表面活性化処理することが好ましい。この処理により、本発明の塗工液の基体への濡れ性および塗工性が効果的に向上する。表面活性化処理としては、例えば、コロナ処理、常圧(もしくは大気圧)プラズマ処理、または低圧低温プラズマ処理を用いることができる。
【0045】
[光触媒薄膜]
本発明の光触媒薄膜は、光触媒とポリ酸化合物とを有してなり、基体上に形成された光触媒薄膜である。製膜性の観点から、該光触媒薄膜は、更に、非晶質酸化チタン系材料からなるバインダーを有することが好ましい。
【0046】
本発明の光触媒薄膜の形成方法としては、例えば、
本発明の塗工液を基体の表面に塗布して塗膜を形成させ、
得られた塗膜を80〜150℃の温度で乾燥させる
ことを含む方法が挙げられる。
【0047】
光触媒塗工液を基体に塗布するには、従来公知のいずれの方法も用いることができる。具体的には、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、刷毛塗り法、含浸法、ロール法、ワイヤーバー法、ダイコーティング法、グラビア印刷法、インクジェット法等を利用して塗膜を基体上に形成させることができる。
【0048】
基体上の上記塗膜を乾燥させる温度は、80〜150℃、好ましくは90〜110℃である。上記塗工液が水溶性チタン化合物からなるバインダー成分を含む場合、上記温度での加熱、乾燥により水溶性チタン化合物は非晶質の酸化チタン系材料に転換される。この非晶質酸化チタン系材料は非晶質酸化チタンをベースとするが、水溶性チタン化合物として水溶性有機チタン化合物を用いた場合には有機分が残存していてもよい。上記バインダー成分を含む塗工液を用いる場合、乾燥温度が150℃よりも高いと、該バインダー成分が結晶化してバインダーとしての機能が低下するとともに基体を保護する効果も低下する。
【0049】
光触媒薄膜の厚さは、好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.05〜2μmである。光触媒薄膜が薄すぎると光触媒活性が劣り、また厚すぎると剥離、割れ、そり等が発生し易く、薄膜の耐久性が低下する。
【0050】
本発明の塗工液を基体上に塗布し乾燥させて厚みが0.01〜10μmの範囲にある薄膜を形成させたとき、Haze値5以下、特に3.5以下、全光線透過率80%以上、特に85%以上の透明薄膜が得られることが好ましい。
【0051】
本発明の光触媒薄膜の紫外線下での光触媒活性は15以上であることが好ましい。また、該光触媒薄膜の可視光下での光触媒活性は10以上であることが好ましい。なお、本明細書において、光触媒薄膜の光触媒活性は以下のとおりにして測定される量である。まず、メチレンブルーの1.0mmol/L水溶液を光触媒薄膜上に塗布し、60℃で乾燥させることで、該薄膜表面に充分量のメチレンブルーを吸着させる。その後、このようにしてメチレンブルーを吸着させたサンプルフィルムに紫外線(波長:365nm、1mW/cm2)または可視光(波長400〜600nm、1mW/cm2)を照射し、光触媒評価チェッカーPCC-2(商品名、ULVAC理工社製)を用い、メチレンブルー吸着面における青色色素の吸光度(波長664nm)の減少を測定する。測定開始10分後のメチレンブルー吸光度の変化量×103を光触媒活性とする。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0053】
[光触媒薄膜の評価方法]
実施例及び比較例において、光触媒薄膜を以下のように評価した。
・粒子径分布および平均粒径の測定
光触媒水系分散液または光触媒塗工液中の光触媒微粒子の粒子径分布は、日機装社製のマイクロトラックUPA-EXにて測定した。また、光触媒微粒子の平均粒径は、上記のとおりにして測定した粒子径分布から得られる累積分布の50%に相当する体積基準の平均粒径として求めた。平均粒径の測定結果を表1に示す。
・サンプルフィルムの作製
基材として、コロナ放電処理を施したPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(厚さ50μm、A4サイズ(210mm×297mm))を用いた。前記PETフィルムの片面に光触媒塗工液を塗布し、100℃で加熱乾燥させて、該PETフィルムおよびその片面に形成された膜厚約200nmの光触媒薄膜からなるサンプルフィルムを作製した。
・膜厚の測定
光触媒薄膜の膜厚は、薄膜測定装置F-20(製品名、FILMETRICS社製)及び走査型電子顕微鏡S-3400NX(製品名、日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定した。即ち、まず、上記の電子顕微鏡にて膜厚が活性測定領域全体で均一であることを確認し、大まかな膜厚を決定してから、上記薄膜測定装置にて正確な膜厚を決定した。結果を表1に示す。
・全光線透過率およびヘイズの測定
サンプルフィルムの全光線透過率およびヘイズは、日本電色工業社製のデジタルヘイズメーターNDH-20Dにより測定した。結果を表1に示す。
・光触媒活性の測定
メチレンブルーの1.0mmol/L水溶液をサンプルフィルム中の光触媒薄膜上に塗布し、60℃で乾燥させることで、該薄膜表面に充分量のメチレンブルーを吸着させた。その後、このようにしてメチレンブルーを吸着させたサンプルフィルムに紫外線(波長:365nm、1mW/cm2)または可視光(波長400〜600nm、1mW/cm2)を照射し、光触媒評価チェッカーPCC-2(商品名、ULVAC理工社製)を用い、メチレンブルー吸着面における青色色素の吸光度(波長664nm)の減少を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例1〜5および比較例1]
・光触媒
光触媒として、市販のMPT623(商品名、白金担持二酸化チタン結晶微粒子(ルチル型)、一次粒子径約20nm、石原産業製)を使用した。光触媒塗工液中の光触媒の含有量が1.0質量%となるように各成分の添加量を調整した。
・分散媒
分散媒として水を使用した。
・ポリ酸化合物
ポリ酸化合物として以下のポリ酸を使用した。光触媒塗工液中のポリ酸化合物の含有量が光触媒に対して10質量%となるように各成分の添加量を調整した。各実施例で用いたポリ酸を表1に示す。
リンモリブデン酸H3[PMo12O40]・nH2O(n=30)
リンタングステン酸H3[PW12O40]・nH2O(n=30)
ケイモリブデン酸H4[SiMo12O40]・nH2O(n=30)
ケイタングステン酸H4[SiW12O40]・nH2O(n=24)
メタタングステン酸H6[H2W12O40]
・バインダー成分
水溶性ペルオキソチタン系化合物からなるバインダー成分として、市販のPTAゾル(商品名、ペルオキソチタン酸水溶液、固形分含有量1.70質量%、鯤コーポレーション社製)を使用した。光触媒塗工液においてPTAゾル中の固形分の含有量が光触媒に対して50質量%となるように各成分の添加量を調整した。
・光触媒塗工液
上記の光触媒と分散媒を混合して光触媒水系分散液を得、これにポリ酸化合物およびバインダー成分を更に混合して光触媒塗工液を得た。
【0055】
【表1】


※1:「添加前」とは光触媒と分散媒とからなる光触媒水系分散液へのポリ酸化合物およびバインダー成分の添加の前に測定した平均粒径を意味し、「添加後」とは該添加の後に測定した平均粒径を意味する。
※2:「ポリ酸」の行における記号の意味は以下のとおり。P/Mo:リンモリブデン酸、P/W:リンタングステン酸、Si/Mo:ケイモリブデン酸、Si/W:ケイタングステン酸、H/W:メタタングステン酸、-:ポリ酸を添加せず
※3:光触媒活性は、測定開始10分後のメチレンブルー吸光度の変化量×103を表す。
【0056】
表1の結果から、
[1]ポリ酸を光触媒塗工液に添加することで紫外線下および可視光下での光触媒活性が著しく向上すること、ならびに
[2]ポリ酸を光触媒塗工液に添加しても、光触媒微粒子の平均粒径の増大、光触媒微粒子の分散度の低下、光触媒薄膜の透明度の低下といった悪影響はないか著しく小さいこと
が分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒、ポリ酸化合物および分散媒を含む光触媒塗工液。
【請求項2】
前記ポリ酸化合物が式:
Yx[XLMmOn]
(式中、MはMo、V、W、Ti、AlおよびNbのいずれかの金属原子であり、
XはH、B、C、N、O、Al、Si、P、S、Ga、In、Sn、Bi、Eu、Tb、Ce、ErおよびLaから選ばれるヘテロ原子であり、
Yは独立にHまたはNRkH4-k(式中、Rは1価有機基であり、kは0〜4の整数である。)であり、
Lは0以上の整数であり、m、nおよびxは1以上の整数であり、ただし、L、m、nおよびxは式:x=2n-V1L-V2m(式中、V1はXの酸化数であり、V2はMの酸化数である。)を満たす。)
で表される化合物である請求項1に係る塗工液。
【請求項3】
前記ポリ酸化合物の含有量が前記光触媒に対して0.01〜50質量%である請求項1または2に係る塗工液。
【請求項4】
前記分散媒が水、アルコールまたはこれらの混合物である請求項1〜3のいずれか1項に係る塗工液。
【請求項5】
前記光触媒が平均粒径1〜100nmの粉体である請求項1〜4のいずれか1項に係る塗工液。
【請求項6】
前記光触媒が、n型半導体金属酸化物に該金属酸化物中の元素とは異種の元素もしくは該異種の元素の化合物が担持されてなる光触媒、n型半導体金属酸化物に該金属酸化物中の元素とは異種のドーパント元素がドープされてなる光触媒、またはこれらの組み合わせである請求項1〜5のいずれか1項に係る塗工液。
【請求項7】
更に、水溶性チタン化合物からなるバインダー成分を前記光触媒に対して1.0〜100質量%含む請求項1〜6のいずれか1項に係る塗工液。
【請求項8】
基体上に塗布し乾燥させて厚みが0.01〜10μmの範囲にある薄膜を形成させたとき、Haze値5以下、全光線透過率80%以上の透明薄膜を与える請求項1〜7のいずれか1項に係る塗工液。
【請求項9】
光触媒とポリ酸化合物とを有してなり、基体上に形成された光触媒薄膜。
【請求項10】
更に、非晶質酸化チタン系材料からなるバインダーを有する請求項9に係る光触媒薄膜。

【公開番号】特開2010−254887(P2010−254887A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108970(P2009−108970)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】