説明

光応答電極及びこれを備える有機太陽電池

【課題】 従来よりも光電変換効率が高められた有機材料系の光応答電極及びこれを備える有機光太陽電池を提供すること。
【解決手段】 透明導電膜3と、透明導電膜3の少なくとも一方面上に形成され、導電性高分子及び色素が互いに共有結合して成る複合高分子からなる複合電極2と、を備え、複合電極2は、電子吸引性又は電子供与性の分子を担持している光応答電極10、並びにこれを備える有機光太陽電池20。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光応答電極及びこれを備える有機太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
有機光太陽電池は、主として有機材料からなる電極を光応答電極に用いた太陽電池であり、例えば、色素及び導電性高分子を含有する複合電極を光応答電極に用いたものが知られている。この複合電極としては、これまでに、導電性高分子であるポリチオフェンと、ポルフィリン色素とを含有するものについて報告されている(例えば、非特許文献1。)。
【0003】
このような複合電極に太陽光が入射すると、色素が励起され、励起された色素は電解液中の酸化還元対を還元する。そして、この酸化還元対は酸化されることで電子を対極に渡して、回路中に電子が供給される。回路中の電子は、光応答電極において導電性基板から導電性高分子に流れ、さらに導電性高分子から酸化状態の色素に移動する。以上が繰り返されることによって、光電流が生じる。
【非特許文献1】秋山毅、外2名,「ア・ポリチオフェン−ポルフィリン・コンポジット・フィルム・フォー・フォトエレクトリック・コンヴァージョン(A polythiophene-porphyrin composite film for photoelectric conversion)」,第14回 インターナショナル・カンファレンス・オン・フォトケミカル・コンヴァージョン・アンド・ストーレージ・オブ・ソーラー・エナジー(14th International conference on photochemical conversion and storage of solar energy)(IPS-14)予稿集,2002年,W5−P8
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機太陽電池は、光応答電極に半導体電極等を用いた従来の無機系の太陽電池と比較して、安価に製造できることが期待されるものの、これまでに知られている有機太陽電池の光電変換効率は、実用的には必ずしもまだ十分とは言えないものであった。したがって、有機太陽電池の実用化のためには、その光電変換効率のさらなる向上が求められている。
【0005】
本発明は、従来よりも光電変換効率が高められた有機材料系の光応答電極及びこれを備える有機太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来の有機太陽電池においては、導電性高分子から色素への電子移動の速度が十分に大きくなく、この電子移動の効率が、有機太陽電池全体としての光電変換効率を支配する主要因となっていると推定し、この点に注目して上記課題を解決するための検討を重ねた。その結果、複合電極に電子吸引性又は電子供与性の分子を担持させることによって、有機太陽電池の光電変換効率が顕著に向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
すなわち、本発明の光応答電極は、透明導電膜と、この透明導電膜の少なくとも一方面上に形成され、導電性高分子及び色素が互いに共有結合して成る複合高分子からなる複合電極と、を備え、複合電極は、電子吸引性又は電子供与性の分子を担持していることを特徴とするものである。
【0008】
複合電極に電子吸引性又は電子供与性の分子を担持させることによって、複合電極中の導電性高分子の占有電子軌道エネルギーが変化する。そしてこの変化が、導電性高分子と色素との占有電子軌道エネルギーの差が拡大する方向で起こった結果、両者の間の電子移動の効率が高まったと本発明者らは推定している。さらにこの複合電極においては、導電性高分子と色素とが共有結合を介して互いに結合して両者が立体的に近接することで、電子移動に必要な活性化エネルギーが低下しており、このことと占有電子軌道エネルギーの差の拡大とが相まって、電子移動の効率の飛躍的な向上、ひいては光電変換効率の向上の効果が得られたと考えられる。
【0009】
なお、本発明においては、「電子吸引性の分子」とは、導電性高分子から不対電子を奪うことができる分子のことを意味し、「電子供与性の分子」とは、導電性高分子に対して不対電子を与えることができる分子のことを意味する。
【0010】
また、本発明の光応答電極は、導電性高分子の前駆体と、この前駆体と電解反応により共有結合し得る色素と、を含有する混合溶液中での電解重合により、透明導電膜の少なくとも一方面上に複合電極を形成し、さらに、この複合電極に電子吸引性又は電子供与性の分子を担持させて得られることを特徴とするものである。
【0011】
この方法においては、電解重合の際に、前駆体同士が重合するとともに、その一部が色素と共有結合を介して結合する。これにより、導電性高分子と色素とが互いに共有結合して成る複合高分子からなる複合電極が、透明導電膜上に形成される。そして、形成された複合電極に、上記と同様にして電子吸引性又は電子供与性の分子を担持させて得られる光応答電極を用いることによって、上記の光応答電極と同様に、光電変換効率に優れる有機太陽電池が得られる。
【0012】
電解重合は、混合溶液が透明導電膜に対して相対的に流動している状態で行われることが好ましい。これにより、透明導電膜近傍に導電性高分子の前駆体及び色素が均一に供給され、また、電解重合中に不要な副生物が洗い流されるため、光電変換効率をさらに高めることができる。
【0013】
色素は、ポルフィリン色素、フタロシアニン色素、シアニン色素、メロシアニン色素及びクマリン色素からなる群より選ばれる少なくとも1種の色素であることが、光電荷分離の効率を特に高められるため、好ましい。
【0014】
また、導電性高分子は、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、ポリピロール及びポリアセチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが、複合電極の電気伝導度が良好である点や、電子吸引性又は電子供与性の分子による電子移動効率向上の効果が顕著に得られやすい点等から、好ましい。
【0015】
電子吸引性又は電子供与性の分子は、光電変換効率向上の効果がさらに顕著に得られやすい点等から、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ヘキサフルオロリン酸イオン、過塩素酸イオン、ナトリウム、カリウム及びテトラブチルアンモニウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、複合電極は、電子吸引性又は電子供与性の分子を、複合高分子に対して0.01〜100質量%の割合で担持していることが好ましい。
【0016】
本発明の有機太陽電池は、上記本発明の光応答電極を備えることを特徴とするものであり、安価に製造が可能であり、また、従来の有機太陽電池と比較して光電変換効率が優れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来よりも光電変換効率が高められた有機材料系の光応答電極及びこれを備える有機太陽電池が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明の光応答電極は、透明導電膜と、この透明導電膜の少なくとも一方面上に形成され、導電性高分子及び色素が互いに共有結合して成る複合高分子からなる複合電極と、を備え、複合電極は、電子吸引性又は電子供与性の分子を担持していることを特徴とする。
【0020】
透明導電膜を構成する材料は、透明な導電性の材料であれば特に制限は無いが、例えば、アンチモンドープ酸化スズ(SnO−Sb)、フッ素ドープ酸化スズ(SnO−F)、スズドープ酸化インジウム(In−Sn)等に代表される、酸化スズや酸化インジウムに原子価の異なる陽イオン若しくは陰イオンをドープしたものが好適に用いられる。通常、この透明導電膜は基板の一方面上に形成され、基板と透明導電膜からなる導電性基板が、有機太陽電池に用いられる。このとき用いる基板は、透明な材料からなる透明基板であることが好ましく、具体的にはガラス基板であることが好ましい。基板上に透明導電膜を形成させる方法としては、真空蒸着、スパッタリング、CVD及びゾルゲル法等の方法を好適に採用できる。
【0021】
そしてこの透明導電膜の少なくとも一方面上に、上記複合高分子からなる複合電極が形成される。この複合電極の厚みは、0.01〜100μmであることが好ましい。
【0022】
複合電極を構成する複合高分子においては、導電性高分子及び色素が互いに共有結合により結合されている。直鎖状の導電性高分子と色素とが、ランダム共重合又はブロック共重合していてもよいし、直鎖状の導電性高分子の側鎖又は末端に色素が共有結合していてもよい。さらに、複合高分子においては、直鎖状の導電性高分子が、その側鎖に結合した色素を介して架橋された、架橋構造が形成されていてもよい。あるいは、主として導電性高分子からなる微粒子の表面に、色素が共有結合を介して結合している構造であってもよい。
【0023】
導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等を好適に用いることができる。これら導電性高分子はアルキル基等の任意の置換基を側鎖として有していてもよい。
【0024】
色素としては、ポルフィリン色素、フタロシアニン色素、シアニン色素、メロシアニン色素、クマリン色素、ピリジン−金属錯体色素、アントラキノン色素、キサンテン色素、フラーレン色素等が挙げられ、これらを単独又は複数組み合わせて用いられる。これらの中でも、ポルフィリン色素、フタロシアニン色素、シアニン色素、メロシアニン色素及びクマリン色素からなる群より選ばれる少なくとも1種の色素が特に好ましい。なお、これら色素としては、それぞれの色素の母体構造が任意の置換基で置換された構造を有するものを用いることができる。
【0025】
複合高分子においては、上記のような導電性高分子及び色素が互いに共有結合を介して結合している。複合高分子が、導電性高分子であるポリチオフェンと、ポルフィリン色素とが互いに共有結合を介して結合して成るものである場合、例えば下記一般式(1)のような部分構造を有している。なお、下記一般式(1)においては4個のチオフェン基のうち1個がポリチオフェン鎖と結合しているが、他のチオフェン基も同様にポリチオフェン鎖と結合していてもよい。
【0026】
【化1】

[式中、n及びnはそれぞれ独立に正の整数を示す。]
【0027】
複合高分子における導電性高分子と色素との特に好ましい組み合わせとしては、上記のポリチオフェン/ポルフィリン色素の他、ポリチオフェン/フタロシアニン色素、ポリピロール/ポルフィリン色素、ポリピロール/フタロシアニン色素等の組み合わせが挙げられる。
【0028】
本発明の光応答電極における複合電極はまた、導電性高分子の前駆体と、この前駆体と電解反応により共有結合し得る色素と、を含有する混合溶液中での電解重合により、透明導電膜の少なくとも一方面上に複合電極を形成したものであってもよい。この方法によって、通常、透明導電膜上に上記と同様の複合高分子からなる複合電極が形成される。
【0029】
導電性高分子の前駆体は、電解重合によって導電性高分子を生成する化合物であればよい。例えば、ポリチオフェンの前駆体としてはビチオフェンが挙げられる。
【0030】
これら前駆体と電解反応により共有結合し得る色素としては、例えば、色素の色素母体を、電解反応により上記前駆体と共有結合を形成し得るような置換基で置換した構造を有するものを用いることができる。電解反応により前駆体と共有結合を形成し得る置換基としては、前駆体の全体又は一部と共通の構造を有する置換基が好ましい。そのような置換基としては、前駆体としてビチオフェンを用いる場合、ビチオフェンの一部と共通の構造を有する置換基であるチオフェン基等が挙げられる。したがって、電解重合の際に用いる色素として、ポルフィリン骨格等の色素母体をチオフェン基で置換した構造を有する、下記化学式(2)で表される化合物等を用いることができる。この化合物は、例えば、ピロールと3−チオフェンアルデヒドとを、Adler法により反応させることで合成できる。また、色素としては、下記化学式(2)のようにポルフィリン色素の色素母体構造が4個のチオフェン基で置換されたものの他、1〜3個の任意の数のチオフェン基で置換された化合物を用いることもできる。
【0031】
【化2】

【0032】
上記のような前駆体及び色素を含有する混合溶液中に、基板上に形成された透明導電膜を浸漬した状態で、透明導電膜に電位を印加することにより、前駆体が色素を取り込みながら電解重合して、透明導電膜上に複合電極が形成される。混合溶媒中には、得られる光応答電極における電子移動の効率の点等から、前駆体1.0molに対して0.01〜10molの比率の色素を含有させることが好ましい。この比率が0.01mol未満であると光電荷分離の効率が低下する傾向にあり、10molを超えると電解重合で生成する導電性高分子の分子量が低下して、複合電極の膜の強度が低下する傾向にある。混合溶液に用いる溶媒は前駆体及び色素を溶解するものであればよいが、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、ニトロベンゼン、トルエン、ベンゼン等を用いることができる。なお、混合溶液中には、電解重合を効率よく進行させるために、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸等の電解質を溶解させておくことが好ましい。
【0033】
この電解重合は、混合溶液が前記透明導電膜に対して相対的に流動している状態で行うことが好ましい。これにより、透明導電膜近傍に導電性高分子の前駆体及び色素が均一に供給され、また、電解重合中に不要な副生物が洗い流されるため、光電変換効率をさらに高めることができる。このような方法の場合、透明導電膜に対して0.1〜3000cm/秒で混合溶液が流動している状態、あるいは、透明導電膜に対して1〜5000rpmで混合溶液が回転している状態で電解重合することが好ましい。このとき、透明導電膜を固定して混合溶液を流動させるか、又は攪拌等により回転させてもよいし、これと逆に、混合溶液中で透明導電膜を所定の速度で移動又は回転させてもよい。
【0034】
電解重合において透明導電膜に印加する電位は、前駆体の種類等に応じて適宜調整すればよいが、例えば前駆体としてビチオフェンを用いる場合には、通常、1〜3Vの電位を印加することによって効率的に電解重合が進行する。また、電解重合は一定の電圧で行ってもよいし、電位を経時的に変化させながら行ってもよい。
【0035】
本発明においては、以上のような複合電極に、さらに、電子吸引性又は電子供与性の分子が担持される。電子吸引性の分子とは、導電性高分子から不対電子を奪うことのできる分子のことであり、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン化合物、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロ硼酸イオン、過塩素酸イオンなどの錯イオン、五フッ化リン、三フッ化硼素などのルイス酸等が挙げられ、これらを単独又は複数組み合わせて用いられる。一方、電子供与性の分子とは、導電性高分子に対して不対電子を与えることができる分子のことであり、例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、テトラブチルアンモニウムなどのアンモニウム等が挙げられ、これらを単独又は複数組み合わせて用いられる。これらの中でも、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロ硼酸イオン及び過塩素酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の電子供与性の分子、又は、ナトリウム、カリウム及びテトラブチルアンモニウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の電子吸引性の分子が好ましい。なお、上記のうちイオン性の分子については、通常、その塩を用いて複合電極に担持させる。
【0036】
電子吸引性の分子は、導電性高分子から電子を奪って不対電子を発生させる。このとき、電子吸引性の分子は負電荷を、導電性高分子は正電荷をそれぞれ帯び、両者の間の静電的な相互作用により、電子吸引性の分子が導電性高分子に吸着された状態となる。すなわち、電子吸引性の分子が複合電極に担持される。これにより、不対電子が発生した導電性高分子の占有電子軌道エネルギーが上昇して、色素の占有電子軌道エネルギーとの間に大きな電位差が生じる結果、導電性高分子から色素への電子移動の効率が高まると考えられる。さらには、不対電子が発生した導電性高分子自体の導電性も向上し、このことも太陽電池全体としての光電変換効率向上に寄与すると考えられる。電子供与性の分子の場合には逆に、導電性高分子に電子を与えて不対電子を発生させることによって、上記の電子吸引性の分子の場合と同様の効果を奏すると考えられる。同様の作用は、電子吸引性又は電子供与性の置換基で導電性高分子を置換することによっても得られると期待されるが、本発明者らによる検討の結果、上記のように静電的な相互作用によって電子吸引性又は電子供与性の分子を担持させるほうが、光電変換効率の向上に対してはむしろ有効であることが明かとなった。
【0037】
電子吸引性又は電子供与性の分子は、複合高分子の質量に対して0.01〜100質量%の割合で担持されていることが好ましい。この割合がこの範囲内にない場合、光電変換効率向上の効果が小さくなる傾向にある。
【0038】
複合電極に電子吸引性又は電子供与性の分子を担持させる方法としては、例えば、複合電極を、電子吸引性又は電子供与性の分子の蒸気に暴露する、これら分子を含有する溶液に浸漬する、あるいは電気化学的にドープする等の方法を好適に採用することができる。電子吸引性の分子の場合、負電荷を帯びて担持されているため、複合電極に負の電位を印加すると、担持されている電子吸引性の分子が遊離してくる。この遊離してきた分子を検出することによって、電子吸引性の分子が複合電極に担持されていたことを確認できる。あるいは、負の電位を印加する前後の複合電極について元素分析し、電位の印加によって電子吸引性の分子が消失することを確認してもよい。電子供与性の分子の場合も、複合電極に正の電位を印加して同様に確認できる。
【0039】
また、本発明の光応答電極が備える複合電極には、必要に応じて、上記のような成分に加えてフラーレン、メチルビオロゲン等をさらに含有させることができる。
【0040】
以上のような構成を有する本発明の光応答電極を用いることによって、光電変換効率に優れる有機太陽電池が得られる。以下、本発明の有機太陽電池の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0041】
図1は、本発明の有機太陽電池の一実施形態を示す模式断面図である。図1に示す有機太陽電池20は、導電性基板1及びその一方面上に形成された複合電極2からなる光応答電極10と、対極CEとが、電荷移動層Eを挟んで複合電極2が電荷移動層Eと隣接するように対向した構成を有する。また、複合電極2及び電荷移動層Eからなる部分の側面を覆うように封止材層Sを設けることによって、電荷移動層Eを構成する電解液が外部に漏出することを防止している。
【0042】
光応答電極10は、上記本発明の光応答電極の一実施形態として設けられている。光応答電極10の導電性基板1は、基板4及びその一方面上に形成された透明導電膜3からなり、この透明導電膜3に隣接して複合電極2が形成されている。この複合電極2に導電性基板1を透過した光が到達したときに、複合高分子に含まれる色素が励起されて光電流が流れる。
【0043】
電荷移動層Eは、複合電極2及び対極CEの間の電子の受け渡しを媒介するための酸化還元対を溶媒に溶解させた電解液で構成される。酸化還元対は、複合電極2との間で電子の受け渡しを行えるものであれば特に制限はないが、例えば、メチルビオロゲンなどのビオロゲン化合物、ヨウ素、臭素、塩素などのハロゲン、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウムのようなハロゲン化物等が挙げられ、これらを単独又は複数組み合わせて用いられる。
【0044】
酸化還元対を溶解させる溶媒としては、酸化還元対の溶解性に優れ、非誘電率が高く、低粘度の溶媒が好ましい。具体的には、メトキシプロプオニトリル、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、γ−ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロプレンカーボネート等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。また、電荷移動層Eは、さらに高分子や低分子のゲル化剤を添加してゲル状としてもよい。
【0045】
対極CEは、電荷移動層E中の還元状態の酸化還元対を酸化する、すなわち酸化還元対から電子を受け取ることができる電極であればよい。具体的には、例えば、白金、ニッケル、ステンレスなどの金属電極、グラファイトなどの炭素電極、白金微粒子を担持した各種透明電極、あるいは、エオシンY等の天然色素やルテニウム錯体などを酸化亜鉛や酸化チタンなどに担持したn型半導体からなる電極等が挙げられる。
【0046】
封止材層Sは、電荷移動層Eの漏出を防止できるような材料で構成されていればよい。封止材層Sに用いる材料としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂や、エチレン/メタクリル酸共重合体、表面処理ポリエチレン等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0047】
有機太陽電池20は、例えば、互いに対向する光応答電極10及び対極CEの間の空間を封止材層Sで囲むように組み上げて、電荷移動層Eを充填するための密閉空間を形成し、この密閉空間に電荷移動層Eを充填することによって、作製できる。なお、光応答電極10は、上記の本発明の光応答電極についての説明において述べた材料、方法により得ることができる。
【0048】
また、本発明の有機太陽電池は、光応答電極と対極とが互いに短絡しておらず、且つ、集電が可能な位置関係でこれらが配置されていればよく、上記のような実施形態に限定されない。他の実施形態としては、例えば、光応答電極と対極との間に多孔体等からなる絶縁性のセパレータを配置し、このセパレータに電解液が充填された構成でもよい。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
ビチオフェン(濃度:1.50mmol/L)、テトラチエニルポルフィリン(濃度:0.25mmol/L)及びテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸(濃度:0.1mol/L)を、それぞれ所定の濃度になるように溶解して混合溶液を調製した。そして、ナシ型フラスコ中に入れた混合溶液に、電線を接続したITOガラス(ガラス基板/ITO)、対極用の白金電極、参照電極用の銀電極を浸漬し、混合溶液をマグネティックスターラーにより250rpmの回転速度で攪拌した。この状態で、サイクリックボルタンメトリーによってITOガラスの電位を自然電位から+2Vまで毎秒50mVの速さで昇圧し、その後直ちに同じ速さで0Vまで降圧して電解重合を行い、ITO上に電解重合膜を形成させた。この電解重合膜をアセトンで洗浄してから乾燥して、ITOガラス上に複合電極が形成された、未担持の光応答電極を得た。
【0051】
得られた複合電極を構成する複合高分子についてH−NMRを測定したところ、重合前のテトラチエニルポルフィリンにおいて観測されていた、チエニル基の5位のプロトンに由来するシグナルが消失していた。また、この複合高分子についてのMALDI法による質量分析の結果、テトラチエニルポルフィリン骨格に4〜200個程度のチオフェン骨格が結合したものに相当する分子量のシグナルが検出された。以上の結果から、ポルフィリン色素にポリチオフェンが共有結合を介して結合していることが確認された。
【0052】
さらに、この未担持の光応答電極を、ヨウ素のアセトニトリル溶液(濃度:0.01mmol/L)に浸漬した状態で5分間放置した後取り出して、アセトンで洗浄してから乾燥し、電子吸引性の分子であるヨウ素が担持された光応答電極を得た。
【0053】
なお、複合電極にヨウ素が担持されていることは、中性子放射線分析によって、サンプルから放射されるヨウ素由来のγ線を計測することにより確認した。また、ヨウ素を担持した複合電極の場合、通常、未担持の場合と比較して2倍以上の導電率を示すことから、この導電率の変化によって、ヨウ素が担持されていることを間接的に確認することもできる。
【0054】
次に、このヨウ素が担持された光応答電極を用いて、白金電極を対極として、図1と同様の構成で、参照電極として銀電極を電解移動層内にさらに配置させた有機太陽電池を作製した。なお、電荷移動層としては過塩素酸ナトリウム(濃度:0.1mmol/L)及びメチルビオロゲン(濃度:5mmol/L)を、それぞれ所定の濃度になるように水に溶解して調製した電解液を用いた。作製した有機太陽電池について、単色光を照射したときに回路を流れる光電流を測定して、外部量子効率(光電変換効率)を算出した結果を図2に示す。
【0055】
(実施例2)
実施例1で得た未担持の光応答電極を、10mol%の過塩素酸水溶液中に12時間浸漬した後、乾燥して、電子吸引性の分子である過塩素酸がアニオンとして担持された光応答電極を得た。得られた光応答電極を用いて、実施例1と同様に、有機太陽電池の作製と、その光電流を測定した。算出した外部量子効率の結果を、図3に示す。
【0056】
(実施例3)
実施例1で得た未担持の光応答電極を、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸の塩化メチレン溶液(濃度:0.1mol/L)中に12時間浸漬した後、乾燥して、ヘキサフルオロリン酸アニオンが担持された光応答電極を得た。得られた光応答電極を用いて、実施例1と同様に、有機太陽電池の作製と、その光電流を測定した。算出した外部量子効率の結果を、図4に示す。
【0057】
(実施例4)
8重量%の酸化亜鉛微粒子を、1重量%のトリトン−X100と共にエタノール中に懸濁させた懸濁液を、透明導電性ガラス基板上に塗布し、これを550℃で30分間加熱して、酸化亜鉛電極を形成させた。続いてこれをエオシンY色素のアセトニトリル溶液(濃度:10nmol/L)に24時間浸漬した後、乾燥して、酸化物n型半導体電極を得た。
【0058】
さらに、酸化物n型半導体電極と、実施例1のヨウ素が担持された光応答電極とを、Oリングを介して対向させたものをクリップで固定して得た電極複合体に、電荷移動層を注入して、有機太陽電池を作製した。このとき、電荷移動層としては、ヨウ化リチウム(濃度:0.05mol/L)及びヨウ素(濃度:0.05mol/L)をプロピオニトリルにそれぞれ所定の濃度で溶解して調製したものを用いた。得られた有機太陽電池に、AM1.5、100mW/cm2の擬似太陽光(キセノンランプ光源)を照射し、そのときの電流−電圧曲線(図5)を測定した。図5に示すように、この有機太陽電池は良好な光電変換効率を示すことがわかった。
【0059】
(比較例1)
実施例1で得た未担持の光応答電極をそのまま光応答電極として用いて、実施例1と同様にして、有機太陽電池の作製と、その光電流を測定した。算出した外部量子効率の結果を、図2〜4に実施例2〜3の結果とともに示す。
【0060】
以上のように、実施例1〜3によれば、比較例1と比較して外部量子収率(光電変換効率)が顕著に向上することがわかった。また、実施例4によれば、ヨウ素を含む電解液を用いることで複合電極へのヨウ素の担持も同時に行うことができ、簡便に高効率の有機太陽電池が得られることがわかった。すなわち、本発明によれば、従来よりも光電変換効率が高められた有機材料系の光応答電極及びこれを備える有機光太陽電池が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明による有機太陽電池の一実施形態を示す模式断面図である。
【図2】実施例1及び比較例1の有機太陽電池の外部量子効率の結果を示すグラフである。
【図3】実施例2及び比較例1の有機太陽電池の外部量子効率の結果を示すグラフである。
【図4】実施例3及び比較例1の有機太陽電池の外部量子効率の結果を示すグラフである。
【図5】実施例4の有機太陽電池の電流−電圧曲線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1…導電性基板、2…複合電極、3…透明導電膜、4…基板、10…光応答電極、20…有機太陽電池、CE…対極、E…電荷移動層、S…封止材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電膜と、
該透明導電膜の少なくとも一方面上に形成され、導電性高分子及び色素が互いに共有結合して成る複合高分子からなる複合電極と、を備え、
前記複合電極は、電子吸引性又は電子供与性の分子を担持している、光応答電極。
【請求項2】
導電性高分子の前駆体と、該前駆体と電解反応により共有結合し得る色素と、を含有する混合溶液中での電解重合により、透明導電膜の少なくとも一方面上に複合電極を形成し、
該複合電極に、電子吸引性又は電子供与性の分子を担持させて得られる、光応答電極。
【請求項3】
前記電解重合は、前記混合溶液が前記透明導電膜に対して相対的に流動している状態で行われる、請求項2に記載の光応答電極。
【請求項4】
前記色素は、ポルフィリン色素、フタロシアニン色素、シアニン色素、メロシアニン色素及びクマリン色素からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3の何れか一項に記載の光応答電極。
【請求項5】
前記導電性高分子は、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、ポリピロール及びポリアセチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4の何れか一項に記載の光応答電極。
【請求項6】
前記電子吸引性又は電子供与性の分子は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ヘキサフルオロリン酸イオン、過塩素酸イオン、ナトリウム、カリウム及びテトラブチルアンモニウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5の何れか一項に記載の光応答電極。
【請求項7】
前記複合電極は、電子吸引性又は電子供与性の分子を、前記複合高分子に対して0.01〜100質量%の割合で担持している、請求項1〜6の何れか一項に記載の光応答電極。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の光応答電極を備える有機太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−19189(P2006−19189A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197286(P2004−197286)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】