説明

光情報記録媒体とその製造方法

【課題】有機記録層、溶融防止層、有機中間層が基板側からこの順に形成された記録層単位を1単位以上含む光情報記録媒体について、有機中間層形成時に有機記録層が溶融するのを防ぎ、有機記録層が明確な界面を有する耐環境性、信頼性の高い光情報記録媒体とその製造方法を提供すること。
【解決手段】基板2と、上記基板2上にトラックガイド溝をもつトラックガイド層11、有機中間層5dを形成し、続いて有機記録層3a〜3c、有機中間層5a〜5cを交互に形成した光情報記録媒体において、各有機記録層と中間層の間に無機誘電体、もしくは無機半導体からなる溶融防止層4a〜4dを形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光情報記録媒体とその製造方法に関し、特に記録層を1層以上有する大容量記録が可能な耐環境性が良い光情報記録媒体に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
情報技術分野の進歩に伴い、CD(コンパクトディスク)、DVD等の光ディスクの大容量化が従来より求められてきた。これまでレーザを短波長化すること、および対物レンズの開口数NAを大きくすることにより記録ピットを微小化し、面内記録密度を向上させてきた。近年さらなる大容量化を狙った次世代光ディスクとして、体積ホログラム記録や図4(a)、(b)に示すような多層記録方式といった3次元記録技術の研究開発が盛んに行われている。図4(a)の記録媒体101は、基板102上に記録層103a〜103dと、記録光と再生光に対して実質的に透明な中間層105a〜105dを交互に形成したものである。ここで実質的に透明であるとは、1層あたりの吸収率が0.5%以下であり、望ましくは0〜0.1%であることを意味する。以下では、実質的に透明であるという定義はこれに従うものとする。基板側から順に形成した記録層、中間層から成る記録単位106の数は1単位以上であり、図4(a)に示す限りではない。ここで中間層とは、記録層間に位置するものに限らず、前記情報記録媒体101の中間層105aのように最表面に位置するもの、および最も基板側に形成した記録層単位と基板との間に形成したもの(図示なし)も含めるとする。以下、中間層の定義はこれに従うものとする。記録用光源(図示なし)からの記録光107は、対物レンズ108により所望の記録層103cに集光され、その光学定数を変化させることにより記録ピット109として記録することができる。
【特許文献1】特開2003−317316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記中間層には紫外線硬化樹脂など、塗布により形成可能な樹脂が好適であるが、前記記録層が有機材料より成る場合、前記記録媒体101のような構造では必然的に、有機記録層上に直接紫外線硬化樹脂を形成することになる。従来より硬化前の紫外線硬化樹脂を塗布時に有機記録層が溶融してしまい、正常な記録再生特性が得られない問題があった。
【0004】
前記問題を解決するため提案されている方法を前記情報記録媒体101に適用した例が図4(b)で示す情報記録媒体101’である。すなわち、各有機記録層103’a〜103’d上に、例えば紫外線硬化樹脂を塗布する場合、まず有機記録層が溶融しにくい第一の紫外線硬化樹脂104a〜104dを溶融防止層として形成、続いて第二の紫外線硬化樹脂105’a〜105’dを有機中間層として形成するという方法である(特開2003−317316号公報)。基板から順に形成された有機記録層、有機溶融防止層、有機中間層から成る記録層単位106’の数は1単位以上であり、図4(b)に示す限りではない。ここでの問題は、溶解度が低いとはいえ有機記録層上に硬化前の紫外線硬化樹脂を塗布すると、有機材料同士という材料の組み合わせ上、有機記録層上層部が溶融し、明確な境界面が得られず、記録ピットの形成、再生に支障をきたす可能性があることである。また媒体作製後も周囲の温度変化等によって、経時的に有機記録層が有機中間層に拡散する恐れもある。特にフォトンモード記録の場合は、記録層と、それに隣接する層との界面での反射光同士の干渉効果を用いており、記録部と未記録部における再生光の微小な反射率差を検出する必要があるため、実効的な記録層厚の変化、僅かな境界面のぼやけに対して記録・再生特性が大きく左右される可能性がある。
【0005】
本発明は、以上のような諸問題を解決するためなされたものであり、有機中間層の形成時において有機記録層の溶解、それに伴う有機記録層界面の明瞭性の低下を防止し、より光情報記録媒体の耐環境性、信頼性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、基板と、前記基板上に順に形成された有機記録層、溶融防止層、有機中間層からなる記録層単位を1単位以上設けた光情報記録媒体において、溶融防止層として有機材料ではなく無機誘電体、もしくは無機半導体材料を用いることにより、有機記録層が硬化前の樹脂に直接触れる過程をなくし、有機記録層の溶融を防いだ情報記録媒体である。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明による光情報記録媒体は、有機記録層と有機中間層の間に無機誘電体、もしくは無機半導体材料である溶融防止層を形成したので、有機中間層を塗布時の有機記録層の溶融がなく明瞭な有機記録層界面が得られ、記録再生特性が良好でより信頼性、耐環境性に優れた光情報記録媒体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1の光情報記録媒体について図1を用いて説明する。図1に示すように、本発明の実施形態である情報記録媒体1は、基板2、有機記録層3a〜3d、無機溶融防止層4a〜4d、有機中間層5a〜5dから成る。無機溶融防止層は、無機誘電体、もしくは無機半導体である。基板側から順に形成された有機記録層、無機溶融防止層、有機中間層を含む記録層単位6の数は1単位以上であり、図1で示した限りではない。また、記録層単位には必要に応じて光反射層など他の層を含んでもよい。
【0009】
各有機記録層は公知のプッシュプル法を用いてトラックサーボをかけるための誤差信号を発生させるトラック溝10を持つ。有機記録層の材料は、例えばヒートモード記録材料のフタロシアニン等の色素や、フォトンモード記録材料のジアリールエテンまたはその誘導体である。記録層が数層の場合はヒートモード記録材料への1光子吸収により、記録ピット9の形成が可能であるが、例えば記録層が10層を超えるような多層記録媒体には、上層での吸収損失のために下層の記録層に記録することが難しく、この場合2光子吸収過程を用いたフォトンモード記録が適している。
【0010】
2光子吸収が可能な材料は、記録光の波長、例えば780nmの半分の波長またはその近傍、例えば390nmで吸収をもつ材料である。さらに記録によって屈折率が変化し、かつ記録状態、未記録状態共に記録光に対して実質的に透明である材料が望ましい。各有機記録層上には無機誘電体、もしくは無機半導体材料からなる溶融防止層を形成することにより、有機記録層を侵すことなく有機中間層を形成でき、また前述したような有機記録層の経時的拡散を防止でき、耐環境性の向上が期待できる。有機記録層の基板側と有機中間層は互いに接しているが、より効果を上げるため、これらの層間にも無機溶融防止層(図示なし)を形成してもよい。ここで無機溶融防止層は、記録光、再生光に対して実質的に透明である方が吸収損失を抑えられ、多層化にも適用できるので好ましい。
【0011】
また無機溶融防止層は、フォトンモード記録材料の吸収波長には吸収を有し、できればバンドギャップによる吸収端の波長がフォトンモード記録材料の吸収波長のピーク値より小さいことが望ましい。吸収を有するとは、1層あたりの光吸収率が0.5%以上であることを意味するものとする。これにより、環境光の一光子吸収によりフォトンモード記録材料が退色するのを防ぐ効果がある。さらに無機溶融防止層は、塗布により形成可能な材料であれば、低コストで製造でき好適である。
【0012】
例えば有機記録層に、フォトンモード記録材料で380nmで吸収ピークをもつジアリールエテン誘導体(cis−1,2−Dicyano−1,2−bis ethene)を用いた場合、無機溶融防止層として、例えば吸収端波長388nmのアナターゼ型酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化テルル、チタン酸ストロンチウム、吸収端波長413nmのルチル型酸化チタン、炭化シリコン、吸収端波長443nmの酸化インジウム、吸収端波長497nmの硫化カドミウム等の微粒子を含む水溶液を塗布することにより形成すれば、多層記録に適用可能で、記録層の感光防止、低コスト化に効果がある。前記ジアリールエテン誘導体は開環体、閉環体が存在するが、この材料における吸収波長とは、開環体のそれを指すものとする。
【0013】
なお、ペルオキソチタン水和物の水溶液を塗布することより形成したアモルファス酸化チタンの膜も、溶融防止層として用いれば同等の効果が得られる。前記水溶液は有機記録膜上で撥水性を示すが、界面活性剤をごく微量加えることでぬれ性よく塗布することができる。他に無機溶融防止層として可能な材料は、例えば吸収端波長326nmの酸化スズ、吸収端波長344nmの硫化亜鉛等で、フォトンモード記録材料の吸収特性に応じて使い分ければよい。中間層には記録光、再生光に対して実質的に透明で、かつ塗布により形成できる紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂等が好適である。また有機中間層は、有機記録層との界面で充分な反射率を得るため、有機記録層との屈折率差が0.05以上あるものが望ましい。尚、図1で示した構造では、最下層の有機記録層3dのみ基板2と隣接しており、この記録層の反射率が他の層のそれと異なる可能性があるが、これを防ぐために、最下層の有機記録層3dと基板2との間に中間層(図示なし)を設けてもよい。
【0014】
(実施の形態2)
次に実施の形態2について、図2を用いて説明する。実施の形態1の情報記録媒体との相違点は、各有機記録層3a〜3cが平坦であり、最も基板側にある、基板側から順に形成された有機記録層、無機溶融防止層、有機中間層を含む記録層単位6’と基板との間に、基板側から順にトラックガイド溝10を具備するトラックガイド層11、中間層5dが形成されていることである。記録層単位6’の数は1単位以上であり、図2に示す限りではない。トラックガイド照明光12は、対物レンズ8によりトラックガイド溝10に集光され、その反射光を検出することでトラックサーボ用の誤差信号を得ることができる。実施の形態1とは違い、記録層単位を形成する度にトラックガイド溝を形成する必要が無いので、工程が簡略化され、低コストで製造できる。また記録層が平坦であるため、記録層からの反射光には通常トラックガイド溝を照射時に発生する高次の回折光が入らないため、反射率を大きくできるとともに、反射信号のSN比が向上するという効果がある。ここでこの情報記録媒体1’の全過程を塗布により行う製造工程について、図3を用いて説明する。まず、トラックガイド溝10が形成された基板2(図3(a))上に、基板2よりも屈折率の高い無機誘電体膜等を塗布し、トラックガイド層11とする(図3(b))。次に有機中間層5dを塗布により形成し(図3(c))、続いて有機記録層3c、無機溶融防止層4c、有機中間層を順に塗布し、記録層単位6’を形成する(図3(d))。そして、必要ならば図3(d)で行った工程を繰り返し、所望の数の記録層単位を形成する(図3(e))。
【実施例】
【0015】
次に、本発明による光情報記録媒体の実施例を説明する。
【0016】
(実施例1)
トラックガイド溝10を形成した厚さ1.1mmのポリカーボネート基板2に界面活性剤(変性シリコーンオイル)を微量(0.2%以下)加え、ぬれ性を良くしたペルオキソチタン水和物(Ti(OH))の水溶液を回転数2000rpmでスピンコートによる塗布を複数回繰り返し、0.1μmのアモルファスTiO膜を形成してトラックガイド層11とした。続いてアクリレート系紫外線硬化樹脂を回転数3000rpmでスピンコートにより4μm塗布して中間層5dとし、その後PMMA(ポリメチルメタアクリレート)を20%混合したジアリールエテン誘導体(cis−1,2−Dicyano−1,2−bis ethene)を回転数3000rpmでスピンコートにより0.1μm形成して記録層3cとした。さらに前記ペルオキソチタン水和物水溶液、紫外線硬化樹脂をこの順に上記と同様のスピンコートによってそれぞれ10nm、4μm形成し、無機溶融防止層4c、有機中間層5cとした。これら有機記録層、無機溶融防止層、有機中間層からなる記録層単位の作製をその後2回繰り返し行い、図2に示す情報記録媒体1’を作製した。この作製の過程において、有機記録層の溶融は一切見られなかった。
【0017】
(実施例2)
前記実施例1において、トラックガイド層11、有機溶融防止層4a〜4cをアモルファスTiO膜に代えて、膜厚が同じTeOの蒸着膜により形成したこと、およびジアリールエテン誘導体の記録膜を蒸着により形成したことを除いては前記実施例1と同様の情報記録媒体1’を作製した。この場合も、作製の過程において有機記録層の溶融は一切見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の情報記録媒体によれば、有機記録層と、それに隣接する層との界面が明確で、記録・再生特性の信頼性、耐環境性の高い光情報記録媒体の利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1における光情報記録媒体1の構成と、記録再生の様子を示す図
【図2】本発明の実施の形態2における光情報記録媒体1’の構成と、記録再生の様子を示す図
【図3】本発明の実施の形態2における光情報記録媒体1’の作製工程の例を説明する図
【図4】(a)本発明の技術背景における多層記録方式の光情報記録媒体の構成と、記録再生の様子を示す図(b)本発明の発明が解決しようとする課題における、光情報記録媒体の構成と、記録再生の様子を示す図
【符号の説明】
【0020】
1 光情報記録媒体
1’ 光情報記録媒体
2 基板
3 有機記録層
4 無機溶融防止層
5 有機中間層
6 記録層単位
6’ 記録層単位
7 記録光/再生光
8 対物レンズ
9 記録ピット
10 トラックガイド溝
11 トラックガイド層
12 トラックガイド照射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された記録層単位を1単位以上含み、前記記録層単位は前記基板側から順に形成された有機記録層、溶融防止層、有機中間層を含み、前記溶融防止層は無機誘電体、もしくは無機半導体材料であることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項2】
溶融防止層は塗布により形成された請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項3】
有機記録層、有機中間層のうちの少なくともいずれかが塗布により形成された請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項4】
溶融防止層は、ペルオキソチタン水和物、酸化チタン、酸化テルル、酸化亜鉛、酸化スズ、硫化亜鉛、酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム、炭化シリコン、酸化インジウム、硫化カドミウムの少なくともいずれかを含む材料により形成された請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項5】
有機中間層の屈折率と有機記録層との屈折率の差は0.05以上である請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項6】
有機記録層はフォトンモード記録材料を含む請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項7】
フォトンモード記録材料はジアリールエテンまたはその誘導体である請求項6に記載の光情報記録媒体。
【請求項8】
溶融防止層は無機半導体で、記録波長と再生波長に対して実質的に透明で、フォトンモード記録材料の吸収波長に吸収を有する請求項6に記載の光情報記録媒体。
【請求項9】
無機半導体のバンドギャップによる吸収端の波長がフォトンモード記録材料の吸収波長のピーク値よりも大きい請求項8に記載の光情報記録媒体。
【請求項10】
有機中間層は紫外線硬化樹脂である請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項11】
基板と記録層単位との間に、有機中間層を設けた請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項12】
記録層単位は複数であり、記録層単位の間に無機溶融防止層を形成した請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項13】
有機中間層と記録層単位との間に無機溶融防止層を形成した請求項11に記載の光情報記録媒体。
【請求項14】
トラックガイド溝を基板のみに形成した請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項15】
トラックガイド溝をもつ基板上にトラックガイド層、有機中間層を順に塗布により形成した後、有機記録層、無機溶融防止層、有機中間層を順に塗布することにより記録層単位を形成するか、またはこれを繰り返すことにより、複数単位の記録層単位を塗布により形成する請求項1に記載の光情報記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−293970(P2007−293970A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118885(P2006−118885)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】