説明

光情報記録媒体用半透過反射膜と反射膜、及び光情報記録媒体、並びにスパッタリングターゲット

【課題】本発明は、純Agや従来のAg合金が満たし得ない高耐凝集性、高耐光性、高耐熱性と高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率とを兼ね備えるAg基合金を見出すことにより、優れた記録再生特性と長期信頼性が得られる光情報記録媒体用半透過反射膜と反射膜、及びそれらの半透過反射膜又は半透過反射膜の成膜に使用される光情報記録媒体用スパッタリングターゲット、並びにそれらの半透過反射膜又は反射膜を備える光情報記録媒体を提供することをその課題としている。
【解決手段】Liを0.01〜10原子%含有するAg基合金であることを特徴とする光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜、反射膜及び光情報記録媒体用Ag基合金スパッタリングターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、Blu-ray Disc、HD DVD等の光情報記録媒体の分野において、高耐凝集性、高耐光性、高耐熱性を有し、なおかつ高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率も有する光情報記録媒体用半透過反射膜と反射膜、及びそれらの半透過反射膜又は反射膜の成膜に使用される光情報記録媒体用スパッタリングターゲット、並びにそれらの半透過反射膜又は反射膜を備える光情報記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光情報記録媒体(光ディスク)にはいくつかの種類があり、記録再生方式から再生専用型、追記型、書換型の三種類に大別される。また、一般的な片面一層の光ディスクに対して、大記録容量化の観点から開発された片面多層の光ディスクもある。例えば、片面二層光ディスクの場合、レーザー光の入射に遠い側の記録層で信号の記録や再生を行うには、レーザー光を入射に近い側の記録層を透過させ、遠い側の記録層で反射させ、再び近い側の記録層を透過させる必要がある。したがって、レーザー光の入射に近い側の記録層にはレーザー光を反射させ、また透過させることも可能な半透過反射膜が使用される。
【0003】
半透過反射膜として機能する材料には、Ag、Al、Au、Pt、Rh、Cr等の金属や、Si、Ge等の単元素半導体が挙げられる。これらの材料の中でも、(1)光の効率(=反射率+透過率)が高く、(2)Blu-ray DiscやHD DVDで使用される青紫色レーザー(波長:405 nm)に対して高反射率を示し、(3)信号記録時に記録膜から発せられる熱を適切に熱拡散させるための高熱伝導率を示す、純AgあるいはAgを主成分とするAg合金が注目されている。このAg系の材料は、光ディスクの半透過反射膜として優れた性能、つまり高反射率、高透過率、低吸収率(吸収率=100%−(反射率+透過率))、高熱伝導率を有するものではあるが、長期信頼性が得られる光ディスクの半透過反射膜として機能するには、Ag系材料の課題である〔1〕耐凝集性、〔2〕耐光性、〔3〕耐熱性を改善する必要がある。
【0004】
〔課題1〕耐凝集性:Ag系の材料は熱やハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)の影響を受けて凝集しやすく、光ディスクの信頼性試験が行われる高温高湿環境下、あるいはハロゲンを含む有機材料(有機色素記録膜、保護層、接着剤層)と積層される状態に保持されると、凝集に伴う薄膜の表面粗度増加や不連続膜化が起こり、半透過反射膜や反射膜としての機能が劣化する問題がある。
【0005】
〔課題2〕耐光性:例えば、片面二層の再生専用型光ディスクは、基本的にポリカーボネート(PC)基板\半透過反射膜\接着剤層\全反射膜\PC基板の断面構造からなる。この光ディスクに対して耐光性試験と称するXeランプ(太陽光に似たスペクトルのランプ)の照射を行うと、半透過反射膜がAg系材料の場合に限って反射率の低下が起こり、再生信号を検出可能な反射率の下限を下回った時点で、信号を再生することが不可能となる問題がある。
【0006】
〔課題3〕耐熱性:例えば、片面二層の追記型光ディスクは、基本的にPC基板\記録膜\半透過反射膜\スペーサー\記録膜\全反射膜\PC基板の断面構造からなり、また片面二層の書換型光ディスクは、基本的にPC基板\誘電体保護膜\界面層\記録膜\界面層\誘電体保護膜\半透過反射膜\中間層\誘電体保護膜\界面層\記録膜\界面層\誘電体保護膜\全反射膜\PC基板の断面構造からなる。これら追記型や書換型を含む記録型光ディスクでは、信号記録時に記録膜が300〜600 ℃まで昇温されるため、半透過反射膜や反射膜が受ける熱負荷は非常に厳しく、熱負荷の影響で起こる薄膜の結晶粒成長や不連続膜化が、半透過反射膜や反射膜としての機能を劣化させる問題がある。
【0007】
これまでに、純Agの改善(主に合金化の)例として、次のようなものが報告されている。例えば、特許文献1などではAgにAu、Pd、Cu、Rh、Ru、Os、Ir、Ptを添加することによって、あるいは特許文献2及び特許文献3などではAgにAu、Pd、Cu、Rh、Ru、Os、Ir、Be、Ptを添加することによって、さらには特許文献4と特許文献5などではAgにPd、Cuを添加することによって、耐腐食性を改善させる方法が提示されている。また、本発明者らが特許文献6において、AgにNdを添加することにより組織安定性(Agの拡散が抑制され、結晶粒成長が抑制されるという意味での組織安定性)を改善させる方法を提示している。
【0008】
しかしながら、高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率を有しつつも、高耐凝集性、高耐光性、高耐熱性をも有するAg基合金は見出されておらず、これら全ての要求特性を兼ね備えるAg基合金が強く求められている。
【特許文献1】米国特許6007889号明細書
【特許文献2】米国特許6280811号明細書
【特許文献3】特表2002-518596号公報
【特許文献4】米国特許5948497号明細書
【特許文献5】特開平6-208732号公報
【特許文献6】特許第3365762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたもので、その目的は、純Agや従来のAg合金が満たし得ない高耐凝集性、高耐光性、高耐熱性と高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率とを兼ね備えるAg基合金を見出すことにより、優れた記録再生特性と長期信頼性が得られる光情報記録媒体用半透過反射膜と反射膜、及びそれらの半透過反射膜又は反射膜の成膜に使用される光情報記録媒体用スパッタリングターゲット、並びにそれらの半透過反射膜又は反射膜を備える光情報記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、Liを0.01〜10原子%含有するAg基合金であることを特徴とする光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜又は反射膜である。
【0011】
請求項2の発明は、Biを0.005〜0.8原子%含有するものである請求項1に記載の光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜又は反射膜である。
【0012】
請求項3の発明は、希土類金属元素のSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜2原子%含有するものである請求項1又は2のいずれかに記載の光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜又は反射膜である。
【0013】
請求項4の発明は、上記希土類金属元素がNd及び/又はYである請求項3に記載の光情報記録用Ag基合金半透過反射膜又は反射膜である。
【0014】
請求項5の発明は、Cu、Au、Rh、Pd、Ptから選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜3原子%含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜又は反射膜である。
【0015】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載のAg基合金半透過反射膜を備えることを特徴とする光情報記録媒体である。
【0016】
請求項7の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載のAg基合金反射膜を備えることを特徴とする光情報記録媒体である。
【0017】
請求項8の発明は、Liを0.01〜10原子%含有するAg基合金であることを特徴とする光情報記録媒体用Ag基合金スパッタリングターゲットである。
【0018】
請求項9の発明は、Biを0.02〜8原子%含有するAg基合金であることを特徴とする請求項8に記載の光情報記録媒体用Ag基合金スパッタリングターゲットである。
【0019】
請求項10の発明は、希土類金属元素のSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜2原子%含有するものである請求項8又は9のいずれかに記載の光情報記録媒体用Ag基合金スパッタリングターゲットである。
【0020】
請求項11の発明は、上記希土類金属元素がNd及び/又はYである請求項10に記載の光情報記録用Ag基合金スパッタリングターゲットである。
【0021】
請求項12の発明は、Cu、Au、Rh、Pd、Ptから選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜3原子%含有するものである請求項8〜11のいずれかに記載の光情報記録媒体用Ag基合金スパッタリングターゲットである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の光情報記録媒体用半透過反射膜と反射膜は、前述のように高耐凝集性、高耐光性、高耐熱性と高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率とを兼ね備えるため、光情報記録媒体の記録再生特性と長期信頼性を格段に高めることが可能となる。また、本発明のスパッタリングターゲットは、前述の半透過反射膜あるいは反射膜の成膜に好適に使用され、これを用いて成膜された半透過反射膜や反射膜は合金組成と合金元素分布と膜厚膜面内均一性に優れ、かつ不純物成分の含有量が少ないため、半透過反射膜又は反射膜としての高性能が良好に発揮され、記録再生特性と長期信頼性に優れた光情報記録媒体が生産可能となる。そして、本発明の光情報記録媒体は、記録再生特性と長期信頼性を格段に高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明者らは、前述したような課題の下で、高耐凝集性、高耐光性、高耐熱性と高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率とを兼ね備える光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜と反射膜を提供するべく、鋭意研究を重ねてきた。すなわち、種々のAg基合金スパッタリングターゲットを使用し、スパッタリング法によって種々の合金組成からなるAg基合金薄膜を成膜し、これらの膜組成、耐凝集性、耐光性、耐熱性、反射率、透過率、吸収率、熱伝導率を評価した。その結果、Liを0.01〜10原子%含有するAg基合金薄膜が、純Ag薄膜や従来のAg基合金薄膜を凌駕する優れた耐凝集性、耐光性、耐熱性と高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率とを兼ね備えることを見出し、本発明を完成した。
【0024】
本発明者らは、Liを含有するAg基合金薄膜が、純Ag薄膜や従来のAg基合金薄膜に比較して、特に耐光性に優れていることを明らかにした。例えば、PC基板\半透過反射膜\接着剤層\全反射膜\PC基板を基本断面構造とする片面二層の再生専用型光ディスクにXeランプ(太陽光に似たスペクトルのランプ)による光照射を行うと、半透過反射膜がAg系材料の場合に限り、反射率の低下が起こる。これは光照射によってAgがイオン化し、Agイオンが隣接するPC基板及び/又は接着剤層へ拡散することにより生じる現象である。本発明のLiを含有するAg基合金薄膜では、Agよりイオン化傾向が大きいLiの犠牲防食効果、つまりLiの優先的なイオン化によってAgのイオン化が抑制され、光照射による反射率低下が抑えられ、耐光性が改善される。さらに、Liを含有するAg基合金薄膜は、耐光性に優れているだけではなく、Ag系材料の課題である耐凝集性、耐熱性も改善され、しかもAg系材料の特長である高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率も兼ね備える最良のAg基合金薄膜であることを明らかにした。
【0025】
本発明の光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜及び反射膜は、Liを0.01〜10%(以下、特記しない限り原子%を表す)含有するところに特徴を有する。Liの含有は、その含有量の増加にともなって、より明確な耐光性、耐凝集性、耐熱性向上効果が得られるものの、反射率・透過率・熱伝導率の低下と、吸収率の増加を引き起こす。したがって、本発明ではLiの含有量を0.01〜10%とする。Liの含有量が0.01%未満の場合は高耐光性、高耐凝集性、高耐熱性が得られないため好ましくなく、一方、Liの含有量が10%を超える場合は高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率が得られないため好ましくない。したがって、Liの好ましい含有量は0.01〜10%、より好ましい含有量は0.05〜8%、より一層好ましい含有量は0.1〜6%である。
【0026】
なお、本発明の光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜及び反射膜に、耐凝集性と耐熱性と耐食性をさらに向上させる目的で、Biを含有させることも有効である。Biの含有量について、0.005%未満の場合は耐凝集性と耐熱性と耐食性のさらなる向上効果が得られず、0.8%を超える場合は高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率が得られないため、含有量を0.005〜0.8%とし、好ましくは0.01〜0.6%、より好ましくは0.05〜0.4%とする。
【0027】
また、本発明の光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜及び反射膜に、耐凝集性と耐熱性をさらに向上させる目的で、希土類金属元素のSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜2%含有させることも有効である。この希土類金属元素としてはNd及び/又はYが特に有効である。希土類金属元素の総含有量について、0.1%未満の場合は耐凝集性と耐熱性のさらなる向上効果が得られず、2%を超える場合は高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率が得られないため、総含有量を0.1〜2%とし、好ましくは0.2〜1%、より好ましくは0.3〜0.5%とする。
【0028】
さらに、本発明の光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜及び反射膜に、耐食性をさらに向上させる目的で、Cu、Au、Rh、Pd、Ptから選ばれる少なくとも1種を含有させることも有効である。Cu、Au、Rh、Pd、Ptから選ばれる少なくとも1種の総含有量について、0.1%未満の場合は耐食性のさらなる向上効果が得られず、3%を超える場合は高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率が得られないため、総含有量を0.1〜3%とし、好ましくは0.2〜2%、より好ましくは0.3〜1%とする。
【0029】
本発明の光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜とは、レーザー光の入射方向に対して片面多層光ディスクで最も奥の記録層以外の記録層において透過と反射を機能させる薄膜のことで、透過率はおおよそ45〜80%、反射率はおおよそ5〜30%である。また、その膜厚は、これらの透過率と反射率を満たす範囲で適宜決定すればよいが、標準的には5〜25nmとすればよい。
【0030】
また、本発明の光情報記録媒体用Ag基合金反射膜とは、片面単層光ディスクの反射膜、もしくはレーザー光の入射方向に対して片面多層光ディスクで最も奥の記録層における反射膜のことで、反射率はおおよそ50%以上、透過率はほぼ0%である。また、その膜厚は、これらの反射率と透過率を満たす範囲で適宜決定すればよいが、標準的には50〜250nmとすればよい。
【0031】
本発明の光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜と反射膜は、前述したAg基合金を真空蒸着法やイオンプレーティング法やスパッタリング法などの各種薄膜形成方法によって成膜基板上に成膜することで得られるが、これらの薄膜形成方法の中でもスパッタリング法によって成膜されたものが推奨される。スパッタリング法によって成膜されたAg基合金半透過反射膜とAg基合金反射膜は、他の薄膜形成方法によって成膜されたものに比較して、合金組成と合金元素分布と膜厚の膜面内均一性に優れており、半透過反射膜及び反射膜として優れた性能(高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率、高耐凝集性、高耐光性、高耐熱性)が良好に発揮され、記録再生特性と長期信頼性に優れた光情報記録媒体が生産可能となる。
【0032】
本発明のAg基合金半透過反射膜及び反射膜をスパッタリング法によって成膜する際に使用されるスパッタリングターゲット(以下、単に「ターゲット」ともいう。)として、Liを0.01〜10%含有するAg基合金ターゲットを用いることにより、所望の化学組成のAg基合金半透過反射膜又は反射膜を得ることができる。Li量については、0.01〜10%とし、好ましくは0.05〜8%、より好ましくは0.1〜6%である。
【0033】
また、上記Ag基合金半透過反射膜又は反射膜に、さらに0.005〜0.8%のBiを含有させようとする場合は、ターゲットとしてBiを0.02〜8%含有し、好ましくは0.1〜6%含有し、より好ましくは0.2〜4%含有するAg基合金を用いることにより、所望の化学組成のAg基合金半透過反射膜又は反射膜を得ることができる。ここで、ターゲット中のBi量を半透過反射膜や反射膜中のBi量より多くする理由は次の通りである.すなわち、Biを含むAg基合金からなるターゲットを用いてスパッタリング法により半透過反射膜や反射膜を成膜する際、半透過反射膜や反射膜中のBi量はターゲット中のBi量の数%〜数十%に低下することが認められる。この原因としては、AgとBiの融点差が大きいために成膜中に基板上からBiが再蒸発すること、Agのスパッタ率がBiのスパッタ率に比べて大きいためにBiがスパッタされにくいこと、BiがAgに比べて酸化されやすいためにターゲット表面でBiのみが酸化されてスパッタされないこと、などが考えられる。このように半透過反射膜や反射膜中の合金元素含有量がターゲット中の合金元素含有量から低下する現象は、Ag-希土類金属元素系合金など、他のAg基合金では見られない現象である。このため、ターゲット中のBi量は目標とする半透過反射膜や反射膜中のBi量より高くする必要がある。
【0034】
また、上記Ag基合金半透過反射膜又は反射膜に、さらに0.1〜2%の希土類金属元素のSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1種、特にNd及び/又はYを含有させようとする場合は、ターゲット中にこれらの元素を含有するAg基合金を用いることにより、所望の化学組成のAg基合金半透過反射膜又は反射膜を得ることができる。希土類金属元素のSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1種、特にNd及び/又はYの総含有量については、0.1〜2%とし、好ましくは0.2〜1%、より好ましくは0.3〜0.5%である。
【0035】
また、上記Ag基合金半透過反射膜又は反射膜に、さらに0.1〜3%のCu、Au、Rh、Pd、Ptから選ばれる少なくとも1種を含有させようとする場合は、ターゲット中にこれらの元素を含有するAg基合金を用いることにより、所望の化学組成のAg基合金半透過反射膜又は反射膜を得ることができる。Cu、Au、Rh、Pd、Ptから選ばれる少なくとも1種の総含有量については、0.1〜3%とし、好ましくは0.2〜2%、より好ましくは0.3〜1%である。
【0036】
本発明の光情報記録媒体用Ag基合金スパッタリングターゲットは、溶解・鋳造法や粉末焼結法やスプレイフォーミング法などのいずれの方法によっても製造できるが、これらの製造方法の中でも特に真空溶解・鋳造法によって製造されたものが推奨される。真空溶解・鋳造法によって製造されたAg基合金スパッタリングターゲットは、他の方法によって製造されたものに比較して窒素や酸素などの不純物成分の含有量が少なく、このスパッタリングターゲットを使用して成膜された半透明反射膜や反射膜では優れた特性(高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率、高耐凝集性、高耐光性、高耐熱性)が効果的に引き出され、記録再生特性と長期信頼性に優れた光情報記録媒体が生産可能となる。
【0037】
本発明の光記録媒体は、本発明のAg基合金半透過反射膜又はAg基合金反射膜を備えていればよく、その他の光情報記録媒体としての構成は特に限定されず、光情報記録媒体分野において公知のあらゆる構成を採用することができる。例えば、前述のAg基合金からなる半透過反射膜又は反射膜は、高反射率、高透過率、低吸収率、高熱伝導率、高耐凝集性、高耐光性、高耐熱性を有しているため、現在の再生専用型、追記型、書換型光情報記録媒体に好適に使用することができるのはもちろんのこと、次世代大記録容量光情報記録媒体にも好適に用いることができる。
【0038】
(実施例)
実験例によって本発明をさらに詳述するが、以下の実験例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは、全て本発明の技術範囲に包含される。
(1)薄膜試料の成膜
純Agスパッタリングターゲット(サイズφ101.6mm×t5mm)、Ag-Li合金スパッタリングターゲット(サイズφ101.6mm×t5mm)、Ag-Li-Bi合金スパッタリングターゲット(サイズφ101.6mm×t5mm)、Ag-Li合金スパッタリングターゲット又はAg-Li-Bi合金スパッタリングターゲット上に合金元素(Nd、Y、Cu、Au)のチップ(サイズ5mm×5mm×t1mm)所定数を配置した複合スパッタリングターゲット(サイズφ101.6mm×t5mm)、各種Ag合金スパッタリングターゲット(サイズφ101.6mm×t5mm)等のいずれかを用い、島津製作所製スパッタリング装置HSM-552を使用し、DCマグネトロンスパッタリング法(背圧:0.27×10-3Pa以下、Arガス圧:0.27 Pa、Arガス流量:30 sccm、スパッタパワー:DC 200 W、極間距離:52 mm、基板温度:室温)によって、ポリカーボネート基板(直径:50mm、厚さ:1.0mm)上に薄膜試料(試料番号1〜139)を成膜した。成膜にあたっては、膜厚を100nm(光情報記録媒体において反射膜として使用する場合に相当する膜厚)として、後記する膜組成の分析と、耐凝集性(熱起因の凝集、ハロゲン起因の凝集)、耐熱性、熱伝導率の評価を行い、膜厚を15nm(光情報記録媒体において半透過反射膜として使用する場合に相当する膜厚)として、耐光性、反射率、透過率、吸収率の評価を行った。
(2)膜組成の分析
前述のように成膜された薄膜のうち、Ag合金薄膜(試料番号2〜139)の膜組成を誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)質量分析法によって分析した。詳細には、Ag合金薄膜を分析試料として、これを硝酸:純水=1:1の酸溶液中に溶解し、この酸溶液を200℃のホットプレート上で加熱し、分析試料が酸溶液中に完全に溶解したことを確認してから室温まで冷却して、セイコーインスツルメント製ICP質量分析装置SPQ-8000を使用してAg合金薄膜中に含まれる合金元素量を測定した。膜組成の分析結果を表1(試料番号1〜50)、表2(試料番号51〜100)及び表3(試料番号100〜139))に示す。なお、この膜組成については以下に述べる膜特性の評価結果を表した表4〜21にも合わせて示した。
【0039】
【表1】

【表2】

【表3】

【0040】
(3)耐光性の評価
前述のように成膜された薄膜(試料番号1〜139)の上層に紫外線硬化樹脂膜を積層したものについて、日本分光製紫外可視近赤外分光光度計V-570DSを用いて、波長400〜800nmにおける分光反射率と分光透過率を測定した。その後、スガ試験機製スーパーキセノンフェードメーターSX75Fを用いて、キセノンアークランプによる紫外・可視光の照射(照射照度:120 W/m2、照射温度:80℃、照射時間:144時間)試験を施し、この試験後に再び分光反射率と分光透過率を測定した。耐光性の評価結果を表4〜6に示す。
【0041】
【表4】

【表5】

【表6】

【0042】
表4〜6では、Blu-ray Disc、HD DVD等において使用される波長405nmレーザー光に対する反射率の照射試験前後の反射率変化が1%未満のものを高耐光性を有するものと見なして○、1%以上のものを高耐光性を有しないものと見なして×で表している。
【0043】
表4〜6よりAg薄膜(試料番号1)、Ag-Au薄膜(試料番号2)、Ag-Pd薄膜(試料番号3)、Ag-Pt薄膜(試料番号4)は高耐光性を示さない。
【0044】
これに対して、試料番号5〜139は、Liを含有することによって高い耐光性を示す。なお、Rh、Pd、Ptの添加効果はCu、Auと同様である。
(4)耐凝集性〔熱起因の凝集〕の評価
前述のように成膜された薄膜(試料番号1〜139)について、Digital Instruments社製Nanoscope IIIa走査型プローブ顕微鏡を用いて、AFM(Atomic Force Microscope)観察モードにより平均表面粗さRaを測定した。そして、同じ薄膜に対して高温高湿(温度:80℃、湿度:90%RH、保持時間:48時間)試験を施し、この試験後に再び平均表面粗さRaを測定した。耐凝集性〔熱起因の凝集〕の評価結果を表7〜9に示す。
【0045】
【表7】

【表8】

【表9】

【0046】
表7〜9では、高温高湿試験前後の平均粗さ変化が1.5nm未満のものを高耐凝集性を有するものと見なして○、1.5nm以上のものを高耐凝集性を有しないものと見なして×で表している。
【0047】
表7〜9から明らかなように、本発明の規定用件を満たすAg合金薄膜(試料番号5〜139)はいずれも高耐凝集性を示し、これを満たさないAg薄膜(試料番号1)、Ag-Au薄膜(試料番号2)、Ag-Pd薄膜(試料番号3)、Ag-Pt薄膜(試料番号4)は高耐凝集性を示さ
ない。なお、Rh、Pd、Ptの添加効果はCu、Auと同様である。
(5)耐凝集性〔ハロゲン起因の凝集〕の評価
前述のように成膜された薄膜(試料番号1〜139)について、Digital Instruments社製Nanoscope IIIa走査型プローブ顕微鏡を用いて、AFM(Atomic Force Microscope)観察モードにより平均表面粗さRaを測定した。そして、同じ薄膜に対して塩水浸漬(塩水濃度:NaClが0.05mol/l、塩水温度:20℃、浸漬時間:5分間)試験を施し、この試験後に再び平均表面粗さRaを測定した。耐凝集性〔ハロゲン起因の凝集〕の評価結果を表10〜12に示す。
【0048】
【表10】

【表11】

【表12】

【0049】
表10〜12では、塩水浸漬試験前後の平均粗さ変化が3nm未満のものを高耐凝集性を有するものと見なして○、3nm以上のものを高耐凝集性を有しないものと見なして×で表している。
【0050】
表10〜12から明らかなように、Ag-Au薄膜(試料番号2)、Ag-Pd薄膜(試料番号3)、Ag-Pt薄膜(試料番号4)と、本発明の規定用件を満たすAg合金薄膜(試料番号5〜139)はいずれも高耐凝集性を示し、これを満たさないAg薄膜(試料番号1)は高耐凝集性を示さない。なお、Rh、Pd、Ptの添加効果はCu、Auと同様である。
(6)耐熱性の評価
前述のように成膜された薄膜(試料番号1〜139)について、Digital Instruments社製Nanoscope IIIa走査型プローブ顕微鏡を用いて、AFM(Atomic Force Microscope)観察モードにより平均表面粗さRaを測定した。そして、同じ薄膜に対して、成瀬科学器械製回転磁場中熱処理装置を使用した真空加熱(真空度:0.27×10-3Pa以下、温度:300℃、保持時間:0.5時間)試験を施し、この試験後に再び平均表面粗さRaを測定した。耐熱性の評価結果を表13〜15に示す。
【0051】
【表13】

【表14】

【表15】

【0052】
表13〜15では、真空加熱試験前後の平均粗さ変化が1.5nm未満のものを優れた耐熱性を有するものと見なして◎、1.5nm以上3.0nm未満のものを高い耐熱性を有するものと見なして○、3.0nm以上ものを高耐熱性を有しないものと見なして×で表している。
【0053】
Ag薄膜(試料番号1)、Ag-Au薄膜(試料番号2)、Ag-Pd薄膜(試料番号3)、Ag-Pt薄膜(試料番号4)は高耐熱性を示さない。
【0054】
これに対して、試料番号5〜139は高い耐熱性を示している。特にNd及び/又はYを含有させたものは、優れた耐熱性を示す。なお、Rh、Pd、Ptの添加効果はCu、Auと同様である。
(7)反射率、透過率、吸収率の評価
前述のように成膜された薄膜(試料番号1〜139)について、日本分光製紫外可視近赤外分光光度計V-570DSを用いて、波長400〜800nmにおける分光反射率と分光透過率を測定した。また、測定した反射率と透過率から吸収率(=100%−(反射率+透過率))を算出した。Blu-ray Disc、HD DVD等において使用される波長405nmレーザー光に対する反射率、透過率、吸収率の評価結果を表16〜18に示す。
【0055】
【表16】

【表17】

【表18】

【0056】
表16〜18では、純Ag薄膜の反射率18%、透過率68%、吸収率14%に対して、反射率15%以上、透過率60%以上、吸収率25%未満を示すものを優れた光学特性を有するものと見なして○、反射率15%未満、透過率60%未満、吸収率25%以上を示すものを優れた光学特性を有しないものと見なして×で表している。
【0057】
Ag-16%Li薄膜(試料番号8)はLi含有量が多いため、高反射率、高透過率、低吸収率を示さない。
【0058】
これに対して、他の薄膜は、高反射率、高透過率、低吸収率を示す。なお、Rh、Pd、Ptの添加効果はCu、Auと同様である。
(8)熱伝導率の評価
前述のように成膜された薄膜(試料番号1〜139)について、熱伝導率を以下の方法で測定した。日置電機製3226 mΩ Hi TESTERを用いて直流四探針法によりシート抵抗Rsを、そしてTENCOR INSTRUMENTS社製alpha-step 250を用いて膜厚tを測定し、電気抵抗率ρ(=シート抵抗Rs×膜厚t)〔μΩcm〕を算出してから、ヴィーデマン−フランツの法則より絶対温度300K(≒27℃)の熱伝導率κ(=2.51×絶対温度T/電気抵抗率ρ)〔W/(m・K)〕を算出した。熱伝導率の評価結果を表19〜21に示す。
【0059】
【表19】

【表20】

【表21】

【0060】
表19〜21では、純Ag薄膜の熱伝導率320W/(m・K)の5割以上に相当する160W/(m・K)以上を示すものを高熱伝導率を有するものと見なして○、160W/(m・K)未満を示すものを高熱伝導率を有しないものと見なして×で表している。
【0061】
Ag-16%Li薄膜(試料番号8)はLi含有量が多いため、高熱伝導率を示さない。
【0062】
これに対して、他の薄膜は、高熱伝導率を示す。なお、Rh、Pd、Ptの添加効果はCu、Auと同様である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
Liを0.01〜10原子%含有するAg基合金であることを特徴とする光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜又は反射膜。
【請求項2】
Biを0.005〜0.8原子%含有するものである請求項1に記載の光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜又は反射膜。
【請求項3】
希土類金属元素のSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜2原子%含有するものである請求項1又は2のいずれかに記載の光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜又は反射膜。
【請求項4】
上記希土類金属元素がNd及び/又はYである請求項3に記載の光情報記録用Ag基合金半透過反射膜又は反射膜。
【請求項5】
Cu、Au、Rh、Pd、Ptから選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜3原子%含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の光情報記録媒体用Ag基合金半透過反射膜又は反射膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のAg基合金半透過反射膜を備えることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のAg基合金反射膜を備えることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項8】
Liを0.01〜10原子%含有するAg基合金であることを特徴とする光情報記録媒体用Ag基合金スパッタリングターゲット。
【請求項9】
Biを0.02〜8原子%含有するAg基合金である請求項8に記載の光情報記録媒体用Ag基合金スパッタリングターゲット。
【請求項10】
希土類金属元素のSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜2原子%含有するものである請求項8又は9のいずれかに記載の光情報記録媒体用Ag基合金スパッタリングターゲット。
【請求項11】
上記希土類金属元素がNd及び/又はYである請求項10に記載の光情報記録用Ag基合金スパッタリングターゲット。
【請求項12】
Cu、Au、Rh、Pd、Ptから選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜3原子%含有するものである請求項8〜11のいずれかに記載の光情報記録媒体用Ag基合金スパッタリングターゲット。

【公開番号】特開2006−48899(P2006−48899A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179607(P2005−179607)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】