説明

光情報記録媒体用反射膜

【課題】反射膜の膜厚が約25nm以下に薄く調整されていても、光情報記録媒体での反射率やジッター値などの初期特性に優れていることは勿論のこと、高温高湿下で長期間保管した場合であってもこれらの特性が劣化することがなく、耐久性に優れた光情報記録媒体用反射膜を提供する。
【解決手段】本発明の光情報記録媒体用反射膜は、Siを0.5〜10%、および/またはGeを0.5〜10%と、高融点金属元素を0.2〜1.0%含むAl基合金からなる。上記反射膜の膜厚は25nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば青色レーザーなどのレーザー光を照射して再生や記録が行なわれる光情報記録媒体に用いられる反射膜、および当該反射膜形成用スパッタリングターゲット、並びに当該反射膜を備えた光情報記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光情報記録媒体(光ディスク)は、記録と再生原理に基づき、読み出し(再生)専用型、追記型、書き換え型の3種類に大別される。このうち追記型および書き換え型は、書き込み型に分類される場合がある。
【0003】
このうち読み出し専用型の光情報記録媒体は、ガラス基板やポリカーボネートなどの樹脂基板の上にAg、Al、Auなどを主成分とする反射膜と、データを保護するための光透過層(カバー層、透明中間層とも呼ばれる)とが順次積層された構造を有している。光透過層は、例えば紫外線硬化樹脂などの光硬化樹脂を反射膜の表面に塗布し、レーザー光を樹脂側または基板側から入射させて樹脂を硬化させることによって形成される。一方、追記型および書き換え型の光情報記録媒体は、基板上に光によって変化する記録層を一層以上含み、記録層の上下に光学調整層や反射層を備えた構造を有している。いずれの場合においても、光情報記録媒体に照射されたレーザー光の位相差や反射差を検出することによって記録信号(再生信号)を読み取っている。
【0004】
図1に、読み出し専用の光情報記録媒体(1層光ディスク)の代表的な構成を模式的に示す。図1に示すように、読み出し専用の光情報記録媒体は、透明プラスチックなどの基板1の上に、Ag、Al、Auなどを主成分とする反射膜2と、光透過層3とが順次積層された構造を有している。基板1には、ランド・ピットと呼ばれる凹凸の組み合わせによる情報が記録されており、例えば、厚さ1.1mm、直径12cmのポリカーボネート製基板が用いられる。光透過層3は、例えば光透過シートの貼り合せまたは光透過性樹脂の塗布・硬化によって形成される。記録データの再生は、光ディスクに照射されたレーザー光の位相差や反射差を検出することによって行われる。
【0005】
図1には、ランド・ピット(記録データ)の組み合わせによる情報が記録された基板1上に、反射膜2および光透過層3がそれぞれ1層ずつ形成された1層光ディスクを示しているが、例えば図2に示すように、第1の情報記録面11および第2の情報記録面12を備えた2層光ディスクも用いられる。詳細には、図2の2層光ディスクは、凹凸のランド・ピット(記録データ)の組み合わせによる情報が記録された基板1上に、第1の反射膜2A(基板側)、第1の光透過層3A、第2の反射膜2B(レーザー光ピックアップ側)、および第2の光透過層3Bが順次積層された構成を有しており、第1の光透過層3Aには、基板1とは別の情報がランド・ピットの組み合わせによって記録されている。
【0006】
光情報記録媒体において信号を正確に読取るためには、反射膜が高い反射率を有していることが必要であり、このような反射膜材料として、例えばAu、Cu、Ag、Alなどの金属やこれらの金属を主成分として含む合金が汎用されている。
【0007】
このうち、Auを主成分とする反射膜は、化学的安定性に優れ、記録特性の経時変化が少ないという利点を有するが、極めて高価である。また、Blu−ray Disk(BD)と呼ばれる分野では波長405nmの青色レーザー光が利用されるが、Auは405nmに吸収を有するため、高い反射率が得られず、用途が制限されている。また、Cuを主成分とする反射膜は安価であるが、従来の反射膜材料のなかで最も化学的安定性に劣っているほか、Auと同様、Cuも405nmに吸収を有するため、青色レーザーに対する反射率が低いという欠点がある。これに対し、Agを主成分とする反射膜は、実用波長領域である400〜800nmの範囲で充分高い反射率を示しており、405nmでの反射率も高く、且つ、化学的安定性も良好であるため、現在、青色レーザーを使用する光情報記録媒体用反射膜材料として広く利用されている。
【0008】
一方、AlはAgと同様、波長405nmにおいて充分高い反射率を有しており、AgやAuに比べて安価なため、低コスト化が期待できる。しかしながら、Alは、大気中において透明な酸化皮膜(自然酸化膜)を形成するため、酸化皮膜の成長に伴って反射率向上に寄与するAl部分が減少し、高温高湿度下などの環境条件によって反射率が低下する恐れがある。そこで、これまでは、Al系反射膜の膜厚を、実質的に35nm以上(例えば特許文献1)、または1Å程度(100nm、例えば特許文献2)に厚く制御するなどして高い反射率を確保しており、上述したAl酸化膜形成による反射率低下の影響を受け易い薄い膜厚レベル(おおむね25nm以下)でAl系反射膜を用いることはなかった。
【0009】
ところが、上記特許文献1や特許文献2のように反射膜の膜厚を厚くすると光情報記録媒体の透過率が低下し、光硬化樹脂が充分硬化せずカバー層が十分に硬化しないなどの問題が生じる。すなわち、前述したように光情報記録媒体では、データ保護のため、反射膜の表面に紫外線硬化樹脂などの光硬化樹脂からなるカバー層(透明中間層)が形成されており、紫外線を樹脂側または基板側から入射させることによって樹脂を硬化させている。基板側から紫外線を入射させる場合、紫外線は基板上に形成された反射膜を透過して樹脂を硬化させるが、実際には、反射膜の反射や吸収による減衰する分を考慮して、光硬化樹脂の硬化に十分な強度の紫外線を透過させる必要があり、光情報記録媒体は高い透過率を備えていることが要求される。そのためにはAl系反射膜の膜厚を薄くしなければならないが、これは、上述したAl系反射膜の厚膜化設計指針と逆行するものである。
【0010】
よって、光硬化樹脂を硬化させるに十分な高い透過率を確保するために反射膜の膜厚が約25nm以下に薄く調整されていても、読み出しに必要な反射率を有しており、光ディスク状態での反射率やジッター値などの初期特性に優れていることは勿論のこと、高温高湿下で長期間保管した場合であってもこれらの特性が劣化することがなく、耐久性に優れた反射膜の提供が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−267366号公報
【特許文献2】特開平8−241536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、例えば青色レーザーなどのレーザー光を使用して再生や記録が行なわれる光情報記録媒体に用いられる反射膜であって、反射膜の膜厚が約25nm以下に薄く調整されていても、光情報記録媒体の透過率、反射率やジッター値などの初期特性に優れていることは勿論のこと、高温高湿下で長期間保管した場合であってもこれらの特性が劣化することがなく、耐久性に優れた光情報記録媒体用反射膜;当該反射膜を備えた光情報記録媒体;および当該反射膜の作製に用いられるスパッタリングターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決し得た本発明の反射膜は、光情報記録媒体に用いられる反射膜であって、前記反射膜が、Siを0.5〜10%(特記しない限り、成分において%は原子%を意味する。以下同じ。)、および/またはGeを0.5〜10%と、高融点金属元素を0.2〜1.0%を含むAl基合金からなり、前記反射膜の膜厚が25nm以下であるところに要旨を有するものである。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、反射膜中にSiを0.5〜1.0%含むときは、前記反射膜の膜厚は20nm以下であり、Siを1.0%超、10%以下含むときは、前記反射膜の膜厚は25nm以下である。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、前記高融点金属元素として、Tiを含むものである。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、前記高融点金属元素として、Fe、Mn、およびTaよりなる群から選択される少なくとも一種を含むものである。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、上記の反射膜は、青色レーザー光の照射によって記録または再生が行われる光情報記録媒体に用いられるものである。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、上記反射膜の初期反射率が40%以上で、且つ、350nmでの透過率が8.0%以上である。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、上記反射膜の初期反射率が10%以上で、且つ、350nmでの透過率が15%以上である。
【0020】
また、本発明には、上記のいずれかに記載の光情報記録媒体用反射膜を備えた光情報記録媒体も含まれる。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、上記光情報記録媒体は、初期反射率が40%以上で、且つ、350nmでの透過率が8.0%以上を満足するものである。
【0022】
また、上記課題を解決し得た本発明のスパッタリングターゲットは、上記のいずれかに記載の光情報記録媒体用反射膜を形成するためのスパッタリングターゲットであって、Siを0.5〜10%、および/またはGeを0.5〜10%と、高融点金属元素を0.2〜1.0%含み、残部:Alおよび不可避的不純物であるところに要旨を有するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、反射膜の膜厚が約25nm以下と薄くても、光情報記録媒体の反射膜として適切な透過率および反射率を示し、ジッター値も低く安定した再生を行なうことができるのみならず、高温高湿度下で長期間保管した場合にもこれらの特性に優れており、良好な耐久性を実現できる光情報記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、読み出し専用の光情報記録媒体(1層光ディスク)の円周方向の要部を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、他の読み出し専用の光情報記録媒体(2層光ディスク)の円周方向の要部を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、カバー層を構成する光硬化樹脂を硬化させるのに充分な、高い透過率を付与するために、反射膜の膜厚を、おおむね25nm以下と薄くした場合であっても、光情報記録媒体状態での反射膜として適切な透過率および反射率を示し、ジッター値も低くて再生安定性に優れており、且つ、高温高湿度下で長期間保管した場合にも反射率およびジッター値の低下が少ない(すなわち、耐久性に優れた)光情報記録媒体用のAl系反射膜を提供するため、検討を行なった。
【0026】
具体的には、前述した特許文献1に記載の元素(Siおよび/またはGe、並びに高融点金属)を含むAl系反射膜を用い、後記する表1および表2に示すように、Si、Ge、および高融点金属の含有量を種々変化させると共に、同一組成(反射膜を構成する元素およびその含有量が同じ)のAl系反射膜について膜厚を種々変化させたときの特性がどのように変化するかを調べた。その結果、上記特許文献1に記載された、Al−(5〜40%)Si/Ge−(0.7〜5%)高融点金属からなるAl系反射膜は、実質的に約25nm超〜100nm程度の膜厚を対象としたときに所望の特性が得られるように決定されたものであり、当該Al系反射膜の膜厚を、本発明の対象範囲である25nm以下に薄くすると、Si、Ge、および高融点金属の含有量によっては所望とする作用効果が発揮されない場合があることが明らかになった。更に、所望の特性を発揮し得るSi、Ge、および高融点金成の含有量は、反射膜の膜厚によって変化し、おおむね20〜25nm近傍の膜厚を境にして大きく変化することも、本発明者らの基礎実験によって初めて明らかになった(詳細は後述する)。
【0027】
上記の実験結果、更には多くの基礎実験に基づき、Al−(Siおよび/またはGe)−高融点金属合金からなる反射膜の膜厚を約25nm以下に調整した場合であっても、上記特性に優れた反射膜を得ることが可能なSi、Ge、および高融点金属の含有量について更に検討を重ねた。その結果、Siを0.5〜10%、および/またはGeを0.5〜10%と、高融点金属元素を0.2〜1.0%を含むAl基合金からなる反射膜を用いれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0028】
以下、前述した特許文献1との相違について説明する。本発明の反射膜におけるSi、Ge、および高融点金属の含有量を、上記特許文献1の反射膜における含有量と対比すると、Si、Geの含有量は、上記特許文献1では、SiもGeも同様に5〜40%であるのに対し、本発明では、Siは0.5〜10%、Geは0.5〜10%であり、いずれの元素も特許文献1に比べて低含有量側にスライドしている。また高融点金属の含有量は、上記特許文献1では0.7〜5%であるのに対し、本発明では0.2〜1.0%であり、やはり、特許文献1に比べて低含有量側にスライドしている。
【0029】
ここで、Al−(Siおよび/またはGe)−高融点金属合金を反射膜に用いる場合、反射膜の膜厚によって特性が大きく変化することは、後記する表1のNo.1〜7(Al−Si−高融点金属合金の場合)、後記する表2のNo.14〜18(Al−Ge−高融点金属合金の場合)の実験群の結果から明らかである。
【0030】
まず、上記No.1〜7の実験群では、高融点金属であるTiの含有量を1.0%と一定にし、Si量を、最小で0.5%(No.1)から、最大で15%(No.7)の範囲に亘って種々変化させると共に、Si量が同じであっても膜厚のみ5〜22nmの範囲で変化させたものを用意した(これらは、各No.の後に、ハイフン「−」を付してNo.1−1などと表記する)。後記する実施例の欄に記載の方法に基づき、それぞれの特性[初期特性(ディスク反射率、ジッター値)および加速試験前後の変化率(ジッター値およびディスク反射率)、更には350nmでの透過率]を測定した結果を表1に示している。
【0031】
同様に、上記No.14〜18の実験群では、高融点金属であるTiの含有量を1.0%と一定にし、Ge量を、最小で0.5%(No.14)から、最大で6%(No.18)の範囲に亘って種々変化させると共に、Ge量が同じであっても膜厚のみ5〜30nmの範囲で変化させたものを用意した(これらは、各No.の後に、ハイフン「−」を付してNo.14−1などと表記する)。これらの特性結果を表2に示している。
【0032】
このうち、表1のNo.1〜7(Al−Si−高融点金属合金)について詳しく考察する。No.7−1〜No.7−4は、Siを15%、Tiを1.0%含むAl系反射膜であり、Siおよび高融点金属の含有量に関しては、特許文献1に開示されたAl系反射膜の範囲内に含まれるが、Si量は本発明の上限(10%)を超えるため本発明との関係では比較例に相当するものである。そして上記組成のAl系反射膜において、膜厚の範囲を、5nm(No.7−1)から、30nm[本発明の上限(25nm)を超えて特許文献1に規定する膜厚の範囲内とする、No.7−4]に亘って種々変化させたところ、膜厚が30nm(No.7−4)と厚い場合、透過率以外の特性は全て良好であったのに対し、膜厚を薄くして20nm(No.7−3)、10nm(No.7−2)、更には5nm(No.7−1)とすると、光ディスクとしての反射率が急激に減少した。これらの実験結果は、前述した特許文献1に記載のAl−Si−高融点金属の反射膜をそのまま、本発明で対象とする薄膜(おおむね25nm以下)の反射膜に適用しても所望の特性は得られず、薄膜用の反射膜に適した含有量の設定が別個に必要であることを極めて明瞭に示すものである。
【0033】
これに対し、Si量およびTi量が本発明で規定する範囲内に制御されたNo.3〜6では、膜厚を15〜22nmの範囲内で変化させても良好な特性を確保することができた。なお、厳密には、Si量が本発明で規定する範囲内(0.5〜10%)であっても、No.1〜2のようにSi量が1%以下の場合、Al系反射膜の膜厚が22nmでは、光ディスクとしての透過率が本発明で規定する要件(350nmでの透過率8.0%以上)を達成できず、当該Al系反射膜の膜厚を20nm以下にした場合にのみ、所望の特性が得られることも判明した。すなわち、本発明で規定するAl−Si−高融点金属の反射膜は、当該反射膜を構成する元素の含有量が膜厚に及ぼす影響が極めて大きく、それに伴って特性も変化し得ることから、光情報記録媒体の作製に当たっては、好ましくは、所望の特性が得られるように各元素の含有量に応じて膜厚を適切に制御することが有効である。
【0034】
上記と同様の傾向は、Siの代わりにGeを用いた、No.14〜18のAl−Ge−高融点金属合金の場合にも見られた。
【0035】
本発明の反射膜を用いれば、適切な透過率および適切な反射率を示し、ジッター値が低く、且つ、高温高湿度下で長期間保管した場合にもこれらの特性に優れた(すなわち、耐久性に優れた)光情報記録媒体が得られる。各特性の基準は以下のとおりである。
【0036】
本発明の光情報記録媒体において「適切な透過率を有する」とは、後記する実施例に記載の方法で350nmでの透過率を測定したとき、8.0%以上であることを意味する。好ましい透過率は9.0%以上である。前述したように本発明の光情報記録媒体は、カバー層を構成する光硬化樹脂の硬化が確実に行なわれるように透過率が高いことを前提としている。
【0037】
また、本発明の光情報記録媒体において「適切な反射率を有する」とは、後述する実施例に示す方法でディスク自体の初期反射率を測定したとき、40%以上の範囲内にあることを意味する。好ましくは50%以上である。一方、その上限は、高い反射率を確保するとの観点からは特に限定されないが、反射率が高くなり過ぎるとジッター値が高くなる傾向にあるため、おおむね、65%以下であることが好ましい。より好ましくは60%未満である。
【0038】
また本発明の光情報記録媒体において「ジッター値が低い」とは、後述する実施例に示す方法で初期ジッター値を測定したとき、6.50%以下であることを意味する。好ましくは6.0%未満である。
【0039】
また本発明の光情報記録媒体において「耐久性に優れる」とは、後述する実施例に示す通り、温度80℃、相対湿度約85%の環境下で96時間保持する加速環境試験を行ったとき、加速環境試験前後の反射率およびジッター値の変化量が、いずれも±10%以内であることを意味する。
【0040】
更に本発明の反射膜は、光情報記録媒体を構成する種々の反射膜に適用可能である。具体的には、以下に詳述する第1および第2の反射膜に適用可能であり、各反射膜で要求される特性が相違することから、当該反射膜の好ましい膜厚範囲も相違し得る。
【0041】
すなわち、光情報記録媒体用反射膜は、主に、前述した図1の単層(1層)光情報記録媒体に用いられる反射膜(図1中、2)と、前述した図2の2層光情報記録媒体に用いられる第1の反射膜(図2中、2A;基板側)および第2の反射膜(図2中、2B;光照射側)に大別される。これらのうち、単層光情報記録媒体用反射膜、および2層光情報記録媒体用の第1の反射膜には、いずれも、少なくとも、光情報記録媒体と同じレベルの高い反射率と適切な透過率が要求される。本明細書では、これらをまとめて「第1の反射膜」と呼ぶ場合がある。
【0042】
一方、2層光情報記録媒体用の第2の反射膜は、読み出し用のレーザー光が第2の情報記録面を通過し、情報の読み出しを行うために、第一の反射膜と比較して高い透過率が要求される。そのためには、上記第2の反射膜における透過率は、第一の反射膜で要求される値よりも高いことが必要であり、一方、上記第2の反射膜における反射率は、光情報記録媒体で要求されるレベルより低くても良い。
【0043】
上記第1および第2の反射膜に、少なくとも要求される特性は以下のとおりである。なお、本明細書では、各反射膜の特性(初期反射率、および350nmでの透過率)は、光情報記録媒体としての各特性で評価したものである。
【0044】
第1の反射膜は、少なくとも、光情報記録媒体としての初期反射率が40%以上、350nmでの透過率が8.0%以上を満足することが要求される。
【0045】
一方、第2の反射膜は、少なくとも、光情報記録媒体としての初期反射率が10%以上、350nmでの透過率が15%以上を満足することが要求される。
【0046】
1.反射膜について
まず、本発明の反射膜について、詳細に説明する。本発明の反射膜は、Siを0.5〜10%、および/またはGeを0.5〜10%と、高融点金属元素を0.2〜1.0%を含むAl基合金からなり、上記反射膜の膜厚が25nm以下であるところに特徴がある。
【0047】
本明細書において「Siおよび/またはGe(を含む)」とは、Si、Geの少なくとも一種(を含む)ことを意味する。具体的には、上記のようにSi、Geをそれぞれ、単独で含む態様と、SiおよびGeの両方を含む態様が挙げられる。
【0048】
以下、本発明のAl基合金反射膜を構成する元素(Si、Ge、および高融点金属)について説明する。
【0049】
SiおよびGeはいずれも、Alの自然酸化膜形成による反射率低下を抑制する作用を有する元素である。すなわち、SiおよびGeは反射膜表面に濃化し、Alに代わって優先的に酸化する。その結果、表面に形成されたSi酸化物膜が保護膜となって、Al酸化膜の形成を抑制し、反射率低下を防止し得るものと推察される。SiおよびGeは、含有量が以下の要件を満足する限り、単独で添加しても良いし、これらを併用しても良い。
【0050】
このような作用を有効に破棄させるためには、Siを0.5%以上、Geを0.5%以上添加することが必要である。好ましいSi量は1.0%以上であり、より好ましくは3.0%以上である。
【0051】
一方、Siの含有量が10%を超えると吸収係数が増加し、反射率が低下する。そのため必要とする反射率を得るためには、膜厚を増加する必要がある。膜厚が厚くなれば、透過率は減少し、所望とする値を確保できない。好ましいSi量は7.0%以下である。また、Geの含有量が10%を超えると、Siと同様、吸収係数の増加により反射率が低下する傾向にある。また、Geの多量添加はコストの上昇を招く。好ましいGe量は5%以下でありより好ましくは5%未満であり、更に好ましくは3%以下である。
【0052】
また、高融点金属は、Al基合金膜中に分散することにより、Alの自己粒成長(Al結晶粒の粗大化)に伴う表面荒れによって発生する反射率低下を抑制する作用を有する元素であり、これにより、耐久性が向上するようになる。このような作用を有効に発揮させるには、高融点金属の含有量を0.2%以上とする。好ましくは0.3%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。一方、高融点金属の含有量が1.0%を超えると吸収係数が増加し、所望とする透過率および反射率を確保することができないため、その上限を1.0%とする。好ましくは0.8%以下である。ここで「高融点金属の含有量」とは、好ましくは下記元素よりなる群から選択される少なくとも一種の高融点金属を、単独で含むときは単独の量であり、二種類以上を含むときは合計量を意味する。
【0053】
本発明に用いられる好ましい高融点金属として、Ti、Fe、Mn、およびTaよりなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。より好ましい高融点金属はTiである。
【0054】
本発明の反射膜は、上記含有量のSiおよびGeの少なくとも一種と、高融点金属とを含み、残部はAlおよび不可避的不純物である。上記不可避的不純物としては、反射膜の製造過程で不可避的に混入し得る元素が挙げられる。
【0055】
上記反射膜の膜厚の上限は、25nm以下である。繰返し述べるように、本発明では光硬化樹脂を硬化させるために、光情報記録媒体としての高い透過率を確保するとの観点から、特許文献1に比べて膜厚を薄く設定しており、その上限を25nm以下とすることを前提にしている。
【0056】
厳密には、Si量の範囲によって、上記反射膜の膜厚の上限は相違する。まず、0.5%以上、1%以下のSiを含む反射膜の膜厚の上限は20nm以下である。後記する実施例に示すように、上記反射膜の膜厚が22nmになると、光情報記録媒体としての透過率が低下する。一方、1.0%超、10%以下のSiを含む反射膜の膜厚の上限は25nm以下である。後記する実施例に示すように、Siを多く含む上記反射膜の場合は、膜厚が22nmであっても、光情報記録媒体として良好な透過率が得られた。具体的には、上記反射膜の膜厚の上限は、Si、高融点金属の含有量などによっても適宜変化するため、これらを考慮し、適切に制御すれば良い。
【0057】
一方、Geについても、厳密にはGe量によって、上記反射膜の膜厚の上限は相違する。例えば、0.5〜5%程度のGeを含む反射膜の膜厚の上限は、おおむね、20nm以下であり、好ましくは18nm以下である。但し、約5%超〜10%のGeを含む反射膜では、膜厚の上限を、25nmまで許容し得る(後記する実施例を参照)。膜厚が厚くなり過ぎると、Al合金の組成によっては光情報記録媒体としての透過率が低下したり、ジッター値が増加するようになる。具体的には、上記反射膜の膜厚の上限は、Ge、高融点金属の含有量などによっても適宜変化するため、これらを考慮し、適切に制御すれば良い。
【0058】
一方、上記反射膜の膜厚が薄くなり過ぎると、光情報記録媒体に要求される高い初期反射率(40%以上)を確保できない。光情報記録媒体の上記要求特性を満足するとの観点から、上記反射膜の膜厚の好ましい下限は、おおむね、13nm以上であり、より好ましくは15nm以上である。具体的には、膜厚の推奨される下限は、Si、Ge、高融点金属の含有量などによっても適宜変化するため、これらなどを考慮し、適切に制御すれば良い。
【0059】
なお、上述した反射膜の膜厚範囲は、光情報記録媒体としての要求特性を満足するとの観点から設定されたものである。しかしながら、膜厚が、例えば10nm、更には5nmと非常に薄くても、本発明の反射膜は高い透過率を有する(表1および表2を参照)ことから、光情報記録媒体用の反射膜に要求される特性を満足する場合があり得る。上述したように、本発明の反射膜は、膜厚によって光情報記録媒体での反射率や透過率が大きく相違することから、具体的には、反射膜を、どのような層構成の光情報記録媒体であって、且つ、当該光情報記録媒体のどの位置に用いるかなどに応じて、反射膜の膜厚の下限および上限を適切に制御することが好ましい。
【0060】
(第1の反射膜として使用する場合)
前述した図1の1層(単層)光情報記録媒体に用いられる反射膜1、前述した図2の2層光情報記録媒体の反射膜2A(基板側)のような第1の反射膜の場合、上記第1の反射膜は、少なくとも、光情報記録媒体に要求される初期反射率および透過率(すなわち、波長405nmでの初期反射率が40%以上、且つ、波長350nmでの透過率が8.0%以上)を有する必要がある。上記特性を発揮し得る第1の反射膜の膜厚の範囲は、上述したとおりである。
【0061】
(第2の反射膜として使用する場合)
前述した図2の2層光情報記録媒体に用いられる第2の反射膜2B(光照射側)の場合、上記第2の反射膜には、特に高い透過率が要求され、光情報記録媒体としての波長405nmでの初期反射率が10%以上、且つ、波長350nmでの透過率が15%以上を満足する必要がある。
【0062】
上記要件を満足するための、第2の反射膜の膜厚は、厳密には、当該反射膜を構成する各元素の含有量によっても相違する。特に、SiやGeの含有量によって光情報記録媒体としての反射率や透過率は大きく相違することから、所望の特性が得られるよう、反射膜の組成に応じて、適宜、適切な膜厚を設定することが好ましい。具体的には、例えば、Siを含むAl−Si−高融点金属を第2の反射膜として使用する場合は、膜厚を、おおむね、5nm以上、15nm以下とすることが推奨される。後記する表1に示すAl合金の反射膜では、膜厚が18nmになると、Siおよび高融点金属の含有量にかかわらず、透過率が低下した。
【0063】
一方、Geを含むAl−Ge−高融点金属を第2の反射膜として使用する場合は、上記第2の反射膜の膜厚を、おおむね、5nm以上、19nm以下とすることが推奨される。後記する表2に示すように、Geの量によって、第2の反射膜として使用可能な膜厚の上限は変化し得、主に透過率が変化するようになる。更に、光情報記録媒体に要求される耐久性とのバランスを考慮すると、第2の反射膜のより好ましい膜厚は、おおむね、5〜15nmであり、更に好ましくは、おおむね、7nm以上、12nm以下である。
【0064】
以上、本発明を最も特徴付ける反射膜について説明した。
【0065】
2.光情報記録媒体について
本発明には、上記反射膜を備えた光情報記録媒体も含まれる。上記光情報記録媒体としては、読み出し専用型および書き込み型(追記型、書き換え型)が挙げられ、本発明の反射膜は、これらのいずれにも適用することが可能である。ここで、読み出し専用型とは、基板上に大きさの異なるマークとスペースがすでに形成されており、金属反射膜を有し、読み出しレーザーが照射され、マークとスペース部の光の位相差から情報を読み出すことが可能な光情報記録媒体である。一方、書き込み型とは、レーザー光のパワーが加熱パルス、冷却パルス、および消去パルスの各パルスに対応する少なくとも3値に制御され、光情報記録媒体に前記加熱パルスと前記冷却パルスが交互に照射されることにより形成される長さの異なる複数種類の記録マークと、前記消去パルスが照射されることにより前記記録マーク間に形成されるスペースとによって、所定の情報が記録される情報記録方法による光情報記録媒体である。書き込み型には、追記型と書き換え型の2種類がある。
【0066】
上記光情報記録媒体としてCD、DVD、またはBDが挙げられ、例えば波長が約380nmから450nm、好ましくは約405nmの青色レーザー光を使用し、データの記録や再生を行うことが可能なBD−R、BD−ROM、BD−RWが具体例として挙げられる。
【0067】
本発明の光情報記録媒体は、適切な透過率および適切な反射率を示し、ジッター値が低く、且つ、高温高湿度下で長期間保管した場合にもこれらの特性に優れている(すなわち、耐久性に優れている)ものである。上記特性の詳細は、前述したとおりである。
【0068】
本発明の光情報記録媒体は、前記成分組成を満たすAl基合金からなる反射膜を備えているところに特徴があり、当該反射膜が適用される光ディスクの構成については特に問わない。本発明に係る反射膜は、例えば前記図1の反射膜2や前記図2の第1の反射膜2Aとして用いることができる。或いは、例えば前記図2の第2の反射膜2Bとして用いることもできる。
【0069】
また、光ディスクにおけるその他の構成部分(光透過層、基板などの種類)についても特に限定されず、通常、用いられるものを採用することができる。
【0070】
例えば前記図1、2における基板1として、光ディスク用基板に汎用される樹脂、具体的には、例えば紫外線硬化樹脂やポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などを用いることができる。価格や機械的特性などを考慮すると、ポリカーボネート樹脂の使用が好ましい。
【0071】
基板1の厚さは、おおむね、0.4〜1.2mmの範囲内であることが好ましい。また、基板1上に形成されるピットの深さは、おおむね、50〜100nmの範囲内であることが好ましい。
【0072】
前記図1、2における光透過層3、3A、3Bの種類も限定されず、レーザーに対して高い透過率を持ち、光吸収率が小さいことが好ましい。例えば、紫外線硬化樹脂、ポリカーボネート樹脂等を用いることができる。光透過層の厚さは、1層光ディスクでは約100μm程度であることが好ましく、2層光ディスクでは、第1の光透過層3Aの厚さは約25μm程度、第2の光透過層3Bの厚さは約75μmであることが好ましい。
【0073】
本発明の反射膜は、例えば、スパッタリング法、蒸着法などによって成膜することができるが、スパッタリング法が好ましい。スパッタリング法によれば、上記の合金元素がAlマトリックス中に均一に分散するので均質な膜が得られ、安定した光学特性や耐久性が得られるからである。
【0074】
スパッタリング時における成膜条件は特に限定されないが、例えば、以下のような条件を採用することが好ましい。
・基板温度:室温〜50℃
・到達真空度:1×10-5Torr以下(1×10-3Pa以下)
・成膜時のガス圧:1〜4mTorr
・DCスパッタリングパワー密度(ターゲットの単位面積当たりのDCスパッタリングパワー):1.0〜20W/cm2
【0075】
上記スパッタリング法で、本発明に係る反射膜を形成するには、用いるスパッタリングターゲットとして、Siを0.5〜10%含むと共に、高融点金属元素(例えば、Ti、Fe、Mn、およびTaよりなる群から選択される1種以上の元素であり、好ましくはTi)を0.2〜1.0%含むAl基合金からなるものであって、所望の成分・組成の反射膜とほぼ同一の成分・組成のAl基合金スパッタリングターゲットを用いれば、組成ズレすることなく、所望の成分・組成の反射膜を形成できるのでよい。
【0076】
本発明のスパッタリングターゲットのAl基合金の化学成分組成は、上述の通りであり、残部はAlおよび不可避不純物である。
【0077】
上記スパッタリングターゲットは、溶解・鋳造法、粉末焼結法、スプレーフォーミング法などのいずれの方法によっても製造することができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0079】
実施例1
本実施例では、Al−(SiまたはGe)−高融点金属(Ti)からなる反射膜において、Si、Ge、高融点金属(Ti)の各元素の含有量、更には上記反射膜の膜厚を種々変化させた反射膜を備えた光ディスクを、以下の方法で測定したとき、反射率などの特性がどのように変化するかを調べた。
【0080】
(光ディスクの作製)
まず、基板として直径12cmのマーク/スペースが成形されているポリカーボネート基板(厚さ1.1mm、トラックピッチ0.32μm、溝深さ25nm)を用い、上記基板上に、表1に示す組成および膜厚のAl基合金膜(残部:Alおよび不可避的不純物、%は原子%の意味)、または純Al膜をDCマグネトロンスパッタリング法により形成した。上記反射膜の形成には、純Alスパッタリングターゲット上に各種合金添加用の純金属チップを配置した複合スパッタリングターゲット、またはAl基合金スパッタリングターゲットを用いた。
【0081】
また、スパッタリング装置には、複数のターゲットの同時放電が可能な多元スパッタリング装置((株)アルバック製 CS−200、または(株)アルバック製 SIH−S100)を用いた。スパッタリング条件は、Arガス流量:20sccm、Arガス圧:約0.1Pa、DCスパッタリングパワー密度:2〜5W/cm2、到達真空度:2.0×10-6Torr以下とした。
【0082】
このようにして成膜したAl基合金反射膜の成分組成は、ICP発光分光法によって求めた。
【0083】
次いで、上記の様にして得られた反射膜の上に、紫外線硬化樹脂(日本化薬社製「BRD−864」)をスピンコート法により塗布し、紫外線を照射して硬化させ、膜厚約0.1mm厚さの光透過層(カバー層)を形成した。このようにして各種組成の反射膜をもつ1層BD−ROMを作製した。
【0084】
(光ディスクの評価方法)
光ディスクの評価には、光ディスク評価装置(パルステック工業社製「ODU−1000」を用い、記録レーザー中心波長は405nm、NA(開口数)は0.85のレンズを用いた。
【0085】
まず初期反射率は、上記装置を用い、レーザーをトラック上に照射し、光ディスクにおける未記録部分のレーザー光の戻り光強度から算出した。
【0086】
また、初期ジッター値(信号評価)は、線速度を4.92m/s、基準クロック:66MHzの条件で読み取りレーザーパワーを0.35mWとし、2Tから8T信号のマルチシグナルを用いて測定したとき、2Tから8T信号の基準クロックからの誤差値の標準偏差を求めて算出した。
【0087】
初期特性の評価基準として、BD−R規格値を参考にし、上記のようにして算出した初期反射率が40%以上で、且つ、初期ジッター値が6.50%以下のものを合格(適切な反射膜を示し、且つ、再生安定性に優れる)とした。
【0088】
(加速環境試験)
上記反射膜の形成されたBD−ROMを用い、温度80℃、相対湿度85%の大気雰囲気中で96時間保持する加速環境試験(恒温恒湿試験)を行って、試験後のジッター値および試験後の反射率を上記と同様にして測定した。そして、加速環境試験前後の反射率およびジッター値の変化量がいずれも、±10%以内のものを合格(耐久性に優れる)と評価した。
【0089】
(透過率の測定)
透過率は、分光光度計(株式会社島津製作所製UV−3150)を用い、室温における波長350nmの光に対する厚さ方向の直線透過率を測定した。このようにして測定した350nmでの透過率が8.0%以上のものを合格とした。
【0090】
これらの結果を表1および表2に併記する。これらの表中、「ディスク反射率」および「350nmでの透過率」の欄には、それぞれ、測定値(%)を記載すると共に、第1の反射膜の合格基準(以下の方法で測定したときの反射率が40%以上、および透過率が8%以上)、および第2の反射膜の合格基準(以下の方法で測定したときの反射率が10%以上、および透過率が15%以上)を満たすものに○、満たさないものに×を付した。
【0091】
更に、各表の最右欄に「評価」の欄を設け、総合判断をしたとき、第1の反射膜、第2の反射膜、光情報記録媒体の各合格基準を満足するものに○、いずれか一つでも満足しないものに×を付した。例えば表1AのNo.1−4および1−5は、光情報記録媒体の合格基準を満足するものであるが、反射率および透過率が第1の反射膜の合格基準を満足するため、第1の反射膜としても適用可能であることを意味する。一方、表1AのNo.1−1〜1−3は、光情報記録媒体の合格基準を満足しないが、反射率および透過率が第2の反射膜の合格基準を満足するため、第2の反射膜として適用可能であることを意味する。
【0092】
【表1A】

【0093】
【表1B】

【0094】
【表2A】

【0095】
【表2B】

【0096】
表1Aおよび表1Bは、Al−Si−高融点金属(Ti)を用いたときの結果である。これらの表より次の様に考察できる。
【0097】
まずNo.1〜7は、Ti量を1.0%と一定にし、Si量を0.5〜15%の範囲内で変化させると共に、膜厚を5〜22nm(No.7では5〜30nm)の範囲内で変化させたときの結果を示したものである。これらのうち、SiおよびTi量が適切に制御された本発明の反射膜を備えた光情報記録媒体は、膜厚が25nm以下と薄くても、適切な反射率および透過率を示すと共に、再生安定性に優れ、かつ耐久性にも優れていることがわかる。
【0098】
厳密には、Si量によって、所望とする光情報記録媒体の要求特性を発揮し得る反射膜の膜厚の上限は変化し得る。すなわち、Si量が1.0%超、10%以下のときは、当該反射膜の膜厚の上限は25nmまで許容可能であるが、Si量が0.5〜1.0%のときは、当該反射膜の膜厚の上限は20nm以下となる。
【0099】
なお、所望とする光情報記録媒体の要求特性を発揮し得る反射膜の膜厚の好ましい下限は、Si量にかかわらず、おおむね、13nm以上であることも分かった。
【0100】
また、反射膜としての特性に着目すると、本発明で規定する組成を満足するAl基合金は、膜厚に応じて特に反射率や透過率の特性が大きく相違することから、第1の反射膜として適用できないような極薄膜の反射膜(膜厚が13nm未満)であっても、第2の反射膜として適用可能であることも判明した。本実施例の結果によれば、Siを含む本発明のAl−Si−高融点金属の反射膜を用いた場合、第1の反射膜として適用可能な膜厚の範囲は、おおむね、13〜25nmであり、第2の反射膜として適用可能な膜厚の範囲は、おおむね、5〜15nmである。
【0101】
またNo.8〜13は、Si量を10%と一定にし、Ti量を0.1〜1.5%の範囲内で変化させた(膜厚20nm)ときの結果を示したものである。本発明の要件を満足するNo.9〜12は、すべての特性に優れているのに対し、Ti量が少ないNo.8は耐久性が低下し(加速試験前後のジッター値の変化量が大きい)、またTi量が多いNo.13では透過率が低下した。
【0102】
表2Aおよび表2Bは、Al−Ge−高融点金属(Ti)を用いたときの結果である。Siの代わりにGeを用いたときも、おおむね、Siと同様の結果が得られた。具体的には、これらの表より次の様に考察できる。
【0103】
まずNo.14〜18は、Ti量を1.0%と一定にし、Ge量を0.5〜6%の範囲内で変化させると共に、膜厚を5〜25nm(No.14では、より詳細に5〜30nm)の範囲内で変化させたときの結果を示したものである。これらのうち、GeおよびTi量が適切に制御された本発明の反射膜を備えた光情報記録媒体は、膜厚が25nm以下と薄くても、適切な透過率および反射率を示すと共に、再生安定性に優れ、かつ耐久性にも優れていることがわかる。
【0104】
なお、所望とする光情報記録媒体の要求特性を発揮し得る反射膜の膜厚の好ましい下限は、Ge量にかかわらず、おおむね、13nm以上である。
【0105】
また、反射膜としての特性に着目すると、本発明で規定する組成を満足するAl基合金は、膜厚に応じて特に反射率や透過率の特性が大きく相違することから、第1の反射膜として適用できないような極薄膜の反射膜であっても、第2の反射膜として適用可能であることも判明した。本実施例の結果によれば、Geを含む本発明のAl−Ge−高融点金属の反射膜を用いた場合、第1の反射膜として適用可能な膜厚の範囲は、おおむね、13nm以上、25nm以下(Ge量によっては20nm以下)である。より好ましい範囲は、おおむね、15nm以上、20nm以下(Ge量によっては18nm以下)である。また、第2の反射膜として適用可能な膜厚の範囲は、おおむね、5nm以上、19nm以下(より好ましくは15nm以下)である。
【0106】
なお、Geを含む上記系では、Ti量を変化させたときの結果を示していないが、Siと同様の結果が得られたことを、確認している。
【0107】
これに対し、No.19は、純Alを用いた例であるが、膜厚を10〜40nmの範囲で変化させたとしても、所望の特性を確保することはできなかった。
【符号の説明】
【0108】
1 基板
2 反射膜
3 光透過層
2A 第1の反射膜
2B 第2の反射膜
3A 第1の光透過層
3B 第2の光透過層
11 第1の情報記録面
12 第2の情報記録面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光情報記録媒体に用いられる反射膜であって、
前記反射膜が、
Siを0.5〜10%(特記しない限り、成分において%は原子%を意味する。以下同じ。)、および/またはGeを0.5〜10%と、高融点金属元素を0.2〜1.0%を含むAl基合金からなり、
前記反射膜の膜厚が25nm以下であることを特徴とする光情報記録媒体用反射膜。
【請求項2】
Siを0.5〜1.0%含むときは、前記反射膜の膜厚は20nm以下であり、Siを1.0%超、10%以下含むときは、前記反射膜の膜厚は25nm以下である請求項1に記載の光情報記録媒体用反射膜。
【請求項3】
前記高融点金属元素として、Tiを含むものである請求項1または2に記載の光情報記録媒体用反射膜。
【請求項4】
前記高融点金属元素として、Fe、Mn、およびTaよりなる群から選択される少なくとも一種を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の光情報記録媒体用反射膜。
【請求項5】
青色レーザー光の照射によって記録または再生が行われる光情報記録媒体に用いられるものである請求項1〜4のいずれかに記載の光情報記録媒体用反射膜。
【請求項6】
初期反射率が40%以上で、且つ、350nmでの透過率が8.0%以上である請求項1〜5のいずれかに記載の光情報記録媒体用反射膜。
【請求項7】
初期反射率が10%以上で、且つ、350nmでの透過率が15%以上である請求項1〜5のいずれかに記載の光情報記録媒体用反射膜。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光情報記録媒体用反射膜を備えた光情報記録媒体。
【請求項9】
初期反射率が40%以上で、且つ、350nmでの透過率が8.0%以上である請求項8に記載の光情報記録媒体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の光情報記録媒体用反射膜を形成するためのスパッタリングターゲットであって、
Siを0.5〜10%、および/またはGeを0.5〜10%と、高融点金属元素を0.2〜1.0%含み、残部:Alおよび不可避的不純物であることを特徴とするスパッタリングターゲット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−33580(P2013−33580A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−120179(P2012−120179)
【出願日】平成24年5月25日(2012.5.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】