説明

光情報記録材料及び光情報記録媒体

【課題】高強度パルスレーザで記録する光情報記録媒体の書き込み時間を短縮化する。
【解決手段】記録マークを形成して記録が行なわれる光情報記録媒体の当該記録層を形成するための熱硬化性の光情報記録材料は、エポキシ化合物とエポキシ用硬化剤とに加えて、式(1)で表されるエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体を含有する。


式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、nは1、2又は3であり、Xは、O、S又はNHであり、Arは、フェニル基、ビフェニルイル基又はヒドロキシジフェニルメチル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度パルスレーザで情報が記録される記録層を有する光情報記録媒体の当該記録層を形成するための光情報記録材料、及び光情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、硬化樹脂から構成される記録層が一対の透明基板に挟持された、いわゆる光ディスク等の光情報記録媒体の当該記録層に対して高強度パルスレーザ(例えば、波長400〜410nm、出力1〜100W、パルス幅1〜10psec、周波数0.1〜10GHz)を集光照射することにより、焦点近傍領域をその周囲の領域に対して光学的異質領域(記録マークとして機能する領域)とする技術が提案されている(特許文献1)。このような技術においては、近年の光情報記録媒体に求められる記録容量の増大に対応するため、記録マーク形成時間の短縮化、即ち、光情報記録媒体への情報書き込み時間の短縮化が求められており、特許文献1の技術では、記録層に酸発生剤を配合することで書き込み速度の高速化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−15632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に提案されている光情報記録媒体の場合、光酸発生剤の光熱感受性が高いため、夏期に一般家屋や倉庫で起りうる高温環境(約40〜60℃)下での保管時に、記録層に含有されている光酸発生剤からの意図しない酸が発生し、そのために光情報記録媒体が徐々に変色し、数十年というスパンでは記録マークの消失という事態の発生も懸念されている。
【0005】
本発明の目的は、以上の従来の問題点を解決しようとするものであり、高強度パルスレーザで情報が記録される記録層を有する光情報記録媒体の書き込み速度を、記録層に酸発生剤を配合することなく、高速化できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、熱硬化性エポキシ樹脂組成物を主体とする熱硬化性の光情報記録材料に特定のベンゾフェノン系構造(ベンゾフェノン構造、チオベンゾフェノン構造又はベンゾフェノンイミン構造)のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体を含有させることにより、光情報記録材料を硬化させて形成した記録層に対する高強度パルスレーザ光による書き込み速度を大きく短縮できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、記録層にパルスレーザ光を集光することにより記録マークを形成して記録が行なわれる光情報記録媒体の当該記録層を形成するための熱硬化性の光情報記録材料であって、エポキシ化合物とエポキシ用硬化剤とに加えて、式(1)で表されるエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体を含有する光情報記録材料を提供する。
【0008】
【化1】

【0009】
式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、nは1、2又は3であり、Xは、O、S又はNHであり、Arは、フェニル基、ビフェニルイル基又はヒドロキシジフェニルメチル基である。
【0010】
また、本発明は、上述した本発明の熱硬化性の光情報記録材料の硬化物から形成された記録層を有し、その記録層にパルスレーザ光を集光することにより記録マークを形成して記録が行なわれる光情報記録媒体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱硬化性の光情報記録材料は、特定のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体を含有する。このエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体は、特定のベンゾフェノン系構造、即ち、ベンゾフェノン構造、チオベンゾフェノン構造又はベンゾフェノンイミン構造にアセチレンが直接結合し、更にアセチレンに特定のアリール基又はアラルキル基が結合した特殊な化学構造を有し、非線形光吸収効果を示す。このため、この光情報記録材料の硬化物から形成された記録層を有する光情報記録媒体の当該記録層に高強度パルスレーザ光で記録マークを書き込む際に、書き込み時間を大幅に短縮化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】光情報記録媒体の概略断面図である。
【図2A】図2Aは、参考例1の式(1c)のエチニルベンゾフェノン化合物のH−NMRチャートである。
【図2B】図2Bは、図2Aの部分拡大チャートである。
【図3A】図3Aは、参考例2の式(1d)のエチニルベンゾフェノン化合物のH−NMRチャートである。
【図3B】図3Bは、図3Aの部分拡大チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の熱硬化性の光情報記録材料について説明する。
【0014】
本発明の熱硬化性の光情報記録材料は、記録層にパルスレーザ光を集光することにより記録マークを形成して記録が行なわれる光情報記録媒体の当該記録層を形成するためのものであって、エポキシ化合物とエポキシ用硬化剤とに加えて、式(1)で表されるエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体を増感剤として含有する。
【0015】
【化2】

【0016】
式(1)中、Rのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。中でも、製造の容易性等の点からフッ素原子が好ましい。
【0017】
のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。これらのアルキル基は、塩素原子、臭素原子、ニトロ基、ヒドロキシ基などの置換基を有することができる。中でも、モノマーへの溶解性等の点からブチル基が好ましい。
【0018】
のアリール基としては、フェニル基、ビフェニル−4−イル基、ナフチル基、フルオレン−2−イル基等を挙げることができる。これらのアリール基は、塩素原子、臭素原子、ニトロ基、ヒドロキシ基などの置換基を有することができる。中でも、製造の容易性等の点からフェニル基が好ましい。
【0019】
のアラルキル基としては、ベンジル基、o−メチルベンジル基、(1−ナフチル)メチル基、2−ピリジルメチル基、9−アントラセニルメチル基等を挙げることができる。これらのアラルキル基は、塩素原子、臭素原子、ニトロ基、ヒドロキシ基などの置換基を有することができる。中でも、製造の容易性等の点からベンジル基が好ましい。
【0020】
これらのRの中でも、原料入手容易性の点から水素原子が好ましい。
【0021】
また、Rの個数であるnは1,2又は3であるが、Rが水素原子である場合には、nの個数により化学構造上に相違はない。Rが水素原子以外の置換基であり且つnが1の場合には、エチニル基と直接結合していないフェニル基に対するRの結合位置は2′位、3′位、又は4′位であり、製造の容易性等点から置換位置は4′位が好ましい。nが2の場合の置換位置の組み合わせとしては、(2′位,4′位)、(2′位,6′位)、(3′位,5′位)、(2′位,5′位)が挙げられる。これらの中でも、製造の容易性等の点から(2′位,4′位)が好ましい。nが3の場合の置換位置の組み合わせとしては、(2′位,4′位,6′位)、(2′位,4′位,5′位)、(2′位,3′位,4′位)が挙げられる。
【0022】
Xは、O、S又はNHであり、中でも、原料入手容易性の点からOが好ましい。
【0023】
Arとしては、フェニル基、ビフェニルイル基又はヒドロキシジフェニルメチル基が挙げられ、これらの中でも、光ディスクの性能等の点からビフェニル−4−イル基、ヒドロキシジフェニルメチル基が好ましい。
【0024】
以上説明した、本発明の式(1)のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体の好ましい具体的な態様は、以下の式(1a)〜(1d)で表される化合物である。このうち、式(1c)及び(1d)の化合物は新規化合物である。
【0025】
【化3】

【0026】
式(1a)〜(1d)の化合物のうち、モノマーへの溶解性や光ディスクの性能等の点で式(1d)の化合物がより好ましい。
【0027】
式(1)のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体は、薗頭カップリング反応(例えば、Tetrahedron Lett. 1975, 4467; J. Org. Chem. 2001, 66, 1910-1913参照)を利用して以下の反応式に従って製造することができる。
【0028】
具体的には、式(2)の末端アルキンを、公知の薗頭カップリング反応条件下で、式(3)のハロゲン化アリールと反応させることにより式(1)のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体を製造することができる。
【0029】
【化4】

【0030】
これらの式中、R、n、X、Arは式(1)に関して説明したとおりであり、Yはヨウ素原子又は臭素原子である。
【0031】
ここで、薗頭カップリング反応とは、パラジウム触媒、銅触媒、塩基の作用によりアリールアルキン類とハロゲン化アリールとをクロスカップリングさせてアルキニル化アリール(芳香族アセチレン)を得る化学反応のことである。この反応の一般的操作は以下の通りである。
【0032】
即ち、式(2)の末端アルキンと式(3)のハロゲン化アリールの略等モル混合物に、その1/10モルのヨウ化銅(I)とパラジウム(II)ジクロロビストリフェニルホスフィンとトリエチルアミン等の塩基性溶媒とを混合し、必要に応じてトリフェニルホスフィンを加え、窒素雰囲気下、室温又は還流下で1〜12時間加熱することにより、生成物として式(1)のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体を得ることができる。必要により、公知の精製方法を適用して高純度の式(1)のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体を得ることができる。
【0033】
式(1)のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体の光情報記録材料中の含有量は、少なすぎると発明の効果が得られにくく、多すぎると記録密度などの光ディスクの特性が低下する傾向があるので、後述するエポキシ化合物とエポキシ用硬化剤との合計100質量部に対し、好ましくは0.5〜50質量部、より好ましくは10〜20質量部である。
【0034】
光情報記録材料を構成するエポキシ化合物としては、光情報記録媒体の記録層の形成に広く使用されているエポキシ化合物を適用することができるが、中でも高い架橋密度を実現可能な高い平面性骨格を有するエポキシ化合物、例えば、ナフタレン残基、フルオレン残基、アントラセン残基、ビスフェノールA残基、ビフェニル残基等を有するエポキシ化合物を好ましく挙げることができる。これらは2種以上を併用することができる。また、これらのエポキシ化合物は、高い架橋密度を実現するために、2官能以上であることが好ましい。
【0035】
本発明で好ましく使用できるエポキシ化合物の具体例としては、ナフタレン型2官能エポキシ化合物(“HP4032”、“HP4032D”、いずれもDIC(株))、ナフタレン型4官能エポキシ化合物(“HP4700”、いずれもDIC(株))、ナフトール型エポキシ樹脂(ESN−475V、東都化成(株))、フルオレン型エポキシ樹脂(“オンコート1020”、“オンコート1040”、いずれもナガセケムテックス(株);“オグソールEG”、大阪ガスケミカル(株))、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“830CRP”,DIC(株);“jER828EL”、三菱化学(株))、ビフェニル型エポキシ樹脂(“NC3000H”、“NC3000L”、いずれも日本化薬(株);“jER YX4000”、三菱化学(株))、アントラセン類似型エポキシ樹脂(“jER YX8800”、三菱化学(株))等が挙げられる。これらのエポキシ化合物は2種以上を併用することができる。
【0036】
光情報記録材料を構成するエポキシ用硬化剤としては、エポキシ化合物の硬化剤として公知のものを使用することができる。例えば、アミン化合物、スルホン酸塩、ヨードニウム塩、イミダゾール類、酸無水物類等を一種以上使用することができる。これらのエポキシ用硬化剤の中でも、硬化温度を下げることができる点から、アミン化合物を好ましく使用することができる。このようなアミン化合物としては、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30、関東化学(株))や特殊アミン化合物(U−Cat18X、サンアプロ(株))等を好ましく挙げることができる。
【0037】
光情報記録材料におけるエポキシ用硬化剤の含有量は、少なすぎるとエポキシ化合物を十分に硬化させることができず、多すぎると硬化物が着色してしまう傾向があるので、好ましくはエポキシ化合物100質量部に対し、0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜1.5質量部である。
【0038】
光情報記録材料には、必要に応じ、フェノキシ樹脂等の熱可塑性樹脂、酸化防止剤、着色剤等を含有させることができる。
【0039】
本発明の光情報記録材料は、エポキシ化合物と、エポキシ用硬化剤と、式(1)のエチニルベンゾフェノン化合物類と、必要により添加される溶剤や他の添加剤とを均一に混合し、更に脱泡処理することにより調製することができる。
【0040】
次に、本発明の光情報記録材料を使用して形成した記録層を有する本発明の光情報記録媒体について説明する。
【0041】
図1に示すように、本発明の光情報記録媒体10は、記録層1の内部に高強度パスルレーザ光等の記録光hνを集光させることにより、焦点F近傍の光学的性質を変質させ記録を行うものである。そのような光学的性質としては、屈折率、光反射率等が挙げられる。通常は、空洞が記録マークとして形成される。このような記録層1の片面もしくは両面には、好ましくは、支持体あるいは保護部材としてガラス板等の一対の透明基板2が配置されている。必要に応じて反射防止膜、偏光膜等の公知の光学膜を積層してもよい。
【0042】
本発明の光情報記録媒体10は、一対の透明基板の片側の透明基板上に、前述した本発明の熱硬化性の光情報記録材料を常法により塗布し、その塗布膜上に他方の透明基板を積層し、得られた積層物を80〜120℃の温度に加熱することにより光情報記録材料を重合硬化させ、塗布膜を記録層とすることにより製造することができる。
【0043】
このような本発明の光情報記録媒体10の記録層1は、前述したとおり、本発明の光情報記録材料の硬化物から形成される。光情報記録材料を構成するエポキシ化合物として、架橋密度を実現可能な高い平面性骨格を有し、2官能以上のエポキシ化合物を使用した場合、立体障害が減少し、高度に三次元架橋される。その結果、硬化物の架橋密度は増大し、架橋の度合いが増大するにつれて減少する架橋点間分子量が小さくなり、記録可能な記録マーク間の距離を小さくすることが可能となる。
【0044】
本発明においては、好ましい架橋点間分子量は2000以下、より好ましくは500以下である。なお、架橋点間分子量は、以下のフローリ式に従って算出することができる。
【0045】
【数1】

【0046】
ここで、Mcは架橋点間分子量であり、ρは硬化物の密度[g/cm]であり、Tは温度(°K)であり、E′は貯蔵弾性率(MPa)の高温領域(ガラス転移温度以上)の極小値である。
【0047】
また、光情報記録材料の硬化物の密度は、小さすぎると低架橋密度となるので、好ましくは1.210g/cm以上、より好ましくは1.240g/cm以上である。なお、上限は、有機物として限界があるので、通常1.5g/cm以下である。
【0048】
また、光情報記録材料の硬化物のガラス転移温度は、低すぎると高温環境下における光情報記録媒体の耐久性が下がる傾向があり、高過ぎると書き込み速度が下がる傾向があるので、好ましくは110〜140℃、より好ましくは120〜130℃である。
【0049】
このような記録層1を有する本発明の光情報記録媒体10は、前述したように、その記録層1中にGaInN等の半導体レーザ光やチタン・サファイヤレーザ等の高強度パルスレーザ光(例えば、尖頭パラーが1W以上でパルス幅1nsec以下)の記録光を集光させ、焦点F近傍を高温に加熱する。この結果、焦点付近の記録層1を他の部分の記録層に対して光学的に異なる性質(空隙の有無、屈折率の高低、反射率の高低等)を持つように変質させることができ、それにより記録を行うことができる。しかも、焦点位置や記録領域の大きさを公知の手法で調整することにより、光記録樹素層の厚み方向に複数の記録(換言すれば、記録の多層化)が可能となる。また、記録光と同じ光源から、出力等を変えた再生光を光記録樹素層内に集光させると、光学的異方性部分の光吸収、光反射などの光学的情報を記録情報として取得することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0051】
なお、式(1a)の化合物は、J.O.Chem.2001,66,1910-1913のEntry4Aに記載の方法に従って取得した。式(1b)の化合物は、市販品を使用した(454168,Adrich)。式(1c)および式(1d)の化合物は、それぞれ以下の参考例1及び2に従って、調製した。
【0052】
<参考例1>
窒素置換した100mLの三口フラスコに、4−ブロモベンゾフェノン2.33g、4−エチニルビフェニル1.59g、トリフェニルホスフィン0.025g、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)クロライド0.0125g、CuI(I)0.0125g、及びトリエチルアミン40mLを投入し、加熱して4時間還流させた後、室温で16時間撹拌を続けた。反応終了後、5%塩酸水溶液で中和し、生じた沈殿物を濾取し、トルエンで再結晶することにより、2.1g(収率65%)の白色結晶を得た。この白色結晶の同定はH−NMR(図2A及び図2B参照)とMSにより行い、また、純度は99%以上であった(LC、Area%)。以上の分析結果より、白色結晶は、式(1c)の化合物であると同定できた。
【0053】
H−NMR(CDCl):7.36−7.38(m、1H),7.42−7.51(m,4H),7.50−7.65(m,9H),7.77−7.81(m,4H)
【0054】
MS(m/z):389(M+H)
【0055】
【化5】

【0056】
<参考例2>
窒素置換した100mLの三口フラスコに、4−ブロモベンゾフェノン2.33g、1,1−ジフェニル−2−プロピン−1−オール1.86g、トリフェニルホスフィン0.025g、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)クロライド0.0125g、CuI(I)0.0125g、及びトリエチルアミン40mLを投入し、加熱して4時間還流させた後、室温で16時間撹拌を続けた。反応終了後、5%塩酸水溶液で中和し、混合物を酢酸エチルで有機層を抽出して、無水マグネシウムを用いて乾燥させ、溶媒を留去し、残渣をエタノールで再結晶することにより、2.4g(収率69%)の白色結晶を得た。この白色結晶の同定は、H−NMR(図3A及び図3B参照)とMSにより行い、また、純度は99%以上であった(LC、Area%)。以上の分析結果より、白色結晶は、式(1d)の化合物であると同定できた。
【0057】
H−NMR(CDCl):δ(ppm)2.91(s、1H),7.28−7.38(m、6H),7.45−7.50(m,2H),7.58−7.67(m,7H),7.75−7.77(m,4H)
【0058】
MS(m/z):389(M+H)
【0059】
【化6】

【0060】
実施例1〜10及び比較例1〜5
(光情報記録媒体の作成)
エポキシ化合物として(1,6−ナフトジオールジグリシジルエーテル(HP−4032D、DIC(株))と、式(1a)〜(1d)の化合物、ベンゾフェノン、ジフェニルアセチレン及び1,4−ジフェニルブタジインから選ばれた増感剤とを、表1の配合量で混合し、更に、エポキシ用硬化剤としてトリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30、関東化学(株))1質量部を均一に混合して脱泡処理することにより液状の熱硬化性の光情報記録材料を調製した。この光情報記録材料を、0.15mm厚のカバーグラス基板に0.30mmの厚さとなるように塗工し、その上に0.75mm厚のガラス基板を配置し、80℃に温められたオーブン中で12時間加熱し、光情報記録材料を硬化させて記録層とし、これにより両面がガラス基板で挟持された記録層を有する光情報記録媒体を得た。
【0061】
<書き込み試験評価>
ピコ秒パルス発振するレーザダイオード(波長:405nm、パルス幅:3ピコ秒、対物アウトピークパワー:19W、繰り返し周波数:1GHz)からのレーザ光を、対物レンズ(NA:0.85)を用いて各実施例及び各比較例の光情報記録媒体の記録層の深さ50μm位置に集光して、記録マークを形成した。このとき、パルスレーザ光照射時間(書き込み時間)が異なる複数の記録マークを形成して書き込みを行った。なお、書き込み時間の調整は、ファンクションジェネレータ(MP1800A、アンリツ(株))により制御した。
【0062】
次に、同じレーザダイオードを用いて、記録マークの読み出しを行った。具体的には、記録マークからの信号を、偏向ビームスプリッタ及びλ/4板より分岐し、CCD(Charge Coupled Device)を用いて、記録マークが確認できるか否かという基準で確認した。確認できた記録マークの書き込み時のパルスレーザ光照射時間のうち、最短の照射時間を光情報記録媒体の書き込み時間とした。
【0063】
【表1】


【0064】
<表1の結果の考察>
比較例1の光情報記録媒体は、増感剤を含有しない記録層を有する媒体であり、書き込み時間が1100nsと相対的に長いものであった。それに対し、比較例2〜5の光情報記録媒体は、化学構造的に405nmのレーザ光に対し非線形光吸収効果を示すことが期待される芳香族共役系を有する化合物を増感剤として含有する記録層を有する媒体であり、比較例1の光情報記録媒体よりも大きく書き込み時間が短縮されていることがわかる。
【0065】
それにも増して、式(1a)〜(1d)のエチニルベンゾフェノン化合物類を含有する実施例1〜10の光情報記録媒体の場合、配合量が同じレベルで比較した場合、比較例2〜5の光情報記録媒体に比べ、更に書き込み時間が短縮化されていることがわかる。
【0066】
また、本発明の新規なエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体の場合、実施例1〜3、4〜6、7、9〜10の光情報記録媒体の結果から、比較例2〜5の光情報記録媒体と同程度の書き込み時間の短縮効果を実現するためには、1/10程度の配合で十分であることがわかる。
【0067】
なお、光情報記録後の実施例1〜10の光情報記録媒体について、85℃のオーブン中に500時間放置して記録マークの読み出しを行ったところ、放置前と全く変化はなく、良好な保存安定性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
エポキシ化合物とエポキシ用硬化剤とを含有する熱硬化性の本発明の光情報記録材料から形成した記録層を有する光情報記録媒体は、記録層に非線形光吸収効果を示す特定のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体を含有しているため、高強度パルスレーザで記録層に記録マークを書き込む際の書き込み時間を大幅に短縮することができる。よって、大記録容量の光情報記録媒体として有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 記録層
2 透明基板
10 光情報記録媒体
F 焦点
hν 記録光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録層にパルスレーザ光を集光することにより記録マークを形成して記録が行なわれる光情報記録媒体の当該記録層を形成するための熱硬化性の光情報記録材料であって、エポキシ化合物とエポキシ用硬化剤とに加えて、式(1)
【化1】


(式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、nは1、2又は3であり、Xは、O、S又はNHであり、Arは、フェニル基、ビフェニルイル基又はヒドロキシジフェニルメチル基である。)
で表されるエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体を含有する光情報記録材料。
【請求項2】
光情報記録材料中の式(1)のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体の含有量が、エポキシ化合物とエポキシ用硬化剤との合計100質量部に対し、0.5〜50質量部である請求項1記載の光情報記録材料。
【請求項3】
式(1)のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体が、以下式(1a)
【化2】

で表される化合物である請求項1又は2記載の光情報記録材料。
【請求項4】
式(1)のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体が、以下式(1b)
【化3】

で表される化合物である請求項1又は2記載の光情報記録材料。
【請求項5】
式(1)のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体が、以下式(1c)
【化4】

で表される化合物である光情報記録材料。
【請求項6】
式(1)のエチニルベンゾフェノン化合物類又はその類縁体が、以下式(1d)
【化5】

で表される化合物である光情報記録材料。
【請求項7】
エポキシ化合物が、ナフタレン残基、フルオレン残基、アントラセン残基、ビスフェノールA残基又はビフェニル残基を有し、且つ2官能以上である請求項1〜6のいずれかに記載の光情報記録材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の熱硬化性の光情報記録材料の硬化物から形成された記録層を有し、その記録層にパルスレーザ光を集光することにより記録マークを形成して記録が行なわれる光情報記録媒体。
【請求項9】
記録層が、一対の透明基板に挟持された構造を有する請求項8記載の光情報記録媒体。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2013−105507(P2013−105507A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247035(P2011−247035)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000108410)デクセリアルズ株式会社 (595)
【Fターム(参考)】