説明

光感作性、光毒性及び/又は感作性の評価方法

【課題】被験物質の光感作性をin vitroで評価するための新規な方法の提供。
【解決手段】本発明は、ヒト単核球細胞と、光感作性物質と予想される被験物質とを一緒に光照射した後にインキュベートし、該ヒト単核球細胞の表面に発現されたCD86分子を検出することにより該被験物質の光感作性を評価することを特徴とする被験物質のin vitro評価方法又はスクリーニング方法、を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験物質の光感作性、光毒性及び/又は感作性のin vitro評価方法並びに光感作性物質を活性化又は抑制する物質の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体において光アレルギー(光感作性)、光毒性、アレルギー(感作性)を誘発する物質(それぞれ、光感作性物質、光毒性物質、感作性物質)を評価する方法としては、実験動物に被験物質を適用し、そして該実験動物の皮膚などに生ずる反応を視察する方法が行われている。しかしながら、この方法は動物の愛護等の見地から見直しがせまられている。
【0003】
光アレルギー反応においては、光感作性物質が光エネルギーにより活性化し、そして担体となるペプチドや蛋白質へ光結合することにより、これらの光結合物を認識した抗原提示細胞がT細胞に抗原を提示して光感作誘導が成立すると考えられている。このような考えに基づき、上記評価方法の代替方法として、タンパク質と被験物質を混合させた後、UV照射してこれらの光結合性を評価する報告が多数なされている。
【0004】
例えば、Lovell, W.W. et al.(非特許文献1)では、ヒト血清アルブミンを担体として,化学物質との結合性を吸光度や電気泳動で評価することが提案されている。しかしながら、かかる光結合は化学的な反応であり、光感作性物質の生体内反応を必ずしも反映するものではない。
【0005】
生体内反応を反映した評価方法としては、被験物質を塗布したマウスからランゲルハンス細胞を摘出し、該細胞が被験物質により活性化されるかを評価する方法が報告されている(Nishijima T, et al.(非特許文献2))。しかしながら、該方法は汎用性に欠けるだけでなく、上述した動物愛護の観点からも望ましくない。更に、ランゲルハンス細胞自体の問題として、皮膚からの分離が困難であること、その性質が安定しないこと等がある。
【0006】
ここで、ランゲルハンス細胞の他、抗原提示細胞としては樹状細胞やヒト単核球細胞株なども知られている。しかし、樹状細胞の性質には個人差があり、一定の特性を有する樹状細胞を安定的に入手することが困難である。そのため、樹状細胞に光感作性物質等を作用させた場合、その再現性が問題となる。また、樹状細胞の調製には困難さが伴うため光感作性試験には適していない。
【0007】
一方、樹状細胞と異なり、ヒト単核球細胞株は細胞自体の取扱いは比較的容易である。特開2001−221796号公報(特許文献1)においては、ヒト単核球細胞と、感作性物質を含有すると予想される被験試料とを一緒にインキュベートし、該ヒト単核球細胞表面上に発現したCD86分子を検出することを特徴とする感作性物質のin vitro評価方法が開示されている。ここで、感作性物質を抗原提示細胞に曝露すると、抗原が該細胞により従属リンパ節に運ばれ、そこで抗原提示細胞は細胞表面上に抗原を担持したMHCクラスII蛋白質や、CD86分子などを発現し、そしてT細胞に抗原提示を行う。これにより、抗原特異的な獲得性免疫応答が成立する。この一連の過程では、抗原提示細胞は多くのサイトカイン(IL−1β、IL−6、IL−12など)やケモカイン(MIP−1α、MIP−1β、RANTESなど)を産生することで、活性化し、従属リンパ節への遊走が可能になる。
【0008】
【非特許文献1】Lovell, W. W. et al., ATLA 28: 707-724, 2000
【非特許文献2】Nishijima T, et al., J Dermatol. Sci., 19, 202-207, 1999
【非特許文献3】Rutault, K. et al., Free Radic. Biol. Med., 26, 232-8, 1999
【特許文献1】特開2001−221796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特開2001−221796(上掲)に記載のように、感作性物質の性質及び濃度を反映して抗原提示細胞表面にCD86分子が発現されることは公知であるが、光感作性物質又は光毒性物質がその性質により抗原提示細胞表面上にCD86分子を発現させることは明らかとなっていない。更に、CD86分子は活性酸素種によっても発現亢進することが知られているが(Rutault, K. et al.(非特許文献3))、多くの光感作性物質及び光毒性物質が光照射により活性酸素種を発生させるため、被験試料をヒト単核球細胞に作用させて光照射してヒト単核球細胞表面のCD86分子の発現を評価したとしても、該発現が光感作性物質、光毒性物質、感作性物質、あるいは活性酸素種のいずれに起因するものであるかを区別することは困難である。
【0010】
従って、本発明は、被験物質の光感作性、光毒性及び/又は感作性をin vitroで評価するための方法、更に具体的には、被験物質の光感作性と光毒性とをin vitroで区別して評価するための新規な方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々検討した結果、ヒト単核球細胞株に光感作性物質を作用させて光照射した場合、該ヒト単核球細胞の表面に、光感作性物質の光感作性及び濃度を反映してCD86分子が発現されることを見出した。更に、細胞培地中で被験物質を光照射して一定期間放置した後、抗原提示細胞を該培地中に添加してCD86分子の発現を検出することにより、被験物質の光感作性を評価することが可能となり、光感作性物質と光毒性物質とが区別されることが明らかとなった。
【0012】
即ち、即ち、本願は以下の発明を包含する。
[1]ヒト単核球細胞と、光感作性物質と予想される被験物質とを一緒に光照射した後にインキュベートし、該ヒト単核球細胞の表面に発現されたCD86分子を検出することにより該被験物質の光感作性を評価することを特徴とする被験物質のin vitro評価方法又はスクリーニング方法。
[2]被験物質の光感作性を評価する前に、被験物質の感作性が評価される、[1]の方法。
[3]光感作性物質又は光毒性物質と予想される被験物質に光照射し、そして該光照射により発生し得る活性酸素種が消滅するのに十分な時間放置した後、ヒト単核球細胞と一緒にインキュベートし、該ヒト単核球細胞の表面上におけるCD86分子の発現亢進を検出することにより該被験物質の光感作性を評価して光毒性物質と区別することを特徴とする、被験物質のin vitro評価方法又はスクリーニング方法。
[4]被験物質の光感作性又は光毒性を評価する前に、被験物質の感作性が評価される、[3]の方法。
[5]被験物質の感作性が、ヒト単核球細胞と該被験物質とを一緒にインキュベートし、該ヒト単核球細胞の表面に発現されたCD86分子を検出することにより評価される、[4]の方法。
[6]被験物質の感作性の評価が、
1)光感作性物質又は光毒性物質、あるいは感作性物質のいずれかであると予想される被験物質の存在下及び非存在下で、
a)ヒト単核球細胞を光照射した後、該細胞をインキュベートしてCD86分子を細胞表面上に発現させる工程、及び
b)ヒト単核球細胞を光照射せずにインキュベートしてCD86分子を細胞表面上に発現させる工程、
2)工程1)a)由来の、被験物質の存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞におけるCD86分子の発現を、工程1)a)由来の被験物質の非存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞のものと比較して130%に亢進する場合の被験物質の濃度をEC130(+UV)とし、一方、工程1)b)由来の、被験物質の存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞におけるCD86分子の発現を、工程1)b)由来の、被験物質の非存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞のものと比較して130%に亢進する場合の被験物質の濃度をEC130(−UV)とした場合、EC130(−UV)/EC130(+UV)の値が3以上である被験物質を光感作性物質又は光毒性物質と評価し、そしてEC130(−UV)/EC130(+UV)の値が3未満である被験物質を感作性物質と評価する工程、
を含んで成る、[5]の方法。
[7]ヒト単核球細胞に既知光感作性物質と被験物質とを混合し、光を照射した後さらにインキュベートし、該ヒト単核球細胞の表面に発現されたCD86分子を検出することを特徴とする、該被験物質が該光感作性物質に対する活性化剤又は抑制剤であるか否かを評価する方法又はスクリーニング方法。
[8]前記ヒト単核球細胞がTHP−1細胞である、[1]〜[7]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、生体内反応を反映した光感作性物質のin vitro評価が可能となるだけでなく、従来困難であった光感作性物質と光毒性物質との区別が可能となり、in vitroで光感作性を感度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
被験物質のin vitro評価方法又はスクリーニング方法
本発明は第一の観点において、ヒト単核球細胞と、光感作性物質と予想される被験物質とを一緒にインキュベートし、該ヒト単核球細胞の表面に発現されたCD86分子を検出することにより該被験物質の光感作性を評価することを特徴とする被験物質のin vitro評価方法又はスクリーニング方法を提供する。
【0015】
本発明は第二の観点において、光感作性物質又は光毒性物質と予想される被験物質に光照射し、そして該光照射により発生し得る活性酸素種が消滅するのに十分な時間放置した後、ヒト単核球細胞と一緒にインキュベートし、該ヒト単核球細胞の表面に発現されたCD86分子を検出して該被験物質の光感作性又は光毒性を評価することを特徴とする被験物質のin vitro評価方法又はスクリーニング方法、を提供する。より具体的には、当該方法は、
1)光感作性物質又は光毒性物質と予想される被験物質に光照射し、そして該光照射により発生し得る活性酸素種が消滅するのに十分な時間放置する工程、
2)前記被験物質の存在下及び非存在下でヒト単核球細胞をインキュベートしてCD86分子を細胞表面上に発現させる工程、
3)前記被験物質の存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞におけるCD86分子の発現が、被験物質の非存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞のものと比較して亢進されている場合、前記被験物質を光感作性物質と評価して光毒性物質と区別する工程、
を含んで成る。
【0016】
本発明の方法により評価される被験物質は、光感作性物質、光毒性物質又は光感作性物質、特に光感作性物質又は光毒性物質のいずれかに相当することが予想される物質である。ここで、光感作性物質とは、光アレルギー性接触皮膚炎の原因物質の総称であり、例えば塩酸クロルプロマジン(CPZ)、6−メチルクマリン(6−MC)が知られている。光毒性物質とは、皮膚上に存在する場合に紫外線を受けて皮膚刺激反応を生じさせる物質であり、例えばアクリジンが知られている。光毒性物質の多くは、光照射により励起状態となり、そのエネルギーを活性酸素種の形で放出することにより光毒性を示す。尚、光感作性物質によっては、光毒性物質と同様の機構により活性酸素を放出する場合があり、その結果光感作性だけでなく光毒性を示すこともある。感作性物質とは、光とは無関係にアレルギー性接触皮膚炎を起こす原因物質の総称であり、例えば、ペニシリンGが知られている。
【0017】
原則として、光感作性物質、光毒性物質、感作性物質のいずれも、その濃度が高いほどCD86分子の発現を亢進させるが、濃度が高くなることで細胞毒性があまりにも強くなるとその亢進能が損なわれてしまう。従って、本発明の方法において用いる被験物質は、水又は適当な溶媒を用いて適当な濃度で溶解させて適用される。本発明では、CD86分子の発現を130%に亢進する被験物質の濃度(μg/ml)をEC130と定める。
【0018】
本発明の光照射に用いられる照射装置としては、可視部及び紫外部領域(280〜800nm)、特にUV−A(波長315〜400nm)に照射スペクトルをもつ任意の照射装置を使用できるが、例えば具体例としてソーラーシミュレーターであるSOL500(Dr. Hoenle社)等が挙げられる。
【0019】
光照射における照射強度と照射総量については、ヒト単核球細胞に対する細胞毒性がない範囲内でそれらの条件を設定することが必要である。例えば、in vitro光毒性試験として知られている、3T3ニュートラルレッド取り込み(NRU)光毒性試験と同様の条件(照射強度:1.7mW/cm2;照射総量:5J/cm2)を使用してもよい。
【0020】
光照射に曝露されることにより被験物質と担体が結合して光結合物を生成し、あるいは分解して光分解物を生成する。一方、被験物質によっては、光照射により活性酸素種を生成する。活性酸素が発生している場合、その存在によるCD86分子の発現亢進への影響を防ぐために、活性酸素が消滅するのに十分な時間放置する必要がある。例えば、光毒性物質から生じる活性酸素種は寿命が短く、光照射終了直後には消滅すると考えられるが、光照射後少なくとも数分間、好ましくは30分間放置することが好ましい。一定期間放置することにより、CD86分子の発現に対する光毒性物質由来の活性酸素の影響を排除することが可能となる。
【0021】
光照射から一定期間経過した後、被験物質の存在下ヒト単核球細胞を培養(インキュベーション)して該細胞表面上にCD86を発現させる。ここで、被験物質を加えないで培養を行ったものをコントロールとする。前記培養は、例えばCO2インキュベーター中で、約37℃にて24〜72時間行ってもよい。ヒト単核球細胞の初期濃度は1×105〜1×106細胞/mLが好ましい。
【0022】
本発明において用いるヒト単核球細胞株としては、光感作性物質及び感作性物質の特性を反映してその表面にCD86分子を発現するものであれば特に限定されないが、具体例としてTHP−1細胞が挙げられる。この細胞は樹立された培養細胞であって、当業界の研究者により広く用いられており、容易に入手することができる。具体的には、THP−1細胞は、公的な細胞バンク又は民間企業より入手することができる。特開2001−221796号公報(上掲)においても、感作性物質のin vitro評価にTHP−1細胞が使用されている。
【0023】
本発明のヒト単核球細胞を培養するための培地としては、これらの細胞を培養することができる常用の任意の培地を使用することができるが、例えば具体例としてRPMI1640培地、DMEM培地、ダルベッコ改変イーグル培地等が挙げられる。尚、被験物質への光の吸収を妨げないように、本発明で使用する培地は、フェノールレッドを含まないことが好ましい。
【0024】
培養が終了した後、培養したヒト単核球細胞の表面に発現されたCD86分子を検出又は測定する。CD86の検出又は測定方法は特に限定されないが、抗ヒトCD86抗体を用いた免疫測定が好ましく、フローサイトメトリー法が特に好ましい。抗ヒトCD86抗体はモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよく、CD86分子を表面に発現している細胞を免疫原として用いて常法に従って調製することができる。フローサイトメトリー法も常法に従って行うことができる。
【0025】
CD86の検出の結果、被験物質で処理したヒト単核球細胞におけるCD86分子の発現が、コントロールのものと比較して亢進されている場合、被験物質は光感作性物質と評価され、一方、CD86分子の発現が亢進されていない場合、被験物質は光毒性物質と評価される。尚、CD86の発現の亢進は、コントロールと比較して、被験物質によりどの程度CD86の発現量が変化したのかをRFI(相対発現量(%))として算出することで評価することができる。
【0026】
別の態様において、本発明の被験物質評価方法は、被験物質の光感作性又は光毒性を評価する前に、被験物質の感作性を評価する工程を含んでもよい。その結果、光感作性物質、光毒性物質、又は感作性物質のいずれかであるかが不明な被験物質の感作性を評価することができる。
【0027】
前記の被験物質の感作性を評価する工程は、公知の方法に従い実施することができる。例えば、特開2001−221796号公報(上掲)に開示されている通り、ヒト単核球細胞と、感作性物質であると予想される被験物質とを一緒にインキュベートし、該ヒト単核球細胞の表面に発現されたCD86分子を検出することにより被験物質の感作性を評価してもよい。
【0028】
更に別の態様において、被験物質の感作性を評価する工程は、
1)光感作性物質又は光毒性物質、あるいは感作性物質のいずれかであると予想される被験物質の存在下及び非存在下で、
a)ヒト単核球細胞を光照射した後、該細胞をインキュベートしてCD86分子を細胞表面上に発現させる工程、及び
b)ヒト単核球細胞を光照射せずにインキュベートしてCD86分子を細胞表面上に発現させる工程、
2)工程1)a)由来の、被験物質の存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞におけるCD86分子の発現を、工程1)a)由来の被験物質の非存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞のものと比較して130%に亢進する場合の被験物質の濃度をEC130(+UV)とし、一方、工程1)b)由来の、被験物質の存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞におけるCD86分子の発現が、工程1)b)由来の、被験物質の非存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞のものと比較して130%に亢進する場合の被験物質の濃度をEC130(−UV)とした場合、EC130(−UV)/EC130(+UV)の値が3以上である被験物質を光感作性物質又は光毒性物質と評価し、そしてEC130(−UV)/EC130(+UV)の値が3未満である被験物質を感作性物質と評価する工程、
を含んでもよい。このように、光照射した場合としない場合とでのEC130値の変化を比較することにより、感作性物質を光感作性物質及び光感作性物質と区別することが可能となる。更に、EC130値を用いることで、被験物質を濃度の観点から比較することができ、その結果、被験物質間での感作性の強弱を評価することも可能となる。この点、特開2001−221796号公報で開示されている方法と本願発明に係る方法とは異なる。尚、EC130値以外の値を用いて上述のような評価を実施することも可能であるが、例えば100%に近いEC値で評価した場合、結果にばらつきが生じて誤った判定が出る恐れがあるため好ましくない。
【0029】
光感作性物質を活性化又は抑制する物質の評価方法
本発明は第三の観点において、ヒト単核球細胞に既知光感作性物質と被験物質とを混合し、光を照射した後さらにインキュベートし、該ヒト単核球細胞の表面に発現されたCD86分子を検出することを特徴とする、該被験物質が該光感作性物質に対する活性化剤又は抑制剤であるか否かを評価する方法又はスクリーニング方法、を提供する。
【0030】
既知の光感作性物質、光毒性物質又は感作性物質と被験物質を共存させて、上記の条件で評価を行う。この場合も、好ましくは、被験物質を加えないで上記と同様の培養を行い、コントロールとする。その結果、コントロールと比較して、EC130値が上昇した場合には被験物質は光感作性物質、光毒性物質又は感作性物質の抑制剤であり、一方、EC130値が下降した場合には光感作性物質、光毒性物質又は感作性物質の活性剤であると評価される。
【実施例】
【0031】
図1に示す評価フローのもと、以下の実施例を用いて被験物質の光感作性、光毒性又は感作性の評価を行う。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
実施例1感作性評価
被験物質として、公知の光感作性物質である塩酸クロルプロマジン(CPZ)、6−メチルクマリン(6−MC)、公知の光毒性物質であるアクリジン、そして公知の感作性物質であるペニシリンGを用いた。更に、比較のために、公知の刺激物質であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を被験物質として用いた。
【0033】
THP−1細胞(ATCC(American Type Culture Collection)より購入)をフェノールレッドを含まないRPMI1640(含10%FBS)培地で洗浄後、2×106細胞/mLに調製し、24穴プレートに0.5 mL/wellずつ播種した。上記被験物質は、それぞれ、精製水あるいはエタノールを用いて適当な濃度に溶解させ、フェノールレッドを含まないRPMI1640(含10%FBS)培地の0.5 mLで希釈後、播種された細胞と混合した。
【0034】
被験物質と混合した細胞を播種した該24穴プレートはソーラーシミュレーターSOL500により約1.7mW/cm2の照射強度で計5J/cm2となるように光照射を行った後、あるいは光照射を行わずに、CO2インキュベーター中で24時間培養した。培養後の細胞を0.1%のウシ血清アルブミンを含むPBS(−)を用いて洗浄し、FITCで蛍光標識した抗ヒトCD86抗体を用いて氷水中で30分間染色した。染色した細胞を0.1%のウシ血清アルブミンを含むPBS(−)を用いて洗浄し、洗浄後の細胞を0.1%のウシ血清アルブミンを含むPBS(−)に浮遊させた。その細胞浮遊液を用いてフローサイトメーターにより生細胞1×105細胞の蛍光強度を測定し、被験物質無処理のコントロールと比較した。生細胞の検出はPI染色を用いて行った。
【0035】
被験物質により、CD86分子の発現がコントロールと比較してどの程度亢進されたかについて、光照射した細胞の結果を図2A〜C、そして光照射していない細胞の結果を図3A〜Cに示す。SDSを除く全ての被験物質が濃度依存的にCD86分子の発現を亢進させた(図2A〜B及び図3A〜B)。一方、刺激性物質であるSDSは、光照射の有無に関わらず、いずれの濃度においてもCD86分子の発現を亢進させなかった(図2C及び図3C)。図2A〜2C及び図3A〜3Cの結果に基づき、光照射した細胞のうち、CD86分子の発現をコントロールの130%に亢進する被験物質濃度をEC130(+UV)値として算出した。一方、光照射していない細胞のうち、CD86分子の発現をコントロールの130%に亢進する被験物質濃度をEC130(−UV)値として算出した。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示した通り、EC130(−UV)/EC130(+UV)の値を算出した結果、光感作性物質であるCPZ、6−MC及び光毒性物質であるアクリジンは当該値が3以上となり、一方、感作性物質であるペニシリンGの当該値は3未満となった。このように、EC130(−UV)/EC130(+UV)の値の差異に従い、光感作性物質及び光毒性物質と感作性物質とを区別することができた。
【0038】
実施例2光感作性評価
上記被験物質のうち、実施例1の結果から感作性物質と区別されたCPZ、6−MC及びアクリジンを本実験における被験物質とした。当該被験物質を、それぞれ、精製水あるいはエタノールを用いて適当な濃度に溶解させ、フェノールレッドを含まないRPMI1640(含10%FBS)培地で希釈後、24穴プレートに0.5 mL/wellずつ播種した。該24穴プレートはソーラーシミュレーターSOL500により約1.7mW/cm2の照射強度で計5J/cm2となるように光照射した。30分間放置した後、フェノールレッドを含まないRPMI1640(含10%FBS)培地で洗浄し2×106細胞/mLに調製したTHP−1細胞(ATCC(American Type Culture Collection)より購入)を0.5 mL/wellずつ播種して、CO2インキュベーター中で24時間培養した。
【0039】
培養後の細胞を0.1%のウシ血清アルブミンを含むPBS(−)を用いて洗浄し、FITCで蛍光標識した抗ヒトCD86抗体を用いて氷水中で30分間染色した。染色した細胞を0.1%のウシ血清アルブミンを含むPBS(−)を用いて洗浄し、洗浄後の細胞を0.1%のウシ血清アルブミンを含むPBS(−)に浮遊させた。その細胞浮遊液を用いてフローサイトメーターにより生細胞1×105細胞の蛍光強度を測定し、被験物質無処理のコントロールと比較した。生細胞の検出はPI染色を用いて行った。
【0040】
被験物質により、CD86分子の発現がコントロールと比較してどの程度亢進されたかについて、結果を図4A及び4Bに示す。光感作性物質であるCPZ、6−MCはいずれもCD86分子の発現を著しく亢進させた(図4A)。一方、上記被験物質のうち光毒性物質であるアクリジンは、いずれの濃度においてもCD86分子の発現をほとんど又は全く亢進させなかった(図4B)。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の方法によれば、被験物質の光感作性、光毒性及び感作性について、in vivoにおいて精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、光感作性、光毒性及び感作性ポテンシャルを評価する評価フローである。
【図2A】図2Aは、CPZ、6−MCをTHP−1細胞と一緒に光照射した後インキュベートした場合のCD86発現の検出結果を示すグラフである。
【図2B】図2Bは、アクリジン、ペニシリンGをTHP−1細胞と一緒に光照射した後インキュベートした場合のCD86発現の検出結果を示すグラフである。
【図2C】図2Cは、SDSをTHP−1細胞と一緒に光照射した後インキュベートした場合のCD86発現の検出結果を示すグラフである。
【図3A】図3Aは、CPZ、6−MCとTHP−1細胞とを一緒に、光照射せずにインキュベートした場合のCD86発現の検出結果を示すグラフである。
【図3B】図3Bは、アクリジン、ペニシリンGとTHP−1細胞とを一緒に、光照射せずにインキュベートした場合のCD86発現の検出結果を示すグラフである。
【図3C】図3Cは、SDSとTHP−1細胞とを一緒に、光照射せずにインキュベートした場合のCD86発現の検出結果を示すグラフである。
【図4A】図4Aは、CPZ、6−MCに光照射した後、THP−1細胞と一緒にインキュベートした場合のCD86発現の検出結果を示すグラフである。
【図4B】図4Bは、アクリジンに光照射した後、THP−1細胞と一緒にインキュベートした場合のCD86発現の検出結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト単核球細胞と、光感作性物質と予想される被験物質とを一緒に光照射した後にインキュベートし、該ヒト単核球細胞の表面に発現されたCD86分子を検出することにより該被験物質の光感作性を評価することを特徴とする被験物質のin vitro評価方法又はスクリーニング方法。
【請求項2】
被験物質の光感作性を評価する前に、被験物質の感作性が評価される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
光感作性物質又は光毒性物質と予想される被験物質に光照射し、そして該光照射により発生し得る活性酸素種が消滅するのに十分な時間放置した後、ヒト単核球細胞と一緒にインキュベートし、該ヒト単核球細胞の表面上におけるCD86分子の発現亢進を検出することにより該被験物質の光感作性を評価して光毒性物質と区別することを特徴とする、被験物質のin vitro評価方法又はスクリーニング方法。
【請求項4】
被験物質の光感作性又は光毒性を評価する前に、被験物質の感作性が評価される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
被験物質の感作性が、ヒト単核球細胞と該被験物質とを一緒にインキュベートし、該ヒト単核球細胞の表面に発現されたCD86分子を検出することにより評価される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
被験物質の感作性の評価が、
1)光感作性物質又は光毒性物質、あるいは感作性物質のいずれかであると予想される被験物質の存在下及び非存在下で、
a)ヒト単核球細胞を光照射した後、該細胞をインキュベートしてCD86分子を細胞表面上に発現させる工程、及び
b)ヒト単核球細胞を光照射せずにインキュベートしてCD86分子を細胞表面上に発現させる工程、
2)工程1)a)由来の、被験物質の存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞におけるCD86分子の発現を、工程1)a)由来の被験物質の非存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞のものと比較して130%に亢進する場合の被験物質の濃度をEC130(+UV)とし、一方、工程1)b)由来の、被験物質の存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞におけるCD86分子の発現を、工程1)b)由来の、被験物質の非存在下でインキュベートしたヒト単核球細胞のものと比較して130%に亢進する場合の被験物質の濃度をEC130(−UV)とした場合、EC130(−UV)/EC130(+UV)の値が3以上である被験物質を光感作性物質又は光毒性物質と評価し、そしてEC130(−UV)/EC130(+UV)の値が3未満である被験物質を感作性物質と評価する工程、
を含んで成る、請求項5に記載の被験物質のin vitro評価方法又はスクリーニング方法。
【請求項7】
ヒト単核球細胞に既知光感作性物質と被験物質とを混合し、光を照射した後さらにインキュベートし、該ヒト単核球細胞の表面に発現されたCD86分子を検出することを特徴とする、該被験物質が該光感作性物質に対する活性化剤又は抑制剤であるか否かを評価する方法又はスクリーニング方法。
【請求項8】
前記ヒト単核球細胞がTHP−1細胞である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の被験物質のin vitro評価方法又はスクリーニング方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2008−128836(P2008−128836A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314527(P2006−314527)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】