説明

光感受性遺伝子発現調節システム

【課題】光照射により活性を下向き調節することのできる光感受性遺伝子発現調節システムを提供する。
【解決手段】Cry4タンパク質等のポリペプチドのアミノ酸配列を少なくとも1個エンコードし、DNA結合ドメイン又は転写活性化ドメインのいずれかと連結された第1の融合タンパク質をエンコードする第1のポリヌクレオチドと、Cry4タンパク質等のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドのアミノ酸配列を少なくとも1個エンコードし、転写活性化ドメイン又はDNA結合ドメインのいずれかと連結された第2の融合タンパク質をエンコードする第2のポリヌクレオチドと、前記DNA結合ドメインと特異的に結合するポリヌクレオチド。また、上記ポリヌクレオチドを含む光感受性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光感受性遺伝子発現調節システムに関し、より具体的には、暗条件下で強い発現を誘導するが、明条件では完全に発現を抑制することのできる、従来とは逆の光感受特性を有する遺伝子発現調節システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光を利用して生体内で遺伝子やタンパク質の活性や量を変化させるための従来のアプローチには、(1)光によって誘起される化学反応を利用して特定の化合物を変化させ、生じた物質を利用する方法と、(2)光感受性のタンパク質と光依存的に相互作用する物質を利用し、両者の結合状態の変化を利用する方法とがある。(1)のアプローチは実用化されており、紫外線感受性のケージド化合物が有名である。また、蛍光タンパク質に通常よりも強い刺激光を照射して強制的に退色させる方法などもこの方法に近い。ケージド化合物を用いる方法では、ケージド化合物をあらかじめ細胞に導入する必要があり、化合物によって導入が困難である場合や、細胞毒性が強く導入できない場合がある。また、励起に用いる紫外線が細胞に与える影響も大きいという欠点がある。蛍光タンパク質をエンコードする遺伝子を細胞に導入し、発現した蛍光タンパク質に光を照射する方法もあるが、これはタンパク質の分布や移動の観察のために開発された方法であり、任意の遺伝子やタンパク質の活性制御には向いていない。一方、(2)のアプローチでは、植物由来のフィトクロムを用いた方法(特許文献1)が提案されている。この方法は、真核細胞である酵母において光で遺伝子活性を制御できるという利点があるものの、発色団を外部より供給しなければならないという点と、赤色を刺激に利用するため赤色光を安全光に使用できない、という2つの欠点がある。また、前記従来のアプローチは全て、光照射により活性を上向き調節するものであり、光照射により活性を下向き調節する手段は従来知られていない。さらに、従来報告される感光性タンパク質は主に植物由来のものであり、体温の高い恒温動物の細胞や、35°Cを超える温度でのインキュベーションが必要な発酵に必ずしも適しているとはいえない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO03018777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、光照射により活性を下向き調節することのできる光感受性遺伝子発現調節システムを開発する必要がある。また、生物種を問わず普遍的に細胞内に存在する物質を発色団として利用することにより、細胞外から発色団を供給しなくてもよい光感受性遺伝子発現調節システムを開発する必要がある。さらに、光感受特性スペクトルが人間の可視光波長の範囲より狭く、いわゆる安全光として利用可能な光の波長範囲が存在するような光感受性遺伝子発現調節システムを開発する必要がある。また、体温の高い恒温動物の細胞や、35°Cを超える温度でのインキュベーションが必要な発酵に適した光感受性遺伝子発現調節システムを開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は光感受性遺伝子発現調節システムを提供する。本発明の光感受性遺伝子発現調節システムは、Cry4タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドのアミノ酸配列を少なくとも1個エンコードし、DNA結合ドメイン又は転写活性化ドメインのいずれかと連結された第1の融合タンパク質をエンコードする第1のポリヌクレオチドと、Cry4タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドのアミノ酸配列を少なくとも1個エンコードし、転写活性化ドメイン又はDNA結合ドメインのいずれかと連結された第2の融合タンパク質をエンコードする第2のポリヌクレオチドと、前記DNA結合ドメインと特異的に結合するポリヌクレオチドを含む第3のポリヌクレオチドとを含む。
【0006】
本発明の光感受性遺伝子発現調節システムにおいて、前記第1のポリヌクレオチドは、Cry4タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個ないし5個のポリペプチドと、DNA結合ドメイン又は転写活性化ドメインのいずれかとからなる第1の融合タンパク質をエンコードし、前記第2のポリヌクレオチドは、CRIP1タンパク質又はCRIP2タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個ないし5個のポリペプチドと、転写活性化ドメイン又はDNA結合ドメインのいずれかとからなる第2の融合タンパク質をエンコードする。
【0007】
本発明の光感受性遺伝子発現調節システムにおいて、前記第1のポリヌクレオチドは、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8か、配列番号9か、配列番号16かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列との相同性が80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8か、配列番号9か、配列番号16かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個ないし5個のポリペプチドのアミノ酸配列が、連結部位ごとに独立に0個ないし20個のアミノ酸残基からなるスペーサオリゴペプチドのアミノ酸配列を介して、DNA結合ドメイン又は転写活性化ドメインのいずれかと直列に連結される、第1の融合タンパク質をエンコードし、前記第2のポリヌクレオチドは、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列との相同性が80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個ないし5個のポリペプチドのアミノ酸配列が、連結部位ごとに独立に0個ないし20個のアミノ酸残基からなるスペーサオリゴペプチドのアミノ酸配列を介して、前記転写活性化ドメイン及びDNA結合ドメインのうち、第1の融合タンパク質に含まれないドメインと直列に連結される、第2の融合タンパク質をエンコードする。
【0008】
本発明の光感受性遺伝子発現調節システムにおいて、前記第1のポリヌクレオチドは、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列との相同性が80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドのアミノ酸配列が、DNA結合ドメイン又は転写活性化ドメインのいずれかと直列に連結される、第3の融合タンパク質をエンコードし、前記第2のポリヌクレオチドは、配列番号8か、配列番号9か、配列番号16かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号8か、配列番号9か、配列番号16かに列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列との相同性が80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドのアミノ酸配列が、前記転写活性化ドメイン及びDNA結合ドメインのうち、第1の融合タンパク質に含まれないドメインと直列に連結される、第2の融合タンパク質をエンコードする。
【0009】
本発明の光感受性遺伝子発現調節システムにおいて、前記DNA結合ドメインは、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号28に列挙されるヌクレオチド配列のポリヌクレオチドと結合するポリペプチドと、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列との相同性が80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号28に列挙されるヌクレオチド配列のポリヌクレオチドと結合するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドのアミノ酸配列からなり、前記転写活性化ドメインは、配列番号25に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号25に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、該ポリペプチドが配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドとの融合タンパク質を形成するとき、配列番号28に列挙されるヌクレオチド配列のポリヌクレオチドの3’側に連結されたプロモーターエレメントからのRNA転写を活性化するポリペプチドと、配列番号25に列挙されるアミノ酸配列との相同性が80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、該ポリペプチドが配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドとの融合タンパク質を形成するとき、配列番号28に列挙されるヌクレオチド配列のポリヌクレオチドの3’側に連結されたプロモーターエレメントからのRNA転写を活性化するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドのアミノ酸配列からなり、前記DNA結合ドメインと特異的に結合するポリヌクレオチドは、配列番号28のヌクレオチド配列のポリヌクレオチドと、配列番号28のヌクレオチド配列に1個又は数個のヌクレオチドの置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリヌクレオチドであって、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと結合するポリヌクレオチドと、配列番号28のヌクレオチド配列との相同性が80%、85%、90%又は95%を超えるヌクレオチド配列のポリヌクレオチドであって、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと結合するポリヌクレオチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列からなる場合がある。
【0010】
本発明の光感受性遺伝子発現調節システムにおいて、前記第1のポリヌクレオチドは、配列番号5、配列番号12、配列番号14又は配列番号23のいずれか1つのヌクレオチド配列のポリヌクレオチドであり、前記第2のポリヌクレオチドは、配列番号6、配列番号7又は配列番号17のいずれか1つのヌクレオチド配列のポリヌクレオチドであり、前記第3のポリヌクレオチドは、配列番号28のヌクレオチド配列のポリヌクレオチドと、配列番号28のヌクレオチド配列に1個又は数個のヌクレオチドの置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリヌクレオチドであって、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと結合するポリヌクレオチドと、配列番号28のヌクレオチド配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるヌクレオチド配列のポリヌクレオチドであって、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと結合するポリヌクレオチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドの場合がある。
【0011】
本発明の光感受性遺伝子発現調節システムは、暗条件か、赤色光の下かでは遺伝子発現が誘導されるが、緑色光又は青色光の下では遺伝子発現が実質的に抑制される場合がある。
【0012】
本発明の光感受性遺伝子発現調節システムにおいて、第1のポリヌクレオチドは、第1の融合タンパク質を細胞内で発現するための転写及び翻訳制御エレメントを含む第1の組換えベクターに含まれ、第2のポリヌクレオチドは、第2の融合タンパク質を細胞内で発現するための転写及び翻訳制御エレメントを含む第2の組換えベクターに含まれ、第3のポリヌクレオチドは第3の組換えベクターに含まれ、該第3の組換えベクターには、本発明の光感受性遺伝子発現調節システムを用いて光感受性の遺伝子発現を調節させる遺伝子が、第3のポリヌクレオチドの3’末端に直接連結されるか、数個又は数十個のポリヌクレオチドを介して連結される場合がある。前記本発明の光感受性遺伝子発現調節システムを用いて光感受性の遺伝子発現を調節させる遺伝子は、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、緑蛍光タンパク質等のレポータ又はマーカー遺伝子のほか、転写調節因子、シグナル伝達関連分子、神経関連分子その他の細胞又は個体レベルの生命現象に関係する遺伝子であって、RNA又はタンパク質として機能する遺伝子の場合がある。
【0013】
本発明は、本発明の光感受性遺伝子発現調節システムの第1の組換えベクターと、第2の組換えベクターと、第3の組換えベクターとを含む細胞を提供する。
【0014】
本発明は、本発明の光感受性遺伝子発現調節システムの組換えベクターを含む細胞を含む、菌類か、植物か、ヒトを除く動物かのいずれかの生物個体を提供する。
【0015】
本発明は、光感受性組成物を提供する。本発明の光感受性組成物は、Cry4タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドが共有結合で連結した第1の化合物と、Cry4タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドが共有結合で連結した第2の化合物とを含む。
【0016】
本発明の光感受性組成物は、Cry4タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドが共有結合で連結した第1の化合物と、CRIP1タンパク質又はCRIP2タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドが共有結合で連結した第2の化合物とを含む場合がある。
【0017】
本発明の光感受性組成物において、前記第1の化合物は、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8か、配列番号9か、配列番号16かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列との相同性が80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8か、配列番号9か、配列番号16かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドが共有結合で連結し、前記第2の化合物は、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列との相同性が80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドが共有結合で連結する場合がある。
【0018】
本発明の光感受性組成物は、第1の化合物と第2の化合物とは、暗条件か、赤色光の下かで会合するが、緑色光又は青色光の下では会合しない場合がある。
【0019】
本発明は、本発明の光感受性遺伝子発現調節システムを含む細胞を提供する。
【0020】
本発明は、本発明の細胞を含む、菌類か、植物か、ヒトを除く動物かのいずれかの生物個体を提供する。
【0021】
本発明は、Cry4と光感受性の相互作用を行うタンパク質をエンコードするcDNAをスクリーニングする方法を提供する。本発明の方法は、(1)Cry4タンパク質のアミノ酸配列を少なくとも1個エンコードし、DNA結合ドメイン又は転写活性化ドメインのいずれかと連結された第1の融合タンパク質を発現する第1の組換えベクターと、転写活性化ドメイン又はDNA結合ドメインとcDNAインサートにエンコードされるポリペプチドとが連結された第2の融合タンパク質を発現する第2の組換えベクターと、第1の融合タンパク質と第2の融合タンパク質とが相互作用をするとき、選択培地で増殖する宿主細胞とを用意するステップと、(2)前記第2の組換えベクターを用いてcDNAライブラリを構築するステップと、(3)前記第1の組換えベクターと前記cDNAライブラリとを前記宿主細胞内に導入するステップと、(4)暗条件下で選択培地で増殖するコロニー由来の細胞のうち、青色光照射下では選択培地で増殖しない細胞をスクリーニングするステップと、(5)前記スクリーニングにより得られた光感受性増殖細胞に含まれる第2の組換えベクターにエンコードされるcDNAインサートを単離するステップとを含む。
【0022】
本発明は、光感受性スイッチ素子を提供する。本発明の光感受性スイッチ素子は、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8か、配列番号9かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8か、配列番号9かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドを含み、暗条件又は赤色光の下で他のタンパク質と会合するが、緑色光又は青色光の下では該他のタンパク質とは会合しない。
【0023】
本発明は、Cry4と光感受性の相互作用を行うタンパク質を提供する。前記タンパク質は、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドである。
【0024】
本発明は、Cry4と光感受性の相互作用を行うタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを提供する。前記ポリヌクレオチドは、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドからなるグループから選択される1つのポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドである。
【0025】
本発明は、本発明のCry4と光感受性の相互作用を行うタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを発現する組換えベクターを提供する。
【0026】
本発明は、本発明のCry4と光感受性の相互作用を行うタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを発現する組換えベクターを含む細胞を提供する。
【0027】
本発明は、本発明のCry4と光感受性の相互作用を行うタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを発現するベクターを含む細胞を含む、菌類か、植物か、ヒトを除く動物かのいずれかの生物個体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】照射光の波長の違いがCRIP1とcCry4との相互作用に与える影響を調べる実験の結果を示す写真。
【図2】照射光の強度の違いがCRIP1とcCry4との相互作用に与える影響を調べる実験の結果を示す写真。
【図3】日本列島の形状を描いた露光原板を用いて露光されたゲルの写真。
【図4】2量体又は単量体のプレイ及びバイトタンパク質が2重に形質転換された酵母の暗条件下特異的なコロニー形成を示す写真。
【図5】単量体、2量体又は4量体バイトプラスミド(それぞれCRY4×1、CRY4×2及びCRY4×4)と、単量体プレイプラスミドCRIP1とで2重形質転換された酵母が、暗条件(D)又は青色光照射による明条件(L)で3時間培養された間に発現が誘導されたβ−ガラクトシダーゼ活性を示す棒グラフ。
【図6】3種類の異なるバイトプラスミドのいずれかと、同一のプレイプラスミドとで2重に形質転換された酵母で発現誘導されるβ−ガラクトシダーゼ活性に対する照射光の波長及び強度の影響を示す線グラフ。
【図7】ともに単量体のバイトプラスミド及びプレイプラスミドで2重に形質転換された酵母について、遮光により暗条件に移行後の培養時間と、最後まで明条件下で培養された酵母でのβ−ガラクトシダーゼ活性に対する暗条件培養後のβ−ガラクトシダーゼ活性の比とを示すグラフ。
【図8A】明条件下で終夜培養された酵母について、さらに5時間明条件下で培養されるグループ(L)と、5時間暗条件下で培養されるグループ(D)との明暗スケジュールの模式図。
【図8B】3種類の異なるバイト及びプレイプラスミドと、レポータコンストラクトとで多重形質転換された酵母でのレポータタンパク質GST−ME25(GST−D1tag)の発現を比較したウェスタンブロット結果図。
【図9A】暗条件下で終夜培養された酵母について、さらに5時間暗条件下で培養されるグループ(D)と、5時間明条件下で培養されるグループ(L)との明暗スケジュールの模式図。
【図9B】3種類の異なるバイト及びプレイプラスミドと、レポータコンストラクトとで多重形質転換された酵母でのレポータタンパク質GST−ME25(GST−D1tag)の発現を比較したウェスタンブロット結果図。
【0029】
本発明においてCry4タンパク質は、いずれかの生物種のCRY4遺伝子にエンコードされるタンパク質をいう。CRY4遺伝子は、Cryptochrome遺伝子ファミリーの構成メンバーのうち、脊椎動物のCRY1/2遺伝子、CRY DASH遺伝子及び6−4フォトリアーゼとは明確に区別されるグループに属し、Kubo, Y.ら、(J.Neurochem.97:1155−1165(2006))のニワトリCRY4(以下、「cCRY4」という。)や、Kobayashi, Y.ら、(Genes Cells5:725−738(200)らのゼブラフィッシュのCRY4を含む。cCry4タンパク質のアミノ酸配列は、本明細書に添付される配列表に配列番号2として列挙される。本発明は、Cry4タンパク質が、細胞内で、他の特定のタンパク質と光感受性の相互作用を行うという発明者による発見に基づく用途発明である。
【0030】
本発明において、CRIP1及びCRIP2タンパク質は、以下の実施例に説明されるとおり、cCry4タンパク質との光感受性の相互作用を示すタンパク質として酵母ツーハイブリッド法でスクリーニングされたニワトリのタンパク質と、これらに相同ないずれかの生物種のタンパク質であって、当該生物種のCry4タンパク質と光感受性の相互作用を示すタンパク質をいう。ニワトリのCRIP1及びCRIP2のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号8及び9に列挙される。CRIP1及び2は、ニワトリのゲノム内で異なる遺伝子座にエンコードされる。
【0031】
本発明において、Cry4、CRIP1又はCRIP2について変異体とは、これらのタンパク質のアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドか、これらのタンパク質のアミノ酸配列との相同性が80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドか、これらのタンパク質のアミノ酸配列をエンコードするヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列かであって、Cry4の場合であればCRIP1又はCRIP2と、CRIP1又はCRIP2の場合であればCry4と暗条件下で相互作用するポリペプチドをいう。
【0032】
本明細書においてヌクレオチド配列の相同性は、本発明のヌクレオチド配列と、比較対象のヌクレオチド配列との間でヌクレオチド配列が一致する部分が最も多くなるように整列させて、ヌクレオチド配列が一致する部分のヌクレオチドの数を本発明のヌクレオチド配列のヌクレオチドの総数で割った商の百分率で表される。同様に、本明細書においてアミノ酸配列の相同性は、本発明のアミノ酸配列と、比較対象のアミノ酸配列との間で配列が一致するアミノ酸残基の数が最も多くなるように整列させて、配列が一致するアミノ酸残基の数の合計を本発明のアミノ酸配列のアミノ酸残基の総数で割った商の百分率で表される。本発明のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の相同性は、当業者に周知の配列整列プログラムCLUSTALWを使用することにより算出することができる。
【0033】
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、Sambrook、J.及びRussell、D.W.、Molecular Cloning A Laboratory Manual 3rd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)に説明されるサザンブロット法で以下の実験条件で行うことを指す。比較対象のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドをアガロース電気泳動によりバンドを形成させた上で毛管現象又は電気泳動によりニトロセルロースフィルターその他の固相に不動化する。6× SSC及び0.2% SDSからなる溶液で前洗浄する。本発明のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを放射性同位元素その他の標識物質で標識したプローブと前記固相に不動化された比較対象のポリヌクレオチドとの間のハイブリダイゼーション反応を6× SSC及び0.2% SDSからなる溶液中で65°C、終夜行う。その後前記固相を1× SSC及び0.1% SDSからなる溶液中で65°C、各30分ずつ2回洗浄し、0.2× SSC及び0.1% SDSからなる溶液中で65°C、各30分ずつ2回洗浄する。最後に前記固相に残存するプローブの量を前記標識物質の定量により決定する。本明細書において「ストリンジェントな条件」でハイブリダイゼーションをするとは、比較対象のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを不動化した固相に残存するプローブの量が、本発明のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを不動化した陽性対照実験の固相に残存するプローブの量の少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%以上であることを指す。
【0034】
本明細書において、本発明のタンパク質の光感受性、あるいは、本発明のタンパク質の光感受性の相互作用とは、Cry4タンパク質と、他の特定のタンパク質、例えば、CRIP1又はCRIP2タンパク質とが、暗条件下で会合し、明条件下、特に青色光の下では解離する性質をいう。前記Cry4タンパク質と、前記他のタンパク質との相互作用は、一方にDNA結合ドメインを融合させたタンパク質を発現するプラスミドと、他方に転写活性化ドメインを融合させたタンパク質を発現するプラスミドとを、前記DNA結合ドメインが特異的に結合するポリヌクレオチドを含む転写制御エレメントの支配下で選択可能なマーカー遺伝子を発現するプラスミドとともに宿主細胞に導入して、前記マーカー遺伝子が発現するときに前記宿主細胞が増殖するように選択することによって、検出することができる。前記プラスミドが導入された細胞における前記相互作用の定量は、前記マーカー遺伝子のかわりに酵素活性アッセイ方法が確立した適当な酵素、例えば、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ等をエンコードする遺伝子を用いることによって容易に実施される。また、精製された前記融合タンパク質間か、Cry4タンパク質と前記他のタンパク質との間かでの前記相互作用の定量は、ELISA法、表面プラズモン共鳴法その他の方法を用いることによって容易に実施される。
【0035】
本明細書において、本発明のタンパク質か、その変異体かの誘導体とは、本発明のタンパク質か、その変異体かに、スペーサオリゴペプチドや特異的結合タグペプチドのような、本発明のタンパク質の光感受性に影響を与えることのないアミノ酸残基1個ないし50個、好ましくは、アミノ酸残基3個、5個、10個又は20個のオリゴペプチドが連結されたものをいう。
【0036】
本明細書において、特異的結合タグペプチドとは、発現したタンパク質の検出、分離又は精製をより容易に行うことを可能にするために、他のタンパク質、多糖類、糖脂質、核酸及びこれらの誘導体、樹脂等と特異的に結合するポリペプチドをいう。特異的結合タグと結合するリガンドは、水溶液中に溶解した遊離状態の場合も固体支持体に不動化される場合もある。そこで、本発明の融合タンパク質は固体支持体に不動化されたリガンドに特異的に結合するため、発現系の他の成分を洗浄除去することができる。その後、遊離状態のリガンドを添加したり、pH、イオン強度その他の条件を変えることにより、固体支持体から前記融合タンパク質を分離して回収することができる。本明細書の特異的結合タグは、Hisタグ、mycタグ、HAタグ、インテインタグ、MBP、GSTその他これらに類するポリペプチドが含まれるが、これらに限定されない。本発明の特異的結合タグは、本発明のタンパク質の光感受性を保持することを条件としていかなるアミノ酸配列を有してもかまわない。
【0037】
本明細書において、本発明のタンパク質か、その変異体か、その誘導体かの修飾体とは、本発明のタンパク質と、その変異体と、その誘導体とからなるグループから選択されるいずれかが、いずれかの組み合わせで2個ないし5個、好ましくは、2個又は4個、直列に連結されたものをいう。
【0038】
本発明において、DNA結合ドメイン(以下、「DBD」という。)及び転写活性化ドメイン(以下、「AD」という。)とは、例えば、酵母Gal4転写因子で詳しく解析されたように、遺伝子の転写調節に関与するDNA配列エレメントと特異的に結合する機能と、RNAポリメラーゼを含む転写関連タンパク質の複合体と特異的に結合する機能とを有する転写タンパク質のそれぞれの機能だけを担う領域をさす。DBDと、これに特異的に結合するオリゴヌクレオチドと、ADとは、本発明の光感受性遺伝子発現調節システムが機能することを条件として、いかなる生物種の転写調節因子に由来するものであってもかまわない。
【0039】
本明細書において、暗条件とは、完全暗黒条件の他、本発明の光感受性遺伝子発現調節システムの感光特性によると、完全暗黒条件とほぼ同等の遺伝子発現を誘導することができる程度の光が照射される条件をいう。本発明の赤色光とは、一般に人間が赤い色として認識する610nmないし780nmの範囲のいずれかの波長の光をいい、634nmの光の場合がある。本明細書において、緑色光とは、500nmないし570nmの範囲のいずれかの波長をいい、542nmの光の場合がある。本明細書において、青色光とは、430nmないし500nmの範囲のいずれかの波長の光をいい、471nmの光の場合がある。
【0040】
本発明の光感受性組成物は、本発明のCry4タンパク質と、CRIP1又はCRIP2タンパク質との会合の光感受性を利用して、任意の物質の細胞内局在を、光の明暗又は照射光の波長の変化により操作するために用いられる場合がある。あるいは、繊維状のポリマー分子間の架橋状態を、光の明暗又は照射光の波長の変化により操作するために用いられる場合がある。前者の場合には、本発明の光感受性組成物の第1及び第2の化合物は、本発明のタンパク質、その変異体、誘導体及び/又は修飾体が、タンパク質、核酸、多糖類、脂肪酸その他の生物学的分子と共有結合で連結される。後者の場合には、本発明の光感受性組成物の第1及び第2の化合物は、いずれかの生体分子又は合成高分子と共有結合で連結される。
【0041】
本発明のベクターは、所望の機能を有するタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを組み込み宿主生物へ導入することにより、所望の機能を有するタンパク質を該宿主生物において複製及び発現させるために用いられる遺伝因子であり、プラスミド、ウイルス、ファージ、コスミド等を含むがこれらに限定されない。
【0042】
本発明の組換えベクターは、制限酵素、DNA連結酵素等を使用する当業者に周知の遺伝子工学手法を用いて本発明のタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドといずれかのベクターとを連結することにより作製される場合がある。
【0043】
本発明の細胞は、本発明のタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドが組み込まれた組換えベクターが導入される生物である。前記生物は、古細菌と、大腸菌、枯草菌等の細菌とのような原核生物と、酵母と、菌類、植物、動物等の多細胞生物とのような真核生物とを含む。前記宿主生物は大腸菌の場合がある。
【0044】
本発明の生物個体は、所望の機能を有するタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドが組み込まれた組換えベクターが導入される多細胞生物の個体である。前記生物個体は、菌類、植物、動物等の多細胞生物とのような真核生物とを含む。
【0045】
本発明の光感受性遺伝子発現調節システムは、ニワトリ由来のCry4(cCry4)を感光性タンパク質として利用する。cCry4の発色団であるフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)は、酸化還元酵素の補酵素として広範な生物種の細胞で使われている物質であるため、外部から供給する必要がない。また、本発明の光感受性遺伝子発現調節システムは、人間の可視光波長範囲のうち、赤色光への感度が低いため、赤色光を安全光として作業を行うことができる。さらに、ニワトリの体温は40°Cと比較的高いため、37°C前後の体温の哺乳動物の細胞での利用や、35°Cを超える温度でのインキュベーションが必要な発酵に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下の実施例によって本発明について詳細な説明を行なうが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
材料
1.細胞
以下の実験では、酵母MaV203株(MATα; leu2−3,112; trp1−901; his3Δ200; ade2−101; cyh2R; can1 R; gal4Δ; gal80Δ; GAL1::lacZ; HIS3UASGAL1::HIS3@LYS2; SPAL10::URA3、Invitrogen社)が宿主として用いられた。前記酵母菌はYPAD培地を用いて培養された。前記酵母菌にプラスミドを形質転換する場合には、SD−LWU培地その他の選択培地を用いて培養された。寒天プレート培地上に培養する場合には、前記培地のいずれかに2%アガーが添加された培地が用いられた。
【0048】
2.培地及びバッファー
YPAD培地
0.67%(w/v)Difco(商標) Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids、2%(w/v)グルコース、2%(w/v)Agar、0.03g/L Adenin Sulfate (Adenin)、10g/L Bacto(商標) Yeast Extract
SD−LW培地
0.67%(w/v)Difco(商標) Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids、2%(w/v)グルコース、2%(w/v)Agar、0.03g/L Adenin、0.62g/L −Leu/−Trp/−His DO Supplement(Clontech社)、0.076g/L L−Histidine Monohydrochloride Monohydrate
SD−LWH(+10mM 3−AT)培地
0.67%(w/v)Difco(商標) Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids、2%(w/v)グルコース、2% (w/v) Agar、0.03g/L Adenin、0.62g/L −Leu/−Trp/−His DO Supplement(Clontech社)、0.84g/L 3−Amino−1H−1,2,4−triazole
SD−LWU培地
0.67%(w/v)Difco(商標) Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids、2%(w/v)グルコース、2%(w/v) Agar、0.03g/L Adenin、0.62g/L −Leu/−Trp/−Ura DO Supplement(Clontech社)
Zバッファー
終濃度組成が、6.1g/L NaHPO・7HO、5.5g/L NaHPO・7HO、0.75g/L KCl及び0.246g/L MgSO・7HOとなるように試薬が混合された後、室温でpH 7.0に調整されてから、オートクレーブにより滅菌された。
破砕バッファー溶液
終濃度組成が、8M 尿素、5%(w/v) SDS、40mM Tris−HCl(室温pH6.8)及び0.4mg/mL BPBとなるように試薬が混合され、滅菌水でメスアップされた。
完全破砕バッファー
タンパク質分解酵素阻害剤錠剤(Roche、型番:1697498)を2mLの滅菌水に溶かして調製された25×阻害剤ストック液が用意され、使用時に、前記破砕バッファー溶液で希釈され、さらに、1/100容 β−メルカプトエタノール(SIGMA、M3148)が添加された。
【0049】
3.CRIP1及びCRIP2遺伝子のクローニング
CRIP1及びCRIP2遺伝子は酵母ツーハイブリッド法で単離された。孵化16日目の夜中と17日目の真昼とに屠殺されたヒヨコ網膜より常法により抽出されたRNAが等量ずつ混合され、逆転写反応によりcDNAが合成され、酵母ツーハイブリッドスクリーニング用プレイベクターpEXP−AD502(配列番号1)に挿入してcDNAライブラリが作製された。バイトとして、GAL4のDNA結合ドメイン(DBD)のC末端側にニワトリCRY4(cCRY4(配列番号2)、Kuboら、J. Neurochem. 97:1155−1165(2006))の全長が連結した融合タンパク質(DBD−cCRY4(配列番号3))をエンコードするポリヌクレオチドが、酵母ツーハイブリッドスクリーニング用バイトベクターpDBLeu(配列番号4)にサブクローニングされた(pDBLeu−cCRY4(配列番号5))。pDBLeu−cCRY4と、前記cDNAライブラリとで2重に形質転換された酵母MaV203株は遮光されたSD−LWH(ロイシン、トリプトファン及びヒスチジン欠乏SD)寒天培地上で選択された。
【0050】
SD−LWH寒天培地上で形成された多数の酵母コロニーからcDNAを含むプラスミドが抽出・解析された。その結果、cCRY4と暗所にて結合すると考えられるポリペプチドがGAL4の転写活性化ドメイン(AD)のC末端側に連結した融合タンパク質をエンコードする2種類のクローンが得られ、それぞれpEXP−AD502−CRIP1N(配列番号6)及びpEXP−AD502−CRIP2(配列番号7)と命名された。両者に対応する完全長cDNAクローンを単離して、そのオープン・リーディング・フレームのアミノ酸配列を前記融合タンパク質のアミノ酸配列と比較した。CRIP1及びCRIP2のオープン・リーディング・フレームのアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号8及び配列番号9に示される。pEXP−AD502−CRIP1NにはCRIP1の全長ポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドが含まれるが、pEXP−AD502−CRIP2にはCRIP2の全長ポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドの一部しか含まれていなかった。
【実施例2】
【0051】
CRIP1とcCry4との相互作用に対する照射光の波長及び強度の影響
1.材料及び方法
バイトプラスミド(pDBLeu−cCRY4)と、プレイプラスミド(pEXP−AD502−CRIP1N)とでMaV203酵母が形質転換され、SD−LW寒天プレート培地上で単離コロニーが形成された。コロニーが爪楊枝でつついて釣り上げられ、3mLの栄養要求性液体培地へ植菌され、230rpm、30°Cで一晩振盪培養された。培養液のOD600が測定され、OD6001.0の培養液に換算して数十μL分の培養液が10mMの3−ATを含むSD−LWH寒天プレート培地(10cmシャーレ)に均一に塗布された。前記寒天プレート培地の入ったシャーレは、暗条件か、以下の光条件の下、30°Cのインキュベータ内で数日間培養された。照射光の波長の影響を調べる実験の光条件は、一定光子数3×1013個/cm/秒、照射光源はLED、ピーク波長は、405nm(紫色)か、471nm(青色)か、542nm(緑色)か、634nm(赤色)かであった。照射光の強度の影響を調べる実験の光条件は、光源がピーク波長471nm、光量が光子数1.9×1012個/cm/秒(3Lux)ないし8.3×1012個/cm/秒(14Lux)であった。
【0052】
2.結果
図1は、照射光の波長の違いがCRIP1とcCry4との相互作用に与える影響を調べる実験の結果を示す写真である。405nm又は471nmの光を照射しながら培養されたシャーレでは、2重に形質転換された酵母菌のコロニーは全く形成されなかった。542nm又は634nmの光を照射しながら培養されたシャーレと、暗条件、すなわち、遮光状態で培養されたシャーレとではコロニー形成がみられたが、暗条件で培養されたシャーレで形成されたコロニーの数が最も多く、634nmの光を照射しながら培養されたシャーレで形成されたコロニーの数は暗条件で培養されたシャーレで形成されたコロニーの数よりも明らかに少なく、542nmの光を照射しながら培養されたシャーレで形成されたコロニーの数は634nmの光を照射しながら培養されたシャーレで形成されたコロニーの数よりも格段に少なかった。この結果から、照射光の波長が短いほどCRIP1とcCry4との結合は強く阻害されることが示唆された。
【0053】
図2は、照射光の強度の違いがCRIP1とcCry4との相互作用に与える影響を調べる実験の結果を示す写真である。光子数1.9×1012個/cm/秒(3Lux)の光を照射しながら培養されたシャーレで形成されたコロニーの数は、暗条件下で培養されたシャーレで形成されたコロニーの数よりも著しく少なく、毎秒光子数2.6×1012個/cm(4Lux)の光を照射しながら培養されたシャーレで形成されたコロニーの数は、毎秒光子数1.9×1012個/cm(3Lux)の光を照射しながら培養されたシャーレで形成されたコロニーの数より明らかに少なかった。、毎秒光子数5.0×1012個/cm(8Lux)及び8.3×1012個/cm(14Lux)の光を照射しながら培養されたシャーレでは、まったくコロニーが形成されなかった。この結果から、3luxの青色光ではCRIP1とcCry4との結合が強く阻害されるが、まだプラトーには達しておらず、3luxと4luxとの差は検出可能であった。
【実施例3】
【0054】
酵母菌の光感受性増殖を利用した酵母菌フィルム現像
1.材料及び方法
バイトプラスミド(pDBLeu−cCRY4)と、プレイプラスミド(pEXP−AD502−CRIP1N)とで2重に形質転換されたMaV203酵母が10mM 3−ATを含むSD−LW液体培地に接種され、前記酵母が対数増殖期に入るまで(OD600が約0.6になるまで)、約16時間振盪培養された(30°C、260rpm)。寒天プレートと同等の大きさに切られた黒紙が、超純水で洗浄された後、紫外線照射により滅菌処理を施された。滅菌された前記黒紙が10mM 3−ATを含むSD−LWH寒天プレート培地上に敷かれた。4%アガロースが添加されたSD−LWH液体培地が調製され、オートクレーブで滅菌され(121°C、20分)、48°Cの温浴中で保温された。厚さ1mmのスペーサーを挟んだ2枚のガラス板で構成されるゲル凝固用組立体が、48°Cのインキュベータ内で保温された。露光用原板として、所望の画像を透明な背景に黒く描いたOHPシート(プラス株式会社、OH−001)が用意された。この先の作業は写真用安全光下で行われた。前記4%アガロースが添加されたSD−LWH液体培地50mLに、OD600が約0.6の酵母液1,000μLが混合され、前記ゲル凝固用組立体内に注入され、室温にて凝固された。凝固が完了した後、前記組立体が分解され、前記酵母が懸濁されたSD−LWH液体培地を含むアガロースゲルは、黒紙を挟んで前記寒天プレート培地上に戴置された。前記酵母を懸濁したアガロースゲルと、前記寒天プレート培地とが収容されたシャーレの蓋に、前記露光用原板が戴置された。前記露光用原板を透過した光だけが酵母に照射されるように、前記シャーレは、蓋の表面以外がアルミホイルで覆うことにより遮光された。青色LED(LuxeonK2, blue、プレート面にて84μW/cm)の光を前記シャーレに上から照射しながら、前記シャーレは30°Cで3日間培養された。
【0055】
2.結果
図3は、日本列島の形状を描いた露光原板を用いて露光されたゲルの写真である。図3に示されるとおり、本実施例の露光方法を用いると、アガロース中に包埋された酵母は、前記露光原板の透明な背景部分では、照射光によってCRIP1とcCry4との結合が強く阻害されるために、酵母の増殖が阻害されるが、前記露光原板の黒色の描画部分では、照射光が遮られるので酵母の増殖は阻害されない。こうして前記露光原板の画像が、アガロース中での酵母の増殖パターンとして写し取られた。本実施例の結果から、CRIP1とcCry4との相互作用を利用する遺伝子発現制御システムは、画像の輪郭を写し取ることが可能なほど鋭敏な光感受性を有することが明らかになった。
【実施例4】
【0056】
2量体化による光感受特性の改変の定性的評価
1.2量体バイトプラスミドの作成
cCry4のオープン・リーディング・フレーム全長をエンコードするポリヌクレオチドと、該ポリヌクレオチドに終始コドンに対応するオリゴヌクレオチドが連結されたポリヌクレオチドとが、PCR法によって調製され、pENTR/D−TOPOベクターにサブクローニングされた(それぞれ、「pENTR/D−TOPO−cCRY4.2」及び「pENTR/D−TOPO−cCRY4」という。)。これらに基づいて、cCry4の2量体(配列番号10、以下、「cCry4.2−cCry4」という。)をエンコードするポリヌクレオチドが、pENTR/D−TOPOベクターにサブクローニングされた(pENTR/D−TOPO−cCRY4.2−cCRY4)。cCry4.2−cCry4は、2個のcCry4全長ポリペプチドが、NNSRRというアミノ酸残基5個のスペーサオリゴペプチド(配列番号11)を介して直列に配置された構成を有する。pENTR/D−TOPO−cCRY4と、pDEST32ベクター(invitrogen、型番:PQ1000101)との組換え反応によって、pDEST32−cCRY4(配列番号12)が作成された。pDEST32−cCRY4は、GAL4のDNA結合ドメイン(DBD)のC末端側にcCry4の全長ポリペプチドが連結した融合タンパク質(配列番号13、以下、「DBD−Cry4」という。)をエンコードする。同様に、pENTR/D−TOPO−cCRY4.2−cCRY4と、pDEST32ベクターとの組換え反応によって、pDEST32−cCRY4.2−cCRY4(配列番号14)が作成された。プラスミドpDEST32−cCRY4.2−cCRY4は、GAL4のDNA結合ドメイン(DBD)のC末端側にcCry4.2−cCry4ポリペプチドが連結した融合タンパク質(配列番号15、以下、「DBD−cCry4.2−cCry4」という。)を発現することができる。
【0057】
2.2量体プレイプラスミドの作成
前記2量体バイトプラスミドの作成の場合と同様に、CRIP2部分ポリペプチド2量体(配列番号16、以下、「CRIP2−CRIP2_4696−7782」という。)をエンコードするポリヌクレオチドがpEXP−AD502ベクターにサブクローニングされた(pEXP−AD502−CRIP2−CRIP2_4696−7782、配列番号17)。CRIP2−CRIP2_4696−7782は、2個のCRIP2部分ポリペプチドが、アスパラギン(N)3個のスペーサオリゴペプチドを介して直列に配置された構成を有する。プラスミドpEXP−AD502−CRIP2−CRIP2_4696−7782は、GAL4の転写活性化ドメイン(AD)のC末端側にCRIP2−CRIP2_4696−7782ポリペプチドが連結した融合タンパク質(配列番号18、以下、「AD−CRIP2−CRIP2_4696−7782」という。)を発現することができる。
【0058】
バイトタンパク質及びプレイタンパク質の相互作用に対する2量体化の影響
単量体バイトプラスミド(pDBLeu−cCRY4又はpDEST32−cCRY4)か、2量体バイトプラスミド(pDEST32−cCRY4.2−cCRY4)か、空バイトプラスミド(pDEST32、配列番号19)かと、単量体プレイプラスミド(pEXP−AD502−CRIP2)か、2量体プレイプラスミド(pEXP−AD502−CRIP2−CRIP2_4696−7782)か、空プレイプラスミド(pEXP−AD502)かとの組合せで、MaV203酵母が2重に形質転換された。形質転換された酵母がSD−LW寒天プレート培地上で選択され、コロニーが形成された。コロニーが爪楊枝でつついて釣り上げられ、3mLのSD−LW液体培地へ植菌され、230rpm、30°Cで一晩振盪培養された。培養液のOD600が測定され、OD6001.0の培養液500μL分が1.5 mLチューブに分注された。形質転換された酵母は、滅菌水でリンスされた後、白金耳を用いて10 mMの3−ATを含むSD−LWH寒天プレート培地に稙菌され、暗条件又は明条件(約441μW/cmの青色光)の下、30°Cで3日間培養された。
【0059】
結果
図4は、2量体又は単量体のプレイ及びバイトタンパク質が2重に形質転換された酵母の暗条件下特異的なコロニー形成を示す写真である。図4に示されるとおり、バイトタンパク質は、単量体より2量体のほうが暗条件下でより多くのコロニーが形成された。そこで、単量体よりも2量体のほうが強い相互作用を行うことが明らかになった。
【実施例5】
【0060】
多量体化による光感受特性の改変の定量的評価(1)
暗条件下での遺伝子発現の増強
1.2量体及び4量体バイトプラスミドの作成
cCry4の2量体cCry4.2−cCry4をエンコードするpENTR/D−TOPO−cCRY4.2−cCRY4プラスミドから、N末端側のcCry4と、スペーサオリゴペプチドとを含むポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドが制限酵素Cpo Iによって切り出され、同じ制限酵素Cpo Iで切断されたpDBLeu−cCRY4プラスミドに読み枠がシフトしないように挿入された。このようにして、DBDドメインと、cCry4の2量体cCry4.2−cCry4との融合タンパク質をエンコードするpDBLeu−cCRY4.2−cCRY4(配列番号20)が作成された。pDBLeu−cCRY4.2−cCRY4が制限酵素Cpo Iで部分消化され、1カ所だけで消化された部分消化ベクターが精製された。一方、pENTER/D−TOPO−cCRY4.2−cCRY4が制限酵素Cpo Iで完全消化され、cCry4の2量体のうち、転写開始点に近い側のcCRY4のC末端側と、スペーサオリゴペプチドと、転写開始点から遠い側のcCRY4のN末端側とを含むポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドが切り出されて、前記部分消化ベクターに挿入された。このようにして、DBDドメインと、cCry4の4量体(配列番号21、以下、「cCry4.2×3−cCry4」という。)との融合タンパク質(配列番号22、以下、「DBD−cCry4.2×3−cCry4」という。)をエンコードするプラスミドpDBLeu−cCRY4.2×3−cCRY4(配列番号23)が作成された。
【0061】
2.バイト及びプレイタンパク質の相互作用によるβ−ガラクトシダーゼ酵素発現誘導の定量測定
cCry4の単量体、2量体又は4量体と、DBDドメインとの融合タンパク質をエンコードするバイトプラスミド(pDBLeu−cCRY4、pDBLeu−cCRY4又はpDBLeu−cCRY4.2×3−cCRY4)と、CRIP1Nの単量体プレイプラスミド(pEXP−AD502−CRIP1N)との組合せで、MaV203酵母が2重に形質転換された。形質転換された酵母がSD−LW寒天プレート培地上で選択され、コロニーが形成された。形質転換に用いたプラスミドの組合せごとに、3個のコロニーが爪楊枝でつついて釣り上げられ、10mLのSD−LW液体培地が入った試験管3本のそれぞれにコロニー1個ずつ植菌された。前記10mLの試験管は、コロニーの酵母を均一に分散した後、5mLずつ明条件下で培養する試験管と暗条件下で培養する試験管とに分けられ、暗条件下で培養する試験管がアルミホイルで遮光された後、全ての試験管が振盪培養装置に取り付けられた。前記振盪培養装置は、青色パネル発光装置を有し、さらに前記振盪培養装置全体を覆うことのできる暗幕を備えている。そこで、前記振盪培養装置を前記暗幕で覆うことにより、外光から遮断された状態で、該振盪培養装置の上から青色光を前記試験管に照射しながら振盪培養を行うことができる。前記試験管中の酵母は、約77μW/cmの青色光照射条件下、230rpm、30°Cで終夜振盪培養された。翌日、培養液のOD600が測定され、OD6001.0の培養液1500μL分が別の試験管に分注され、全量が5mLとなるようにYPAD液体培地が添加された。暗条件下で培養する試験管がアルミホイルで遮光された後、全ての試験管が前記振盪培養装置に固定され、約77μW/cmの青色光照射条件下、230rpm、30°Cで再び3時間振盪培養された。
【0062】
前記3時間の振盪培養の後、各試験管の培養液のOD600が測定された。そして、前記試験管の培養液5mLから1.5mLが分取され、10,000×g、室温、30秒間の遠心の後、ペレットが1.5mLのZバッファーに懸濁された。さらに前記ペレットは、10,000×g、室温、30秒間の遠心により洗浄され、300μLのZバッファーに再懸濁された。前記300μLのZバッファーのうち100μLが別の試験管に分取され、該試験管は液体窒素に30秒間浸されて、酵母の菌体細胞が完全に凍結された。前記試験管は37°Cの湯浴に1分間浸され、前記酵母細胞は融解された。この凍結及び融解のステップをもう1度繰り返して得られた細胞溶解液は、5μLずつ1.5mL試験管に分注され、測定用サンプルとして用いられた。
【0063】
十分な量のReaction Buffer (Luminescent β−galactosidase Detection KitII、CLONTECH、型番631712)が分注され、アルミホイルで遮光された状態で室温に戻された。室温に戻された前記Reaction Bufferに1/50量のReaction Substrate(前記キットに付属)が添加され、Galacton−Star Reaction Mixtureが調製された。また、終濃度が20、40、120、400及び800ユニット/LとなるようにZバッファーで希釈されたPositive Control β−galactosidase(前記キットに付属)溶液が5μLずつ1.5mL試験管に分注され、較正用サンプルとして用いられた。
【0064】
前記各サンプルに40μLの前記Galacton−Star Reaction Mixtureが添加され、穏やかに混和された。全てのサンプルは室温で1時間インキュベートされた後、16,000×g、4°C、1分間遠心された。各サンプルの遠心上清の発光量(RLU値)が5秒間ルミノメーター(GENE LIGHT 55(Microtec、GL−100A)、測定感度:5×10−13M(モル/L ATP))で測定された。測定されたRLU値を前記3時間の振盪培養後の培養液のOD600で割った商が、各サンプルの実験値とされた。較正用サンプルのβ−ガラクトシダーゼ活性からβ−ガラクトシダーゼ活性と発光量との較正曲線が作成され、前記各サンプルの実験値を前記較正曲線にプロットすることにより、各サンプルのβ−ガラクトシダーゼ活性測定値が算出された。
【0065】
3.結果
図5は、単量体、2量体又は4量体バイトプラスミド(それぞれCRY4×1、CRY4×2及びCRY4×4)と、単量体プレイプラスミドCRIP1とで2重形質転換された酵母が、暗条件(D)又は青色光照射による明条件(L)で3時間培養された間に発現が誘導されたβ−ガラクトシダーゼ活性を示す棒グラフである。図の中の数字は、同一のバイトプラスミドで形質転換された酵母の暗条件と明条件とでのβ−ガラクトシダーゼ活性の比か、あるいは、単量体バイトプラスミドと2量体バイトプラスミドとで形質転換された酵母の明条件でのβ−ガラクトシダーゼ活性の比か、2量体バイトプラスミドと4量体バイトプラスミドとで形質転換された酵母の明条件でのβ−ガラクトシダーゼ活性の比かを表す。暗条件のグラフは同一条件で行った3個の異なるコロニー由来の培養でのβ−ガラクトシダーゼ活性測定値の平均値で、それぞれの誤差棒は前記測定値の標準偏差を示す。異なる実験条件の棒グラフを結ぶ線に付されたアステリク印は、それぞれの実験条件の間でのステューデントtテストの結果、有意差(p<0.01)が認められたことを表す。図5から明らかなとおり、単量体バイトプラスミドで形質転換された酵母と2量体バイトプラスミドで形質転換された酵母とでは、β−ガラクトシダーゼ活性が35倍増強され、単量体バイトプラスミドで形質転換された酵母と4量体バイトプラスミドで形質転換された酵母とでは、β−ガラクトシダーゼ活性が58倍増強された。この結果から、cCry4をバイトタンパク質に用いる場合には、単量体より2量体のほうがプレイタンパク質との相互作用が35倍増強され、2量体より4量体のほうが1.6倍増強されることが明らかになった。
【実施例6】
【0066】
多量体化による光感受特性の改変の定量的評価(2)
照射光の波長及び強度の影響
1.異なる波長及び強度の光照射条件下での形質転換酵母の培養
実施例5と同様に、cCry4の単量体、2量体又は4量体と、DBDドメインとの融合タンパク質をエンコードするバイトプラスミド(pDBLeu−cCRY4、pDBLeu−cCRY4.2−cCRY4又はpDBLeu−cCRY4.2×3−cCRY4)と、CRIP1Nの単量体プレイプラスミド(pEXP−AD502−CRIP1N)との組合せで、MaV203酵母が2重に形質転換された。形質転換された酵母がSD−LW寒天プレート培地上で選択され、コロニーが形成された。形質転換に用いたプラスミドの組合せごとに、3個のコロニーが爪楊枝でつついて釣り上げられ、2mLのSD−LW液体培地が入った試験管3本のそれぞれにコロニー1個ずつ植菌された。
【0067】
前記試験管は採光窓付きの暗箱に収容されて振盪培養に供されるが、該暗箱は、直方体の形状を有し、その1つの面の一部が切り取られて採光窓が設けられ、該採光窓に50%又は25%減光用(Neutral Density)フィルターが取り付けられるか、減光用フィルターなしかの3種類がある。振盪培養装置は、470nm(青色)、525nm(緑色)又は590nm(橙色)の波長の光を一定の強度で照射できるLED発光装置を有し、さらに前記振盪培養装置全体を覆うことのできる暗幕を備えている。そこで、前記振盪培養装置を前記暗幕で覆うことにより、外光から遮断された状態で、該振盪培養装置の横から青色光を前記暗箱内の試験管に照射しながら振盪培養を行うことができる。前記試験管中の酵母は、アルミホイルで遮光されるか、採光窓に50%又は25%減光用フィルターが取り付けられた暗箱に収容されるか、減光用フィルターなしの採光窓付きの暗箱に収容されるかの状態で、470nm、525nm又は590nmの波長の光を、毎秒光子数5.92×1013個/cm(470nmの光で25μW/cmの強度に相当する)の強度で照射する条件下で230rpm、30°C終夜振盪培養された。翌日、培養液のOD600が測定され、OD6001.0の培養液600μL分が別の試験管に分注され、全量が2mLとなるようにYPAD液体培地が添加された。暗条件下で培養する試験管がアルミホイルで遮光された後、終夜培養と同一の照射条件下で、230rpm、30°Cで再び3時間振盪培養された。培養後の酵母は実施例5と同じ手順によって処理され、各サンプルのβ−ガラクトシダーゼ活性測定値が算出された。
【0068】
2.結果
図6は、3種類の異なるバイトプラスミドのいずれかと、同一のプレイプラスミドとで2重に形質転換された酵母で発現誘導されるβ−ガラクトシダーゼ活性に対する照射光の波長及び強度の影響を示す線グラフである。図6から明らかなとおり、照射光が強いほど、暗条件に比べて明条件でのβ−ガラクトシダーゼ活性が下がるため、明条件でのβ−ガラクトシダーゼ活性に対する暗条件でのβ−ガラクトシダーゼ活性の比(D/L)は照射光の強度が高いほど大きくなった。また、バイトタンパク質が単量体から2量体、4量体と多量体化が進むにつれて、暗条件で誘導されるβ−ガラクトシダーゼ活性そのものが高くなった。照射光の波長が525nm(緑色)又は590nm(橙色)のときには明条件でもほとんどβ−ガラクトシダーゼ活性の低下はみられなかった。
【実施例7】
【0069】
遮光によるCRIP1とcCry4との相互作用の回復
1.遮光後のβ−ガラクトシダーゼ活性の経時変化
実験群として、cCry4の単量体と、DBDドメインとの融合タンパク質をエンコードするバイトプラスミド(pDBLeu−cCRY4)と、CRIP1Nの単量体プレイプラスミド(pEXP−AD502−CRIP1N)との組合せで、MaV203酵母が2重に形質転換された。形質転換された酵母がSD−LW寒天プレート培地上で選択され、コロニーが形成された。陽性対照として、GAL4(DBDとADとを分割していないもともとの転写因子)を発現するプラスミドで形質転換されたMaV203酵母株が用いられた。また、陰性対照として、GAL4のDBDドメイン(配列番号24)のみをエンコードするプラスミド(pDBLeu、配列番号25)と、GAL4の転写活性化ドメイン(配列番号25)のみをエンコードするプラスミド(pEXP−AD502)とで2重に形質転換されたMaV203酵母が用いられた。それぞれの2重形質転換酵母は、SD−LW寒天プレート培地上で選択され、形成されたコロニーが爪楊枝でつついて釣り上げられ、5mLのSD−LW液体培地が入った試験管のそれぞれにコロニー1個ずつ植菌された。
【0070】
全ての試験管が振盪培養装置に取り付けられた。前記振盪培養装置は、青色パネル発光装置を有し、さらに前記振盪培養装置全体を覆うことのできる暗幕を備えている。前記試験管中の酵母は、約15.2μW/cmの青色光照射条件下、230rpm、30°Cで終夜振盪培養された。翌日、培養液のOD600が測定され、OD6001.0の培養液1500μL分ずつが別の試験管6本に分注され、全量が5mLとなるようにYPAD液体培地が添加された。陰性対照及び陽性対照についても、同じ濃度に調整され、全量が5mLとなるようにYPAD液体培地が添加された試験管が6本ずつ用意された。
【0071】
前記試験管は全て約15.2μW/cmの青色光照射条件下、230rpm、30°Cで210分間振盪培養された。そして、培養開始時からアルミホイルで遮光される試験管が、暗条件で210分培養されるサンプルとして用意され、1培養開始後30分、120分、180分及び200分にアルミホイルで遮光され、引き続き振盪培養される試験管が、それぞれ、暗条件で180分、90分、30分及び10分培養されるサンプルとして用意された。培養後の酵母は実施例5と同じ手順によって処理され、各サンプルのβ−ガラクトシダーゼ活性測定値が算出された。
【0072】
2.結果
図7は、ともに単量体のバイトプラスミド及びプレイプラスミドで2重に形質転換された酵母と、陽性対照の酵母と、陰性対照の酵母とについて、遮光により暗条件に移行後の培養時間と、最後まで明条件下で培養された酵母でのβ−ガラクトシダーゼ活性に対する暗条件培養後のβ−ガラクトシダーゼ活性の比とを示すグラフである。各実験条件ごとのサンプル数は2である。図7のグラフの各ポイントは、菱形(◇)が実験群で、三角(△)が陰性対照で、四角(□)が陽性対照であった。図7から明らかなとおり、暗条件下での培養開始37分後からβ−ガラクトシダーゼ活性が上昇しはじめ、ほぼ直線的に増加した。陽性対照及び陰性対照は、いずれも暗条件に移行してもβ−ガラクトシダーゼ活性は明条件下とほぼ同じであった。この結果から、本発明のcCry4とCRIP1との相互作用は、光が遮られてもすぐには検出されず、半時間を超えるタイムラグが必要であるので、比較的緩慢に進行することが明らかとなった。
【実施例8】
【0073】
光感受性の遺伝子発現調節特性
1.レポータコンストラクトの作成
本発明の光感受性遺伝子発現調節システムが、任意の遺伝子の調節に利用可能であることを実証するための新たなレポータコンストラクトとして、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)と、発明者らが作成したゼブラフィッシュCRY4のC末端部分に対するモノクローナル抗体(D1mAb)が認識するアミノ酸10残基からなるエピトープとを含むアミノ酸残基25個からなる融合タンパク質(配列番号26、以下、「GST−ME25」という。)をエンコードするポリヌクレオチドが、Gal1プロモーターの下流に連結され、本発明のバイト及びプレイタンパク質の相互作用によって誘導可能にされたプラスミドpYES−DEST52−GST−ME25(配列番号27)が作成された。
【0074】
2.陽性又は陰性対照のバイト及びプレイプラスミドの作成
光感受性のない陽性対照として、DBDドメインとcFosポリペプチドの一部との融合タンパク質をエンコードする対照バイトプラスミド(pPC97−cFos)と、ADドメインとcJunポリペプチドの一部との融合タンパク質をエンコードする対照プレイプラスミド(pPC86−cJun)とが用意された。またGal1プロモーターの転写誘導活性のない陰性対照として、DBDドメインのみをエンコードするpDBLeuと、ADドメインのみをエンコードするpEXP−AD502とが用意された。
【0075】
3.多重形質転換酵母の調製
前記レポータコンストラクトpYES−DEST52−GST−ME25と、cCry4の4量体を含むバイトタンパク質を発現するpDBLeu−cCRY4.2×3−cCRY4と、CRIP1の単量体を含むプレイタンパク質を発現するpEXP−AD502−CRIP1NとでMaV203酵母が形質転換された。陽性対照として、前記レポータコンストラクトpYES−DEST52−GST−ME25と、pPC97−cFosと、pPC86−cJunとでMaV203酵母が形質転換された。陰性対照として、前記レポータコンストラクトpYES−DEST52−GST−ME25と、pDBLeuと、pEXP−AD502とでMaV203酵母が形質転換された。
【0076】
4.転写誘導活性の検出
それぞれの3重形質転換酵母は、SD−LWU寒天プレート培地上で選択され、形成されたコロニーが爪楊枝でつついて釣り上げられ、10mLのSD−LWU液体培地が入った試験管のそれぞれにコロニー1個ずつ植菌された。
【0077】
全ての試験管が振盪培養装置に取り付けられた。前記振盪培養装置は、青色パネル発光装置を有し、さらに前記振盪培養装置全体を覆うことのできる暗幕を備えている。前記試験管中の酵母は、約100μW/cmの青色光照射条件下、230rpm、30°Cで終夜振盪培養された。暗条件培養の試験管は、アルミホイルで遮光された。翌日、培養液のOD600が測定され、OD6001.0以上であることを確認し、OD6002.0の培養液800μL分ずつが別の50mL試験管に分注され、全量が20.4mLとなるようにYPAD液体培地が添加された。陰性対照及び陽性対照についても、同じ濃度に調整され、全量が20.4mLとなるようにYPAD液体培地が添加された50mL試験管が用意された。
【0078】
明条件下で終夜培養された酵母は、さらに5時間明条件下で培養されるグループと、4時間は明条件下で培養されるが、最後の1時間だけ暗条件下で培養されるグループとに分けられた(図8A)。同様に、暗条件下で終夜培養された酵母は、さらに5時間暗条件下で培養されるグループと、4時間は暗条件下で培養されるが、最後の1時間だけ明条件下で培養されるグループとに分けられた(図9A)。
【0079】
全ての試験管は、培養終了後、氷上で5分間以上静置された。400μLを用いて、再度OD600が測定された。前記OD600測定値と、培養液の体積(mL)との積として各試験管についてOD600ユニットが計算された。各試験管について、7.5OD600ユニットあたり100μLの完全破砕バッファーが調製され、60°Cに加温された。氷上で静置された前記試験管は、1,000×g、4°C、5分間遠心され、上清が除去された後、ペレットは1.0mLの氷冷滅菌水に懸濁され、1.5mLチューブに移された。再度1,000×g、4°C、5分間遠心され、上清が除去された。ペレットが7.5OD600ユニットあたり100μLの完全破砕バッファーで懸濁された。この懸濁液100μLが、ガラスビーズ80μLを含む1.5mLチューブに移された。前記1.5mLチューブは10分間、70°Cに加温され、ボルテックスで1分間撹拌されて、酵母菌体が破砕された。その後、前記1.5mLチューブは18,000×g、4°C、5分間遠心された。100°Cで5分間処理された後、撹拌され、18,000×g、4°C、5分間遠心した後、上清50μLが新たな1.5mLチューブに移された。前記上清は10分間、90°Cに加温された後、液体窒素で瞬間凍結されて、−80°Cで保存された。その後、前記上清はSDS−PAGE法と、D1mAbを用いたウェスタンブロッティング法とに供され、各サンプル中のGST−ME25融合タンパク質の発現が解析された。大腸菌で産生された組換えGST−ME25融合タンパク質の精製標品が、サンプルとともにSDS−PAGE法及びウェスタンブロッティング法とに供され、発現量の定量に用いられた。
【0080】
5.結果
図8Aは、明条件下で終夜培養された酵母について、さらに5時間明条件下で培養されるグループ(L)と、5時間暗条件下で培養されるグループ(D)との明暗スケジュールの模式図である。図8Bは、3種類の異なるバイト及びプレイプラスミドと、レポータコンストラクトとで多重形質転換された酵母でのレポータタンパク質GST−ME25(GST−D1tag)の発現を比較したウェスタンブロット結果図である。前記3種類の異なるバイト及びプレイプラスミドとは、cCry4の4量体を含むバイトタンパク質を発現するpDBLeu−cCRY4.2×3−cCRY4と、CRIP1の単量体を含むプレイタンパク質を発現するpEXP−AD502−CRIP1Nとの組み合わせ(DBD−cCRYx4/AD−CRIP)と、陰性対照として、DBDドメインのみをエンコードするpDBLeuと、ADドメインのみをエンコードするpEXP−AD502との組み合わせ(空ベクター)と、陽性対照として、DBDドメインとcFosポリペプチドの一部との融合タンパク質をエンコードする対照バイトプラスミド(pPC97−cFos)と、ADドメインとcJunポリペプチドの一部との融合タンパク質をエンコードする対照プレイプラスミド(pPC86−cJun)との組み合わせ(DBD−cFos/AD−cJun)とである。図8Bから明らかなとおり、DBD−cCRYx4/AD−CRIPは、明条件から暗条件への移行後5時間(D)でレポータタンパク質GST−D1tagの発現が検出されたが、明条件のまま(L)ではレポータタンパク質GST−D1tagの発現は検出されなかった。これに対し、陰性対照(空ベクター)では、光照射の有無にかかわらずレポータタンパク質GST−D1tagの発現は検出されなかった。逆に陽性対照(DBD−cFos/AD−cJun)では、光照射の有無にかかわらずレポータタンパク質GST−D1tagの強い発現が検出された。この結果から、明条件下では本発明のバイトプラスミド及びプレイプラスミドは遺伝子発現を完全に抑制し、5時間連続して暗条件下で培養するだけで、遺伝子及びタンパク質の有意な発現がみられた。
【0081】
図9Aは、暗条件下で終夜培養された酵母について、さらに5時間暗条件下で培養されるグループ(D)と、5時間明条件下で培養されるグループ(L)との明暗スケジュールの模式図である。図9Bは、3種類の異なるバイト及びプレイプラスミドと、レポータコンストラクトとで多重形質転換された酵母でのレポータタンパク質GST−ME25(GST−D1tag)の発現を比較したウェスタンブロット結果図である。前記3種類の異なるバイト及びプレイプラスミドとは、図8Bと同じである。図9Bから明らかなとおり、DBD−cCRYx4/AD−CRIPは、暗条件のまま(D)ではレポータタンパク質GST−D1tagの強い発現が検出された。5時間の暗条件下の培養で、約50μg/Lのレポータタンパク質の発現が認められた。一方、暗条件から明条件への移行後5時間(L)でレポータタンパク質GST−D1tagの発現は全く検出されなくなった。この結果から、暗条件下では本発明のバイトプラスミド及びプレイプラスミドは遺伝子発現を強く誘導するが、5時間連続して明条件下で培養すると、レポータタンパク質の発現は完全に消失していた。
【0082】
本実施例で示すとおり、本発明の光感受性の遺伝子発現調節システムは、暗条件下では遺伝子発現を強く誘導することができ、明条件では遺伝子発現を完全に抑制することができる。また、暗条件から明条件に切り替えると、速やかに遺伝子発現が強く抑制され、逆に、明条件から暗条件に切り替えても、遺伝子発現の強い誘導はみられない。このような光感受特性は従来のものとは全く逆である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cry4タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドのアミノ酸配列を少なくとも1個エンコードし、DNA結合ドメイン又は転写活性化ドメインのいずれかと連結された第1の融合タンパク質をエンコードする第1のポリヌクレオチドと、
Cry4タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドのアミノ酸配列を少なくとも1個エンコードし、転写活性化ドメイン又はDNA結合ドメインのいずれかと連結された第2の融合タンパク質をエンコードする第2のポリヌクレオチドと、
前記DNA結合ドメインと特異的に結合するポリヌクレオチドを含む第3のポリヌクレオチドとを含むことを特徴とする、光感受性遺伝子発現調節システム。
【請求項2】
前記第1のポリヌクレオチドは、Cry4タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個ないし5個のポリペプチドと、DNA結合ドメイン又は転写活性化ドメインのいずれかとからなる第1の融合タンパク質をエンコードし、
前記第2のポリヌクレオチドは、CRIP1タンパク質又はCRIP2タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個ないし5個のポリペプチドと、転写活性化ドメイン又はDNA結合ドメインのいずれかとからなる第2の融合タンパク質をエンコードすることを特徴とする、請求項1に記載の光感受性遺伝子発現調節システム。
【請求項3】
前記第1のポリヌクレオチドは、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8か、配列番号9か、配列番号16かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8か、配列番号9か、配列番号16かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個ないし5個のポリペプチドのアミノ酸配列が、連結部位ごとに独立に0個ないし20個のアミノ酸残基からなるスペーサオリゴペプチドのアミノ酸配列を介して、DNA結合ドメイン又は転写活性化ドメインのいずれかと直列に連結される、第1の融合タンパク質をエンコードし、
前記第2のポリヌクレオチドは、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個ないし5個のポリペプチドのアミノ酸配列が、連結部位ごとに独立に0個ないし20個のアミノ酸残基からなるスペーサオリゴペプチドのアミノ酸配列を介して、前記転写活性化ドメイン及びDNA結合ドメインのうち、第1の融合タンパク質に含まれないドメインと直列に連結される、第2の融合タンパク質をエンコードすることを特徴とする、請求項1に記載の光感受性遺伝子発現調節システム。
【請求項4】
前記第1のポリヌクレオチドは、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドのアミノ酸配列が、DNA結合ドメイン又は転写活性化ドメインのいずれかと直列に連結される、第1の融合タンパク質をエンコードし、
前記第2のポリヌクレオチドは、配列番号8か、配列番号9か、配列番号16かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号8か、配列番号9か、配列番号16かに列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドのアミノ酸配列が、前記転写活性化ドメイン及びDNA結合ドメインのうち、第1の融合タンパク質に含まれないドメインと直列に連結される、第2の融合タンパク質をエンコードすることを特徴とする、請求項1に記載の光感受性遺伝子発現調節システム。
【請求項5】
前記DNA結合ドメインは、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号28に列挙されるヌクレオチド配列のポリヌクレオチドと結合するポリペプチドと、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号28に列挙されるヌクレオチド配列のポリヌクレオチドと結合するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドのアミノ酸配列からなり、
前記転写活性化ドメインは、配列番号25に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号25に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、該ポリペプチドが配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドとの融合タンパク質を形成するとき、配列番号28に列挙されるヌクレオチド配列のポリヌクレオチドの3’側に連結されたプロモーターエレメントからのRNA転写を活性化するポリペプチドと、配列番号25に列挙されるアミノ酸配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、該ポリペプチドが配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドとの融合タンパク質を形成するとき、配列番号28に列挙されるヌクレオチド配列のポリヌクレオチドの3’側に連結されたプロモーターエレメントからのRNA転写を活性化するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドのアミノ酸配列からなり、
前記DNA結合ドメインと特異的に結合するポリヌクレオチドは、配列番号28のヌクレオチド配列のポリヌクレオチドと、配列番号28のヌクレオチド配列に1個又は数個のヌクレオチドの置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリヌクレオチドであって、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと結合するポリヌクレオチドと、配列番号28のヌクレオチド配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるヌクレオチド配列のポリヌクレオチドであって、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと結合するポリヌクレオチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列からなることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の光感受性遺伝子発現調節システム。
【請求項6】
前記第1のポリヌクレオチドは、配列番号5、配列番号12、配列番号14又は配列番号23のいずれか1つのヌクレオチド配列のポリヌクレオチドであり、
前記第2のポリヌクレオチドは、配列番号6、配列番号7又は配列番号17のいずれか1つのヌクレオチド配列のポリヌクレオチドであり、
前記第3のポリヌクレオチドは、配列番号28のヌクレオチド配列のポリヌクレオチドと、配列番号28のヌクレオチド配列に1個又は数個のヌクレオチドの置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリヌクレオチドであって、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと結合するポリヌクレオチドと、配列番号28のヌクレオチド配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるヌクレオチド配列のポリヌクレオチドであって、配列番号24に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと結合するポリヌクレオチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の光感受性遺伝子発現調節システム。
【請求項7】
暗条件か、赤色光の下かでは遺伝子発現が誘導されるが、緑色光又は青色光の下では遺伝子発現が実質的に抑制されることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の光感受性遺伝子発現調節システム。
【請求項8】
Cry4タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドが共有結合で連結した第1の化合物と、
Cry4タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドが共有結合で連結した第2の化合物とを含むことを特徴とする、光感受性組成物。
【請求項9】
Cry4タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドが共有結合で連結した第1の化合物と、
CRIP1タンパク質又はCRIP2タンパク質と、その変異体、誘導体及び/又は修飾体とからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドが共有結合で連結した第2の化合物とを含むことを特徴とする、光感受性組成物。
【請求項10】
前記第1の化合物は、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8か、配列番号9か、配列番号16かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列との相同性が80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8か、配列番号9か、配列番号16かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドが共有結合で連結し、
前記第2の化合物は、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列との相同性が80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドが共有結合で連結することを特徴とする、請求項8又は9に記載の光感受性組成物。
【請求項11】
第1の化合物と第2の化合物とは、暗条件か、赤色光の下かで会合するが、緑色光又は青色光の下では会合しないことを特徴とする、請求項8ないし10のいずれか1つに記載の光感受性組成物。
【請求項12】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の光感受性遺伝子発現調節システムを含むことを特徴とする、細胞。
【請求項13】
請求項12に記載の細胞を含むことを特徴とする、菌類か、植物か、ヒトを除く動物かのいずれかの生物個体。
【請求項14】
(1)Cry4タンパク質のアミノ酸配列を少なくとも1個エンコードし、DNA結合ドメイン又は転写活性化ドメインのいずれかと連結された第1の融合タンパク質を発現する第1の組換えベクターと、転写活性化ドメイン又はDNA結合ドメインとcDNAインサートにエンコードされるポリペプチドとが連結された第2の融合タンパク質を発現する第2の組換えベクターと、第1の融合タンパク質と第2の融合タンパク質とが相互作用をするとき、選択培地で増殖する宿主細胞とを用意するステップと、
(2)前記第2の組換えベクターを用いてcDNAライブラリを構築するステップと、
(3)前記第1の組換えベクターと前記cDNAライブラリとを前記宿主細胞内に導入するステップと、
(4)暗条件下で選択培地で増殖するコロニー由来の細胞のうち、青色光照射下では選択培地で増殖しない細胞をスクリーニングするステップと、
(5)前記スクリーニングにより得られた光感受性増殖細胞に含まれる第2の組換えベクターにエンコードされるcDNAインサートを単離するステップとを含むことを特徴とする、Cry4と光感受性の相互作用を行うタンパク質をエンコードするcDNAをスクリーニングする方法。
【請求項15】
配列番号2に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8か、配列番号9かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号8か、配列番号9かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1個のポリペプチドを含み、暗条件又は赤色光の下で他のタンパク質と会合するが、緑色光又は青色光の下では該他のタンパク質とは会合しないことを特徴とする、光感受性スイッチ素子。
【請求項16】
配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列に1個又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失及び/又は挿入されたアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドと、配列番号8又は配列番号9に列挙されるアミノ酸配列との相同性が、80%、85%、90%又は95%を超えるアミノ酸配列のポリペプチドであって、配列番号2か、配列番号10か、配列番号21かに列挙されるアミノ酸配列のポリペプチドと暗条件下で相互作用するポリペプチドとからなるグループから選択されるいずれか1つのポリペプチド。
【請求項17】
請求項16に記載のポリペプチドをエンコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項18】
請求項17に記載のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを発現することを特徴とする組換えベクター。
【請求項19】
請求項18に記載の組換えベクターを含むことを特徴とする細胞。
【請求項20】
請求項19に記載の細胞を含むことを特徴とする、菌類か、植物か、ヒトを除く動物かのいずれかの生物個体。

【図7】
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【図8A】
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【図9A】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8B】
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【図9B】
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【公開番号】特開2011−142828(P2011−142828A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4450(P2010−4450)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】