説明

光拡散ガラス部材

【課題】ガラス表面を粗面化することなく、十分な表面強度を有して、可視域を超える広い範囲でフラットな透過率特性を有する光拡散ガラス部材を提供する。
【解決手段】ガラス中に結晶相を有し、酸化物換算による重量%表示で、SiOを35〜70%、Alを0〜8.0%、Bを15〜35%、NaO、KO、LiOから選択される成分を全体で3〜10%、CaO、Yから選択される成分を全体で6〜20%、及び、Sbを0〜1%、を含有して構成され、厚さ2.0mmの部材で評価して、波長400nm〜2500nmについて全光線平均透過率が5〜50%であり、前記全光線平均透過率に対する透過率偏差の平均値が、400nm〜2500nmの波長領域において4.0%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視域を超える広い波長域にわたって、フラットな透過率特性を有する光拡散ガラス部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
照明器具や光学機械などの光拡散材として、ガラス部材が使用される場合がある。このような光拡散ガラス部材としては、スパッタリングや真空蒸着によってガラス表面に適宜な乳白色膜を形成する成膜法や、硬質の砂を圧搾空気でガラス表面に吹き当てるサンドブラスト法が知られている。また、ブラスト加工された後のガラス表面をフッ化水素でエッチングする方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−010605号公報
【特許文献2】特開2011−032124号公報
【特許文献3】特開2010−287791号公報
【特許文献4】特開2011−077182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、サンドブラスト法のようにガラス表面を粗面化する構成では、ガラス表面全体に同一の光学特性を実現することができないという問題がある。また、ガラス表面に汚れが付着しやすく、経年的に一定の光学特性を維持することができない。一方、成膜法を採る場合には、表面硬度が不足して傷つき易いという問題がある。
【0005】
ここで、結晶化ガラスを使用する方法は知られているが、所望の透過率であって、しかも、可視域を超える広い範囲でフラットな透過率特性を有する安価なガラス組成や、そのようなガラス組成を使用した好適な結晶化ガラスの製造方法は知られていない。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、ガラス表面を粗面化することなく、十分な表面強度を有して、可視域を超える広い範囲でフラットな透過率特性を有する光拡散ガラス部材、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明に係る光拡散ガラス部材は、ガラス中に結晶相を有し、酸化物換算による重量%表示で、SiOを35〜70%、Alを0〜8.0%、Bを15〜35%、NaO、KO、LiOから選択される成分を全体で3〜10%、CaO、Yから選択される成分を全体で6〜20%、及び、
Sbを0〜1%、を含有して構成され、厚さ2.0mmの部材で評価して、波長400nm〜2500nmについて全光線平均透過率が5〜50%であり、前記全光線平均透過率に対する透過率偏差の平均値が、400nm〜2500nmの波長領域において4.0%以下であることを特徴とする。なお、数値範囲は、その下限と上限を含む概念である。
本発明者の研究により、透過率を制御する成分として、AlやCaOが有効であることが最初に確認されたが、更に、YやZnOも結晶化に関与しており、その含有量によって透過率を制御できることが確認された。ここで、CaOとYは、実施例1〜3及び実施例5のように、選択的に使用しても良いし、実施例4のように併用しても良い。
何れにしても、CaOの好適な含有量は6〜20%であり、Yの好適な含有量は、6〜15%である。Yは透過率を低下させる効果があるので、より好ましくは、所定の透過率を維持するべく、その含有量を10%以下とすべきである。また、CaOとYを併用する場合には、CaOを1.0〜20%、Yを1.0〜15%の範囲で含有させるのが好ましい。なお、CaOの含有量を増減することで透過率を制御でき、Yの添加により化学的耐久性能を向上させることができる。
ただし、これらを多量に使用するとガラスが不安定となるので、好ましくは、CaO+Yの総量を6〜12%(より好ましくは8〜10%)とすべきである。
また、好適には、更に、ZnOを0〜10%含有させるべきであり、ZnOを加えることで、透過率を低下させることができる。なお、F成分を0〜1%添加することで、化学的耐久性能が向上し、ガラスの低粘性化が得られる。
【0008】
また、好ましくは、SiOを48〜62%(より好ましくは、52〜58%)、Bを20〜30%(より好ましくは、22〜28%)、Sbを0.1〜0.5%(より好ましくは、0.2〜0.4%)とすべきである。
【0009】
ところで、例えば、YやZnOを含まない場合には、Al、LiO、NaO、KO、及びCaOについては、必要とされる透過率に対応して含有量が適宜に増減される。具体的には、透過率を上げたい場合には、AlやCaOの含有量を減少すれば良い。また、NaOやKOの含有量を増加して、透過率を上げることもできる。一方、透過率を下げたい場合には、AlやCaOを増加すれば良い。
【0010】
但し、Alは0.5〜4%(より好ましくは、1〜3%)、LiO+NaO+KOは全体で4〜8%(より好ましくは5〜7%)、CaOは、7〜15%(より好ましくは、8〜12%)の範囲から選択される。なお、化学的耐久性能を高めるべくZrOを0〜5wt%加えることもできる。
【0011】
全光線平均透過率は、400nm〜2500nmの波長範囲について、JIS Z 8722に準じて分光透過率を測定して算出される。また、表裏面を研磨して板厚2mm±0.1mmに仕上げた光拡散ガラス部材が測定試料となる。
【0012】
本発明に係る光拡散部材は、広い波長範囲にわたってフラットな透過率特性を有するが、上記した好適な組成を採用することで、波長400nm〜2500nmの領域で評価した場合に、その領域における全光線平均透過率に対する透過率偏差の平均値を3.0%以下にすることができる。
また、波長400nm〜2500nmの領域で評価した場合に、その領域における全光線平均透過率に対する透過率偏差を10%以下にすることができる。
【0013】
本発明に係る光拡散部材は、結晶化ガラスにより実現されるが、ガラス原料を溶解する第1工程と、溶解したガラスを成形する第2工程と、成形したガラスを徐冷する第3工程と、徐冷後の成形ガラスを730℃〜850℃の加熱温度で8時間〜30時間継続して加熱する第4工程と、を含んで製造される。
【0014】
第4工程において加熱温度が730℃より低い場合には、加熱時間を増加しても、フラットな透過率特性を実現することができない。
【0015】
図1は、本発明の範囲内に含まれる同一組成のガラスについて、第4工程の加熱温度の違いによる透過率特性の変化を図示したものである。なお、加熱時間は全て10時間である。図示の通り、加熱温度が650℃、675℃、700℃程度では、結晶化が不十分であり透過率が波長に依存して大きく変化している。
【0016】
これに対して、加熱温度が750℃、800℃、850℃の領域では、フラットな透過率特性を実現できる。なお、加熱温度850℃より高い加熱温度では、フラットな透過率統制を実現できないことが、加熱温度880℃の実験結果が示している。
【0017】
図2及び図3は、本発明の範囲内に含まれる同一組成のガラスについて、第4工程の加熱処理時間の違いによる透過率特性の変化を図示したものである。なお、加熱温度は全て750℃である。図示の通り、加熱時間が1時間〜3時間程度では、結晶化が不十分であり透過率が波長に依存して大きく変化する。
【0018】
これに対して、10時間、20時間、30時間程度の加熱時間とするとフラットな透過率特性を実現できる。なお、図示していないが、30時間以上の加熱時間としても性能的に変化がなく、不図示の実験結果から、加熱時間を8時間〜30時間とすべきことを確認している。
【0019】
なお、本発明の第4工程は、730℃〜850℃の加熱温度で8時間〜30時間継続して加熱すれば足りるので、必ずしも、一定の加熱温度を維持する必要はなく、最高加熱温度に向けて段階的に加熱温度を増加させるのも好適である。
【0020】
同様に、8時間〜30時間の加熱時間を経過した後は、徐冷工程を設けるのが好ましく、この場合には、その後の切断や研磨などの工程における機械的強度を確保することができる。但し、徐冷工程を設けない場合でも、透過率などの光学特性に差異は生じないことを確認している。
【発明の効果】
【0021】
上記した本発明によれば、平坦なガラス表面を有して、可視域を超える広い範囲でフラットな透過率特性を有する光拡散ガラス部材を実現することができる。そして、本発明の光拡散ガラス部材は、表示装置の光拡散板、各種測定装置の光拡散板、各種照明の光拡散板やカバーなどに好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】熱処理温度と全光線透過率の関係を示す図面である。
【図2】熱処理時間と全光線透過率の関係を示す図面である。
【図3】熱処理時間と全光線透過率の関係を示す別の図面である。
【図4】実施例の製造方法を示すフロー図である。
【図5】実施例1の組成の試料について、全光線透過率を示す図面である。
【図6】実施例4〜5の組成の試料について、全光線透過率を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが特に限定されるものではない。図4は、本発明を実施する場合の工程フロー図である。
【0024】
先ず、必要な粉体原料を秤量して混合する(ST1)。図1〜図2に示す実験に使用した組成は、下表の実施例1の通りである。NaOやKOに代えて、或いは、これに追加してLiOを使用するなど、組成比を、例えば実施例2〜実施例3のように変更した多数の実験でも、図1〜図2と同様の傾向が得られている。なお、耐水性能を高めるべくZrOを0〜5wt%加えることもできることは、実施例2や実施例3の組成で確認している。
【0025】
【表1】

【0026】
続いて、混合した粉体原料を電気炉又はガス炉を使用して溶解させる(ST2)。なお、この工程は、通常のガラス製造工程と同じであり徐冷工程を含んでいる。次に、検査工程をパスした試料について、必要に応じて、形状やサイズに合わせて型押しする(ST3)。
【0027】
このようにして、ステップST2又はステップST3の処理が終われば、このガラス部材を熱処理して、結晶化させることで白色化させる。この再加熱工程は、加熱温度730℃〜850℃、加熱時間8時間〜30時間の範囲で加熱温度と加熱時間が適宜に設定される。図4に示すように、最高温度に向けて段階的に加熱温度を上昇させると共に、徐冷工程を設けるのが好ましい。
【0028】
何れにしても、透過率を低くした場合には、最高加熱温度を下げ、透過率を上げたい場合には最高加熱温度を上げるのが好ましい。図5は、最高加熱温度が800℃の試料1と、750℃の試料2についての透過率曲線を示している。図4(b)は、試料を製造する上での加熱温度の推移を示したものであり、何れも、最高加熱温度での加熱時間が10時間であり、その後に徐冷工程を設けている。
なお、試料1及び試料2は、実施例1の組成比の材料について、図4(b)に示す工程で製造されており、熱処理温度(800℃と750℃)だけが相違する。
また、以下の特性を有しており、平均透過率(28.15%と20.90%)に対する透過率偏差の平均値(平均偏差)が、1.18%と3.02%であって、4%以下であり、最大偏差は、7.66%と6.76%であって10%以下である。
【0029】
【表2】

【0030】
以上のような再加熱工程(ST4)が終わると、必要に応じて適宜な形状に切断し、表面を研磨して平坦化する。なお、反射防止膜などの薄膜の成膜工程を設けても良い。
【0031】
ところで、実施例1〜実施例3の組成では、CaOを必須成分にしているが、これに代え、又は、これに加えて、Yを含有するのも好適である。表3は、このような実施例4や実施例5の組成を示している。Yを含有させることで、広い波長範囲(波長400nm〜2500nm)にわたって、平坦な透過率特性を害することなく、透過率を低下させることができる。
【0032】
【表3】

【0033】
また、Yに加えてZnOを添加することで、更に透過率を低下させることができる。なお、実施例5では、透過率特性を、更に平坦化するためCuOを着色剤として含有させている。着色剤としては、例えば、CuOやCoOを例示することができるが、何れの場合でも添加量は0.1重量%以下である。
【0034】
図6は、実施例4と実施例5の組成を有する原料について、図4に示す工程を経て製造した光拡散ガラスの透過率曲線を示したものである。なお、この光拡散ガラスは、熱処理温度800℃、熱処理時間10時間で製造されている。
【0035】
【表4】

【0036】
表4は、実施例4と実施例5の光拡散ガラスについて、平均透過率と、平均透過率に対する平均偏差と、平均透過率に対する最大偏差とを纏めたものである。表4では、可視域(400〜700nm)と、400nm〜2500nmにおける特性を示しており、可視域での平均透過率が5%以下、400nm〜2500nmでの平均透過率が10%以下となっている。
【0037】
また、平均透過率に対する偏差も少なく透過率曲線がフラットであり、400nm〜2500nm域における最大偏差が7%以下、400〜700nm域での最大偏差が2%以下となっている。なお、透過率偏差の平均値(平均偏差)は、400nm〜2500nm域において3.5%以下、400〜700nm域において0.6%以下である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス中に結晶相を有し、酸化物換算による重量%表示で、
SiOを35〜70%、
Alを0〜8.0%、
を15〜35%、
NaO、KO、LiOから選択される成分を全体で3〜10%、
CaO、Yから選択される成分を全体で6〜20%、及び、
Sbを0〜1%、を含有して構成され、
厚さ2.0mmの部材で評価して、波長400nm〜2500nmについて全光線平均透過率が5〜50%であり、
前記全光線平均透過率に対する透過率偏差の平均値が、400nm〜2500nmの波長領域において4.0%以下であることを特徴とする光拡散ガラス部材。
【請求項2】
1.0〜10%のZnOを更に含有する請求項1に記載の光拡散ガラス部材。
【請求項3】
6.0〜15%のY、及び/又は、6.0〜20%のCaOを、全体で6.0〜12%含有する請求項1又は2に記載の光拡散ガラス部材。
【請求項4】
1.0%未満のF成分を含有する請求項1〜3の何れかに記載の光拡散ガラス部材。
【請求項5】
波長400nm〜2500nmの領域で評価した場合に、その領域における全光線平均透過率に対する透過率偏差が10%以下である請求項1又は2に記載の光拡散ガラス部材。
【請求項6】
ガラス原料を溶解する工程と、溶解したガラスを成形する工程と、成形したガラスを徐冷する工程と、徐冷後の成形ガラスを730℃〜850℃加熱温度で、8時間〜30時間継続して加熱する工程とを含んで構成されることを特徴とする光拡散ガラス部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−35745(P2013−35745A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−155483(P2012−155483)
【出願日】平成24年7月11日(2012.7.11)
【出願人】(398012476)オーエムジー株式会社 (8)
【Fターム(参考)】