説明

光拡散剤および光拡散性ポリカーボネート系樹脂組成物

【課題】熱および光安定性が良く経時劣化が起こりにくい無機系粒子の光拡散剤、および該光拡散剤を含有した光学特性に優れた光拡散性ポリカーボネート系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】酸化銀を含有する光拡散剤、あるいは酸化アルミニウム、酸化銀、二酸化ケイ素、および炭化ケイ素から構成される光拡散剤を、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部になるように配合して光拡散性ポリカーボネート系樹脂組成物を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散剤、該光拡散剤を配合してなる光拡散性ポリカーボネート系樹脂組成物に関し、詳しくは、高い光拡散性を有し、かつ溶融滞留時のポリカーボネート系樹脂の変色を抑制しうる光拡散剤およびそれを分散してなる熱拡散性ポリカーボネート系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、照明カバー、透過型ディスプレイの光拡散板、照明看板等の原料として、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が使用されている。
このような透明性樹脂の中で、特に機械的特性、耐熱性、耐候性に優れている上、高い光線透過率を備えたポリカーボネート系樹脂中に、架橋アクリル系樹脂等の有機系粒子や炭酸カルシウム等の無機系粒子を拡散剤として分散させた組成物が広く用いられている(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、光拡散剤として架橋アクリル系樹脂等の有機系粒子を用いた場合、その分子内に存在する不飽和結合により、熱および光安定性が悪く、経時劣化が起こりやすいという構造上の問題があった。
また、架橋アクリル系樹脂等の有機系粒子は、ポリカーボネート系樹脂組成物の溶融成形時に分解し、生じた分解生成物の影響でポリカーボネート系樹脂組成物が着色してしまうという成形過程での問題もある。
さらに、近年盛んに開発されているLED蛍光灯に関しては、LEDの持つ低配光特性を補うために、光の拡散性を最大限に高めなければならず、光の損失を阻むために光透過率は高くなければならない。
【0004】
本発明は、上記のような現状に鑑みてなされたものであり、熱および光安定性が良く経時劣化が起こりにくい無機系粒子の光拡散剤、および該光拡散剤を含有した光学特性に優れた光拡散性ポリカーボネート系樹脂組成物の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため鋭意検討した結果、本発明者らは、ポリカーボネート系樹脂中に特定の無機系粒子、特に酸化銀を任意の割合で配合させることにより、該ポリカーボネート系樹脂組成物が、従来より高い光拡散性を有し、かつ熱および光への経時安定性に優れていることを見出し、さらに検討を進めて本発明を完成するに至った。
具体的には、請求項1に記載の発明は、ポリカーボネート系樹脂に分散される光拡散剤であって、酸化銀を含有することを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、ポリカーボネート系樹脂に分散される光拡散剤であって、酸化アルミニウム、酸化銀、二酸化ケイ素、および炭化ケイ素から構成されることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、請求項1または2に記載の光拡散剤を0.1〜10重量部になるように配合した光拡散性ポリカーボネート系樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い拡散性および光透過性を有し、経時劣化を起こさない光拡散剤を提供することができる。
また、該光拡散剤を0.1〜10重量部配合させることによって、優れた光学特性を有する光拡散性ポリカーボネート系樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明の光拡散剤を配合分散させた光拡散性ポリカーボネート系樹脂組成物は、各種照明カバー、透過型ディスプレイの光拡散板、照明看板等に好適に用いられ、特にLED蛍光灯用カバーとして適している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を説明する。
まず、本発明の光拡散剤について説明する。
光拡散剤としては、ポリカーボネート系樹脂の加工工程において実用的に変形せず、微粒子状態を維持しているものである。具体的には、ポリカーボネート系樹脂の成形温度である約350℃まで加熱しても増粒や劣化のない無機系粒子が好ましい。無機系粒子の中でも、本発明の光分散剤は、酸化銀を含有することを特徴とし、さらに好ましくは酸化アルミニウム、酸化銀、二酸化ケイ素、および炭化ケイ素からなることを特徴とする。
【0009】
酸化銀は、本発明の光拡散剤において、光拡散効果を得るために1重量部以上含有することが好ましい。より好ましくは10〜80重量部、さらに好ましくは20〜40重量部である。
酸化銀の粒子径は、ポリカーボネート系樹脂に配合させるために、30μm以下であることが好ましい。30μmを超えると、樹脂に均一に分散することができず、また十分な光拡散効果が得られないため好ましくない。より好ましくは、100nm〜10μmである。酸化銀は市販のものを使用しても、任意の粒子径に合成してもよい。また、粒子径が大きいものを粉砕してもよい。合成方法は特に限定されるものではない。
【0010】
本発明の光拡散剤において、酸化銀以外の成分としては酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、および炭化ケイ素からなることが好ましい。
本発明の光拡散剤における成分の含有比率は、発明者らが鋭意検討を重ねた結果、酸化アルミニウムが40〜60重量部、酸化銀が20〜40重量部、二酸化ケイ素が1〜10重量部、炭化ケイ素が1〜10重量部であることが好ましい。
酸化銀以外の成分の粒子径は、ポリカーボネート系樹脂に配合させるために、30μm以下であることが好ましい。30μmを超えると、樹脂に均一に分散することができず、また十分な光拡散効果が得られないため好ましくない。より好ましくは、100nm〜10μmnmである。これらの成分は市販のものを使用しても、任意の粒子径に合成してもよい。また、粒子径が大きいものを粉砕してもよい。合成方法は特に限定されるものではない。
【0011】
本発明の光拡散剤には、必要に応じて安定剤や蛍光増白剤、難燃剤等の各種添加剤を混合することができる。
【0012】
本発明に用いることができるポリカーボネート系樹脂としては、特に限定されず、公知の樹脂をいずれも使用できる。例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲン又は炭酸ジエステルとを溶融法又は溶液法で反応させて得られる樹脂が使用できる。芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的な例として、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイドビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。これらの中でも特にビスフェノールAが好ましく、汎用されている。本発明では、汎用のポリカーボネートであるビスフェノールA系のポリカーボネート以外にも、他の2価フェノール類を用いて製造したポリカーボネ−トを使用することが可能である。
【0013】
さらに、以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしては、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−[4,4−(4,4・−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
【0014】
本発明で使用されるポリカーボネート系樹脂の粘度平均分子量は、1000〜100000である。より好ましくは10000〜50000であり、かかるポリカーボネート系樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
ポリカーボネート系樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。
【0015】
ポリカーボネート系樹脂に対する光拡散剤の配合量は、ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して光拡散剤を0.1〜10重量部である。光拡散剤の配合量が0.1重量部未満では得られた組成物の光拡散性に乏しく、また10重量部を越えると、組成物の透明性が低下するため好ましくない。より好ましくは、1〜8重量部である。
【0016】
(ポリカーボネート系樹脂組成物の製造について)
本発明の光分散剤を混合したポリカーボネート系樹脂組成物の製造に当たっては、その製造方法は特に限定されるものではないが、本発明の樹脂組成物の好ましい製造方法は、二軸押出機の如き多軸押出機を用いて各成分を溶融混練する方法である。
二軸押出機の代表的な例としては、ZSK(Werner&Pfleiderer社製、商品名)を挙げることができる。同様のタイプの具体例としてはTEX((株)日本製鋼所製、商品名)、TEM(東芝機械(株)製、商品名)、KTX((株)神戸製鋼所製、商品名)などを挙げることができる。その他、FCM(Farrel社製、商品名)、Ko−Kneader(Buss社製、商品名)、およびDSM(Krauss−Maffei社製、商品名)などの溶融混練機も具体例として挙げることができる。
【0017】
本発明の光拡散剤およびポリカーボネート系樹脂の押出機への供給方法は特に限定されないが、以下の方法が代表的に例示される。
(i)本発明の光拡散剤およびポリカーボネート系樹脂を独立して押出機中に供給する方法。
(ii)本発明の光拡散剤およびポリカーボネート系樹脂添加剤をスーパーミキサーなどの混合機を用いて予備混合した後、押出機に供給する方法。
【0018】
上記の方法に限らず、本発明の光拡散剤をポリカーボネート系樹脂の原料に任意量混合した後、樹脂を合成してもよい。ポリカーボネート系樹脂組成物の製造方法は何ら限定されるものではない。
本発明の光拡散剤を含有したポリカーボネート系樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、およびフィルムなどの形で使用することができる。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。
さらには回転成形やブロー成形により成形品とすることもできる。これにより優れた光学特性および難燃性を有するポリカーボネート系樹脂組成物の成形品を提供できる。この成形品には、各種表面処理を行うことも可能である。
【0019】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明する。
[実施例1]
酸化アルミニウム50重量部、酸化銀34重量部、二酸化ケイ素8重量部、および炭化ケイ素8重量部を混合し、光拡散剤を作製した。
【0020】
[比較例1]
比較例として、丸尾カルシウム社製炭酸カルシウムCUVE7OA(平均粒子径:6μm)を光拡散剤とした。
【0021】
直鎖状芳香族ポリカーボネート系樹脂(帝人化成(株)製、パンライト−L1225WP)100重量部に対し、実施例1または比較例1の光拡散剤6重量部を、タンブラーを用いて均一に混合し、かかる混合物をベント式二軸押出器に投入してペレット状樹脂組成物を作製した。
得られたペレットを射出成形機にかけ、一片150mm、厚み2mmの平板状試験片を作製し評価した。
【0022】
評価の結果、本発明の光拡散剤を含有したポリカーボネート系樹脂組成物は、優れた光拡散性および経時安定性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0023】
産業上の利用分野を限定されずあらゆる分野に対して利用の可能性を有するが、本発明の光分散剤を利用した本発明の光拡散性ポリカーボネート系樹脂組成物は、照明カバー、透過型ディスプレイの光拡散板、照明看板等の原料として、特にLED蛍光灯カバーの原料として好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】国際公開第2003/026357号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂に分散される光拡散剤であって、酸化銀を含有することを特徴とする光拡散剤。
【請求項2】
ポリカーボネート系樹脂に分散される光拡散剤であって、酸化アルミニウム、酸化銀、二酸化ケイ素、および炭化ケイ素から構成される光拡散剤。
【請求項3】
ポリカーボネート系樹脂100重量部に対して、請求項1または2に記載の光拡散剤を0.1〜10重量部になるように配合した光拡散性ポリカーボネート系樹脂組成物。