説明

光拡散性樹脂組成物及び光拡散性部材

【課題】高い耐光性を有すると共に、ブリードアウトが抑制され、かつ、全光線透過率とヘイズがいずれも高く、ぎらつきがなく、視認性に優れた成形体を提供可能な光拡散性樹脂組成物、並びに、該光拡散性樹脂組成物からなる光拡散性部材を提供する。
【解決手段】特定の構造を有する化合物(紫外線吸収剤)、特定の光拡散剤及び芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する光拡散性樹脂組成物、並びに、該光拡散性樹脂組成物からなる光拡散性部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散性樹脂組成物及び光拡散性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂に、無機微粒子や高分子微粒子からなる光拡散剤を配合した光拡散機能を有する成形体は、例えば電灯カバー等に代表される各種照明装置カバーやハウジング、メーター、看板(特に内照式)、樹脂窓ガラス、画像読取装置、表示装置用の光拡散板(例えば、液晶表示装置等バックライトモジュールに使用される光拡散板、プロジェクターテレビ等投影型表示装置のスクリーンに使用される光拡散板、各種デバイスのボタン、スイッチ類等に代表される)等の幅広い分野で用いられている。かかる成形体は、従来のアクリル樹脂に比較して耐熱性、寸法安定性及び耐衝撃性に優れる点で有利である。
【0003】
例えば特許文献1は、芳香族ポリカーボネート樹脂に対し、光拡散剤、有機金属塩化合物、及び特定の構造を有するシリコーンレジンをそれぞれ所定の比率で配合することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂の有する優れた機械物性、熱物性、電気特性などを損なうことなく、優れた光拡散性、難燃性及び流動性を付与できることを開示している。また特許文献2は、特定の屈折率と特定の粒子径を有するアクリル−スチレン系共重合体微粒子を、特定の比率でポリカーボネートに配合することにより、ポリカーボネート本来の特性を損なうことなく、光線透過率、光拡散性に優れ、LEDを光源にした際のぎらつきのない成形体を得るのに有効な光拡散性樹脂組成物を開示している。更に特許文献3は、ポリカーボネート樹脂、高分子微粒子系光拡散剤、及び特定構造のトリアジン系紫外線吸収剤からなる光拡散性ポリカーボネート樹脂組成物が、液晶パネルなどに適した光線透過率保存性、色調安定性において優れた耐光性を示すことを開示している。しかしながら、特許文献1〜3の光拡散性樹脂組成物からなる成形体は耐光性が低い、又は不充分であり、その改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−65164号公報
【特許文献2】特開2005−247999号公報
【特許文献3】特開2006−45389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高い耐光性を有すると共に、ブリードアウトが抑制され、かつ、全光線透過率とヘイズがいずれも高く、ぎらつきがなく、視認性に優れた成形体を提供可能な光拡散性樹脂組成物を提供することにある。また本発明の別の目的は、該光拡散性樹脂組成物からなる光拡散性部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について詳細に検討した結果、UV−A領域まで遮蔽効果を示し、これまでにない耐光性を有するトリアジン系化合物を、特定の光拡散剤及び芳香族ポリカーボネート樹脂と共に光拡散性樹脂組成物に含有させることで本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の課題は、以下の手段によって達成された。
【0007】
〔1〕
下記一般式(1)で表される化合物、光拡散剤、及び芳香族ポリカーボネート樹脂を含有し、前記光拡散剤がアクリル系微粒子、シリコーン系微粒子及びアクリル−スチレン系共重合体微粒子のいずれかである、光拡散性樹脂組成物。
【化1】

[R1a、R1b、R1c、R1d及びR1eは、互いに独立して、水素原子又はヒドロキシ基を除く1価の置換基を表し、置換基のうち少なくとも1つは、ハメット則のσp値が正である置換基を表す。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pは、互いに独立して、水素原子又は1価の置換基を表す。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。]
〔2〕
前記1価の置換基が、ハロゲン原子、置換又は無置換の炭素数1〜20のアルキル基、シアノ基、カルボキシル基、置換又は無置換のアルコキシカルボニル基、置換又は無置換のカルバモイル基、置換又は無置換のアルキルカルボニル基、ニトロ基、置換又は無置換のアミノ基、ヒドロキシ基、置換又は無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換又は無置換のアリールオキシ基、置換又は無置換のスルファモイル基、チオシアネート基、又は置換又は無置換のアルキルスルホニル基であり、前記1価の置換基が置換基を有する場合の置換基がハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルカルボニル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アリールオキシ基、スルファモイル基、チオシアネート基又はアルキルスルホニル基である、上記〔1〕に記載の光拡散性樹脂組成物。
〔3〕
前記R1b、R1c及びR1dの少なくとも一つがハメット則のσp値が正である置換基である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の光拡散性樹脂組成物。
〔4〕
前記ハメット則のσp値が正である置換基が、COOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基及びSOMからなる群より選択される基である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。ここで、R及びRは、互いに独立して、水素原子又は1価の置換基を表す。Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す。
〔5〕
前記ハメット則のσp値が正である置換基がCOORである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。ここで、Rは、水素原子又は1価の置換基を表す。
〔6〕
前記R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが、水素原子である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
〔7〕
更に、リン系安定剤を含有する、上記〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
〔8〕
前記芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、前記一般式(1)で表される化合物0.05〜3質量部、前記光拡散剤0.1〜10質量部、前記リン系安定剤0.0005〜0.3質量部である、上記〔7〕に記載の光拡散性樹脂組成物。
〔9〕
更にヒンダードフェノール系安定剤を含有する、上記〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
〔10〕
前記芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が10,000〜50,000の範囲である、上記〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
〔11〕
更に、有機金属塩化合物を含有する、上記〔1〕〜〔10〕のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
〔12〕
更に、フルオロポリマーを含有する、上記〔1〕〜〔11〕のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
〔13〕
前記一般式(1)で表される化合物のpKaが−5.0〜−7.0の範囲である、上記〔1〕〜〔12〕のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
〔14〕
上記〔1〕〜〔13〕のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物からなる光拡散性部材。
〔15〕
LED用である、上記〔14〕に記載の光拡散性部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光拡散性樹脂組成物は、長波長領域においても紫外線遮蔽効果を示し、耐光性を有する前記一般式(1)で表される化合物を、特定の光拡散剤及び芳香族ポリカーボネート樹脂と共に含有することにより、高い耐光性を有すると共に、ブリードアウトが抑制され、かつ、全光線透過率とヘイズがいずれも高く、ぎらつきがなく、視認性に優れた成形体を提供可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
(光拡散性樹脂組成物)
本発明の光拡散性樹脂組成物は、後述の一般式(1)で表される化合物、後述の特定の光拡散剤及び芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する。本発明の光拡散性樹脂組成物が、長波長領域においても紫外線遮蔽効果を示し、耐光性を有する一般式(1)で表される化合物を、特定の光拡散剤及び芳香族ポリカーボネート樹脂と共に含有することにより、高い耐光性を有すると共に、ブリードアウトが抑制され、かつ、全光線透過率とヘイズがいずれも高く、ぎらつきがなく、視認性に優れた成形体を提供可能となる理由は定かではないが以下のように推測される。
一般式(1)で表される化合物は、長波長領域においても紫外線遮蔽効果を示し、耐光性を有する。また本発明の特定の光拡散剤は無機系微粒子ではなく反応性基を有する有機系微粒子であるため、前記一般式(1)で表される化合物と共に含有されることにより反応して、高い耐光性を有すると共に、ブリードアウトが抑制され、かつ、全光線透過率とヘイズがいずれも高く、ぎらつきがなく、視認性に優れた成形体を提供可能となると考えられる。 本発明の光拡散性樹脂組成物は、LED用であることが好ましく、更に光拡散板用であることが好ましい。
まず、下記一般式(1)で表される化合物について説明する。
【0010】
[1]一般式(1)で表される化合物
【0011】
【化2】

【0012】
[R1a、R1b、R1c、R1d及びR1eは、互いに独立して、水素原子又はヒドロキシ基を除く1価の置換基を表し、置換基のうち少なくとも1つは、ハメット則のσp値が正である置換基を表す。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pは、互いに独立して、水素原子又は1価の置換基を表す。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。]
【0013】
1a、R1b、R1c、R1d、R1eは、互いに独立して、水素原子又はヒドロキシ基を除く1価の置換基を表し、置換基のうち少なくとも1つは、ハメット則のσp値が正である置換基を表す。
1a、R1b、R1c、R1d、R1eが表す置換基のうち1〜3個がハメット則のσp値が正である置換基を表すことが好ましく、1〜2個がハメット則のσp値が正である置換基を表すことがより好ましい。
またR1b、R1c及びR1dの少なくとも一つが、ハメット則のσp値が正である置換基であることが、耐光性の観点で好ましい。
ハメット則のσp値が正である置換基の具体例及び好ましい範囲は、後述の第一の態様で説明するものと同様である。
【0014】
前記一般式(1)における1価の置換基(以下Aとする)としては、例えば、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1〜20のアルキル基(例えばメチル、エチル)、炭素数6〜20のアリール基(例えばフェニル、ナフチル)、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル)、置換又は無置換のカルバモイル基(例えばカルバモイル、N−フェニルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル)、アルキルカルボニル基(例えばアセチル)、アリールカルボニル基(例えばベンゾイル)、ニトロ基、置換又は無置換のアミノ基(例えばアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、置換スルホアミノ基)、アシルアミノ基(例えばアセトアミド、エトキシカルボニルアミノ)、スルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド)、イミド基(例えばスクシンイミド、フタルイミド)、イミノ基(例えばベンジリデンアミノ)、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基(例えばメトキシ)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ)、アシルオキシ基(例えばアセトキシ)、アルキルスルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、アリールスルホニルオキシ基(例えばベンゼンスルホニルオキシ)、スルホ基、置換又は無置換のスルファモイル基(例えばスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ)、チオシアネート基、アルキルスルホニル基(例えばメタンスルホニル)、アリールスルホニル基(例えばベンゼンスルホニル)、炭素数6〜20のヘテロ環基(例えばピリジル、モルホリノ)などを挙げることができる。
また、置換基は更に置換されていても良く、置換基が複数ある場合は、同じでも異なっても良い。その際、置換基の例としては、上述の1価の置換基Aを挙げることができる。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。
【0015】
置換基同士で結合して形成される環としては、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピリダジン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、フラン環、チオフェン環、セレノフェン環、シロール環、ゲルモール環、ホスホール環等が挙げられる。
【0016】
前記一般式(1)における1価の置換基としては、ハロゲン原子、置換又は無置換の炭素数1〜20のアルキル基、シアノ基、カルボキシル基、置換又は無置換のアルコキシカルボニル基、置換又は無置換のカルバモイル基、置換又は無置換のアルキルカルボニル基、ニトロ基、置換又は無置換のアミノ基、ヒドロキシ基、置換又は無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換又は無置換のアリールオキシ基、置換又は無置換のスルファモイル基、チオシアネート基、又は置換又は無置換のアルキルスルホニル基であり、前記1価の置換基が置換基を有する場合の置換基がハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルカルボニル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アリールオキシ基、スルファモイル基、チオシアネート基又はアルキルスルホニル基であることが好ましく、OR(Rは、水素原子又は1価の置換基を表す。)、アルキル基、アミド基がより好ましく、OR、アルキル基が更に好ましい。
は、水素原子又は1価の置換基を表し、1価の置換基としては前記置換基Aを挙げることができる。中でも炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖アルキル基を表すことが好ましい。炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基が更に好ましく、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、t−ヘキシル基を挙げることができ、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0017】
本発明における好ましい第一の態様として、R1a、R1c、R1eのうち少なくとも1つが、ハメット則のσp値が正である置換基を表す態様を挙げることができる。R1cがハメット則のσp値が正である置換基を表すことがより好ましい。
1cがハメット則のσp値が正である置換基であり、R1a、R1b、R1d、R1eは水素原子を表すことが更に好ましい。
1cがハメット則のσp値が正である置換基を表す場合、電子求引性基によりLUMOが安定化されるため、励起寿命が短くなり、耐光性が向上するため好ましい。
【0018】
また、好ましい第二の態様として、R1a、R1c及びR1eが、水素原子を表し、R1b及びR1dが、互いに独立して、水素原子又はハメット則のσp値が正である置換基を表し、少なくとも1つは、ハメット則のσp値が正である置換基である態様を挙げることができる。これにより、一般式(1)で表される化合物は、特に溶剤溶解性及び芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性に優れ、該化合物を含む光拡散性樹脂組成物は、視認性に優れ、かつ耐光性に優れた光拡散性樹脂組成物を形成し得る効果を有する。
溶剤溶解性とは、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエンなどの有機溶剤への溶解性を意味し、芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性の点で、溶剤を使用する場合には、使用する溶剤に対し、10質量%以上溶解することが好ましく、30質量%以上溶解することがより好ましい。
【0019】
<好ましい第一の態様>
第一の態様においては、前記一般式(1)におけるハメット則のσp値が正である置換基として、好ましくは、σ値が0.1〜1.2の電子求引性基であり、より好ましくは、σ値が0.3〜1.2の電子求引性基である。σ値が0.1以上の電子求引性基の具体例としては、COOR(Rは、水素原子又は1価の置換基を表し、水素原子、アルキル基が挙げられ、好ましくは水素原子である。)、CONR(Rは、水素原子又は1価の置換基を表す。)、シアノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOM(Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す。)、アシル基、ホルミル基、アシルオキシ基、アシルチオ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ジアルキルホスホノ基、ジアリールホスホノ基、ジアルキルホスフィニル基、ジアリールホスフィニル基、ホスホリル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アシルチオ基、スルファモイル基、チオシアネート基、チオカルボニル基、イミノ基、N原子で置換したイミノ基、カルボキシ基(又はその塩)、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基(例えばトリフルオロメチル基)、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルコキシ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアリールオキシ基、アシルアミノ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキルアミノ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキルチオ基、σ値が0.2以上の他の電子求引性基で置換されたアリール基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、アゾ基、セレノシアネート基などが挙げられる。ハメットのσp値については、Hansch,C.;Leo,A.;Taft,R.W.Chem.Rev.1991,91,165−195に詳しく記載されている。
【0020】
前記一般式(1)におけるハメット則のσp値が正である置換基として、より好ましくは、COOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOMである[R、Rは、互いに独立して、水素原子又は1価の置換基を表す。Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す]。この中でもCOOR又はシアノ基がより好ましく、COOR、であることが更に好ましい。優れた耐光性と溶剤溶解性及び相溶性を有するためである。
【0021】
、Rとしては水素原子又は1価の置換基を表し、1価の置換基としては前記置換基Aを挙げることができる。中でも直鎖又は分岐鎖アルキル基が好ましく、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖アルキル基がより好ましく、炭素数5〜20の直鎖又は分岐鎖アルキル基が更に好ましい。炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、t−ヘキシル基、n−オクチル基、t−オクチル基、i−オクチル基、2−エチルヘキシル基、[7−メチル−2−(3−メチルブチル)]オクチル基、2−ヘキシルデシル基、[8−メチル−2−(4−メチルヘキシル)]デシル基、[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチルブチル)]オクチル基、2−ヘプチルウンデシル基、[5,9−ジメチル−2−(1,5−ジメチルヘキシル)]デシル基、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル基を挙げることができ、メチル基、エチル基、2−エチルヘキシル基、[7−メチル−2−(3−メチルブチル)]オクチル基、2−ヘキシルデシル基、[8−メチル−2−(4−メチルヘキシル)]デシル基、[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチルブチル)]オクチル基、2−ヘプチルウンデシル基、[5,9−ジメチル−2−(1,5−ジメチルヘキシル)]デシル基、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル基が好ましく、メチル基、2−エチルヘキシル基、[7−メチル−2−(3−メチルブチル)]オクチル基、2−ヘキシルデシル基、[8−メチル−2−(4−メチルヘキシル)]デシル基、[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチルブチル)]オクチル基、2−ヘプチルウンデシル基、[5,9−ジメチル−2−(1,5−ジメチルヘキシル)]デシル基、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル基が特に好ましい。
【0022】
前記一般式(1)で表される化合物において、R1cがCOOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOM(Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す。)のいずれかであることが好ましく、COOR又はシアノ基がより好ましく、耐光性の向上及びブリードアウトの抑制の観点から、COORが更に好ましい。
【0023】
また、本発明において、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが1価の置換基を表す場合は、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pのうち少なくとも1つが、前記ハメット則のσp値が正である置換基を表すことがより好ましく、R1g、R1h、R1i及びR1jのうち少なくとも1つが、前記ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2、より好ましくは0.3〜1.2)である置換基を表すことがより好ましく、R1hが前記ハメット則のσp値が正である置換基を表すことが更に好ましい。R1c及びR1hが前記ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2、より好ましくは0.3〜1.2)である置換基を表すことが特に好ましい。優れた耐光性を有するためである。
本発明において、R1h又はR1nがそれぞれ独立に水素原子、COOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOM(Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す。)のいずれかであることが好ましく、R1h又はR1nが水素原子であることがより好ましく、R1h及びR1nが水素原子であることが更に好ましく、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが水素原子を表すことが特に好ましい。優れた耐光性を示すためである。
【0024】
前記一般式(1)で表される化合物において、R1cがハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2、より好ましくは0.3〜1.2)である置換基であって、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pは水素原子を表すことが好ましく、R1cがCOOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOM(Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す。)のいずれかであって、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pは水素原子であることがより好ましい。優れた耐光性を示すためである。
【0025】
前記一般式(1)で表される化合物はpKaが−5.0〜−7.0の範囲であることが好ましい。更に−5.2〜−6.5の範囲であることがより好ましく、−5.4〜−6.0の範囲であることが特に好ましい。
【0026】
<好ましい第二の態様>
好ましい第二の態様として、R1a、R1c及びR1eが、水素原子を表し、R1b及びR1dが、互いに独立して、水素原子又はハメット則のσp値が正である置換基を表し、少なくとも1つは、ハメット則のσp値が正である置換基である態様を挙げることができる。ハメット則のσp値が正である置換基の具体例及び好ましい範囲は、前述の第一の態様で説明するものと同様である。
1a、R1c及びR1eが、水素原子を表し、R1b及びR1dが、互いに独立して、水素原子又はハメット則のσp値が正である置換基を表し、少なくとも1つは、ハメット則のσp値が正である置換基である第二の態様においては、前記一般式(1)におけるハメット則のσp値が正である置換基として、より好ましくは、COOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、又はSOMである[R、Rは、互いに独立して、水素原子又は1価の置換基を表す。Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す]。
、Rの1価の置換基としては、前述のように前記置換基Aを挙げることができる。
前記一般式(1)におけるハメット則のσp値が正である置換基として、より好ましくは、COOR又はシアノ基であり、COORであることが更に好ましい。ハメット則のσp値が正である置換基がシアノ基である場合、優れた耐光性を示すためである。また、ハメット則のσp値が正である置換基がCOORである場合、優れた溶剤溶解性及び相溶性を示すためである。
は水素原子又はアルキル基を表すことが好ましく、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖アルキル基がより好ましく、炭素数1〜15の直鎖又は分岐鎖アルキル基が更に好ましい。
【0027】
は、溶媒に対する溶解性及び芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性の観点からは、炭素数5〜20の分岐鎖アルキル基がより好ましい。
分岐鎖アルキル基は2級炭素原子又は3級炭素原子を有し、2級炭素原子又は3級炭素原子を1〜5個含むことが好ましく、1〜3個含むことが好ましく、1又は2個含むことが好ましく、2級炭素原子及び3級炭素原子を1又は2個含むことがより好ましい。また、不斉炭素を1〜3個含むことが好ましい。
は、溶媒に対する溶解性及び芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性の観点からは、2級炭素原子及び3級炭素原子を1又は2個含み、不斉炭素を1又は2個含む炭素数5〜20の分岐鎖アルキル基であることが特に好ましい。これは、化合物構造の対称性がくずれ、溶媒に対する溶解性及び相溶性が向上するためである。
【0028】
一方、紫外線吸収能の観点からは、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖アルキル基がより好ましく、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基が更に好ましい。
炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、t−ヘキシル基、n−オクチル基、t−オクチル基、i−オクチル基、2−エチルヘキシル、[7−メチル−2−(3−メチルブチル)]オクチル基、2−ヘキシルデシル、[8−メチル−2−(4−メチルヘキシル)]デシル基、[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチルブチル)]オクチル基、2−ヘプチルウンデシル基、[5,9−ジメチル−2−(1,5−ジメチルヘキシル)]デシル基、7−メチルオクチル基、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル基を挙げることができ、メチル基、エチル基、2−エチルヘキシル、[7−メチル−2−(3−メチルブチル)]オクチル基、2−ヘキシルデシル基、[8−メチル−2−(4−メチルヘキシル)]デシル基、[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチルブチル)]オクチル基、2−ヘプチルウンデシル基、[5,9−ジメチル−2−(1,5−ジメチルヘキシル)]デシル基、7−メチルオクチル基、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル基が好ましく、メチル基、2−エチルヘキシル基、[7−メチル−2−(3−メチルブチル)]オクチル基、2−ヘキシルデシル基、[8−メチル−2−(4−メチルヘキシル)]デシル基、[5,7,7−トリメチル−2−(1,3,3−トリメチルブチル)]オクチル基、2−ヘプチルウンデシル基、[5,9−ジメチル−2−(1,5−ジメチルヘキシル)]デシル基、7−メチルオクチル基、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシル基が特に好ましい。
【0029】
また、本発明において、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが1価の置換基を表す場合は、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pのうち少なくとも1つが、前記ハメット則のσp値が正である置換基を表すことがより好ましく、R1g、R1h、R1i及びR1jのうち少なくとも1つが、前記ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2、より好ましくは0.3〜1.2)である置換基を表すことがより好ましく、R1hが前記ハメット則のσp値が正である置換基を表すことが更に好ましい。R1b又はR1d、及びR1hが前記ハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2、より好ましくは0.3〜1.2)である置換基を表すことが特に好ましい。優れた耐光性を有するためである。
本発明において、R1h又はR1nがそれぞれ独立に水素原子、COOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOM(Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す。)のいずれかであることが好ましく、R1h又はR1nが水素原子であることがより好ましく、R1h及びR1nが水素原子であることが更に好ましく、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが水素原子を表すことが特に好ましい。優れた耐光性を示すためである。
【0030】
前記一般式(1)で表される化合物において、R1b又はR1d、がハメット則のσp値が正(好ましくは0.1〜1.2、より好ましくは0.3〜1.2)である置換基であって、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pは水素原子を表すことが好ましく、R1b又はR1d、がCOOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基、SOM(Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す。)のいずれかであって、R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pは水素原子であることがより好ましい。優れた耐光性を示すためである。
【0031】
前記一般式(1)で表される化合物はpKaが−5.0〜−7.0の範囲であることが好ましい。更に−5.2〜−6.5の範囲であることがより好ましく、−5.4〜−6.0の範囲であることが特に好ましい。
【0032】
前記一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれに限定されない。
なお、下記の具体例中Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表し、Buはtert−ブチル基を表し、Phはフェニル基を表し、−C13はn−ヘキシルを表す。
【0033】
【化3】

【0034】
【化4】

【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
【化7】

【0038】
【化8】

【0039】
【化9】

【0040】
【化10】

【0041】
【化11】


【0042】
【化12】

【0043】
前記一般式(1)で表される化合物は、構造とその置かれた環境によって互変異性体を取り得る。本発明においては代表的な形の一つで記述しているが、本発明の記述と異なる互変異性体も本発明の化合物に含まれる。
【0044】
前記一般式(1)で表される化合物は、同位元素(例えば、H、H、13C、15N、17O、18Oなど)を含有していてもよい。
【0045】
前記一般式(1)で表される化合物は、任意の方法で合成することができる。
例えば、公知の特許文献や非特許文献、例えば、特開平7−188190号公報、特開平11−315072、特開2001−220385号公報、「染料と薬品」第40巻12号(1995)の325〜339ページなどを参考にして合成できる。具体的には、例示化合物(16)はサリチルアミドと3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイル クロリドと2−ヒドロキシベンズアミジン塩酸塩とを反応させることにより合成できる。また、サリチルアミドとサリチル酸と3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンズアミジン塩酸塩とを反応させることによっても合成できる。
【0046】
本発明にかかる一般式(1)で表される化合物は、有機溶媒に対する溶解性及び芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶性に優れるという特徴を有する。また、特定の位置にハメット則のσp値が正である置換基を有するため、電子求引性基によりLUMOが安定化されるため、励起寿命が短くなり、優れた耐光性を有するという特徴を有する。紫外線吸収剤として用いた際にも、既知のトリアジン系化合物では、高い濃度で使用した場合、透明性が十分ではなく、樹脂の劣化を示し、分解して黄変したりするなど悪影響を及ぼすが、それに対して、本発明にかかる一般式(1)で表される化合物は優れた溶剤溶解性及び相溶性と耐光性を有するため高い濃度で使用した場合でも透明性に優れ、樹脂の劣化を抑制し、かつ耐光性に優れた光拡散性樹脂組成物を形成し得る。また、長時間使用した場合でも分解せず黄変することがないという効果が得られる。
本発明の光拡散性樹脂組成物において、前記一般式(1)で表される化合物は、一種のみ用いてもよく、異なる構造を有する二種以上を併用することもできる。
【0047】
本発明における前記化合物は、有機材料を光、酸素又は熱による損傷に対して安定化させるのに特に適している。中でも前記一般式(1)で表される化合物は、紫外線吸収剤として好適に用いることができる。
【0048】
前記一般式(1)で表される化合物の極大吸収波長は、特に限定されないが、好ましくは250〜400nmであり、より好ましくは280〜380nmである。半値幅は好ましくは20〜100nmであり、より好ましくは40〜80nmである。
【0049】
本発明において規定される極大吸収波長及び半値幅は、当業者が容易に測定することができる。測定方法に関しては、例えば日本化学会編「第4版実験化学講座7分光II」(丸善,1992年)180〜186ページなどに記載されている。具体的には、適当な溶媒に試料を溶解し、石英製又はガラス製のセルを用いて、試料用と対照用の2つのセルを使用して分光光度計によって測定される。用いる溶媒は、試料の溶解性と合わせて、測定波長領域に吸収を持たないこと、溶質分子との相互作用が小さいこと、揮発性があまり著しくないこと等が要求される。上記条件を満たす溶媒であれば、任意のものを選択することができる。本発明においては、酢酸エチル(EtOAc)を溶媒に用いて測定を行うこととする。
【0050】
本発明において、化合物の極大吸収波長及び半値幅は、酢酸エチルを溶媒として、濃度約5×10−5mol・dm−3の溶液を調製し、光路長10mmの石英セルを使用して測定した値を使用する。
【0051】
スペクトルの半値幅に関しては、例えば日本化学会編「第4版実験化学講座3 基本操作III」(丸善、1991年)154ページなどに記載がある。なお、上記成書では波数目盛りで横軸を取った例で半値幅の説明がなされているが、本発明における半値幅は波長目盛りで軸を取った場合の値を用いることとし、半値幅の単位はnmである。具体的には、極大吸収波長における吸光度の1/2の吸収帯の幅を表し、吸収スペクトルの形を表す値として用いられる。半値幅が小さいスペクトルはシャープなスペクトルであり、半値幅が大きいスペクトルはブロードなスペクトルである。ブロードなスペクトルを与える紫外線吸収化合物は、極大吸収波長から長波側の幅広い領域にも吸収を有するので、黄色味着色がなく長波紫外線領域を効果的に遮蔽するためには、半値幅が小さいスペクトルを有する紫外線吸収化合物の方が好ましい。
【0052】
時田澄男著「化学セミナー9 カラーケミストリー」(丸善、1982年)154〜155ページに記載されているように、光の吸収の強さすなわち振動子強度はモル吸光係数の積分に比例し、吸収スペクトルの対称性がよいときは、振動子強度は極大吸収波長における吸光度と半値幅の積に比例する(但しこの場合の半値幅は波長目盛りで軸を取った値である)。このことは遷移モーメントの値が同じとした場合、半値幅が小さいスペクトルを有する化合物は極大吸収波長における吸光度が大きくなることを意味している。このような紫外線吸収化合物は少量使用するだけで極大吸収波長周辺の領域を効果的に遮蔽できるメリットがあるが、波長が極大吸収波長から少し離れると急激に吸光度が減少するために、幅広い領域を遮蔽することができない。
【0053】
前記一般式(1)で表される化合物は、極大吸収波長におけるモル吸光係数が20000以上であることが好ましく、30000以上であることがより好ましく、50000以上であることが特に好ましい。20000以上であれば、前記一般式(1)で表される化合物の質量当たりの吸収効率が十分得られるため、紫外線領域を完全に吸収するための前記一般式(1)で表される化合物の使用量を低減できる。これは皮膚刺激性や生体内への蓄積を防ぐ観点、及び透明性に優れ、樹脂の劣化を抑制し、かつ耐光性に優れた成形体を形成し得る点から好ましい。なお、モル吸光係数については、例えば日本化学会編「新版実験化学講座9 分析化学[II]」(丸善、1977年)244ページなどに記載されている定義を用いたものであり、上述した極大吸収波長及び半値幅を求める際に合わせて求めることができる。
【0054】
本発明の光拡散性樹脂組成物は、前記一般式(1)で表される化合物を、所望の性能を付与するために必要な任意の量で含有させることができる。これらは用いる光拡散剤や芳香族ポリカーボネート樹脂によって異なるが、適宜含有量を決定することができる。前記一般式(1)で表される化合物の含有量としては、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.05〜4質量部であることがより好ましく、0.1〜3質量部であることが更に好ましい。含有量が上記の範囲であればより紫外線遮蔽効果が得られ、成形体の色相変化や劣化をより効果的に抑制できるため好ましい。
【0055】
[2]樹脂
本発明の光拡散性樹脂組成物は、樹脂成分として少なくとも芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、単に“ポリカーボネート”とも言う)を含有する。
本発明の光拡散性樹脂組成物に含有される芳香族ポリカーボネート樹脂等の樹脂成分について説明する。
ポリカーボネートは、ジ置換炭酸エステルとジオールのエステル交換あるいはホスゲンとジオールの反応等により得られる炭酸エステル型の構造を主鎖中に構造単位として含む高分子化合物である。このポリカーボネートとしては、直鎖状ポリカーボネート、分岐状ポリカーボネート、又は直鎖状ポリカーボネートと分岐状ポリカーボネートとを含む複合体などが挙げられる。この直鎖状ポリカーボネート又は分岐状ポリカーボネートは、ジオールとジ置換炭酸エステル又はホスゲンとを、分岐剤の非存在下又は存在下、更に必要に応じて末端停止剤を用いて共重合させることによって得ることができる。
【0056】
ジオールとしては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−(4−イソプロピルフェニル)メタン、ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔通称:ビスフェノールA〕、1−ナフチル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2−メチル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1−エチル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,
2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4−メチル−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、1,10−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン等のジヒドロキシジアリールアルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロデカン等のジヒドロキシジアリールシクロアルカン類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エーテル等のジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン等のジヒドロキシジアリールケトン類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒロキシジフェニル等のジヒドロキシジフェニル類;9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等のジヒドロキシアリールフルオレン類などが挙げられる。また、前記ジオール以外に、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、4,4’−ジヒドロキシエトキシフェニルメタン;ヒドロキノン、レゾルシノール、メチルヒドロキノン等のジヒドロキシベンゼン類;1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類などを含んでいてもよい。これらのジオール等は、それぞれ1種で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが代表的である。
【0057】
ジ置換炭酸エステル化合物としては、例えば、ジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネートなどが挙げられる。これらのジ置換炭酸エステル化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0058】
分岐剤としては、3つ以上の官能基を持つ化合物を用いることができ、特に制限されない。この分岐剤の具体例としては、フロログルシン、メリット酸、トリメリット酸、トリメリット酸クロリド、無水トリメリット酸、プロトカテク酸、ピロメリト酸、ピロメリト酸二無水物、α−レゾルシン酸、β−レゾルシン酸、レゾルシンアルデヒド、トリメチルクロリド、イサチンビス(o−クレゾール)、トリメチルトリクロリド、4−クロロホルミルフタル酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4’−トリヒドロキシフェニルエーテル、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシフェニルエーテル、2,4,4’−トリヒドロキシジフェニル−2−プロパン、2,2’−ビス(2,4−ジヒドロキシ)プロパン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシジフェニルメタン、2,4,4’−トリヒドロキシジフェニルメタン、1−〔α−メチル−α−(4’−ジヒドロキシフェニル)エチル〕−3−〔α’,α’−ビス(4’’−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、1−〔α−メチル−α−(4’−ジヒドロキシフェニル)エチル〕−4−〔α’,α’−ビス(4’’−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン、α,α’,α’’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4’−ヒドロキシフェニル)−2−ヘプテン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4’−ヒドロキシフェニル)−2−ヘプタン、1,3,5−トリス(4’−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス〔4,4−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル〕プロパン、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−5’−イソプロピルベンジル)−4−イソプロピルフェノール、ビス〔2−ヒドロキシ−3−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルベンジル)−5−メチルフェニル〕メタン、ビス〔2−ヒドロキシ−3−(2’−ヒドロキシ−5’−イソプロピルベンジル)−5−メチルフェニル〕メタン、テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2’,4’,7−トリヒドロキシフラバン、2,4,4−トリメチル−2’,4’,7−トリヒドロキシフラバン、1,3−ビス(2’,4’−ジヒドロキシフェニルイソプロピル)ベンゼン、トリス(4’−ヒドロキシフェニル)−アミル−s−トリアジンなどが挙げられる。これらの分岐剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0059】
末端停止剤としては、1価フェノールを用いることができ、その構造は特に制限されない。この1価フェノールとしては、例えば、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クレゾール、2,4,6−トリブロモフェノール、p−ブロモフェノール、4−ヒドロキシベンゾフェノン、フェノール等が用いられる。これらの末端停止剤は1種単独で用いても、2種以上併用して用いてもよい。
【0060】
重合方法としては、界面法又はエステル交換法が用いられる。例えば、ジオールとホスゲンとを界面法で重合する場合、ホスゲンの存在下に分岐剤や末端停止剤を反応させてもよいし、ジオールとホスゲンの反応を行ないポリカーボネートオリゴマーを得てから、その後、ホスゲンの非存在下で分岐剤や末端停止剤を反応させてもよい。また、エステル交換法の場合には、ジオールとジ置換炭酸エステル化合物のエステル交換反応に分岐剤や末端停止剤を加えて、分岐状ポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0061】
また、直鎖状ポリカーボネートは、通常、ジオールと、ホスゲン又はジ置換炭酸エステル化合物とを、必要に応じ末端停止剤の存在下に重合して得られる。すなわち、分岐剤を用いない以外は、分岐状ポリカーボネート樹脂と同様である。
【0062】
前記のジオールと、ホスゲン又はジ置換炭酸エステル化合物とを重合させて得られるポリカーボネートの中でも、機械的強度と成形性のバランスの点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンとジフェニルカーボネートとを反応させて得られるポリカーボネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンとジメチルカーボネートとを反応させて得られるポリカーボネート、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンとジエチルカーボネートとを反応させて得られるポリカーボネート、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンとジフェニルカーボネートとを反応させて得られるポリカーボネート、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンとジフェニルカーボネートとを反応させて得られるポリカーボネートなどが望ましい。
【0063】
また、本発明において、ポリカーボネートとして、ポリカーボネート構造単位と、ポリオルガノシロキサン構造単位とを含むポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を用いてもよい。また、酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、アジピン酸等の芳香族ないし脂肪族の二塩基酸ないしそのエステルを共重合成分として含んでいてもよく、この場合、主鎖中に炭酸エステル型構造以外に一部にカルボン酸エステル構造が導入されることとなる。
【0064】
本発明において、前記ジオールとジ置換炭酸エステル又はホスゲンと、又は更に必要に応じて他の成分を用いて得られるポリカーボネートは、1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
芳香族ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限は無いが、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなる芳香族ポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、芳香族ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。通常、このような芳香族ポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0066】
芳香族ポリカーボネート樹脂の高分子鎖は直鎖状であってもよく分岐状であってもよい。したがって、光拡散性樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂として、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1)を含んでいてもよく、分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂(A−2)を含んでいてもよく、両者を組み合わせて含んでいてもよい。なお、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂は、その名称からも分かるように高分子構造が直鎖状の芳香族ポリカーボネート樹脂であり、通常、構造粘性指数Nが1.2未満のものである。また、分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂は、その高分子構造に分岐を有する芳香族ポリカーボネート樹脂であり、通常、構造粘性指数Nが1.2以上と高い値となる。ここで構造粘性指数Nとは、例えば「小野木重治著『化学者のためのレオロジー』第15〜16頁」等に記載の値である。
なかでも、光拡散性樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂として、少なくとも直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂を含有することが好ましい。
【0067】
・直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1)
直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、テトラブロモビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1−トリクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサクロロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0068】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0069】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0070】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0071】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0072】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0073】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
【0074】
ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。
【0075】
これらの中でもビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0076】
直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル、ハロホルメート等が使用される。具体的には例えば、ホスゲン;ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0077】
・直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法
直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。以下、これらの方法のうち特に好適なものについて具体的に説明する。
【0078】
・・界面重合法
まず、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによって直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させるようにしてもよく、芳香族ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
【0079】
芳香族ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体は、前述のとおりである。なお、カーボネート前駆体の中でもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
【0080】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等;が挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0081】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0082】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、中でも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0083】
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、中でも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、中でも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0084】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、ピリジン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩;などが挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0085】
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。具体例を挙げると、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、及びp−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0086】
分子量調節剤の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、光拡散性樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性が向上させることができる。
【0087】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤は芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0088】
・・溶融エステル交換法
次に、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
【0089】
芳香族ジヒドロキシ化合物は、前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。中でも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートがより好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0090】
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は、所望の直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、中でも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0091】
芳香族ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端水酸基量を必要に応じて調整してもよい。溶融エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率;エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整した直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られる直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0092】
炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0093】
溶融エステル交換法により直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。中でも、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0094】
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0095】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし中でも、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂及び光拡散性樹脂組成物の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0096】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いても良い。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0097】
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下である。
【0098】
・分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂(A−2)
本発明の光拡散性樹脂組成物は分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂を含有していてもよい。分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂は滴下防止剤として機能し、本発明の光拡散性樹脂組成物の燃焼時に着火・溶融した樹脂が垂れ落ち(ドリップ)するのを抑制することができる。
【0099】
分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂のモノマーとしては、例えば、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1)の項で説明したものを同様に用いることができる。
また、分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法には特に制限はなく、公知の任意の製造方法を用いることができる。具体例を挙げると、特開平8−259687号公報、特開平8−245782号公報等に記載の方法が挙げられる。これらの文献に記載の方法では、溶融エステル交換法により芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸のジエステルとを反応させる際、触媒の条件又は製造条件を選択することにより、分岐剤を使用することなく、構造粘性指数Nが高く、加水分解安定性に優れた分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。
【0100】
また他の方法として、上述の芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体の他に、三官能以上の多官能性芳香族化合物を用い、上述した界面重合法又は溶融エステル交換法にて、これらを共重合する方法が挙げられる。
【0101】
三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)べンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物類;
【0102】
3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(即ち、イサチンビスフェノール)、5−クロロイサチン、5,7−ジクロロイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。中でも1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
なお、多官能性芳香族化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0103】
多官能性芳香族化合物は、前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を置換して使用することができる。多官能性芳香族化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常0.01モル%以上、好ましくは0.1モル%以上であり、通常10モル%以下、好ましくは3モル%以下である。
【0104】
溶融エステル交換法によって得られた分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂に含まれる分岐構造は、例えば、以下の式(P−1)〜(P−4)の構造が挙げられる。なお、下記式(P−1)〜(P−4)において、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、又は、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−で示される二価の基からなる群より選ばれる基を示す。
【0105】
【化13】

【0106】
【化14】

【0107】
【化15】

【0108】
【化16】

【0109】
本発明に係る分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂は、上述したように、通常、構造粘性指数Nが1.2以上である。このように高い構造粘性指数Nを有する分岐芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることで、滴下防止効果(燃焼時に火のついた溶融樹脂の滴下を防止する効果)が増すので好ましい。
【0110】
なお、本発明に係る分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂は、通常、上述した以外の事項については直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂と同様である。
例えば、分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂は、単重合と共重合のいずれでもよく、通常は熱可塑性樹脂である。
【0111】
本発明に係る分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂は、分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂だけで本発明の光拡散性樹脂組成物に含有させてもよいが、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂と組み合わせて本発明の光拡散性樹脂組成物に含有させることが好ましい。組み合わせて含有させる場合、直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂全体を100質量%として、通常80質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下であり、また、通常10質量%以上、好ましくは15質量%以上である。一方、分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂の含有量は、通常20質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上であり、通常90質量%以下、好ましくは85質量%以下である。分岐状芳香族ポリカーボネート樹脂が少なすぎると滴下防止効果が得られにくく、逆に多すぎると光拡散性樹脂組成物の流動性が極端に低下する傾向にある。
【0112】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂は、粘度平均分子量が10,000〜50,000の範囲のものが好ましく、13,000〜40,000の範囲のものがより好ましく、20,000〜30,000の範囲のものが更に好ましい。粘度平均分子量が上記範囲であれば、得られる成形体が頑強になり、高い成形温度も要しない。芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量の測定は、芳香族ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解した溶液から求めた20℃における比粘度から換算して行うことができる。
【0113】
本発明の光拡散性樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂の他に、他の樹脂成分を併用して含有させることができる。併用させることができる樹脂成分としては、天然あるいは合成ポリマーのいずれであってもよい。例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリ(1−ブテン)、ポリ4−メチルペンテン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリシクロペンテン、ポリノルボルネンなど)、ビニルモノマーのコポリマー(例えば、エチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/メチルペンテンコポリマー、エチレン/ヘプテンコポリマー、エチレン/ビニルシクロヘキサンコポリマー、エチレン/シクロオレフィンコポリマー(例えば、エチレン/ノルボルネンのようなシクロオレフィンコポリマー(COC:Cyclo−Olefin Copolymer))、プロピレン/ブタジエンコポリマー、イソブチレン/イソプレンコポリマー、エチレン/ビニルシクロヘキセンコポリマー、エチレン/アルキルアクリレートコポリマー、エチレン/アルキルメタクリレートコポリマーなど)、アクリル系ポリマー(例えば、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリルなど)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、ポリエーテル(例えば、ポリアルキレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなど)、ポリアセタール(例えば、ポリオキシメチレン)、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、ポリケトン、ポリスルホンポリエーテルケトン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、セルロースエステル(例えば、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース)、ポリシロキサン、天然ポリマー(例えば、セルロース、ゴム、ゼラチンなど)、などが挙げられる。
【0114】
併用させることができる樹脂成分は、合成ポリマーである場合が好ましく、ポリオレフィン、アクリル系ポリマー、ポリエステル、セルロースエステルがより好ましい。中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン)、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、トリアセチルセルロースが特に好ましい。併用させることができる樹脂成分は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
本発明の光拡散性樹脂組成物が、芳香族ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を含有する場合の、該芳香族ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、20〜80質量部であることが好ましく、30〜70質量部であることがより好ましく、40〜50質量部であることが更に好ましい。含有量が上記の範囲であればより加工成形し易さが得られるため好ましい。
【0115】
本発明に係る芳香族ポリカーボネート樹脂としては、ユーピロン(登録商標)S−3000N(芳香族ポリカーボネート樹脂 粘度平均分子量:21000 三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製)、ユーピロン(登録商標)S−3000F(芳香族ポリカーボネート樹脂 粘度平均分子量:21,000 三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製)、パンライトL−1250WP(芳香族ポリカーボネート樹脂 粘度平均分子量:24000 帝人化成(株)社製)、ガリバー(登録商標)200−3(芳香族ポリカーボネート樹脂 粘度平均分子量:28000 住友ダウ(株)社製)、等が挙げられ、光学特性の観点から、ユーピロンS−3000N、ユーピロンS−3000F、パンライトL−1250WPが好ましく、寸法安定性の観点からパンライトL−1250WPがより好ましい。
【0116】
[3]光拡散剤
本発明の光拡散性樹脂組成物は、光拡散剤としてアクリル系微粒子、シリコーン系微粒子及びアクリル−スチレン系共重合体微粒子のいずれかを少なくとも含有する。このように光拡散剤を含有することにより、本発明の光拡散性樹脂組成物、及び該光拡散性樹脂組成物からなる光拡散性部材等の成形体の光拡散性を高めることができる。
【0117】
アクリル系微粒子及びシリコーン系微粒子としては、高分子を構成する主鎖同士が架橋した、架橋構造を有するアクリル系微粒子及びシリコーン系微粒子がそれぞれ好ましい。中でも、本発明の光拡散性樹脂組成物の加工過程、例えば、射出成形時において、実用的に変形せず、微粒子状態を維持し得るものが好ましい。
【0118】
前記の観点から、光拡散剤であるアクリル系微粒子及びシリコーン系微粒子は、本発明で使用する比較的低分子量の芳香族ポリカーボネート樹脂の成形温度(例えば、350℃)まで加熱しても、芳香族ポリカーボネート樹脂中で実質的に溶融しない微粒子が好ましい。かかる微粒子としては、例えば、架橋したアクリル系樹脂の微粒子(架橋アクリル系微粒子)やシリコーン系樹脂の微粒子(架橋シリコーン系微粒子)などが挙げられる。特に、部分架橋したメタクリル酸メチルをベースとしたポリマー微粒子であって、かつ、ポリ(ブチルアクリレート)のコアとポリ(メチルメタクリレート)のシェルとを有するポリマー微粒子か、又は、ゴム状ビニルポリマーのコアとシェルとを含んだコア/シェルモノホルジーを有するポリマー微粒子かが好ましい。
【0119】
また、光拡散剤であるアクリル系微粒子及びシリコーン系微粒子としては、光拡散性の点から、芳香族ポリカーボネート樹脂との屈折率差(△n)が0.01以上のものが好ましい。また、光拡散性を十分に発揮させて、例えば成形体(光拡散板等)の後ろの光源が透けて見える等の不具合を抑制し、更には、十分な輝度を発揮させるため、アクリル系微粒子及びシリコーン系微粒子は、芳香族ポリカーボネート樹脂との屈折率の差が、0.05以上がより好ましく、0.07以上が特に好ましい。
【0120】
本発明で使用する芳香族ポリカーボネート樹脂は、例えばビスフェノールAを原料とする芳香族ポリカーボネート樹脂がより好ましく、その場合の屈折率は通常1.58である。したがって、光拡散剤としては、上記の芳香族ポリカーボネート樹脂との屈折率の差が前記の範囲以上のものを使用することが好ましい。
【0121】
ここで、屈折率とは、温度25℃におけるd線(587.562nm、He)に対する値である。実際の測定は次のように行う。即ち、芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率(npc)は、Vブロック法(カルニュー光学社製、形式KPR)により行い、光拡散剤であるアクリル系微粒子及びシリコーン系微粒子の屈折率(nld)は、ベッケ法(標準溶液と比較する方法)により行う。
【0122】
更に、光拡散剤であるアクリル系微粒子及びシリコーン系微粒子は、光拡散性の点から、芳香族ポリカーボネート樹脂と非相溶性であることが好ましい。
【0123】
また、光拡散剤であるアクリル系微粒子及びシリコーン系微粒子の重量平均粒径は、通常0.7μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上であり、通常30μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下である。重量平均粒径が小さ過ぎると得られる光拡散性樹脂組成物の光拡散性が劣り、照明器具部材、拡散板等として使用した場合に光源が透けて見えたり、視認性に劣ったりする傾向があり、逆に大き過ぎると含有量に対する拡散効果が低くなる可能性がある
【0124】
アクリル−スチレン系共重合体微粒子は、アクリル系モノマーとスチレン系モノマーとを共重合して得られる微粒子であって、例えば、アクリル系モノマーとスチレン系モノマーとを懸濁重合法等で重合した微粒子であり、架橋剤を用いて架橋しているものが好ましい。アクリル系モノマーとしては、たとえば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリレート系モノマー、メチルアクリレート、エチルアクリレート等のアクリレート系モノマーやアクリルアミド等をその代表例として例示でき、スチレン系モノマーとしてはスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等をその代表例として例示できる。またこれらモノマーの共重合にあたっては、これらを主成分として、必要に応じて他のモノマーを共重合したものであっても良い。また、架橋剤としては、一般に使用されるものが挙げられるが、例えばエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、1,6−ヘキサンジオール、トリメチルプロパントリメタクリレート、トリメチルプロパントリメタクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート等の多官能性モノマーを用いることが出来る。
【0125】
アクリル−スチレン系共重合体微粒子の重量平均粒子径は0.5〜30μm、好ましくは1.0〜20μmである。粒子径が0.5μm以上では、光拡散性が充分であり、光源が透けて見えることが抑制され、30μm以下であると、添加量に対する拡散効果が良好であり、またLED光源を用いた場合に、ぎらつきが防止され、視認性に優れる。
また、該アクリル−スチレン系共重合体微粒子の屈折率は、アクリル系モノマーとスチレン系モノマーとの共重合比を99:1〜1:99の範囲で変化させることによって、1.493〜1.590の範囲で調整できる。ただし、スチレン系モノマーの共重合比が高くなりすぎると、耐光性が低下して黄色味を帯びてしまい、逆にアクリル系モノマーの共重合比が高くなりすぎると、微粒子と芳香族ポリカーボネートとの屈折率の差が開きすぎて、LED光源のぎらつきが目立ち、視認性が低い。従って、アクリル−スチレン系共重合体微粒子の屈折率は、好ましくは1.505〜1.575であり、より好ましくは1.510〜1.570であり、更に好ましくは1.515〜1.565のものを使用する。このような屈折率の微粒子を得るために、アクリル系モノマーとスチレン系モノマーの共重合比を調整する必要がある。調整比率は、使用モノマーにより異なるが、アクリル系モノマーを多く使用すると屈折率は低い方になり、スチレン系モノマーを多く使用すると屈折率が高い方になる。例えば、アクリル系モノマーとしてメチルメタクリレートを使用し、スチレン系モノマーとしてスチレンを使用した場合、屈折率を約1.52に調整する場合はアクリル系モノマーとスチレン系モノマーの比を約7:3、屈折率を約1.56に調整する場合は約3:7であり、通常はこの前後で調整すれば良い。
【0126】
アクリル−スチレン系共重合体微粒子の構造は特に限定されないが、中空のものは、芳香族ポリカーボネート樹脂に混合する際や、樹脂組成物の成形時に、変形しやすく、成形体の外観が不良となることが多く、また、光拡散性と光透過性のバランスがあまり良くないことが多いため、好ましくない。また、多孔質のものは、少量で光拡散性が優れるが、透過率が低下しやすいため、好ましくない。また、コア部とシェル部の2層構造の微粒子の場合、シェル部がアクリルースチレン系共重合体微粒子であるものであり、粒子径と屈折率が本発明の範囲を満足するものであれば、使用可能である。その場合、コアは、ポリメチルメタクリレートやシリコーン系等の、シェル部より屈折率の低いものが良い。ただし、このような多層構造微粒子の場合、コストが高くなることがあるので、本発明では、アクリル−スチレン系架橋共重合体の中実微粒子であるのが良い。
本発明において使用可能なアクリル−スチレン系共重合体微粒子は、市場より入手可能なものを用いても良い。このような市販品の例としては、例えば、ガンツ化成(株)より、ガンツパール、又はスタフィロイドの商品名で市販されている、GBSシリーズ、あるいはGSMシリーズから、本発明で規定する物性に適合するものが挙げられる。
【0127】
なお、光拡散剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0128】
本発明の光拡散性樹脂組成物における光拡散剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.25〜10質量部であることがより好ましく、0.5〜3質量部であることが更に好ましい。光拡散剤の含有量が、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し0.1質量部以上であると該光拡散性樹脂組成物からなる光拡散性部材等の成形体が充分な光拡散性を有し、照明器具部材、拡散板等として使用した場合に光源が透けて見える可能性が抑制される。また、光拡散剤の含有量が、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し50質量部以下であることにより、本発明の光拡散性部材等の成形体が適度な光線透過率を有し、照明器具部材、拡散板等として使用した場合に輝度が過度に低くなる可能性が抑制される。
【0129】
光拡散剤としてのアクリル系微粒子、シリコーン系微粒子、アクリル−スチレン系共重合体微粒子としては、乳化重合法により合成可能であり、また市販品も利用可能である。
光拡散剤としてのアクリル系微粒子の具体例としては、ガンツパール GM−0632F、GM−0630H(架橋アクリル微粒子 ガンツ化成(株)社製)、パラロイドEXL−5136(重量分布平均粒径5μm)(アクリル系微粒子 ロームアンドハース(株)社製)、タフチックAR650S(アクリル系微粒子 東洋紡績社製)等が挙げられ、ヘイズ、透明性の観点から、ガンツパール GM−0632F、GM−0630H、パラロイドEXL−5136が好ましく、ガンツパール GM−0632F、GM−0630Hがより好ましい。
光拡散剤としてのシリコーン系微粒子の具体例としては、KMP−590(信越化学工業(株)社製)、MSP−S020(日興リカ(株)社製)、トレフィルE(東レ・ダウコーニング(株)社製)等が挙げられ、耐熱性の観点から、KMP−590、MSP−S020が好ましく、KMP−590がより好ましい。
光拡散剤としてのアクリル−スチレン系共重合体微粒子の具体例としては、ガンツパールGSM−1261、GSM−1841、GSM−0561(ガンツ化成(株)製)、スタフィロイド(ガンツ化成(株)製)等が挙げられ、ヘイズのばらつき抑制の観点から、ガンツパールGSM−1261、GSM−1841、GSM−0561が好ましい。
【0130】
[4]シリコーンレジン
本発明の光拡散性樹脂組成物はシリコーンレジンを所望の量だけ含有してもよい。このシリコーンレジンは流動化剤として作用するものであり、また、後述する有機金属塩化合物と組み合わせて用いることにより光拡散性樹脂組成物に高度な難燃性を付与する難燃剤として作用するものである。難燃化の仕組みは、シリコーンレジンと有機金属塩化合物とを光拡散性樹脂組成物に含有させると、シリコーンレジンが気化し、発泡により光拡散性樹脂組成物中に微小な気泡が多数生じるため、光拡散性樹脂組成物が燃焼し難くなっているものと推察される。
【0131】
しかし通常、光拡散性樹脂組成物中のシリコーンレジンの量は、非常に少量に抑えられていた。これは、シリコーンレジンの量が多くなると、気化したシリコーンレジン自体が燃焼し、かえって難燃性を低下させていたためと考えられる。
ところが、シリコーンレジンの量がある低濃度範囲に収まっている場合には前記のようにシリコーンレジンの量が多くなると難燃性が低下するが、その範囲よりも更に多くのシリコーンレジンを含有させた場合、意外なことに難燃性が向上する。これは、シリコーンレジンの気化作用とSi−C形成反応による表面硬化作用が著しく促進されたためと推察される。したがって、シリコーンレジンを従来よりも多量に含有する光拡散性樹脂組成物は、高度な難燃性を発揮でき。
【0132】
本発明に係るシリコーンレジンは、RSiO1.5で示されるT単位を必須成分とするものであり、(i)前記のT単位を全体のシロキサン単位(R0〜3SiO2.0〜0.5)に対して所定濃度以上含有し、かつ(ii)含有する全炭化水素基(R)のうちアリール基が所定濃度以上を占めるものである。また、本発明に係るシリコーンレジンは、前記のT単位に加え、RSiO0.5で表されるM単位、RSiO1.0で表されるD単位、及び、SiO2.0で表されるQ単位を含有することは、本発明の目的を損なわない限り差し支えない。
以下、このシリコーンレジンの構成について詳細に説明する。
【0133】
シリコーン(ポリオルガノシロキサン)は、以下に示す4つの単位(即ち、式(S−1)で表されるM単位、式(S−2)で表されるD単位、式(S−3)で表されるT単位、及び、式(S−4)で表されるQ単位)からなる群より選ばれる1種以上の繰り返し単位から構成されている。この中で、シリコーンレジンはT単位及び/又はQ単位を含むものを一般的に示す。
【0134】
【化17】

【0135】
【化18】

【0136】
【化19】

【0137】
【化20】

【0138】
前記の式(S−1)〜(S−4)において、Rは、炭素数1以上12以下の一価の炭化水素基を表す。なお、各Rは同じでもよく、異なっていてもよい。
中でも、前記のRは、炭素数が通常1〜12のアルキル基、炭素数が通常2〜12のアルケニル基、及び、炭素数が通常6〜12のアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭化水素基であることが好ましい。炭素数1〜12のアルキル基の例を挙げると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等が挙げられ、この中でメチル基が特に好ましい。炭素数2〜12のアルケニル基の例を挙げると、ビニル基、ブテニル基、アリル基等が挙げられる。炭素数6〜12のアリール基の例を挙げると、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基等が挙げられ、この中では安全面、工業的入手のし易さからフェニル基が特に好ましい。
【0139】
本発明に係るシリコーンレジンは、上述したM単位、D単位、T単位及びQ単位等の各繰り返し単位が有する全炭化水素基(即ち、R)のうち、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは100モル%を、アリール基が占める。アリール基の含有量が前記の範囲に満たない場合は、シリコーンレジンの芳香族ポリカーボネート樹脂への相溶性が低くなり難燃性に劣る可能性があるからである。中でも、前記のアリール基としてフェニル基を前記の割合で含むことがより好ましい。
【0140】
また、本発明に係るシリコーンレジンは、前記のT単位を、全体のシロキサン単位(R0〜3SiO2.0〜0.5)に対して、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは80モル%以上含有するものであり、100モル%が特に好ましい。これは、シリコーンレジンを構成するM単位、D単位、T単位及びQ単位等の繰り返し単位のうち、T単位が占める割合が所定濃度以上であることを意味する。T単位の含有量が所定範囲未満の場合は、シリコーンレジン自体の耐熱性が極端に低下し、更には芳香族ポリカーボネート樹脂への分散性が劣るため、高い難燃性が得られにくい傾向にある。
【0141】
本発明に係るシリコーンレジンは、シラノール基やアルコキシ基を側鎖及び/又は末端に含んでいても良い。その含有量は任意であり、適宜選択して決定すれば良いが、通常1.0質量部以上、好ましくは3.5質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、通常10質量部以下、好ましくは9質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。これにより、難燃性を向上させることができる場合がある。
なお、アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基等が挙げられるが、中でもメトキシ基が好ましい。
【0142】
本発明に係るシリコーンレジンの重量平均分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常500以上、好ましくは750以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは1500以上であり、通常500000以下、好ましくは300000以下、より好ましくは100000以下、更に好ましくは20000以下、特に好ましくは10000以下である。重量平均分子量が前記範囲の下限値以上であるとシリコーンレジン自体の耐熱性が良好であるため、難燃効果が得られやすく、また、成形時に光拡散性部材等の成形体からシリコーンレジンがしみ出し、金型汚染等を引き起こす可能性が抑制される。また、重量平均分子量が前記範囲の上限値以下である場合は、シリコーンレジンの溶融粘度が高すぎることがなく、芳香族ポリカーボネート樹脂との良好な混練性が維持され、分散不良を引き起こし、難燃性や機械物性等を極端に低下させる可能性が抑制される。また、重量平均分子量を前記の範囲とすることで、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成の流動性が向上する傾向にある。なお、重量平均分子量は、通常GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)によって測定される。
【0143】
なお、シリコーンレジンは、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0144】
本発明の光拡散性樹脂組成物がシリコーンレジンを含有する場合、本発明の光拡散性樹脂組成物におけるシリコーンレジンの含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常1.8質量部以上、好ましくは1.9質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、通常7.5質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4.5質量部以下である。このように多量にシリコーンレジンを含むことにより、前記のように本発明の光拡散性樹脂組成物の難燃性をより高め、流動性も向上させることが可能となる。また、シリコーンレジンの含有量が少なすぎると本発明の光拡散性樹脂組成物の難燃性が不十分となる可能性があり、逆に多すぎても本発明の成形体の外観不良や機械的強度の低下、熱安定性の低下が生ずる可能性がある。
【0145】
本発明に係るシリコーンレジンは、各種市販品を使用可能である。
本発明に係るシリコーンレジンとしては、217FLAKE(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)社製)、TSR116(GE東芝シリコーン(株)社製)が挙げられ、耐熱性の観点から217FLAKEが好ましい。
【0146】
[5]有機金属塩化合物
本発明の光拡散性樹脂組成物は有機金属塩化合物を含有してもよい。ここで有機金属塩化合物とは、有機酸の金属塩化合物である。このように有機金属塩化合物を含有することで、本発明の光拡散性樹脂組成物の難燃性を向上させることができる。
有機金属塩化合物が有する金属の種類としては、アルカリ金極又はアルカリ土類金属であることが好ましい。本発明の光拡散性樹脂組成物の燃焼時の炭化を促進して難燃性をより高めることができると共に、芳香族ポリカーボネート樹脂が有する耐衝撃性等の機械物性、耐熱性、電気的特性などの性質を良好に維持できるからである。したがって、本発明に係る有機金属塩化合物としては、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機金属塩化合物が好ましく、中でもアルカリ金属塩がより好ましい。
【0147】
有機金属塩化合物としては、例えば、有機系スルホン酸金属塩化合物、有機系カルボン酸金属塩化合物、有機系ホウ酸金属塩化合物、有機系リン酸金属塩化合物等が挙げられる。中でも、芳香族ポリカーボネート樹脂と混合した場合の熱安定性の点から、有機系スルホン酸金属塩が好ましい。
【0148】
有機系スルホン酸金属塩化合物の例を挙げると、有機系スルホン酸リチウム(Li)塩化合物、有機系スルホン酸ナトリウム(Na)塩化合物、有機系スルホン酸カリウム(K)塩化合物、有機系スルホン酸ルビジウム(Rb)塩化合物、有機系スルホン酸セシウム(Cs)塩化合物、有機系スルホン酸マグネシウム(Mg)塩化合物、有機系スルホン酸カルシウム(Ca)塩化合物、有機系スルホン酸ストロンチウム(Sr)塩化合物、有機系スルホン酸バリウム(Ba)塩化合物等が挙げられる。この中でも特に、有機系スルホン酸ナトリウム(Na)塩化合物、有機系スルホン酸カリウム(K)塩化合物、有機系スルホン酸セシウム(Cs)塩化合物などが好ましい。
【0149】
有機金属塩化合物の具体例を挙げると、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、(ポリ)スチレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸、トリクロロベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸;トリフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロプロパンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸等のアルキルスルホン酸の水素原子がフッ素原子で置換された構造を有する含フッ素アルキルスルホン酸;等のアルカリ及び/又はアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0150】
中でも好適には、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸カリウム、(ポリ)スチレンスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、トリクロロベンゼンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸セシウム、(ポリ)スチレンスルホン酸セシウム、パラトルエンスルホン酸セシウム、(分岐)ドデシルベンゼンスルホン酸セシウム、トリクロロベンゼンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム等が挙げられる。
この中でも、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムが特に好ましい。
なお、有機金属塩化合物は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0151】
本発明の光拡散性樹脂組成物が有機金属塩化合物を含有する場合、本発明の光拡散性樹脂組成物における有機金属塩化合物の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.075質量部以上、特に好ましくは0.1質量部以上であり、通常1質量部以下、好ましくは0.75質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、特に好ましくは0.4質量部以下である。有機金属塩化合物が少なすぎると難燃性が不十分となる可能性があり、多すぎると光拡散性樹脂組成物の成形体の外観不良、機械的強度の低下を招く可能性がある。
【0152】
[6]フルオロポリマー
本発明の光拡散性樹脂組成物はフルオロポリマーを含有することが好ましい。フルオロポリマーは滴下防止剤として機能するものである。このようにフルオロポリマーを含有することにより、本発明の光拡散性樹脂組成物の燃焼時に着火・溶融した樹脂が垂れ落ち(ドリップ)するのを抑制することができる。
【0153】
フルオロポリマーとしては、フッ素を有する公知のポリマーを任意に選択して使用できるが、中でもフルオロオレフィン樹脂が好ましい。
フルオロオレフィン樹脂としては、例えば、フルオロエチレン構造を含む重合体や共重合体が挙げられる。その具体例を挙げると、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられる。中でもテトラフルオロエチレン樹脂等が好ましい。このフルオロエチレン樹脂としては、フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂が好ましい。
【0154】
フィブリル形成能を有するフルオロエチレン樹脂としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製テフロン(登録商標)6J、ダイキン化学工業社製ポリフロンF201L、ポリフロンF103等が挙げられる。
また、フルオロエチレン樹脂の水性分散液として、例えば、三井デュポンフロロケミカル社製のテフロン(登録商標)30J、ダイキン化学工業社製フルオンD−1等も挙げられる。
更に、ビニル系単量体を重合してなる多層構造を有するフルオロエチレン重合体も、フルオロポリマーとして使用することができる。その具体例を挙げると、三菱レイヨン社製メタブレンA−3800等が挙げられる。
【0155】
本発明の光拡散性樹脂組成物がフルオロポリマーを含有する場合、本発明の光拡散性樹脂組成物におけるフルオロポリマーの含有量は、十分な難燃性(滴下防止性能)が得られ、かつ光拡散性及び流動性を極端に低下させない範囲である。具体的なフルオロポリマーの含有量に制限は無いが、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは0.075重量部以上、特に好ましくは0.1重量部以上であり、通常1重量部以下、好ましくは0.75重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下、特に好ましくは0.4重量部以下である。フルオロポリマーの含有量が少なすぎると滴下防止効果が得られにくく、逆に多すぎると本発明の成形体の外観不良や機械物性低下を招く場合がある。
【0156】
ところで、上述した芳香族ポリカーボネート樹脂がフッ素を有している場合、当該芳香族ポリカーボネート樹脂は、本発明に係る芳香族ポリカーボネート樹脂としてだけでなく、フルオロポリマーとしても機能する。この場合、フッ素を有する芳香族ポリカーボネート樹脂は、上述したフルオロポリマーの含有量の計算において、芳香族ポリカーボネート樹脂として取り扱うと共に、フルオロポリマーとしても取り扱うものとする。
【0157】
なお、フルオロポリマーは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
更に、本発明の光拡散性樹脂組成物はフルオロポリマー以外にも滴下防止剤として作用する成分を含んでいてもよい。その例を挙げると、熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0158】
[7]添加剤
本発明の光拡散性樹脂組成物は、必要に応じて酸化防止剤、光安定剤、加工安定剤、老化防止剤、相溶化剤等の任意の添加剤を適宜含有してもよい。
【0159】
酸化防止剤として、本発明の光拡散性樹脂組成物には、更にリン系安定剤を含有させることが、熱安定性を改良できるという点で好ましい。リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも3価のリンを含み変色抑制効果を発現しやすい点で、リン酸系安定剤が好ましく、ホスファイト、ホスホナイト等の亜リン酸エステルが好ましい。
【0160】
ホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられ、このうち耐加水分解性の観点から、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、が好ましく、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトがより好ましい。
【0161】
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、及びテトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられ、このうち耐加水分解性、耐揮散性の観点から、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイトがより好ましい。
【0162】
また、アシッドホスフェートとしては、例えば、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0163】
本発明に用いるリン系安定剤は、2種類以上を混合して含有させることができる。本発明の光拡散性樹脂組成物がリン系安定剤を含有する場合、リン系安定剤の合計の含有割合は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.0005〜0.3質量部であることが好ましく、0.001〜0.1質量部であることがより好ましい。上記の範囲であれば、安定剤としての効果が十分であり、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりにくい。
特に、本発明において、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、一般式(1)で表される化合物0.05〜3質量部、光拡散剤0.1〜10質量部、リン系安定剤0.0005〜0.3質量部を含有することが好ましい。
【0164】
酸化防止剤として、本発明の光拡散性樹脂組成物には、更にヒンダードフェノール系安定剤を含有することが、一般式(1)で表される化合物を安定化し、光拡散性樹脂組成物の光安定性を高められるという点で好ましい。
前記ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、フェノール性水酸基のオルト位に少なくともひとつの水素原子以外の置換基(例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環式基、アルコキシ基、アリールオキシ基、置換アミノ基など)を有する化合物が挙げられる。
前記ヒンダードフェノール系安定剤としては、酸化防止剤として公知の化合物で、市販されているものであってもよく、例えば、2,6−ジt−ブチルー4−メチルフェノールや、BASFジャパン株式会社製のイルガノックスシリーズの酸化防止剤などが挙げられ、このうち低揮散性の観点から、イルガノックス1010、イルガノックス245、イルガノックス1076が好ましく、イルガノックス1010、イルガノックス1076がより好ましい。
本発明に用いるヒンダードフェノール系安定剤は、2種類以上を混合して含有させることができる。本発明の光拡散性樹脂組成物がヒンダードフェノール系安定剤を含有する場合、ヒンダードフェノール系安定剤の合計の含有割合は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.0001〜1質量部であることが好ましく、0.001〜0.1質量部であることがより好ましい。
【0165】
[8]光拡散性樹脂組成物の調整方法
前記一般式(1)で表される化合物と、前記光拡散剤と、芳香族ポリカーボネート樹脂とを混合させ、本発明の光拡散性樹脂組成物を調製する方法については特に制限はない。
前記一般式(1)で表される化合物及び光拡散剤が、芳香族ポリカーボネート樹脂と相溶性を有する場合は、前記一般式(1)で表される化合物及び光拡散剤を芳香族ポリカーボネート樹脂に直接添加することができる。また、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練、及びペレタイザ−等の機器によりペレット化する方法が挙げられる。
芳香族ポリカーボネート樹脂と相溶性を有する補助溶媒に、前記一般式(1)で表される化合物及び光拡散剤を溶解し、その溶液を芳香族ポリカーボネート樹脂に添加してもよい。前記一般式(1)で表される化合物及び光拡散剤を高沸点有機溶媒やポリマー中に分散し、その分散物を芳香族ポリカーボネート樹脂に添加してもよい。
前記添加し混合する時期としては、芳香族ポリカーボネート樹脂を重合により形成する前であっても重合により形成した後であってもよい。
また、本発明の光拡散性樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂を任意の溶媒に溶解して形成されたものでもよい。
【0166】
高沸点有機溶媒の例には、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、安息香酸エステル、フタル酸エステル、脂肪酸エステル、炭酸エステル、アミド、エーテル、ハロゲン化炭化水素、アルコール及びパラフィンが含まれる。リン酸エステル、ホスホン酸エステル、フタル酸エステル、安息香酸エステル及び脂肪酸エステルが好ましい。
本発明の光拡散性樹脂組成物を調製する方法については、特開昭58−209735号、同63−264748号、特開平4−191851号、同8−272058号の各公報及び英国特許第2016017A号明細書を参考にできる。
【0167】
[9]成形体
上述した本発明の光拡散性樹脂組成物は、通常、何らかの形状に成形して成形体(芳香族ポリカーボネート樹脂組成物成形体)として用いる。この成形体の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形体の用途に応じて任意に設定すればよい。
【0168】
成形体の例を挙げると、電気・電子機器やその部品、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明装置、液晶テレビ等の直下型バックライトユニット及びエッジライトユニット等の各種用途が挙げられる。中でも、特に電気・電子機器やOA機器、情報端末機器、家電製品の筐体、カバー部材、車輌外装・外板部品、内装部品へ用いて好適である。
【0169】
前記の電気・電子機器やOA機器、情報端末機器、家電製品のハウジング、カバー部材としては、例えば、パソコン、ゲーム機、テレビなどのディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、電池パック、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等のハウジング、カバー、キーボード、ボタン、スイッチ部材などが挙げられる。
これらの部材の中でも特に、光源を背後に有し、その光源を被覆する形状の部材に適用した場合、光源が透けにくくかつ、視認性が得られる程度の輝度が確保できるため、好適に用いることができる。
【0170】
[10]光拡散性部材
本発明の光拡散性部材は、本発明の光拡散性樹脂組成物からなる。
本発明の光拡散性部材の用途としては、光拡散性の成形器材、例えばLED(発光ダイオード素子)を用いた各種表示器具用のカバーやレンズ、例えばLED信号灯器のレンズ又はレンズカバー、OA機器やテレビ等のディスプレイ、液晶表示装置の光拡散シート、導光板、照明装置や照明器具のカバー、照明看板、透過型のスクリーンなどが挙げられる。本発明においては、特に、光源として、光束が低く、指向性の高いLEDを用いた照明器具や表示器具のカバーやレンズとして用いると、効果的である。すなわち、本発明の光拡散性部材はLED用であることが好ましい。
本発明の光拡散性部材の形状としては、板状、フイルム状、シート状、ペースト状等が挙げられ、強度の観点から好ましくは板状、フイルム状、シート状であり、より好ましくは板状、シート状である。
【0171】
光拡散性部材等の成形体の製造方法は、特に限定されず、例えば熱可塑性樹脂について一般に用いられる成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法等が挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。
【実施例】
【0172】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、以下の説明において[部]とは、特に断らない限り質量基準に基づく「質量部」を表す。
〔合成例〕
合成例1(例示化合物(1)の調製)
サリチルアミド160.0gにアセトニトリル600mLとDBU(ジアザビシクロウンデセン(1,8−diazabicyclo[5.4.0]undec−7−ene))356.2gを添加し溶解させた。この溶液に4−(クロロホルミル)安息香酸メチル231.7gを添加し、室温で24時間攪拌した。この反応液に水1800mLと35%塩酸170mLを添加し、得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Aを343.0g得た(収率98%)。
【0173】
【化21】

【0174】
合成中間体A200.0gにアセトニトリル1200mLと硫酸98.1gを添加し、90℃で4時間攪拌した。この反応液にトリエチルアミン600mLを添加し、室温まで冷却した。得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Bを182.3g得た(収率97%)。
【0175】
【化22】

【0176】
【化23】

【0177】
(X−2の合成)
3つ口フラスコに、アセトキシム39.5g(1.1モル当量)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)600mL、カリウム−t−ブトキシド60.6g(1.1モル当量)を入れて室温で30分攪拌した。その後、内温を0℃とし、そこへ化合物(X−1)60g(1.0モル当量)をゆっくり滴下した。滴下後、内温を25℃まで昇温し、その温度で1時間攪拌した。
反応混合物を塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルで抽出・分液操作を行い、得られた有機相に飽和食塩水を加えて洗浄し分液した。こうして得られた有機相を、ロータリーエバポレータで濃縮して得られた残留物を化合物(X−2)の粗生成物として得た。
【0178】
(X−3の合成)
3つ口フラスコに、上記で得られた化合物(X−2)の粗生成物を全量を入れ、エタノール700mLと1mol/lの塩酸水500mLを加えて、反応混合物を内温80℃まで昇温しその温度で3時間攪拌した。
反応混合物を内温25℃まで冷却し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と酢酸エチルで抽出・分液操作を行い、得られた有機相に飽和食塩水を加えて洗浄し分液した。こうして得られた有機相を、ロータリーエバポレータで濃縮して得られた残留物を化合物(X−3)の粗生成物として得た。
【0179】
(X−4の合成)
3つ口フラスコに、フラスコ内を窒素ガスで満たした後に10%Pd−C(和光純薬工業社製)を6.5g添加し、エタノールを2,000mL、上記で得られた化合物(X−3)の粗生成物を全量加えて加熱・還流した。そこへギ酸55mL(3モル当量)をゆっくり滴下し、この温度で5時間攪拌した。その後反応混合物を内温25℃まで冷却し、セライトろ過を行い炉別した母液に1,5−ナフタレンジスルホン酸を105g加えて、内温を70℃まで昇温し、30分攪拌した。その後、徐々に室温まで冷却して結晶を濾別し化合物(X−4)を100g得た。収率は化合物(X−1)を出発物質として72%であった。得られた結晶は、淡茶色であった。H NMR(重DMSO):δ6.95−6.98(1H)、δ7.02−7.04(1H)、δ7.40−7.51(3H)、δ7.90−7.95(1H)、δ8.75(1H)、δ8.85−8.88(2H)、δ9.03(2H)、δ10.89(1H)
【0180】
化合物(X−4)5.5gにメタノール50mLと28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液3.8gを添加した。この溶液に合成中間体B5.0gを添加し、60℃で3時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、塩酸を0.2mL添加した。得られた固体を濾過、水とメタノールで洗浄して例示化合物(1)を6.8g得た(収率95%)。
MS:m/z 400(M+)H NMR(CDCl):δ7.04−7.12(4H),δ7.53−7.57(2H),δ8.24−8.27(2H),δ8.51−8.53(4H),δ12.91(2H) λmax=353nm(EtOAc)
【0181】
合成例2(例示化合物(2)の調製)
サリチルアミド160.0gにアセトニトリル600mLとDBU355.2gを添加し溶解させた。この溶液に4−シアノベンゾイル クロリド193.2gを添加し、室温で24時間攪拌した。この反応液に水1200mLと塩酸150mLを添加し、得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Cを292.8g得た(収率94%)。
【0182】
【化24】

【0183】
合成中間体C200.0gにアセトニトリル1200mLと硫酸110.5gを添加し、90℃で4時間攪拌した。この反応液にトリエチルアミン600mLを添加し、室温まで冷却した。得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Dを177.2g得た(収率95%)。
【0184】
【化25】

【0185】
化合物(X−4)6.2gにメタノール50mLと28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液4.3gを添加した。この溶液に合成中間体D5.0gを添加し、60℃で3時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、塩酸を0.2mL添加した。得られた固体を濾過、水とメタノールで洗浄して例示化合物(2)を7.1g得た(収率96%)。
MS:m/z 367(M+)H NMR(CDCl):δ7.01−7.13(4H),δ7.56−7.59(2H),δ7.91−7.93(2H),δ8.52−8.54(2H),δ8.58−8.60(2H),δ12.77(2H)λmax=355nm(EtOAc)
【0186】
合成例3(例示化合物(4)の調製)
サリチルアミド200.0gにアセトニトリル800mLとDBU444.0gを添加し溶解させた。この溶液に4−クロロベンゾイルクロリド255.0gを添加し、室温で24時間攪拌した。この反応液に水2000mLと塩酸200mLを添加し、得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Eを389.9g得た(収率97%)。
【0187】
【化26】

【0188】
合成中間体E38.0gにアセトニトリル240mLと硫酸20.2gを添加し、90℃で4時間攪拌した。この反応液にトリエチルアミン150mLを添加し、室温まで冷却した。得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Fを30.8g得た(収率94%)。
【0189】
【化27】

【0190】
化合物(X−4)6.0gにメタノール50mLと28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液4.1gを添加した。この溶液に合成中間体F5.0gを添加し、60℃で3時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、塩酸を0.2mL添加した。得られた固体を濾過、水とメタノールで洗浄して例示化合物(4)を6.8g得た(収率93%)。
MS:m/z 376(M+)H NMR(CDCl):δ7.04−7.12(4H),δ7.53−7.60(4H),δ8.41−8.43(2H),δ8.53−8.55(2H),δ12.96(2H)λmax=352nm(EtOAc)
【0191】
合成例4(例示化合物(104)の調製)
4−メトキシサリチルアミド20.0gにアセトニトリル80mLとDBU36.4gを添加し溶解させた。この溶液に4−(クロロホルミル)安息香酸メチル23.8gを添加し、室温で24時間攪拌した。この反応液に水100mLと塩酸20mLを添加し、得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Gを36.0g得た(収率91%)。
【0192】
【化28】

【0193】
合成中間体G20.0gにアセトニトリル200mLと硫酸8.9gを添加し、90℃で4時間攪拌した。この反応液にトリエチルアミン80mLを添加し、室温まで冷却した。得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Hを17.1g得た(収率90%)。
【0194】
【化29】

【0195】
化合物(X−4)5.5gにメタノール50mLと28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液3.4gを添加した。この溶液に合成中間体H5.0gを添加し、60℃で3時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、塩酸を0.2mL添加した。得られた固体を濾過、水とメタノールで洗浄して例示化合物(104)を6.3g得た(収率91%)。MS:m/z 430(M+)H NMR(CDCl):δ6.54−6.55(1H),δ6.63−6.64(1H),δ7.02−7.10(2H),δ7.51−7.55(1H),δ8.23−8.25(2H),δ8.48−8.50(3H),δ13.02(1H),δ13.17(1H)λmax=352nm(EtOAc)
【0196】
合成例5(例示化合物(3)の調製)
サリチルアミド200.0gにアセトニトリル800mLとDBU444.0gを添加し溶解させた。この溶液に4−(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド303.9gを添加し、室温で24時間攪拌した。この反応液に水2000mLと塩酸200mLを添加し、得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Iを428.3g得た(収率95%)。
【0197】
【化30】

【0198】
合成中間体I34.0gにアセトニトリル240mLと硫酸20.2gを添加し、90℃で4時間攪拌した。この反応液にトリエチルアミン150mLを添加し、室温まで冷却した。得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Jを34.8g得た(収率94%)。
【0199】
【化31】

【0200】
化合物(X−4)6.8gにメタノール50mLと28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液4.6gを添加した。この溶液に合成中間体J5.0gを添加し、60℃で3時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、塩酸を0.2mL添加した。得られた固体を濾過、水とメタノールで洗浄して例示化合物(3)を6.7g得た(収率95%)。MS:m/z 409(M+)
【0201】
合成例6(例示化合物(m−1)の調製)
サリチルアミド160.0gにアセトニトリル600mLとDBU356.2gを添加し溶解させた。この溶液に3−(クロロホルミル)安息香酸メチル231.7gを添加し、室温で24時間攪拌した。この反応液に水1800mLと35%塩酸170mLを添加し、得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Kを329.0g得た(収率94%)。
【0202】
【化32】

【0203】
合成中間体K200.0gにアセトニトリル1200mLと硫酸98.1gを添加し、90℃で4時間攪拌した。この反応液にトリエチルアミン600mLを添加し、室温まで冷却した。得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Lを178.5g得た(収率95%)。
【0204】
【化33】

【0205】
化合物(X−4)5.5gにメタノール50mLと28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液3.8gを添加した。この溶液に合成中間体L5.0gを添加し、60℃で3時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、塩酸を0.2mL添加した。得られた固体を濾過、水とメタノールで洗浄して例示化合物(m−1)を6.9g得た(収率96%)。MS:m/z 400(M+)
【0206】
合成例7(例示化合物(m−2)の調製)
サリチルアミド160.0gにアセトニトリル600mLとDBU355.2gを添加し溶解させた。この溶液に3−シアノベンゾイル クロリド193.2gを添加し、室温で24時間攪拌した。この反応液に水1200mLと塩酸150mLを添加し、得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Mを296.0g得た(収率95%)。
【0207】
【化34】

【0208】
合成中間体M200.0gにアセトニトリル1200mLと硫酸110.5gを添加し、90℃で4時間攪拌した。この反応液にトリエチルアミン600mLを添加し、室温まで冷却した。得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Nを177.3g得た(収率95%)。
【0209】
【化35】

【0210】
化合物(X−4)6.2gにメタノール50mLと28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液4.3gを添加した。この溶液に合成中間体N5.0gを添加し、60℃で3時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、塩酸を0.2mL添加した。得られた固体を濾過、水とメタノールで洗浄して例示化合物(m−2)を6.9g得た(収率93%)。MS:m/z 367(M+)
【0211】
合成例8(例示化合物(21)の調製)
例示化合物(1)10gに2−エチルヘキサノール31.6g、NaOMe0.13gとキシレン100mLを添加し、減圧下90℃で6時間攪拌した。この反応液に水と酢酸エチルを添加して攪拌し、分液した有機相を濃縮した。得られた残渣をヘキサン/イソプロピルアルコール(体積比で1:10)で晶析することで例示化合物(21)を11.7g得た(収率95%)。MS:m/z 498(M+)
【0212】
合成例9(例示化合物(24)の調製)
例示化合物(1)10gにファインオキソコール180N(日産化学化学工業製)9.8g、NaOMe0.13gとキシレン100mLを添加し、減圧下90℃で6時間攪拌した。この反応液に水と酢酸エチルを添加して攪拌し、分液した有機相を濃縮した。得られた残渣をヘキサン/イソプロピルアルコール(体積比で1:10)で晶析することで例示化合物(24)を14.5g得た(収率92%)。MS:m/z 638(M+)
【0213】
合成例10(例示化合物(72)の調製)
2−ヒドロキシ−4−(トリフルオロメチル)ベンズアミド20.0gにアセトニトリル80mLとDBU29.7gを添加し溶解させた。この溶液に4−(クロロホルミル)安息香酸メチル19.4gを添加し、室温で24時間攪拌した。この反応液に水100mLと35%塩酸20mLを添加し、得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Oを34.1g得た(収率95%)。
【0214】
【化36】

【0215】
合成中間体O20.0gにアセトニトリル200mLと硫酸6.9gを添加し、90℃で4時間攪拌した。この反応液にトリエチルアミン80mLを添加し、室温まで冷却した。得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Pを18.4g得た(収率97%)。
【0216】
【化37】

【0217】
化合物(X−4)5.5gにメタノール100mLと28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液3.4gを添加した。この溶液に合成中間体P5.0gを添加し、60℃で3時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、35%塩酸を0.2mL添加した。得られた固体を濾過、水とメタノールで洗浄して例示化合物(72)を5.9g得た(収率91%)。MS:m/z 467(M+)
【0218】
合成例11(例示化合物(81)の調製)
2−ヒドロキシ−5−メトキシベンズアミド20.0gにアセトニトリル80mLとDBU36.4gを添加し溶解させた。この溶液に4−(クロロホルミル)安息香酸メチル23.8gを添加し、室温で24時間攪拌した。この反応液に水100mLと35%塩酸20mLを添加し、得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Qを38.0g得た(収率96%)。
【0219】
【化38】

【0220】
合成中間体Q20.0gにアセトニトリル200mLと硫酸8.9gを添加し、90℃で4時間攪拌した。この反応液にトリエチルアミン80mLを添加し、室温まで冷却した。得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Rを18.1g得た(収率96%)。
【0221】
【化39】

【0222】
化合物(X−4)5.5gにメタノール50mLと28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液3.4gを添加した。この溶液に合成中間体R5.0gを添加し、60℃で3時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、塩酸を0.2mL添加した。得られた固体を濾過、水とメタノールで洗浄して例示化合物(81)を6.3g得た(収率91%)。MS:m/z 430(M+)
【0223】
合成例12(例示化合物(84)の調製)
2−ヒドロキシ−5−クロロベンズアミド20.0gにアセトニトリル80mLとDBU35.4gを添加し溶解させた。この溶液に4−(クロロホルミル)安息香酸メチル23.1gを添加し、室温で24時間攪拌した。この反応液に水100mLと35%塩酸20mLを添加し、得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Sを38.1g得た(収率98%)。
【0224】
【化40】

【0225】
合成中間体S20.0gにアセトニトリル200mLと硫酸9.0gを添加し、90℃で4時間攪拌した。この反応液にトリエチルアミン80mLを添加し、室温まで冷却した。得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Tを18.3g得た(収率97%)。
【0226】
【化41】

【0227】
化合物(X−4)5.5gにメタノール100mLと28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液3.3gを添加した。この溶液に合成中間体T5.0gを添加し、60℃で3時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、35%塩酸を0.2mL添加した。得られた固体を濾過、水とメタノールで洗浄して例示化合物(84)を6.1g得た(収率92%)。MS:m/z 434(M+)
【0228】
合成例13(例示化合物(98)の調製)
3−ヒドロキシ−2−ナフトアミド20.0gにアセトニトリル80mLとDBU32.4gを添加し溶解させた。この溶液に4−(クロロホルミル)安息香酸メチル21.2gを添加し、室温で24時間攪拌した。この反応液に水100mLと35%塩酸20mLを添加し、得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Uを35.1g得た(収率94%)。
【0229】
【化42】

【0230】
合成中間体U20.0gにアセトニトリル200mLと硫酸9.1gを添加し、90℃で4時間攪拌した。この反応液にトリエチルアミン80mLを添加し、室温まで冷却した。得られた固体を濾過、水洗浄して合成中間体Vを17.9g得た(収率94%)。
【0231】
【化43】

【0232】
化合物(X−4)5.5gにメタノール100mLと28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液3.0gを添加した。この溶液に合成中間体V5.0gを添加し、60℃で3時間攪拌した。この反応液を室温まで冷却した後、35%塩酸を0.2mL添加した。得られた固体を濾過、水とメタノールで洗浄して例示化合物(98)を6.1g得た(収率94%)。MS:m/z 449(M+)
【0233】
合成例14
(例示化合物(m−21)の調製)
例示化合物(m−2)25gに3,5,5−トリメチルヘキサノール250mLと硫酸13gを添加して150℃で10時間攪拌した。この反応液を50℃まで冷却した後、トルエン100mLと水100mLを添加して攪拌した後、水層を除去した。メタノール850mLを添加して、得られた固体を濾過、水とメタノールで洗浄して例示化合物(m−21)を31.4g得た(収率90%)MS:m/z 512(M+)H NMR(CDCl):δ0.88−0.93(9H),δ1.07−1.08(3H),δ1.14−1.92(1H),δ1.32−1.37(1H),δ1.67−1.88(3H),δ4.40−4.45(2H),δ6.99−7.06(4H),δ7.48−7.53(2H),δ7.64−7.68(1H),δ8.29−8.32(1H),δ8.46−8.57(3H),δ9.08(1H),δ12.86(2H)λmax=354nm(EtOAc)
【0234】
合成例15
(例示化合物(120)の調製)
例示化合物(1)25gに3,5,5−トリメチルヘキサノール250mLと硫酸13gを添加して150℃で10時間攪拌した。この反応液を50℃まで冷却した後、トルエン100mLと水100mLを添加して攪拌した後、水層を除去した。メタノール850mLを添加して、得られた固体を濾過、水とメタノールで洗浄して例示化合物(120)を31.4g得た(収率90%)MS:m/z 512(M+)H NMR(CDCl):δ0.94(9H),δ1.03−1.05(3H),δ1.14−1.19(1H),δ1.31−1.35(1H),δ1.62−1.88(3H),δ4.41−4.44(2H),δ7.05−7.13(4H),δ7.54−7.58(2H),δ8.24−8.27(2H),δ8.53−8.57(4H),δ12.93(2H)λmax=354nm(EtOAc)
【0235】
なお例示化合物(m−45)は、例示化合物(1)の調整における4−(クロロホルミル)安息香酸メチルを3−(クロロホルミル)−5−トリフルオロメチル安息香酸メチルに変更する以外は同様にして合成可能である。例示化合物(5)及び(10)も、例示化合物(1)の調整における4−(クロロホルミル)安息香酸メチルを、各化合物に対応する酸クロライドに変更する以外は同様にして合成可能である。例示化合物(98)は、例示化合物(1)の調整におけるサリチルアミドを3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボアミドに変更する以外は同様にして合成可能である。例示化合物(8)は、例示化合物(1)の調整におけるサリチルアミドを4−メトキシサリチルアミドに変更し、4−(クロロホルミル)安息香酸メチルを、対応する酸クロライドする以外は同様にして合成可能である。
【0236】
<pKaの測定法>
例示化合物(1)を吸光度が1となるようにアセトニトリルに溶解させ、この溶液に70%過塩素酸(酢酸溶媒)を滴下し、pHを変化させていった。その際の溶液吸収スペクトルを測定し、λmaxにおける吸光度から各pHにおけるトリアジンフリー体とプロトン付加体の比率を計算した。その値が等しくなる点よりpKaの値を求めた。ここで、トリアジンフリー体とは、例示化合物(1)そのものを表し、プロトン付加体とは、例示化合物(1)のトリアジン環の窒素原子にプロトンが付加したものを表す。同様にして下記表に記載の本発明の化合物、比較化合物A及び比較化合物BについてpKaの値を求めた。吸収スペクトルは、島津製作所製分光光度計UV−3600(商品名)を用いて測定した。pHは、東亜電波工業製pHメーター計HM60G(商品名)を用いて測定した。なお、吸光度はそれぞれの化合物の極大吸収波長で測定した値である。結果を下表に示す。ここで比較化合物Cは解離性が無いため、pKaを記載することはできない。
【0237】
【表1】

【0238】
(実施例1〜42及び比較例1〜33)
[樹脂ペレット製造]
実施例1〜42及び比較例1〜33として、表9に記載される紫外線吸収剤を用いて、表9中で特定される後述する処方、表1〜表8に記した各成分と割合(質量比)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製(TEX30HSST)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量15kg/時間、バレル温度280℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0239】
[角板成形]
上述の製造方法で得られたペレットを120℃で5時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥させた後、日本製鋼所製のJ50−EP型射出成形機を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル30秒の条件で射出成形し、厚さ2mmの50mm角の角板を成形した。
【0240】
<評価>
〔色相変化(耐光性)及びブリードアウト〕
得られた成形板に対して、メタルハライドランプ(約290nm以下カット)(商品名:アイスーパーUVテスター、岩崎電気製)で照度90mW/cm、温度63℃、湿度50%の条件で1000時間光照射した際の、光照射前と光照射後との色相の変化とブリードアウトの有無を表9に示す。
色相の変化については、◎は全く色相変化なし、○は色相変化ほとんどなし、△はわずかに着色、×は大きく着色を表す。
ブリードアウトについては、◎は全くなし、○は目視で確認できるが手で触れても手にブリードアウトの付着無し、×は手で触れてブリードアウトの付着有りを表す。
【0241】
【表2】

【0242】
【表3】

【0243】
【表4】

【0244】
【表5】

【0245】
【表6】

【0246】
【表7】

【0247】
【表8】

【0248】
【表9】

【0249】
本発明に係る紫外線吸収剤として、前掲の一般式(1)で表される化合物を使用した。表9に記載の紫外線吸収剤の番号は、前記具体例化合物の番号に対応する。
また比較用の紫外線吸収剤として、以下の比較化合物A〜Dを使用した。なお下記比較化合物Bと同じ構造を有する化合物は、シーソーブ709(ジプロ化成株式会社製)としても市販されている。
比較化合物A: TINUVIN1577FF(BASF社製)
比較化合物B: TINUVIN329(BASF社製)
比較化合物C: パイオニンZA−101(竹本油脂株式会社製)
比較化合物D: 下記構造の化合物(ADEKA社製)
【0250】
【化44】

【0251】
【表10】

【0252】
【表11】

【0253】
表9の結果から明らかのように、一般式(1)で表される化合物、本発明に係る光拡散剤、及び芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する実施例の光拡散性樹脂組成物は、一般式(1)で表される化合物を含有しない比較例1〜33の光拡散性樹脂組成物と比べて、成形物の色相の変化が小さく、かつ、ブリードアウトの抑制にも優れていた。
【0254】
(実施例43〜73及び比較例34〜38)
三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製の芳香族ポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロン(登録商標)S−3000F 粘度平均分子量:21,000)100質量部に、紫外線吸収剤として例示化合物(1)〜(4)、(21)〜(27)、(104)、(114)〜(120)、(m−1)、(m−2)、(m−21)、(m−31)、比較化合物A〜Dをそれぞれ0.2質量部、熱安定剤として旭電化工業(株)製、商品名:アデカスタブ2112を0.05質量部、光拡散剤として表に示したアクリル−スチレン系共重合体微粒子A(ガンツ化成(株)製、商品名:ガンツパールGSM−1261)、B(ガンツ化成(株)製、商品名:ガンツパールGSM−1841)又はC(ガンツ化成(株)製、商品名:ガンツパールGSM−0561)(以下、「共重合微粒子A、B、又はC」と略記することがある)を表10に示した比率で配合し、スクリュー径40mm、シリンダー設定温度260℃の単軸押出機でペレットを作製し、下記条件で試験片を成形し、評価を行い、その結果を表10に示した。なお「共重合微粒子A、B、又はC」については、その重量平均粒子径及び屈折率も表10に示した。
本発明の光拡散性樹脂組成物の実施例と比較例における評価法及び試験片の成形条件は次の通りである。なお、以下の説明において[部]とは、特に断らない限り質量基準に基づく「質量部」を表す。
【0255】
1)全光線透過率及びヘイズ:厚さ3mmの試験片をJIS K7105に準拠して、日本電色製NDH−2000を使用して測定した。
2)視認性(拡散性):2×300×600mmシート状成形体の裏側から10cm離して0.6カンデラのLED(Light Emitting Diode)を10個置き、シート状成形体の表面側より30cm離れたところからのLEDのぎらつき具合、明るさを目視観察した。ぎらつきが僅かにあるものを×、殆どないものを△、全くないものを○とした。
3)ブリードアウトについては、◎は全くなし、○は目視で確認できるが手で触れても手にブリードアウトの付着無し、×は手で触れてブリードアウトの付着有りとした。
4)試験片の成形条件:120℃で4時間予備乾燥したペレットを名機製作所製150M3型射出成形機で、シリンダー温度280℃、成形サイクル50秒、金型温度80℃で成形した。
【0256】
【表12】

【0257】
表10から、一般式(1)で表される化合物、本発明に係る光拡散剤、及び芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する光拡散性樹脂組成物から成形された本発明の試験片は全光線透過率とヘイズ、ブリードアウトの抑制、視認性(LEDのぎらつきの抑制)に優れているのに対し、一般式(1)で表される化合物を含有しない比較例34〜38の光拡散性樹脂組成物から成形された比較例の試験片では特性のバランスが悪く、光拡散性樹脂組成物として満足なものが無かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物、光拡散剤、及び芳香族ポリカーボネート樹脂を含有し、前記光拡散剤がアクリル系微粒子、シリコーン系微粒子及びアクリル−スチレン系共重合体微粒子のいずれかである、光拡散性樹脂組成物。
【化1】

[R1a、R1b、R1c、R1d及びR1eは、互いに独立して、水素原子又はヒドロキシ基を除く1価の置換基を表し、置換基のうち少なくとも1つは、ハメット則のσp値が正である置換基を表す。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pは、互いに独立して、水素原子又は1価の置換基を表す。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。]
【請求項2】
前記1価の置換基が、ハロゲン原子、置換又は無置換の炭素数1〜20のアルキル基、シアノ基、カルボキシル基、置換又は無置換のアルコキシカルボニル基、置換又は無置換のカルバモイル基、置換又は無置換のアルキルカルボニル基、ニトロ基、置換又は無置換のアミノ基、ヒドロキシ基、置換又は無置換の炭素数1〜20のアルコキシ基、置換又は無置換のアリールオキシ基、置換又は無置換のスルファモイル基、チオシアネート基、又は置換又は無置換のアルキルスルホニル基であり、前記1価の置換基が置換基を有する場合の置換基がハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルカルボニル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、アリールオキシ基、スルファモイル基、チオシアネート基又はアルキルスルホニル基である、請求項1に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項3】
前記R1b、R1c及びR1dの少なくとも一つがハメット則のσp値が正である置換基である、請求項1又は2に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ハメット則のσp値が正である置換基が、COOR、CONR、シアノ基、トリフルオロメチル基、ハロゲン原子、ニトロ基及びSOMからなる群より選択される基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。ここで、R及びRは、互いに独立して、水素原子又は1価の置換基を表す。Mは、水素原子又はアルカリ金属を表す。
【請求項5】
前記ハメット則のσp値が正である置換基がCOORである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。ここで、Rは、水素原子又は1価の置換基を表す。
【請求項6】
前記R1g、R1h、R1i、R1j、R1k、R1m、R1n及びR1pが、水素原子である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項7】
更に、リン系安定剤を含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項8】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、前記一般式(1)で表される化合物0.05〜3質量部、前記光拡散剤0.1〜10質量部、前記リン系安定剤0.0005〜0.3質量部である、請求項7に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項9】
更にヒンダードフェノール系安定剤を含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項10】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が10,000〜50,000の範囲である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項11】
更に、有機金属塩化合物を含有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項12】
更に、フルオロポリマーを含有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項13】
前記一般式(1)で表される化合物のpKaが−5.0〜−7.0の範囲である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の光拡散性樹脂組成物からなる光拡散性部材。
【請求項15】
LED用である、請求項14に記載の光拡散性部材。

【公開番号】特開2012−111881(P2012−111881A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263018(P2010−263018)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】