説明

光拡散性高分子ゲルおよび光拡散シート

【課題】 光拡散機能を容易に付与できると同時に柔軟性と粘着性を併せて付与出来るために、光拡散性付与に対しての特別な加工を施す必要がなく、また曲面部への使用、部材への容易な粘着が可能である光拡散性高分子ゲルおよび光拡散シートを提供することにある。
【解決手段】 アクリル系重合性単量と架橋性単量体を共重合架橋した高分子マトリックス内に少なくともアクリル系液状ポリマーと多価アルコールと有機系の非架橋ポリマーを含有する、全光線透過率が80〜100%、ヘイズ値が5〜100%である光拡散性高分子ゲルとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散性高分子ゲルおよび光拡散シートに関する。さらに詳しくは、透明ガラスや透明シートに光拡散機能を容易に付与でき、工業用材料として幅広く使用可能であり、特に、光学部材用の光拡散シートやプライバシー保護用のパーテーション等として好適に用いることが出来る柔軟性と粘着性を有する光拡散性高分子ゲルおよびそれを用いた光拡散シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光拡散性を有するシートや板あるいはガラスは、光学部材や住宅用の目隠し部材として使用され、例えば、前者は、照明器具、携帯電話、パソコン、液晶ディスプレイ等に使用され、照明の光源、液晶パネルのバックライトから発せられる光を均一に拡散させる役割を担っている。後者は、プライバシー保護用のパーテーション等に使用され、材料を不透明にすることにより、材料を介して目隠しする役割を担っている。
【0003】
これら材料の光拡散性を付与する方法としては、例えば、特許文献1では、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテル等のフィルムなど透明性が高い支持体の片面に、酸化チタン、ガラスビーズ、シリカ等の無機粉末、(メタ)アクリル系重合体等の有機系樹脂粒子を分散した透明な樹脂溶液を塗布する方法が提案され、特許文献2では、シートの仕上げ加工の際に加熱・加圧によって表面に凹凸をつける、いわゆるエンボス加工を施す方法等が提案されている。また、ガラスの場合は、擦りガラスのように、ガラスの片面を砂で擦り、いわゆるすり加工によって細かい凹凸を付ける方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010‐72282号公報
【特許文献2】特開2010‐97108号公報
【0005】
しかし、上記のような方法においては、フィルムへの塗工、シートの表面加工等、作業性が複雑である。また、板やガラスの場合、柔軟性がないために曲面部への使用が困難である。また、これら材料自身に粘着性を持たないため、部材への貼付けを想定した場合、別途、接着剤や粘着剤等による粘着を行う必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、光拡散機能を容易に付与でき、光拡散性付与に対しての特別な加工を施す必要がなく、また曲面部への使用、部材への容易な粘着が可能な柔軟性と粘着性を有する光拡散性高分子ゲルおよび光拡散シートを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、疎水性のアクリル系重合性単量体と架橋性単量体を共重合架橋した高分子マトリックス内に少なくともアクリル系液状ポリマーと多価アルコールと有機系の非架橋ポリマーを含有する、全光線透過率が80〜100%、ヘイズ値が5〜100%である光拡散性高分子ゲルが、光拡散機能を容易に付与できると同時に柔軟性と粘着性を併せて付与出来るために、光拡散性付与に対しての特別な加工を施す必要がなく、また曲面部への使用、部材に対して容易に粘着が可能であることを見出して本発明に至った。
【0008】
かくして本発明によれば、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する疎水性のアクリル系重合性単量体と分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体とを共重合した架橋共重合体に由来する高分子マトリックス内に、少なくともアクリル系液状ポリマー、多価アルコールと有機系の非架橋ポリマーを含有する、全光線透過率が80〜100%、ヘイズ値が5〜100%である光拡散性高分子ゲルが提供される。
【0009】
また、本発明によれば、上記光拡散性高分子ゲルと樹脂フィルムとを含む光拡散シートが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光拡散性高分子ゲルは、光拡散機能を容易に付与できると同時に柔軟性と粘着性を併せて付与出来るために、光拡散性付与に対しての特別な加工を施す必要がなく、また曲面部への使用、部材への容易な粘着が可能であるという優れた効果を有している。このように、従来の光拡散性を有するシートや板あるいはガラスが抱えていた問題が解決された本発明による光拡散性高分子ゲルは、工業用材料として幅広く使用可能であり、特に、光学部材用の光拡散シートやプライバシー保護用のパーテーション等として好適に使用され得る。
【0011】
また、前記有機系の非架橋ポリマーが、前記高分子ゲル100重量部に対して、0.5〜20重量部含有される場合、更に光拡散機能を容易に付与できると同時に柔軟性と粘着性を併せて付与出来るために、光拡散性付与に対しての特別な加工を施す必要がなく、また曲面部への使用、部材への容易な粘着が可能であるという優れた効果を有した光拡散性高分子ゲルが得られる。
【0012】
また、前記アクリル系液状ポリマーが、重量平均分子量が500〜50,000、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満である場合、更に光拡散機能を容易に付与できると同時に柔軟性と粘着性を併せて付与出来るために、光拡散性付与に対しての特別な加工を施す必要がなく、また曲面部への使用、部材への容易な粘着が可能であるという優れた効果を有した光拡散性高分子ゲルが得られる。
【0013】
また、前記分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する疎水性のアクリル系重合性単量体が、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する疎水性のアクリルアミド系重合性単量体である場合、更に光拡散機能を容易に付与できると同時に柔軟性と粘着性を併せて付与出来るために、光拡散性付与に対しての特別な加工を施す必要がなく、また曲面部への使用、部材への容易な粘着が可能であるという優れた効果を有した光拡散性高分子ゲルが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について、以下具体的に説明する。本発明による光拡散性高分子ゲル(以下、単にゲルとも称する)は、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する疎水性のアクリル系重合性単量体と分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体とを共重合した架橋共重合体に由来する高分子マトリックスとアクリル系液状ポリマーと多価アルコールと有機系の非架橋ポリマーとから形成される。本発明のゲルは、高分子マトリックスを形成する上記架橋重合体が、液状ポリマーと多価アルコールと有機系の非架橋ポリマーを内包した形態をとる。
ゲル中に占める高分子マトリックスの割合としては、少ないとゲルの強度が不足し、多いとゲルの柔軟性が不足するので、ゲル100重量部中に15〜80重量部であることが好ましく、20〜70重量部であることがさらに好ましい。
【0015】
(疎水性のアクリル系重合性単量体)
本発明のゲルの高分子マトリックスを構成する分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する疎水性のアクリル系重合性単量体は、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体、アクリル系液状ポリマー、多価アルコールと相溶するものであれば特に制限なく使用することが出来る。ここで「疎水性」とは、水と相溶性が無く、水と混合しようとしても水と油分(疎水性のアクリルアミド系重合性単量体)の2層に分離する性質をいう。
【0016】
例えば、疎水性のアクリル系重合性単量体として、アルキル(メタ)アクリレートのアルキル炭素が4以上の単量体、ヒドロキシアルキルメタアクリレートのアルキル炭素が3以上の単量体、ヒドロキシアルキルアクリレートのアルキル炭素数が6以上の単量体、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートのアルコキシ基とアルキル基の少なくともいずれか一方の炭素数が4以上の単量体、ポリオールアクリレートのポリオールを構成するジオールユニットの炭素数が3以上で、かつ、ポリオール基全体での炭素数が12以上の単量体、ポリオールメタクリレートのポリオールを構成するジオールユニットの炭素数が3以上の単量体、アルキルアクリルアミドのアルキル炭素数が4以上の単量体、アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミドのアルコキシ基とアルキル基の少なくともいずれか一方の炭素数が4以上の単量体が挙げられる。なお、前記例示単量体中のアルキル基には、脂肪族環、芳香族環が含まれていてもよい。また、単量体の全炭素数が21以下であることが好ましい。なお、(メタ)アクリレートとは、メタクリレート又はアクリレートを意味する。
【0017】
さらに具体的には、疎水性のアクリル系重合性単量体として、イソブチル(メタ)アクリレート、ノルマルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、(シクロ)ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキルアクリレート、プロパンジオールメタクリレート、ブタンジオールメタクリレート、ヘプタンジオール(メタ)アクリレート、オクタンジオール(メタ)アクリレート、ノナンジオール(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキルアクリレート、(イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリレート、(イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチルアクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、(イソ)ブチル(メタ)アクリルアミド、ヘキシル(メタ)アクリルアミド、オクチル(メタ)アクリルアミド等のアルキルアクリルアミド、(イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、(イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリルアミド等のアルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。なかでも、疎水性のアクリルアミド系重合性単量体が好ましい。これら疎水性のアクリル系重合性単量体は、単独で、又は、複数を組み合わせてもよい。
【0018】
(架橋性単量体)
本発明のゲルの高分子マトリックスを構成する分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体は、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、N,N'−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N'−エチレンビス(メタ)アクリルアミド等の2官能型、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の3官能型、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの4官能型等の多官能アクリレート誘導体が挙げられる。これら分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体の使用量は、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する疎水性のアクリル系重合性単量体100重量部に対して0.01重量部以上10重量部以下が好ましく、0.01重量部以上5重量部以下がより好ましい。
【0019】
(アクリル系液状ポリマー)
本発明のアクリル系液状ポリマーとしては、常温(約25℃)で液状のものであり、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する疎水性のアクリル系重合性単量体と分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体、多価アルコールと相溶するものであれば、特に制限無く使用できる。本発明のアクリル系液状ポリマーは、重量平均分子量(Mw)が500〜50,000、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満であるアクリル系液状ポリマーであることが好ましい。さらに、本発明のアクリル系液状ポリマーは、重量平均分子量(Mw)が1,000〜20,000、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満であるアクリル系液状ポリマーであることがより好ましい。本発明のアクリル系液状ポリマーが、重量平均分子量が500未満の場合、高分子マトリックスからのブリードアウトが生じる恐れがあり、重量平均分子量が50,000を超える場合、高分子マトリックスとの相溶性が低下する恐れがある。また、粘度が高くなるため、作業性の面についても好ましくない。ガラス転移温度が0℃以上の場合、固形化する恐れがあり、ゲルの柔軟性が失われる可能性がある。
また、本発明のアクリル系液状ポリマーは、その構造中に、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アルコキシシリル基等の官能基を有していてもよく、必要に応じて選択できる。これらは、単体で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
ここでの前記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定する。なお本発明において、重量平均分子量は、ポリスチレン(PS)換算重量平均分子量を意味し、その測定方法は次のとおりである。
【0021】
[測定装置]
東ソー社製 HPLC(ポンプ DP−8020、オートサンプラー AS−8020、検出器 UV−8020,RI−8020)
[カラム]
GPC K−806L×2(Shodex 昭和電工社製)
[測定条件]
カラム温度(40℃),移動相(クロロホルム),移動相流量(1.2mL/min),ポンプ温度(室温),測定時間(25min),検出(RI),注入量(50μL)
[測定液作製方法]
試料30mg±5mgを秤量し、HPLC用クロロホルム4mL(移動相)で溶解後測定液とする。
[検量線用PS標準物質]
昭和電工社製(Shodex)STANDARDキットより、STD No.S−6120、S−3250、S−1320、S−493、S−133、S−55.1、S−19.6、S−7.2、S−3.1、S−1.2の合計10本を選択して使用し、検量線を作成する。
【0022】
ここでのガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121:1987「プラスチックの転移温度測定方法」記載の方法に準じて測定する。
測定例としては、示差走査熱量計装置 DSC220C型(セイコーインスツルメンツ社製)を用い測定容器に試料を10.0±0.5mg充てんして、20℃/minの冷却速度で−75℃まで冷却し5分間保持後、窒素ガス流量50ml/minのもと20℃/minの昇温速度で100℃まで昇温してガラス転移温度を測定し、中間点ガラス転移温度をガラス転移温度(Tg)とする。なお、ここでの中間点ガラス転移温度は、JIS K7121に記載の求め方に準ずる。
【0023】
アクリル系液状ポリマーは、アクリル酸エステルを成分とし、エステル部分の炭素数が1〜20で、直鎖状、分岐状、あるいは環状のアクリル酸エステル由来のポリマーが使用できる。
【0024】
上記アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ネオペンチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、トリデシルアクリレート及びステアリルアクリレート等のアクリル酸脂肪族アルキル、シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、トリシクロデシニルアクリレート及びテトラヒドロフルフリルアクリレート等のアクリル酸脂環式アルキル、2−メトキシエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、クロロエチルアクリレート及びトリフルオロエチルアクリレート等のヘテロ原子含有アクリル酸エステルが例示され、これらのうち、単体又は複数以上使用してもよい。上記アクリル酸エステルの中でも、ガラス転移温度(Tg)が低い重合体が得られるという点で、エステル部分の炭素数が4〜12のアクリル酸エステルモノマーが好ましく、その中でも、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレートが好ましい。
【0025】
また、アクリル系液状ポリマーには、前記アクリル酸エステル以外にこれと共重合可能なモノマーを共重合させることも可能である。共重合可能なモノマーとしては、例えば、メタクリル酸エステル、α−オレフィン類、ビニルエステル類及びビニルエーテル類等のビニル系モノマーが挙げられる。特に、前記液状ポリマーに水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アルコキシシリル基を有するものについては、それら官能基を含有するモノマーを共重合することで得ることができる。
【0026】
前記アクリル系液状ポリマーの合成法としては、従来からの溶液重合法や高温連続重合法(特開昭59−6207号公報、特開昭60−215007号公報、特開平1−313522号公報等参照)等が挙げられる。これらのうち、高温連続重合法は、溶剤や連鎖移動剤を使用せずに無溶剤であるために副原料が製品に残留することによる物性低下の問題が少なくなるため、本発明の目的にはより好ましい。
【0027】
アクリル系液状ポリマーは、例えば、次の品名で市販されており、これらのうちから任意に選択してもよい。
無官能のアクリル系液状ポリマーとしては、東亜合成社のUPシリーズが挙げられ、品質や性状によって、UP1000、UP1010、UP1020、UP1021、UP1061、UP1080、UP1110、UP1170、UP1190という商品に分類される。
【0028】
水酸基含有のアクリル系液状ポリマーとしては、東亞合成社のUHシリーズが挙げられ、品質や性状によって、UH2000、UH2032、UH2041という商品に分類される。
エポキシ基含有のアクリル系液状ポリマーとしては、東亞合成社のUGシリーズが挙げられ、品質や性状によって、UG4000、UG4010という商品に分類される。
アルコキシシリル基含有のアクリル系液状ポリマーとしては、東亞合成社のUSシリーズが挙げられ、品質や性状によって、US6110、US6120、US6170という商品に分類される。その他、ジョンソンポリマー社よりジョンクリルという商品でも市販されている。
【0029】
アクリル系液状ポリマーは、少ないとゲルが硬くなりすぎて、柔軟性が得られず、多くてもゲルが柔らかくなりすぎて、ハンドリング性が悪くなるので、前記高分子ゲル100重量部中に、15〜80重量部含有されることが好ましい。
【0030】
(多価アルコール)
本発明の多価アルコールとしては、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する疎水性のアクリル系重合性単量体と分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体、アクリル系液状ポリマーと相溶するものであれば、特に制限無く使用できる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールや、ポリプロピレングリコール、ポリブタンジオール等のポリオキシアルキレン基含有多価アルコールやポリオキシエチレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレンジグリセリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル等のポリエーテル付加(ポリ)グリセリン等が挙げられる。
【0031】
多価アルコールの添加理由は、単量体配合液に対する有機系の非架橋ポリマーの溶解性を高める目的で、多価アルコールは、少ないと単量体配合液に対する有機系の非架橋ポリマーの溶解性が低くなり、多くても有機系の非架橋ポリマーの溶解性が高まる為、高いヘイズ値を得ることが困難となるので、前記高分子ゲル100重量部中に、1〜20重量部含有されることが好ましい。
【0032】
(有機系の非架橋ポリマー)
本発明の有機系の非架橋ポリマーは、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する疎水性のアクリル系重合性単量体と分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体、アクリル系液状ポリマーと多価アルコールからなるモノマー配合液には溶解するが、重合後にゲルを形成する段階で、相溶性が低下し、ゲル中で分散した形態をとるものであれば、特に制限無く使用できる。例えば、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等が挙げられる。上記有機系の非架橋ポリマーの含有量は、前記高分子ゲル100重量部中に、
0.5〜20重量部であることが好ましい。その含有量が0.5重量部未満の場合、ヘイズ値が低く、適当な光拡散性を付与することが出来ない。また、その含有量が20重量部以上の場合、配合液への溶解が困難になる可能性があり、また、ゲルを形成した際に、粉として、析出する恐れがある。
【0033】
(その他)
さらに本発明のゲルには、必要に応じて粘着付与剤、防腐剤、殺菌剤、防黴剤、防錆剤、酸化防止剤、安定剤、pH調整剤、香料、界面活性剤、着色剤、染料などを含有させても良い。
【0034】
(光拡散性高分子ゲルの製造方法)
本発明の光拡散性高分子ゲルの製造方法は、たとえば、(1)分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有するアクリル系重合性単量体と、(2)分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体と、(3)アクリル系液状ポリマーと、(4)多価アルコールと、(5)有機系の非架橋ポリマーと、重合開始剤とを均一に混合溶解した単量体配合液に加熱または光照射することにより前記(1)と(2)を重合架橋させることにより得られる。単量体配合液は液状のため、例えば成形された樹脂型などに流し込んで重合架橋させると、任意の形状のゲル体を作る事が出来る。また、一定の間隔に保持した2枚のフィルムの間に配合液を流し込んで重合架橋させれば、シート状のゲル体が得られる。
【0035】
重合開始剤は特に限定されないが、加熱により重合させる場合は、アゾビスシアノ吉草酸やアゾビスアミジノプロパン2
塩酸塩等のアゾ重合開始剤を用いることができる。また、光の照射によって重合させる場合は、アゾ系、アセトフェノン系をはじめとする公知の光重合開始剤を使用する事が可能である。また、これらの開始剤の複数を混合し、光の照射と加熱を同時に行なっても良い。
【0036】
また硫酸第1鉄やピロ亜硫酸塩等の還元剤と過酸化水素やペルオキソ2硫酸塩等の過酸化物からなるレドックス開始剤等も用いることができる。これらのレドックス開始剤を用いる場合、加熱をしなくても反応を行なう事が可能であるが、残存モノマーの低減化や反応時間の短縮のため、加熱を行なうことが好ましい。
【0037】
また、電子線やガンマ線など放射線を照射することによる重合架橋も可能であるが、放射線照射のための特殊な設備を要するため好ましくない。本発明の光拡散性高分子ゲルは、このような特殊な製造方法以外で得る事が可能である。
【0038】
前記製造方法を用いると製造工程が簡素であり、連続生産も可能であるため、非常に経済的であると同時に、安定した物性のゲル体を得る事が可能である。
【0039】
本発明の光拡散性高分子ゲルは、全光線透過率が80〜100%、ヘイズ値が5〜100%であるが、使用用途によって、上記範囲内で全光線透過率、ヘイズ値をコントロールすることが出来る。例えば、目隠し用途として使用する場合には、ヘイズ値が40%程度以上に設定することが好ましい。また、より拡散性が必要となる場合には、ヘイズ値がさらに高いものが好ましい。一方、ヘイズ値が5%未満の場合、効果的な光拡散性が得られない。ヘイズ値と全光線透過率は、多価アルコールの含有量や有機系の非架橋ポリマーの含有量を調整することで調整することができる。
本発明の光拡散性高分子ゲルはシート状で用いることが好ましい。シートの厚みとしては特に制限はないが、薄いと強度が不足し、厚いと曲面追従性が低下するので50〜1000μmが好ましく、50〜500μmがより好ましい。
【0040】
(樹脂フィルム)
光拡散性高分子ゲルをシートとして使用する場合、ゲルの両面には、表面を保護するためのセパレーターを設けることが好ましい。セパレーターのうち一方は支持体であってもよい。もう一方は、ベースフィルムとして最終製品まで付属していることが好ましい。この場合のセパレーターは、末端ユーザーが使用する直前に剥離できる。なお、支持体とは、ゲルを補強し、テープの形態を保持させるためのフィルム、不織布、織布等のことを指す。
【0041】
セパレーターの材質としては、フィルム状に成型可能な樹脂又は紙であれば特に制限されない。中でも、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン等からなる樹脂フィルム、紙、又は樹脂フィルムをラミネートした紙等が好適に用いられる。特に、ベースフィルムとして使用する場合は、二軸延伸したPETフィルムや、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリオレフィンをラミネートした紙が好ましい。また、光学フィルタをベースフィルムとして使用してもよい。
【0042】
セパレーターのゲルと接する面には離型処理がなされていることが好ましい。また、必要に応じてセパレーターの両面が離型処理されていても差し支えない。両面に離型処理する場合は、表裏の剥離強度に差をつけてもよい。離型処理の方法としては、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、長鎖アルキル基含有カルバメート等の離型剤のコーティングが挙げられるが、特に、熱又は紫外線で架橋、硬化反応させる焼き付け型のシリコーンコーティングが好ましい。
【0043】
セパレーターの内、前記ベースフィルムの逆の面に配置されるトップフィルムは、ゲルの製品形態に応じて最適な材料が選択される。例えば、ゲルを短冊で取り扱う場合は、前記の通りフィルム状に成型可能な樹脂又は紙であれば特に制限されないが、ベースフィルムと同様に離型処理されていることが好ましい。
【0044】
ゲルをロール状に巻き取って保管、物流する場合、トップフィルムは柔軟であることが望ましい。柔軟性を有するフィルムは、ロール巻の内周側及び/又は外周側に使用してもよいが、外周側に配置することがより好ましい。具体的には、ベースフィルム、ゲル、トップフィルムの3層構造のゲルシートをロールに巻く際、少なくとも片側の(ロールの外周側に位置する)トップフィルムが延びれば、巻き皺を低減できる。柔軟性がないフィルムを両面に使用することは、巻き皺が発生する危険性を高くするため好ましくない。
【0045】
また、支持体としては、離型処理しているか又はしていない樹脂フィルムを使用できる。樹脂フィルムとしては、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン等が挙げられる。
【0046】
上記支持体を備えた光拡散性高分子ゲルシートは、例えば、ゲル形成後、支持体を貼付する方法と、支持体に直接モノマー配合液をコーティングし、重合してゲルを生成させる方法により製造できる。また、粘着力の異なるゲルを支持体の表裏面それぞれに貼付することで、表裏面で粘着力の異なるシートを得ることができる。支持体を使用せず、ゲルを直接貼り合わせてもよい。
【0047】
モノマー配合液をセパレーターあるいは支持体にコーティングするには、通常行われているグラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ロールコート法、ダイコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、ホットメルトコート法、カーテンコート法等で行うことができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。先ず、実施例及び比較例中の測定方法及び評価方法について説明する。
【0049】
(光拡散性高分子ゲルの評価方法)
重合後のゲルを、その光学特性、曲面密着性について評価する。
(1)ゲルの光学特性(透過率(%)、ヘイズ(%))
重合後のゲルの全光線透過率とヘイズをヘーズメーターHM−150型(村上色彩技術研究所社製)にて測定する。なお、測定条件は、透過率についてはJIS K7361に則り、ヘイズについてはJIS K7136に則り実施する。
(2)曲面密着性
重合後のゲルを100mm角に裁断し、外径80mmの円筒状のアクリル板に貼り付け密着性を評価した。ゲルの千切れ、割れ等がなくゲル貼り付け面が円筒に追従して密着したものを○、ゲルの千切れ、割れが生じたり、ゲル貼り付け面が円筒に追従して密着しないものを×とした。
【0050】
[実施例1]
分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する疎水性のアクリル系重合性単量体としてのイソブトキシメチルアクリルアミド(MRCユニテック社製、商品名:IBMA)を50重量部、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体としての1、9−ノナンジオールジアクリレート(共栄社化学社製、商品名:ライトアクリレート1、9−NDA)を0.2重量部、分子量が1,700である無官能のアクリル系液状ポリマー(東亞合成社、商品名:Arufon UP1010、Tg=−31℃)を39.3重量部、多価アルコールとしての分子量が1,600であるポリオキシプロピレン(ポリ)グリセリルエーテル(阪本薬品工業社製、商品名:SC−P1600)を5.0重量部、有機系の非架橋ポリマーとしてのポリビニルピロリドン(第一工業製薬社製、商品名:クリージャスK30、K値=29.2)を5.0重量部、光重合開始剤としての1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン(日本のチバスペシャリティーケミカルズ社製、商品名:IRUGACURE2959)を0.5重量部、混合、撹拌させることで、微黄色透明のモノマー配合液を得た。
次に、得られたモノマー配合液をシリコーンコーティングされたPETフィルム上に滴下した。その上から同じくシリコーンコーティングされたPETフィルムを被せることで、液が均一に押し広げられ、厚さが0.3mmになる様に固定した。これにメタルハライドランプを使用してエネルギー量7000mJ/cmの紫外線照射することにより厚さ0.3mmのシート状の高分子ゲルを得た。
得られたゲルの各評価について、下記の表1に示す。
【0051】
[実施例2]
無官能のアクリル系液状ポリマーを41.3重量部、ポリビニルピロリドンを3.0重量部、に変更すること以外は、実施例1と同様の方法により高分子ゲルを得た。
[実施例3]
無官能のアクリル系液状ポリマーを43.8重量部、ポリビニルピロリドンを0.7重量部、に変更すること以外は、実施例1と同様の方法により高分子ゲルを得た。
【0052】
[比較例1]
無官能のアクリル系液状ポリマーを49.3重量部に変更し、両親媒性の可塑剤、有機系の非架橋ポリマーを含有させないこと以外は、実施例1と同様の方法により高分子ゲルを得た。
[比較例2]
無官能のアクリル系液状ポリマーを44.1重量部、ポリビニルピロリドンを0.2重量部、に変更すること以外は、実施例1と同様の方法により高分子ゲルを得た。
[比較例3]
無官能のアクリル系液状ポリマーを24.3重量部、ポリビニルピロリドンを25.0重量部、に変更すること以外は、実施例1と同様の方法により高分子ゲルを得た。ただし、配合液の段階で、ポリビニルピロリドンの溶け残りがあり透明な液体を得ることが出来なかった。
【0053】
【表1】

【0054】
IBMA:N−イソブトキシメチルアクリルアミド(MRCユニテック社製:IBMA)
1,9−NDA:1,9-ノナンシ゛オールシ゛アクリレート(共栄社化学社製:ライトアクリレート1,9-NDA)
UP1010:無官能アクリル系液状ポリマー(東亞合成社製:Arufon UP1010)
SC−P1600:ホ゜リオキシフ゜ロヒ゜レン(ホ゜リ)ク゛リセリルエーテル(阪本薬品工業製:SC-P1600)
K30:ポリビニルピロリドン(第一工業製薬社製:クリージャスK30)
IR2959:1-[4-(2-ヒト゛ロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒト゛ロキシ-2-メチル-フ゜ロハ゜ン-1-オン(チハ゛スヘ゜シャリティーケミカルス゛社(日本)製:IRUGACURE2959)
【0055】
表1から、本発明になる光拡散性高分子ゲルを用いて特性評価を行った場合(実施例1〜3)、本発明の範囲外の手段で光拡散性高分子ゲルの作成を試みた場合(比較例1〜3)と比較して、光拡散機能を容易に付与できると同時に柔軟性と粘着性を併せて付与出来るために、光拡散性付与に対しての特別な加工を施す必要がなく、また曲面部への使用、部材への容易な粘着が可能であるという優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の光拡散性高分子ゲルは、照明器具、携帯電話、パソコン、液晶ディスプレイ等の光学部材用の光拡散シートや、プライバシー保護用のパーテーション等として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する疎水性のアクリル系重合性単量体と分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を2つ以上有する架橋性単量体とを共重合した架橋共重合体に由来する高分子マトリックス内に、少なくともアクリル系液状ポリマー、多価アルコールと有機系の非架橋ポリマーを含有する、全光線透過率が80〜100%、ヘイズ値が5〜100%であることを特徴とする光拡散性高分子ゲル。
【請求項2】
前記有機系の非架橋ポリマーが、前記高分子ゲル100重量部中に、0.5〜20重量部含有されることを特徴とする請求項1に記載の光拡散性高分子ゲル。
【請求項3】
前記アクリル系液状ポリマーが、重量平均分子量が500〜50,000、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満である請求項1又は2に記載の光拡散性高分子ゲル。
【請求項4】
前記分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する疎水性のアクリル系重合性単量体が、分子内に重合性を有する炭素―炭素二重結合を1つ有する疎水性のアクリルアミド系重合性単量体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の光拡散性高分子ゲル。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1つに記載の光拡散性高分子ゲルと樹脂フィルムとを含む光拡散シート。

【公開番号】特開2012−203037(P2012−203037A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64793(P2011−64793)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】