説明

光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体

【課題】光拡散性と光透過性と熱伝導性とを兼ね備えた光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体を提供すること。
【解決手段】高分子組成物を主材とする液状のマトリクス材中に熱伝導性充填材を含有し、光拡散性と光透過性とを共に備える光拡散熱伝導性組成物について、マトリクス材の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率の差が絶対値で0.010〜0.025の範囲にあるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光拡散性と光透過性と熱伝導性とを兼ね備えた光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年バックライトや照明に対して、高輝度で且つ低消費電力であることへの要求が高まっており、光透過性や熱伝導率をより高くした光学材料が求められている。例えば液晶ディスプレイのバックライトや照明の光源などに用いる発光ダイオードにおいて特に高輝度タイプのものは、これら発光素子より発生した熱を効率的に逃がす放熱経路が必要である。通常輝度タイプは発生した熱をリードフレームや基板を通じて逃がす放熱経路を有しているが、高輝度タイプの放熱要求に応えるためにはこの放熱経路だけでは不十分である。新たな放熱経路として、バックライトの発光面や発光ダイオードのレンズ部側から熱を逃がすことが考えられる。
これに関連する技術として、例えば特開2010−170026号公報(特許文献1)には、バックライトに用いる光拡散性樹脂フィルムや、レンズ部に用いる光拡散性樹脂が開示されている。
また、特開2005−202361号公報(特許文献2)には熱伝導性に優れる光学材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−170026号公報
【特許文献2】特開2005−202361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特開2010−170026号公報(特許文献1)に記載の技術では、充填材を高充填した場合には、光透過性が低く好適な成形体を得ることはできなかった。また、特開2005−202361号公報(特許文献2)に記載の技術では、熱伝導率が高く透明なアルミナや酸化マグネシウムを充填しているが、高充填するに従って光透過率が低下してしまい、熱伝導性と透明性とを両立することが難しかった。
【0005】
一方、上述のような放熱部材は、拡散光の影響も考慮することが必要で、透明性が低くても光拡散性と光透過性に優れた材料であれば、高輝度で熱伝導性に優れた所期の目的を達成する放熱部材が得られるのではないかという知見が得られた。
そこで本発明は、光拡散性と光透過性と熱伝導性とを兼ね備えた光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく以下の構成を提供する。
高分子組成物を主材とする液状のマトリクス材中に熱伝導性充填材を含有し、光拡散性と光透過性とを共に備える光拡散熱伝導性組成物であって、前記マトリクス材の屈折率と前記熱伝導性充填材の屈折率の差が絶対値で0.010〜0.025の範囲にある関係を有するマトリクス材と熱伝導性充填材でなる光拡散熱伝導性組成物である。
【0007】
高分子組成物を主材とする液状のマトリクス材中に熱伝導性充填材を含有し、光拡散性と光透過性とを共に備える光拡散熱伝導性組成物について、前記マトリクス材の屈折率と前記熱伝導性充填材の屈折率の差が絶対値で0.010〜0.025の範囲にある関係を有するマトリクス材と熱伝導性充填材でなる光拡散熱伝導性組成物としたため、マトリクス材中で熱伝導性充填材が光を散乱して高い拡散性を得ることができる。また、後方散乱を抑制して光透過性も高くすることができる。そしてこの光拡散熱伝導性組成物で成形体を形成すれば、光透過性と光拡散性が高い光拡散熱伝導性成形体を得ることができる。
マトリクス材の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差の絶対値は0.010〜0.025であるが、0.010〜0.020であることがより好ましい。全光線透過率もヘイズ値も高く、光拡散性及び光透過性がより優れるからである。
【0008】
熱伝導性充填材の含有量が50体積%〜70体積%である光拡散熱伝導性組成物とすることができる。熱伝導性充填剤の含有量を50体積%〜70体積%と高充填しても、
マトリクス材と熱伝導性充填材との屈折率差の絶対値を0.010〜0.025としているため、高い拡散性と光透過性を維持することできる。そして、熱伝導性充填剤が50体積%〜70体積%と高充填されているため、熱伝導性が良く成形が容易な光拡散熱伝導性組成物を実現することができる。熱伝導性充填材が50体積%未満では、光拡散熱伝導性組成物による成形体の熱伝導性を高め難い。熱伝導性充填材が70体積%を超えると、光拡散熱伝導性組成物の粘度が上昇し、簡易な工程で成形し難くなるばかりでなく、粘度の上昇により気泡が混入し、光透過性を損ねてしまう恐れがある。より好ましい熱伝導性充填材の含有量は60体積%〜70体積%である。
【0009】
厚さ500μmで測定した全光線透過率およびヘイズ値が70%を超え100%未満である光拡散性と光透過性とを共に備える光拡散熱伝導性組成物を提供する。
厚さ500μmで測定した全光線透過率およびヘイズ値が70%を超え100%未満であるため、光拡散性と光透過性の両者に優れた光拡散熱伝導性組成物である。
特に所定温度Tにおいて、厚さ500μmで測定した全光線透過率およびヘイズ値が70%を超え100%未満とすれば、所定温度Tでの光拡散性と光透過性の両者に優れた光拡散熱伝導性組成物となる。
【0010】
25℃における10rpmでの粘度は、5000mPa・s〜300000mPa・sとすることができる。25℃における10rpmでの粘度が、5000mPa・s〜300000mPa・sとすれば、光拡散熱伝導性組成物を幅広い用途に適用することができる。例えば、シート状やフィルム状に容易に成形することができる。また発熱体を含む電子部品間の隙間に光拡散熱伝導性組成物を流し込んで成形することができ、入り組んだ隙間であってもその隙間を光拡散熱伝導性成形体で埋めることができる。また、光拡散熱伝導性成形体を発熱体に密着させることができ、熱伝導性能の高まりを期待することができる。粘度が5000mPa・s未満であると、加工性は良好であるが熱伝導性充填材の配合量が少なくなりがちで熱伝導性が低い傾向にあり、粘度が300000mPa・sを超えると、光拡散熱伝導性組成物が流動し難くなり、また製造も困難である。また、光拡散熱伝導性成形体を製造するときに気泡が混入して光透過性が損なわれるおそれがある。
【0011】
主材となる高分子組成物の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率の差を絶対値で0.010〜0.025にする屈折率調整剤を該マトリクス材に含有する光拡散熱伝導性組成物とすることができる。主材となる高分子組成物の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率の差を絶対値で0.010〜0.025にする屈折率調整剤を該マトリクス材に含有したため、主材となる高分子組成物の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差が絶対値で0.025を超えたり、0.010よりも小さいとしても、屈折率調整剤を含むマトリクス材としては、その差を絶対値で0.010〜0.025とすることができる。そのため、主材となる高分子組成物だけでは光拡散性や光透過性が悪い場合であっても屈折率調整剤の添加で光拡散性や光透過性を高くすることができる。
また、屈折率調整剤として低粘度の材料を用いれば、熱伝導性充填剤の充填量を高めやすく、屈折率調整剤として軟化剤として機能する材料を用いれば、光拡散熱伝導性組成物を柔軟にすることができ、熱伝導性を高めることができる。
【0012】
熱伝導性充填材の屈折率が等方性である光拡散熱伝導性組成物とすることができる。熱伝導性充填材の屈折率が等方性であるため、熱伝導性充填材の方向によらずマトリクス材の屈折率との差を0.010〜0.025に容易に調整することができ、500μmの厚さで測定した全光線透過率及びヘイズ値を70%を超え100%未満とすることができる。そのため、この光拡散熱伝導性組成物およびこれを用いて形成した光拡散熱伝導性成形体は、光透過性と光拡散性が高く、光学用途の熱伝導性部材として好適に用いることができる。
【0013】
そして、高分子組成物を主材とする液状のマトリクス材中に熱伝導性充填材を含有し所定温度T(℃)で光拡散性と光透過性とを共に備える光拡散熱伝導性組成物であって、所定温度Tにおいてマトリクス材の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差が絶対値で0.010〜0.025の範囲にあり、下記数式(1)
【数1】



(但し、数式(1)において、n’25:マトリクス材の25℃における屈折率の中心値、α:マトリクス材の線膨張係数、(dn/dT):熱伝導性充填材の屈折率温度係数、n25:熱伝導性充填材の25℃における屈折率、T:所定温度、をそれぞれ表す。)によって求められるマトリクス材の25℃における屈折率の中心値n’25とマトリクス材の25℃における実際の屈折率の差が絶対値で0.011〜0.025の範囲となる関係を有するマトリクス材と熱伝導性充填材でなる光拡散熱伝導性組成物である。
【0014】
マトリクス材の25℃における実際の屈折率と数式(1)により求められる25℃におけるマトリクス材の屈折率の中心値(以下、本明細書において単に「中心値」ともいう)との差の絶対値を0.011〜0.025としたため、所定温度Tにおいてマトリクス材の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差の絶対値を0.010〜0.025とすることができる。なぜなら、所定温度Tにおける熱伝導性充填材の屈折率と同じ値である所定温度Tにおけるマトリクス材の屈折率を基準として数式(1)により求めた25℃におけるマトリクス材の屈折率が屈折率の中心値n’25であるからである。よって、中心値n’25に対する差の絶対値が0.011〜0.025となる屈折率を有するマトリクス材であれば、中心値の値から数式(1)を逆算して所定温度Tにおける屈折率を求めると、所定温度Tでの熱伝導性充填材の屈折率との差の絶対値を0.010〜0.025とすることができる。
【0015】
そして、所定温度Tにおいてマトリクス材の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差の絶対値が0.010〜0.025であると、所定温度Tにおいてマトリクス材中で熱伝導性充填材によって光を適度に拡散することができ、所定温度Tで光拡散性と光透過性の高い光拡散熱伝導性組成物を得ることができる。ここで、所定温度Tを、発熱体が稼動している状態の温度とすれば、発熱体が稼動する温度において光拡散性と光透過性の高い光拡散熱伝導性組成物となる。そしてこの光拡散熱伝導性組成物で成形体を形成すれば、光拡散性と光透過性を維持することができ、光拡散性と光透過性の高い光拡散熱伝導性成形体を得ることができる。
マトリクス材の25℃における屈折率と数式(1)により求められる25℃における屈折率の中心値との差の絶対値は0.011〜0.025の範囲内であるが、0.011〜0.020であることがより好ましい。0.011〜0.020であれば全光線透とヘイズ値がともに高い光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体となるからである。
所定温度Tを、光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体を貼付する発熱体の発熱したときの温度、または発熱したと想定したときの想定温度である稼動温度Tとすれば、光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体が実際に用いられる際の温度、または実際に用いられる温度での光拡散性と光透過性を高くすることができる。即ち、発熱体が稼動している状態のときにマトリクス材中で熱伝導性充填材が光を散乱してヘイズ値を高めながら、後方散乱を抑制して全光線透過率を高めることができる光拡散熱伝導性組成物と光拡散熱伝導性成形体を得ることができる。
【0016】
マトリクス材の25℃における屈折率の中心値n'25は、マトリクス材の線膨張係数(α)と、熱伝導性充填材の屈折率温度係数((dn/dT))、熱伝導性充填材の25℃における屈折率が分かれば所定温度(T)の関数として表されるため、所望の温度(T)において光拡散性と光透過性の高い光拡散熱伝導性組成物を得ることができる。
また、この光拡散熱伝導性組成物を得るには、マトリクス材と熱伝導性充填材とを配合し混練と脱泡を行って製造することができるため、加圧や減圧などの煩雑な工程を繰り返す必要がない簡単な工程で製造することができる。
【0017】
前記所定温度Tを50℃〜140℃とすることができる。即ち、所定温度Tを50℃〜140℃の範囲内で設定した任意の温度において、光拡散性と光透過性の高い光拡散熱伝導性組成物を得ることができる。50℃より低い温度では、こうした低温で稼動する発熱体は放熱の必要がほとんどなく光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体を適用する必要が少ないからである。また、140℃を超える温度では、こうした高温まで発熱してしまう発熱体を冷却するには光拡散性と光透過性が劣っても熱伝導率の高い材料を用いる方が好ましく、この場合も光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体を適用する必要が少ないからである。
【0018】
また、所定温度Tで、主材となる高分子組成物の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率の差を絶対値で0.010〜0.025にする屈折率調整剤を該マトリクス材に含有する光拡散熱伝導性組成物とすることができる。屈折率調整剤を含むマトリクス材として、所定温度Tでの屈折率の差を絶対値で0.010〜0.025とすることができるため、所定温度Tで、主材となる高分子組成物だけでは光拡散性や光透過性が悪い場合であっても光拡散性や光透過性を高くすることができる。
【0019】
そしてこの光拡散熱伝導性組成物で成形体を形成すれば、光透過性と光拡散性が高い光拡散熱伝導性成形体を得ることができる。より好ましくは25℃におけるマトリクス材の屈折率の中心値と実際の屈折率との差の絶対値が0.011〜0.020である。
また、この光拡散熱伝導性組成物を得る際には、加圧や減圧などの煩雑な工程を繰り返す必要がなく、マトリクス材と熱伝導性充填材とを配合し混練と脱泡の簡単な工程にて製造することができる。
そして、この光拡散熱伝導組成物は、高い熱伝導性を有し、光透過性と光拡散性の高い固化体を得ることができ、光学用途の熱伝導性部材として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体によれば、光透過性と光拡散性及び熱伝導性が高い光拡散熱伝導性組成物を実現することができる。そしてこの光拡散熱伝導性成形体は、光学用途の熱伝導性部材として好適に用いることができる。
また、この光拡散熱伝導性組成物は、加圧や減圧などの煩雑な工程を繰り返して製造する必要がなく、マトリクス材と熱伝導性充填材とを配合し混練と脱泡を行う簡単な工程で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体を具体的な実施形態に基づいて説明する。なお、以下の説明において稼動温度Tとは、光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体を用いる発熱体の発熱したときの温度、または発熱したと想定したときの想定温度を示す。換言すれば、光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体が実際に用いられる際の温度、または実際に用いられる温度と想定される温度を示す。
【0022】
光拡散熱伝導性組成物
光拡散熱伝導性組成物は、高分子組成物を主材とした液状で透明性の高いマトリクス材中に熱伝導性充填材を含有している。
マトリクス材は、熱伝導性充填材を包含するバインダーの役割を果すものであり、液状で透明または半透明である。このマトリクス材は、主材となる高分子組成物を含んでいる。
マトリクス材の屈折率は、熱伝導性充填材の屈折率との差が絶対値で0.010〜0.025であることが要求されている。マトリクス材と熱伝導性充填材との屈折率差がその絶対値で0.010〜0.025とすれば、光拡散性と光透過性の高い光拡散熱伝導性組成物を実現することができる。そしてこの光拡散熱伝導性組成物で成形体を形成すれば、光拡散性と光透過性を維持することができ、光拡散性と光透過性が共に優れた光拡散熱伝導性成形体を得ることができる。
なお、光透過性が高いとは全光線透過率が高いことに、光拡散性が高いとはヘイズ値が高いことにそれぞれ置き換えて規定することができる。
絶対値の差が0.010未満であると、マトリクス材中を透過する光がマトリクス材と熱伝導性充填材の界面で散乱せず、光拡散性の低い透明な組成物となってしまう。一方、0.025を超えると、後方散乱が増えてしまい、光透過性が損なわれる。
【0023】
特に所定温度Tでマトリクス材の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差の絶対値の値を0.010〜0.025にするためには、25℃におけるマトリクス材の実際の屈折率を、以下に説明するマトリクス材の屈折率の中心値n'25に対してその差の絶対値を0.011〜0.025の範囲にすれば良い。以下、このマトリクス材の屈折率の中心値n'25について説明する。
【0024】
光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体は、電子機器の発熱体に貼付される放熱部材であるから室温より高い温度で用いられる。しかし、マトリクス材の屈折率温度係数と熱伝導性充填材の屈折率温度係数は異なるため、室温でのマトリクス材の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差の絶対値が0.011〜0.025の範囲であっても、稼動温度Tではマトリクス材と熱伝導性充填剤の屈折率に差が出てしまう。その結果、稼動温度Tでの光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体の光拡散性または光透過性が損なわれてしまう。稼動温度Tで光拡散性と光透過性を高くするためには、稼動温度Tでのマトリクス材の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率の差の絶対値を0.010〜0.025にする必要がある。
【0025】
熱伝導性充填材の稼動温度Tでの屈折率をn、25℃での屈折率をn25とすると、熱伝導性充填材の屈折率温度係数(dn/dT)は、次の数式(2)で表せる。
(dn/dT) =(nT−n25)/(T−25)・・・(2)
【0026】
これを変形すると、次の数式(3)となる。
=n25+(T−25)(dn/dT)・・・・・(3)
即ち、熱伝導性充填材の25℃における屈折率n25と屈折率温度係数(dn/dT)から稼動温度Tにおける熱伝導性充填材の屈折率nを計算することができる。
熱伝導性充填材の屈折率温度係数(dn/dT)は、温度調整機能の付属する屈折率測定装置(例えばSAIRON TECHNOLOGY社製の「プリズムカプラSPAシリーズ」)で測定することができる。例えばシリカでは(dn/dT)=10×10−6である。また、熱伝導性充填材の25℃における屈折率n25は、ベッケ法などの測定手法により測定することができる。例えばシリカではn25=1.4585である。
【0027】
一方、マトリクス材の屈折率温度係数(dn/dT)は、次の数式(4)で表すことができる。
(dn/dT)=(n'25−1)×(−3α)・・・・・(4)
ここで、αはマトリクス材の線膨張係数、n'25はマトリクス材の25℃での屈折率の中心値と定義するが、数式(4)はマトリクス材の屈折率温度係数(dn/dT)をマトリクス材の線膨張係数とマトリクス材の25℃の屈折率に基づいて求め得ることを示す。
【0028】
また、マトリクス材の屈折率温度係数(dn/dT)は、熱伝導性充填材の屈折率温度係数を表す数式(2)と同様に次の数式(5)で表すことができる。
(dn/dT)=(n−n25)/(T−25)・・・・(5)
【0029】
数式(4)と数式(5)から、次の数式(6)を導くことができる。
(n−n25)/(T−25)=(n'25−1)×(−3α)・・・(6)
数式(6)を変形すると次の数式(7)になる。
n'25={n−3α(T−25)}/{1−3α(T−25)}・・・(7)
【0030】
ここで、稼動温度Tでの熱伝導性充填材の屈折率nとマトリクス材の屈折率nの差が0となる場合を考える。即ち、n=nとして、数式(7)のnにnである数式(3)の右辺を代入すると、次の数式(1)を導くことができる。数式(1)で導かれる25℃におけるマトリクス材の屈折率の中心値n'25は稼動温度Tでマトリクス材と熱伝導性充填材の屈折率が等しくなるときのマトリクス材の25℃での屈折率ということもできる。
【数2】


【0031】
この数式(1)の中で、マトリクス材の線膨張係数αは熱機械分析装置などでその値を容易に測定することができる。例えば、シリコーンゴムでは290×10−6/℃程度である。
したがって、稼動温度Tで稼動する発熱体に用いるマトリクス材の中心値n’25とした値は、マトリクス材の線膨張係数α、熱伝導性充填剤の25℃における屈折率n25、熱伝導性充填剤の屈折率温度係数(dn/dT)から数式(1)を用いて計算で求めることができる。
そして、25℃におけるマトリクス材の実際の屈折率を、中心値n’25からの差が絶対値で0.011〜0.025の範囲とすることで、稼動温度Tにおけるマトリクス材の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差の絶対値を0.010〜0.025の範囲とすることができる。
【0032】
換言すると、数式(1)を用いることにより、稼動温度Tの下でマトリクス材と熱伝導性充填材の屈折率が等しくなる場合の25℃におけるマトリクス材の屈折率(25℃におけるマトリクス材の中心値n’25とした値)を求めることができ、中心値n’25の値からの差の絶対値が0.011〜0.025の範囲にある25℃での屈折率を有するマトリクス材を設定すれば、稼動温度Tの下でマトリクス材の屈折率を測定することなく稼動温度Tにおけるマトリクス材の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差の絶対値を0.010〜0.025の範囲とすることができるのである。よって、光拡散熱伝導性組成物を製造する場合に、25℃での屈折率がわかれば稼動温度Tの下でのマトリクス材の屈折率を測定する必要がなくなり、光拡散熱伝導性組成物の設計効率を大幅に高めることができる。
【0033】
液状のマトリクス材の主材となる高分子組成物には、液状樹脂材料のほか、樹脂前駆体も含んでも良いものとし、この樹脂前駆体には、反応して樹脂材料となるモノマーやオリゴマーが含まれる。さらに高分子組成物は熱伝導性充填材を多量に配合するため、液状で低粘度であることが好ましい。
また、このマトリクス材には、主材となる高分子組成物以外にこの高分子組成物との間で硬化反応に寄与する硬化剤や、架橋剤、反応開始剤、可塑剤、溶剤などの更なる添加材を含んでいても良い。また、後述する屈折率調整剤を含んでいても良い。
例えば、主材である高分子組成物の粘度が高い場合や成形後の成形体の硬度を小さくしたい場合に可塑剤を添加したり、主材となる高分子組成物を可溶な溶剤で希釈したりすることができる。こうした添加材は光拡散性と光透過性が高い方が好ましく、光拡散性と光透過性がマトリクス材に近いことが好ましい。
なお、上記添加材は、マトリクス材の25℃における屈折率の中心値との差の絶対値が0.010〜0.025となる範囲で添加されている必要がある。
【0034】
高分子組成物の材質としては、例えば、ビニル基を有する液状シリコーン、官能基を有する(メタ)アクリレート、2つ以上のエポキシ基を持つエポキシモノマーなどが挙げられる。また、硬化剤には、高分子組成物との間で硬化反応を起こす種々の硬化剤を用いることができる。例えば、Si−H基を有するシリコーン、無水フタル酸化合物などが挙げられる。硬化剤も透明または半透明の硬化剤を用いることが好ましい。
そして、紫外線や電子線などの活性エネルギー線による方法、熱をかけて熱重合させる方法など、またこれらを併用して、液状の高分子組成物を架橋、硬化させることができる。
【0035】
屈折率調整剤は、主材となる高分子組成物の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差が大きい際や小さい際に、マトリクス材の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差を絶対値で0.010〜0.025に調整するものである。
そして、光拡散熱伝導性組成物の調製時においては、25℃におけるマトリクス材の屈折率の中心値との差の絶対値が0.010未満である場合や0.025を超える場合に添加して、25℃におけるマトリクス材の実際の屈折率と屈折率の中心値の差が絶対値で0.011〜0.025の範囲にするものである。
【0036】
主材となる高分子組成物の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差が0.010〜0.025となるような材料の組合せは選択肢が少ないので、屈折率調整剤を用いれば、主材となる高分子組成物の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差が大きい組合せであっても小さい組合せであっても光拡散性と光透過性の高い光拡散熱伝導性組成物を実現することができる。
【0037】
このような屈折率調整剤は、高分子組成物と均質に混ざり合う必要がある。そして、主材となる高分子組成物の屈折率が熱伝導性充填材の屈折率より0.025を超えて大きい場合には、屈折率調整剤の屈折率が熱伝導性充填材の屈折率より小さいものを選定する。また、主材となる高分子組成物の屈折率が熱伝導性充填材の屈折率より0.025を超えて小さい場合には、屈折率調整剤の屈折率が熱伝導性充填材の屈折率より大きいものを選定する。
なお、屈折率調整剤は、高分子組成物と反応する官能基を持っていてもよい。また、硬化剤を屈折率調整剤として用いることもできる。
屈折率調整剤は、例えば、高分子組成物がシリコーン樹脂の場合にそのシリコーン樹脂とは別のシリコーン樹脂やシリコーンオイル等が挙げられる。
【0038】
以下に一例として、主材となる高分子組成物に液状シリコーン樹脂、熱伝導性充填剤にシリカ、そして屈折率調整剤を適用した光拡散熱伝導性組成物において、上記数式(1)を用いてマトリクス材の25℃における屈折率の中心値を求めてマトリクス材の屈折率を決定する例を示す。
稼動温度Tを100℃の発熱体に貼付するものとしてT=100とする。マトリクス材の線膨張係数α=290×10−6/℃(主材となる液状シリコーン樹脂の線膨張係数と略同一であるため主材となる高分子組成物である液状シリコーン樹脂の線膨張係数で代替)、熱伝導性充填剤の25℃における屈折率n25=1.4585、熱伝導性充填剤の屈折率温度係数(dn/dT)=10×10−6であるから、これを上記数式(1)に代入してマトリクス材の屈折率の中心値n'25を計算すると、1.4913となる。
そこで、液状シリコーン樹脂に屈折率調整剤としてシリコーンオイル等を添加して、25℃における実際のマトリクス材の屈折率を1.4913±0.011〜0.025に調整すれば、100℃で屈折率の差の絶対値が略0.010〜0.025の範囲となる光拡散性と光透過性が高い光拡散熱伝導性組成物が得られることになる。
【0039】
同様の計算を各温度に対して行うと、稼動温度が50℃のときは25℃での屈折率を1.4689±0.011〜0.025に、60℃のときは1.4733±0.011〜0.025に、70℃のときは1.4776±0.011〜0.025に、80℃のときは1.4821±0.011〜0.025に、90℃のときは1.4821±0.011〜0.025に、110℃のときは1.4960±0.011〜0.025に、120℃のときは1.5008±0.011〜0.025に、130℃のときは1.5058±0.011〜0.025に、140℃のときは1.5108±0.011〜0.025に、それぞれ調整すれば良い。
【0040】
熱伝導性充填材としては、無機物や有機物でなる充填材を用いることができる。なかでも熱伝導率が高いことから無機物充填材を用いることが好ましいが、光を透過しない金属製の無機物充填材を用いることは難しい。
熱伝導性充填材としての無機物充填材は、その25℃での屈折率が1.38〜1.65であることが好ましく、1.42〜1.60であることがより好ましい。25℃での屈折率が1.65より大きい無機物充填材や1.38より小さい無機物充填材を用いると、屈折率の差の絶対値を0.010〜0.025にするように調整できるマトリクス材がある程度決まってくるため、マトリクス材の選択範囲が狭まり、また光拡散熱伝導性組成物の調製が困難になる。25℃で屈折率1.42〜1.60の無機物充填材であれば、主材となる高分子組成物や屈折率調整剤の選択が容易になる。
【0041】
25℃で屈折率が1.42〜1.60である無機物充填材としては、水酸化アルミニウムや、水酸化マグネシウム、シリカなどが挙げられる。ここで、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムは、それらを熱伝導性成形体の熱伝導率値から推定して8W/m・K程度の熱伝導率を有すると予想されている。シリカは、結晶性のもので8W/m・K程度(結晶c軸方向で10.4W/m・K、c軸に垂直方向で6.2W/m・K)、非結晶性のものでは1.38W/m・Kの熱伝導率を有する。
【0042】
熱伝導性充填材の屈折率は、異方性が小さいほど好ましく、屈折率の異方性が無いこと、即ち、屈折率が等方性であることがより好ましい。熱伝導性充填材の屈折率が等方性であれば、熱伝導性充填材の方向によらずマトリクス材の屈折率との差を0.010〜0.025とすることができる。また、熱伝導性充填剤に屈折率の異方性がある場合には、屈折率の最大値と屈折率の最小値の両屈折率値から屈折率差が0.010〜0.025の範囲になるようにマトリクス材の屈折率を調整する。
熱伝導性充填材の形状は、略球状であることが好ましい。表面が滑らかでない破砕されたままの熱伝導性充填材を用いると、界面の気泡が抜けずに残ってしまい、光透過性を低下させるおそれがある。こうした観点から球状シリカの方が破砕状シリカに比べて好ましい。
【0043】
熱伝導性充填材の平均粒径は、1μm以上であることが好ましい。平均粒径が小さい熱伝導性充填材は比表面積が大きいため、平均粒径が大きい熱伝導性充填材と比較して得られる光拡散熱伝導性組成物の粘度が高くなり、熱伝導性充填材の高充填が困難になる。より好ましい熱伝導性充填材の平均粒径は4μm以上である。
また、熱伝導性充填材の最大粒子の粒径は15μm以下であることが好ましい。形状が略球状である充填材は、粗大粒子に気泡を含有していることが多いため、マトリクス材に配合した際に光透過性が低下するおそれがある。より好ましくは、10μm以下である。
【0044】
熱伝導性充填材の含有量は、光拡散熱伝導性組成物全体に対して50体積%〜70体積%であることが好ましい。熱伝導性充填材が50体積%未満では、光拡散熱伝導性組成物による成形体の熱伝導性を高め難い。熱伝導性充填材の含有量が70体積%を超えると、光拡散熱伝導性組成物の粘度が上昇し、また気泡が入り易くなって、光拡散熱伝導性組成物の製造が困難になるからである。また、熱伝導率を高める観点からは、熱伝導性充填材を60体積%〜70体積%含有することが好ましい。
【0045】
以上のような光拡散熱伝導性組成物の製造当初の粘度は、25℃で回転速度10rpmの条件において、5000mPa・s〜300000mPa・sであることが好ましい。粘度が5000mPa・s未満である場合、熱伝導性組成物が流れ易く加工性が悪く、また熱伝導性も高くなりにくい。粘度が300000mPa・sを超えると、光拡散熱伝導性組成物の流動性が劣り、攪拌し難く、脱泡し難いためにこの光拡散熱伝導性組成物から得られる光拡散熱伝導性成形体に気泡が入り易くなる。さらに光拡散熱伝導性成形体が硬く脆くなり易い。粘度が5000mPa・s〜300000mPa・sの範囲であれば、容易にシート状やフィルム状に成形することができ、また発熱体を含む電子部品間の隙間に光拡散熱伝導性組成物を流し込んで成形することもできるなど、光拡散熱伝導性組成物を幅広い用途に用いることができる。
【0046】
光拡散熱伝導性成形体
上記の光拡散熱伝導性組成物から形成される光拡散熱伝導性成形体は、稼動温度Tで厚さ500μmにおけるヘイズ値(曇価)が70%を超えるものであることが好ましい。ヘイズ値は、光拡散熱伝導性成形体の内部又は表面の不明瞭な曇り様の外観の度合いを意味し、ヘイズ値が高い程この曇り様の外観の度合いが強く表れており、光拡散性が高いことを示す。
一方、この光拡散熱伝導性成形体は、全光線透過率も70%を超える値を示すことが好ましい。全光線透過率が高いということは、光拡散熱伝導性成形体に入射した光のほとんどが、光拡散熱伝導性成形体を透過することを示し、光拡散熱伝導性成形体による光の吸収や後方散乱が少ないことを示す。ヘイズ値および全光線透過率が70%を越える光拡散熱伝導性成形体は、光拡散性と光透過性に優れ、光学用途の熱伝導性部材として好適に用いることができる。
【0047】
光拡散熱伝導性成形体の製造方法について説明する。
まず、マトリクス材と熱伝導性充填材とを混合して光拡散熱伝導性組成物を調製する。次に真空下で攪拌することにより脱泡する。そして、光拡散熱伝導性組成物を金型等に注入し固化させることで光拡散熱伝導性成形体を得る。
また、高分子組成物が溶剤に可溶な熱可塑性樹脂である場合には、熱可塑性樹脂を溶剤に溶かし、屈折率調整剤と熱伝導性充填材を添加して撹拌したのち、キャストしてシート状やフィルム状に成形することもできる。
さらにまた、ディスプレイの表面や照明の光源の表面に光拡散熱伝導性組成物を塗布したり、発熱体を含む電子部品等の隙間に光拡散熱伝導性組成物を流し込んだりした後、この光拡散熱伝導性組成物を硬化させて光拡散熱伝導性成形体を形成することができる。
【実施例】
【0048】
次に実験例から本発明を説明する。
[1.試料の調製] 本実験例では、マトリクス材に以下の液状シリコーンAを用い、熱伝導性充填材に以下の非晶性球状シリカを用いて、稼動温度Tを100℃としたときの上記数式(1)に基づいてマトリクス材の屈折率の中心値を計算した。そして、この屈折率の中心値の値に対する屈折率値の差が種々に変化するように、さらに屈折率調整剤を調整添加した以下に示す試料1〜試料5を作製した。
実験に用いた液状シリコーンAの硬化物の線膨張係数はα=290×10−6/℃であり、シリカの25℃における屈折率はn25=1.4585、非晶性球状シリカの屈折率温度係数は(dn/dT)=10×10−6である。これを数式(1)に代入するとマトリクス材の屈折率の中心値がn'25=1.4913と計算される。なお、液状シリコーンB、C、D、E、Fの硬化物についても線膨張率の値は略同じであったため、それらの混合物の最適屈折率も同じ値であるとした。
【0049】
試料1: 高分子組成物として液状シリコーンB(Gelest社製、商品名:PDV−1625)90.0重量部に、屈折率調整剤として液状シリコーンC(Gelest社製、商品名:HDP−111)4重量部と、液状シリコーンE(Gelest社製、商品名:DMS−H03)4重量部と、液状シリコーンF(Gelest社製、商品名:HQM−105)2重量部と、さらに硬化触媒(Gelest社製、商品名SIP6832.2)0.005重量部とを加えてマトリクス材を調製した。次にこのマトリクス材に、熱伝導性充填材として上記非晶性球状シリカ(株式会社龍森製、PLV−6、平均粒径4.3μm、屈折率1.4585)413重量部を加え、攪拌と真空脱泡を行い、光拡散熱伝導性組成物を調製した。なお、光拡散熱伝導性組成物において前記熱伝導性充填剤は66.7vol%である。
この光拡散熱伝導性組成物を樹脂フィルム上に塗布して、もう一枚の樹脂フィルムで挟み、気泡を生じないようにして一定の厚さとなるようにロールで延伸し、それを120℃の恒温槽で20分間放置して光拡散熱伝導性組成物を硬化させ、シート状の光拡散熱伝導性成形体を製造した。
一定の厚さとしては、全光線透過率及びヘイズ値の測定用試験片として500μmと、熱伝導率測定用の試験片として5mmと、の2種類とした。
こうして得た光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体を試料1とした。
【0050】
試料2: 高分子組成物として液状シリコーンA(主剤であるモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、商品名:XE5844(A))40重量部と、その硬化剤A(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、商品名:XE5844(B))40重量部の液状混合物80重量部と、屈折率調整剤として上記液状シリコーンB:18.2重量部と、上記液状シリコーンC:1.8重量部とを加えてマトリクス材を調製した。次にこのマトリクス材に、熱伝導性充填材として前記シリカを413重量部加え、攪拌と真空脱泡を行い、光拡散熱伝導性組成物を調製した。
この光拡散熱伝導性組成物を試料1と同様にして、光拡散熱伝導性成形体を製造した。こうして得られた光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体を試料2とした。
【0051】
試料3: 高分子組成物として上記液状シリコーンA:10重量部と、その上記硬化剤A:10重量部の液状混合物20重量部と、屈折率調整剤として上記液状シリコーンB:72.7重量部、上記液状シリコーンC:7.3重量部、さらに上記硬化触媒:0.004重量部とを加えてマトリクス材を調製した。次にこのマトリクス材に、熱伝導性充填材として上記シリカ:413重量部を加え、攪拌と真空脱泡を行い、光拡散熱伝導性組成物を調製した。
この光拡散熱伝導性組成物を試料1と同様にして、光拡散熱伝導性成形体を製造した。こうして得た光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体を試料3とした。
【0052】
試料4: 高分子組成物として上記液状シリコーンA:45重量部と、その上記硬化剤A:45重量部の液状混合物90重量部と、屈折率調整剤として液状シリコーンD(東レダウコーニング社製、商品名:OE−6520A)5重量部と、その硬化剤D(東レダウコーニング社製、商品名:OE−6520B)5重量部とを加えてマトリクス材を調製した。次にこのマトリクス材に、熱伝導性充填材として上記シリカを413重量部加え、攪拌と真空脱泡を行い、光拡散熱伝導性組成物を調製した。
この光拡散熱伝導性組成物を試料1と同様にして、光拡散熱伝導性成形体を製造した。こうして得た光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体を試料4とした。
【0053】
試料5: 高分子組成物として上記液状シリコーンA:25重量部と、その上記硬化剤A:25重量部の液状混合物50重量部と、屈折率調整剤として上記液状シリコーンB:45.5重量部、上記液状シリコーンC:4.5重量部、上記硬化触媒:0.0025重量部を加えマトリクス材を調製した。次にこのマトリクス材に、熱伝導性充填材として上記シリカ:413重量部を加えて、攪拌と真空脱泡を行い、光拡散熱伝導性組成物を調製した。
この光拡散熱伝導性組成物を試料1と同様にして、光拡散熱伝導性成形体を製造した。こうして得た光拡散熱伝導性組成物及び光拡散熱伝導性成形体を試料5とした。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
[2.試験方法] 試料1〜試料5について、光拡散熱伝導性組成物の「粘度」と、マトリクス材の「25℃での屈折率」、光拡散熱伝導性成形体の「温度Tでの全光線透過率」、「温度Tでのヘイズ値」、「熱伝導率」を測定した。その結果を表1及び表2に示す。
なお温度Tとは以下に示す全線透過率及びヘイズを測定する試験での測定温度である。
【0057】
粘度: 試料1〜試料5の光拡散熱伝導性組成物の回転速度10rpm、25℃での粘度を回転粘度計(ブルックフィールド社製、商品名:DV−E型、スピンドルNo.14)を用いて測定した。
25℃での屈折率: 熱伝導性充填材を添加する前の試料1〜試料5のマトリクス材を硬化させ、マトリクス材のみでなる成形体を製造した後、25℃での波長589nmにおける屈折率を屈折計(株式会社アタゴ製、アッベ屈折計DR−M2)を用いて測定した。
温度Tでの全光線透過率および温度Tでのヘイズ: 厚さ500μmの光拡散熱伝導性成形体である試料1〜試料5で全光線透過率及びヘイズ値測定用の試験片を作製した。そして、スガ試験機株式会社製TMダブルビーム方式ヘイズコンピューターHZ−2を用いて、発熱体の稼動温度を想定した36℃、65℃、88℃、100℃の中から選択した温度で全光線透過率及びヘイズ(曇価)を測定した。なお、上記温度条件を除いてJIS K7136記載の条件とした。
より具体的には、試料1から作製した65℃で測定する試験片を成形体A、試料2から作製した100℃で測定する試験片を成形体B、試料3から作製した100℃で測定する試験片を成形体C、試料1から作製した88℃で測定する試験片を成形体D、試料3から作製した36℃で測定する試験片を成形体E、試料4から作製した100℃で測定する試験片を成形体F、試料1から作製した100℃で測定する試験片を成形体G、
試料5から作製した36℃で測定する試験片を成形体H、試料4から作製した65℃で測定する試験片を成形体Iとして測定を行った。
熱伝導率: 光拡散熱伝導性組成物である試料1〜試料5から厚さ5mmの熱伝導率測定用の試験片を作製し、各試験片について、京都電子工業株式会社製迅速熱伝導率計QTM−500を用いて薄膜測定法にて熱伝導率を測定した。
【0058】
[3.試験結果]
成形体Aである光拡散熱伝導性成形体は、65℃におけるマトリクス材と熱伝導性充填剤の屈折率差の絶対値が0.0059と小さく、65℃において、高い全光線透過率と低いヘイズ値を有しており、かつ高い熱伝導率を示している。
成形体Bである光拡散熱伝導性成形体は、100℃におけるマトリクス材と熱伝導性充填剤の屈折率差の絶対値が0.0087と0.010より小さく、100℃において、高い全光線透過率と低いヘイズ値を有しており、かつ高い熱伝導率を示している。成形体Aと比較すると若干曇りが見られ、ヘイズ値が上昇している。
【0059】
成形体Cである光拡散熱伝導性成形体は、100℃におけるマトリクス材と熱伝導性充填剤の屈折率差の絶対値が0.0103であり、100℃において、高い全光線透過率と高いヘイズ値を有しており、かつ高い熱伝導率を示している。
成形体Dである光拡散熱伝導性成形体は、88℃におけるマトリクス材と熱伝導性充填剤の屈折率差の絶対値が0.0156であり、88℃において、高い全光線透過率と高いヘイズ値を有しており、かつ高い熱伝導率を示している。
成形体Eである光拡散熱伝導性成形体は、36℃におけるマトリクス材と熱伝導性充填剤の屈折率差の絶対値が0.0171であり、36℃において、高い全光線透過率と高いヘイズ値を有しており、かつ高い熱伝導率を示している。
【0060】
成形体Fである光拡散熱伝導性成形体は、100℃におけるマトリクス材と熱伝導性充填剤の屈折率差の絶対値が0.0182であり、100℃において、高い全光線透過率と高いヘイズ値を有しており、かつ高い熱伝導率を示している。
成形体Gである光拡散熱伝導性成形体は、100℃におけるマトリクス材と熱伝導性充填剤の屈折率差の絶対値が0.0206であり、100℃ににおいて、高い全光線透過率と高いヘイズ値を有しており、かつ高い熱伝導率を示している。成形体Fと比較して屈折差が少し大きいため、全光線透過率の値が74.9%と少し低くなっている。
【0061】
成形体Hである光拡散熱伝導性成形体は、36℃におけるマトリクス材と熱伝導性充填剤の屈折率差の絶対値が0.0261と0.0250より大きく、36℃において、高いヘイズ値を有しており、かつ高い熱伝導率を示しているが、全光線透過率が低い。
成形体Iである光拡散熱伝導性成形体は、65℃におけるマトリクス材と熱伝導性充填剤の屈折率差の絶対値が0.0341と大きく、65℃において、高いヘイズ値を有しており、かつ高い熱伝導率を示しているが、成形体Hよりもさらに全光線透過率が低い。
【0062】
以上より、成形体C〜成形体Gは、優れた光拡散性と光透過性を有しているが、成形体Aと成形体Bは光透過性は優れているがヘイズ値が低く光拡散性に劣っていた。また、成形体Hと成形体Iは、ヘイズ値が高く光拡散性に優れているが、全線透過率が低く光透過性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子組成物を主材とする液状のマトリクス材中に熱伝導性充填材を含有し、光拡散性と光透過性とを共に備える光拡散熱伝導性組成物であって、
前記マトリクス材の屈折率と前記熱伝導性充填材の屈折率の差が絶対値で0.010〜0.025の範囲にある関係を有するマトリクス材と熱伝導性充填材でなる光拡散熱伝導性組成物。
【請求項2】
熱伝導性充填材の含有量が50体積%〜70体積%である請求項1記載の光拡散熱伝導性組成物。
【請求項3】
厚さ500μmで測定した全光線透過率およびヘイズ値が70%を超え100%未満である光拡散性と光透過性とを共に備える請求項1または請求項2記載の光拡散熱伝導性組成物。
【請求項4】
主材となる高分子組成物の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率の差を絶対値で0.010〜0.025にする屈折率調整剤を該マトリクス材に含有する請求項1〜請求項3何れか1項記載の光拡散熱伝導性組成物。
【請求項5】
高分子組成物を主材とする液状のマトリクス材中に熱伝導性充填材を含有し所定温度T(℃)で光拡散性と光透過性とを共に備える光拡散熱伝導性組成物であって、
所定温度Tにおいてマトリクス材の屈折率と熱伝導性充填材の屈折率との差が絶対値で0.010〜0.025の範囲にあり、
下記数式(1)
【数1】



但し、数式(1)において、
n’25:マトリクス材の25℃における屈折率の中心値
α:マトリクス材の線膨張係数
(dn/dT):熱伝導性充填材の屈折率温度係数
25:熱伝導性充填材の25℃における屈折率
T:所定温度、をそれぞれ表す。
によって求められるマトリクス材の25℃における屈折率の中心値n’25とマトリクス材の25℃における実際の屈折率の差が絶対値で0.011〜0.025の範囲となる関係を有するマトリクス材と熱伝導性充填材でなる請求項1〜請求項4何れか1項記載の光拡散熱伝導性組成物。
【請求項6】
前記所定温度Tが、50℃〜140℃である請求項5記載の光拡散熱伝導性組成物。
【請求項7】
請求項1〜請求項6何れか1項記載の光拡散熱伝導性組成物の固化体である光拡散熱伝導性成形体。

【公開番号】特開2012−83548(P2012−83548A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229589(P2010−229589)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】