光改質用光学部材およびその製造方法、植物の育成方法、ならびに植物育成用装置
【課題】自然光を有効利用して植物の育成に適した光を供給できる植物の育成方法および植物育成資材に用いられる光改質用光学部材を提供すること。
【解決手段】光透過性フィルム2の表面2aに、半径0.5mm以上3mm以下の半球型の凸レンズ状突起3を配列して、植物育成フィルム1を形成する。各凸レンズ状突起3を、蛍光染料を0.02重量%以上1.0重量%以下の含有率で含有する樹脂素材により形成し、各凸レンズ状突起3の受光面(凸曲面3a)の出光面(平坦面3b)に対する面積比を140%以上にする。凸レンズ状突起3の形状、寸法、配置パターン、あるいは、凸レンズ状突起3を形成している蛍光染料の含有率などを適宜設定することにより、通常はR/B比が0.6程度である自然光を、植物育成フィルム1を通過させることによってR/B比が1.5〜5程度の改質光に改質する。
【解決手段】光透過性フィルム2の表面2aに、半径0.5mm以上3mm以下の半球型の凸レンズ状突起3を配列して、植物育成フィルム1を形成する。各凸レンズ状突起3を、蛍光染料を0.02重量%以上1.0重量%以下の含有率で含有する樹脂素材により形成し、各凸レンズ状突起3の受光面(凸曲面3a)の出光面(平坦面3b)に対する面積比を140%以上にする。凸レンズ状突起3の形状、寸法、配置パターン、あるいは、凸レンズ状突起3を形成している蛍光染料の含有率などを適宜設定することにより、通常はR/B比が0.6程度である自然光を、植物育成フィルム1を通過させることによってR/B比が1.5〜5程度の改質光に改質する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然光などの光を有効利用して植物の育成に適した光を供給するなどの各種用途に適用可能な光改質用光学部材およびその製造方法に関する。また、この光改質用光学部材を用いた植物の育成方法、ならびに植物育成用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の育成のために、寒冷紗や遮光ネットなどの各種の遮光用の資材を用いて自然光の光量を制御することが行われている。寒冷紗や遮光ネットは、有害な紫外線や熱線を遮蔽することができるが、その一方で、光合成や花芽分化等に必要な光も遮蔽してしまう。また、寒冷紗や遮光ネットは、日焼けや過度な温度上昇による育成障害を確実に防止するために、常に安全側の遮光量となるように利用されることが多い。そのため、植物の育成に有効な光が少なくなりがちな状態で植物が育成されることとなり、自然光を十分に有効に活用できない。また、遮蔽された光は熱として植物の近傍に放射されるので、この熱を冷却するエネルギーが別途必要になってしまう。
【0003】
植物の育成に関与する光環境について、R/B比(赤色光波長帯域に対する青色光波長帯域の光量子密度の比)を指標として評価することが行われている。R/B比は、下記に示す式(1)によって定義される値であり、植物の育成光のスペクトル分布と式(1)に基づいて算出される。
・・・・式(1)
Eλ:波長λにおける放射照度(W/m2)
h:プランク定数
νλ:周波数(Hz)
Na:アボガドロ数
【0004】
植物の育成に有効な光とは、成長の度合いにつれて光の成分の割合が異なっているが、R/B比がおおよそ2〜4の割合の光である。すなわち、植物の葉の光成分吸収実験によれば、植物の新芽は、紫外線は吸収せず、可視光はR/B比が4の割合で吸収する。これが、数ヶ月の幼芽になると、紫外線を若干吸収するようになり、可視光はR/B比が約2の割合で吸収するようになり、成熟葉の吸収に近くなる。成熟葉では、更に紫外線、近赤外線の吸収量が多くなる。一方、自然光のR/B比は0.6であり、圧倒的に青色光成分が多く、常に過剰な青色光、緑色光が含まれている。過剰な青色光、緑色光は光阻害の原因となるため、この過剰な青色光、緑色光を常に遮光できるように安全側の設定で寒冷紗や遮光ネットを設置すると、育成に有効な赤色光の供給量は必要量よりもかなり少なくなってしまう。
【0005】
特許文献1には、蛍光染料入りの繊維を用いた光合成ネットが記載されている。この光合成ネットは、自然光を植物育成に適するR/B比に改質することを目的とするものであり、この繊維に光が照射されると繊維内部で蛍光が励起され、励起された光が繊維表面から散乱されて植物に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−135583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、植物の育成に最も適した光のR/B比は2〜4の割合である。しかしながら、特許文献1の光合成ネットは、三重にして用いたとしても、改質後の光のR/B比は1.2未満にしかならない。したがって、特許文献1の光合成ネットは、植物の良好な育成のためには光改質効果が十分であるとはいえない。
【0008】
また、特許文献1の光合成ネットは1cm程度の隙間を持つ網目状に形成されているので、自然光の直射光成分がこの隙間を通過して植物に直達する。よって、露地栽培に適さない植物や直射日光に弱い植物に対して、直達光が供給されてしまい、光阻害による育成障害を十分に防止できないという問題点がある。
【0009】
一方、従来の寒冷紗や遮光ネットを用いる方法でも、育成環境の変化に応じて遮光量を適宜調整すれば、常に最も安全側の遮光量となるように設置しておく必要がなくなり、植物に対して育成に必要な光をより多く供給することができる可能性がある。しかしながら、遮光量を調整するには寒冷紗や遮光ネットを手操り上げたり再度張りなおす操作が必要となる。よって、遮光量の調整に多くの労力が必要となり、簡単に行うことができないという問題点がある。
【0010】
本発明の課題は、上記の問題点に鑑みて、自然光(太陽光、天空光など)を植物育成に最適なR/B比となるように改質して植物に供給できるようにして、光阻害を防止し、且つ、自然光の有効利用を図ることが可能な光改質用光学部材およびその製造方法、植物の育成方法、ならびに植物育成用装置を提案することにある。
【0011】
また、本発明の課題は、通気量の確保や光量調整を簡単に行うことが可能な光改質用光学部材、もしくは植物育成用装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の光改質用光学部材は、
一方の面が凸曲面であり、他方の面の少なくとも外周部分が平坦面である複数の突起状光学素子部位と、
フィルム状あるいは板状の透光性部位とを有し、
前記複数の突起状光学素子部位は、前記透光性部位の受光面または当該受光面と平行な同一平面に沿って、前記凸曲面が前記受光面と同じ側を向くように離散配置された状態で前記透光性部位に保持されており、
各突起状光学素子部位は、少なくとも前記凸曲面に沿った部分が蛍光染料を含有する樹脂素材により形成されていることを特徴としている。
【0013】
本発明は、このように、透光性部位の受光面あるいは受光面に平行な同一平面に沿って離散配置された複数の突起状光学素子部位を備えているので、自然光などの光をこれらの突起状光学素子部位を通過させた後に、植物に供給することができる。このとき、樹脂素材に含まれる蛍光染料により、突起状光学素子部位に入射した光を励起光として吸収して、吸収した光よりも波長が長い光を生成することができる。よって、受光面に入射した光を、入射前よりも長波長成分の割合が増大した光に改質することができる。
【0014】
また、本発明では、複数の突起状光学素子部位の凸曲面を受光面と同じ側に向けて透光性部位に保持させている。樹脂素材の表裏の面をいずれも平坦にすると、表面(受光面)から入射して蛍光染料によって改質された光が、出光面積の最も小さい面、すなわち厚さ方向に切断したときに形成される端面側から70%程度が出射されてしまい、裏面(出光面)側に出射されるのは15%程度となってしまう。よって、このような形状では、蛍光染料によって改質された光を効率良く利用することができない。これに対し、本発明では、蛍光染料を含有する樹脂素材を用いて形成された突起状光学素子部位の受光側の面を凸曲面状に形成したことにより、この面から入射した光を集光して他方の面から出射させ、あるいは、他方の面から凸曲面側に反射された光を凸曲面に沿って誘導して、他方の面の平坦面部分から選択的に出射させることができる。よって、改質した光を高い効率で利用することができ、自然光のエネルギーを有効に利用することができる。
【0015】
このとき、前記蛍光染料が、紫外線から緑色光までの波長領域の少なくとも一部分の光を吸収して、当該吸収した光よりも波長が長い青色光から赤色光までの波長領域の少なくとも一部分の光を生成するものであることが望ましい。このようにすれば、各突起状光学素子部位は、受光面に入射する光を、よりR/B比(赤色光波長帯域に対する青色光波長帯域の光量子密度の比)が大きい光に改質できる。すなわち、光阻害の阻害作用が強く自然光に過剰に含まれている波長成分を吸収し、植物の育成に必要で、自然光には不足がちな波長成分を生成することができる。従って、自然光に含まれる成分のうち、植物の育成に不要あるいは過剰とされている成分を植物の育成に有効に利用でき、かつ、光阻害による育成障害を抑制できる。
【0016】
特に、本発明では、突起状光学素子部位を、前記凸曲面から自然光が入射した場合における前記他方の面からの出射光のR/B比が、1.5から5.0までの範囲内の値となるように形成することが望ましい。このようにすれば、自然光などの光を植物の育成に最も望ましいR/B比の光に改質して供給できる。
【0017】
本発明において、各突起状光学素子部位は、その内部において前記蛍光染料によって生成された蛍光の放射量のうち所定の割合以上を、前記平坦面から出光させるように形成されていることが望ましい。このように、生成した蛍光の平坦面からの出光比率に着目して、この出光比率が低くならないように突起状光学素子部位を形成することにより、生成された蛍光を有効利用して所望のR/B比の改質光を得ることができる。
【0018】
このとき、前記他方の面全体を平坦面としたときの当該平坦面に対する前記凸曲面の面積比が140%以上となるように各突起状光学素子部位を形成することが望ましい。本願出願人は、本発明の構成において、受光面の出光面に対する面積比に着目して光学素子形状およびその配置を検討し、光の改質効果を検討した結果、受光面(凸曲面)の出光面(平坦面)に対する面積比が増加するにつれて出射される光のR/B比が上昇し、面積比を140%以上にすれば、R/B比を1.5以上にすることができるという知見を得た。よって、本発明の構成により、自然光を、植物の育成にとって実用上十分有効なR/B比の光に改質することができる。
【0019】
また、各突起状光学素子部位を、前記凸曲面が前記受光面から突出している状態で保持させ、前記受光面と前記凸曲面との接触位置において、前記受光面に対して前記凸曲面が50度以上90度以下の範囲内の角度で接触していることが望ましい。このようにすると、突起状光学素子部位内で発生した蛍光のうち、凸曲面に沿って誘導された成分が、透光性部位の受光面に、90度を中心とする所定の角度範囲内の入射角度で入射するので、透光性部位の内面で全反射されずに出光面から出射する蛍光の比率が大きくなる。よって、生成された蛍光を逃がさずに有効利用することができ、自然光をよりR/B比の大きい光に改質できる。
【0020】
ここで、前記樹脂素材からなる蛍光樹脂層を、少なくとも各突起状光学素子部位の半径の1/5以上の厚さで前記凸曲面に沿って形成するとよい。凸曲面から入射する光を改質して平坦面から出光させる場合には、凸曲面に近い表面層の部分で生成される蛍光の利用率が高い。よって、凸曲面に近い表面層の部分に蛍光樹脂層を設けることにより、蛍光樹脂を光改質材として有効に機能させることができる。
【0021】
また、前記樹脂素材における蛍光染料の含有量を、0.02重量%以上1.0重量%以下に設定することが望ましい。本願出願人は、樹脂素材における蛍光染料の配合を検討して、光の改質効果を検討した。その結果、このような含有量の範囲が、自然光をよりR/B比の大きい光に改質でき、且つ、改質した光を高い効率で利用できる最適な設定であることを確認している。よって、このような構成により、自然光を高い効率で利用することができる。
【0022】
本発明において、前記突起状光学素子部位の径寸法を0.5mm以上3mm以下にすることが望ましい。また、突起状光学素子部位の寸法に応じて蛍光染料の含有量(濃度)の最適な範囲が異なっていることを考慮して、以下の(1)(2)のいずれかの条件を満たすように前記突起状光学素子部位が形成されていることが望ましい。
(1)各突起状光学素子部位の径寸法が0.5mmであり、且つ、前記樹脂素材における蛍光染料の含有量が0.3重量%以上1.0重量%以下であること
(2)各突起状光学素子部位の径寸法が1.0mmまたは2.0mmであり、且つ、前記樹脂素材における蛍光染料の含有量が0.02重量%以上0.2重量%以下であること
【0023】
このとき、前記凸曲面は半球面であることが望ましい。また、各突起状光学素子部位と隣接する突起状光学素子部位の間隔をDとし、各突起状光学素子部位の半径をRとしたときに、以下の(1)〜(3)のいずれかの条件を満たすように前記突起状光学素子部位が配置されていることが望ましい。
(1)前記突起状光学素子部位が格子状に配置され、且つ、D≦Rであること
(2)前記突起状光学素子部位が面心格子状に配置され、且つ、D≦2Rであること
(3)前記突起状光学素子部位が六方晶細密充填構造状に配置され、且つ、D≦3Rであること
【0024】
本願出願人は、突起状光学素子部位の形状、寸法、配置、蛍光染料の含有量などに着目して光の改質効果を検討した。その結果、このような形状、寸法、配置、および含有量の設定が、自然光をよりR/B比の大きい光に改質でき、且つ、改質した光を高い効率で利用できる最適な設定であることを確認している。よって、このような構成により、自然光を高い効率で利用することができる。
【0025】
本発明において、前記突起状光学素子部位の隙間の少なくとも一部に遮光材を設けてもよい。このようにすれば、過剰な光を遮蔽して光阻害を確実に防止しつつ、遮光しない部分から入射した光については植物の育成に適した光に改質することができる。なお、遮光材に代えて反射材や光散乱材を設ければ、入射する光を遮蔽しつつ、反射あるいは散乱された光の少なくとも一部を集光用の凸曲面に誘導して、効率良く光を改質することができる。あるいは、前記突起状光学素子部位の内部に反射材または光散乱材を埋め込んでもよい。このようにすれば、入射した自然光を凸曲面の内部で効率よく散乱させて効率良く蛍光励起させることができる。
【0026】
また、本発明において、前記透光性部位における前記突起状光学素子部位の隙間に通気孔を形成してもよい。このようにすれば、通気を行って温度環境などの育成環境を良好にすることができ、光放射などによる植物の周囲の温度上昇を防止できる。
【0027】
ここで、本発明において、前記透光性部位の一方の面に、複数の窪みを離散配置して形成しておき、各窪みに前記突起状光学素子部位を埋め込む構成にすることもできる。このようにすれば、各突起状光学素子部位の平坦面と、透光性部位の出光面とを面一にすることができ、受光面と出光面に凹凸のない植物育成資材を形成することが可能である。
【0028】
次に、本発明の植物の育成方法は、
上記の光改質用光学部材を用意し、
育成対象の植物に供給される光が、各突起状光学素子部位の前記凸曲面から入射して前記平坦面から出射した後、前記植物に到達するように前記光改質用光学部材を設置して、前記植物を育成することを特徴としている。
【0029】
また、本発明の植物育成用装置は、
複数の可動板と、
当該複数の可動板の角度を連動させて調整するための角度調整機構とを有し、
前記複数の可動板の少なくとも一部が、上記の光改質用光学部材により形成されていることを特徴としている。
【0030】
このような構成により、通気量、光改質量、あるいは遮光量を必要に応じて適宜簡単に調整できる植物育成用装置が得られる。
【0031】
次に、本発明の光改質用光学部材の製造方法は、硬化型樹脂に蛍光染料および溶剤を配合した樹脂溶液を、複数の凸曲面を平面上に所定間隔で並べた凹凸パターンの反転形状を有する金型内に導入し、前記樹脂溶液を硬化させつつフィルム状あるいは板状の透光性部位の表面に転写することを特徴としている。そして、この方法において、前記硬化型樹脂として、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂を用意し、当該エポキシ樹脂または当該アクリル樹脂に蛍光染料および溶剤を配合した前記樹脂溶液を、紫外線硬化あるいは熱硬化させつつ前記透光性部位の表面に転写することができる。
【0032】
本発明におけるもう一つの光改質用光学部材の製造方法は、蛍光染料を含有するフィルム状あるいは板状の熱可塑性樹脂材を加熱金型により変形させることにより、当該熱可塑性樹脂材の表面に複数の凸曲面を平面上に所定間隔で並べた凹凸パターンを転写して、上記の光改質用光学部材を形成することを特徴としている。そして、この方法において、フィルム状あるいは板状の前記透光性部位の表面に、前記フィルム状あるいは板状の前記熱可塑性樹脂材を設けた積層体を用意し、当該積層体における前記蛍光染料を含有する前記熱可塑性樹脂材の層を、前記加熱金型により変形させるようにすることができる。
【0033】
また、本発明における別の光改質用光学部材の製造方法は、フィルム状あるいは板状の透光性部位の表面に、複数の窪みを所定間隔で形成しておき、各窪みに、蛍光染料を配合した樹脂素材を充填して表面を平坦に形成し、前記樹脂素材を硬化させることにより、上記の光改質用光学部材を形成することを特徴としている。
【0034】
更に、本発明における別の光改質用光学部材の製造方法は、フィルム状あるいは板状の前記透光性部位の表面に複数の突起あるいは複数の窪みを所定間隔で形成しておき、各突起の表面、もしくは各窪みの内面に、蛍光染料を配合した樹脂素材の層を印刷により形成して、上記の光改質用光学部材を形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、透光性部位に保持されている複数の突起状光学素子部位が、この突起状光学素子部位を形成している樹脂素材に含まれる蛍光染料により、入射した光を励起光として吸収して、吸収した光よりも波長が長い光を生成する。よって、受光面に入射した光を、入射前よりも長波長成分の割合が増大した光に改質することができる。
【0036】
また、本発明では、蛍光染料を含有する樹脂素材を用いて形成された突起状光学素子部位の受光側の面を凸曲面状に形成したことにより、この面から入射した光を集光して他方の面から出射させ、あるいは、他方の面から凸曲面側に反射されてきた光を凸曲面に沿って誘導して、他方の面の平坦面部分から選択的に出射させることができる。よって、改質した光を高い効率で利用することができ、自然光のエネルギーを有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態1の植物育成フィルムの平面図および断面図である。
【図2】凸レンズ状突起の配列パターンの説明図である。
【図3】植物育成フィルムの設置形態の説明図である。
【図4】受光面の出光面に対する面積比と、改質光のR/B比との関係を示すグラフである。
【図5】蛍光染料の含有率と、緑色光の吸収率および赤色光の透過率との関係を示すグラフである。
【図6】半球型の凸レンズ状突起(直径0.5mm)における蛍光染料濃度とR/B比との関係を示すグラフである。
【図7】凸レンズ状突起間の間隔および凸レンズ状突起の半径と、面積率との関係を示すグラフである。
【図8】晴天日における改質光のスペクトル分布図である。
【図9】曇天日における改質光のスペクトル分布図である。
【図10】実施形態2の植物育成フィルムの平面図および断面図である。
【図11】改変例1の植物育成フィルムの平面図および断面図である。
【図12】改変例2の植物育成フィルムの平面図および断面図である。
【図13】改変例3の植物育成フィルムの平面図である。
【図14】光透過性フィルムの表面に対する凸曲面の接触角度の説明図である。
【図15】改変例6の植物育成フィルムの断面図である。
【図16】改変例7の植物育成フィルムの断面図である。
【図17】植物育成フィルムを用いたブラインドの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を適用した植物育成方法および植物育成資材の実施の形態について説明する。
【0039】
(実施形態1)
図1(a)は実施形態1の植物育成フィルム(光改質用光学部材)の平面図であり、図1(b)はその断面図である。植物育成フィルム1は、可撓性の光透過性フィルム2(透光性部位)と、光透過性フィルム2の一方の表面2a(受光面)に沿って一定間隔で配列された多数の凸レンズ状突起3(突起状光学素子部位)を有している。光透過性フィルム2は、ポリエチレンテレフタレートなどの透明な樹脂素材を一定の厚さのフィルム状に成形したものである。なお、可撓性のフィルム材に代えて透明樹脂板や硝子板などの板材を用いて、その表面に凸レンズ状突起3を配列した構成にしてもよい。この場合には、剛性のある板状の光改質用光学部材が形成される。
【0040】
各凸レンズ状突起3は、その上部表面がほぼ半球形の凸曲面3aとなっており、その底部が円形の平坦面3bとなっている。各凸レンズ状突起3は、平坦面3bを光透過性フィルム2の表面2aに密着させ、各凸レンズ状突起3の中心軸が光透過性フィルム2の表面2aに対して垂直になるように取り付けられている。また、凸曲面3aの形状は、その面積が、平坦面3bの面積に対して140%以上の面積比となるように設定されている。
【0041】
各凸レンズ状突起3を形成している樹脂素材は、透明樹脂に、蛍光染料を0.02重量%以上1.0重量%以下の範囲内の所定の含有率となるように配合したものである。透明樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂、あるいは、紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂などの硬化型樹脂を用いることができる。紫外線硬化型樹脂としては、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどの樹脂を用いることができる。また、加熱成形樹脂としては、ビニル系、ポリエステル系、アクリル、PC(ポリカーボネート)系、AS(アクリロニトリルスチレン)系、PS(ポリスチレン)系、ウレタン系、ポリオレフィン系、エポキシ系、アルキッド系などの樹脂を用いることができる。
【0042】
この蛍光染料は、紫外線から緑色光までの波長領域の光を吸収し、これらの波長の光を励起光として、より波長が長い光、すなわち、青色光から赤色光までの波長領域の光を生成するものである。このような構成では、凸レンズ状突起3に入射する自然光は、凸レンズ状突起3内を通過する際に紫外線から緑色光までの波長成分が減少して、青色光から赤色光までの波長成分が増大する。すなわち、凸レンズ状突起3に入射する自然光は、凸レンズ状突起3内を通過する際にその波長成分の比率が変化し、R/B比(赤色光波長帯域に対する青色光波長帯域の光量子密度の比)が増大した改質光となって凸レンズ状突起3から出射される。
【0043】
凸レンズ状突起3の半径Rは0.5mm〜3.0mmであり、その配列パターンは、例えば、図2(a)〜(c)に示す配列パターンが用いられる。図2(a)は、光透過性フィルム2の表面に沿って格子状(正方格子の各格子点)に凸レンズ状突起3を並べたものであり、図2(b)は、面心格子状(正方格子の各格子点および格子の中心点)に凸レンズ状突起3を並べた配列である。また、図2(c)は、六方晶細密充填構造状(正三角形格子の各格子点)に凸レンズ状突起3を並べた配列である。本実施形態では、各凸レンズ状突起3と隣接する凸レンズ状突起3との間の間隔Dを、各配列パターンに応じて設定している。すなわち、図2(a)の配列ではD≦Rとなるように設定し、図2(b)の配列ではD≦2Rとなるように設定し、図2(c)の配列ではD≦3Rとなるように設定している。このように設定した理由は後述する。
【0044】
植物育成フィルム1は、凸レンズ状突起3が配列されている光透過性フィルム2の表面2aに外部からの自然光が入射するように設置され、光透過性フィルム2のもう一方の表面2b側から出射した光が育成対象の植物に供給されるように設置される。これにより、各凸レンズ状突起3内を通過する際にR/B比が増大して自然光が改質光となり、この改質光が光透過性フィルム2を通過して植物に供給される。このように、植物育成フィルム1は、自然光中の過剰な青色光や緑色光を吸収して植物の育成に有効な赤色光を生成して供給できるので、光阻害を防止しつつ、自然光を植物の育成に有効利用することができる。自然光の有効利用により、コスト削減を図るとともに、炭酸ガスの発生量削減を図ることができるので、地球温暖化対策にも有効である。
【0045】
図3(a)〜(e)は植物育成フィルム1の設置形態の説明図である。図3(a)(b)はビニールハウスやガラスハウスなどの植物育成施設4の天井面4aに植物育成フィルム1を張った設置形態であり、図3(c)(d)は植物育成施設4の外壁の天井部分4bの内側に植物育成フィルム1を張った設置形態である。また、図3(e)は、自然光を有効に取り入れるため、植物育成施設4の天井面4aと外壁の西側側面4c、南側側面4dに植物育成フィルムを張った形態である。なお、上述したように光改質用光学部材自体を剛性のある板状に形成した場合、この光改質用光学部材は光改質機能を有する一体型の資材となり、そのまま天井材や壁材として用いることができる。よって、植物育成施設や植物育成装置における構成の簡素化、部材数の削減、コスト削減などを図ることができる。
【0046】
植物育成フィルム1を通過した光のR/B比は、凸レンズ状突起3の形状、寸法、配置パターン、あるいは、凸レンズ状突起3を形成している蛍光染料の含有率(蛍光染料濃度)などに応じて決まる。そこで、これらのパラメータを適宜設定することにより、目標とするR/B比の光が得られるように、植物育成フィルム1を構成することが可能である。本実施形態では、通常はR/B比が0.6程度である自然光が、植物育成フィルム1を通過したことにより、1.5〜5程度のR/B比の光に改質されるように、植物育成フィルム1を構成している。植物の種類によって、また生育期によっても異なるが、1.5〜5程度のR/B比の光であれば、植物の育成にとって実用上十分適した光となる。また、植物の育成にとって最適な環境にするためには、R/B比を2〜4の範囲にすることが望ましい。
【0047】
なお、本実施形態では、凸レンズ状突起3を全て等形状および等寸法にしているが、異なる寸法や形状の凸レンズ状突起3を混在させることにより、光改質効果や、得られる改質光の光量などを異ならせることも可能である。例えば、時刻や季節による自然光の入射方向、入射強度、および波長成分の変化を考慮して、植物育成施設の壁面や天井面における凸レンズ状突起3の分布を決定すれば、時刻や季節に応じて、光改質効果や、得られる改質光の光量などを異ならせることが可能である。
【0048】
ここで、本願出願人が検討した凸レンズ状突起3の形状に関するパラメータのうち、受光面の出光面に対する面積比、すなわち、凸曲面3aの平坦面3bに対する面積比の設定について説明する。凸レンズ状突起3の凸曲面3aは、その凸形状により、植物育成フィルム1に向かって照射してくる各方位からの光を平坦面よりも多く受光することができ、外部の光を効率的に取り込むことができる。また、受光した光を凸曲面形状によって集光することができ、あるいは、凸レンズ状突起3内で反射あるいは放射された光を凸曲面3aの内面に沿って反射させつつ平坦面3bに向けて誘導して、平坦面3bから出射させることができる。このように、受光面側を凸曲面にした構成では、均一な厚さの蛍光樹脂フィルムを通過させる場合に比べて、平坦面3b側への改質光の出光量を増大させることができる。よって、植物育成フィルム1に入射する光を効率よく植物の育成に利用することができる。また、凸レンズ状突起3内での光の散乱によって改質効果を高めることができると共に、改質された光を平坦面3bから拡散させて出射することができるので、植物への光の当たりむらを少なくすることができる。
【0049】
図4は、凸レンズ状突起3における凸曲面3a(受光面)の平坦面3b(出光面)に対する面積比と、改質光のR/B比との関係を示すグラフである。なお、このグラフは、蛍光染料の含有率を0.02重量%とし、凸レンズ状突起3の直径を2mmとした場合の計算結果である。この図に示すように、受光面の出光面に対する面積比、すなわち、凸曲面3aの平坦面3bに対する面積比が増大するにつれて、改質光のR/B比が増大している。そして、面積比がほぼ140%のときに、改質光のR/B比が1.5に到達している。本実施形態では、このような計算結果をふまえて、凸曲面3aの平坦面3bに対する面積比を140%以上とするように、凸レンズ状突起3の形状を設定している。なお、図4によれば、面積比を200%以上とすればR/B比は2.5に近い値となるので、植物育成により適した光を供給することができる。
【0050】
次に、凸レンズ状突起3における蛍光染料の含有率(蛍光染料濃度)の設定について説明する。図5は、直径1mmの半球形の凸レンズ状突起3における蛍光染料の含有率(蛍光染料濃度)と、この凸レンズ状突起3における緑色光の吸収率および赤色光の透過率との関係を示すグラフである。この図によれば、蛍光染料濃度が0.2重量%程度になるまでは緑色光の吸収率が増大している。また、蛍光染料濃度が0.1重量%を超えるあたりから、赤色光の透過率が低下している。同様に、直径2mmの半球形の凸レンズ状突起3については、0.02重量%程度まで濃度を低下させてもそれほど緑色光の吸収率が変わらないことを確認した。
【0051】
図6は、直径0.5mmの半球型の凸レンズ状突起3における蛍光染料の含有率(蛍光染料濃度)と、R/B比との相関関係を示すグラフである。図6において、蛍光染料濃度0.1%から1.0%までのデータに基づく近似直線を破線で示す。このグラフでは、蛍光染料濃度が概ね0.3重量%以上のときにR/B比が1.5以上となっている。よって、直径が0.5mmの場合には、蛍光染料濃度が0.3重量%から1.0重量%の範囲でR/B比が1.5以上となり、この範囲でR/B比の増大効果があることを確認できる。なお、このグラフには1.0重量%よりも蛍光染料濃度が大きい場合のデータを示していないが、製造の容易さなどを考慮すると、蛍光染料濃度の上限を1.0重量%程度にしておくのが望ましい。また、同様に、凸レンズ状突起3の直径を1.0mm、2.0mm、3.0mmの場合について、蛍光染料濃度とR/B比との相関関係とを検証した結果、R/B比が植物の育成に適した値となる蛍光染料濃度の範囲は、表1に示すような範囲であることを確認した。
【0052】
【表1】
【0053】
このように、蛍光染料の含有率については、凸レンズ状突起3の寸法や形状にもよるが、R/B比の増大効果が高い最適な含有率の範囲を設定することが可能である。本願出願人は、凸レンズ状突起3の半径を0.5mm以上3mm以下とした場合の最適な蛍光染料の含有率を検討し、その結果、目標とするR/B比が1.5以上5以内である場合には、凸レンズ状突起3の寸法や形状にもよるものの、蛍光染料の含有率を0.02重量%以上1.0重量%以下の範囲内にするのが望ましいという知見を得ている。また、0.02重量%以上1.0重量%以下の濃度範囲内においては、凸レンズ状突起3の寸法が小さい場合には、寸法が大きい場合よりも、蛍光染料の含有量をより多くするのが望ましいという知見を得ている。具体的には、上記のような透過率や吸収率の特性などを考慮すれば、凸レンズ状突起3が直径1mm程度あるいは直径2mm程度の場合には、蛍光染料の最適濃度範囲を、0.02重量%以上0.2重量%以下の範囲とするのが望ましい。また、凸レンズ状突起3が直径0.5mm程度の場合には、蛍光染料の最適濃度範囲を0.3重量%以上1.0重量%以下とするのが望ましい。
【0054】
続いて、凸レンズ状突起3の配置間隔の設定について説明する。図7は、図2(a)〜(c)の各配置パターンにおいて、隣接する凸レンズ状突起3間の間隔Dと、凸レンズ状突起3の半径Rとの比率(D/R)を変数とした場合に、凸レンズ状突起3の配置部分の全体面積に対する面積率がどのように変動するかを示すグラフである。この図によれば、凸レンズ状突起3の配置部分の面積率を25%以上にするためには、図2(a)〜(c)の各配置パターンにおいて、それぞれ、図2(a)の配列ではD≦R、図2(b)の配列ではD≦2R、図2(c)の配列ではD≦3Rとなるように、凸レンズ状突起3の半径Rと間隔Dとの関係を設定しておくのが望ましい。例えば、図2(a)の配列では、凸レンズ状突起3の半径を0.5mm以上3mm以下にした場合には、間隔Dについても0.5mm以上3mm以下の範囲内にするのが望ましい。
【0055】
(製造方法)
次に、植物育成フィルム1の製造方法について説明する。植物育成フィルム1は、蛍光染料を配合した硬化型樹脂に溶剤を配合して樹脂溶液とし、これを金型中で凸レンズ状突起3の配列形状に成形しつつ、フィルム状あるいは板状の透光性部位の表面に転写する方法により製造できる。
【0056】
あるいは、蛍光染料を含有した熱可塑性樹脂フィルムに、透明なフィルム材あるいは透明板を積層した2層構造のフィルム材あるいは板材を用意する。そして、このフィルム材あるいは板材を加熱金型内に入れて、凸レンズ状突起3の配列形状が形成されている型面により、蛍光染料を含有している熱可塑性樹脂フィルム層に凸レンズ状突起3の配列形状を転写して、植物育成フィルム1を製造することもできる。この方法では、凸レンズ状突起3間の隙間に蛍光樹脂層が残ってしまうため、凸レンズ状突起3の隙間に残る蛍光樹脂層の厚さを可能な限り薄くするように、元の蛍光樹脂層の厚さを設定しておくことが望ましい。凸レンズ状突起3の隙間に残る蛍光樹脂層を極力薄くすることにより、より効率良く光を改質することができ、自然光の利用効率を高めることができる。
【0057】
(試作品)
次に、植物育成フィルム1の試作品の製造方法およびその光学特性について説明する。
【0058】
(1)アクリル系樹脂タイプ
アクリルウレタン紫外線硬化型樹脂に、BASFアクチェンゲゼルシャフト社製の蛍光染料(Lumogen Fシリーズ/Red305)を、0.02重量%の含有率となるように配合し、更に溶剤を配合して樹脂溶液としたものを、アルミ板に直径2mmの大きさの半球状の凹部をピッチ0.5mmで一面に掘り込んだ型面を有する金型内に均等に流し込み、その上からPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを被せた後、紫外線を照射して硬化させる。硬化後、PETフィルムごと型面から外して、表面に微細な凸レンズ状突起3の配列が転写された光透過性の植物育成フィルム1を作製した。
【0059】
(2)エポキシ系樹脂タイプ
エポキシアクリレート紫外線硬化型樹脂に、BASFアクチェンゲゼルシャフト社製の蛍光染料(Lumogen Fシリーズ/Red305)を、0.02重量%の含有率となるように配合し、更に溶剤を配合して樹脂溶液としたものを、アルミ板に直径2mmの大きさの半球状の凹部をピッチ0.5mmで一面に掘り込んだ型面を有する金型内に均等に流し込み、その上からPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを被せた後、紫外線を照射して硬化させる。硬化後、PETフィルムごと型面から外して、表面に微細な凸レンズ状突起3の配列が転写された光透過性の植物育成フィルム1を作製した。
【0060】
晴天日と曇天日の自然光を、上記試作品(1)のアクリル系樹脂タイプの植物育成フィルム1の受光面(凸レンズ状突起3が配列された面)に照射し、植物育成フィルム1を透過して出射した改質光の波長特性(スペクトル分布)を、回折格子型分光放射計により測定した。
【0061】
図8は晴天日における改質光のスペクトル分布図であり、図9は曇天日における改質光のスペクトル分布図である。図8、9において、Aは改質前の自然光のスペクトル分布であり、Bは本実施形態の植物育成フィルム1による改質光のスペクトル分布である。一方、C1〜C5は比較例であり、C1は蛍光染料を配合していない透明なPETフィルムを透過した光である。また、C2〜C5は特開2007−135583に記載された遮光ネットを透過した光のスペクトル分布であり、C2は赤色の蛍光染料を配合した遮光ネットを1重に設置した場合、C3は赤色の蛍光染料を配合した遮光ネットを3重に設置した場合、C4は赤色と橙色の蛍光染料を配合した遮光ネットを1重に設置した場合、C5は赤色と橙色の蛍光染料を配合した遮光ネットを3重に設置した場合のスペクトル分布である。
【0062】
図8に示す晴天日の測定結果によれば、植物育成フィルム1による改質光は、400nm〜600nm(紫外線〜緑色光)の波長帯の放射量が、元の自然光および他の比較例と比べて格段に少なくなっている。一方、600nm〜700nm(赤色光)の波長帯の光の放射量が他の比較例に比べて格段に多く、元の自然光に含まれる放射量を大きく超える量となっている。このような波長特性により、晴天日における改質光のR/B比は1.73となっている。また、上記試作品(2)のエポキシ系樹脂タイプの植物育成フィルム1を用いた場合には、改質光のR/B比は2.5以上の値が得られている。これに対し、比較例C1の透明PETフィルムを用いた場合のR/B比は0.74である。また、比較例C2の一重の遮光ネット(赤色蛍光染料)を用いた場合のR/B比は0.83であり、この遮光ネット(赤色蛍光染料)を三重に用いた比較例C3の場合でも、R/B比は1.2程度である。また、図9に示す曇天日の測定結果においても、晴天日と同様の改質効果が得られている。
【0063】
(実施形態2)
図10(a)は実施形態2の植物育成フィルムの平面図であり、図10(b)はその断面図である。以下、実施形態2について、実施形態1と同一の構成の部分については同一の符号で示し、異なる部分についてのみ説明する。植物育成フィルム11は、可撓性の光透過性フィルム12(透光性部位)と、半球形の多数の凸レンズ状突起3(突起状光学素子部位)を有している。光透過性フィルム12の一方の表面12aには半球形の多数の窪み14が一定間隔で形成されており、各窪み14には、窪み14の内側に凸曲面3aを向けた姿勢で凸レンズ状突起3が嵌め込まれている。これにより、各凸レンズ状突起3は、その中心軸が、光透過性フィルム12の表面12aおよびもう一方の表面12bに対して垂直になるように埋め込まれた状態になる。各凸レンズ状突起3および各窪み14は、凸曲面3aを窪み14の内側に密着させたときに平坦面3bと光透過性フィルム12の表面12aとが面一になるように、対応する形状に形成されている。
【0064】
実施形態2の植物育成フィルム11は、凸レンズ状突起3における蛍光染料の含有率、凸レンズ状突起3の形状、寸法、配置パターンなどが、実施形態1と同様に設定されており、これにより、R/B比が0.6程度の自然光が、植物育成フィルム11を通過することにより1.5〜5程度のR/B比の光に改質されるように構成されている。
【0065】
植物育成フィルム11は、各凸レンズ状突起3の凸曲面3aが光透過性フィルム12に埋め込まれているので、窪み14が形成されている表面12aを植物の側に向け、もう一方の表面12b(受光面)に外部からの自然光が入射するように設置される。これにより、光透過性フィルム12を透過した自然光を凸曲面3aに入射させて平坦面3bから植物に向かって出射させることができるので、各凸レンズ状突起3内を通過する際にR/B比が増大した改質光を植物に供給することができる。また、植物育成フィルム11は、凸レンズ状突起3の凸曲面3aが内部に埋め込まれていて表裏両面が平坦となっている。よって、設置位置や設置方法の自由度が高い光改質用光学部材として利用できる。また、実施形態1と同様に、光透過性フィルム12の代わりに板状の透光性部位を用いた場合には、剛性があり、両面が平坦な植物育成資材となるので、光改質機能を有する一体型の資材となる。よって、植物育成施設や育成キットなどの構成の簡素化、部材数の削減、コスト削減などを図ることができる。
【0066】
実施形態2の植物育成フィルム11を製造するには、光透過性フィルム12の表面12aに窪み14を形成しておき、ここに、蛍光染料を含有する樹脂素材を充填して硬化させ、樹脂素材の表面を平坦にして表面12aと面一にする。あるいは、可撓性の光透過性フィルム12に代えて光透過性ガラスからなる透明板を使用して、この透明板にエッチング等により窪み14を形成し、蛍光染料を含有する樹脂素材を充填することにより、実施形態1と同様に、剛性のある板状の光改質用光学部材を形成してもよい。樹脂素材は、実施形態1の試作品(1)(2)で用いたアクリル系樹脂やエポキシ系樹脂などの紫外線硬化型樹脂を用いることができる。また、熱硬化型樹脂に蛍光染料および溶剤を配合した樹脂溶液を窪み14に充填した後、加熱硬化させる方法により製造することもできる。
【0067】
(改変例1)
図11(a)は改変例1の植物育成フィルムの平面図であり、図11(b)はその断面図である。改変例1の植物育成フィルム21は、実施形態1の植物育成フィルム1における光透過性フィルム2の表面2aのうち、凸レンズ状突起3が配置されていない隙間部分を、遮光材5によって覆ったものである。このようにすると、凸レンズ状突起3に入射せずに光透過性フィルム2のみを透過して植物育成フィルム21から出射する光を遮蔽することができる。凸レンズ状突起3の隙間部分に入射した光は、そのほとんどが凸レンズ状突起3によって改質されずに光透過性フィルム2を通り抜けてしまう。そこで、隙間部分を遮蔽することにより、改質されない光の通過割合を減少させて、植物育成フィルム21を通過した光のR/B比を増大させることができる。遮光材5による遮蔽面積は、達成すべき遮蔽率に応じて、任意の広さに設定することができる。
【0068】
遮光材5としては、アルミ薄膜や、アルミニウム粉あるいはアルミナ粉等によって形成されたものが用いられるが、このような材質に限定されるものではない。また、アルミ薄膜や、アルミニウム粉あるいはアルミナ粉等によって形成された遮光材は、光を反射あるいは散乱するように形成することができるので、凸レンズ状突起3の隙間に入射した直達光成分を反射あるいは散乱させて凸レンズ状突起3に誘導することができる。このようにすれば、凸レンズ状突起3に入射する光の割合を増加させることができるので、自然光の利用効率を高めつつ、更にR/B比を増大させることができる。
【0069】
なお、図11(a)(b)には、上記の実施形態1の植物育成フィルム1における凸レンズ状突起3の隙間を遮光材5によって遮蔽した構成を示したが、実施形態2の植物育成フィルム11における凸レンズ状突起3の隙間を遮光材5によって遮蔽した構成にしてもよい。
【0070】
(改変例2)
図12(a)は改変例2の植物育成フィルムの平面図であり、図12(b)はその断面図である。改変例2の植物育成フィルム31は、実施形態1の植物育成フィルム1における各凸レンズ状突起3に、アルミ薄膜、アルミニウム粉、アルミナ粉等によって形成された反射体6を埋め込んだものである。反射体6は、凸レンズ状突起3よりも一回り小さい円板状に形成されており、各凸レンズ状突起3の出光面である平坦面3bの中央に埋め込まれている。なお、反射体6の形状はこのような形状に限定されず、各種の形状にすることができる。
【0071】
このような構成では、反射体6に入射する直達光が反射されて凸レンズ状突起3の内部で散乱されるので、直達光を遮蔽しつつ、凸レンズ状突起3内の蛍光染料による光の吸収量および蛍光の発生量を増大させることができる。また、反射体6を設けることにより、遮光率の調整も可能である。なお、改変例1と同様に、実施形態2の植物育成フィルム11における凸レンズ状突起3に反射体6を埋め込むことも可能である。
【0072】
(改変例3)
図13は改変例3の植物育成フィルムの平面図である。改変例3の植物育成フィルム41は、実施形態1の植物育成フィルム1において、凸レンズ状突起3が配置されていない隙間部分に、光透過性フィルム2を貫通する通気孔7を形成したものである。このようにすれば、植物育成フィルム41によって植物に供給する光を改質しつつ、通気孔7から通気を行って植物の近傍の育成環境を調整することができる。通気孔7の寸法および形成位置は、必要とする通気量などに応じて適宜設定すればよい。
【0073】
(改変例4)
上記各構成の植物育成フィルムに、有害な光(例えば、紫外線、赤外線等)をカットする膜を積層した構成にしてもよい。このようにすれば、所望の波長成分の光をカットして、植物に応じて、あるいは、育成段階に応じて、育成に最適な光を供給できる。また、凸レンズ状突起3が配列されている面に保護膜をコーティングすることにより、蛍光染料を含有する凸レンズ状突起3を保護して、光改質機能を保持させることができる。
【0074】
(改変例5)
上記各構成では、凸曲面3aの平面形状を円形にしていたが、楕円形などの長円形であってもよい。このとき、凸曲面3aをその平面形状に沿った横長の半長球形にしてもよい。また、凸曲面3aを、その突出方向に長い縦長の半長球形にしてもよく、球面や長球面以外の凸曲面にしてもよい。あるいは、中心軸が傾いているアシンメトリーな凸曲面形状にしてもよい。但し、いずれの凸曲面形状においても、凸曲面(受光面)の平坦面(出光面)に対する面積比を140%以上にすることが望ましい。また、凸レンズ状突起3を、上端面を半球形にした円柱状とし、その下端面を平坦面とした形状にしてもよい。この形状では、円柱部分の上端縁が、円柱の底面中心から見て仰角が20度以内の位置になるように円柱部分の高さを設定することが望ましい。
【0075】
図14は光透過性フィルム2の表面2aに対する凸曲面3aの接触角度の説明図である。凸曲面3aは上記のように様々な形状にすることができるが、いずれの形状の場合にも、凸曲面3aの光透過性フィルム2の表面2aに対する接触角度θ(接触位置における凸曲面3aの接線と、表面2aとのなす角度)を、90度±40度の範囲内にすることが望ましい。凸曲面3aが半球面であり、その中心軸と表面2aが直交している場合には、凸曲面3aは、表面2aに対して90度の角度をなすように接触している。本願出願人は、各種の凸曲面形状について検討し、凸レンズ状突起内で発生した蛍光のうち、どの程度の割合を平坦面3bを介して表面2aに入射させ、光透過性フィルム2を透過させることができるかの試算を行った。その結果、凸曲面3a内で発生した蛍光のうち、所定の割合以上(自然光を1.5〜5程度のR/B比の光に改質できる程度の量)を光透過性フィルム2の表面2bから出射させるためには、凸曲面3aの表面2aに対する接触角度θを、90度±40度の範囲内にすることが望ましいという知見を得た。
【0076】
すなわち、凸曲面3aを有する凸レンズ状突起3内では、蛍光染料を含有する樹脂素材の各部分から発生した蛍光は全方位に放射される。凸曲面3a側へ放射された成分のうち、凸曲面3aへの入射角度が全反射されるか否かの臨界角度よりも小さい成分は、凸曲面3aの内面で全反射されながら凸曲面3aに沿って誘導されて表面2aに入射する。また、平坦面3b側へ放射された成分のうち、平坦面3bで全反射されて凸曲面3a側に向かった成分についても、同様に凸曲面3aへの入射角度が臨界角度よりも小さければ凸曲面3aに沿って誘導され、表面2aに入射する。つまり、凸レンズ状突起3は、内部で発生した蛍光のうち、従来の平坦なフィルム形状であれば端面側に逃げたり受光面側に逃げてしまって有効利用できなかった成分を、凸曲面3aに沿って誘導することにより、凸曲面3aと表面2aとの接触角度θに応じた入射角度で表面2aに入射させることができる。そして、このとき、凸曲面3aと表面2aとの接触角度θを大きくする、具体的には、θを90度±40度の範囲内にすることにより、凸曲面3aに沿って表面2aに入射する蛍光成分を高い割合で光透過性フィルム2内に入射させ、全反射させずに光透過性フィルム2を透過させて表面2bから出射させることができる。
【0077】
このように、植物育成フィルム1における出光面(光透過性フィルム2の表面2b)側への蛍光の出光比率が、求める改質光の生成に必要な比率よりも小さくならないようにするためには、凸曲面3aと表面2aとの接触角度θを考慮して、凸レンズ状突起3の形状、および、その光透過性フィルム2への取付姿勢を設定することが望ましい。
【0078】
(改変例6)
図15(a)(b)は改変例6の植物育成フィルムの断面図である。実施形態1では凸レンズ状突起3全体を蛍光染料を混入した樹脂素材で形成していたのに対し、改変例6の植物育成フィルム51では、図15(a)に示すように、凸曲面3aに沿った外周部分だけを所定の厚さの蛍光樹脂層52とし、その内側の半球状の部分を透明樹脂層53とすることにより、凸レンズ状突起54(突起状光学素子部位)を形成している。上記改変例5で説明したように、半球状や半長球状などの凸曲面3aを有する樹脂素材内では、発生した蛍光のうち凸曲面3aに沿って誘導される成分については有効利用される割合が高い。すなわち、このような形状では、内部に入射した光や反射光、散乱光などのうち、凸曲面3aに近い外周側の部分に届いた光によって発生した蛍光は、凸曲面3aに沿って誘導されて有効利用される割合が高い。一方、半球状や半長球状などの樹脂素材の中心部分で蛍光を発生させても、凸曲面3aから外部に出射されてしまって有効利用される割合が低いといえる。改変例6は、この点を考慮して、利用される蛍光が多い側だけを蛍光樹脂層52としたものである。蛍光樹脂層52の厚さtについては、有効利用できる蛍光の量と厚さtとの相関などを検討した結果、厚さtを、少なくとも凸レンズ状突起54の半径の1/5以上にする必要があるとの知見を得ている。
【0079】
改変例6の植物育成フィルム51の製造は、以下のように行うことができる。まず、PETフィルムなどの光透過性フィルムや透明樹脂板や硝子板などの板材の表面に、実施形態1において凸レンズ状突起3の配列を転写したのと同様の方法によって、微細な半球状の透明樹脂層53の配列を形成する。その後、蛍光染料および溶剤を配合した樹脂溶液を透明樹脂層53の表面に厚塗り印刷し、熱硬化あるいは乾燥硬化させて蛍光樹脂層52を形成する。これにより、光透過性フィルム2の表面に、凸レンズ状突起54が配列される。なお、表面に半球状の透明樹脂層53が配列された光透過性フィルムや透明樹脂板などを、一体成形により形成するか、あるいは、加熱金型によって透明樹脂層53の配列形状を転写することにより形成しておき、その後、各透明樹脂層53の表面に、蛍光樹脂層52を形成してもよい。
【0080】
なお、実施形態2における光透過性フィルム12の表面12aに形成した窪み14に、改変例6の凸レンズ状突起54を埋め込んだ構造にしてもよい。あるいは、図15(b)に示すように、窪み14の内面に、蛍光染料および溶剤を配合した樹脂溶液の層を厚塗り印刷によって形成することにより、凸レンズ状突起54の蛍光樹脂層52の部分だけを窪み14に埋め込んだ構成にしてもよい。このように、突起状光学素子部位を蛍光樹脂層52のみから構成していても、必要な蛍光は、蛍光樹脂層52の端面52a(平坦面3aの外周部分に相当する部分)から光透過性フィルム12の表面12b側に出射される。よって、必要な改質光が得られる。
【0081】
(改変例7)
図16は改変例7の植物育成フィルムの断面図である。改変例7の植物育成フィルム61は、薄いPETフィルムなどの光透過性フィルム62に半球状あるいは半長球状などの凹部63を実施形態2における窪み14と同様の配列で形成しておき、この凹部63に蛍光染料を含有する樹脂素材を充填して硬化させ、上記凸レンズ状突起3を埋め込んだのと同じ状態にしたものである。実施形態2との相違点は、改変例7では、光透過性フィルムフィルム62における凹部63の部分が受光面62a側に突出して凹凸形状になっていることである。
【0082】
改変例7の構成は、薄手の凹凸が形成されたPETフィルムなどの既製品の素材に樹脂素材を充填し硬化させるだけで製造できるので、廉価かつ容易に製造することができる。また、光透過性フィルム62が凸レンズ状突起3の表面を覆っており保護膜として機能するので、凸レンズ状突起3が露出している構成に比べて耐久性が高い。
【0083】
(応用1)
図17は、本実施形態の植物育成フィルムを用いたブラインド(植物育成装置)の説明図である。ブラインド8は、多数の細長い可動板8aと、これらの可動板8aを水平にして一列に並べた状態に連結している図示しない角度調整機構を有している。この角度調整機構は、これらの可動板8aを連動して角度調整可能な状態に保持している。各可動板8aは、上記の各実施形態の植物育成フィルムを細長い透明な板材の表面に積層したもの、もしくは、透明な樹脂板あるいは硝子板の表面に凸レンズ状突起3、あるいは改変例6のような凸レンズ状突起54を配列した剛性のある植物育成資材により形成されている。
【0084】
このように、光改質機能を有する植物育成フィルム、あるいは、板状の光改質用光学部材によりブラインド8を形成すれば、自然光を改質して植物に供給するときには可動板8aの隙間を閉じた状態にすればよく、また、必要に応じて可動板8aの角度を調整して隙間を大きくすることにより、改質光と自然光の割合を適宜調整して植物に供給することができる。また、可動板8aの間の隙間を調整することにより通気量を容易に調整することができる。なお、各可動板8aの両端に回転軸を設けて枠体などに保持させたルーバー状の植物育成装置を形成してもよい。あるいは、可撓性の植物育成フィルムをロールブラインドのような形態で設置してもよい。
【0085】
(応用2)
上記各実施形態では、本発明の光改質用光学部材を植物育成用に用いた例を記載しているが、他の用途に用いてもよい。例えば、R/B比が大きい光環境下での飼育や育成が適している動物や昆虫、水中生物などの各種生物の育成環境を確保するために用いても良い。あるいは、R/B比が大きい光環境下で扱うことが望ましい物体を用いる作業環境を確保するために用いても良い。また、改質対象の光は自然光に限定されない。例えば、自然光と同様あるいは類似したスペクトル分布を有する人工光を改質することもできる。また、これらの各用途において、ピーク吸光特性およびピーク放射光特性が異なる様々な蛍光染料の中から適切な種類のものを選定することにより、様々な光に対して所望の光改質効果が得られるようにすることもできる。
【符号の説明】
【0086】
1、11、21、31、41、51、61 植物育成フィルム
2、12、62 光透過性フィルム
2a、2b、12a、12b 表面
3、54 凸レンズ状突起(突起状光学素子部位)
3a 凸曲面
3b 平坦面
4 植物育成施設
4a 天井面
4b 天井部分
4c 西側側面
4d 南側側面
5 遮光材
6 反射体
7 通気孔
8 ブラインド(植物育成装置)
8a 可動板
14 窪み
52 蛍光樹脂層
52a 端面
53 透明樹脂層
62a 受光面
63 凹部
D 間隔
R 半径
t 厚さ
θ 接触角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然光などの光を有効利用して植物の育成に適した光を供給するなどの各種用途に適用可能な光改質用光学部材およびその製造方法に関する。また、この光改質用光学部材を用いた植物の育成方法、ならびに植物育成用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の育成のために、寒冷紗や遮光ネットなどの各種の遮光用の資材を用いて自然光の光量を制御することが行われている。寒冷紗や遮光ネットは、有害な紫外線や熱線を遮蔽することができるが、その一方で、光合成や花芽分化等に必要な光も遮蔽してしまう。また、寒冷紗や遮光ネットは、日焼けや過度な温度上昇による育成障害を確実に防止するために、常に安全側の遮光量となるように利用されることが多い。そのため、植物の育成に有効な光が少なくなりがちな状態で植物が育成されることとなり、自然光を十分に有効に活用できない。また、遮蔽された光は熱として植物の近傍に放射されるので、この熱を冷却するエネルギーが別途必要になってしまう。
【0003】
植物の育成に関与する光環境について、R/B比(赤色光波長帯域に対する青色光波長帯域の光量子密度の比)を指標として評価することが行われている。R/B比は、下記に示す式(1)によって定義される値であり、植物の育成光のスペクトル分布と式(1)に基づいて算出される。
・・・・式(1)
Eλ:波長λにおける放射照度(W/m2)
h:プランク定数
νλ:周波数(Hz)
Na:アボガドロ数
【0004】
植物の育成に有効な光とは、成長の度合いにつれて光の成分の割合が異なっているが、R/B比がおおよそ2〜4の割合の光である。すなわち、植物の葉の光成分吸収実験によれば、植物の新芽は、紫外線は吸収せず、可視光はR/B比が4の割合で吸収する。これが、数ヶ月の幼芽になると、紫外線を若干吸収するようになり、可視光はR/B比が約2の割合で吸収するようになり、成熟葉の吸収に近くなる。成熟葉では、更に紫外線、近赤外線の吸収量が多くなる。一方、自然光のR/B比は0.6であり、圧倒的に青色光成分が多く、常に過剰な青色光、緑色光が含まれている。過剰な青色光、緑色光は光阻害の原因となるため、この過剰な青色光、緑色光を常に遮光できるように安全側の設定で寒冷紗や遮光ネットを設置すると、育成に有効な赤色光の供給量は必要量よりもかなり少なくなってしまう。
【0005】
特許文献1には、蛍光染料入りの繊維を用いた光合成ネットが記載されている。この光合成ネットは、自然光を植物育成に適するR/B比に改質することを目的とするものであり、この繊維に光が照射されると繊維内部で蛍光が励起され、励起された光が繊維表面から散乱されて植物に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−135583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、植物の育成に最も適した光のR/B比は2〜4の割合である。しかしながら、特許文献1の光合成ネットは、三重にして用いたとしても、改質後の光のR/B比は1.2未満にしかならない。したがって、特許文献1の光合成ネットは、植物の良好な育成のためには光改質効果が十分であるとはいえない。
【0008】
また、特許文献1の光合成ネットは1cm程度の隙間を持つ網目状に形成されているので、自然光の直射光成分がこの隙間を通過して植物に直達する。よって、露地栽培に適さない植物や直射日光に弱い植物に対して、直達光が供給されてしまい、光阻害による育成障害を十分に防止できないという問題点がある。
【0009】
一方、従来の寒冷紗や遮光ネットを用いる方法でも、育成環境の変化に応じて遮光量を適宜調整すれば、常に最も安全側の遮光量となるように設置しておく必要がなくなり、植物に対して育成に必要な光をより多く供給することができる可能性がある。しかしながら、遮光量を調整するには寒冷紗や遮光ネットを手操り上げたり再度張りなおす操作が必要となる。よって、遮光量の調整に多くの労力が必要となり、簡単に行うことができないという問題点がある。
【0010】
本発明の課題は、上記の問題点に鑑みて、自然光(太陽光、天空光など)を植物育成に最適なR/B比となるように改質して植物に供給できるようにして、光阻害を防止し、且つ、自然光の有効利用を図ることが可能な光改質用光学部材およびその製造方法、植物の育成方法、ならびに植物育成用装置を提案することにある。
【0011】
また、本発明の課題は、通気量の確保や光量調整を簡単に行うことが可能な光改質用光学部材、もしくは植物育成用装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の光改質用光学部材は、
一方の面が凸曲面であり、他方の面の少なくとも外周部分が平坦面である複数の突起状光学素子部位と、
フィルム状あるいは板状の透光性部位とを有し、
前記複数の突起状光学素子部位は、前記透光性部位の受光面または当該受光面と平行な同一平面に沿って、前記凸曲面が前記受光面と同じ側を向くように離散配置された状態で前記透光性部位に保持されており、
各突起状光学素子部位は、少なくとも前記凸曲面に沿った部分が蛍光染料を含有する樹脂素材により形成されていることを特徴としている。
【0013】
本発明は、このように、透光性部位の受光面あるいは受光面に平行な同一平面に沿って離散配置された複数の突起状光学素子部位を備えているので、自然光などの光をこれらの突起状光学素子部位を通過させた後に、植物に供給することができる。このとき、樹脂素材に含まれる蛍光染料により、突起状光学素子部位に入射した光を励起光として吸収して、吸収した光よりも波長が長い光を生成することができる。よって、受光面に入射した光を、入射前よりも長波長成分の割合が増大した光に改質することができる。
【0014】
また、本発明では、複数の突起状光学素子部位の凸曲面を受光面と同じ側に向けて透光性部位に保持させている。樹脂素材の表裏の面をいずれも平坦にすると、表面(受光面)から入射して蛍光染料によって改質された光が、出光面積の最も小さい面、すなわち厚さ方向に切断したときに形成される端面側から70%程度が出射されてしまい、裏面(出光面)側に出射されるのは15%程度となってしまう。よって、このような形状では、蛍光染料によって改質された光を効率良く利用することができない。これに対し、本発明では、蛍光染料を含有する樹脂素材を用いて形成された突起状光学素子部位の受光側の面を凸曲面状に形成したことにより、この面から入射した光を集光して他方の面から出射させ、あるいは、他方の面から凸曲面側に反射された光を凸曲面に沿って誘導して、他方の面の平坦面部分から選択的に出射させることができる。よって、改質した光を高い効率で利用することができ、自然光のエネルギーを有効に利用することができる。
【0015】
このとき、前記蛍光染料が、紫外線から緑色光までの波長領域の少なくとも一部分の光を吸収して、当該吸収した光よりも波長が長い青色光から赤色光までの波長領域の少なくとも一部分の光を生成するものであることが望ましい。このようにすれば、各突起状光学素子部位は、受光面に入射する光を、よりR/B比(赤色光波長帯域に対する青色光波長帯域の光量子密度の比)が大きい光に改質できる。すなわち、光阻害の阻害作用が強く自然光に過剰に含まれている波長成分を吸収し、植物の育成に必要で、自然光には不足がちな波長成分を生成することができる。従って、自然光に含まれる成分のうち、植物の育成に不要あるいは過剰とされている成分を植物の育成に有効に利用でき、かつ、光阻害による育成障害を抑制できる。
【0016】
特に、本発明では、突起状光学素子部位を、前記凸曲面から自然光が入射した場合における前記他方の面からの出射光のR/B比が、1.5から5.0までの範囲内の値となるように形成することが望ましい。このようにすれば、自然光などの光を植物の育成に最も望ましいR/B比の光に改質して供給できる。
【0017】
本発明において、各突起状光学素子部位は、その内部において前記蛍光染料によって生成された蛍光の放射量のうち所定の割合以上を、前記平坦面から出光させるように形成されていることが望ましい。このように、生成した蛍光の平坦面からの出光比率に着目して、この出光比率が低くならないように突起状光学素子部位を形成することにより、生成された蛍光を有効利用して所望のR/B比の改質光を得ることができる。
【0018】
このとき、前記他方の面全体を平坦面としたときの当該平坦面に対する前記凸曲面の面積比が140%以上となるように各突起状光学素子部位を形成することが望ましい。本願出願人は、本発明の構成において、受光面の出光面に対する面積比に着目して光学素子形状およびその配置を検討し、光の改質効果を検討した結果、受光面(凸曲面)の出光面(平坦面)に対する面積比が増加するにつれて出射される光のR/B比が上昇し、面積比を140%以上にすれば、R/B比を1.5以上にすることができるという知見を得た。よって、本発明の構成により、自然光を、植物の育成にとって実用上十分有効なR/B比の光に改質することができる。
【0019】
また、各突起状光学素子部位を、前記凸曲面が前記受光面から突出している状態で保持させ、前記受光面と前記凸曲面との接触位置において、前記受光面に対して前記凸曲面が50度以上90度以下の範囲内の角度で接触していることが望ましい。このようにすると、突起状光学素子部位内で発生した蛍光のうち、凸曲面に沿って誘導された成分が、透光性部位の受光面に、90度を中心とする所定の角度範囲内の入射角度で入射するので、透光性部位の内面で全反射されずに出光面から出射する蛍光の比率が大きくなる。よって、生成された蛍光を逃がさずに有効利用することができ、自然光をよりR/B比の大きい光に改質できる。
【0020】
ここで、前記樹脂素材からなる蛍光樹脂層を、少なくとも各突起状光学素子部位の半径の1/5以上の厚さで前記凸曲面に沿って形成するとよい。凸曲面から入射する光を改質して平坦面から出光させる場合には、凸曲面に近い表面層の部分で生成される蛍光の利用率が高い。よって、凸曲面に近い表面層の部分に蛍光樹脂層を設けることにより、蛍光樹脂を光改質材として有効に機能させることができる。
【0021】
また、前記樹脂素材における蛍光染料の含有量を、0.02重量%以上1.0重量%以下に設定することが望ましい。本願出願人は、樹脂素材における蛍光染料の配合を検討して、光の改質効果を検討した。その結果、このような含有量の範囲が、自然光をよりR/B比の大きい光に改質でき、且つ、改質した光を高い効率で利用できる最適な設定であることを確認している。よって、このような構成により、自然光を高い効率で利用することができる。
【0022】
本発明において、前記突起状光学素子部位の径寸法を0.5mm以上3mm以下にすることが望ましい。また、突起状光学素子部位の寸法に応じて蛍光染料の含有量(濃度)の最適な範囲が異なっていることを考慮して、以下の(1)(2)のいずれかの条件を満たすように前記突起状光学素子部位が形成されていることが望ましい。
(1)各突起状光学素子部位の径寸法が0.5mmであり、且つ、前記樹脂素材における蛍光染料の含有量が0.3重量%以上1.0重量%以下であること
(2)各突起状光学素子部位の径寸法が1.0mmまたは2.0mmであり、且つ、前記樹脂素材における蛍光染料の含有量が0.02重量%以上0.2重量%以下であること
【0023】
このとき、前記凸曲面は半球面であることが望ましい。また、各突起状光学素子部位と隣接する突起状光学素子部位の間隔をDとし、各突起状光学素子部位の半径をRとしたときに、以下の(1)〜(3)のいずれかの条件を満たすように前記突起状光学素子部位が配置されていることが望ましい。
(1)前記突起状光学素子部位が格子状に配置され、且つ、D≦Rであること
(2)前記突起状光学素子部位が面心格子状に配置され、且つ、D≦2Rであること
(3)前記突起状光学素子部位が六方晶細密充填構造状に配置され、且つ、D≦3Rであること
【0024】
本願出願人は、突起状光学素子部位の形状、寸法、配置、蛍光染料の含有量などに着目して光の改質効果を検討した。その結果、このような形状、寸法、配置、および含有量の設定が、自然光をよりR/B比の大きい光に改質でき、且つ、改質した光を高い効率で利用できる最適な設定であることを確認している。よって、このような構成により、自然光を高い効率で利用することができる。
【0025】
本発明において、前記突起状光学素子部位の隙間の少なくとも一部に遮光材を設けてもよい。このようにすれば、過剰な光を遮蔽して光阻害を確実に防止しつつ、遮光しない部分から入射した光については植物の育成に適した光に改質することができる。なお、遮光材に代えて反射材や光散乱材を設ければ、入射する光を遮蔽しつつ、反射あるいは散乱された光の少なくとも一部を集光用の凸曲面に誘導して、効率良く光を改質することができる。あるいは、前記突起状光学素子部位の内部に反射材または光散乱材を埋め込んでもよい。このようにすれば、入射した自然光を凸曲面の内部で効率よく散乱させて効率良く蛍光励起させることができる。
【0026】
また、本発明において、前記透光性部位における前記突起状光学素子部位の隙間に通気孔を形成してもよい。このようにすれば、通気を行って温度環境などの育成環境を良好にすることができ、光放射などによる植物の周囲の温度上昇を防止できる。
【0027】
ここで、本発明において、前記透光性部位の一方の面に、複数の窪みを離散配置して形成しておき、各窪みに前記突起状光学素子部位を埋め込む構成にすることもできる。このようにすれば、各突起状光学素子部位の平坦面と、透光性部位の出光面とを面一にすることができ、受光面と出光面に凹凸のない植物育成資材を形成することが可能である。
【0028】
次に、本発明の植物の育成方法は、
上記の光改質用光学部材を用意し、
育成対象の植物に供給される光が、各突起状光学素子部位の前記凸曲面から入射して前記平坦面から出射した後、前記植物に到達するように前記光改質用光学部材を設置して、前記植物を育成することを特徴としている。
【0029】
また、本発明の植物育成用装置は、
複数の可動板と、
当該複数の可動板の角度を連動させて調整するための角度調整機構とを有し、
前記複数の可動板の少なくとも一部が、上記の光改質用光学部材により形成されていることを特徴としている。
【0030】
このような構成により、通気量、光改質量、あるいは遮光量を必要に応じて適宜簡単に調整できる植物育成用装置が得られる。
【0031】
次に、本発明の光改質用光学部材の製造方法は、硬化型樹脂に蛍光染料および溶剤を配合した樹脂溶液を、複数の凸曲面を平面上に所定間隔で並べた凹凸パターンの反転形状を有する金型内に導入し、前記樹脂溶液を硬化させつつフィルム状あるいは板状の透光性部位の表面に転写することを特徴としている。そして、この方法において、前記硬化型樹脂として、エポキシ樹脂またはアクリル樹脂を用意し、当該エポキシ樹脂または当該アクリル樹脂に蛍光染料および溶剤を配合した前記樹脂溶液を、紫外線硬化あるいは熱硬化させつつ前記透光性部位の表面に転写することができる。
【0032】
本発明におけるもう一つの光改質用光学部材の製造方法は、蛍光染料を含有するフィルム状あるいは板状の熱可塑性樹脂材を加熱金型により変形させることにより、当該熱可塑性樹脂材の表面に複数の凸曲面を平面上に所定間隔で並べた凹凸パターンを転写して、上記の光改質用光学部材を形成することを特徴としている。そして、この方法において、フィルム状あるいは板状の前記透光性部位の表面に、前記フィルム状あるいは板状の前記熱可塑性樹脂材を設けた積層体を用意し、当該積層体における前記蛍光染料を含有する前記熱可塑性樹脂材の層を、前記加熱金型により変形させるようにすることができる。
【0033】
また、本発明における別の光改質用光学部材の製造方法は、フィルム状あるいは板状の透光性部位の表面に、複数の窪みを所定間隔で形成しておき、各窪みに、蛍光染料を配合した樹脂素材を充填して表面を平坦に形成し、前記樹脂素材を硬化させることにより、上記の光改質用光学部材を形成することを特徴としている。
【0034】
更に、本発明における別の光改質用光学部材の製造方法は、フィルム状あるいは板状の前記透光性部位の表面に複数の突起あるいは複数の窪みを所定間隔で形成しておき、各突起の表面、もしくは各窪みの内面に、蛍光染料を配合した樹脂素材の層を印刷により形成して、上記の光改質用光学部材を形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、透光性部位に保持されている複数の突起状光学素子部位が、この突起状光学素子部位を形成している樹脂素材に含まれる蛍光染料により、入射した光を励起光として吸収して、吸収した光よりも波長が長い光を生成する。よって、受光面に入射した光を、入射前よりも長波長成分の割合が増大した光に改質することができる。
【0036】
また、本発明では、蛍光染料を含有する樹脂素材を用いて形成された突起状光学素子部位の受光側の面を凸曲面状に形成したことにより、この面から入射した光を集光して他方の面から出射させ、あるいは、他方の面から凸曲面側に反射されてきた光を凸曲面に沿って誘導して、他方の面の平坦面部分から選択的に出射させることができる。よって、改質した光を高い効率で利用することができ、自然光のエネルギーを有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態1の植物育成フィルムの平面図および断面図である。
【図2】凸レンズ状突起の配列パターンの説明図である。
【図3】植物育成フィルムの設置形態の説明図である。
【図4】受光面の出光面に対する面積比と、改質光のR/B比との関係を示すグラフである。
【図5】蛍光染料の含有率と、緑色光の吸収率および赤色光の透過率との関係を示すグラフである。
【図6】半球型の凸レンズ状突起(直径0.5mm)における蛍光染料濃度とR/B比との関係を示すグラフである。
【図7】凸レンズ状突起間の間隔および凸レンズ状突起の半径と、面積率との関係を示すグラフである。
【図8】晴天日における改質光のスペクトル分布図である。
【図9】曇天日における改質光のスペクトル分布図である。
【図10】実施形態2の植物育成フィルムの平面図および断面図である。
【図11】改変例1の植物育成フィルムの平面図および断面図である。
【図12】改変例2の植物育成フィルムの平面図および断面図である。
【図13】改変例3の植物育成フィルムの平面図である。
【図14】光透過性フィルムの表面に対する凸曲面の接触角度の説明図である。
【図15】改変例6の植物育成フィルムの断面図である。
【図16】改変例7の植物育成フィルムの断面図である。
【図17】植物育成フィルムを用いたブラインドの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を適用した植物育成方法および植物育成資材の実施の形態について説明する。
【0039】
(実施形態1)
図1(a)は実施形態1の植物育成フィルム(光改質用光学部材)の平面図であり、図1(b)はその断面図である。植物育成フィルム1は、可撓性の光透過性フィルム2(透光性部位)と、光透過性フィルム2の一方の表面2a(受光面)に沿って一定間隔で配列された多数の凸レンズ状突起3(突起状光学素子部位)を有している。光透過性フィルム2は、ポリエチレンテレフタレートなどの透明な樹脂素材を一定の厚さのフィルム状に成形したものである。なお、可撓性のフィルム材に代えて透明樹脂板や硝子板などの板材を用いて、その表面に凸レンズ状突起3を配列した構成にしてもよい。この場合には、剛性のある板状の光改質用光学部材が形成される。
【0040】
各凸レンズ状突起3は、その上部表面がほぼ半球形の凸曲面3aとなっており、その底部が円形の平坦面3bとなっている。各凸レンズ状突起3は、平坦面3bを光透過性フィルム2の表面2aに密着させ、各凸レンズ状突起3の中心軸が光透過性フィルム2の表面2aに対して垂直になるように取り付けられている。また、凸曲面3aの形状は、その面積が、平坦面3bの面積に対して140%以上の面積比となるように設定されている。
【0041】
各凸レンズ状突起3を形成している樹脂素材は、透明樹脂に、蛍光染料を0.02重量%以上1.0重量%以下の範囲内の所定の含有率となるように配合したものである。透明樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂、あるいは、紫外線硬化型樹脂や熱硬化型樹脂などの硬化型樹脂を用いることができる。紫外線硬化型樹脂としては、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどの樹脂を用いることができる。また、加熱成形樹脂としては、ビニル系、ポリエステル系、アクリル、PC(ポリカーボネート)系、AS(アクリロニトリルスチレン)系、PS(ポリスチレン)系、ウレタン系、ポリオレフィン系、エポキシ系、アルキッド系などの樹脂を用いることができる。
【0042】
この蛍光染料は、紫外線から緑色光までの波長領域の光を吸収し、これらの波長の光を励起光として、より波長が長い光、すなわち、青色光から赤色光までの波長領域の光を生成するものである。このような構成では、凸レンズ状突起3に入射する自然光は、凸レンズ状突起3内を通過する際に紫外線から緑色光までの波長成分が減少して、青色光から赤色光までの波長成分が増大する。すなわち、凸レンズ状突起3に入射する自然光は、凸レンズ状突起3内を通過する際にその波長成分の比率が変化し、R/B比(赤色光波長帯域に対する青色光波長帯域の光量子密度の比)が増大した改質光となって凸レンズ状突起3から出射される。
【0043】
凸レンズ状突起3の半径Rは0.5mm〜3.0mmであり、その配列パターンは、例えば、図2(a)〜(c)に示す配列パターンが用いられる。図2(a)は、光透過性フィルム2の表面に沿って格子状(正方格子の各格子点)に凸レンズ状突起3を並べたものであり、図2(b)は、面心格子状(正方格子の各格子点および格子の中心点)に凸レンズ状突起3を並べた配列である。また、図2(c)は、六方晶細密充填構造状(正三角形格子の各格子点)に凸レンズ状突起3を並べた配列である。本実施形態では、各凸レンズ状突起3と隣接する凸レンズ状突起3との間の間隔Dを、各配列パターンに応じて設定している。すなわち、図2(a)の配列ではD≦Rとなるように設定し、図2(b)の配列ではD≦2Rとなるように設定し、図2(c)の配列ではD≦3Rとなるように設定している。このように設定した理由は後述する。
【0044】
植物育成フィルム1は、凸レンズ状突起3が配列されている光透過性フィルム2の表面2aに外部からの自然光が入射するように設置され、光透過性フィルム2のもう一方の表面2b側から出射した光が育成対象の植物に供給されるように設置される。これにより、各凸レンズ状突起3内を通過する際にR/B比が増大して自然光が改質光となり、この改質光が光透過性フィルム2を通過して植物に供給される。このように、植物育成フィルム1は、自然光中の過剰な青色光や緑色光を吸収して植物の育成に有効な赤色光を生成して供給できるので、光阻害を防止しつつ、自然光を植物の育成に有効利用することができる。自然光の有効利用により、コスト削減を図るとともに、炭酸ガスの発生量削減を図ることができるので、地球温暖化対策にも有効である。
【0045】
図3(a)〜(e)は植物育成フィルム1の設置形態の説明図である。図3(a)(b)はビニールハウスやガラスハウスなどの植物育成施設4の天井面4aに植物育成フィルム1を張った設置形態であり、図3(c)(d)は植物育成施設4の外壁の天井部分4bの内側に植物育成フィルム1を張った設置形態である。また、図3(e)は、自然光を有効に取り入れるため、植物育成施設4の天井面4aと外壁の西側側面4c、南側側面4dに植物育成フィルムを張った形態である。なお、上述したように光改質用光学部材自体を剛性のある板状に形成した場合、この光改質用光学部材は光改質機能を有する一体型の資材となり、そのまま天井材や壁材として用いることができる。よって、植物育成施設や植物育成装置における構成の簡素化、部材数の削減、コスト削減などを図ることができる。
【0046】
植物育成フィルム1を通過した光のR/B比は、凸レンズ状突起3の形状、寸法、配置パターン、あるいは、凸レンズ状突起3を形成している蛍光染料の含有率(蛍光染料濃度)などに応じて決まる。そこで、これらのパラメータを適宜設定することにより、目標とするR/B比の光が得られるように、植物育成フィルム1を構成することが可能である。本実施形態では、通常はR/B比が0.6程度である自然光が、植物育成フィルム1を通過したことにより、1.5〜5程度のR/B比の光に改質されるように、植物育成フィルム1を構成している。植物の種類によって、また生育期によっても異なるが、1.5〜5程度のR/B比の光であれば、植物の育成にとって実用上十分適した光となる。また、植物の育成にとって最適な環境にするためには、R/B比を2〜4の範囲にすることが望ましい。
【0047】
なお、本実施形態では、凸レンズ状突起3を全て等形状および等寸法にしているが、異なる寸法や形状の凸レンズ状突起3を混在させることにより、光改質効果や、得られる改質光の光量などを異ならせることも可能である。例えば、時刻や季節による自然光の入射方向、入射強度、および波長成分の変化を考慮して、植物育成施設の壁面や天井面における凸レンズ状突起3の分布を決定すれば、時刻や季節に応じて、光改質効果や、得られる改質光の光量などを異ならせることが可能である。
【0048】
ここで、本願出願人が検討した凸レンズ状突起3の形状に関するパラメータのうち、受光面の出光面に対する面積比、すなわち、凸曲面3aの平坦面3bに対する面積比の設定について説明する。凸レンズ状突起3の凸曲面3aは、その凸形状により、植物育成フィルム1に向かって照射してくる各方位からの光を平坦面よりも多く受光することができ、外部の光を効率的に取り込むことができる。また、受光した光を凸曲面形状によって集光することができ、あるいは、凸レンズ状突起3内で反射あるいは放射された光を凸曲面3aの内面に沿って反射させつつ平坦面3bに向けて誘導して、平坦面3bから出射させることができる。このように、受光面側を凸曲面にした構成では、均一な厚さの蛍光樹脂フィルムを通過させる場合に比べて、平坦面3b側への改質光の出光量を増大させることができる。よって、植物育成フィルム1に入射する光を効率よく植物の育成に利用することができる。また、凸レンズ状突起3内での光の散乱によって改質効果を高めることができると共に、改質された光を平坦面3bから拡散させて出射することができるので、植物への光の当たりむらを少なくすることができる。
【0049】
図4は、凸レンズ状突起3における凸曲面3a(受光面)の平坦面3b(出光面)に対する面積比と、改質光のR/B比との関係を示すグラフである。なお、このグラフは、蛍光染料の含有率を0.02重量%とし、凸レンズ状突起3の直径を2mmとした場合の計算結果である。この図に示すように、受光面の出光面に対する面積比、すなわち、凸曲面3aの平坦面3bに対する面積比が増大するにつれて、改質光のR/B比が増大している。そして、面積比がほぼ140%のときに、改質光のR/B比が1.5に到達している。本実施形態では、このような計算結果をふまえて、凸曲面3aの平坦面3bに対する面積比を140%以上とするように、凸レンズ状突起3の形状を設定している。なお、図4によれば、面積比を200%以上とすればR/B比は2.5に近い値となるので、植物育成により適した光を供給することができる。
【0050】
次に、凸レンズ状突起3における蛍光染料の含有率(蛍光染料濃度)の設定について説明する。図5は、直径1mmの半球形の凸レンズ状突起3における蛍光染料の含有率(蛍光染料濃度)と、この凸レンズ状突起3における緑色光の吸収率および赤色光の透過率との関係を示すグラフである。この図によれば、蛍光染料濃度が0.2重量%程度になるまでは緑色光の吸収率が増大している。また、蛍光染料濃度が0.1重量%を超えるあたりから、赤色光の透過率が低下している。同様に、直径2mmの半球形の凸レンズ状突起3については、0.02重量%程度まで濃度を低下させてもそれほど緑色光の吸収率が変わらないことを確認した。
【0051】
図6は、直径0.5mmの半球型の凸レンズ状突起3における蛍光染料の含有率(蛍光染料濃度)と、R/B比との相関関係を示すグラフである。図6において、蛍光染料濃度0.1%から1.0%までのデータに基づく近似直線を破線で示す。このグラフでは、蛍光染料濃度が概ね0.3重量%以上のときにR/B比が1.5以上となっている。よって、直径が0.5mmの場合には、蛍光染料濃度が0.3重量%から1.0重量%の範囲でR/B比が1.5以上となり、この範囲でR/B比の増大効果があることを確認できる。なお、このグラフには1.0重量%よりも蛍光染料濃度が大きい場合のデータを示していないが、製造の容易さなどを考慮すると、蛍光染料濃度の上限を1.0重量%程度にしておくのが望ましい。また、同様に、凸レンズ状突起3の直径を1.0mm、2.0mm、3.0mmの場合について、蛍光染料濃度とR/B比との相関関係とを検証した結果、R/B比が植物の育成に適した値となる蛍光染料濃度の範囲は、表1に示すような範囲であることを確認した。
【0052】
【表1】
【0053】
このように、蛍光染料の含有率については、凸レンズ状突起3の寸法や形状にもよるが、R/B比の増大効果が高い最適な含有率の範囲を設定することが可能である。本願出願人は、凸レンズ状突起3の半径を0.5mm以上3mm以下とした場合の最適な蛍光染料の含有率を検討し、その結果、目標とするR/B比が1.5以上5以内である場合には、凸レンズ状突起3の寸法や形状にもよるものの、蛍光染料の含有率を0.02重量%以上1.0重量%以下の範囲内にするのが望ましいという知見を得ている。また、0.02重量%以上1.0重量%以下の濃度範囲内においては、凸レンズ状突起3の寸法が小さい場合には、寸法が大きい場合よりも、蛍光染料の含有量をより多くするのが望ましいという知見を得ている。具体的には、上記のような透過率や吸収率の特性などを考慮すれば、凸レンズ状突起3が直径1mm程度あるいは直径2mm程度の場合には、蛍光染料の最適濃度範囲を、0.02重量%以上0.2重量%以下の範囲とするのが望ましい。また、凸レンズ状突起3が直径0.5mm程度の場合には、蛍光染料の最適濃度範囲を0.3重量%以上1.0重量%以下とするのが望ましい。
【0054】
続いて、凸レンズ状突起3の配置間隔の設定について説明する。図7は、図2(a)〜(c)の各配置パターンにおいて、隣接する凸レンズ状突起3間の間隔Dと、凸レンズ状突起3の半径Rとの比率(D/R)を変数とした場合に、凸レンズ状突起3の配置部分の全体面積に対する面積率がどのように変動するかを示すグラフである。この図によれば、凸レンズ状突起3の配置部分の面積率を25%以上にするためには、図2(a)〜(c)の各配置パターンにおいて、それぞれ、図2(a)の配列ではD≦R、図2(b)の配列ではD≦2R、図2(c)の配列ではD≦3Rとなるように、凸レンズ状突起3の半径Rと間隔Dとの関係を設定しておくのが望ましい。例えば、図2(a)の配列では、凸レンズ状突起3の半径を0.5mm以上3mm以下にした場合には、間隔Dについても0.5mm以上3mm以下の範囲内にするのが望ましい。
【0055】
(製造方法)
次に、植物育成フィルム1の製造方法について説明する。植物育成フィルム1は、蛍光染料を配合した硬化型樹脂に溶剤を配合して樹脂溶液とし、これを金型中で凸レンズ状突起3の配列形状に成形しつつ、フィルム状あるいは板状の透光性部位の表面に転写する方法により製造できる。
【0056】
あるいは、蛍光染料を含有した熱可塑性樹脂フィルムに、透明なフィルム材あるいは透明板を積層した2層構造のフィルム材あるいは板材を用意する。そして、このフィルム材あるいは板材を加熱金型内に入れて、凸レンズ状突起3の配列形状が形成されている型面により、蛍光染料を含有している熱可塑性樹脂フィルム層に凸レンズ状突起3の配列形状を転写して、植物育成フィルム1を製造することもできる。この方法では、凸レンズ状突起3間の隙間に蛍光樹脂層が残ってしまうため、凸レンズ状突起3の隙間に残る蛍光樹脂層の厚さを可能な限り薄くするように、元の蛍光樹脂層の厚さを設定しておくことが望ましい。凸レンズ状突起3の隙間に残る蛍光樹脂層を極力薄くすることにより、より効率良く光を改質することができ、自然光の利用効率を高めることができる。
【0057】
(試作品)
次に、植物育成フィルム1の試作品の製造方法およびその光学特性について説明する。
【0058】
(1)アクリル系樹脂タイプ
アクリルウレタン紫外線硬化型樹脂に、BASFアクチェンゲゼルシャフト社製の蛍光染料(Lumogen Fシリーズ/Red305)を、0.02重量%の含有率となるように配合し、更に溶剤を配合して樹脂溶液としたものを、アルミ板に直径2mmの大きさの半球状の凹部をピッチ0.5mmで一面に掘り込んだ型面を有する金型内に均等に流し込み、その上からPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを被せた後、紫外線を照射して硬化させる。硬化後、PETフィルムごと型面から外して、表面に微細な凸レンズ状突起3の配列が転写された光透過性の植物育成フィルム1を作製した。
【0059】
(2)エポキシ系樹脂タイプ
エポキシアクリレート紫外線硬化型樹脂に、BASFアクチェンゲゼルシャフト社製の蛍光染料(Lumogen Fシリーズ/Red305)を、0.02重量%の含有率となるように配合し、更に溶剤を配合して樹脂溶液としたものを、アルミ板に直径2mmの大きさの半球状の凹部をピッチ0.5mmで一面に掘り込んだ型面を有する金型内に均等に流し込み、その上からPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを被せた後、紫外線を照射して硬化させる。硬化後、PETフィルムごと型面から外して、表面に微細な凸レンズ状突起3の配列が転写された光透過性の植物育成フィルム1を作製した。
【0060】
晴天日と曇天日の自然光を、上記試作品(1)のアクリル系樹脂タイプの植物育成フィルム1の受光面(凸レンズ状突起3が配列された面)に照射し、植物育成フィルム1を透過して出射した改質光の波長特性(スペクトル分布)を、回折格子型分光放射計により測定した。
【0061】
図8は晴天日における改質光のスペクトル分布図であり、図9は曇天日における改質光のスペクトル分布図である。図8、9において、Aは改質前の自然光のスペクトル分布であり、Bは本実施形態の植物育成フィルム1による改質光のスペクトル分布である。一方、C1〜C5は比較例であり、C1は蛍光染料を配合していない透明なPETフィルムを透過した光である。また、C2〜C5は特開2007−135583に記載された遮光ネットを透過した光のスペクトル分布であり、C2は赤色の蛍光染料を配合した遮光ネットを1重に設置した場合、C3は赤色の蛍光染料を配合した遮光ネットを3重に設置した場合、C4は赤色と橙色の蛍光染料を配合した遮光ネットを1重に設置した場合、C5は赤色と橙色の蛍光染料を配合した遮光ネットを3重に設置した場合のスペクトル分布である。
【0062】
図8に示す晴天日の測定結果によれば、植物育成フィルム1による改質光は、400nm〜600nm(紫外線〜緑色光)の波長帯の放射量が、元の自然光および他の比較例と比べて格段に少なくなっている。一方、600nm〜700nm(赤色光)の波長帯の光の放射量が他の比較例に比べて格段に多く、元の自然光に含まれる放射量を大きく超える量となっている。このような波長特性により、晴天日における改質光のR/B比は1.73となっている。また、上記試作品(2)のエポキシ系樹脂タイプの植物育成フィルム1を用いた場合には、改質光のR/B比は2.5以上の値が得られている。これに対し、比較例C1の透明PETフィルムを用いた場合のR/B比は0.74である。また、比較例C2の一重の遮光ネット(赤色蛍光染料)を用いた場合のR/B比は0.83であり、この遮光ネット(赤色蛍光染料)を三重に用いた比較例C3の場合でも、R/B比は1.2程度である。また、図9に示す曇天日の測定結果においても、晴天日と同様の改質効果が得られている。
【0063】
(実施形態2)
図10(a)は実施形態2の植物育成フィルムの平面図であり、図10(b)はその断面図である。以下、実施形態2について、実施形態1と同一の構成の部分については同一の符号で示し、異なる部分についてのみ説明する。植物育成フィルム11は、可撓性の光透過性フィルム12(透光性部位)と、半球形の多数の凸レンズ状突起3(突起状光学素子部位)を有している。光透過性フィルム12の一方の表面12aには半球形の多数の窪み14が一定間隔で形成されており、各窪み14には、窪み14の内側に凸曲面3aを向けた姿勢で凸レンズ状突起3が嵌め込まれている。これにより、各凸レンズ状突起3は、その中心軸が、光透過性フィルム12の表面12aおよびもう一方の表面12bに対して垂直になるように埋め込まれた状態になる。各凸レンズ状突起3および各窪み14は、凸曲面3aを窪み14の内側に密着させたときに平坦面3bと光透過性フィルム12の表面12aとが面一になるように、対応する形状に形成されている。
【0064】
実施形態2の植物育成フィルム11は、凸レンズ状突起3における蛍光染料の含有率、凸レンズ状突起3の形状、寸法、配置パターンなどが、実施形態1と同様に設定されており、これにより、R/B比が0.6程度の自然光が、植物育成フィルム11を通過することにより1.5〜5程度のR/B比の光に改質されるように構成されている。
【0065】
植物育成フィルム11は、各凸レンズ状突起3の凸曲面3aが光透過性フィルム12に埋め込まれているので、窪み14が形成されている表面12aを植物の側に向け、もう一方の表面12b(受光面)に外部からの自然光が入射するように設置される。これにより、光透過性フィルム12を透過した自然光を凸曲面3aに入射させて平坦面3bから植物に向かって出射させることができるので、各凸レンズ状突起3内を通過する際にR/B比が増大した改質光を植物に供給することができる。また、植物育成フィルム11は、凸レンズ状突起3の凸曲面3aが内部に埋め込まれていて表裏両面が平坦となっている。よって、設置位置や設置方法の自由度が高い光改質用光学部材として利用できる。また、実施形態1と同様に、光透過性フィルム12の代わりに板状の透光性部位を用いた場合には、剛性があり、両面が平坦な植物育成資材となるので、光改質機能を有する一体型の資材となる。よって、植物育成施設や育成キットなどの構成の簡素化、部材数の削減、コスト削減などを図ることができる。
【0066】
実施形態2の植物育成フィルム11を製造するには、光透過性フィルム12の表面12aに窪み14を形成しておき、ここに、蛍光染料を含有する樹脂素材を充填して硬化させ、樹脂素材の表面を平坦にして表面12aと面一にする。あるいは、可撓性の光透過性フィルム12に代えて光透過性ガラスからなる透明板を使用して、この透明板にエッチング等により窪み14を形成し、蛍光染料を含有する樹脂素材を充填することにより、実施形態1と同様に、剛性のある板状の光改質用光学部材を形成してもよい。樹脂素材は、実施形態1の試作品(1)(2)で用いたアクリル系樹脂やエポキシ系樹脂などの紫外線硬化型樹脂を用いることができる。また、熱硬化型樹脂に蛍光染料および溶剤を配合した樹脂溶液を窪み14に充填した後、加熱硬化させる方法により製造することもできる。
【0067】
(改変例1)
図11(a)は改変例1の植物育成フィルムの平面図であり、図11(b)はその断面図である。改変例1の植物育成フィルム21は、実施形態1の植物育成フィルム1における光透過性フィルム2の表面2aのうち、凸レンズ状突起3が配置されていない隙間部分を、遮光材5によって覆ったものである。このようにすると、凸レンズ状突起3に入射せずに光透過性フィルム2のみを透過して植物育成フィルム21から出射する光を遮蔽することができる。凸レンズ状突起3の隙間部分に入射した光は、そのほとんどが凸レンズ状突起3によって改質されずに光透過性フィルム2を通り抜けてしまう。そこで、隙間部分を遮蔽することにより、改質されない光の通過割合を減少させて、植物育成フィルム21を通過した光のR/B比を増大させることができる。遮光材5による遮蔽面積は、達成すべき遮蔽率に応じて、任意の広さに設定することができる。
【0068】
遮光材5としては、アルミ薄膜や、アルミニウム粉あるいはアルミナ粉等によって形成されたものが用いられるが、このような材質に限定されるものではない。また、アルミ薄膜や、アルミニウム粉あるいはアルミナ粉等によって形成された遮光材は、光を反射あるいは散乱するように形成することができるので、凸レンズ状突起3の隙間に入射した直達光成分を反射あるいは散乱させて凸レンズ状突起3に誘導することができる。このようにすれば、凸レンズ状突起3に入射する光の割合を増加させることができるので、自然光の利用効率を高めつつ、更にR/B比を増大させることができる。
【0069】
なお、図11(a)(b)には、上記の実施形態1の植物育成フィルム1における凸レンズ状突起3の隙間を遮光材5によって遮蔽した構成を示したが、実施形態2の植物育成フィルム11における凸レンズ状突起3の隙間を遮光材5によって遮蔽した構成にしてもよい。
【0070】
(改変例2)
図12(a)は改変例2の植物育成フィルムの平面図であり、図12(b)はその断面図である。改変例2の植物育成フィルム31は、実施形態1の植物育成フィルム1における各凸レンズ状突起3に、アルミ薄膜、アルミニウム粉、アルミナ粉等によって形成された反射体6を埋め込んだものである。反射体6は、凸レンズ状突起3よりも一回り小さい円板状に形成されており、各凸レンズ状突起3の出光面である平坦面3bの中央に埋め込まれている。なお、反射体6の形状はこのような形状に限定されず、各種の形状にすることができる。
【0071】
このような構成では、反射体6に入射する直達光が反射されて凸レンズ状突起3の内部で散乱されるので、直達光を遮蔽しつつ、凸レンズ状突起3内の蛍光染料による光の吸収量および蛍光の発生量を増大させることができる。また、反射体6を設けることにより、遮光率の調整も可能である。なお、改変例1と同様に、実施形態2の植物育成フィルム11における凸レンズ状突起3に反射体6を埋め込むことも可能である。
【0072】
(改変例3)
図13は改変例3の植物育成フィルムの平面図である。改変例3の植物育成フィルム41は、実施形態1の植物育成フィルム1において、凸レンズ状突起3が配置されていない隙間部分に、光透過性フィルム2を貫通する通気孔7を形成したものである。このようにすれば、植物育成フィルム41によって植物に供給する光を改質しつつ、通気孔7から通気を行って植物の近傍の育成環境を調整することができる。通気孔7の寸法および形成位置は、必要とする通気量などに応じて適宜設定すればよい。
【0073】
(改変例4)
上記各構成の植物育成フィルムに、有害な光(例えば、紫外線、赤外線等)をカットする膜を積層した構成にしてもよい。このようにすれば、所望の波長成分の光をカットして、植物に応じて、あるいは、育成段階に応じて、育成に最適な光を供給できる。また、凸レンズ状突起3が配列されている面に保護膜をコーティングすることにより、蛍光染料を含有する凸レンズ状突起3を保護して、光改質機能を保持させることができる。
【0074】
(改変例5)
上記各構成では、凸曲面3aの平面形状を円形にしていたが、楕円形などの長円形であってもよい。このとき、凸曲面3aをその平面形状に沿った横長の半長球形にしてもよい。また、凸曲面3aを、その突出方向に長い縦長の半長球形にしてもよく、球面や長球面以外の凸曲面にしてもよい。あるいは、中心軸が傾いているアシンメトリーな凸曲面形状にしてもよい。但し、いずれの凸曲面形状においても、凸曲面(受光面)の平坦面(出光面)に対する面積比を140%以上にすることが望ましい。また、凸レンズ状突起3を、上端面を半球形にした円柱状とし、その下端面を平坦面とした形状にしてもよい。この形状では、円柱部分の上端縁が、円柱の底面中心から見て仰角が20度以内の位置になるように円柱部分の高さを設定することが望ましい。
【0075】
図14は光透過性フィルム2の表面2aに対する凸曲面3aの接触角度の説明図である。凸曲面3aは上記のように様々な形状にすることができるが、いずれの形状の場合にも、凸曲面3aの光透過性フィルム2の表面2aに対する接触角度θ(接触位置における凸曲面3aの接線と、表面2aとのなす角度)を、90度±40度の範囲内にすることが望ましい。凸曲面3aが半球面であり、その中心軸と表面2aが直交している場合には、凸曲面3aは、表面2aに対して90度の角度をなすように接触している。本願出願人は、各種の凸曲面形状について検討し、凸レンズ状突起内で発生した蛍光のうち、どの程度の割合を平坦面3bを介して表面2aに入射させ、光透過性フィルム2を透過させることができるかの試算を行った。その結果、凸曲面3a内で発生した蛍光のうち、所定の割合以上(自然光を1.5〜5程度のR/B比の光に改質できる程度の量)を光透過性フィルム2の表面2bから出射させるためには、凸曲面3aの表面2aに対する接触角度θを、90度±40度の範囲内にすることが望ましいという知見を得た。
【0076】
すなわち、凸曲面3aを有する凸レンズ状突起3内では、蛍光染料を含有する樹脂素材の各部分から発生した蛍光は全方位に放射される。凸曲面3a側へ放射された成分のうち、凸曲面3aへの入射角度が全反射されるか否かの臨界角度よりも小さい成分は、凸曲面3aの内面で全反射されながら凸曲面3aに沿って誘導されて表面2aに入射する。また、平坦面3b側へ放射された成分のうち、平坦面3bで全反射されて凸曲面3a側に向かった成分についても、同様に凸曲面3aへの入射角度が臨界角度よりも小さければ凸曲面3aに沿って誘導され、表面2aに入射する。つまり、凸レンズ状突起3は、内部で発生した蛍光のうち、従来の平坦なフィルム形状であれば端面側に逃げたり受光面側に逃げてしまって有効利用できなかった成分を、凸曲面3aに沿って誘導することにより、凸曲面3aと表面2aとの接触角度θに応じた入射角度で表面2aに入射させることができる。そして、このとき、凸曲面3aと表面2aとの接触角度θを大きくする、具体的には、θを90度±40度の範囲内にすることにより、凸曲面3aに沿って表面2aに入射する蛍光成分を高い割合で光透過性フィルム2内に入射させ、全反射させずに光透過性フィルム2を透過させて表面2bから出射させることができる。
【0077】
このように、植物育成フィルム1における出光面(光透過性フィルム2の表面2b)側への蛍光の出光比率が、求める改質光の生成に必要な比率よりも小さくならないようにするためには、凸曲面3aと表面2aとの接触角度θを考慮して、凸レンズ状突起3の形状、および、その光透過性フィルム2への取付姿勢を設定することが望ましい。
【0078】
(改変例6)
図15(a)(b)は改変例6の植物育成フィルムの断面図である。実施形態1では凸レンズ状突起3全体を蛍光染料を混入した樹脂素材で形成していたのに対し、改変例6の植物育成フィルム51では、図15(a)に示すように、凸曲面3aに沿った外周部分だけを所定の厚さの蛍光樹脂層52とし、その内側の半球状の部分を透明樹脂層53とすることにより、凸レンズ状突起54(突起状光学素子部位)を形成している。上記改変例5で説明したように、半球状や半長球状などの凸曲面3aを有する樹脂素材内では、発生した蛍光のうち凸曲面3aに沿って誘導される成分については有効利用される割合が高い。すなわち、このような形状では、内部に入射した光や反射光、散乱光などのうち、凸曲面3aに近い外周側の部分に届いた光によって発生した蛍光は、凸曲面3aに沿って誘導されて有効利用される割合が高い。一方、半球状や半長球状などの樹脂素材の中心部分で蛍光を発生させても、凸曲面3aから外部に出射されてしまって有効利用される割合が低いといえる。改変例6は、この点を考慮して、利用される蛍光が多い側だけを蛍光樹脂層52としたものである。蛍光樹脂層52の厚さtについては、有効利用できる蛍光の量と厚さtとの相関などを検討した結果、厚さtを、少なくとも凸レンズ状突起54の半径の1/5以上にする必要があるとの知見を得ている。
【0079】
改変例6の植物育成フィルム51の製造は、以下のように行うことができる。まず、PETフィルムなどの光透過性フィルムや透明樹脂板や硝子板などの板材の表面に、実施形態1において凸レンズ状突起3の配列を転写したのと同様の方法によって、微細な半球状の透明樹脂層53の配列を形成する。その後、蛍光染料および溶剤を配合した樹脂溶液を透明樹脂層53の表面に厚塗り印刷し、熱硬化あるいは乾燥硬化させて蛍光樹脂層52を形成する。これにより、光透過性フィルム2の表面に、凸レンズ状突起54が配列される。なお、表面に半球状の透明樹脂層53が配列された光透過性フィルムや透明樹脂板などを、一体成形により形成するか、あるいは、加熱金型によって透明樹脂層53の配列形状を転写することにより形成しておき、その後、各透明樹脂層53の表面に、蛍光樹脂層52を形成してもよい。
【0080】
なお、実施形態2における光透過性フィルム12の表面12aに形成した窪み14に、改変例6の凸レンズ状突起54を埋め込んだ構造にしてもよい。あるいは、図15(b)に示すように、窪み14の内面に、蛍光染料および溶剤を配合した樹脂溶液の層を厚塗り印刷によって形成することにより、凸レンズ状突起54の蛍光樹脂層52の部分だけを窪み14に埋め込んだ構成にしてもよい。このように、突起状光学素子部位を蛍光樹脂層52のみから構成していても、必要な蛍光は、蛍光樹脂層52の端面52a(平坦面3aの外周部分に相当する部分)から光透過性フィルム12の表面12b側に出射される。よって、必要な改質光が得られる。
【0081】
(改変例7)
図16は改変例7の植物育成フィルムの断面図である。改変例7の植物育成フィルム61は、薄いPETフィルムなどの光透過性フィルム62に半球状あるいは半長球状などの凹部63を実施形態2における窪み14と同様の配列で形成しておき、この凹部63に蛍光染料を含有する樹脂素材を充填して硬化させ、上記凸レンズ状突起3を埋め込んだのと同じ状態にしたものである。実施形態2との相違点は、改変例7では、光透過性フィルムフィルム62における凹部63の部分が受光面62a側に突出して凹凸形状になっていることである。
【0082】
改変例7の構成は、薄手の凹凸が形成されたPETフィルムなどの既製品の素材に樹脂素材を充填し硬化させるだけで製造できるので、廉価かつ容易に製造することができる。また、光透過性フィルム62が凸レンズ状突起3の表面を覆っており保護膜として機能するので、凸レンズ状突起3が露出している構成に比べて耐久性が高い。
【0083】
(応用1)
図17は、本実施形態の植物育成フィルムを用いたブラインド(植物育成装置)の説明図である。ブラインド8は、多数の細長い可動板8aと、これらの可動板8aを水平にして一列に並べた状態に連結している図示しない角度調整機構を有している。この角度調整機構は、これらの可動板8aを連動して角度調整可能な状態に保持している。各可動板8aは、上記の各実施形態の植物育成フィルムを細長い透明な板材の表面に積層したもの、もしくは、透明な樹脂板あるいは硝子板の表面に凸レンズ状突起3、あるいは改変例6のような凸レンズ状突起54を配列した剛性のある植物育成資材により形成されている。
【0084】
このように、光改質機能を有する植物育成フィルム、あるいは、板状の光改質用光学部材によりブラインド8を形成すれば、自然光を改質して植物に供給するときには可動板8aの隙間を閉じた状態にすればよく、また、必要に応じて可動板8aの角度を調整して隙間を大きくすることにより、改質光と自然光の割合を適宜調整して植物に供給することができる。また、可動板8aの間の隙間を調整することにより通気量を容易に調整することができる。なお、各可動板8aの両端に回転軸を設けて枠体などに保持させたルーバー状の植物育成装置を形成してもよい。あるいは、可撓性の植物育成フィルムをロールブラインドのような形態で設置してもよい。
【0085】
(応用2)
上記各実施形態では、本発明の光改質用光学部材を植物育成用に用いた例を記載しているが、他の用途に用いてもよい。例えば、R/B比が大きい光環境下での飼育や育成が適している動物や昆虫、水中生物などの各種生物の育成環境を確保するために用いても良い。あるいは、R/B比が大きい光環境下で扱うことが望ましい物体を用いる作業環境を確保するために用いても良い。また、改質対象の光は自然光に限定されない。例えば、自然光と同様あるいは類似したスペクトル分布を有する人工光を改質することもできる。また、これらの各用途において、ピーク吸光特性およびピーク放射光特性が異なる様々な蛍光染料の中から適切な種類のものを選定することにより、様々な光に対して所望の光改質効果が得られるようにすることもできる。
【符号の説明】
【0086】
1、11、21、31、41、51、61 植物育成フィルム
2、12、62 光透過性フィルム
2a、2b、12a、12b 表面
3、54 凸レンズ状突起(突起状光学素子部位)
3a 凸曲面
3b 平坦面
4 植物育成施設
4a 天井面
4b 天井部分
4c 西側側面
4d 南側側面
5 遮光材
6 反射体
7 通気孔
8 ブラインド(植物育成装置)
8a 可動板
14 窪み
52 蛍光樹脂層
52a 端面
53 透明樹脂層
62a 受光面
63 凹部
D 間隔
R 半径
t 厚さ
θ 接触角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面が凸曲面であり、他方の面の少なくとも外周部分が平坦面である複数の突起状光学素子部位と、
フィルム状あるいは板状の透光性部位とを有し、
前記複数の突起状光学素子部位は、前記透光性部位の受光面または当該受光面と平行な同一平面に沿って、前記凸曲面が前記受光面と同じ側を向くように離散配置された状態で前記透光性部位に保持されており、
各突起状光学素子部位は、少なくとも前記凸曲面に沿った部分が蛍光染料を含有する樹脂素材により形成されていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項2】
請求項1に記載の光改質用光学部材であって、
前記蛍光染料が、紫外線から緑色光までの波長領域の少なくとも一部分の光を吸収して、当該吸収した光よりも波長が長い青色光から赤色光までの波長領域の少なくとも一部分の光を生成するものであることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位は、前記凸曲面から自然光が入射した場合における前記他方の面からの出射光のR/B比が、1.5から5.0までの範囲内の値となるように形成されていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位は、その内部において前記蛍光染料によって生成された蛍光の放射量のうち所定の割合以上が、前記平坦面から出光するように形成されていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位は、前記他方の面全体を平坦面としたときの当該平坦面に対する前記凸曲面の面積比が140%以上となるように形成されていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位は、前記凸曲面が前記受光面から突出している状態で保持されており、
前記受光面と前記凸曲面との接触位置において、前記受光面に対して前記凸曲面が50度以上90度以下の範囲内の角度で接触していることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位は、前記樹脂素材からなる蛍光樹脂層が、少なくとも各突起状光学素子部位の半径の1/5以上の厚さで前記凸曲面に沿って形成されていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
前記樹脂素材における蛍光染料の含有量が0.02重量%以上1.0重量%以下の範囲内であることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位の径寸法が0.5mm以上3mm以下の範囲内であることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項10】
請求項9に記載の光改質用光学部材であって、
以下の(1)(2)のいずれかの条件を満たすように前記突起状光学素子部位が形成されていることを特徴とする光改質用光学部材。
(1)各突起状光学素子部位の径寸法が0.5mmであり、且つ、前記樹脂素材における蛍光染料の含有量が0.3重量%以上1.0重量%以下であること
(2)各突起状光学素子部位の径寸法が1.0mmまたは2.0mmであり、且つ、前記樹脂素材における蛍光染料の含有量が0.02重量%以上0.2重量%以下であること
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
前記凸曲面は半球面であることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位と隣接する突起状光学素子部位の間隔をDとし、各突起状光学素子部位の半径をRとしたときに、以下の(1)〜(3)のいずれかの条件を満たすように前記突起状光学素子部位が配置されていることを特徴とする光改質用光学部材。
(1)前記突起状光学素子部位が格子状に配置され、且つ、D≦Rであること
(2)前記突起状光学素子部位が面心格子状に配置され、且つ、D≦2Rであること
(3)前記突起状光学素子部位が六方晶細密充填構造状に配置され、且つ、D≦3Rであること
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
前記透光性部位の受光面における前記突起状光学素子部位の隙間の少なくとも一部に、遮光材が設けられていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項14】
請求項1ないし12のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
前記突起状光学素子部位の内部に、反射材または光散乱材が埋め込まれていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
前記透光性部位の出光面に、複数の窪みが離散配置された状態に形成されており、
各窪みに、前記突起状光学素子部位が埋め込まれていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれかの項に記載の光改質用光学部材を用意し、
育成対象の植物に供給される光が、各突起状光学素子部位の前記凸曲面から入射して前記平坦面から出射した後、前記植物に到達するように前記光改質用光学部材を設置して、前記植物を育成することを特徴とする植物の育成方法。
【請求項17】
複数の可動板と、
当該複数の可動板の角度を連動させて調整するための角度調整機構とを有し、
前記複数の可動板の少なくとも一部が、請求項1ないし15のいずれかの項に記載の光改質用光学部材により形成されていることを特徴とする植物育成用装置。
【請求項18】
硬化型樹脂に蛍光染料および溶剤を配合した樹脂溶液を、複数の凸曲面を平面上に所定間隔で並べた凹凸パターンの反転形状を有する金型内に導入し、前記樹脂溶液を硬化させつつフィルム状あるいは板状の透光性部位の表面に転写することにより、請求項1ないし14のいずれかの項に記載の光改質用光学部材を形成することを特徴とする光改質用光学部材の製造方法。
【請求項19】
蛍光染料を含有するフィルム状あるいは板状の熱可塑性樹脂材を加熱金型により変形させることにより、当該熱可塑性樹脂材の表面に複数の凸曲面を平面上に所定間隔で並べた凹凸パターンを転写して、請求項1ないし14のいずれかの項に記載の光改質用光学部材を形成することを特徴とする光改質用光学部材の製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の光改質用光学部材の製造方法において、
フィルム状あるいは板状の前記透光性部位の表面に、前記フィルム状あるいは板状の前記熱可塑性樹脂材を設けた積層体を用意し、
当該積層体における当該積層体における前記蛍光染料を含有する前記熱可塑性樹脂材の層を、前記加熱金型により変形させることを特徴とする光改質用光学部材の製造方法。
【請求項21】
フィルム状あるいは板状の透光性部位の表面に複数の窪みを所定間隔で形成しておき、
各窪みに、蛍光染料を配合した樹脂素材を充填して表面を平坦に形成し、前記樹脂素材を硬化させることにより、請求項15に記載の光改質用光学部材を形成することを特徴とする光改質用光学部材の製造方法。
【請求項22】
フィルム状あるいは板状の前記透光性部位の表面に複数の突起を所定間隔で形成しておき、
各突起の表面に蛍光染料を配合した樹脂素材の層を印刷により形成して、請求項1ないし14のいずれかの項に記載の光改質用光学部材を形成することを特徴とする光改質用光学部材の製造方法。
【請求項1】
一方の面が凸曲面であり、他方の面の少なくとも外周部分が平坦面である複数の突起状光学素子部位と、
フィルム状あるいは板状の透光性部位とを有し、
前記複数の突起状光学素子部位は、前記透光性部位の受光面または当該受光面と平行な同一平面に沿って、前記凸曲面が前記受光面と同じ側を向くように離散配置された状態で前記透光性部位に保持されており、
各突起状光学素子部位は、少なくとも前記凸曲面に沿った部分が蛍光染料を含有する樹脂素材により形成されていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項2】
請求項1に記載の光改質用光学部材であって、
前記蛍光染料が、紫外線から緑色光までの波長領域の少なくとも一部分の光を吸収して、当該吸収した光よりも波長が長い青色光から赤色光までの波長領域の少なくとも一部分の光を生成するものであることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位は、前記凸曲面から自然光が入射した場合における前記他方の面からの出射光のR/B比が、1.5から5.0までの範囲内の値となるように形成されていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位は、その内部において前記蛍光染料によって生成された蛍光の放射量のうち所定の割合以上が、前記平坦面から出光するように形成されていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位は、前記他方の面全体を平坦面としたときの当該平坦面に対する前記凸曲面の面積比が140%以上となるように形成されていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位は、前記凸曲面が前記受光面から突出している状態で保持されており、
前記受光面と前記凸曲面との接触位置において、前記受光面に対して前記凸曲面が50度以上90度以下の範囲内の角度で接触していることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位は、前記樹脂素材からなる蛍光樹脂層が、少なくとも各突起状光学素子部位の半径の1/5以上の厚さで前記凸曲面に沿って形成されていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
前記樹脂素材における蛍光染料の含有量が0.02重量%以上1.0重量%以下の範囲内であることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位の径寸法が0.5mm以上3mm以下の範囲内であることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項10】
請求項9に記載の光改質用光学部材であって、
以下の(1)(2)のいずれかの条件を満たすように前記突起状光学素子部位が形成されていることを特徴とする光改質用光学部材。
(1)各突起状光学素子部位の径寸法が0.5mmであり、且つ、前記樹脂素材における蛍光染料の含有量が0.3重量%以上1.0重量%以下であること
(2)各突起状光学素子部位の径寸法が1.0mmまたは2.0mmであり、且つ、前記樹脂素材における蛍光染料の含有量が0.02重量%以上0.2重量%以下であること
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
前記凸曲面は半球面であることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
各突起状光学素子部位と隣接する突起状光学素子部位の間隔をDとし、各突起状光学素子部位の半径をRとしたときに、以下の(1)〜(3)のいずれかの条件を満たすように前記突起状光学素子部位が配置されていることを特徴とする光改質用光学部材。
(1)前記突起状光学素子部位が格子状に配置され、且つ、D≦Rであること
(2)前記突起状光学素子部位が面心格子状に配置され、且つ、D≦2Rであること
(3)前記突起状光学素子部位が六方晶細密充填構造状に配置され、且つ、D≦3Rであること
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
前記透光性部位の受光面における前記突起状光学素子部位の隙間の少なくとも一部に、遮光材が設けられていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項14】
請求項1ないし12のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
前記突起状光学素子部位の内部に、反射材または光散乱材が埋め込まれていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかの項に記載の光改質用光学部材であって、
前記透光性部位の出光面に、複数の窪みが離散配置された状態に形成されており、
各窪みに、前記突起状光学素子部位が埋め込まれていることを特徴とする光改質用光学部材。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれかの項に記載の光改質用光学部材を用意し、
育成対象の植物に供給される光が、各突起状光学素子部位の前記凸曲面から入射して前記平坦面から出射した後、前記植物に到達するように前記光改質用光学部材を設置して、前記植物を育成することを特徴とする植物の育成方法。
【請求項17】
複数の可動板と、
当該複数の可動板の角度を連動させて調整するための角度調整機構とを有し、
前記複数の可動板の少なくとも一部が、請求項1ないし15のいずれかの項に記載の光改質用光学部材により形成されていることを特徴とする植物育成用装置。
【請求項18】
硬化型樹脂に蛍光染料および溶剤を配合した樹脂溶液を、複数の凸曲面を平面上に所定間隔で並べた凹凸パターンの反転形状を有する金型内に導入し、前記樹脂溶液を硬化させつつフィルム状あるいは板状の透光性部位の表面に転写することにより、請求項1ないし14のいずれかの項に記載の光改質用光学部材を形成することを特徴とする光改質用光学部材の製造方法。
【請求項19】
蛍光染料を含有するフィルム状あるいは板状の熱可塑性樹脂材を加熱金型により変形させることにより、当該熱可塑性樹脂材の表面に複数の凸曲面を平面上に所定間隔で並べた凹凸パターンを転写して、請求項1ないし14のいずれかの項に記載の光改質用光学部材を形成することを特徴とする光改質用光学部材の製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の光改質用光学部材の製造方法において、
フィルム状あるいは板状の前記透光性部位の表面に、前記フィルム状あるいは板状の前記熱可塑性樹脂材を設けた積層体を用意し、
当該積層体における当該積層体における前記蛍光染料を含有する前記熱可塑性樹脂材の層を、前記加熱金型により変形させることを特徴とする光改質用光学部材の製造方法。
【請求項21】
フィルム状あるいは板状の透光性部位の表面に複数の窪みを所定間隔で形成しておき、
各窪みに、蛍光染料を配合した樹脂素材を充填して表面を平坦に形成し、前記樹脂素材を硬化させることにより、請求項15に記載の光改質用光学部材を形成することを特徴とする光改質用光学部材の製造方法。
【請求項22】
フィルム状あるいは板状の前記透光性部位の表面に複数の突起を所定間隔で形成しておき、
各突起の表面に蛍光染料を配合した樹脂素材の層を印刷により形成して、請求項1ないし14のいずれかの項に記載の光改質用光学部材を形成することを特徴とする光改質用光学部材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−28253(P2011−28253A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144769(P2010−144769)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(507386807)きそミクロ株式会社 (2)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(507386807)きそミクロ株式会社 (2)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]