説明

光架橋ヒアルロン酸及び該光架橋ヒアルロン酸からなる医用材料

【課題】医用材料としての必要特性であるバリア効果及び分解性に優れた光架橋ヒアルロン酸及び該光架橋ヒアルロン酸からなる医用材料の提供。
【解決手段】ヒアルロン酸と下記一般式(1)で表されるグリシジルエステルが共有結合した光反応性ヒアルロン酸に光照射して得られる光架橋ヒアルロン酸であり、該光反応性ヒアルロン酸に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性基である不飽和炭素二重結合同士が架橋してシクロブタン環を形成し、編目構造を有することを特徴とする光架橋ヒアルロン酸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光架橋ヒアルロン酸及び医用材料に関するものであり、より詳細にはカルボキシル基及び不飽和炭素二重結合を有する光反応性化合物のグリシジルエステルが結合した光反応性ヒアルロン酸に光を照射して得られる光架橋ヒアルロン酸及び該光架橋ヒアルロン酸からなる医用材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多糖は生体に由来する安全な高分子物質であることから、その改変物質を各種の医用材
料へ適用する試みがなされている。例えば、多糖の架橋ゲルとして、コンドロイチン硫酸
をジグリシジルエーテルの架橋剤により架橋させてゲル化する例が非特許文献1に記載さ
れている。しかし、このような架橋剤を使用すると、コンドロイチン硫酸と架橋剤との反
応と同時に架橋反応が起こるため、反応終了後に未反応の架橋剤や副生成物を架橋ゲルか
ら除去するのが困難であるという問題点が存在した。他方、架橋剤の除去が不十分なゲル
状の架橋多糖を、例えば癒着防止材として腹腔内に適用した場合、肝臓に障害を起こすこ
とが実験的に確認されていることから、架橋剤除去は重要な問題である。架橋多糖がスポ
ンジ状であれば洗浄による除去も比較的容易であるが、ゲル状物やフィルム形状物では架
橋剤が内部に取り込まれてしまうため、除去は極めて困難となる。
【0003】
そこで、多糖に架橋剤としての光反応性架橋基を有する化合物を結合させて架橋剤の除
去が容易であり、溶液となりうる光反応性多糖を取得し、この光反応性多糖を光架橋させ
る技術が開発され、この様にして得られた光架橋多糖を各種医用材料に用いる試みがなさ
れている。例えば、天然高分子であるグリコサミノグリカンにケイ皮酸、チミン、クマリ
ン等の架橋剤を導入して得た光反応性グリコサミノグリカンを精製することにより未反応
の架橋剤を除去した後、それを紫外線によって光架橋して架橋グリコサミノグリカンを取
得すること及びそれの癒着防止材、薬剤徐放化用担体としての用途が特許文献1に記載さ
れている。また、特許文献2および3には、ケイ皮酸が、アミノ酸またはその誘導体、ペ
プチド、アミノアルコール類あるいはジアミン類から選ばれるスペーサーを介してヒアル
ロン酸に結合した光架橋性ヒアルロン酸誘導体およびその光架橋体が記載されている。
【0004】
また、特許文献4には、ヒアルロン酸の官能基に光反応性架橋基を化学的に結合した光
反応性ヒアルロン酸誘導体に紫外線を照射して得られた特定の物性のハイドロゲルおよび
それを用いた癒着防止効果を有する医用材料が記載されている。特許文献5には、光反応
性多糖を光架橋させて得られる、医療用具に利用可能な多糖スポンジが記載され、特許文
献6には親水性が高められ、その水性溶液の濾過性が改善された光反応性ヒアルロン酸お
よび医用材料が記載されている。さらには医療用高分子材料の中間体としての有用性が高
いヘパリン誘導体を、ヘパリンにグリシジルアクリレートまたはグリシジルメタアクリレ
ートを反応させることにより製造することが特許文献7に記載され、また、グリシジルア
クリレートあるいはグリシジルメタクリレート結合多糖(ヒアルロン酸を除く)およびヒ
アルロン酸との混合物の架橋体が特許文献8に記載されている。
【0005】
医用材料のうち、特に癒着防止材としての必須要件は、十分なバリア効果を持つことお
よび適度な分解性を持つことである。しかしながら、従来の光架橋多糖を癒着防止材とし
て用いる場合、バリア性能を高めようとすると生体内での残留性が極端に長くなってしま
い、他方、適度な分解性を付与しようとすると十分なバリア効果が得られないというジレ
ンマを繰り返してきた。例えば、バリア効果の高い光架橋多糖ゲルのシートあるいはスポ
ンジを癒着防止材として用いた場合、生体内残留性がやや高いという問題が残されていた
。そこで、医用材料として十分な強度を保ちつつ、生体内での分解性に非常に優れた、前
記両方の性状を併せ持つ医用材料、特に癒着防止材の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−73102
【特許文献2】特開平8−143604
【特許文献3】特開平9−87236
【特許文献4】特表平11−512778
【特許文献5】WO02/060971
【特許文献6】特開2002−249501
【特許文献7】特開昭56−147802
【特許文献8】USP6586493
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Eur J. Pharm Sci 2002 Mar;15(2):139-48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、バリア効果が高く適度な分解性を持つ光架橋多糖を見出すべく、鋭意研究
を進めた結果、ヒアルロン酸に特定の架橋剤、即ちカルボキシル基及び不飽和炭素二重結合を有する光反応性化合物のグリシジルエステル(例えばケイ皮酸グリシジルエステル)を結合させた光反応性ヒアルロン酸を光架橋することにより得られる光架橋ヒアルロン酸が、十分なバリア効果を有し早期分解性に優れていることを見出し本発明を完成するに至った。
本発明は、医用材料としての必要特性であるバリア効果及び分解性に優れた光架橋ヒアルロン酸、及び該光架橋ヒアルロン酸からなる医用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するものであり、その要旨は以下に記載の項目からなる。
[1]ヒアルロン酸と下記一般式(1)で表されるグリシジルエステルが共有結合した光反応性ヒアルロン酸に光照射して得られる光架橋ヒアルロン酸であり、該光反応性ヒアルロン酸に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性基である不飽和炭素二重結合同士が架橋してシクロブタン環を形成し、編目構造を有することを特徴とする光架橋ヒアルロン酸。
【0010】
【化1】


〔式中、R−CO−は、それぞれ、分子中にカルボキシル基及び不飽和炭素二重結合を有する光反応性化合物の光反応性残基を示し、該光反応性化合物は、ケイ皮酸、チオフェンアクリル酸、シンナミリデン酢酸又はソルビン酸である。〕
[2]ヒアルロン酸と[1]に記載の一般式(1)で表されるグリシジルエステルが結合した光反応性ヒアルロン酸の溶液に光を照射して得られるゲル状の光架橋ヒアルロン酸であり、該光反応性ヒアルロン酸に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性基である不飽和炭素二重結合同士が架橋してシクロブタン環を形成し、編目構造を有することを特徴とする光架橋ヒアルロン酸。
[3]ヒアルロン酸と[1]に記載の一般式(1)で表されるグリシジルエステルが結合した光反応性ヒアルロン酸の溶液を凍結または凍結乾燥し、凍結した溶液または凍結乾燥物に光を照射して得られるスポンジ状の光架橋ヒアルロン酸であり、該光反応性ヒアルロン酸に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性基である不飽和炭素二重結合同士が架橋してシクロブタン環を形成し、編目構造を有することを特徴とする光架橋ヒアルロン酸。
[4]ヒアルロン酸と[1]に記載の一般式(1)で表されるグリシジルエステルが結合した光反応性ヒアルロン酸の溶液に光照射して生成したゲル状物を凍結し、凍結状態を維持したまま光を照射するか、または該ゲル状物を凍結乾燥した後、光を照射して得られるゲルとスポンジの性質を合わせもつ光架橋ヒアルロン酸であり、該光反応性ヒアルロン酸に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性基である不飽和炭素二重結合同士が架橋してシクロブタン環を形成し、編目構造を有することを特徴とする光架橋ヒアルロン酸。
[5]ヒアルロン酸と[1]に記載の一般式(1)で表されるグリシジルエステルが結合した光反応性ヒアルロン酸の溶液層を乾燥した薄膜に光を照射して得られるフィルム状の光架橋ヒアルロン酸であり、該光反応性ヒアルロン酸に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性基である不飽和炭素二重結合同士が架橋してシクロブタン環を形成し、編目構造を有することを特徴とする光架橋ヒアルロン酸。
[6]ヒアルロン酸と[1]に記載の一般式(1)で表されるグリシジルエステルが結合した光反応性ヒアルロン酸の溶液に光照射して生成したゲル状物を凍結し、凍結状態を維持したまま光を照射し、更に乾燥した後、これに光を照射して得られるフィルム状の光架橋多糖であり、該光反応性ヒアルロン酸に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性基である不飽和炭素二重結合同士が架橋してシクロブタン環を形成し、編目構造を有することを特徴とする光架橋ヒアルロン酸。
[7][1]〜[6]のいずれか一項記載の光架橋ヒアルロン酸からなる医用材料。
[8]癒着防止材である[7]に記載の医用材料。
[9]薬剤徐放用基材である[7]に記載の医用材料。
[10]細胞培養用基材である[7]に記載の医用材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、分子中にカルボキシル基及び不飽和炭素二重結合を有する光反応性化合
物のグリシジルエステルがヒアルロン酸に結合した光反応性ヒアルロン酸を光架橋することにより得られる光架橋ヒアルロン酸が提供でき、該光架橋ヒアルロン酸は、強度や生分解性に優れており、しかも、従来の光架橋グリコサミノグリカンのゲルやスポンジの優れた特徴をそのまま保持している。従って、本発明の光架橋ヒアルロン酸を使用することにより医用材料、特に術後癒着防止材、薬剤徐放用基材あるいは細胞培養用基材等の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】参考例1におけるケイ皮酸グリシジルエステルのガスクロマトグラフィーによる測定結果を示す。図中、横軸は時間(min)を表す。
【図2】実施例5における光架橋ヒアルロン酸のシート材形及びスポンジ材形に関する分解性の検討結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための最良の形態により本発明を詳説するが、これらの記載に限
定されるものではない。
本発明に使用される光反応性ヒアルロン酸は、上記一般式(1)で表されるグリシジルエステルがヒアルロン酸糖に共有結合したものである。
【0014】
上記光反応性ヒアルロン酸に使用される分子量(重量平均分子量)は、通常20,000〜3,000,000、好ましくは100,000〜2,000,000、更に好ましくは200,000〜1,200,000である。
本発明におけるヒアルロン酸は、天然物由来、化学的な合成によるもの、遺伝子工学的手法により酵母等の微生物に生産させたものであってもよい。一般的には生物の部分素材(鶏冠、臍帯など)から抽出することにより調製することが可能であり、それらが好ましい。
【0015】
本発明において、前記一般式(1)で示されるグリシジルエステルのR1−CO−を形成する、分子中にカルボキシル基及び不飽和炭素二重結合を有する光反応性化合物は、ケイ皮酸、ヒロドキシケイ皮酸、アクリル酸、フリルアクリル酸、チオフェンアクリル酸、シンナミリデン酢酸、ソルビン酸、等のモノカルボン酸またはマレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸が挙げられる。これらの中、好ましくはケイ皮酸、チオフェンアクリル酸等の一個の不飽和基を有するカルボン酸、シンナミリデン酢酸、ソルビン酸等の二個の不飽和基を有するカルボン酸であり、生体に対する安全性の面からはケイ皮酸が最も好ましい。
カルボキシル基及び不飽和炭素二重結合を有する光反応性化合物のグリシジルエステル
(以下、「光反応性グリシジルエステル」ということもある。)は、上記光反応性化合物
にエピハロヒドリン、好ましくはエピクロルヒドリンを反応させることにより得られる。
光反応性化合物がマレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸の場合は、グリシジルエステル
としてモノエステルまたはジエステルが得られるが、ジエステルが好ましい。
【0016】
本発明に使用される光反応性ヒアルロン酸は、上記光反応性化合物のグリシジルエステルを上記ヒアルロン酸に導入して得られるものであり、該グリシジルエステルのエポキシ基が開環してヒアルロン酸が有するカルボキシル基又はヒドロキシル基に共有結合したものである。光反応性ヒアルロン酸として、好ましくはヒアルロン酸のカルボキシル基に光反応性化合物のグリシジルエステルがエステル結合したものである。
本発明の好ましい光反応性ヒアルロン酸としては、上記グリシジルエステルの光反応性化合物が、ケイ皮酸、チオフェンアクリル酸、シンナミリデン酢酸およびソルビン酸から選択される酸とヒアルロン酸から構成される光反応性ヒアルロン酸である。
【0017】
本発明に使用される光反応性ヒアルロン酸は、以下の方法に従って調製できる。
〈逆沈殿法〉
ヒアルロン酸の重量濃度0.1〜15%水溶液に、水と混和し光反応性グリシジルエステルと反応しない有機溶媒を、該水溶液中の水との混合割合が0〜50%となるよう加えたものに、光反応性グリシジルエステルを重量濃度が0.1〜10%となるよう添加し、40〜80℃で、0.5〜240時間撹拌する。次いで、用いたヒアルロン酸の重量の0.5〜5倍量の食塩を添加し、反応液量の2〜5倍量のエタノールに注ぎ込み、沈殿を析出させる。この沈殿をフィルターで濾取した後、さらにエタノールで沈殿を十分に洗
浄、乾燥して光反応性ヒアルロン酸を得る。
〈順沈殿法〉
ヒアルロン酸の重量濃度0.1〜15%水溶液に、水と混和し光反応性グリシジルエステルと反応しない有機溶媒を、該水溶液中の水との混合割合が0〜50%となるよう加えたものに、光反応性グリシジルエステルを重量濃度が0.1〜10%となるよう添加し、40〜80℃で、0.5〜240時間撹拌する。次いで、用いた多糖重量の0.5〜5倍量の食塩を添加し、反応液量の0.5〜5倍量のエタノールを注ぎ込み、沈殿を析出させる。この沈殿をフィルターで濾取した後、さらにエタノールで沈殿を十分に洗浄、乾燥して光反応性ヒアルロン酸を得る。
【0018】
本発明に使用される光反応性ヒアルロン酸において、ヒアルロン酸に導入される上記一般式(1)で示されるグリシジルエステルの量、即ち光反応性基(不飽和炭素二重結合)の導入率は、所望の光架橋ヒアルロン酸の架橋率を考慮して決められるが、ヒアルロン酸及び該グリシジルエステルを構成する光反応性化合物の種類によって異なり、例えばヒアルロン酸の分子量や該ヒアルロン酸が有する官能基であるカルボキシル基またはヒドロキシル基等の種類や数及び光反応性化合物の不飽和基等を考慮して選定される。ヒアルロン酸への光反応性基の導入率は、後述する実施例に記載の如く、ヒアルロン酸の繰り返し二糖単位当たりに導入された光反応性基の数を百分率で表した値である。光反応性基の導入率は、通常1〜20%程度であり、好ましくは1〜15%程度である。
【0019】
本発明の光架橋ヒアルロン酸とは、上記光反応性ヒアルロン酸に光を照射して得られる架橋体であり、光反応性ヒアルロン酸に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性(架橋)基、即ち不飽和炭素二重結合同士が架橋して形成されるシクロブタン環を有し、且つ網目構造を有するものである。
光反応性ヒアルロン酸に対する光の照射は、光反応性基が光二量化反応を効率的に起こす程度の条件でなされることが好ましい。照射する光線の種類は特に限定されないが、光反応性化合物がケイ皮酸である場合、紫外線が好ましい。照射する紫外線としては、光反応性ヒアルロン酸のグリコシド結合を切断せず、且つ光反応性基に光二量化反応を生じさせる波長(例えば200〜600nm)の紫外線が選択される。紫外線ランプとしては、高圧水銀ランプ又はメタルハライドランプが好ましい。更に、要すれば、所望の波長域の紫外線を得るためにそれらのランプにより発生した紫外線の不要波長光を例えばカットフィルター等で除去することが好ましい。照射する光線の量は、0.01〜200J/cm2程度であり、目的物の材形(ゲル、スポンジ、複合材、フィルム)に応じて適宜選択される。
本発明の光架橋ヒアルロン酸の架橋率は、上記光反応性ヒアルロン酸に導入された光反応性基の導入率、更には光架橋の条件等によって異なるが、通常、1〜60%程度である。架橋率は、後述の実施例に記載の測定方法により決めることが出来る。
【0020】
本発明においては、光反応性ヒアルロン酸の光照射工程における方法及び条件を変化させることにより、ゲル状、スポンジ状、ゲルとスポンジの性質を合わせ持つ複合材、あるいはフィルム状等の様々な形態の材料を提供することができる。
本発明においてゲル状の光架橋ヒアルロン酸は、光架橋ヒアルロン酸の網目構造(三次元網目構造)に水性媒体を含むハイドロゲルを含む形態である。該光架橋ヒアルロン酸ゲルの製造は、例えば特表平11-512778号公報に記載されているような公知の方法により製造することが出来る。まず、光反応性ヒアルロン酸の溶液を調製し、その溶液を紫外線の透過し易い態様(形状)となし、そこに紫外線を照射する工程を含む方法が挙げられる。製造方法のより詳細は特表平11-512778に記載の方法を参照することができる。紫外線照射時の光反応性ヒアルロン酸溶液の水性媒体としては、水、緩衝液、生理的食塩水、緩衝化生理的食塩水等が挙げられるが、医用材料に用いる場合は特に緩衝液、生理的食塩水、緩衝化生理的食塩水が好ましい。
【0021】
本発明においてスポンジ状の光架橋ヒアルロン酸とは、独立気泡または連通気泡を有する多孔質物質であり、弾性を有し、吸水性および排水性に優れ、水その他の水性媒体に不溶なものである。具体的には、スポンジ状光架橋ヒアルロン酸を乾燥した状態で水又はその他の水性溶媒等の液媒体に浸した際に、該液媒体を速やかに吸収・膨潤し、また膨潤後に外圧をかける・吸水紙上に置く等の操作により吸収した水分等の液媒体を速やかに排出する性状を有するものをいう。スポンジの多孔質構造は、光反応性ヒアルロン酸の製造条件等によって異なるが、通常、単位面積当たりが有する全細孔の50%以上の細孔が10〜50μmの細孔径を有しており、液媒体の吸収・放出性が良く、且つ強度も保たれている。
【0022】
光架橋ヒアルロ酸の製造方法は、光反応性ヒアルロン酸の溶液を凍結または凍結乾燥する工程(A)と凍結した溶液または凍結乾燥物に光を照射することにより光反応性ヒアルロン酸が架橋した架橋ヒアルロン酸スポンジを得る工程(B)とを含み、より詳細にはWO02/060971公報に記載の方法によって製造することができる。また細孔径も該公報に記載の方法により測定することができる。
【0023】
本発明においてゲルとスポンジの性質を合わせもつ光架橋ヒアルロン酸(以下、これを光架橋ヒアルロン酸複合材という)とは、先に記述した光架橋ヒアルロン酸ゲルを調製する方法とスポンジを調製する方法を組み合わせることにより調製することができ、ゲルとスポンジの特性を兼ね備えた性状のものを言う。具体的には、該複合材は光架橋ヒアルロン酸ゲルの高いバリア効果と、光架橋ヒアルロン酸スポンジの高い強度を合わせ有するものである。
本発明の光架橋ヒアルロン酸複合材の製造方法は、高濃度のヒアルロン酸水溶液を調製し、その溶液を紫外線の透過し易い形状、例えば所望厚の溶液層にし、そこに紫外線を照射してゲルを得、得られたゲルを凍結し、凍結状態を維持したまま更に紫外線照射することによって製造するか、或いは該ゲルを凍結乾燥した後、更に紫外線照射することによって製造することができる。
本発明の光架橋ヒアルロン酸フィルムの製造方法は、光反応性ヒアルロン酸の溶液を、例えば基板上に所望の膜厚に塗布した塗膜を風乾して得られる薄膜に、紫外線を照射することによって製造することができ、より詳細には特開平6-73102号公報に記載の方法によって製造することができる。このようにして得られた光架橋ヒアルロン酸フィルムは極めて高いバリア効果を有するものの濡れると滑りやすく脆くなる場合もある。そこで前述の製造方法で得られる、例えば溶液層厚のシート状の光架橋ヒアルロン酸複合材を乾燥して薄膜状とし、これに更に紫外線を照射することにより、光架橋ヒアルロン酸複合材よりも更に高いバリア効果と強度を有したフィルム(以下、これを光架橋ヒアルロン酸複合材フィルムという)を得ることができる。
【0024】
ジグリシジルエーテルを架橋剤として多糖を架橋させる従来法(例えばEur J. Pharm S
ci 2002 Mar;15(2):139-48に記載の方法)が、直接多糖間に架橋を形成してその物理化
学的性質を改変するものであるのに比し、本発明の上記の如きスポンジ、複合材、フィル
ム、複合材フィルム等の光架橋ヒアルロン酸の製造方法は、下記の点で著しく異なり、且つ優れている。
まず、本発明方法では、カルボキシル基及び不飽和炭素二重結合を有する光反応性化合
物のグリシジルエステルが共有結合した光反応性ヒアルロン酸から光架橋工程時に成形物を形成するため、光架橋工程前に「光反応性ヒアルロン酸の十分な洗浄又は精製を行い、未反応物質の除去ができる点」および「光反応性ヒアルロン酸を成形し、材形に多様性を持たせることが可能である点」で優れている。つまり、光反応性化合物のグリシジルエステルをヒアルロン酸に導入した光反応性ヒアルロン酸の製造段階では何ら架橋が生じないため、未反応の光反応性化合物のグリシジルエステルが光反応性ヒアルロン酸内に、閉じこめられることはなく十分な洗浄、精製を行うことにより除去することが可能である。
【0025】
また、本発明ではヒアルロン酸と光反応性化合物のグリシジルエステルとの反応溶液とエタノールとを、前記逆沈殿法または順沈殿法により混和させ、沈殿を析出させることで精製された光反応性ヒアルロン酸を得ることが可能である。光反応性化合物のグリシジルエステルは水に溶けにくくエタノールに溶け易く、一方、反応生成物である光反応性ヒアルロン酸はエタノールに溶けにくいことから、本工程において未反応の光反応性化合物のグリシジルエステルの殆どはエタノールに溶解し、沈殿中に取り込まれることはないからである。また得られた光反応性ヒアルロン酸の沈殿を更にエタノールで十分に洗浄することにより、周囲に付着した未反応の光反応性化合物のグリシジルエステルを容易に洗い流すことが出来るため、極めて高い純度の光反応性ヒアルロン酸を得ることができる。
また、光反応性化合物のグリシジルエステルをヒアルロン酸に導入する際には、その他の縮合剤や触媒を必要としないので不要物質の混入を避けることが出来る。更に、光反応性ヒアルロン酸を所望の形態に成形してから光を照射して架橋体となすことができるため、用途に応じた材形の架橋体を得ることが可能である。
【0026】
本発明の光架橋ヒアルロン酸は、「医用材料」、例えば術後の組織間の癒着を防止するための医用材料(癒着防止材)、薬剤徐放デバイスを構成する医用材料(薬剤徐放用基材)、細胞培養における細胞の足がかりとするための基材(細胞培養用基材)、創傷部の保護のための医用材料(創傷被覆材)、生体内の空間を保持するための医用材料(空隙保持材)、骨等の結合組織の空洞を充填するための医用材料(骨充填材)、人工体液(人工関節液、人工涙液、眼科用手術補助材等)、生体表面等の保湿のための材(保湿材)、医薬などの剤型を保持する為に添加する添加剤(賦形剤)等に使用することが可能である。特に癒着防止材、薬剤徐放用基材あるいは細胞培養用基材として有用であり、更には、スポンジ、複合材、フィルム、複合材フィルム等の材形にあっては、強度を有しながら、分解性に優れていることから癒着防止材として特に有用である。
【0027】
本発明の光架橋ヒアルロン酸は、その三次元網目構造中に薬剤を包埋させ、薬剤を徐放化させるための薬剤徐放用基材として用いることができる。薬剤としては光架橋ヒアルロン酸の網目構造に保持されてコントロール・リリースされる薬剤であれば特に限定されないが、具体的には下記の薬剤が例示される。
【0028】
1.サリチル酸、アスピリン、メフェナム酸、トルフェナム酸、フルフェナム酸、ジク
ロフェナク、スリンダク、フェンブフェン、インドメタシン、アセメタシン、アンフェナ
ク、エトドラク、フェルビナク、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン
、ナプロキセン、プラノプロフェン、フェノプロフェン、チアプロフェン酸、オキサプロ
ジン、ロキソプロフェン、アルミノプロフェン、ザルトプロフェン、ピロキシカム、テノ
キシカム、ロルノキシカム、メロキシカム、チアラミド、トルメチン、ジフルニサル、ア
セトアミノフェン、フロクタフェニン、チノリジン、塩酸チアラミド、メピリゾール等の
非ステロイド性消炎鎮痛剤、
2.メトトレキサ−ト、フルオロウラシル、硫酸ビンクリスチン、マイトマイシンC、
アクチノマイシンC、塩酸ダウノルビシン等の抗悪性腫瘍剤、
3.アセグルタミドアルミニウム、L−グルタミン、P-(トランス-4-アミノメチルシク
ロヘキサンカルボニル)-フェニルプロピオン酸塩酸塩、塩酸セトラキサ−ト、スルピリド
、ゲファルナ−ト、シメチジン等の抗潰瘍剤、
4.キモトリプシン、ストレプトキナ−ゼ、塩化リゾチ−ム、ブロメライン、ウロキナ
ーゼ等の酵素製剤、
5.塩酸クロニジン、塩酸ブニトロロ−ル、塩酸ブラゾシン、カプトプリル、硫酸ベタ
ニジン、酒石酸メトプロロ−ル、メチルドバ等の血圧降下剤、
6.塩酸フラボキサ−ト等の泌尿器官用剤、
7.ヘパリン、ジクロマ−ル、ワ−ファリン等の抗血液凝固剤、
8.クロフィブラ−ト、シンフィブラ−ト、エラスタ−ゼ、ニコモ−ル等の動脈硬化用
剤、
9.塩酸ニカルジピン、塩酸ニモジピン、チトクロ−ムC、ニコチン酸トコフェロ−ル
等の循環器官用剤、
10.ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等のステロ
イド剤、
11.成長因子、コラーゲン等の創傷治癒促進剤(特開昭60−222425参照)、
その他生理活性を有するポリペプチド、ホルモン剤、抗結核剤、止血剤、糖尿病治療剤、
血管拡張剤、不整脈治療剤、強心剤、抗アレルギ−剤、抗うつ剤、抗てんかん剤、筋弛緩
剤、鎮咳去たん剤、抗生物質等も挙げることができる。
【0029】
本発明の光架橋ヒアルロン酸は、細胞(培養細胞、初代培養細胞を含む)や組織(生体から取り出した組織片など)の培養のための培地を光架橋ヒアルロン酸に含浸させて培地を十分に含ませた後、細胞や組織を培養するために用いられる細胞培養基材として有用である。
本発明培養基材に適用される「細胞」及び「組織」は、生体外で増殖させることができ
る細胞・組織である限りにおいて特に限定はされないが、特に中胚葉由来の細胞・組織が
例示され、好ましくは結合組織由来の細胞・組織が挙げられ、特に上皮細胞、軟骨細胞、
肝細胞、神経芽細胞が好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限
り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特記しない限り濃度は重量%を表す。
本実施例において用いた分析方法等を以下に説明する。
<エポキシ当量の測定>
エポキシ樹脂のエポキシ当量試験方法(JIS K7236:2001)に準じて測定した。
【0031】
<回転粘度の測定>
E型回転粘度計TOKI RE-80H(東機産業株式会社製)を用いて行った。回転粘度が50P
a・sを超える被験物質の場合は直径14mmの3°コーンを用い25℃、1.0rpmで、
50Pa・s以下の被験物質の場合は直径24mmの1°コーンを用い20℃、1.0rp
mでそれぞれ測定を行った。ただし回転粘度が50Pa・s付近の被験物質についてはど
ちらの条件で測定した値でも良いこととした。
【0032】
<破断強度の測定>
Texture Analyzer TA-XT2(Stable Micro Systems社製)を用いて行った。予め蒸留水
中で十分に膨潤させた被験物質を6×2.5cmの大きさに切り出してステージ上に固定
し、これに直径12.7mmの球状プローブを1mm/secの速度で押し当て、プロー
ブが被験物質を突き破る際の破断強度を測定した。
【0033】
<光反応性架橋基の導入率測定>
光反応性架橋基の導入率は、ヒアルロン酸の繰り返し二糖単位あたりに導入された光反応性架橋基の数を百分率で表した値を意味する。導入率の算出に必要なヒアルロン酸の量は、検量線を利用したカルバゾール測定法により測定し、光反応性架橋基の量は、検量線を利用した吸光度測定法により測定した。
【0034】
<架橋率の測定>
架橋率は、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液1mlで被検物質1gを1時間鹸化し
た後、得られた溶液を酸性にして酢酸エチルで光反応性架橋基由来物(単量体、二量体)
を抽出し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により解析し、検量線法によって二量体の量を測定した。そしてヒアルロン酸に導入された光反応性架橋基に対する二量体となった光反応性架橋基のモル数を百分率で表した。
【0035】
参考例1:光反応性化合物のグリシジルエステルの合成
1 <ケイ皮酸グリシジルエステルの合成>
tran-ケイ皮酸(和光純薬社製)7.5gに臭化テトラエチルアンモニウム(和光純薬
社製)3g、及びエピクロルヒドリン(和光純薬社製)100mLを加え、110℃で3
時間還流後、蒸留水50mLを加えて有機層を分液し、80℃で減圧濃縮した後、6mm
Hg減圧条件下で蒸留を行い、130〜160℃の分画を回収してケイ皮酸グリシジルエ
ステル12gを得た。このケイ皮酸グリシジルエステルのエポキシ当量は240.3であ
った。
【0036】
得られたケイ皮酸グリシジルエステルはガスクロマトグラフィーにて分析を行なった。
ガスクロマトグラフィーはGC-17A(島津製作所製)を用い、カラム:DB-5(膜厚0.5μm、内径
0.25mm、長さ30m)を用い、カラム温度:100℃(0-5min)-250℃(5℃/min昇温)で測定を行な
った(図1)。その結果、32.6minに最大のピークが認められ、ケイ皮酸グリシジルエステルの生成が確認できた。
ピーク エピクロルヒドリン 3.6min
tran−ケイ皮酸 22.5min
ケイ皮酸グリシジルエステル 32.6min
【0037】
2 <チオフェンアクリル酸グリシジルエステルの合成>
trans-3-3-チオフェンアクリル酸(アルドリッチ社製)2.5gに臭化テトラエチルア
ンモニウム(和光純薬社製)1g、及びエピクロルヒドリン(和光純薬社製)60mLを
加え、110℃で3時間還流後、蒸留水30mLを加えて有機層を分液し、80℃で減圧
濃縮してチオフェンアクリル酸グリシジルエステル6.5gを得た。このチオフェンアク
リル酸グリシジルエステルのエポキシ当量は596.8であった。
【0038】
3 <シンナミリデン酢酸グリシジルエステルの合成>
シンナミリデン酢酸(ランカスター社製)9.0gに臭化テトラエチルアンモニウム(
和光純薬社製)3.5g、及びエピクロルヒドリン(和光純薬社製)100mLを加え、
110℃で3時間還流後、蒸留水50mLを加えて有機層を分液し、80℃で減圧濃縮し
てシンナミリデン酢酸グリシジルエステル17.3gを得た。このシンナミリデン酢酸グ
リシジルエステルのエポキシ当量は444.3であった。
【0039】
4 <ソルビン酸グリシジルエステルの合成>
ソルビン酸(和光純薬社製)1.8gに臭化テトラエチルアンモニウム(和光純薬社製
)1g、エピクロルヒドリン(和光純薬社製)60mLを加え、110℃で3時間還流後
、蒸留水30mLを加えて分液し、80℃で減圧濃縮してソルビン酸グリシジルエステル
3.5gを得た。このソルビン酸グリシジルエステルのエポキシ当量は367.4であっ
た。
【0040】
実施例1:ケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸及びその架橋体の製造
<1−(1)ケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸の合成(逆沈殿法)>
1重量%ヒアルロン酸(重量平均分子量:800,000)水溶液100mLに注射用水50mL、1,4−ジオキサン75mLを添加し、ケイ皮酸グリシジルエステル(エポキシ当量240.3)3mLを添加して、50℃恒温槽中で24時間撹拌した。
この溶液に食塩1gを加えて撹拌した後、エタノール800mL中に注いで、綿状沈殿を得た。この沈殿物をエタノールで十分に洗浄、乾燥して、ケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸(以下、GLCN−HAとも記す)1.1gを得た。ケイ皮酸グリシジルエステルの導入率を測定したところ、2.9%であった。
【0041】
<1−(2)ケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸の合成(順沈殿法)>
1−(1)と同様に反応させて得られた溶液に食塩1gを加えて撹拌した後、エタノール500mLをゆっくりと注ぎ、粉状沈殿を得た。この沈殿物をエタノールで十分に洗浄、乾燥してケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸1.1gを得た。ケイ皮酸グリシジルエステルの導入率を測定したところ、3.5%であった。
【0042】
<1−(3)ケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸の合成(順沈殿法)>
60℃恒温槽中で48時間撹拌するほかは1−(1)と同様に反応させて得られた溶液に、食塩1gを加えて撹拌した後、エタノール約500mLをゆっくりと注ぎ、粉状沈殿を得た。この沈殿物をエタノールで十分に洗浄、乾燥してケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸1.1gを得た。ケイ皮酸グリシジルエステルの導入率を測定したところ、10.1%であった。
【0043】
<光架橋ヒアルロン酸ゲルの調製>
1−(1)で得られたケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を、濃度が3%となるように蒸留水に溶かした水溶液を、空隙1mmの硬質ガラス容器にいれて、3kWメタルハライドランプ(ウシオ電機社製)を用い、片面に25.0J/cm(測定波長280nm)ずつ両面に計50.0J/cm紫外線照射を行ったところ、ゲル状物質を得た。このゲル状物質の架橋率と異性化率を測定したところ、架橋率は18.4%、異性化率は71.4%であった。
このゲル状物質0.5mLの回転粘度を測定したところ、142.0Pa・sであった
。紫外線照射をしないケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸水溶液の回転粘度は
83.0Pa・sであった。
【0044】
異性化率とはtrans-ケイ皮酸からcis-ケイ皮酸に変化した割合を表す。cis-ケイ皮酸は
、trans-ケイ皮酸が二重結合を形成するために必要な励起状態を経てから生成されるため
、光反応が適切に行なわれたかを判断する指標となり、この値は予めcis-ケイ皮酸の検量
線を作成して定量的に算出する。
【0045】
<光架橋ヒアルロン酸フィルムの調製>
1−(1)で得られたケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を、濃度が1%となるよう蒸留水に溶かした水溶液5mLを直径50mmのプラスチックシャーレに注ぎいれて、50℃恒温槽内で静置乾燥させ、透明なフィルムを得た。800W高圧水銀ランプ(オーク製作所製)を用い、これに両面から片面あたり各々2.5J/cm(測定波長280nm)紫外線照射を行って、水に不溶なフィルム状物質を得た。このフィルム状物質の架橋率と異性化率を測定したところ、架橋率は7.2%、異性化率は68.5%であった。紫外線を照射して得たフィルム状物質は水に浸すと直ちに膨潤し、そのまま室温中で1ヶ月放置しても形状は維持したままであった。また、このフィルム状物質の膨潤後の破断強度を測定したところ、29.8gであった。
【0046】
<光架橋ヒアルロン酸スポンジ(1)の調製>
1−(1)で得られたケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を、濃度が3%となるよう蒸留水に溶かした水溶液を、高密度ポリエチレンパックに充填、封止したものを、空隙1mmの2枚の硬質ガラス板間に挟んで、−40℃のエタノール槽中で凍結した。凍結状態を維持したまま、800W高圧水銀ランプ(オーク製作所製)を用いこれの片面に各々2.0J/cm(測定波長280nm)紫外線照射を行った後に融解し、スポンジ状物質(GLCN−HA Sponge(1))を得た。このスポンジ状物質の架橋率と異性化率を測定したところ、架橋率は16.7%、異性化率は68.2%であった。凍結後に紫外線を照射せず再度融解したものでは、溶液のままでなんら物性の変化は認められなかった。また、得られたスポンジ状物質の破断強度を測定したところ、178.7gであった。
【0047】
<光架橋ヒアルロン酸スポンジ(3)の調製>
1−(3)で得られたケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸の4%水溶液を用い、片面に各々9.0J/cm(測定波長:280nm)紫外線照射を行ったほかは上記<光架橋ヒアルロン酸スポンジ(1)の調製>と同様の方法でスポンジ状物質(GLCN-HA Sponge(3))を得た。このスポンジ状物質の架橋率と異性化率を測定したところ、架橋率は39.6%、異性化率は66.4%であった。
【0048】
<光架橋ヒアルロン酸複合材シート(1)の調製>
1−(1)で得られたケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を、濃度が3%となるよう蒸留水に溶かした水溶液を、高密度ポリエチレンパックに充填、封止したものを、空隙1mmの2枚の硬質ガラス板間に挟んで、800W高圧水銀ランプ(オーク製作所製)を用い両面に合計10J/cm(測定波長:280nm)紫外線照射を行った。
次いで、そのまま−40℃のエタノール槽中で凍結した。凍結状態を維持したまま、これの各面に0.5J/cm(測定波長:280nm)紫外線照射を行った後に融解したところ、やや白みがかった半透明なシート状物質(GLCN−HA Sheet(1))を得た。このシート状物質の架橋率と異性化率を測定したところ、架橋率は6.0%、異性化率は68.5%であった。また、このシート状複合材の破断強度を測定したところ、110.9gであった。
【0049】
<光架橋ヒアルロン酸複合材シート(3)の調製>
1−(3)で得られたケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸の4%水溶液を用い、3kWメタルハライドランプ(ウシオ電機社製)を用いて、片面に50.0J/cmずつ両面に計100.J/cm(測定波長:280nm)紫外線照射を行い、次いで凍結状態での照射を800W高圧水銀ランプ(オーク製作所製)を用いて、片面に各々9.0J/cm(測定波長:280nm)紫外線照射を行ったほかは上記<光架橋ヒアルロン酸複合材シート(3)の調製>と同様の方法でシート状物質(GLCN−HA・Sheet(3))を得た。このシート状物質の架橋率と異性化率を測定したところ、架橋率は48.0%、異性化率は67.3%であった。
【0050】
<光架橋ヒアルロン酸複合材フィルムの調製>
1−(3)で得られたケイ皮酸グルシジルエステル導入ヒアルロン酸の4%水溶液を用い、800W高圧水銀ランプ(オーク製作所製)を用いて、片面に5.0J/cmずつ(測定波長:280nm)紫外線照射を行ない、次いで−20℃雰囲気下で凍結し、凍結状態を維持したまま、800W高圧水銀ランプを用いて片面に0.2J/cmずつ(測定波長:280nm)紫外線照射をおこなった。得られたシート状物質を50℃恒温乾燥機中で乾燥し、更に800W高圧水銀ランプを用いて片面に0.2J/cmずつ(測定波長:280nm)紫外線照射を行なったところ乳白色の半透明なフィルム状物質を得た。このフィルム状物質の架橋率と異性化率を測定したところ、架橋率は9.8%、異性化率は67.8%であった。
【0051】
実施例2:チオフェンアクリル酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸及びその架橋体
の調製
<チオフェンアクリル酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸の合成>
1重量%ヒアルロン酸(重量平均分子量:800,000)水溶液100mLに注射用水50mL、1,4−ジオキサン75mLを添加し、チオフェンアクリル酸グリシジルエステル(エポキシ当量:596.8)3mLを添加して、50℃恒温槽中で24時間撹拌した。この溶液に食塩1gを加えて撹拌した後、エタノール800mL中に注いで、綿状沈殿を得た。得られた沈殿物をエタノールで十分に洗浄、乾燥して、チオフェンアクリル酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸(GLTA−HA)1.1gを得た。チオフェンアクリル酸グリシジルエステルの導入率を測定したところ、1.40%であった。
【0052】
<光架橋ヒアルロン酸ゲルの調製>
チオフェンアクリル酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を用いた以外は、実施例1
に記載のゲルの調製法と同様にして、ゲル状物質を得た。
このゲル状物質0.5mLの回転粘度を測定したところ、246.5Pa・sであった。
紫外線照射をしないチオフェンアクリル酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸水溶液の回転粘度は90.5Pa・sであった。
【0053】
<光架橋ヒアルロン酸フィルムの調製>
チオフェンアクリル酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を用いた以外は、実施例1
に記載のフィルムの調製法と同様にして、水に不溶なフィルムを得た。
紫外線を照射して得たフィルムは水に浸すと直ちに膨潤し、そのまま室温中で1ヶ月放置しても形状は維持したままであった。このフィルムの破断強度を測定したところ、76.8gであった。
【0054】
<光架橋ヒアルロン酸スポンジの調製>
チオフェンアクリル酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を用いた以外は、実施例1
に記載のスポンジ(1)の調製法と同様にして、スポンジ状物質(GLTA−HA Spon
ge)を得た。このスポンジ状物質の破断強度を測定したところ、92.6gであった。
なお、凍結後に紫外線を照射せず融解したものでは、溶液のままでなんら物性の変化は認められなかった。
【0055】
<光架橋ヒアルロン酸複合材シートの調製>
チオフェンアクリル酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を用いた以外は、実施例1
に記載の複合材シート(1)の調製法と同様にして、やや白みがかった半透明なシート状
物質(GLTA−HA Sheet)を得た。この半透明なシート状物質の破断強度を測定し
たところ、87.8gであった。
【0056】
実施例3:シンナミリデン酢酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸及びその架橋体の
調製
<シンナミリデン酢酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸の合成>
1重量%ヒアルロン酸(重量平均分子量:800,000)水溶液100mLに注射用水50mL、1,4−-ジオキサン75mLを添加し、シンナミリデン酢酸グリシジルエステル(エポキシ当量:444.3)3mLを添加した後、50℃恒温槽中で24時間撹拌した。この溶液に食塩1gを加えて撹拌した後、エタノール800mL中に注いで、綿状沈殿を得た。得られた沈殿物をエタノールで十分に洗浄、乾燥して、シンナミリデン酢酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸(GLCdN−HA)1.1gを得た。シンナミリデン酢酸グリシジルエステルの導入率を測定したところ、3.1%であった。
【0057】
<光架橋ヒアルロン酸ゲルの調製>
シンナミリデン酢酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を用いた以外は、実施例1に
記載のゲルの調製法と同様にして、ゲル状物質を得た。
このゲル状物質0.5mLの回転粘度を測定したところ、220.0Pa・sであった。
紫外線照射をしないシンナミリデン酢酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸水溶液の回転粘度は61.0Pa・sであった。
【0058】
<光架橋ヒアルロン酸フィルムの調製>
シンナミリデン酢酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を用いた以外は、実施例1に
記載のフィルムの調製法と同様にして、水に不溶なフィルムを得た。
紫外線を照射して得たフィルムは水に浸すと直ちに膨潤し、このまま室温中で1ヶ月放
置しても形状は維持したままであった。
このフィルムの膨潤後の破断強度を測定したところ、23.6gであった。
【0059】
<光架橋ヒアルロン酸スポンジの調製>
シンナミリデン酢酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を用いた以外は、実施例1に
記載のスポンジ(1)の調製法と同様にして、スポンジ状物質(GLCdN−HA Spon
ge)を得た。このスポンジ状物質の破断強度を測定したところ、70.3gであった。
また、凍結後に紫外線を照射せず融解したものでは、溶液のままでなんら物性の変化は認められなかった。
【0060】
<光架橋ヒアルロン酸複合材シートの調製>
シンナミリデン酢酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を用いた以外は、実施例1に
記載の複合材シート(1)の調製法と同様にして、やや白みがかった半透明なシート状物
質(GLCdN−HA Sheet)を得た。
この半透明なシート状物質の破断強度を測定したところ、102.2gであった。
【0061】
実施例4:ソルビン酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸及びその架橋体の調製
<ソルビン酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸の合成>
1重量%ヒアルロン酸(重量平均分子量;800,000)水溶液100mLに注射用水50mL、1,4−ジオキサン75mLを添加し、ソルビン酸グリシジルエステル(エポキシ当量:367.4)3mLを添加した後、50℃恒温槽中で24時間撹拌した。
この溶液に食塩1gを加えて撹拌した後、エタノール800mLに注いで、綿状沈殿を得
た。得られた沈殿物をエタノールにより十分に洗浄、乾燥して、ソルビン酸グリシジルエ
ステル導入ヒアルロン酸(GLSR−HA)1.1gを得た。ソルビン酸グリシジルエス
テルの導入率を測定したところ、1.7%であった。
【0062】
<光架橋ヒアルロン酸ゲルの調製>
ソルビン酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を用いた以外は、実施例1に記載のゲ
ルの調製法と同様にして、ゲル状物質を得た。
このゲル状物質1.0mLの回転粘度を測定したところ、51.8Pa・sであった。紫外線照射をしないソルビン酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸水溶液の回転粘度は31.1Pa・sであった。
【0063】
<光架橋ヒアルロン酸フィルムの調製>
ソルビン酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を用いた以外は、実施例1に記載のフ
ィルムの調製法と同様にして、水に不溶なフィルムを得た。このフィルムの破断強度を測
定したところ、68.9gであった。
紫外線を照射して得たフィルムは水に浸すと直ちに膨潤し、このまま室温中で1ヶ月放置しても形状は維持したままであった。
【0064】
<光架橋ヒアルロン酸スポンジの調製>
ソルビン酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を用いた以外は、実施例1に記載のス
ポンジ(1)の調製法と同様にして、スポンジ状物質(GLSR−HA Sponge)を得た
。このスポンジ状物質の破断強度を測定したところ、35.5gであった。
また、凍結後に紫外線を照射せず融解したものでは、溶液のままでなんら物性の変化は認められなかった。
【0065】
<光架橋ヒアルロン酸複合材シートの調製>
ソルビン酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を用いた以外は、実施例1に記載の複合
材シート(1)の調製法と同様にして、やや白みがかった半透明なシート状物質(GLS
R−HA Sheet)を得た。
【0066】
参考例2:ケイ皮酸アミノプロピル導入ヒアルロン酸およびその架橋体の調製
<ケイ皮酸アミノプロピル導入ヒアルロン酸の調製>
特開2002−249501に記載された方法に従い調製を行った。すなわち、1重量%ヒアルロン酸(重量平均分子量;800,000)水溶液100mLに蒸留水50mL、1,4−ジオキサン75mLを添加した後、N−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)172mg、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCl・HCl)143mg、ケイ皮酸アミノプロピル塩酸塩(HCl・HN(CH)OCO−CH=CH−Ph:−Phはフェニル基を示す)181mgを順次添加し、室温で3時間反応させ、炭酸水素ナトリウム0.5gを添加して一昼夜撹拌した後、NaCl 6gを添加後にエタノール400mLを反応溶液に注ぎ込んで沈殿を析出させた。沈殿を80%エタノールで2回洗浄して回収後、40℃で減圧乾燥を行ってケイ皮酸アミノプロピル導入ヒアルロン酸(以下、3APC−HAとも記す)1.0gを得た。ケイ皮酸アミノプロピルの導入率を測定したところ8.2%であった。
【0067】
<光架橋3APC−HAスポンジの調製>
3APC−HAを濃度が3%となるよう蒸留水に溶かした水溶液を、高密度ポリエチレン
パックに充填、封止したものを、空隙1mmの2枚の硬質ガラス板間に挟んで、−40℃
のエタノール槽中で凍結した。凍結状態を維持したまま、これの片面に2.0J/cm
(測定波長:280nm)ずつ両面に紫外線照射を行った後に融解したところ、スポンジ状物質を得た。このようにして得られた光架橋3APC−HAスポンジの架橋率は32.8%であった。
また、このスポンジ状物質の破断強度を測定したところ、157.8gであった。
【0068】
<光架橋3APC−HA複合材シートの調製>
3APC−HAを濃度が3%となるよう蒸留水に溶かした水溶液を、高密度ポリエチレ
ンパックに充填、封止したものを、空隙1mmの2枚の硬質ガラス板間に挟んで、その片
面に各々5.0J/cm(測定波長:280nm)紫外線照射を行った。
次いで、−40℃のエタノール槽中で凍結し、凍結状態を維持したまま、これに0.5J/cm(測定波長:280nm)紫外線照射を行った後に融解したところ、やや白みがかった半透明なシート状物質を得た。
このようにして得られた光架橋3APC−HA複合材シートの架橋率は5.8%であっ
た。また、この半透明なシート状物質の破断強度を測定したところ、181.7gであっ
た。
【0069】
参考例3
<ジグリシジルエーテル架橋ヒアルロン酸スポンジの調製>
特開2002−233542に記載された方法に準じて調製を行った。すなわち、1重量%ヒアルロン酸(重量平均分子量;800,000)水溶液100mLにジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX-313、ナガセ化成工業)1mLを加えた溶液を、液層が約2mmとなるようポリプロピレン製容器に流し込み、50℃恒温槽中で9時間静置して反応させた後、反応液を−80℃の冷凍庫中で急速に凍結し、10Paで凍結乾燥した。次いで、得られたジグリシジルエーテル架橋ヒアルロン酸スポンジを十分な量の注射用水で入念に洗浄した。
これを再度凍結乾燥してジグリシジルエーテル架橋ヒアルロン酸スポンジ(DGLE−HA Sponge)を得た。
【0070】
実施例5:分解性検討
各種光架橋ヒアルロン酸の2cm×1cm、厚さ1mmに調製した短冊状シートを0.
5N NaOH水溶液中で攪拌し、ケン化に要した時間を測定することで、分解性を比較
した。その結果を図2に示す。
判定は目視により行い、0.5N NaOH水溶液中に固形物を認めなくなった時点を
終了時間とした。
なお、図2中「GLCN-HA」とはケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を、「GLCdN-HA」はシンナミリデン酢酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を、「GLTA-HA」はチオフェンアクリル酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を、「GLSR-HA」はソルビン酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸を、「3APC-HA」はケイ皮酸アミノプロピル導入ヒアルロン酸をそれぞれ意味し、Sheetはシート材形、Spongeはスポンジ材形を意味する。
なお、対照としてSepraFilm(Genzyme社製、科研製薬社販売)を用いた。
【0071】
図2より3APC-HAは、そのスポンジ材形はアルカリケン化に1時間近く、複合材シート材形でも消失に57秒を要したのに対し、GLCN-HAは材形に拘わらず、15秒で消失したことが確認された。
また、導入率と架橋率を高めたGLCN-HA(GLCN-HA Sponge(3),GLCN-HA Sheet(3))についても、スポンジ材形・シート材形の如何に拘わらず17秒以内には全て消失した。一般に導入率や架橋率が高くなると分解性が低下することが知られているが、本発明においては導入率、架橋率に左右されることなく安定して優れた分解性を示すことが確認された。
【0072】
実施例6:in vivo分解性検討
以下のラット腹壁欠損盲腸擦過モデルを用いて、癒着防止効果および分解性の検討を行
った。
ラット盲腸側を脱脂綿で数回軽く擦過した後、腹壁側に30×40mmの欠損部を作成し、その上を4cm×5cm×0.3mmの表1記載の光架橋多糖複合材で被覆した。7日後に解剖を行い、腹壁と盲腸間での癒着の有無および各光架橋多糖複合材の残留の有無を判定することにより癒着防止効果及び分解性を検討した。その結果を下記表1に示す。
なお、各光架橋多糖複合材は、実施例1、参考例2及び参考例3に準じて作成し、GLCN-HAとしては、GLCN-HA Sponge(1)及びGLCN-HA Sheet(1)を用いた。
【0073】
試験の結果、ケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸(GLCN-HA)の光架橋複合
材シートは3例中3例とも癒着を認めなかった。またシートは完全に消失しており、また
肝臓やその他の臓器にも異常を認めなかった。
ケイ皮酸アミノプロピル導入ヒアルロン酸(3APC-HA)の光架橋複合材シートは3例中3例とも癒着を認めなかったが、シートはしっかりとした形状を維持したまま残留していた。
【0074】
ケイ皮酸グリシジルエステル導入ヒアルロン酸の光架橋スポンジは11例中11例で癒
着を認めなかった。またスポンジは完全に消失しており、肝臓やその他の臓器にも異常を
認めなかった。
ケイ皮酸アミノプロピル導入ヒアルロン酸の光架橋スポンジは2例中2例とも乳白色の樹脂様状態で残留し、創部と強度の癒着を起こしていた。
ジグリシジルエーテル架橋ヒアルロン酸(DGLE-HA)スポンジは2例中2例とも癒着を認めた。スポンジ自体は完全に消失していたが、肝臓の辺縁部が肥大化し、広範囲に渡り白濁しているのが認められた。
以上の如く、3APC-HAにより調製したスポンジ材では重度の癒着を認めたのに対し、GL
CN-HAにより調製したスポンジ材では全例で癒着防止効果を示した。これは光架橋GLCN-HA
スポンジ材の分解性が、3APC-HAスポンジ材より優れていることによるものと考えられる

【0075】
【表1】

【0076】
実施例7:in vivo癒着防止性能検討
ウサギ腸管癒着モデルを用いて、SepraFilm(Genzyme社製、科研製薬社販売)と本発明
の光架橋多糖複合材シートとの癒着防止効果の比較を行った。
1.一次腸管癒着モデルの作製
ウサギはJapanWhite種(雄、約20週齢、体重約3kg)を用い、ハロセン(フォーレン、武田薬品工業)により吸入麻酔下で腹部を開腹し、空腸の表面をガーゼにて一定の速度下30回擦過した。更に、擦過した空腸の反対側に隣接する回腸表面を同様に擦過した。擦過した範囲は幅15mm、長さ30mm(面積450mm)とした。次に擦過した両部位をヨードチンキ(3%ヨード+2%ヨウ化カリウム)を含ませた脱脂綿で覆った。7分後に脱脂綿を除き、3分間乾燥した後に腹壁および皮膚を縫合し、一次癒着モデルの作製を完了した。この手技により空腸と回腸の間に癒着を形成することができる。
【0077】
2.一次腸管癒着の剥離と被験物質の投与(評価モデルの作製)
一次癒着モデル作製後1ヶ月に一旦開腹して、癒着の程度を観察し、薄膜形成を伴った
強い癒着を起こした個体を選択した。
癒着部位を手術用顕微鏡下で剥離し、癒着を剥離した部位の面積を測定した後、被験物
質としてGLCN-HA Sheet(実施例6で用いたものと同じもの)とSepraFilmを投与した。各
被験物質は癒着剥離部位の面積に比べて20%大きい面積で裁断し、癒着剥離部位に貼付
した。また対照群には何も投与しなかった。被験物質を投与後、腹壁および皮膚を縫合し
、評価モデルの作製を完了した。
【0078】
3.癒着防止性能評価
評価モデル作製後、2週間で開腹して、再癒着の有無を観察し、再癒着が起こっていた
場合はその面積を測定した。なお、癒着スコアは0:無し、1:弱、2:中、3:強の4段階で行った。
結果:
対照群ではスコア3の強い再癒着を認めた。一次癒着面積が350mmだったのに対し、再癒着面積は1200mmであり、再癒着比率は342.9%であった。
これに対し、GLCN−HA Sheetでは一次癒着面積が1900mm2だったのに対し、全く再
癒着を認めず、スコア0であった。再癒着面積は0mm2であり、再癒着比率は0%であっ
た。
一方SepraFilmではスコア2の中程度の癒着を認め、一次癒着面積が750mmったのに対し、再癒着面積は1335mmであり、再癒着比率は178.0%%であった。
以上から、GLCN-HA SheetがSepraFilmと比べ、優れた癒着防止効果を示すことが明らかとなった。
【0079】
実施例8:ラット子宮角癒着モデルを用いた癒着防止性能検討
ラット子宮角癒着モデルはウサギ腸管再癒着モデルよりも強い癒着を引き起こすことが
知られていることから、本モデルを用いて更なる癒着防止性能を検討した。
1.モデルの作成:
ラットは Crj:SD系(SPF.)雌性ラット(7週齢)を用い、試験前1週間の予備飼育を行
った後、本試験に使用した。
ネンブタール麻酔下でラット腹部を毛刈した後、約4cm正中切開し、(a)ラットの右
腹壁を眼科用トレパンで筋層まで切り抜き、筋層をピンセットで剥離した。(b)次いで
、子宮角を露出させた後、卵巣から子宮頚部に向かって約1cmのところから2〜3mm間隔で4箇所に横切開を加え、傷口は電気メスで随時止血した。(c)子宮角横切開部端より約3〜4mmの場所と、腹壁欠損部端より同じく3〜4mmの場所を8/0の糸でひと針縫合し、(a)と(b)で作成した各切創部を近づけた。
【0080】
2.被験物質の投与
腹壁欠損部と子宮角切創部の間に2.0cm×1.0cm大のGLCN-HA Sheet(3)およびSepraFilmを挟み込み試験群とした。なお、各群とも10匹ずつ用いた。
3.評価:
評価方法は、埋め込み7日後にラットをエーテル麻酔下で頚動脈より放血屠殺後解剖し
、癒着発生部位を癒着の程度により以下に示す各スコアーシステムで評価した。
0:癒着無し。
1:軽度の癒着。容易に剥離可能。
2:中度の癒着。剥離可能。
3:重度の癒着。剥離不可能。
【0081】
4.結果:
判定結果を以下の表2に示す。
【0082】
【表2】

本癒着モデルにおいてはSepraFilmは10例中全例で癒着を認め全く効果を示さなかった
が、本発明のGLCN-HA Sheet(3)は10例中8例で癒着を防止していた。
以上の結果からGLCN-HA Sheetは十分に癒着防止効果を示すことが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸と下記一般式(1)で表されるグリシジルエステルが共有結合した光反応性ヒアルロン酸に光照射して得られる光架橋ヒアルロン酸であり、該光反応性ヒアルロン酸に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性基である不飽和炭素二重結合同士が架橋してシクロブタン環を形成し、編目構造を有することを特徴とする光架橋ヒアルロン酸。
【化1】


〔式中、R−CO−は、それぞれ、分子中にカルボキシル基及び不飽和炭素二重結合を有する光反応性化合物の光反応性残基を示し、該光反応性化合物は、ケイ皮酸、チオフェンアクリル酸、シンナミリデン酢酸又はソルビン酸である。〕
【請求項2】
ヒアルロン酸と請求項1に記載の一般式(1)で表されるグリシジルエステルが結合した光反応性ヒアルロン酸の溶液に光を照射して得られるゲル状の光架橋ヒアルロン酸であり、該光反応性ヒアルロン酸に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性基である不飽和炭素二重結合同士が架橋してシクロブタン環を形成し、編目構造を有することを特徴とする光架橋ヒアルロン酸。
【請求項3】
ヒアルロン酸と請求項1に記載の一般式(1)で表されるグリシジルエステルが結合した光反応性ヒアルロン酸の溶液を凍結または凍結乾燥し、凍結した溶液または凍結乾燥物に光を照射して得られるスポンジ状の光架橋ヒアルロン酸であり、該光反応性ヒアルロン酸に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性基である不飽和炭素二重結合同士が架橋してシクロブタン環を形成し、編目構造を有することを特徴とする光架橋ヒアルロン酸。
【請求項4】
ヒアルロン酸と請求項1に記載の一般式(1)で表されるグリシジルエステルが結合した光反応性ヒアルロン酸の溶液に光照射して生成したゲル状物を凍結し、凍結状態を維持したまま光を照射するか、または該ゲル状物を凍結乾燥した後、光を照射して得られるゲルとスポンジの性質を合わせもつ光架橋ヒアルロン酸であり、該光反応性ヒアルロン酸に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性基である不飽和炭素二重結合同士が架橋してシクロブタン環を形成し、編目構造を有することを特徴とする光架橋ヒアルロン酸。
【請求項5】
ヒアルロン酸と請求項1に記載の一般式(1)で表されるグリシジルエステルが結合した光反応性多糖の溶液層を乾燥した薄膜に光を照射して得られるフィルム状の光架橋ヒアルロン酸であり、該光反応性ヒアルロン酸に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性基である不飽和炭素二重結合同士が架橋してシクロブタン環を形成し、編目構造を有することを特徴とする光架橋ヒアルロン酸。
【請求項6】
ヒアルロン酸と請求項1に記載の一般式(1)で表されるグリシジルエステルが結合した光反応性ヒアルロン酸の溶液に光照射して生成したゲル状物を凍結し、凍結状態を維持したまま光を照射し、更に乾燥した後、これに光を照射して得られるフィルム状の光架橋ヒアルロン酸であり、該光反応性多糖に共有結合した光反応性化合物のグリシジルエステルが有する光反応性基である不飽和炭素二重結合同士が架橋してシクロブタン環を形成し、編目構造を有することを特徴とする光架橋ヒアルロン酸。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載の光架橋ヒアルロン酸からなる医用材料。
【請求項8】
癒着防止材である請求項7に記載の医用材料。
【請求項9】
薬剤徐放用基材である請求項7に記載の医用材料。
【請求項10】
細胞培養用基材である請求項7に記載の医用材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−246494(P2012−246494A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−175068(P2012−175068)
【出願日】平成24年8月7日(2012.8.7)
【分割の表示】特願2005−263042(P2005−263042)の分割
【原出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】