説明

光検出装置及び流体計測装置

【課題】被検体によって反射、散乱等された光に含まれる信号光成分を精度良く検出する。
【解決手段】光検出装置は、入力光を電流に夫々変換して出力する第1光電変換素子部及び第2光電変換素子部を含んでなり、第1光電変換素子部が出力する電流と第2光電変換素子部が出力する電流との差分電流を検出電流として出力する光電流変換部100と、この光電流変換部から出力された検出電流を増幅して電圧信号に変換し、この電圧信号を検出信号として出力する電流電圧変換部200と、この出力された検出信号のパワースペクトルの所定の周波数範囲における積分値に基づいて、定常光成分を推定する定常光成分推定部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば被検体によって例えば反射、散乱等された光に含まれる信号光成分を検出するための光検出装置、及び該光検出装置を備えた、例えばレーザートップラー血流計等の流体計測装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の光検出装置として、例えば、レーザートップラー血流計において生体からの光を検出する受光部として用いられるものがある(例えば特許文献1参照)。レーザードップラー血流計は、レーザー光等の光を生体に照射し、その反射又は散乱の際におけるドップラーシフトによる波長の変化により、生体の血流速度等を算出する。このようなレーザートップラー血流計における受光部として用いられる光検出装置は、典型的には、フォトダイオード等の光電変換素子と、この光電変換素子の出力電流を増幅して電圧信号に変換する、オペアンプ(即ち「演算増幅回路」)を含む電流電圧変換回路とを備えている。
【0003】
一方、例えば特許文献2には、生体信号を検出する光学式計測装置において、被検出対象からの反射光を受光素子で受けて、受光素子からの受光信号に対し直流成分を減算して変動成分を抽出する技術が開示されている。また、例えば特許文献3には、生体に対しレーザー光を照射して、反射散乱光を収集し、反射散乱光からパワースペクトルを検出し、多重回帰処理を施す生体信号処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−175415号公報
【特許文献2】特開2003−240716号公報
【特許文献3】特開平7−113743号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】生体用センサと計測装置、コロナ社、p101−102
【非特許文献2】標準生理学第7版、医学書院、p597、604
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種の光検出装置が前述したようなレーザードップラー血流計における受光部として用いられる場合、生体によって反射又は散乱された光に含まれる信号光成分(即ち、ドップラーシフトされた変調成分)の強度は、生体によって反射又は散乱された光に含まれる定常光成分(即ち、生体による反射又は散乱によって変動しない成分)の強度よりも微弱であるため、信号光成分を精度良く検出することが困難であるという技術的問題点がある。
【0007】
本発明は、例えば前述した問題点に鑑みなされたものであり、例えば被検体によって例えば反射、散乱等された光に含まれる信号光成分を精度良く検出することが可能な光検出装置、及びこのような光検出装置を備えた流体計測装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光検出装置は上記課題を解決するために、定常光成分及び信号光成分が含まれる入力光から前記信号光成分を検出するための光検出装置であって、前記入力光を電流に夫々変換して出力する第1及び第2光電変換素子部を含んでなり、前記第1光電変換素子部が出力する電流と前記第2光電変換素子部が出力する電流との差分電流を検出電流として出力する光電流変換部と、該光電流変換部から出力された前記検出電流を増幅して電圧信号に変換し、該電圧信号を検出信号として出力する電流電圧変換部と、該出力された検出信号のパワースペクトルの所定の周波数範囲における積分値に基づいて、前記定常光成分を推定する定常光成分推定部とを備える。
【0009】
本発明の流量計測装置は上記課題を解決するために、光を被検体に照射する照射部と、前記照射された光に起因する前記被検体からの光が前記入力光として入力される前述した本発明の光検出装置と、前記光検出装置が検出した信号光成分に基づいて、前記被検体中の流体に関する流体情報を算出する算出部とを備える。
【0010】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施例に係る血流計測装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施例に係る光検出信号出力部の構成を示すブロック図である。
【図3】第1実施例に係る増幅器の構成を示す回路図である。
【図4】第1実施例に係る信号処理部の構成を示すブロック図である。
【図5】第1実施例における光検出信号のパワースペクトルの一例を示すグラフである。
【図6】第2実施例に係るDC成分推定処理部の構成を示すブロック図である。
【図7】第2実施例に係るDC成分推定処理部における、パワースペクトルを積算する周波数範囲の変更を説明するための説明図である。
【図8】第3実施例に係るDC成分推定処理部の構成を示すブロック図である。
【図9】第4実施例に係るDC成分推定処理部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
第1実施形態に係る光検出装置は上記課題を解決するために、定常光成分及び信号光成分が含まれる入力光から前記信号光成分を検出するための光検出装置であって、前記入力光を電流に夫々変換して出力する第1及び第2光電変換素子部を含んでなり、前記第1光電変換素子部が出力する電流と前記第2光電変換素子部が出力する電流との差分電流を検出電流として出力する光電流変換部と、該光電流変換部から出力された前記検出電流を増幅して電圧信号に変換し、該電圧信号を検出信号として出力する電流電圧変換部と、該出力された検出信号のパワースペクトルの所定の周波数範囲における積分値に基づいて、前記定常光成分を推定する定常光成分推定部とを備える。
【0014】
本実施形態に係る光検出装置によれば、その動作時には、例えば被検体によって例えば反射、散乱等された光が入力光として光電流変換部に入力される。光電流変換部に入力された入力光は、光電流変換部によって電流に変換されて検出電流として出力される。光電流変換部から出力された検出電流は、例えばオペアンプ及び負帰還抵抗を含んでなる電流電圧変換部によって所定の利得で増幅され電圧信号に変換される。電流電圧変換部が検出信号として出力する電圧信号に基づいて、入力光に含まれる信号光成分(例えば、被検体における例えば反射、散乱等による変調成分)を検出することが可能となる。
【0015】
本実施形態では、光電流変換部は、入力光を電流に夫々変換して出力する第1及び第2光電変換素子部を含んでなり、第1光電変換素子部が出力する電流と第2光電変換素子部が出力する電流との差分電流を検出電流として出力する。
【0016】
具体的には、第1及び第2光電変換素子部の各々は、1又は複数の光電変換素子(例えばフォトダイオード等)からなり、入力光の光量に応じて電流を出力する。光電流変換部は、第1光電変換素子部が出力する電流と第2光電変換素子部が出力する電流との差分電流を検出電流として出力する。例えば、第1及び第2光電変換素子部は、互いにカソード同士又はアノード同士が接続されるように、直列接続されている。或いは、例えば、第1及び第2光電変換素子部は、第1光電変換素子部のカソードと第2光電変換素子部のアノードとが接続され且つ第1光電変換素子部のアノードと第2光電変換素子部のカソードとが接続されるように、並列接続されている。なお、第1光電変換素子部のカソードとは、第1光電変換素子部に入力光が入力された際に外部から電流が流れ込むことになる電極を意味し、第1光電変換素子部のアノードとは、第1光電変換素子部に入力光が入力された際に外部に電流が流れ出すことになる電極を意味する。同様に、第2光電変換素子部のカソードとは、第2光電変換素子部に入力光が入力された際に外部から電流が流れ込むことになる電極を意味し、第2光電変換素子部のアノードとは、第2光電変換素子部に入力光が入力された際に外部に電流が流れ出すことになる電極を意味する。
【0017】
よって、第1及び第2光電変換素子部の各々から出力される電流のうち入力光に含まれる定常光成分に相当する電流成分(以下「DC(direct current)成分」と適宜称する)を低減或いは除去して、入力光に含まれる信号光成分に相当する電流成分(以下「AC(alternate current)成分」と適宜称する)を主として含む電流を検出電流として出力することができる。即ち、第1光電変換素子部が出力する電流のDC成分と、第2光電変換素子部が出力する電流のDC成分とを相殺させることができ、入力光に含まれる信号光成分に相当するAC成分を主として含む検出電流を出力することができる。またこのとき、第1光電変換素子部に入力される入力光の定常成分と第2光電変換素子部に入力される入力光の定常成分が等しいことがよりDC成分の低減あるいは除去の効果が大きいためより好ましい。
【0018】
したがって、電流電圧変換部によって検出電流を増幅して電圧信号に変換する際の利得を高めることができる。言い換えれば、本実施形態によれば、前述したように、第1光電変換素子部が出力する電流のDC成分と、第2光電変換素子部が出力する電流のDC成分とが相殺されており、検出電流にはDC成分がほとんど含まれていないので、例えば検出電流に含まれるDC成分が比較的大きい場合に発生し得る電流電圧変換部の飽和現象(例えば電流電圧変換部に含まれるオペアンプの飽和現象)の発生を回避しつつ、電流電圧変換部による増幅の利得を大きくすることができる。なお、電流電圧変換部の飽和現象とは、電流電圧変換部に入力される検出電流の電流値が所定の電流値よりも大きい場合に、電流電圧変換部が出力する電圧信号が、検出電流の電流値によらず、電流電圧変換部の電源電圧に応じて定まる一定の飽和電圧となる現象を意味する。
【0019】
更に、本実施形態によれば、前述したように、入力光に含まれる信号光成分に相当するAC成分を主として含む電流を、検出電流として出力することができるので、電流電圧変換部が検出信号として出力する電圧信号におけるS/N比(signal-to-noise ratio)を向上させることができる。即ち、本実施形態によれば、第1及び第2光電変換素子部の各々から出力される電流のうち、入力光に定常光成分として含まれるノイズ成分に相当するDC成分を低減或いは除去して、信号成分に相当するAC成分を主として含む検出電流を出力するので、電流電圧変換部が出力する検出信号におけるS/N比を向上させることができる。
【0020】
本実施形態では特に、定常光成分推定部は、電流電圧変換部から出力された検出信号のパワースペクトルの所定の周波数範囲における積分値に基づいて、入力光に含まれる定常光成分(言い換えれば、検出電流のDC成分)を推定する。
【0021】
具体的には、例えば、定常光成分推定部は、先ず、電流電圧変換部から出力された検出信号に対して、A/D(Analog to Digital)変換及びFFT(Fast Fourier Transform: 高速フーリエ変換)を施すことにより、検出信号のパワースペクトル(即ち、検出信号が周波数毎に含んでいるエネルギー)を演算する。次に、定常光成分推定部は、検出信号のパワースペクトルの所定の周波数範囲(例えば15kHzから20kHzなど)における積分値を算出する。次に、定常光成分推定部は、算出した積分値に基づいて、入力光に含まれる定常光成分を推定する。即ち、例えば、定常光成分推定部は、算出した積分値に所定の係数を乗じた値を、入力光に含まれる定常光成分として推定する。
【0022】
ここで、検出電流には、光電流変換部において入力光が電流に変換される際に生じるショットノイズ(即ち、第1及び第2光電変換素子部のショットノイズ)が含まれている。第1及び第2光電変換素子部のショットノイズの大きさは、入力光の光量(或いは光強度)の平方根に比例し、第1光電変換素子部が出力する電流或いは第2光電変換素子部が出力する電流の平方根に比例する。よって、ショットノイズのパワースペクトル(即ち、ショットノイズが周波数毎に含んでいるエネルギー)は、第1光電変換素子部が出力する電流或いは第2光電変換素子部が出力する電流に比例する。したがって、ショットノイズのパワースペクトルは、第1光電変換素子部が出力する電流または第2光電変換素子部が出力する電流に比例する。また、ショットノイズは、ホワイトノイズであるので、ショットノイズのパワースペクトルは、典型的には、ほぼ全ての周波数でほぼ同じ強度を有する。よって、検出信号のパワースペクトルのうち例えば信号光成分の周波数よりも高い周波数範囲のスペクトル成分は、そのほとんどがショットノイズに相当する。したがって、検出信号のパワースペクトルのうち例えば信号光成分の周波数よりも高い所定の周波数範囲における積分値は、ショットノイズの大きさに相当し、第1光電変換素子部が出力する電流または第2光電変換素子部が出力する電流のDC成分(言い換えれば、入力光の定常光成分)に相当する。よって、電流電圧変換部から出力された検出信号のパワースペクトルの所定の周波数範囲における積分値に基づいて、入力光に含まれる定常光成分を定常光成分推定部によって的確に推定することができる。ここで、本実施形態では特に、検出信号のパワースペクトルの所定の周波数範囲における積分値に基づいて定常光成分を推定するので、ショットノイズの周波数毎の揺らぎによらず、定常光成分を的確に推定することができる。言い換えれば、本実施形態では、検出信号のパワースペクトルを所定の周波数範囲で積算することにより定常光成分を推定するので、例えば検出信号のパワースペクトルの所定の一の周波数におけるスペクトル成分に基づいて定常光成分を推定する場合と比較して、ショットノイズの周波数毎の揺らぎに伴う推定値(即ち、推定される定常光成分の値)のばらつきを低減でき、定常光成分を精度良く推定することができる。
【0023】
したがって、入力光に含まれる定常光成分に対する信号光成分の比を算出する(即ち、信号光成分を正規化或いは規格化する)ことが可能となり、入力光に含まれる信号光成分をより精度良く検出することが可能となる。
【0024】
以上の結果、本実施形態に係る光検出装置によれば、入力光に含まれる信号光成分を精度良く検出することが可能となる。
【0025】
第1実施形態に係る光検出装置の一の態様では、前記出力された検出信号のパワースペクトルに基づいて前記信号光成分を推定する信号光成分推定部と、前記推定された定常光成分に基づいて、前記推定された信号光成分を補正する補正部とを更に備える。
【0026】
この態様によれば、補正部は、例えば、信号光成分推定部によって推定された信号光成分を定常光推定成分によって推定された定常光成分で除する(即ち、除算する)ことにより、信号光成分推定部によって推定された信号光成分を補正する。よって、入力光に含まれる信号光成分をより精度良く検出することが可能となる。
【0027】
前述した信号光成分推定部を更に備える態様では、前記信号光成分推定部は、前記出力された検出信号のパワースペクトルのうち第1周波数から該第1周波数よりも高い第2周波数までのスペクトル成分に基づいて、前記信号光成分を推定し、前記所定の周波数範囲は、前記1周波数よりも高い第3周波数から前記第2及び第3周波数よりも高い第4周波数までであってもよい。
【0028】
この場合には、信号光成分推定部によって信号光成分を確実に推定することができるとともに、定常光成分推定部によって定常光成分を確実に推定することができる。
【0029】
第1実施形態に係る光検出装置の他の態様では、前記定常光成分推定部は、前記所定の周波数範囲が分割されてなる複数の分割周波数範囲の各々における前記出力された検出信号のパワースペクトルの積分値を比較し、該比較した結果に基づいて、前記所定の周波数範囲を変更する変更部を有する。
【0030】
この態様によれば、所定の周波数範囲を例えば信号光成分が含まれないように変更部によって変更することができる。よって、定常光成分推定部によって定常光成分をより精度良く推定することが可能となり、入力光に含まれる信号光成分をより精度良く検出することが可能となる。
【0031】
第1実施形態に係る光検出装置の他の態様では、前記定常光成分推定部は、所定の時間間隔で前記積分値に基づいて前記定常光成分を複数回推定し、該複数回推定した定常光成分の平均値に基づいて最終的な前記定常光成分を推定する。
【0032】
この態様によれば、推定される定常光成分が、ショットノイズの揺らぎに起因してばらつくことを低減でき、定常光成分をより精度良く推定することが可能となる。
【0033】
第1実施形態に係る流体計測装置は上記課題を解決するために、光を被検体に照射する照射部と、前記照射された光に起因する前記被検体からの光が前記入力光として入力される前述した本実施形態に係る光検出装置(但し、その各種態様を含む)と、前記光検出装置が検出した信号光成分に基づいて、前記被検体中の流体に関する流体情報を算出する算出部とを備える。
【0034】
本実施形態に係る流体計測装置によれば、前述した本実施形態に係る光検出装置を備えるので、被検体中の流体に関する流体情報を正確に算出することができる。
【0035】
第1実施形態に係る流体計測装置の一態様では、前記被検体は生体であり、前記照射部は、前記光として波長が650nmから1400nmの範囲内であるレーザー光を前記生体に照射し、前記算出部は、前記流体情報として前記生体中の血流に関する血流情報を算出する。
【0036】
この態様によれば、生体中の血流に関する血流情報(例えば血流量)を正確に算出することができる。
【0037】
本実施形態におけるこのような作用、及び他の利得は次に説明する実施例から更に明らかにされる。
【実施例】
【0038】
本発明の実施例について図を参照しつつ説明する。以下では、本発明に係る流体計測装置の一例として、生体の血流量を計測するための血流計測装置を例にとる。
【0039】
<第1実施例>
第1実施例に係る血流計測装置について、図1から図5を参照して説明する。
【0040】
まず、本実施例に係る血流計測装置の全体構成について、図1を参照して説明する。
【0041】
図1は、本実施例に係る血流計測装置の全体構成を示すブロック図である。
【0042】
図1において、本実施例に係る血流計測装置1001は、本発明に係る「流体計測装置」の一例であり、生体(例えば人間の指など)である被検体900の血流量を計測するための装置である。
【0043】
血流計測装置1001は、レーザー駆動装置2と、半導体レーザー3と、光電流変換部100及び電流電圧変換部200を有する光検出信号出力部1と、信号処理部5とを備えている。尚、レーザー駆動装置2及び半導体レーザー3は、本発明に係る「照射部」の一例である。
【0044】
図1において、血流計測装置1001の動作時には、レーザー駆動装置2によって半導体レーザー3が駆動されることにより、半導体レーザー3からの光(本実施例では、波長が650nmから1400nmの範囲内であるレーザー光)が被検体900に照射される。被検体900に照射された光は、被検体900の毛細血管、細動脈、及び細静脈などの血管内のヘモクロビンにより反射或いは散乱される。このように被検体900において反射或いは散乱された光は、光検出信号出力部1の光電流変換部100に入射される。入射された光に応じて光電流変換部100から検出電流Idtが出力される。検出電流Idtは、電流電圧変換部200によって電圧信号に変換されて、光検出信号として信号処理部5に入力される。信号処理部5は、入力された光検出信号に基づいて血流量を算出し、血流量を示すデジタル信号を血流量検出信号として出力する。
【0045】
図2は、光検出信号出力部1の構成を示すブロック図である。
【0046】
図2において、光検出信号出力部1は、光電流変換部100及び電流電圧変換部200を備えており、被検体900から入力される入力光を電流に変換した後、この電流を電圧に変換して光検出信号として出力する。入力光は、半導体レーザー3(図1参照)からの光が被検体900によって例えば反射、散乱等された光であり、被検体900に係る情報を示す信号光成分(例えば、被検体における例えば反射、散乱等による変調成分)を含んでいる。
【0047】
図2において、光電流変換部100は、受光素子110及び120と、端子Pd1及びPd2とを有している。尚、受光素子110は、本発明に係る「第1光電変換素子部」の一例であり、受光素子120は、本発明に「第2光電変換素子部」の一例である。
【0048】
受光素子110及び120の各々は、例えばPINダイオード(P-Intrinsic-N Diode)等のフォトダイオードであり、入力光を受光し、受光した入力光の光量に応じて電流を出力する。受光素子110及び120は、互いにアノード同士が接続されるように、直列接続されている。受光素子110のカソードは、端子Pd1に接続され、受光素子120のカソードは、端子Pd2に接続されている。受光素子110及び120がこのように直列接続されているので、光電流変換部100は、受光素子110が出力する電流Idt1と受光素子120が出力する電流Idt2との差分電流(Idt2−Idt1)を検出電流Idtとして端子Pd1から出力することができる。また、光電流変換部100は、端子Pd1から出力する検出電流Idtの極性が反転された電流(−Idt)を端子Pd2から出力することができる。
【0049】
なお、本実施例では、受光素子110及び120について、互いにアノード同士が接続されるように、直列接続されている例を挙げるが、受光素子110及び120は、例えば、互いにカソード同士が接続されるように、直列接続されてもよいし、受光素子110のカソードと受光素子120のアノードとが接続され且つ受光素子110のアノードと受光素子120のカソードとが接続されるように、並列接続されてもよい。
【0050】
端子Pd1及びPd2は、電流電圧変換部200の入力端子In1及びIn2にそれぞれ接続されている。
【0051】
電流電圧変換部200は、入力端子In1及びIn2と、全差動アンプ230と、帰還抵抗Rf1及びRf2と、増幅器240と、出力端子Outとを有している。全差動アンプ230は、入力端子In1に入力される電流Idtを電圧信号−Rf1・Idtに変換し、出力端子Out−から出力する。同時に、全差動アンプ230は、入力端子In2に入力される電流−Idtを電圧信号Rf2・Idtに変換し、出力端子Out+から出力する。即ち、全差動アンプ230は、入力端子In1及びIn2に入力される電流を、それぞれ独立して電流電圧変換し、差動出力するトランスインピーダンスアンプとして構成されている。電流電圧変換部200は、光電流変換部100から入力端子In1に入力される検出電流Idtを電圧信号に変換して出力端子Outから光検出信号として出力する。
【0052】
全差動アンプ230は、入力端子In1に接続された入力端子In+と、入力端子In2に接続された入力端子In−と、出力端子Out−と、出力端子Out+とを有する全差動増幅器である。基準電位は、基準電位端子Vrefを介して入力される。出力端子Out−及びOut+は、後述する増幅器240の入力端子In−及びIn+にそれぞれ接続されている。
【0053】
帰還抵抗Rf1は、全差動アンプ230の入力端子In+と全差動アンプ230の出力端子Out−との間に接続されており、負帰還を施すと共に電流を電圧に変換する。帰還抵抗Rf2は、全差動アンプ230の入力端子In−と全差動アンプ230の出力端子Out+との間に接続されており、負帰還を施すと共に電流を電圧に変換する。帰還抵抗Rf1及びRf2によって負帰還が施されることにより、全差動アンプ230の入力端子In+と基準電位端子Vrefとの電位差はほとんどゼロになっている。同様に入力端子In−との基準電位端子Vrefとの電位差はほとんどゼロになっている。その結果、入力端子In+と入力端子In−はほとんど同電位になる。よって、全差動アンプ230の入力端子In+に入力端子In1を介して接続されている端子Pd1と、全差動アンプ230の入力端子In−に入力端子In2を介して接続されている端子Pd2との電位差もほとんどゼロであり、受光素子110及び120の各々をゼロバイアスの状態、即ち、いわゆる発電モードで動作させることができる。したがって、受光素子110及び120に発生する暗電流を低減或いは無くすことができる。これにより、暗電流のゆらぎによるノイズ電流を低下させることができ、電流電圧変換部200が出力する光検出信号におけるS/N比を向上させることができる。
【0054】
増幅器240は、入力端子In−から入力される電圧信号−Rf1・Idtと、入力端子In+から入力される電圧信号Rf2・Idtとの電位差2・Rf・Idt(Rf1=Rf2=Rfに選ぶ)を増幅して出力する増幅器である。増幅器240の出力端子は、電流電圧変換部200の出力端子Outに接続されている。
【0055】
図3は、増幅器240の構成を示す回路図である。
【0056】
図3において、増幅器240は、計装アンプとして構成されており、オペアンプOP1、OP2及びOP3と、帰還抵抗R2、R3及びR6と、共通入力抵抗R1と、入力抵抗R4、R5及びR7とを備えている。
【0057】
増幅器240の入力端子In−は、オペアンプOP1の非反転入力端子(+)に接続されている。増幅器240の入力端子In+は、オペアンプOP2の非反転入力端子(+)に接続されている。オペアンプOP1及びOP2は、帰還抵抗R2及びR3によってそれぞれ負帰還が施される。
【0058】
帰還抵抗R2とR3とは、等しい抵抗値に設定されている。
【0059】
共通入力抵抗R1は、オペアンプOP1の反転入力端子とオペアンプOP2の反転入力端子との間に接続されている。尚、共通入力抵抗R1は、利得を可変とするために可変抵抗として機能してもよい。
【0060】
オペアンプOP1の出力端子は、入力抵抗R4を介して、オペアンプOP3の反転入力端子に接続されている。オペアンプOP2の出力端子は、入力抵抗R5を介して、オペアンプOP3の非反転入力端子に接続されている。入力抵抗R5とオペアンプOP3の非反転入力端子との間には、入力抵抗R7の一方の端子が接続されている。入力抵抗R7の他方の端子は、例えばGND電位である基準電位Vrefに接続されている。オペアンプOP2から出力される電圧は、入力抵抗R5及びR7によって分圧されオペアンプOP3の非反転入力端子に入力される。
【0061】
入力抵抗R4とR5とは、等しい抵抗値に設定されている。
【0062】
オペアンプOP3は、帰還抵抗R6によって負帰還が施される。オペアンプOP3の出力端子は、電流電圧変換部200の出力端子Outに接続されている。
【0063】
帰還抵抗R6と入力抵抗R7とは、等しい抵抗値に設定されている。
【0064】
このように構成された増幅器240によれば、全差動アンプ230の出力端子Out−及びOut+からそれぞれ出力される2つの電圧信号における同相成分(例えばハムノイズなど)を、ノイズとして除去することができる。更に、全差動アンプ230の出力端子Out−及びOut+からそれぞれ出力される2つの電圧信号は、検出電流Idtに応じて差動出力されており、極性が互いに異なる2つの差動信号である。よって、増幅器240の入力端子In+及びIn−には、検出した光の信号成分は逆相で入力される。これにより、増幅器240が光検出信号として出力する電圧信号から例えばハムノイズ等の同相成分を、ノイズとして除去することができる。加えて、検出した光の信号成分は逆相なので、増幅器240によって増幅されて、光検出信号として出力される。この結果、光検出信号において、ノイズ成分を低下させると共に信号成分を増加させることができるので、S/Nを顕著に向上させることができる。
【0065】
図4は、信号処理部5の構成を示すブロック図である。
【0066】
図4において、信号処理部5は、A/D変換部51と、FFT部52と、補正前血流量演算処理部53と、DC成分推定処理部54と、補正処理部55とを備えている。
【0067】
A/D変換部51は、アナログ信号として入力される光検出信号に、所定のサンプリング周波数(本実施例では100kHz)でA/D変換を施すA/D変換回路であり、光検出信号をデジタル信号に変換して出力する。
【0068】
FFT部52は、デジタル信号として入力される光検出信号にFFT(高速フーリエ変換)を施すことにより、光検出信号のパワースペクトルP(f)(但し、fは周波数)を演算する。
【0069】
補正前血流量演算処理部53は、FFT部52によって演算されたパワースペクトルP(f)に基づいて、補正前血流量Mを演算する。具体的には、補正前血流量演算処理部53は、周波数fが200Hz以上であって15kHzより小さいという条件下で、以下の式(1)に従って、補正前血流量Mを演算する。
【0070】
M=K1×Σf・P(f) ・・・(1)
但し、K1はゲイン係数である。ゲイン係数K1は、校正液を用いて、後述するゲイン係数K2とともに決定される。
【0071】
即ち、補正前血流量演算処理部53は、200Hzから15kHzまでの周波数範囲について、周波数fとパワースペクトルP(f)との積を積算し、この積算した値(即ち、Σf・P(f))にゲイン係数K1を乗ずることにより、補正前血流量Mを演算する。なお、補正前血流量演算処理部53は本発明に係る「信号光成分推定部」の一例であり、200Hzは本発明に係る「第1周波数」の一例であり、15kHzは本発明に係る「第2周波数」の一例である。
【0072】
補正前血流量演算処理部53によって演算された補正前血流量Mは、後述する補正処理部55によって補正されて血流量Qとして算出される。
【0073】
ここで、入力光には、血流量を示す信号光成分(即ち、被検体900における例えば反射、散乱等による変調成分)が含まれるが、この信号光成分の周波数は、典型的には、200Hzから15kHzまでの範囲に含まれる。よって、200Hzから15kHzまでの周波数範囲について、前述した式(1)に従って演算された補正前血流量Mは、被検体900の血流量に相当する。なお、補正前血流量Mの演算における周波数fとパワースペクトルP(f)との積を積算する周波数範囲は、200Hzから15kHzまでの範囲に限定されるものではなく、血流量を示す信号光成分が取り得る周波数の範囲として適宜設定されてもよい。
【0074】
DC成分推定処理部54は、FFT部52によって演算されたパワースペクトルP(f)に基づいて、補正量Hを演算する。具体的には、DC成分推定処理部54は、周波数fが15kHz以上であって20kHzより小さいという条件下で、以下の式(2)に従って、補正量Hを演算する。
【0075】
H=K2×(ΣP(f)−Koffset) ・・・(2)
但し、K2はゲイン係数であり、Koffsetはオフセット量である。ゲイン係数K2は、校正液を用いて、前述したゲイン係数K1とともに決定される。また、オフセット量Koffsetは、光電流変換部100の受光素子110及び120に入力光が入らない状態(即ち、受光素子110及び120によって入力光が受光されない状態)での光検出信号のパワースペクトルP(f)の15kHzから20kHzまでの周波数範囲における積分値として算出される。即ち、オフセット量Koffsetは、受光素子110及び120に入力光が入らない状態でFFT部52によって演算されたパワースペクトルP(f)に基づいて、周波数fが15kHz以上であって20kHzより小さいという条件下で、以下の式(3)に従って決定される。
【0076】
Koffset=ΣP(f) ・・・(3)
即ち、DC成分推定処理部54は、15kHzから20kHzまでの周波数範囲について、パワースペクトルP(f)を積算し、この積算した値(即ち、ΣP(f))からオフセット量Koffsetを減じた値にゲイン係数K2を乗ずることにより、補正量Hを演算する。なお、DC成分推定処理部54は本発明に係る「定常光成分推定部」の一例であり、15kHzは本発明に係る「第3周波数」の一例であり、20kHzは本発明に係る「第4周波数」の一例である。
【0077】
補正処理部55は、補正前血流量演算処理部53によって演算された補正前血流量Mを、DC成分推定処理部54によって演算された補正量Hに基づいて補正することにより、被検体900の血流量としての血流量Qを演算する。補正処理部55は、演算した血流量Qを示す血流量検出信号を出力する。なお、補正処理部55は本発明に係る「補正部」及び「算出部」の一例である。
【0078】
より具体的には、補正処理部55は、以下の式(4)に従って、血流量Qを演算する。
【0079】
Q=M/H ・・・(4)
なお、式(4)において、ゲイン係数K1とゲイン係数K2との比(即ち、K1/K2)は校正液を用いて決定される。
【0080】
即ち、補正処理部55は、補正前血流量演算処理部53によって演算された補正前血流量Mを、DC成分推定処理部54によって演算された補正量Hで除する(即ち、割る)ことにより、血流量Qを演算する。つまり、補正処理部55は、補正前血流量Mを補正量Hで除することで、補正前血流量Mが正規化された血流量Qを演算する。
【0081】
このように、本実施例に係る血流計測装置1001によれば、DC成分推定処理部54によって演算された補正量Hによって、補正前血流量演算処理部53によって演算された補正前血流量Mを正規化することで、被検体900の血流量としての血流量Qを演算するので、被検体900の血流量を精度良く測定することが可能となる。
【0082】
次に、本実施例に係る血流計測装置1001における血流量Qの演算方法について、図5を参照して説明を加える。
【0083】
図5は、本実施例における光検出信号のパワースペクトルP(f)の一例を示すグラフである。なお、図5において、実線L1がパワースペクトルP(f)を示している。
【0084】
図5において、パワースペクトルP(f)のうち、周波数f1(例えば200Hz)から周波数f2(例えば15kHz)までの周波数範囲のスペクトル成分は、血流に関するものであり(例えば非特許文献1参照)、周波数f3(例えば15kHz)以上の周波数範囲のスペクトル成分は、例えば光検出信号出力部1が光検出信号を生成する際のノイズやA/D変換部51が光検出信号にA/D変換を施す際のノイズ(即ち、量子化ノイズ)などの検出系のノイズに関するものである。
【0085】
なお、血流速(即ち、血流速度)が高いほど、血流に関するパワースペクトルは高周波側にシフトする。また、人間の毛細血管における血流速度は約0.5から1mm/秒でありまた細動脈における血流速度は5mm/秒であることが知られており(例えば非特許文献2参照)、血流速度が約0.5から5mm/秒である場合、パワースペクトルの広がりは、おおよそ十数kHzまでである。また、血流の体積が大きいほど、パワースペクトルは全体的に(即ち、ほぼ全ての周波数で)大きくなる。
【0086】
前述したように、パワースペクトルP(f)のうち、周波数f3(例えば15kHz)以上の周波数範囲のスペクトル成分は、検出系のノイズに関するものである。検出系のノイズとしては、例えば、光検出信号出力部1が光検出信号を生成する際のノイズやA/D変換部51が光検出信号にA/D変換を施す際のノイズ(即ち、量子化ノイズ)がある。光検出信号出力部1が光検出信号を生成する際のノイズとしては、全差動アンプ230のノイズ、帰還抵抗Rf1及びRf2の熱雑音、増幅器240のノイズや受光素子110及び120のショットノイズがある。ここで、全差動アンプ230、帰還抵抗Rf1及びRf2、並びに増幅器240を適宜選択することにより、全差動アンプ230のノイズ、帰還抵抗Rf1及びRf2の熱雑音、及び増幅器240のノイズを、受光素子110及び120のショットノイズよりも小さくすることができる。更に、信号処理部5のA/D変換部51のビット長を適宜選択することにより、A/D変換の際の量子化ノイズを、受光素子110及び120のショットノイズよりも小さくすることができる。即ち、全差動アンプ230、帰還抵抗Rf1及びRf2、増幅器240、並びにA/D変換部51を適宜選択或いは調整することにより、検出系のノイズの大部分が受光素子110及び120のショットノイズであるようにすることができる(つまり、検出系のノイズにおいて受光素子110及び120のショットノイズが支配的なノイズとなるようにすることができる)。なお、本実施例では、全差動アンプ230、帰還抵抗Rf1及びRf2、増幅器240、並びにA/D変換部51は、検出系のノイズにおいて受光素子110及び120のショットノイズが支配的なノイズとなるように、適宜選択或いは調整されている。
【0087】
ここで、受光素子110或いは120のショットノイズの大きさは、入力光の光量(或いは光強度)の平方根に比例し、受光素子110或いは120が出力する電流の平方根に比例する。よって、受光素子110或いは120のショットノイズのパワースペクトル(即ち、ショットノイズが周波数毎に含んでいるエネルギー)は、受光素子110或いは120が出力する電流に比例する。したがって、受光素子110或いは120のショットノイズのパワースペクトルは、受光素子110が出力する電流Idt1のDC成分または受光素子120が出力する電流Idt2のDC成分に比例する。また、ショットノイズは、ホワイトノイズであるので、ショットノイズのパワースペクトルは、典型的には、ほぼ全ての周波数でほぼ同じ強度を有する。よって、光検出信号のパワースペクトルP(f)のうち血流に関する信号光成分の周波数(図5における周波数f1から周波数f2まで)よりも高い周波数範囲(図5における周波数f3から周波数f4(例えば20kHz)まで)のスペクトル成分は、そのほとんどがショットノイズに相当する。したがって、光検出信号のパワースペクトルP(f)のうち周波数f3から周波数f4までの周波数範囲における積分値は、ショットノイズの大きさに相当し、受光素子110が出力する電流Idt1のDC成分または受光素子120が出力する電流Idt2のDC成分(言い換えれば、入力光の定常光成分)に相当する。よって、光検出信号のパワースペクトルP(f)の周波数f3から周波数f4までの周波数範囲における積分値に基づいて、受光素子110が出力する電流Idt1のDC成分または受光素子120が出力する電流Idt2のDC成分(言い換えれば、入力光の定常光成分)を的確に推定することができる。ここで、本実施例では特に、光検出信号のパワースペクトルP(f)の周波数f3から周波数f4までの周波数範囲における積分値に基づいて、定常光成分として補正量Hを演算するので、ショットノイズの周波数毎の揺らぎによらず、補正量Hを的確に演算することができる。言い換えれば、本実施例では、光検出信号のパワースペクトルP(f)を所定の周波数範囲(本実施例では、15kHzから20kHzまでの周波数範囲)で積算することにより定常光成分に相当する補正量Hを推定するので、例えば光検出信号のパワースペクトルP(f)の所定の一の周波数におけるスペクトル成分に基づいて定常光成分に相当する補正量Hを推定する場合と比較して、ショットノイズの周波数毎の揺らぎに伴う推定値(即ち、推定される補正量Hの値)のばらつきを低減できる。
【0088】
なお、本実施例では、補正前血流量演算処理部53が、前述したように、200Hzから15kHzまでの周波数範囲について、周波数fとパワースペクトルP(f)との積を積算することにより、補正前血流量Mを演算するように構成したが、この周波数範囲は、入力光に含まれる信号成分がとり得る周波数に応じて適宜設定してもよい。
【0089】
また、本実施例では、DC成分推定処理部54が、前述したように、15kHzから20kHzまでの周波数範囲について、パワースペクトルP(f)を積算することにより、補正量Hを演算するように構成したが、この周波数範囲の下限値は、入力光に含まれる信号成分がとり得る周波数の上限値に応じて適宜設定してもよい。また、この周波数範囲の上限値は、FFT部52の演算精度に応じて設定してもよい。
【0090】
また、補正前血流量演算処理部53が周波数fとパワースペクトルP(f)との積を積算する周波数範囲(以下、「補正前血流量演算処理部53の積分範囲」と適宜称する)と、DC成分推定処理部54がパワースペクトルP(f)を積算する周波数範囲(以下、「DC成分推定処理部54の積分範囲」と適宜称する)との間に以下の式(5)が成立することが好ましい。なお、以下の式(5)において、faは、補正前血流量演算処理部53の積分範囲の下限値であり、fbは、補正前血流量演算処理部53の積分範囲の上限値であり、fcは、DC成分推定処理部54の積分範囲の下限値であり、fdは、DC成分推定処理部54の積分範囲の上限値である。
【0091】
fa<fb<fd かつ fa<fc<fd ・・・(5)
即ち、DC成分推定処理部54の積分範囲の下限値fcと、補正前血流量演算処理部53の積分範囲の上限値fbとの大小関係は特に限定されるものではなく、下限値fcと上限値fbとは同じであってもよいし、下限値fcが上限値fbより大きくてもよいし、下限値fcが上限値fbより小さくてもよい。
【0092】
以上説明したように、本実施例に係る血流計測装置1001によれば、光検出信号のパワースペクトルP(f)の所定の周波数範囲における積分値に基づいて、定常光成分に相当する補正量Hを演算し、この演算した補正量Hに基づいて、補正前血流量Mを補正するので、信号光成分に相当する血流量Qを精度良く検出することが可能となる。
【0093】
<第2実施例>
第2実施例に係る血流計測装置について、図6及び図7を参照して説明する。
【0094】
図6は、第2実施例に係るDC成分推定処理部54bの構成を示すブロック図である。
【0095】
図6において、第2実施例に係る血流計測装置は、前述した第1実施例に係るDC成分推定処理部54(図4参照)に代えてDC成分推定処理部54bを備える点で、前述した第1実施例に係る血流計測装置1001と異なり、その他の点については、前述した第1実施例に係る血流計測装置1001と概ね同様に構成されている。
【0096】
図6において、第2実施例に係るDC成分推定処理部54bは、変更部541を有しており、パワースペクトルP(f)を積算する周波数範囲(即ち、積分範囲)を動的に変更することが可能に構成されている点で、前述した第1実施例に係るDC成分推定処理部54と異なり、その他の点については、前述した第1実施例に係るDC成分推定処理部54と概ね同様に構成されている。
【0097】
DC成分推定処理部54bは、第1実施例に係るDC成分推定処理部54と同様に、前述した式(2)に従って補正量Hを算出する。ここで本実施例では特に、パワースペクトルP(f)を積算する周波数範囲が変更部541によって動的に変更される。
【0098】
図7は、DC成分推定処理部54bにおける、パワースペクトルP(f)を積算する周波数範囲の変更を説明するための説明図である。なお、図7には、光検出信号のパワースペクトルP(f)の一例が示されている(実線L1参照)。
【0099】
図7において、変更部541は、まず、パワースペクトルP(f)を積算する周波数範囲として予め定められた所定の周波数範囲(図中、周波数f3b(例えば15kHz)から周波数f4b(例えば20kHz)までの周波数範囲)が分割されてなる複数の周波数ブロックBf毎に光検出信号のパワースペクトルP(f)の積分値を演算し、この演算した複数の周波数ブロックBfの各々の積分値を比較する。次に、変更部541は、複数の周波数ブロックBfの各々の積分値を比較した結果に基づいて、所定の周波数範囲を変更する。具体的には、変更部541は、複数の周波数ブロックBfのうち、演算された積分値が互いにほぼ等しい周波数ブロックBfが連続する周波数範囲を、新たな所定の周波数範囲に設定する。
【0100】
ここで、DC成分推定処理部54bにおいてパワースペクトルP(f)を積算する周波数範囲として予め定められた所定の周波数範囲(図中、周波数f3b(例えば15kHz)から周波数f4b(例えば20kHz)までの周波数範囲)、特にその低周波数側に、血流量を示す信号光成分が含まれる場合がある。よって、複数の周波数ブロックBfのうち、低周波数側の周波数ブロックBfには信号光成分が含まれている場合がある。この場合、低周波数側の周波数ブロックBfの積分値は、信号光成分が含まれていない高周波数側の周波数ブロックBfの積分値よりも大きい。そこで、変更部541は、複数の周波数ブロックBfのうち、演算された積分値が相対的に大きい低周波側の周波数ブロックBfを所定の周波数範囲から除き、演算された積分値が互いにほぼ等しい高周波側の周波数ブロックBfが連続してなる周波数範囲を、新たな所定の周波数範囲に設定する。これにより、DC成分推定処理部54bが補正量Hを算出する際、信号光成分に相当する量が補正量Hに含まれることを低減できる。この結果、被検体900の血流量を精度良く測定することが可能となる。
【0101】
また、変更部541は、複数の周波数ブロックBfの各々の積分値の全てが互いにほぼ同じである場合には、所定の周波数範囲の下限値を低周波側にずらすことにより、所定の周波数範囲をより広く設定する。これにより、より広い周波数範囲でパワースペクトルP(f)を積算することができるので、ショットノイズの周波数毎の揺らぎによる悪影響をより確実に抑え、補正量Hをより安定的に演算することが可能となる。この結果、被検体900の血流量を精度良く測定することが可能となる。
【0102】
<第3実施例>
第3実施例に係る血流計測装置について、図8を参照して説明する。
【0103】
図8は、第3実施例に係るDC成分推定処理部54cの構成を示すブロック図である。
【0104】
図8において、第3実施例に係る血流計測装置は、前述した第1実施例に係るDC成分推定処理部54(図4参照)に代えてDC成分推定処理部54cを備える点で、前述した第1実施例に係る血流計測装置1001と異なり、その他の点については、前述した第1実施例に係る血流計測装置1001と概ね同様に構成されている。
【0105】
図8において、本実施例に係るDC成分推定処理部54cは、平均化処理部543を有している。平均化処理部543は、所定の時間間隔で補正量Hを前述した式(2)に従って複数回演算し、この複数回演算した補正量Hの平均値を最終的な補正量Hとして演算する。よって、補正量Hがショットノイズの時間的な揺らぎに起因してばらつくことを低減できる。即ち、補正量Hをより安定的に演算することが可能となる。この結果、被検体900の血流量を精度良く測定することが可能となる。
【0106】
なお、平均化処理部543における複数回演算した補正量Hの平均値は、相加平均であってもよいし、加重平均(重み付け平均)であってもよい。複数回演算した補正量Hの加重平均を演算する場合には、各補正量Hに対する重みは、補正量Hが現時点に近いほど大きくなるように設定するとよい。このように設定することで、複数回演算される補正量Hが、時間の経過とともに変化したとしても、最終的な補正量Hをより安定的に且つ精度良く演算することが可能となる。
<第4実施例>
第4実施例に係る血流計測装置について、図9を参照して説明する。
【0107】
図9は、第4実施例に係るDC成分推定処理部54dの構成を示すブロック図である。
【0108】
図9において、第4実施例に係る血流計測装置は、前述した第1実施例におけるDC成分推定処理部54に代えてDC成分推定処理部54dを備える点で、前述した第1実施例に係る血流計測装置1001と異なり、その他の点については、前述した第1実施例に係る血流計測装置1001と概ね同様に構成されている。
【0109】
図9において、本実施例に係るDC成分推定処理部54dは、アナログ回路で構成されている点で、前述した第1実施例におけるDC成分推定処理部54と異なり、その他の点については、前述した第1実施例におけるDC成分推定処理部54と概ね同様に構成されている。
【0110】
図9において、本実施例に係るDC成分推定処理部54dは、バンドパスフィルタ(BPF)545及び二乗回路547を備えている。
【0111】
BPF545は、光検出信号出力部1(図1参照)からアナログ信号として入力される光検出信号の所定の周波数範囲(本実施例では、15kHzから20kHzまでの周波数範囲)の信号成分を選択的に通過させるアナログ回路(バンドパスフィルタ)である。
【0112】
二乗回路547は、BPF545の出力信号(即ち、光検出信号における所定の周波数範囲の信号成分)を二乗して出力する二乗回路である。
【0113】
DC成分推定処理部54dは、二乗回路547の出力信号を、補正量Hを示す信号として出力する。
【0114】
このように、本実施例では特に、DC成分推定処置部54dは、アナログ回路で構成されているので、例えば、デジタル回路で構成される場合と比較して、高価な部品を用いずに構成することができるので、コストの低減を図ることが可能となる。
【0115】
本発明は、前述した実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う光検出装置及び流体計測装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0116】
1 光検出信号出力部
2 レーザー駆動装置
3 半導体レーザー
5 信号処理部
51 A/D変換部
52 FFT部
53 補正前血流量演算処理部
54、54b、54c、54d DC成分推定処理部
55 補正処理部
100 光電流変換部
110、120 受光素子
200 電流電圧変換部
541 変更部
543 平均化処理部
545 バンドパスフィルタ(BPF)
547 二乗回路
900 被検体
1001 血流計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定常光成分及び信号光成分が含まれる入力光から前記信号光成分を検出するための光検出装置であって、
前記入力光を電流に夫々変換して出力する第1及び第2光電変換素子部を含んでなり、前記第1光電変換素子部が出力する電流と前記第2光電変換素子部が出力する電流との差分電流を検出電流として出力する光電流変換部と、
該光電流変換部から出力された前記検出電流を増幅して電圧信号に変換し、該電圧信号を検出信号として出力する電流電圧変換部と、
該出力された検出信号のパワースペクトルの所定の周波数範囲における積分値に基づいて、前記定常光成分を推定する定常光成分推定部と
を備えることを特徴とする光検出装置。
【請求項2】
前記出力された検出信号のパワースペクトルに基づいて前記信号光成分を推定する信号光成分推定部と、
前記推定された定常光成分に基づいて、前記推定された信号光成分を補正する補正部と
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の光検出装置。
【請求項3】
前記信号光成分推定部は、前記出力された検出信号のパワースペクトルのうち第1周波数から該第1周波数よりも高い第2周波数までのスペクトル成分に基づいて、前記信号光成分を推定し、
前記所定の周波数範囲は、前記1周波数よりも高い第3周波数から前記第2及び第3周波数よりも低い第4周波数までである
ことを特徴とする請求項2に記載の光検出装置。
【請求項4】
前記定常光成分推定部は、前記所定の周波数範囲が分割されてなる複数の分割周波数範囲の各々における前記出力された検出信号のパワースペクトルの積分値を比較し、該比較した結果に基づいて、前記所定の周波数範囲を変更する変更部を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光検出装置。
【請求項5】
前記定常光成分推定部は、所定の時間間隔で前記積分値に基づいて前記定常光成分を複数回推定し、該複数回推定した定常光成分の平均値に基づいて最終的な前記定常光成分を推定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の光検出装置。
【請求項6】
光を被検体に照射する照射部と、
前記照射された光に起因する前記被検体からの光が前記入力光として入力される請求項1から5のいずれか一項に記載の光検出装置と、
前記光検出装置が検出した信号光成分に基づいて、前記被検体中の流体に関する流体情報を算出する算出部と
を備えることを特徴とする流体計測装置。
【請求項7】
前記被検体は生体であり、
前記照射部は、前記光として波長が650nmから1400nmの範囲内であるレーザー光を前記生体に照射し、
前記算出部は、前記流体情報として前記生体中の血流に関する血流情報を算出する
ことを特徴とする請求項6に記載の流体計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−210321(P2012−210321A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77456(P2011−77456)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】