説明

光検出装置

【課題】非自発光型ポインティングデバイスである光検出装置の位置を夜間でも判りやすくするために、光検出装置に発光機能を付加する。
【解決手段】光検出装置14は、相対運動を検出する第1光源1と、第1光源とは異なる波長領域を有する第2光源5を内蔵し、第1および第2の波長領域の透過率が、当該第1および第2の波長領域以外の波長領域の透過率よりも大きくなるように構成された検出部3を有し、前記光検出装置の前記検出部に第2光源に励起発光する発光材料6を有する。このように構成された光検出装置は発光材料が塗布された箇所が発光機能を有することで光検出装置の夜間視認性を大幅に改善することが実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的に検出される相対運動情報を電気信号に変換するための光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、携帯電話、ノートPC、ゲーム機、デジタルカメラ、キーボードなどの電子機器に使用される光検出装置として、オプティカル・フィンガー・ナビゲーションが知られている(例えば特許文献1、2および3を参照)。オプティカル・フィンガー・ナビゲーションは光源とその受光センサーを装置に内蔵しており、装置上面の検出部において指先の2次元方向の動きを検出してポインタやカーソルを制御することができる。オプティカル・フィンガー・ナビゲーションは光学方式であるため装置構成部品に可動部品がないことから信頼性が高いという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−268852
【特許文献2】特開2006−313552
【特許文献3】特開2006−052025
【特許文献4】特許第3776658号
【特許文献5】特開2008−84848
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術においては、次のような不具合があった。
【0005】
特許文献1に開示されたオプティカル・フィンガー・ナビゲーションは内部に位置検出用途の光源は配置されているが、照明用の発光素子を配置していなかった。そのため照度の低い夜間などでは光検出装置の検出部位置が認識できず、カーソルの制御動作に不具合を生じる場合があった。
【0006】
一方、照明用途として外部光源を用いて光を導く導光技術に関しては、例えば液晶パネル用バックライトに用いる導光板などが知られている。(例えば特許文献4および5)しかしながら可視光である液晶パネルを導光板として用いたとしても、上記光検出装置の上面検出部樹脂カバーは可視光による誤動作を防止するため可視光以下の波長を遮光する特性を有している。そのため導光板による照明機能の付加は困難であった。
【0007】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、光検出装置に対して、光検出装置としての機能を損なうことなく、光検出装置位置の夜間視認性を改善するために有用な発光機能を付加することをその目的としている。

【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの鋭意研究により、上記目的は、以下の手段によって達成される。
【0009】
即ち、上記目的を達成する本発明は、光学的に検出される相対運動情報を電気信号に変換するための光検出装置において、半導体レーザーまたはLEDからなる第1光源(第1の波長領域)と、第1の波長領域とは異なる第2の波長領域を有する第2光源とを有し、前記第1および第2の波長領域の透過率が、当該第1および第2の波長領域以外の波長領域の透過率よりも大きくなるように構成された検出部を有し、前記光検出装置の前記検出部に第2の波長領域の光に励起して発光する発光材料を有する光検出装置である。
【0010】
上記目的を達成する前記光検出装置は、第2の波長領域の透過率よりも第1の波長領域の透過率が大きくなるように構成された受光面を有する第1光源用受光センサーを有することを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成する前記光検出装置において、第2の波長領域は紫外領域または近赤外領域であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来は非自発光型の光検出装置などにおいて、相対運動を検出する第1光源と、第1光源とは異なる波長領域を有する第2光源を内蔵することで、第1の波長領域による相対運動情報の検出に対して第2の波長領域が外乱となることなく、第2光源を光検出装置に設置できることから、第2光源を発光機能のために用いることが可能となる。これにより、光検出装置に発光機能を付加して、夜間視認性を大幅に改善することが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の光検出装置断面図
【図2】従来の光検出装置検出部樹脂カバーの透過率
【図3】本発明の光検出装置断面図
【図4】本発明の光検出装置検出部樹脂カバーの透過率
【図5】実施例1によるデザイン1発光確認結果
【図6】実施例2によるデザイン2発光確認結果
【図7】実施例3によるデザイン3発光確認結果
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
【0015】
図3には、本発明の実施の形態に係る光検出装置14の構成が示されている。
【0016】
この光検出装置は、第1光源1と第2光源5と、第1光源1からの光を受光する受光センサー2とを有し、相対運動情報を検出する検出部3は、検出部樹脂カバー4の一部として構成されている。この光検出装置14で光学的に検出された相対運動情報は、電気信号に変換されるために変換器(図示せず)へと伝送される。
【0017】
第1光源1は、受光センサー2と相まって、検出部3における相対運動情報の位置などを判別する。第1光源1としては、半導体レーザー(VCSEL:垂直共振器面発光レーザー)やLED(ライトエミッティングダイオード)を用いることが好ましい。構造が簡便で信頼性が高く、検出応答速度が速いなどの観点から、特に半導体レーザーが好ましい。
【0018】
受光センサー2は、第2の波長領域の透過率よりも第1の波長領域の透過率が大きくなるように構成する。このためには、特定波長領域を遮断する樹脂などで検出部3を構成する方法を用いることができる。この様に構成するためには、可視光を透過しつつ赤外線を透過する特性を有する赤外線透過樹脂(IR樹脂)などで検出部3を構成する方法を用いることができる。検出部3は、例えばPMMA(ポリメチルメタクリルアクリレート)やポリカーボネイト、シクロオレフィンなどの材料に赤外領域以外の波長領域をカットする特性を有する染料や顔料を添加することによって構成できる。赤外線領域の透過率を大きくできる観点から、染料を添加するタイプの赤外線透過樹脂が好ましい。この様な構成とすることで、光検出動作に対して障害となる他の波長領域の光の入射を抑制することで検出精度を向上させることが可能となる。
【0019】
第2光源5は、第1光源1と異なる波長領域を有する光源を用いる。第1光源1が半導体レーザーの場合は、第2光源5は紫外領域や近赤外領域の光源を用いるのが好ましく、第1光源1との干渉を抑制する観点から波長領域が近接していないことが特に好ましい。第1光源がLEDの場合は紫外領域や近赤外領域の光源を用いるのが好ましく、同様の理由から波長領域が近接していないことが特に好ましい。第1と第2の光源をこの様に構成することで、第1の光源1は受光センサー2と相まって検出部3における相対運動情報の位置などを正確に判別することができる一方で、第2光源5を光検出装置14の発光機能のために用いることが可能となる。
【0020】
第2光源5そのものを光検出装置14の発光機能として用いることもできるが、例えば第2光源5を紫外線とし、紫外線線に励起される発光材料(蛍光材料6)を用いることで、その発光機能を増大させることができる。紫外線線に励起される蛍光材料6としては、市販の発光材料を用いることができる。蛍光材料6の塗布は、蛍光材料6に希釈溶剤を加えて塗布が容易になる粘度に希釈した後、スクリーン印刷、インクジェット方式等の印刷方式、ナノインプリンティングによる転写方式などの塗布方法を用いることができる。塗布の簡便性やプロセスコストの点からはスクリーン印刷やインクジェット方式が好ましく、微細なパターン形状を対象物に転写する場合はナノインプリンティングによる転写方式が好ましい。
【0021】
光検出装置14としての機能を満足させるために、検出部3は、光検出装置14内に第1及び第2波長領域以外の波長領域の光が入射し難くなるように構成する。この様に構成するためには、可視光を透過しつつ赤外線を透過する特性を有する赤外線透過樹脂(IR樹脂)などで検出部3を構成する方法を用いることができる。検出部3は、例えばPMMA(ポリメチルメタクリルアクリレート)やポリカーボネイト、シクロオレフィンなどの材料に赤外領域以外をカットする特性を有する染料や顔料を添加することによって構成できる。赤外線領域の透過率を大きくできる観点から、染料を添加するタイプの赤外線透過樹脂が好ましい。この様な構成とすることで、光検出動作に対して障害となる他の波長領域の光の入射を抑制することができる。さらに受光センサー2の上部を第2光源5の透過率を低減させる特性を有する材料で構成することで、より一層の検出精度向上と蛍光材料6による発光性能を両立させることが可能となる。
【0022】
以下に本発明による光検出装置14について実施例をあげて具体的に説明する。
【実施例1】
【0023】
図3に本発明による光検出装置14の断面図を示す。基板7上に前記相対運動を検出する第1光源1と、第1光源1の波長領域とは異なる波長領域を有する第2光源5、および受光センサー2が配置される。第1光源1は前記相対運動を検出するため光源として用いられる。VCSELから照射されるレーザー光が検出部3上の指先表面にて反射して反射光を受光センサー2で検出することにより指先の2次元方向の動きを検出することができる。今回用いたVCSELはCypress社製(標準波長850nm)であり、駆動電圧は5V、動作電流は6.5mAにて動作させることによって指先の相対運動の検出が可能であった。
【0024】
第2光源5は第1光源1の波長領域とは異なる波長領域を有しており、第2光源5によって励起される蛍光材料6を発光させることを目的とする。第2光源5としては日亜化学工業製のInGaN系紫外発光チップタイプLED(型番NSSU123T、標準ピーク波長375nm)を駆動電圧は5V、動作電流は20mAにて用いた。外形寸法の長さL、幅W、高さHはそれぞれL=3.0mm、W=2.0mm、H=0.7mmであった。
【0025】
紫外線に励起される蛍光材料6はシンロイヒ社製インビジブル塗料ルミライトカラーを用いた。前記蛍光材料6は通常状態においては白色であるが、紫外線を照射することで青色、緑色、黄色、オレンジ色、赤色などに発光する。前記蛍光材料6に希釈溶剤を加えて塗布が容易になる粘度に希釈した後、光検出装置14の検出部樹脂カバー4に手塗りにて塗布した。
【0026】
図5に示すように、ここでは第2光源5の直上位置において、光検出装置14の検出部樹脂カバー4に青色に発色するシンロイヒ社製インビジブル塗料ルミライトカラーを塗布して、デザイン1として直径約3.0mmの円形塗布領域を形成した。
【0027】
光検出装置14の検出部3を構成する検出部樹脂カバー4の材料としては日本ゼオン株式会社製のシクロオレフィン樹脂材料(型番ZEONOR−1060R)とベンゾフェノン系紫外線吸収剤(和光純薬工業製2,2,4,4−テトラヒドロキシベンゾフェノン、分子式[(HO)2C6H3]2CO )を用いて、混合した樹脂を射出成型装置内の金型に注入加圧することで検出部樹脂カバー4を作成した。使用した射出成型装置は住友重機械工業株式会社製(型番SD50E)であり、樹脂温度300度、圧力60MPa、5秒間加圧状態を保持することで検出部樹脂カバー4を作成した。作成した検出部樹脂カバー4の検出部3における厚みは0.3mmとした。
【0028】
作成した検出部樹脂カバー4の透過率を測定した。測定に使用した装置は日本分光株式会社製分光光度計(型番V−660)である。測定の結果は、図4に示すように紫外領域にあたる波長365nmにおける透過率は13%、可視光領域にあたる波長400〜700nmにおける透過率は0〜5%、近赤外領域にあたる波長800〜900nmにおける透過率は91%であった。
【0029】
受光センサー2を覆うように紫外線をカットするフィルタを配置した。紫外線カットフィルタは日東樹脂工業製CLAREX UVシリーズUV(紫外線)カットフィルタN−113を使用した。フィルタの透過率は日本分光株式会社製分光光度計(型番V−660)で測定した。紫外領域にあたる波長400nmにおける透過率はほぼ0%、波長400以上の長波長側での透過率は約92%であった。上記紫外線カットフィルタを受光センサー2より大きいサイズに切り出して、裏面に接着剤を塗布して受光センサー2に装着した。
【0030】
本発明における光検出装置14において、上記実施例1を施した結果、第2光源5を点灯させることで光検出装置14の検出部樹脂カバー4に塗布された円形領域が蛍光発光することが確認できた。発光領域の輝度測定には、TOPCON社製輝度計BM−9を用いた。輝度計と測定物との距離は350mm、測定スポットサイズは0.95mm(測定角0.2°)である。第2光源5を発光させた状態で上記領域での輝度を測定した結果、蛍光材料6のない領域において0.02mcd、蛍光材料6が塗布された領域において4.30mcdであった。上記発光状態において、光検出装置14の検出部3において指先の2次元方向の動きを検出してポインタやカーソルを制御することができる検出動作は問題なく動作した。
【実施例2】
【0031】
実施例2は光検出装置14への蛍光材料6の塗布方式検討としてスクリーン印刷方式を用いて検出部樹脂カバー4にデザイン2を形成した。スクリーン版は樹脂製ステンシルで形成され、スクリーン版の枠内に適度な粘度に希釈された蛍光材料6をのせてゴム製スキージを摺動することで蛍光材料6を被印刷物に転写した。図6に示すように第2光源5を発光させることで、蛍光材料6が転写した部分が発光してデザイン2の形状通りに発光することを目視で確認した。さらに実施例1と同様に上記発光状態において、検出動作は問題なく動作した。
【実施例3】
【0032】
塗布する蛍光材料6の色は適宜選択することが可能である。実施例3では光検出装置14の検出部樹脂カバー4に、それぞれ緑色、赤色、青色、青緑色に発色するシンロイヒ社製インビジブル塗料ルミライトカラーを塗布してデザイン3を形成した。図7に示すように、前記蛍光材料6は通常状態においてはデザイン3全体が白色であるが、第2光源5を発光させることでそれぞれ緑色、赤色、青色、青緑色に発光した。結果として夜間の視認性能を向上させると共にデザイン性に優れた光検出装置14を実現できた。
【0033】
実施例1、2および実施例3に示したように、本発明の光検出装置14において、相対運動情報を検出する第1光源1と、第1光源1の波長領域とは異なる波長領域を有する第2光源5を内蔵することで第1の波長領域による相対運動情報の検出に対して第2の波長領域が外乱となることなく、第2光源5を光検出装置14に設置できることから、第2光源5を発光機能のために用いることが可能となる。これにより、光検出装置14に発光機能を付加して、夜間視認性を大幅に改善することが実現できる。また本発明の方法を用いて発光機能を付加した場合に、可視光影響低減のための遮蔽構造物が光検出装置内部に不要となるため、装置内部が簡素化できることから光検出装置14の薄型化が可能となる。実施例では第2光源5として紫外線発行LEDを用いた例を示したが、VCSEL波長領域を除く近赤外線発光LEDを用いても、同様に発光効果と安定した検出動作を得ることが出来る。一例としては株式会社大興製作所製の近赤外励起蛍光材料(IR DETECTION PHOSPHOR)を用いて、前記蛍光材料6に980nmの波長光を照射することで蛍光材料6を青色、緑色、赤色に発光させることが出来た。
【0034】
本実施例では光検出装置14の上面の一部を発光させる例をあげて示したが、第2光源5を全面に拡散させる手法と組み合わせることにより、検出部樹脂カバー4全体、検出部樹脂カバー4外周、および検出部3の任意箇所において発光させることもできる。
【符号の説明】
【0035】
1 第1光源
2 受光センサー
3 検出部
4 検出部樹脂カバー
5 第2光源
6 蛍光材料
7 基板
8 実施例1によるデザイン1発光確認結果
9 実施例2によるデザイン2発光確認結果
10 実施例3によるデザイン3発光確認結果(緑色)
11 実施例3によるデザイン3発光確認結果(赤色)
12 実施例3によるデザイン3発光確認結果(青色)
13 実施例3によるデザイン3発光確認結果(青緑色)
14 光検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的に検出される相対運動情報を電気信号に変換するための光検出装置において、半導体レーザーまたはLEDからなる第1光源(第1の波長領域)と、第1の波長領域とは異なる第2の波長領域を有する第2光源とを有し、前記第1および第2の波長領域の透過率が、当該第1および第2の波長領域以外の波長領域の透過率よりも大きくなるように構成された検出部を有し、前記光検出装置の前記検出部に第2の波長領域の光に励起して発光する発光材料を有することを特徴とする光検出装置。
【請求項2】
前記光検出装置は、第2の波長領域の透過率よりも第1の波長領域の透過率が大きくなるように構成された受光面を有する第1光源用受光センサーを有することを特徴とする請求項1に記載の光検出装置。
【請求項3】
前記光検出装置において、第2の波長領域は紫外領域または近赤外領域であることを特徴とする請求項1または2に記載の光検出装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−65126(P2013−65126A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202509(P2011−202509)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】