光機能素子の製造方法及びタンタル酸リチウム単結晶の製造方法
【課題】単結晶の耐光損傷強度を充分に確保すると共に、抗電場の増大化を抑え、周期分極反転構造を形成する場合の特性のばらつきを抑えることを目的とする。
【解決手段】酸化マグネシウム(MgO)を添加物として含み、その添加量を0mol%を超える0.15mol%以下とするコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して、このコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を、少なくともリチウムを含む原料を用いて気相平衡法により処理することにより、化学量論組成に近づける。この基板1を用いて光機能素子を形成する。
【解決手段】酸化マグネシウム(MgO)を添加物として含み、その添加量を0mol%を超える0.15mol%以下とするコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して、このコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を、少なくともリチウムを含む原料を用いて気相平衡法により処理することにより、化学量論組成に近づける。この基板1を用いて光機能素子を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換素子等に用いて好適な光機能素子の製造方法であって、タンタル酸リチウム単結晶基板を用いる光機能素子の製造方法及びタンタル酸リチウム単結晶の製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
タンタル酸リチウム(LiTaO3)やニオブ酸リチウム(LiNbO3)に代表される無機強誘電体結晶は、レーザ光発生装置において波長変換素子等に用いられる。
そして、例えば、第二高調波発生(SHG)を利用した波長変換素子の場合、近赤外光を入射して緑色光を得ることができることから、レーザ光源を用いた画像生成装置(プロジェクタやプリンタ等)や光学記録再生装置等に適用することができる。
【0003】
最近、波長変換素子として、上述したタンタル酸リチウム等の無機強誘電体単結晶の分極を周期的に反転させる構造が、主流となっている。
この構造の波長変換素子は、疑似位相整合(Quasi Phase Matching;QPM)方式、即ち、基本波と高調波の伝搬定数の差を周期構造で補償して位相を整合させる方式を採用している。
この方式では、高い変換効率が得られること、出力光の平行ビーム化・回折限界集光が容易であること、適用できる材料や波長に制限がないこと等、多くの優れた特徴を持っている。
【0004】
ところで、レーザ光の波長変換素子においては、耐光損傷強度が強いことが要求され、そのための材料開発が求められている。
【0005】
例えば、コングルエント組成(一致溶融組成)のタンタル酸リチウム単結晶基板を、VTE(Vapor Transport Equilibration;気相平衡法)によって処理して、化学量論組成に近づけることが提案されている(特許文献1参照)。
これにより、耐光損傷強度を向上させることができる。また、抗電場Ec(分極を反転させるための印加電圧の目安となる値)の値も、コングルエント組成タンタル酸リチウム単結晶の20kV/mm以上に対して、数100V/mmと低減化できて、分極反転が比較的容易にできるようになる。
【0006】
また、2重ルツボ法と称される特殊な結晶育成装置を用いて、添加物を加えた化学量論組成に近いタンタル酸リチウム単結晶を育成する製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
この製造方法によって単結晶を育成することにより、耐光損傷強度の向上や抗電場の低減化を図ることができる。
【特許文献1】米国特許第4071323号明細書
【特許文献2】特開2001−287999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された製造方法では、単結晶の耐光損傷強度は必ずしも充分には得られていない。
また、上記特許文献2に記載された製造方法では、特殊な結晶育成装置を必要とするため、装置が複雑になり、組成均質性や大型化、量産化、低コスト化については充分とは言い難い。
【0008】
更に、化学量論組成のタンタル酸リチウム単結晶基板に周期分極反転構造を形成した波長変換機能を有する光機能素子において、得られる波長変換波の変換効率にばらつきが生じる場合があることがわかってきた。変換効率のばらつきは、例えばこの光機能素子を短波長の光源として用いる光学装置等において、その出力特性等に影響することから、できるだけ抑制されることが望ましい。
【0009】
上述した問題の解決のために、本発明においては、タンタル酸リチウム単結晶の耐光損傷強度を充分に確保すると共に抗電場の増加を抑え、更に、周期分極反転構造を形成した場合の特性のばらつきを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による光機能素子の製造方法は、酸化マグネシウム(MgO)を添加物として含み、その添加量を0mol%を超える0.15mol%以下とするコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して、このコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を、少なくともリチウムを含む原料を用いて気相平衡法により処理することにより、化学量論組成に近づける。そして、この化学量論組成に近づけたタンタル酸リチウム単結晶基板を用いて光機能素子を形成することを特徴とする。
【0011】
本発明のタンタル酸リチウム単結晶の製造方法は、MgOを添加物として含み、その添加量を0mol%を超える0.15mol%以下とするコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して、このコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を、少なくともリチウムを含む原料を用いて気相平衡法により処理することにより、化学量論組成に近づけることを特徴とする。
【0012】
上述の本発明の光機能素子の製造方法及びタンタル酸リチウム単結晶の製造方法によれば、MgOを添加物として含むコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して気相平衡法により処理を行うので、抗電場を低減することが可能になる。
また、添加物を含まないコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して気相平衡法により処理を行った場合と比較して、処理後に得られる単結晶の耐光損傷強度を向上することが可能になる。
そして特に本発明によれば、MgOの添加量を上述の範囲に選定することによって、周期分極反転構造を形成した場合の特性のばらつきを抑えることができる。
【0013】
本発明者等の鋭意考察研究の結果、MgOの添加量を多くし過ぎると、周期分極反転構造を同じ条件で作製した場合にタンタル酸リチウム単結晶基板内の分極反転構造のばらつきが生じていることが分かった。この分極反転構造のばらつきを抑えるためには、これを形成する際の条件、例えば電圧印加により形成する際の電極形状や材料、パルス電圧の波形等の工夫が必要となる。これに対しMgOの添加量を適切な範囲に選択することにより、分極反転構造の形成条件を複雑化することなく周期分極反転構造のばらつきを抑えることができ、結果的に特性のばらつきを抑えることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、耐光損傷強度に優れ、かつ抗電場も低い単結晶を得ることができる。したがって、分極反転型波長変換デバイスに用いて好適な単結晶を得ることができる。更に、周期分極反転構造を形成した場合の特性のばらつきを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
本発明においては、予めMgOが0mol%を超える0.15mol%以下の添加量として添加されたコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用する。そしてこのコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を気相平衡法(VTE法)により処理することで、化学量論組成(タンタル:リチウム=1:1)に近づける。
【0016】
上述の添加量の単結晶基板を作製する方法として例えば引上法により作製する場合では、単結晶を育成するための融液に酸化マグネシウム(MgO)を上述の範囲の添加量をもって添加して、単結晶の育成を行えばよい。
【0017】
ここで本発明においては、MgOの添加量をタンタル酸リチウムに対して0mol%を超える0.15mol%以下の範囲内とするものである。後述するように、特に添加量を0.025mol%以上とする場合は、より確実に光損傷強度を向上する効果が得られる。
【0018】
一方、添加量が増えるに従い、自発分極等の誘電特性が低下していくので、添加量が多すぎると、誘電特性が充分に得られなくなる。また抗電場(Ec)の値も添加量が増えるに従い大きくなり、分極反転電圧が高くなり、分極反転幅比等の制御性に問題が生じる可能性がある。更には添加量が増えるに従い添加なしのコングルエント組成タンタル酸リチウム単結晶に比べて3インチ以上の大型結晶にした場合、結晶の高品質化が困難となることが予想される。
【0019】
そして特に、周期分極反転構造を形成した場合の特性として、後述するように周期分極反転構造を形成したタンタル酸リチウム単結晶基板に光を入射して波長変換光の出力を測定したところ、0.15mol%を超える添加量とする場合は、波長変換光の出力のばらつきが大きくなることが分かった。このため、本発明においてはMgOの添加量を0.15mol%以下とするものである。
【0020】
まず、本発明の光機能素子の製造方法に用いるタンタル酸リチウムの単結晶の製造方法の一実施の形態を説明する。
まず、MgOが添加物として予め添加されたコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を用意する。
MgOが予め添加されたコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板の育成方法としては、従来公知の育成方法、例えば引上法(所謂チョクラルスキー法)を適用することができる。
コングルエント組成では、リチウム及びタンタルのモル分率(Li2O/(Li2O+Ta2O5))=0.4830〜0.4853となる。
上述のモル分率を有するタンタル酸リチウムの融液に、MgOを添加して、引上法によって単結晶を育成することにより、MgOが添加されたコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を作製することができる。
そして、例えば、引上法で育成された単結晶を、所定の厚さ(例えば、1mm程度)にスライスして得られた、例えば約51mm(2インチ)のフルウエハーの単結晶基板1を用意する。
【0021】
次に、少なくともリチウムを含む原料、例えばタンタルとリチウムとを含む原料を使用して、気相平衡法(VTE法)により処理を行う。原料としては、例えば、酸化タンタルと酸化リチウムとの混合粉末を使用することができる。
【0022】
また、タンタル酸リチウム単結晶を化学量論組成に近づけるためには、原料において、タンタルよりもリチウムを多くする必要がある。例えば、原料のモル分率(Li2O/(Li2O+Ta2O5))を0.55〜0.95とすればよい。
【0023】
気相平衡法(VTE法)の条件は、処理温度を1100℃〜1650℃、好ましくは1200℃〜1500℃とし、処理時間を5時間〜400時間程度とする。
なお、処理時間は、処理する単結晶基板の厚さに依存し、例えば、0.5mm〜1.0mm程度の厚さの単結晶基板に対しては、10時間〜300時間程度が好ましい。
【0024】
本実施の形態における、気相平衡法(VTE法)による処理の基本的な流れは、以下に示す通りである。
(1)原料粉末が充填された収容部材(白金皿等)を容器に入れる。
(2)収容部材に対して単結晶基板を配置する。
(3)原料粉末及び単結晶基板の周囲を被覆部材で覆ってほぼ密閉状態とし、それらを容器内に収容して密閉する。
(4)容器を高温で所定時間加熱する。
(5)高温処理後、容器から被覆部材を取り外して、単結晶基板を取り出す。
【0025】
そして、本実施の形態において気相平衡法による処理を行う処理装置の一例の概略構成図を図1に示す。図1はこの装置の断面構成を示している。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態では、原料粉末3を入れるための収容部材4として、一端部に開口を有し、所定の深さをもった白金等よりなる皿を使用する。
【0027】
複数枚の基板1(例えば、フルウエハー)は、保持部材5によって支持された状態で、収容部材4に配置される。
ここで、保持部材5の一形態の概略側面構成図及び斜視構成図を図2A及び図2Bに示す。
図2A及び図2Bに示すように、この保持部材5(支持治具或いはホルダー)は、基板1,1,…が、個々の基板に対してそれぞれ形成された溝5a,5a,…内に受け入れられることにより、直立状態で整列される。
保持部材5の材質としては、白金製の板や線材等を使用することができる。
【0028】
なお、各基板を積み重ねて積層状態に配置し、隣り合う基板の間にスペーサ(白金線等)を介在させる方法も考えられるが、作業性に問題があり、また、基板のうちスペーサの存在によって隠れてしまう場所には気相平衡法で用いるリチウム等の蒸気が当たらないので処理ができなくなって有効面積が減少し、歩留まりの悪化に繋がる等の問題が生じる。
これに対して、本実施の形態のように、各基板を直立状態で整列させることにより、基板の間にスペーサ等を介在させる必要がなくなり、作業性や量産性を向上させることができる。
【0029】
保持状態の基板同士の間隔が狭すぎると、処理に支障を来す虞があるので、十乃至十数ミリメートル程度の間隔を確保することが望ましい。但し、基板同士の間隔を大きくしすぎると、一度にセット可能な基板枚数が少なくなってしまうことに注意を要する。
また、保持部材5に対して、各基板を正確に垂直な状態で保持する必要はなく、許容される傾斜角度をもって各基板をほぼ直立状態で保持すればよい。
【0030】
原料粉末3が充填された収容部材4に対して、基板1,1,…を保持した保持部材5は原料粉末3の上に載置される。そして、この状態で、原料粉末3及び各基板1の周囲を覆うようにして被覆部材6を被せる。
【0031】
被覆部材6は、原料粉末3及び基板1,1,…を密封するための部材であり、例えば、一端部が開口された円筒状の白金製等のルツボを用いることができる。
そして、被覆部材6を被せた状態では、図1に示すように、被覆部材6の開口縁が容器7の内底面に接触された状態となっている。
【0032】
容器7(加熱用容器)は、原料粉末3が充填された収容部材4と、各基板1をほぼ垂直の状態に保持した状態の保持部材5と、これらの部材を覆っている被覆部材6を収容して高温で加熱するための部材である。
本実施の形態では、角箱状をした2分割型のアルミナ等より成る角型容器が用いられ、上ハーフ7Hと、下ハーフ7Lとで構成される空間内に上記の各部材4,5,6や基板1、原料粉末3が収容される。つまり、原料粉末3が充填された収容部材4が下ハーフ7Lの内底面に位置され、これに基板1を保持した状態の保持部材5が配置される。そして、これらを被覆部材6で覆うことにより、この被覆部材6と下ハーフ7Lとの間に形成される空間内に、基板1や原料粉末3等がほぼ密封状態で閉じ込められる。そして、下ハーフ7Lに上ハーフ7Hを載せて両者を一体にすることで、全てが容器7内に収容される。
【0033】
次に、上述した(4)の加熱工程で使用される装置の要部を、図3A及び図3Bに示す。
図3A及び図3Bに示すように、この装置8は、例えば円柱状をした炉9に凹部9aが設けられる構成であり、その内底面に、図1に示した収容状態の容器7を配置して、炉蓋10を閉じることにより密閉される。
そして、図示しない熱源(ヒーター)及び温度検出手段(熱電対を用いた温度センサ)、温度制御手段を用いて、大気中で高温の熱処理を行う。
これにより、基板1に対して、気相平衡法(VTE法)による処理がなされる。
【0034】
VTE法による処理が終了した後には、炉9から容器7を取り出して、容器7の上ハーフ7Hを外し、被せてある被覆部材6(白金ルツボ)を取り外す。
このとき、被覆部材6を容易に取り外すことができ、中の基板1を手際良く取り出すことができるため、従来の方法と比較して、工程数及び時間を短縮できる。したがって、作業性が良好であり、量産化に適している。
【0035】
このように処理して得られた基板1は、良好な特性を有し、例えば、SHG等の非線形光学デバイスへの適用において、耐光損傷性が大幅に改善される。
【0036】
なお、気相平衡法(VTE法)による処理を行った直後の基板は、引上法により育成された直後の単結晶基板(即ち、処理前の基板)と同様に、多分域状態となっているため、単分域化処理を行う。
単分域化処理の方法は、従来公知の方法を使用することができ、例えば、基板の両面に導電膜から成る電極を形成して、両電極間に電圧を印加すると共に、キュリー点よりも低い所定の温度で加熱する。
また、この単分域化処理において歪が生じた場合には、この歪を除去するために単分域化処理後にアニール(熱処理)を行う。
【0037】
また、容器等の材質については、熱的及び化学的な安定性を考慮して、収容部材4、保持部材5、被覆部材6の何れにも白金(Pt)を用いることが好ましく、それら全体を囲む容器7としてアルミナ容器を用いることが好ましいが、原料粉末3の特性やコスト要求等に応じて、その他の材質を選択することももちろん可能である。
【0038】
上述の本実施の形態によれば、収容部材4に原料粉末3を入れるだけで不純物の混入がないようにすることができ、バインダー等の整形の必要もない。
また、基板1を保持部材5に載せるだけで基板1を設置できるため、基板の保持のための穴あけ加工等が不要になり、また各基板1をほぼ直立状態で保持してスペーサ等を不要にする。
また、基板1のサイズの変更に対しても、容易かつ柔軟に対応することができる。
さらに、被覆部材6を被せることにより、基板1を密閉することができるので、蒸気の漏れを防いで、VTE法による処理を有効に行うことができる。
【0039】
従って、本実施の形態によれば、工程数を削減することができ、基板の品質管理が容易になる。また、基板サイズを変更しても製造設備を大幅に改変する必要がない。
しかも、添加物が添加されたコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用することから、コングルエント組成の単結晶の完成された育成技術をそのまま流用することができる。
即ち、タンタル酸リチウム単結晶の量産化や高品質化、3インチ以上の大型化、並びにコストの低減を図ることができる。
【0040】
また、上述の本実施の形態によれば、添加物を添加したタンタル酸リチウム単結晶を使用して、VTE法による処理を行うことにより、耐光損傷強度を充分に有し、かつ抗電場が低く、分極反転形成が容易となる誘電特性を有する単結晶を得ることができる。
そして、特に、添加物を含まないコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用してVTE法による処理を行った場合と比較して、処理後に得られる単結晶の耐光損傷強度を向上することが可能になる。
【0041】
上述の実施の形態では、基板1としてフルウエハーを使用して、VTE法による処理を行っているが、フルウエハーを分割した基板を使用してもよい。
また、被覆部材は、基板を収容した空間が密閉されるのであれば、原料粉末及び収容部材の全てを覆っていなくてもよい。例えば、被覆部材の開口端を収容部材(白金皿等)に収容された原料粉末に埋めて、原料粉末と被覆部材とによって密閉空間を形成してもよい。
【0042】
上述した実施の形態の製造方法によって製造したタンタル酸リチウム単結晶は、例えば、周期分極反転構造を形成することでSHG等の波長変換素子や、その他偏光、焦点等の制御やスイッチング、光記憶等に用いる各種の光機能素子への適用が考えられる。
【0043】
このような光学デバイスとして、周期分極反転構造を有するSHG等の波長変換素子に適用可能な本発明の実施の形態にかかる光機能素子の製造方法を、以下、図4A〜図4Eを参照して説明する。
【0044】
まず、図4Aに示すウエハ状の基板(単結晶基板)1を前述の図3A及びBにおいて説明した気相平衡法による処理を行う装置8に投入する。基板1としては、引上法(チョクラルスキー法)等で育成された、MgOを上述の添加量の範囲で添加したコングルエント組成の単結晶を、所定の厚さ(例えば1mm)にスライスしたものを使用することができる。この基板1に気相平衡法(VTE法)により処理を行う。この処理によって化学量論組成とされた基板1を装置8から取り出した後、所定温度で電界を印加して単分域化を行う。
【0045】
次に、図4Bに示すように、アルミニウム、クロム等から成る電極膜を、タンタル酸リチウム単結晶基板1の一方の面1A上に全面に成膜した後、リソグラフィーによってパターニングして、数μm程度の周期及び幅、例えば8μm周期、3μm幅程度の所定周期を有するパターン電極11Aを形成する。なお、この周期及び幅は、タンタル酸リチウム単結晶基板に入射する基本波の波長や利用する波長変換の過程(第2高調波、第3高調波、パラメトリック発振、和周波混合等)によって適宜選定される。図4Bに示すように、この電極パターンとしては例えば櫛状のパターンとすることが望ましい。基板1の他方の面1Bには同様にアルミニウム、クロム等より成る膜状の電極、すなわち一様電極11Bを形成する。
【0046】
次に、図4Cに示すように、対をなすパターン電極11A及び一様電極11Bの間に、電圧印加部12から数百V程度の例えば直流パルス電圧を印加する。これによって、図4Dに断面構成を概念的に示すように、単分域化された状態における矢印aで示す分極方向とは逆向きの矢印bで示す分極方向の領域が電極間に形成される。これにより、所定の分極反転周期を持った周期分極反転構造15が形成される。
【0047】
その後、基板1上に形成された個々の素子部分を切断等により分離して、更に研磨や反射防止等の光学コートなどの処理工程を経て、光機能素子を形成する。これにより、図4Eに示すような光機能素子20を製造することができる。
図4Eに示す光学デバイス2としては、例えば、光線伝播方向の長さが8mm程度の波長変換素子等が挙げられる。
【0048】
続いて、本発明の製造方法により得られる光機能素子の特性について調べた。以下の例においては、MgOの添加量を変えてタンタル酸リチウム単結晶を製造し、得られた各タンタル酸リチウム単結晶に周期分極反転構造を形成して、波長変換特性を測定して特性の比較を行った。
【0049】
波長変換特性を測定した光学装置の概略構成図を図5に示す。この光学装置50は、半導体レーザ等より成る励起光源51と、半波長板52、コリメートレンズ等の光学レンズ53、共振器を構成するミラー54、レーザ媒質55、本発明により得られる光機能素子56及び共振器を構成するミラー57により構成される。励起光源51から出射されたレーザ光は半波長板により偏光方向を変換され、光学レンズ53によって所望のビーム形状に成形されて、基本波及び変換波に対し高反射率で励起光源51から出射される光に対し高透過率を示すミラー54を介してYVO4等のレーザ媒質55に入射される。レーザ媒質55において励起された基本波は、光機能素子56に入射される。光機能素子56において波長変換された2次高調波等の変換波は、基本波に対し高反射率で変換波を透過するミラー57を透過して外部に矢印Loで示すように出力される。
【0050】
このような光学装置50に上述した周期分極反転構造を形成したタンタル酸リチウム単結晶基板を光機能素子として用いることができる。
一般に、波長変換の効率の指標となる実効非線形光学定数deffは、図6に示すように、周期分極反転構造15の周期をΛ、反転した分極域16の幅をLとして、この比をD=L/Λとすると、
deff∝sin(π×D)
で表される。2次変換波の出力PSHGは、
PSHG∝deff2
の関係がある。
【0051】
つまり、周期分極反転構造15の周期Λと分極域の幅Lとの比が変動すると、出力が変動することとなる。図7〜図9にこの様子を模式的に示す。
図7Aにおいては、タンタル酸リチウム単結晶基板1に理想的に周期分極反転構造15が形成される場合を示す。すなわち、櫛状等のパターンの電極が形成される側の面1Aから反対側の面1Bにかけて、斜線を付して示すように分極域16がほぼ一様な幅をもって形成される。この例は、比較的MgOの添加量が少なく例えば0.025mol%近傍であり、したがって抗電場Ecが比較的低く180V/mm程度のタンタル酸リチウム単結晶基板の場合である。この基板1に対し、矢印L1で示すように入射する基本波の入射位置を、図7Aの矢印yで示す厚さ方向に移動した場合の、矢印L2で示す変換波の出力の変化を測定した結果を図7Bに示す。この例においては、基本波として波長1064nmのレーザ光を用い、波長532nmの変換波を出力する構成とする。図7Bに示すように、この場合は、変換波が得られる範囲内においてほぼ一様な出力が得られることが分かる。
【0052】
次に、MgOの添加量がやや増加して0.05mol%程度、抗電場が比較的高く210V/mm程度の場合を図8に示す。図8において、図7と対応する部分には、同一符号を付して重複説明を省略する。図8Aに示すように、この場合は、電圧印加により反転する分極域16の形状が厚さ方向に異なる部分が生じている。また得られる変換波の出力は、図8Bに示すように、厚さ方向すなわちy方向の位置によって変化していることが分かる。図8Bにおいては右側の出力値が高いほうがパターン電極側、左側の出力値が低いほうが一様電極側である。
【0053】
MgOの添加量が更に増加して0.10mol%程度、抗電場が更に高く230V/mm程度の場合を図9に示す。図9において、図7と対応する部分には、同一符号を付して重複説明を省略する。図9Aに示すように、この場合は位置によって、分極域16が一様電極を形成する側の面1Bに達していない部分が生じている。このとき得られる変換波の出力は、図9Bに示すように、厚さ方向すなわちy方向の位置によってより変化していることが分かる。図9Bにおいても、右側の出力値が高い方をパターン電極側、左側の出力値が低い方を一様電極側である。
【0054】
以上説明したように、MgOの添加量によって抗電場が異なり、抗電場が高いほど、すなわちMgO添加量が大きいほど、形成される周期分極反転構造が理想形状とは異なり、得られる変換波の出力が基本波の入射位置によって大きく変化することが分かる。つまり、MgO添加量が大きいほど、変換波の出力を一定にするためには、周期分極反転構造が理想形状となるように、電圧を印加する際の電極形状や電圧波形等の条件を複雑化することが必要となる。或いは、基本波入射位置の調整をより精度良く行うことが求められることとなる。したがって、生産性、量産性に問題が生じる恐れがある。また、MgO添加量が増加すると欠陥の発生する確率が増え、濃度むらが生じやすくなる等の理由から大面積の単結晶を作製しにくくなるという不都合がある。
【0055】
このような不都合を回避するためには、MgO添加量を0.15mol%以下とすればよいことが以下の実施例及び比較例の結果により判明した。次にこの結果について説明する。
【0056】
(1)第1の実施の形態例
モル分率((Li2O/(Li2O+Ta2O5))=0.485のコングルエント組成のタンタル酸リチウムに対して、MgOを0.025mol%添加した融液を使用して、2インチサイズのタンタル酸リチウム単結晶を育成した。
育成したタンタル酸リチウム単結晶をZ面で切り出し、1mm厚に加工した基板を使用して、図2〜図4に示した構成の容器及び製造装置を使用して、気相平衡法(VTE法)により処理を行った。VTE法による処理の条件は、原料粉末の組成を0.65Li2O・0.35Ta2O5(モル比)、処理温度を1360℃、処理時間を200時間とした。
VTE処理直後の基板は多分域状態であるため、両面にカーボンペーストを塗布して電極材として、200℃に加熱すると共に両電極間におよそ1kVの直流電圧を印加して、単分域化処理を行った。
さらに、単分域化処理時の歪を除去するために、600℃でアニールを行った。
これにより、タンタル酸リチウムの単結晶を得た。
【0057】
得られた単結晶に対して、以下の方法によって、特性を測定した。
まず、ソーヤータワーブリッジ法で、強誘電ヒステリシス曲線を測定した。
その結果、対称性の良いヒステリシス曲線が測定された。飽和自発分極量は55μC/cm2と文献値とほぼ同等であり、抗電場の値は180V/mmとなっていた。
次に、耐光損傷強度を測定した。測定方法は、波長532nmの連続発振の緑色レーザ光を直径40μmに絞って、レーザの偏光方向がc軸に平行になるように、単結晶中へ入射させて、単結晶から出射するレーザビームをスクリーン上に投影した。
もし、光損傷が発生すると、結晶の屈折率が大きく変化するために、出射するレーザビームがスポット状から変形するので、光損傷を目視で観察することができる。
測定の結果、測定時に用いた緑色レーザの発生装置の出力限界である8W(パワー密度〜630kW/cm2)入射に対しても、光損傷が全く観察されなかった。
【0058】
そして、このタンタル酸リチウム単結晶基板に対して、幅Lが3μm、周期Λが8μmのクロムより成る櫛状電極を一方の面に形成し、他方の面にクロムより成る一様電極を形成して、印加電圧を抗電場Ecの1.5倍すなわち270V/mmとし、印加時間を50msとして直流パルス電圧の印加により周期分極反転構造を形成して光機能素子を形成した。パルス回数は1回である。この光機能素子に対して波長1064nmの基本波を厚さ方向に走査して、得られる波長532nmの変換波の出力を測定した。この結果を図10Aに示す。
図10Aの結果から、この場合は得られる変換波の出力のばらつきが厚さ方向で小さく、実用上好ましいことが分かる。
変換波の出力を測定した後、電極を除去し、更に硝酸と弗酸との混合液で表面をエッチングし、分極方向によるエッチングレートの違いを利用して分極反転構造を表出させ、これを顕微鏡により観察した。観察した写真図及びその模式図を図10B〜Dに示す。図10Bはパターン電極側の写真図、図10Cはその模式図、図10Dは一様電極側の写真図、図10Eはその模式図である。これらを比較すると、MgOの添加量が0.025mol%の場合はパターン電極側から一様電極側にかけて同様に電極パターンに対応する周期分極反転構造が形成されていることが分かる。
【0059】
(2)第2の実施の形態例
コングルエント組成タンタル酸リチウムに対するMgOの添加量を0.05mol%に増やした他は、第1の実施の形態例と同様の方法により、単結晶の育成、VTE法による処理、単分域化処理を200℃で行い、タンタル酸リチウム単結晶を得た。
得られた単結晶に対して、第1の実施の形態例と同様の方法により、特性を測定した。
その結果、第1の実施の形態例と同様に8W入射に対しても光損傷は全く観察されなかった。
また、対称性の良いヒステリシス曲線が得られ、飽和自発分極量は56μC/cm2と実施例1に近い値が得られた。また、抗電場の値は210V/mmとなっていた。
【0060】
更に、第1の実施の形態例と同様の電極材料、電極構造、印加電圧条件により周期分極反転構造を形成して光機能素子を得て、この光機能素子に波長1064nmの基本波を入力して得られる波長532nmの変換波の出力の厚さ方向のばらつきを測定した。周期分極反転構造形成時の印加電圧は抗電場の1.5倍、すなわちこの場合315V/mm、印加時間は50msでパルス回数は1回である。この結果を図11に示す。
図11から明らかなように、この場合は厚さ方向に出力のばらつきが生じ始めていることが分かる。
【0061】
またこの例においても、変換波の出力を測定した後、第1の実施の形態例と同様に、電極を除去した後エッチングによって分極反転構造を表出させ、これを顕微鏡により観察した。この結果を図11B〜Dに示す。図11Bはパターン電極側の写真図、図11Cはその模式図、図11Dは一様電極側の写真図、図11Eはその模式図である。これらを比較すると、MgOの添加量が0.05mol%の場合は一様電極側の分極反転構造は部分的に途切れているが、幅はパターン電極側と同程度に保っていることが分かる。
【0062】
(3)第3の実施の形態例
コングルエント組成タンタル酸リチウムに対するMgOの添加量を0.10mol%に増やした他は、第1の実施の形態例と同様の方法により、単結晶の育成、VTE法による処理を行い、単分域化処理温度を400℃として、タンタル酸リチウム単結晶を得た。ここで単分域化処理温度を高めたのは第1の実施の形態例1及び2の200℃処理では単分域化が不十分であったためである。
得られた単結晶に対して、第1の実施の形態例と同様の方法により、特性を測定した。
その結果、実施例1と同様に8W入射に対しても光損傷は全く観察されなかった。
また、対称性の良いヒステリシス曲線が得られ、飽和自発分極量は56μC/cm2と実施例1に近い値が得られた。また、抗電場の値は230V/mmとなっていた。
【0063】
更に、第1及び第2の実施の形態例と同様の電極材料、電極構造、印加電圧条件により周期分極反転構造を形成して光機能素子を得て、この光機能素子に波長1064nmの基本波を入力して得られる波長532nmの変換波の出力の厚さ方向のばらつきを測定した。周期分極反転構造形成時の印加電圧は抗電場の1.5倍、すなわちこの場合345V/mm、印加時間は50msでパルス回数は1回である。この結果を図12に示す。
図12から明らかなように、この場合更に厚さ方向に出力のばらつきが生じていることが分かる。
【0064】
この例においても、変換波の出力を測定した後、第1及び第2の実施の形態例と同様に、電極を除去した後エッチングによって分極反転構造を表出させ、これを顕微鏡により観察した。この結果を図12B〜Dに示す。図12Bはパターン電極側の写真図、図12Cはその模式図、図12Dは一様電極側の写真図、図12Eはその模式図である。これらを比較すると、MgOの添加量が0.10mol%の場合は一様電極側の分極反転構造は幅が狭くなっているが、一様電極側まで分極域が形成されている領域が多いことが分かる。
【0065】
(4)第4の実施の形態例
コングルエント組成タンタル酸リチウムに対するMgOの添加量を0.15mol%に増やした他は、第1の実施の形態例と同様の方法により、単結晶の育成、VTE法による処理を行い、単分域化処理温度を400℃として、タンタル酸リチウム単結晶を得た。
得られた単結晶に対して、第1の実施の形態例と同様の方法により、特性を測定した。
その結果、第1の実施の形態例と同様に8W入射に対しても光損傷は全く観察されなかった。
また、対称性の良いヒステリシス曲線が得られ、飽和自発分極量は56μC/cm2と実施例1に近い値が得られた。また、抗電場の値は290V/mmとなってい。
【0066】
この例においても、第1〜第3の実施の形態例と同様の電極材料、電極構造、印加電圧条件により周期分極反転構造を形成して光機能素子を得て、この光機能素子に波長1064nmの基本波を入力して得られる波長532nmの変換波の出力の厚さ方向のばらつきを測定した。周期分極反転構造形成時の印加電圧は抗電場の1.5倍、すなわちこの場合435V/mm、印加時間は50msでパルス回数は1回である。この結果を図13に示す。
図13から明らかなように、この場合厚さ方向の出力の変動がより大きくなっていることが分かる。しかしながらこの場合、基本波を入射する位置を精度良く調整すれば、所望の出力の変換波が得られることが分かる。
【0067】
この例においても、変換波の出力を測定した後、第1〜第3の実施の形態例と同様に、電極を除去した後エッチングによって分極反転構造を表出させ、これを顕微鏡により観察した。この結果を図13B〜Dに示す。図13Bはパターン電極側の写真図、図13Cはその模式図、図13Dは一様電極側の写真図、図13Eはその模式図である。これらを比較すると、MgOの添加量が0.15mol%の場合は一様電極側では一部分極域が形成されない部分が生じていることが分かる。
【0068】
(5)比較例1
コングルエント組成タンタル酸リチウムに対するMgOの添加量を0.20mol%に増やした他は、第1の実施の形態例と同様の方法により、単結晶の育成、VTE法による処理を行い、単分域化処理温度を400℃として、タンタル酸リチウム単結晶を得た。
得られた単結晶に対して、第1の実施の形態例と同様の方法により、特性を測定した。
その結果、第1の実施の形態例と同様に8W入射に対しても光損傷は全く観察されなかった。
また、対称性の良いヒステリシス曲線が得られ、飽和自発分極量は52μC/cm2と第1の実施の形態例に近い値が得られた。また、抗電場の値は420V/mmとなっていた。
【0069】
この場合においても、周期分極反転構造を上述の第1〜第4の実施の形態例と同様の条件で形成し、厚さ方向の変換波の出力を測定した。すなわち周期分極反転構造を形成する際の電極材料、電極形状は同様とし、印加電圧を抗電圧の1.5倍、パルス時間は同様に50msとした。この結果周期分極反転構造が形成された光機能素子は、変換波の出力のばらつきが大きく、一定以上の出力が得られる範囲が狭くなってしまい、実用上好ましくないことが分かった。つまりこのMgO添加量とするタンタル酸リチウム単結晶基板を用いる場合は、周期分極反転構造を形成する際の電極形状やパルス電圧の波形等を複雑化する必要が生じ、また、基本波入射位置の光学的調整が厳しく、生産性の低下もしくは歩留まりの低下を招く恐れがある。
【0070】
(6)比較例2
コングルエント組成タンタル酸リチウムにMgO添加物を加えない融液から育成したタンタル酸リチウム単結晶を用いた他は、第1の実施の形態例と同様の方法により、単結晶の育成、VTE法による処理、単分域化処理を行い、タンタル酸リチウム単結晶を得た。
得られた単結晶に対して、実施例1と同様の方法により、特性を測定した。
その結果、対称性の良いヒステリシス曲線が測定され、飽和自発分極量は54μC/cm2と文献値とほぼ同等であり、抗電場の値は110V/mmとなっていた。
一方、光損傷は、4W(パワー密度〜300kW/cm2)入射に対して出射ビームの変形が観測され、第1〜第4の実施の形態例と比較して、光損傷閾値が低下していることがわかった。
すなわちこの結果から、VTE法による処理を行って化学量論組成に近づけたタンタル酸リチウム単結晶であっても、MgO添加物を含まない場合は耐光損傷強度を充分得ることができないといえる。
【0071】
(7)比較例3
気相平衡法(VTE法)によって処理する前のコングルエント組成の単結晶について、上述の実施の形態例及び比較例と同様にして、光損傷の測定を行った。MgOの添加量を、0mol%(添加なし)、0.05mol%、0.1mol%、0.2mol%、0.5mol%、1mol%、3mol%、5mol%と変えた、8種類の単結晶の測定を行った。
その結果、8種類とも、0.05W(パワー密度4kW/cm2)の光照射でも出射ビームの変形(光損傷)が観察された。
すなわち、MgOを添加する場合であっても、気相平衡法(VTE法)による処理を行わないと、充分な光損傷強度が得られないことがわかった。
【0072】
以上の結果から、タンタル酸リチウム短結晶にMgOを添加し、更にVTE法による処理を行うことにより耐光損傷強度を充分に得ることができることが分かる。また、第1〜第4の実施の形態例におけるMgOの添加量の範囲、すなわち0.025mol%以上0.15mol%以下に選定することによって、確実に光損傷強度を確保し、且つ抗電場を低減化することができて、周期分極反転構造を形成した場合の変換波の出力のばらつきを抑えることができることがわかる。
なお、MgO添加量が0.025mo%未満であっても、0mol%を超える範囲であれば、添加しない場合と比べて耐光損傷強度の向上を図る効果が得られ、また抗電場が充分低くなるので、周期分極反転構造を形成した場合の変換波の出力のばらつきを抑えることができる。
一方、MgOの添加量を0.15mol%以下の範囲とする場合は、これより添加量を多くする場合と比較するとタンタル酸リチウム単結晶基板の欠陥の発生を抑えることができ、また濃度むらが生じにくい等の理由から、3インチ以上の大型単結晶基板を形成する場合に有利となる。このため、分極反転構造が形成された3インチ程度以上の比較的大型の光機能素子の量産性を高めることが可能となる。
したがって、本発明においては、MgOの添加量として、0mol%を超える0.15mol%以下に選定するものであり、より好ましくは0.025mol%以上0.15mol%以下とするものである。
【0073】
なお、上述の各実施の形態例では、コングルエント組成として、モル分率((Li2O/(Li2O+Ta2O5))=0.485の組成を使用したが、一般的に言われているコングルエント組成範囲であれば、その他の組成としても同様の効果を得ることが可能である。
【0074】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の光機能素子の製造方法の一実施の形態における気相平衡処理の際の原料粉末及び基板の収容状態を示す図である。
【図2】A及びBは本発明の光機能素子の製造方法の一実施の形態における気相平衡処理の際の基板の保持方法の一形態を示す図である。
【図3】A及びBは本発明の光機能素子の製造方法の一実施の形態における気相平衡処理に用いる製造装置の要部の概略構成図である。
【図4】A〜Eは本発明の光機能素子の製造方法の一実施の形態における周期分極反転構造を形成する工程図である。
【図5】光学装置の一例の概略構成図である。
【図6】周期分極反転構造を有する光機能素子の特性の説明に供する図である。
【図7】Aは周期分極反転構造を有する光機能素子の一例の概略断面図、BはAに示す光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。
【図8】Aは周期分極反転構造を有する光機能素子の一例の概略断面図、BはAに示す光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。
【図9】Aは周期分極反転構造を有する光機能素子の一例の概略断面図、BはAに示す光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。
【図10】Aは本発明の第1の実施の形態例で作製した光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。B及びCはパターン電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図、D及びEは一様電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図である。
【図11】Aは本発明の第2の実施の形態例で作製した光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。B及びCはパターン電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図、D及びEは一様電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図である。
【図12】Aは本発明の第3の実施の形態例で作製した光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。B及びCはパターン電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図、D及びEは一様電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図である。
【図13】Aは本発明の第4の実施の形態例で作製した光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。B及びCはパターン電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図、D及びEは一様電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図である。
【符号の説明】
【0076】
1 タンタル酸リチウム単結晶基板、3 原料粉末、4 収容部材、5 保持部材、6 被覆部材、7 容器、8 装置、9 炉、10 炉蓋、11 電極、15 周期分極反転構造、16 分極域、20 光機能素子 50 光学装置、51 励起光源、52 半波長板、53 光学レンズ、54 ミラー、55 レーザ媒質、56 光機能素子、57 ミラー
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換素子等に用いて好適な光機能素子の製造方法であって、タンタル酸リチウム単結晶基板を用いる光機能素子の製造方法及びタンタル酸リチウム単結晶の製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
タンタル酸リチウム(LiTaO3)やニオブ酸リチウム(LiNbO3)に代表される無機強誘電体結晶は、レーザ光発生装置において波長変換素子等に用いられる。
そして、例えば、第二高調波発生(SHG)を利用した波長変換素子の場合、近赤外光を入射して緑色光を得ることができることから、レーザ光源を用いた画像生成装置(プロジェクタやプリンタ等)や光学記録再生装置等に適用することができる。
【0003】
最近、波長変換素子として、上述したタンタル酸リチウム等の無機強誘電体単結晶の分極を周期的に反転させる構造が、主流となっている。
この構造の波長変換素子は、疑似位相整合(Quasi Phase Matching;QPM)方式、即ち、基本波と高調波の伝搬定数の差を周期構造で補償して位相を整合させる方式を採用している。
この方式では、高い変換効率が得られること、出力光の平行ビーム化・回折限界集光が容易であること、適用できる材料や波長に制限がないこと等、多くの優れた特徴を持っている。
【0004】
ところで、レーザ光の波長変換素子においては、耐光損傷強度が強いことが要求され、そのための材料開発が求められている。
【0005】
例えば、コングルエント組成(一致溶融組成)のタンタル酸リチウム単結晶基板を、VTE(Vapor Transport Equilibration;気相平衡法)によって処理して、化学量論組成に近づけることが提案されている(特許文献1参照)。
これにより、耐光損傷強度を向上させることができる。また、抗電場Ec(分極を反転させるための印加電圧の目安となる値)の値も、コングルエント組成タンタル酸リチウム単結晶の20kV/mm以上に対して、数100V/mmと低減化できて、分極反転が比較的容易にできるようになる。
【0006】
また、2重ルツボ法と称される特殊な結晶育成装置を用いて、添加物を加えた化学量論組成に近いタンタル酸リチウム単結晶を育成する製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
この製造方法によって単結晶を育成することにより、耐光損傷強度の向上や抗電場の低減化を図ることができる。
【特許文献1】米国特許第4071323号明細書
【特許文献2】特開2001−287999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載された製造方法では、単結晶の耐光損傷強度は必ずしも充分には得られていない。
また、上記特許文献2に記載された製造方法では、特殊な結晶育成装置を必要とするため、装置が複雑になり、組成均質性や大型化、量産化、低コスト化については充分とは言い難い。
【0008】
更に、化学量論組成のタンタル酸リチウム単結晶基板に周期分極反転構造を形成した波長変換機能を有する光機能素子において、得られる波長変換波の変換効率にばらつきが生じる場合があることがわかってきた。変換効率のばらつきは、例えばこの光機能素子を短波長の光源として用いる光学装置等において、その出力特性等に影響することから、できるだけ抑制されることが望ましい。
【0009】
上述した問題の解決のために、本発明においては、タンタル酸リチウム単結晶の耐光損傷強度を充分に確保すると共に抗電場の増加を抑え、更に、周期分極反転構造を形成した場合の特性のばらつきを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による光機能素子の製造方法は、酸化マグネシウム(MgO)を添加物として含み、その添加量を0mol%を超える0.15mol%以下とするコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して、このコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を、少なくともリチウムを含む原料を用いて気相平衡法により処理することにより、化学量論組成に近づける。そして、この化学量論組成に近づけたタンタル酸リチウム単結晶基板を用いて光機能素子を形成することを特徴とする。
【0011】
本発明のタンタル酸リチウム単結晶の製造方法は、MgOを添加物として含み、その添加量を0mol%を超える0.15mol%以下とするコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して、このコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を、少なくともリチウムを含む原料を用いて気相平衡法により処理することにより、化学量論組成に近づけることを特徴とする。
【0012】
上述の本発明の光機能素子の製造方法及びタンタル酸リチウム単結晶の製造方法によれば、MgOを添加物として含むコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して気相平衡法により処理を行うので、抗電場を低減することが可能になる。
また、添加物を含まないコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して気相平衡法により処理を行った場合と比較して、処理後に得られる単結晶の耐光損傷強度を向上することが可能になる。
そして特に本発明によれば、MgOの添加量を上述の範囲に選定することによって、周期分極反転構造を形成した場合の特性のばらつきを抑えることができる。
【0013】
本発明者等の鋭意考察研究の結果、MgOの添加量を多くし過ぎると、周期分極反転構造を同じ条件で作製した場合にタンタル酸リチウム単結晶基板内の分極反転構造のばらつきが生じていることが分かった。この分極反転構造のばらつきを抑えるためには、これを形成する際の条件、例えば電圧印加により形成する際の電極形状や材料、パルス電圧の波形等の工夫が必要となる。これに対しMgOの添加量を適切な範囲に選択することにより、分極反転構造の形成条件を複雑化することなく周期分極反転構造のばらつきを抑えることができ、結果的に特性のばらつきを抑えることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、耐光損傷強度に優れ、かつ抗電場も低い単結晶を得ることができる。したがって、分極反転型波長変換デバイスに用いて好適な単結晶を得ることができる。更に、周期分極反転構造を形成した場合の特性のばらつきを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
本発明においては、予めMgOが0mol%を超える0.15mol%以下の添加量として添加されたコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用する。そしてこのコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を気相平衡法(VTE法)により処理することで、化学量論組成(タンタル:リチウム=1:1)に近づける。
【0016】
上述の添加量の単結晶基板を作製する方法として例えば引上法により作製する場合では、単結晶を育成するための融液に酸化マグネシウム(MgO)を上述の範囲の添加量をもって添加して、単結晶の育成を行えばよい。
【0017】
ここで本発明においては、MgOの添加量をタンタル酸リチウムに対して0mol%を超える0.15mol%以下の範囲内とするものである。後述するように、特に添加量を0.025mol%以上とする場合は、より確実に光損傷強度を向上する効果が得られる。
【0018】
一方、添加量が増えるに従い、自発分極等の誘電特性が低下していくので、添加量が多すぎると、誘電特性が充分に得られなくなる。また抗電場(Ec)の値も添加量が増えるに従い大きくなり、分極反転電圧が高くなり、分極反転幅比等の制御性に問題が生じる可能性がある。更には添加量が増えるに従い添加なしのコングルエント組成タンタル酸リチウム単結晶に比べて3インチ以上の大型結晶にした場合、結晶の高品質化が困難となることが予想される。
【0019】
そして特に、周期分極反転構造を形成した場合の特性として、後述するように周期分極反転構造を形成したタンタル酸リチウム単結晶基板に光を入射して波長変換光の出力を測定したところ、0.15mol%を超える添加量とする場合は、波長変換光の出力のばらつきが大きくなることが分かった。このため、本発明においてはMgOの添加量を0.15mol%以下とするものである。
【0020】
まず、本発明の光機能素子の製造方法に用いるタンタル酸リチウムの単結晶の製造方法の一実施の形態を説明する。
まず、MgOが添加物として予め添加されたコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を用意する。
MgOが予め添加されたコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板の育成方法としては、従来公知の育成方法、例えば引上法(所謂チョクラルスキー法)を適用することができる。
コングルエント組成では、リチウム及びタンタルのモル分率(Li2O/(Li2O+Ta2O5))=0.4830〜0.4853となる。
上述のモル分率を有するタンタル酸リチウムの融液に、MgOを添加して、引上法によって単結晶を育成することにより、MgOが添加されたコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を作製することができる。
そして、例えば、引上法で育成された単結晶を、所定の厚さ(例えば、1mm程度)にスライスして得られた、例えば約51mm(2インチ)のフルウエハーの単結晶基板1を用意する。
【0021】
次に、少なくともリチウムを含む原料、例えばタンタルとリチウムとを含む原料を使用して、気相平衡法(VTE法)により処理を行う。原料としては、例えば、酸化タンタルと酸化リチウムとの混合粉末を使用することができる。
【0022】
また、タンタル酸リチウム単結晶を化学量論組成に近づけるためには、原料において、タンタルよりもリチウムを多くする必要がある。例えば、原料のモル分率(Li2O/(Li2O+Ta2O5))を0.55〜0.95とすればよい。
【0023】
気相平衡法(VTE法)の条件は、処理温度を1100℃〜1650℃、好ましくは1200℃〜1500℃とし、処理時間を5時間〜400時間程度とする。
なお、処理時間は、処理する単結晶基板の厚さに依存し、例えば、0.5mm〜1.0mm程度の厚さの単結晶基板に対しては、10時間〜300時間程度が好ましい。
【0024】
本実施の形態における、気相平衡法(VTE法)による処理の基本的な流れは、以下に示す通りである。
(1)原料粉末が充填された収容部材(白金皿等)を容器に入れる。
(2)収容部材に対して単結晶基板を配置する。
(3)原料粉末及び単結晶基板の周囲を被覆部材で覆ってほぼ密閉状態とし、それらを容器内に収容して密閉する。
(4)容器を高温で所定時間加熱する。
(5)高温処理後、容器から被覆部材を取り外して、単結晶基板を取り出す。
【0025】
そして、本実施の形態において気相平衡法による処理を行う処理装置の一例の概略構成図を図1に示す。図1はこの装置の断面構成を示している。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態では、原料粉末3を入れるための収容部材4として、一端部に開口を有し、所定の深さをもった白金等よりなる皿を使用する。
【0027】
複数枚の基板1(例えば、フルウエハー)は、保持部材5によって支持された状態で、収容部材4に配置される。
ここで、保持部材5の一形態の概略側面構成図及び斜視構成図を図2A及び図2Bに示す。
図2A及び図2Bに示すように、この保持部材5(支持治具或いはホルダー)は、基板1,1,…が、個々の基板に対してそれぞれ形成された溝5a,5a,…内に受け入れられることにより、直立状態で整列される。
保持部材5の材質としては、白金製の板や線材等を使用することができる。
【0028】
なお、各基板を積み重ねて積層状態に配置し、隣り合う基板の間にスペーサ(白金線等)を介在させる方法も考えられるが、作業性に問題があり、また、基板のうちスペーサの存在によって隠れてしまう場所には気相平衡法で用いるリチウム等の蒸気が当たらないので処理ができなくなって有効面積が減少し、歩留まりの悪化に繋がる等の問題が生じる。
これに対して、本実施の形態のように、各基板を直立状態で整列させることにより、基板の間にスペーサ等を介在させる必要がなくなり、作業性や量産性を向上させることができる。
【0029】
保持状態の基板同士の間隔が狭すぎると、処理に支障を来す虞があるので、十乃至十数ミリメートル程度の間隔を確保することが望ましい。但し、基板同士の間隔を大きくしすぎると、一度にセット可能な基板枚数が少なくなってしまうことに注意を要する。
また、保持部材5に対して、各基板を正確に垂直な状態で保持する必要はなく、許容される傾斜角度をもって各基板をほぼ直立状態で保持すればよい。
【0030】
原料粉末3が充填された収容部材4に対して、基板1,1,…を保持した保持部材5は原料粉末3の上に載置される。そして、この状態で、原料粉末3及び各基板1の周囲を覆うようにして被覆部材6を被せる。
【0031】
被覆部材6は、原料粉末3及び基板1,1,…を密封するための部材であり、例えば、一端部が開口された円筒状の白金製等のルツボを用いることができる。
そして、被覆部材6を被せた状態では、図1に示すように、被覆部材6の開口縁が容器7の内底面に接触された状態となっている。
【0032】
容器7(加熱用容器)は、原料粉末3が充填された収容部材4と、各基板1をほぼ垂直の状態に保持した状態の保持部材5と、これらの部材を覆っている被覆部材6を収容して高温で加熱するための部材である。
本実施の形態では、角箱状をした2分割型のアルミナ等より成る角型容器が用いられ、上ハーフ7Hと、下ハーフ7Lとで構成される空間内に上記の各部材4,5,6や基板1、原料粉末3が収容される。つまり、原料粉末3が充填された収容部材4が下ハーフ7Lの内底面に位置され、これに基板1を保持した状態の保持部材5が配置される。そして、これらを被覆部材6で覆うことにより、この被覆部材6と下ハーフ7Lとの間に形成される空間内に、基板1や原料粉末3等がほぼ密封状態で閉じ込められる。そして、下ハーフ7Lに上ハーフ7Hを載せて両者を一体にすることで、全てが容器7内に収容される。
【0033】
次に、上述した(4)の加熱工程で使用される装置の要部を、図3A及び図3Bに示す。
図3A及び図3Bに示すように、この装置8は、例えば円柱状をした炉9に凹部9aが設けられる構成であり、その内底面に、図1に示した収容状態の容器7を配置して、炉蓋10を閉じることにより密閉される。
そして、図示しない熱源(ヒーター)及び温度検出手段(熱電対を用いた温度センサ)、温度制御手段を用いて、大気中で高温の熱処理を行う。
これにより、基板1に対して、気相平衡法(VTE法)による処理がなされる。
【0034】
VTE法による処理が終了した後には、炉9から容器7を取り出して、容器7の上ハーフ7Hを外し、被せてある被覆部材6(白金ルツボ)を取り外す。
このとき、被覆部材6を容易に取り外すことができ、中の基板1を手際良く取り出すことができるため、従来の方法と比較して、工程数及び時間を短縮できる。したがって、作業性が良好であり、量産化に適している。
【0035】
このように処理して得られた基板1は、良好な特性を有し、例えば、SHG等の非線形光学デバイスへの適用において、耐光損傷性が大幅に改善される。
【0036】
なお、気相平衡法(VTE法)による処理を行った直後の基板は、引上法により育成された直後の単結晶基板(即ち、処理前の基板)と同様に、多分域状態となっているため、単分域化処理を行う。
単分域化処理の方法は、従来公知の方法を使用することができ、例えば、基板の両面に導電膜から成る電極を形成して、両電極間に電圧を印加すると共に、キュリー点よりも低い所定の温度で加熱する。
また、この単分域化処理において歪が生じた場合には、この歪を除去するために単分域化処理後にアニール(熱処理)を行う。
【0037】
また、容器等の材質については、熱的及び化学的な安定性を考慮して、収容部材4、保持部材5、被覆部材6の何れにも白金(Pt)を用いることが好ましく、それら全体を囲む容器7としてアルミナ容器を用いることが好ましいが、原料粉末3の特性やコスト要求等に応じて、その他の材質を選択することももちろん可能である。
【0038】
上述の本実施の形態によれば、収容部材4に原料粉末3を入れるだけで不純物の混入がないようにすることができ、バインダー等の整形の必要もない。
また、基板1を保持部材5に載せるだけで基板1を設置できるため、基板の保持のための穴あけ加工等が不要になり、また各基板1をほぼ直立状態で保持してスペーサ等を不要にする。
また、基板1のサイズの変更に対しても、容易かつ柔軟に対応することができる。
さらに、被覆部材6を被せることにより、基板1を密閉することができるので、蒸気の漏れを防いで、VTE法による処理を有効に行うことができる。
【0039】
従って、本実施の形態によれば、工程数を削減することができ、基板の品質管理が容易になる。また、基板サイズを変更しても製造設備を大幅に改変する必要がない。
しかも、添加物が添加されたコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用することから、コングルエント組成の単結晶の完成された育成技術をそのまま流用することができる。
即ち、タンタル酸リチウム単結晶の量産化や高品質化、3インチ以上の大型化、並びにコストの低減を図ることができる。
【0040】
また、上述の本実施の形態によれば、添加物を添加したタンタル酸リチウム単結晶を使用して、VTE法による処理を行うことにより、耐光損傷強度を充分に有し、かつ抗電場が低く、分極反転形成が容易となる誘電特性を有する単結晶を得ることができる。
そして、特に、添加物を含まないコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用してVTE法による処理を行った場合と比較して、処理後に得られる単結晶の耐光損傷強度を向上することが可能になる。
【0041】
上述の実施の形態では、基板1としてフルウエハーを使用して、VTE法による処理を行っているが、フルウエハーを分割した基板を使用してもよい。
また、被覆部材は、基板を収容した空間が密閉されるのであれば、原料粉末及び収容部材の全てを覆っていなくてもよい。例えば、被覆部材の開口端を収容部材(白金皿等)に収容された原料粉末に埋めて、原料粉末と被覆部材とによって密閉空間を形成してもよい。
【0042】
上述した実施の形態の製造方法によって製造したタンタル酸リチウム単結晶は、例えば、周期分極反転構造を形成することでSHG等の波長変換素子や、その他偏光、焦点等の制御やスイッチング、光記憶等に用いる各種の光機能素子への適用が考えられる。
【0043】
このような光学デバイスとして、周期分極反転構造を有するSHG等の波長変換素子に適用可能な本発明の実施の形態にかかる光機能素子の製造方法を、以下、図4A〜図4Eを参照して説明する。
【0044】
まず、図4Aに示すウエハ状の基板(単結晶基板)1を前述の図3A及びBにおいて説明した気相平衡法による処理を行う装置8に投入する。基板1としては、引上法(チョクラルスキー法)等で育成された、MgOを上述の添加量の範囲で添加したコングルエント組成の単結晶を、所定の厚さ(例えば1mm)にスライスしたものを使用することができる。この基板1に気相平衡法(VTE法)により処理を行う。この処理によって化学量論組成とされた基板1を装置8から取り出した後、所定温度で電界を印加して単分域化を行う。
【0045】
次に、図4Bに示すように、アルミニウム、クロム等から成る電極膜を、タンタル酸リチウム単結晶基板1の一方の面1A上に全面に成膜した後、リソグラフィーによってパターニングして、数μm程度の周期及び幅、例えば8μm周期、3μm幅程度の所定周期を有するパターン電極11Aを形成する。なお、この周期及び幅は、タンタル酸リチウム単結晶基板に入射する基本波の波長や利用する波長変換の過程(第2高調波、第3高調波、パラメトリック発振、和周波混合等)によって適宜選定される。図4Bに示すように、この電極パターンとしては例えば櫛状のパターンとすることが望ましい。基板1の他方の面1Bには同様にアルミニウム、クロム等より成る膜状の電極、すなわち一様電極11Bを形成する。
【0046】
次に、図4Cに示すように、対をなすパターン電極11A及び一様電極11Bの間に、電圧印加部12から数百V程度の例えば直流パルス電圧を印加する。これによって、図4Dに断面構成を概念的に示すように、単分域化された状態における矢印aで示す分極方向とは逆向きの矢印bで示す分極方向の領域が電極間に形成される。これにより、所定の分極反転周期を持った周期分極反転構造15が形成される。
【0047】
その後、基板1上に形成された個々の素子部分を切断等により分離して、更に研磨や反射防止等の光学コートなどの処理工程を経て、光機能素子を形成する。これにより、図4Eに示すような光機能素子20を製造することができる。
図4Eに示す光学デバイス2としては、例えば、光線伝播方向の長さが8mm程度の波長変換素子等が挙げられる。
【0048】
続いて、本発明の製造方法により得られる光機能素子の特性について調べた。以下の例においては、MgOの添加量を変えてタンタル酸リチウム単結晶を製造し、得られた各タンタル酸リチウム単結晶に周期分極反転構造を形成して、波長変換特性を測定して特性の比較を行った。
【0049】
波長変換特性を測定した光学装置の概略構成図を図5に示す。この光学装置50は、半導体レーザ等より成る励起光源51と、半波長板52、コリメートレンズ等の光学レンズ53、共振器を構成するミラー54、レーザ媒質55、本発明により得られる光機能素子56及び共振器を構成するミラー57により構成される。励起光源51から出射されたレーザ光は半波長板により偏光方向を変換され、光学レンズ53によって所望のビーム形状に成形されて、基本波及び変換波に対し高反射率で励起光源51から出射される光に対し高透過率を示すミラー54を介してYVO4等のレーザ媒質55に入射される。レーザ媒質55において励起された基本波は、光機能素子56に入射される。光機能素子56において波長変換された2次高調波等の変換波は、基本波に対し高反射率で変換波を透過するミラー57を透過して外部に矢印Loで示すように出力される。
【0050】
このような光学装置50に上述した周期分極反転構造を形成したタンタル酸リチウム単結晶基板を光機能素子として用いることができる。
一般に、波長変換の効率の指標となる実効非線形光学定数deffは、図6に示すように、周期分極反転構造15の周期をΛ、反転した分極域16の幅をLとして、この比をD=L/Λとすると、
deff∝sin(π×D)
で表される。2次変換波の出力PSHGは、
PSHG∝deff2
の関係がある。
【0051】
つまり、周期分極反転構造15の周期Λと分極域の幅Lとの比が変動すると、出力が変動することとなる。図7〜図9にこの様子を模式的に示す。
図7Aにおいては、タンタル酸リチウム単結晶基板1に理想的に周期分極反転構造15が形成される場合を示す。すなわち、櫛状等のパターンの電極が形成される側の面1Aから反対側の面1Bにかけて、斜線を付して示すように分極域16がほぼ一様な幅をもって形成される。この例は、比較的MgOの添加量が少なく例えば0.025mol%近傍であり、したがって抗電場Ecが比較的低く180V/mm程度のタンタル酸リチウム単結晶基板の場合である。この基板1に対し、矢印L1で示すように入射する基本波の入射位置を、図7Aの矢印yで示す厚さ方向に移動した場合の、矢印L2で示す変換波の出力の変化を測定した結果を図7Bに示す。この例においては、基本波として波長1064nmのレーザ光を用い、波長532nmの変換波を出力する構成とする。図7Bに示すように、この場合は、変換波が得られる範囲内においてほぼ一様な出力が得られることが分かる。
【0052】
次に、MgOの添加量がやや増加して0.05mol%程度、抗電場が比較的高く210V/mm程度の場合を図8に示す。図8において、図7と対応する部分には、同一符号を付して重複説明を省略する。図8Aに示すように、この場合は、電圧印加により反転する分極域16の形状が厚さ方向に異なる部分が生じている。また得られる変換波の出力は、図8Bに示すように、厚さ方向すなわちy方向の位置によって変化していることが分かる。図8Bにおいては右側の出力値が高いほうがパターン電極側、左側の出力値が低いほうが一様電極側である。
【0053】
MgOの添加量が更に増加して0.10mol%程度、抗電場が更に高く230V/mm程度の場合を図9に示す。図9において、図7と対応する部分には、同一符号を付して重複説明を省略する。図9Aに示すように、この場合は位置によって、分極域16が一様電極を形成する側の面1Bに達していない部分が生じている。このとき得られる変換波の出力は、図9Bに示すように、厚さ方向すなわちy方向の位置によってより変化していることが分かる。図9Bにおいても、右側の出力値が高い方をパターン電極側、左側の出力値が低い方を一様電極側である。
【0054】
以上説明したように、MgOの添加量によって抗電場が異なり、抗電場が高いほど、すなわちMgO添加量が大きいほど、形成される周期分極反転構造が理想形状とは異なり、得られる変換波の出力が基本波の入射位置によって大きく変化することが分かる。つまり、MgO添加量が大きいほど、変換波の出力を一定にするためには、周期分極反転構造が理想形状となるように、電圧を印加する際の電極形状や電圧波形等の条件を複雑化することが必要となる。或いは、基本波入射位置の調整をより精度良く行うことが求められることとなる。したがって、生産性、量産性に問題が生じる恐れがある。また、MgO添加量が増加すると欠陥の発生する確率が増え、濃度むらが生じやすくなる等の理由から大面積の単結晶を作製しにくくなるという不都合がある。
【0055】
このような不都合を回避するためには、MgO添加量を0.15mol%以下とすればよいことが以下の実施例及び比較例の結果により判明した。次にこの結果について説明する。
【0056】
(1)第1の実施の形態例
モル分率((Li2O/(Li2O+Ta2O5))=0.485のコングルエント組成のタンタル酸リチウムに対して、MgOを0.025mol%添加した融液を使用して、2インチサイズのタンタル酸リチウム単結晶を育成した。
育成したタンタル酸リチウム単結晶をZ面で切り出し、1mm厚に加工した基板を使用して、図2〜図4に示した構成の容器及び製造装置を使用して、気相平衡法(VTE法)により処理を行った。VTE法による処理の条件は、原料粉末の組成を0.65Li2O・0.35Ta2O5(モル比)、処理温度を1360℃、処理時間を200時間とした。
VTE処理直後の基板は多分域状態であるため、両面にカーボンペーストを塗布して電極材として、200℃に加熱すると共に両電極間におよそ1kVの直流電圧を印加して、単分域化処理を行った。
さらに、単分域化処理時の歪を除去するために、600℃でアニールを行った。
これにより、タンタル酸リチウムの単結晶を得た。
【0057】
得られた単結晶に対して、以下の方法によって、特性を測定した。
まず、ソーヤータワーブリッジ法で、強誘電ヒステリシス曲線を測定した。
その結果、対称性の良いヒステリシス曲線が測定された。飽和自発分極量は55μC/cm2と文献値とほぼ同等であり、抗電場の値は180V/mmとなっていた。
次に、耐光損傷強度を測定した。測定方法は、波長532nmの連続発振の緑色レーザ光を直径40μmに絞って、レーザの偏光方向がc軸に平行になるように、単結晶中へ入射させて、単結晶から出射するレーザビームをスクリーン上に投影した。
もし、光損傷が発生すると、結晶の屈折率が大きく変化するために、出射するレーザビームがスポット状から変形するので、光損傷を目視で観察することができる。
測定の結果、測定時に用いた緑色レーザの発生装置の出力限界である8W(パワー密度〜630kW/cm2)入射に対しても、光損傷が全く観察されなかった。
【0058】
そして、このタンタル酸リチウム単結晶基板に対して、幅Lが3μm、周期Λが8μmのクロムより成る櫛状電極を一方の面に形成し、他方の面にクロムより成る一様電極を形成して、印加電圧を抗電場Ecの1.5倍すなわち270V/mmとし、印加時間を50msとして直流パルス電圧の印加により周期分極反転構造を形成して光機能素子を形成した。パルス回数は1回である。この光機能素子に対して波長1064nmの基本波を厚さ方向に走査して、得られる波長532nmの変換波の出力を測定した。この結果を図10Aに示す。
図10Aの結果から、この場合は得られる変換波の出力のばらつきが厚さ方向で小さく、実用上好ましいことが分かる。
変換波の出力を測定した後、電極を除去し、更に硝酸と弗酸との混合液で表面をエッチングし、分極方向によるエッチングレートの違いを利用して分極反転構造を表出させ、これを顕微鏡により観察した。観察した写真図及びその模式図を図10B〜Dに示す。図10Bはパターン電極側の写真図、図10Cはその模式図、図10Dは一様電極側の写真図、図10Eはその模式図である。これらを比較すると、MgOの添加量が0.025mol%の場合はパターン電極側から一様電極側にかけて同様に電極パターンに対応する周期分極反転構造が形成されていることが分かる。
【0059】
(2)第2の実施の形態例
コングルエント組成タンタル酸リチウムに対するMgOの添加量を0.05mol%に増やした他は、第1の実施の形態例と同様の方法により、単結晶の育成、VTE法による処理、単分域化処理を200℃で行い、タンタル酸リチウム単結晶を得た。
得られた単結晶に対して、第1の実施の形態例と同様の方法により、特性を測定した。
その結果、第1の実施の形態例と同様に8W入射に対しても光損傷は全く観察されなかった。
また、対称性の良いヒステリシス曲線が得られ、飽和自発分極量は56μC/cm2と実施例1に近い値が得られた。また、抗電場の値は210V/mmとなっていた。
【0060】
更に、第1の実施の形態例と同様の電極材料、電極構造、印加電圧条件により周期分極反転構造を形成して光機能素子を得て、この光機能素子に波長1064nmの基本波を入力して得られる波長532nmの変換波の出力の厚さ方向のばらつきを測定した。周期分極反転構造形成時の印加電圧は抗電場の1.5倍、すなわちこの場合315V/mm、印加時間は50msでパルス回数は1回である。この結果を図11に示す。
図11から明らかなように、この場合は厚さ方向に出力のばらつきが生じ始めていることが分かる。
【0061】
またこの例においても、変換波の出力を測定した後、第1の実施の形態例と同様に、電極を除去した後エッチングによって分極反転構造を表出させ、これを顕微鏡により観察した。この結果を図11B〜Dに示す。図11Bはパターン電極側の写真図、図11Cはその模式図、図11Dは一様電極側の写真図、図11Eはその模式図である。これらを比較すると、MgOの添加量が0.05mol%の場合は一様電極側の分極反転構造は部分的に途切れているが、幅はパターン電極側と同程度に保っていることが分かる。
【0062】
(3)第3の実施の形態例
コングルエント組成タンタル酸リチウムに対するMgOの添加量を0.10mol%に増やした他は、第1の実施の形態例と同様の方法により、単結晶の育成、VTE法による処理を行い、単分域化処理温度を400℃として、タンタル酸リチウム単結晶を得た。ここで単分域化処理温度を高めたのは第1の実施の形態例1及び2の200℃処理では単分域化が不十分であったためである。
得られた単結晶に対して、第1の実施の形態例と同様の方法により、特性を測定した。
その結果、実施例1と同様に8W入射に対しても光損傷は全く観察されなかった。
また、対称性の良いヒステリシス曲線が得られ、飽和自発分極量は56μC/cm2と実施例1に近い値が得られた。また、抗電場の値は230V/mmとなっていた。
【0063】
更に、第1及び第2の実施の形態例と同様の電極材料、電極構造、印加電圧条件により周期分極反転構造を形成して光機能素子を得て、この光機能素子に波長1064nmの基本波を入力して得られる波長532nmの変換波の出力の厚さ方向のばらつきを測定した。周期分極反転構造形成時の印加電圧は抗電場の1.5倍、すなわちこの場合345V/mm、印加時間は50msでパルス回数は1回である。この結果を図12に示す。
図12から明らかなように、この場合更に厚さ方向に出力のばらつきが生じていることが分かる。
【0064】
この例においても、変換波の出力を測定した後、第1及び第2の実施の形態例と同様に、電極を除去した後エッチングによって分極反転構造を表出させ、これを顕微鏡により観察した。この結果を図12B〜Dに示す。図12Bはパターン電極側の写真図、図12Cはその模式図、図12Dは一様電極側の写真図、図12Eはその模式図である。これらを比較すると、MgOの添加量が0.10mol%の場合は一様電極側の分極反転構造は幅が狭くなっているが、一様電極側まで分極域が形成されている領域が多いことが分かる。
【0065】
(4)第4の実施の形態例
コングルエント組成タンタル酸リチウムに対するMgOの添加量を0.15mol%に増やした他は、第1の実施の形態例と同様の方法により、単結晶の育成、VTE法による処理を行い、単分域化処理温度を400℃として、タンタル酸リチウム単結晶を得た。
得られた単結晶に対して、第1の実施の形態例と同様の方法により、特性を測定した。
その結果、第1の実施の形態例と同様に8W入射に対しても光損傷は全く観察されなかった。
また、対称性の良いヒステリシス曲線が得られ、飽和自発分極量は56μC/cm2と実施例1に近い値が得られた。また、抗電場の値は290V/mmとなってい。
【0066】
この例においても、第1〜第3の実施の形態例と同様の電極材料、電極構造、印加電圧条件により周期分極反転構造を形成して光機能素子を得て、この光機能素子に波長1064nmの基本波を入力して得られる波長532nmの変換波の出力の厚さ方向のばらつきを測定した。周期分極反転構造形成時の印加電圧は抗電場の1.5倍、すなわちこの場合435V/mm、印加時間は50msでパルス回数は1回である。この結果を図13に示す。
図13から明らかなように、この場合厚さ方向の出力の変動がより大きくなっていることが分かる。しかしながらこの場合、基本波を入射する位置を精度良く調整すれば、所望の出力の変換波が得られることが分かる。
【0067】
この例においても、変換波の出力を測定した後、第1〜第3の実施の形態例と同様に、電極を除去した後エッチングによって分極反転構造を表出させ、これを顕微鏡により観察した。この結果を図13B〜Dに示す。図13Bはパターン電極側の写真図、図13Cはその模式図、図13Dは一様電極側の写真図、図13Eはその模式図である。これらを比較すると、MgOの添加量が0.15mol%の場合は一様電極側では一部分極域が形成されない部分が生じていることが分かる。
【0068】
(5)比較例1
コングルエント組成タンタル酸リチウムに対するMgOの添加量を0.20mol%に増やした他は、第1の実施の形態例と同様の方法により、単結晶の育成、VTE法による処理を行い、単分域化処理温度を400℃として、タンタル酸リチウム単結晶を得た。
得られた単結晶に対して、第1の実施の形態例と同様の方法により、特性を測定した。
その結果、第1の実施の形態例と同様に8W入射に対しても光損傷は全く観察されなかった。
また、対称性の良いヒステリシス曲線が得られ、飽和自発分極量は52μC/cm2と第1の実施の形態例に近い値が得られた。また、抗電場の値は420V/mmとなっていた。
【0069】
この場合においても、周期分極反転構造を上述の第1〜第4の実施の形態例と同様の条件で形成し、厚さ方向の変換波の出力を測定した。すなわち周期分極反転構造を形成する際の電極材料、電極形状は同様とし、印加電圧を抗電圧の1.5倍、パルス時間は同様に50msとした。この結果周期分極反転構造が形成された光機能素子は、変換波の出力のばらつきが大きく、一定以上の出力が得られる範囲が狭くなってしまい、実用上好ましくないことが分かった。つまりこのMgO添加量とするタンタル酸リチウム単結晶基板を用いる場合は、周期分極反転構造を形成する際の電極形状やパルス電圧の波形等を複雑化する必要が生じ、また、基本波入射位置の光学的調整が厳しく、生産性の低下もしくは歩留まりの低下を招く恐れがある。
【0070】
(6)比較例2
コングルエント組成タンタル酸リチウムにMgO添加物を加えない融液から育成したタンタル酸リチウム単結晶を用いた他は、第1の実施の形態例と同様の方法により、単結晶の育成、VTE法による処理、単分域化処理を行い、タンタル酸リチウム単結晶を得た。
得られた単結晶に対して、実施例1と同様の方法により、特性を測定した。
その結果、対称性の良いヒステリシス曲線が測定され、飽和自発分極量は54μC/cm2と文献値とほぼ同等であり、抗電場の値は110V/mmとなっていた。
一方、光損傷は、4W(パワー密度〜300kW/cm2)入射に対して出射ビームの変形が観測され、第1〜第4の実施の形態例と比較して、光損傷閾値が低下していることがわかった。
すなわちこの結果から、VTE法による処理を行って化学量論組成に近づけたタンタル酸リチウム単結晶であっても、MgO添加物を含まない場合は耐光損傷強度を充分得ることができないといえる。
【0071】
(7)比較例3
気相平衡法(VTE法)によって処理する前のコングルエント組成の単結晶について、上述の実施の形態例及び比較例と同様にして、光損傷の測定を行った。MgOの添加量を、0mol%(添加なし)、0.05mol%、0.1mol%、0.2mol%、0.5mol%、1mol%、3mol%、5mol%と変えた、8種類の単結晶の測定を行った。
その結果、8種類とも、0.05W(パワー密度4kW/cm2)の光照射でも出射ビームの変形(光損傷)が観察された。
すなわち、MgOを添加する場合であっても、気相平衡法(VTE法)による処理を行わないと、充分な光損傷強度が得られないことがわかった。
【0072】
以上の結果から、タンタル酸リチウム短結晶にMgOを添加し、更にVTE法による処理を行うことにより耐光損傷強度を充分に得ることができることが分かる。また、第1〜第4の実施の形態例におけるMgOの添加量の範囲、すなわち0.025mol%以上0.15mol%以下に選定することによって、確実に光損傷強度を確保し、且つ抗電場を低減化することができて、周期分極反転構造を形成した場合の変換波の出力のばらつきを抑えることができることがわかる。
なお、MgO添加量が0.025mo%未満であっても、0mol%を超える範囲であれば、添加しない場合と比べて耐光損傷強度の向上を図る効果が得られ、また抗電場が充分低くなるので、周期分極反転構造を形成した場合の変換波の出力のばらつきを抑えることができる。
一方、MgOの添加量を0.15mol%以下の範囲とする場合は、これより添加量を多くする場合と比較するとタンタル酸リチウム単結晶基板の欠陥の発生を抑えることができ、また濃度むらが生じにくい等の理由から、3インチ以上の大型単結晶基板を形成する場合に有利となる。このため、分極反転構造が形成された3インチ程度以上の比較的大型の光機能素子の量産性を高めることが可能となる。
したがって、本発明においては、MgOの添加量として、0mol%を超える0.15mol%以下に選定するものであり、より好ましくは0.025mol%以上0.15mol%以下とするものである。
【0073】
なお、上述の各実施の形態例では、コングルエント組成として、モル分率((Li2O/(Li2O+Ta2O5))=0.485の組成を使用したが、一般的に言われているコングルエント組成範囲であれば、その他の組成としても同様の効果を得ることが可能である。
【0074】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の光機能素子の製造方法の一実施の形態における気相平衡処理の際の原料粉末及び基板の収容状態を示す図である。
【図2】A及びBは本発明の光機能素子の製造方法の一実施の形態における気相平衡処理の際の基板の保持方法の一形態を示す図である。
【図3】A及びBは本発明の光機能素子の製造方法の一実施の形態における気相平衡処理に用いる製造装置の要部の概略構成図である。
【図4】A〜Eは本発明の光機能素子の製造方法の一実施の形態における周期分極反転構造を形成する工程図である。
【図5】光学装置の一例の概略構成図である。
【図6】周期分極反転構造を有する光機能素子の特性の説明に供する図である。
【図7】Aは周期分極反転構造を有する光機能素子の一例の概略断面図、BはAに示す光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。
【図8】Aは周期分極反転構造を有する光機能素子の一例の概略断面図、BはAに示す光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。
【図9】Aは周期分極反転構造を有する光機能素子の一例の概略断面図、BはAに示す光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。
【図10】Aは本発明の第1の実施の形態例で作製した光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。B及びCはパターン電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図、D及びEは一様電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図である。
【図11】Aは本発明の第2の実施の形態例で作製した光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。B及びCはパターン電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図、D及びEは一様電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図である。
【図12】Aは本発明の第3の実施の形態例で作製した光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。B及びCはパターン電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図、D及びEは一様電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図である。
【図13】Aは本発明の第4の実施の形態例で作製した光機能素子により得られる変換波の出力の厚さ方向の変化を示す図である。B及びCはパターン電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図、D及びEは一様電極側の分極反転構造の観察写真図とその模式図である。
【符号の説明】
【0076】
1 タンタル酸リチウム単結晶基板、3 原料粉末、4 収容部材、5 保持部材、6 被覆部材、7 容器、8 装置、9 炉、10 炉蓋、11 電極、15 周期分極反転構造、16 分極域、20 光機能素子 50 光学装置、51 励起光源、52 半波長板、53 光学レンズ、54 ミラー、55 レーザ媒質、56 光機能素子、57 ミラー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウムを添加物として含み、その添加量を0mol%を超える0.15mol%以下とするコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して、
前記コングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を、少なくともリチウムを含む原料を用いて気相平衡法により処理することにより、化学量論組成に近づけ、
前記化学量論組成に近づけたタンタル酸リチウム単結晶基板を用いて光機能素子を形成する
ことを特徴とする光機能素子の製造方法。
【請求項2】
前記MgOの添加量を、0.025mol%以上0.15mol%以下とすることを特徴とする請求項1記載の光機能素子の製造方法。
【請求項3】
前記化学量論組成に近づけたタンタル酸リチウム単結晶基板に周期分極反転構造を形成することを特徴とする請求項1に記載の光機能素子の製造方法。
【請求項4】
前記周期分極反転構造を電圧印加により形成することを特徴とする請求項3記載の光機能素子の製造方法。
【請求項5】
前記印加する電圧を直流電圧とすることを特徴とする請求項4記載の光機能素子の製造方法。
【請求項6】
前記印加する電圧をパルス電圧とすることを特徴とする請求項4記載の光機能素子の製造方法。
【請求項7】
櫛状パターンの電極を用いて前記電圧印加を行うことを特徴とする請求項4記載の光機能素子の製造方法。
【請求項8】
酸化マグネシウムを添加物として含み、その添加量を0mol%を超える0.15mol%以下とするコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して、
前記コングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を、少なくともリチウムを含む原料を用いて気相平衡法により処理することにより、化学量論組成に近づける
ことを特徴とするタンタル酸リチウム単結晶の製造方法。
【請求項1】
酸化マグネシウムを添加物として含み、その添加量を0mol%を超える0.15mol%以下とするコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して、
前記コングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を、少なくともリチウムを含む原料を用いて気相平衡法により処理することにより、化学量論組成に近づけ、
前記化学量論組成に近づけたタンタル酸リチウム単結晶基板を用いて光機能素子を形成する
ことを特徴とする光機能素子の製造方法。
【請求項2】
前記MgOの添加量を、0.025mol%以上0.15mol%以下とすることを特徴とする請求項1記載の光機能素子の製造方法。
【請求項3】
前記化学量論組成に近づけたタンタル酸リチウム単結晶基板に周期分極反転構造を形成することを特徴とする請求項1に記載の光機能素子の製造方法。
【請求項4】
前記周期分極反転構造を電圧印加により形成することを特徴とする請求項3記載の光機能素子の製造方法。
【請求項5】
前記印加する電圧を直流電圧とすることを特徴とする請求項4記載の光機能素子の製造方法。
【請求項6】
前記印加する電圧をパルス電圧とすることを特徴とする請求項4記載の光機能素子の製造方法。
【請求項7】
櫛状パターンの電極を用いて前記電圧印加を行うことを特徴とする請求項4記載の光機能素子の製造方法。
【請求項8】
酸化マグネシウムを添加物として含み、その添加量を0mol%を超える0.15mol%以下とするコングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を使用して、
前記コングルエント組成のタンタル酸リチウム単結晶基板を、少なくともリチウムを含む原料を用いて気相平衡法により処理することにより、化学量論組成に近づける
ことを特徴とするタンタル酸リチウム単結晶の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−92712(P2009−92712A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260281(P2007−260281)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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