説明

光毒性を調節する方法

【課題】細胞に対する光の作用をクエンチする又は抑制するクエンチャー又はインヒビターの、光の有害な作用を逆転および/又は抑制する必要のある状況への使用。
【解決手段】紫外線光によって生じる障害を抑制する、コラーゲン誘導分子の使用によって、光障害を調節するための医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2002年4月19日出願の仮出願第60/374,033号の優先権を主張する。この出願の全開示をここに参考文献として合体させる。
【0002】
発明の分野
本発明は、皮膚細胞の光毒性のモジュレーターとして有用な分子および組成物に関する。具体的には、ここでの使用において「モジュレーター」とは、光に対する露出によって生じる、細胞、例えば皮膚細胞、の障害を加速又は遅延させることが可能な物質をいう。
【背景技術】
【0003】
光、特に、UVA光が、皮膚細胞に対して障害を与えることはよく知られている。光毒性障害は、光と、皮膚に対して内因性のある種の化合物との反応を介して起こる。光障害が起こる機序は十分に理解されており、簡単に以下のように説明することができる。皮膚障害の感作物質又は、促進物質とさえ称することが可能な、前記関連分子は、光と反応し、酸素の存在下で、「活性酸素種」、“ROS”を成する。発癌や光老化、但しこれらの現象に限定されることのない細胞障害に導く経路に関連しているのは、これらの分子、即ちROS分子である。この現象の詳細は、ここにその全部を参考文献として合体させる非特許文献1に見られる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ワンドラック(Wondrak)他著、J. Invest. Dermatol. 119: 489-498 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、皮膚、等に対して内因性の分子が、光毒性の促進に関っているという事実は、標的療法を示唆するものである。詳述すると、もしも、ある化合物が光の不在下では実質的に不活性であるが、光と接触すると、細胞破壊に関与するのであれば、そのような化合物は、標的化された細胞死が望まれる状況において使用可能であろう。そのような状況としては、非限定的に、乾癬、ざ瘡、光線性角化症等の前癌性および悪性過剰増殖性疾患、および当該技術で周知のその他の状態がある。
【0006】
反対に、光で活性化され得る分子の存在は、細胞に対する光の作用をクエンチする又は抑制する分子が存在することを示唆している。そのようなクエンチャー又はインヒビターは、光の有害な作用を逆転および/又は抑制する必要のある状況に使用することが可能である。そのようなクエンチャー又はインヒビターは、予防的に、更に、治療的に使用することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、以下の開示に見られるように、細胞に対する光毒性の調節が、ここに記載される本発明の焦点である。モジュレーターとは、ここでの使用において、皮膚成分、特にコラーゲン、から誘導可能な分子を指す。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実験例で使用された種々の分子の構造を示す図である。
【図2A】3ヒドロキシピリジン中心的構造を備えた分子が、光に対する露出時に、細胞増殖の抑制を誘発するのに有効であったことを示す結果を示す図である。
【図2B】3ヒドロキシピリジン中心的構造を備えた分子が、光に対する露出時に、細胞増殖の抑制を誘発するのに有効であったことを示す結果を示す図である。
【図3A】光の存在下において、図1の3−ヒドロキシピリジン化合物の、ケラチン生成細胞であるところのHaCaT細胞に対して得られた結果を比較する図である。
【図3B】光の存在下において、図1の3−ヒドロキシピリジン化合物の、ケラチン生成細胞であるところのHaCaT細胞に対して得られた結果を比較する図である。
【図4A】ここに記載されるN−エチル誘導体を使用して、悪性メラノーマに対して得られた結果を示す図である。
【図4B】ここに記載されるN−エチル誘導体を使用して、悪性メラノーマに対して得られた結果を示す図である。
【図5A】使用した細胞が乳癌細胞であることを除いて、図4に類似している図である。
【図5B】使用した細胞が乳癌細胞であることを除いて、図4に類似している図である。
【図6】FACS(フローサイトメトリー)解析による、前記N−エチル誘導体が細胞をアポトーシスに駆り立てることの証拠を示す図である。
【図7】BSA−B6複合体の合成の概略を示す図である。
【図8】図7の複合体が細胞増殖を抑制するのに有効であったことを示す図である。
【図9A】光活性化された分子のエネルギー移動(図中、“ET”)によるクエンチングの推定機序を示す図であり、“S”は完全に励起された感作物質であり、“S”は感作物質である。
【図9B】光活性化された分子のエネルギー移動(図中、“ET”)によるクエンチングの推定機序を示す図であり、“S”は完全に励起された感作物質であり、“S”は感作物質である。
【図10】クエンチャーとしてテストされたプロリン誘導体の構造を示す図。
【図11】前記プロリン誘導体の、光線感作されたDNA障害をクエンチングさせる有効性を示すように構成されたアッセイからの結果を示す図である。
【図12A】ここに記載される化合物が一重項酸素をクエンチすることをいかにして測定したかを示す図である。
【図12B】ここに記載される化合物が一重項酸素をクエンチすることをいかにして測定したかを示す図である。
【図12C】ここに記載される化合物が一重項酸素をクエンチすることをいかにして測定したかを示す図である。
【図12D】ここに記載される化合物が一重項酸素をクエンチすることをいかにして測定したかを示す図である。
【図12E】ここに記載される化合物が一重項酸素をクエンチすることをいかにして測定したかを示す図である。
【図12F】ここに記載される化合物が一重項酸素をクエンチすることをいかにして測定したかを示す図である。
【図12G】ここに記載される化合物が一重項酸素をクエンチすることをいかにして測定したかを示す図である。
【図13】皮膚細胞光障害を抑制する種々のクエンチャー分子の保護作用を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下の諸例は、対象体に対する紫外線光の作用を調節する少なくとも1つの物質を投与することによって、光障害を調節する方法に関する本発明の種々の態様を記載するものである。ここでの使用において「モジュレーター」とは、細胞増殖を阻止する必要がある状況において有用な光障害速度を増加する、又は障害速度を低下させる能力を指す。前者のカテゴリーの具体例は、例えば、乾癬、ざ瘡、光線性角化症等の前癌性および悪性過剰増殖性疾患、メラノーマ、非メラノーマ性皮膚癌、乳癌およびその他の癌、当該技術で周知の細胞の増殖を低下させる必要に関連するその他の状態がある。
【0010】
細胞増殖の低下をもたらす光障害の増加は、そのファルマコフォア構造として、3−ヒドロキシピリジン環を有し、かつ、コラーゲン等の皮膚成分から誘導される少なくとも1つの化合物を使用することによって達成されることが望ましい。そのような化合物の具体例としては、3−ヒドロキシピリジン自身、ビタミンB6、そして最も好ましくは、N−アルキル−3−ヒドロキシピリジン誘導体、例えば、塩、であって、その誘導体のアルキル鎖が、好ましくは直鎖(但しオプションとしては分枝鎖)で、置換可能又は置換不能な、少なくとも2つ、最大で20の炭素原子を含むものが挙げられる。より好ましくは、前記アルキル基は、直鎖で2−10、最も好ましくは、2−5の炭素原子を含む。記載したデーターによって示されたように、上述したように、前記N−エチル誘導体が特に好ましい。その化合物の皮膚内での滞留時間を長くする長いN−アルキル誘導体が、特定の状況、例えば、それに限定されるものではないが、その化合物の局所供与が望ましい状況、等においては好適であるかもしれない。
【0011】
これらの分子は、標準的な薬用成分およびキャリア、例えば、クリーム、ローション、シャンプー、スプレー、パッチ、等に使用されているもの、或いは、皮膚に対して治療剤を投与するために使用される公知の薬剤送達システム、と組み合わせることができる。
【0012】
標的化治療が特に望ましい場合は、標的化送達を改善するために、前記活性成分を、より大きなものとすることが可能な第2の分子に付着させることができる。そのような大きな分子としては、例えば、抗体、レセプターに対するリガンド、ホルモン、および、細胞を標的化する他の分子および/又は細胞によって選択的に取り込まれる他の分子が挙げられる。
【0013】
本発明のもう1つの特徴は、光障害のクエンチング性質である。既に示したように、プロリンとその誘導体は光障害の有効なクエンチャーである。特に有効であるのは、L−Pro−OCHや4−OH−L−プロリン等のプロリンのアルキルエステルであるが、既に示したように、その他の化合物も有用である。その利用態様は、エンハンサーについて記載したものと全く同じである。
【実施例】
【0014】
例1
コラーゲンに対する前記内因性皮膚成分の成分が、光毒性障害の原因物質および/又はその抑制物質である可能性が非常に高いと考えられた。従って、それらの分子を調べた。
【0015】
ピリジノリンは、コラーゲン分子の架橋に関わるアミノ酸であり、その光毒性における役割について調べた。ピリジノリンの構造は周知であり、それを、ここに記載されるその他の分子の構造と共に、図1に示す。
【0016】
HaCaTケラチン生成細胞とヒトCF3線維芽細胞とに対して一連の実験を行った。これらの実験において、細胞サンプルを、500μMのピリジノリンと、ピリジノリンに関連する構造を有するエラスチン構成要素であるデスモシン500μMと又は500μMのビタミンB6(ピリドキシン)とに接触させた。コントロールにはなんら化合物を添加しなかった。1セットの実験において、前記細胞は、外部光源を受けなかった。別セットの実験において、それらは、UVA光を3.3J/cm、受けた。前記CF3線維芽細胞は、2.3J/cmのUVA光と0.12J/cmのUVB光との組み合わせである、人工太陽光(solar stimulated light)、“SSL”、を受けた。その結果を、コントロール(化合物添加無し、光無し)に対する細胞増殖の百分率として図2に示す。測定値は、刺激の3日後に得た。
【0017】
これらの結果は、ピリジノリンは抗増殖性作用を有するが、光の存在下においてのみこの作用を有することを示した。ビタミンB6は、細胞増殖の抑制において劇的に高い有効性を示した。
【0018】
ペルオキシド捕捉剤であるカタラーゼを400μ/ml添加した第2セットの実験を行った。前記カタラーゼはビタミンB6感作に対して全く何の作用も有さず、このことは、この分子についてはペルオキシド形成以外の機序が関与していることを示唆するものであった。
【0019】
これらの結果に基づき、前記化合物の構造を、これらの分子に共通する構造的特長が有るか否か、或いは、ファルマコフォアを同定することが出来るか否かを調べるために、比較した。ビタミンB6とピリジノリンとの両方が3−ヒドロキシピリジン中心的構造を共有していることが銘記され、このことは、次ぎのシリーズの実験を示唆した。
【0020】
例2
上述したものに類似する実験において、複数のヒドロキシピリジン誘導体の集団を調べた。簡単に説明すると、2,3および4−ヒドロキシピリジンを、N−エチル−3−ヒドロキシピリジンと同様に、テストした。全ての構造を図1に示す。
【0021】
前述したHaCaT細胞、を増殖抑制アッセイでテストした。細胞サンプルは、前にリストした4種類の化合物の一つを同量受け、前述したように、これらを、人工太陽光(“SSL”)、又は同様に前述したように、UVA光のみのいずれかと接触させるか、接触させなかった。
【0022】
その結果を図3に示す。
【0023】
コントロールと比較して、3−ヒドロキシピリジンは抑制作用を有し、N−エチル誘導体は殺傷作用を有していた。前記N−エチル誘導体も、UVAとUVBとの両方の存在下で機能したが、これに対して、3−ヒドロキシピリジンは、UVB光の存在下で細胞増殖抑制物質として機能した。
【0024】
例3
上述した実験に続いて、悪性メラノーマ細胞(G−361細胞)と悪性乳癌細胞(MCF−7)とを使用した追加の実験を行った。これらの実験において、UVA光を9.9J/cmとして、前述したN−エチル誘導体を、種々の濃度でテストした。前記処理の2日後に生存度を測定した。コントロールとして、N−エチル誘導体のみ、と、UVA光のみとで実験を行った。
【0025】
図4(G−361細胞)と図5(MCF7細胞)に図示されている結果は、前記組み合わせによって顕著な細胞障害性がもたらされたことを示している。
【0026】
前記G−361細胞をFACSによって分析したところ、そのデーターは、これらの細胞がプログラム細胞死、即ち、アポトーシス、に追いやられたことを示した。このことは、図6に見られ、ここで、アポトーシスマーカー、アネキシンV、及び、ヨウ化プロピジウムでの染色は、N−エチル誘導体が使用された時、特に、UVAが3.3J/mの濃度の時、染色された細胞の顕著な増加を示した。
【0027】
例4
本発明の有効物質は小さな分子である。小分子は有用ではあるが、時に、そのような分子をより大きな分子、例えば、タンパク質、と複合化することが望ましい。これによって、もしもそれが例えば、細胞上の特定のマーカーに対して特異的な抗体、特定のレセプターに対するリガンド、核会合タンパク質(nuclear associated protein)等、と複合化される場合に、その小分子の標的化が促進される。
【0028】
このアプローチの実用可能性をテストするために、ビタミンB6分子を、ウシ血清アルブミンに結合させた。簡単に説明すると、前記ウシ血清アルブミン(BSA)分子のリジン側鎖を、350mgのそれと、ピリドキサールアルデヒド(64mg)である、ビタミンB6とを反応させることによって共有結合修飾して、シッフ塩基を形成した。これに対して、前記シッフ塩基を、1.5mlの0.25Mのリン酸緩衝液(pH7.4)中のNaCNBH(58mg)で、一晩37℃で還元し、広範囲に透析した(48時間、4℃)。その結果得られたBSA−B6付加体を、質量分析法と蛍光分光法とによって特徴付けた。次に、前記タンパク質を、凍結乾燥し、以下の例に使用した。図7にその合成を図示している。前記分光法の作業によって、平均で、各BSA分子が5−6のpyroxidal分子と複合化したことが示された。
【0029】
例5
例4に記載した複合物の抗増殖作用を、何も添加しないか (コントロール)、又はBSAもしくは前記BSA−B6複合物を添加して、そして、HaCaTケラチン生成細胞のサンプルをSSLで処理するか、もしくは処理しないことによってテストした。前記BSAとBSA−B6とを、10mg/ml添加し、SSLは2.3J/cmのUVAと0.12J/cmのUVBとから構成されたものであった。処理の三日後、増殖を、コールターカウンターと標準法を使用して測定した。
【0030】
図8に図示されているその結果から、前記BSA−B6複合物がケラチン生成細胞の増殖を抑制するのに非常に有効であったことがわかる。
【0031】
例6
上述の例1−5に記載したデーターは、細胞破壊を促進する分子に関するものである。しかし、これは必ずしも望ましいものではなく、この例と、以下の例とにおいては、このプロセスを抑制する分子について説明する実験が記載される。これらの分子を、以降、光励起状態のクエンチャー、又は“QPES”と称する。これらの化合物は、その後、上述したようなタイプの細胞死を誘発することになる分子の光励起状態を失活させる能力によって特徴付けられる。
【0032】
これらの分子が機能する推定機序を図9に示すが、本出願人は、この推定機序によって限定されることを望むものではない。簡単に説明すると、分子のUV照射によって、電子の励起(励起状態は図中“S”によって示されている)と、励起された一重項の形成とが起こり、項間交差(ISC)後に、三重項状態となる。これらが、細胞の光障害の重要な中間体である。QPES化合物は、エネルギー移動(“ET”)による光障害に関連する前記化合物の励起エネルギーを受け入れ、基底状態に緩和して戻る光毒性中間物を中和し、そのエネルギーを無害な振動エネルギーまたは熱を介して散逸させることによってこの作用を無効にする。前記QPES化合物自身は、このプロセスにおいて枯渇せず、複数の光障害分子を中和する。
【0033】
例7
ΦX174プラスミドは、人工太陽光からの照射と、UV感作物質として作用するAGE−色素濃縮(enriched)タンパク質との組み合わせの作用によってのみ開裂されることがよく知られている。AGE−BSA(「終末糖化産物」改変ウシ血清アルブミン)は、前述したタイプの内因性皮膚感作物質の蓄積のモデルである。これを示すアッセイの詳細は、ここにその全部を参考文献として合体させるワンドラック(Wondrak)他 Photochem. Photobiol. Sci. 1:355-363(2002)に見られる。このアッセイをこの例において使用した。
【0034】
プラスミドの開裂を、サンプルを1%アガロースゲル上にランすることによって可視化し、障害、即ち、閉環形状(非障害状態)からの緩和された開環形状の形成、を、濃度測定によって定量化し、これによって、化合物の保護作用の評価を可能とした。
【0035】
AGE−開裂は、酸素の不在下で進行し、抗酸化物によっては完全に抑制することができない。従って、もしもある化合物がプラスミド開裂を抑制するとしても、それを単純に抗酸化物と見なすことはできない。これに対して、上述したように、励起状態のクエンチングによる抑制を、推定しなければならない。
【0036】
結果を下記の表に示す。光励起状態のクエンチャーとして知られている、細胞毒性NaNは、有効であった。そして、グルタチオン(“GSH”)、D−ペニシラミン、およびN−アセチル−L−システイン(“NAC”)を含むチオール化合物も同様であった。
【0037】
このアッセイは、例7に記載した原理を証明するものである。
【0038】
【表1】

【0039】
このアッセイを使用して、一連のプロリン関連化合物とプロリンとをテストした。これらの化合物の構造を図10に示す。図11にこれらの実験結果を示す。前記テスト化合物は100mM、添加され、前記プラスミドを、UVA光(2.3J/cm)とAGE−BSA(10mg/ml)の一方、又は両方と接触させるか、又は、これらのいずれとも接触させなかった。
【0040】
L−Pro−OCHが、これらのクエンチャー中最も強力であったが、すべてが有効であった。
【0041】
例8
上述したように、光励起された酸素、即ち、基底状態の、三重項酸素又は“”のスピン対相同物、である一重項酸素、“”が、光毒性に関与していることが知られている最も重要な励起状態の分子である。特に、細胞DNA、膜脂質、およびケラチンやコラーゲン等の構造タンパク質、に対する光酸化障害における一重項酸素の関与は、十分に記載されてきた。一重項酸素を失活させることにおける、上述したプロリンおよびプロリン誘導体の有効性を測定するためのアッセイが開発された。ここにその全体を参考文献として合体させるライオン(Lion)他,Nature 263:442-443(1976)を参照。
【0042】
トルイジンブルー(“TB”)は、照射されると、を発生することがよく知られている。公知の方法において、は、2,2,6,6,テトラメチルピペリジン又は“TEMP”、を介して捕捉される。安定したフリーラジカル、即ち、2,2,6,6,テトラメチルピペリジン−1−オキシル、又は“TEMPO”が形成され、これをその後、生成の判定として測定することができる。このアッセイの重要点は、他の反応性酸素種は、TEMPと反応してTEMPOを生成しないという事実であり、これによって、このアッセイは、の形成に対して特異的なものとなる。
【0043】
TEMP,TBおよび上述した分子の1つを、組み合わせ、それを可視光で5分間、36J/cmの総線量、照射した。詳述すると、100μMのTBと、7mMのTEMPと20mMのテスト化合物を、100μlの容積(1.5×90mm)の石英製キャピラリーチューブ内で、リン酸緩衝食塩水中にて組み合わせた。TEMPOフリーラジカルシグナルを、市販の装置を使用して電子常磁性共鳴を介して測定した。テスト化合物の不在下で、但し、光の存在下でのシグナルと、標準TEMPO共鳴シグナルとを測定するために、コントロールも実行した。
【0044】
図12のパネルA−Gに示すその結果は、以下のデーターを提供する。パネルAは、TEMPOシグナルを生成する完全な一重項酸素生成システムを図示している。パネルBは、市販のTEMPOリファレンスのスピンシグナルを図示している。パネルCは、パネルD−Gに観察される作用が、テスト化合物のTEMPOとの直接反応によって引き起こされたものではないことを示している。パネルDとGとは、プロリン誘導体による一重項酸素のクエンチングを示し、プロリンのカルボキシ基の誘導体化又は4−ヒドロキシル化はクエンチング活性に対して影響しないことを証明している。更に、それは、前記化合物の全てが有効なクエンチャーであったことを示している。
【0045】
前記クエンチング分子が物理的なクエンチャーであり、前記反応において消費されなかったことを示すために、アミノ酸分析の標準逆相HPLC法を使用して、可視光(36J/cm)に対して長時間露出させた前と後とに、PBS中のTBとL−Proとの混合物のアミノ酸含有量を測定した。ピーク、リテンションタイム、又はAUC値のいずれにも変化は観察されず、に対する化学的不活性が示され、反応消費ではなく、物理的なクエンチングの証拠が提供された。
【0046】
例9
これらの実験は、クエンチャーであることが証明された前記化合物が皮膚細胞を保護するのに有効であるか否かを調べるために構成された。
【0047】
培養皮膚線維芽細胞(CF3細胞)を、in situで色素感作によって形成されたからの光酸化ストレスに対して露出させた。
【0048】
簡単に説明すると、50,000の線維芽細胞を、35mmの培養皿に播種し、次に、1日後、TB(ハンクス緩衝塩水溶液中で3.3μM)の存在下又は不在下で、可視光(10.8J/cmを提供する90秒間の露出)で処理した。処理の5分間後、細胞を、リン酸緩衝食塩水で洗浄した。照射中、前記培地に、テスト化合物(10mM)を存在又は不在とした。3日間の培養後、細胞を、トリプシン処理によって収集し、コールターカウンターを使用して計数した。
【0049】
その結果、TBと光との組み合わせによって細胞増殖は高度に(70%)抑制されたが、これらのいずれか一方のみではそうならなかったことが示された。図13に図示され、下記の表に数値化されているように、前記化合物L−Pro−OCHと4−OH−L−Pro−OCHは、非常に明白な保護作用を示した。
【0050】
【表2】

【0051】
保護は次の式によって決定した。
【0052】
【数1】

【0053】
これらの実験におけるより活性度の高い化合物はエステル化合物であった。図10に図示されているように、これらの化合物のlog P値を周知の方法を使用して決定した時、前記エステルは、非エステル型化合物よりも遥かに高いlog P値を有していた。高いlog P値は、より高い親油性を示すので、それらの優れた効果は、皮膚の中でより長い滞留時間を維持して細胞膜と反応することによるためかもしれない。約−1.00から約+8.00のlog P値を有するプロリンエステル誘導体は、特に有用であると予想される。
【0054】
例10
上述した化合物4−OH−L−プロリンメチルエステルは、新規なグループの化合物を代表する新規な化合物であると考えられる。この化合物の合成、このファミリーの他のメンバーの合成のガイドラインについて次に記載する。
【0055】
4−ヒドロキシ−L−プロリンを、二炭酸di−tert−ブチルと、1N NaOH中にて、5℃で30分間反応させ、その後、室温で、更に3.5時間、攪拌した。
【0056】
それによって得られた保護された4−ヒドロキシプロリンを、次に、ジメチルホルムアミドと炭酸カリウムおよびヨウ化メチルと、0℃で30分間反応させ、その後、一時間、室温で攪拌して前記メチルエステルを産生した。
【0057】
次に、トリフルオロ酢酸と標準法を使用して、二炭酸di−tert−ブチルの脱保護
を行った。
【0058】
この反応における重要成分はヨウ化メチルである。前記ハロゲン化アルキルを変えることによって、1−30、好ましくは1−26の炭素原子を有するアルキル基を含むエステルを得ることができる。
【0059】
以上の諸例は、対象体に対する紫外線光の作用を調節する少なくとも1つの物質を投与することによって、光障害を調節する方法に関する本発明の種々の態様を記載するものである。ここでの使用において「モジュレーター」とは、細胞増殖を阻止する必要がある状況において有用な光障害速度を増加する、又は障害速度を低下させる能力を指す。前者のカテゴリーの具体例は、例えば、乾癬、ざ瘡、光線性角化症等の前癌性および悪性過剰増殖性疾患、メラノーマ、非メラノーマ性皮膚癌、乳癌およびその他の癌、当該技術で周知の細胞の増殖を低下させる必要に関連するその他の状態がある。
【0060】
細胞増殖の低下をもたらす光障害の増加は、そのファルマコフォア構造として、3−ヒドロキシピリジン環を有し、かつ、コラーゲン等の皮膚成分から誘導される少なくとも1つの化合物を使用することによって達成されることが望ましい。そのような化合物の具体例としては、3−ヒドロキシピリジン自身、ビタミンB6、そして最も好ましくは、N−アルキル−3−ヒドロキシピリジン誘導体、例えば、塩、であって、その誘導体のアルキル鎖が、好ましくは直鎖(但しオプションとしては分枝鎖)で、置換可能又は置換不能な、少なくとも2つ、最大で20の炭素原子を含むものが挙げられる。より好ましくは、前記アルキル基は、直鎖で2−10、最も好ましくは、2−5の炭素原子を含む。記載したデーターによって示されたように、上述したように、前記N−エチル誘導体が特に好ましい。その化合物の皮膚内での滞留時間を長くする長いN−アルキル誘導体が、特定の状況、例えば、それに限定されるものではないが、その化合物の局所供与が望ましい状況、等においては好適であるかもしれない。
【0061】
これらの分子は、標準的な薬用成分およびキャリア、例えば、クリーム、ローション、シャンプー、スプレー、パッチ、等に使用されているもの、或いは、皮膚に対して治療剤を投与するために使用される公知の薬剤送達システム、と組み合わせることができる。
【0062】
標的化治療が特に望ましい場合は、標的化送達を改善するために、前記活性成分を、より大きなものとすることが可能な第2の分子に付着させることができる。そのような大きな分子としては、例えば、抗体、レセプターに対するリガンド、ホルモン、および、細胞を標的化する他の分子および/又は細胞によって選択的に取り込まれる他の分子が挙げられる。
【0063】
本発明のもう1つの特徴は、光障害のクエンチング性質である。既に示したように、プロリンとその誘導体は光障害の有効なクエンチャーである。特に有効であるのは、L−Pro−OCHや4−OH−L−プロリン等のプロリンのアルキルエステルであるが、既に示したように、その他の化合物も有用である。その利用態様は、エンハンサーについて記載したものと全く同じである。
【0064】
本発明のその他の特徴は、当業者にとって明らかであろう。従って、ここでは繰り返す必要はない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光障害を治療するための皮膚用組成物であって、紫外線によって引き起こされた光障害を調節するために十分な量の光障害モジュレーターを含み、ここで、前記モジュレーターがプロリン、4−ヒドロキシプロリン、又はそれらのアルキルエステルである、組成物。
【請求項2】
前記モジュレーターが、光障害を阻害する作用を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記プロリンアルキルエステルが、1〜24の炭素原子のアルキル成分を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記プロリンアルキルエステルが、L−プロリン−OCH又は4−OH−L−プロリン−OCHである請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
クリーム、ローション、シャンプー、スプレー又はパッチの形態である請求項1に記載の組成物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【図12F】
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【図12G】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−163461(P2010−163461A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103731(P2010−103731)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【分割の表示】特願2003−585662(P2003−585662)の分割
【原出願日】平成15年4月17日(2003.4.17)
【出願人】(504387676)アリゾナ・ボード・オブ・リージェンツ・オン・ビハーフ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・アリゾナ (5)
【住所又は居所原語表記】888 NORTH EUCLID AVENUE,TUCSON, AZ 85721−0158, UNITED STAES OF AMERICA
【Fターム(参考)】