説明

光沢のよいチョコレート類並びにその製造法

【課題】
本発明は、低廉で平易な方法と操作にて、光沢のきわめて良いコーティング用、カバリング用、或いは洋生用の被覆用チョコレート類及びその製造法を提供することを目的とする。
【解決手段】
カカオ繊維質およびパルプ繊維質からなる群より選択される一種以上の繊維質と、PGPRを特定の割合で配合されていることで、従来にない良好な光沢を発揮させることができ、しかも平易な方法と操作で、食感および風味が良好なチョコレート類を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のものより光沢のよいチョコレート類並びにその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チョコレート類、具体的にはチョコレートやチョコレート様食品といったものが例示されるが、その典型的なものはカカオマス、ココアバター、砂糖、粉乳等から製造される。
そのチョコレート類の中でもパン、ドーナツ、焼き菓子、洋菓子、和菓子等の生地の表面の被覆する用途に用いられているものがある。
このような被覆用途のチョコレート類としては、コーティング用、カバリング用、或いは洋生用の用途が例示できるが、そういったチョコレート類はコーティングされた製品の表面の光沢の状態が製品の品質を左右し、光沢の良い製品を得ることはチョコレート類で被覆された商品の設計上きわめて重要である。
【0003】
しかしながら、光沢の良いチョコレート類を得るためには、被覆時のチョコレート類の品温、或いは固化時の室温等の温度管理、さらにはチョコレート類の油脂組成や添加する乳化剤や添加剤などを適切に選択する必要がある。
例えば、固化時の温度管理に関してみると、チョコレート類を被覆した時の固化温度が低い、10℃以下で急冷却すると光沢のない状態となるし、逆に高い、例えば30℃程度で固化されると光沢は改善される傾向にあるが、固化に要する時間(乾き時間)が長く、被覆の作業性に問題がある。
また光沢の良いものを得るには、様々なチョコレート類それぞれの物性により、最適で狭い温度域での作業が必要であるため、すべてのユーザーの現場において、適切で狭い温度域を確保しての作業は困難である。
【0004】
また、チョコレート類の油脂組成に関しては、油脂中の液状油脂の割合を高めることで光沢を改良する方法が知られているが、液状油脂の割合を高くすると、細かい粒状の油脂が表面に噴出す、所謂「汗かき現象」が発生し易くなる。さらに、液状油脂の配合により被覆されたチョコレート類の耐熱性が低下するため、高い温度下での表面のベタツキが発生しやすくなる等の問題があった。
【0005】
乳化剤や添加剤によりそれら作業性の悪化や乾きにくさ、汗かき現象といった欠点を発生させず、光沢が良いチョコレート類を得る為にはさまざまな試みがされている。
融点36℃以下の油脂に融点60℃以上のキャンデリラワックスを添加してなる油脂を用いたり(例えば特許文献1)、親油性ショ糖飽和脂肪酸と親油性ショ糖不飽和脂肪酸を重量比3:7〜7:3の範囲で配合させたり(例えば特許文献2)、チョコレート類中に親油性ショ糖飽和脂肪酸エステル及び親油性ソルビタン飽和脂肪酸エステルを配合させたり(例えば特許文献3)、食品の表面を油脂で下塗りし、その上にチョコレート類を被覆した後、該チョコレート類が固化後27〜32℃に加温放置する(例えば特許文献4)方法等、さまざまな発明がなされている。
上記のように、チョコレート類に含まれる油脂自体の結晶性の改善により、光沢の改良がなされることは知られているが、従来の技術では十分に良好な光沢のチョコレート類を得るという点ではどれも不十分である。
【0006】
さらに、上記油脂自体の結晶性改善に効果のあったトランス脂肪酸(以下単にトランス酸という)が、近年の健康志向への強まりから好まれず、トランス酸含量を低減させた油脂が用いられる傾向になる。
トランス酸含量の低減にともない、油脂中のトリアシルグリセロール(以下TGと称する)の種類が減り、光沢や固化速度、耐ブルーム性等に影響が出ることが多く、商品の設計上、固化速度や耐ブルーム性などを維持するために光沢を犠牲にする場合もある。
そういった背景よりトランス酸を低減させながらも、光沢のよい被覆用チョコレート類の製造法に対する市場からの要望が強いものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−022694号公報
【特許文献2】特開平03−285644号公報
【特許文献3】特開2002−306076号公報
【特許文献4】特開昭60−145049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、低廉で平易な方法と操作にて、光沢のきわめて良いコーティング用、カバリング用、或いは洋生用の被覆用チョコレート類及びその製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究をおこなった結果、カカオ繊維質およびパルプ繊維質からなる群より選択される一種以上の繊維質と、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(以下、PGPRと略すことがある)を特定の割合で配合されていることにより、従来にない良好な光沢を発揮させることができ、しかも平易な方法と操作で、食感および風味が良好なチョコレート類を製造できることを見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、この発明は、(1)としては、油脂を25〜45重量%含有し、且つ45℃での降伏値が1Pa以下、45℃での見かけ粘度が6000cP以下であり、且つカカオ繊維質およびパルプ繊維質からなる群より選択される繊維質を一種以上含み、且つその総和が3重量%以上であるチョコレート類であり、(2)としては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.1%重量以上含む(1)記載のチョコレート類であり、(3)としては、(1)記載の繊維質がコンチング工程を経ることを特徴とする(1)乃至(2)のいずれかに記載のチョコレート類の製造法であり、(4)としては、20℃で固化した時の光沢度(入射角60度)が15以上であることを特徴とするチョコレート類である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。本発明において言うところのチョコレート類とは、油脂が連続相を為す油性食品であり、後述の油脂の量を特定の値とすることを必須とする以外は特に限定はされないが、一例を挙げると、チョコレートやチョコレート様食品といったものが挙げられる。またチョコレートは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(昭和46年3月29日、公正取引委員会告示第16号)による「チョコレート生地」及び「準チョコレート生地」を含むものであって、カカオ豆から調製したカカオマス、カカオ脂、ココアパウダー及び糖類を原料とし、必要により他の食用油脂、乳製品、香料等を加え、チョコレート製造の工程を経たものをいい、またカカオマスを使用しない所謂ホワイトチョコレート生地をも包含するものである。
又、上記の通り、油脂が連続相を為す油性食品なら特に限定はされないとしたが、特に被覆用途への利用が好適である為、その作業性から見かけ粘度の調節は重要であり、その点で見かけ粘度上昇の要因となる水分量は、チョコレート類において、望ましくは3重量%以下、さらに望ましくは1重量%以下であることが好ましい。
【0011】
また、上記チョコレート類はその全量に対して油脂を25〜45重量%、望ましくは30〜40重量%含有している必要がある。油分が低いほど光沢はよくなる傾向にあるが、30重量%を下回ると見かけ粘度が上昇してコーティング作業が難しくなる。逆に45重量%を超えると固形分が少なくなったり薄くかかりすぎたりして、チョコレート類が垂れたり透けたりしやすくなる。
なお、以下特に断らない場合は、配合における重量%の基準はチョコレート類の最終製品の状態に対してのものとする。
【0012】
チョコレート類には、物性改良や製造コストの節約等の目的にて、ココアバターの一部または全部に代えて 他の油脂(CBEと称される1,3位飽和、2位不飽和のトリグリセリド型油脂に富むものと、CBRと称されるラウリン系もしくは高エライジン酸タイプのハードバター、さらにはアイスコーチングと呼ばれるものには不飽和脂肪酸や中鎖脂肪酸などを多く含む液状油)を使用したものが挙げられる。
【0013】
油脂の種類としては、特に限定はされないが所謂ハードバターが好適であり、ラウリン系ハードバター等のノーテンパリング型油脂、カカオ脂、カカオ脂代用脂等のテンパリング型油脂が利用できる。その他油脂の硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂が利用できる。原料として例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物油脂、並びに、それらの油脂の硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂が例示できる。
【0014】
さらに、上記チョコレート類は上記油脂量の規定を満たしてなお、45℃での降伏値が1Pa以下、望ましくは0.6Pa以下であり、且つ45℃での見かけ粘度が6000cP以下、望ましくは3000cP以下である必要があり、降伏値が1Paを超えると光沢が従来のものと比べ特に優れているとはいえないレベルとなる。
またチョコレート類の見かけ粘度は作業性と密接な関係があり、45℃での見かけ粘度が6000cP以下、望ましくは3000cP以下であることが好ましい。6000cPを超えるとコーティングの際チョコレートが厚くなりがちになる。
チョコレートの見かけ粘度は、完全に溶解したチョコレートを流動させる時に加えた力(ずり応力)をその時の速度(ずり速度)で除したものとして表される。見かけ粘度測定方法の一例としては、45℃でBM型粘度計(東京計器株式会社製、3号ローター、12rpm)を用いて測定することができる。
一方、降伏値はチョコレートが流動し始めるために必要なエネルギーとして表される。降伏値が高いとチョコレートは流動し難い物性となるため、チョコレートをコーティング用途として使用するには降伏値が低いほうが望ましい。具体的な降伏値は上記見かけ粘度の測定方法をもとにずり応力とずり速度の関係をプロットし、Casson近似式などを用いて数式化することで得られる。測定方法の一例としては、45℃でRheolab-QC(AntonPaar社製)を使用し、ずり速度が2(1/s)〜50(1/s)の時のずり応力を測定し、Casson近似式を用いて数式化することで降伏値を算出することができる。
【0015】
なお、従来より用いられている方法を適宜用いて、降伏値や見かけ粘度を下げることが出来る。
降伏値の低減する方法としては特に限定はされないがポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(PGPR)の添加などが効果的であり、0.1%重量以上、望ましくは0.15重量%以上含むことが好ましい。
また見かけ粘度を低減する方法も特に限定はされないが、従来より油性食品に用いられている乳化剤は好適に用いられる。一例としてはレシチン、ショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。
それ以外に見かけ粘度を低減する方法としては、油脂の含有量を上記記載の通り25〜45重量%の範囲内で上昇させるといった方法が挙げられる。
【0016】
トランス酸であるエライジン酸を構成脂肪酸とするトランス型ハードバターは前述の通り、近年の健康志向への強まりから好まれず、トランス酸含量を低減させた油脂が用いられる傾向であるため、その用途や配合量にはそういった消費者の健康嗜好に配慮する必要はあるが、トランス型ハードバター自体には結晶性改善に効果があり、特に本願発明において用いても光沢を悪化させたりはしない。上記消費者への配慮をする上での上限以外には、特に使用に制限なく用いることが出来る。
一方で、本発明は健康嗜好に配慮した、トランス酸を低減させた油脂においてもその効果を発揮でき、望ましくはチョコレート類に含まれる油脂中の20重量%以下、さらに望ましくは15重量%以下、もっとも望ましくは10重量%以下であることが好ましい。
上記の通り、トランス酸自体は油脂中のTG種が増えることで、光沢や固化速度、耐ブルーム性等の点で商品の設計上の自由度が増すのだが、そのトランス酸を低減したことで固化速度や耐ブルーム性などを維持するために光沢を犠牲にする場合においても、光沢度をトランス酸を高含有量に含む従来のチョコレート並、あるいはそれ以上にすることができ、その本願発明の効果を実感しやすい。
【0017】
糖類・糖アルコール類としては特に限定はされないものの、従来のチョコレートに用いられる糖・糖アルコール類が好適に用いられる。一例としては、糖類としては、単糖類、オリゴ糖類、糖アルコール類、水飴等が例示できる。単糖類としては具体的には、グルコース、フラクトース、マンノース、キシロースを挙げることができる。またオリゴ糖類としては、通常2糖類から6糖類までのものが含まれるが、具体的にはショ糖、マルトース、乳糖、トレハロース、マルトトリオース等を挙げることができる。糖アルコール類としては具体的には、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、オリゴ糖アルコール等を挙げることができる。
【0018】
本願でいうところの繊維質とは、食物に含まれている人の消化酵素では消化しがたい難消化性の成分であるところの食物繊維質であり、そのなかでもカカオ繊維質およびパルプ繊維質からなる群より選択される一種以上を、その総和が3重量%以上、望ましくは4重量%以上、チョコレート類に対して含むものであることが望ましい。
繊維質が3重量%を下回ると、従来品をこえた光沢のものは得がたい。
また、繊維質の上限は特にないが、望ましくは30重量%以下、さらに望ましくは20重量%以下であることが好ましい。30重量%を超えると光沢の点では問題がなくとも風味や粘度などの物性に悪影響を与えかねず、商品の設計上制限を受けやすい。
カカオ繊維質とはカカオ中の食物繊維質を指し、カカオ豆を出発原料とするカカオマスやココアパウダーなどに含まれる。リグニンを多く含み、通常カカオマスには10−20重量%程度含まれるが、油分を取り除いたり、油脂以外の固形分中の糖や蛋白質を取り除いたりすることでその割合を向上させることができ、カカオマスから油脂を取り除き含油率を12%程度まで下げたココアパウダーには25−30重量%程度含まれる。
【0019】
パルプ繊維質とはセルロースを豊富に含む植物質の繊維質塊であり、主に製紙原料として使われるものである。大別して物理的に破砕してパルプ化したものが機械パルプであり、化学的に分解してパルプ化したものが化学パルプであるが、機械パルプには取り除かれなかったリグニンが多く含まれ、一方、化学パルプの方がリグニンをはじめとする不純物が取り除かれておりセルロース純度は一般的に高い。それらのなかで食品あるいは食品添加物規格に合致するものがパルプ由来のセルロース粉末である。本願発明においてはその由来原料は特に限定はされないものの、木材パルプ由来であること、セルロース純度の高い化学パルプが望ましい。
【0020】
リグニンを多く含むカカオ繊維質は多くの場合有色であり、その添加対象のチョコレート類がホワイトチョコレートやカラーチョコレートの場合は色調が黒ずんだり濁ったりしかねない。またカカオ繊維質を含むカカオマスやココアパウダーなどはカカオ(ココア)風味が強い為、ホワイトチョコレートの乳味やカラーチョコレートの抹茶や果実の風味に対して悪影響を与えかねない
よって、添加対象のチョコレート類がホワイトチョコレートやカラーチョコレートの場合、添加する繊維質はパルプ繊維質、特に木材パルプ由来であること、セルロース純度の高い化学パルプが好適に用いられる。
一方添加対象のチョコレート類がミルクチョコレートやスイートチョコレートのようにカカオ由来の褐色である場合は特にその制限はない。
【0021】
一般に、チョコレート類はカカオ豆をあらかじめ細かく砕き、すりつぶしたカカオマス、ココアパウダー、ココアバター、ココアバター代用脂、甘味料及び粉乳等を適宜混合し、ロールリファイニング(微粒化)工程、コンチング工程及びテンパリング(調温)処理して製造される。
本願発明においても、チョコレート類の製造方法としては特に限定されるものはなく、既存の製造工程を適宜用いることが出来る。
ただし、上記繊維質は他の原料、特に油脂と油脂を含有する原料(カカオマスや全脂粉乳など)と共にシアをかけることでより光沢がよくなるため、その製造工程においてはコンチング工程を経ることが望ましい。
コンチング工程の条件や装置は従来のチョコレート製造工程で用いられているものを適宜用いることができる。望ましくは60分以上、さらに望ましくは120分以上その操作を受けることが好ましい。
【0022】
また既存のチョコレート類はロールリファイニング工程において微細化し粒度を細かくするのであるが、この時のロール圧等をコントロールすること、あるいはロールリファイニング工程自体を省略することで、十分に微細化させず、チョコレート類の粒度を荒くすることができるが、得られるチョコレート類はざらついた食感となる。
よって、本願発明においてチョコレート類の粒度は望ましくは100μm以下、さらに望ましくは50μm以下、もっとも望ましくは25μm以下であると、本願発明の効果がより一層顕実化しやすく好ましい。
【0023】
なお、上記記述されている粒度の測定方法は複数の粒度分布をもつ粒子の集合を混和し、しかも油脂を連続相とした中に粒子が分散している場合は油性食品としてその粒度分布を測定することは困難で且つ製品を管理する上では現実的ではないので、マイクロメーターによる測定をもって本発明の粒度の規定に用いる。
より具体的にはマイクロメーター(一例として株式会社ミツトヨ社製 商品名「デジマチック標準外側マイクロメーター MDC−M」など)にて測定面に融解した油性食品(油分が50%に満たない場合は、液油により希釈し油分50%〜60%)を付着させ、測定面同士を近接させていく。油性食品の付着量は、測定時にマイクロメーター測定面の幅が狭まり、測定値が示された時点で油性食品が測定面よりはみ出す程度の量であり、少なくとも測定面に一様に分布する程度をもって測定する。
量が少ないと測定面同士の空隙に十分な量の粒子が存在せず測定誤差が生じやすくなるので、測定面からはみ出さない場合は測定値として用いない。
測定後、測定面を清浄な状態にして再度同様の手順で5回測定し、最大と最小の値を除く3回の平均値をもって油性食品の粒度としている。
【0024】
それ以外にも、室温で液体であり流動性のある油脂(以降、液状油と称する)を加え、液状油成分の光沢により、光沢度を向上させることも可能ではある。しかし、こうした液状油を多く含むチョコレート類は融点が低く、室温で固化し難くなる。そういったチョコレート類は周囲や喫食する際の手や口、服、さらには包装などに付着し、アイスコーチングチョコレートや冷凍下での喫食を意図しているチョコレート以外では商品価値を落としかねない。
【0025】
この点においても本願発明を用いることでチョコレート類の融点を必要以上に下げることなく光沢度を向上できるため有効である。
よって、本願発明においてチョコレート類の融点は望ましくは20℃以上、さらに望ましくは25℃以上であると、本願発明の効果がより一層顕実化しやすく好ましい。
【0026】
なお、上記条件で作成されたチョコレート類は、20℃固化時の光沢度(入射角60度)が15以上となり、従来の方法では、光沢度15以上にはなし得ない。
(以降、特に「光沢度」と断らない場合は、20℃固化時の光沢度(入射角60度)の条件にて測定されたものとする。)
また、カカオ繊維質とパルプ繊維質の双方に光沢度を向上させる機能があるが、カカオ繊維質の方がより光沢度を向上させる効果が高い傾向にあり、カカオ繊維質を用いて上記条件で作成されたチョコレート類は、光沢度は17以上、場合によっては20以上に達する。
光沢度測定方法としては、チョコレートを50℃にて溶解後にプラスチックフィルムにコーティングし、20℃雰囲気下で固化した後に光沢度測定機器にて光沢度を測定する。
光沢度測定機器の一例としては株式会社堀場製作所社製、ハンディ光沢計<グロスチェッカ> HORIBA IG−320などが好適に用いられる。
【実施例】
【0027】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部は重量基準を意味する。
【0028】
<実施例1・比較例1>
・ロールフレークの作製
表1・表2の配合に従い融解したカカオマス、ココア、砂糖、脱脂粉乳、植物油脂A、ココアバター、乳化剤を配合し、ミキサー(愛工舎株式会社製AM30)にてドウ状になる程度(8〜10分)に撹拌してロールリファイナー投入生地を作製し、ロールリファイナー投入生地をロールリファイナー(BUHLER社株式会社製「Three−roll mill SDY−300」)により微細化し、ロールフレークを得た。ロールフレークの粒度は21μmであった。
なお、用いたカカオマスのカカオ繊維質量は13.7重量%、ココアのカカオ繊維質量は27.1重量%であった。
【0029】
<表1>植物油脂Aの配合

【0030】
・コンチング
得られたロールフレークをコンチングマシン(株式会社品川工業所製)にて表1記載の温度で120分間ドライコンチングを行い、続いて表1に従い追油を行ったのち、リキッドコンチングを60分行い、最終的なチョコレート類を得た。
チョコレート類は45℃にて見かけ粘度を測定(東京計器株式会社製、BM型粘度計、3号ローター、12rpmで測定)した。
降伏値は45℃でRheolab-QC(AntonPaar社製)を使用し、ずり速度が2(1/s)〜50(1/s)の時のずり応力を測定し、Casson近似式を用いて数式化することで算出した。
光沢度はチョコレート類を50℃でプラスチックフィルムにコーティングし、20℃で1時間固化させた後グロスチェッカー(HORIBA IG−320、入射角60°)にて測定を行った。
【0031】
<表2>

【0032】
コーティング後にその光沢度を評価すると、実施例1は目視においても明らかに光沢があり、その光沢度は21.4に達した。一方、比較例1は見かけ粘度が高く商品設計上はコーティングが厚過ぎて商品価値に乏しいものであり、またそのコーティングも光沢度も15を上回ることはなかった。
【0033】
<比較例2・実施例2・実施例3・実施例4>
油分35重量%でそれぞれにPGPRの配合量が異なる表3の配合に従い、配合以外は実施例1と同様の工程にてチョコレート類を得た。ロールフレークの粒度はすべて21μmであった。
【0034】
<表3>

【0035】
コーティング後にその光沢度を評価すると、実施例2は目視においても明らかに光沢があり、その光沢度は17.7であった。そしてその傾向は降伏値が減少するにつれて、そしてPGPRの添加量が増加するにつれて一層顕著になり、実施例4において降伏値が0.01でその光沢度は34.0に達した。
一方、比較例2は比較例1と同様に見かけ粘度が高くコーティング作業ができず、本来の商品設計上はコーティングが厚過ぎて商品価値がないのだが、強引にコーティングしたところ、やはりその光沢は悪く、光沢度も12.3程度に過ぎなかった。
【0036】
<比較例3・比較例4>
表4に示された配合で油分51.6重量%であるがドライコンチング時間の短い比較例3と、さらに比較例3と同様の製造条件であるがPGPRが添加されている比較例4をドライコンチング時間と配合以外は同様の条件でチョコレート類を作成した。
表4には参考の為、実施例4の配合や各測定値もあわせて示した。ロールフレークの粒度はすべて21μmであった。
【0037】
<表4>

【0038】
コーティング後にその光沢度を評価すると、実施例4はその光沢度は34であるのに対して、比較例3は油脂の添加により見かけ粘度の低減を試みたが、降伏値は1Paを下回ることがなく、光沢度も7.4に過ぎなかった。比較例4では比較例3にPGPRを添加し、降伏値を低減させた。その結果、光沢度の上昇が認められたが、15を下回る数値しか得られなかった。
【0039】
<比較例5・実施例5・比較例6・比較例7・実施例6>
表5に示された配合で食物繊維質がまったく入っていないもの(比較例5)、食物繊維質が粉末セルロース(製品名KCフロック W−400G 、日本製紙ケミカル株式会社製)であるもの(実施例5)、ポリデキストロース(製品名ライテスウルトラ、トウモロコシ由来、ダニスコジャパン株式会社製)であるもの(比較例6)、大豆オカラ(製品名ニュープロプラス1000、不二製油株式会社製)であるもの(比較例7)、ココアパウダーであるもの(比較例7)という違い以外は実施例1と同様の配合と工程でチョコレート類を作成した。
ロールフレークの粒度は比較例5が22μm、実施例5が19μm、比較例6が21μm、比較例7が24μm、実施例6が22μmであった。
【0040】
<表5>

【0041】
比較例5・実施例5・比較例6・比較例7はチョコレート類がホワイトチョコレートであり、もともとカカオ繊維質がまったく入っていない比較例5、そして別途添加した食物繊維質もカカオ繊維質およびパルプ繊維質ではない比較例6・比較例7は従来よりあるホワイトチョコレート程度の光沢度しかえられなかった。
一方、パルプ繊維質が添加された実施例5は目視においても明らかに光沢があり、その光沢度は16であった。その色調は食物繊維質を別途添加しているにもかかわらず、無添加の比較例5と変わらないホワイトチョコレートの乳白色であった。
ただし、繊維質の量としては実施例5と同等になるようにココアを添加した実施例6は光沢度は実施例5を上回るものであったが、ココアによる褐色とココアの風味が発現し、ホワイトチョコレートとしては用いにくいものとなった。
【0042】
<実施例7・比較例4>
植物油脂Aを表1に示されたトランス酸がまったく入っていない配合の植物油脂Bにかえ、配合も表7に示されたものにする以外は実施例1と同様の工程でチョコレート類を作成した。。ロールフレークの粒度はすべて21μmであった。
【0043】
<表6>植物油脂Bの配合

【0044】
<表7>

【0045】
上記、従来技術等で触れたがトランス酸を低減することで被覆用チョコレート類の光沢がわるくなる場合があり、実際、従来の方法にて作成した比較例4の光沢は悪く、光沢度は3.6にとどまった。しかし、PGPRの添加などにより降伏値を下げた実施例7は低トランス酸であるにもかかわらず、その光沢度は18.3であった。
【0046】
<実施例8>
表8に示されたように、粉末セルロース(製品名KCフロック W−400G 、日本製紙ケミカル株式会社製)を加える以外は、は実施例4と同様の配合、工程でチョコレート類を作成した。
【0047】
<表8>

【0048】
実施例4の時点で光沢は強かったが、さらに粉末セルロースの添加で光沢が増し、光沢度は36.4にも達した。また、色調に粉末セルロース添加の影響は見られなく、実施例4と同じ色であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を25〜45重量%含有し、且つ45℃での降伏値が1Pa以下、45℃での見かけ粘度が6000cP以下であり、且つカカオ繊維質およびパルプ繊維質からなる群より選択される繊維質を一種以上含み、且つその総和が3重量%以上であるチョコレート類。
【請求項2】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.1%重量以上含む請求項1記載のチョコレート類。
【請求項3】
請求項1記載の繊維質がコンチング工程を経ることを特徴とする請求項1乃至請求項2のいずれかに記載のチョコレート類の製造法。
【請求項4】
20℃で固化した時の光沢度(入射角60度)が15以上であることを特徴とするチョコレート類。

【公開番号】特開2012−110268(P2012−110268A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261947(P2010−261947)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】