説明

光治療装置

本発明は,リングアセンブリと,該リングアセンブリにおける上側リング及び下側リングの間に位置決めされた発光モジュールとを備え,患者頭部の輪郭に密接に追従するようにカスタマイズされた経頭蓋光治療デバイスを提供する。本発明は,更に,カスタマイズされたデバイスの作成方法と,該デバイスを使用して種々の神経学的症状を治療する方法を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,治療目的のために光を照射する光治療装置に関し,特に,個人の頭部に装着して頭部上又は頭部内の対象部位,例えば脳における選択された部位に治療光を,経頭蓋的及び/又は経皮的に照射するようにカスタマイズされた装置に係るものである。更に,本発明は,神経的な障害,疾病又は症状の治療方法を含むものである。
【背景技術】
【0002】
光治療で組織を照準することは,解剖学的な個体差により難しい場合があり,加えて,素人には判然としない場合でも専門家には病理部位を特定するものとして参照される症状がある。単一サイズで全てに適合させる汎用形式のアプリケータは,一般人における解剖学的知識の欠如と,疼痛部位の治療を考慮したものではなく,多くの場合には障害の源を対象としていない。
【0003】
先行技術において,根底にある脳を赤外線で治療すること,ヘッドバンド状の装着型デバイスを使用すること,又は個人の頭部周りに固定するためのストラップ等を有するヘルメット又はハットを使うことは既知である。また,1072nm光が痴呆症の治療において治癒力を有することも既知であるが,脳の標的部位に対する光の照射は,頭部や頭蓋の寸法が大きく変動するために,これまでは困難であったことが実証されている。調整可能なヘッドギアにつき,十分な汎用性があること,又は標的部位に対して治療光を効果的に照射できることは,証明されていない。
【0004】
各種の頭蓋内病理は,神経的な委縮及び病変について異なる領域を占めるものであり,脳の異なる部位に対する発光を必要とする。MRI及びSPECTスキャンによれば,適切に機能していない脳の不全領域を特定することができる。認知障害者は,空間認識に関する問題を抱えており,機械的なヘッドギアの使用は,ヘッドギアが調整可能であっても治療上不十分である。神経変性症の患者は,しばしば協調運動不全と可視的な震えを呈し,他人の介助なしでは調整可能なヘッドギアの利用がほとんど不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脳における選択された特定部位に対して治療光を,効率的かつ効果的に照射できるデバイスを提供し,先行技術を超える改善を達成することが望ましい。また,特定の個人に対してより正確に装着することができ,操作が簡単であるために使用者が自ら操作可能なデバイスを提供し,先行技術を超える改善を達成することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
最広義の観点において,本発明は,患者の頭部又は頭蓋骨の輪郭にぴったりと従うカスタマイズされた経頭蓋光治療デバイスを提供するものである。
【0007】
第1の観点によれば,本発明は,略円形の第1リング及び第2リングを備え,第2リングが第1リングより小径である光治療デバイスを提供し,この場合に,各リングは個人の頭部外周と概ね適合し,かつ,使用時に患者頭部上に密着する寸法及び形状を有し,さらに,各リングには,複数の発光モジュールを両リング間に収めて取り付けるための複数の係合手段が設けられている。
【0008】
本明細書において「頭部」とは,脳と頭蓋骨の後部を囲む頭蓋を含む頭部部分を意味している。
【0009】
好適には,第1及び第2リングは,シリコーン,樹脂,プラスチック及び合成ゴムを含む群から選ばれた剛性又は半剛性の材料で構成されている。その材料は,使用者に対する快適性を保証し,かつ,デバイスを使用者の頭部上に配置できるように一定の可撓性を有すると同時に発光モジュールを十分に支持できるように選ばれている。
【0010】
各リングは内面及び外面を有する。内面は,発光モジュールの一部と接触する表面である。外面は,第1リングでは個人の頭部頂点から離れている側,第2リングでは頭部頂点から最も近い側に位置する表面である。好適には,第1及び第2リングの外面は,実質的に平坦である。好適には,第1及び第2リングの内面は,両リング間に発光モジュールを取り付けるためにデバイスに設けられる係合手段の種類に対応する輪郭を有する。第1及び第2リングは,発光モジュールが取り付けられる領域を両者間に限定するように,互いに離間して配置されている。
【0011】
本発明の一実施態様において,発光モジュールと係合する第1及び第2リングの係合手段は,相補的に係合する雌雄の突部及び受けユニットとして構成されている。好適には,発光モジュールが少なくとも1つの円筒状突部を有し,その円筒状突部は,第1及び第2リングの内面に相補的に設けられた受け部,受け溝又は受けスロット内に受けられる。本発明の代替実施態様において,発光モジュールと係合する第1及び第2リングの係合手段は,ロッド/スピンドル配置形態とされている。発光モジュールは,ケースの頂面及び底面上に中空突部を有し,その中空都突部内にロッドが挿入可能とされ,そのロッドを固定する手段が第1及び第2リングに設けられている。
【0012】
好適には,発光モジュールは,第1及び第2リングに対して着脱可能に係合して容易に交換可能とされている。場合によっては,発光モジュールを適切な接着剤により取り付けて,使用時における転位を防止するのが更に好適である。
【0013】
本発明に係るデバイスを駆動するための電源は,主電力又は電池により構成することができる。
【0014】
好適には,発光モジュールは,ハウジング又はケーシングを備え,その内部に,発光ダイオード(LED),レーザ,レーザダイオード,発光ポリマ,発光性の有機又は無機ポリマ及びナノ結晶を含む群から選ばれる複数の発光手段が設けられている。
さらに好適には,発光手段はLEDである。
【0015】
好適には,発光手段は,1020nm〜1120nmの波長の光を発し,さらに好適には,発光モジュールが発する光のピーク波長は1072nmである。
【0016】
好適には,光源はパルス波又は連続波とすることができる。好適には,発光モジュールはファン又は冷却要素を更に含む。
【0017】
好適には,光治療デバイスは,以下に列記する1つ以上の付加的手段を更に含む。
(i) 頭蓋底に向けられる付加的発光モジュール;
(ii) 眼部領域を治療するための付加的発光モジュール;
(iii) 頸椎を治療するために後頭部に配置される付加的発光モジュール;
(iv) 脳波電極と、関連するモニタ手段;
(v) 肩部の支持手段;
(vi) 装置を個人の頭部周りに固定するための付加的固定手段;
(vii) 頭蓋内酸素化を測定するためのトランスデューサ;
(viii) 治療の開始時間又は終了時間を個人に報知するアラーム手段;
(ix) 電源を遮断するための安全手段又は遮断手段;及び
(x) 治療時間の長さを測定するための計時手段。
【0018】
好適には,本発明のデバイスは携帯可能である。
【0019】
好適には,頭皮と接触するデバイスの部分は,エンドユーザが装着する上での快適性を保証するための軟質パッド材料により覆われている。更に,追加的な軟質材量が,上眼窩陵,頬骨弓,錐体部側頭骨,後頭部,及び上矢状静脈洞上の領域と接触する領域に配置されている。
【0020】
第2の観点によれば,本発明は,第1の観点に係る本発明に従ってカスタマイズされた経頭蓋光治療デバイスを製造するために以下の段階を含む方法を提供する。
(i) 個人の頭蓋の測定値に応じた直径のリングアセンブリを構成する。
(ii) 該リングアセンブリにおける第1及び第2リング間に限定される空間内の適宜位置に発光モジュールを,治療条件に応じて取り付ける。
【0021】
個人の頭蓋は,巻尺等により容易に採寸可能であるが,好適には,本発明に係る方法は,個人の頭蓋の3次元インプレッションを作成する第1段階又は前段階を含む。
【0022】
好適には,個人の頭蓋の3次元インプレッションを作成する段階は,石膏型を用いて個人の頭蓋の直接的インプレッションを作成し,次に,樹脂又はワックスモールドを作成することを含む。そのプロセスの詳細については,図1〜3に関連して後述する。代替的に,この段階は,CADシステムによって3次元像を作成し,その3次元像をCAD設計に取り込むことを含む。
【0023】
本発明のデバイスは,各個人向けに仕立てられるものであり,それ故に快適に装着できるのみならず,治療光照射の効率及び精度を向上し得るものである。
【0024】
好適には,個人の病理症状を突き止め,かつ特定することのできるMRIスキャン,CTスキャン,SPECTスキャン,その他のスキャン技術又は診療技術(例えば機能性脳波図)と併用して頭蓋のモデルを検査することにより,リングアセンブリにおける発光モジュールの適切な配置を許容する。
【0025】
第3の観点によれば,本発明は,第1の観点に係るデバイスを使用して,ピック病,アルツハイマー型痴呆,レビー小体型認知症,原発性進行性失語,パーキンソン病,多発性硬化症,多発梗塞性痴呆,外傷による脳損傷,無酸素症(出産時及び麻酔中,又は溺水時,業務上災害時等)による脳損傷,脳血管発作,重金属中毒による中枢神経病理,21番染色体過剰症,ウイルス性脳炎,ウイルス性髄膜炎,注意欠陥多動性障害(ADHD),学習障害,自閉症,統合失調症,うつ病を含む群から選ばれる神経学的な症状,病状又は病理を治療するための治療方法を提供する。
【0026】
好適には,治療頻度,治療の持続期間及び最適治療計画は,使用者の要求に従って選ばれる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】患者頭部のインプレッション又はモールドを作成するに当たり,頭部と毛髪を覆う保護的なコーティング又はキャップを示す説明図である。
【図2】患者頭部のインプレッション又はモールドを作成するに当たり,頭部の輪郭に応じて形成される成形型を示す説明図である。
【図3】図2のインプレッションを,頭蓋のモールドを成形する材料で満たした状態を示す説明図である。
【図4】患者頭部のインプレッションの周りに配置されるモジュールを示す説明図である。
【図5】そのモールドにおける楕円形の底部及び上部に取り付けられたモジュールを示す説明図である。
【図6】カスタマイズされた完成品を示す説明図である。
【図7A】発光モジュールの一実施態様を示す正面図である。
【図7B】その側面図である。
【図8A】発光モジュールの代替実施態様を示す正面図である。
【図8B】その側面図である。
【図8C】その平面図である。
【図8D】その詳細図である。
【図9A】リングアセンブリの正面図である。
【図9B】その側面斜視図である。
【図10A】リングアセンブリの側面図である。
【図10B】その平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下,本発明を図示の好適な実施形態に基づいて詳述する。
【0029】
本発明は,個人用特注品として個別的に成形される治療デバイスの製造を目的とするものである。図1〜図3には,個人の頭部のインプレッション又はモールドを作成する段階を示されている。図1を参照すると,インプレッションを作成する際,個人の頭部及び毛髪を輪郭順応形の薄いキャップGで覆うことが重要である。インプレッションは,数分で個人の頭部輪郭形状に硬化する適切な材料を使用して成形し,その硬化によりスカルキャップ又はハットH(図2参照)を形成する。次に,インプレッションを,患者の耳,鼻,眼及び後頭部の領域Iにおける部位に明確なマーキングを施した後に,頭部から持ち上げることができる。個人の頭部輪郭とほぼ一致する形状に硬化したインプレッションBに他の適切な材料,例えばワックス又は樹脂を充填して輪郭に密着させ,患者の頭蓋Jの正確なモールドを成形する(図2参照)。頭部のモールドJを,機能的MRIスキャン又はSPECTスキャンを併用して検査する。発光モジュールDを,モールド上に一時的に固定する(図4参照)。発光モジュールDは,頭部の曲率に順応するように形状及び寸法を可変とし,又は可撓性を付与できる点に留意されたい。
【0030】
次に,モジュールDが頭皮に密着するようにモジュールDを楕円形底部RB及び楕円形頂部RTに取り付ける。パッド構造には,電極,大脳酸素化エミッタ及びトランスデューサZが組み込まれている(図5参照)。デバイスが頭蓋の輪郭に順応する設計とされているため,密着に際して良好な電気接触が達成される。
【0031】
カスタマイズされた完成品としての治療デバイス(図6参照)は,個人の病状に従って適切に配置されたモジュールと,治療デバイスを制御するための遠隔制御ユニットを有する。治療デバイスは,年齢と相関する並存の眼部病変を治療するための眼部モジュールEDを任意的に含むことができる。
【0032】
図1〜図6に示した物理的段階は,3次元スキャナと,適切なCADパッケージとを使用しても同様に実行できることは,言うまでもない。
【0033】
図7Aを参照すると,同図には個々の光モジュールDが示されており,各モジュールは,頭蓋に対する最適な光照射を許容するように形状及び寸法を可変とした光源,又は一連の光源を有する。光源LSは,剛性PCB樹脂構造とすることができ,又は頭皮への光源の最近接を許容する可撓性構造とすることができる。ファンハウジングFHに冷却ファンを組み込み,この冷却ファンによりPCB樹脂を冷却することにより,照射される光の波長がPN接合の加熱効果によって変動するのを防止する。モジュールを,それぞれ接合ロッドCRを介して頂部リングTR及び底部リングBRに接合するための選択肢の1つは,スピンドルSP(図7B)である。
【0034】
図8Aに示す光モジュールDの代替実施態様は,図7のモジュールと類似した特性を有しているが,接合手段が異なっている。図8の実施態様における結合手段は,光モジュールのロック機構をリングアセンブリにおける上側及び下側のリングに結合するものであり,モジュールDの円形部分CAとのインターロック状態で,図9と図10のリングアセンブリについて示すように,上側及び下側のリングにおける円形突部AS内に垂下している。
【0035】
モジュールをリングアセンブリ上に取り付ける上記の機構は,リングが患者頭部のモールド周りに配置されている間に全ての構成要素の迅速な組み立てを容易化するものである。全ての構成要素が組み立てられると,少量の樹脂をCA−AS結合部に塗布することにより,剛性で耐久性に優れた,カスタマイズされたデバイスを得ることができ,このデバイスは,認知機能低下又は重度の神経振戦を有する使用者でも,介護者の補助なしに容易に使用できるものである。
【0036】
図9及び図10は,明確性の見地から1つのモジュールのみを示している。モジュールの円形部分CAと,モジュール本体MBとの間の結合部に可撓性を付与することにより,モジュールを傾動させて,頭皮に密接に近似する患者頭部輪郭に順応可能とする。剛性構造は信頼性のために必須であり,反復的に曲げられるワイヤでは先行技術において実証されているように良好な結果が得られない。
【0037】
この構造は,認知障害者又は身体障害者自身が発光モジュールを,介助を必要とせずに容易に,そして正確かつ効果的に装着可能とし,これにより治療の適合性及び有効性を向上し,治療効果を改善するものである。加えて,カスタマイズされたアプリケータは,光治療の照準を病理過程部位と一致させるものである。
【0038】
カスタマイズされた経頭蓋型の光治療デバイス(CTPD)には,最適治療プロトコルを容易にするために,CTPDの本質的構成要素としての赤外線型大脳酸素化トランスデューサに加えて,治療前後の脳波評価を容易にする電極が埋め込まれている。
【0039】
脳の電気的活性と大脳の酸素化度を測ることにより1072nmの経頭蓋光治療の効果をモニタする能力に基づき,臨床医は,患者毎に特化され,個別的に最適化された治療プロトコルを構築し,この治療プロトコルを患者の経過に従って随時再検査することが可能である。モニタ機能は,1072nmの光治療によって刺激された神経伝達物質の放出に由来する潜在的な副作用も検出可能とするものである。
【0040】
特注品ヘルメットの仕様は,MRI/SPECTスキャン及び機能性脳波図についての臨床所見に応じて,使用者毎に異なっている。同一の臨床診断が下された患者であっても,臨床的な症状と診断において微細な相違を有しており,この相違は神経退化の解剖学的位置における違いを代表している。従来技術はこの問題点,すなわち単一サイズでは全てに適合しない問題点に着目していなかった。
【0041】
カスタマイズされた経頭蓋型の光治療デバイス(CTPD)は,樹脂含浸布又は樹脂のみを使用する構成とされている。複数の樹脂を積層的に使用することもできる。代替的に,シリコーンを使用して患者の快適性を向上することもできる。同一の結果を達成するために同種材料が使用可能であることは,言うまでもない。
【0042】
前述したとおり,プロセスの一環として,患者と樹脂含浸布との間に薄い耐水性バリアを配置する。MRI/SPECTスキャンと機能性脳波図を検査してモジュール型1072nm発光アプリケータの所望の場所を,所望の臨床成果に応じて選択する。モジュールを所定位置に保持し,次に樹脂含浸材料を頭部にあてがう。
【0043】
代替的な好適手順は,以下のとおりである。
1.患者には,機能不全を呈する脳の部分を特定するために,機能的MRI/SPECTるスキャン又は他の医学的検査を施す。
2.頭部及び顔面を3次元的にスキャンし,その間に毛髪は薄い伸縮キャップを使用して頭皮の近くに保持する。
3.頭部及び顔面をスキャンする際,解剖学的なマーキング,鼻,額,瞼裂に慎重な注意を払う。
4.医学的スキャン画像を専門家によって検査し,これに応じて発光モジュールの配置を検討する。
5.委縮領域のみならず,委縮範囲と最も密接に通じる領域も照準に含める。
6.CADシステムを使用し,頭部及び顔面の3次元像をCAD設計に取り込む。
7.発光モジュールを所定位置に配置した後,カスタマイズされた上側及び下側のリングを含むシステムを,患者頭部の形状に応じて作成する。各リングシステムは,患者毎に固有のものである。
8.次にリングを,プラスチック,ナイロン,金属等の材料から切り出す。
9.モジュールを,カスタマイズされたリング内に図示のとおり配置する。
10.頭皮と接触するようにカスタマイズされた部分は,TCPAがエンドユーザにとって快適に装着できるように,軟質パッド材料で覆われている。
11.上眼窩陵,頬骨弓,錐体部側頭骨,後頭部及び上矢状静脈洞上の領域に相当するモールド上には,追加的な軟質材料を配置する。
12.発光モジュール及び軟質支持材料は,硬化後に半剛性となる樹脂又はシリコーン材料により,全てを所定位置に保持する。
13.リング,モジュールアセンブリは,快適性及び耐久性を保証するよう,僅かな可撓性を有している。
14.臨床上の必要性に応じて,眼と骨髄又は脳幹の治療のための補助的モジュールを追加することもできる。
15.後頭部領域の延長部を使用して,頸椎を治療することもできる。
16.肩部の支持手段を任意的に取り付けて,エンドユーザにおける頭部の負担を減少させることができる。これは,頸椎病変を有する患者に対して有益である。
17.肩部の支持手段は,適用される発光モジュールと頭皮との間にギャップを生じさせずに,首で支持する重量を減少させるためのばね負荷構造又は反発磁場である。
【0044】
上述した構成により,患者の頭部に容易に着脱可能な,軽量性及び快適性を有するカスタマイズされた経皮性経頭蓋の光治療デバイス(CTPD)が得られる。このCTPDは,認知障害者が使用する場合であっても,デバイスが常に脳の所望の範囲を正確に繰り返し治療することのできる成形輪郭を有している。“ハット”との類似性により,適合性及び有効性を向上することができる。
【0045】
好適には,本発明に係るCTPDで治療できる病状は,ピック病,アルツハイマー型痴呆,レビー小体型認知症,原発性進行性失語,パーキンソン病,多発性硬化症,多発梗塞性痴呆,外傷による脳損傷,無酸素症(出産時と,麻酔中,又は溺水,又は業務上災害)による脳損傷,脳血管発作,重金属中毒による中枢神経病理,21番染色体過剰症,ウイルス性脳炎,ウイルス性髄膜炎,注意欠陥多動性障害(ADHD),学習障害,自閉症,統合失調症,うつ病を含む群から選ばれる。
【0046】
40歳以上の個人に対してもCTPDは有益である。すなわち,記憶力,分析処理速度,職場での効率性及び生産性が向上し,男性の場合に性的機能及び勃起の質が向上し,女性の場合に性欲が増加することが確認されている。慢性疲労症候群,線維筋痛症及び脊髄脳炎(МE)のような慢性疲労に関連する症候群に対しても,CTPDは有益である。
【0047】
デバイスは,内蔵電池電源により携帯可能とし,この電源はアラームの電源としても機能させることができる。アラーム音と,使用者の希望する言語での口頭のリマインダにより,終日所定の時刻にCTPDを使用するようエンドユーザに指示することができる。CTPDから可視閃光を発光させ,難聴のユーザに視覚的なアラームを与えることもできる。
【0048】
エンドユーザを治療するためのアラーム音と,聴覚的又は視覚的な要求は,CTPDが頭部上に配置されて治療が行われるまで持続させることができる。リマインダメッセージは指令的であり,エンドユーザにCTPDで何をすべきかを教示するものである。
【0049】
CTPDで使用される光源は,好適には1072nmのLED,レーザ,レーザダイオード,発光ポリマ,発光性の有機又は無機ポリマ,ナノ結晶等である。発光ポリマ及びナノ結晶は各種の光波長をもってポンピングを行い,ポリマ又はナノ結晶は,1072nmの範囲での所望のピーク波長だけを放出する分子構造を有している。使用される波長の範囲は,好適には,1020nmから1120nmである。好適には,光源はパルス的,又は連続波的なもので構成することができる。
【0050】
好適には,パルス周波数は250Hz〜900Hzである。
【0051】
好適には,平均電力出力は,2mw/cm〜1w/cmである。
【0052】
好適には治療時間は2分〜30分であり,好適には治療は一日に2〜6回から週に2回の頻度で施す。治療期間の持続時間は,使用者の要求に従うことができる。
(実施例1)
【0053】
アミロイド蛋白と神経保護の室内実験を行ったところ,1072nm光の神経保護効果が明確に実証された。実験データは,アルツハイマー型痴呆症の疾病特徴に合致するよう十分に記述されたアミロイド蛋白構成を抑制する上での1072nm光の能力を示すものである。1072nmでの以前の治療で殆ど効能が認められなかった4人の患者につき,本発明によりカスタマイズされた経皮性アプリケータで再治療を施したところ,全ての患者について1072mn光の著しい治療上効果の向上が認められた。その結果は,向上したアプリケータのデザインが有効性の向上にとって重要であることを示すものである。最も重要な適合性は,認知障害者が介護者の存在又は支援なしに本発明の技術を使用できる有意性である。
(実施例2)
【0054】
ピック病を患う4人の患者につき,機械的に調整可能な1072nmヘルメットで治療を施し,一定の治療効果が認められた。機械的に調整可能なヘルメットを装着するために少なくとも一人の介助者が必要とされ,介助が遅れる場合に適合効果について問題があった。カスタマイズされたCTPDを使用する場合には,適合性が向上するのみならず,認知機能が改善され,いずれの患者についても3カ月の期間を通じてミニメンタルステート検査のスコアが1〜2ポイントずつ増加した。
(実施例3)
【0055】
アルツハイマー型痴呆症を患う6人の患者につき,本発明に係るカスタマイズされたCTPDで治療を施した。何れの患者も,機械的に調整可能な1072nmアプリケータには反応しなかった。全員につき,自己治療が可能であり,本発明の構想に対して好意的な反応を示すことが発見された。これは,1072nm光の放出の適合性及び有効性を向上させるものである。
(実施例4)
【0056】
パーキンソン病を患う4人の患者につき,本発明に係るカスタマイズされたCTPDで治療を施した。何れの患者も,振戦により,調整可能なヘッドギアを管理できる熟練した介護人がいないために,機械的に調整可能な1072nmヘルメットでの自己治療ができなかった。全員が介助なしにCTPDを使用でき,30日以内に1072nm治療の適合性及び効力が実証されるに至った。これらの患者については,振戦及び認知機能の著しい向上が認められた。
(実施例5)
【0057】
脳血管発作を患い,身体の片側に麻痺又は不全麻痺を引き起こしている7人の患者について治療を施した。何れの患者も,機械的に調整可能な1072nmヘルメットを介助なしに装着することができず,治療の適合性及び有効性が低下していた。CTPDが与えれたると,患者は自己治療ができ,日常生活における活動と言語コミュニケーション能力が向上することが確認された。
(実施例6)
【0058】
原発性進行性失語症を患う2人の患者について治療を施した。両名とも,不随意の頭部運動により機械的に調整可能な1072nmヘルメットを使用することができなかった。両名ともCTPDを介助なしに使用できただけでなく,臨床状態の改善も認められた。
(実施例7 )
【0059】
遺伝子異常の21番染色体過剰症を患う2人の患者について,CTPDで治療を施したところ,1か月の経過後に良好な効果と,知能改善が認められた。自律性レベルが以前の治療以上に向上した。注意欠陥多動性障害(ADHD)を患う3人の患者について,週に2回〜5回の治療を6週間に亘って施したところ,好意的に反応した。毎日の,又は一日2回の治療でさえ,効果的であると予想される。また,学習障害や自閉症を患う6人の患者についてCTPDで治療を施したところ,集中力の向上,行動問題の向上,知的行為の向上が認められた。さらに,統合失調症を患っており,抗精神治療薬に対して不完全反応していた2人の患者について1072nm技術とCTPDで1週間にわたり毎日の治療を施したところ,精神的特徴の向上が認められた。神経変性過程の一部で精神錯乱を患っていた患者についても,向上が認められた。うつ病を患っており,抗うつ治療に対して不完全反応を示していた8人の患者について,CTPDにより毎日の治療を4週間続けたところ,良好な反応が得られた。患者のうち2人は,薬物乱用(例えば,アンフェタミン,コカイン,ヘロイン等)による治療抵抗性うつ病を患っていた。
(実施例8)
【0060】
脳波電極と大脳酸素化装置が含まれることにより,多発性硬化症の患者のための治療プロトコルの個別化が容易となり,治療管理ポートフォリオにニューロフィードバック訓練を含ませることも可能となる。治療介入及びニューロフィードバックの組み合わせは,特に神経再生後の1072nm治療の効果を増大させる上で有効である。知的要求度の高い職業に従事する正常な個人に対し,8週間に亘りCTPDを使用して治療を施した。その全員(男性)が,性欲と勃起の質が強まるという効能の向上を報告した。更に,全員が,精力及び活気の向上と不安感の減少を報告した。また,線維筋痛症又は脊髄脳炎を患う4人の患者に毎日治療を施したところ,最初の数日以内に健康感が向上し,最初の1か月以内に活力及び気分が向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ略円形の第1リング及び第2リングを備え,第2リングが第1リングよりも小径であり,各リングが,個人の頭部外周と概ね適合し,かつ,使用時に患者頭部上に密着する寸法及び形状を有し,さらに,各リングには,複数の発光モジュールを両リング間に収めて取り付けるための複数の係合手段が設けられている光治療デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の光治療デバイスであって,第1及び第2リングが,シリコーン,樹脂,プラスチック及びゴムを含む群から選ばれた剛性又は半剛性の可撓性材料で構成されている光治療デバイス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光治療デバイスであって,発光モジュールから離れている側の第1及び第2リングの外面が実質的に平坦であり,発光モジュールに近接している側の第1リング及び第2リングの内面は,両リング間に限定される空間内に発光モジュールを取り付けるための係合手段の種類に対応する輪郭を有する光治療デバイス。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の光治療デバイスであって,発光モジュールに係合する第1及び第2リングの係合手段は,相補的に係合する雌雄の突部及び受けユニットとして構成されている光治療デバイス。
【請求項5】
請求項4に記載の光治療デバイスであって,発光モジュールが少なくとも1つの円筒状突部を有し,該円筒状突部は,第1及び第2リングの内面に相補的に設けられた受け部,受け溝又は受けスロット内に受けられる光治療デバイス。
【請求項6】
請求項4に記載の光治療デバイスであって,第1及び第2リングが複数の円筒状突部を有し,該円筒状突部は,発光モジュールに相補的に設けられた受け部,受け溝又は受けスロット内に受けられる光治療デバイス。
【請求項7】
請求項1〜3の何れか一項に記載の光治療デバイスであって,発光モジュールと係合する第1及び第2リングの係合手段がロッド/スピンドル配置形態とされており,発光モジュールが,そのケースの頂面及び底面上に中空突部を有し,該中空突部内にロッドが挿入可能とされ,該ロッドを固定する手段が第1及び第2リングに設けられている光治療デバイス。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の光治療デバイスであって,発光モジュールが第1及び第2リングに対して着脱可能に係合して交換可能とされている光治療デバイス。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の光治療デバイスであって,発光モジュールが,ハウジング又はケーシングを備え,その内部に,LED,レーザ,レーザダイオード,発光ポリマ,発光性の有機又は無機ポリマ及びナノ結晶を含む群から選ばれる複数の発光手段が設けられている光治療デバイス。
【請求項10】
請求項10記載の光治療デバイスであって,発光手段がLEDである光治療デバイス。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか一項に記載の光治療デバイスであって,発光モジュールが1020nm〜1120nmの波長の光を発する光治療デバイス。
【請求項12】
請求項11記載の光治療デバイスであって,発光モジュールが発する光のピーク波長が、約1072nmである光治療デバイス。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか一項に記載の光治療デバイであって,発光モジュールが発する光がパルス波又は連続波である光治療デバイス。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか一項に記載の光治療デバイスであって,発光モジュールがファン又は冷却要素を更に含む光治療デバイス。
【請求項15】
請求項1〜14の何れか一項に記載の光治療デバイスであって,次の付加的手段の1つ以上を更に備えている光治療デバイス。
(i) 頭蓋底に向けられる付加的発光モジュール;
(ii) 眼部領域を治療するための付加的発光モジュール;
(iii) 頸椎を治療するために後頭部に配置される付加的発光モジュール;
(iv) 脳波電極と、関連するモニタ手段;
(v) 肩部の支持手段;
(vi) 装置を個人の頭部周りに固定するための付加的固定手段;
(vii) 頭蓋内酸素化を測定するためのトランスデューサ;
(viii) 治療の開始時間又は終了時間を個人に報知するアラーム手段;
(ix) 電源を遮断するための安全手段又は遮断手段;及び
(x) 治療時間の長さを測定するための計時手段。
【請求項16】
請求項1〜15の何れか一項に記載の光治療デバイスであって,携帯可能である光治療デバイス。
【請求項17】
請求項1〜16の何れか一項に記載の光治療デバイスであって,個人の頭皮,上眼窩陵,頬骨弓,錐体部側頭骨,後頭部及び上矢状静脈洞上の領域と接触するデバイス部分が,軟質パッド材料により覆われている光治療デバイス。
【請求項18】
本発明の前記第1形態に従ってカスタマイズされた経頭蓋光治療デバイスを製造する方法であって,以下の段階を備える方法。
(i) 個人の頭蓋の測定値に応じた直径のリングアセンブリを構成する。
(ii) 該リングアセンブリにおける第1及び第2リング間に限定される空間内の適宜位置に発光モジュールを,治療条件に応じて取り付ける。
【請求項19】
請求項18記載の方法であって,前記(i)の段階に先だって個人の頭蓋の3次元インプレッションを作成する段階を更に含む方法。
【請求項20】
請求項19記載の方法であって,個人の頭蓋の3次元インプレッションを作成する段階が,石膏型を用いて個人の頭蓋の直接的インプレッションを作成し,次に,該型の樹脂又はワックスモールドを作成することを含む方法。
【請求項21】
請求項19記載の方法であって,個人の頭蓋の3次元インプレッションを作成する段階が,CADシステムによって3次元像を作成し,その3次元像をCAD設計に取り込むことを含む方法。
【請求項22】
請求項18〜21の何れか一項に記載の方法であって,個人の病理状態を突き止め,かつ特定することのできるMRIスキャン,CTスキャン,SPECTスキャン,その他のスキャン技術又は診療技術を併用して頭蓋のモデルを検査することにより,リングアセンブリにおける発光モジュールの適切な配置を決定する方法。
【請求項23】
ピック病,アルツハイマー型痴呆症,レビー小体型認知症,原発性進行性失語症,パーキンソン病,多発性硬化症,多発梗塞性痴呆症,外傷による脳損傷,無酸素症(出産時及び麻酔中,又は溺水時,又は業務上災害時)による脳損傷,脳血管発作,重金属中毒による中枢神経病理,21番染色体過剰症,ウイルス性脳炎,ウイルス性髄膜炎,注意欠陥多動性障害(ADHD),学習障害,自閉症,統合失調症,うつ病を含む群から選ばれる神経学的な症状,病状又は病理を治療するための治療方法であって,請求項1〜17の何れか一項に記載のデバイスから発せられる光を,患者の頭蓋における適切な部位に照射することを含む方法。
【請求項24】
ニューロフィードバック訓練,分析的処理の速度,記憶力,性機能,一般的な疲労感及び倦怠感を含む群から選ばれた状態を向上させる方法であって,請求項1〜17の何れか一項に記載のデバイスから発せられる光を,患者の頭蓋の適切な部位に照射することを含む方法。
【請求項25】
請求項23又は24に記載の方法であって,治療頻度,治療持続期間及び治療計画を,使用者の要求に従って選択する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【公表番号】特表2012−523297(P2012−523297A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505140(P2012−505140)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054762
【国際公開番号】WO2010/119012
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(511247312)1072 テクノロジー リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】1072 TECHNOLOGY LIMITED
【Fターム(参考)】