説明

光波形ディジタイザ

【課題】超高速のアナログ光波形信号をデジタル処理する光波形デジタイザを提供する。
【解決手段】
NOLM(非線形光ループミラー)型光アナログ−ディジタル変換器は光標本化装置(50)と光量子化・符号化装置(40)を備える。光標本化装置(50)は超高速のアナログ光波形信号を光標本化する。標本化光信号のデューティ比を低減するため、光標本化装置(50)と光量子化・符号化装置(40)の間に光シリアル−ラルパラレル変換装置30が結合される。この結合形態に基づき、光量子化・符号化装置(40)は光シリアル−ラルパラレル変換装置30の各チャンネル出力にそれぞれ結合する複数のNビット光量子化・符号化器(42)で構成される。各Nビット光量子化・符号化器(42)の出力が電気回路である判定回路及び記憶部(60)に渡される。別形態では、光量子化・符号化装置(40)に入力される標本化光信号の平均パワーを略一定にコントロールするALC機能付光増幅器が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光アナログ−ディジタル(光AD)変換技術を用いたディジタル信号処理技術に関し、特に、光信号波形(光アナログ信号)の観測、解析を行う光波形ディジタイザに関する。
【背景技術】
【0002】
AD変換方式として、アナログ電気信号を標本化された光信号(標本化光信号)に変換し、標本化光信号を光シリアルパラレル変換した後、パラレル出力に対して電気的AD変換を並列に実行することにより、実効的に100Gサンプル/秒(Sps)のAD変換方式が提案されている(非特許文献1)。このAD変換方式(並列型電気AD変換方式)は単独の電気的AD変換器の低速度を並列化(装置規模が犠牲になる)によって対応しようとするものである。結果として、達成できるサンプリング周波数は、アナログ電気信号から標本化光信号を得るのに使用するEO(electro optic)変調器の速度限界(約100GSps)によって定まる。換言すれば、約40GHzを超える帯域の波形信号をAD変換することはできない。
【0003】
そこで、この帯域限界を超えた超高速のAD変換を実現するために、AD変換プロセスを全て光領域で行う光アナログ−ディジタル変換技術の研究、開発が進められている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1の光アナログ−ディジタル変換器は、光量子化、光符号化をSagnac干渉計に基づく非線形光ループミラー(NOLM:Non-linear Optical Loop Mirror)スイッチを用いて行うものである。この光AD変換方式(NOLM型光アナログ−ディジタル変換方式)によれば、電気デバイスの速度限界より高い標本化周波数で光波形信号のデジタル化を行うことが可能であり、装置の小型化が可能である。
【特許文献1】特開2005−173530号(特願2004−167230号)「光信号処理方法及び装置、非線形ループミラーとその設計方法並びに光信号変換」
【非特許文献1】Thomas R. Clark, Jr. and Michael L. Dennis “ Toward a 100-GSample/s Photonic A-D Converter, IEEE photon Lett., vol. 13, pp. 236-238, 2001
【非特許文献2】A. Bogoni, M. Scaffardi, P. Ghelfi, and L. Poti, “ Nonlinear optical loop mirrors: investigation solution and experimental validation for undesirable counterpropagating effects in all-optical signal processing, “ IEEE J. Quantum Electron. Vol. 10, Issue 5, pp. 1115-1123, Sept.-Oct. 2004
【非特許文献3】T.Sakamoto, and K. Kikuchi, “ Nonlinear optical loop mirror with an optical bias
【非特許文献4】T. Ohara, et al., “160-Gb/s OTDM Transmission Using Integrated All-Optical MUX/DEMUX with All-channel Modulation and Demultiplexing, “IEEE Photon. Lett., vol.16, no.2, pp.650-652, Feb. 2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】

ところで、超高速光波形の観測、解析を行う光波形ディジタイザのような新規なアプリケーションを考えた場合、ディジタル化された光波形情報を電子デバイスに受け渡す必要がある。その場合に、特許文献1に示されるような光アナログディジタル変換器を用いたとすると、変換出力される光波形ディジタル信号の繰り返し周波数が電気回路の処理速度を超えるため、そのままでは光波形ディジタイザに適用できない。
【0006】
したがって、本発明の主たる目的は、電気的な速度限界を超える光波形信号について電気回路側でその解析または計測が可能な光波形ディジタイザを提供することである。このために、本発明は、NOLMを構成要素として使用する光アナログ−ディジタル変換器(NOLM型光アナログ−ディジタル変換器)を利用して超高速のAD変換を確保しつつ、電気回路側での処理にも適した光波形ディジタイザを提供するものである。
【0007】
ところで、NOLM型光アナログディジタル変換方式の場合、符号化などの動作上、非線形光ループミラー(NOLM)の逆伝搬効果(counterpropagating effects)を考慮する必要がある。逆伝搬効果というのは、NOLM内を制御光(ポンプ光)と逆方向に回るプローブ光がNOLMを一周する間に、すれちがう制御光の各パルスから受ける非線形位相シフトに関係するものである。符号化器用NOLMにおいて、制御光は標本化された光波形信号(サンプルパルス列)である。この非線形位相シフトは制御光の時間平均パワー(NOLM内を制御光と逆方向に回るプローブ光がNOLMを一周する間に、すれちがった制御光の平均パワー)に依存する。逆伝搬効果は、制御光パルスのピークパワーに対する平均パワーの比(換言すれば、制御光のデューティ比)が小さいほど影響が少ない。逆伝搬効果に係る非線形位相シフトは、NOLMの伝達(応答)関数(たとえば、横軸に制御光のパワー(又はこれを位相量に換算した値)をとり、縦軸にNOLMの出力光パワー(又は符号化値)をとった入出力特性波形)を横軸方向にシフトさせる。したがって、デューティ比が大きくても、平均パワーが一定であれば、上記伝達関数が平均パワー0(換言すればデューティ比0)のときの特性から、一定量だけ横軸方向にシフトするだけであるので、このシフトを相殺するように、NOLM内に非相反位相差素子(optical bias controller, nonreciprocal phase shifter)を設けることで解決される(非特許文献3)。すなわち、NOLMを時計回りに進むプローブ光または反時計回りのプローブ光のいずれかに対して逆伝搬効果に係る非線形位相シフト(一定値)を相殺する位相シフトを導入すればよい。
【0008】
しかしながら、平均パワーが一定でない場合(時間変動する場合)は、平均パワーの変動によって逆伝搬効果による位相シフトの大きさも変動するため、対応できない。
【0009】
したがって、本発明の具体的な課題は、電気的な速度限界を超える光波形信号について電気回路側でその解析または計測が可能な光波形ディジタイザを提供するために、NOLM型光アナログ−ディジタル変換器を利用する場合において、逆伝搬効果の影響を排除しつつ、電気側での処理にも適した光波形ディジタイザを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態によれば、アナログの光信号波形をディジタル電気信号に変換する光波形ディジタイザにおいて、光標本化装置と光量子化・符号化装置を有するNOLM型光アナログ−ディジタル変換器と、上記光標本化装置と光量子化・符号化装置の間に結合される光シリアル−パラレル変換装置を具備したことを特徴とする光波形ディジタイザが提供される。
【0011】
この構成によれば、信号の繰り返し周波数が光シリアル−パラレル変換装置のパラレル出力数に応じて低下するため、電気回路側の処理速度に対応させることができる。また、標本化光アナログ信号のデューティ比もパラレル出力数に応じて低下するため、問題のない光AD変換が確保される。すなわち、標本化された光アナログ信号のデューティ比が比較的大きな場合でも、光シリアル−パラレル変換装置の作用により、デューティ比を小さくして光量子化・符号化器に入力することができる。換言すれば、光標本化装置に含まれる光パルス源(光サンプリング信号源)から発生する光サンプリングパルスの幅をデューティ比低減のために極端に狭くする負担が軽減される。つまり、簡単な構成で超短パルス幅の光パルス源を実現することは容易でないがこの問題がクリアされる。
【0012】
好ましくは、上記光シリアルーパラレル変換装置のパラレル出力は複数のチャンネル出力からなり、各チャンネル出力にNビットの光量子化・符号化器がそれぞれ結合し、全体として光量子化・符号化装置は複数のチャンネル出力を有する。
【0013】
好ましくは、光波形ディジタイザはさらに、上記光量子化・符号化装置の複数のチャンネル出力に結合される電気的な判定回路を備える。この種の判定回路の実現は容易であり、電気側の信号処理負担は少ない。
【0014】
好ましくは、上記光シリアル−パラレル変換装置から上記Nビットの光量子化・符号化器へ入力される標本化光信号のデューティ比が2−N−2以下である。
【0015】
好ましくは、上記光シリアル−パラレル変換装置から上記Nビットの光量子化・符号化器へ入力される標本化光信号について、その最大ピークパワーに対する平均パワーの比が2−N−2以下である。
【0016】
好ましくは、上記Nビットの光量子化・符号化器は、上記標本化光信号を光符号化するためにNOLM符号化器を備え、NOLM符号化器のループには所定の平均パワーによる逆伝搬位相シフトを相殺する非相反位相差素子が設けられる。
【0017】
入力であるアナログの光波形信号は連続通信で提供されてもよいし、間欠通信(例えばパケット通信)で提供されてもよい。
【0018】
本発明の別形態によれば、アナログの光信号波形をディジタル電気信号に変換する光波形ディジタイザにおいて、光標本化装置と光量子化・符号化装置を有するNOLM型光アナログ−ディジタル変換器と、上記光量子化・符号化装置の入力側又は出力側に設けられる光シリアルーパラレル変換装置と、上記光アナログ−ディジタル変換器の入力側に設けられる光増幅器とを備え、当該光増幅器は、当該光増幅器から出力されて上記光アナログ−ディジタル変換器に入力される光アナログ信号の時間平均パワーが常に略一定値で出力されるように制御する自動レベル制御(ALC)機能を有することを特徴とする光波形ディジタイザが提供される。
【0019】
この構成によれば、光シリアル−パラレル変換装置により信号の繰り返し周波数がパラレル出力数に応じて低下するため、当該信号の速度を電気回路側の処理速度に対応させることができる。また、標本化された光アナログ信号の平均パワーの変動が自動レベル制御機能により吸収され、光量子化・符号化装置には平均パワーが略一定の光アナログ標本化信号が供給されるため、問題のない光AD変換動作が確保される。
【0020】
好ましくは、波形復元を行う際に、上記光増幅器の入力される光アナログ信号の平均パワー変動を記録し用いる。
【0021】
好ましくは、上記光増幅器からNビットの上記光アナログ−ディジタル変換器へ入力される光アナログ信号のパワー変動係数が、2−N−2以下である。
【0022】
好ましくは、上記光シリアルーパラレル変換装置のパラレル出力は複数のチャンネル出力からなり、光波形ディジタイザの電気回路側には当該複数のチャンネル出力に係る信号を取り込む電気的な判定回路が設けられる。この種の判定回路の実現は容易であり、電気側の信号処理負担は少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0024】
図1に、本発明の一形態に係る光波形ディジタイザのブロック図を示す。パルス源10は光波形ディジタイザの処理対象であるアナログ光波形信号のサンプリング周波数を定めるパルス繰り返し周波数でパルス光(サンプリングパルス光)を繰り返し発生する。具体的実施例として、従来の電気的AD変換方式の限界(約100GHz)を超えた、160GHzのパルス源、又は640GHzのパルス源が使用された。標本化器20は、アナログの光波形信号とパルス源10からのサンプリングパルス光(optical sampling pulses)を受け、アナログ入力信号をサンプリングパルス光のタイミングで光標本化して、標本化光信号(sampled optical signal)を生成する。
【0025】
コンポーネント10と20により光アナログ−ディジタル変換器の標本化装置50が構成される。
【0026】
コンポーネント40は光アナログ−ディジタル変換器の光量子化・符号化装置である。光量子化・符号化装置はNOLM(非線形光ループミラー)を構成要素として使用し、標本化光信号を光符号化、光量子化して、アナログ光波形信号に対応するディジタルの光信号を発生する。
【0027】
したがって、コンポーネント10、20及び40によりNOLM型光アナログ−ディジタル変換器が構成される。
【0028】
本発明の形態に従い、光標本化装置50から出力される標本化光信号は直接、光量子化・符号化器に入力されるのではなく、光シリアル−パラレル変換装置30を介して入力される。すなわち、光標本化装置50と光量子化・符号化装置40の間に光シリアル−パラレル変換装置30が結合される。
【0029】
光シリアル−パラレル変換装置30は、OTDM(光時分割多重:詳細は例えば、非特許文献4参照)動作に従って、標本化器20からシリアルに供給される標本化光信号を複数のチャンネル出力に割り振る。変換装置30のパラレル出力数は、例えば、16(第1チャンネルから第16チャンネル出力)である。この場合、シリアルの標本化光信号であるパルス列の各パルスを時間軸に沿って、「1チャンネルパルス、2チャンネルパルス、・・・16チャンネルパルス、1チャンネルパルス(以下繰り返し)」と呼ぶと、1チャンネルパルスのタイミングでは、当該1チャンネルパルス(標本化光信号の1パルス)が光シリアル−パラレル変換装置30の第1チャンネル出力に出力され、同様にして、Xチャンネルパルスのタイミングでは光シリアル−パラレル変換装置30の第Xチャンネル出力に第Xチャンネルパルスが出力される。
【0030】
したがって、光シリアル−パラレル変換装置30により、入力側の標本化光信号のデューティ比は変換器30の出力側において、変換器30のパラレル出力数に応じて低下することになる。
【0031】
また、光シリアル−パラレル変換装置30の入力信号(シリアルの標本化光信号)のパルス繰り返し周波数に比べ、出力信号(各チャンネル出力信号)のパルス繰り返し周波数は、変換装置30のパラレル出力数に応じて低下する。パラレル出力数が16である具体的実施例の場合、各チャンネル出力信号のパルス繰り返し周波数は10GHz(光標本化装置50の標本化周波数が160GHzのとき)、または40GHz(光標本化装置50の標本化周波数が640GHzのとき)である。
【0032】
したがって、適当なパラレル出力数を有する光シリアル−パラレル変換装置30を図示のように、光標本化装置50と光量子化・符号化装置40の間に結合させることにより、光量子化・符号化装置40は十分に低いデューティ比の標本化光信号を受け、問題のない光符号化、光量子化を行うことができる、すなわち、NOLM型光アナログ−ディジタル変換器において問題のない光AD変換が行われると共に、電気側で処理可能な信号速度が実現される(光シリアル−パラレル実現機能)。
【0033】
なお、図1では光シリアル−パラレル変換装置30のパラレル出力数を16としているが、これは単なる例示であり、上記光シリアル−パラレル実現機能が果たされる限り、任意のパラレル出力数が使用できる。
【0034】
本発明の形態に従い、光量子化・符号化装置40は光シリアル−パラレル変換装置30のパラレル出力数に対応した個数の光量子化・符号化器42(図1の場合、16個のNビット光量子化・符号化器)を有し、光シリアル−パラレル変換装置30の各チャンネル出力にNビットの光量子化・符号化器42がそれぞれ結合される。各光量子化・符号化器42はNビットのチャンネル出力信号(Nビットで符号化したデジタルの光信号)を出力する。したがって、全体として、光量子化・符号化装置40からは、光シリアル−パラレル変換装置30のパラレル出力数に等しい個数のチャンネル(例えば16チャンネル分)のNビットチャンネル出力信号が出力される。
【0035】
光量子化・符号化装置40の出力(デジタル光信号)は、各チャンネルのビット毎に、図示しないO/E変換器を介して電気信号に変換され、電気側回路である、判定回路及び記憶部60に供給される。判定回路は16個のチャンネル判別回路から成り、各チャンネル判別回路は対応するチャンネルのNビット光量子化・符号化器42からのNビットを受け取る。チャンネル判別回路の各ビット判別回路は「1」か「0」かを判別する。判定回路からのデジタル信号はアナログ光波形信号のデジタル変換データとして記憶部に記憶される。
【0036】
計測等のために、波形復元及び表示部70が判定回路及び記憶部60に結合される。波形復元及び表示部70は判定回路及び記憶部60が読み取った光波形のデジタルデータから光波形を復元し、表示部(図示せず)に表示する。
【0037】
表1に、図1の方式による構成例を示す。
【0038】
【表1】


【0039】
表1において「制御光パルス」はNOLM型のNビット光量子化・符号化器42の符号化器(NOLMで構成される)に入力される標本化光信号である。「プローブ光」は当該符号化器(図3の100参照)に3dBカプラー(図3の110参照)を介して入力される信号である。
【0040】
図2に本発明の別形態に係る光波形ディジタイザのブロック図を示す。
【0041】
図2の構成は図1で述べたようなパルス源10、標本化器20、光シリアル−パラレル変換装置30、光量子化・符号化装置40、判定回路及び記憶部60,及び波形復元及び表示部70が図1の場合と同様に接続構成されている。
【0042】
図1の場合、光シリアル−パラレル変換装置30を光量子化・符号化装置40の前段に配置することで、光量子化・符号化装置40に入力される標本化光信号のデューティ比または平均パワーを低減させている。すなわち、光シリアル−パラレル変換装置30を標本化装置50と光量子化・符号化器40の間に結合することにより、標本化装置50と光量子化・符号化器40で構成されるNOLM型光アナログディジタル変換器において逆伝搬効果の影響を受けない光AD変換動作が行われるようにしている。
【0043】
これに対し、図2の光波形ディジタイザは、NOLM型光アナログディジタル変換器による確実な光AD変換動作を行わせるために、NOLM型光アナログディジタル変換器の入力側に、所定のALC機能を有する光増幅器80、すなわち、光増幅器80から出力されて光アナログ−ディジタル変換器に入力される光アナログ信号の時間平均パワーが常に略一定値で出力されるように制御する自動レベル制御(ALC)機能を有する光増幅器80が設けられる。このALC機能により、光アナログ−ディジタル変換器の構成要素の一つであるNOLM符号化器において、NOLM内を制御光と逆方向に回るプローブ光がNOLMを一周する間に、すれちがった制御光の平均パワーが常に略一定になる。
【0044】
この種のALC機能を搭載した光増幅器80をNOLM型光アナログディジタル変換器の入力側のアナログ波形信号路に結合させた場合、光シリアル−パラレル変換装置30と光量子化・符号化装置40の配置構成を次のように変更しても問題ない。すなわち、変更構成においては、光標本化装置50(正確には標本化器20)の出力に1個のNビット光量子化・符号化器で構成される光量子化・符号化装置が結合される。このNビット光量子化・符号化器のNビット出力ライン(MSBラインからLSBライン)のそれぞれに図示の光シリアル−パラレル変換装置30と同様な光シリアル−パラレル変換器が結合される。したがって、MSB用光シリアル−パラレル変換器からLSB用光シリアル−パラレル変換器まで、計N個のビット用光シリアル−パラレル変換器により光シリアル−パラレル変換装置が構成される。そして、各光シリアル−パラレル変換器は複数の(例えば16個)のチャンネル出力ラインを有し、各チャンネルタイミングで該当するビットをチャンネル出力ラインに出力する。さらに、N個のビット用シリアル−パラレル変換器の出力のうち、同一のチャンネルに属するNビットが判定回路及び記憶部60の該当するチャンネル判定回路に結合される。
【0045】
要するに、変更構成は、光量子化・符号化装置の後段(出力側)に光シリアルパラレル変換装置が結合する構成である。
【0046】
この変更構成の場合、光量子化・符号化装置は1個のNビット光量子化・符号化器で実現されるため、構成が簡単になる。
【0047】
なお、この変更構成の場合、光量子化・符号化器で使用されるNOLM符号化器(非線形光ループミラーで構成した符号化器)は、伝達関数が光アナログ信号の平均パワー(ALC機能により略一定値にコントロールされて光量子化・符号化器に入力される)に相当する分シフトするので、NOLMのループ上に当該シフトを相殺する非相反位相差素子(図示せず)を設ける。なお、非相反位相差素子は、ファラディ回転子と複屈折材料で構成される。
【0048】
ALC機能付光増幅器80について付言すると、光増幅器80のALC機能部はNOLM通過時間(ループ時間)内のパワー変動より速い応答速度を持つことが好ましい。また、ALC機能部は入力側の光アナログ信号の時間的な平均パワーの変動をモニターすることが好ましい。このモニタリングに関し、光増幅器80のALC機能部においてモニターされた入力光パワー情報(例えば、NOLM通過時間毎に求めたアナログ波形信号入力の平均パワーに関する情報)は波形復元及び表示部70に供給され、判定回路及び記憶部60から与えられたデジタルデータから光波形を復元する際に利用される(例えば、デジタルデータが示す値に入力光パワー情報が示す平均入力光パワーの値を乗じることにより光波形を復元する)。
【0049】
次に、NOLM型符号化器についてレビューする。図3にNOLM符号化器100のブロック図を示す。NOLM符号化器100において、プローブ信号と呼ばれる入力信号Pinは3dBカプラー110を介して2等分され、時計回りと反時計回りの信号に分かれて、NOLMのループ120を伝搬する。ループ120は出入り口を除けば、高非線形光ファイバ130で構成される。ループの出入り口にはWDMカプラー140が設けられ、このカプラー140を介して制御信号(ポンプ信号)Ppumpが入力される。図3の場合、入力された制御信号Ppumpは時計回りにループを伝搬する。したがって、時計回りのプローブ信号は、図示のように制御信号Ppumpと一緒に同じ方向でループを伝搬する共伝搬信号であり、反時計回りのプローブ信号は制御信号Ppumpと反対方向と逆方向に伝搬する逆伝搬信号である。なお、制御信号Ppumpは反時計回りにループ120を伝搬するようにしてもよく、その場合は、反時計回りのプローブ信号が共伝搬信号になり、時計回りのプローブ信号が逆伝搬信号になる。ループ120を一周した後、時計回りと反時計回りのプローブ信号は再び、ループ出入り口にある3dBカプラー110に至り、その出力ポートから出力信号Poutとして出力される。なお、出力ポートにはBPFすなわち帯域通過フィルタ150が設けられており、このフィルタ150により制御光Ppump等の不要な信号は除去される。
【0050】
図3に例示するようにNOLM符号化器では、制御信号Ppumpとして、アナログ光波形信号を標本化した標本化光信号を使用する。特に図1、図2に示す本発明の形態によれば、標本化器20からの標本化光信号そのものではなく、当該信号をシリアル−パラレル変換器30に通してデューティ比が低減された標本化光信号を使用する。なお、NOLM符号化器において、プローブ信号Pinは制御信号Ppumpと同期している。図3において、制御光Ppump、入力プローブ信号Pin、出力プローブ信号(NOLM符号化器100の出力信号)Poutのそれぞれについて、波形(パルス列)を例示している。λ1、λ2はそれぞれ、プローブ信号Pinの波長、制御光Ppumpの波長を表している。したがって、NOLM符号化器100の出力信号Poutの波長はλ1である。
【0051】
次に、NOLM型光量子化・符号化器について説明する。
【0052】
図4に。3ビットのNOLM型光量子化・符号化器の応答特性(伝達関数)を示す。具体的には、図4の(A)にMSB(最上位ビット)のNOLM符号化器の特性101とNOLM量子化器の特性201を、同様にして、(B)に第2ビットのNOLM符号化器の特性102とNOLM量子化器の特性202、(C)にLSB(最下位ビット)の符号化器の特性103とNOLM量子化器の特性203を示す。各特性図において、横軸は制御光Ppump(NOLM符号化器の場合、標本化光信号)のパワーを正規化して(すなわち、制御光の最大パワーPmaxを1として)表現したものである。縦軸はNOLMから出力される出力光パワーを正規化(出力の最大パワーを1とする)して表現したものである。図4の各符号化器の特性は、NOLM制御光のデューティ比を0としたときの特性である。なお、NOLM符号化器にはプローブ光として制御光(標本化光信号)に同期したパルス列を有する圧縮パルス光信号が使用される。また、NOLM量子化器には制御光として対応するNOLM符号化器の出力光が入力される。
【0053】
なお、3ビットのNOLM型光量子化・符号化器として、例えば、特許文献1の図8または図11に示す構成が使用可能である。
【0054】
NOLMのループ上を制御光パルスと一緒に同一方向に進む共伝搬(co-propagating)のプローブ光は、ループを一周する間に制御光パルスから相互非線形変調(XPM)を受け、位相シフト量θを発生する。したがって、NOLM制御光(標本化光信号)のデューディ比を無視すると、NOLMの入力光パワー(入力プローブ光パワー)と出力光パワー(出力プローブ光パワー)の比は、(1−cosθ)/2で与えられる。この共伝搬の位相シフトθはθ=2γLPで与えられる。ここに、γはNOLMのループを構成する非線形光ファイバ(例えば、図3の高非線形光ファイバ130)の非線形定数、Lはループ長、Pは制御光(標本化光信号)パルスのピークパワーである。
【0055】
図4に示す各NOLM符号化器の特性101、102、103は、(1−cosθ)/2に従っている。換言すれば、図4の特性はデューティ比を無視した理想的特性である。したがって、図4の横軸は位相シフト量θを表していると見ることもできる。特に、(A)に101で示すMSB用NOLM符号化器の特性は、すなわち、横軸の「0」(制御光パルスのパワーがゼロ)を「0」ラジアンの位相シフト、「1}(制御光パルスパワーの最大値Pmax)を「π」ラジアンの位相シフトと読み替えたものである。換言すれば、MSB用NOLM符号化器は、制御光パルスのパワーが最大値Pmaxのときに、πの位相シフト量が発生するように構成される。
【0056】
これに対し、(B)に示す1つ下位のビット用NOLM符号化器の特性102は制御光パルスパワーが最大値Pmaxの時に「π」の2倍である「2π」の位相シフトが発生するように構成され、さらに1つ下位のビット(ここではLSB)用NOLM符号化器の特性は、制御光パルスパワーが最大値Pmaxの時に「π」の4倍である「4π」の位相シフトが発生するように構成される。
【0057】
換言すると、MSB符号化器、第2ビット符号化器、LSB符号化器について、非線形位相シフトの比が1:2:4になっている。
【0058】
次に、NOLM符号化器の逆伝搬効果について説明する。NOLMに3dBカプラー(例えば、図3の110参照)を介して入力されたプローブ光(Pin)は、NOLMループ上を制御光と同一方向に進む共伝搬プローブ光とこれとは反対方向に伝搬するプローブ光に分かれる。後者のプローブ光は制御光(Ppump)と逆方向に伝搬する逆伝搬(counter-propagating)プローブ光である。この逆伝搬プローブ光は、ループ(120)を一周する間に多数の制御光パルスとすれ違う。その結果、ループを一周して3dBカプラー(110)に戻ったとき、逆伝搬プローブ光には、ループ(120)を一周する間にすれ違った多数の制御光パルスのパワーの時間平均値(平均パワー)Pavに比例する非線形位相シフトΔθが発生している。すなわち、Δθは平均パワーによる逆伝搬位相シフトであり、Δθ=2γLPavで与えられる。
【0059】
結果として、符号化器の特性は(1−cosθ)/2から(1−cos(θ-Δθ))/2にシフトする。
【0060】
ところで、制御光(標本化光信号)の平均パワーPavとピークパワーとデューティ比には所定の関係がある。制御光のデューティ比dは、ループ一周当たりの制御光パルスピークパワーの平均値(逆伝搬プローブ光がループを一周する間にすれ違った多数の制御光パルスのピークパワーの平均値、すなわち平均化した制御光パルスピークパワー)をPpとすると、d=Pav/Ppで定義することができる。デューティ比dを一定とすると、平均ピークパワーPpが変動すれば(例えば1/2になれば)、時間的な平均パワーPavも同様に変動する(例えば1/2になる)。一般に、Ppは制御光パルスパワーの最大値Pmax(図4の横軸の目盛り「1」に対応する値)よりは小さいが、説明の便宜上、逆伝搬効果のワーストケースを取り上げる。すなわち、Pp=Pmaxであるとして、逆伝搬プローブ光の位相シフトΔθが最大になるケース、すなわち逆伝搬効果が最大になるケースを取り上げる。よってPav=dPmaxである。この式は、デューティ比がdであるときに発生し得る平均パワーの最大値を表している。このとき、平均パワーによる逆伝搬位相シフトΔθ=2γLPav=2γLPmax×dである。MSB符号化器の場合、2γLPmax=πであるので、その逆伝搬位相シフトはΔθ=πdとなる。同様に、2番目の符号化器の場合、Δθ=2πd、LSB符号化器の場合、Δθ=4πdになる。これらの逆伝搬位相シフトΔθは、図4における横軸の「0」から「1」までのパワー定義域の幅1(なお、位相定義域幅は、MSB符号化器でπ、2番目のもので2π、LSB符号化器で4π)との比に換算するといずれもdである。要するに、ワーストケースでの逆伝搬効果シフト量は伝達関数定義域の大きさ「1}に対して「d」の大きさを有する
このデューティ比dを図4に例示する。この結果、符号化器の特性はMSB符号化器からLSB符号化器まで、いずれもdだけ横にシフトする。すなわち、理想特性である符号化特性101、102、103が、逆伝搬効果によりdだけ右にシフトした特性となる。
【0061】
結果として、逆伝搬効果があると、3ビットのNOLM型光量子化・符号化器全体の特性は、図5に実線300で示す理想特性(逆伝搬効果がないときの特性)から、破線310で示す特性に変化する。破線310は理想特性300から右にシフトしていることが分かる。なお、図5において、横軸は制御光の大きさ示し、0から7の数字はそれぞれ、制御光パワーの昇順に第1レベルから第8レベルの区間を示す。横軸は3ビットNOLM型光量子化・符号化器の出力信号(グレイ符号)値を示す。
【0062】
3ビットの符号化器の場合、LSBの幅は、符号化量子化特性図(図4)における横軸の「0」から「1」の定義域を8等分した値、すなわち1/2である。なお、d=0のとき、8等分した各区間での符号化・量子化結果(AD変換結果である3ビット)を横軸方向に読んでいくと、「000」、「001」、「011」、「010」、「110」、「111」、「101」、「100」のグレイ符号化になっていることが分かる。したがって、デューティ比dがこのLSB幅より十分小さければ、3ビットNOLM量子化・符号化器は実用上問題なく動作するとみてよい。
【0063】
デューティ比dがLSB幅より十分小さいことの目安として、LSB幅の「1/4」以下であることを使用すると、3ビット量子化・符号化器の場合、d≦1/2(3+2)となり、百分率で、デューティ比を3.1%程度以下にすればよいことがわかる。
【0064】
同様にして、NビットのNOLM量子化・符号化器の場合、デューティ比dを2−(N+2)以下にすればよい。例えば、4ビットであれば約1.6%以下にすればよい。
【0065】
なお、ワーストケースにおいて、デューティ比dと制御光の最大ピークパワーPmaxと逆伝搬プローブ光が受ける平均パワーPavとの間には、d=Pav/Pmaxの関係があるので、NビットのNOLM量子化・符号化器に関して、デューティ比dを2−(N+2)以下とする条件は、最大ピークパワーに対する平均パワーの比を2−(N+2)以下とする条件になる。すなわち、NビットのNOLM量子化・符号化器へ入力される標本化光信号について、その最大ピークパワーPmaxに対する平均パワーPavの比が2−(N+2)以下であれば、問題のない光AD変換が行われる
図1に関して述べたように、光シリアル−パラレル変換装置30を光標本化装置50と光量子化・符号化装置40の間に結合させることにより、光シリアル−パラレル変換装置30のパラレル出力数に応じて、光量子化符号化装置に入力される標本化光信号のデューティ比、または、その最大ピークパワーに対する平均パワーの比を上記の条件が満たされるように低下させることができる。
【0066】
なお、非相反位相差素子をNOLM符号化器(100)のループ(120)上に設けることにより、上記デューティ比の条件を緩和することができる。例えば、光量子化符号化装置に入力される標本化光信号のループ内平均パワーPavが最大ピークパワーPmaxの半分にデューティ比dを乗じた値であると想定し、この想定した所定値の平均パワーにおける逆伝搬効果の位相シフトΔθが完全に打ち消されるように設定した非相反位相差素子をNOLM符号化器のループ上に設ける。このようにすれば、動作において、平均パワーが最大ピークパワーにデューティ比dを乗じた値であるときに、NビットのNOLM量子化・符号化器の応答関数(図4、図5参照)は正のd/2(ただし、dはデューティ比である)だけシフト(右にシフト)し、平均パワーがゼロのときに、負のd/2だけシフト(左にシフト)することになる。この例のように、NOLM符号化器のループに所定の平均パワーによる逆伝搬位相シフトを相殺する非相反位相差素子を設けることにより、デューティ比の許容範囲を約2倍に拡大できる。例えば、3ビットNOLM符号化器についてデューティ比を非相反位相差素子がない場合の約3.1%から倍の約6.2%に緩和することができる。同様に、4ビット符号化器であれば、約3.1%にデューティ比の許容範囲が拡大される。例えば、図1、図2の構成において、非相反位相差素子をNOLM符号化器(100)のループ(120)上に設けることにより、上記デューティ比の許容範囲を約2倍に拡大することができる。
【0067】
図2の自動レベル制御(ALC)付光増幅器80が行う平均パワーの一定制御についても、デューティ比に関して述べた議論と同様な議論が適用できる。すなわち、光増幅器80からNビットのNOLM型光量子化・符号化器に入力される光アナログ信号のパワー変動係数は2−(N+2)以下であれば十分である。いま、光増幅器80のALC部が制御目標値とする平均パワー値をPaveとすると、この制御目標値Paveからのずれ量δPave(絶対値表記)がPaveに比べて十分小さければよい。このためには、パワー変動係数=δPave/Paveが1LSBの幅よりも十分に小さい値、例えば、δPave/Pave≦1/2(N+2)にすればよい。例えば、3ビットのNOLM型光量子化・符号化器の場合、パワー変動係数を3.1%程度以下にすればよい。4ビットであれば約1.6%以下にすればよい。
【0068】
なお、図1、図2の説明、または図3のNOLM符号化器100の説明に関して、入力信号として与えられるアナログの光波形信号は連続波であること、すなわち、連続通信を暗に想定したが、これには限られず、アナログの光波形信号が間欠的に与えられる場合にも本発明を適用できることは明らかである。すなわち、図1、図2の構成において、入力として与えられるアナログの光波形信号は、連続通信で提供されてもよいし、間欠通信で提供されてもよい。間欠的に光波形信号が与えられる間欠通信形態として例えば、パケット通信やバースト通信などがある。間欠的に光波形信号が入力される場合、その通信の前後では光波形信号が存在しないので、NOLM符号化器に制御光は入力されず、そのループ平均パワー(逆伝搬プローブ光がNOLMのループを一周する間にすれ違う制御光から受ける時間平均パワー値)はゼロである。間欠通信が開始するとNOLM符号化器のループ平均パワーは立ち上がり、終了すると、ループ平均パワーは時間の経過と共にゼロへと減衰する。
【0069】
いま、間欠通信時間をT(以下において、間欠通信をパケットということもある)、光のプローブ信号がNOLM符号化器(100)のループ(120)を1周する時間をτとする。NOLM符号化器(100)において、逆伝搬のプローブ光がループを一周する間にすれ違う制御光の時間範囲は2τである。なぜなら、3dBカプラーからループ内に入ったところ、すなわち高非線形光ファイバの始端(ループ始端)で逆伝搬プローブ光はその時点よりτの時間だけ前にWDMカプラーから入力された制御光とすれ違い、ループを一周してWDMカプラーを通過するところ、すなわち高非線形光ファイバの終端(ループ終端)で、当該逆伝搬プローブ光はτの時間だけ後の制御光とすれ違うからである。説明の便宜上、以下では2τをループ時間と呼ぶことにする。間欠通信時間すなわちパケット時間Tがループ時間2τよりも長いときは、間欠通信が開始すると、図6に示すように、ループ平均パワーPavはほぼ台形状の変動プロフィールをとる。すなわち、ループ平均パワーPavはループ時間2τを介して最大値にまで立ち上がり、その後、光波形信号の平均パワーがほぼ一定であれば、この最大値をほぼ一定に維持し、間欠通信が終了すると、ループ時間2τを介してゼロへと減衰する。
【0070】
一方、間欠通信時間Tがループ時間2τよりも短い場合には、図7に示すようにループ平均パワーPav(逆伝搬プローブ光がNOLMのループを一周する間にすれ違う制御光から受けるパワーの時間平均値)は、ほぼ台形状の変動プロフィールをとる。間欠通信が開始すると、ループ平均パワーPavはゼロから、通信時間Tを介して最大値に達する。このとき、最大値に係る逆伝搬プローブ光はパケットの全ての制御パルスとすれ違った最初の逆伝搬プローブ光である。逆伝搬プローブ光がパケットの全ての制御パルスとすれ違う状況をNOLM符号化器のループ上にパケットが存在する状態と呼ぶことにする。その後もループ時間2τが経過するまでは(Tから2τまでの期間は)NOLM符号化器のループ上にパケットが存在するのでこの値が保たれる、すなわち、ループ時間2τが経過するまでは、後続の逆伝搬プローブ光もループ上を伝搬する間にパケットの全ての制御パルスとすれ違う。その後、後続する逆伝搬プローブ光がループ上ですれ違う制御パルスはパケットの一部に係るもののみとなり、逆伝搬プローブ光が遭遇するパケット制御パルスの数は時間の経過に伴って減っていくため、再び通信時間Tを介してループ平均パワーはゼロへと減衰する。
【0071】
ところで、図1,図2等において連続波の制御光を想定して説明した際に、制御光のデューティ比をdとして説明したが、このデューティ比dは制御光(sampled optical pulses)に対応するサンプリング光(optical sampling pulses)のデューティ比に本質的に等しい。例えば、図1でいえば、パルス源(サンプリング光源)10から出力される、アナログ光波形信号を標本化するための信号(サンプリング信号)のデューティ比と。このサンプリング信号によって標本化された光波形信号(標本化器20から出力される標本化光信号)のデューティ比の最大値は基本的に等しい。したがって、図1において、標本化器20から光シリアル−パラレル変換装置30を介してNビット光量子化符号化器42に入力される標本化光信号(制御光)のデューティ比はパルス源からのパルス光のデューティ比を光シリアル−パラレル変換装置30の並列出力数で割った値(制御光に対応するサンプリング信号のデューティ比)に略等しい。換言すると、連続通信の場合、制御光のデューティ比はそのサンプリング信号のデューティ比dに等しい。
【0072】
一方、NOLM符号化器のループ上にパケット全体が納まる程度の長さの間欠通信の場合、すなわち、間欠通信の長さTがループ時間より短い場合(図7参照)、制御光のデューティ比をサンプリング信号のデューティ比とは別に定義することができる。そこで、以下の説明では、制御光のデューティ比をD、サンプリング信号のデューティ比をdとして説明する。
【0073】
図7において、ループ平均パワーPavが一定(最大)である間、そのパケットは全体が複数の制御光パルスのかたちでNOLM符号化器(100参照)のループ(120)上に存在していて、逆伝搬プローブ光はループ上でその全ての制御パルスとすれ違う。このときのループ平均パワーPav(逆伝搬プローブ光がNOLMのループを一周する間にすれ違う制御光から受けるパワーの時間平均値))は、「d×(T/2τ)×Pmax」以下であり、ワーストケース(全ての制御パルスのピークパワーが最大値のパワーPmaxになるケース)で等しくなる。ここに、dはサンプリング信号のデューティ比(または連続通信の場合の制御光のデューティ比)であり、PmaxはNOLM符号化器に入力可能な制御光パワー最大値(図4の横軸の「1」に対応する大きさ)である。一方、連続通信の場合(ループ時間2τより長い間欠通信の場合も同様である)、ループ平均パワーPavは、上述したように「d×Pmax」以下である。2τ以下の間欠通信におけるワーストケースのループ平均パワー「d×(T/2τ)×Pmax」と連続通信におけるワーストケースのループ平均パワー「d×Pmax」との比較から、ループ時間2τより短い間欠通信における制御光のデューティ比DはD=d×(T/2τ)として定義することができる。制御光のデューティ比Dの許容範囲は図4に関連して述べた議論がそのまま(図4に関して述べた「デューティ比d」を「デューティ比D」と読み替えて)適用できる。したがって、制御光のデューティ比Dの許容範囲はNビットのNOLM型光AD変換の場合で、2−N−2以下であればよい。ループ時間より短い間欠通信の場合、(T/2τ)が1より小さくなることから、サンプリング信号のデューティ比dの許容範囲が連続通信の場合より緩和されることが分かる。
【0074】
なお、NOLMループ上にk個のパケット(間欠通信)が存在する場合、ループ平均パワーが取り得る最大値、すなわちワーストケースのループ平均パワーは「k×d×(T/2τ)×Pmax」となるので、制御光のデューティ比Dをk×d×(T/2τ)で定義することができる。この場合も、k×(T/2τ)は1より小さい。なぜなら、逆伝搬プローブ光が2τの時間範囲の制御光を観察する間に、すなわちループ(120)を一周する間に、k個のパケットと遭遇するとき、パケット間には制御光パルスの存在しない空白時間帯があることから、k個のパケットの通信時間k×Tは2τより明らかに短い。したがって、NOLMループ上にk個のパケット(間欠通信)が存在する場合も、サンプリング信号のデューティ比dの許容範囲が連続通信の場合より緩和されることが分かる。
【0075】
まとめると、制御光のデューティ比Dは、ループ時間フレーム2τの中に制御光空白時間帯(その長さをsとする)がない(s=0)場合、例えば連続通信の場合、サンプリング信号のデューティ比dで与えられる。パケット時間が2τより短い間欠通信では、ループ時間フレーム2τの中に制御光空白時間帯が存在し、このとき、制御光のデューティ比Dはサンプリング信号のデューティ比dに(2τ−s)/2τを乗じた値で与えられる。いずれにしても、制御光のデューティ比をNビットのNOLM型光AD変換器のLSB幅である1/2より十分に小さくすれば、例えば、1/(2(N+2))以下にすれば、問題のない光AD変換が行われる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明により、電子デバイスの速度限界以上の光波形信号についてそのデジタル信号処理が可能となる。例えば、超高速光信号波形のリアルタイム観測や、多値変調された光信号の復調に必要な様々な信号処理を行うことが可能となる。本発明の光波形ディジタイザは、超高速の波形計測という新たな地平を切り開くものであり、産業上の利用可能性が広範に期待される。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一形態に基づいた光波形ディジタイザのブロック図である。
【図2】本発明の別形態に基づいた光波形ディジタイザのブロック図である。
【図3】NOLM符号化器のブロック図である。
【図4】NOLM型量子化・符号化器の逆伝搬効果を説明する特性図である。
【図5】NOLM型量子化・符号化器の逆伝搬効果を説明する特性図である。
【図6】間欠通信におけるNOLM符号化器のループ平均パワーの時間経過を示す図である。
【図7】間欠通信におけるNOLM符号化器のループ平均パワーの時間経過を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
10:パルス源
20:標本化器
30:光シリアル−パラレル変換装置
40:光量子化・符号化装置
50:光標本化装置
60:判定及び記憶部
70:波形復元及び表示部
80:ALC機能付光増幅器
100:NOLM符号化器
120:ループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログの光信号波形をディジタル電気信号に変換する光波形ディジタイザにおいて、光標本化装置と光量子化・符号化装置を有するNOLM型光アナログ−ディジタル変換器と、上記光標本化装置と光量子化・符号化装置の間に結合される光シリアル−パラレル変換装置を具備したことを特徴とする光波形ディジタイザ。
【請求項2】
上記光シリアルーパラレル変換装置のパラレル出力は複数のチャンネル出力からなり、各チャンネル出力にNビットの光量子化・符号化器がそれぞれ結合し、全体として光量子化・符号化装置は複数のチャンネル出力を有することを特徴とする請求項1記載の光波形ディジタイザ。
【請求項3】
さらに、上記光量子化・符号化装置の複数のチャンネル出力に結合される電気的な判定回路を備えることを特徴とする請求項2記載の光波形ディジタイザ。
【請求項4】
上記光シリアル−パラレル変換装置から上記Nビットの光量子化・符号化器へ入力される標本化光信号のデューティ比が2−N−2以下であることを特徴とする請求項2記載の光波形ディジタイザ。
【請求項5】
上記光シリアル−パラレル変換装置から上記Nビットの光量子化・符号化器へ入力される標本化光信号について、その最大ピークパワーに対する平均パワーの比が2−N−2以下であることを特徴とする請求項2記載の光波形ディジタイザ。
【請求項6】
上記Nビットの光量子化・符号化器は、上記標本化光信号を光符号化するためにNOLM符号化器を備え、NOLM符号化器のループには所定の平均パワーによる逆伝搬位相シフトを相殺する非相反位相差素子が設けられることを特徴とする請求項2記載の光波形ディジタイザ。
【請求項7】
上記アナログの光信号波形は連続通信で提供されることを特徴とする請求項1記載の光波形ディジタイザ。
【請求項8】
上記アナログの光信号波形は間欠通信で提供されることを特徴とする請求項1記載の光波形ディジタイザ。
【請求項9】
アナログの光信号波形を表す光アナログ信号をディジタル電気信号に変換する光波形ディジタイザにおいて、光標本化装置と光量子化・符号化装置を有するNOLM型光アナログ−ディジタル変換器と、上記光量子化・符号化装置の入力側又は出力側に設けられる光シリアルーパラレル変換装置と、上記光アナログ−ディジタル変換器の入力側に設けられる光増幅器とを備え、当該光増幅器は、当該光増幅器から出力されて上記光アナログ−ディジタル変換器に入力される光アナログ信号の時間平均パワーが常に略一定値で出力されるように制御する自動レベル制御(ALC)機能を有することを特徴とする光波形ディジタイザ。
【請求項10】
波形復元を行う際に、上記光増幅器へ入力される光アナログ信号の平均パワー変動を記録し用いることを特徴とする請求項9記載の光波形ディジタイザ。
【請求項11】
上記光増幅器からNビットの上記光アナログ−ディジタル変換器へ入力される光アナログ信号のパワー変動係数が、2−N−2以下であることを特徴とする請求項9記載の光波形ディジタイザ。
【請求項12】
上記光シリアルーパラレル変換装置のパラレル出力は複数のチャンネル出力からなり、光波形ディジタイザの電気回路側には当該複数のチャンネル出力に係る信号を取り込む電気的な判定回路が設けられることを特徴とする請求項9記載の光波形ディジタイザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−185867(P2008−185867A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20538(P2007−20538)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】