説明

光波距離計

【課題】 遠距離測定の際に太陽光等による強い外乱を受けた場合にも、測定値がばらついたり、測定不能になったりしないようにしたノンプリズム型の光波距離計を提供する。
【解決手段】 基準信号(K)を発生させる基準信号発振器(24)と、基準信号を基に変調された測距光(L)を出射する発光素子(1)と、測定対象物(5)で反射してきた測距光を受光して測距光を測距信号(M)に変換するAPD(6)と、基準信号と測距信号の位相差から距離を算出する演算制御部(36)とを備えた光波距離計において、APDのバイアス電圧を与える逆電圧回路(38)を備え、演算制御部は太陽光(52)等による外乱光に応じてAPDの出力のS/Nが最大になるように逆電圧回路の出力電圧を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光波距離計に関し、さらに詳細には、屋外測定で太陽光等の強い外乱光を受けた場合でも、測距値がばらつかないようにしたり、測定不能にならないようにしたノンプリズム型の光波距離計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光波距離計の光学系を図5により説明する(下記特許文献1)。従来の光波距離計15は、発光素子1から出射された距離測定用光束Lは、送光光学系12の第1分割プリズム2で2分割され、一方は測距光Lとなり、他方は参照光Lとなる。測距光Lは、第1分割プリズム2の直角ミラーを透過し、直角ミラー3で反射され、対物レンズ4を経て測点に向けて送光される。
【0003】
測距光Lは、測点に設置されたプリズム等の距離測定対象物50(図6参照、以下、単に測定対象物という。)で反射され、対物レンズ4を経て、受光光学系13の直角ミラー3で反射されて受光素子6に入射する。受光光学系13においては、直角ミラー3と受光素子6との間に光量減衰器7、バンドパスフィルタ14が配置される。
【0004】
参照光Lは、第1及び第2のリレーレンズ8、9及び受光光学系13の第2分割プリズム5を経て受光素子6に入射する。距離測定の際には、遮光板10を移動させることによって、測距光Lと参照光Lを切換え可能にしている。
【0005】
従来の光波距離計のブロック図を図6に示す。発光素子1の駆動回路20は、基準発振器24に接続された変調器22に接続されており、駆動回路20へ送られる搬送波を基準信号Kで変調している。これにより、測距光Lは基準信号Kで変調される。受光素子6の出力信号は、測距信号Mとなるが、前置増幅器26、周波数変換器28によって周波数を下げて中間周波数に周波数変換される。周波数変換器28は、前置増幅器(高周波増幅器)26からの出力信号と局部発振器30からの局部信号とを混合器32で混合することによって、周波数を下げるのである。周波数変換された測距信号Mは、中間周波増幅器34を経て演算制御部36へ入力される。
【0006】
演算制御部36には、基準信号Kと中間周波数に周波数変換された測距信号Mが入力され、両者K、Mの位相差から距離が算出される。距離測定の際には、測距光Lと参照光Lとを交互に切換えて受光素子6に入射させて距離測定を行い、光波距離計に固有の測定誤差を補正している。
【0007】
ところで、受光素子6には、高感度なAPD(アバランシェホトダイオード)が使用される。APDとは、図7に示したように、バイアス電圧の逆方向電圧が小さいときは、光照射量に応じた出力電流があるが、光照射がない場合でも暗電流Idと呼ぶ僅かな出力電流がある。逆方向電圧を徐々に大きくしていくと、ある電圧で突然急激に暗電流Idが増加し始める。この暗電流Idが突然増加する電圧をブレークダウン電圧Vbと呼ぶ。一方、光照射の有る場合の出力電流Iは、ブレークダウン電圧Vbよりやや小さい逆方向電圧から急激に増加し始める。この出力電流Iが急激に増加し始める領域をアバランシェ領域Aと呼ぶ。
【0008】
APDの出力電流Iをアバランシェ領域A以下の逆方向電圧のときの出力電流I0で割った値を増倍率と呼ぶ。逆方向電圧がアバランシェ領域Aであると、APDの増倍率は非常に大きな値になる。そこで、逆電圧回路38によってAPDにアバランシェ領域Aの逆方向電圧をバイアス電圧として使用すると、僅かな光でも大きな光電流を得ることができて、高感度な光検出が可能となる。
【0009】
【特許文献1】特開平8−68852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記従来の光波距離計では、入射光線を再帰反射するプリズムを測点に設置した場合、太陽54から放射される太陽光52等の外乱光は元の方向へ反射され、測距光Lだけ光波距離計側へ反射されて受光素子6へ入射するので、測定値がばらつかず、高精度な測定ができる。しかし、プリズムを用いず、測定対象物50自体で反射された測距光Lを用いて遠距離測定をしようとすると、外乱となる強い太陽光52が測定対象物50で反射されて受光素子6へ入射することがある。これに対して、測定対象物50で反射されて受光素子6へ入射する測距光Lは極めて微弱となる。このため、ノンプリズム型の光波距離計では、遠距離測定の際には太陽光52等の強い外乱光によって、測定値のばらつきが大きくなったり、測定不能になったりするという問題があった。
【0011】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、遠距離測定の際に太陽光等の強い外乱光を受けた場合にも、測定値がばらついたり、測定不能になったりするということがないようにしたノンプリズム型の光波距離計を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、測距光を出射する光源と、測定対象物で反射してきた測距光を受光して測距光を測距信号に変換するAPDと、前記測距信号から距離を算出する演算制御部とを備えた光波距離計において、前記APDのバイアス電圧を与える逆電圧回路を備え、前記演算制御部は外乱光の強さに応じて前記APDの出力のS/Nが最大になるように前記逆電圧回路の出力電圧を制御することを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明は、測距光を出射する光源と、測定対象物で反射してきた測距光を受光して測距光を測距信号に変換するAPDと、前記測距信号から距離を算出する演算制御部とを備えた光波距離計において、前記APDのバイアス電圧を与える逆電圧回路を備え、前記演算制御部は測定距離に応じて前記逆電圧回路の出力電圧を制御することを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、前記測距信号を増幅する増幅器を備え、前記演算制御部は所定レベルの測距信号が得られるように前記増幅器の増幅度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明の光波距離計によれば、太陽等の外乱光の強さに応じてAPDの出力のS/Nが最大になるように前記逆電圧回路の出力電圧を制御するから、太陽光等の外乱光の影響を受け難くなって、測定値がばらついたり、測定不能になったりすることが起き難くなる。
【0016】
請求項2に係る発明の光波距離計によれば、APDのバイアス電圧を与える逆電圧回路を備え、演算制御部は測定距離に応じて前記逆電圧回路の出力電圧を制御するから、測距信号レベルが小さい遠距離測定においては、バイアス電圧を小さくして、APDの増倍率を低くすることによって、太陽光等の外乱光の影響を受け難くなって、測定値がばらついたり、測定不能になったりすることが起き難くなる。外乱光に対して測距信号レベルが大きい近距離測定においては、バイアス電圧を大きくし、APDの増倍率を高くして、いっそう測定値のばらつきを防止しながら高精度な測定が可能になる。
【0017】
請求項3に係る発明の光波距離計によれば、さらに、測距信号を増幅する増幅器を備え、演算制御部は所定レベルの測距信号が得られるように前記増幅器の増幅度を制御するから、いっそう測定値がばらつかず、高精度な測定が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の第1の実施例に係る光波距離計について、添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、この光波距離計のブロック図である。図2は、APDにおいて、太陽光の強さと増倍率とノイズとの関係を説明する図である。図3は、APDの逆方向バイアス電圧と増倍率の関係を説明する図である。
【0019】
この光波距離計は、従来の光波距離計では受光素子6に固定バイアスが与えられていたのに対して、図1に示したように、演算制御部36によって、APDの受光素子6(以下、APDと記載する。)にバイアス電圧を与える逆電圧回路38の出力電圧を制御するとともに、APD6の増倍率に応じて中間周波増幅器34の増幅度を制御している。これ以外は、従来の光波距離計と略同じであるから、従来と同じ部分の説明は省略する。
【0020】
ところで、APD6の出力には、図2の(A)及び(B)に示したように、ショットノイズ40と熱ノイズ42とが含まれる。ショットノイズ40とは、APD6内の電子と正孔のランダムな運動によって生じるもので、APD6の出力電流に応じて増大する。このため、ショットノイズ40は、増倍率が小さいときはほとんど無いが、増倍率が所定値を超えると急増する。熱ノイズ42は、抵抗内部のランダムな電子の熱運動によって生じるもので、温度とともに増大するものである。このため、熱ノイズ42は、増倍率に関係なく、温度で定まる一定の値となる。ショットノイズ40と熱ノイズ42とを合わせた合成ノイズ44は、増倍率の低い領域では熱ノイズ42に略等しいが、増倍率の急増するアバランシェ領域Aでは、ショットノイズ40に対応して急増する。
【0021】
また、図2の(A)及び(B)から分かるように、APDの出力信号46は増倍率に指数的に比例して増加する。なお、APD6の出力は、対数で表示している。出力信号46と合成ノイズ44との差α、βが、それぞれ最大となる増倍率A、Aのときに、S/N(信号とノイズの比)が最大となる。APD6は、S/Nが最大となる増倍率A、Aが得られるように逆方向のバイアス電圧をかけて使用することが望ましい。
【0022】
ここで、図2の(A)は太陽光が弱い場合であり、図2の(B)は太陽光が強い場合である。太陽光が強い場合は、太陽光が弱い場合に比べてショットノイズ40が左方に移動する。このため、太陽光が強い場合ほどS/Nが最大となる増倍率A、Aが小さくなる。ノイズに強くするためには、演算制御部36からの指令を逆電圧回路38へ送って、S/Nが最大となる増倍率A、Aとなるようにバイアス電圧を逆電圧回路38に発生させればよい。
【0023】
APD6の増倍率は、図3に示したように、逆方向バイアス電圧がブレークダウン電圧Vbに近づくと急激に増加する。そこで、プリズムを用いない場合は、測定距離に関係なく、太陽光が弱い場合は、逆方向バイアス電圧をアバランシェ領域A内でブレークダウン電圧Vbよりも低いVにして、適切な増倍率Aにする。太陽光が強い場合は、逆方向バイアス電圧をアバランシェ領域A内でVよりも低いVにして、さらに増倍率Aに下げる。
【0024】
APD6の増倍率を変えるには、演算制御部36が、図示しない照度計による測定値か、作業者による手動スイッチ操作に基づいて、太陽光の強さを判断して、太陽光の強さに応じて逆方向バイアス電圧V、Vを逆電圧回路38に発生させる。さらに、演算制御部36は、連続して測距を行える設定で測定距離のばらつき(分散)を算出し、ばらつきが仕様範囲を越える場合には、ばらつきが仕様範囲内に入るまで逆方向バイアス電圧V、Vを変化させる。
【0025】
ところで、APD6の増倍率が変化すると、中間周波増幅器34から演算制御部36へ入力される測距信号Mのレベルも変化してしまう。測距信号Mのレベルが変化すると測定値に誤差が出易くなる。そこで、演算制御部36へ入力される測距信号Mが常に略一定レベルとなるように、APD6の増倍率に応じて、演算制御部36から中間周波増幅器34へ指令を送って、中間周波増幅器34の増幅度を制御する。このため、APD6のバイアス電圧V1、Vの各段階ごとに中間周波増幅器34の増幅度も決めておき、演算制御部36によって、APD6の増倍率と中間周波増幅器34の増幅度を同時に制御する。
【0026】
本実施例によれば、太陽光52等の外乱光の強さに応じてAPD6の出力のS/Nが最大になるように逆電圧回路38の出力電圧を制御するから、太陽光52等の外乱光を受け難くし、測定値がばらついたり、測定不能になったりということがない。また、演算制御部36へ入力される測距信号Mが常に略一定レベルとなるように、APD6の増倍率に応じて中間周波増幅器34の増幅度を制御するから、高精度な測定が可能になる。
【0027】
次に、本発明の第2の実施例に係る光波距離計について説明する。この光波距離計は、前記第1の実施例とは、APD6へのバイアス電圧の与え方が異なるだけで、その他は略同じである。
【0028】
本実施例では、バイアス電圧をアバランシェ領域A内で測定距離に応じて変化させる。具体的には、図4に示したように、プリズムを用いた測定の場合、ADR6の出力信号に対して太陽光による外乱を無視して、バイアス電圧Rvをブレークダウン電圧Vbに近いV’とし、増倍率を最大に固定する。プリズムを用いない近距離範囲Rの測定の場合、太陽光による外乱が少しあるとして、バイアス電圧RvをV’よりも低いV’にし、増倍率を下げる。中距離範囲Rの測定の場合、太陽光による外乱が中程度として、バイアス電圧RvをV’よりも低いV’にし、増倍率をさらに下げる。遠距離範囲Rの測定の場合、太陽光による外乱が大きいとして、バイアス電圧RvをV’よりも低いV’にし、増倍率をさらに下げる。
【0029】
測定に際しては、APD6のバイアス電圧Rvの初期値は、例えば、測定距離が中距離範囲Rの場合のVに設定しておく。ここで、演算制御部36は、入力された測距信号Mのレベルに応じて、プリズムを用いた近距離範囲Rか、プリズムを用いない近距離範囲Rか、中距離範囲Rか、遠距離範囲Rかを判断して、APD6のバイアス電圧Rvと中間周波増幅器34の増幅度を決定する。または、演算制御部36は、最初に短時間の予備測定を行って得た距離と測距信号Mのレベルに応じて、APD6のバイアス電圧Rvと中間周波増幅器34の増幅度を決定してもよい。
【0030】
本実施例によれば、プリズムを用いない近距離範囲Rの測定おいては、太陽光52による外乱をいくらか受けるので、APD6の増倍率を下げ、太陽光52による外乱を受け難くして、測定値のばらつきを防止しながら測定距離を延ばすことができる。さらに、測距信号Mのレベルが小さい遠距離範囲R、Rの測定においては、APD6の増倍率をさらに低くし、太陽光52による外乱をさらに受け難くして、測定値のばらつきを防止できる。このように、本実施例においては、どのような測定距離でも測定値のばらつきを防止しながら高精度な測定ができる。
【0031】
ところで、本発明は、前記両実施例に限るものではなく、種々の変形が可能である。たとえば、前記両実施例ではバイアス電圧を段階的に制御したが、バイアス電圧は連続的に変化させてもよい。
【0032】
また、前記実施例では中間周波増幅器34の増幅度をAPD6のバイアス電圧に応じて予め定めておいたが、中間周波増幅器34については出力が略一定となるような従来周知の自動利得制御を行うようにしてもよい。
さらに、前記実施例では、一定の測距信号Mのレベルを保つため、APD6の増倍率に応じて中間周波増幅器34の増幅度を制御したが、中間周波増幅器34の代わりに前置増幅器26の増幅度を制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施例に係る光波距離計のブロック図である。
【図2】APDにおいて太陽光の強さと増倍率とノイズとの関係を説明する図である。
【図3】前記APDのバイアス電圧の与え方を説明する図である。
【図4】本発明の第2実施例に係る光波距離計において、APDのバイアス電圧の与え方を説明する図である。
【図5】従来の光波距離計の光学系を説明する図である。
【図6】従来の光波距離計のブロック図である。
【図7】APDの特性を説明する図である。
【符号の説明】
【0034】
1 発光素子(光源)
6 受光素子(APD)
20 駆動回路
22 変調器
24 基準信号発振器
26 前置増幅器(増幅器)
28 周波数変換器
30 局部発振器
32 混合器
34 中間周波増幅器(増幅器)
36 演算制御部
38 逆電圧回路
50 測定対象物
52 太陽光(外乱光)
54 太陽
K 基準信号
測距光
M 測距信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距光を出射する光源と、測定対象物で反射してきた測距光を受光して測距光を測距信号に変換するAPDと、前記測距信号から距離を算出する演算制御部とを備えた光波距離計において、
前記APDのバイアス電圧を与える逆電圧回路を備え、前記演算制御部は外乱光の強さに応じて前記APDの出力のS/Nが最大になるように前記逆電圧回路の出力電圧を制御することを特徴とする光波距離計。
【請求項2】
測距光を出射する光源と、測定対象物で反射してきた測距光を受光して測距光を測距信号に変換するAPDと、前記測距信号から距離を算出する演算制御部とを備えた光波距離計において、
前記APDのバイアス電圧を与える逆電圧回路を備え、前記演算制御部は測定距離に応じて前記逆電圧回路の出力電圧を制御することを特徴とする光波距離計。
【請求項3】
前記測距信号を増幅する増幅器を備え、前記演算制御部は所定レベルの測距信号が得られるように前記増幅器の増幅度を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の光波距離計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−286669(P2008−286669A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−132627(P2007−132627)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000148623)株式会社 ソキア・トプコン (114)
【Fターム(参考)】