説明

光渦レーザービーム発振装置及び発振方法

【課題】より小型化が可能な光渦レーザー発振装置及び光渦レーザー発振方法を提供する。
【解決手段】本発明の一観点に係る光渦レーザー発振装置は、固体レーザー媒質と、固体レーザー媒質に光を供給する光源と、固体レーザー媒質と前記光源との間に配置される集束レンズと、固体レーザー媒質を中心に等距離に配置される反射ミラー及び出力ミラーと、を有する。また本発明の一観点に係る光渦レーザー発振方法は、光源から励起光を固体レーザー媒質に照射して光を励起し、固体レーザー媒質が励起した光を、固体レーザー媒質を中心に等距離に配置される反射ミラー及び出力ミラーで共振させて発振する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光渦レーザービーム発振装置及び発振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光渦レーザービームは、光マニピュレーションや原子トラップ等に応用が可能であり、新しい光学技術分野への応用が期待されている。
【0003】
上記光渦レーザービームを発生させる方法及び発振装置の公知な技術として、例えば下記特許文献1に記載がある。下記特許文献1に記載の技術は、半導体レーザー、レーザー結晶、シリンドリカルレンズ、反射ミラー及び出力ミラーを有して構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開20080−193066
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、レーザー結晶からみて長い共振器長が必要で、装置体積が大きくなってしまうという課題がある。特に、レーザー結晶内の利得分布が光軸断面内でアスペクト比1:1ではないため、光渦に発生する非点収差を補正するためのシリンドリカルレンズを設ける必要があるといった課題がある。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決し、より小型化が可能な光渦レーザー発振装置及び光渦レーザー発振方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第一の手段に係る光渦レーザー発振装置は、固体レーザー媒質と、固体レーザー媒質に光を供給する光源と、固体レーザー媒質と光源との間に配置される集束レンズと、固体レーザー媒質を中心に等距離に配置される反射ミラー及び出力ミラーと、を有する。
【0008】
また、上記課題を解決するための第二の手段に係る光渦レーザー発振方法は、光源から励起光を固体レーザー媒質に照射して光を励起し、固体レーザー媒質が励起した光を、固体レーザー媒質を中心に等距離に配置される反射ミラー及び出力ミラーで共振させて発振する。
【発明の効果】
【0009】
以上、本発明によって、より小型化が可能な光渦レーザー発振装置及び光渦レーザー発振方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係る光渦レーザー発振装置の構成の概略を示す図である。
【図2】実施例に係る光渦レーザー発振装置の出力の結果を示す図である。
【図3】実施例に係る光渦レーザー発振装置のビーム形状を示す図である。
【図4】比較例に係る光渦レーザー発振装置のビーム形状を示す図である。
【図5】実施例に係る光渦レーザー発振装置のビーム形状の変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書においては同一又は同様の機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0012】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る光渦レーザー発振装置(以下「本装置」という。)1は、固体レーザー媒質3と、固体レーザー媒質に励起光71を供給する光源2と、固体レーザー媒質3と光源2との間に配置される集束レンズ4と、固体レーザー媒質3を中心に等距離に配置される反射ミラー5及び出力ミラー6と、を有する。
【0013】
本実施形態において固体レーザー媒質3は、光源2からの光を受け、新たに光72を励起することのできるものである。この励起された光が上記反射ミラー5及び出力ミラー6の反射、透過を介して本装置1の外部に出力されることとなる。
【0014】
固体レーザー媒質3は、上記の機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えばNdを1at%以上でドープされているNd:YVO(Nd:はNdがドープされていることを意味する)、Nd:YAG、Nd:GdVO、Nd:LuVO、Nd:Gd1−xVO4等を好適に用いることができる。なおNdの代わりにYb、Tm又はHoをドープしても良い。
【0015】
本実施形態において、光源2は、固体レーザー媒質3に入射するための励起光71を発することができるものである。光源2としては、固体レーザー媒質によって光が励起できる限りにおいて限定されるわけではないが、レーザーダイオードであることは好ましい一例である。
【0016】
本実施形態において、集束レンズ4は、光源2が発した励起光71を集光するために用いられるものである。焦点Fを形成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、集束レンズ4としては、例えばシリンドリカルレンズは好ましい一例である。
【0017】
また、本実施形態では、集束レンズ4が形成する光71の焦点Fが、固体レーザー媒質3の側面からずれた位置となっている、すなわち側面31上に焦点を形成しないことが特徴の一つとなっている。焦点Fの位置は、固体レーザー媒質3の側面より光源2から離れた側に配置しても良いが、光源2に近い側に配置することがより好ましい。ここで「側面」は、固体レーザー媒質の一面であって、光源からの光が供給される面をいい、励起された光のうち反射ミラー5及び出力ミラー6によって反射された光72が反射する面でもある。なお「表面32」とは、反射ミラー5及び出力ミラー6から光が入射される面をいい、側面31と接した面である。
【0018】
なお、本実施形態において、焦点Fをずらす量としては、固体レーザー媒質3に光を励起させ、本装置が光渦レーザーを発振させることができる程度であれば適宜調整可能であり限定されるわけではないが、例えば、集束レンズ4の焦点距離を1とした場合、焦点を固体レーザー媒質側面よりも光源側にするときは、光源と固体レーザー媒質側面までの距離を1.2以上2.0以下の範囲としておくことが好ましく、1.3以上1.8以下の範囲とすることがより好ましい。また、焦点Fを固体レーザー媒質側面よりも光源から離れる側に配置するときは0.3以上0.8以下の範囲とすることが好ましい。
【0019】
本実施形態は、焦点位置を側面から外すこと、好ましくは上記範囲とすることで、一対のミラーで固体レーザー媒質3を挟み、固体レーザー媒質の反射を介して光を増幅するいわゆるバウンス増幅器内において、従来、バウンス増幅器内で生じていた急な熱レンズ効果の温度勾配を緩やかにして、二次関数から大きくずれた分布を抑えることが可能となり、シリンドリカルレンズの配置が不要となり、コンパクト化を図ることができるようになる。すなわち従来は、焦点位置を側面近傍に形成することで結晶中の大きな熱レンズ効果を得ることができると考えられていたが、結晶中に存在することとなる温度勾配が余りに急激なものとなっており、シリンドリカルレンズ等の音響光学素子を用いて補正せざるを得なかった。これに対し、本装置では、あえて焦点位置を固体レーザー媒質の側面から外すことで、温度勾配がゆるやかになるものの光渦レーザーを発生させることが可能であり、シリンドリカルレンズ等の素子を配置しなくても十分に光渦レーザーを発生させることができる点を発見し、実現されたものである。
【0020】
本実施形態において、反射ミラー5は、固体レーザー媒質3によって励起された光72を固体レーザー媒質3側に反射させることができるものであり、この限りにおいて限定されるわけではなく、全反射の平面のミラーであることは好ましい。
【0021】
本実施形態において、出力ミラー6は、固体レーザー媒質3によって励起された光の一部を固体レーザー媒質側に反射させ、一方を装置外部に出ることができるものであり、この限りにおいて限定されるわけではなく、60%以上90%以下程度の反射率を有する平面のミラーであることは好ましい。
【0022】
また本実施形態において、反射ミラー5及び出力ミラー6は、固体レーザー媒質3に対して等距離に配置(対称に配置)されており、反射ミラーと前記レーザー媒質の間、出力ミラーと固体レーザー媒質の間に、シリンドリカルレンズを配置していない。上記公知の光渦レーザー発振装置では、シリンドリカルレンズを配置する必要があるが、本実施形態に係る光渦レーザー発振装置は、シリンドリカルレンズ等の音響光学素子を配置する必要がなくなり、反射ミラー5及び出力ミラーを対称に配置しても光渦レーザーを発振させることができ、非常に小型化を図ることができる。なおここで固体レーザー媒質3と反射ミラー又は出力ミラーの距離は光路長をいう。
【0023】
なおここで、本装置を用いた光渦レーザー発振方法(以下「本方法」という。)について説明する。本方法は、光源2から励起光を、集束レンズ4を介して固体レーザー媒質3に照射して光を励起し、固体レーザー媒質3が励起した光を、固体レーザー媒質3を中心に等距離に配置される反射ミラー5及び出力ミラー6で共振させて発振する。なお本実施形態では、光源から励起光を固体レーザー媒質に照射して光を励起する際、集光する励起光の焦点が固体レーザー媒質の側面から離れている。
【0024】
この結果、光源から励起光が固体レーザー媒質3に照射されると、固体レーザー媒質3から光が励起され、固体レーザー媒質3から出た光が反射ミラー5によって反射され、更に固体レーザー媒質3に戻り、反射して出力ミラーによって一部が固体レーザー媒質3に反射され、増幅されるとともに、一部が装置外部に出力される。この結果、本装置は、光渦レーザーを発振させることができるようになる。
【0025】
以上、本実施形態に係る光渦レーザー発振装置によると、従来に比べ10分の1程度に小型化することが可能であり、非点収差の無い光渦レーザーを直接発振することが可能となり、後述の実施例から明らかなように、複数の移送特異点を有する光渦レーザー(多重光渦レーザー)の発生が可能となる。
【実施例】
【0026】
ここで、上記実施形態に係る光渦レーザー発振装置の効果につき、実際に作成し、効果を確認した。以下具体的に示す。
【0027】
本実施例では、固体レーザー媒質としてNdを1at%ドープしたNd:YVO(2mm×5mm×20mm)を用い、この固体レーザー媒質から50mm離して集束レンズ(f=30mm)を配置し、レーザーダイオードから励起光を照射するようにした。なおレーザーダイオードは波長808nmのものを使用した。なおレーザーダイオードの出力(Pump Power)は10Wから44Wまで可変とした。
【0028】
また、本実施例では、反射ミラーとして全反射ミラーを採用し、出力ミラーは反射率70%のものを用いた。なお、反射ミラーと固体レーザー媒質の光反射位置までの距離、及び出力ミラーと固体レーザー媒質の光反射位置までの距離は、それぞれ70mmと等しく配置し、更に、固体レーザー媒体における反射角度が4°となるように配置した。
【0029】
図2に本実施例のレーザーのPumpPowerに対する出力の結果を、図3に本実施例の結果生じたラゲールガウスビームのビーム形状を示す。これらの図で示すように、コンパクトな構成の共振器から高出力のラゲールガウスビームの発振ができていることが確認できた。なお、図4は、固体レーザー媒質を挟み込むよう一対のシリンドリカルレンズを配置し、反射ミラーと固体レーザー媒質を非対称の距離で配置した場合の比較例となる光学系によるラゲールガウスビームのビーム形状を示す。この結果、本実施例によると、比較の例に比べ、円形状に近いビーム形状となっていることが確認できた。
【0030】
次に、バウンス角を4°から数度大きくした場合におけるビーム形状の変化を図5に示しておく。なお、この場合、反射ミラー及び出力ミラーを同じ角度だけ変化させることで調節した。この結果、ビーム形状が変形しており、多重光渦レーザーとなっていることが確認できた。
【0031】
以上、本実施例により、本発明の効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、光渦レーザー発振装置、発振方法として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0033】
1…光渦レーザー発振装置、2…光源、3…固体レーザー媒質、4…集束レンズ、5…反射ミラー、6…出力ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体レーザー媒質と、
前記固体レーザー媒質に光を供給する光源と、
前記固体レーザー媒質と前記光源との間に配置される集束レンズと、
前記固体レーザー媒質を中心に等距離に配置される反射ミラー及び出力ミラーと、を有する光渦レーザー発振装置。
【請求項2】
前記反射ミラーと前記レーザー媒質の間、前記出力ミラーと前記固体レーザー媒質の間に、シリンドリカルレンズを配置しない請求項1記載の光渦レーザー発振装置。
【請求項3】
前記集束レンズが集光する前記光源からの光の焦点が、前記固体レーザー媒質の側面から離されている請求項1記載のレーザー発振装置。
【請求項4】
光源から励起光を固体レーザー媒質に照射して光を励起し、
前記固体レーザー媒質が励起した光を、前記固体レーザー媒質を中心に等距離に配置される反射ミラー及び出力ミラーで共振させて発振する光渦レーザー発振方法。
【請求項5】
前記光源から励起光を固体レーザー媒質に照射して光を励起する際、集光する前記励起光の焦点を、前記固体レーザー媒質の側面から離す請求項4記載の光渦レーザー発振方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−182257(P2012−182257A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43386(P2011−43386)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人応用物理学会、第71回応用物理学会学術講演集、平成22年8月30日発行、
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】