説明

光源装置及びこれを用いた光干渉断層撮像装置、及び光発振方法

【課題】 発振スペクトル線幅の狭小化と、波長掃引範囲の広帯域化と、を同時に達成し得る光源装置を提供する。
【解決手段】 光を増幅させる光利得媒体と屈折率の波長分散を有する光導波路とを含んで構成される光共振器と、該光共振器内における光の強度を変調する光変調器と、を備え、該光変調器の変調周波数に応じて光パルスの発振波長が変化する光源装置であって、
前記光変調器が、前記光変調器を透過する光の透過率を調整可能であり、かつ、前記光変調器を透過する光の透過時間のデューティー比が50%未満であることを特徴とする光源装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振波長を変化させることが可能な光源装置、及びこれを用いた光干渉断層撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光源、特にレーザ光源については、発振波長を可変とするものが通信ネットワーク分野や検査装置の分野で種々利用されてきている。
【0003】
通信ネットワーク分野では、高速な波長切替、また、検査装置の分野では高速で広範な波長掃引が、要望されている。
【0004】
検査装置における波長可変(掃引)光源の用途としては、レーザ分光器、分散測定器、膜厚測定器、波長掃引型光干渉トモグラフィー(Swept Source Optical Coherence Tomography:SS−OCT)装置等がある。なお、本明細書において光干渉トモグラフィー装置を光干渉断層撮像装置ということがある。
【0005】
光干渉トモグラフィーは、光干渉を用いて検体の断層像を撮像するもので、ミクロンオーダーの空間分解能が得られることや無侵襲性等の理由から医用分野における研究が近年、盛んになってきている撮像技術である。
【0006】
波長掃引型光干渉トモグラフィーでは、深さ情報を得るのにスペクトル干渉を用い、分光器を用いないことから光量のロスが少なく高SN比の像取得も期待されている。
【0007】
SS−OCT技術を適用した医用画像撮像装置を構成する場合には、掃引速度が速いほど画像取得時間を短縮でき、また、波長掃引幅が広いほど断層像の空間解像度を高めることが可能なためこれらのパラメータは重要である。
【0008】
具体的には波長掃引幅Δλ、発振波長λ0、とするとき深さ分解能は
【0009】
【数1】

【0010】
で表される。したがって深さ分解能を高めるためには波長掃引幅の拡大が必要であり、広帯域な波長掃引光源が求められている。
【0011】
一方、SS−OCT装置においては検体の奥深い構造まで検知できること、すなわち長い可干渉距離を実現できることが望まれる。このため、SS−OCT装置の光源の性能としては、発振スペクトル線幅がより狭いほうが望ましい。
【0012】
具体的には発振スペクトル線幅Δω、とするとき可干渉距離(コヒーレンス長)は
【0013】
【数2】

【0014】
で表わされる。したがって検体の奥行き方向の測定範囲を広げるためには発振スペクトル線幅の狭小化が必要であり、狭い線幅の波長掃引光源が求められている。
【0015】
こうした中、SS−OCT装置に用い得る光源として、主に通信分野で使用される帯域にて検討されてきた共振器中の屈折率の波長分散を利用して波長を可変とする分散チューニングの手法が非特許文献1に開示されている。
【0016】
この分散チューニングでは共振器の自由スペクトル間隔(Free SpectralRange :以下「FSR」ともいう。)が波長依存性を持っていることを用いて、能動モード同期状態での発振波長を制御する。つまり、能動モード同期を生じせしめる変調信号の周波数を変化させることで波長掃引行うことから、変調信号の周波数を高速に変化させることで、高速な波長掃引が可能となる。
【0017】
ここで、自由スペクトル間隔は、共振器内を周回する光に対する共振器モードの周波数間隔を示す。自由スペクトル間隔(FSR)は真空中の光速をcとし、共振器が持つ屈折率をn、共振器長をLとしたとき以下の式(3)で表される。
【0018】
【数3】

【0019】
分散チューニング方式は、このFSRが波長依存性を有していることを利用し、変調信号の周波数を掃引する事でモード同期時の中心波長を掃引する技術である。
【0020】
また、非特許文献1は、分散チューニングによる波長掃引範囲Δλは以下の式で表わされるとしている。
【0021】
【数4】

【0022】
ここで、Dは共振器の分散パラメータ、fm0は変調信号の周波数(モード同期周波数)である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Y.Nakazaki,S.Yamashita.Opt.Exp.Vol.17,pp.8310−8318(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
一般的な分散チューニング方式による波長掃引においては、モード同期レーザであるため一定の位相関係を有する複数モードが同時発振することから、発振スペクトルのスペクトル線幅は比較的広がりやすく、狭いスペクトル線幅が必要とされる用途には必ずしも十分対応できないのが実情である。
【0025】
それに対して、非特許文献1によれば、変調信号の周波数fm0を大きくしてモード同期による発振波長を安定化させることにより、発振スペクトル線幅を狭小化できるとしている。
【0026】
しかしながら、単に変調信号の周波数fm0を大きくすると、式(4)より波長掃引範囲Δλは小さくなり、深さ分解能の低下を招いてしまう。また、これを回避するために式(4)の共振器の分散パラメータDや共振器長Lを小さく設定して波長掃引範囲Δλを大きくとろうとすると、共振器内の波長分散が小さくなり、結果的に発振スペクトル線幅が広がるという課題を生ずる。
【0027】
本発明は、発振スペクトル線幅の狭小化と、波長掃引範囲の広帯域化と、を同時に達成し得る光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明に係る光源装置は、光を増幅させる光利得媒体と屈折率の波長分散を有する光導波路とを含んで構成される光共振器と、該光共振器内における光の強度を変調する光変調器と、を備え、該光変調器の変調周波数に応じて光パルスの発振波長が変化する光源装置であって、前記光変調器が、前記光変調器を透過する光の透過率を調整可能であり、かつ、前記光変調器を透過する光の透過時間のデューティー比が50%未満であることを特徴とする。
【0029】
本発明に係る光発振方法は、光を増幅させる光利得媒体と屈折率の波長分散を有する光導波路とを含んで構成される光共振器と、該光共振器内における光の強度を変調する光変調器と、を備え、該光変調器の変調周波数に応じて光パルスの発振波長が変化する光源装置を用いた光発振方法であって、前記光変調器が、前記光共振器を透過する光の透過率を調整可能であり、前記光変調器を透過する光の透過時間のデューティー比を50%未満とする工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の光源装置では、光変調器を光が透過する透過時間のデューティー比を50%未満として、光の透過時間を非透過時間よりも短くした。光の透過時間を短くすることで、光透過の狭いゲート幅によりモード同期に寄与するモード数を減少させることができる。これにより、結果的に光パルスの発振スペクトルの線幅は狭小化する。
【0031】
これに加えて、光の非透過時間が相対的に長くなるため、光変調の繰り返し周期を長く(繰り返し周波数を小さく)することができ、式(4)より波長掃引範囲を大きくできる。
【0032】
すなわち、光変調器を透過する光の透過時間を短くすることで光パルスの発振スペクトルの線幅を狭小化し、繰り返し周期を長くすることで波長掃引範囲の広帯域化が図れる。
【0033】
さらには、光の非透過時間が長いために自然放出光雑音を低減することができ、SN比の高い安定した光信号を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の光源装置の一例を示す模式図
【図2】モード同期動作における発振スペクトルと光変調器の透過率を示すグラフ
【図3】本発明の光源装置における発振スペクトルと光変調器の透過率を示すグラフ
【図4】本発明の実施例1の光源装置を説明する模式図
【図5】本発明に係る光源装置を用いた撮像装置を説明する模式図
【図6】LN強度変調器の一例を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0036】
図1は、本発明の光源装置の一例を示す模式図である。
【0037】
図1に示した光源装置においては、光を増幅させる光利得媒体としての光増幅器101、光の強度を変調する光変調器102と光導波路103と、を含んで光共振器104を構成している。
【0038】
105は光共振器としてリング共振器を構成する場合に必要に応じて設けられ、光を一方向に周回させるため光アイソレータである。
【0039】
106は光取り出しカップラであり、107は、光変調器102の駆動を制御する駆動制御部である。ここで光増幅器101は、半導体光増幅器(Semiconductor Optical Amplifier:SOA)を例として説明する。
【0040】
光変調器102は、後述するモード同期を得るために光共振器104内の透過率変化に対し光の強度を(時間的に)変調する変調信号を与える光学素子であり、例えば電気光学素子で構成することができる。
【0041】
光導波路103は、例えば屈折率が波長依存性(屈折率の波長分散)を有するシングルモード光ファイバを有するものを用いることができる。
【0042】
駆動制御部107は光変調器102にエネルギーを投入しその透過率を制御するための機器であり、電源装置及びこれらを制御するためのPCなどで構成される。
【0043】
以下、分散チューニング、と呼ばれる能動モード同期方式により波長掃引動作を行う本願発明の光源装置により、発振スペクトルの狭小化と波長掃引範囲の広帯域化が成し得る詳細について説明する。
【0044】
<能動モード同期>
能動モード同期とは、複数の共振器モードを同時に励振し(縦多モード発振)、これらの位相関係を一定にするときにレーザの高周波パルス発振動作を得る手法である。
【0045】
縦多モード発振及びモード間の位相関係確定のために、典型的にはレーザの光学系内に非線形性を持たせ、かつ何らかの光変調器を導入する。例えば、光変調器が透過率制御型の光変調器である場合、光変調器で高周波に透過率を変動させることで、初めに励振された共振器モードの低周波側及び高周波側にサイドバンドを励振する。光変調器から印加される周波数をω’とするとき、前記サイドバンドは上述の初めに励振された共振器モードの周波数をω0とするときω0±ω’の周波数に励振される。
【0046】
ここでω’が共振器のモード間隔またはその整数倍に等しいとすると、前記サイドバンドがω0の隣の共振器モードを励振する。このように共振器モード同士が互いにサイドバンドを通して励起しあい、縦多モード発振が可能となる。
【0047】
また、共振器内に光増幅媒体や非線形媒質、もしくは光変調器そのものなどが持つ非線形性を導入することでモード間相互作用が生じ、モード間の位相関係が確定する。その結果、レーザはパルス列を発振し出力するようになる。
【0048】
このように外部から共振器に変調を加え、強制的にモード同期状態を発生させることを能動モード同期と呼ぶ。
【0049】
モード同期のために外部から共振器に与える変調の周波数としては、例えば光共振器の長さを200m、屈折率を約1.5とすると、光共振器の光学的周回長は300m程度になるため、この中を伝搬する光は約1MHzで共振器内を周回することになる。従ってこの共振器の共振器モード間隔(自由スペクトル間隔,FSR(Free Spectral Range))も約1MHzとなる。
【0050】
そこで光変調器の駆動周波数を1MHzもしくはこの整数倍に設定するとモード同期が得られる。この状態では繰り返し周波数が1MHzの整数倍のパルス列が発生する。実際にはモード同期動作の安定化のため、繰り返し周波数の100から1000倍程度で用いることが好適である。その場合、100MHzから1GHz程度でモード同期の為の変調を行うことになる。
【0051】
<分散チューニング>
分散チューニングとは、上述のモード同期を得るレーザの光共振器の屈折率が波長依存性を持つ場合、その結果として光共振器が有するFSRが波長依存性を持つことを利用して能動モード同期レーザの発振波長を変化させる動作方法である。
【0052】
上述のとおり、能動モード同期は発振周波数帯において光共振器が有するFSRまたはその整数倍の変調を掛けることで実現可能である。分散チューニングでは、FSRが波長依存性を持つため、変調周波数を変化させることでモード同期の発振波長を変化させる。
【0053】
つまり分散チューニング方式においては、光増幅媒体の増幅率あるいは光変調器での透過率変化の繰り返し周波数を変化させることで、モード同期状態での発振波長を変化させる。
【0054】
光共振器の屈折率をn(ν)、共振器長をLとするとき以下の式(5)でFSRが表わされる。
【0055】
【数5】

【0056】
そしてこのFSRの自然数倍(×a)の周波数fmで増幅率の変調または透過率の変調を掛けることで能動モード同期が得られ、fmを変化させることで分散チューニングによる波長掃引が実現する。この説明から理解されるように分散チューニング方式の波長掃引光源は基本的にモード同期レーザである。
【0057】
ここでは、光共振器の屈折率が波長依存性を持つ場合として説明したが、別の表現をすると光共振器が強い屈折率の波長分散を持つ場合であり、更には光共振器を構成する光導波路を強い屈折率の波長分散を持つ部材で構成した場合ともいうことができる。
【0058】
ところで、このモード同期レーザの発振波長は光変調器の変調周波数で決定されるが、この変調周波数の変化量が上述したFSRを超えると、共振器の縦モードが次の次数のモードに移ってしまう。このため、レーザの発振波長は連続的に変化せず、再び発振の始まる波長へと戻ってしまう。
【0059】
すなわち、波長掃引時に変調周波数をfm0からfm1、fm2へと順に変化させると、それに応じて発振波長はλ0、λ1、λ2へと変化していくが、変調周波数が隣の次数モードにシフトした瞬間、発振波長はλ0へ戻ってしまう。このため、変調周波数はFSRを超えて変化させることができない。
【0060】
したがって、掃引可能な波長掃引範囲Δλは上述した以下の式(4)で表わされる。
【0061】
【数6】

【0062】
ここで、Dは共振器の分散パラメータ、fm0は変調信号の周波数(モード同期周波数)である。
【0063】
したがって式(4)より、変調周波数fm0を大きくすると、波長掃引範囲Δλが狭くなるという関係がある。ただし、式(4)は増幅媒体の利得範囲内で成立するため、利得範囲を超えた発振範囲を得ることはできない。
【0064】
<本発明における発振スペクトル狭小化>
図2にモード同期動作における光パルスの発振スペクトルのグラフ(図2(A))と、このときの光変調器の透過率のグラフ(図2(B))を示す。図2(A)において、発振線幅201はモード同期動作における縦多モード発振の総合的な線幅をとる。図2(A)において202は、各共振器モード、203は、発振スペクトルをそれぞれ示す。
【0065】
図2(B)において、H(high)は光が光変調器を透過する時間を示し、L(Low)は非透過時間を示す。
【0066】
ここで、光変調器を透過する時間とは、光変調器を透過する光の透過率が50%以上である時間である。なお、光の透過率が99%以上であることが好ましい。
【0067】
また、非透過時間とは、光変調器を透過する光の透過率が10%以下である時間である。なお、光の透過率が1%以下であることが好ましい。
【0068】
ここで、光の透過率とは、光変調器から出射した光の強度を、光変調器に入射した光の強度で除した値を意味する。
【0069】
ここで分散チューニング方式を含むモード同期動作を行うレーザ装置においては、発振波長のスペクトル線幅を狭める為には発振時の中心周波数の近傍に励振されるサイドバンドを抑制することが有用であると発明者は認識した。
【0070】
サイドバンド抑制の手法として、モード同期に寄与するモード数を減らすことが挙げられる。図3(A)はモード同期動作に寄与するモード数を減少させた光パルスの発振スペクトルを表したグラフである。図3(A)の発振スペクトル線幅は、図2(A)のスペクトル線幅201よりも狭くなっている。図3(B)に示すように、光変調器を通過した光の透過時間の変化させることにより、モード同期動作における縦マルチモード発振のスペクトル線幅を狭窄化できる。具体的には、図3(B)に示すように光変調器に印加する変調信号のパルス幅を短くすることで、光変調器を透過する光の透過時間を短くする。図3(B)において、Hは光が変調器を透過する時間を示し、Lは非透過時間を示す。本発明では、光変調器を光が透過する透過時間のデューティー比(H/(H+L))を50%未満とする。透過光を時間的に制限することにより、モード同期に寄与するモード数を減らすことができる。したがって、モード同期動作時の光源の発振線幅は結果的に光透過時間が長い場合と比較して狭小化される。
【0071】
本発明において、光変調器を光が透過する透過時間のデューティー比は、安定した効果を得るために好ましくは20%未満、更に確実な効果を得るために、より好ましくは10%未満とされるのが好適である。
【0072】
例えば、光変調器を光が透過する透過時間が500ps、非透過時が500ps、すなわちデューティー比が50%であるとき、光源から発振される光の発振線幅は0.1nmとなる。一方、光変調器を光が透過する透過時間が100ps、非透過時が900ps、すなわちデューティー比が10%であるとき、光源から発振される光の発振線幅は0.05nmとなる。
【0073】
ところで、SS−OCT装置を特に眼底測定に適用することを考えると、3mm以上のコヒーレンス長(深さ方向の測定範囲に相当)があることが好ましい。3mmのコヒーレンス長に対応するスペクトル線幅は周波数にして約100GHzである。つまり、眼底測定用のOCT装置の光源としては、この値以下の線幅で発振していることが好適である。
【0074】
発明者らは、上記の観点で検討したところ、光変調器を透過する光の透過時間Δtは、以下の式で表わされる範囲内とすることが好適であるとの知見を得た。
【0075】
すなわち、前記光変調器を透過する光の透過時間をΔt(秒)、として、
【0076】
【数7】

【0077】
ここで、前記光変調器の変調周波数をfm0、前記光導波路の分散パラメータをD、前記光共振器の共振器長をL、前記光源の発振波長をλ、真空中における光の速度をcとして示してある。式(6)の右辺は、共振器全体の波長分散に比例する値であり、安定したモード同期動作のために必要な光の透過時間Δtの上限である。式(6)の左辺は、光出力が理想的なガウス形のトランスフォームリミット光パルスであるときの光パルス時間幅で表わされる。
【0078】
また、光変調器を透過する光の透過時間を短くするために、単に変調信号の周波数を大きくしてしまうと、式(4)により波長掃引範囲は狭くなってしまう。したがって、光変調器の透過時間を短く、かつ繰り返し周期を長く(繰り返し周波数を小さく)するという本発明の手法により、発振スペクトル線幅の狭小化と波長掃引範囲の広帯域化とを同時に達成し得る。
【0079】
本発明の光源装置において、光変調器を光が透過する透過時間のデューティー比を50%未満とする具体的な例について、以下、説明する。
【0080】
図1において、不図示のDC電流源に接続されたSOA101に発振閾値以上の電流を供給した状態で、光変調器102をLN強度変調器で構成した場合を考える。このとき駆動制御部107を、例えば一定周波数の電圧信号を出力する信号発生器と、その周波数に同期し、出力時間が可変な電圧パルスを出力するパルス発生器とで構成する。信号発生器から発生させた一定周波数fm0の電圧信号を、パルス発生器へ入力する。このパルス発生器から発生する電圧パルスの出力時間を1/2fm0未満に設定することで、繰り返し周波数fm0、デューティー比50%未満の電圧パルスを出力することができる。この電圧パルスをLN強度変調器に印加することで、透過時間のデューティー比を50%未満とすることができる。
【0081】
この他、駆動制御部107を、デューティー比可変のパルス発生器で構成してもよい。また、駆動制御部107を、一定周波数fm0の電圧信号を出力する信号発生器と、周波数2×fm0以上の電圧信号を出力する信号発生器とで構成してもよい。この2つの出力信号を重畳してLN強度変調器に印加することで、透過時間のデューティー比を50%未満とすることができる。
【0082】
<本発明における自然放出光雑音低減>
本発明においては、発生する光パルスの自然放出光雑音を低減できるという効果もある。自然放出光雑音は時間的に一様な強度を有する連続光である。
【0083】
この雑音が共振器内を周回する際、まず光変調器を通過しパルス状に変調される。このとき、パルスの谷の部分は光強度が弱くなるため、雑音が減少することになる。こうしてパルス状に変調された雑音は、共振器内の波長分散を受けて時間的に広がる。この時間的に広がった雑音が再び光変調器を透過すると再びパルス状になる。これらが繰り返されることにより、雑音の光強度が弱くなる。したがって、SN比の高い安定した光信号を得ることができる。
【0084】
この効果は、光変調器を透過する光の透過時間のデューティー比(H/(H+L))を10%未満とすると顕著に表れる。
【0085】
<その他採用し得る形態>
これまで光利得媒体として半導体光増幅器(SOA)を例に説明したが、この他、光増幅媒体としては、エルビウムやネオジウム等を含有する希土類を添加した(イオンドープ)光ファイバを用いることができる。また、光ファイバ中にローダミン6Gなどの色素を添加して、添加したこの色素により増幅を行ったもの等を採用することができる。
【0086】
希土類添加光ファイバは、高利得で良好な雑音特性を得るためには好適である。色素添加光ファイバは、蛍光色素材料やそのホスト材料などを適宜選択することで可変波長の選択肢が増す。
【0087】
半導体光増幅器は、小型で且つ高速制御が可能なことから好ましい。半導体光増幅器としては、共振器型光増幅器と進行波形光増幅器の双方を用いることができる。半導体光増幅器を構成する材料は、一般的な半導体レーザを構成する化合物半導体等を用いることができ、具体的にはInGaAs系、InAsP系、GaAlSb系、GaAsP系、AlGaAs系、GaN系等の化合物半導体を挙げることができる。半導体光増幅器は、利得の中心波長が、例えば、840nm、1060nm、1300nm、1550nmのものの中から光源の用途等に応じて適宜、選択して採用することができる。
【0088】
本発明において、光導波路は光を伝搬させる機能と波長分散を有するものであれば、基本的に用いることができるが、外部からの影響を極力抑えるために光を閉じ込めて伝搬させる、スラブ導波路や、光ファイバを用いることが好ましい。光ファイバとしては石英(SiO)ガラスを用いたものや、プラスチックを用いたもの、石英とプラスチックの両方を用いたもの等を挙げることができる。また、光ファイバの少なくとも一部をチャープドファイバブラッググレーティング(Chirped Fiber Bragg Grating、以下CFBGと略す)で構成してもよい。CFBGとは光ファイバのコア中に回折格子を形成し、その回折格子の周期を光ファイバの長手方向に変化させた光ファイバ型のデバイスを指す。CFBGに入射した光の中で、ブラッグ反射条件を満たす波長の光、具体的には、回折格子の周期の2倍の波長を持った光を反射する。回折格子の周期は光ファイバの長手方向に変化しているので、ブラッグ反射条件を満たす光の波長が場所によって異なることになる。すなわち、波長によって反射位置が異なるため、大きな波長分散を与えることができる。CFBGは、回折格子を光ファイバ中に非破壊的に直接形成できるため、CFBGを通る光の損失が低い、小型である、伝送用光ファイバとの整合性が高い、などの利点を有している。そのため、CFBGは本発明における波長分散を有する光導波路として好適に用いられる。CFBGは反射型の光デバイスのため、CFBGを光導波路として機能させる場合は光カプラやサーキュレータ等と共に用いる必要がある。この場合、光共振器はσ型共振器が採用される。
【0089】
本発明において、光導波路が有する波長分散の分散値は、正常分散(分散値が負)のものから異常分散(分散値が正)のものまで、採用する光増幅媒体、得ようとする掃引速度、掃引波長範囲等を考慮して適宜、所定の分散値のものを採用することができる。好ましくは、波長分散が10ps/nm以上であることが好ましく、100ps/nm以上であることがさらに好ましい。あるいは、−10ps/nm以下であることが好ましく、−100ps/nm以下であることがさらに好ましい。
【0090】
光変調器の例としては高速変調が可能な導波路型変調器が挙げられ、具体例としては、電気光学効果(ポッケルス効果)を用いたLN強度変調器(LiNbO基板使用)や電界吸収型光変調器(EA変調器)が挙げられる。LN強度変調器では、干渉計を備えた構成で一方の光路の屈折率を変化させて得られる干渉状態の変化により光のON/OFF制御を行うもので、高速制御に優れている。
【0091】
ここで、LN強度変調器の一例について図6を用いて説明する。LN強度変調器の一例は、LiNbO基板601上に光路が設けられており、光路602に入射した光の光路が2つの光路603、604に分岐し、分岐した2つの光路が再び1つの光路605へとつながった構成となっている。光路602に入射した光(L1)は光路603と光路604に分岐され、光路605で合波され出射される(L2)。
【0092】
一方の光路604には一対の電極606が設けられ、この一対の電極606には任意の電圧を印加することができる信号発生器607が接続されている。信号発生器607から送る信号によって、この一対の電極606に印加する電圧を調整することで、光路604の屈折率を変化させることができる。したがって、一対の電極606に印加する電圧を調整することで、光路603と光路604を透過する光の位相を異なるしめることができ、光路605から出射される光の強度を変化させることができる。例えば、光路603を透過してきた光の位相を、光路604を透過した光の位相に対してπずらすように、一対の電極606に印加する電圧を調整すれば、光路605から出射される光の強度は0となる。すなわち、LN強度光変調器における光の透過率は0となる。一方、光路603を透過してきた光の位相と、光路604を透過した光の位相とを揃えるように、一対の電極606に印加する電圧を調整すれば、光路605から出射される光の強度は光路602に入射した光の強度と、理論上は同じとなる。すなわち、LN強度光変調器における光の透過率は理論上は1となる。上記では、透過率0あるいは1にする場合について説明したが、一対の電極606に印加する電圧を調整することで、透過率を0や1以外にすることが可能である。このようにして、LN強度変調器を透過する光の透過率を調整することができる。
【0093】
電界吸収型光変調器は、電界印加により半導体の吸収端がシフトすることを利用した強度変調器であり、小型で低電圧動作が可能である。
【0094】
本発明で採用し得る光共振器は、上述したリング型共振器の他、直線型共振器やσ型共振器等を採用することができる。リング型共振器は、光ファイバを用いた共振器の他、スラブ導波路、ミラーを用いて空中や真空中を光が伝播する光学系を用いたもの等を採用することができる。
【0095】
直線型共振器としては、一対の平行平面を備えた光共振器(所謂、ファブリー・ペロー共振器)や、光ファイバの端面をミラーとして直線状とした共振器等を挙げることができる。
【0096】
(光発振方法)
本発明の実施形態に係る光発振方法は、上記の本発明の実施形態に係る光源装置を用いた光発振方法である。そして、上記の光変調器を透過する光の透過時間のデューティー比を50%未満とする工程を有することを特徴とする。上述したように、上記の光変調器を透過する光の透過時間のデューティー比を50%未満とすることで、50%以上とした場合に比べて、光源から発振される光の発振線幅をより狭くすることができる。なお、光変調器を光が透過する透過時間のデューティー比は、安定した効果を得るために好ましくは20%未満、更に確実な効果を得るために、より好ましくは10%未満とすることが好ましい。
【実施例】
【0097】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限られない。
【0098】
(実施例1)
図4に本実施例の光源装置の模式図を示す。
【0099】
図4に示した光源装置は、半導体光増幅器401、LN強度変調器402、光導波路としての光ファイバ403、アイソレータ405、光カップラ406とで光共振器が構成されている。LN強度変調器402には短パルス信号発生装置410が接続されており、短パルス信号発生装置410は高周波発振器407から送出される信号によってパルス信号の繰り返し周波数を制御される。
【0100】
光ファイバ403の屈折率は大きな波長依存性(波長分散、周波数依存性)を有しており、その屈折率は長波長程小さい値になっている。このため光共振器全体のFSRも周波数依存性を有することとなり、変調信号を制御することで発振波長を可変とする分散チューニング動作が可能となっている。
【0101】
半導体光増幅器は波長800nmから880nmの間で利得を有しており、光導波路を含む光共振器長は200mである。光導波路としての光ファイバはシングルモードファイバで構成してある。
【0102】
LN強度変調器402を駆動して変調器の透過率を高速に変調し、能動モード同期を得る。光共振器全体の平均屈折率を1.46とすると、光共振器全体でのFSRは式(3)より1.027MHzとなる。
【0103】
能動モード同期をかける光変調の繰り返し周波数はFSRの整数倍に設定する。例えばFSRの1000倍の周波数に設定すると、光変調の繰り返し周波数は1.027GHzである。
【0104】
高周波発振器407の周波数を変化させることで、発振波長の掃引を行う。共振器の分散パラメータDを−100ps/nm/kmとすると、掃引可能な波長掃引範囲Δλは、式(4)より97.4nmとなる。ただし、上述したように半導体光増幅器は波長800nmから880nmの間で利得を有しているため、この利得帯域を超えて波長掃引をすることはできない。
【0105】
本実施例の光源装置では、短パルス信号発生装置406のパルス幅Δtを式(6)より4.4ps<Δt<470psを満たす150psとした。したがって、光変調器を透過する光の透過時間は150ps、非透過時間は824psとなる。ここで、光の透過時間のデューティー比は、18%である。
【0106】
透過時間を短くし透過光を時間的に制限することにより、モード同期に寄与するモード数を減らすことができる。そのため、発振線幅は結果的に狭小化される。
【0107】
本実施例では光変調器により透過率を時間的に変調させ、結果的に光共振器全体での増幅率を時間的に変調したが、光共振器内の変調方法はこの限りではなく、光変調器の機能を光増幅器で代替しても良い。つまり光増幅器に注入する電流量を時間的に変調することにより、光共振器全体の増幅率に時間的変調を与えることで能動モード同期を得る手法も採用し得る。
【0108】
(実施例2)
光源装置の構成は実施例1と同じであるが光の透過時間を更に短縮した装置について説明する。短パルス信号発生装置406のパルス幅を実施例1と同じく150psとした。能動モード同期をかける光変調の繰り返し周波数をFSRの500倍の513.3MHzとした点が実施例1と異なる。
【0109】
したがって、光変調器を透過する光の透過時間は150ps、非透過時間は1798psとなり、光の透過時間を非透過時間の約12分の1とした。ここで、光の透過時間のデューティー比は、7.7%である。
【0110】
このとき、発生する光パルスの自然放出光雑音を実施例1と比較してもより低減させることができるため、SN比の高い安定した光信号を得ることができる。
【0111】
(実施例3)
本実施例では、上記で説明した本発明の光源装置を用いた光干渉断層撮像(OCT)装置の例を示す。
【0112】
図5は本例のOCT装置の模式図である。
【0113】
図5のOCT装置は、基本的には光源部(501等)、光源部からの光を検体に照射し、検体部からの反射光を伝達させる検体測定部(507等)、光を参照ミラーに照射し、参照ミラーからの反射光を伝達させる参照部(502等)、2つの反射光を干渉させる干渉部(503)、干渉部により得られた干渉光を検出する光検出部(509等)、光検出部で検出された光に基づいて画像処理を行う(断層像を得る)画像処理部(511)で構成されている。以下、各構成要素を説明する。
【0114】
光源部は、波長可変光源501と該波長可変光源を制御する光源制御部512を有して構成され、波長可変光源501は照射用ファイバ510を介して干渉部を構成するファイバカップラ503に接続されている。
【0115】
干渉部のファイバカップラ503は、光源の波長帯域でシングルモードのもので構成し、各種ファイバカップラは3dBカップラで構成した。
【0116】
反射ミラー504は、参照光光路用ファイバ502に接続されて参照部を構成し、ファイバ502は、ファイバカップラ503に接続されている。
【0117】
検査光光路用ファイバ505、照射集光光学系506、照射位置走査用ミラー507により測定部が構成され、検査光光路用ファイバは505、ファイバカップラ503に接続されている。ファイバカップラ503では、検査物体514の内部及び表面から発生した後方散乱光と、参照部からの戻り光とが干渉して干渉光となる。
【0118】
光検出部は、受光用ファイバ508とフォトディテクタ509で構成され、ファイバカップラ503で生ずる干渉光をフォトディテクタ509に導く。
【0119】
フォトディテクタ509で受光された光は信号処理装置511にてスペクトル信号に変換され、さらにフーリエ変換を施すことで被験物体の奥行き情報を取得する。取得された奥行き情報は画像出力モニター513に断層画像として表示される。
【0120】
ここで、信号処理装置511は、パーソナルコンピュータ等で構成することができ、画像出力モニター513は、パーソナルコンピュータの表示画面等で構成できる。
【0121】
本実施例で特徴的なのは光源部であり、波長可変光源501は光源制御装置512によりその発振波長や強度及びその時間変化が制御される。
【0122】
光源制御装置512は、照射位置走査用ミラー507の駆動信号等をも制御する信号処理装置511に接続され、走査用ミラー507の駆動と同期して波長可変光源501が制御される。
【0123】
本発明の光源装置を用いた波長可変光源501は波長掃引中のスペクトル線幅が細く、光干渉断層撮像の際、参照ミラーと等距離の位置から遠い位置までの干渉像を取得することが可能となる。波長掃引における発振波長のスペクトル幅が狭いことは、コヒーレンス長が長いことに相当する。すなわち干渉光学系を構成する二つの光路の光路長差が長くても干渉信号を得られることになる。つまり、発振スペクトル線幅が狭い本発明の光源装置を用いたOCT装置は、被検査物体の奥深い構造まで検知できるという効果を奏する。
【符号の説明】
【0124】
101、401 光利得媒体
102、402 光変調器
103、403 波長分散を有する光ファイバ
107 駆動制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を増幅させる光利得媒体と屈折率の波長分散を有する光導波路とを含んで構成される光共振器と、該光共振器内における光の強度を変調する光変調器と、を備え、該光変調器の変調周波数に応じて光パルスの発振波長が変化する光源装置であって、
前記光変調器が、前記光変調器を透過する光の透過率を調整可能であり、かつ、前記光変調器を透過する光の透過時間のデューティー比が50%未満であることを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記透過時間のデューティー比が20%未満であることを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
前記透過時間のデューティー比が10%未満であることを特徴とする請求項2に記載の光源装置。
【請求項4】
前記光変調器を透過する光の透過時間をΔt、前記光変調器の変調周波数をfm0、前記光導波路の分散パラメータをD、前記光共振器の共振器長をL、前記光源の発振波長をλ、真空中における光の速度をcとしたときに下記式、
【数1】


を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光源装置。
【請求項5】
前記光導波路が屈折率の波長分散を有する光ファイバを有することを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項6】
前記光ファイバの少なくとも一部がチャープドファイバブラッググレーティングであることを特徴とする請求項5に記載の光源装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載の光源装置を用いた光源部と、
前記光源部からの光を検体に照射し、検体からの反射光を伝達させる検体測定部と、
前記光源部からの光を参照ミラーに照射し、該参照ミラーからの反射光を伝達させる参照部と、
前記検体測定部からの反射光と前記参照部からの反射光とを干渉させる干渉部と、
前記干渉部からの干渉光を検出する光検出部と、
前記光検出部で検出された光に基づいて、前記検体の断層像を得る画像処理部と、
を有することを特徴とする光干渉断層撮像装置。
【請求項8】
光を増幅させる光利得媒体と屈折率の波長分散を有する光導波路とを含んで構成される光共振器と、該光共振器内における光の強度を変調する光変調器と、を備え、該光変調器の変調周波数に応じて光パルスの発振波長が変化する光源装置を用いた光発振方法であって、
前記光変調器が、前記光共振器を透過する光の透過率を調整可能であり、
前記光変調器を透過する光の透過時間のデューティー比を50%未満とする工程を有することを特徴とする光発振方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−169607(P2012−169607A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−12130(P2012−12130)
【出願日】平成24年1月24日(2012.1.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】