説明

光照射によって誘電率が変化する膜およびそれを用いた電子デバイス

【課題】光照射によって誘電率を変化させることが可能な膜、およびそれを用いた電子デバイスを提供する。
【解決手段】薄膜トランジスタ20は、ガラス基板21、ゲート電極22、ゲート絶縁膜23、半導体層(活性層)24、ソース電極25およびドレイン電極26を備える。ゲート電極22、ゲート絶縁膜23および半導体層24は、この順序でガラス基板21上に積層されている。ソース電極25およびドレイン電極26は、半導体層24上に形成されている。ゲート絶縁膜23は、有機重合体と、その有機重合体中に分散された化合物とを含む溶液を、ガラス基板上に形成されたゲート絶縁膜上にスピンコート法によって塗布した。その化合物は、以下の式(1)で表される化合物および以下の(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である。[化学式(1)および(2)]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射によって誘電率が変化する膜、およびそれを用いた電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機トランジスターに適用される有機絶縁膜の誘電率を上げる手段として、比誘電率の高い材料(酸化チタン)を有機絶縁体に分散させる方法が知られている(非特許文献1)。この技術は、誘電率を上げるためには好適な技術であるが、外部からの刺激により誘電率をコントロールすることはできない。
【0003】
一方、液晶材料の光異性化(フォトクロミズム)によって材料の誘電率が変化することが報告されている(非特許文献2)。しかし、フォトクロミズムでは誘電率の変化が非常に小さい。また、液晶フォトクロミズム材料は、室温よりも高い温度でなければ動作しないため、室温で動作するデバイスに用いることができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Fang-Chung Chenら、"Organic thin-film transistors with nanocomposite dielectric gate insulator", Appl. Phys. Lett.、Vol.85、 pp.3295-3297、 2004年
【非特許文献2】Seiji KURIHARAら、"Modulation of the Dielectric Constant of the Liquid Crystal System by Means of Photochromism", Jpn. J. Appl. Phys.、Vol.27、 L1791-1792、 1988年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況において、本発明は、光照射によって誘電率が変化する新規な膜、およびそれを用いた電子デバイスを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために検討した結果、本件発明者らは、ポリマーに特定の化合物を分散させることによって、光照射によって誘電率が変化する膜が得られることを見出した。本発明は、この新たな知見に基づく発明である。
【0007】
すなわち、本発明の膜は、有機重合体と、前記有機重合体中に分散された化合物とを含む膜であって、前記化合物が、以下の式(1)で表される化合物および以下の式(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0008】
【化1】

【0009】
[式(1)中、R1は、水素原子または炭素数が1〜10のアルキル基を示す。R2は、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基を示す。Xは陰イオンを示す。qは、Xの価数に等しい。]
【0010】
【化2】

【0011】
[式(2)中、R3は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、アルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アミノ基、オキシアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、脂環、芳香環、および複素芳香環のいずれかを示す。R3が脂環、芳香環および複素芳香環のいずれかである場合には、それらの環に置換基が結合していてもよい。R4〜R6は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、脂環、芳香環、および複素芳香環のいずれかを示す。R4が脂環、芳香環および複素芳香環のいずれかである場合には、その環に置換基が結合していてもよい。R5が脂環、芳香環および複素芳香環のいずれかである場合には、その環に置換基が結合していてもよい。R6が脂環、芳香環および複素芳香環のいずれかである場合には、その環に置換基が結合していてもよい。]
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光照射によって誘電率が変化する膜、およびそれを用いた電子デバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のコンデンサの一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の薄膜トランジスタの一例を模式的に示す断面図である。
【図3】実施例1のコンデンサについて、光の照射時間と誘電率との関係を示すグラフである。
【図4】実施例2のコンデンサについて、光の照射時間と誘電率との関係を示すグラフである。
【図5】実施例2のコンデンサについて、光を照射しない場合の誘電率の推移を示すグラフである。
【図6】実施例3のコンデンサについて、光の照射時間と誘電率との関係を示すグラフである。
【図7】実施例4のコンデンサについて、光の照射時間と誘電率との関係を示すグラフである。
【図8】実施例4のコンデンサについて、光を照射しない場合の誘電率の推移を示すグラフである。
【図9】実施例5のコンデンサについて、光の照射時間と誘電率との関係を示すグラフである。
【図10】実施例6のコンデンサについて、光の照射時間と誘電率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、以下に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態および実施例に限定されない。以下の説明では特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。
【0015】
[光照射によって誘電率が変化する膜]
本発明の膜は、有機重合体(以下、「有機重合体(P)」という場合がある)と、有機重合体(P)中に分散された化合物とを含む。その化合物は、以下の式(1)で表される化合物および以下の式(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0016】
【化3】

【0017】
[式(1)中、R1は、水素原子または炭素数が1〜10のアルキル基を示す。R2は、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基を示す。Xは陰イオンを示す。qは、Xの価数に等しい。]
【0018】
【化4】

【0019】
[式(2)中、R3は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、アルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アミノ基、オキシアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、脂環、芳香環、および複素芳香環のいずれかを示す。R3が脂環、芳香環および複素芳香環のいずれかである場合には、それらの環に置換基が結合していてもよい。R4〜R6は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、脂環、芳香環、および複素芳香環のいずれかを示す。R4が脂環、芳香環および複素芳香環のいずれかである場合には、その環に置換基が結合していてもよい。R5が脂環、芳香環および複素芳香環のいずれかである場合には、その環に置換基が結合していてもよい。R6が脂環、芳香環および複素芳香環のいずれかである場合には、その環に置換基が結合していてもよい。]
【0020】
3は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、アルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、脂環、芳香環、および複素芳香環のいずれかであってもよい。
【0021】
なお、R4が水素原子であるということは、R4を含む環がフェニレン基(−C64−)であることを意味する。
【0022】
以下、式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を「化合物(L)」という場合がある。なお、化合物(L)は塩であってもよい。本発明の膜は、通常、有機重合体(P)および化合物(L)によって構成される膜(有機膜)であるが、本発明の効果が得られる限り、他の物質(有機物および/または無機物)を含んでもよい。本発明の膜の一例は、式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物のいずれか一方のみを含む。
【0023】
化合物(L)について、実験結果から推測される事項について説明する。化合物(L)は、光照射によって電荷移動(電荷分離)を生じると考えられる(特開2005−145853号公報および特開2008−214328号公報参照)。たとえば、アクリジニウムイオンの9位に芳香族炭化水素基R2が結合している式(1)で表される化合物において、芳香族炭化水素基R2は、光照射によって電子を放出する電子供与性基として機能すると考えられる。放出された電子は、アクリジニウムイオンへ移動すると考えられる。また、式(2)で表される化合物において、ジフェニルアニリン誘導体部位は、光照射によって電子を放出する電子供与性基として機能すると考えられる。放出された電子は、クマリン誘導体部位に移動すると考えられる。式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物では、電荷分離状態の寿命が一般的な化合物に比べて極めて長いことが示唆されている。電荷分離状態の寿命が長い化合物を用いることによって、本発明の効果が得られやすくなると考えられる。
【0024】
本発明の膜では、化合物(L)の電荷移動(電荷分離)を生じさせる光を膜に照射したときの誘電率を、光を照射していないときの誘電率よりも高くすることができる。たとえば、光照射時の誘電率と光非照射時の誘電率との比である、[光照射時の誘電率]/[光非照射時の誘電率]の値を、1.2以上、2以上、5以上、10以上、20以上、または70以上にすることが可能である。この比の上限に特に限定はなく、10000以下や1000以下や500以下や200以下や100以下であってもよい。
【0025】
有機重合体(P)の好ましい一例は、絶縁性を有する有機重合体である。有機重合体(P)の例には、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)が含まれる。また、有機重合体(P)として、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、およびポリエチレンテレフタレートなどを用いることも可能である。有機重合体(P)は、極性基を含んでもよいし含まなくてもよい。また、有機重合体(P)は、2種類以上の有機重合体を含んでもよい。
【0026】
本発明の効果が得られる限り、膜中の化合物(L)の濃度には限定がない。一例では、有機重合体(P)(たとえばPMMA)の構成単位と化合物(L)とのモル比が、[有機重合体(P)の構成単位]:[化合物(L)]=100:1〜1:10の範囲にあってもよく、10:1〜1:1の範囲にあってもよい。
【0027】
[式(1)で表される化合物の例]
上記式(1)において、R1は、水素原子または炭素数が1〜4のアルキル基であってもよい。また、R2は、炭素数が1〜4のアルキル基が1〜3個結合したフェニル基であってもよい。Xは1価〜3価の陰イオンであってもよい。Xは、1価の陰イオンであってもよいし、2価の陰イオンであってもよいし、3価の陰イオンであってもよい。また、Xは複数種の陰イオンを含んでもよい。Xは、たとえばPF6-、ClO4-、BF4-、SO42-、CO32-、またはPO43-であってもよい。好ましい一例では、R1はメチル基またはエチル基であり、R2は、炭素数が1〜3個のアルキル基(たとえばメチル基またはエチル基)が結合したフェニル基であり、XはPF6-、ClO4-またはBF4-である。
【0028】
また、式(1)の化合物の代わりに、置換基を有していてもよいアクリジニウムイオンの9位に電子供与性基が結合した化合物を用いてもよい。
【0029】
上記式(1)で表される化合物は、以下の式(3)で表される化合物であってもよい。
【0030】
【化5】

【0031】
[式(3)中、R7、R8およびR9は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を示す。Xは、PF6-、ClO4-、BF4-、SO42-、CO32-、またはPO43-を示す。qは、Xの価数に等しい。]
【0032】
式(3)で表される化合物の一例では、XがPF6-、ClO4-、またはBF4-であってもよいし、PF6-またはClO4-であってもよいし、ClO4-であってもよい。
【0033】
[式(2)で表される化合物の例]
上記式(2)において、R3は、メトキシカルボニル基(−COOCH3)またはエトキシカルボニル基(−COOC25)であってもよい。R4は水素原子または炭素数が1〜3個のアルキル基(たとえばメチル基またはエチル基)であってもよい。R5およびR6はそれぞれ独立に、炭素数が1〜3のアルキル基(たとえばメチル基またはエチル基)であってもよいし、芳香環であってもよい。たとえば、R5およびR6はそれぞれ独立に、フェニル基であってもよく、そのフェニルに基には炭素数が1〜3個のアルキル基(たとえばメチル基またはエチル基)が結合していてもよい。式(2)の化合物の一例では、R3がメトキシカルボニル基(−COOCH3)またはエトキシカルボニル基(−COOC25)であり、R4が水素原子であり、R5およびR6がそれぞれ芳香環(たとえばフェニル基)である。たとえば、上記式(2)で表される化合物は、以下の式(4)で表される化合物であってもよい。
【0034】
【化6】

【0035】
式(4)の化合物は、式(2)の化合物において、R4が水素原子であり、R5およびR6がそれぞれフェニル基である場合に該当する。
【0036】
式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物は、いずれも、光照射によって電荷移動(電荷分離を含む)を生じる。そのため、光照射によって化合物の分極が大きくなり、その結果、膜の誘電率が大きくなる。本発明の膜は、光照射によって誘電率を変化させることが可能な絶縁膜として、様々な分野に応用が可能である。
【0037】
膜の誘電率を変化させるために照射される光の波長は、化合物(L)に応じて選択される。具体的には、化合物(L)の分極状態を変化させることが可能な波長の光を含む光が照射される。照射される光は単色光であってもよいし、単色光でなくてもよい。式(1)で表される化合物の一例の分極状態を変化させることが可能な光の波長は、たとえば250nm〜800nmの範囲にある。式(2)で表される化合物の一例の分極状態を変化させることが可能な光の波長は、たとえば250nm〜400nmの範囲にある。
【0038】
本発明の膜の厚さには限定がなく、用途に応じて好ましい厚さを選択することが可能である。一例では、本発明の膜の厚さは、10nm〜100μmの範囲にあってもよく、0.5μm〜20μmの範囲にあってもよい。
【0039】
別の観点では、本発明の膜は、マトリックス(好ましくは絶縁性のマトリックス)と、そのマトリックス中に分散された化合物(L1)を含む。化合物(L1)は、光照射によって分極状態が変化する化合物であり、たとえば、光照射によって電荷移動(電荷分離を含む)が生じる化合物である。化合物(L1)の例には、光照射によって分極率が大きくなる化合物が含まれ、たとえば上述した化合物(L)が含まれる。化合物(L1)の好ましい一例は、電荷移動した状態(電荷分離状態)を一定の時間維持できる化合物である。マトリックスの例には上述した有機重合体(P)によって構成されるマトリックスが含まれるが、マトリックスは他の物質(たとえば絶縁性物質)で構成されていてもよい。
【0040】
[本発明の膜の製造方法]
本発明の膜の製造方法について特に限定はない。本発明の膜の製造方法の一例を以下に説明する。この一例は、以下の工程(i)および(ii)を含む。
【0041】
工程(i)では、有機重合体(P)および化合物(L)を含む溶液を調製する。溶液の溶媒は、有機重合体(P)および化合物(L)を溶解または分散させることができる溶媒である。この溶媒は、以下の工程(ii)において除去することが容易な溶媒であることが好ましい。溶媒の例には、アセトニトリルやクロロホルムが含まれる。化合物(L)は市販品であってもよく、東京化成工業株式会社などから入手することが可能である。また、後述する方法によって化合物(L)を合成することも可能である。
【0042】
工程(ii)では、工程(i)で調製した溶液を塗布したのち、溶液中の溶媒を除去する。工程(ii)によって本発明の膜が得られる。溶液の塗布方法に限定はなく、公知の塗布方法(たとえばスピンコート法)を用いてもよい。また、溶媒の除去方法に限定はなく、公知の乾燥方法(たとえば自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥)を用いてもよい。室温で揮発する溶媒を用いた場合には、溶液を塗布して放置することによって溶媒を除去することが可能である。すなわち、溶媒を除去する工程は、塗布された溶液を、溶媒が除去される雰囲気下で放置する工程であってもよい。
【0043】
[式(1)で表される化合物の合成方法]
式(1)で表される化合物は、公知の方法(たとえば特開2005−145853号公報に記載の方法)で合成できる。たとえば、後述する式(7)で示される過塩素酸9−メシチル−10−メチルアクリジニウム(または9−メシチル−10−メチルアクリジニウム過塩素酸塩)は以下の方法で合成することが可能である。
【0044】
まず、乾燥させた反応容器中において、脱水テトラヒドロフラン5mL中に臭化メシチレン2.0g(10mmol)とマグネシウム250mg(10mmol)とを投入して攪拌することによってグリニャール試薬を調製する。この反応は、常温常圧のアルゴン雰囲気下で行う。次に、10−メチルアクリドン1.0g(4.8mmol)の脱水ジクロロメタン溶液50mLを上記グリニャール試薬に加えて12時間攪拌する。次に、反応溶液に水を加えて加水分解を生じさせ、さらに過塩素酸水溶液を加える。得られた反応生成物をジクロロメタンで抽出し、メタノール/ジメチルエーテル混合液で再結晶化させる。このようにして、過塩素酸9−メシチル−10−メチルアクリジニウムが得られる。なお、出発材料を変えることによって、式(1)で示される他の化合物を合成することが可能である。
【0045】
[式(2)で表される化合物の合成方法]
式(2)で表される化合物は、公知の方法(たとえば特開2008−214328号公報に記載の方法)で合成できる。たとえば、以下の式(a)で示されるクマリンと以下の式(b)で示される化合物とを縮合反応させることによって合成できる。式(b)で表される化合物の一例は、以下の式(b’)で表される化合物である。
【0046】
【化7】

【0047】
[式(a)中、R3は上記式(2)のR3と同じである。Xはハロゲン原子である。]
【0048】
【化8】

【0049】
[式(b)中、R4〜R6はそれぞれ、上記式(2)のR4〜R6と同じである。]
【0050】
【化9】

【0051】
式(a)の化合物と式(b)の化合物との縮合反応は、パラジウム触媒の存在下で行ってもよい。パラジウム触媒としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、またはパラジウムアセテートを用いてもよい。上記縮合反応で用いられる溶媒に特に限定はなく、トルエン、酢酸やプロピオン酸等のカルボン酸、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、チオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル(1,2−ジメトキシエタン)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル等のエーテルを用いてもよい。
【0052】
上記縮合反応の反応温度および反応時間は特に限定されず、出発材料の反応性に応じて設定すればよい。反応温度は、80〜200℃の範囲にあってもよく、80〜130℃の範囲や90〜100℃の範囲にあってもよい。反応時間は、6〜48時間の範囲にあってもよく、8〜24時間の範囲にあってもよい。
【0053】
上述した式(4)の化合物は、たとえば、6−ブロモ−3−エトキシカルボニルクマリンと、式(b’)で表される4−(ジフェニルアミノ)フェニルボロン酸とを縮合反応させることによって合成できる。縮合反応の触媒にはテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどを用いることができ、溶媒にはトルエンなどを用いることができる。
【0054】
[電子デバイス]
本発明の電子デバイスは、本発明の膜を含み、光照射によってその膜の誘電率が変化することを利用する。そのため、本発明の電子デバイスは、その膜に光を照射することが可能な構成となっている。本発明の電子デバイスは、本発明の膜の誘電率を変化させることが可能な光を当該膜に照射するための光源をさらに備えてもよい。光源の例には、電球や発光ダイオードなどが含まれる。
【0055】
本発明の電子デバイスの例には、光センサ、イメージセンサ、および光スイッチが含まれる。また、本発明の電子デバイスの例には、光で制御可能な、メモリ、コンデンサおよびトランジスタが含まれる。以下に、本発明のコンデンサおよび電界効果トランジスタについて説明する。
【0056】
[コンデンサ]
本発明のコンデンサの一例を図1に示す。図1のコンデンサ10は、基板11と、基板11上に積層された第1の電極12、絶縁膜13および第2の電極14とを備える。絶縁膜13は、光照射によって誘電率が変化する本発明の膜である。
【0057】
基板11側から入射する光によって絶縁膜13の誘電率を変化させる場合には、少なくとも、基板11および第1の電極12が透光性である。また、第2の電極14側から入射する光によって絶縁膜13の誘電率を変化させる場合には、少なくとも第2の電極14が透光性である。この明細書において、「透光性」とは、絶縁膜13の誘電率を変化させる波長の光を透過させることができる特性を意味する。
【0058】
基板11、第1の電極12、および第2の電極14は、公知の材料で形成できる。透光性の基板の例には、ガラス基板が含まれる。透光性の電極の例には、酸化インジウムスズ(ITO)、ZnO、SnO2といった透光性の導電膜や、薄い金属膜が含まれる。透光性が必要とされない場合の電極の例には、金属膜が含まれる。
【0059】
絶縁膜13に光を照射すると、絶縁膜13の誘電率が大きくなってコンデンサ10の容量が増大する。また、光照射している状態から光照射を停止すると、絶縁膜13の誘電率が小さくなってコンデンサ10の容量が減少する。そのため、本発明のコンデンサは、光によって容量を制御できるコンデンサとして用いることができる。
【0060】
[電界効果トランジスタ]
本発明の電界効果トランジスタの一例は、半導体層、ゲート絶縁膜、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極を備える。ソース電極およびドレイン電極はそれぞれ、半導体層に接続されている。ゲート絶縁膜は、半導体層とゲート電極との間に配置されている。ゲート絶縁膜は、光照射によって誘電率が変化する本発明の膜である。本発明の電界効果トランジスタの典型的な一例は、本発明の膜をゲート絶縁膜として用いた薄膜トランジスタである。
【0061】
本発明の薄膜トランジスタの一例を、図2に示す。図2の薄膜トランジスタ20は、ガラス基板21、ゲート電極22、ゲート絶縁膜23、半導体層(活性層)24、ソース電極25およびドレイン電極26を備える。ゲート電極22、ゲート絶縁膜23および半導体層24は、この順序でガラス基板21上に積層されている。ソース電極25およびドレイン電極26は、半導体層24上に形成されている。
【0062】
ゲート絶縁膜23は本発明の膜である。半導体層24を構成する材料に限定はなく、有機半導体材料を用いてもよいし、無機半導体材料を用いてもよいし、複合材料を用いてもよい。ゲート電極22は透光性の電極であり、上述した透光性の電極を用いることができる。ゲート絶縁膜23の誘電率を変化させるための光は、ガラス基板21側から照射され、ガラス基板21およびゲート電極22を透過してゲート絶縁膜23に到達する。
【0063】
薄膜トランジスタ20では、ゲート電極22に印加する電圧によって、ソース・ドレイン間を流れる電流量が変化する。ゲート電極22に電圧(ゲート電圧)が印加されると、半導体層24に電荷が蓄積され、ソース・ドレイン間を流れる電流値が増大する。薄膜トランジスタ20において、所定のゲート電圧によって半導体層24に蓄積される電荷は、ゲート絶縁膜23の誘電率に比例する。すなわち、ゲート絶縁膜23の誘電率が大きくなると、所定のゲート電圧によって半導体層24に蓄積される電荷が増える。そのため、薄膜トランジスタ20では、ゲート電圧だけでなく、ゲート絶縁膜23に光照射することによっても、ソース・ドレイン間を流れる電流値を制御できる。
【0064】
なお、図2にはボトムゲート型の薄膜トランジスタについて示したが、本発明の薄膜トランジスタはトップゲート型の薄膜トランジスタであってもよい。その場合には、基板とは反対側から光を照射することによってゲート絶縁膜23の誘電率を変化させることが可能である。
【0065】
本発明の電界効果トランジスタ(たとえば薄膜トランジスタ)は、光センサや光スイッチとして用いることができ、また、トランジスタ型メモリとして用いることもできる。本発明の電界効果トランジスタをメモリとして用いる場合の一例では、光照射前のソース・ドレイン間電流と光照射後のソース・ドレイン間電流とを、バイナリ情報の“0”と“1”とに対応させる。
【実施例】
【0066】
本発明の実施例について以下に説明する。なお、以下の実施例で用いられた式(5)および式(6)の化合物は東京化成工業株式会社から入手した。また、以下の実施例で用いられた式(7)および式(4)の化合物は、先に述べた方法で合成した。
【0067】
[実施例1]
実施例1では、図1に示したコンデンサ10と同様の構造を有するコンデンサを作製した。まず、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)のアセトニトリル溶液(PMMA濃度:5重量%)を調製した。この溶液に対して以下の式(5)で表される化合物1(化合物名:過塩素酸9−フェニル−10−メチルアクリジニウム)を加えた。具体的には、PMMAのアセトニトリル溶液1gに対して、0.25mmolの化合物1を加えた。このようにして、モル比で[PMMAの構成単位(繰り返し単位)]:[化合物1]=2:1となる溶液を調製した。
【0068】
【化10】

【0069】
次に、調製された溶液を、ガラス基板上に形成されたITO膜上にスピンコート法によって塗布した。このようにして、化合物1を含むPMMA薄膜(厚さ1.1μm)を作製した。この薄膜上に、シャドーマスクを用いて面積が4mm2(2mm×2mm)のアルミ電極(厚さ50nm)を真空蒸着法によって形成した。このようにして、素子面積が4mm2(2mm×2mm)のコンデンサを得た。
【0070】
作製したコンデンサについて、ガラス基板側から光を照射しながら、100Hzにおける静電容量の変化を測定した。照射した光は、キセノンランプの光を分光器によって単色化した光(波長:424nm、光強度:200μW)である。静電容量は、LCRメータ(アジレント・テクノロジー株式会社製のAgilent 4284A プレシジョンLCRメータ)、および半導体パラメータアナライザ(Keithley 4200SCS)を用いて測定した。PMMA薄膜の誘電率(比誘電率εr)は、測定された静電容量Cを用いて次式から求めた。
【0071】
【数1】

【0072】
[式中、dはPMMA薄膜の厚さを示す。Sは素子の面積を示す。ε0は真空の誘電率を示す。]
【0073】
測定結果を図3に示す。図3に示すように、光照射前には5.0であった誘電率が、光照射100分後には7.1(非照射時の1.4倍以上)まで増加した。
【0074】
[実施例2]
実施例2では、図1に示したコンデンサ10と同様の構造を有するコンデンサを作製した。まず、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)のアセトニトリル溶液(PMMA濃度:5重量%)を調製した。この溶液に対して以下の式(6)で表される化合物2(化合物名:過塩素酸9−(2,6−ジメチルフェニル)−10−メチルアクリジニウム)を加えた。具体的には、PMMAのアセトニトリル溶液1gに対して、0.50mmolの化合物2を加えた。このようにして、モル比で[PMMAの構成単位]:[化合物2]=1:1となる溶液を調製した。
【0075】
【化11】

【0076】
次に、調製された溶液を、ガラス基板上に形成されたITO膜上にスピンコート法によって塗布した。このようにして、化合物2を含むPMMA薄膜(厚さ0.64μm)を作製した。この薄膜上に、実施例1と同様の方法でアルミ電極を形成した。このようにして、素子面積が4mm2(2mm×2mm)のコンデンサを得た。
【0077】
実施例2のコンデンサについて、光照射による誘電率の変化を測定した。誘電率の測定は、照射した光の波長が異なることを除いて実施例1と同様の方法で行った。実施例2では、波長が428nmの光(光強度:200μW)を照射した。測定結果を図4に示す。図4に示すように、光照射前には5.1であった誘電率が、光照射100分後には7.3(非照射時の1.4倍以上)まで増加した。
【0078】
実施例2のコンデンサについて、光照射を行わずに静電容量の変化を測定した。測定結果を図5に示す。この場合には静電容量は変化しなかった。
【0079】
[実施例3]
実施例3では、図1に示したコンデンサ10と同様の構造を有するコンデンサを作製した。まず、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)のアセトニトリル溶液(PMMA濃度:5重量%)を調製した。この溶液に対して以下の式(7)で表される化合物3(化合物名:過塩素酸9−メシチル−10−メチルアクリジニウム)を加えた。具体的には、PMMAのアセトニトリル溶液1gに対して、0.50mmolの化合物3を加えた。このようにして、モル比で[PMMAの構成単位]:[化合物3]=1:1となる溶液を調製した。
【0080】
【化12】

【0081】
次に、調製された溶液を、ガラス基板上に形成されたITO膜上にスピンコート法によって塗布した。このようにして、化合物3を含むPMMA薄膜(厚さ1.19μm)を作製した。この薄膜上に、実施例1と同様の方法でアルミ電極を形成した。このようにして、素子面積が4mm2(2mm×2mm)のコンデンサを得た。
【0082】
実施例3のコンデンサについて、光照射による誘電率の変化を測定した。誘電率の測定は、照射した光の波長が異なることを除いて実施例1と同様の方法で行った。実施例3では、波長が430nmの光(光強度:200μW)を照射した。測定結果を図6に示す。図6に示すように、光照射前には4.7であった誘電率が、光照射60分後には6.7(非照射時の1.4倍以上)まで増加した。
【0083】
[実施例4]
実施例4では、図1に示したコンデンサ10と同様の構造を有するコンデンサを作製した。まず、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)のクロロホルム溶液(PMMA濃度:5重量%)を調製した。この溶液に対して以下の式(4)で表される化合物4(化合物名:6−(4−ジフェニルアミノフェニル)クマリン−3−カルボン酸エチル)を加えた。具体的には、PMMAのクロロホルム溶液1gに対して、0.25mmolの化合物4を加えた。このようにして、モル比で[PMMAの構成単位]:[化合物4]=2:1となる溶液を調製した。
【0084】
【化13】

【0085】
次に、調製された溶液を、ガラス基板上に形成されたITO膜上にスピンコート法によって塗布した。このようにして、化合物4を含むPMMA薄膜(厚さ4.7μm)を作製した。この薄膜上に、実施例1と同様の方法でアルミ電極を形成した。このようにして、素子面積が4mm2(2mm×2mm)のコンデンサを得た。
【0086】
実施例4のコンデンサについて、光照射による誘電率の変化を測定した。誘電率の測定は、照射した光の波長が異なることを除いて実施例1と同様の方法で行った。実施例4では、波長が400nmの光(光強度:200μW)を照射した。測定結果を図7に示す。図7に示すように、光照射前には3.8であった誘電率が、光照射180分後には63.8(非照射時の16倍以上)まで増加した。
【0087】
一方、実施例4のコンデンサについて、光照射を行わずに誘電率の変化を測定した。測定結果を図8に示す。光照射なしでは誘電率の変化は見られなかった。
【0088】
[実施例5]
実施例5では、化合物4を含むPMMA薄膜の厚さが4.6μmであることを除き、実施例4と同様のコンデンサを作製した。
【0089】
実施例5のコンデンサについて、光照射による誘電率の変化を測定した。誘電率の測定は、照射した光が異なることを除いて実施例1と同様の方法で行った。実施例5では、LED光源から出射された光(波長365nm)を照射した。照射光の強度は900mW/cm2とした。光の照射は、約10秒間の照射と約10秒間の非照射とを交互に繰り返すことによって行った。
【0090】
測定結果を図9に示す。光照射前には3.7であった誘電率が、光照射開始から10秒後には最大で292.5(非照射時の70倍以上(より具体的には79倍以上))となった。また、誘電率の変化は光照射に応答しており、誘電率の増大が光によって誘起されていることが確認された。
【0091】
[実施例6]
実施例6では、図1に示したコンデンサ10と同様の構造を有するコンデンサを作製した。まず、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)のクロロホルム溶液(PMMA濃度:5重量%)を調製した。この溶液に対して以下の式(8)で表される化合物5(化合物名:6−(4−ジメチルアミノフェニル)クマリン−3−カルボン酸エチル)を加えた。具体的には、PMMAのクロロホルム溶液1gに対して、0.25mmolの化合物5を加えた。このようにして、モル比で[PMMAの構成単位]:[化合物5]=2:1となる溶液を調製した。
【0092】
【化14】

【0093】
次に、調製された溶液を、ガラス基板上に形成されたITO膜上にスピンコート法によって塗布した。このようにして、化合物5を含むPMMA薄膜(厚さ6.4μm)を作製した。この薄膜上に、実施例1と同様の方法でアルミ電極を形成した。このようにして、素子面積が4mm2(2mm×2mm)のコンデンサを得た。
【0094】
実施例6のコンデンサについて、実施例5と同様の方法によって、光照射による誘電率の変化を測定した。測定結果を図10に示す。光照射しないときには誘電率が低下し最小で4.7となった。また、光照射によって誘電率が上昇し最大で6.0(非照射時の1.2倍以上)となった。誘電率の変化は光照射に応答しており、誘電率の増大が光によって誘起されていることが確認された。実施例5で用いた化合物4と実施例6で用いた化合物5とを比較すると、化合物4を用いた方が誘電率の変化が大きかった。
【0095】
以上、本発明の実施の形態について例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず本発明の技術的思想に基づき他の実施形態に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、光照射によって誘電率を変化させることが可能な膜、およびそれを用いた光応答型の電子デバイスに利用できる。
【符号の説明】
【0097】
10 コンデンサ
11 基板
12 第1の電極
13 絶縁膜
14 第2の電極
20 薄膜トランジスタ
21 ガラス基板
22 ゲート電極
23 ゲート絶縁膜
24 半導体層
25 ソース電極
26 ドレイン電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機重合体と、前記有機重合体中に分散された化合物とを含む膜であって、
前記化合物が、以下の式(1)で表される化合物および以下の式(2)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である膜。
【化1】

[式(1)中、R1は、水素原子または炭素数が1〜10のアルキル基を示す。R2は、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基を示す。Xは陰イオンを示す。qは、Xの価数に等しい。]
【化2】

[式(2)中、R3は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、アルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アミノ基、オキシアミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、脂環、芳香環、および複素芳香環のいずれかを示す。R3が脂環、芳香環および複素芳香環のいずれかである場合には、それらの環に置換基が結合していてもよい。R4〜R6は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、脂環、芳香環、および複素芳香環のいずれかを示す。R4が脂環、芳香環および複素芳香環のいずれかである場合には、その環に置換基が結合していてもよい。R5が脂環、芳香環および複素芳香環のいずれかである場合には、その環に置換基が結合していてもよい。R6が脂環、芳香環および複素芳香環のいずれかである場合には、その環に置換基が結合していてもよい。]
【請求項2】
前記有機重合体中に分散された前記化合物が、以下の式(3)で表される化合物である、請求項1に記載の膜。
【化3】

[式(3)中、R7、R8およびR9は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を示す。Xは、PF6-、ClO4-、BF4-、SO42-、CO32-、またはPO43-を示す。qは、Xの価数に等しい。]
【請求項3】
前記有機重合体中に分散された前記化合物が、以下の式(4)で表される化合物である、請求項1に記載の膜。
【化4】

【請求項4】
前記有機重合体中に分散された前記化合物の電荷移動を生じさせる光を前記膜に照射したときの誘電率が、前記光を照射していないときの誘電率の1.2倍以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の膜。
【請求項5】
前記有機重合体がポリメタクリル酸メチルである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の膜。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の膜を含み、
光照射によって前記膜の誘電率が変化することを利用する電子デバイス。
【請求項7】
前記膜をゲート絶縁膜として用いた薄膜トランジスタである、請求項6に記載の電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−60830(P2011−60830A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205923(P2009−205923)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】