説明

光照射ラジカル耐候試験方法及び光照射ラジカル耐候試験機

【課題】光、温度、湿度等の劣化因子の他に、新たにラジカル化したガスも劣化因子に加えることによって、より自然環境下における劣化の再現性に優れ、かつ超促進性を有する耐候試験方法及びこの耐候試験方法を実施するための耐候試験機を提供する。
【解決手段】直方体または筒状の光透過性ガラスで形成された試験槽を垂直に設置し、真空排気ポンプで試験槽内の圧力を一定に保ち、試験槽の外壁に対向させた電極間に高周波放電を起こさせて、プラズマを発生させ、ラジカル化したガスを生成し、試料に接触させるとともに、光を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル化したガスと光を利用した耐候試験方法と、それを実施するための耐候試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原材料や製品の耐久性に関する品質向上はめざましく、長期に亘って劣化しないものもあり、従来の耐候試験機の劣化速度では遅すぎるという問題が生じている。そのため、劣化の促進性をさらに高めた耐候試験機が求められている。
【0003】
従来は、紫外線蛍光灯、紫外線カーボンアーク灯、サンシャインカーボンアーク灯、キセノンアークランプ、メタルハライドアークランプ等を利用した耐候試験機や過酸化水素を利用した耐候試験機などを使用していた。また最近、促進性に優れたリモートプラズマ耐候試験機が開発された。
【0004】
従来の耐候試験機は、その装置固有の条件すなわち、照射する分光分布、照射強度、温度、湿度、雰囲気の微量劣化作用成分などと、試料の劣化特性を考慮して選択、使用していた。
【0005】
リモートプラズマ耐候試験機は、減圧下で高周波電力を印加してプラズマを発生させ、ラジカル化したガスを生成し試料に作用させることによって試料の促進劣化を促すものである。
酸素ガスを利用した場合には、プラズマ中で、以下の状態変化が起こると考えられる。
+ e → O + O (1)
+ e → O- (2)

これら(1)、(2)は、一般に酸素ラジカルあるいは、活性酸素種と呼ばれるもので、非常に酸化力が強く、物質を劣化させる作用が強い。リモートプラズマ耐候試験機はこのメカニズムを利用して試料を劣化促進させるもので、試料劣化の速度がきわめて速い。
【0006】
しかしながら、前述の従来耐候試験機では、試験結果が得られるまでの期間が数ヶ月に及ぶものもある。また、急速に劣化が生ずる試験機はあるが、対象とする試料によっては自然環境下における暴露試験の結果と異なる挙動を示す試験装置がある。
【0007】
【特許文献1】特開2000−97842
【特許文献2】特開2001−208675
【特許文献3】特開2003−322607
【特許文献4】特開2004−212380
【特許文献5】特開2004−245724
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上に述べた耐候試験方法で試験を行った場合には、結果が明らかになるまでには長期間を要し、開発スピードの短縮が要求される今日においては、製品の開発計画に支障をきたすという問題がある。また、試料によっては、自然環境下における劣化の挙動と一致しないという問題がある。
【0009】
本発明はこのような従来の問題を解決するものであり、光、温度、湿度等の劣化因子の他に、新たに酸素などのラジカル化したガスを劣化因子として加えることによって、より自然環境に忠実な再現性を有し、かつ劣化因子の状態を実環境の場合より強化して超促進性を有する耐候試験を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
自然界では、空気中の酸素に紫外線を含んだ太陽光が作用することで、ラジカル化したガスである酸素ラジカルが常に生成しては消滅している。この酸素ラジカルは、酸化作用が強いので、自然界においても物質の劣化作用に影響していると考えられる。したがって、光、温度、湿度等の従来の劣化因子に、ラジカル化したガスも劣化因子として加えることで、より自然環境に近い再現性の高い耐候試験が可能となり、かつラジカル化したガスの量を増やすことでさらに劣化促進性の高い耐候試験が可能となる。
【0011】
この原理に基づいて、光、温度、湿度等の劣化因子の他に、新たにラジカル化したガスの劣化因子を加えた、より自然環境に近い優れた再現性を有し、かつ促進性に優れた耐候試験方法、及びこの耐候試験方法を実施するための耐候試験機を提供する。
すなわち、試料の表面を劣化促進させるために、光源から太陽光を模擬した光または劣化に寄与する波長を含む光と、高周波電力の印加によってプラズマを発生させ、ラジカル化したガスを生成し、試料表面に作用させる。
【0012】
本発明の耐候試験機は、紫外線透過率のよいガラスでできた直方体または筒状の試験槽を備え、その上端は封止されており、前記試験槽の外壁の近傍にプラズマを発生させるための一対の電極板が対向して設置され、高周波電源に接続されている。
前記試験槽の下端は開口されており、前記排気台に密着させて設置する。前記排気台には試料台を挿入するための貫通孔があり、前記排気台の下方から前記試料台を挿入する。前記試料台の一部は前記排気台と密着し、前記試験槽内の気密性を保持し、真空あるいは減圧状態に保つ構造になっている。
また、前記試験槽内に試料を装着するときは、試験を停止した状態で、試料台昇降装置により、前記試料台の上部を前記排気台の下部より下に移動させ、試料を前記試料台に装着した後、試料台昇降装置で試料台を上昇させ、元の位置に戻す。
前記試験槽内は一定の低圧状態を保つため、バルブを介して真空排気ポンプと接続されている。
前記電極板より上部の前記試験槽の一部にはガス導入口があり、ガス流量計によって、一定流量のガスが前記試験槽内に送入される。
前記光源に用いる前記ランプは、紫外、可視部の分光分布が太陽光に近似したキセノンランプや、紫外部に多大なエネルギーを持つメタルハライドランプ、紫外部の特定の波長に豊富なエネルギーを持つ蛍光灯、カーボンアークランプ、発光ダイオードなどが考えられ、このうちのひとつ又は複数から採用される。これにより、太陽光を模擬した光または光照射劣化に寄与する波長を含む光を試料に照射することが可能となる。
また、所望の分光分布をもった光を照射する場合には、少なくとも一種類以上のフィルターを介して光を試料に照射することが好ましい。
また、照射強度を均一に調整する場合、または照射強度を調整する場合は、レンズを介して光を試料に照射することが好ましい。
ラジカル化したガスの生成は、前記ガス導入口からガスを導入しながら、前記試験槽内の圧力を一定に保ち、前記電極板に高周波電力を印加し、プラズマを発生させて行い、前記試験槽内の電極よりも下部の位置に流下する。前記試料台はこの位置の一部に存在する。
【0013】
光は、前記試験槽の上方から前記光透過性ガラスを介して、ほぼ垂直に試料に照射することが効率的であり、好ましい。
【0014】
また、円環状の光源を、前記試験槽の外周で、前記電極板と前記試料台の間に配置することにより、前記光源を試料に近づけ放射照度の高い均一な光を照射することが可能となる。
また、ひとつの円環状光源の代わりに、複数のランプを前記試験槽の外周に配置した構造でもよい。
【0015】
また例えば長方形状の試料を扱う場合、前記試料台に水平に広い面を接触させて装着すると安定するが、前記試料台に対して前記試料を垂直に装着することによって、前記試料の表裏に同時にラジカル化したガスを接触させ、前記試験槽の外部から光を試料面に照射することも可能である。このように、前記試料表裏に対して前記光源を対向して配置すると、光放射の効率が最大となる。
また、前記ひとつの円環状の光源を用いる場合、又は複数のランプを前記試験槽の外周に並べて配置する場合、前記試料の表裏を同時に光照射することが可能となる。
【0016】
さらに、前記試料台に回転機構を備え、水平方向に回転させることにより、前記試料へのラジカル化したガスの接触と光の照射を均一化することが好ましい。
また前記試料台に温度制御機構を設け、前記試料の温度を制御することがさらに好ましい。
【0017】
酸素ラジカルを利用するためには、前記ガス導入口から供給されるガスは、酸素又はその混合気体であることが好ましい。
【0018】
上記の光照射ラジカル耐候試験方法を実施するために、光照射ラジカル耐候試験機を開発した。

【発明の効果】
【0019】
促進劣化耐候試験において、従来から採用している光、温度、湿度等の劣化因子の他に、新たに酸素などのラジカル化したガスを劣化因子として加えることによって、より自然環境に忠実な再現性を有し、かつ超促進性を有する耐候試験が可能となったことによって、精度よく迅速に試料の耐候性を評価できる。

【実施例1】
【0020】
図1に本発明の耐候試験機の一例を示す。
耐候試験機本体は、ステンレス鋼などの耐腐食性材料から成り、直方体の光透過性ガラスで形成された試験槽10を垂直に設置し、試験槽10の外壁の一部に一組の電極板9を対向させ、電極板9より上部の位置で試験槽10の一部にガス導入口4を設け、電極板9より下部の試験槽10内部に試料台5を設け、試験槽10の下部に当接した排気台6はバルブを介して真空排気ポンプ7に連結される。試験槽10の下端をフランジ形状とし、O-リングを介して排気台6に密着させて設置する。図には示していないが排気台6には試料台5を挿入するための貫通孔があり、排気台6の下方から試料台5を挿入し、O-リングを介して試料台5と排気台6を密着させ、試験槽内10の気密性を保持する構造になっている。
また、試験槽10内に試料11を装着するときは、試験を停止した状態で、図には示していないが試料台昇降装置により、前記試料台5の上部を排気台6の下部より下方に移動させ、試料11を試料台5に装着する。装着後、試料台昇降装置で試料台5を上昇させ、元の位置に戻す。
実施例1では、光源1にキセノンアークランプを用いた。本試験機の場合は、円筒形のキセノンアークランプの長手方向を水平とし、光源1は、試験槽10外部の上方に設置する。試料11表面の放射強度を均一または変化させる場合にはレンズを介して光を照射する。図には示していないが、所定の波長を試料11に照射するために光源1と試料11の間に所定のフィルターとレンズを介在させる。
試験時には、高純度酸素をガスボンベ3からガス導入口4を介して試験槽10に導入し、試験槽10内の圧力を一定に保ち、電極板9に高周波電力を印加してプラズマを発生させ、酸素ラジカルを生成し、これを試料11に作用させると同時に、上部に設置した光源1から所定の分光分布を有する光を照射する。

試験条件
試料
:メラミンアルキッド樹脂系塗装板(赤)
酸素供給量
:0.5ℓ/分
試験槽内の真空度 :133Pa
高周波電源周波数 :13.56MHz
高周波電源電力定値 :50W
光源
:300Wキセノンアークランプ
試料表面の放射照度 :200W/m(波長300−400nm)
フィルター :石英
レンズ (兼フィルター) :BKガラス
試験時間
:30分

結果
(a)酸素ラジカルのみ : 色差(ΔEab) 0.1、 60度光沢値 93.7%→93.7%
(b)光照射のみ : 色差(ΔEab) 1.0、 60度光沢値 93.5%→93.4%
(c)酸素ラジカル+光 : 色差(ΔEab)16.9、 60度光沢値 93.3%→22.9%

(a)、(b)の条件では色差、光沢値ともに、ほとんど変化がみられなかったが、(c)の条件においては、著しい変化がみられた。
屋外暴露試験において、(c)の場合と同等の結果を得るためには、約9ヶ月を要する。
また、メラミンアルキッド樹脂系塗装板(赤)とともにメラミンアルキッド樹脂系塗装板(黄)およびメラミンアルキッド樹脂系塗装板(緑)の試料11に関しても同一の試験を行った結果、各(赤)、(黄)、(緑)の屋外暴露試験における劣化の傾向と(c)条件の結果はよい一致を得た。


【実施例2】
【0021】
ブルースケール8級を試料11とし、変退色用グレースケールで4号に退色する時間を求めた。

試験条件・結果 4号退色するまでに要する時間
(c)酸素ラジカル+光 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15分
試験条件
実施例1と同一
(d)光照射(降雨) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90時間
試験条件
試験機:キセノンウエザーメーター
光照射(48分)後、光照射+降雨(12分)を1サイクルとした。
放射照度:180W/m(波長300−400nm)
フィルター:石英+♯295
BPT温度:63℃
湿度:50%RH
(e)屋外暴露試験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 338日

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の光照射ラジカル耐候試験機の一例を示した図である。
【符号の説明】
【0023】
1 光源
2 ガス流量計
3 ガスボンベ
4 ガス導入口
5 試料台
6 排気台
7 真空排気ポンプ
8 高周波電源
9 電極板
10 試験槽
11 試料



【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の表面を劣化促進させるために、プラズマによってラジカル化したガスを試料に接触させると共に、太陽光を模擬した光または光照射劣化に寄与する波長を含む光を、前記試料表面に照射することを特徴とする耐候試験方法。

【請求項2】
直方体または筒状の光透過性ガラスで形成された試験槽を垂直に設置し、
前記試験槽の外壁の一部に一組の電極を対向させ、
前記電極より上部の位置で前記試験槽の一部にガス導入口を設け、
前記電極より下部の試験槽内部に前記試料を設置する試料台を設け、
前記試験槽外部に光源を設け、
試験槽の下端はバルブを介して真空排気ポンプに連結された構造から成る装置において、
前記ガス導入口からガスを供給し、前記試験槽内の圧力を一定に保ち、前記電極間に高周波電力を印加してプラズマを発生させ、前記ラジカル化したガスを生成することを特徴とする請求項1に記載の耐候試験方法。

【請求項3】
前記光源は、キセノンランプまたはメタルハライドランプまたは蛍光灯のうちのいずれか一つ又は複数であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の耐候試験方法。

【請求項4】
前記光源を前記試験槽の外部上方に設けたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の耐候試験方法。

【請求項5】
円環状の光源を前記試験槽の外周に配置したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の耐候試験方法。

【請求項6】
前記光源を前記試料に垂直に配置したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の耐候試験方法。

【請求項7】
前記試料台に回転機構を備えたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の耐候試験方法。

【請求項8】
前記ガス導入口から供給されるガスが、酸素であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の耐候試験方法。

【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の耐候試験方法を実施するための耐候試験機。

【図1】
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【公開番号】特開2008−139189(P2008−139189A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326799(P2006−326799)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000107583)スガ試験機株式会社 (28)
【Fターム(参考)】