説明

光照射試験方法および光照射試験装置

【課題】光照射のオンオフを繰り返す光照射試験において試料温度を適切に制御する方法およびそのための装置を提供する。
【解決手段】試料10に光照射を行う工程と、光照射を行わない工程とを少なくとも含む光照射試験方法であって、光が入射される保持槽15内に温度制御機構とその温度制御機構とは別の冷却用送風機構とを設け、光照射の有無および/または試料10の測定温度を起因として温度制御機構および/または冷却用送風機構を制御することによって試料の温度を調整することにより解決する。とりわけ、冷却用送風機構にボルテックスチューブ13が好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種工業材料、工業製品が光劣化する現象を評価するための光照射試験方法(光劣化加速試験方法)および、そのための光照射試験装置に関する。特に試料として光電変換素子を用いた場合に、その光電変換素子の光劣化加速試験に好適に用いることのできる光照射試験方法およびそのための光照射試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外に暴露されうる各種工業材料、工業製品は太陽光により光劣化、加熱劣化することがしばしば見受けられる。例えば、太陽電池に代表される光電変換素子においても熱や光照射により特性が変化することが知られている。とりわけ、アモルファス系太陽電池(アモルファスシリコン(a−Si)太陽電池、アモルファスシリコンゲルマニウム(a−SiGe)太陽電池、アモルファスゲルマニウム(a−Ge)太陽電池等)の特性は、光の照射により出力特性が劣化し、逆に熱を加えると出力特性が回復することが知られている(ステブラー・ロンスキー効果)。そのため、光照射による光電変換素子の特性劣化を評価するため、光電変換素子の温度一定の条件のもと強光度の光を照射し、劣化加速試験が行われている。その際、光照射の効果と熱の効果を切り分けるため、光電変換素子の温度を一定に保つことがきわめて重要である。
【0003】
また昼夜変動による劣化・回復をシミュレートするため、試料(光電変換素子)の温度制御した上で光のオンオフを繰り返す光照射試験方法(明暗サイクル試験)がある。例えば非特許文献1には一日の日射・温度変化を考慮して、a−Si系太陽電池における一昼夜相当の外部環境暴露を8分(4分の光照射状態と4分光非照射状態)に加速できることが開示されている。結果、1日相当を8分、1年相当を36.5時間でシミュレートでき、従前困難であった昼夜変動・季節変動を適切に評価できることが開示されている。なお、非特許文献1記載の光照射試験方法では試料の温度は電子冷却素子(いわゆるペルチェ素子)を用いて制御している。
【0004】
また、特許文献1には、ランプバンクと、冷却装置と空調機を含む温度調節部とを備えるソーラーシミュレータが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、風を送り得る通風装置と、冷却装置と、測定機器類取付部とを備える模擬太陽実験装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−215015号公報
【特許文献2】実開昭60−145472号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】The Journal of Reliability Engineering Association of Japan Vol.18 No.4 (1996)猪狩、中野、能勢、高久、松田 「a−Si系太陽電池明暗サイクル光加速劣化試験方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者は光のオンオフを繰り返すことによる昼夜変動をシミュレートする光照射試験方法(明暗サイクル試験)について詳細に検討したところ、光のオフ状態からオン状態に切り替わる時および光のオン状態からオフ状態に切り替わる時に試料の温度が大きく変化し、試験の間、試料温度を一定に制御することが困難であることが分かった。また発明者は非特許文献1記載の方法と同様にして、恒温槽内に電子冷却素子(いわゆるペルチェ素子)を配置し、ペルチェ素子上に試料を設置する構成で明暗サイクル試験を試みたところ、試料とペルチェ素子との密着性により温度プロファイルが大きく異なり、再現性のよい温度制御が困難であることがわかった。本発明はかかる事情を鑑み、光オンオフ切り替えに伴う試料の急激な温度変化を抑制することを主たる課題として、発明にいたったものである。
【0009】
ここで、先行特許文献と本願発明との課題および解決手段がまったく異なっていることを注意的に記載する。特許文献1にはランプバンクと冷却装置と空調機を含む温度調節部とを備えるソーラーシミュレータが開示されている。特許文献1の光照射試験装置は、一日の間に放射される「太陽光の経時的な変化に近似」できるようにした装置であり、照射光の連続的な光強度変化のみを考慮した装置である。実際、特許文献1図5によると、4時間をかけて、放射照度が0W/mから1120w/mへ連続的に変化するため、試料の温度制御が容易である。そのため特許文献1からは「光オンオフ切り替えに伴う急激な温度変化を抑制」という課題が想定され得ない。また、本願発明の要部たる「温度制御機構と、別体の冷却用送風機構との組み合わせ」は特許文献1の発明にはなんらの記載も示唆もない。
【0010】
また特許文献2には風を送り得る通風装置と冷却装置と測定機器類取付部とを備える模擬太陽実験装置が開示されているが、測定機器で測定したデータを冷却機構にフィードバックするという思想はまったく無い。「光オンオフ切り替えに伴う急激な温度変化を抑制のために、温度制御機構と、その温度制御機構とは別の冷却用送風機構との組み合わせる」点にその本質を有する本願発明とは課題も解決手段も異なる。また、本願発明は温度制御のため密閉系にて温度の精緻制御を試みているのに対し、特許文献2では「供試体取り付け部の周囲が外部に対して開放状態に構成」されており、温度制御に対する思想が相反するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は係る事情を鑑み、光のオンオフを繰り返すことによる昼夜変動をシミュレートする光照射試験方法において、試料の温度を精密に制御する方法を検討し、本発明に至った。第一の発明群は光照射試験方法(請求項1乃至5)であり、第二の発明群は光照射試験装置(請求項6乃至8)である。
【0012】
本発明の第1は、試料に光照射を行う工程と、光照射を行わない工程とを少なくとも含む光照射試験方法であって、
該試料を保持するための保持槽があり、
該保持槽には該保持槽内の雰囲気温度を一定温度に制御する温度制御機構と
該温度制御機構とは別の冷却用送風機構とが設けられ、
光照射の有無および/または試料の測定温度を起因として、
温度制御機構および/または冷却用送風機構を制御することによって
試料の温度を調整する機能を有することを特徴とする光照射試験方法、である。
【0013】
本発明の第2は、前記冷却用送風機構にボルテックスチューブを少なくとも含む、光照射試験方法、である。
【0014】
本発明の第3は、前記冷却用送風機構による冷風が試料の光入射面の裏側の面から送風されることを特徴とする前記の光照射試験方法、である。
【0015】
本発明の第4は、光照射を行う工程の時間および光照射を行わない工程の時間がいずれも少なくとも2分以上15分以下であることを特徴とする前記の光照射試験方法、である。
【0016】
本発明の第5は、試料に光照射を行う工程と、光照射を行わない工程とを少なくとも100回以上行うことを特徴とする前記の光照射試験方法、である。
本発明の第6は、保持槽と光源装置とを少なくとも有し、
該光源装置より放射される照射光が該保持槽に形成された光照射窓を介して該保持槽に取り込まれる構成であり、
該保持槽は槽内を一定温度に制御する温度制御機構、および、保持槽が有する温度制御機構とは別の冷却用送風機構が設けられ、
光照射を行う工程と光照射を行わない工程とを少なくとも交互に行い得る機構を備え、
該光源の光照射の有無および/または試料の測定温度を起因として
温度制御機構および/または冷却用送風機構を制御することにより試料の温度を調整する機構を有することを特徴とする、光照射試験装置、である。
本発明の第7は、前記冷却用送風機構がボルテックスチューブを少なくとも含むこと特徴とする前記の光照射試験装置、である。
本発明の第8は、前記冷風が試料の光入射面の裏側の面から送風されることを特徴とする前記の光照射試験装置、である。
【0017】
本発明は、また、以下のような態様を含む。
【0018】
1の発明は、試料に光照射を行う工程と、光照射を行わない工程とを少なくとも含む光照射試験方法であって、該試料を保持するための保持槽があり、該保持槽には該保持槽内の雰囲気温度を一定温度に制御する温度制御機構と該温度制御機構とは別の冷却用送風機構とが設けられ、光照射の有無に応じて温度制御機構および冷却用送風機構により試料の温度を調整する機能を有することを特徴とする光照射試験方法である。
【0019】
2の発明は、試料に光照射を行う工程と、光照射を行わない工程とを少なくとも含む光照射試験方法であって、該試料を保持するための保持槽があり、該保持槽には該保持槽内の雰囲気温度を一定温度に制御する温度制御機構と該温度制御機構とは別の冷却用送風機構と該試料の温度を測定する温度測定機構とが設けられ、該温度測定機構により測定された試料温度に応じて、温度制御機構および冷却用送風機構により試料の温度を調整する機能を有することを特徴とする光照射試験方法である。
【0020】
3の発明は光照射を行う工程の時間および光照射を行わない工程の時間がいずれも少なくとも2分以上15分以下であることを特徴とする1または2記載の光照射試験方法である。
【0021】
4の発明は、試料に光照射を行う工程と、光照射を行わない工程とを少なくとも100回以上行うことを特徴とする1乃至3記載の光照射試験方法である。
【0022】
5の発明は、前記冷風が前記試料に光が照射される面の裏側の面から送風されることを特徴とする1乃至4記載の光照射試験方法である。
【0023】
6の発明は、保持槽と光源装置とを少なくとも有し、該光源装置より放射される照射光が該保持槽に形成された光照射窓を介して該保持槽に取り込まれる構成であり、該保持槽は槽内を一定温度に制御する温度制御機構、および、保持槽が有する温度制御機構とは別の冷却用送風機構が設けられ、該光源の光照射の有無に応じて温度制御機構および冷却用送風機構により試料の温度を調整する機能を有することを特徴とする光照射試験装置である。
【0024】
7の発明は保持槽と光源装置とを少なくとも有し、該光源装置より放射される照射光は該保持槽に形成された光照射窓を介して前記保持槽に取り込まれる構成であり、該保持槽は槽内を一定温度に制御する温度制御機構、保持槽が有する温度制御機構とは別の冷却用送風機構、および、試料の温度を測定する温度測定機構が設けられ、該温度測定機構により測定された試料温度に応じて、温度制御機構および冷却用送風機構により試料の温度を調整する機能を有することを特徴とする光照射試験装置である。
【0025】
8の発明は前記冷風が前記試料に光が照射される面の裏側の面から送風されることを特徴とする6または7記載の光照射試験装置である。
【0026】
9の発明は前記冷却用送風機構がボルテックスチューブを少なくとも含むこと特徴とする6乃至8記載の光照射試験装置である。
【発明の効果】
【0027】
請求項1乃至5記載の方法により、光照射のオンオフを繰り返すことによる昼夜変動をシミュレートする場合において試料の温度を適切に制御することができる。また、請求項6乃至8記載の装置を用いることにより、光照射のオンオフを繰り返すことによる昼夜変動をシミュレートする場合において試料の温度を適切に制御することができる。本発明にかかる光照射試験方法および光照射試験装置を用いることで、一定温度のもと光をオンオフした場合に各種工業材料、工業製品(とりわけ光電変換素子)が光劣化する現象を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例1に係る光照射試験装置の構成図である。
【図2】本発明の実施例1に係る光照射試験装置を用いて、光照射試験を行った場合の試料(光電変換素子)の温度変化の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(装置の全体構成)
本発明に係る光照射試験装置は光照射のオンオフを繰り返した場合でも、試料の温度を一定に制御できるところにその本質がある。装置は主に保持槽と光源装置とから構成される。保持槽には、光源装置より放射される照射光を取り込む光照射窓が形成されており、光源装置より照射された光は光照射窓を通って保持槽に入射される。保持槽には光照射試験の対象たる試料(光電変換素子)が保持され、光照射される構成となっている。
【0030】
保持槽は槽内を一定温度に制御することができる温度制御機構を有している。温度制御機構を有する保持槽としては、市販されている恒温槽を用いることができる。保持槽は湿度制御機構が設けられていても良い。その場合、実施態様のひとつとして湿度を0%以上かつ5%以下、より好ましくは、0%以上かつ1%以下に保持できることが好ましい。なぜなら、試料を冷却用送風機構で冷却した場合、試料に結露が発生するためである。また、別の実施態様として、耐光耐湿試験を実施する場合には湿度を70%以上かつ100%以下、より好ましくは80%以上かつ100%以下に保持できることが好ましい。
【0031】
保持槽には保持槽が有する温度制御機構とは別の冷却用送風機構が設けられる。保持槽に設けられた試料台には試料の温度を測定する温度測定機構が設けられていることが好ましい。温度測定機構としては、保持槽内で試料の温度を測定できるものであれば特に制限がないが、熱電対、放射温度計等が用いられる。
【0032】
(光源)
光照射の光源としては光照射可能な発光素子であれば特段制限はない。例えば、ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、タングステンランプ、水銀ランプ、ナトリウムランプ等が上げられる。また、LED、各種レーザーを用いても良い。
【0033】
さらには、これらの発光素子を複数組み合わせたものであってもよい。擬似太陽光線による光電変換素子の劣化の加速試験を行うという観点から、JIS C8942においてクラスC相当、より好ましくはクラスB以上、もっとも好ましくはクラスAのスペクトル合致度を有する光源が好ましい。そのためには、キセノンランプまたは、キセノンランプとハロゲンランプの組み合わせが特に好ましい。また、より太陽光に近似させるため、エアマスフィルターおよび/または輝線カットフィルタを用いることも好ましい実施態様である。
【0034】
光照射光強度は100mW/cm2以上が好ましく、200mW/cm2以上がさらに好ましく、350mW/cm2以上が好ましい。なぜなら、100mW/cm2が通常地上に照射される太陽光線の放射照度であり、100mW/cm2未満の照度では光劣化の加速とならないためである。また、これまでの公知文献に拠るとアモルファス系太陽電池に関しては、200mW/cm2以上では少なくとも4倍程度の光劣化の加速が期待され、350mW/cm2以上では少なくとも10倍程度の光劣化の加速が期待できるためである。
【0035】
光劣化の加速という観点では光照射光強度は強ければ強いほど良いが、別の技術的困難のため最適な光照射光強度には上限が存在する。すなわち、光照射光強度は1000mW/cm2以下が好ましく、500mW/cm2以下がさらに好ましい。なぜなら、光照射光強度が1000mW/cm2より大きい場合、光源のランプの劣化が激しく、連続して500時間以上の光劣化加速試験を行えないためである。また、光照射光強度が500mW/cm2より大きい場合、光照射に伴う試料の温度上昇が大きく、本発明にかかる構成をもってしても温度制御に困難なケースもあるためである。
【0036】
連続光照射は500時間以上、より好ましくは1000時間以上できることが好ましい。アモルファス系太陽電池に関しては、350mW/cm2の光照射で10年相当の光劣化加速を行うには500時間以上の連続照射が必要であり、350mW/cm2の光照射で20年相当の光劣化加速を行うには1000時間以上の連続照射が必要であるためである。
【0037】
光照射光強度を一定に保つため、照射光強度をモニターし、検出した光強度に応じて発光素子に流れる電流を調整するフィードバック回路を設けることが好ましい。試料への照射光強度を一定に保つ上で有用であるからである。
【0038】
照射光をインテグレータレンズまたは魚眼レンズ(フライアイレンズ)を介して試料に照射することは、試料への照射光強度ムラを無くする上で有用である。
【0039】
光照射のオンオフとしては、光源への電源供給のオンオフによる制御や、導光路に対してシャッターを設けてその開閉による制御があるが、シャッターによる制御が好ましい。なぜなら、光源への電源供給のオンオフによる制御では光源素子の劣化を早めるとともに、照射光のスペクトルおよび強度が安定しないためである。
【0040】
(光照射工程)
本発明に係る光照射試験方法では試料(とりわけ、光電変換素子)に光照射を行う工程(明工程)と、光照射を行わない工程(暗工程)とを少なくとも含む。明工程および暗工程は少なくとも100回以上、好ましくは500回、もっとも好ましくは4000回以上行うことが好ましい。それぞれ、3カ月程度、1年程度、10年程度の光照射加速試験を行うには明工程および暗工程を上述の回数以上を繰り返し行う必要があるためである。
【0041】
明工程の時間および暗工程の時間がいずれも30分以下である場合に、本発明の構成が課題解決に顕著に寄与する。なぜなら、明工程の時間および暗工程の時間が30分より大きいの場合、光非照射状態から光照射状態への切り替え(以下暗明切り替えと記す)および光照射状態から光非照射状態への切り替え(以下明暗切り替えと記す)に伴い、試料温度が所望の試料温度から外れる時間が生ずるものの、その外れる時間よりも、温度が落ち着き平衡温度に達している時間のほうが十分に長くなるため、明暗切り替えおよび暗明切り替えに伴う温度変化の影響が軽微であるためである。
【0042】
明工程の時間および暗工程の時間がいずれも2分以上である場合に、本発明の構成が課題解決に顕著に寄与する。なぜなら、明工程の時間および暗工程の時間が2分未満の場合、明工程で試料の温度上昇が始まる前に暗工程に移り、また、暗工程で試料の温度降下が始まる前に明工程に移るため、温度制御が容易となるためである。
【0043】
(温度制御機構と光照射試験方法)
すでに述べたとおり保持槽には保持槽が有する温度制御機構とは別の冷却用送風機構が設けられる。そして、光照射のオンオフ制御機構、保持槽が有する温度制御機構および冷却用送風機構を連動させることにより、光照射に応じて該試料に対して冷風を吹きつけ該試料の温度調整をする。また、必要に応じて試料の温度を測定する温度測定機構も連動させることが好ましい。
【0044】
冷却用送風機構は試料の光照射面の裏面側に位置し、冷風が試料に光が照射される面の裏側の面から送風される構成であることが好ましい。冷却用送風機構が照射光に干渉することなく、試料を均一に冷却するためには係る構成が最適であるためである。
【0045】
冷却用送風機構としてはボルテックスチューブが好ましい。なぜなら、十分な冷却能を有するだけの冷風を発生させられるとともに、送風状態と無風状態の切り替えを瞬時に行えるためである。
【0046】
好ましい試料温度制御の態様としては、光源の光照射の有無および/または試料の測定温度に応じて温度制御機構および冷却用送風機構を調整する機能を有することにより、試料の温度調整を行う。以下にいくつかの具体的な温度調整態様のパターンを示すが、これらに限定されるものでなく、どれだけ温度を精緻制御する必要があるかに応じて、これら以外の温度調整態様も選択される。
具体的な試料温度調整態様の第一として、明工程では冷却用送風機構を稼動させ、暗工程では冷却用送風機構を停止させる。また、明工程および暗工程を通じては温度制御機構の温度設定は一定とする。
【0047】
具体的な試料温度調整態様の第二としては、光照射時には冷却用送風機構を稼動させるとともに、温度制御機構を槽内温度をより下げる設定で稼動させる。一方、光非照射時には冷却用送風機構を停止させるとともに、温度制御機構を槽内温度をより上げる設定で稼動させる。本態様は第一の態様に比べてより精密に温度制御できる。
【0048】
具体的な試料温度調整態様の第三としては、上述の第一および第二の実施態様に加えて、暗明切り替え時および、明暗切り替え時には温度制御機構および冷却用送風機構のそれぞれの温度制御条件を連続的に変化させる。本態様は第一、第二の態様に比べてより精密に温度制御できる。
【0049】
また、別の好ましい試料温度調整態様としては、温度測定機構により測定された試料温度に応じて、温度制御機構および冷却用送風機構を調整する機能を有することにより試料の温度調整を行う。
【0050】
より具体的な試料温度調整態様の第一としては、光照射時には試料の温度と所望の温度との差に基づき、冷却用送風機構の冷風量の大小および/または、温度制御機構の設定温度を、よりその差が小さくなるよう自動調整させる。一方、光非照射時には冷却用送風機構を停止させるとともに、光照射時には試料の温度と所望の温度との差に基づき、温度制御機構の設定を、よりその差が小さくなるよう自動調整させる。
【実施例】
【0051】
(装置図)
以下、本発明の実施例を図1を用いて説明する。図1は実施例の要部平面図である。本実施例にかかる装置は主に光源装置1と保持槽15とから構成される。光源装置1内部には光源1として、1.6kWのキセノンランプ(UXL−1600SX、ウシオ電機株式会社製)を配置した。光源1の周囲には集光鏡3が配置してある。光源より放射状に照射された光は集光鏡3により光源1の上部に設けられた第一鏡体4へと導かれる。なお、光源1の周囲には送風機が設けられ、光源1および周辺部材を冷却し外部に排気される(図示せず)。
【0052】
第一鏡体4により反射された光はインテグレータレンズ5およびA.M.1.5フィルター7を介して第二鏡体8に導かれる。インテグレータレンズ5により放射照度がより均一になる。また、A.M.1.5フィルター7は照射光のスペクトルを太陽光のスペクトルに近似させるための分光フィルターである。A.M.1.5フィルター7により照射光スペクトルと太陽光スペクトル(エアマス1.5)との合致度はJIS C8942においてクラスC相当となった。
【0053】
インテグレータレンズ5とA.M.1.5フィルター7との間にはシャッター6が設けられ、適時開閉を制御することにより、光照射のオンオフを制御することができる。
【0054】
なお、図面には図示していないが、ビームスプリッターを第一鏡体4とインテグレータレンズとの間に設け、照射光の一部を取り出してフォトダイオードにより光強度をモニターしている。さらに、モニターした光強度が一定になるように光源に流れる電流を調整するフィードバック回路を設けている。これにより、経時劣化により照射光強度が減衰する光源を用いた場合でも、常に一定照度で光照射を行うことができる。
【0055】
第二鏡体8に導かれた光はコリメータレンズ9を通して、光源装置1から恒温槽15に入射する。恒温槽15の上部には光源装置1からの光を導くための光照射窓14が設けられている。コリメータレンズ9から光照射窓14にかけての周縁は金属製の黒色遮光部材で覆われており、光の漏れを防止するとともに恒温槽からの熱漏れを防止する。
【0056】
保持槽15はエスペック社製恒温恒湿器(プラチナスKシリーズ)の上部に光照射窓14を設けたものを用いた。恒温槽内部には温度センサーが設けられており、槽内の温度を一定に制御できるようになっている。
【0057】
恒温槽内には光劣化加速試験に供せられる試料(光電変換素子)を設置するための試料台11が配置されている。試料台11はSUS製の金網から成る。さらに試料台の4隅および中央部には熱電対が取り付けられ、試料台11に乗せた試料に直接接触して試料温度を測定できるようにした。試料台11上は光照射窓14から光を照射した場合にはおよそ直径20cmの真円の範囲にわたり照射される。試料台11の下面には冷風分散板12および3本のボルテックスチューブ13が配置されている。冷風分散板12は15センチメートル角の金属板で、表面には縦横に直径1mmの穴が1cm間隔で形成されている。ボルテックスチューブ13から送風される冷気は、冷風分散板12に形成された穴を介して、試料台11上に設置された光電変換素子を冷却する。冷風分散板12が存在しなかった場合、ボルテックスチューブからの強い冷風が局所的に光電変換素子に当たることにより、光電変換素子の温度ムラが生じやすいが、冷風分散板12が存在した場合、試料台11上の試料の15センチメートル角の領域を均一に冷却することが可能となる。冷風分散板12から試料(光電変換素子)10までの距離は1.5cmとした。
【0058】
(光劣化加速試験パターン1)
試料台11での光放射強度は350mW/cm2(ミリワットパー平方センチメートル)に設定した。5分間光照射、5分間光非照射を1サイクルとして、5サイクルを試料(光電変換素子)の温度を20度に制御することを試みた。試料として10センチ角の光電変換素子を用い、試料台11に固定した。光電変換素子の裏面には4隅および中央部に熱電対を取り付け、5秒ごとの温度プロファイルを測定できるようにした。光照射時にのみボルテックスチューブが動作するとともに、恒温槽の循環空気温度は、光照射時には17度、光非照射時には20度になるように制御した。図2は光電変換素子の中央および四隅に取り付けた5個の熱電対の温度プロファイルを示している。光のオンオフ時にも温度の急激な変化を抑え、試料の全面で温度を18度から22度の間に保持できたことが分かる。
【0059】
また、光電変換素子としてアモルファスシリコン太陽電池を用いて100サイクルを行い、試験前後の太陽電池の出力特性を比較したところ、20度、350mW/cm2での光照射を500分行った場合に想定される出力特性の劣化が観測された。このことから、温度および放射照度を制御することによって、昼夜の効果を加味した光劣化加速試験ができることがわかる。
【0060】
(光劣化加速試験パターン2)
試料台11での光放射強度は350mW/cm(ミリワットパー平方センチメートル)に設定した。5分間光照射、5分間光非照射を1サイクルとして、5サイクルを試料(光電変換素子)の温度を20度に制御することを試みた。試料として10センチ角の光電変換素子を用い、試料台11に固定した。光電変換素子の裏面には4隅および中央部に熱電対を取り付け、5秒ごとの温度プロファイルを測定できるようにした。恒温槽の循環空気温度は、光照射時には17度、光非照射時には20度になるように制御した。光電変換素子の温度がある基準温度を超えた場合ボルテックスチューブが動作するとともに、光照射状態から光非照射状態に変わる場合にボルテックスチューブが停止するように、プログラムを設定した。光劣化加速試験パターン1と同様の光照射試験を行ったところ、光劣化加速試験パターン1と同程度に光オンオフ時の温度制御が可能であった。
【0061】
(比較例1)
光劣化加速試験パターン1において、試料台11、冷風分散板12およびボルテックスチューブ13に代えて、ペルチェ素子からなる試料台を用いたことを除いては、実施例1記載と同様にして光劣化加速試験を行った。しかし、試料とペルチェ素子の密着性にムラがあるために、試料全面を均一に温度制御することができなかった。また、冷却能力が不十分なため、光非照射状態から光照射状態へ切り替わる際に試料の温度上昇を抑えることができなかった。
【0062】
また、電変換素子としてアモルファスシリコン太陽電池を用いて100サイクルを行い、試験前後の太陽電池の出力特性を比較したところ、20度、350mW/cm2での光照射を500分行った場合に想定される出力特性の劣化より有意に劣化が少なかった。これは、光照射による温度上昇により、アモルファスシリコン太陽電池の出力が回復したことを示している。よって、適切に温度制御した光劣化加速試験ができていないことがわかる。
【符号の説明】
【0063】
1.光源装置
2.光源
3.集光鏡
4.第一鏡体
5.インテグレータレンズ
6.シャッター
7.A.M.1.5フィルター
8.第二鏡体
9.コリメータレンズ
10.試料(光電変換素子)
11.試料台
12.冷風分散板
13.ボルテックスチューブ
14.光照射窓
15.保持槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に光照射を行う工程と、光照射を行わない工程とを少なくとも含む光照射試験方法であって、
該試料を保持するための保持槽があり、
該保持槽には該保持槽内の雰囲気温度を一定温度に制御する温度制御機構と
該温度制御機構とは別の冷却用送風機構とが設けられ、
光照射の有無および/または試料の測定温度を起因として、
温度制御機構および/または冷却用送風機構を制御することによって
試料の温度を調整する機能を有することを特徴とする、光照射試験方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光照射試験方法であって、前記冷却用送風機構にボルテックスチューブを少なくとも含む、光照射試験方法。
【請求項3】
前記冷却用送風機構による冷風が試料の光入射面の裏側の面から送風されることを特徴とする請求項1または2に記載の光照射試験方法。
【請求項4】
光照射を行う工程の時間および光照射を行わない工程の時間がいずれも少なくとも2分以上15分以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光照射試験方法。
【請求項5】
試料に光照射を行う工程と、光照射を行わない工程とを少なくとも100回以上行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光照射試験方法。
【請求項6】
保持槽と光源装置とを少なくとも有し、
該光源装置より放射される照射光が該保持槽に形成された光照射窓を介して該保持槽に取り込まれる構成であり、
該保持槽は槽内を一定温度に制御する温度制御機構、および、保持槽が有する温度制御機構とは別の冷却用送風機構が設けられ、
光照射を行う工程と光照射を行わない工程とを少なくとも交互に行い得る機構を備え、
該光源の光照射の有無および/または試料の測定温度を起因として
温度制御機構および/または冷却用送風機構を制御することにより試料の温度を調整する機構を有することを特徴とする、光照射試験装置。
【請求項7】
前記冷却用送風機構がボルテックスチューブを少なくとも含むこと特徴とする請求項6に記載の光照射試験装置。
【請求項8】
前記冷風が試料の光入射面の裏側の面から送風されることを特徴とする請求項6または7に記載の光照射試験装置。

【図1】
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【図2】
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