説明

光熱変換測定装置及びその方法

【課題】 試料の光熱効果による特性変化を,安定的に高精度で測定でき,さらに,消費電力の増加や高コスト化,S/N比の低下,測定時間の長時間化を防止しながら高感度で測定できること。
【解決手段】 試料5の光熱効果による屈折率変化を,試料を通過(透過)させた測定光P1における励起光P3の照射による位相変化を光干渉法を用いて測定することによって,即ち,参照光(P2)と測定光(P1)との位相差によって測定する。測定光P1及び励起光P3は,各々異なる方向から試料5の測定部5aに照射する。励起光P3はチョッパ2によって周期的に強度変調した光を用い,信号処理装置21によってその強度変調周期と同周期成分の位相変化を測定してS/N比を向上させる。さらに,測定光を反射ミラー6で試料に往復通過させることにより,高感度で試料の屈折率変化を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,試料の含有物質等を分析する際に用いられ,励起光を試料に照射したときの光熱効果により試料に生じる屈折率変化に基づく特性変化を測定する光熱変換測定装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種試料の含有物質等の分析において,分析感度の向上は,試薬の量の低減や試料の濃縮処理の簡素化,分析の効率化及び低コスト化を図る上で重要である。
ところで,試料に励起光を照射すると,その照射部は励起光を吸収することにより発熱し,これを光熱効果という。また,この発熱を測定することを光熱変換測定という。
従来,この光熱変換測定による試料の高感度分析法として,光熱効果により試料に形成される熱レンズ効果を用いた手法(以下,熱レンズ法という)が知られている。
熱レンズ法による分析装置(光熱変換分光分析装置)は,例えば,特許文献1に示されている。
図5は,特許文献1に示される熱レンズ法による試料の分析装置の構成図である(特許文献1の図1を引用)。なお,図5中の符号の一部は,後に説明する図1〜4における符号と重複する場合があるが,これらは異なる対象を指すものである。
図5に示されるように,励起光源10からの励起光Aは,チョッパ11で断続光に変換(即ち,周期的に強度変調)され,ビームエクスパンダ12,位置制御ミラー31,32,レンズ34及び顕微鏡35を介して試料40に照射される。これにより,試料40は励起光を吸収して発熱し,その屈折率が変化する。
この屈折率の変化は,検出光源20からの検出光B(測定光)により検出される。
検出光源20からの検出光Bは,ビームエクスパンダ22を介して励起光Aと同軸経路となって位置制御ミラー31,32で反射し,さらにレンズ34,顕微鏡35を介して試料40に照射される。そして,試料40を通過した検出光Bは,集光レンズ50により集光され,開口部51A(ピンホール)を通過して検出器53により受光され,その光強度が検出される。ここで,試料40の屈折率変化により検出光Bの試料40中の集光状態が変化するため,ピンホールを通過して得られる検出光の強度は,試料の屈折率の変化(即ち,試料の含有物質等に応じた光吸収量)に応じて変化する。この検出光Bの強度変化を測定することにより,試料の屈折率の変化を測定でき,その測定結果により試料の含有物質の量等を評価することができる。
特許文献1では,検出光Bの強度変化を高いS/N比(信号対雑音比)で検出するために,ロックインアンプ61によって励起光Aのチョッパによる断続周波数成分(強度変調周期の周波数成分)のみを検出している。
【特許文献1】特開平10−232210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら,前記熱レンズ法による試料の分析は,試料の発熱による屈折率変化を,測定光(検出光)の集光状態の変化による光強度(検出信号の強度)の変化によって検出するものであり,この光強度(検出信号強度)の変化は,試料の屈折率変化だけでなく,検出器53(光電変換手段)の受光位置や測定光の強度及びその強度分布等にも依存する。このため,再現性良く(安定的に)試料を分析(屈折率変化を測定)することが難しいという問題点があった。
また,測定感度を高めるためには,励起光の強度を増大させる,或いは試料通過後の測定光を通過させるピンホールの径を小さくする必要があるが,励起光強度の増大化は消費電力の増加,高コスト化を招き,ピンホールの小口径化は検出器での受光光量が減少によるS/N比の低下や測定時間の長時間化を招くという問題点もあった。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,試料の光熱効果による特性変化を,安定的に高精度で測定でき,さらに,消費電力の増加や高コスト化,S/N比の低下,測定時間の長時間化を防止しながら高感度で測定できる光熱変換測定装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明は,励起光が照射された試料の光熱効果により生じる試料の特性変化を測定する光熱変換測定装置又は光熱変換測定方法に適用されるものであり,前記試料の測定部に所定の方向(以下,第1の方向という)から測定光を照射するとともに,同じく前記試料の測定部に前記第1の方向と異なる方向(以下,第2の方向という)から励起光を照射し,前記試料の測定部を通過後の前記測定光の位相変化を光干渉法により測定する装置又は方法である。
このように,試料の光熱効果による屈折率変化(試料の温度上昇により生じる屈折率変化)の検出を,光干渉法を用いて,試料の測定部を通過(透過)させた測定光における位相変化(励起光の照射による位相変化)を測定することにより,即ち,参照光と測定光との位相差を測定することにより行えば,高精度で試料を分析することが可能となる。
例えば,装置ごとに光検出器(光電変換手段)の位置や測定光の強度及びその強度分布等が異なっても,測定中に変化さえしなければ,これらに依存することなく再現性高く(安定的に),しかも光学的に高精度で試料の屈折率変化(特性変化)を測定することが可能となる。
しかも,前記測定光及び前記励起光の測定部に対する照射方向が異なるので,前記励起光が,前記試料の測定部に至るまでの間に,その励起光によって発熱する等の特性変化が生じる物(以下,通過物という)を通過する場合であっても,前記測定光が前記通過物の特性変化が生じる部分を通過しないよう構成でき,前記励起光通過物の特性変化が雑音となって測定精度が悪化することを防止できる。
例えば,試料が容器(セル)に収容されることによって保持されている場合等,前記励起光が試料の保持部材(容器の壁等,前記通過物の一例)を通過して試料の測定部に照射される場合に有効である。
【0005】
また,前記第2の方向が,前記保持部材の表面に対して略垂直な方向であれば,前記保持部材が前記励起光によって加熱されて屈折率が変化し,試料の測定部に対する前記励起光の照射角度(照射方向)が微妙に変化して測定精度が悪化することを防止できるのでなお好適である。
また,一般に,試料を収容するセル(容器)は直方体を形成している場合が多いので,前記第1の方向と前記第2の方向とが略直交する方向であれば,前記測定光と前記励起光との各々をセルの壁(前記通過物或いは前記保持部材の一例)の表面に対して垂直入射させることができ,前記測定光や前記励起光がセルの壁(保持部材)を通過する際の屈折率を考慮する必要がない。従って,セルの壁が前記励起光によって加熱されて屈折率が変化し,測定精度が悪化することを防止できるので好適である。
【0006】
また,前記試料の前記測定光の照射面の反対面側に前記測定光を反射する裏面側光反射手段を設け,前記測定光が前記裏面側光反射手段に反射して前記試料の測定部を往復通過した後の前記測定光の位相変化を測定するものであれば,測定光が試料の励起部分を複数回通過するので,励起光の出力増大やS/N比の低下を伴うことなく,高感度で屈折率変化を測定することが可能となる。
また,前記励起光が周期的に強度変調された光であり,前記測定光の位相変化を前記励起光の強度変調周期と同周期成分について測定するものであれば,前記励起光の強度変調と同周期で試料の屈折率が変化するので,前記励起光の周波数成分を有しないノイズの影響を除去しつつ試料の屈折率変化のみを測定できる。これにより,前記位相変化の測定のS/N比が向上する。
また,前記励起光が波長ごとに異なる周期で強度変調された光の多重光であり,前記測定光の位相変化を前記励起光の各波長の強度変調周期と同周期成分それぞれについて測定するものが考えられる。
光熱効果による測定光の屈折率変化は,励起光の波長によっても異なり,試料の含有物質の種類によって各波長の励起光に対する光熱効果及び光熱効果による試料の屈折率変化も異なる。
従って,前記多重光を用いれば,1回の測定によって複数波長の測定光についての試料の屈折率変化を測定できるので,複数の異なる波長の励起光をそれぞれ照射して測定する場合に比べ,時間や手間の面で効率的な測定が可能となる。
【0007】
また,前記位相変化を測定する手段として,前記測定光とその測定光とは光周波数が異なる所定の参照光との干渉光の強度を光電変換する光電変換手段と,前記光電変換手段により得られた前記干渉光の強度信号に基づいて前記測定光の位相変化を算出する位相変化算出手段とを具備するものが考えられる。
このようにして得られる電気信号(干渉光の強度信号)は,光周波数が電気信号に変換された信号となり,その位相成分は,FM復調等により抽出できる。この抽出された位相成分には,試料の発熱による屈折率変化の信号が含まれる。また,参照光と測定光との位相変化を測定するので,光検出器(光電変換手段)の位置や測定光の強度及びその強度分布等に依存することなく再現性高く(安定的に),しかも光学的に高精度で試料の屈折率変化を測定することが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,試料の光熱効果による屈折率変化の検出が,光干渉法を用いて,試料の測定部を通過(透過)させた測定光における位相変化(励起光の照射による位相変化)を測定することにより,即ち,参照光と測定光との位相差を測定することにより行われるので,例えば,装置ごとに光検出器(光電変換手段)の位置や測定光の強度及びその強度分布等が異なっても,測定中に変化さえしなければ,これらに依存することなく安定的に,しかも光学的に高精度で試料の屈折率変化を測定することが可能となる。
しかも,前記測定光と前記励起光の照射方向が異なるので,前記励起光が,前記試料の測定部に至るまでの間に,その励起光によって発熱する等の特性変化が生じる物を通過する場合であっても,前記測定光が前記通過物の特性変化が生じる部分を通過しないよう構成でき,前記励起光通過物の特性変化が測定光に対する雑音となって測定精度が悪化することを防止できる。
さらに,測定光を光反射手段(ミラー等)で反射させるという簡易な構成によって,測定光を試料に往復通過させることにより,励起光の出力増大(即ち,消費電力の増加や高コスト化)やS/N比の低下を招くことなく高感度で試料の屈折率変化を測定できる。
以上の結果,安定的かつ高感度な試料分析を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態及び実施例について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態及び実施例は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は本発明の実施の形態に係る光熱変換測定装置Xの概略構成図,図2はセルに収容された試料の測定部に測定光及び励起光が入射される状態を3パターンの入射状態について表す図,図3は試料を収容するセルの構造の一例を表す図,図4は本発明の実施例に係る光熱変換測定装置における測定光を試料の表面と裏面との間で多重反射させる構成の概略断面図,図5は従来の光熱変換測定装置(光熱変換分光分析装置)の概略構成図である。
【0010】
以下,図1を用いて,本発明の実施の形態に係る光熱変換測定装置Xについて説明する。この光熱変換測定装置Xは,励起光が照射された試料の光熱効果により生じるその試料の特性変化を測定する装置である。
所定の励起光源1(例えば,波長533nm,出力100mWのレーザ(YAG倍波))から出力された励起光P3は,チョッパ2により所定周期の断続光(断続周波数:f)に変換(即ち,周期的に強度変調)され,これがレンズ3を通過して試料5に照射される。これにより,試料5が励起光P3を吸収して発熱し(光熱効果),その温度変化(上昇)によって試料5の屈折率が変化する。
一方,試料5の屈折率変化を測定するための測定光を出力するレーザ光源7(例えば,出力1mWのHe−Neレーザ)から出力された測定光は,1/2波長板8で偏波面が調節され,さらに偏光ビームスプリッタ(PBS)9によって互いに直交する2偏波(P1,P2)に分光される。
各偏波P1,P2は,各々音響光学変調機(AOM)10,11によって光周波数がシフト(周波数変換)され,ミラー12,13で反射された後,偏光ビームスプリッタ14によて合成される。これら直交する2偏波P1,P2の周波数差fbは,例えば,30MHz等とする。
合成された測定光の一方の前記偏波P2は,偏光ビームスプリッタ15を通過(透過)してミラー18に反射することにより,再度,偏光ビームスプリッタ15に戻る。ここで,偏光ビームスプリッタ15に戻ってきた前記偏波P2は,その偏光ビームスプリッタ15とミラー18との間に配置された1/4波長板16を往復通過することによってその偏波面が90°回転しているため,今度は偏光ビームスプリッタ15に反射して光検出器20の方向へ向かう。
【0011】
これに対し,合成された測定光の他方の前記偏波P1は,偏光ビームスプリッタ15に反射して,1/4波長板17及び前記レンズ4を通過して試料5の測定部5aに入射する。また,前記励起光P3も,試料5の測定部5aに照射されるよう構成されている。
さらに,試料5に入射した前記偏波P1(測定光)は,試料5の測定部5aを通過し,試料5の裏面側(測定光(偏波P1)の照射面の反対面側)に設けられた反射ミラー6で反射し,再び試料5の測定部5aを通過(即ち,往復通過)して,前記レンズ4及び前記1/4波長板17を通過して前記偏光ビームスプリッタ15へ戻る。ここで,前記偏波P1(測定光)は,前記1/4波長板17を往復通過することによってその偏波面が90°回転しているため,今度は偏光ビームスプリッタ15を通過して前記偏波P2と合流し,前記光検出器20の方向へ向かう。
前記偏光ビームスプリッタ15と前記光検出器20との間には偏光板19が配置され,この偏光板19において前記偏波P1と,該偏波P1と光周波数が異なる前記偏波P2とが,それぞれ観測光(測定光)と参照光として干渉し,その干渉光の光強度が前記光検出器20(光電変換手段)によって電気信号(以下,この電気信号の信号値を干渉光強度という)に変換される。この電気信号(即ち,干渉光強度)は,計算機等からなる信号処理装置21に入力及び記憶され,該信号処理装置21において前記偏波P1(測定光)の位相変化の演算(算出)処理(即ち,光干渉法による位相変化の測定)がなされる。ここで,前記偏波P1,P2を各々所定の方向へ導く光学系機器及び前記偏波P1,P2(測定光と参照光)の干渉光を形成させる前記偏光板19,並びに前記光検出器20と前記信号処理装置21とが,前記位相変化測定手段の一例を構成する。
【0012】
ここで,干渉光強度S1は,次の(1)式で表される。
S1=C1+C2・cos(2π・fb・t+φ) …(1)
この(1)式において,C1,C2は偏光ビームスプリッタ等の光学系や試料5の透過率により定まる定数,φは前記偏P1,P2の光路長差による位相差,fbは2偏波P1,P2の周波数差である。
(1)式より,前記干渉光強度S1の変化(前記励起光を照射しない或いはその光強度が小さいときとその光強度が大きいときとの差)から,前記位相差φの変化が求まることがわかる。前記信号処理装置21は,(1)式に基づいて前記位相差φの変化を算出する。
また,試料5の測定部5aにおいて,励起光P3を吸収する所定の含有物質の量に応じて吸熱量(発熱量)が変わり,その発熱量に応じて測定部5aの屈折率が変わり,その屈折率に応じて前記位相差φ(試料5中の前記偏波P1の光路長)が変わる。即ち,励起光P3を吸収する含有物質の量が多いほど,励起光P3の変化に対する前記位相差φの変化(即ち,前記偏波P1の位相変化)が大きい。従って,前記位相差φを測定すれば,試料5の温度変化により生じる屈折率の変化が求まり,その結果,試料の含有物質の量(濃度)の分析が可能となる。
例えば,当該光熱変換測定装置Xを用いて,予め所定の含有物質の量(濃度)が既知である複数種類のサンプル試料について前記位相差φの変化を測定し,その結果とその含有物質の量との対応づけを前記信号処理装置21にデータテーブルとして記憶しておく。
そして,測定対象とする試料についての前記位相差φの測定結果を前記データテーブルに基づいて補間処理等を行う等によりその含有物質の量を特定する処理を前記信号処理装置21により実行すればよい。
このように,試料5の光熱効果による屈折率変化を,光干渉法を用いて,試料5の測定部5aを通過(透過)させた測定光(前記偏波P1)における位相変化(励起光P3の照射による位相変化)を測定することによって,即ち,参照光(前記偏波P2)と測定光(前記偏波P1)との位相の相対評価(位相差)することによって検出(測定)する。これにより,例えば装置ごとに光検出器20の位置や測定光P1の強度及びその強度分布等が異なっても,測定中に変化さえしなければ,これらに依存することなく安定的に,しかも光学的に高精度で試料の屈折率変化を測定することが可能となる。
【0013】
また,本光熱変換測定装置Xでは,裏面側の前記反射ミラー6(前記裏面側光反射手段の一例)に測定光(偏波P1)を反射させることにより,測定光(偏波P1)を試料5に往復通過させ,その往復通過後の測定光について位相変化測定が行われるため,片道通過の場合の2倍の感度で前記位相差φの変化を測定できる。しかも,励起光の出力増大やS/N比の低下を伴わない。
さらに,前記励起光は周波数fで強度変調されているため,試料5の屈折率も周波数fで変化し,偏波P1の光路長も周波数fで変化し(偏波P2の光路長は一定),前記位相差φも周波数fで変化する。従って,前記位相差φの変化を,周波数fの成分(前記励起信号の強度変調周期と同周期成分)について測定(算出)すれば,周波数fの成分を有しないノイズの影響を除去しつつ試料5の屈折率変化のみを測定できる。
これにより,前記位相差φの測定のS/N比が向上する。
【0014】
また,光熱変換測定装置Xでは,レーザ光源7及び各種光学系9,12,14,15,4(測定光照射手段の一例)により試料5の測定部5aに対して測定光(偏波)P1を照射する方向(以下,第1の方向という)と,前記励起光源1及びチョッパ2等(励起光照射手段の一例)により,試料5の測定部5aに対して励起光P3を照射する方向(以下,第2の方向)とは異なる。即ち,試料5の測定部5aにおいて,測定光P1と励起光P3とが交差するようになっている。
図1に示すように,本実施形態では,前記第1の方向と前記第2の方向とがほぼ直交する方向となうように構成されている。
また,試料5は,これを収容する容器であるセルSによって保持されており,測定光P1及び励起光P3は,そのセルSの壁(保持部材の一例)を通過(透過)して試料5の測定部5aに照射される。ここで,前記セルS(の壁)は,石英等,測定光P1や励起光P3を通過(透過)させる材料により構成されている。
また,前記セルSの壁は,直方体状に形成されており,直交する前記第1の方向(測定光P1の照射方向)と前記第2の方向(励起光P3の照射方向)とは,各々前記セルSの壁面(保持部材の表面の一例)に対してほぼ垂直な方向となるように構成(配置)されている。
【0015】
図2は,セルSに収容された試料5の測定部5aに測定光P1及び励起光P3が入射される状態を3パターンの入射状態について表す図である。
ここで,図2(a)は図1に示したように測定光P1と励起光P3とが相互に直交する方向から試料5の測定部5aに入射(照射)される状態(以下,パターンaという),図2(b)は測定光P1の入射方向と励起光P3の入射方向とが鋭角をなす状態(以下,パターンbという),図2(c)は測定光P1と励起光P3とが同軸方向に(同じ方向から)入射される状態(以下,パターンcという)を表す。
また,図2に示す前記セルSの壁は,直方体状に形成されており,前記パターンaは,直交する測定光P1の入射方向(第1の方向)と励起光P3の入射方向(第2の方向)とが,各々異なる方向であり,かつ各々前記セルSの壁面(保持部材の表面の一例)に対してほぼ垂直な方向であるパターンともいえる。
前記パターンcにおいては,前記セルSにおける測定光P1が通過する部分S3と励起光P3が通過する部分S4とが重複する,或いは近傍となる。このため,励起光P3の通過部S4が励起されて特性変化が生じると,その励起部S4と重複する或いは近傍となる部分S3を測定光P1が通過するため,その励起部S3の特性変化の大きさによっては,測定光P1における雑音となって測定精度が悪化し得る。
これに対し,前記パターンaでは,前記セルSにおける測定光P1が通過する部分S1と励起光P3が通過する部分S2とが全く異なる(重複せず,近傍でもない)。このため,前記セルSの一部S2が,励起光P3によって発熱する等の特性変化が生じても,測定光P1はその励起部S2(励起光P3の通過部(発熱部))を通過しないため,その励起部S2の特性変化が測定光P1における雑音となって測定精度が悪化することがない。
同様に,前記パターンbにおいても,前記セルSにおける測定光P1が通過する部分S1’と励起光P3が通過する部分S2’とが全く異なるため,前記セルSの励起部S2’の特性変化が測定光P1における雑音となって測定精度が悪化することがない。
このように,測定光P1及び励起光P3の測定部5aに対する照射方向を異ならせることにより,励起光P3が,測定部5aに至るまでの間に,その励起光P3によって励起される物を通過する場合であっても,測定光P1がその励起される部分を通過しないよう容易に構成でき,励起部分の特性変化が測定光P1に対する雑音となって測定精度が悪化することを防止できる。
但し,前記パターンbでは,励起光P3が前記セルSの壁面に対して垂直入射されていないため,励起光P3は,前記セルSにおける通過部S2’(励起部)において屈折し,その屈折率は,通過部S2’の励起状態(発熱状態)の変化に応じて変化する。そして,この屈折率の変化により,試料5の測定部5aに対する励起光P3の入射角度(照射方向)が微妙に変化して測定精度が微妙に悪化し得る。
これに対し,前記パターンaでは,励起光P3が前記セルSの壁面に対してほぼ垂直入射されているため,励起光P3は,前記セルSにおける通過部S2においてその励起(加熱)状態に関わらず屈折しない。従って,励起光P3の通過部S2における励起状態の変化が,試料5の測定部5aに対する励起光P3の入射角度(照射方向)の変化に影響して測定精度が微妙に悪化するということがない。
【0016】
(実施例)
図3は,液体状の試料5を収容するセルS’の構造の一例を表す図であり,正面方向から見た断面図(a),平面図(b),底面図(c),側面方向から断面図(d)及び試料5の測定部5aの拡大図(e)を表す。
セルS’は,石英材料からなる2つの板状部材Sa,Sb(以下,基材Sb,ふた材Saという)が対向して貼り合わされた構造を有し,基材Sbの底面(ふた材Saに対向する面に対し反対側の面)には,測定光P1を反射する前記反射ミラー6が設けられている。
また,基材Sbの上面(ふた材Saに対向する面)には,上方から見て帯状に伸びる溝Sgが形成されている。この溝Sgは,液体状の試料5を溜めるための溝である。
一方,ふた材Saには貫通穴Shが設けられており,ふた材Saと基材Sbとが貼り合わされた状態で,貫通穴Shを通じて液体状の試料5を基材Sb側の溝Sgに注ぎ込むことができる構造を有している。
図3に示すセルS’では,試料5を小さくして測定感度を高めるため,試料5を溜める(保持する)溝Sgは微細なもの(例えば,深さ100μm,幅200μm,長さ30mm程度)である。その加工方法としては,例えば,溶剤によって基材Sgを溶かすこと等が考えられ,この場合,溝Sgは若干丸みを帯びた形状となる。
【0017】
前記実施の形態では,前記測定光(前記偏波P1)を試料5に往復通過させることによって感度の向上を図るものであったが,この往復通過をさらに多重化させる,即ち,前記測定光を試料5で多重通過させることによってさらなる感度向上を図ることも可能である。
図4は,測定光を試料の表面と裏面との間で多重反射させる構成の概略断面図である。
図4に示すように,試料5の表面側(前記測定光の照射面側)とその裏面側とのそれぞれに反射ミラー31,32(高反射ミラー,前記表面側光反射手段と前記裏面側光反射手段の一例)を配置し,前記測定光(前記偏波P1)を両反射ミラー31,32の間で多重反射させることができる。ここで,図4には,多重反射を模式的に示すため,便宜上,前記測定光が前記反射ミラー31,32に斜め入射しているように示しているが,実際は垂直入射させて入射光と反射光とが同軸となるようにする。これにより,前記測定光(前記偏波P1)は,両反射ミラー31,32間で多重反射しながら,その一部が試料5の前記表面側の反射ミラー31を透過して前記光検出器20の方向へ向かう。従って,前記光検出器20には,試料5を多重通過した前記測定光が重畳されて入力されるため,高感度での位相差測定,即ち,屈折率変化の測定が可能となる。
この場合,多重反射した測定光の位相を同期させるように両反射ミラー31,32の間隔を微調整するため,一方の反射ミラーの位置制御を行う駆動機構30(ミラー駆動機構)を設けることが望ましい。
【0018】
ところで,光熱効果による測定光の屈折率変化は,励起光の波長によっても異なり,試料の含有物質の種類によって各波長の励起光に対する光熱効果及び光熱効果による試料の屈折率変化も異なる。
従って,複数の異なる波長の励起光を照射し,そのそれぞれについて前記位相差φの変化を測定すれば,その分布から試料の含有物質の種類及び量を特定(評価)できる。しかしながら,励起光を異なる波長ごとに照射して測定を行うことは時間や手間の面で測定効率が悪い。
そこで,前記励起光を,波長ごとに異なる周期で強度変調された光の多重光とし,前記信号処理装置21により,前記測定光の位相φの変化を,前記励起光の各波長の強度変調周期と同周期成分それぞれについて測定すれば,1回の測定によって複数波長の測定光についての試料の屈折率変化を測定でき,効率的な測定が可能となる。
このような励起光の光源(照射手段)としては,白色光源(例えば,タングステンランプ)の光を分光器で分光し,分光された光ごとに異なる周波数のチョッパ等を介して強度変調し,それらを集光(合流)した光を前記励起光するものが考えられる。
また,白色光源の光をビームスプリッタによって2方向に分岐させ,それらを固定ミラー及び移動ミラーそれぞれに反射さて再び前記ビームスプリッタに戻して合流させ,これを励起光とする周知のフーリエ分光を用いた励起光出力部とすることも考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は,励起光が照射された試料の光熱効果により生じる前記試料の特性変化を測定する光熱変換測定装置への利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る光熱変換測定装置Xの概略構成図。
【図2】セルに収容された試料の測定部に測定光及び励起光が入射される状態を3パターンの入射状態について表す図。
【図3】試料を収容するセルの構造の一例を表す図。
【図4】本発明の実施例に係る光熱変換測定装置における測定光を試料の表面と裏面との間で多重反射させる構成の概略断面図。
【図5】従来の光熱変換測定装置(光熱変換分光分析装置)の概略構成図。
【0021】
1…励起光源(励起光照射手段)
2…チョッパ
3,4…レンズ
5…試料
6,32…反射ミラー(裏面側光反射手段)
7…レーザ光源(測定光照射手段)
10,11…音響光学変調機(AOM)
20…光検出器(光電変換手段)
21…信号処理装置(位相変化測定手段)
31…反射ミラー(表面側光反射手段)
S,S’…セル(試料の保持部材)
P1…偏波(測定光)
P2…偏波(参照光)
P3…励起光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光が照射された試料の光熱効果により生じる前記試料の特性変化を測定する光熱変換測定装置であって,
前記試料の測定部に第1の方向から測定光を照射する測定光照射手段と,
前記試料の測定部に前記第1の方向と異なる第2の方向から励起光を照射する励起光照射手段と,
前記試料の測定部を通過後の前記測定光の位相変化を光干渉法により測定する位相変化測定手段と,
を具備してなることを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項2】
前記励起光が前記試料を保持する保持部材を通過して前記試料の測定部に照射されてなる請求項1に記載の光熱変換測定装置。
【請求項3】
前記第2の方向が前記保持部材の表面に対して略垂直な方向である請求項2に記載の光熱変換測定装置。
【請求項4】
前記第1の方向と前記第2の方向とが略直交する方向である請求項1〜3のいずれかに記載の光熱変換測定装置。
【請求項5】
前記試料の前記測定光の照射面の反対面側に設けられ前記測定光を反射する裏面側光反射手段を具備し,
前記位相変化測定手段が,前記測定光が前記裏面側光反射手段に反射して前記試料の測定部を往復通過した後の前記測定光の位相変化を測定してなる請求項1〜4のいずれかに記載の光熱変換測定装置。
【請求項6】
前記励起光が周期的に強度変調された光であり,
前記位相変化測定手段が,前記測定光の位相変化を前記励起光の強度変調周期と同周期成分について測定してなる請求項1〜5のいずれかに記載の光熱変換測定装置。
【請求項7】
前記励起光が波長ごとに異なる周期で強度変調された光の多重光であり,
前記位相変化測定手段が,前記測定光の位相変化を前記励起光の各波長の強度変調周期と同周期成分それぞれについて測定してなる請求項1〜6のいずれかに記載の光熱変換測定装置。
【請求項8】
前記位相変化測定手段が,
前記測定光と該測定光とは光周波数が異なる所定の参照光との干渉光の強度を光電変換する光電変換手段と,
前記光電変換手段により得られた前記干渉光の強度信号に基づいて前記測定光の位相変化を算出する位相変化算出手段と,
を具備してなる請求項1〜7のいずれかに記載の光熱変換測定装置。
【請求項9】
励起光が照射された試料の光熱効果により生じる前記試料の特性変化を測定する光熱変換測定方法であって,
前記試料の測定部に第1の方向から所定の測定光照射手段により測定光を照射するとともに,前記試料の測定部に前記第1の方向と異なる第2の方向から所定の励起光照射手段により励起光を照射し,
前記試料の測定部を通過後の前記測定光の位相変化を光干渉法により測定してなることを特徴とする光熱変換測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−84431(P2006−84431A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272005(P2004−272005)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成15年度、経済産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構「先進ナノバイオデバイスプロジェクト」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】