説明

光熱変換測定装置

【課題】S/N比を効果的に向上させる。
【解決手段】本発明の光熱変換測定装置は、所定の周波数で光強度が変化する励起光L11を試料Sに照射する第1光照射部11と、試料Sに測定光L21を照射する第2光照射部12と、試料Sを通った測定光L21を検出する光検出器13と、光検出器13と第2光照射部12との間の光路に設けられ、所定の偏光状態の光を光検出器13へ向かう光路から遮断する偏光素子14と、偏光素子14に入射する測定光L21の偏光状態を調整する偏光調整部15と、励起光L11の光強度が極小である期間に偏光調整部15に入射した測定光L21が所定の偏光状態になるように偏光調整部15と第1光照射部11とを所定の周波数で同期制御する制御部16と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光熱変換測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光熱効果を利用して、試料に含まれる検出対象物質等を検出する光熱変換測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。光熱変換測定装置は、励起光が照射された試料に検体光を照射し、試料を通った検体光を光検出器により検出する。試料に励起光が照射されると、検出対象物質が励起光を吸収して発熱する。この熱により試料が加熱されて、試料に屈折率の変化を生じる。屈折率が変化する前後で試料を通った検体光の位相が変化するので、この位相の変化量を光検出器の検出結果から求めることにより、例えば試料に含まれる検出対象物質の濃度を測定することができる。
【0003】
光熱変換測定装置には、分析感度の向上が期待されている。分析感度が向上すると、試料の量を減らすことや、試料の濃縮処理を簡素化すること、測定精度が向上することにより測定回数を減らすこと等が可能になる。分析感度を向上させるには、有意な信号とノイズとの比率(S/N)比を高めることが重要である。
【0004】
S/N比を高める技術として、特許文献1、2に開示されている技術が挙げられる。
特許文献1では、励起光として、光チョッパーにより周期的に強度変調された光を用いている。この励起光が照射された試料を通ったプローブ光(測定光)は、光検出器により検出される。光検出器による検出信号は、ロックインアンプに入力される。ロックインアンプにより、励起光の変調周波数に相当する周波数成分の出力が増幅されることによりS/N比を高めることができる。
【0005】
特許文献2では、特許文献1と同様に、周期的に強度変調された光を励起光として用いている。信号処理装置によって、その強度変調周期と同周期成分の位相変化を測定してS/N比を向上させている。検体光を反射ミラーで試料に往復通過させることにより、試料の屈折率の変化を高感度で測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−277957号公報
【特許文献2】特開2004−301520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2の技術にあっては、次に説明するように、S/N比の向上を図る上で改善の余地がある。
特許文献1で用いるロックインアンプは、例えば入力信号のDC成分除去回路、極性反転回路、および積分回路等の電気回路により構成される。また、光信号は光センサにより電気信号に変換される。この際に、光センサ自体もノイズを発生し、シグナルに重畳することになりシグナルが劣化する。さらに、このように検出信号を処理する電気回路が複雑になると、電気的なノイズが二次的に発生して検出信号に付加されるおそれがある。
【0008】
特許文献2では、検体光の位相差の変化を、励起光の強度変調周期と同周期成分について算出すれば、周波数の成分を有しないノイズの影響を除去しつつ試料の屈折率変化のみを測定できる、とされている。特許文献2の技術を実現するには、例えば検出信号に対してフーリエ変換等を利用した周波数解析を行うことにより、各周波数成分の強度分布を調べる。そして、励起光の強度変調と同じ周波数成分以外の周波数成分についてはノイズとみなして、電気信号をフィルタリングすることにより、ノイズ成分を除去する。このような手法を用いるには、ノイズ成分の周波数解析が可能な程度に、光検出器のサンプリング周波数を高める必要があり、装置コストが増加するおそれがある。周波数解析を行う手法に代えて電気回路により構成されたロックインアンプを利用する場合には、特許文献1と同様に電気的なノイズが付加されるおそれがある。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑み成されたものであって、S/N比を効果的に向上させることが可能な光熱変換測定装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上記の目的を達成するために以下の手段を採用している。
本発明の第1の光熱変換測定装置は、所定の周波数で光強度が変化する励起光を試料に照射する第1光照射部と、前記試料に測定光を照射する第2光照射部と、前記試料を通った前記測定光を検出する光検出器と、前記光検出器と前記第2光照射部との間の光路に設けられ、所定の偏光状態の光を前記光検出器へ向かう光路から遮断する偏光素子と、前記偏光素子に入射する前記測定光の偏光状態を調整する偏光調整部と、前記励起光の光強度が極小である期間に前記偏光調整部に入射した前記測定光が前記所定の偏光状態になるように前記偏光調整部と前記第1光照射部とを前記所定の周波数で同期制御する制御部と、を備えていることを特徴とする。
【0011】
このようにすれば、励起光の光強度が極小である期間に、偏光調整部に入射した測定光が所定の偏光状態になるように、制御部が偏光調整部と前記第1光照射部とを所定の周波数で同期制御するので、励起光の光強度が極小である期間に試料を通った光は、光検出器へ向かう光路から偏光素子により遮断される。したがって、測定期間のうちで試料に光熱効果が顕著に発現している期間に試料を通った測定光が選択されて光検出器に入射することになり、測定期間のうちで光熱効果を示す有意な検出結果が得られる期間を選択して測定光を光検出器により検出することができる。よって、光検出器による検出量のうちで光熱効果を示す有意な検出量の占める割合を増すことができ、S/N比を高めることができる。
【0012】
このような光熱変換測定装置により、励起光の光強度が変化する複数の周期にわたり測定を行うと、励起光の光強度が変化する周波数と異なる周波数のノイズが平均化されて除去される。すなわち、本発明では、同期検波と呼ばれる手法を光信号の段階で行っていることになる(以降、本発明でのこの技術を光ロックインと呼ぶ)。これにより、例えば電気回路により構成されたロックインアンプを用いなくともノイズを除去することができるので、電気回路にて電気的なノイズが二次的に発生してS/N比が低下することが回避される。また、光信号を同期検波することでDCに近い低周波数成分の信号に変換できる。従って、検出器の検出結果に対して周波数解析を行わなくともノイズを減らすことができ、光検出器のサンプリング周波数を下げることもできる。以上のように、本発明の光熱変換測定装置によれば、S/N比を効果的に向上させることが可能になる。
【0013】
本発明の第1の光熱変換測定装置において、前記光検出器は、前記試料を通っていない参照光と、前記偏光素子を経て前記光検出器へ向かう前記測定光とが干渉した干渉光の光強度を検出するとよい。
【0014】
このようにすれば、試料を通っていない参照光と試料を通った測定光とが干渉した干渉光の光強度に試料での光学的距離の変化が反映されるので、光熱効果による試料の屈折率の変化を効率的に検出することができる。
【0015】
本発明の第1の光熱変換測定装置において、前記偏光素子は、前記第2光照射部から射出された光を偏光方向が互いに異なる第1偏光と第2偏光とに分離する偏光分離素子により構成されており、前記第1偏光が前記測定光であり、前記第2偏光が前記参照光であるとよい。
【0016】
このようにすれば、第2光照射部から射出された光を、偏光素子を利用して測定光と参照光とに分離するので、参照光用の光源等を追加する必要性や第2光照射部から射出された光を分離する光学部品を追加する必要性が低くなり、シンプルな構成の光熱変換測定装置にすることができる。
【0017】
本発明の第2の光熱変換測定装置は、所定の周波数で光強度が変化する励起光を試料に照射する第1光照射部と、前記試料に照射される測定光を含んだ光を射出する第2光照射部と、前記第2光照射部と前記試料との間の光路に配置され、前記第2光照射部から射出された光を前記測定光と、前記測定光とは偏光方向が異なる参照光とに分離する偏光分離素子と、前記参照光と、前記試料を通った前記測定光とを干渉させる干渉光学系と、前記干渉光学系と前記偏光分離素子との間の前記参照光の光路に設けられ、前記参照光の偏光状態を調整することにより前記参照光と前記測定光とが干渉した干渉光の偏光状態を調整する偏光調整部と、前記干渉光学系から射出された前記干渉光を検出する光検出部と、前記干渉光学系と前記光検出部との間の光路に設けられ、所定の偏光状態の光を前記光検出器へ向かう光路から遮断する偏光素子と、前記励起光の光強度が極小である期間に前記偏光素子に入射する前記干渉光が前記所定の偏光状態になるように前記偏光調整部と前記第1光照射部とを前記所定の周波数で同期制御する制御部と、を備えていることを特徴とする。
【0018】
このようにすれば、偏光調整部が干渉光の偏光状態を所定の偏光状態に調整するので、結果として、測定光が、偏光素子から検出器へ向かう光路から遮断される。したがって、測定光自体の偏光状態を調整しなくとも、励起光の光強度が極小である期間に試料を通った測定光の影響を光検出器の測定結果から除くことができ、測定光の偏光状態を調整することによる測定光の波面の乱れの発生を回避することができる。
【0019】
本発明の第2の光熱変換測定装置において、前記偏光調整部は、屈折率異方性を有する液晶層を含んでおり、前記励起光の光強度が極小である第1期間に、前記液晶層を通った前記参照光と、前記試料を通った前記測定光とが干渉した干渉光の偏光状態が前記所定の偏光状態になるように、前記液晶層の配向状態と前記第1期間に前記液晶層に印加される電圧とが設定され、かつ前記励起光の光強度が極小となった後に次に極小となるまでの第2期間に、前記液晶層を通った前記参照光と前記試料を通った前記測定光とが干渉した干渉光の偏光状態が前記所定の偏光状態になるように、前記制御部が前記光検出器の検出結果に基づいて前記液晶層に印加される電圧を調整するとよい。
【0020】
このようにすれば、光熱効果を発現しているときの試料の屈折率と関係性を有する値として、干渉光が所定の偏光状態になるように液晶層に電圧を印加したときの電圧を知ることができる。所定の液晶層に電圧を印加したときの、電圧と液晶層の屈折率との対応関係については予め調べておくことができ、この対応関係と干渉光が所定の偏光状態になる電圧とを比較することにより、光熱効果を発現しているときの試料の屈折率を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態の光熱変換測定装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】第1光照射部および偏光調整部の動作タイミングと、偏光素子で測定光の透過/反射(遮断)が切替わるタイミングとの関係性を示すタイミングチャートである。
【図3】(a)〜(c)は、検出対象物の濃度の違いによる測定光と参照光との位相差の比較例を示す図である。
【図4】測定サイクル数に対する累積光強度の関係を示す概念図である。
【図5】第2実施形態の光熱変換測定装置の概略構成を示す模式図である。
【図6】第3実施形態の光熱変換測定装置の概略構成を示す模式図である。
【図7】励起光の非照射状態での旋光の位相と光強度の関係を示す概念図である。
【図8】励起光の照射状態での旋光の位相と光強度の関係を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。説明に用いる図面において、特徴的な部分を分かりやすく示すために、図面中の構造の寸法や縮尺を実際の構造に対して異ならせている場合がある。また、実施形態において同様の構成要素については、同じ符号を付して図示し、その詳細な説明を省略する場合がある。なお、本発明の技術範囲は下記の実施形態に限定されるものではない。本発明の主旨を逸脱しない範囲内で多様な変形が可能である。
【0023】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の光熱変換測定装置の概略構成を示す模式図、図2は第1光照射部および偏光調整部の動作タイミングと、偏光素子で測定光の透過/反射(遮断)が切替わるタイミングとの関係性を示すタイミングチャートである。
【0024】
図1に示す光熱変換測定装置1は、第1光照射部11、第2光照射部12、光検出器13、偏光素子14、偏光調整部15、制御部16を備えている。これら各種構成要素の間で光を導く光学部品として、ダイクロイックミラー171、集光レンズ172、反射ミラー173、1/4波長板174、反射ミラー175、および偏光板176が設けられている。第2光照射部12、偏光素子14、1/4波長板174、および反射ミラー175によりマイケルソン干渉系が構成されている。
【0025】
光熱変換測定装置1は、概略すると以下のように動作する。
第1光照射部11は、試料Sに励起光L11を断続的に照射する。試料Sは、例えば検出対象物質を分散(または溶解)させた分散液(または溶液)である。検出対象物質は、励起光L11を吸収し、光エネルギーを熱エネルギーに変換する。試料Sは、検出対象物質の濃度に応じた量の熱エネルギーを受け取り昇温する。試料Sの昇温に伴って試料Sの密度が変化することにより、検出対象物質に濃度に応じた変化量だけ試料Sの屈折率が変化する。
【0026】
第2光照射部12は、偏光調整部15を介して試料Sに測定光L21を照射する。制御部16は、偏光調整部15を第1光照射部11と同期させて制御し、偏光調整部15は測定光L21の偏光状態を調整する。励起光L11が照射されていない状態(以下、非照射状態という)の試料Sを通った測定光L21は、偏光素子14に遮られて光検出器13へ向かう光路から除去される。励起光L11が照射されている状態(以下、照射状態という)の試料Sを通った測定光L21は、偏光素子14を透過して光検出器13へ向かう。
【0027】
偏光素子14を透過した測定光L21は、マイケルソン干渉系にて参照光L22と干渉して干渉光L23になる。干渉光L23のうちで偏光板176を通った光が、光検出器13により検出される。光検出器13の検出結果から測定光L21と参照光L22との位相差が求まり、この位相差により測定光L21の光路長の変化量、すなわち試料Sの屈折率の変化量に関する測定量が得られる。この測定量から、例えば試料Sに含まれる検出対象物の濃度が求まる。
【0028】
次に、光熱変換測定装置1の構成要素について説明する。
第1光照射部11は、励起用光源111および光チョッパー112を含んでいる。励起用光源111は、例えばYAGレーザー光源により構成され、レーザー光L10として出力が100mWの二次高調波(波長533nm)を射出する。制御部16は、発振器等を含んで構成され、周波数fのパルス信号を同期信号として光チョッパー112に供給する。このパルス信号に基づいて、光チョッパー112は、レーザー光L10を第1光照射部11から断続的に射出される励起光L11に変換する。
【0029】
図2に示すように、励起光L11が射出されている期間(図4中の強)と、励起光L11が射出されない期間(図4中弱)とが組となり、測定の1単位の期間(測定サイクル)になっている。測定サイクルの周期Tは、1/fである。このように、第1光照射部11は、制御部16に制御されて、光強度が周波数fで変化する励起光L11を射出する。
【0030】
図1の説明に戻り、第1光照射部11から射出された励起光L11は、ダイクロイックミラー171に入射する。ダイクロイックミラー171は、励起光L11を反射させるとともに測定光L21を透過させる特性を有している。ダイクロイックミラー171で反射した励起光L11は、集光レンズ172の光軸と略平行な方向へ進行して集光レンズ172に入射する。励起光L11は、集光レンズ172で屈折して、集光レンズ172の焦点に配置された試料Sに向かって進行する。試料Sへ入射した励起光L11は、上記のように試料Sを検出対象の濃度に応じた分だけ加熱する。試料Sに吸収されなかった励起光L11は、試料Sと偏光調整部15との間の測定光L21の光路から除かれる。
【0031】
第2光照射部12は、測定用光源121、偏光分離素子122、123、音響光学変調器124、125、および反射ミラー126、127を含んでいる。測定用光源121は、例えばHe−Neレーザー光源により構成され、波長が633nm、出力が1mWのレーザー光L20を射出する。レーザー光L20は、下記の偏光素子14に対するP偏光およびS偏光を含んでいる。以下の説明では、偏光素子14に対するP偏光を単にP偏光と称し、偏光素子14に対するS偏光を単にS偏光という。測定用光源121から射出されたレーザー光L20は、偏光分離素子122に入射する。
【0032】
偏光分離素子122、123は、偏光ビームスプリッタープリズム(以下、PBSという)やワイヤーグリッド偏光素子(以下、WG素子という)等により構成され、ここではPBSプリズムにより構成されている。レーザー光L20のうちのP偏光は、偏光分離素子122を透過して音響光学変調器124に入射する。レーザー光L20のうちのS偏光は、偏光分離素子122で反射して音響光学変調器125に入射する。本実施形態では、偏光分離素子122を透過したP偏光を測定光L21として用いるとともに、偏光分離素子122で反射したS偏光を参照光L22として用いる。
【0033】
音響光学変調器124、125は、AOM(Acousto−Optic Modulator)等により構成され、入射した光の周波数をシフトさせることが可能である。音響光学変調器124、125は、光ヘテロダイン干渉法と呼ばれる技術を実現する上で、必要に応じて測定光L21と参照光L22とで周波数を異ならせる。音響光学変調器124を通った測定光L21は、反射ミラー126で反射して偏光分離素子123に入射し、偏光分離素子123を透過して偏光素子14に入射する。音響光学変調器125を通った参照光L22は、反射ミラー127で反射して偏光分離素子123に入射し、偏光分離素子123で反射して測定光L21と同じ方向に進行した後に、偏光素子14に入射する。
【0034】
偏光素子14は、第2光照射部12から射出された測定光L21が光検出器13に至る光路に配置されている。偏光素子14は、PBSプリズムやWG素子により構成され、ここではPBSプリズムにより構成されている。偏光素子14は、偏光分離面(偏光ビームスプリッター膜)に対するP偏光を透過させ、偏光分離面に対するS偏光(所定の偏光状態の光)を反射させる特性を有している。本実施形態では、偏光素子14の偏光分離面は、偏光分離素子123から偏光素子14へ向かう光の光路に対して略45°の角度をなしている。測定光L21は、偏光素子14で反射して偏光調整部15に入射する。参照光L22は、偏光素子14を透過して、測定光L21から分離される。
【0035】
本実施形態の偏光調整部15は、透明電極151、152、液晶層153、および駆動部154を含んでいる。液晶層153は、透明電極151、152の間に設けられている。駆動部154は、透明電極151、152に電圧を印加することにより、液晶層153に電界を印加する。
【0036】
液晶層153は、電界が印加されていないときの配向状態が制御されている。本実施形態の液晶層153は、誘電異方性が負の液晶材料からなる垂直配向(VA)モードの液晶層である。液晶層153の厚み方向に直交する面内での屈折率は、電界非印加時に等方性になり、電界印加時に異方性になる。液晶層153のリタデーションは、測定光L21の略1/4波長に設定されている。
【0037】
すなわち、電界印加時の液晶層153において、その厚みに直交する面内で屈折率が最大となる方向を遅相軸方向とし、屈折率が最小となる方向を進相軸方向としたときに、液晶層153を通る光のうちで進相軸方向の偏光成分は、遅相軸方向の偏光成分に対して位相がπ/2だけ進むことになる。進相軸方向および遅相軸方向は、いずれも測定光L21の偏光方向と交差する方向に設定される。
【0038】
制御部16は、第1光照射部11に対して供給したパルス信号と同じ周波数fのパルス信号を同期信号として駆動部154に供給する。駆動部154は、このパルス信号に基づいて、液晶層153に電界を印加する。これにより、図2に示すように駆動部154は、励起光L11と同じ周波数fで液晶層153に電界を印加する。また、駆動部154は、試料Sに励起光L11が照射されている期間と略一致する期間に、液晶層153に電界を印加する。すなわち、試料Sが照射状態であるときに偏光調整部15に入射した測定光L21は、偏光状態がS偏光から略円偏光へ変化する。また、試料Sが非照射状態であるときに偏光調整部15に入射した測定光L21は、偏光状態がS偏光からほとんど変化しない。
【0039】
図1の説明に戻り、偏光調整部15から射出された測定光L21は、ダイクロイックミラー171を透過して集光レンズ172へ入射する。ここでは、ダイクロイックミラー171から集光レンズ172へ向かう測定光L21の光線束の中心軸が、集光レンズ172の光軸と略一致している。集光レンズ172を通った測定光L21は、集光レンズ172の焦点に配置された試料Sに向かって進行する。ダイクロイックミラー171から集光レンズ172へ向かう励起光L11および測定光L21の進行方向が、いずれも集光レンズ172の光軸と略平行になっているので、試料Sでの測定光L21の入射位置が試料Sでの励起光L11の入射位置と略同じになる。
【0040】
試料Sの光入射側の裏面側には、反射ミラー173が設けられている。試料Sに入射した測定光L21は、試料Sを通って反射ミラー173で反射する。反射ミラー173で反射した測定光L21は、試料S、集光レンズ172、ダイクロイックミラー171をそれぞれ再度通って、偏光調整部15に再度入射する。試料Sの光学的距離は、試料Sの屈折率と厚みとの積で表され、光熱効果により変化する。
【0041】
非照射状態の試料Sを通って偏光調整部15へ入射した測定光L21は、液晶層153に電界が印加されていないことにより、偏光状態がS偏光からほとんど変化しないで偏光調整部15から射出される。照射状態の試料Sを通って偏光調整部15へ入射した測定光L21は、液晶層153に電界が印加されていることにより、偏光状態が略円偏光からP偏光へ変化して、偏光調整部15から射出される。
【0042】
試料Sを通った後に偏光調整部15から射出された測定光L21は、偏光素子14に入射する。非照射状態の試料Sを通った測定光L21は、偏光状態がS偏光になっていることにより、偏光素子14で反射して光検出器13へ向かう光路から遮断される(図2参照)。一方、照射状態の試料Sを通った測定光L21は、偏光状態がP偏光になっていることにより、偏光素子14を透過して光検出器13へ向かう。
【0043】
ところで、第2光照射部12から照射されて偏光素子14を透過した参照光L22は、1/4波長板174を通り反射ミラー175で反射して進行方向が折り返され、1/4波長板174を再度通って偏光素子14へ向かう。参照光L22は、1/4波長板174を2回通ることにより偏光状態がS偏光に変化して偏光素子14に入射し、偏光素子14で反射する。偏光素子14で反射した参照光L22は、偏光素子14を透過した測定光L21と干渉して干渉光L23になる。干渉光L23のうちで偏光板176を通った光の光強度が光検出器13により検出される。すなわち、偏光素子14の偏光軸に対する旋光の、試料での屈折率変化に伴う位相変変化を検出することができる。
【0044】
次に、図7、図8を参照しつつ、本発明に係る光ロックインアンプの肝要な機能について説明する。図7は、励起光の非照射状態での旋光の位相と光強度の関係を示す概念図、図8は、励起光の照射状態での旋光の位相と光強度の関係を示す概念図である。図7、図8中では、位相遅れ成分、位相進み成分、および液晶層に付加される位相バイアスを矢印にて概念的に示している。液晶層の位相バイアス(図中無地矢印)の両側に、位相遅れ成分と位相進み成分が振れている。
【0045】
偏光板176に入射する干渉光L23のうちで、偏光軸176Aの軸方向に振動する成分は偏光板176を透過する。ここでは、説明の便宜上、位相変化を誇張して図示しているが、実際の位相変化はマイクロラジアン(10−3rad)オーダーである場合もある。
【0046】
測定光L21、参照光L22は、偏光方向が互いに略直交した光であり、測定光L21は偏光板176に入る前に試料Sを通過している。液晶層153を通過した測定光L21の位相に応じて、干渉光L23の振動面が変化するように、励起光L11に同期して液晶層153に加える電圧を制御している。
【0047】
図7に示すように、励起光L11の非照射状態であって液晶層153による補償動作を行わない状態では、試料Sの屈折率が照射状態よりも小さい値になり、測定光L21の位相が遅れる。その結果、干渉光L23の偏光角が小さくなり、偏光板176を通過する光の光量が減少する。そこで液晶層153による補償動作を行い、測定光L21の位相が遅れる分だけを液晶層153で位相を進めて相補的に動作させる。これにより、干渉光L23の電界成分の振動方向が偏光軸176Aと略一致するようになり、干渉光L23が偏光板176を通り光検出器13に到達する。このようにして、試料Sが非加熱に相当する状態であることが得られる。仮にノイズによって測定光L21の位相が所定の位相になっていない場合には、所定値からの位相のずれに応じて電界成分の振動方向が偏光軸176Aから外れるため、光検出器13に到達する光の光量が減少する。すなわち、ノイズを含んだ光信号が光検出器13により検出されにくくなる。
【0048】
図8に示すように、励起光L11の照射状態であって液晶層153による補償動作を行わない状態では、試料Sの屈折率が非照射状態よりも大きい値になり、測定光L21の位相が進む。その結果、干渉光L23の偏光角が小さくなり、偏光板176を通過する光の光量が減少する。そこで液晶層153による補償動作を行い、測定光L21の位相が進む分だけ液晶層153で位相を遅らせて相補的に動作させる。これにより、干渉光L23の電界成分の振動方向が偏光軸176Aと略一致するようになり、干渉光L23が偏光板176を通り光検出器13に到達する。このようにして、試料Sが非加熱に相当する状態であることが得られる。仮にノイズによって測定光L21の位相が所定の位相になっていない場合には、所定値からの位相のずれに応じて電界成分の振動方向が偏光軸176Aから外れるため、光検出器13に到達する光の光量が減少する。すなわち、ノイズを含んだ光信号が光検出器13により検出されにくくなる。
【0049】
以上のように、励起光L11の照射状態または非照射状態に応じて、取り出す位相を選択することでロックイン(同期検波)ができ、光信号の状態でロックイン(同期検波)処理を実現することができる。また、旋光での方法に変えて、レーザー干渉そのものによる屈折率−位相変化の検出も可能である。以下、概略説明を行う。
【0050】
試料Sを通り偏光素子14から偏光板176へ向かう測定光L21の電界成分Eは、下記の式(1)で表され、偏光素子14を透過して偏光板176へ向かう参照光L22の電界成分Eは下記の式(2)で表される。また、干渉光L23の光強度Iは下記の式(3)で表される。
【0051】
【数1】

【0052】
式(1)、(2)中のa、aは振幅、f、fは周波数、φ、φは位相を、それぞれ表す。式(3)中の角括弧は、時間平均を示す。式(3)から分かるように、光検出器13で検出される光強度Iは、測定光L21と参照光L22との位相差(φ−φ)の関数である。測定光L21の位相φは、試料Sの光学的距離に応じて変化する。換言すると、光強度Iの変化量を調べることにより、位相差(φ−φ)の変化が求まり、測定光L21の位相φの変化量を知ることができる。得られた測定光L21の位相φの変化量から試料Sの光学的距離の変化量が求まり、試料Sの屈折率の変化量が求まる。さらに、試料Sの屈折率の変化量から、試料Sでの検出対象物の濃度が求まる。式(3)からわかるように、位相差(φ−φ)が0となる付近で測定すると、位相差(φ−φ)の変化量に対する光強度Iの変化量が最大となり、検出精度を高めることができる。
【0053】
図3(a)〜(c)は検出対象物の濃度の違いによる、測定光と参照光との位相差の比較例を示す図である。ここでは、検出物対象物の濃度が100%(図3(a))、50%(図3(b))、0%(図3(c))の3状態での測定光の位相φ、参照光の位相φ、および位相差(φ−φ)の比較を概念的に図示している。
【0054】
本例では、検出対象物の濃度が100%であるときに位相差(φ−φ)が略0になるように、測定光L21の光路長、および参照光L22の光路長が設定されている。本例では、検出対象物の濃度が低くなるにつれて、位相φが0に近づき、位相差(φ−φ)が減少して位相差(φ−φ)の絶対値が増加する。
【0055】
検出対象物の濃度を測定する場合には、例えば、検出対象物の濃度が既知である試料を用いて、予め、検出対象物の濃度と位相差(φ−φ)との対応関係を調べておく。そして、検出対象物の濃度が未知である試料の測定結果と、上記の対応関係とを比較することにより、検出対象物の濃度を知ることができる。
【0056】
実際の測定では、図3(a)〜(c)に示した略矩形状の波形にノイズがのっており、測定サイクル1つの結果のみで位相差(φ−φ)を求めることは難しい。本実施形態の光熱変換測定装置1によれば、複数の測定サイクルにわたり測定した干渉光の光強度の累積を求めることにより、ノイズの影響を減らすことができ、検出対象物を高精度に検出することができる。すなわち、本発明に係る光ロックイン技術により、S/N比を向上させることができる。
【0057】
図4は、複数の測定サイクルにわたり干渉光の光強度を測定したときの、測定サイクル数に対する累積光強度の関係を示す概念図である。図4中の検量線Aは、検出対象物の濃度が100%である試料の検量線、検量線Bは検出対象物の濃度が0%である試料の検量線を示す。図4中の測定値を示すカーブは、検出対象物の濃度が未知である場合の測定結果を示す。
【0058】
図4に示すように測定値のカーブは、測定サイクル数が比較的少ない場合(例えば10〜100)には、累積光強度に占めるノイズによる測定誤差の割合が高くなっている。測定サイクル数を増すにつれて、累積光強度に占める測定誤差の割合が低下する。これは、ノイズによる誤差がランダムである(例えば、誤差分布がガウス分布に従う)と仮定したときに、ノイズの累積値が0に近づくためである。換言すると、光強度の累積を求めることにより、上記の周波数fよりも高周波のノイズ成分をローパスフィルターにより除去した場合と同等の結果が得られる。
【0059】
例えばf=1kHzであれば、1000サイクルの累積に1秒の時間が必要となる。f=10kHzとすれば1000サイクルは、0.1秒で終了する。このロックイン周波数fは、試料Sに応じて最適な値を選ぶとよい。もちろん100サイクル以下で、検量線に収束すれば100サイクル程度でもよいし、1000サイクルでは足りない場合は、5000サイクル、1万サイクルなどサイクル数を増やすことなど、適宜変えることが望ましい。
【0060】
光熱変換測定装置1にあっては、非照射状態の試料Sを通った測定光L21が偏光素子14に遮られて光検出器13に検出されなくなる。このことは、非照射状態の試料を通った測定光を遮断することなく光検出器で検出したときの検出信号に、非照射状態に相当する期間で値が0となる信号を乗算する処理(位相敏感検出法)を施した場合と同等の結果が得られることを意味する。すなわち、通常のロックインアンプにおいて電気信号に対して電気回路を利用して行う処理を、光検出器13に検出される前の光を対象として行うことができる。したがって、電気回路によるロックインアンプを利用する場合と比較して電気回路での二次的なノイズの発生を回避することができる。また、複数の測定サイクルにわたり累積光強度を求めることにより、ノイズによる誤差の割合を減らすことができるので、光検出器に求められるサンプリング周波数を下げることができ、装置コストを下げることも可能になる。以上のように、第1実施形態の光熱変換測定装置1によれば、S/N比を効果的に高めることができる。
【0061】
また、マイケルソン干渉系を利用したヘテロダイン干渉法により干渉光L23の光強度を検出しているので、測定光L21の光強度を参照光L22の光強度により実質的に増幅することができる。したがって、測定光L21の光強度を高めなくともS/N比を向上させることができ、試料Sに対するダメージを減らすことができる。
【0062】
なお、第1実施形態では、液晶層153のリタデーションが測定光L21の1/4波長に設定されているが、液晶層153のリタデーションは適宜変更可能である。例えば、液晶層のリタデーションが測定光の1/2波長であり、偏光素子14と試料Sとの間の測定光の光路に1/4波長板が追加されていてもよい。換言すると、液晶層153のリタデーションを1/4波長に設定することにより、1/4波長板を省くことができる。これにより、装置コストを下げることができ、また測定光L21が通る界面の数が減ることにより波面の乱れを減らすことができる。
【0063】
また、第2光照射部12から偏光素子14へ向かう光のうちで、偏光素子14を透過した光を測定光に用いてもよい。いずれの構成であっても、非照射状態の試料Sを通った測定光L21が偏光素子14により光検出器13へ向かう光路から遮断されるとともに、照射状態の試料Sを通った測定光L21が偏光素子14を経て光検出器13へ向かうようになっていればよい。
【0064】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の光熱変換測定装置について説明する。第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、マイケルソン干渉系に代えてマッハツェンダー干渉系を採用している点である。第2実施形態の説明において、第1実施形態と同様の構成については第1実施形態と同じ符号を付してその説明を省略する。
【0065】
図5は、第2実施形態の光熱変換測定装置の概略構成を示す模式図である。
図5に示す光熱変換測定装置1Bは、第1光照射部11、第2光照射部12B、光検出器13、偏光素子14、偏光調整部15B、および制御部16を備えている。これら各種構成要素の間で光を導く光学部品として、ダイクロイックミラー171、集光レンズ172、反射ミラー173、1/4波長板174B、偏光分離素子175B、および偏光板176が設けられている。偏光調整部15Bは、第2光照射部12Bにおける測定光L21の光路内に配置されている。第2光照射部12B、偏光素子14、および偏光分離素子175Bによりマッハツェンダー干渉系が構成されている。
【0066】
第2光照射部12Bは、測定用光源121、偏光分離素子122、音響光学変調器124、125、および反射ミラー126を含んでいる。測定用光源121から射出されたレーザー光L20のうちのS偏光(参照光L22)は、偏光分離素子122で反射して音響光学変調器125に入射した後に、音響光学変調器125を通って偏光分離素子175Bに入射する。
【0067】
測定用光源121から射出されたレーザー光L20は、偏光分離素子122に入射する。レーザー光L20のうちのP偏光(測定光L21)は、偏光分離素子122を透過して、偏光調整部15Bに入射する。偏光調整部15Bを通った測定光L21は、反射ミラー126で反射した後に偏光素子14に入射する。
【0068】
第2実施形態の偏光調整部15Bは、液晶層153Bのリタデーションが測定光L21の1/2波長に設定されている点を除くと、第1実施形態と同様である。偏光調整部15Bは制御部16に制御されており、試料Sが非照射状態であるときに、駆動部154が液晶層153Bに電界を印加しないので、液晶層154を通った測定光L21は、偏光状態がP偏光からほとんど変化しない。すなわち、試料Sが非照射状態であるときに、光調整部15Bから射出された測定光L21は、音響光学変調器124を通った後に偏光素子14を透過する。これにより、測定光L21が、偏光素子14から試料Sへ向かう光路から遮断され、結果として偏光素子14から光検出器13へ向かう光路から遮断される。
【0069】
試料Sが照射状態であるときに、駆動部154が液晶層153Bに電界を印加し、液晶層153Bを通った測定光L21の偏光状態がP偏光からS偏光に変化する。試料Sが照射状態であるときに、光調整部15Bから射出された測定光L21は、音響光学変調器124を通った後に、偏光素子14で反射して試料Sへ向かう。偏光素子14で反射した測定光L21は、1/4波長板174Bを通ることにより、偏光状態がS偏光から略円偏光に変化する。1/4波長板174Bを通った測定光L21は、ダイクロイックミラー171および集光レンズ172を通って、照射状態の試料Sに入射する。照射状態の試料Sに入射した測定光L21は、反射ミラー173で反射して進行方向が折り返される。反射ミラー173で反射した測定光L21は、集光レンズ172およびダイクロイックミラー171を通って、1/4波長板174Bに再度入射して、偏光状態が略円偏光からP偏光に変化する。偏光状態がP偏光になった測定光L21は、偏光素子14を透過して光検出器13へ向かう。
【0070】
一方、第2光照射部12Bから射出された参照光L22は、偏光分離素子175Bで反射して光検出器13へ向かう。偏光分離素子175Bから光検出器13へ向かう測定光L21と参照光L22は、偏光板176上で干渉して干渉光L23となる。以下、第1実施形態と同様に、干渉光L23の光強度が光検出器13により検出される。
【0071】
すなわち、偏光素子の偏光軸に対する旋光での屈折率−位相変化の検出を行っている。第2実施形態でも第1実施形態と同様に、旋光での方法に変えて、レーザー干渉そのものによる屈折率−位相変化の検出も可能である。これによって、複数の測定サイクルにわたり測定した干渉光の光強度の累積を求めることにより、ノイズの影響を減らすことができ、検出対象物を高精度に検出することができる。
【0072】
第2実施形態の光熱変換測定装置1Bにあっては、第1実施形態と同様の理由により、S/N比を効果的に高めることができる。また、励起光L11の非照射状態の試料Sに測定光L21が入射しないので、光入射による試料Sへのダメージが低減される。
【0073】
[第3実施形態]
次に、図6を参照しつつ、第3実施形態の光熱変換測定装置について説明する。第3実施形態が第1、第2実施形態と異なる点は、偏光状態が調整された参照光と測定光とが干渉した干渉光を光検出器により検出して、試料の光熱効果を測定する点である。第3実施形態の説明においては、第1実施形態または第2実施形態と同様の構成についてはそれぞれ同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0074】
図6は、第3実施形態の光熱変換測定装置の概略構成を示す模式図である。
図6に示す光熱変換測定装置1Cは、第1光照射部11と、第2光照射部12C、光検出器13、偏光素子14C、偏光調整部15、制御部16C、および偏光分離素子17Cを備えている。これら各種構成要素の間で光を導く光学部品として、ダイクロイックミラー171、集光レンズ172、反射ミラー173C、174C、偏光分離素子175Cが設けられている。反射ミラー174Cおよび偏光分離素子175Cにより、干渉光学系が構成されている。
【0075】
第2光照射部12Cは、例えば第1、第2実施形態の測定用光源121により構成され、レーザー光L20を射出する。第2光照射部12Cから射出されたレーザー光L20は、偏光分離素子17Cに入射する。偏光分離素子17Cは、PBSプリズムにより構成されており、レーザー光L20をS偏光(測定光L21)とP偏光(参照光L22)とに分離する。
【0076】
偏光分離素子17Cから射出された測定光L21は、反射ミラー173で反射した後に、ダイクロイックミラー171および集光レンズ172を通って試料Sに入射する。試料Sを通った測定光L21は、反射ミラー174Cで反射して偏光分離素子175Cに入射する。偏光分離素子17Cから射出された参照光L22は、偏光調整部15を通って偏光分離素子175Cに入射する。
【0077】
励起光L11の非照射状態で、偏光分離素子17Cから偏光分離素子175Cに至る測定光L21の光路長(光学的距離)と、参照光L22の光路長(光学的距離)との差分が、レーザー光L20の波長の整数倍になるように、偏光分離素子175Cが配置されている。例えば、試料Sが光路内に配置されていないときの、偏光分離素子17Cから偏光分離素子175Cに至る測定光L21と参照光L22の光路長の差分が、レーザー光L20の波長の整数倍になるように各種構成要素を配置する。そして、光路内に試料Sを配置するときに、偏光分離素子17Cから偏光分離素子175Cに至る参照光L22の光路に、ダミーの試料(図示略)を配置して測定を行う。ダミーの試料は、非照射状態の試料Sと光学的距離が略同じものであり、例えば試料Sから検出対象物を除いたものである。
【0078】
偏光分離素子175Cに入射した測定光L21は、偏光分離素子175Cで反射して偏光素子14Cへ向かう。偏光分離素子175Cに入射した参照光L22は、偏光分離素子175Cを透過して偏光素子14Cへ向かう。偏光分離素子17Cから偏光素子14Cへ向かう測定光L21と参照光L22とが互いに干渉して、干渉光L23になり、偏光素子14Cに入射する。
【0079】
本実施形態の偏光素子14Cは、偏光板により構成されている。偏光素子14Cの吸収軸は、励起光L11の非照射状態での干渉光L23の偏光方向と略一致している。ここでは、励起光L11の非照射状態で試料Sを通った測定光L21がS偏光(偏光方向が図6中のY方向)になっており、偏光調整部15を通った参照光L22がP偏光(偏光方向が図6中のX方向)になっている。
【0080】
上記のように、励起光L11の非照射状態で、偏光分離素子17Cから偏光分離素子175Cに至る測定光L21と参照光L22の光路長の差分が、レーザー光L20の波長の整数倍になっているので、偏光分離素子175Cの偏光分離面を通った測定光L21の位相と参照光L22の位相が同じになる。したがって、干渉光L23は、測定光L21の偏光方向および参照光L22の偏光方向と略45°の角度をなす略直線偏光になる。この直線偏光の偏光方向が、偏光素子14Cの吸収軸と一致するようになっている。
【0081】
偏光調整部15は、第1実施形態と同様のものであり、液晶層153に印加する電圧、および液晶層に電圧を印加するタイミングが制御部16Cにより制御される。
【0082】
試料Sが非照射状態であるときに、液晶層153を通る参照光L22の偏光状態が変化しないように、液晶層153の配向状態および液晶層153に印加される電圧が設定されている。本実施形態の液晶層153は、誘電異方性が負の液晶材料からなる垂直配向(VA)モードの液晶層である。試料Sが非照射状態であるときに、透明電極151、152は同電位になっており、液晶層153に電界を印加しないようになっている。
【0083】
制御部16Cは、第1光照射部11に対して供給したパルス信号と同じ周波数fのパルス信号を同期信号として駆動部154に供給する。駆動部154は、このパルス信号に基づいて、液晶層153に電圧を印加する。すると、液晶層153が屈折率の異方性を発現し、液晶層153を通った参照光L22の偏光状態が、P偏光から印加電圧に応じた楕円偏光に変化する。液晶層153のX方向の屈折率の変化に伴って、上記の楕円偏光のうちでX方向を振幅方向とする電界成分の位相が変化する。
【0084】
励起光L11の照射状態で、偏光分離素子175Cに入射した参照光L22(楕円偏光)のうちで、P偏光すなわちX方向を振幅方向とする電界成分が偏光分離素子175Cを透過する。励起光L11の照射状態で、試料Sを通った測定光L21の位相は、試料Sの光熱効果により変化している。励起光L11の非照射状態では、偏光分離素子175Cの偏光分離面を通った測定光L21の位相が、参照光L22の位相とずれることになる。すなわち、偏光素子14Cに入射する干渉光L23の偏光状態が楕円偏光になり、この楕円偏光の透過軸方向の電界成分が偏光素子14Cを透過して、光検出器13に検出される。
【0085】
制御部16Cは、光検出器13から干渉光L23の光強度の検出結果を受け取る。この検出結果に基づいて、制御部16Cは、干渉光L23が偏光素子14C透過しないように、駆動部154を制御して液晶層153に印加される電圧を調整する。励起光L11の照射状態であって干渉光L23が偏光素子14C透過しない状態では、光熱効果により屈折率が変化した試料Sを通ることにより位相が変化した測定光L21の位相が、液晶層153を通ることより位相が変化した参照光L22の位相と同じになる。
【0086】
ところで、液晶層153に印加される電圧と液晶層153の屈折率との対応関係については予め調べておくことができる。したがって、励起光L11の照射状態で上記のように調整された電圧と上記の対応関係とを比較することにより、励起光L11の照射状態での液晶層153の屈折率が分かり、励起光L11の照射状態での試料Sの屈折率を知ることができる。
【0087】
第3実施形態の光熱変換測定装置1Cにあっては、非照射状態において、干渉光L23が偏光素子14Cに遮られて光検出器13に検出されなくなる。したがって、照射状態において、干渉光L23のうちの偏光素子14Cからの漏れ光を光検出器13により検出しやすくなり、干渉光L23が偏光素子14Cを透過しないように液晶層14に印加する電圧を高精度に求めることができる。これにより、試料Sの光熱効果を高精度かつ効率的に測定することが可能になる。
【0088】
また、第3実施形態でも第1実施形態および第2実施形態同様に、旋光での方法に変えて、レーザー干渉そのものによる屈折率−位相変化の検出も可能である。これによって、複数の測定サイクルにわたり測定した干渉光の光強度の累積を求めることにより、ノイズの影響を減らすことができ、検出対象物を高精度に検出することができる。
【符号の説明】
【0089】
1、1B、1C・・・光熱変換測定装置、11・・・第1光照射部、
12、12B、12C・・・第2光照射部、13・・・光検出器、14・・・偏光素子、
15、15B・・・偏光調整部、16・・・制御部、111・・・励起用光源、
112・・・光チョッパー、121・・・測定用光源、
122、123・・・偏光分離素子、124、125・・・音響光学変調器、
126、127・・・反射ミラー、151、152・・・透明電極、
153、153B・・・液晶層、154・・・駆動部、
171・・・ダイクロイックミラー、172・・・集光レンズ、
173、173C、174C・・・反射ミラー、174、174B・・・1/4波長板、175・・・反射ミラー、175B、175C・・・偏光分離素子、
176・・・偏光板、L10・・・レーザー光、L11・・・励起光、
L20・・・レーザー光、L21・・・測定光、L22・・・参照光、
L23・・・干渉光、S・・・試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数で光強度が変化する励起光を試料に照射する第1光照射部と、
前記試料に測定光を照射する第2光照射部と、
前記試料を通った前記測定光を検出する光検出器と、
前記光検出器と前記第2光照射部との間の光路に設けられ、所定の偏光状態の光を前記光検出器へ向かう光路から遮断する偏光素子と、
前記偏光素子に入射する前記測定光の偏光状態を調整する偏光調整部と、
前記励起光の光強度が極小である期間に前記偏光調整部に入射した前記測定光が前記所定の偏光状態になるように前記偏光調整部と前記第1光照射部とを前記所定の周波数で同期制御する制御部と、
を備えていることを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項2】
前記光検出器は、前記試料を通っていない参照光と、前記偏光素子を経て前記光検出器へ向かう前記測定光とが干渉した干渉光の光強度を検出することを特徴とする請求項1に記載の光熱変換測定装置。
【請求項3】
前記偏光素子は、前記第2光照射部から射出された光を偏光方向が互いに異なる第1偏光と第2偏光とに分離する偏光分離素子により構成されており、
前記第1偏光が前記測定光であり、前記第2偏光が前記参照光であることを特徴とする請求項2に記載の光熱変換測定装置。
【請求項4】
所定の周波数で光強度が変化する励起光を試料に照射する第1光照射部と、
前記試料に照射される測定光を含んだ光を射出する第2光照射部と、
前記第2光照射部と前記試料との間の光路に配置され、前記第2光照射部から射出された光を前記測定光と、前記測定光とは偏光方向が異なる参照光とに分離する偏光分離素子と、
前記参照光と、前記試料を通った前記測定光とを干渉させる干渉光学系と、
前記干渉光学系と前記偏光分離素子との間の前記参照光の光路に設けられ、前記参照光の偏光状態を調整することにより前記参照光と前記測定光とが干渉した干渉光の偏光状態を調整する偏光調整部と、
前記干渉光学系から射出された前記干渉光を検出する光検出部と、
前記干渉光学系と前記光検出部との間の光路に設けられ、所定の偏光状態の光を前記光検出器へ向かう光路から遮断する偏光素子と、
前記励起光の光強度が極小である期間に前記偏光素子に入射する前記干渉光が前記所定の偏光状態になるように前記偏光調整部と前記第1光照射部とを前記所定の周波数で同期制御する制御部と、
を備えていることを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項5】
前記偏光調整部は、屈折率異方性を有する液晶層を含んでおり、前記励起光の光強度が極小である第1期間に、前記液晶層を通った前記参照光と、前記試料を通った前記測定光とが干渉した干渉光の偏光状態が前記所定の偏光状態になるように、前記液晶層の配向状態と前記第1期間に前記液晶層に印加される電圧とが設定され、かつ前記励起光の光強度が極小となった後に次に極小となるまでの第2期間に、前記液晶層を通った前記参照光と前記試料を通った前記測定光とが干渉した干渉光の偏光状態が前記所定の偏光状態になるように、前記制御部が前記光検出器の検出結果に基づいて前記液晶層に印加される電圧を調整することを特徴とする請求項4に記載の光熱変換測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−226915(P2011−226915A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96923(P2010−96923)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】