光熱発電素子及び該光熱発電素子を用いた光熱発電方法
【課題】効率のよい光熱発電素子を提供すること。
【解決手段】光発熱体により熱電モジュールを被覆した光熱発電素子であって、前記光発熱体がカーボンナノチューブ(CNT)とポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の複合体をポリジメチルシロキサン(PDMS)中に含むコンポジットから構成される、光熱発電素子。
【解決手段】光発熱体により熱電モジュールを被覆した光熱発電素子であって、前記光発熱体がカーボンナノチューブ(CNT)とポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の複合体をポリジメチルシロキサン(PDMS)中に含むコンポジットから構成される、光熱発電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光熱発電素子及び該光熱発電素子を用いた光熱発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新たな電力源として、熱電効果を利用した発電機構の開発が行われるようになってきている。熱電効果は、電気伝導体や半導体などの金属中において、熱流の熱エネルギーと電流の電気エネルギーが相互に及ぼし合う効果の総称であり、ゼーベック効果、ペルティエ効果、トムソン効果の3つの効果をいう。このうち、ゼーベック効果は物体の温度差が電圧に直接変換される現象であり、電圧を温度差に変換するペルティエ効果とはちょうど逆の関係にある。
【0003】
ゼーベック効果によれば、温度差を電圧に変換することができ、これを利用して電気を発生させることができる。このような熱電発電システムを実現する熱電モジュールについては、これまでに様々な開発がなされてきている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
このような熱を電気に変換するシステムにおいては、熱を供給すれば発電し、熱の供給を止めれば発電も停止することとなり、熱の供給の有無を発電のスイッチとして用いることができる。
【0005】
そこで、効率よく短時間で熱することが可能な素材を加熱して熱源として用いることで、このようなスイッチ機能を実現できると考えられるが、そのような研究はほとんどなされていない。
【0006】
特許文献1は、カーボンナノチューブを含む熱電モジュールを開示しているが、その光熱発電効率において改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−123885
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】L. E. Bell, Science 321, 1457-1461 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、効率よく短時間で熱することが可能な素材を光により加熱して熱源として用い、光照射により発電可能な光熱発電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、驚くべきことに、カーボンナノチューブとポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の複合体をポリジメチルシロキサン(PDMS)中に分散させたコンポジットに光を吸収させて熱源とすれば、高効率で光発電可能な光熱発電素子を提供できることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は例えば以下の光熱発電素子及び該光熱発電素子を用いた光熱発電方法に係るものである。
項1.光発熱体により熱電モジュールを被覆した光熱発電素子であって、前記光発熱体がカーボンナノチューブ(CNT)とポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の複合体をポリジメチルシロキサン(PDMS)中に含むコンポジットから構成される、光熱発電素子。
項2.項1に記載の光熱発電素子の光発熱体に光を吸収させ、前記熱電モジュールで発電する、光熱発電方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)をカーボンナノチューブ表面に吸着させて複合体を形成し、PDMS中に均一に分散したコンポジットを光発熱体として用いることで、優れた変換効率を有する光熱発電素子を得ることができた。本発明のコンポジットは、カーボンナノチューブの分散性に非常に優れているので、黒色でありながら高い透明性を保つことができ、良好な光吸収性と、光熱変換効率を有している。
【0013】
本発明では、カーボンナノチューブとP3HTの複合体を均一分散したPDMSにより熱電変換モジュールを被覆し、当該PDMS(光発熱体)に光を照射することで発電が可能であることを確認した。光照射による発電の際の発熱は少なく、生体内に埋め込んでも発熱による損傷はなく、安全に繰り返し発電させることができる。また、光熱耐久性は極めて高い。
【0014】
例えば当該素子を生体内に埋め込み、光として生体の透過性が高い近赤外領域の光を使用することで、心筋の拍動や運動神経の動的制御、ペースメーカーなどに応用できる。
【0015】
本発明の光熱発電素子は、発電が望まれる時には光の照射を行い、発電が望まれない時には光の照射を行わないようにすることで、発電の有無を短時間で簡便に切り替えることができる。また、光照射により発電可能であるから、例えば危険な領域で作業を行うロボット等(宇宙空間での作業用ロボット、災害救助用ロボットなど)の遠隔操作等にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】CNTコンポジットフィルムのキャラクタリゼーション(a) 概念図SWNT表面を導電性ポリマーであるP3HTによってラッピングすることでPDMS中に均一かつ高濃度に分散化することができる。特開2009-196877では、PDMS中にSWNT複合体を最大で0.01 wt%分散化可能であったが、本発明の方法では0.06 wt%まで分散化することができた。(b) (左) P3HT-SWNT-PDMSフィルムとPDMSフィルムの透明性に関するデジタルカメラ写真<異なるP3HT-SWNT複合体濃度のフィルム:(i) 0 mg/mL, (ii) 0.15 mg/mL, (iii)0.3 mg/mL, (iV) 0.6 mg/mL> (右) P3HT-SWNT-PDMSのフレキシビリティーに関するデジカメ写真P3HTでラッピングしたSWNT複合体は、PDMS中に均一に分散化可能であるため、黒色でありながら高い透明性を保つことができる。実際、いずれの濃度においても写真のようにAISTのロゴマークが透けて見える。また、作製したP3HT-SWNT-PDMSは、高いフレキシビリティーを有しているため棒状の物体等に巻きつけることも可能である。(c) 光学顕微鏡写真 (左) P3HT-SWNT-PDMSフィルム (右) SWNT-PDMSフィルムP3HT-SWNT-PDMSは、SWNTがフィルム中に均一に分散化しているため、SWNTに由来する黒い凝集物は見られない。一方、P3HT未修飾のSWNTは、PDMSに全く分散化できないため、SWNTに由来する黒い凝集物がフィルム中のいたるところで観察される。(d) ラマンスペクトル解析1: Fig. 1左の矢印1、2: Fig. 1右の矢印1、3: Fig. 1右の矢印3、4: SWNT粉末のラマンスペクトル、5: PDMSのラマンスペクトル P3HT-SWNT複合体を内包したPDMSフィルム(1)からはSWNT(4)と同様のラマンスペクトルが得られ、当該領域にカーボンナノチューブがよく分散していることが裏付けられた。また、未修飾SWNTを内包したPDMSフィルムには、SWNTが凝集している部分(2)と全くSWNTが存在しない部分(3)があることがわかった。(e) クロロホルム中(i)とPDMS中(ii)のP3HT-SWNTのUV-vis-NIR吸収スペクトル解析 P3HT-SWNT複合体を分散化させたクロロホルムおよびPDMSは、波長約500〜800nmにおいてピークが複数観測され、溶液中にカーボンナノチューブが均一に溶解していることが確認できた。(f) 各種コンポジットへのレーザー照射 (785 nm、1 W)における温度上昇の経時変化 <P3HT-SWNT-PDMS、P3HT-MWNT-PDMS、SWNT-PDMS、MWNT-PDMS、C60-PDMS、グラファイト-PDMS、PDMS> (g) 各種コンポジットの各レーザー出力(50, 150, 300, 500, 700, 1000 mW)に対する光発熱挙動(温度差測定)<(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iv) MWNT-PDMS、(v) SWNT-PDMS、(vi) P3HT-MWNT-PDMS、(vii) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 温度変化が全くない。 略号 CNT:カーボンナノチューブ、P3HT:ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、SWNT:単層カーボンナノチューブ、PDMS:ポリジメチルシロキサン
【図2】光発熱特性と熱電変換(a1) P3HT-SWNT-PDMSを搭載した熱電変換素子のデジカメ写真(a2) P3HT-SWNT-PDMSを搭載した小型の熱電変換素子のデジカメ写真(b) 上記(a1)の熱電変換素子の各種コンポジットへのレーザー照射 (1064 nm、1 W)における温度上昇の経時変化 <P3HT-SWNT-PDMS、SWNT-PDMS、C60-PDMS、グラファイト-PDMS、PDMS>とりわけP3HT-SWNT-PDMS(●)において高い温度上昇が確認できた。その他の材料は温度上昇がほとんど見られなかった。(c) 上記(a1)の熱電変換素子の各種コンポジットの各レーザー出力(50, 150, 300, 1000 mW)に対する光発熱挙動(温度差測定) <(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 温度変化が全くない。特にP3HT-SWNT-PDMS(V)において高い温度差が得られた。その他の材料はほとんど温度差が得られなかった。また、未修飾SWNT(iV)およびグラファイト(iii)において温度上昇が見られたが、P3HT-SWNT-PDMS(V)に比較して得られる温度差は小さかった。これは、P3HT-SWNT-PDMS(V)においてSWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができたためと考えられる。(d) 上記(a1)の熱電変換素子において、各出力(25, 50, 150, 300, 1000 mW)のレーザーを照射したときの熱電変換挙動 <(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 全く発電しない。全てのレーザー出力においてP3HT-SWNT-PDMS(V)で高い電圧値が得られることがわかった(最大起電力:約1 mW)。その他の材料に関しては、得られる電圧値にほとんど差が見られなかった。これは、P3HT-SWNT-PDMS(V)は、SWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができ、結果として高い熱電変換作用を示したと考えられる。(e) 上記(a2)の熱電変換素子において、各出力(25, 50, 100, 150, 200, 250, 300, 500, 700, 1000 mW)のレーザーを照射したときの熱電変換挙動 <(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) MWNT-PDMS、(V) SWNT-PDMS、(Vi) P3HT-MWNT-PDMS、(Vii) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 全く発電しない。(f) CNTの光発熱特性を利用した熱電変換メカニズム
【図3】光熱発電による魚心臓拍動制御とカエル筋肉運動制御(a) ゼブラフィッシュ(Danio rerio)心臓の拍動制御(b) 心室と心房の拍動の経時変化1064 nmレーザー(1 W)を照射すると心室の拍動に変化が見られた(不整脈の誘起)。なお、マイクロニードルを接触させていない心房には変化がみられなかった。P3HT-SWNT-PDMSデバイスを用いたときにのみに心室の拍動に変化が見られた(その他の材料では見られない)。以上の結果より、レーザー照射で発生させた電気エネルギーによって心臓のペースメイキングが可能なことがわかった。(c) アフリカツメガエル(Xenopus laevis)坐骨神経の電気刺激と筋肉の運動制御(d) 後足の動きの経時変化1064 nmレーザー(1 W)を連続で照射し、リード線を断続的に接触することで足の動きを制御することができた。P3HT-SWNT-PDMSのみにこのような変化が見られた(その他の材料では見られない)。レーザー照射によって発生する電気エネルギーで神経の運動制御が可能なことがわかった。
【図4】生体内発電実験(a) P3HT-SWNT-PDMSデバイスを体内に埋め込んだラットのデジカメ写真。 (左) 埋め込み背面の拡大写真、(右) リード線と熱電対を接続したときの写真。本発明のデバイスは非常に小型(約1 cm×1 cm×0.45 cm)であるため、ラット背面に埋め込んでもほとんど目立たない。(b) 各出力(25, 50, 100, 150, 200, 250, 300, 500, 700, 1000 mW)のレーザーを照射したときの熱電変換挙動 <(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) MWNT-PDMS、(V) SWNT-PDMS、(Vi) P3HT-MWNT-PDMS、(Vii) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 全く発電しない。 全てのレーザー出力においてP3HT-SWNT-PDMS(Vii)で高い電圧値が得られることがわかった(最大起電力:約3.2 mW)その他の材料に関しては、得られる電圧値にほとんど差が見られなかった。これは、P3HT-SWNT-PDMSは、SWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができ、結果として高い熱電変換作用を示したと考えられる。 (c) 熱電対を用いた各レーザー出力(25, 50, 150, 300 mW)における生体内の温度測定(デバイス下面の温度) <(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 温度変化が全くない。P3HT-SWNT-PDMSデバイスでのみ温度差が確認できたが、それほど高い温度上昇は起きなかった。(d) サーモグラフィカメラによるレーザー照射に伴うラット背面の発熱挙動写真は、P3HT-SWNT-PDMSデバイスを埋め込んだときの結果である。レーザー照射によってラット背面の照射部位がピンポイントで、およそ30℃から40℃に温度上昇することが分かった。(e) サーモグラフィカメラを用いた各レーザー出力(25, 50, 150, 300 mW)における生体表面の温度測定<(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMS> *N. D.: 温度変化が全くない。P3HT-SWNT-PDMSデバイスで約10℃の大きな温度差を確認することができた。(f) レーザー照射後のデバイス埋め込み部位のデジカメ写真やけど等の損傷は全く見られなかった。
【図5】各種コンポジットとPDMS中の分散化状態(a) 各種コンポジットのデジカメ写真<(i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMS>(b) 各種コンポジットの光学顕微鏡写真 <((i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMS>C60、P3HT-MWNT複合体、P3HT-SWNT複合体はPDMS中に均一に分散化しているが、グラファイト、未修飾SWNT、未修飾MWNTは、大きな凝集物がたくさん観察され、全く分散化できていないことがわかる。
【図6】各種コンポジットを搭載した熱電変換素子(a) 各種コンポジットを搭載した熱電変換素子のデジカメ写真<(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMS>(b) 1064 nmレーザー(1 W)を照射したP3HT-SWNT-PDMSデバイスのデジカメ写真。本デバイスは、レーザー照射前と照射後で全く変化が見られないことから、レーザーによる光熱耐久性が極めて高いことがわかった。
【図7】コンポジットの温度測定方法
【図8】各種コンポジットを搭載した熱電変換素子の作製方法
【図9】(a) (i) P3HT-SWNT-PDMSと(ii) P3HT-MWNT-PDMSのUV-vis-NIR吸収スペクトル解析 PDMS中のSWNTとMWNTの濃度はそれぞれ20 μg mL-1と 3 μg mL-1である。b)遠心分離後(11,000 rpm, 15 min, 4 °C)のP3HTで機能化した各種CNT-クロロホルム分散溶液 <(i) P3HT、(ii) P3HT-SWNT、(iii) P3HT-WWNT> P3HT、SWNT、MWNTのクロロホルム中の濃度は、62.5 μg mL-1、125 μg mL-1、125 μg mL-1である。遠心分離を施すとP3HT-WWNT は、分散化できなかった大量のMWNT凝集物がマイクロチューブの底部に沈殿し、上澄み液が透明茶褐色となった。一方、P3HT-SWNTの大部分が黒色の上澄み液として得られた。これは、P3HTの分散性能がMWNTよりもSWNTの方が高いことを示唆している。
【図10】各種コンポジットを装着した小型デバイス(図11、Type 1)の電流および電力測定<(i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMS>
【図11】(a) サイズの異なるP3HT-SWNT-PDMSコンポジットを装着したデバイスのデジカメ写真。(b) 670 nmレーザーを照射したときの三種類の素子(Type 1, 2, 3)の電気的特性評価。小型のデバイスType 1を用いたとき最大電気量が得られることがわかった。Type 3に比較して約3倍性能を向上できることが明らかとなった。
【図12】P3HT-SWNT-PDMSコンポジットを装着したデバイス中のSWNT濃度が電圧に与える影響。実験は、670 nmレーザーによって小型のType 1素子を用いた。SWNT濃度が高いほど得られる電圧も高いことが分かった。
【図13】785 nmレーザー(1 W)を10時間照射したP3HT-SWNT-PDMSデバイスのデジカメ写真。本デバイスは、レーザー照射前と照射後で全く変化が見られないことから、レーザーによる光熱耐久性が極めて高いことがわかった。
【図14】1064 nm(1 W)レーザーを照射したときの熱電変換特性評価(大型デバイスType 3使用) (a) 温度変化量 (b) 電気的特性< (i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) SWNT-PDMS, (v) P3HT-SWNT-PDMS>
【図15】デバイスの電気的特性の向上(a) 実験装置図1(b) 熱電変換特性評価(大型デバイスType 1使用)実験条件: (i) 670-nmシングルレーザー照射(300 mW), (ii) 785-nmシングルレーザー照射(1 W), (iii) 670-nmと785-nmのダブルレーザー照射(300 mWと1 W)。デバイスを直列につなぐことで得られる電圧値が向上することがわかった。これは、デバイスの数に応じて出力電気量を高めることができることを示唆している。
【図16】(a) 熱電対を用いた各レーザー出力(25, 50, 150, 300 mW)における生体内の温度測定(デバイス下面の温度)<(i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 温度変化が全くない。 P3HT-SWNT-PDMSデバイスでのみ温度差が確認できたが、それほど高い温度上昇は起きなかった。(b) サーモグラフィカメラを用いた各レーザー出力(25, 50, 150, 300 mW)における生体表面の温度測定<(i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMS> *N.D.: 温度変化が全くない。 P3HT-SWNT-PDMSデバイスで約10℃の大きな温度差を確認することができた。
【図17】デバイスの生体適合性評価(a) デバイス埋め込み直後のラット背面のデジカメ写真(b) 埋め込み8日後のデジカメ写真(c) 埋め込み32日後のデジカメ写真(d) 埋め込み32日後に摘出したデバイスのデジカメ写真(e) ラットの体重変化埋め込み32日後にデバイス周辺に繊維化が見られたが、デバイスの埋め込み有無に関わらず、炎症や顕著な体重変化は全く見られなかった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
熱電モジュールは、公知の熱電モジュールを広く利用することができる。例えば熱電モジュールは、熱電素子と1対のリード線を有し、電力消費機器をリード線と接続することで、熱電モジュールで発電された電気を利用して該電力消費機器を作動させることができる。
【0018】
熱電素子としては、公知のものが広く用いられ、特に限定されないが、例えば絶縁層を介してあるいは接触することなく交互に配置された複数のp型熱電素子及びn型熱電素子が挙げられ、前記リード線(接続電極)はp型熱電素子及びn型熱電素子を接続する。
【0019】
p型熱電素子及びn型熱電素子の材料としては、熱電モジュールに用い得るものであれば特に制限されるものではなく、例えばp型熱電素子材料として(BiSb)2Te3が、n型熱電素子材料としてBi2(TeSe)3が例示できる。
【0020】
本発明で用いられるカーボンナノチューブは特に制限されるものではなく、多層のもの(多層カーボンナノチューブ、「MWNT」と呼ばれる)から単層のもの(単層カーボンナノチューブ、「SWNT」と呼ばれる)まで使用することができる。好ましくは、単層ウォール・カーボンナノチューブが用いられる。用いるSWNTの製造方法としては、特に制限されるものではなく、触媒を用いる熱分解法(気相成長法と類似の方法)、アーク放電法、レーザー蒸発法、HiPco法(High-pressure carbon monoxide process)及びCVD法(Chemical Vapor Deposition)等、公知のいずれの製造方法を用いても構わない。
【0021】
カーボンナノチューブとポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の複合体(以下、「CNT複合体」と称することがある)をポリジメチルシロキサン(PDMS)中に含むコンポジットは、前記複合体がPDMS中に分散したものである。分散の度合いはできるだけ均一であることが好ましく、少なくとも目視によってカーボンナノチューブ濃度に偏りがあることが確認できないことが必要である。分散の度合いが低いと、光の吸収効率が低下、熱電変換デバイスとして機能しないため、好ましくない。
【0022】
CNT複合体は、ジメチルシロキサン(DMS)への分散性が高く、カーボンナノチューブをPDMSに分散させたコンポジットの製造に適している。このようなコンポジットは、例えばジメチルシロキサン(DMS)中にCNT複合体と必要に応じて架橋剤(例えばSylgard 184; Dow Corning)を分散させて、必要に応じて水、酸或いは塩基などの触媒を用い、室温若しくは加熱下に重合(硬化)することで、CNT複合体が均一に分散したポリジメチルシロキサン(PDMS)を得ることができる。CNT複合体はジメチルシロキサン(DMS)との相溶性が高く、均一な溶液を得ることができる。架橋剤としては、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロボキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられ、具体的にはSylgard 184(Dow Corning)などが使用できる。架橋剤は、DMS100重量部に対し、5〜10重量部、好ましくは9〜10重量部使用することができる。
【0023】
本発明のコンポジットは、PDMS中においてCNT量として0.001〜1重量%、好ましくは0.005〜0.5重量%、より好ましくは0.01〜0.1重量%、特に0.01〜0.08重量%程度分散することができる。
【0024】
本発明のCNT-P3HT複合体におけるカーボンナノチューブ(CNT)とP3HTの比率は、カーボンナノチューブ100重量部に対し、P3HTを100〜1000重量部、好ましくは500〜650重量部程度含む。PDMS硬化の条件は特に限定されないが、70〜80℃で、1〜12時間程度反応させればよい。
【0025】
本発明の光熱発電素子は、例えば図8に示すようにCNT複合体(P3HT-SWNT)をDMSに分散させて重合して、P3HT-SWNT-PDMSからなる底面を形成し、1対の電極(リード線)を有する熱電モジュールをその上に置き、さらにCNT複合体(P3HT-SWNT)のDMS分散液を注いで、1対の電極以外の熱電モジュールを分散液で覆い、硬化(curing)することで、P3HT-SWNT-PDMSにより熱電モジュールを被覆した本発明の光熱発電素子を得ることができる。
【0026】
本発明の光発熱体として使用するP3HT-CNT-PDMSコンポジットの概念図を図1(a)に示す。
【0027】
熱電モジュールを被覆する光発熱体(P3HT-SWNT-PDMS)の厚さは、例えば0.1mm〜5.0mm程度、好ましくは0.2〜3mm、より好ましくは0.3〜2mm、特に好ましくは0.5〜1.5mmである。
【0028】
このようにして製造される光熱発電素子は、カーボンナノチューブが分散したコンポジットが光を吸収し、発熱することによって発電する。
【0029】
該コンポジットに照射する光の種類は、可視〜近赤外領域の波長(400〜1100nm)を有する光であれば、特に限定されない。さらに、該コンポジットは、1100nm以上の波長の光も吸収して発熱する。また、レーザーは指向性が極めて高いため遠隔操作が可能なことから、レーザーを用いるのが好適である。光熱発電素子を生体内の深部に埋め込んだ場合、生体に対する透過性の高い近赤外領域の光を照射するのが好ましい。
【0030】
照射する光の強さは、コンポジットが溶解しない限り、特に制限されるものではない。本発明のコンポジットは〜1W程度のレーザー出力にも十分耐えることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
本明細書において、以下の略号を用いる。
CNT:カーボンナノチューブ、P3HT:ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、SWNT:単層カーボンナノチューブ、PDMS:ポリジメチルシロキサン
【0032】
実施例1
P3HT-SWNT-PDMSコンポジット及びP3HT-MWNT-PDMSコンポジットの合成
P3HT-SWNT-PDMSコンポジットは、次の方法により作製した。SWNT(5 mg)[high-pressure carbon monoxide(Hipco)super-purified SWNTs(purity > 95%); Carbon Nanotechnologies]とP3HT(2.5 mg)(regioregular; Ardrich)をクロロホルム(40 mL)に添加し、15 min間、氷冷下(> 8℃)で超音波処理(USD-2R; AS ONE)を施した。得られたP3HT-SWNT複合体溶液を遠心分離(11,000 rpm, 15 min, 4°C)(1720; Kubota)に掛け、上澄みを注意深く回収した。回収した本上澄み溶液(30 mL)をPDMS(30 g)(Sylgard 184; Dow Corning)に添加し、氷冷下、超音波処理を1 min施した。ロータリー真空エバポレーター(EYELA Auto Jack NAJ; Tokyo Rikakikai)によりクロロホルムを90℃で完全に除去した。室温に戻した後、本溶液に架橋剤(Sylgard 184; Dow Corning)を(架橋剤:PDMS = 1:10)の割合で添加し、5 minほど良く混合した。30 min間、真空乾燥させることで気泡を取り除いた。最後に、P3HT-SWNT/PDMS/架橋剤を容器に注ぎ、オーブン(70℃、45 min)に入れ、硬化させた。その他のカーボン材料を封入したPDMSコンポジットに関しては、基本的には、P3HT-SWNT-PDMSコンポジットと同様の手法により作製した。なお、C60-PDMSコンポジットに関しては、溶媒にトルエンを用いた。P3HT-MWNT-PDMSコンポジットについては、SMNTに代えてMWNTを使用した以外はP3HT-SWNT-PDMSコンポジットと同様の手法により作製した。PDMS中のSWNTおよびMWNT濃度は、それぞれ80 μg/mL、12 μg/mLである。クロロホルム及びPDMSコンポジット中のP3HT-SWNT複合体の分散性評価は、顕微レーザーラマン(波長: 532 nm)(NRS-3100; JASCO)とUV-Vis-NIR分光光度計(UV-3100PC; Shimadzu)を用いて行った。光熱発電素子は、3種類のビスマス-テルル系熱電変換素子(Type 1 (OTT-8-1.3-0.4): 大きさ = 2.0 mm × 2.0 mm × 2.4 mm, Seebeck係数 (Z)約2.22 × 10-3, Ri約2.7 Ω, Type 2 (1MD04-017-12): 大きさ = 3.8 mm × 3.8 mm × 2.3 mm, Z約2.55 × 10-3, Ri約2.7 Ω, Type 3 (TEFC1-03112): size = 8.3 mm × 8.3 mm × 2.4 mm, Z約2.07 × 10-3, Ri約2.7 Ω(Japan Tecmo)の表面に各種カーボン材料-PDMSコンポジットを硬化させることで作製した(図8)。
【0033】
温度アッセイ
様々な出力(50, 150, 300, 1000 mW)に設定した670 nm(レーザー径約5 mm)(BWF-670-300E; B&W Tek)、785 nm(レーザー径 約4 mm)(BRM-785-1.0-100-0.22-SMA; B&W Tek)、1064 nm(レーザー径 約 2 mm)(BL106-C; Spectra Physics)のレーザーをカーボン材料-PDMSコンポジットに照射することで温度アッセイを行った(図7)。熱電対(CT-280WR; Custom)を用いて30 sec毎に温度を測定した。なお、レーザービームが、熱電対に直接当たらないようにした。
【0034】
電圧測定
様々な出力(25, 50, 150, 300, 500, 700 and 1000 mW)に設定した670 nm、785 nm、1064 nmのレーザーを作製した各種コンポジットを搭載した光熱発電素子に照射した。当該発電素子に電圧計(SK-6500; Kaise)を接続することで、開放電圧を測定した。
【0035】
CNTコンポジットフィルムのキャラクタリゼーション
CNT(図1ではSWNT)表面を導電性ポリマーであるP3HTによってラッピングすることでPDMS中に均一かつ高濃度に分散化することができる。特開2009-196877では、PDMS中にCNT複合体を最大で0.01 wt%分散化可能であったが、本発明では0.06 wt%まで分散化することができる。CNTの高濃度分散化により、光発熱の効率を高めることができる。
【0036】
本発明のP3HT-CNT-PDMSフィルムは、濃度を濃くしていくと((i) 0 mg/mL, (ii) 0.15 mg/mL, 0.3 mg/mL, (iV) 0.6 mg/mL)黒色が濃くなるが透明なフィルムであり(図1b左)、このフィルムは高いフレキシビリティーを有し、棒状の物体等に巻きつけることも可能である(図1b右)。
【0037】
P3HT-SWNT-PDMSは、SWNTがフィルム中に均一に分散化しているため、SWNTに由来する黒い凝集物は見られない。一方、P3HT未修飾のSWNTは、PDMSに全く分散化できないため、SWNTに由来する黒い凝集物がフィルム中のいたるところで観察される(図1c右:SWNT-PDMSフィルムの光学顕微鏡写真)。
【0038】
P3HT-SWNT複合体を内包したPDMSフィルム(1)からはSWNT(4)と同様のラマンスペクトルが得られ、当該領域にカーボンナノチューブがよく分散していることが裏付けられた。また、未修飾SWNTを内包したPDMSフィルムには、SWNTが凝集している部分(2)と全くSWNTが存在しない部分(3)があることがわかった(図1d)。図1d中、1: Fig. 1左の矢印1、2: Fig. 1右の矢印1、3: Fig. 1右の矢印3、4: SWNT粉末のラマンスペクトル、5: PDMSのラマンスペクトルを各々示す。
【0039】
P3HT-SWNT複合体を分散化させたクロロホルムおよびPDMSは、波長約500〜800nmにおいてピークが複数観測され、溶液中にカーボンナノチューブが均一に溶解していることが確認できた(図1e)。なお図1eにおいて、(i)クロロホルム中のP3HT-SWNTのUV-vis-NIR吸収スペクトル解析、(ii)PDMS中のP3HT-SWNTのUV-vis-NIR吸収スペクトル解析を各々示す。
各種コンポジットへのレーザー照射 (785 nm、1 W)における温度上昇の経時変化を測定し、結果を図1(f)に示した。とりわけP3HT-SWNT-PDMS(●)において高い温度上昇が確認できた。その他の材料は温度上昇がほとんど見られなかった。
【0040】
各種コンポジットの各レーザー出力(50, 150, 300, 500, 700, 1000 mW)に対する光発熱挙動(温度差測定)を測定し、結果を図1(g)に示した。特にP3HT-SWNT-PDMS(vii)において高い温度差が得られた。その他の材料はほとんど温度差が得られなかった。また、未修飾SWNT(v)およびグラファイト(iii)において温度上昇が見られたが、P3HT-SWNT-PDMSに比較して得られる温度差は小さかった。これは、P3HT-SWNT-PDMS(vii)においてSWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができたためと考えられる。P3HT-MWNT-PDMS(vi)もまたPDMS中にMWNTが均一に分散化しているが、P3HT-SWNT-PDMS(vii)に比較してPDMS中のMWNT含有濃度が低いため、光発熱作用が小さいと考えられる(図5)。
【0041】
光発熱特性と熱電変換
P3HT-SWNT-PDMSを搭載した熱電変換素子のデジカメ写真を図2(a)に示す。
【0042】
また、各種コンポジットへのレーザー照射 (1064 nm、1 W)における温度上昇の経時変化を図2bに示す。図2bにおいて、P3HT-SWNT-PDMS(●)、SWNT-PDMS(▲)、C60-PDMS(×)、グラファイト-PDMS(■)、PDMS(◇)である。
【0043】
とりわけP3HT-SWNT-PDMSにおいて高い温度上昇が確認できた。その他の材料は温度上昇がほとんど見られなかった。
【0044】
各種コンポジットの各レーザー出力(50, 150, 300, 1000 mW)に対する光発熱挙動(温度差測定)を図2cに示す。図2cにおいて、(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMSを各々示す。*N. D.は温度変化が全くないことを示す。特にP3HT-SWNT-PDMSにおいて高い温度差が得られた。その他の材料はほとんど温度差が得られなかった。また、未修飾SWNTおよびグラファイトにおいて温度上昇が見られたが、P3HT-SWNT-PDMSに比較して得られる温度差は小さかった。これは、P3HT-SWNT-PDMSにおいてSWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができたためと考えられる。
【0045】
次に、各出力(25, 50, 150, 300, 1000 mW)のレーザーを照射したときの熱電変換挙動を図2dに示す。図2dにおいて、(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMS、*N. D.: 全く発電しない。
【0046】
全てのレーザー出力においてP3HT-SWNT-PDMSで高い電圧値が得られることがわかった(最大起電力:約1 mW)。その他の材料に関しては、得られる電圧値にほとんど差が見られなかった。これは、P3HT-SWNT-PDMSは、SWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができ、結果として高い熱電変換作用を示したと考えられる。
【0047】
次に、図2(a2)の熱電変換素子において、各出力(25, 50, 100, 150, 200, 250, 300, 500, 700, 1000 mW)のレーザーを照射したときの熱電変換挙動を図2(e)に示す。図2(e)において、 (i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) MWNT-PDMS、(V) SWNT-PDMS、(Vi) P3HT-MWNT-PDMS、(Vii) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 全く発電しない。全てのレーザー出力においてP3HT-SWNT-PDMS(Vii)で高い電圧値が得られることがわかった(最大起電力:約3.2 mW)。その他の材料に関しては、得られる電圧値にほとんど差が見られなかった。これは、P3HT-SWNT-PDMS(Vii)は、SWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができ、結果として高い熱電変換作用を示したと考えられる。
【0048】
CNTの光発熱特性を利用した熱電変換メカニズムを図2(f)に示す。
【0049】
動物実験
まず、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)(AB)の実験は、酸化処理により先端を尖らせたタングステン製のマイクロニードル(直径 = 0.2 mm, Nilaco)をマイクロマニピュレータ(MM-3; Narishige)によって心室に突き刺した。次に、1064 nmレーザー(1 W)を光熱発電素子に約1 min連続照射しながら、連続的に電気刺激を行った(図3a,b)。一方、アフリカツメガエル(Xenopus Laevis)(♂, Hamamatsu Seibutsu Kyozai)の実験に関しては、1064 nmレーザー(1 W)を光熱発電素子に約1 min連続照射しながら、リード線を断続的に接触させることで電気刺激を行った(図3c,d)。ラット(10週齢、♂)(Jcl:Wistar; CLEA Japan)の実験では、光熱発電素子をラット背面に埋め込み、各出力(25, 50, 150, 300 mW)の670 nmレーザーを埋め込み部位に向かって3 min間照射し、電圧計により開放電圧を測定した。このとき、熱電対(AD-5601A; A & D)を手術した小さな切開部位から挿入し、光熱発電素子の下部に置くことで、生体内温度を測定した。また、赤外線サーモグラフィカメラ(b40; FLIR)により、生体表面温度を測定した(図4)。デバイスの生体適合性評価は、次のように行った。リード線を除去した最も小型のデバイス(Type 1)をラット(10週齢、♂)(Jcl:Wistar; CLEA Japan)背面に埋め込んだ。8日後、32日後に腹腔動脈から採血し、本血液サンプルのCBC(Complete blood cell count)と生化学検査を実施した(表1)。また、デバイス埋め込み部位および摘出したデバイスを入念に観察した。
【0050】
【表1】
【0051】
デバイスの埋め込み有無に関わらず、CBCと生化学検査に大きな違いは見られなかった。とりわけ、炎症性マーカーであるCRPに変化が見られないことから本デバイスは生体適合性が高いと考えられる。
【0052】
各種コンポジットとPDMS中の分散化状態
各種コンポジットのデジカメ写真を図5aに示す。図5において、(i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMSである。
【0053】
各種コンポジットの光学顕微鏡写真を図5bに示す。図5bにおいて、((i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMSである。C60、P3HT-MWNT複合体、P3HT-SWNT複合体はPDMS中に均一に分散化しているが、グラファイト、未修飾SWNT、未修飾MWNTは、大きな凝集物がたくさん観察され、全く分散化できていないことがわかる。
【0054】
各種コンポジットを搭載した熱電変換素子
各種コンポジットを搭載した熱電変換素子のデジカメ写真を図6aに示す。図6a中、(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMSである。図6bは、1064 nmレーザー(1 W)を照射したP3HT-SWNT-PDMSデバイスのデジカメ写真である。図6bにおいて、本発明のデバイス(V)は、レーザー照射前と照射後で全く変化が見られないことから、レーザーによる光熱耐久性が極めて高いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により製造されるカーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液を用いることで、触媒、ナノエレクトロニクスデバイス、ドラッグデリバリーシステム等への応用が可能である。また、本発明により製造される、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂は、超高強度繊維、エレクトロニクス素子、アクチュエータ素子、燃料電池、医療用材料等への応用が考えられる。さらに、本発明に係る発電素子によれば、レーザー光線を利用した生体内における遠隔発電が可能であり、心臓ペースメーカー等の様々な体内埋め込み型医療機器への光熱による安定した電力供給システムに利用できるものと考えられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光熱発電素子及び該光熱発電素子を用いた光熱発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新たな電力源として、熱電効果を利用した発電機構の開発が行われるようになってきている。熱電効果は、電気伝導体や半導体などの金属中において、熱流の熱エネルギーと電流の電気エネルギーが相互に及ぼし合う効果の総称であり、ゼーベック効果、ペルティエ効果、トムソン効果の3つの効果をいう。このうち、ゼーベック効果は物体の温度差が電圧に直接変換される現象であり、電圧を温度差に変換するペルティエ効果とはちょうど逆の関係にある。
【0003】
ゼーベック効果によれば、温度差を電圧に変換することができ、これを利用して電気を発生させることができる。このような熱電発電システムを実現する熱電モジュールについては、これまでに様々な開発がなされてきている(例えば非特許文献1参照)。
【0004】
このような熱を電気に変換するシステムにおいては、熱を供給すれば発電し、熱の供給を止めれば発電も停止することとなり、熱の供給の有無を発電のスイッチとして用いることができる。
【0005】
そこで、効率よく短時間で熱することが可能な素材を加熱して熱源として用いることで、このようなスイッチ機能を実現できると考えられるが、そのような研究はほとんどなされていない。
【0006】
特許文献1は、カーボンナノチューブを含む熱電モジュールを開示しているが、その光熱発電効率において改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−123885
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】L. E. Bell, Science 321, 1457-1461 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、効率よく短時間で熱することが可能な素材を光により加熱して熱源として用い、光照射により発電可能な光熱発電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、驚くべきことに、カーボンナノチューブとポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の複合体をポリジメチルシロキサン(PDMS)中に分散させたコンポジットに光を吸収させて熱源とすれば、高効率で光発電可能な光熱発電素子を提供できることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は例えば以下の光熱発電素子及び該光熱発電素子を用いた光熱発電方法に係るものである。
項1.光発熱体により熱電モジュールを被覆した光熱発電素子であって、前記光発熱体がカーボンナノチューブ(CNT)とポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の複合体をポリジメチルシロキサン(PDMS)中に含むコンポジットから構成される、光熱発電素子。
項2.項1に記載の光熱発電素子の光発熱体に光を吸収させ、前記熱電モジュールで発電する、光熱発電方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)をカーボンナノチューブ表面に吸着させて複合体を形成し、PDMS中に均一に分散したコンポジットを光発熱体として用いることで、優れた変換効率を有する光熱発電素子を得ることができた。本発明のコンポジットは、カーボンナノチューブの分散性に非常に優れているので、黒色でありながら高い透明性を保つことができ、良好な光吸収性と、光熱変換効率を有している。
【0013】
本発明では、カーボンナノチューブとP3HTの複合体を均一分散したPDMSにより熱電変換モジュールを被覆し、当該PDMS(光発熱体)に光を照射することで発電が可能であることを確認した。光照射による発電の際の発熱は少なく、生体内に埋め込んでも発熱による損傷はなく、安全に繰り返し発電させることができる。また、光熱耐久性は極めて高い。
【0014】
例えば当該素子を生体内に埋め込み、光として生体の透過性が高い近赤外領域の光を使用することで、心筋の拍動や運動神経の動的制御、ペースメーカーなどに応用できる。
【0015】
本発明の光熱発電素子は、発電が望まれる時には光の照射を行い、発電が望まれない時には光の照射を行わないようにすることで、発電の有無を短時間で簡便に切り替えることができる。また、光照射により発電可能であるから、例えば危険な領域で作業を行うロボット等(宇宙空間での作業用ロボット、災害救助用ロボットなど)の遠隔操作等にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】CNTコンポジットフィルムのキャラクタリゼーション(a) 概念図SWNT表面を導電性ポリマーであるP3HTによってラッピングすることでPDMS中に均一かつ高濃度に分散化することができる。特開2009-196877では、PDMS中にSWNT複合体を最大で0.01 wt%分散化可能であったが、本発明の方法では0.06 wt%まで分散化することができた。(b) (左) P3HT-SWNT-PDMSフィルムとPDMSフィルムの透明性に関するデジタルカメラ写真<異なるP3HT-SWNT複合体濃度のフィルム:(i) 0 mg/mL, (ii) 0.15 mg/mL, (iii)0.3 mg/mL, (iV) 0.6 mg/mL> (右) P3HT-SWNT-PDMSのフレキシビリティーに関するデジカメ写真P3HTでラッピングしたSWNT複合体は、PDMS中に均一に分散化可能であるため、黒色でありながら高い透明性を保つことができる。実際、いずれの濃度においても写真のようにAISTのロゴマークが透けて見える。また、作製したP3HT-SWNT-PDMSは、高いフレキシビリティーを有しているため棒状の物体等に巻きつけることも可能である。(c) 光学顕微鏡写真 (左) P3HT-SWNT-PDMSフィルム (右) SWNT-PDMSフィルムP3HT-SWNT-PDMSは、SWNTがフィルム中に均一に分散化しているため、SWNTに由来する黒い凝集物は見られない。一方、P3HT未修飾のSWNTは、PDMSに全く分散化できないため、SWNTに由来する黒い凝集物がフィルム中のいたるところで観察される。(d) ラマンスペクトル解析1: Fig. 1左の矢印1、2: Fig. 1右の矢印1、3: Fig. 1右の矢印3、4: SWNT粉末のラマンスペクトル、5: PDMSのラマンスペクトル P3HT-SWNT複合体を内包したPDMSフィルム(1)からはSWNT(4)と同様のラマンスペクトルが得られ、当該領域にカーボンナノチューブがよく分散していることが裏付けられた。また、未修飾SWNTを内包したPDMSフィルムには、SWNTが凝集している部分(2)と全くSWNTが存在しない部分(3)があることがわかった。(e) クロロホルム中(i)とPDMS中(ii)のP3HT-SWNTのUV-vis-NIR吸収スペクトル解析 P3HT-SWNT複合体を分散化させたクロロホルムおよびPDMSは、波長約500〜800nmにおいてピークが複数観測され、溶液中にカーボンナノチューブが均一に溶解していることが確認できた。(f) 各種コンポジットへのレーザー照射 (785 nm、1 W)における温度上昇の経時変化 <P3HT-SWNT-PDMS、P3HT-MWNT-PDMS、SWNT-PDMS、MWNT-PDMS、C60-PDMS、グラファイト-PDMS、PDMS> (g) 各種コンポジットの各レーザー出力(50, 150, 300, 500, 700, 1000 mW)に対する光発熱挙動(温度差測定)<(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iv) MWNT-PDMS、(v) SWNT-PDMS、(vi) P3HT-MWNT-PDMS、(vii) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 温度変化が全くない。 略号 CNT:カーボンナノチューブ、P3HT:ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、SWNT:単層カーボンナノチューブ、PDMS:ポリジメチルシロキサン
【図2】光発熱特性と熱電変換(a1) P3HT-SWNT-PDMSを搭載した熱電変換素子のデジカメ写真(a2) P3HT-SWNT-PDMSを搭載した小型の熱電変換素子のデジカメ写真(b) 上記(a1)の熱電変換素子の各種コンポジットへのレーザー照射 (1064 nm、1 W)における温度上昇の経時変化 <P3HT-SWNT-PDMS、SWNT-PDMS、C60-PDMS、グラファイト-PDMS、PDMS>とりわけP3HT-SWNT-PDMS(●)において高い温度上昇が確認できた。その他の材料は温度上昇がほとんど見られなかった。(c) 上記(a1)の熱電変換素子の各種コンポジットの各レーザー出力(50, 150, 300, 1000 mW)に対する光発熱挙動(温度差測定) <(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 温度変化が全くない。特にP3HT-SWNT-PDMS(V)において高い温度差が得られた。その他の材料はほとんど温度差が得られなかった。また、未修飾SWNT(iV)およびグラファイト(iii)において温度上昇が見られたが、P3HT-SWNT-PDMS(V)に比較して得られる温度差は小さかった。これは、P3HT-SWNT-PDMS(V)においてSWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができたためと考えられる。(d) 上記(a1)の熱電変換素子において、各出力(25, 50, 150, 300, 1000 mW)のレーザーを照射したときの熱電変換挙動 <(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 全く発電しない。全てのレーザー出力においてP3HT-SWNT-PDMS(V)で高い電圧値が得られることがわかった(最大起電力:約1 mW)。その他の材料に関しては、得られる電圧値にほとんど差が見られなかった。これは、P3HT-SWNT-PDMS(V)は、SWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができ、結果として高い熱電変換作用を示したと考えられる。(e) 上記(a2)の熱電変換素子において、各出力(25, 50, 100, 150, 200, 250, 300, 500, 700, 1000 mW)のレーザーを照射したときの熱電変換挙動 <(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) MWNT-PDMS、(V) SWNT-PDMS、(Vi) P3HT-MWNT-PDMS、(Vii) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 全く発電しない。(f) CNTの光発熱特性を利用した熱電変換メカニズム
【図3】光熱発電による魚心臓拍動制御とカエル筋肉運動制御(a) ゼブラフィッシュ(Danio rerio)心臓の拍動制御(b) 心室と心房の拍動の経時変化1064 nmレーザー(1 W)を照射すると心室の拍動に変化が見られた(不整脈の誘起)。なお、マイクロニードルを接触させていない心房には変化がみられなかった。P3HT-SWNT-PDMSデバイスを用いたときにのみに心室の拍動に変化が見られた(その他の材料では見られない)。以上の結果より、レーザー照射で発生させた電気エネルギーによって心臓のペースメイキングが可能なことがわかった。(c) アフリカツメガエル(Xenopus laevis)坐骨神経の電気刺激と筋肉の運動制御(d) 後足の動きの経時変化1064 nmレーザー(1 W)を連続で照射し、リード線を断続的に接触することで足の動きを制御することができた。P3HT-SWNT-PDMSのみにこのような変化が見られた(その他の材料では見られない)。レーザー照射によって発生する電気エネルギーで神経の運動制御が可能なことがわかった。
【図4】生体内発電実験(a) P3HT-SWNT-PDMSデバイスを体内に埋め込んだラットのデジカメ写真。 (左) 埋め込み背面の拡大写真、(右) リード線と熱電対を接続したときの写真。本発明のデバイスは非常に小型(約1 cm×1 cm×0.45 cm)であるため、ラット背面に埋め込んでもほとんど目立たない。(b) 各出力(25, 50, 100, 150, 200, 250, 300, 500, 700, 1000 mW)のレーザーを照射したときの熱電変換挙動 <(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) MWNT-PDMS、(V) SWNT-PDMS、(Vi) P3HT-MWNT-PDMS、(Vii) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 全く発電しない。 全てのレーザー出力においてP3HT-SWNT-PDMS(Vii)で高い電圧値が得られることがわかった(最大起電力:約3.2 mW)その他の材料に関しては、得られる電圧値にほとんど差が見られなかった。これは、P3HT-SWNT-PDMSは、SWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができ、結果として高い熱電変換作用を示したと考えられる。 (c) 熱電対を用いた各レーザー出力(25, 50, 150, 300 mW)における生体内の温度測定(デバイス下面の温度) <(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 温度変化が全くない。P3HT-SWNT-PDMSデバイスでのみ温度差が確認できたが、それほど高い温度上昇は起きなかった。(d) サーモグラフィカメラによるレーザー照射に伴うラット背面の発熱挙動写真は、P3HT-SWNT-PDMSデバイスを埋め込んだときの結果である。レーザー照射によってラット背面の照射部位がピンポイントで、およそ30℃から40℃に温度上昇することが分かった。(e) サーモグラフィカメラを用いた各レーザー出力(25, 50, 150, 300 mW)における生体表面の温度測定<(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMS> *N. D.: 温度変化が全くない。P3HT-SWNT-PDMSデバイスで約10℃の大きな温度差を確認することができた。(f) レーザー照射後のデバイス埋め込み部位のデジカメ写真やけど等の損傷は全く見られなかった。
【図5】各種コンポジットとPDMS中の分散化状態(a) 各種コンポジットのデジカメ写真<(i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMS>(b) 各種コンポジットの光学顕微鏡写真 <((i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMS>C60、P3HT-MWNT複合体、P3HT-SWNT複合体はPDMS中に均一に分散化しているが、グラファイト、未修飾SWNT、未修飾MWNTは、大きな凝集物がたくさん観察され、全く分散化できていないことがわかる。
【図6】各種コンポジットを搭載した熱電変換素子(a) 各種コンポジットを搭載した熱電変換素子のデジカメ写真<(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMS>(b) 1064 nmレーザー(1 W)を照射したP3HT-SWNT-PDMSデバイスのデジカメ写真。本デバイスは、レーザー照射前と照射後で全く変化が見られないことから、レーザーによる光熱耐久性が極めて高いことがわかった。
【図7】コンポジットの温度測定方法
【図8】各種コンポジットを搭載した熱電変換素子の作製方法
【図9】(a) (i) P3HT-SWNT-PDMSと(ii) P3HT-MWNT-PDMSのUV-vis-NIR吸収スペクトル解析 PDMS中のSWNTとMWNTの濃度はそれぞれ20 μg mL-1と 3 μg mL-1である。b)遠心分離後(11,000 rpm, 15 min, 4 °C)のP3HTで機能化した各種CNT-クロロホルム分散溶液 <(i) P3HT、(ii) P3HT-SWNT、(iii) P3HT-WWNT> P3HT、SWNT、MWNTのクロロホルム中の濃度は、62.5 μg mL-1、125 μg mL-1、125 μg mL-1である。遠心分離を施すとP3HT-WWNT は、分散化できなかった大量のMWNT凝集物がマイクロチューブの底部に沈殿し、上澄み液が透明茶褐色となった。一方、P3HT-SWNTの大部分が黒色の上澄み液として得られた。これは、P3HTの分散性能がMWNTよりもSWNTの方が高いことを示唆している。
【図10】各種コンポジットを装着した小型デバイス(図11、Type 1)の電流および電力測定<(i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMS>
【図11】(a) サイズの異なるP3HT-SWNT-PDMSコンポジットを装着したデバイスのデジカメ写真。(b) 670 nmレーザーを照射したときの三種類の素子(Type 1, 2, 3)の電気的特性評価。小型のデバイスType 1を用いたとき最大電気量が得られることがわかった。Type 3に比較して約3倍性能を向上できることが明らかとなった。
【図12】P3HT-SWNT-PDMSコンポジットを装着したデバイス中のSWNT濃度が電圧に与える影響。実験は、670 nmレーザーによって小型のType 1素子を用いた。SWNT濃度が高いほど得られる電圧も高いことが分かった。
【図13】785 nmレーザー(1 W)を10時間照射したP3HT-SWNT-PDMSデバイスのデジカメ写真。本デバイスは、レーザー照射前と照射後で全く変化が見られないことから、レーザーによる光熱耐久性が極めて高いことがわかった。
【図14】1064 nm(1 W)レーザーを照射したときの熱電変換特性評価(大型デバイスType 3使用) (a) 温度変化量 (b) 電気的特性< (i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) SWNT-PDMS, (v) P3HT-SWNT-PDMS>
【図15】デバイスの電気的特性の向上(a) 実験装置図1(b) 熱電変換特性評価(大型デバイスType 1使用)実験条件: (i) 670-nmシングルレーザー照射(300 mW), (ii) 785-nmシングルレーザー照射(1 W), (iii) 670-nmと785-nmのダブルレーザー照射(300 mWと1 W)。デバイスを直列につなぐことで得られる電圧値が向上することがわかった。これは、デバイスの数に応じて出力電気量を高めることができることを示唆している。
【図16】(a) 熱電対を用いた各レーザー出力(25, 50, 150, 300 mW)における生体内の温度測定(デバイス下面の温度)<(i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 温度変化が全くない。 P3HT-SWNT-PDMSデバイスでのみ温度差が確認できたが、それほど高い温度上昇は起きなかった。(b) サーモグラフィカメラを用いた各レーザー出力(25, 50, 150, 300 mW)における生体表面の温度測定<(i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMS> *N.D.: 温度変化が全くない。 P3HT-SWNT-PDMSデバイスで約10℃の大きな温度差を確認することができた。
【図17】デバイスの生体適合性評価(a) デバイス埋め込み直後のラット背面のデジカメ写真(b) 埋め込み8日後のデジカメ写真(c) 埋め込み32日後のデジカメ写真(d) 埋め込み32日後に摘出したデバイスのデジカメ写真(e) ラットの体重変化埋め込み32日後にデバイス周辺に繊維化が見られたが、デバイスの埋め込み有無に関わらず、炎症や顕著な体重変化は全く見られなかった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
熱電モジュールは、公知の熱電モジュールを広く利用することができる。例えば熱電モジュールは、熱電素子と1対のリード線を有し、電力消費機器をリード線と接続することで、熱電モジュールで発電された電気を利用して該電力消費機器を作動させることができる。
【0018】
熱電素子としては、公知のものが広く用いられ、特に限定されないが、例えば絶縁層を介してあるいは接触することなく交互に配置された複数のp型熱電素子及びn型熱電素子が挙げられ、前記リード線(接続電極)はp型熱電素子及びn型熱電素子を接続する。
【0019】
p型熱電素子及びn型熱電素子の材料としては、熱電モジュールに用い得るものであれば特に制限されるものではなく、例えばp型熱電素子材料として(BiSb)2Te3が、n型熱電素子材料としてBi2(TeSe)3が例示できる。
【0020】
本発明で用いられるカーボンナノチューブは特に制限されるものではなく、多層のもの(多層カーボンナノチューブ、「MWNT」と呼ばれる)から単層のもの(単層カーボンナノチューブ、「SWNT」と呼ばれる)まで使用することができる。好ましくは、単層ウォール・カーボンナノチューブが用いられる。用いるSWNTの製造方法としては、特に制限されるものではなく、触媒を用いる熱分解法(気相成長法と類似の方法)、アーク放電法、レーザー蒸発法、HiPco法(High-pressure carbon monoxide process)及びCVD法(Chemical Vapor Deposition)等、公知のいずれの製造方法を用いても構わない。
【0021】
カーボンナノチューブとポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の複合体(以下、「CNT複合体」と称することがある)をポリジメチルシロキサン(PDMS)中に含むコンポジットは、前記複合体がPDMS中に分散したものである。分散の度合いはできるだけ均一であることが好ましく、少なくとも目視によってカーボンナノチューブ濃度に偏りがあることが確認できないことが必要である。分散の度合いが低いと、光の吸収効率が低下、熱電変換デバイスとして機能しないため、好ましくない。
【0022】
CNT複合体は、ジメチルシロキサン(DMS)への分散性が高く、カーボンナノチューブをPDMSに分散させたコンポジットの製造に適している。このようなコンポジットは、例えばジメチルシロキサン(DMS)中にCNT複合体と必要に応じて架橋剤(例えばSylgard 184; Dow Corning)を分散させて、必要に応じて水、酸或いは塩基などの触媒を用い、室温若しくは加熱下に重合(硬化)することで、CNT複合体が均一に分散したポリジメチルシロキサン(PDMS)を得ることができる。CNT複合体はジメチルシロキサン(DMS)との相溶性が高く、均一な溶液を得ることができる。架橋剤としては、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロボキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられ、具体的にはSylgard 184(Dow Corning)などが使用できる。架橋剤は、DMS100重量部に対し、5〜10重量部、好ましくは9〜10重量部使用することができる。
【0023】
本発明のコンポジットは、PDMS中においてCNT量として0.001〜1重量%、好ましくは0.005〜0.5重量%、より好ましくは0.01〜0.1重量%、特に0.01〜0.08重量%程度分散することができる。
【0024】
本発明のCNT-P3HT複合体におけるカーボンナノチューブ(CNT)とP3HTの比率は、カーボンナノチューブ100重量部に対し、P3HTを100〜1000重量部、好ましくは500〜650重量部程度含む。PDMS硬化の条件は特に限定されないが、70〜80℃で、1〜12時間程度反応させればよい。
【0025】
本発明の光熱発電素子は、例えば図8に示すようにCNT複合体(P3HT-SWNT)をDMSに分散させて重合して、P3HT-SWNT-PDMSからなる底面を形成し、1対の電極(リード線)を有する熱電モジュールをその上に置き、さらにCNT複合体(P3HT-SWNT)のDMS分散液を注いで、1対の電極以外の熱電モジュールを分散液で覆い、硬化(curing)することで、P3HT-SWNT-PDMSにより熱電モジュールを被覆した本発明の光熱発電素子を得ることができる。
【0026】
本発明の光発熱体として使用するP3HT-CNT-PDMSコンポジットの概念図を図1(a)に示す。
【0027】
熱電モジュールを被覆する光発熱体(P3HT-SWNT-PDMS)の厚さは、例えば0.1mm〜5.0mm程度、好ましくは0.2〜3mm、より好ましくは0.3〜2mm、特に好ましくは0.5〜1.5mmである。
【0028】
このようにして製造される光熱発電素子は、カーボンナノチューブが分散したコンポジットが光を吸収し、発熱することによって発電する。
【0029】
該コンポジットに照射する光の種類は、可視〜近赤外領域の波長(400〜1100nm)を有する光であれば、特に限定されない。さらに、該コンポジットは、1100nm以上の波長の光も吸収して発熱する。また、レーザーは指向性が極めて高いため遠隔操作が可能なことから、レーザーを用いるのが好適である。光熱発電素子を生体内の深部に埋め込んだ場合、生体に対する透過性の高い近赤外領域の光を照射するのが好ましい。
【0030】
照射する光の強さは、コンポジットが溶解しない限り、特に制限されるものではない。本発明のコンポジットは〜1W程度のレーザー出力にも十分耐えることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
本明細書において、以下の略号を用いる。
CNT:カーボンナノチューブ、P3HT:ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、SWNT:単層カーボンナノチューブ、PDMS:ポリジメチルシロキサン
【0032】
実施例1
P3HT-SWNT-PDMSコンポジット及びP3HT-MWNT-PDMSコンポジットの合成
P3HT-SWNT-PDMSコンポジットは、次の方法により作製した。SWNT(5 mg)[high-pressure carbon monoxide(Hipco)super-purified SWNTs(purity > 95%); Carbon Nanotechnologies]とP3HT(2.5 mg)(regioregular; Ardrich)をクロロホルム(40 mL)に添加し、15 min間、氷冷下(> 8℃)で超音波処理(USD-2R; AS ONE)を施した。得られたP3HT-SWNT複合体溶液を遠心分離(11,000 rpm, 15 min, 4°C)(1720; Kubota)に掛け、上澄みを注意深く回収した。回収した本上澄み溶液(30 mL)をPDMS(30 g)(Sylgard 184; Dow Corning)に添加し、氷冷下、超音波処理を1 min施した。ロータリー真空エバポレーター(EYELA Auto Jack NAJ; Tokyo Rikakikai)によりクロロホルムを90℃で完全に除去した。室温に戻した後、本溶液に架橋剤(Sylgard 184; Dow Corning)を(架橋剤:PDMS = 1:10)の割合で添加し、5 minほど良く混合した。30 min間、真空乾燥させることで気泡を取り除いた。最後に、P3HT-SWNT/PDMS/架橋剤を容器に注ぎ、オーブン(70℃、45 min)に入れ、硬化させた。その他のカーボン材料を封入したPDMSコンポジットに関しては、基本的には、P3HT-SWNT-PDMSコンポジットと同様の手法により作製した。なお、C60-PDMSコンポジットに関しては、溶媒にトルエンを用いた。P3HT-MWNT-PDMSコンポジットについては、SMNTに代えてMWNTを使用した以外はP3HT-SWNT-PDMSコンポジットと同様の手法により作製した。PDMS中のSWNTおよびMWNT濃度は、それぞれ80 μg/mL、12 μg/mLである。クロロホルム及びPDMSコンポジット中のP3HT-SWNT複合体の分散性評価は、顕微レーザーラマン(波長: 532 nm)(NRS-3100; JASCO)とUV-Vis-NIR分光光度計(UV-3100PC; Shimadzu)を用いて行った。光熱発電素子は、3種類のビスマス-テルル系熱電変換素子(Type 1 (OTT-8-1.3-0.4): 大きさ = 2.0 mm × 2.0 mm × 2.4 mm, Seebeck係数 (Z)約2.22 × 10-3, Ri約2.7 Ω, Type 2 (1MD04-017-12): 大きさ = 3.8 mm × 3.8 mm × 2.3 mm, Z約2.55 × 10-3, Ri約2.7 Ω, Type 3 (TEFC1-03112): size = 8.3 mm × 8.3 mm × 2.4 mm, Z約2.07 × 10-3, Ri約2.7 Ω(Japan Tecmo)の表面に各種カーボン材料-PDMSコンポジットを硬化させることで作製した(図8)。
【0033】
温度アッセイ
様々な出力(50, 150, 300, 1000 mW)に設定した670 nm(レーザー径約5 mm)(BWF-670-300E; B&W Tek)、785 nm(レーザー径 約4 mm)(BRM-785-1.0-100-0.22-SMA; B&W Tek)、1064 nm(レーザー径 約 2 mm)(BL106-C; Spectra Physics)のレーザーをカーボン材料-PDMSコンポジットに照射することで温度アッセイを行った(図7)。熱電対(CT-280WR; Custom)を用いて30 sec毎に温度を測定した。なお、レーザービームが、熱電対に直接当たらないようにした。
【0034】
電圧測定
様々な出力(25, 50, 150, 300, 500, 700 and 1000 mW)に設定した670 nm、785 nm、1064 nmのレーザーを作製した各種コンポジットを搭載した光熱発電素子に照射した。当該発電素子に電圧計(SK-6500; Kaise)を接続することで、開放電圧を測定した。
【0035】
CNTコンポジットフィルムのキャラクタリゼーション
CNT(図1ではSWNT)表面を導電性ポリマーであるP3HTによってラッピングすることでPDMS中に均一かつ高濃度に分散化することができる。特開2009-196877では、PDMS中にCNT複合体を最大で0.01 wt%分散化可能であったが、本発明では0.06 wt%まで分散化することができる。CNTの高濃度分散化により、光発熱の効率を高めることができる。
【0036】
本発明のP3HT-CNT-PDMSフィルムは、濃度を濃くしていくと((i) 0 mg/mL, (ii) 0.15 mg/mL, 0.3 mg/mL, (iV) 0.6 mg/mL)黒色が濃くなるが透明なフィルムであり(図1b左)、このフィルムは高いフレキシビリティーを有し、棒状の物体等に巻きつけることも可能である(図1b右)。
【0037】
P3HT-SWNT-PDMSは、SWNTがフィルム中に均一に分散化しているため、SWNTに由来する黒い凝集物は見られない。一方、P3HT未修飾のSWNTは、PDMSに全く分散化できないため、SWNTに由来する黒い凝集物がフィルム中のいたるところで観察される(図1c右:SWNT-PDMSフィルムの光学顕微鏡写真)。
【0038】
P3HT-SWNT複合体を内包したPDMSフィルム(1)からはSWNT(4)と同様のラマンスペクトルが得られ、当該領域にカーボンナノチューブがよく分散していることが裏付けられた。また、未修飾SWNTを内包したPDMSフィルムには、SWNTが凝集している部分(2)と全くSWNTが存在しない部分(3)があることがわかった(図1d)。図1d中、1: Fig. 1左の矢印1、2: Fig. 1右の矢印1、3: Fig. 1右の矢印3、4: SWNT粉末のラマンスペクトル、5: PDMSのラマンスペクトルを各々示す。
【0039】
P3HT-SWNT複合体を分散化させたクロロホルムおよびPDMSは、波長約500〜800nmにおいてピークが複数観測され、溶液中にカーボンナノチューブが均一に溶解していることが確認できた(図1e)。なお図1eにおいて、(i)クロロホルム中のP3HT-SWNTのUV-vis-NIR吸収スペクトル解析、(ii)PDMS中のP3HT-SWNTのUV-vis-NIR吸収スペクトル解析を各々示す。
各種コンポジットへのレーザー照射 (785 nm、1 W)における温度上昇の経時変化を測定し、結果を図1(f)に示した。とりわけP3HT-SWNT-PDMS(●)において高い温度上昇が確認できた。その他の材料は温度上昇がほとんど見られなかった。
【0040】
各種コンポジットの各レーザー出力(50, 150, 300, 500, 700, 1000 mW)に対する光発熱挙動(温度差測定)を測定し、結果を図1(g)に示した。特にP3HT-SWNT-PDMS(vii)において高い温度差が得られた。その他の材料はほとんど温度差が得られなかった。また、未修飾SWNT(v)およびグラファイト(iii)において温度上昇が見られたが、P3HT-SWNT-PDMSに比較して得られる温度差は小さかった。これは、P3HT-SWNT-PDMS(vii)においてSWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができたためと考えられる。P3HT-MWNT-PDMS(vi)もまたPDMS中にMWNTが均一に分散化しているが、P3HT-SWNT-PDMS(vii)に比較してPDMS中のMWNT含有濃度が低いため、光発熱作用が小さいと考えられる(図5)。
【0041】
光発熱特性と熱電変換
P3HT-SWNT-PDMSを搭載した熱電変換素子のデジカメ写真を図2(a)に示す。
【0042】
また、各種コンポジットへのレーザー照射 (1064 nm、1 W)における温度上昇の経時変化を図2bに示す。図2bにおいて、P3HT-SWNT-PDMS(●)、SWNT-PDMS(▲)、C60-PDMS(×)、グラファイト-PDMS(■)、PDMS(◇)である。
【0043】
とりわけP3HT-SWNT-PDMSにおいて高い温度上昇が確認できた。その他の材料は温度上昇がほとんど見られなかった。
【0044】
各種コンポジットの各レーザー出力(50, 150, 300, 1000 mW)に対する光発熱挙動(温度差測定)を図2cに示す。図2cにおいて、(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMSを各々示す。*N. D.は温度変化が全くないことを示す。特にP3HT-SWNT-PDMSにおいて高い温度差が得られた。その他の材料はほとんど温度差が得られなかった。また、未修飾SWNTおよびグラファイトにおいて温度上昇が見られたが、P3HT-SWNT-PDMSに比較して得られる温度差は小さかった。これは、P3HT-SWNT-PDMSにおいてSWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができたためと考えられる。
【0045】
次に、各出力(25, 50, 150, 300, 1000 mW)のレーザーを照射したときの熱電変換挙動を図2dに示す。図2dにおいて、(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMS、*N. D.: 全く発電しない。
【0046】
全てのレーザー出力においてP3HT-SWNT-PDMSで高い電圧値が得られることがわかった(最大起電力:約1 mW)。その他の材料に関しては、得られる電圧値にほとんど差が見られなかった。これは、P3HT-SWNT-PDMSは、SWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができ、結果として高い熱電変換作用を示したと考えられる。
【0047】
次に、図2(a2)の熱電変換素子において、各出力(25, 50, 100, 150, 200, 250, 300, 500, 700, 1000 mW)のレーザーを照射したときの熱電変換挙動を図2(e)に示す。図2(e)において、 (i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) MWNT-PDMS、(V) SWNT-PDMS、(Vi) P3HT-MWNT-PDMS、(Vii) P3HT-SWNT-PDMS>*N. D.: 全く発電しない。全てのレーザー出力においてP3HT-SWNT-PDMS(Vii)で高い電圧値が得られることがわかった(最大起電力:約3.2 mW)。その他の材料に関しては、得られる電圧値にほとんど差が見られなかった。これは、P3HT-SWNT-PDMS(Vii)は、SWNTが均一に分散化しているため光発熱特性を大きく引き出すことができ、結果として高い熱電変換作用を示したと考えられる。
【0048】
CNTの光発熱特性を利用した熱電変換メカニズムを図2(f)に示す。
【0049】
動物実験
まず、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)(AB)の実験は、酸化処理により先端を尖らせたタングステン製のマイクロニードル(直径 = 0.2 mm, Nilaco)をマイクロマニピュレータ(MM-3; Narishige)によって心室に突き刺した。次に、1064 nmレーザー(1 W)を光熱発電素子に約1 min連続照射しながら、連続的に電気刺激を行った(図3a,b)。一方、アフリカツメガエル(Xenopus Laevis)(♂, Hamamatsu Seibutsu Kyozai)の実験に関しては、1064 nmレーザー(1 W)を光熱発電素子に約1 min連続照射しながら、リード線を断続的に接触させることで電気刺激を行った(図3c,d)。ラット(10週齢、♂)(Jcl:Wistar; CLEA Japan)の実験では、光熱発電素子をラット背面に埋め込み、各出力(25, 50, 150, 300 mW)の670 nmレーザーを埋め込み部位に向かって3 min間照射し、電圧計により開放電圧を測定した。このとき、熱電対(AD-5601A; A & D)を手術した小さな切開部位から挿入し、光熱発電素子の下部に置くことで、生体内温度を測定した。また、赤外線サーモグラフィカメラ(b40; FLIR)により、生体表面温度を測定した(図4)。デバイスの生体適合性評価は、次のように行った。リード線を除去した最も小型のデバイス(Type 1)をラット(10週齢、♂)(Jcl:Wistar; CLEA Japan)背面に埋め込んだ。8日後、32日後に腹腔動脈から採血し、本血液サンプルのCBC(Complete blood cell count)と生化学検査を実施した(表1)。また、デバイス埋め込み部位および摘出したデバイスを入念に観察した。
【0050】
【表1】
【0051】
デバイスの埋め込み有無に関わらず、CBCと生化学検査に大きな違いは見られなかった。とりわけ、炎症性マーカーであるCRPに変化が見られないことから本デバイスは生体適合性が高いと考えられる。
【0052】
各種コンポジットとPDMS中の分散化状態
各種コンポジットのデジカメ写真を図5aに示す。図5において、(i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMSである。
【0053】
各種コンポジットの光学顕微鏡写真を図5bに示す。図5bにおいて、((i) PDMS, (ii) C60-PDMS, (iii) graphite-PDMS, (iv) MWNT-PDMS, (v) P3HT-MWNT-PDMS, (vi) SWNT-PDMS, (vii) P3HT-SWNT-PDMSである。C60、P3HT-MWNT複合体、P3HT-SWNT複合体はPDMS中に均一に分散化しているが、グラファイト、未修飾SWNT、未修飾MWNTは、大きな凝集物がたくさん観察され、全く分散化できていないことがわかる。
【0054】
各種コンポジットを搭載した熱電変換素子
各種コンポジットを搭載した熱電変換素子のデジカメ写真を図6aに示す。図6a中、(i) PDMS、(ii) C60-PDMS、(iii) グラファイト-PDMS、(iV) SWNT-PDMS、(V) P3HT-SWNT-PDMSである。図6bは、1064 nmレーザー(1 W)を照射したP3HT-SWNT-PDMSデバイスのデジカメ写真である。図6bにおいて、本発明のデバイス(V)は、レーザー照射前と照射後で全く変化が見られないことから、レーザーによる光熱耐久性が極めて高いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により製造されるカーボンナノチューブが有機溶媒に均一に分散した分散液を用いることで、触媒、ナノエレクトロニクスデバイス、ドラッグデリバリーシステム等への応用が可能である。また、本発明により製造される、カーボンナノチューブが均一に分散したポリマー樹脂は、超高強度繊維、エレクトロニクス素子、アクチュエータ素子、燃料電池、医療用材料等への応用が考えられる。さらに、本発明に係る発電素子によれば、レーザー光線を利用した生体内における遠隔発電が可能であり、心臓ペースメーカー等の様々な体内埋め込み型医療機器への光熱による安定した電力供給システムに利用できるものと考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光発熱体により熱電モジュールを被覆した光熱発電素子であって、前記光発熱体がカーボンナノチューブ(CNT)とポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の複合体をポリジメチルシロキサン(PDMS)中に含むコンポジットから構成される、光熱発電素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光熱発電素子の光発熱体に光を吸収させ、前記熱電モジュールで発電する、光熱発電方法。
【請求項1】
光発熱体により熱電モジュールを被覆した光熱発電素子であって、前記光発熱体がカーボンナノチューブ(CNT)とポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)の複合体をポリジメチルシロキサン(PDMS)中に含むコンポジットから構成される、光熱発電素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光熱発電素子の光発熱体に光を吸収させ、前記熱電モジュールで発電する、光熱発電方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−119657(P2012−119657A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112954(P2011−112954)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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