説明

光環境評価方法および光環境評価システム

【課題】実際の光環境を簡易に評価できる方法は未だ無い。
【解決手段】評価対象の複数の光源を含む光環境を、比視感度とメラトニン分泌抑制感度とで撮影して、それぞれの感度の撮影画像を取得し、それぞれの感度の撮影画像において、各光源の光源領域を抽出し、各光源の光源領域内の画素の画素値を積算することで、各光源に関する比視感度のもとでの明るさ量とメラトニン分泌抑制感度のもとでのメラトニン分泌抑制成分量とを算出し、各光源の光特性を前記明るさ量と前記メラトニン分泌抑制成分量とに基づいて推定し、その推定に基づいて光環境を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の住環境を特に光に着目した光環境評価方法および光環境評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人間の健康を保持するには生体リズム(睡眠と覚醒)を規則正しく保つことが望ましいと従来から言われており、また、最近では生体リズムに関連したホルモン(=メラトニン)の体内分泌量は光に影響されることが分かってきている。
例えば、高齢者は夜早い時間に眠くなり朝早い時間に起きて活動を始める傾向があるが、特に高齢者施設に入居している高齢者が夜明け前に起床して徘徊することが問題となっている。これも、高齢者施設に入居している高齢者は、屋内が主たる生活の場になっていることが多く、在宅の高齢者に比べて光を浴びる量が少ない故に生体リズムが前進方向に崩れ易い故と考えられている。
従って、適正な生体リズムを保てるよう、光環境を簡易に評価でき、その評価結果に応じて光源の種類や配置などを調整したり変更したりすることが求められる。
【0003】
【特許文献1】特表2004−508106号公報
【特許文献2】特開2005−310654号公報
【特許文献3】特開2006−208111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、今までに、光が生体リズムに与える影響と明るさといった2つの観点から光環境を簡易に評価できる方法は提案されていない。
特許文献1や2では、光源の分光分布に基づいてメラトニン分泌抑制放射の出力を算出することが想定されているようであるが、光源の分光分布データは光源が照明機器の場合でも容易に入手できるわけではない。しかも、光源の分光分布データを算出するには高価でしかも分析に時間のかかる分光放射輝度計を利用して計測しなければならず、千差万別な光環境の簡易評価のツールとしては適当とは言えない。
特許文献3には、異なる波長感度で撮影された画像から光放射を評価する光放射評価装置が記載されており、段落0068においてメラトニン分泌抑制作用の評価にも用いることができると示唆されている。しかしながら、特許文献3では、特定の波長を強調した評価画像を表示することしか想定しておらず、個々の光源を特定してその光量及び光特性に基づいて光環境を評価することは記載も示唆もされていない。
また、上記文献では、いずれも、人工の照明機器だけでなく、外光や壁の反射なども光源となり、しかもこれらの光源が互いに干渉し合う実際の光環境については考慮されておらず、その光源の位置など実際の環境においた場合の視野範囲と関連付けた評価までは想定されていない。
【0005】
それ故、本発明は、上記した課題を解決するために、実際の光環境を簡易に評価できる光環境評価方法およびその方法を実施するための光環境評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、実際の光環境の撮影画像の画像処理により複数の光源が互いに干渉し合う実際の光環境について、光環境影響要素として抽出された光源毎に評価に必要な光特性をその環境を加味しながら簡易に推定できること、また、各光源の特定の波長成分の実際の光環境に与える相対的な寄与度も簡易に算出できることから、実際の複雑な光環境を調整可能に簡易に評価できることを見出した上で、以下の具体的な発明を提案するに至った。
請求項1の発明は、評価対象の複数の光源を含む光環境を、比視感度とメラトニン分泌抑制感度とで撮影された、それぞれの感度の撮影画像を取得する撮影画像取得ステップと、それぞれの感度の撮影画像において、その画素値に基づいて各光源の光源領域を抽出する光源領域抽出ステップと、各光源の光源領域内の画素の画素値を積算することで、各光源に関する比視感度のもとでの明るさ量とメラトニン分泌抑制感度のもとでのメラトニン分泌抑制成分量とを定量データとして導出する定量データ導出ステップと、各光源の光特性を前記明るさ量と前記メラトニン分泌抑制成分量とに基づいて推定し、その推定に基づいて光環境を評価する評価ステップと、からなることを特徴とする光環境評価方法である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載した光環境評価方法において、評価ステップでは、光源の輝度とメラトニン分泌抑制光強度との比が各光源の明るさ量とメラトニン分泌抑制成分量との比に対応するとの仮定のもとに、その光源の光特性を基準光源に対して相対的に推定することを特徴とする光環境評価方法である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載した光環境評価方法において、評価ステップでは、光源について、各光源のメラトニン分泌抑制成分量が評価範囲全体の撮影画像のメラトニン分泌抑制成分量に占める割合により定義される寄与度にも基づいて光環境を評価することを特徴とする光環境評価方法である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載した光環境評価方法において、評価ステップに先立って、撮影画像のうち視野範囲のものを評価範囲としてその範囲から評価対象の光源の光源領域を抽出する光源領域抽出ステップを実施することを特徴とする光環境評価方法である。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載した光環境評価方法において、評価ステップに先立って、輝度分布特性の同じまたは類似の光源が複数有る場合にはそれらをまとめて1つの光源と仮定した上で評価対象の光源を抽出する光源領域抽出ステップを実施することを特徴とする光環境評価方法である。
【0011】
請求項6の発明は、評価対象の複数の光源を含む光環境を、比視感度とメラトニン分泌抑制感度とで撮影された、それぞれの感度の撮影画像を取得する撮影画像取得手段と、それぞれの感度の撮影画像において、その画素値に基づいて各光源の光源領域を抽出する光源領域抽出手段と、各光源の光源領域内の画素の画素値を積算することで、各光源に関する比視感度のもとでの明るさ量とメラトニン分泌抑制感度のもとでのメラトニン分泌抑制成分量とを定量データとして導出する定量データ導出手段と、各光源の光特性を前記明るさ量と前記メラトニン分泌抑制成分量とに基づいて推定し、その推定に基づいて光環境を評価する評価手段と、からなることを特徴とする光環境評価システムである。
【0012】
請求項7の発明は、請求項6に記載した光環境評価システムにおいて、さらに、撮影手段として広ダイナミックレンジカメラを備えており、広ダイナミックレンジカメラは、光環境における光源部分および背景部分を1回の撮影で取得可能なダイナミックレンジを有するイメージセンサを用いている、ことを特徴とする光環境評価システムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光環境評価方法および光環境評価システムによれば、実際の光環境を簡易に評価できる。
また、本発明の光環境評価システムは上記した方法の実施に必要なシステムであり、比較的安価に入手できる既存のもの乃至既存のものに若干の工夫を凝らしたもので構成されている。
【0014】
一般に、撮影された画像から光源を特定し、その光源の輝度(明るさ量)を決定することは難しい。なぜなら、光源の発光部分(光源領域)及びその周辺の画素値は通常の撮影装置のダイナミックレンジを超えてしまうことが多く、光源の発光部分を特定することは困難だからである。また、発光部分の画素値は飽和してしまっているため、画素値を積算しても光源の光量を推定することは不可能である。露光時間を短くすることも考えられるが、一部の光源の発光部分を特定できても、暗い光源や背景画像を検出できなくなってしまう。また、露光時間の異なる複数の画像を組み合わせることも考えられるが、直線性と同時性に問題がある。本発明においては、光源部分および背景部分を1回の撮影で取得可能な広いダイナミックレンジを有するイメージセンサ・カメラ(通称、広ダイナミックレンジカメラと呼ばれる)、特に本発明者の一人が先に開発した、特開2006−025189号に記載のイメージセンサを備えた広ダイナミックレンジカメラを用いることでこの問題を解決することに成功した。この特殊な広ダイナミックレンジカメラを用いることで、1回の撮影で光源部分の特定ができるので、光源部分の画素値を積算することで光源そのものの光量(明るさ量、メラトニン分泌抑制成分量)を推定することができ、光源ごとの光特性及び光環境への影響を評価することができる。また、1回の撮影で必要な情報が取得できるので、高速で情報取得をすることができ(30フレーム/秒)、撮影装置を動かしながら広範囲の情報を短期間に取得することも可能である。
光環境の調整は光源ごとに行なわれるものであるので、光環境に対する評価は光源ごとに行なわれる必要がある。本発明は、光源領域(光源の発光部分)を抽出し、その内部の画素値を積算することで各光源別の光量(明るさ量、メラトニン分泌抑制成分量)を求めているため、各光源別の光特性及び光環境に対する影響を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
(撮影ステップ)
視感度は人間の眼が最も強く感じる波長の光を1として他の波長の明るさを感じる度合いを比で表現したものであり、比視感度はそのうち多数の人の視感度を平均化したものである。この実施の形態では、比視感度のもとでの撮影用には、
図1(1)の黒丸のプロット曲線に示す、国際照明委員会(CIE)により規定された標準比視感度曲線を利用している。
一方、メラトニン分泌抑制感度はメラトニンの分泌を最も抑制する波長の光を1として他の波長のメラトニン分泌の抑制度合いを比で表現したものである。この実施の形態では、メラトニン分泌抑制感度のもとでの撮影用には、図1(2)の黒ひし形のプロット曲線に示す、既報告のメラトニン分泌抑制感度曲線(Brainard et al. 2001)を利用しているが、それに限定されず、例えば、別の既報告のメラトニン分泌抑制感度曲線(Thapan, K. et al., J.Physiol., 535, 261-267 (2001))を利用してもよい。
【0016】
それぞれの感度のもとで撮影するために、撮像素子を備えた広ダイナミックレンジカメラを準備し、その撮像素子の前に、比視感度フィルターとメラトニン分泌抑制感度フィルターを装着して撮影する。
図2に示すような撮影手段1は、本発明者の一人が先に開発した特殊な広ダイナミックレンジカメラ3と、その撮像素子(CMOS)の前に装着された感度フィルター(=薄膜干渉フィルター)によって構成されている。カメラ3の撮像素子は400〜700nmの波長帯域に十分な感度を持つものを用いており、その撮像素子の分光感度を考慮して感度フィルターの分光透過率を設計してある。
【0017】
図2(1)では、カメラ3のレンズ5の前に比視感度フィルター7とメラトニン分泌抑制感度フィルター9とを交換しながら配置することにより、それぞれの感度のものでの撮影を可能としている。
図2(2)では、カメラ3を2台配置し、それぞれのカメラ3の前に比視感度フィルター7とメラトニン分泌抑制感度フィルター9とを配置し、ハーフミラー11で光を2分割し2個の撮像素子で撮影することで、それぞれの感度のものでの同時撮影を可能としている。
【0018】
比視感度フィルター7の装着後のカメラ感度は、図1(1)の白三角のプロット曲線に示すものに、メラトニン分泌抑制感度フィルター9の装着後のカメラ感度は、図1(2)の白四角のプロット曲線に示すものにそれぞれなるように調整されている。
カメラ3は、本発明者らが開発した、光源部分および背景部分を1回の撮影で取得可能な広いダイナミックレンジを有するイメージセンサを用いている。
【0019】
撮影された画像を利用して、以下の画像取得、光源領域抽出、光特性導出、光環境の評価、などの演算処理ステップをPC(コンピュータ)が実行する。即ち、メモリに記憶されたプログラムが、CPUを以下の各ステップを実行するための各手段として機能させている。
【0020】
(撮影画像取得ステップ)
評価対象となる複数の光源を含む光環境を、比視感度とメラトニン分泌抑制感度のもとでそれぞれ上記の撮影手段1を用いて撮影された画像を取得する。
図3は、評価対象を高齢者施設とした場合を例にして示しているが、図中画像(1)はメラトニン分泌抑制感度フィルターを用いて撮影した画像であり、画像(2)は比視感度フィルターを用いて撮影した画像である。
【0021】
(光源領域抽出ステップ)
メラトニン分泌抑制感度による撮影画像においては上視野範囲のみを評価範囲にする。
すなわち、その高齢者施設に入居している人の平均的な視点位置を仮定し、その視点位置より上の画像のみを評価範囲とする。従って、光源の撮影画像が下視野範囲にある場合にはその光源は評価対象から外す。
図4の画像(2)の水平線より上視野範囲が評価範囲としている。
上視野が下視野よりもメラトニン分泌抑制に対する影響度が有意的に大きいと報告されていることから、上記範囲に評価範囲を絞ることで光環境の効率的な評価を実現している。
【0022】
次に、画像処理により、メラトニン分泌抑制光強度の大きい光源領域を抽出する。手動でも自動でもよいが、例えば、画素毎にメラトニン分泌抑制感度による撮影画像の画素の単位光強度値(=グレースケール信号出力をメラトニン分泌抑制感度の感度曲線で積分したメラトニン分泌抑制光強度値)を算出し、閾値以上の単位光強度値を有する画素の一定数以上の連結体(=塊)を光源領域として先ず特定する。
次に、それぞれの光源領域の画素値について、積算した積算光強度値(=メラトニン分泌抑制成分量)が、上視野範囲全体の積算光強度値に占める割合を、その光源の光環境に占めるメラトニン分泌抑制の寄与度として算出し、寄与度の高い画像の光源を評価対象とする光源として抽出していく。
その際、輝度分布特性の同じまたは類似の光源が複数有る場合にはそれらをまとめて1つの光源と仮定している。
図4の画像(3)には、評価対象とされた寄与度の高い光源A、B、C、Dの撮影画像がそれぞれ矢印によって指し示されている。
光源Aは白熱灯であり、光源Bはハロゲン灯であり、光源Cは蛍光灯(非常灯)であり、光源Dは天空光(窓)である。この実施の形態では、光源Aは5つの高光強度画像の領域から構成され、光源Dは2つの高光強度画像の領域から構成されている。
例えば、寄与度は、
光源A:7.3%
光源B:0.5%
光源C:0.7%
光源D:3.5%
のように物理量として算出される。
【0023】
比視感度による撮影画像の光源画像は、簡易処理を図るため、一律に、上記したメラトニン分泌抑制感度による撮影画像において抽出された光源画像に対応する画素により構成されたものとして取り扱う。
【0024】
(光特性導出・光環境の評価ステップ)
覚醒度を下げたい場合には上記した寄与度を下げればよく、光源A、Dの数を減らせば上記した寄与度は下がり、一方、覚醒度を上げたい場合には上記した寄与度を上げればよく、光源B、Cの数を増やしたり、光源B、Cを他の光源で代替させたりすれば上記した寄与度は上がる。
その一方で、通常、覚醒度が下がると光源の明るさも下がり、逆に覚醒度が上がると明るさも上がる。
このように覚醒度を変更すれば明るさも影響されて変化するため、その時点での居住者の生活やそこで介護等に従事する職員の仕事に支障をきたさない明るさにする必要がある。
例えば、光源から出ている波長成分にメラトニン分泌抑制光成分が少なければ、メラトニン分泌抑制光成分が多い光源に変更することで、部屋の明るさを上げずに、メラトニン分泌抑制光成分を増やすことができる。また、光源から出ている波長成分にメラトニン分泌抑制光成分が多ければ、その光源を増やすことで、部屋の明るさを上げながら、メラトニン分泌抑制光成分を増やすことができる。
従って、各光源について、明るさ成分とメラトニン分泌抑制成分の関係、すなわち光特性を知る必要がある。
【0025】
そのため、各光源について、光源の特定の際に利用した手法により、光源の画像の比視感度による積算光強度値(=明るさ量)も算出する。積算光強度値(=明るさ量)の算出方法は、メラトニン分泌抑制成分量の算出方法と同じで、光源領域内の画素値を積算する。
各光源について、メラトニン分泌抑制成分量と、明るさ量は物理量として未だ定義されていないので、現時点ではそれらだけでは光特性を直接推定できない。
そこで、次に、光源のメラトニン分泌抑制光強度/輝度(比)はメラトニン分泌抑制成分量/明るさ量(比)に対応するとの仮定のもと、分光分布特性が分かっている基準光源との比較においてその光源の光特性を相対的に推定することになる。なお、基準光源としては、その分光放射輝度が公知(JIS Z 8720:2000)である、標準イルミナントA、標準イルミナントD65、補助イルミナントD50、補助イルミナントD55、補助イルミナントD70、補助イルミナントCなどがある。また、本発明の使用者が、自ら、分光放射輝度が既知の光源を基準光源として比較対象としてもよい。
【0026】
図5に示すように、分光分布特性が分かっている光源の輝度(=照度)とメラトニン分泌抑制光強度は、それぞれの感度曲線を利用して分光分布と感度の積を全ての波長帯域にわたって積分したものになる。
白熱電球若しくはそれに類するものは、蛍光灯若しくはそれに類するものより、輝度に対するメラトニン分泌抑制光強度が小さい。
輝度は以下の数(1)で定義される。
【数1】

ここで、L:輝度、Km:最大視感度(683lm/W)、Le(λ):分光放射輝度、V (λ):比視感度を示す。
一方、メラトニン分泌抑制感度を用い場合の光強度値は以下の数(2)のように表すことができるが、輝度の定義の最大視感度Kmに対応する最大メラトニン分泌抑制感度Kcの値が国際的に制定されてないため、標準的な物理量としての計測は現在のところ難しい。
【数2】

ここで、M:メラトニン分泌抑制光強度、Kc:最大メラトニン感度、Le(λ):分光放射輝度、C(λ):メラトニン分泌抑制感度を示す。
そこで、基準光源に対する輝度とメラトニン分泌抑制光強度が等しくなることを仮定して光源の評価を行うことを試みた。例えば、標準イルミナントAを基準とした場合には、標準イルミナントAの輝度数(1)とメラトニン分泌抑制光強度数(2)を等しいとし、
【数3】

上式のようにKcを定義することで、メラトニン分泌抑制光強度Mを数値として評価することが可能となる。
【0027】
この実施の形態では、色温度2865Kタングステンランプを想定している標準イルミナントAを基準光源として利用しており、メラトニン分泌抑制光強度/輝度(比)を1とすると、評価対象である光源A、B、C、Dのそれぞれのメラトニン分泌抑制光強度/輝度(比)は、それぞれ、×1.03、×1.11、×3.28、×3.50と算出される。
なお、標準イルミナントAではなく、標準イルミナントD65や、補助イルミナントD50や、補助イルミナントD55や、補助イルミナントD70や、補助イルミナントCや、その他の分光放射輝度が既知の光源を、各基準光源の値に変更することで対応が可能である。
【0028】
上記したように、各光源について、撮影画像に及ぼす影響度を位置データと関連付けた光特性値(=定量)データとして取得する。
上記した光特性のデータと、既に取得してある寄与度のデータとにより、光環境を数値的に評価できる。また、撮影画像の表示画面からも視覚的に評価できる。
そして、上記したように光環境の主要な要素である光特性や寄与度の判明している光源は簡易に変更できる。従って、光環境の改善案を容易に案出することできる。
例えば、まぶしさを低減(=光源の輝度を低減)しつつ、覚醒度を上げるためには、光源A部を、図6(1)の寄与度が大きいが光特性値が小さい白熱灯から、図6(2)の寄与度が一層大きくしかも光特性値も大きい蛍光灯に変更することで、簡単にしかも効率良く調整できることが分かる。
【0029】
さらに、各光源についての定量データは、厳密には、他の光源がその光源の撮影画像に影響を及ぼしている場合にはその影響も加味されたデータになっている。
すなわち、光源A部の調整後の実際の光環境におけるその場所の光特性や寄与度の変更や、さらにはその変更に伴う他の場所の変更結果も、撮影画像に反映されるので、上記したステップの実施により各光源についての光特性と寄与度を同様に算出することにより、容易にしかも正確に光環境の変化を検証できる。他の光源が反射壁のような場合には、光源A部の調整により当該他の光源の撮影画像が消滅する場合も考えられる。また、逆に新たに光源として出現する場合も考えられる。さらには、上記したような当該他の光源の付随的変更による光源A部の撮影画像自身への跳ね返りの影響も加味される。
【0030】
通常の住居では、高齢者施設とは逆に、明るさを向上しつつ、覚醒度を下げたい場合があるが、そのような場合にも、図7、図8に示すように同じ手法により各光源の光特性や寄与度を把握した上で、光源A部の蛍光灯を昼白色から電球色に変更するなどして光環境を効率良く調整できることが分かる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても本発明に含まれる。
例えば、光源のうち天空光は時間の経過により光特性が変化するが、本発明の方法およびシステムによれば、何時でも簡易に光特性を計測することができるのでその時間的変化も考慮して光環境を調整することが可能となる。
また、上記実施の形態では、光源領域の抽出に際しては、メラトニン分泌抑制感度による撮影画像のみに基づいて画像処理をしているが、比視感度による撮影画像を利用しても、また両方を利用してもよい。
さらに、上記実施の形態では、評価ステップで、光源の輝度とメラトニン分泌抑制光強度との比が光源の撮影画像の明るさ量とメラトニン分泌抑制成分量との比に対応するとの仮定のもとに、その光源の光特性を基準光源に対して相対的に推定しているが、比だけでなく、差やその他の演算結果と対応するとの仮定のもとでもよい。例えば、図9に示すように、差に対応するとの仮定のもとに差分画像を作成し、その画像に階調を付けて表示することもできる。
【0032】
なお、光環境を評価する場合には、屋外光、照明光源、室内の反射壁などの光源を幅広い輝度レンジで測定(=撮影)して、評価する必要があるが、これらの測定対象輝度レンジは、通常のカメラの測定輝度レンジを超えている。従って、広ダイナミックレンジカメラを用いない場合は、シャッタースピード(露光時間)を変化させ、異なる測定輝度レンジに設定した複数台のカメラで撮影を行い、それらの画像を合成することで広範囲の輝度レンジの測定結果を得るため、複数台のカメラが必要になり、装置の大型化、高価格化などの問題や、撮影した各画素が複数台のカメラで一致させるような光学的な調整もしくはソフトウエア的な処理が必要となるが、この実施の形態で用いた広ダイナミックレンジカメラは、1つの撮像素子で今回の照明環境の評価に十分な輝度レンジを備えており、装置の小型化が実現できる。また、使用した広ダイナミックレンジカメラは、測定対象の広輝度レンジで測定輝度に対して線形な出力を得ることができ、後処理で測定した複数の画像のソフトウエア処理を効率的に行うことが可能となる。或いは後処理をハードウエア化することが容易になる。また、フレームレート(1/30秒)以上の高速でのデータ取得が可能であり、時間の経過による外光の変化などにより変化する光環境をリアルタイム計測することができる。さらに、フィルターやカメラからなる計測器を小型化すれば、居住者の身体(特に、頭部)に装着することができるので、その居住者の生活リズムや動線に対応して種々の場所及び時間における光環境をリアルタイム計測することができる。
【0033】
上記の実施の形態では、既存研究で、視野の上側(網膜上の像では下側に対応)の光源が有意にメラトニンを抑制するとの報告があるため、その報告に沿って評価範囲を視野の上方の範囲に限定し、その範囲内について検討を行っているが、本発明の方法は、評価範囲の選択自体に特徴を有するものではなく、評価範囲を特に視野の上方に限定されない。
因みに、別の研究(Visser EK et al. J Biol Rhythms 14:116-121(1999))では、視野の側方(網膜上の像では鼻側に対応)の光源が有意にメラトニンを抑制するとの報告もあり、現在のところ見解は統一には至っていない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の光環境評価方法によれば、実際の光環境を効率良く且つ簡易に評価でき、しかも光環境の経時的変化も評価できるので、実用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態に係る光環境評価方法で利用する感度曲線図である。
【図2】図1の方法で使用する撮影システムの模式図である。
【図3】高齢者施設の室内の撮影画像を示す。
【図4】図3の光環境の評価方法の説明図である。
【図5】光源の光強度の算出方法の説明図である。
【図6】図3の各光源についての定量的説明図である。
【図7】通常の住宅の室内の撮影画像を示す。
【図8】図7の各光源についての定量的説明図である。
【図9】別例の光環境の評価方法の説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1‥‥撮影手段
3‥‥カメラ 5‥‥レンズ
7‥‥比視感度フィルター 9‥‥メラトニン分泌抑制感度フィルター
11‥‥ハーフミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象の複数の光源を含む光環境を、比視感度とメラトニン分泌抑制感度とで撮影された、それぞれの感度の撮影画像を取得する撮影画像取得ステップと、
それぞれの感度の撮影画像において、その画素値に基づいて各光源の光源領域を抽出する光源領域抽出ステップと、
各光源の光源領域内の画素の画素値を積算することで、各光源に関する比視感度のもとでの明るさ量とメラトニン分泌抑制感度のもとでのメラトニン分泌抑制成分量とを定量データとして導出する定量データ導出ステップと、
各光源の光特性を前記明るさ量と前記メラトニン分泌抑制成分量とに基づいて推定し、その推定に基づいて光環境を評価する評価ステップと、
からなることを特徴とする光環境評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載した光環境評価方法において、
評価ステップでは、光源の輝度とメラトニン分泌抑制光強度との比が各光源の明るさ量とメラトニン分泌抑制成分量との比に対応するとの仮定のもとに、その光源の光特性を基準光源に対して相対的に推定することを特徴とする光環境評価方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した光環境評価方法において、
評価ステップでは、光源について、各光源のメラトニン分泌抑制成分量が評価範囲全体の撮影画像のメラトニン分泌抑制成分量に占める割合により定義される寄与度にも基づいて光環境を評価することを特徴とする光環境評価方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した光環境評価方法において、
評価ステップに先立って、撮影画像のうち視野範囲のものを評価範囲としてその範囲から評価対象の光源の光源領域を抽出する光源領域抽出ステップを実施することを特徴とする光環境評価方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載した光環境評価方法において、
評価ステップに先立って、輝度分布特性の同じまたは類似の光源が複数有る場合にはそれらをまとめて1つの光源と仮定した上で評価対象の光源を抽出する光源領域抽出ステップを実施することを特徴とする光環境評価方法。
【請求項6】
評価対象の複数の光源を含む光環境を、比視感度とメラトニン分泌抑制感度とで撮影された、それぞれの感度の撮影画像を取得する撮影画像取得手段と、
それぞれの感度の撮影画像において、その画素値に基づいて各光源の光源領域を抽出する光源領域抽出手段と、
各光源の光源領域内の画素の画素値を積算することで、各光源に関する比視感度のもとでの明るさ量とメラトニン分泌抑制感度のもとでのメラトニン分泌抑制成分量とを定量データとして導出する定量データ導出手段と、
各光源の光特性を前記明るさ量と前記メラトニン分泌抑制成分量とに基づいて推定し、その推定に基づいて光環境を評価する評価手段と、
からなることを特徴とする光環境評価システム。
【請求項7】
請求項6に記載した光環境評価システムにおいて、
さらに、撮影手段として広ダイナミックレンジカメラを備えており、
広ダイナミックレンジカメラは、光環境における光源部分および背景部分を1回の撮影で取得可能なダイナミックレンジを有するイメージセンサを用いている、
ことを特徴とする光環境評価システム。

【図1】
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【図6】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−254479(P2009−254479A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105252(P2008−105252)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年12月7日 社団法人照明学会東京支部主催の「平成19年度照明学会東京支部大会」において文書をもって発表
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】