説明

光療法治療

典型的な方法には、特定の波長の光を生成するように設定された少なくとも1つの光源を選択し、そして虚血事象後、組織に光を適用する工程が含まれる。組織に光を適用すると、チトクロムcオキシダーゼ活性が阻害される。別の典型的な方法には、特定の波長の光を生成するように設定された少なくとも1つの光源を選択し、そして虚血事象後に、そして組織の再酸素化または臨床介入のいずれかの前に、光を適用して細胞損傷を減少させる工程が含まれる。典型的な光療法デバイスには、およそ730〜770nm、850〜890nm、880〜920nm、および930〜970nmの少なくとも1つの波長を有する光を生成するように設定された少なくとも1つの光源が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
[0001]本出願は、本明細書にその全内容が援用される、2009年5月1日出願の米国出願第61/215,105号の優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
[0002]虚血事象は、臓器または組織への酸素および栄養分の供給が制限された際に起こる。例えば、脳および心臓の領域への血流の中断は、それぞれ、心筋虚血および脳虚血を生じる。虚血臓器または組織の生存には、再灌流と称される、酸素および栄養分の時宜を得た回復が必須である。しかし、虚血組織に酸素を再導入する利点はあるものの、再灌流自体はまた、組織死亡にも関与しうる。再灌流傷害と称されるこの現象の機構は複雑であるが、活性酸素種とも呼ばれる細胞毒性酸素由来フリーラジカルの形成を伴い、該物質は、先の虚血組織の死および機能障害を悪化させうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、再灌流中に活性酸素種の産生を制限し、そしてしたがって致死性の再灌流傷害を減弱させ、そして時宜を得た再灌流の利点を最大限にする装置および方法が必要である。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】[0003]図1は、再灌流中、赤外光でのチトクロムcオキシダーゼの阻害を通じた組織防御の典型的なモデルを例示する。
【図2A】[0004]図2Aは、単離チトクロムcオキシダーゼおよびミトコンドリアに対する、低出力ダイオードによって放出された赤外光の4つの典型的な波長の影響を示す典型的なグラフを例示する。
【図2B】[0005]図2Bは、単離チトクロムcオキシダーゼに対する、高出力ダイオードによって放出された赤外光の5つの典型的な波長の影響を示す典型的なグラフを例示する。
【図3】[0006]図3は、低出力ダイオードを用いた治療を試験する実験後の、3群のラットのCA1海馬における典型的なニューロン数を例示するグラフである。
【図4】[0007]図4は、低出力ダイオードを用いた実験後の、3群のラットの全脳虚血に続く相対蛍光を例示する、スーパーオキシド産生を含む典型的な活性酸素種のグラフである。
【図5】[0008]図5は、低出力ダイオードを用いた、対照群に比較したラットのI/R群の心筋梗塞サイズを例示する。
【図6】[0009]図6は、低出力ダイオードを用いた実験後の、3群のラットの冠動脈閉塞に続くスーパーオキシド産生を含む典型的な活性酸素種の相対蛍光を例示するグラフである。
【図7】[0010]図7は、高出力ダイオードを用いた全脳虚血治療後の、多様な群のラットのCA1海馬における典型的なニューロン数を例示するグラフである。
【図8】[0011]図8は、チトクロムcオキシダーゼを阻害し、そして再灌流傷害を減少させるために使用可能な、典型的な光療法デバイスを例示する。
【図9】[0012]図9は、虚血事象後の再灌流傷害のリスクを減少させるために使用可能なプロセスの典型的なフローチャートを例示する。
【図10】[0013]図10は、図8に例示する典型的な光療法デバイスなどの、チトクロムcオキシダーゼを阻害するように設定されたデバイスを設計するために使用可能なプロセスの典型的なフローチャートを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0005】
[0014]本明細書に記載する治療を用いて、例えば虚血組織の再酸素化または再灌流中に生成される活性酸素種または活性酸素および窒素種の産生を制限することも可能である。本明細書に記載するように、虚血は、臓器または組織への酸素および栄養分の制限と定義される。再灌流は、虚血組織に対して酸素および他の栄養分が回復されるプロセスと定義される。再灌流の開始は、天然にまたは臨床介入の結果としてのいずれかで、再灌流が開始する瞬間と定義される。本発明者らは、開示する治療を、再酸素化前、再酸素化中、および/または再酸素化後(例えば再灌流の前および最初の数分から数時間の間)に適用すると、例えば虚血事象後の再灌流傷害によって引き起こされる細胞死および細胞損傷を減少させうることを発見した。したがって、典型的なプロセスには、再灌流前および再灌流の最初の数分から数時間の間に、組織の虚血領域に光を適用する工程が含まれる。とりわけ、血栓溶解剤を投与するか、血管形成バルーンを膨らませる/収縮させるか、蘇生させるか、輸血するか、または血管作用剤を投与するなどの臨床介入によって、再灌流開始を開始してもよい。したがって、別の典型的なアプローチにおいて、典型的なプロセスには、虚血事象後の臨床介入の開始前、開始中、および/または開始後に、組織の虚血領域に光を適用する工程が含まれる。いずれにしても、本発明者らは、単数または複数の適切な時点で、虚血領域に単数または複数の適切な波長の光を適用すると、直接または間接的にチトクロムcオキシダーゼが阻害されると考えている。以下により詳細に論じるように、チトクロムcオキシダーゼのこの直接または間接的な阻害が、活性酸素種の産生を間接的に減少させる結果、再灌流傷害によって引き起こされる細胞損傷および細胞死が減少すると考えられる。チトクロムcオキシダーゼの阻害に加えて、別の機構が活性酸素種産生減少を引き起こすことも可能である。さらに、チトクロムcオキシダーゼ活性を減少させるものがそのうちの1つであってもよい複数の機構が、活性酸素種産生減少に関与してもよい。例えば、本明細書記載の治療が、電子伝達鎖の最終工程(すなわちチトクロムcからチトクロムcオキシダーゼ、さらに分子酸素への電子伝達)を阻害してもよい。さらに、本明細書記載の治療は、活性酸素種減少に加えてまたはそれ以外に、他の利点を生じることも可能である。
【0006】
[0015]体内臓器は、ミトコンドリア酸化的リン酸化プロセス(OxPhos)によって提供される有酸素エネルギーに依存する。心筋虚血、脳虚血の場合、ならびに血液供給および/または酸素が組織中で減少する他の場合、影響を受けた領域において、エネルギーが枯渇する。このストレスを受けた状況に対する細胞反応には、カルシウム放出が含まれ、これは、おそらくタンパク質脱リン酸化を通じて仲介される、ミトコンドリアタンパク質の活性化を導く。しかし、虚血中、OxPhosは、最終基質である酸素がないために進行不能である。再灌流に際して、酸素および他の栄養分が、ストレスを受けたミトコンドリアに到達する。しかし、細胞損傷のかなりの割合は、再灌流開始時、機能亢進OxPhos酵素によって起こると考えられる。すなわち、エネルギーレベルを回復しようと試みる間、OxPhos複合体は、病的に高いミトコンドリア膜電位(すなわちミトコンドリア膜電位の一過性過分極)を生じ、これは活性酸素種の過剰な産生を導くことが知られる状態である。活性酸素種は、再灌流中に細胞死プロセスを誘発し、こうして影響を受けた組織に対する広範囲の損傷を生じる。したがって、本明細書記載の治療を用いて、in vivoでミトコンドリア機能を調節し、そして心臓または脳などの組織の再灌流中の活性酸素種の産生を制限することも可能である。
【0007】
[0016]1つの典型的なアプローチにおいて、赤外光を用いて、チトクロムcオキシダーゼによって触媒されるOxPhos工程、すなわちチトクロムcからチトクロムcオキシダーゼ、さらに酸素への電子伝達を非薬理学的に阻害することで、OxPhosを下方制御することによって、ミトコンドリア機能を調節することも可能である。赤外光を用いた、OxPhosのこの非侵襲性調節は、心臓または脳などの組織を虚血および/または再灌流傷害から防御することも可能である。さらに、チトクロムcオキシダーゼの直接または間接的な阻害は、再灌流中のミトコンドリア膜電位を減少させ、そして続いて、再灌流が誘導する活性酸素種生成を減弱させることも可能であり、これが赤外光が仲介する心臓および神経防御の根底にある機構である可能性が高い。
【0008】
[0017]研究によって、心不全または脳卒中から生じる、急性心筋梗塞の結果としての心臓虚血および脳虚血を含む、心臓血管疾患および脳血管疾患は、死亡および身体障害の主因であり続けていることが示されてきている。心筋虚血および脳虚血によって引き起こされる組織損傷を制限するための、確立された治療には、虚血領域に酸素送達を即座に回復することが含まれる。しかし、時宜を得た再流動は、心筋細胞およびニューロンを含む虚血組織の救出を補助するが、再灌流はまた、重大で非可逆的な組織損傷にも関与し、そしてしたがって、再灌流の利点のある程度を相殺する可能性もある。さらに、再灌流は、急性心筋梗塞、脳卒中、および蘇生/自己心拍再開後の死亡および身体障害にも寄与しうる。
【0009】
[0018]心臓および脳における心筋虚血−再灌流傷害を減弱しようとする以前の試みは、活性酸素種を除去する薬理学的療法に重点を置いてきた。これらの薬理学的療法は、実験モデルにおいて、一貫性のない結果を生じ、そして臨床療法とはなりえなかった。本発明者らが知る限り、以前の治療において、光が誤った時点で適用され、そしてチトクロムcオキシダーゼ活性を増加させる波長を有し、これがさらなる細胞損傷および細胞死を引き起こした可能性があるために、虚血事象後に光療法を使用しようとする以前の試みは、失敗してきた。
【0010】
[0019]それとは逆に、本明細書記載の典型的な治療は、活性酸素種を除去するだけでなく、活性酸素種の産生を減少させる。特に、適切な波長の光を選択し、そして光が再酸素化に関して適した時点で適用された場合、赤外光治療は、急性心筋梗塞後の梗塞サイズを減少させ、そして脳虚血後の神経学的欠損の度合いを減少させることが示されてきている。
【0011】
[0020]赤外光の主な光受容体は、ミトコンドリア・チトクロムcオキシダーゼである。二量体チトクロムcオキシダーゼは、26サブユニットの酵素であり、要求に応じてエネルギー産生を調節することが可能であり、そしてリン酸化および細胞ATP/ADP比によって制御される。チトクロムcオキシダーゼは、生理学的条件下での哺乳動物電子伝達鎖の最終酵素であり、そして提唱される律速複合体である。チトクロムcオキシダーゼは、酵素触媒に関与し、そして赤外光に対する主な光受容体として機能すると示唆されてきている、2つの銅および2つのヘム中心を含む、いくつかの発色団を含有する。さらに、プロトン・ポンピングに関与するアミノ酸もまた光調節される可能性もある。チトクロムcオキシダーゼに電子を送達し、そしてヘム基を含有するチトクロムcもまた、赤外光の光受容体である可能性もあり、チトクロムcオキシダーゼ活性に対する全体の影響に寄与しうる。
【0012】
[0021]本発明者らは、チトクロムcオキシダーゼが、異なる波長の赤外光に異なって反応すると仮定する。実際、本発明者らは、チトクロムcオキシダーゼを直接または間接的に阻害し、次に活性酸素種産生を間接的に減少させると考えられる光の波長を同定してきた。チトクロムcオキシダーゼを阻害する光の波長を同定する1つの方法は、近赤外波長をスキャンし、そして平行して、チトクロムcオキシダーゼ活性に対する影響を分析することである。チトクロムcオキシダーゼを阻害すると同定された波長を取り込む治療はまた、可逆的で、そしてスイッチのような方式で、呼吸を阻害しうる。
【0013】
[0022]本発明者らは、電子伝達鎖複合体の活性を制御する1つの機構が、ミトコンドリア膜電位を通じたものでありうると考えている。ミトコンドリア膜電位が高い場合、さらなるプロトン・ポンピングが阻害される。ATPシンターゼによってプロトンが利用されることで、ミトコンドリア膜電位が減少すると、電子伝達鎖がプロトンをポンピングすることが可能になりうる。この古典的なモデルに対する拡張として、細胞シグナル伝達経路もまた、電子伝達鎖複合体の活性を調節する。これが次に、ミトコンドリア膜電位を調節し、健常で低いミトコンドリア膜電位レベル、例えば80〜140mVの間を維持する。ミトコンドリア膜電位が活性酸素種の産生に直接関連するため、こうした制御は、より高次の生物を補助する。ミトコンドリア膜電位が、例えば140mVより高い場合、活性酸素種産生は指数関数的に増加する。健常であるかまたはより低いミトコンドリア膜電位レベルを持つ休止細胞のミトコンドリアは、著しい量の活性酸素種を産生しない。したがって、ミトコンドリア膜電位値を生理学的に低く維持すると、活性酸素種の過剰な生成が回避されるが、ミトコンドリア膜電位レベルが例えば100〜120mVの間である時に、ATPシンターゼによるATP合成の最大速度が生じるため、ATPを産生する能力は提供される。
【0014】
[0023]虚血などのストレス状態は、カルシウムの放出、ミトコンドリア機能の混乱、および異なったリン酸化、特に、カルシウムに活性化されるホスファターゼによって仲介されうる多くのミトコンドリアタンパク質の脱リン酸化を導き、これが細胞死を導きうる。図1を参照すると、虚血中、過剰なカルシウムが放出されて、チトクロムcオキシダーゼを含むOxPhos複合体の活性化状態が導かれうる。しかし、チトクロムcオキシダーゼの基質である酸素が存在しないため、OxPhosプロセスは進行しえない。酸素の存在下での再灌流中、機能亢進されたOxPhosによって最大電子伝達速度が生じ、その後、ミトコンドリア膜電位レベルが急激に増加して、過剰な反応性酸素種産生が生じる。高い活性酸素種レベルによって、内因性の酸化防止酵素が圧倒されて、そして細胞に対して修復不能な損傷が引き起こされる可能性もある。こうして、活性酸素種は、虚血−再灌流傷害において、役割を果たす。
【0015】
[0024]酸素正常状態では、チトクロムcオキシダーゼ活性はリン酸化を介して下方制御されている。虚血中、チトクロムcオキシダーゼは異なってリン酸化されるかまたは脱リン酸化されるが、酸素が欠如しているため、作動不能である。再灌流開始時、そして酸素の存在下で、電子伝達鎖プロトン・ポンプが最大活性で作動し、高いミトコンドリア膜電位を生成して、過剰な活性酸素種の産生を導く。赤外光でチトクロムcオキシダーゼを一過性に阻害すると、ミトコンドリア膜電位レベルの増加および活性酸素種の産生が回避され、そしてしたがって再灌流中の細胞死が回避される。
【0016】
[0025]図2Aおよび2Bは、本発明者らが実行した実験に基づく、低出力ダイオード(図2A)および高出力ダイオード(図2B)によって放出される多様な波長の赤外光の、チトクロムcオキシダーゼ活性に対する影響を例示するグラフである。本発明者らは、およそ730〜770nm、850〜890nm、880〜920nm、または930〜970nmの範囲内の波長を持つ光が、チトクロムcオキシダーゼを直接または間接的に阻害することを発見した。この発見の裏付けとして、図2Aは、およそ750nm、870nm、900nm、および950nmの波長が、チトクロムcオキシダーゼ活性に対して有する影響を例示する。しかし、先に言及した範囲内の任意の周波数が、チトクロムcオキシダーゼ活性に対して類似の影響を有すると考えられる。したがって、本明細書に特に言及する任意の波長は、開示する特定の波長から少なくとも+/−20nmの波長範囲を含むよう意図される。例えば、図2Bは、910nmの波長が、チトクロムcオキシダーゼ活性に対して、900nmの波長と類似の影響を有することを例示する。
【0017】
[0026]赤外光透過性水晶ウィンドウとともに、カスタマイズした光防御酸素電極チャンバーを二光束分光光度計に組み込んで、そして例えば700nm〜1000nmの近赤外光範囲をスキャンして、そして同時にポーラログラフ法を用いて、チトクロムcオキシダーゼ活性の変化を記録することによって、チトクロムcオキシダーゼを阻害するさらなる周波数を同定してもよい。図2Aにおいて、直接または間接的にチトクロムcオキシダーゼ活性を阻害すると同定される波長には、750nm、870nm、900nm、および950nmが含まれる。さらに、図2Aは、二重波長が、単離チトクロムcオキシダーゼおよびミトコンドリアの両方において呼吸を減少させる、相乗効果を例示する。もちろん、先に論じるように、本明細書に列挙し、そして図2Aおよび2Bに示すものに加えて、赤外光の他の波長が、単独で、または組み合わせて、チトクロムcオキシダーゼを阻害することも可能である。さらに、本明細書に記載する波長は、単に例示であり、そして開示する周波数を中心として周囲の周波数範囲も代表しうる。例えば、本明細書に開示する波長は、再灌流傷害の影響を減少させる波長のスペクトルまたは範囲を代表する、ピークまたは中心波長であってもよい。実際、チトクロムcオキシダーゼを阻害すると同定されるさらなる波長が、以下の典型的な波長範囲の1以上で見出されうる:730〜770nm、850〜890nm、880〜920nm、または930〜970nm。さらに、光を用いた再灌流傷害の減少は、波長範囲またはスペクトルを出力する光源によって引き起こされる相乗効果の結果でありうる。
【0018】
[0027]700〜1000nmの間のすべての波長がチトクロムcオキシダーゼを阻害するわけではない。例えば、図2Bに例示するように、およそ810nmの波長を持つ光を出力する光源は、チトクロムcオキシダーゼを阻害せずにチトクロムcオキシダーゼを活性化しうる。チトクロムcオキシダーゼの活性化は、意図するのとは逆の影響を有するであろう。特に、本発明者らは、チトクロムcオキシダーゼの活性化が、例えば再灌流傷害によって引き起こされる細胞損傷および細胞死を実際に増加させうると考えている。したがって、810nmの波長は、単独で、あるいはチトクロムcオキシダーゼを直接または間接的に阻害すると先に記載する範囲内の波長の1以上と組み合わせても、チトクロムcオキシダーゼを阻害する光の波長のみを用いた場合と同じ利点を生じない可能性もある。それとは逆に、810nmの波長は、再灌流前におよび/または再灌流中に適用した際、チトクロムcオキシダーゼを阻害する波長の影響を無効にするかまたは逆転させる可能性もある。少なくともこのため、本明細書に開示する本治療は、虚血組織に対して、810nmのまたは約810nmの波長を持つ光を適用する、以前の治療のいずれとも区別される。
【0019】
[0028]チトクロムcオキシダーゼに対する赤外光の影響を分析するため、まず、該酵素を精製してもよい。チトクロムcオキシダーゼは、例えばウシ組織から単離してもよく、これは、適切な収量の精製チトクロムcオキシダーゼを得るためには多量(例えば300g)の組織が必要であるためである。最適化されたプロトコルを用いて、心臓および肝臓/脳型チトクロムcオキシダーゼを単離すると、制御に適した(regularoty−competent)酵素が得られうる。心臓および肝臓/脳アイソザイムは、3つの異なるアイソフォーム・サブユニット:VIa、VIIa、およびVIIIの存在によって異なる。提唱される赤外光光受容体を含有する触媒サブユニット、ヘムおよび銅中心は、アイソザイム間で同一であり、これは、心臓および脳の両方で、ならびに他の組織で、多様な波長の赤外光が有効であるのはなぜかを説明しうる。
【0020】
[0029]各波長および波長の組み合わせに関して、光出力を0〜2W/cmで変化させて、そしてポーラログラフ法を用いてチトクロムcオキシダーゼ活性を測定することによって、エネルギー−用量反応曲線を確立してもよい。特定のエネルギー閾値に到達した後、赤外光の阻害効果は飽和しうる。アロステリック活性化因子ADPおよびATP再生系を含むアロステリック阻害剤ATPの存在下で、さらなる用量−反応曲線を記録してもよい。赤外光は、多数の方式でチトクロムcオキシダーゼに影響を及ぼしうる。したがって、チトクロムcオキシダーゼ動力学の分析に加えて、プロトン・ポンピング効率もまた、評価してもよい。
【0021】
[0030]一過性全脳虚血後、損傷および死に非常に感受性が高いニューロンの特定の集団で起こる、ニューロン傷害の形態学的進行がある。海馬CA1ニューロンは、虚血性発作に特に感受性であり、そしてラット動物モデルにおいて、再灌流の3〜7日後、ほぼ完全に失われることが観察されている。活性酸素種は、ニューロン死の病態生理学において役割を果たしうる。したがって、赤外光の神経防御効果は、CA1海馬におけるニューロンの変性を防止する能力に関して定義可能である。例えば、ラットにおける脳虚血シミュレーションを用いた、研究者らによる実験によって、赤外光治療による有意な神経防御が示された。特に、ラットを、およそ200mW/cmの出力を有し、そしておよそ750nm、870nm、900nm、および950nmの波長を持つ光を出力するデバイスを用いて、虚血の最後の2分間および再灌流の最初の2時間の赤外光治療を伴いまたは伴わずに、8分間の全脳虚血(一過性低血圧誘導と組み合わせた両側性頸動脈閉塞)に晒した。この実験によって、赤外光治療の有意な神経防御が明らかになった(例えば赤外光で治療したラットは66%防御を示し、非治療群に対して、ニューロン数の10倍より多い増加を示した)。
【0022】
[0031]図3〜7は、ラットに対して行った治療実験後の多様な結果を含むグラフである。特に、図3は、非虚血偽手術動物(偽)、全脳虚血8分間後、7日間の再灌流を経たラット(I/R)、および低出力ダイオードによって生成される赤外光で治療しながら、虚血8分間後、7日間の再灌流を経たラット(I/R+IRL)のCA1海馬におけるニューロン数を例示する。図4は、先に記載する実験後の、偽、I/R、およびI/R+IRLラット群の相対蛍光を例示する、スーパーオキシド産生のグラフである。これらの実験から、赤外光治療を経たラットは、全脳虚血後、単に再灌流に供されたラットよりも、より高いニューロン数を有し(図3)、そしてより低レベルのミトコンドリア活性酸素種を有した(図4)。
【0023】
[0032]赤外光は、さらに、心筋虚血/再灌流後、心臓防御効果を有しうる。例えば、ラットを用いて本発明者らが行った実験において、ラットは45分間の左冠動脈閉塞後、2時間の再灌流を経た。赤外光治療ラットにおいて、およそ200mW/cmの出力を有し、そして少なくとも約750nm、870nm、900nm、および950nmの波長を持つ光を出力するデバイスを用いて、閉塞の最後の10分間の間に、心臓前壁(例えば左冠動脈によって灌流される領域)の照射を開始し、そして2時間の再灌流期間に渡って維持した。実験終了時、塩化トリフェニルテトラゾリウム染色によって梗塞サイズを描写し、そしてリスク領域のパーセント(例えば虚血心筋床の度合い)として表わした。この実験によって、赤外光治療での有意な心臓防御が明らかになった(例えば治療群対対照群の梗塞サイズは、それぞれ、平均20+/−5%のリスク心筋対59+/−5%のリスク心筋であった)。
【0024】
[0033]図5は、冠動脈閉塞後のI/R群対対照群のラットの心筋梗塞サイズを例示する。図6は、実験後、3群のラットの冠動脈閉塞後のスーパーオキシド産生を含む典型的な活性酸素種の相対蛍光を例示するグラフである。図5および6は、光治療を受けていないラットに比較した、光治療を受けたラットに対する利点を例示する。
【0025】
[0034]高出力ダイオードを用いた試験は、類似の結果を生じる。例えば、図7は、高出力ダイオードを用いた全脳虚血の光治療後、多様な群のラットのCA1海馬における典型的なニューロン数を例示するグラフである。例示するように、本明細書記載の光治療を受けたラットは、全脳虚血後、治療していないものより多いニューロン数を有した。したがって、本発明者らは、低出力ダイオードおよび高出力ダイオードの両方が、本明細書に開示する治療を用いた際に、有益な影響を提供すると考えている。さらに、例示するように、810nmの波長は、ニューロン生存改善を生じない。
【0026】
[0035]図8は、赤外光を用いて、チトクロムcオキシダーゼを直接または間接的に阻害し、そしてしたがって再灌流傷害を減少させるために使用可能な、典型的な光療法デバイス100を例示する。光療法デバイス100には、再酸素化または臨床介入の前、その間、および/またはその後、光を組織の虚血領域に適用した際に、チトクロムcオキシダーゼを阻害する波長の光を出力するように設定された、少なくとも1つの光源105が含まれる。光源105には、再灌流前に、そして少なくとも部分的に再灌流中に適用された場合、直接または間接的にチトクロムcオキシダーゼを阻害する波長の光を放出するように設定された、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード、光ファイバー、または任意の他の供給源が含まれてもよい。例えば、光源105には、750nm、870nm、900nm、または950nmの波長の光を出力するように設定された任意の光源105が含まれてもよい。他の光源105には、四重ダイオードまたは個々の波長のダイオードの組み合わせが含まれてもよい。さらに、光源105は、高出力または低出力であってもよい。光源105のタイプは、適用に応じてもよい。例えば、光ファイバーを用いて、より大きな光源で到達することが困難である体の領域に光を送達してもよく、そしてしたがって、口、耳、鼻などを通じて、赤外治療を提供してもよい。
【0027】
[0036]光療法デバイス100には、例えばダイオードアレイまたは光ファイバーアレイなどのアレイに配置された、任意の数の光源105が含まれてもよい。アレイ中の光源105各々は、チトクロムcオキシダーゼを阻害する波長の1つの光を出力してもよい。1つの典型的な実施において、アレイ中の光源105のいくつかが1つの波長の光を出力する一方、アレイ中の他の光源105が異なる波長の光を出力してもよい。したがって、組み合わせた光源105は、チトクロムcオキシダーゼを阻害し、そして再灌流傷害を減少させる、複数の波長を有する光を出力してもよい。
【0028】
[0037]さらに、光源105は、皮膚、骨、筋組織、および臓器などの1以上の体組織に少なくとも部分的に浸透するのに十分な出力密度の光を出力するように設定される。1つの典型的なアプローチにおいて、各光源105を、少なくともおよそ200mW/cmの出力密度の光を出力するように設定してもよい。例えば、成人に用いる場合、各光源105を、少なくともおよそ800mW/cmの出力密度の光を出力するように設定してもよい。あるいは、光療法デバイス100を、例えば新生児に用いる場合、出力密度は200mW/cmより低くてもよい。アレイ中の1以上の光源105は、アレイ中の1以上の別の光源105とは異なる出力密度を有してもよい。さらに、各光源105の出力密度は、光源105によって生成される光の波長に関連している可能性もある。したがって、同じ波長の光を生成する光源105が同じ出力密度で出力される一方、異なる波長の光を生成する光源105は異なる出力密度で出力されうる。
【0029】
[0038]光療法デバイス100には、さらに、例えば、光源105が正しく作動することを可能にする、多様な電子機器を収納するハンドル110などの部分が含まれる。例えば、ハンドル110には、光源105を有効にし、そして無効にし、光源105の明るさを調整する等を含む、光源105の作動を調節する、1以上のプロセッサおよびサーキットボードが含まれてもよい。あるいは、光源105を操作するために用いられる電子機器のいくつかを光療法デバイス100とは別個のデバイス中に収納してもよい。
【0030】
[0039]例示する光療法デバイス100は、単に例示であり、そして他の型を採用してもよい。例えば、光療法デバイスを脳治療用のヘルメット、血餅除去および赤外光治療の組み合わせのためのカテーテル、歯科/歯肉障害治療用のマウスピースまたは歯ブラシ、マッサージデバイス、糖尿病用靴下またはスリッパ、頭痛治療用のヘッドバンド、目の疾患の治療用のアイマスク、痛風または関節炎の治療用の手袋、局所治療(例えばヘルペス(cold sore))用のレーザーポインター、クッション、ブランケット、ベルト、足湯、例えば早産のリスクがある女性を援助するためのベリーベルト(belly belt)、背部痛の治療用の背ベルト、または誘導を通じて装填される腸疾患治療用の赤外錠剤(infrared pill)、美容目的(例えば皺減少)のための日焼け室等に、光療法デバイスを組み込んでもよい。さらに、記載する以外のタスクを実行するように、光療法デバイス100を設定してもよい。例えば、オキシメーターとして働き、そして酸素を監視するように、光療法デバイス100を設定してもよい。あるいは、1以上のオキシメーターとともに働くように、光療法デバイス100を設定してもよい。この場合、光療法デバイス100には、治療中に用いられる光が、酸素飽和を測定するために用いられる光と干渉するのを防ぐ、調節装置が含まれてもよい。
【0031】
[0040]図9は、虚血事象後の再灌流傷害のリスクを減少させるために使用可能なプロセス200の典型的なフローチャートを例示する。ブロック205には、例えば1以上の光源105を用いた光生成が含まれる。光源105には、直接または間接的にチトクロムcオキシダーゼを阻害する波長を有する光を出力するように設定された、発光ダイオード(LED)、光ファイバー、レーザー、または任意の他の光源105が含まれてもよい。さらに、光源105は、複数の波長を含む範囲で光を出力するように設定される。範囲中の1以上の波長は、虚血組織の再酸素化前、再酸素化中、および/または再酸素化後に適用された際、チトクロムcオキシダーゼを阻害して、再灌流傷害を減少させうる。例えば、光源105は、およそ750nm、870nm、900nm、または950nmの波長の光を出力しうる。さらに、光源105は、これらの波長の1以上、ならびにチトクロムcオキシダーゼを阻害する他の波長の光を出力しうる。さらに、光源105は、1以上の体組織に浸透するのに十分な出力密度を有する光を出力するように設定される。例えば、出力密度は、骨、皮膚、筋組織、および臓器組織の1以上に浸透するのに十分でありうる。1つの典型的なアプローチにおいて、光源105は、少なくともおよそ200mW/cmの出力密度の光を生成しうる。例えば、成人に用いる場合、光源105を、少なくともおよそ800mW/cmの、または、例えば新生児に用いる場合、200mW/cmより低い、出力密度を持つ光を生成してもよい。
【0032】
[0041]ブロック210には、臨床介入前または介入中など、組織の再酸素化の前に、組織の虚血領域に光を適用する工程が含まれる。先に論じるように、多様な波長の赤外光は、再灌流開始に遅れずに、そして少なくとも部分的に再灌流中に、単独で、または組み合わせて適用された場合、チトクロムcオキシダーゼを阻害して、再灌流傷害の影響を減少させる。1つの典型的なアプローチにおいて、図7に例示する典型的な光療法デバイス100を用いて、医師は、再灌流開始前に、または臨床介入を開始する前に、患者の体の虚血領域に向けて、光源105によって生成される光を導いてもよい。臨床介入には、とりわけ、例えば、血栓溶解剤を投与するか、血管形成バルーンを膨らませる/収縮させるか、蘇生させるか、輸血するか、または血管作用剤を投与する工程が含まれてもよい。先に論じるように、再灌流は、酸素および他の栄養分を虚血組織で回復させるプロセスと定義される。再灌流開始は、再灌流が始まる瞬間と定義される。再灌流開始前またはそれに遅れずに、医師は、患者皮膚に光を適用し、そして光は、虚血領域に到達する前に、患者の皮膚、骨、筋組織、臓器、または任意の他の組織を通過してもよい。医師は、光が患者の皮膚に浸透するのを補助するため、患者皮膚にグリセロールを適用してもよい。あるいは、虚血領域が暴露されている(例えば外科的開放を介して)場合、医師は、再灌流前に、虚血領域上に直接光を導いてもよい。
【0033】
[0042]ブロック215には、少なくとも部分的に、再酸素化中、光を適用する工程が含まれる。ブロック210に例示するように、再酸素化前に光を適用する工程に加えて、少なくとも部分的に再灌流中に組織に光を適用する工程は、チトクロムcオキシダーゼをさらに阻害し、そして例えば再灌流傷害の影響をさらに減少させることも可能である。多くの細胞損傷は、機能亢進性OxPhos酵素によって、当然、再灌流開始時に起こる。したがって、再灌流開始時に光を適用し、そして再灌流中のある程度の時間に渡って光を適用し続けると、チトクロムcオキシダーゼをさらに直接または間接的に阻害し、そして細胞死および損傷を減少させることも可能である。いくつかの場合(例えば脳虚血)、再灌流開始の少し後に光を適用してもなお、細胞死および損傷が減少しうるが、再灌流開始前に光を適用するよりもより少ない度合いまでである。1つの典型的な実施において、再灌流が完了するまで光を適用してもよいし、またはあるいは再酸素化が開始する時間に対して、あらかじめ決定した長さの時間に渡って、光を適用してもよい。例えば、医師は、再灌流開始後2時間に渡って、光を適用し続けてもよい。
【0034】
[0043]ブロック220には、光療法デバイス100からの光を用いて、チトクロムcオキシダーゼを阻害する工程が含まれる。先に論じるように、再酸素化または臨床介入の前に、そして少なくとも部分的にこれらの間に、多様な周波数の光を虚血組織に適用すると、チトクロムcオキシダーゼが直接または間接的に阻害される。本発明者らは、チトクロムcオキシダーゼを間接的に阻害すると、細胞死を誘発し、そして影響を受けた組織に損傷を与えうるフリーラジカルの生成が防止されると考えている。先に論じるように、チトクロムcおよびチトクロムcオキシダーゼ酵素には、光療法デバイス100によって生成される光を受容する光受容体が含まれる。光療法デバイス100による光出力が多様な体組織に浸透し、そして虚血領域に到達する際、光はチトクロムcオキシダーゼを阻害し、そしてしたがって虚血および再灌流傷害によって引き起こされる細胞損傷を減少させる。
【0035】
[0044]ブロック225には、治療組織への光を次第に減少させる工程が含まれる。例えば、再灌流開始後または再灌流完了後、光療法デバイス100による光出力を次第に減少させてもよい。1つの典型的なアプローチにおいて、医師は、アレイ中の光源105の1以上を無効にすることによって、または患者からさらに離れるように光療法デバイス100を移動させることによって、光療法デバイス100の光出力を手動で減少させることも可能である。あるいは、1以上の光源105の明るさを次第に減少させるように、あるいは一度に1つずつまたは別個のグループで光源105を無効にして、虚血領域に適用される光が自動的に減少するように、光療法デバイス100を設定してもよい。
【0036】
[0045]図10は、図8に例示する光療法デバイス100などの、チトクロムcオキシダーゼを阻害するように設定されたデバイスを設計するのに使用可能なプロセス300の典型的なフローチャートを例示する。
【0037】
[0046]ブロック305には、少なくとも1つの光源105を選択する工程が含まれる。光源105は、例えば虚血組織の再酸素化中、チトクロムcオキシダーゼを阻害する波長を有する光を生成するように設定される。選択される光源105は、およそ750nm、870nm、900nm、および950nmの1以上を含む波長を有する光を生成可能である。光源105を選択する工程には、さらに、アレイ中、複数の光源105を配置する工程がさらに含まれてもよい。この典型的なアプローチにおいて、光源105各々は、虚血組織の再酸素化中、チトクロムcオキシダーゼを阻害する波長を有してもよい。アレイ中のいくつかの光源105が、アレイ中の他の光源105とは異なる波長を含むように選択してもよい。例えば、光源105のいくつかは約750nmの波長の光を出力してもよく、光源105のいくつかは約870nmの波長の光を出力してもよく、光源105のいくつかは約900nmの波長の光を出力してもよく、そして光源105のいくつかは約950nmの波長の光を出力してもよい。もちろん、他の波長の光がチトクロムcオキシダーゼを阻害する可能性もあり、そしてこれらをアレイ中で用いてもよい。また、アレイは、各タイプの光源105を同数含む必要はない。
【0038】
[0047]ブロック310には、光源105によって生成される光が体組織に浸透するために十分な光源105の出力密度を選択する工程が含まれる。光源105がアレイに配置される場合、1以上の光源105は、別の光源105と異なる出力密度の光を出力してもよい。出力密度はさらに、光がどのように医師によって適用されるかに応じる可能性もある。例えば、医師が、患者の皮膚、骨、筋組織、および臓器を通じて患者に光を適用する場合、例えば外科的開放を通じて、光を虚血組織に直接適用する際に必要であるよりも高い出力密度が必要となりうる。出力密度を選択する際の別の検討事項には、患者に対する熱損傷の量を減少させることが含まれうる。例えば、治療を適用される組織が、治療中に摂氏1度より高く加熱されないように出力密度を選択してもよい。1つの典型的なアプローチにおいて、出力密度は、例えば、少なくともおよそ200mW/cmであってもよい。別の典型的なアプローチにおいて、例えば、成人患者において、出力密度は、少なくともおよそ800mW/cmであってもよい。しかし、他のヒト患者、例えば新生児に用いる場合、出力密度は200mW/cmより低くてもよい。
【0039】
[0048]先に記載する治療は、多様な適用を有しうる。例えば、該治療を用いて、活性酸素種増加から生じる組織損傷および/または細胞エネルギー減少が好ましい状態いずれかを治療してもよい。先に論じるように、本明細書記載の装置および方法は、虚血および再灌流傷害(例えば、心臓発作および脳卒中)の影響を減少させうる。さらに、該装置および方法は、臓器移植中、バイパス手術および他の心臓手術などの、血液供給からの一過性の中断を伴う任意の手術中、脳および脊髄外傷を含む外傷を治療する際、糖尿病患者におけるなどの創傷治癒中、新生児脳低酸素症/虚血または急性尿細管壊死を治療する際、美容処置(例えば皺減少)中、早産および出生前管理(例えば壊死性腸炎)中、背部痛などの疼痛を治療する際などに有益でありうる。さらに、本明細書記載の装置および方法を用いて、筋痙縮、喘息、癲癇、勃起不全、不眠症、腹部および脳動脈瘤、あるいはブドウ膜炎、糖尿病レチノパシーまたは白内障などの目の疾患、歯肉炎、関節炎、アテローム性動脈硬化症、火傷、ヘルペス(cold soresまたはherpes)などのウイルス感染、脱毛または白髪、アレルギー、自己免疫障害(例えば全身性ループス)、皮膚炎、クローン病、床ずれ(dicubity)(例えば褥瘡(bedsores))等を含む、活性酸素種増加を伴う炎症および他の疾患を治療することも可能である。本開示はさらに、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、または筋萎縮性側索硬化症(ALS)によって引き起こされるものなどの神経変性を減少させうる。本明細書記載の治療は、ヒトおよび/または獣医学的薬剤におけるさらなる使用を含めて、明確に開示するものに加えて、さらなる使用を有してもよい。
【0040】
[0049]本明細書に記載されるプロセス、系、方法、経験則に関して、こうしたプロセス等の工程が特定の整然とした順序にしたがって起こるように記載されているものの、こうしたプロセスを、本明細書に記載される順序とは異なる順序で行われる、記載される工程で実施することも可能であることを理解しなければならない。特定の工程を同時に行うことも可能であり、他の工程を付加することも可能であり、また本明細書に記載される特定の工程を省略することも可能であることがさらに理解されるはずである。言い換えると、本明細書のプロセスの説明は、特定の態様を例示する目的のために提供され、そしていかなる点でも請求する発明を制限するように意図されてはならない。
【0041】
[0050]したがって、上記説明が、例示的であると意図され、そして制限するようには意図されないことが理解されるものとする。上記説明を読むと、提供する実施例以外の多くの態様および適用が明らかであろう。本発明の範囲は、上記説明に関連しては決定されず、付随する請求項に関連して、こうした請求項に権利がある同等物のすべての範囲を伴い、決定されなければならない。本明細書に論じる技術において、将来の発展が生じるであろうし、そして開示する系および方法がこうした将来の態様に取り込まれるであろうことが予期され、そして意図される。要約すると、本発明には修飾および変動が可能であることが理解されるはずである。
【0042】
[0051]請求項で用いるすべての用語は、本明細書において逆の明確な指示が行われない限り、最も広い妥当な解釈、および本明細書に記載する技術における博識な当業者によって知られる一般的な意味を提供するよう意図される。特に、「a」、「the」、「said」などの単数形の冠詞は、請求項が逆の明確な限定を列挙しない限り、示す1以上の要素を列挙するように解釈されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チトクロムcオキシダーゼを阻害する特定の波長の光を生成し;そして
虚血事象を経験している有機組織に光を適用する
工程を含む方法。
【請求項2】
光が、チトクロムcオキシダーゼ活性を阻害する少なくとも1つの波長を含む波長スペクトルを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
光が、チトクロムcオキシダーゼを阻害する少なくとも2つの波長を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
光がヒト患者組織に浸透するのに十分な出力密度で生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
適用工程が、有機組織の再酸素化開始より遅れずに開始される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
適用工程が、臨床介入活動の開始より遅れずに開始される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
適用工程が、有機組織の再酸素化開始より遅れずに開始され、そして有機組織が再酸素化されている期間の少なくとも一部に渡って続く、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
適用工程が、臨床介入活動の開始より遅れずに開始され、そして有機組織が再酸素化されている期間の少なくとも一部に渡って続く、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
虚血事象を経験している有機組織に適用された際、チトクロムcオキシダーゼを阻害する少なくとも1つの波長を有する光を生成し、そしてヒト患者組織に浸透するのに十分な出力密度を有する、光療法デバイス。
【請求項10】
光が、チトクロムcオキシダーゼ活性を阻害する少なくとも1つの波長を含む波長スペクトルを有する、請求項9に記載の光療法デバイス。
【請求項11】
光が、チトクロムcオキシダーゼを阻害する少なくとも2つの波長を有する、請求項9に記載の光療法デバイス。
【請求項12】
以下の群:およそ730〜770nm、およそ850〜890nm、およそ880〜920nm、およびおよそ930〜970nmより選択される少なくとも1つの波長を有する光を生成する、請求項9に記載の光療法デバイス。
【請求項13】
およそ730〜770nm、およそ850〜890nm、およそ880〜920nm、およびおよそ930〜970nmの少なくとも1つの波長を有する光を生成し;そして
虚血事象を経験している有機組織に光を適用する
工程を含む方法。
【請求項14】
光が、およそ750nm、870nm、900nm、および950nmの少なくとも1つの波長を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
光が、以下:およそ730〜770nm、およそ850〜890nm、およそ880〜920nm、およびおよそ930〜970nmより選択される少なくとも1つの波長を含む波長スペクトルを有する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
光が、以下:およそ730〜770nm、およそ850〜890nm、およそ880〜920nm、およびおよそ930〜970nmより選択される少なくとも2つの波長を有する、請求項13に示すような方法。
【請求項17】
光が、ヒト患者組織に浸透するのに十分な出力密度で生成される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
適用工程が、有機組織の再酸素化開始より遅れずに開始される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
適用工程が、臨床介入活動の開始より遅れずに開始される、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
適用工程が、有機組織の再酸素化開始より遅れずに開始され、そして有機組織が再酸素化されている期間の少なくとも一部に渡って続く、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
適用工程が、臨床介入活動の開始より遅れずに開始され、そして有機組織が再酸素化されている期間の少なくとも一部に渡って続く、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
およそ730〜770nm、およそ850〜890nm、およそ880〜920nm、およびおよそ930〜970nmの少なくとも1つの波長を有し、そしてヒト患者組織に浸透するのに十分な出力密度を有する光を生成する、光療法デバイス。
【請求項23】
光が、およそ750nm、およそ870nm、およそ900nm、およびおよそ950nmの少なくとも1つの波長を有する、請求項22に記載の光療法デバイス。
【請求項24】
光が、少なくとも2つの波長を有し、その各々が、およそ750nm、およそ870nm、およそ900nm、およびおよそ950nmの群より選択される、請求項22に記載の光療法デバイス。
【請求項25】
光が、発光ダイオード、光ファイバー、およびレーザーの少なくとも1つによって生成される、請求項22に記載の光療法デバイス。
【請求項26】
赤外スペクトル中の特定の波長の光を生成し;そして
虚血事象を経験している有機組織に光を適用する、ここで光の適用は、組織の再酸素化によって引き起こされる細胞損傷を減少させるように、以下の群より選択される時点で開始される:(i)組織の再酸素化開始前、(ii)組織の再酸素化開始時、および(iii)組織の再酸素化開始後、および組織が再酸素化されている時間の少なくとも一部の間
工程を含む方法。
【請求項27】
光の適用が、再酸素化開始より遅れずに開始され、そして組織が再酸素化される時間の少なくとも一部の間、維持される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
光が、およそ730〜770nm、850〜890nm、880〜920nm、および930〜970nmの少なくとも1つの波長を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
光が、およそ750nm、およそ870nm、およそ900nm、およびおよそ950nmの少なくとも1つの波長を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
赤外スペクトル中の特定の波長の光を生成し;そして
虚血事象を経験している有機組織に光を適用する、ここで光の適用は、組織の再酸素化を生じるように意図される臨床介入活動の開始より遅れずに開始される
工程を含む方法。
【請求項31】
組織が再酸素化されている期間の少なくとも一部の間、組織への光の適用が維持される工程をさらに含む、請求項30に示すような方法。
【請求項32】
光が:およそ750nm、およそ870nm、およそ900nm、およびおよそ950nmの群より選択される少なくとも1つの波長を有する、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
光が、少なくとも2つの波長を有し、その各々が、およそ750nm、およそ870nm、およそ900nm、およびおよそ950nmの群より選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
光が、チトクロムcオキシダーゼを阻害する少なくとも1つの波長を有する、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
光が、各々、チトクロムcオキシダーゼを阻害する少なくとも2つの波長を有する、請求項30に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−525235(P2012−525235A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508774(P2012−508774)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/033175
【国際公開番号】WO2010/127249
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(502096303)ウェイン・ステイト・ユニバーシティ (2)
【Fターム(参考)】