説明

光硬化型インクジェット記録用インク組成物、インクジェット記録方法

【課題】硬化性に優れた光硬化型インクジェット記録用インク組成物を提供する。
【解決手段】重合性化合物と光重合開始剤とを含有する光硬化型インクジェット記録用インク組成物であって、前記重合性化合物は、下記一般式(I):
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と、フェノキシエチル(メタ)アクリレートと、色材とを含む、光硬化型インクジェット記録用インク組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化型インクジェット記録用インク組成物及びこれを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙などの被記録媒体に、画像データ信号に基づき画像を形成する記録方法として、種々の方式が利用されてきた。このうち、インクジェット方式は、安価な装置であり、必要とされる画像部のみにインクを吐出し被記録媒体上に直接画像を形成するため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安い。さらに、インクジェット方式は騒音が小さいため、記録方法として優れている。
【0003】
近年、インクジェット方式の記録方法において、良好な耐水性、耐溶剤性、及び耐擦過性などを与えることのできるインク組成物として、光を照射すると硬化する光硬化型インク組成物が使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1及び特許文献2には、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルと、2−(ヒドロキシエトキシ)エチルビニルエーテル及びジエチレングリコールジビニルエーテルのうち少なくともいずれかと、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートと、光重合開始剤と、を含むインク組成物や反応性希釈剤組成物が開示されている(特許文献1の[0114]及び[0139]の表1、特許文献2の実施例、表1、及び表4)。
【0005】
例えば、特許文献3には、69.82重量部のプロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、10.0重量部の二官能性ビニルエーテルモノマー(置換基としてビニルエーテル基のみを有する化合物)、ラジカル光開始剤、及び3.60重量部の分散性顔料を含み、25℃での粘性が22mPasであるインクジェット用インクが開示されている(特許文献3の[0021]、[0022])。
【0006】
例えば、特許文献4には、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル単独又はこれと併用されたアクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及びイソボルニルアクリレートと、ラジカル重合開始剤と、カチオン重合開始剤と、顔料と、分散剤と、界面活性剤と、からなるインク液が開示されている(特許文献4の[0204]〜[0207])。
【0007】
例えば、特許文献5には、25.8重量%のヘキサンジオールジアクリレート、4.6重量%のトリプロピレングリコールジアクリレートのアミン付加化合物、2.3重量%の2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2.5重量%のアルコキシ化フェノキシエチルアクリレート、3.7重量%の2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−4’−モルホリノブチロフェノン、3.2重量%の2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2.8重量%のトリメチルベンゾフェノン及びメチルベンゾフェノンの混合物、0.5重量%のイソプロピルチオキサントン、27.8重量%のシアン顔料分散液、並びに17.6重量%の2−(2−ビニルオキシエトキシ)エチルアクリレートを含む放射線硬化性インクジェットインクが開示されている(特許文献5の[0208]、[0209])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3461501号明細書
【特許文献2】特許第3544658号明細書
【特許文献3】特開2009−62541号公報
【特許文献4】特開2008−179136号公報
【特許文献5】特表2008−507598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜5に開示された組成物やインクは、いずれも硬化性の点で改善の余地がある。そこで、本発明は、硬化性に優れた光硬化型インクジェット記録用インク組成物を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。まず、各特許文献に開示された組成物やインクが硬化性の点で改善の余地がある原因を検討した。当該組成物やインクはいずれも重合性化合物として(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルを含む。この(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルは硬化性を良好にする機能を有するが、重合性化合物として(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルのみを用いたインクは、硬化性が十分とまでは言えないことを見出した。換言すると、重合性化合物として、上記(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルと併せて別種の化合物も用いたインクは、硬化性に優れる場合があることを見出した。
そこで、本発明者らはそのような別種の化合物について検討した。まず、特許文献1及び特許文献2に開示されたインク組成物や反応性希釈剤組成物は、ビニルエーテル基のみを有する化合物と、(メタ)アクリレート基のみを有する化合物と、をそれぞれ含有することを特徴とするが、これらの組成物は硬化性に劣ることを知見した。
【0011】
また、特許文献3に開示された当該化合物として、二官能性ビニルエーテルモノマー(置換基としてビニルエーテル基のみを有する化合物)が挙げられる。しかし、置換基としてビニルエーテル基のみを有する化合物は硬化速度を低下させてしまう。そのため、上記の二官能性ビニルエーテルモノマーは、上記別種の化合物として適当ではないことを知見した。
【0012】
また、特許文献4に開示された上記別種の化合物として、イソボルニルアクリレートが挙げられる。しかし、イソボルニルアクリレートも硬化速度を低下させてしまう。そのため、上記のイソボルニルアクリレートは、上記別種の化合物として適当ではないことを知見した。
【0013】
また、特許文献5に開示された上記別種の化合物として、アルコキシ化フェノキシエチルアクリレートが挙げられる。しかし、アルコキシ化フェノキシエチルアクリレートは、粘度が比較的高く、かつ、溶解性に比較的劣るという性質を有するため、アルコキシ化フェノキシエチルアクリレートを含む放射線硬化性インクジェットインクの硬化速度が十分大きいとは言えない。そのため、上記のアルコキシ化フェノキシエチルアクリレートは、上記別種の化合物として適当ではないことを知見した。
【0014】
以上の知見に基づき、本発明者らが更に鋭意検討を重ねた結果、所定構造を有するビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類とフェノキシエチル(メタ)アクリレートとを含む重合性化合物と、光重合開始剤と、を含有する光硬化型インクジェット記録用インク組成物により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]
重合性化合物と光重合開始剤とを含有する光硬化型インクジェット記録用インク組成物であって、前記重合性化合物は、下記一般式(I):
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と、フェノキシエチル(メタ)アクリレートと、色材とを含む、光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【0016】
[2]
前記フェノキシエチル(メタ)アクリレートの含有量は、該インク組成物の総質量に対し、9〜60質量%である、[1]に記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【0017】
[3]
前記光重合開始剤は、該インク組成物の総質量に対して7質量%以上のアシルフォスフィンオキサイド化合物を含む、[1]又は[2]に記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【0018】
[4]
前記光重合開始剤は、該インク組成物の総質量に対して7〜15質量%のアシルフォスフィンオキサイド化合物を含む、[1]又は[2]に記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【0019】
[5]
前記光重合開始剤は、該インク組成物の総質量に対して10〜15質量%のアシルフォスフィンオキサイド化合物を含む、[1]又は[2]に記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【0020】
[6]
前記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類が、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルである、[1]〜[5]のいずれかに記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【0021】
[7]
前記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の含有量は、該インク組成物の総質量に対し、10〜60質量%である、[1]〜[6]のいずれかに記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【0022】
[8]
発光ピーク波長が350〜420nmの範囲にある紫外線が、300mJ/cm2以下の照射エネルギーで照射されることにより硬化する、[1]〜[7]のいずれかに記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【0023】
[9]
[1]〜[8]のいずれかに記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物を被記録媒体上に吐出する吐出工程と、前記吐出工程により吐出された光硬化型インクジェット記録用インク組成物に紫外線を照射して、前記光硬化型インクジェット記録用インク組成物を硬化する硬化工程と、を含む、インクジェット記録方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0025】
本明細書において、「硬化」とは、重合性化合物を含むインクに放射線を照射すると、重合性化合物が重合してインクが固化することをいう。「硬化性」とは、光を感応して硬化する性質をいう。「密着性」とは、塗膜が素地から剥離しにくい性質をいう。「耐擦性」とは、硬化物を引っ掻いた時に、硬化物が被記録媒体から剥がれにくい性質をいう。
【0026】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味する。
【0027】
本明細書において、「記録物」とは、被記録媒体上にインクが記録されて硬化物が形成されたものをいう。なお、本明細書における硬化物は、インクの硬化膜や塗膜を含む、硬化された物質を意味する。
【0028】
[光硬化型インクジェット記録用インク組成物]
本発明の一実施形態に係る光硬化型インクジェット記録用インク組成物(以下、単に「インク組成物」とも言う。)は、重合性化合物と光重合開始剤とを含有する。そして、当該重合性化合物は、下記一般式(I):
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と、フェノキシエチル(メタ)アクリレートと、色材とを含む。
以下、本実施形態のインク組成物に含まれるか、又は含まれ得る添加剤(成分)を説明する。
【0029】
〔重合性化合物〕
本実施形態のインク組成物に含まれる重合性化合物は、後述する光重合開始剤の作用により紫外線照射時に重合し、印刷されたインクを硬化させることができる。
【0030】
(ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類)
本実施形態において必須の重合性化合物であるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類は、上記一般式(I)で示される。
【0031】
インク組成物が後述のフェノキシエチル(メタ)アクリレートと併せて上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含有することにより、インクを低粘度化することができ、かつ、硬化性、耐擦性、密着性、及び光重合開始剤の溶解性のいずれも優れたものとすることができる。ここで、上記光重合開始剤の溶解性に優れる理由は、重合性化合物と光重合開始剤などの添加剤との間の相溶性が良好となるためである。
さらに言えば、ビニルエーテル基を有する化合物及び(メタ)アクリル酸エステル基(ラジカル重合性基の一種)を有する化合物を別々に使用するよりも、ビニルエーテル基及び(メタ)アクリル酸エステル基を一分子中に共に有する化合物を使用する方が、インクの硬化性を一層良好にする上で好ましい。
【0032】
上記の一般式(I)において、R2で表される炭素数2〜20の2価の有機残基としては、炭素数2〜20の直鎖状、分枝状又は環状の置換されていてもよいアルキレン基、構造中にエーテル結合及び/又はエステル結合による酸素原子を有する置換されていてもよい炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数6〜11の置換されていてもよい2価の芳香族基が好適である。これらの中でも、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基などの炭素数2〜6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn−プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2〜9のアルキレン基が好適に用いられる。
【0033】
上記の一般式(I)において、R3で表される炭素数1〜11の1価の有機残基としては、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状又は環状の置換されていてもよいアルキル基、炭素数6〜11の置換されていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基又はエチル基である炭素数1〜2のアルキル基、フェニル基及びベンジル基などの炭素数6〜8の芳香族基が好適に用いられる。
【0034】
上記の各有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基及び炭素原子を含まない基に分けられる。まず、上記置換基が炭素原子を含む基である場合、当該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基として、以下に限定されないが、例えばカルボキシル基、アルコキシ基が挙げられる。次に、炭素原子を含まない基として、以下に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
【0035】
上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類としては、以下に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1−ジメチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。
【0036】
これらの中でも、後述のフェノキシエチル(メタ)アクリレートと併用した場合に、インクをより低粘度化でき、引火点が高く、かつ、インクの硬化性に一層優れるため、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、すなわち、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル及びメタクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルのうち少なくともいずれかが好ましく、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルがより好ましい。特にアクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル及びメタクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルは、何れも単純な構造であって分子量が小さいため、インクをさらに低粘度化することができる。(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及び(メタ)アクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられ、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルとしては、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及びアクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられる。なお、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルの方が、メタクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルに比べて硬化性の面で優れている。
【0037】
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、硬化性を一層優れたものとするため10〜60質量%であることが好ましく、硬化性に加えて耐擦性及び密着性も一層優れたものとするため、10〜30質量%であることがより好ましく、20〜30質量%であることがさらに好ましい。一方、特に硬化性に優れるインク組成物とする場合は、20〜60質量%であることがより好ましく、30〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法としては、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸と水酸基含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法B)、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物と水酸基含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法C)、(メタ)アクリル酸無水物と水酸基含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法D)、(メタ)アクリル酸エステルと水酸基含有ビニルエーテルとをエステル交換する方法(製法E)、(メタ)アクリル酸とハロゲン含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法F)、(メタ)アクリル酸アルカリ(土類)金属塩とハロゲン含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法G)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとカルボン酸ビニルとをビニル交換する方法(製法H)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとアルキルビニルエーテルとをエーテル交換する方法(製法I)が挙げられる。
【0040】
これらの中でも、本実施形態に所望の効果を一層発揮することができるため、製法Eが好ましい。
【0041】
(フェノキシエチル(メタ)アクリレート)
本実施形態のインク組成物は、重合性化合物としてフェノキシエチル(メタ)アクリレートを含む。上記インク組成物が、重合性化合物として、上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類に加えてフェノキシエチル(メタ)アクリレートを含むことにより、インクを低粘度化することができ、かつ、硬化性、耐擦性、密着性、及び光重合開始剤の溶解性のいずれも優れたものとすることができる。
【0042】
フェノキシエチル(メタ)アクリレートの含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、硬化性を一層優れたものとするため9〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましく、10〜40質量%であることがさらに好ましい。含有量が上記の下限値(特に10質量%)以上であると、硬化性に加えて光重合開始剤の溶解性も一層優れたものとなる。一方、含有量が上記の上限値(特に50質量%)以下であると、硬化性に加えて密着性も一層優れたものとなる。
【0043】
(単官能(メタ)アクリレート)
本実施形態のインク組成物は、重合性化合物として単官能(メタ)アクリレート(但し、フェノキシエチル(メタ)アクリレートを除く。)をさらに含んでもよい。当該単官能(メタ)アクリレートとしては、以下に限定されないが、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、アルコキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、及びp−クミルフェノールEO変性(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0044】
上記単官能(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
上記単官能(メタ)アクリレートは、本実施形態に所望の効果を損なわない範囲でインク組成物に含まれるとよい。上記単官能(メタ)アクリレートの含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、50質量%以下が好ましい。
【0046】
(多官能(メタ)アクリレート)
本実施形態のインク組成物は、重合性化合物として多官能(メタ)アクリレートをさらに含有してもよい。当該多官能(メタ)アクリレートのうち、2官能(メタ)アクリレート(但し、上記所定のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を除く。)としては、以下に限定されないが、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、硬化性が早く、かつインクの低粘度化が容易であるため、ジプロピレングリコールジアクリレート及びトリプロピレングリコールジアクリレートのうち少なくともいずれかが好ましい。
【0047】
多官能(メタ)アクリレートのうち、3官能以上の(メタ)アクリレートとしては、以下に限定されないが、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0048】
多官能(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
多官能(メタ)アクリレートは、本実施形態に所望の効果を損なわない範囲でインク組成物に含まれるとよい。多官能(メタ)アクリレートの含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、40質量%以下が好ましい。
なお、多官能(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であると、インクの高粘度化を防止し、かつ、記録物の良好な柔軟性を確保することもできる。
【0050】
(上記以外の重合性化合物)
また、上記のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類、単官能(メタ)アクリレート、及び多官能(メタ)アクリレート以外に、従来公知の、単官能及び多官能の種々のモノマー及びオリゴマーもさらに使用可能である(以下、「その他の重合性化合物」という。)。上記モノマーとしては、例えば、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。また、上記オリゴマーとしては、例えば、上記のモノマーから形成されるオリゴマーが挙げられる。
【0051】
その他の重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
その他の重合性化合物は、本実施形態に所望の効果を損なわない範囲でインク組成物に含まれるとよい。その他の重合性化合物の含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0053】
〔光重合開始剤〕
本実施形態のインク組成物に含まれる光重合開始剤は、紫外線の照射による光重合によって、被記録媒体の表面に存在するインクを硬化させて印字を形成するために用いられる。放射線の中でも紫外線(UV)を用いることにより、安全性に優れ、且つ光源ランプのコストを抑えることができる。光(紫外線)のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、上記重合性化合物の重合を開始させるものであれば、制限はないが、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を使用することができ、中でも光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0054】
上記の光ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルフォスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
【0055】
これらの中でも、特にインクの硬化性を一層良好にすることができるため、アシルフォスフィンオキサイド化合物及びチオキサントン化合物のうち少なくともいずれかを用いることが好ましく、アシルフォスフィンオキサイド化合物を用いることがより好ましく、アシルフォスフィンオキサイド化合物及びチオキサントン化合物を併用することがさらに好ましい。
【0056】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドが挙げられる。
【0057】
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、BASF社製商品名)、KAYACURE DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製商品名)、Speedcure TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、Speedcure DETX(2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン)(以上、Lambson社製商品名)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製商品名)、及びユベクリルP36(UCB社製商品名)などが挙げられる。
【0058】
光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
光重合開始剤の含有量は、紫外線硬化速度を向上させて硬化性を優れたものとすることができ、かつ、光重合開始剤の溶け残りや光重合開始剤に由来する着色を避けるため、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、8〜20質量%であることが好ましい。
【0060】
特に、光重合開始剤がアシルフォスフィンオキサイド化合物を含む場合、その含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、7質量%以上であることが好ましく、7〜15質量%であることがより好ましく、10〜15質量%であることが特に好ましく、10〜14質量%であることがさらに好ましい。含有量が上記の下限値(特に10質量%)以上であると、硬化性に一層優れる。より具体的に言えば、特にLED(好ましい発光ピーク波長:350nm〜420nm)による硬化の際に十分な硬化速度が得られるため硬化性に一層優れる。一方、含有量が上記の上限値(特に14質量%)以下であると、光重合開始剤の溶解性に一層優れる。
【0061】
また、アシルフォスフィンオキサイド化合物の含有量が上記の範囲である場合、当該アシルフォスフィンオキサイド化合物は、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、好ましくは4質量%以上、より好ましくは6質量%以上のビスアシルフォスフィンオキサイド化合物を含むとよい。ビスアシルフォスフィンオキサイド化合物を上記の下限値(特に6質量%)以上含むと、硬化性が一層優れる。さらに、上記ビスアシルフォスフィンオキサイド化合物の含有量の上限は、開始剤溶解性に一層優れるため、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。
【0062】
また、アシルフォスフィンオキサイド化合物の含有量が上記の範囲である場合、当該アシルフォスフィンオキサイド化合物は、アシルフォスフィンオキサイド化合物の総質量(100質量%)に対して、好ましくは53質量%以上、より好ましくは55質量%以上のビスアシルフォスフィンオキサイド化合物を含むとよい。ビスアシルフォスフィンオキサイド化合物を上記の下限値(特に55質量%)以上含むと、硬化性が一層優れる。さらに、上記ビスアシルフォスフィンオキサイド化合物の含有量の上限は、開始剤溶解性に一層優れるため、アシルフォスフィンオキサイド化合物の総質量(100質量%)に対して、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0063】
上記ビスアシルフォスフィンオキサイド化合物としては、以下に限定されないが、例えば、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドが挙げられる。一方で、アシルフォスフィンオキサイド化合物のうちビスアシルフォスフィンオキサイド化合物以外のものとしては、以下に限定されないが、例えば、モノアシルフォスフィンオキサイド化合物が挙げられる。このモノアシルフォスフィンオキサイド化合物としては、以下に限定されないが、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドが挙げられる。
【0064】
なお、フェノキシエチル(メタ)アクリレートの含有量が上述の好ましい範囲内であると、アシルフォスフィンオキサイド化合物の溶解性が一層良好となるため、アシルフォスフィンオキサイド化合物の含有量を上記の好ましい範囲とすることができる。このように、フェノキシエチル(メタ)アクリレートの含有量とアシルフォスフィンオキサイド化合物の含有量との間には、相関関係がある。
【0065】
また、光重合開始剤がチオキサントン化合物を含む場合、その含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、1〜5質量%であることが好ましい。
【0066】
〔色材〕
本実施形態のインク組成物は、色材をさらに含む。色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。耐光性に優れる点で顔料が好ましい。
【0067】
(顔料)
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、インク組成物の耐光性を向上させることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
【0068】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック 7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0069】
有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
【0070】
更に詳しくは、ブラックインクとして使用されるカーボンブラックとしては、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製商品名)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製商品名)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(キャボット社(CABOT JAPAN K.K.)製商品名)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4等(以上、デグッサ(Degussa)社製商品名)が挙げられる。
【0071】
ホワイトインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21が挙げられる。
【0072】
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1,2,3,4,5,6,7,10,11,12,13,14,16,17,24,34,35,37,53,55,65,73,74,75,81,83,93,94,95,97,98,99,108,109,110,113,114,117,120,124,128,129,133,138,139,147,151,153,154,167,172,180が挙げられる。
【0073】
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,14,15,16,17,18,19,21,22,23,30,31,32,37,38,40,41,42,48(Ca),48(Mn),57(Ca),57:1,88,112,114,122,123,144,146,149,150,166,168,170,171,175,176,177,178,179,184,185,187,202,209,219,224,245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19,23,32,33,36,38,43,50が挙げられる。
【0074】
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1,2,3,15,15:1,15:2,15:3,15:34,15:4,16,18,22,25,60,65,66,又はC.I.バットブルー 4,60が挙げられる。
【0075】
また、マゼンタ、シアン及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7,10、又はC.I.ピグメントブラウン 3,5,25,26、又はC.I.ピグメントオレンジ 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63が挙げられる。
【0076】
上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
(染料)
本実施形態において、色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
【0078】
上記染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
色材の含有量は、良好な発色性を有し、色材自身の光吸収による塗膜の硬化阻害を低減できるため、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、1〜20質量%が好ましい。色材を含む光硬化型インク組成物は、色材を含まないインク組成物と比べて、硬化性が悪く、記録物の密着性、耐擦性も劣るが、本実施形態の光硬化型インク組成物であれば、硬化性、密着性、耐擦性に優れ、画像の記録に用いることのできるインク組成物とすることができる。
【0080】
〔分散剤〕
本実施形態のインク組成物が顔料を含む場合、顔料分散性をより良好なものとするため、分散剤をさらに含んでもよい。分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂のうち一種以上を主成分とするものが挙げられる。高分子分散剤の市販品として、味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ(商品名)、アビシア社(Avecia Co.)から入手可能なソルスパーズシリーズ(Solsperse 32000,36000等〔以上、商品名〕)、BYKChemie社製のディスパービックシリーズ(商品名)、楠本化成社製のディスパロンシリーズ(商品名)が挙げられる。
【0081】
分散剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、分散剤の含有量は特に制限されず適宜好ましい量を添加すればよい。
【0082】
〔重合禁止剤〕
本実施形態のインク組成物は、重合禁止剤をさらに含んでもよい。インク組成物が重合禁止剤を含有することにより、硬化前における上記重合性化合物の重合反応を防止できる。
【0083】
重合禁止剤としては、特に制限されないが、例えばフェノール系重合禁止剤が挙げられる。当該フェノール系重合禁止剤として、以下に限定されないが、例えば、p−メトキシフェノール、クレゾール、t−ブチルカテコール、ジ−t−ブチルパラクレゾール、ヒドロキノンモノメチルエーテル、α−ナフトール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−ブチルフェノール)、及び4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)が挙げられる。
【0084】
フェノール系重合禁止剤の市販品としては、例えば、p−メトキシフェノール(東京化成工業社(Tokyo Chemical Industry Co., Ltd.)製商品名、p−メトキシフェノール)、ノンフレックスMBP(精工化学社(Seiko Chemical Co.,Ltd.)製商品名、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール))、BHTスワノックス(精工化学社製商品名、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)が挙げられる。
【0085】
重合禁止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、重合禁止剤の含有量は特に制限されず適宜好ましい量を添加すればよい。
【0086】
〔スリップ剤〕
本実施形態のインク組成物は、スリップ剤(界面活性剤)をさらに含んでもよい。スリップ剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。スリップ剤の市販品としては、BYK−347、BYK−348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(以上、BYK社製)を挙げることができる。
スリップ剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、スリップ剤の含有量は特に制限されず適宜好ましい量を添加すればよい。
【0087】
〔その他の添加剤〕
本実施形態のインク組成物は、上記に挙げた添加剤以外の添加剤(成分)を含んでもよい。このような成分としては、特に制限されないが、例えば従来公知の、重合促進剤、浸透促進剤、及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤があり得る。上記のその他の添加剤として、例えば従来公知の、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、及び増粘剤が挙げられる。
【0088】
[光硬化型インクジェット記録用インク組成物の特性]
上記インク組成物の25℃での粘度は、インクの吐出安定性を良好なものとし、かつ、インクの硬化性を一層優れたものとするため、35mPa・s未満が好ましく、25mPa・s以下がより好ましい。
【0089】
また、上記インク組成物は、好ましくは350〜420nmの範囲に発光ピーク波長を有する紫外線が照射されることにより硬化するものである。本実施形態のインク組成物が上記範囲内の発光ピーク波長で硬化可能であると、当該インク組成物の組成に起因して低エネルギー且つ高速での硬化が可能となる。特に、低エネルギーで硬化可能であることは、環境面などから近年注目されている発光ダイオード(LED)を紫外線の照射源として使用できることにつながるため、好ましいと言える。つまり、本実施形態のインク組成物は、LEDによる硬化性に優れている。
【0090】
また、300mJ/cm2以下の紫外線の照射エネルギーで硬化するインク組成物が好ましく、200mJ/cm2以下の紫外線の照射エネルギーで硬化するインク組成物がより好ましい。このようなインク組成物を用いることにより、低コストで画像を形成することができる。なお、照射エネルギーは、照射時間に照射強度を乗じて算出される。
【0091】
このように、本実施形態によれば、硬化性に優れ、さらには低粘度であって、画像(硬化物)の密着性及び耐擦性、並びに光重合開始剤の溶解性にも優れた光硬化型インクジェット記録用インク組成物を提供することができる。
【0092】
[被記録媒体]
本実施形態のインク組成物は、後述するインクジェット記録方法によって、被記録媒体上に吐出されること等により、記録物が得られる。この被記録媒体として、例えば、吸収性又は非吸収性の被記録媒体が挙げられる。後述する実施形態のインクジェット記録方法は、水性インクの浸透が困難な非吸収性被記録媒体から、水性インクの浸透が容易な吸収性被記録媒体まで、様々な吸収性能を持つ被記録媒体に幅広く適用できる。ただし、上記のインク組成物を非吸収性の被記録媒体に適用した場合は、紫外線を照射し硬化させた後に乾燥工程を設けること等が必要となる場合がある。
【0093】
吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、水性インクの浸透性が高い電子写真用紙などの普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)から、水性インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。
【0094】
非吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック類のフィルム、シート、及びプレート、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート、又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート等が挙げられる。
【0095】
[インクジェット記録方法]
本発明の一実施形態は、インクジェット記録方法に係る。上記実施形態の光硬化型インクジェット記録用インク組成物は、本実施形態のインクジェット記録方法に好適に用いることができる。当該インクジェット記録方法は、被記録媒体上に、上記インク組成物を吐出する吐出工程と、上記吐出工程により吐出されたインク組成物に紫外線を照射して、上記インク組成物を硬化する硬化工程と、を含む。このようにして、被記録媒体上で硬化したインク組成物により、画像、即ちインクの塗膜(硬化膜)が形成される。また、本発明の他の一実施形態は、本発明の一実施形態であるインクジェット記録方法に用いる本発明の前述の実施形態である光硬化型インクジェット記録用インク組成物である。ここで、本発明の一実施形態であるインクジェット記録方法に用いる本発明の実施形態である光硬化型インクジェット記録用インク組成物とは、本発明の一実施形態であるインクジェット記録方法によって記録を行う記録装置用として販売される本発明の実施形態である光硬化型インクジェット記録用インク組成物を意味する。
【0096】
〔吐出工程〕
吐出工程において、被記録媒体上にインク組成物が吐出され、インク組成物が被記録媒体に付着する。吐出時におけるインク組成物の粘度は、3〜20mPa・sが好ましい。
インク組成物の粘度が、インク組成物の温度を室温として、あるいは、インク組成物を加熱しない状態として上記のものであれば、インク組成物の温度を室温として、あるいはインク組成物を加熱せずに吐出させればよい。その際、吐出時のインクの温度は20〜30℃であることが好ましい。一方、インク組成物を所定の温度に加熱することによって粘度を好ましいものとして吐出させてもよい。このようにして、良好な吐出安定性が実現される。
【0097】
本実施形態の光硬化型インクジェット記録用インク組成物は、通常の水性インク組成物より粘度が高いため、吐出時の温度変動による粘度変動が大きい。このようなインクの粘度変動は、液滴サイズの変化及び液滴吐出速度の変化に対して大きな影響を与え、ひいては画質劣化を引き起こし得る。したがって、吐出時のインクの温度はできるだけ一定に保つことが好ましい。
【0098】
〔硬化工程〕
次に、上記硬化工程においては、被記録媒体上に吐出され付着したインク組成物が、光(紫外線)の照射によって硬化する。これは、インク組成物に含まれる光重合開始剤が紫外線の照射により分解して、ラジカル、酸、及び塩基などの開始種を発生し、重合性化合物の重合反応が、その開始種の機能によって促進されるためである。あるいは、紫外線の照射によって、重合性化合物の重合反応が開始するためである。このとき、インク組成物において光重合開始剤と共に増感色素が存在すると、系中の増感色素が紫外線を吸収して励起状態となり、光重合開始剤と接触することによって光重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
【0099】
紫外線源としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、光硬化型インクジェット記録用インク組成物の硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。その一方で、現在環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、紫外線発光ダイオード(UV−LED)及び紫外線レーザダイオード(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、光硬化型インクジェット用光源として期待されている。これらの中でも、UV−LEDが好ましい。
【0100】
ここで、LEDの出力を上げやすいため、発光ピーク波長が好ましくは350〜420nmの範囲にあるUV−LEDを用いて、好ましくは300mJ/cm2以下の照射エネルギーで硬化可能な光硬化型インクジェット記録用インク組成物をインクジェット記録方法に用いることが好適である。この場合、低コスト印刷且つ大きな印刷速度が実現できる。このようなインク組成物は、上記波長範囲の紫外線照射により分解する光重合開始剤、及び上記波長範囲の紫外線照射により重合を開始する重合性化合物のうち少なくともいずれかを含むことにより得られる。
また、LEDの照射強度としては、800mW/cm2以上のピーク強度のUV−LEDを用いて硬化を行うことが好ましく、800〜2000mW/cm2のピーク強度であることがより好ましい。この場合、インク組成物の硬化性をさらによくすることができ、記録物の外観もよくすることができる。
【0101】
このように、本実施形態によれば、硬化性に優れ、さらには低粘度であって、画像(硬化物)の密着性及び耐擦性、並びに光重合開始剤の溶解性にも優れる光硬化型インクジェット記録用インク組成物を用いた、好適なインクジェット記録方法を提供することができる。
【実施例】
【0102】
以下、本発明の実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0103】
[使用成分]
下記の実施例及び比較例において使用した成分は、以下の通りである。
【0104】
〔顔料〕
・IRGALITE BLUE GLVO(シアン顔料(C.I.ピグメントブルー15:4)、BASF社製商品名、以下では「BLUE GLVO」と略記した。)
【0105】
〔分散剤〕
・Solsperse 32000(LUBRIZOL社製商品名、以下では「SOL32000」と略記した。)
【0106】
〔ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類〕
・VEEA(アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、日本触媒社(Nippon Shokubai Co., Ltd.)製商品名、以下では「VEEA」と略記した。)
なお、表中では、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を「アクリル・ビニル含有モノマー」と記載している。
【0107】
〔単官能(メタ)アクリレート〕
・ビスコート#192(フェノキシエチルアクリレート、大阪有機化学社(OSAKA ORGANIC CHEMICAL INDUSTRY LTD.)製商品名、以下では「PEA」と略記した。)
・IBXA(イソボルニルアクリレート、大阪有機化学社製商品名、以下では「IBXA」と略記した。)
【0108】
〔多官能(メタ)アクリレート〕
・NKエステル APG−100(ジプロピレングリコールジアクリレート、新中村化学工業社(SHIN-NAKAMURA CHEMICAL CO., LTD.)製商品名、以下では「DPGDA」と略記した。)
・NKエステル APG−200(トリプロピレングリコールジアクリレート、新中村化学工業社製商品名、以下では「TPGDA」と略記した。)
【0109】
〔光重合開始剤〕
・IRGACURE 819(BASF社製商品名、固形分量100%、以下では「819」と略記した。)
・Speedcure TPO(Lambson社製商品名、固形分量100%、以下では「TPO」と略記した。)
・Speedcure DETX(Lambson社製商品名、固形分量100%、以下では「DETX」と略記した。)
【0110】
〔重合禁止剤〕
・p−メトキシフェノール(東京化成工業社製商品名、p−メトキシフェノール、以下では「MEHQ」と略記した。)
【0111】
〔スリップ剤〕
・BYK−UV3500(BYK社製商品名、以下では「UV3500」と略記した。)
【0112】
[実施例1〜16、比較例1〜6]
〔顔料分散液の調製〕
インク組成物の調製に先立ち、顔料分散液を調製した。顔料、分散剤、並びに下記表1及び表2中「分散液由来モノマー」欄に記載した重合性化合物を、下記表1及び表2に記載の組成(単位:質量%)となるように混合し、1時間スターラーで撹拌した。撹拌後の混合液をビーズミルで分散し、顔料分散液を得た。なお、分散条件は、直径0.65mmのジルコニアビーズを70%の充填率で充填し、周速を9m/sとし、分散時間を2〜4時間とした。
【0113】
〔インク組成物の調製〕
下記表1及び表2に記載の成分を、表1及び表2に記載の組成(単位:質量%)となる
ように添加、混合し(表1及び表2中、顔料と分散剤と「分散液由来モノマー」欄に記載の重合性化合物とは上記顔料分散液として添加した。)、これを高速水冷式撹拌機により撹拌することにより、シアン色の光硬化型インクジェット記録用インク組成物を調製した。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
[評価項目]
各実施例及び各比較例で調製した光硬化型インクジェット記録用インク組成物について、以下の方法により粘度、光重合開始剤の溶解性、硬化性、密着性、及び耐擦性を評価した。
【0117】
(1.粘度)
各実施例及び各比較例のインク組成物の粘度を、DVM−E型回転粘度計(東京計器社(TOKYO KEIKI INC)製)を用いて、温度25℃、回転数10rpmの条件下で測定した。評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記表3及び表4に示す。
A:25mPa・s以下、
B:25mPa・sを超えて35mPa・s未満、
C:35mPa・s以上。
【0118】
(2.光重合開始剤の溶解性)
顔料及び顔料分散剤以外の成分を用いて、上記の各実施例及び各比較例と同様に顔料抜きのインク組成物を調合し、十分に撹拌して各インク組成物を調製した。その後、光重合開始剤の溶け残りがあるか否かを目視で観察した。そして、光重合開始剤の溶け残りが無いインク組成物は、0℃の恒温槽に入れ、24時間後に取り出して室温に戻した後、光重合開始剤が析出しているか否かを再度目視で観察した。
評価基準は下記のとおりである。評価結果を下記表3及び表4に示す。なお、表3及び表4における本評価名は「開始剤溶解性」と略記した。
A:室温撹拌後及び0℃保管後共に、光重合開始剤の溶け残りや析出は見られなかった。
B:室温撹拌後は光重合開始剤の溶け残りが無かったが、0℃保管後は光重合開始剤の析出が見られた。
C:室温撹拌後に光重合開始剤の溶け残りが見られた。
【0119】
(3.硬化性)
ピエゾ型インクジェットノズルを備えたインクジェット記録装置を用いて、各実施例及び各比較例のインク組成物をそれぞれのノズル列に充填した。常温、常圧下でPVCシート(Flontlite Grossy 120g〔商品名〕、Cooley社製)上に、インクの吐出量を調整しつつ、印刷物(記録物)の膜厚が10μmとなるようにベタパターン画像(記録解像度720×720dpi)を印刷した。このとき、各インク組成物の吐出性は良好であった。併せて、キャリッジの横に搭載した紫外線照射装置内のUV−LEDから、照射強度が1W/cm2であり、且つピーク波長が395nmである紫外線を、1パス当たり100mJ/cm2の照射条件下、タックフリーとなるまでパス数を追加して、ベタパターン画像を硬化させた。以上のようにして、PVCシート上にベタパターン画像が印刷された記録物を作製した。
なお、「ベタパターン画像」とは、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録した画像である。また、「パス数」は、ヘッドが記録物に対して移動し、ヘッドに搭載した紫外線照射装置から塗膜に向けて紫外線照射した回数を意味する。また、照射エネルギー[mJ/cm2]は、光源から照射される被照射表面における照射強度[mW/cm2]を測定し、これと照射継続時間[s]との積から求めた。照射強度の測定は、紫外線強度計UM−10、受光部UM−400(いずれもコニカミノルタセンシング社(KONICA MINOLTA SENSING, INC.)製)を用いて行った。
ここで、塗膜に関する硬化性は、タックフリー時の照射エネルギーを指標として評価した。ここで、タックフリーといえるか否かは、下記の条件で判断した。すなわち、綿棒にインクが付着するか否か、又は被記録媒体上のインク硬化物に擦り傷が付くか否かで判断し、綿棒にインクが付着せず、かつ被記録媒体上のインク硬化物に擦り傷が付かない場合をタックフリーとした。その際、使用した綿棒は、ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)社製のジョンソン綿棒であった。擦る回数は往復10回とし、擦る強さは100g荷重とした。
評価基準は下記のとおりである。評価結果を下記表3及び表4に示す。
A:200mJ/cm2以下、
B:200mJ/cm2超300mJ/cm2以下、
C:300mJ/cm2超。
【0120】
(4.密着性)
上記「3.硬化性」の試験で、タックフリーになるまで紫外線照射を行い硬化させた記録物を用いた。JIS K−5600−5−6(ISO2409)(塗料一般試験法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法))に準じて、記録物の塗膜面にクロスカットを行い、セロハンテープによる剥離試験の結果から、下記のランクA〜Eに基づき密着性を評価した。ここで、上記クロスカット法について説明する。
切込み工具として単一刃切り込み工具(一般に市販されているカッター)と、単一刃切り込み工具を用いて等間隔に切り込むためのガイドと、を用意した。
まず、塗膜に対して垂直になるように切込み工具の刃を当てて、記録物に6本の切り込みを入れた。この6本の切込みを入れた後、90°方向を変え、既に入れた切り込みと直行するよう、さらに6本の切り込みを入れた。
次に、約75mmの長さになるよう透明付着テープ(幅25±1mm)を取り出し、塗膜に形成された格子状にカットした部分にテープを貼り、塗膜が透けて見えるように十分指でテープを擦った。次に、付着して5分以内に60°に近い角度で、0.5〜1.0秒で確実に引き離した。
評価基準は下記のとおりである。なお、各ランクの値は、ハガレ率を計算して得られた値の小数点第1位を四捨五入したものである。評価結果を下記表3及び表4に示す。
A:ハガレ率 0〜5%、
B:ハガレ率 6〜15%、
C:ハガレ率 16〜35%、
D:ハガレ率 36〜65%、
E:ハガレ率 66〜100%。
【0121】
(5.耐擦性)
JIS K5701(ISO 11628)(平版印刷に用いられるインク、展色試料、及び印刷物を試験する方法について規定。)に準じて、学振式摩擦堅牢度試験機(テスター産業社(TESTER SANGYO CO., LTD.)製)を用いて、耐擦性の評価を行った。評価方法は、上記「3.硬化性」の試験で得られた記録物の表面に金巾を乗せ、荷重500gをかけて擦り、擦った後の、上記記録物の硬化面の剥離を目視にて比較した。
評価基準は下記のとおりである。評価結果を下記表3及び表4に示す。
A:金巾に汚れなし、記録面の剥離・傷なし。
B:金巾に汚れあり、記録面の剥離・傷なし。
C:金巾に汚れあり、記録面の剥離・傷が線状に少し見られた。
D:金巾に汚れあり、記録面の剥離・傷が面上に大きく見られた。
【0122】
【表3】

【0123】
【表4】

【0124】
以上の結果より、上記一般式(I)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類及びフェノキシエチル(メタ)アクリレートを含む重合性化合物と、光重合開始剤と、を含有する光硬化型インクジェット記録用インク組成物(各実施例)は、そうでないインク組成物(各比較例)と比較して、硬化性に優れ、さらには粘度がより低く、かつ、光重合開始剤の溶解性、密着性、及び耐擦性にも優れることが分かった。また、比較例5、6は、それぞれ、比較例2、4のインク組成物から色材及び分散材を除いたインク組成物であるが、硬化性が良好であり、それぞれ比較例2、4と比べると密着性や耐擦性が改善していたが、色材を含まないインク組成物であり画像の記録に用いる事ができないものであった。さらに、表中には記載しなかったが、UV−LEDの照射強度を500mW/cm2とし1パスあたりの照射時間を長くすることにより1パスあたりの照射エネルギーは前記実施例と同じにしたこと以外は前述の実施例1と同じ条件で硬化性評価を行ったところ、硬化性評価がBであった、また、ベタパターンの表面にシワが見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物と光重合開始剤とを含有する光硬化型インクジェット記録用インク組成物であって、
前記重合性化合物は、下記一般式(I):
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と、
フェノキシエチル(メタ)アクリレートと、色材とを含む、光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【請求項2】
前記フェノキシエチル(メタ)アクリレートの含有量は、該インク組成物の総質量に対し、9〜60質量%である、請求項1に記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【請求項3】
前記光重合開始剤は、該インク組成物の総質量に対して7質量%以上のアシルフォスフィンオキサイド化合物を含む、請求項1又は2に記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【請求項4】
前記光重合開始剤は、該インク組成物の総質量に対して7〜15質量%のアシルフォスフィンオキサイド化合物を含む、請求項1又は2に記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【請求項5】
前記光重合開始剤は、該インク組成物の総質量に対して10〜15質量%のアシルフォスフィンオキサイド化合物を含む、請求項1又は2に記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【請求項6】
前記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類が、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【請求項7】
前記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の含有量は、該インク組成物の総質量に対し、10〜60質量%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【請求項8】
発光ピーク波長が350〜420nmの範囲にある紫外線が、300mJ/cm2以下の照射エネルギーで照射されることにより硬化する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の光硬化型インクジェット記録用インク組成物を被記録媒体上に吐出する吐出工程と、
前記吐出工程により吐出された光硬化型インクジェット記録用インク組成物に紫外線を照射して、前記光硬化型インクジェット記録用インク組成物を硬化する硬化工程と、を含む、インクジェット記録方法。

【公開番号】特開2013−36020(P2013−36020A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−8704(P2012−8704)
【出願日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】