説明

光硬化型導電性インク用組成物

【課題】高速印刷であっても転写ミスや擦れの発生がなく、高精細な印刷が可能となるよう、基材への印刷性、印刷精度、密着性が良好で、フレキソ印刷などの高速印刷に適しており、かつ、安定した導電特性を発揮することができる紫外線硬化型導電性インク用組成物を提供する。
【解決手段】(A)ウレタンアクリレート類のオリゴマー、(B)四官能のアクリレート類、三官能のアクリレート類、二官能のアクリレート類、及び一官能のアクリレート類から選択される少なくとも3種のアクリレート類、(C)導電性フィラー、(D)2種以上の光重合開始剤、及び(E)高分子分散剤を含有し、(C)導電性フィラーの配合量が、該光硬化型導電性インク用組成物の総質量に対して77〜85質量%であり、(C)導電性フィラーの80質量%以上が、鱗片状、箔状、あるいはフレーク状であって、粒度分布50%粒径が5μmを超える銀粉である光硬化型導電性インク用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化型導電性インク用組成物に関し、詳しくは、フレキソ印刷やグラビア印刷などにより、各種基材に電子回路を形成する場合において、良好な印刷精度、高速印刷性、密着性、並びに、安定した導電性を得ることができる硬化熱処理不要の光硬化型導電性インク用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、在宅における服薬状況をモニタリングする服薬管理モニタリングシステムの実用化に向けて盛んに研究が進められている。このシステムの概略について説明すると、まず、薬用カプセル、錠剤など、服用される薬のパッケージに導電性インク(銀ペースト)で電子回路を印刷して、電子回路付のパッケージを作製しておき、その後、薬を処方された服用者が薬を服用する際に該パッケージを開封すると電子回路が切断され、この電子回路の断線によって薬のパッケージの開封を検出し、医療機関のサーバーにインターネットなどを経由して信号を送信するシステムである。このシステムが稼働すると、服用者が薬の飲み忘れ、あるいは飲み間違いをした場合には、服用者本人に対してアラームで警告すると同時に、医療機関のサーバーから自動的に電子メールを送信して通知などを行う。こうして、服薬コンプライアンスの向上を図ることができる。
【0003】
上記のような服薬管理モニタリングシステムを一般的に普及させるためには、様々な解決すべき課題がある。その課題の1つとして、導電性インクを用いて電子回路を印刷した薬のパッケージの作製が挙げられる。すなわち、上記システムを実用化するためには、薬のパッケージに対応させて、電子回路を小型化する必要があり、そのため、良好な印刷精度、印刷性、密着性、並びに、安定した導電性を得ることができる非加熱硬化型の導電性インクを開発することが求められている。
【0004】
近年、フレキソ印刷、オフセット印刷、グラビア印刷などで、紫外線硬化あるいは電子線硬化性インクを用いる印刷方法が注目されている。これらの方法は、揮発性有機化合物の発生がなく、乾燥時間も短縮できるため、生産性を高めることができ、また、プラスチックフィルムのようなインク吸収性の低い基材に対しても印刷可能であるという特長を有している。
このような高速印刷方法に利用することができ、また、硬化した後に高い導電性を示す導電性インクが多数開発されている。たとえば、特許文献1には、フレキソ印刷やロートグラビア印刷などに適した導電性インクとして、ウレタンアクリレート類などの1以上のオリゴマー、ジアクリレートやトリアクリレートなどの1以上のアクリレートキャリヤー、ビニルエーテル類などの1以上の反応性モノマー、フレーク状銀粉などの1以上の伝導性充填材、および1以上の光開始剤を含む組成物が開示されている。
また、特許文献2には、フレキソ印刷やスクリーン印刷に適した導電性インクとして、導電性粉末と、活性エネルギー線硬化型樹脂と、希釈剤とを必須成分として含有する活性エネルギー線硬化型導電性インキ組成物であって、前記活性エネルギー線硬化型樹脂が多官能ウレタンアクリレートからなることを特徴とする活性エネルギー線硬化型導電性インキ組成物が開示されている。
さらに、特許文献3には、フレキソ印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷などに適した導電性インクとして、平均粒子径0.001〜0.10μmの導電性微粒子(A)と、平均粒子径または平均円相当径0.5〜10μmの導電性粉末(B)とを含み、フレーク状、鱗片状、板状、球状、または箔状である導電性物質と、塩化ビニル/酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル共重合体樹脂とを含む導電性インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−260938号公報
【特許文献2】特開2007−119682号公報
【特許文献3】WO2006/095611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の導電性インクは、良好な導電性を実現するために、導電性フィラーの含有量を増加させた場合、特に高速で印刷を行うと転写ミスや擦れが生じやすく、その結果、転写印刷後の硬化後において導通していないなど、印刷性、印刷精度などの点で問題があった。また、導電性フィラーの含有量の増加により紫外線が導電性インク全体に届かず、その結果、印刷した導電性インクの下面は未硬化の状態のままであるなど、硬化性の点で問題があった。さらには、紫外線硬化の際に、基材の表面にオゾン(220nm以下の波長の光で酸素より生成される)が存在すると、硬化阻害が生じ、十分に硬化させることが困難であるという問題もあった。
【0007】
本発明は、こうした現状を踏まえ、高速印刷であっても転写ミスや擦れの発生がなく、高精細な印刷が可能となるよう、基材への印刷性、印刷精度、密着性が良好で、フレキソ印刷などの高速印刷に適しており、かつ、安定した導電特性を発揮することができる紫外線硬化型導電性インク用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するため、導電性インクを構成する成分のうち、特に光重合樹脂前駆体及び光重合開始剤に着目し、鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(A)ウレタンアクリレート類のオリゴマー、
(B)四官能のアクリレート類、三官能のアクリレート類、二官能のアクリレート類、及び一官能のアクリレート類から選択される少なくとも3種のアクリレート類、
(C)導電性フィラー、
(D)2種以上の光重合開始剤、及び
(E)高分子分散剤、を含有する光硬化型導電性インク用組成物であって、
(C)導電性フィラーの配合量が、該光硬化型導電性インク用組成物の総質量に対して77〜85質量%であり、
(C)導電性フィラーの80質量%以上が、鱗片状、箔状、あるいはフレーク状であって、粒度分布50%粒径が5μmを超える銀粉であることを特徴とする光硬化型導電性インク用組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の紫外線硬化型導電性インク用組成物は、プラスチックシートなどの各種基材に対する印刷性、印刷精度、密着性が良好で、高速印刷性にも優れているため、フレキソ印刷などの高速印刷に好適であり、かつ、安定した導電特性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の光硬化型導電性インク用組成物の基本構成は、前述のとおり、(A)ウレタンアクリレート類のオリゴマー、(B)アクリレート類、(C)導電性フィラー、(D)光重合開始剤、及び(E)高分子分散剤からなる。まず、各成分について詳細に説明する。
(A)成分は、ウレタンアクリレート類のオリゴマーであり、その基本構造は、分子鎖の中央部に位置するソフトセグメント(ポリオール部分)と、その両端に位置するハードセグメント(アクリレート部分とイソシアネート部分)により構成される。(A)ウレタンアクリレート類のオリゴマーは、(B)成分のアクリレートモノマーとともに架橋高分子網状構造を形成し、基材との密着性に優れた、柔軟で強靭な膜を形成する。また、本発明は、(A)成分及び(B)成分の組み合わせを採用したことにより、(C)導電性フィラーの配合量が多いにもかかわらず、低粘度を維持することができ、光重合反応が妨げられず、これにより良好な印刷性、印刷精度、高速印刷性、さらには安定した導電性を得ることができる。
【0011】
(A)ウレタンアクリレート類のオリゴマーは、イソシアネ−ト化合物とエステル系ポリオ−ルなどの多価アルコールと水酸基含有アクリレートを反応させることにより得られる。ここで、オリゴマーとは、モノマー単位が2〜数十程度繰り返された重合体のことをさす。なお、本明細書中、用語「アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの両方を包含する意味として使用する。また、オリゴマー1分子中に含まれるアクリレート官能基の数は、3以上の多官能であることが好ましい。
【0012】
(A)ウレタンアクリレート類のオリゴマーとしては、たとえば、東亞合成(株)製のアロニックスM−1100、M−1200、M−1210、M−1310、M−1600、M−1960、第一工業製薬(株)製のR1204、R1211、R1213、R1217、R1218、R1301、R1302、R1303、R1304、R1306、R1308、R1901、R1150など、ダイセル・サイテック(株)製のEBECRYL230、270、4858、8402、8804、8807、8803、9260、1290、1290K、5129、4842、8210、210、4827、6700、4450、220など、新中村化学工業(株)製のNKオリゴU−4HA、U−6HA、U−15HA、U−108A、U200AXなどが挙げられる。
【0013】
(A)ウレタンアクリレート類のオリゴマーの配合量は、本発明の光硬化型導電性インク用組成物の総質量に対して、2〜5質量%が好ましく、3〜4質量%がより好ましい。2質量%未満では、印刷後の基板への密着性の低下や耐折り曲げ性が低下するおそれがあり、5質量%を超えると粘度が高くなり作業性(印刷性)が低下するおそれがある。
【0014】
(B)成分は、四官能のアクリレート類、三官能のアクリレート類、二官能のアクリレート類、及び一官能のアクリレート類から選択される少なくとも3種のアクリレート類である。特に、本発明の光硬化型導電性インク用組成物においては、四官能のアクリレート類または三官能のアクリレート類のうち何れか一つ、二官能のアクリレート類、及び一官能のアクリレート類を必須とすることが好ましい。すなわち、四官能のアクリレート類、二官能のアクリレート類、及び一官能のアクリレート類の組み合わせ、三官能のアクリレート類、二官能のアクリレート類、及び一官能のアクリレート類の組み合わせ、あるいは、四官能のアクリレート類、三官能のアクリレート類、二官能のアクリレート類、及び一官能のアクリレート類の全ての組み合わせとすることが好ましい。最適には、四官能のアクリレート類または三官能のアクリレート類の何れか一つ、二官能のアクリレート類、及び一官能のアクリレート類の組み合わせで用いられる。
【0015】
四官能のアクリレート類としては、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エチレンオキサイド変性ジグリセリンテトラアクリレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
三官能のアクリレート類としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、プロポキシ化グリセリルトリアクリレートが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
二官能のアクリレート類としては、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(1000)ジアクリレート、ポリプロピレングリコール(400)ジアクリレート、ポリプロピレングリコール(700)ジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレートが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
一官能のアクリレート類としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ノニルアクリレート、ドデシルアクリレート、ヘキサデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ボルニルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニロキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
(B)アクリレート類の配合量は、本発明の光硬化型導電性インク用組成物の総質量に対して、10〜16質量%とすることが好ましく、11〜14質量%とすることがより好ましい。10質量%未満では硬化性が低下する場合があり、16質量%を超えると作業性(印刷性)の不具合を生じる場合がある。
【0020】
(B)アクリレート類が、一官能のアクリレート類を含まず、四官能のアクリレート類、三官能のアクリレート類及び二官能のアクリレート類の組み合わせ、四官能のアクリレート類、二官能のアクリレート類、及び一官能のアクリレート類の組み合わせ、あるいは三官能のアクリレート類、二官能のアクリレート類、及び一官能のアクリレート類の組み合わせからなる場合、作業性(印刷性、粘度)の点からは、(B)アクリレート類の総質量に対して、四官能のアクリレート類あるいは三官能のアクリレート類は、2〜6質量%とすることが好ましく、3〜5質量%とすることがより好ましい。
また、(B)アクリレート類が、四官能のアクリレート類、三官能のアクリレート類、二官能のアクリレート類、及び一官能のアクリレート類で構成される場合、密着性・柔軟性の点からは、四官能のアクリレート類と三官能のアクリレート類の合計量は、(B)アクリレート類の総質量に対して、2〜6質量%とすることが好ましく、3〜5質量%とすることがより好ましい。
【0021】
(C)成分は導電性フィラーである。本発明の光硬化型導電性インク用組成物においては、(C)導電性フィラーの80質量%以上を、鱗片状、箔状、あるいはフレーク状であって、粒度分布(PSD)50%粒径が5μmを超える銀粉とする。(C)導電性フィラーの総質量の80質量%以上を占める銀粉において、上記形状以外の銀粉を採用した場合、十分な硬化性、導電性、流動性が得られなくなるおそれがある。また、粒度分布50%粒径が5μm以下であると、導電性インク用組成物の作製後に銀粉がすぐに凝集したり、粘度が上昇しやすくなるばかりか、光重合反応が不十分となり印刷後の密着性が低下する場合がある。(C)導電性フィラーの粒度分布50%粒径の上限は、通常12μm、特には8μmであることが好ましい。なお、前記粒度分布50%粒径は、たとえば、動的光散乱(DLS)、レーザー回折、沈殿法などのような、周知の方法で測定することができる。
【0022】
(C)導電性フィラーの銀粉としては、純銀粉、銀で表面被覆された金属粒子、またはこれらの混合物を用いることができる。銀粉の製造方法も特に制限されず、機械的粉砕法、還元法、電解法、気相法など任意である。銀で表面被覆された金属粒子は、銀以外の金属からなる粒子の表面に、メッキなどの方法により銀の被覆層を形成したものである。
【0023】
(C)導電性フィラーにおいて、80質量%以上を占める、鱗片状、箔状、あるいはフレーク状であって、粒度分布(PSD)50%粒径が5μmを超える銀粉と併用し得る他の導電性フィラーとしては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、金属やカーボンナノチューブなどが好ましい。金属としては、一般的な導体として扱われる金属の粉末は全て利用することができる。たとえば、ニッケル、銅、銀、金、アルミニウム、クロム、白金、パラジウム、タングステン、モリブデンなどの単体、これら2種以上の金属からなる合金、これら金属のコーティング品、あるいはこれら金属の化合物で良好な導電性を有するものなどが挙げられる。中でも、純銀の球状粉あるいは銀で表面被覆された球状金属粉を用いることが好ましい。
【0024】
(C)導電性フィラーの配合量は、本発明の光硬化型導電性インク用組成物の総質量に対して、77〜85質量%とする。77質量%未満であると、十分な導電性が得られなくなるおそれがあり、一方、85質量%を超えると、低粘度を維持することが困難となるおそれがある。本発明の光硬化型導電性インク用組成物においては、(C)導電性フィラーの配合量を従来の導電ペーストに比べて比較的多くして、かつ、粒度分布を後述するように規定したことによって、良好な導電性を達成した。
【0025】
(D)成分の光重合開始剤は、照射された紫外線等を吸収して、ラジカルを発生し光重合反応を開始させるものである。光励起によってラジカル重合を開始できる機能を有するものであれば特に限定はない。使用することができる光重合開始剤としては、分子開裂型のものとして、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ベンジル、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)―フェニルフォスフィンオキシド、2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどが例示され、水素引き抜き型のものとして、ベンジル、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、2−エチルアントラキノン、2,4−ジエチルチオキサントン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルスルフィドなどが例示される。
【0026】
本発明の光硬化型導電性インク用組成物には、少なくとも2種の光重合開始剤を用いる。光重合開始剤を2種以上併用することにより、良好な印刷性、印刷精度、高速印刷性を得ることができる。
前述した光重合開始剤のうち、好ましい光重合開始剤の組み合わせは、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)―フェニルフォスフィンオキシド、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、ベンゾフェノン、及び2,4−ジエチルチオキサントンから選択される少なくとも2種の組み合わせであり、これらの組み合わせによれば、特に良好な印刷性、印刷精度、高速印刷性を得ることが可能となる。
【0027】
(D)光重合開始剤の配合量は特に限定されないが、本発明の光硬化型導電性インク用組成物の総質量に対して、0.5〜3.0質量%とするのが好ましい。0.5質量%未満であると紫外線硬化型インクが未硬化となる場合があり、3.0質量%を超えると光重合開始剤の未反応物が硬化膜中に残存することになり、この未反応の残存物がさらに太陽や蛍光灯などの光を受けることで、硬化膜と反応し、硬化膜を劣化させる場合がある。
【0028】
光硬化反応系における酸素障害を減少させ、上記(D)光重合開始剤の開始反応を促進させるために増感剤を併用することも可能である。増感剤としては、たとえば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p−ジエチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N−ジメチルベンジルアミン、4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどが挙げられる。光重合開始剤と増感剤の配合量は本発明の効果を損なわない範囲とする。
【0029】
本発明の光硬化型導電性インク用組成物においては、(E)高分子分散剤を配合させることにより、(C)導電性フィラーの分散安定化を図ることができ、また、導電性インク用組成物の基材への密着性を向上させることができる。
【0030】
(E)高分子分散剤は、主鎖骨格(樹脂相溶性部分)と吸着基を構成要素とする。高分子分散剤の主鎖骨格は、特に制限はないが、ポリエーテル骨格、ポリウレタン骨格、ポリアクリレート骨格、ポリエステル骨格、ポリアミド骨格、ポリイミド骨格、ポリウレア骨格などが挙げられ、インク組成物の保存安定性の点で、ポリウレタン骨格、ポリアクリル骨格、ポリエステル骨格が好ましい。また、高分子分散剤の構造に関しても特に制限はなく、直鎖構造、ランダム構造、ブロック構造、くし型構造、スター型構造、ボール型構造などが挙げられる。保存安定性の点では、ブロック構造又はくし型構造が好ましい。
【0031】
高分子分散剤の吸着基についても特に制限はなく、たとえば、カルボキシル基、リン酸基、アミノ基が例示されるが、特にはカルボキシル基、リン酸基などの酸性の吸着基を有する高分子分散剤が好適である。
【0032】
(E)高分子分散剤としては、ビックケミー・ジャパン(株)社より上市されている湿潤分散剤DISPER BYKシリーズの101、102、103、106、108、109、110、111、112、116、130、140、142、145、161、162、163、164、166、167、168、170、171、174、180、182、183、184、185、190、191、194、2000、2001、2010、2015、2020、2050、2070、2096、2150、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)社より上市されているEFKAシリーズの4008、4009、4010、4015、4020、4046、4047、4050、4055、4060、4080、4300、4330、4340、4400、4401、4402、4403、4406、4800、5010、5044、5054、5055、5063、5064、5065、5066、5070、5244、日本ルーブリゾール(株)社より上市されているSolsperseシリーズの3000、11200、13240、13650、13940、16000、17000、18000、20000、21000、24000SC、24000GR、26000、28000、31845、32000、32500、32550、32600、33000、34750、35100、35200、36000、36600、37500、38500、39000、53095、54000、55000、56000、71000、楠本化成(株)社より上市されているDISPARLONシリーズの1210、1220、1831、1850、1860、2100、2150、2200、7004、KS−260、KS−273N、KS−860、KS−873N、PW−36、DN−900、DA−234、DA−325、DA−375、DA−550、DA−1200、DA−1401、DA−7301、味の素ファインテクノ(株)社より上市されているアジスパーシリーズのPB−711、PB−821、PB−822、PN−411、PA−111、エアープロダクツ(株)社より上市されているサーフィノールシリーズの104A、104C、104E、104H、104S、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、420、440、DF110D、DF110L、DF37、DF58、DF75、DF210、CT111、CT121、CT131、CT136、GA、TG、TGE、共栄社化学(株)社より上市されているフローレンシリーズのフローレンD90、フローレンG−700、フローレンDOPA−33、フローレンDOPA−15BHF、フローレンDOPA−17HF、フローレンNC−500、日信化学工業(株)社より上市されているオルフィンシリーズのSTG、E1004、サンノプコ(株)社より上市されているSNスパースシリーズの70、2120、2190、ADEKA(株)社より上市されているアデカコール及びアデカトールシリーズ、三洋化成工業(株)社より上市されているサンノニックシリーズ、ナロアクティーCLシリーズ、エマルミンシリーズ、ニューポールPEシリーズ、イオネットMシリーズ、イオネットDシリーズ、イオネットSシリーズ、イオネットTシリーズ、サンセパラー100、センカ(株)社より上市されているアンチホーム−4Bコンク、アンチホームKH、NFR−1000、EDP−S6R、ED−03、ロスビゲンD−10、GD−19R、KG−406Rが挙げられる。
【0033】
(E)高分子分散剤の配合量は特に限定されないが、本発明の光硬化型導電性インク用組成物の総質量に対して、0.01〜0.5質量%とするのが好ましい。上記範囲であると、印刷性、保存安定性に優れるインク組成物が得られる。
【0034】
本発明の光硬化型導電性インク用組成物には、上記の(A)〜(E)成分に加えて、必要により、重合禁止剤、安定剤、着色剤、染料、密着性付与剤、チキソ剤難燃剤、消泡剤などの添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することも可能である。なお、本発明の光硬化型導電性インク用組成物は、そのまま印刷できる粘度となっているが、粘度を調整する場合には適宜メジウムを配合すればよい。
【0035】
本発明の光硬化型導電性インク用組成物は、上記の(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(E)成分及びその他の成分を任意の順序で混合することにより得ることができる。混合は速やかに行うことが好ましい。また、着色剤を使用する場合には、均一性を損なわないようにさらによく撹拌を行なう。分散方法としては、二本ロール、三本ロール、サンドミル、ロールミル、ボールミル、コロイドミル、ジェットミル、ビーズミル、ニーダー、ホモジナイザーなどの方式を採用することができる。
【0036】
本発明の光硬化型導電性インク用組成物を硬化させるためのエネルギー線としては、紫外線、可視光、赤外線、電子線などが用いられるが、高速印刷を実現させるためには紫外線、電子線が好ましい。
【0037】
紫外線照射装置としては、通常200〜500nmの範囲の光を含む光源、たとえば、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライド灯、ガリウム灯、キセノン灯、カーボンアーク灯などを有するものが使用できる。一方、電子線により硬化させる場合、通常100〜500eVのエネルギーを有する電子線加速装置が使用できる。
【0038】
本発明の光硬化型導電性インク用組成物は、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷、あるいはバーコート法、ディップコート法、フローコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ローラーコート法、リバースコート、エアナイフなどといったあらゆる印刷、塗装に使用することが可能であり、塗布される基材の形状等に応じて適宜選択することができる。特に、従来フレキソ印刷においては、擦れが現れやすく、また、UVフレキソ印刷では、オゾンが発生し、硬化阻害が生じやすいという問題があるが、本発明の光硬化型導電性インク用組成物を用いることにより、これらの問題を見事に解決することができる。したがって、本発明の光硬化型導電性インク用組成物は、フレキソ印刷用として好適である。
【0039】
本発明の光硬化型導電性インク用組成物を適用する基材の材質は、該導電性インク用組成物が印刷できるものであれば限定されない。たとえば、ポリビニルクロライド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、熱収縮性ポリエステル、スチレン系樹脂、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリエーテルスルフォンなどが挙げられる。
【0040】
本発明の光硬化型導電性インク用組成物を用いて印刷する場合、印刷膜厚は印刷法によって異なるが、通常2〜15μm、好ましくは3〜12μmである。2〜15μmの範囲内であれば、基材との密着性が低下したりすることなく、十分な硬度を得ることができ、導通不可となるおそれも低い。
【0041】
本発明の光硬化型導電性インク用組成物の用途としては、たとえば、RFID、太陽電池回路、アンテナ、電磁波シールド、基盤回路、タッチパネル電極、電子回路、精密導体回路、EL回路、LED回路、メンブレン配線、GPSアンテナ、フレキシブル回路、ディスプレイ用配線、ICタグなどが挙げられる。また、本発明の光硬化型導電性インク用組成物は、各種基材、特に従来、導電性に優れる銀ペーストの利用が困難であった、熱処理できない食料品、飲料、薬剤、化粧品、個人ケア用品、写真フィルムなどを包装する包装体、薄膜、電極材料などに利用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0043】
[実施例1〜6、比較例1〜5]
(光硬化型導電性インク用組成物の作製)
表1に記載各材料を予備混練した後、三本ロールにて混練し、表1に示す組成の光硬化型導電性インク用組成物を作製した(各材料の数値は当該組成物の総質量に対する質量%を表す。)。使用した材料は下記のとおりである。
[導電性フィラー]
・フレーク状銀粉(粒度分布(PSD)50%粒径6.8μm、田中貴金属工業(株)製)
・フレーク状銀粉(粒度分布(PSD)50%粒径2.6μm、田中貴金属工業(株)製)
・球状銀粉(粒度分布(PSD)50%粒径1.3μm、田中貴金属工業(株)製)
[ウレタンアクリレート類のオリゴマー]
・ アロニックスM−1960(東亞合成(株)製、製品名)
[四官能のアクリレート類]
・ライトアクリレートDGE−4A(エチレンオキサイド変性ジグリセリンテトラアクリレート、共栄社化学(株)製、製品名)
[三官能のアクリレート類]
・アロニックスM−350(トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリアクリレート、東亞合成(株)製、製品名)
[二官能のアクリレート類]
・ライトアクリレート1.6HX−A(1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、共栄社化学(株)製、製品名)
・ライトアクリレート1.9ND−A(1,9−ノナンジオールジアクリレート、共栄社化学(株)製、製品名)
[一官能のアクリレート類]
・ライトアクリレートPO−A(フェノキシエチルアクリレート、共栄社化学(株)製、製品名)
・ライトエステルHOP−A(N)(2−ヒドロキシプロピルアクリレート、共栄社化学(株)製、製品名)
[光重合開始剤]
・イルガキュア500(イルガキュア184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、製品名)とベンゾフェノン(増感剤)との共融混合物、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)社製、製品名)
・イルガキュア819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)社製、製品名)
・イルガキュア907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)社製、製品名)
・カヤキュア DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン、日本化薬(株)社製、製品名)
[高分子分散剤]
・DisperBYK−111(酸性の吸着基を含む共重合体、ビックケミー・ジャパン(株)社製、製品名)
【0044】
(物性及び機能性の評価)
上記作製した光硬化型導電性インク用組成物について物性及び機能性の評価を行った。
[粘度及びTI値]
円錐型回転粘度計(HAAKE社製、Rheostress RS75、コーンプレート:チタン製 35mm、φ1°、ギャップ0.050mmにて測定)にて、測定温度25℃、シェアレート 0/sで30秒間保持後、シェアレート10/sで60秒間保持し、粘度を測定した。結果を表2に示す。
また、チクソトロピー指数(TI)値は、前記の粘度測定値と、同様にシェアレート1/sで測定された値から下記式にて算出した。結果を表2に示す。
TI値=(シェアレート10/sの粘度)÷(シェアレート1/sの粘度)
上記粘度の値が8以下であって、かつ、TI値が6以下であれば、フレキソ印刷において良好な印刷性、印刷精度を得やすい。
【0045】
[機能性評価]
UV硬化型フレキソ印刷機(RK Print Coat Instruments Ltd.UK、商品名フレキシプループ):アニロックスロール500線/インチでポリビニルクロライドフィルム又はPETフィルムに、幅500μmの導電回路パターンをフレキソ印刷し、光活性線としてUV(300mJ/cm)を用い20m/分の速度で照射し硬化させ、硬化後の膜厚、抵抗値、印刷性について評価した。
膜厚は膜厚測定器デジタルマイクロメーター(ミツトヨ株式会社製、商品名)で測定し、体積抵抗率は抵抗器ミリオームハイテスタ3540(製品名、HIOKI社製)を使用して測定した。また、印刷性は目視により、転写ミスや擦れの有無を確認し、有るものを不良、無いものを良好と評価した。結果を表2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
上記結果から、本発明の光硬化型導電性インク用組成物は、高速印刷であっても良好な印刷性、印刷精度を得ることができ、しかも安定した導電特性を示すことがわかった。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ウレタンアクリレート類のオリゴマー、
(B)四官能のアクリレート類、三官能のアクリレート類、二官能のアクリレート類、及び一官能のアクリレート類から選択される少なくとも3種のアクリレート類、
(C)導電性フィラー、
(D)2種以上の光重合開始剤、及び
(E)高分子分散剤、を含有する光硬化型導電性インク用組成物であって、
(C)導電性フィラーの配合量が、該光硬化型導電性インク用組成物の総質量に対して77〜85質量%であり、
(C)導電性フィラーの80質量%以上が、鱗片状、箔状、あるいはフレーク状であって、粒度分布50%粒径が5μmを超える銀粉であることを特徴とする光硬化型導電性インク用組成物。
【請求項2】
光硬化型導電性インク用組成物の総質量に対して、(A)ウレタンアクリレート類のオリゴマーの配合量が2〜5質量%、(D)光重合開始剤の配合量が0.5〜3.0質量%、(E)高分子分散剤の配合量が0.01〜0.5質量%である請求項1に記載の光硬化型導電性インク用組成物。
【請求項3】
(E)高分子分散剤が、酸性の吸着基を有する高分子分散剤である請求項1に記載の光硬化型導電性インク用組成物。
【請求項4】
(B)アクリレート類が、四官能のアクリレート類または三官能のアクリレート類の何れか一つ、二官能のアクリレート類、及び一官能のアクリレート類からなる請求項1に記載の光硬化型導電性インク用組成物。
【請求項5】
基材上に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光硬化型導電性インク用組成物を用いて印刷された包装体。

【公開番号】特開2013−95775(P2013−95775A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237159(P2011−237159)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【特許番号】特許第5043226号(P5043226)
【特許公報発行日】平成24年10月10日(2012.10.10)
【出願人】(509352945)田中貴金属工業株式会社 (99)
【Fターム(参考)】