説明

光硬化型樹脂組成物の製造方法

【課題】 広波長範囲で高い回折効率を発現する優れた光学特性を有しながら、実用上十分な散乱特性と形状保持特性を有する光学材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】 不飽和二重結合を有する官能基を少なくとも2つ以上有する多官能モノマーと不飽和二重結合を有する官能基を1つ有する単官能モノマーと光重合開始剤とインジウム錫酸化物微粒子を含有することを特徴とする光硬化型樹脂組成物を用いることにより、広波長範囲で高い回折効率を発現する優れた光学特性を有しながら、実用上十分な散乱特性と形状保持特性を有する光学材料およびその製造法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折光学素子及び回折光学素子等の光学素子に使用される光学材料の製造方法に関するものである。特に屈折率の波長分散性、2次分散性の優れた光硬化型樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より光の屈折のみによって構成される屈折光学系においては、屈折率の波長分散特性の異なる硝材を組み合わせることによって色収差を低減している。しかし、これはレンズの構成、枚数が制限される場合や使用される硝材が限られている場合などでは、色収差を十分に補正することが非常に困難となる場合がある。
【0003】
一方、SPIE Vol.1354 International Lens Design Conference(1990)には、レンズ面やあるいは光学系の一部に、回折格子を有する回折光学素子を用いることで色収差を減じる方法が開示されている。これは、光学素子としての屈折面と回折面とでは、ある基準波長の光線に対する色収差の発生する方向が、逆になるという物理現象を利用したものである。さらに、このような回折光学素子は、その回折格子の周期的構造の周期を変化させることで、非球面レンズと同等の効果を持たせることができる。そのため、色収差の低減に関して非常に大きな効果を有している。
【0004】
しかし、回折光学素子はその回折作用により入射した1本の光線が各次数の複数の光に分かれるため、回折光学素子の特長を充分に発揮させるためには、使用波長領域の光束を特定次数(以降設計次数と称す)に集中させなければならない。使用波長領域の光束が設計次数に集中している場合は、それ以外の回折次数の回折光強度は非常に低いものとなるため、設計次数以外の光線が設計次数の光線とは別な所に結像してしまうフレア光となる事はない。
【0005】
使用波長領域の光束を設計次数に集中させるためには、回折格子の格子構造と素子に用いられる材料の光学特性を最適に設計する必要がある。特開2004-78166号(特許文献1)、特開2004-145273号(特許文献2)では、光学系を複数の回折光学素子の組み合わせで構成しており、各光学素子の境界面に形成される格子の形状と各光学素子に用いられる材料の屈折率の波長分散および2次分散を最適に設計することで、広波長範囲で高い回折効率を有する回折光学素子が開示されている。
【0006】
用いられる光学材料に着目してみると、広い波長範囲で高い回折効率を有する回折光学素子を得るために、屈折率とその波長分散(νd)、更にその2次分散(θg,F)に着目し、最適とすることで広波長範囲での高い回折効率を実現しており、その最適な光学特性を具現化する光学材料として、バインダー(有機材料)中にインジウム錫酸化物(以降ITOと称す)微粒子等の無機微粒子を含有する光学材料が開示されている。
【特許文献1】特開2004-78166号公報
【特許文献2】特開2004-145273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の光学材料は広波長範囲で高い回折効率を発現する優れた光学特性を有しているが、撮像光学系に用いる光学材料として重要な特性である散乱率に関しては、詳細な記述が十分になされていない。撮像光学系において散乱光はフレアの原因となりコントラストを低下させる。
【0008】
有機材料中に屈折率の異なる無機微粒子を分散させてなる光学材料の場合、微粒子の分散状態により散乱特性は大きく変化する。可視光領域内での光散乱を抑えるためには無機微粒子の粒径を100nm以下に制御する必要があるため、無機微粒子を凝集させずに均一に分散させる必要がある。分散状態はマトリックスとなるバインダー(有機材料)と無機微粒子、更に分散溶媒や分散剤の分子構造や表面状態により大きく変化するが、全てにおいて同種の材料を用いた場合においても、その光学材料の製造方法に大きく影響を受ける。
【0009】
さらに、無機微粒子を均一に分散させる為に用いられる分散溶媒は、分散性を向上させ、樹脂との相溶を容易とするが、光学素子成形体中に残存した場合、揮散等により成形体の光学特性の変化や体積収縮を引き起こす要因となる。高い回折効率を発現するためには、用いられる光学材料の光学特性や散乱特性の他に、格子を所望の形状に正確に保持する特性も重要となるため、光学材料を製造する際に実用上十分な程度まで分散溶媒を除去する必要がある。
【0010】
以上の課題を解決する為に、本発明は広波長範囲で高い回折効率を発現する優れた光学特性を有しながら、実用上十分な散乱特性と形状保持特性を有する光学材料の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、つぎの(1)〜(5)示す光学材料の製造法を提供するものである。
【0012】
(1)不飽和二重結合を有する官能基を少なくとも2つ以上有する多官能モノマーと不飽和二重結合を有する官能基を1つ有する単官能モノマーと光重合開始剤とインジウム錫酸化物微粒子を含有することを特徴とする光硬化型樹脂組成物の製造方法。
【0013】
(2)不飽和二重結合を有する官能基を少なくとも2つ以上有するオリゴマー成分と、不飽和二重結合を有する官能基を少なくとも2つ以上有する多官能モノマーと不飽和二重結合を有する官能基を1つ有する単官能モノマーと光重合開始剤とインジウム錫酸化物微粒子を含有することを特徴とする光硬化型樹脂組成物の製造方法。
【0014】
(3)オリゴマー成分の数平均分子量が1000から5000であることを特徴とする(2)記載の光硬化型樹脂組成物の製造方法。
【0015】
(4)光硬化型樹脂組成物中に占めるオリゴマー成分の重量比が有機成分中30重量パーセント以下であることを特徴とする(2)から(3)記載の光硬化型樹脂組成物の製造方法。
【0016】
(5)インジウム錫酸化物微粒子の粒子径が1から100nmであることを特徴とする(1)から(4)記載の光硬化型樹脂組成物の製造方法。
【0017】
バインダーは所望の光学特性、散乱特性、形状特性、成形性を満足するものであれば特に限定されるものではないが、成形時に光、特に紫外線により硬化する光硬化性樹脂組成物は、成形時に熱処理を施す必要がある熱可塑性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物と比較して成形時の熱履歴による樹脂の光学特性の低下や熱収縮による寸法変化が少ないためより好適である。
【0018】
不飽和二重結合を有する官能基を少なくとも2つ以上有する多官能モノマーとしては不飽和二重結合として(メタ)アクリレート基やビニル基等を2つ以上分子内に有している化合物であり、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビス((メタ)アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンベンゾエート(メタ)アクリレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、アジピン酸ジビニル、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート等の1種または2種以上を用いることができる。
【0019】
多官能モノマーは本発明の樹脂組成物を所望の回折面および屈折面を有する金型に流延し光硬化した際に、本発明の樹脂組成物成形体の形状経時変化を抑制させると共に、表面硬度を高くする。特に回折光学素子として本発明の樹脂組成物成形体を用いる場合、回折格子の高さや回折面形状は高い回折効率の発現の為に重要な要素となる。そのため本発明の樹脂組成物成形体は所望の設計値に対して正確な形状を有し、かつ経時変化、特に温度、湿度の影響によらずその形状を正確に保持する必要がある。具体的には回折格子の高さは所望の設計値に対して±0.5%程度の誤差範囲内に維持しなければならない。
【0020】
本発明者が鋭意検討した結果、前述の多官能モノマーを樹脂組成物中に用い、その含有量を本発明の光硬化型樹脂組成物の有機成分中20〜70wt%、更には30〜60wt%とすることで成形体の形状経時変化を抑制できることを見出した。
【0021】
不飽和二重結合を有する官能基を1つ有する単官能モノマーとしては不飽和二重結合として(メタ)アクリレート基やビニル基等を分子内に1つ有している化合物であり、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルフォリン、ジメチルアミノエチルジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタレート、2-(メタ)アクリロイロキシプロピルフタレート、ネオペンチルグリコールベンゾエート(メタ)アクリレート、α-ナフチル(メタ)アクリレート、β-ナフチル(メタ)アクリレート、イミドアクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、1-ビニルイミダゾール、ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、N-ビニルフタルイミド等の1種または2種以上を用いることができる。
【0022】
単官能モノマーは、本発明の樹脂組成物の各波長における屈折率を調整し、かつ粘度を適度なものとする。本発明の樹脂組成物はITO微粒子の導入により屈折率とその波長分散(νd)、更にその2次分散(θg,F)を有機物では得られない値とすることができる。しかしながら更に屈折率、波長分散(νd)、2次分散(θg,F)を調整する必要がある場合、適当な単官能モノマーを用いることで所望の屈折率、波長分散(νd)、2次分散(θg,F)が得られる。
【0023】
また、一般に樹脂に添加する微粒子の導入量が大きくなると、当該樹脂粘度は増加する傾向にある。粘度の上昇は成形性、特に金型に樹脂を流延する際の展開性を低下させる。展開性を十分に確保する為に要求される粘度は、金型の形状、成形体の厚さ等の成形体の形状や成形条件に依存するが、一般に約50,000mPa・s以下であることが望まれる。
【0024】
本発明者が鋭意検討した結果、前述の単官能モノマーを樹脂組成物中に用い、その含有量を本発明の光硬化型樹脂組成物の有機成分中15〜65wt%、更には25〜55wt%とすることで所望の屈折率、波長分散(νd)、2次分散(θg,F)、樹脂粘度が得られることを見出した。
【0025】
光重合開始剤としては、例えばベンジルジメチルケタール類、α-ヒドロキシケトン類、アミノケトン類、アセトフェノンおよびその誘導体、ベンゾフェノンおよびその誘導体、ベンゾインおよびその誘導体、オキシム系化合物等から選択された1種または2種以上を用いることができる。これらのうち、特に2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等が好ましい。
【0026】
ITO微粒子は、有機物では得られない屈折率とその波長分散(νd)、更にその2次分散(θg,F)を付与することができる。ただしITO微粒子添加による光散乱を実用上十分に低減する必要があるため粒径は1から100nmであることがより好ましい。
【0027】
オリゴマーとしてはアクリル系、(不飽和)ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系アクリレート化合物等から選択された1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
オリゴマーは本発明の光硬化型樹脂組成物に効果時の低収縮性を付与し、本発明の光硬化型樹脂組成物成形体を強靭なものとする。オリゴマーの数平均分子量は1000〜5000であることが好ましく、数平均分子量が1000よりも小さいと、硬化時の収縮量が大きく、成形体の形状精度が低下する。また、5000よりも大きいと本発明の光硬化型樹脂組成物の粘度が著しく増大してしまい、金型に本発明の光硬化型樹脂組成物を流延することが困難となる。同様に本発明の光硬化型樹脂組成物中に占めるオリゴマー成分の重量比が有機成分中30重量%以上となった場合も粘度の著しい増大により成形性が低下する。
【0029】
本発明の光硬化型樹脂組成物には、必要に応じて公知の重合促進剤、重合禁止剤、分散剤、消泡剤、レベリング剤、離型剤等を添加することもできる。
【0030】
本発明の光硬化型樹脂組成物の製造方法は、ITO微粒子、分散溶媒、分散剤からなるITO分散液中にバインダー樹脂を溶解する溶解工程と、その後分散溶媒を除去する溶媒除去工程からなる。
【0031】
バインダー樹脂を分散液に溶解させる際は、あらかじめ所望の量を採取した分散液を攪拌しながら、バインダー樹脂を所望量、ゆっくり添加し溶解する必要がある。攪拌を行わなかったり、一度に大量のバインダー樹脂を添加した場合、分散液中で大きな濃度ムラが生じ、分散液中の微粒子が凝集する可能性がある。
【0032】
分散溶媒の除去は、減圧下で過熱することにより行われるが、その際微粒子の凝集、バインダー成分の揮散、バインダー成分の高分子量化や熱分解を抑制するために、処理温度、処理圧力、処理時間を正確に制御する必要がある。
【0033】
より具体的には、処理温度は除去する分散溶媒種にも依存するが、バインダーの熱重合や熱分解を抑制するために、90℃以下より好ましくは60℃以下とする必要がある。処理圧力はバインダー成分の揮散や残留溶媒の突沸に注意しながら制御する必要があるため大気圧から1hPa、より好ましくは大気圧から2hPaまで徐々に低下させていく必要がある。処理時間は処理量と残留可能な溶媒量に依存する。本発明者らが鋭意検討した結果、残留可能な溶媒量は成形後の形状保持特性より決定することができ、形状保持のひとつの指標である回折格子の高さは所望の設計値に対して±0.5%程度の誤差範囲内に維持しなければならない。そのため、残留可能な溶媒量としては本発明の光硬化型樹脂組成物中0.3wt%以下、より好ましくは0.2wt%以下である必要がある。したがって、適宜重量変化を測定することにより残留溶媒量を確認しながら処理時間を決定していくことが有効である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、広波長範囲で高い回折効率を発現する優れた光学特性を有しながら、実用上十分な散乱特性と形状保持特性を有する光学材料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に本発明の実施例を挙げ、具体的に説明する。
【実施例1】
【0036】
ITO重量に対して20重量%の分散剤を含有する平均粒径10nmのITO微粒子5重量%を分散させたトルエン溶液375.14gをマグネティックスターラーにより攪拌しながら、ペンタエリスリトールテトラアクリレート10.99g、シクロヘキシルアクリレート15.12g、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン1.37gの樹脂混合物を約15分間かけて徐々に添加し、その後約15分間攪拌を続けトルエン溶液中に完全に溶解させた。その後ロータリーエバポレーターを用いて48時間で大気圧から2hPsまで圧力を低下させながらトルエンを留去した。その時の水浴温は50℃とし、留去されたトルエンは適宜系内から取り除いた。以上の操作により得られた光硬化型樹脂組成物は、以下に示す手法により残留溶媒量と光散乱率を測定した。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0037】
ITO重量に対して20重量%の分散剤を含有する平均粒径30nmのITO微粒子5重量%を分散させたメチルイソブチルケトン溶液488.10gをマグネティックスターラーにより攪拌しながら、エチレングリコールジメタクリレート3.11g、トリメチロールプロパントリアクリレート9.32g、ジシクロペンタニルアクリレート7.25g、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン1.04gの樹脂混合物を約15分間かけて徐々に添加し、その後約15分間攪拌を続けメチルイソブチルケトン溶液中に完全に溶解させた。その後ロータリーエバポレーターを用いて64時間で大気圧から2hPsまで圧力を低下させながらメチルイソブチルケトンを留去した。その時の水浴温は60℃とし、留去されたメチルイソブチルケトンは適宜系内から取り除いた。以上の操作により得られた光硬化型樹脂組成物は、以下に示す手法により残留溶媒量と光散乱率を測定した。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0038】
ITO重量に対して15重量%の分散剤を含有する平均粒径80nmのITO微粒子10重量%を分散させたトルエン溶液25.88gをマグネティックスターラーにより攪拌しながら、数平均分子量約3,000の日本化薬株式会社製ウレタンアクリレート カヤラッド(登録商標)UX-4101 9.40g、ネオペンチルグリコールジメタクリレート7.05g、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート7.05g、イソブチルメタクリレート21.16g、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.35gの樹脂混合物を約25分間かけて徐々に添加し、その後約25分間攪拌を続けトルエン溶液中に完全に溶解させた。その後ロータリーエバポレーターを用いて32時間で大気圧から2hPsまで圧力を低下させながらトルエンを留去した。その時の水浴温は50℃とし、留去されたトルエンは適宜系内から取り除いた。以上の操作により得られた光硬化型樹脂組成物は、以下に示す手法により残留溶媒量と光散乱率を測定した。結果を表1に示す。
【実施例4】
【0039】
ITO重量に対して15重量%の分散剤を含有する平均粒径10nmのITO微粒子10重量%を分散させたキシレン溶液244.05gをマグネティックスターラーにより攪拌しながら、数平均分子量約1,000の日立化成工業株式会社製ポリエステルアクリレート ヒタロイド(登録商標)7841 3.29g、トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート4.39g、ペンタエリスリトールトリアクリレート5.48g、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート7.68g、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン1.10gの樹脂混合物を約15分間かけて徐々に添加し、その後約15分間攪拌を続けキシレン溶液中に完全に溶解させた。その後ロータリーエバポレーターを用いて72時間で大気圧から2hPsまで圧力を低下させながらキシレンを留去した。その時の水浴温は50℃とし、留去されたキシレンは適宜系内から取り除いた。以上の操作により得られた光硬化型樹脂組成物は、以下に示す手法により残留溶媒量と光散乱率を測定した。結果を表1に示す。
【実施例5】
【0040】
ITO重量に対して15重量%の分散剤を含有する平均粒径30nmのITO微粒子10重量%を分散させたトルエン溶液187.57gをマグネティックスターラーにより攪拌しながら、ペンタエリスリトールテトラアクリレート11.37g、N-ビニルカプロラクタム4.26g、イソボルニルメタクリレート11.37g、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン1.42gの樹脂混合物を約15分間かけて徐々に添加し、その後約15分間攪拌を続けトルエン溶液中に完全に溶解させた。その後ロータリーエバポレーターを用いて28時間で大気圧から2hPsまで圧力を低下させながらトルエンを留去した。その時の水浴温は50℃とし、留去されたトルエンは適宜系内から取り除いた。以上の操作により得られた光硬化型樹脂組成物は、以下に示す手法により残留溶媒量と光散乱率を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
(比較例1)
ITO重量に対して20重量%の分散剤を含有する平均粒径10nmのITO微粒子5重量%を分散させたトルエン溶液375.14g中に、ペンタエリスリトールテトラアクリレート10.99g、シクロヘキシルアクリレート15.12g、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン1.37gの樹脂混合物を一度に添加した。その後ロータリーエバポレーターを用いて48時間で大気圧から2hPsまで圧力を低下させながらトルエンを留去した。その時の水浴温は50℃とし、留去されたトルエンは適宜系内から取り除いた。以上の操作により得られた光硬化型樹脂組成物は、以下に示す手法により残留溶媒量と光散乱率を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
(比較例2)
ITO重量に対して20重量%の分散剤を含有する平均粒径10nmのITO微粒子5重量%を分散させたトルエン溶液375.14gをマグネティックスターラーにより攪拌しながら、ペンタエリスリトールテトラアクリレート10.99g、シクロヘキシルアクリレート15.12g、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン1.37gの樹脂混合物を約15分間かけて徐々に添加し、その後約15分間攪拌を続けトルエン溶液中に完全に溶解させた。その後ロータリーエバポレーターを用いて6時間で大気圧から2hPsまで圧力を低下させながらトルエンを留去した。その時の水浴温は50℃とし、留去されたトルエンは適宜系内から取り除いた。以上の操作により得られた光硬化型樹脂組成物は、以下に示す手法により残留溶媒量と光散乱率を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
(比較例3)
ITO重量に対して20重量%の分散剤を含有する平均粒径10nmのITO微粒子5重量%を分散させたトルエン溶液375.14gをマグネティックスターラーにより攪拌しながら、ペンタエリスリトールテトラアクリレート10.99g、シクロヘキシルアクリレート15.12g、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン1.37gの樹脂混合物を約15分間かけて徐々に添加し、その後約15分間攪拌を続けトルエン溶液中に完全に溶解させた。その後ロータリーエバポレーターを用いて48時間で大気圧から2hPsまで圧力を低下させながらトルエンを留去した。その時の水浴温は50℃から110℃に徐々に上昇させ、留去されたトルエンは適宜系内から取り除いた。以上の操作により得られた光硬化型樹脂組成物は、ゲル状となった。
【0044】
(残留溶媒量の測定)
残留溶媒量は、得られた光硬化型樹脂組成物の重量と光硬化型樹脂組成物の各構成成分の仕込み重量から分散溶媒重量を除いた重量より算出した。
【0045】
(散乱率の測定)
得られた光硬化型樹脂組成物を、2枚の互いに並行に対向させたOHRA株式会社製ガラスS-BSL7間に厚さ約10μmとなるように展開し、HOYA CANDEO OPTRONICS株式会社製スポットUV光源装置EXECURE(登録商標)3000を用いて照射量3,000mJ/cm2で光硬化した後、一方のガラス基板を剥離し散乱率測定用サンプルを得た。得られたサンプルは積分球を備えた株式会社日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U-4000を用いて、硬化させた樹脂側から光を入射することにより散乱率を測定した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1は各実施例および比較例により得られた光硬化型樹脂組成物の残留溶媒量と、散乱率の評価結果である。
【0048】
残留溶媒量は実施例1〜5および比較例1において良好な値を示したが、比較例2は分散溶媒の除去時間が少ないため0.3wt%以上の残留溶媒量であった。
【0049】
散乱率は用いる光学系およびその素子厚により要求特性が変化する為に一概に評価することは難しいが、一般に10μmの膜厚で1%以下であることが望まれる。実施例1〜5において、散乱率は1%以下の良好な値を示したが、比較例1では樹脂成分の添加時に微粒子の凝集が起こった為に、1%を超える散乱率となったものと思われる。また、比較例2では分散溶媒除去の工程が短時間であった為、急速に分散溶媒が除去され微粒子凝集した為、1%を超える散乱率となったものと思われる。
【0050】
なお、比較例3は光硬化型樹脂組成物がゲル状となった為、実用上不適と判断した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和二重結合を有する官能基を少なくとも2つ以上有する多官能モノマーと不飽和二重結合を有する官能基を1つ有する単官能モノマーと光重合開始剤とインジウム錫酸化物微粒子を含有することを特徴とする光硬化型樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
不飽和二重結合を有する官能基を少なくとも2つ以上有するオリゴマー成分と、不飽和二重結合を有する官能基を少なくとも2つ以上有する多官能モノマーと不飽和二重結合を有する官能基を1つ有する単官能モノマーと光重合開始剤とインジウム錫酸化物微粒子を含有することを特徴とする光硬化型樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
オリゴマー成分の数平均分子量が1000から5000であることを特徴とする請求項2記載の光硬化型樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
光硬化型樹脂組成物中に占めるオリゴマー成分の重量比が有機成分中30重量パーセント以下であることを特徴とする請求項2から3記載の光硬化型樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
インジウム錫酸化物微粒子の粒子径が1から100nmであることを特徴とする請求項1から4記載の光硬化型樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−342254(P2006−342254A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169438(P2005−169438)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】