説明

光硬化性オルガノポリシロキサン組成物

【課題】ポットライフと硬化特性のコントロールが自由に決定でき、かつ黄変が抑制され、LED用及び光学レンズ用に適した硬化物を与える、光硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】(A)(A1)SiO4/2単位及びRSiO1/2単位からなり、1分子当たり、少なくとも3個のアルケニル基が結合している分岐状オルガノポリシロキサンと、(A2)ケイ素原子に、1分子当たり、少なくとも2個のアルケニル基が結合している直鎖状オルガノポリシロキサンとからなるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン;(B)SiO4/2単位及びR(CHSiO1/2単位からなり、1分子当たり、少なくとも3個のRが水素原子である、ポリアルキルハイドロジェンシロキサン;並びに(C)(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金を含む光硬化性オルガノポリシロキサン組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関し、特に、硬化して、発光ダイオード(以下、LEDという)の封止材、レンズなどの光学的用途に適した硬化物を与えるオルガノポリシロキサン組成物に関する。また、本発明は、このようなオルガノポリシロキサン組成物を硬化させて得られる硬化物、特に光学用及びLED用に好適な硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂及びシリコーンゴムは、その中間の物性を示すポリマーを含め、耐熱性、耐寒性、電気絶縁性などに加えて、透明なものが得られるため、各種の光学用途に用いられている。特に、LEDの封止、保護、レンズなどの用途に、硬化して、高い硬さを有し、透明な硬化物を与えるオルガノポリシロキサン組成物が有用である。
【0003】
特許文献1には、白金触媒を含有する、オルガノポリシロキサン組成物が記載されている。この組成物は加熱により硬化物を与えるが、短時間において高い硬度を達成させることは困難である。また、組成物を調製した直後から白金触媒が活性を有するために、ポットライフを確保するには、硬化遅延剤を添加しなければならず、望まれた使用場所及び使用時期において組成物が適切な硬化性を発揮させるためには、製造ラインの制御が必要となるという問題が存在する。
【0004】
特許文献2には、シクロペンタジエニル(Cp)基に、芳香族置換基を有するシクロペンタジエニル白金化合物を用いた光照射硬化性シリコーン組成物が記載されている。しかしながら、未硬化のシリコーン配合物の保存安定性や硬化特性が充分ではなかった。
【0005】
特許文献3には、ヒドロシリル化触媒として光活性型白金錯体を用いた、照射硬化性シリコーン組成物が記載されている。しかしながら、その組成物から得られる硬化物は柔軟なゲルである。
【特許文献1】特開2006−335857号公報
【特許文献2】特開2001−89491号公報
【特許文献3】特開2003−213132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ポットライフと硬化特性のコントロールが自由に決定でき、かつ黄変が抑制され、LED用及び光学レンズ用に適した硬化物を与える、光硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することである。本発明のもう一つの目的は、上記の特性を有し、LEDの封止材及び光学レンズに適した硬化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために研究を重ねた結果、硬化触媒として、光活性触媒能を有する(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金を用い、ベースポリマーとして、分岐状オルガノポリシロキサンと、場合によって、直鎖状オルガノポリシロキサンとからなる、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、架橋剤として、ポリアルキルハイドロジェンシロキサンを用いることにより、その課題を達成しうることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(A)(A1)SiO4/2単位及びRSiO1/2単位、並びに場合によってはさらにRSiO単位及び/又はRSiO3/2単位(式中、Rは、それぞれ独立して、1価の非置換又は置換の炭化水素基を表す)からなり、1分子当たり、少なくとも3個のRがアルケニル基である、分岐状オルガノポリシロキサンと、
場合によって、(A2)ケイ素原子に、R(Rは、上記のとおりである)が結合しており、1分子当たり、少なくとも2個のRがアルケニル基である、直鎖状オルガノポリシロキサンと、
からなる、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン;
(B)SiO4/2単位及びR(CHSiO1/2単位(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す)からなり、1分子当たり、少なくとも3個のRが水素原子である、ポリアルキルハイドロジェンシロキサン;並びに
(C)(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金
を含む光硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、上記の光硬化性ポリシロキサン組成物を硬化させて得られる、LEDの封止材及び光学レンズに適した透明な硬化物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、硬化触媒である(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金をUV光の照射により活性化しなければ硬化反応が進行しないため、ポットライフ(貯蔵安定性)に優れている。さらに、本発明の硬化触媒は光により活性化されることから、熱への曝露によって生じる硬化物の黄変が限定的であり、耐熱性に優れたLEDの封止材及び光学レンズに適した硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の光硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、(A)ベースポリマー、(B)架橋剤及び(C)硬化触媒としての(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金を含み、UV光の照射をすると硬化触媒である(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金が活性化し、(A)のアルケニル基と(B)のケイ素−水素結合との間の付加反応(ヒドロシリル化反応)を促進して、硬化物を与える。
【0012】
本発明の組成物においては、(A)として、(A1)分岐状オルガノポリシロキサンと、場合によって、(A2)直鎖状オルガノポリシロキサンを用いる。
【0013】
(A)として、(A1)を用いることにより、硬化した組成物に優れた機械的強度を付与することができる。(A1)は、SiO4/2単位及びRSiO1/2単位、並びに場合によってはさらにRSiO及び/又はRSiO3/2単位(式中、Rは、それぞれ独立して、非置換又は置換の1価の炭化水素基である)からなり、特に硬化反応において架橋点となるように、1分子当たり、少なくとも3個のRがアルケニル基である、分岐状オルガノポリシロキサンである。硬化した組成物に、優れた機械的強度を与えるには、RSiO1/2単位とSiO4/2単位の比率は、モル比として、1:0.8〜1:3の範囲の、常温で固体ないし粘稠な半固体の樹脂状のものが好ましい。
【0014】
Rがアルケニル基の場合、ビニル、アリル、3−ブテニル、5−ヘキセニルなどが例示され、合成が容易で、また硬化前の組成物の流動性や、硬化後の組成物の耐熱性を損ねないという点から、ビニル基が最も好ましい。
【0015】
アルケニル基は、RSiO1/2単位のRとして存在してもよく、存在する場合には、RSiO単位又はRSiO3/2単位のRとして存在してもよいが、室温で速い硬化を得るためには、RSiO1/2単位に存在することが好ましい。
【0016】
アルケニル基以外のRとしては、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を含まない、非置換又は置換の1価の炭化水素基が挙げられ、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシルのようなアルキル基;シクロヘキシルのようなシクロアルキル基;フェニルのようなアリール基;2−フェニルエチル、2−フェニルプロピルのようなアラルキル基;クロロメチル、クロロフェニル、2−シアノエチル、3,3,3−トリフルオロプロピルのようなハロゲン又はシアノによって置換された1価の炭化水素基が例示される。耐熱性を考慮すると、メチル基が好ましい。
【0017】
本発明において、(A1)は、通常の製造方法による共加水分解と重縮合の後に、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリ性物質の水溶液を用いて処理した後、常法により中和するか、水分を除去した後、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンで処理して、原料等に由来するケイ素原子に結合した水酸基又はアルコキシ基を実質的に含まないようにすることができる。
【0018】
本発明においては、(A1)とともに、(A2)を本発明の組成物のベースポリマーとして用いることが好ましい。(A2)は、ケイ素原子に、それぞれ独立して、R(Rは、上記のとおりである)が結合しており、1分子当たり、少なくとも2個のRがアルケニル基である、直鎖状オルガノポリシロキサンである。(A2)は、実質的に直鎖状であればよく、若干の分岐が存在してもよい。
【0019】
(A2)は、末端基として、ジメチルビニルシロキシ基、トリメチルシリル基のようなRSiO1/2基を導入して、ケイ素原子に結合した水酸基又はアルコキシを実質的に含まないようにすることができ、また、(A1)と同様にアルカリ処理、シリル化処理をすることにより、これらを実質的に含まないようにすることができる。
【0020】
(A2)についてのRの例示及び好ましい基は、(A1)についてと同様である。なお、アルケニル基であるRは、(A2)の分子鎖の末端又は途中のいずれに存在してもよく、その両方に存在してもよいが、硬化後の組成物に優れた機械的性質を与えるためには、少なくともその両末端に存在していることが好ましい。
【0021】
(A2)の粘度は、未硬化状態の組成物が、良好な流動性と、優れた作業性を有し、硬化後の組成物が、優れた機械的強度及び適度の硬さを有するために、23℃における粘度が0.01〜1000Pa・sであることが好ましく、より好ましくは0.1〜100Pa・sである。なお、粘度は、JIS K6249 7.1項回転粘度による方法に準拠して測定した値である。
【0022】
(A2)は、代表的には一般式(II):
(R(RSiO(4−a−b)/2(II)
(式中、
は、アルケニル基を表し;
は、脂肪族不飽和炭素−炭素結合を含まない、非置換又は置換の1価の炭化水素基を表し;
aは、1又は2であり、好ましくは1であり;
bは0〜2の整数であり、ただし、a+bは2又は3である)で示されるアルケニル基含有シロキサン単位を、分子中に少なくとも2個有する、直鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0023】
の例示及び好ましい基は、前述の(A1)のアルケニル基であるRについてと同様であり、Rの例示及び好ましい基は、前述の(A)のアルケニル基以外であるRについてと同様である。
【0024】
(A)中の(A1)と(A2)の割合は、好ましくは、(A)100重量%中、(A1)が50〜100重量%、(A2)が50〜0重量%である。このような範囲とすることにより、(B)と相溶して均一な組成物を形成し、かつ硬化物に優れた機械的性質、特にLED用及びレンズ用の硬化物として必要な硬さと、低い線膨張率を付与することができる。より好ましくは(A1)が60〜100重量%であり、(A2)が0〜40重量%である。
【0025】
(B)は、分子中にSi−H結合を有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンであって、該Si−H結合と(A)ベースポリマーのアルケニル基との間のヒドロシリル化反応によって硬化物を与える架橋剤として寄与する。(A)と相溶して均質な組成物を形成し、かつ硬化物に高い架橋密度を与え、それによって硬化物に高い硬度を付与することから、SiO4/2単位とR(CHSiO1/2単位(式中、Rは、前述のとおりである)からなる分岐状ポリメチルハイドロジェンシロキサンが選択され、取扱いやすい適切な粘度を有しつつ、上記の目的を達成できることから、R(CHSiO1/2単位とSiO4/2単位の比率は、SiO単位1モルに対してR(CHSiO1/2単位1.5〜2.2モルが好ましく、1.8〜2.1モルがさらに好ましい。分子中に、原料等に由来するケイ素原子に結合した水酸基又はアルコキシ基が実質的に含まれないようにするためには、好ましくは1.9〜2.2モル、より好ましくは2.0〜2.1モルとすることができる。典型的には、[R(CHSiO1/2[SiO4/2又は[R(CHSiO1/210[SiO4/2のように、4〜5個のQ単位が環状シロキサン骨格を形成し、各Q単位に2個のM単位及び/又はM単位(ただし、分子中に少なくとも3個はM単位)が結合しているものが、特に好ましい。
【0026】
(B)中のRに含まれる、ケイ素原子に直接結合した水素原子の数は、(B)全体として、平均1分子当たり3個以上である。平均3個未満では、必要な硬さの硬化物を得るために充分な架橋密度が得られない。Rの残余は、合成が容易で、耐熱性をはじめとするシロキサンの特徴をバランスよく付与することから、メチル基である。
【0027】
(B)の量は、(A)に存在するアルケニル基1個に対するケイ素原子に結合した水素原子の数の比(H/Vi)は、0.5〜2.0になる量、好ましくは0.7〜1.8になる量である。この範囲であれば、硬化物中に残存するSi−H結合の数が抑制され、充分な物理的性質を有する硬化物が得られる。
【0028】
本発明で用いられる(C)の(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金は、UV光の照射により活性化され、(A)のアルケニル基と(B)のヒドロシリル基との間の付加反応を促進する光活性を有する硬化触媒である。
【0029】
(C)の配合量は、(A)成分および(B)成分の合計量に対する白金金属原子換算で、通常0.1〜1000ppm、例えば0.1〜100ppmである。この範囲であると組成物の優れた硬化速度が得られる。優れた耐熱性を得るためには、好ましくは0.5〜50ppmであり、より好ましくは1〜8ppmである。
【0030】
さらに、本発明の組成物には、硬化物の硬さや透明性などの本発明の目的を損なわないかぎり、必要に応じて、オクタン酸セリウムに代表されるセリウム化合物のような無色の耐熱性向上剤など、各種の添加剤を配合してもよい。また用途によっては、本発明の組成物を、トルエン、キシレンのような有機溶媒に溶解ないし分散させて用いてもよい。
【0031】
本発明の組成物は、(A)〜(C)、及びさらに必要に応じて配合される他の成分を、万能混練機、ニーダーなどの混合手段によって均一に混練して調製することができる。なお、(A1)のうち固体又は粘度の極度に高いものは、取扱いを容易にするために、共加水分解をトルエン、キシレンなどの有機溶媒の存在下に行い、以後の工程を有機溶媒溶液として進め、場合により(A2)と混合した後、減圧加熱により溶媒を留去して、(A)を形成させてもよい。また、(B)成分と(C)成分を別途の容器に保存し、たとえば(A)成分の一部および(C)成分を含む主剤部と、(A)成分の残部および(B)成分を含む硬化剤部を、それぞれ別の容器に保存しておき、使用直前に混合し、減圧で脱泡して使用に供してもよい。
【0032】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物を、使用すべき部位に注入、滴下、流延、注型、容器からの押出しなどの方法により、又はトランスファー成形や射出成形による一体成形によって、LEDのような対象物と組み合わせる。次いで、UV光を照射してオルガノポリシロキサン組成物を硬化させることにより、硬化物を得ることができる。なお、UV光の照射後において、硬化を促進させるために加熱してもよい。例えば、100〜200℃で10〜60分間加熱することができる。
【0033】
本発明の硬化触媒を用いることにより、ポットライフが優れ、硬化の開始時期をUV光の照射のみによって自由に設定することができる。組成物を調製した直後から触媒活性を有する硬化触媒を用いたオルガノポリシロキサン組成物では、大きな対象物に対して封止作業を行う際に、作業中に硬化反応が進行してしまい、均一な強度及び封止を達成することが困難であるが、本発明においては、対象物と組み合わせた後にUV光を照射して硬化を開始させることができるため、そのような問題を回避することができる。
【0034】
本発明において、ポットライフとは、オルガノポリシロキサン組成物が使用可能な液体状態を保つことができる作業性の指標であり、23℃において、すべての構成成分を配合してから、その粘度が配合直後の2倍になるまでの時間をいう。
【0035】
本発明において、(C)硬化触媒の(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金を活性化させるために、UV光を照射する。照射する光の波長は、200nm〜400nm、好ましくは250nm〜400nmとすることができ、照射エネルギーは、積算光量として100mJ/cm〜100,000mJ/cmとすることができる。本発明で用いられる光源としては、UV光を発生する装置であればよく、例えば超高圧水銀灯、キセノンランプ、水銀キセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、中圧水銀灯、低圧水銀灯などを挙げることができる。これら複数の光源を組み合わせてもよい。
【0036】
本発明の組成物の硬化物は、JIS K6253のタイプAデュロメータによる硬さが、通常、80以上であり、好ましくは88以上とすることができ、JIS K6253のタイプDデュロメータによる硬さが、通常、30以上であり、好ましくは40以上とすることができる。このため、本発明の組成物の硬化物は、機械的強度があり、表面に傷がつきにくく、またゴミなどが付着しにくい。
【0037】
本発明の組成物の硬化物は、青色から紫外領域にかけての短波長領域での透過性に優れ、厚さ10mmの硬化物に対して、波長400nmにおける光透過率が、通常、84%以上であり、より好ましくは86%以上である。さらに、硬化物においては、熱への暴露による黄変が抑制されており、透過率が低下しにくい。
【0038】
また、本発明の組成物の硬化物は、線膨張係数が、通常、100〜300×10−6/K、好ましくは200〜280×10−6/Kである。このように膨張係数を上記範囲とすることで、レンズなどを光学機械などの部品に固定した後の熱履歴や熱衝撃による内部ひずみが緩和され、レンズなどの亀裂を防ぐことができる。さらに、レンズとして光学設計する際のレンズの変形を抑えることができる。
【0039】
例えば、本発明の組成物は、LED用の封止に使用することができ、例えば、LEDを搭載した基板に、LEDを封止するように、かつ気泡が残らないように、注型などの方法で送り込み、UV光を照射して、場合により加熱して硬化させて、LEDを内包したレンズの成形品を作製することができる。また、あらかじめ各種の方法で成形したレンズをLED部品にセットし、LEDをそこに嵌め込むか、接着剤で固定することもできる。このように、本発明の組成物の硬化物はLED封止材として好ましく、また、光学レンズにも好適である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳細に説明する。これらの例において、部は重量部、組成の%は重量%を示し、粘度は23℃における粘度を示す。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0041】
以下、シロキサン単位を、次のような記号で示す。
単位: (CHSiO1/2
単位: (CHHSiO1/2
単位: (CH(CH=CH)SiO1/2
単位: −(CHSiO−
単位: −(CH)HSiO−
単位: SiO4/2(4官能性)
【0042】
実施例及び比較例に用いる(A)オルガノポリシロキサンは、以下のとおりである。
(A1):M単位、M単位及びQ単位からなり、モル単位比がMで示される分岐状の固体ポリメチルビニルシロキサンの60%キシレン溶液;
(A2):両末端がM単位で封鎖され、中間単位がすべてD単位であり、23℃における粘度が0.2Pa・sである直鎖状ポリメチルビニルシロキサン;
【0043】
上記のオルガノポリシロキサン(A1)は、以下のように調製したものである。キシレン210部、トリメチルクロロシラン271.3部、ジメチルビニルクロロシラン60.3部及びテトラエトキシシラン832部を、攪拌機、滴下装置、加熱・冷却装置及び減圧装置を備えた反応容器に仕込み、均一に溶解させた。ここに過剰の水を滴下し、副生した塩酸の溶解熱を冷却により除去しつつ、80℃で共加水分解と縮合を行った。得られた有機層を、洗浄水が中性を示すまで水で洗浄し、脱水した後、KOHを200ppmになるように添加し、140℃において系外に水を除きながら脱水縮合を行った。その後、リン酸で中和し、生成した塩をろ過し、不揮発分が60%になるようにキシレンで希釈し調整した。
【0044】
また、上記の直鎖状ポリメチルビニルシロキサン(A2)は、以下のように調製したものである。オクタメチルシクロテトラシロキサン845.6部を攪拌機、滴下装置、加熱・冷却装置及び減圧装置を備えた反応容器に仕込み、Nを流しながら、140℃において攪拌し脱水した。その後、1,7−ジビニル−1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルシロキサン14.2部及びKOH8部を添加し、140℃で8時間、開環重合を行った。その後、100℃まで冷却し、エチレンクロロヒドリン100gを添加し、100℃2時間で中和を行った。その後、低分子量のポリマーを160℃で4時間、1.3KPa{10mmHg}以下でストリッピングを行い、冷却後ろ過を行い、目的物を得た。
【0045】
実施例及び比較例に用いる架橋剤(B)は、以下のように調製したものである。トルエン520部、テトラエトキシシラン879部及びジメチルクロロシラン832部を仕込み、均一に溶解させた。これを、撹拌機、滴下装置、加熱・冷却装置及び減圧装置を備えた反応容器に撹拌中の過剰の水に滴下して、副生した塩酸の溶解熱を冷却により除去しつつ、室温で共加水分解と縮合を行った。得られた有機相を、洗浄水が中性を示すまで水で洗浄し、脱水した後、トルエンと副生したテトラメチルジシロキサンを100℃/667Pa{5mmHg}で留去して、液状のポリメチルハイドロジェンシロキサンを調製した。GPCによる平均分子量は800(理論値:776)であり、これとアルカリ滴定によるSi−H結合の分析結果から、得られたシロキサンが近似的にMで示されるポリメチルハイドロジェンシロキサンであることを確認した。
【0046】
実施例に用いる(C)硬化触媒である(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金(MePt−Cp−Me錯体)(C1)は、Strem Chemicals, Inc.社製(ドイツ)により市販されている。また、比較例に用いる硬化触媒(Pt−D錯体)(C2)は、塩化白金酸をDで示される環状シロキサンと加熱して調製され、白金含有量が2重量%である白金−ビニルシロキサン錯体である。
【0047】
比較例に用いる硬化遅延剤は、1−エチニル−1−シクロヘキサノールである。
【0048】
実施例1及び2、比較例1〜3
A1がキシレン溶液なので、減圧加熱装置及び撹拌機を備えた容器にA1とA2を仕込み、均一になるまで撹拌・混合した後、A1に含まれるキシレンを140℃/667Pa{5mmHg}で留去して、液状のベースポリマー混合物を調製した。
【0049】
万能混練機を用いて、表1に示す配合比で、ベースポリマーの一部、触媒からなる主剤部、並びにベースポリマーの残部、架橋剤を含む硬化剤部を、それぞれ調製した。なお、主剤部と硬化剤部がほぼ重量比で1:1になるように、ベースポリマーの配分を行った。主剤部と硬化剤部を混合し、続いて、脱泡して、厚さ2mmのシート状に注型し、実施例1及び2では、次いで、4KWコンベア式UV照射装置(ウシオ電機社製)を使用して、波長250〜400nmで、積算光量1000mJ/cmのUV光を照射した。続いて、150℃のオーブン中で1時間加熱して硬化させた。無色透明で、若干の伸びを有する樹脂状の硬化物が得られた。
【0050】
組成物とその硬化物との評価を、次のようにして行った。
(1)ポットライフ評価:得られた組成物の粘度を測定し、23℃におけるポリシロキサン組成物の粘度が、組成物の調製直後の1.5倍になる時間を測定した。なお、実施例においては、UV光が未照射である場合とUV光を照射した後の場合について測定した。
(2)硬化性試験:未硬化の組成物について、(株)エーアンドディー社製、キュラストメータWR型により、温度150℃測定時間30分において、検出される最大トルクに対して10%になる時間(T10)(秒)及び90%になる時間(T90)(分)を測定した。なお、実施例1および2では、UV光の照射直後に測定を行った。
(3)硬さ:シートを23℃で24時間放置した後、シートを3枚重ねて6mmの厚さとした試料を用いてJIS K6253により、タイプA及びDデュロメータによって硬さを測定した。
(4)線膨張係数:SII社製、熱機械的分析装置TMA/SS6100型によって測定した。
(5)耐熱性:硬化直後の試料および硬化物を180℃24時間放置した後の試料(10mm×10mm×40mm)を、23℃において、日立製作所製、スペクトロフォトメータU−3410型を使用し、光路長10mmで波長400nmにおける透過率を測定した。透過率が、88%以上を◎、84%以上〜88%未満を○、84%未満を×とした。
【0051】
各実施例及び比較例の配合比、並びに組成物の硬化性と硬化物の物性は、表1に示すとおりであった。なお、白金触媒の含有量(ppm)は、A成分及びB成分の合計量に対する白金金属原子換算による。
【0052】
【表1】

【0053】
比較例の組成物は、UV光が未照射であっても触媒活性を有する白金触媒を用いたものである。比較例1は、硬化遅延剤を含まない系であり、オルガノポリシロキサン組成物を調製後、15分で粘度が1.5倍になった。
比較例2は、比較例1の組成において、さらに硬化遅延剤を用いた系であり、オルガノポリシロキサン組成物を調製してから12時間で粘度が1.5倍になった。
比較例3は、オルガノポリシロキサン組成物に対して白金含有量が8ppmになるように白金触媒を添加した系であり、硬化反応が十分促進されるため、オルガノポリシロキサン組成物を調製してから3時間で粘度が1.5倍になった。さらに硬化直後の硬化物は白金触媒の含有量が低い組成物と同様の光透過率であったが、耐熱性試験において黄変が観察され、耐熱性が劣っていた。
【0054】
実施例1および2では、オルガノポリシロキサン組成物を調製してから1週間が経過した後であっても、粘度の増加がわずかであり、ポットライフに優れていることがわかった。また、UV光の照射後は僅かな時間で粘度が1.5倍になっており、硬化特性が優れていた。さらに、実施例2では、白金含有量が8ppmであるにもかかわらず、耐熱性の低下が抑えられていた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の光硬化性ポリシロキサン組成物は、UV光を照射することで硬化反応を開始させることができるため、組成物のポットライフを容易にかつ自由に決めることができる。さらに、UV光の照射後は、オルガノポリシロキサン組成物が容易に硬化し、耐熱性に優れた硬化物を与えることができる。本発明は、光学用途、特に耐熱性を要求されるLED等の照明関連や自動車用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(A1)SiO4/2単位及びRSiO1/2単位、並びに場合によってはさらにRSiO単位及び/又はRSiO3/2単位(式中、Rは、それぞれ独立して、1価の非置換又は置換の炭化水素基を表す)からなり、1分子当たり、少なくとも3個のRがアルケニル基である、分岐状オルガノポリシロキサンと、
場合によって、(A2)ケイ素原子に、R(Rは、上記のとおりである)が結合しており、1分子当たり、少なくとも2個のRがアルケニル基である、直鎖状オルガノポリシロキサンと、
からなる、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン;
(B)SiO4/2単位及びR(CHSiO1/2単位(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す)からなり、1分子当たり、少なくとも3個のRが水素原子である、ポリアルキルハイドロジェンシロキサン;並びに
(C)(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金
を含む光硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
(C)の白金原子の含有量が、(A)及び(B)の合計量に対して0.1〜1,000重量ppmである、請求項1記載のオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
(A)100重量%中、(A1)が50〜100重量%であり、(A2)が50〜0重量%である、請求項1又は2記載のオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
(A)に存在するアルケニル基1個に対する、(B)のケイ素原子に結合した水素原子の数の比(H/Vi)が0.5〜2.0である、請求項1〜3のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン組成物を、硬化させて得られる硬化物。
【請求項6】
タイプDデュロメータによる硬さが、30以上である請求項5記載の硬化物。
【請求項7】
光学レンズである、請求項5又は6記載の硬化物。
【請求項8】
発光ダイオードの封止材である、請求項5又は6記載の硬化物。

【公開番号】特開2010−47646(P2010−47646A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211097(P2008−211097)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】