説明

光硬化性吸湿性組成物及び有機EL素子

【課題】有機EL素子等の吸湿剤として用いることができる組成物を提供する。
【解決手段】(a)湿気反応性有機金属化合物、(b)(メタ)アクリレート、(c)カルボキシル基含有重合性モノマー、及び(d)光重合開始剤を含み、湿気反応性有機金属化合物(a)の割合が全組成物中5〜70wt%であり、カルボキシル基含有重合性モノマー(c)の割合が、湿気反応性有機金属化合物(a)に対して0.1〜50モル%である、光硬化性吸湿性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明でかつ柔軟性のある吸湿層を形成することができる光硬化性吸湿性組成物及びこの組成物より形成した乾燥手段を含む有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料のエレクトロルミネッセンス(electroluminescence、以下ELと記す)を利用した有機EL素子は、陽極と陰極との間に有機電荷輸送層や有機発光層を積層させた有機層を設けてなり、低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な発光素子として注目されている。またこの有機EL素子は、すべての材料を固体で構成することが可能であるため、フレキシブルディスプレーとして期待されている。
【0003】
一方有機EL素子は、一定期間駆動した場合、発光輝度、発光効率、発光均一性等の発光特性が初期の場合に比べて著しく劣化するという問題がある。このような発光特性の劣化の原因としては、有機EL素子内に侵入した酸素による電極の酸化、駆動時の発熱による有機材料の酸化分解、有機EL素子内に侵入した空気中の水分による電極の酸化、有機物の変性等を挙げることができる。さらに、酸素や水分の影響で構造体の界面が剥離したり、駆動時の発熱や駆動時の環境が高温であったこと等が引き金となって、各構成要素の熱膨張率の違いにより構造体の界面で応力が発生し、界面が剥離する等の構造体の機械的劣化も発光特性の劣化の原因として挙げることができる。
【0004】
このような問題を防止するため、有機EL素子を封止し、水分や酸素との接触を抑制する技術が多数検討されている。例えば、図1に示すように、基板1上に透明電極3、有機機能層4及び金属カソード電極5からなる有機EL素子を配列形成してなる画素エリアに対し、吸水剤6を内壁に貼り付けた封止キャップ2を被せ、内部を窒素ガスで満たし、さらに基板1に接着剤7で固定することにより、有機EL素子への水分の到達を防止する方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。また、吸水剤のかわりに酸素吸収剤を用いることにより酸素の影響を低減する方法も開示されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
この吸水剤としてさまざまな物質が検討されてきたが、なかでも酸化バリウム(BaO)や酸化カルシウム(CaO)といったアルカリ土類金属酸化物は、シリカゲルやゼオライトのような物理的に水を吸着させる吸水剤とは異なり、化学反応により確実に水分子を捕らえることができ、高温での水分子の放出がないため広く検討されている。
【0006】
しかしながら、これらの吸水剤は無機化合物の粒子であり、素子内に貼り付けるために凹状の基板を必要とするため、素子が厚くなるといった欠点がある。また、アルカリ土類金属酸化物は不透明であるため、基板1側から表示光を取り出す、いわゆるボトムエミッション型の表示装置には適用できるものの、基板1と反対側の封止キャップ2側から表示光を取り出す、いわゆるトップエミッション型の表示装置に適用する場合には、吸水剤4によって表示光の放出が妨げられるため、吸水剤4を画素エリアにかからないように配置しなければならず、配置場所を新たに設けなければならないといった制限がある。
【0007】
このようなトップエミッション型の表示装置に吸水剤を適用するためにいくつかの提案がなされている。例えば、ポリビニルアルコールやナイロンといった透明でかつ吸水性を有するポリマーを吸水剤として適用することが容易に想像できるが、これらのポリマーは水を物理的に吸着するものであり、上記のように吸水性が十分ではない。また、トップエミッション構造の有機EL素子において、粒子状の吸水剤を光透過性が妨げられない程度に配置することが提案され(特許文献3参照)、さらに有機EL素子の発光波長よりも小さい粒径を有する吸水剤を分散させたプラスチック基板を用いることが提案されている(特許文献4参照)。ところがいずれにおいても吸水剤として無機粒子を利用しており、配置方法が困難であること、及び一次粒子まで均一に分散させることが困難であり、光の散乱による透過の低下は避けられない。
【0008】
これらの問題を解決する手段として、可視光吸収の少ない捕水膜を用いることが開示されている(特許文献5参照)。この捕水膜は、特殊な金属化合物を溶剤コーティングすることにより形成することができ、十分な透明性を持っている。しかしながら、この捕水膜をフレキシブル基板に適用しようとした場合には、低分子化合物から構成されているため柔軟性に欠けるという問題がある。
【0009】
一方、有機EL素子の封止プロセスは、水分の浸入を防ぐためにきわめて乾燥したグローブボックス内で行われるが、この点を考慮すると安全性、環境面から溶剤を用いない無溶剤型を用いることが好ましい。しかしながら上記のように従来の捕水膜は溶剤塗布型であり、無溶剤型が望まれている。無溶剤型捕水膜としては、ラジカル重合性基を有する環状アルミニウム化合物とアクリル化合物との混合物からなるものが開示されている(特許文献6参照)が、この組成では透明ではなく柔軟性にも欠けており、柔軟性を満足する透明な吸湿剤は存在しないのが現状である。
【0010】
【特許文献1】特開平9−148066号公報
【特許文献2】特開平7−169567号公報
【特許文献3】特開2001−357973号公報
【特許文献4】特開2002−56970号公報
【特許文献5】特開2003−142256号公報
【特許文献6】特開2005−7235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたものであって、その課題とするところは、有機EL素子等の水分や酸素の影響を受けやすい素子の水分及び/又は酸素の捕捉剤として用いることができ、透明であり光をさえぎることなく発光面側に設置することができ、さらに柔軟性がありフレキシブル基板にも適用することができる無溶剤型の組成物を提供すること、及び長期にわたって発光特性を維持する有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明によれば、
(a)湿気反応性有機金属化合物、
(b)(メタ)アクリレート、
(c)カルボキシル基含有重合性モノマー、及び
(d)光重合開始剤
を含み、湿気反応性有機金属化合物(a)の割合が全組成物中5〜70wt%であり、カルボキシル基含有重合性モノマー(c)の割合が、湿気反応性有機金属化合物(a)に対して0.1〜50モル%である、光硬化性吸湿性組成物が提供される。
【0013】
また本発明によれば、上記の光硬化性吸湿性組成物をフィルム状に成形し、硬化することにより形成された吸湿性フィルムが提供される。
【0014】
さらに本発明によれば、有機材料からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持されてなる積層体と、この積層体を外気から遮断する構造体と、この構造体内に配置された乾燥手段とを有する有機EL素子であって、前記乾燥手段が上記の光硬化性吸湿性組成物より形成されていることを特徴とする有機EL素子が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の組成物は、水分と反応する有機金属化合物と、透明性、可撓性を有する(メタ)アクリレートを含有し、有機EL素子等の水分の影響を受けやすい素子の水分捕捉剤として使用することができる。この組成物より形成されたフィルムは透明であるため、積層体として発光素子の発光面上に配置することができ、さらに可撓性を有するため、フレキシブルなディスプレーに使用することができる。さらにこの組成物は無溶剤型であるため、安全性、環境面からも好ましい。この組成物を水分捕捉剤として配置した本発明の有機EL素子は、水分や酸素による劣化が抑制され、長期にわたって発光特性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記のように、本願発明の光硬化性吸湿性組成物は、(a)湿気反応性有機金属化合物、(b)(メタ)アクリレート、(c)カルボキシル基含有重合性モノマー、及び(d)光重合開始剤を含む。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とはアクリル又はメタクリルを意味する。
【0017】
前記湿気反応性有機金属化合物(a)は水と反応し、化学反応によって水分を除去することができる化合物である。この湿気反応性有機金属化合物(a)は、好ましくは下式
M(OR)n
で表される金属アルコキシドであり、式中MはAl、B、Ti、又はZrであり、Rはアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、複素環基、又はアシル基であり、nはMの原子価である。このような金属アルコキシドは、通常多量体として存在する。
【0018】
この金属アルコキシドは下式で表されるように水と反応して化学的に水を捕足することができる。
M(OR)n+xH2O → M(OH)x(OR)n-x+xROH
【0019】
上記式で示されるように、金属アルコキシドは水との反応によってアルコールROHを生成するが、金属アルコキシド中のRはこの生成するアルコールROHの沸点が160℃以上、好ましくは180℃以上であることが望ましい。沸点が160℃より低いと、このアルコールが有機EL素子の起動中の局所的な発熱によって発泡したり、蒸発した化合物が素子上に凝集し、パッシベーション膜等が設けられていない場合、有機化合物を溶解したり、有機化合物と電極の界面に浸透し、素子を侵す恐れがあるからである。
【0020】
このOR基としては、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、デシルオキシ基、ラウリルオキシ基、ミリスチルオキシ基、セチルオキシ基、イソステアリルオキシ基、2−オクチルドデシルオキシ基等のアルコキシル基、ボルネオキシ基、イソボルネオキシ基、コレステロキシ基等の脂環式アルコキシル基、フェニルエチルオキシ基、フェニルプロピルオキシ基、フェノキシエチルオキシ基等の芳香族環を有するアルコキシル基、t−ブチルフェノキシ基、4-(1,1,3,3-テトラメチルブチルフェノキシ基等のフェノキシ基、ポリオキシエチレンモノラウリルエステルオキシ基、ポリオキシエチレンモノメチルエーテルオキシ基、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテルオキシ基、ポリテトラヒドロフランモノメチルエーテルオキシ基等のポリオキシアルキレンモノアルキルエステル又はモノエーテルオキシ基、ポリジメチルシロキサン骨格を有するアルコキシル基、又は2−ピロリドン−1−エチル−2−オキシ基、モルホリノエトキシ基等の窒素を含むアルコキシル基が挙げられる。
【0021】
湿気反応性有機金属化合物(a)の配合割合は全組成物中5〜70wt%である。70wt%より多いと、この組成物より形成されるフィルムもしくは膜の強度が不十分となり、また吸湿後の反応生成物のマイグレーションが起き易くなる。一方5wt%より少ないと、十分な吸湿性を発揮することができない。
【0022】
(メタ)アクリレートは分子中に(メタ)アクリロイル基を有する化合物であり、この(メタ)アクリレートを用いることにより、前記湿気反応性有機金属化合物と相溶して、光硬化することにより薄膜を形成し、吸湿後も透明性を保つことができる。(メタ)アクリレートとしてはモノ(メタ)アクリレートもしくは多官能(メタ)アクリレート、又はこの両者を用いることができ、この(メタ)アクリレートは沸点が160℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましい。沸点が160℃より低いと、この光硬化膜にわずかに残留した(メタ)アクリレートが有機EL素子の起動中の局所的な発熱によって発泡したり、蒸発した化合物が素子上に凝集し、パッシベーション膜等が設けられていない場合、有機化合物を溶解したり、有機化合物と電極の界面に浸透し、素子を侵す恐れがあるからである。
【0023】
モノ(メタ)アクリレートとしては、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキレン(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド等のアクリルアミドが挙げられる。
【0024】
多官能(メタ)アクリレートは硬化物の強度を高めるために添加することができ、例えばヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等のアルキルジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエーテル(メタ)アクリレート、サイラプレーンFM7711、FM7721、FM7725(チッソ社)等のシリコーンジ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等のオリゴ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0025】
これらのうち、得られる硬化物の可撓性、透明性の点からウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートが好ましい。エポキシ(メタ)アクリレートとしては、日本油脂製ブレンマーPDBE-1300、ブレンマー85PDPE-1500B、新中村化学製NKオリゴEAシリーズ、日本化薬製カヤラッドRシリーズ等を挙げることができる。またウレタン(メタ)アクリレートとしては、日本油脂製ブレンマーDAシリーズ、ブレンマーDPシリーズ、新中村化学製NKオリゴUシリーズ、NKオリゴUAシリーズ、東亞合成製アロニックスM1000シリーズ、日本化薬製カヤラッドUX3000、4000、6000シリーズ、荒川化学製ビームセット500シリーズ、日本合成化学製紫光UVシリーズ、ダイセルUCB製Ebecrylシリーズ、根上工業製アートレジンUNシリーズ、三菱レイヨン製ダイヤビームUKシリーズ、日本曹達製TEAI1000等を挙げることができる。
【0026】
多官能(メタ)アクリレートの配合量は、この(メタ)アクリレート中の(メタ)アクリロイル基が全組成物100gに対して0.05モル以下となるような量である。0.05モル%より多いと光架橋後に架橋密度が高くなりすぎるため、吸湿後の反応生成物(アルコール)のマイグレーションが起こり易くなる。
【0027】
カルボキシル基含有重合性モノマーは前記湿気反応性有機金属化合物と一部反応し、光重合によりポリマーの一部となり、相分離しない。このカルボキシル基含有重合性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリロイルエチルフタレート、(メタ)アクリロイルエチルヘキサヒドロフタレート、エチレンオキサイド変性コハク酸(メタ)アクリレート、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、これらのうちアクリル酸が好ましい。
【0028】
カルボキシル基含有重合性モノマーの配合量は、前記湿気反応性有機金属化合物に対し0.1〜50モル%であり、1〜20モル%であることが好ましい。0.1モル%未満では吸湿後に生成した化合物が凝集し、硬化物の透明性が失われる恐れがあり、50モル%より多いと吸湿性が低下してしまうからである。
【0029】
光重合開始剤としては、例えばアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、ベンジルメチルベンゾイルフォルメート、2−エチルアントラキノン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(商品名Lucirin TPO、BASF社製)、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシフォスフィンオキサイド(商品名Lucirin TPO-L、BASF社製)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(商品名IRGACURE 819、Ciba-Geigy社製)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(商品名DAROCURE 1173、Ciba-Geigy社製)、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン(商品名IRGACURE 2959、Ciba-Geigy社製)、4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン(商品名IRGACURE 184、Ciba-Geigy社製)、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン(商品名IRGACURE 907、Ciba-Geigy社製)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン(商品名IRGACURE 369、Ciba-Geigy社製)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕プロパンのオリゴマー(商品名ESACURE KIP 150、Lamberti社製)、N,N‘−オクタメチレンビスアクリジン(商品名アデカオプトマ−N1717)、アクリロイルベンゾフェノン(商品名ダイセルUCB Ebercryl P36)などを挙げられるがこれらに限定されない。またこの光重合開始剤の添加量としては組成物中に0.1〜5wt%添加することが好ましい。
【0030】
また本発明の組成物は、充填材、安定剤等の各種添加剤を含有していてもよい。充填材としては、上記金属化合物と反応し得る水酸基を含む無機充填材が好ましく、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の窒化物;モンモリロナイト等の粘土類、又はカーボンブラックあるいはこれらをシランカップリング剤等で表面処理した物等を挙げることができる。また、湿気反応性有機金属化合物の安定剤として、イミダゾール、ピリジン、ジアザビシクロオクタン、トリエタノールアミンなどのアミン類等を挙げることができる。
【0031】
本発明の組成物より形成したフィルムは透明であるため、各種の光学素子等に用いることができる。すなわち、本発明の第二の態様は、この組成物より形成された吸湿性フィルムである。このフィルムは一般的な方法、例えば基材上に塗布し、紫外線等の光を照射して硬化させることにより形成することができる。
【0032】
また、本発明の第三の態様は、この組成物より形成された乾燥手段を内部に配置した有機EL素子である。この有機EL素子の構成は、図1に示す従来の有機EL素子と同様の構成をとることができ、すなわち有機材料からなる有機機能層4が互いに対向する一対の電極3及び5間に挟持されてなる積層体と、この積層体を収納して外気を遮断する容器2と、この容器内に配置された乾燥手段6とを有し、この乾燥手段が上記組成物より形成されている吸湿性フィルムである。このフィルムは透明であるため、乾燥手段6を配置する位置には制限がなく、図2に示すように、電極3を覆うようにフィルム6として直接貼り付けてもよい。あるいは、図3に示すように、基板1上の電極3及び5並びに有機機能層4の全体を覆うようにしてこのフィルム6を配置し、さらにその上を接着剤7で覆ってもよい。図示していないが、電極3及び5上にパッシベーション膜を形成してもよい。
【実施例】
【0033】
湿気反応性有機金属化合物の調製
片末端に水酸基を有するポリオキシエチレンモノメチルエーテル(Mw350、Sigma Aldrich社製)30gを、窒素置換した100mLのシュレンク管内に入れ、水冷し、28.6gのエチルアルミニウムのヘキサン溶液を徐々に加えた。エタンガスの発生が終了後、室温に戻し、さらに24時間攪拌を続けた。溶媒を減圧留去し、湿気反応性有機金属化合物1(トリス(ポリオキシエチレンオキシ)アルミニウム)を得た。また、上記ポリオキシエチレンモノメチルエーテルに代えてトリプロピレングリコールエーテル(Mw287、Sigma Aldrich社製)、ポリジメチルシロキサンプロポキシエタノール(チッソ社製、SILAPLANE FM0411)、オクタドデカノール(花王社製)、及び1−(ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン(東京化成社製)を用いて湿気反応性有機金属化合物2(トリス(ポリオキシエチレンオキシ)アルミニウム)、3(トリス(ポリジメチルシロキサンプロポキシエトキシ)アルミニウム)、4(トリス(オクタドデシルオキシ)アルミニウム)、及び5(トリス(2−ピロリドン−1−エチル−2−オキシ)アルミニウム)を得た。
【0034】
実施例1
光硬化性吸湿性組成物の調製
(メタ)アクリレートとしてポリオキシエチレンモノメチルエーテルアクリレート(新中村化学社製、AM90G)8.0g及びポリオキシエチレンジアクリレート(新中村化学社製、A−600)2.0gを用い、これらを窒素置換した30mLの管に入れた。次いで上記で調製した湿気反応性有機金属化合物1(10g)を徐々に加えた攪拌した。さらに光開始剤(チバガイギー社製、ダロキュア1173)0.1g及びカルボキシル基含有重合性モノマーとしてアクリル酸(和光純薬社製)0.1gを加え均一になるまで攪拌し、光硬化性吸湿性組成物A−1を得た。
【0035】
吸湿性フィルムの作製
上記光硬化性吸湿性組成物1をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(ルミラーT−60、厚さ50μm、東レ社製)及びシリコーン剥離処理PETフィルム(SP−PET−01、50BU、厚さ50μm、パナック社製)でラミネートし、ナイフギャップを通過させてフィルムとした。このフィルムに紫外線照射装置(ウシオ電機社製、UVC183)を用いて1000mJ/cm2の紫外線を照射し、総厚み150μmの吸湿性フィルムを得た。
【0036】
実施例2〜8
表1に示す材料を用いて実施例1と同様にして光硬化性吸湿性組成物A−2〜A−8を調製し、この組成物を用いて吸湿性フィルムを作製した。
【0037】
比較例1
モノアクリレートとジアクリレートの比率を変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0038】
比較例2
アクリル酸を加えないことを除き、実施例4と同様に行った。
【0039】
比較例3
吸湿性化合物として酸化カルシウム粉末を用いた。
【0040】
【表1】

【0041】
上記表中の化合物は以下の化合物を示す。
モノアクリレート1:ポリオキシエチレンモノメチルエーテルアクリレート(新中村化学製AM90G)
モノアクリレート2:ポリオキシプロピレンアクリレート(日本油脂社製AP800)
モノアクリレート3:イソボルニルアクリレート(共栄社油脂社製IBX-A)
モノアクリレート4:フェノキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業社製ビスコート#192)
ジアクリレート1:ポリオキシエチレンジアクリレート(新中村化学社製A600)
ジアクリレート2:ビス−A・30EOジメタクリレート(日本油脂社製BLEMMER PDBE-1300)
ジアクリレート3:ポリ(EO)ジアクリレート(日本油脂社製BLEMMER DA-800AU)
ジアクリレート4:ポリオキシプロピレンジアクリレート(新中村化学社製APG700)
ジアクリレート5:ポリ(PO)ジアクリレート(日本油脂社製BLEMMER DA-800)
ジアクリレート6:シリコーンジメタクリレート(チッソ社製SILAPLANE FM7725)
ジアクリレート7:水素化ポリブタジエンジアクリレート(日本曹達社製TEAL1000)
光重合開始剤1:チバガイギー社製、Darocure 1173
光重合開始剤2:チバガイギー社製、Irgacure 651
【0042】
物性の測定
得られた吸湿性フィルムについて、吸湿性、透過率、及び可撓性を以下のようにして測定した。
【0043】
吸湿性
吸湿性フィルムを30mm×40mm角に切り出し、シリコーン剥離処理PETフィルムを剥がし、直ちに容積400mLの温湿度計付きステンレス容器に入れ金属製の蓋を閉めた。このステンレス容器内の相対湿度が10%低下するまでの時間を測定した。測定結果を表2に示す。
【0044】
透過率
透過率の測定は日立製Spectrophotometer U-4100を用いて行った。測定用のサンプルは上記の方法で作製した50μmのPET付きフィルムを相対湿度50%の空気中気温25℃で3日間放置し、十分吸湿したものを用いた。解析では、PETフィルムをベースラインとした。波長域400nm〜800nmの範囲の最低透過率を表2に示す。
【0045】
可撓性
上記で用いたフィルムを鉄棒(R=10mm)に沿って曲げ、目視により観察した。10回繰り返したが、実施例1のフィルムにおいては表面にクラックの発生はまったくみられなかった。
【0046】
【表2】

【0047】
上記表2に示す結果から明らかなように、実施例1〜8の組成物より形成したフィルムは十分な湿気反応性を有し、水分捕捉剤として使用することができ、また、これらのフィルムは十分な可撓性も有している。さらには、可視光域において十分な透明性を有している。一方、比較例1の組成物より形成したフィルムでは、光硬化後には十分な透明性を示したが、吸湿後には加水分解して生成したアルコールがフィルム表面にマイグレーションした。これは架橋密度が高いこと、つまり架橋性モノマーのアクリル基の量が多いことが原因であると考えられる。比較例2の組成物より形成したフィルムもまた光硬化後には十分な透明性を示したが、吸湿後には加水分解して生成した水酸化アルミニウム化合物が凝集し、白化した。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明及び従来の有機EL素子の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子の構造を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の有機EL素子の構造を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 基板
2 封止キャップ
3 電極
4 有機機能層
5 電極
6 吸湿性フィルム
7 封止接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)湿気反応性有機金属化合物、
(b)(メタ)アクリレート、
(c)カルボキシル基含有重合性モノマー、及び
(d)光重合開始剤
を含み、湿気反応性有機金属化合物(a)の割合が全組成物中5〜70wt%であり、カルボキシル基含有重合性モノマー(c)の割合が、湿気反応性有機金属化合物(a)に対して0.1〜50モル%である、光硬化性吸湿性組成物。
【請求項2】
前記湿気反応性有機金属化合物(a)が下式
M(OR)n
で表される金属アルコキシドであり、式中MはAl、B、Ti、又はZrであり、Rはアルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、複素環基、又はアシル基であり、nはMの原子価である、請求項1記載の光硬化性吸湿性組成物。
【請求項3】
前記湿気反応性有機金属化合物(a)が、水との反応によって160℃以上の沸点を有するアルコールROHを生成するものである、請求項2記載の光硬化性吸湿性組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリレートがモノ(メタ)アクリレートもしくは多官能(メタ)アクリレート、又はこの両者を含み、前記多官能(メタ)アクリレートを含む場合、この多官能(メタ)アクリレートの割合が、この多官能(メタ)アクリレートの(メタ)アクリロイル基が全組成物100gに対して0.05モル以下となるような量である、請求項1記載の光硬化性吸湿性組成物。
【請求項5】
前記モノ(メタ)アクリレートが、アルキルアクリレート、アルキレンアクリレート、又はアクリルアミドである、請求項4記載の光硬化性吸湿性組成物。
【請求項6】
前記多官能(メタ)アクリレートが、アルキルジ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、シリコーンジ(メタ)アクリレート、又はオリゴ(メタ)アクリレートである、請求項4記載の光硬化性吸湿性組成物。
【請求項7】
前記カルボキシル基含有重合性モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリロイルエチルフタレート、(メタ)アクリロイルエチルヘキサヒドロフタレート、エチレンオキサイド変性コハク酸(メタ)アクリレート、又はβ−カルボキシエチル(メタ)アクリレートである、請求項1記載の光硬化性吸湿性組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の光硬化性吸湿性組成物をフィルム状に成形し、硬化することにより形成された吸湿性フィルム。
【請求項9】
有機材料からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持されてなる積層体と、この積層体を外気から遮断する構造体と、この構造体内に配置された乾燥手段とを有する有機EL素子であって、前記乾燥手段が請求項1〜7のいずれか1項に記載の光硬化性吸湿性組成物より形成されていることを特徴とする有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−191511(P2007−191511A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8628(P2006−8628)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】