説明

光硬化性接着剤、偏光板および積層光学部材

【課題】偏光子に保護膜を貼合するにあたり、室温での塗工が可能な十分に低い粘度を有し、硬化後は十分な貯蔵弾性率を発現して、激しい温度履歴を受けたときでも偏光子に割れを生じにくく、しかも偏光子/保護膜間の接着力も向上した偏光板を与える光硬化性接着剤を提供する。
【解決手段】光カチオン硬化性成分100重量部に対し、光カチオン重合開始剤を1〜10重量部含有し、光カチオン硬化性成分は、以下の成分を含有する。脂環式ジエポキシ化合物を60〜75重量%、ジグリシジル化合物を5〜35重量%および、単官能エポキシ化合物を2〜15重量%。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子と透明樹脂からなる保護膜とを貼合するための光硬化性接着剤、その光硬化性接着剤を用いて偏光子に保護膜を貼合してなる偏光板、およびその偏光板に位相差フィルムなどの他の光学層を積層してなる積層光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、液晶表示装置を構成する光学部品の一つとして有用である。偏光板は通常、偏光子の両面に保護膜が積層された構造を有し、液晶表示装置に組み込まれる。偏光子の片面にのみ保護膜を設けることも知られているが、多くの場合、もう一方の面には、単なる保護膜ではなく、別の光学機能を有する層が、保護膜を兼ねて貼合される。また、偏光子の製造方法として、二色性色素により染色された一軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸処理し、水洗後、乾燥する方法が広く採用されている。
【0003】
通常、偏光子には、上述の水洗および乾燥の後、直ちに保護膜が貼合される。これは、乾燥後の偏光子は物理的な強度が弱く、一旦これを巻き取ると、加工方向に裂けやすいなどの問題があるためである。したがって、通常、乾燥後の偏光子には直ちに、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液である水系の接着剤が塗布され、この接着剤を介して偏光子の両面に同時に保護膜が貼合される。通例、保護膜としては、厚さ30〜100μmのトリアセチルセルロースフィルムが使用されている。
【0004】
トリアセチルセルロースは、透明性に優れ、各種の表面処理層や光学機能層を形成しやすく、また透湿度が高く、上記のような水系接着剤を用いて偏光子に貼合した後の乾燥がスムーズに行なえるといった、保護膜として優れた利点を有する反面、透湿度が高いことに起因して、これを保護膜として貼合した偏光板は、湿熱下、たとえば、温度70℃、相対湿度90%といった条件下では劣化を引き起こしやすいなどの問題があった。そこで、トリアセチルセルロースより透湿度の低い、たとえば、ノルボルネン系樹脂を代表例とする非晶性ポリオレフィン系樹脂を保護膜とすることも知られている。
【0005】
透湿度の低い樹脂からなる保護膜をポリビニルアルコール系偏光子に貼合する場合、従来からポリビニルアルコール系偏光子とトリアセチルセルロースフィルムとの貼合に一般に用いられているポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を接着剤とすると、接着強度が十分でなかったり、得られる偏光板の外観が不良になったりする問題があった。これは、透湿度の低い樹脂フィルムは一般的に疎水性であることや、透湿度が低いために溶媒である水を十分に乾燥できないことなどの理由による。一方で、偏光子の両面に異なる種類の保護膜を貼合することも知られている。たとえば、偏光子の一方の面には非晶性ポリオレフィン系樹脂などの透湿度の低い樹脂からなる保護膜を貼合し、偏光子の他方の面にはトリアセチルセルロースをはじめとするセルロース系樹脂などの透湿度の高い樹脂からなる保護膜を貼合する提案もある。
【0006】
そこで、透湿度の低い樹脂からなる保護膜とポリビニルアルコール系偏光子との間で高い接着力を与えるとともに、セルロース系樹脂などの透湿度の高い樹脂とポリビニルアルコール系偏光子との間でも高い接着力を与える接着剤として、光硬化性接着剤を用いる試みがある。たとえば、特開2004−245925号公報(特許文献1)には、芳香環を含まないエポキシ化合物を主成分とする接着剤が開示されており、活性エネルギー線の照射、具体的には紫外線の照射によるカチオン重合でこの接着剤を硬化させ、偏光子と保護膜とを接着することが提案されている。また特開2008−257199号公報(特許文献2)には、脂環式エポキシ化合物と脂環式エポキシ基を有さないエポキシ化合物とを組み合わせ、さらに光カチオン重合開始剤を配合した光硬化性接着剤を、偏光子と保護膜との接着に用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−245925号公報
【特許文献2】特開2008−257199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に具体的に開示される組成の接着剤は、粘度が必ずしも十分に低くならず、偏光子またはそこに貼合される保護膜に塗工し、薄膜で均一な接着剤層を形成することが必ずしも容易ではなかった。また、これらの接着剤は、硬化後の接着剤層が必ずしも十分な貯蔵弾性率を示さず、結果として、得られる偏光板が激しい温度履歴を受けたとき、たとえば、低温での保持と高温での保持を繰り返す冷熱衝撃試験を受けたときに、偏光子に割れを生じることがあった。
【0009】
さらに、これら公知の光硬化性接着剤は、偏光子と保護膜を適度の接着力で接着するものの、その接着力は必ずしも十分とはいえず、たとえば、その光硬化性接着剤を用いて偏光子と保護膜とを貼合することにより得られる偏光板は、液晶表示装置に適用するため所定サイズに裁断した状態で、その端部を研磨すると、その端部で偏光子から保護膜が剥離することがあった。
【0010】
本発明の課題は、偏光子に保護膜を貼合するにあたり、室温での塗工が可能な十分に低い粘度を有し、硬化後は十分な貯蔵弾性率を発現して、激しい温度履歴を受けたときでも偏光子に割れを生じにくく、しかも偏光子/保護膜間の接着力も向上した偏光板を与える光硬化性接着剤を提供することである。本発明のもう一つの課題は、この光硬化性接着剤を用いて偏光子と保護膜とを貼合し、両者の接着力に優れるとともに、激しい温度履歴を受けたときでも偏光子に割れを生じにくい偏光板を提供することである。本発明のさらにもう一つの課題は、この偏光板に位相差フィルムなどの他の光学層を積層し、液晶表示装置に好適に用いられる積層光学部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。具体的には、光カチオン硬化性成分に光カチオン重合開始剤を所定量配合してなる光硬化性接着剤において、その光カチオン硬化性成分として、特定の脂環式ジエポキシ化合物を主体とし、そこに、脂環式環に結合しないエポキシ基を分子内に2個有し、芳香環を有しないジグリシジル化合物を配合するとともに、さらに脂環式環に結合しないエポキシ基を分子内に1個有する単官能エポキシ化合物を少量配合した組成物を用いるのが有効であることを見出した。すなわち、かかる特定組成の光硬化性接着剤は、室温において低い粘度を示して良好な塗工適性を与えるとともに、硬化後は高い貯蔵弾性率を発現し、偏光子と保護膜とを強固に接着することを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に、透明樹脂からなる保護膜を貼合するための接着剤であって、(A)光カチオン硬化性成分100重量部に対し、(B)光カチオン重合開始剤を1〜10重量部含有し、上記の光カチオン硬化性成分(A)は、その全体量を基準に、以下の(A1)、(A2)および(A3)を含有する光硬化性接着剤を提供するものである。
【0013】
(A1)下式(I)で示される脂環式ジエポキシ化合物を60〜75重量%;
【0014】
【化1】

【0015】
式中、RおよびRは各々独立に水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表すが、アルキル基が炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよく;Xは酸素原子、炭素数1〜6のアルカンジイル基または下式(Ia)〜(Id):
【0016】
【化2】

【0017】
のいずれかで示される2価の基を表し、ここでY〜Yは各々炭素数1〜20のアルカンジイル基を表すが、炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよく;aおよびbは各々0〜20の整数を表す。
【0018】
(A2)下式(II)で示されるジグリシジル化合物を5〜35重量%;
【0019】
【化3】

【0020】
式中、Zは炭素数1〜9のアルキレン基、炭素数3もしくは4のアルキリデン基、2価の脂環式炭化水素基、または式−C2m−Z−C2n−で示される2価の基を表し、ここで−Z−は、−O−、−CO−O−、−O−CO−、−SO−、−SO−、または−CO−を表し、mおよびnは各々独立に1以上の整数を表すが、両者の合計は9以下である。
【0021】
(A3)下式(III)で示される単官能エポキシ化合物を2〜15重量%;
【0022】
【化4】

【0023】
式中、Rは炭素数1〜15のアルキル基を表す。このアルキル基は特に、炭素数が比較的多め、たとえば6以上、とりわけ6〜10の範囲にあること、さらには分岐していることが好ましい。式(III)で示される単官能エポキシ化合物の典型例として、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0024】
この光硬化性接着剤は、25℃における粘度が100mPa・sec以下であることが好ましい。また、その硬化物が80℃において1,000MPa以上の貯蔵弾性率を示すことが好ましく、光硬化性接着剤を上記の特定組成としたことによって、このような高い貯蔵弾性率を与える硬化物が形成できる。
【0025】
本発明はまた、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の少なくとも一方の面に接着剤を介して透明樹脂からなる保護膜が貼合されてなり、その接着剤が上記いずれかの光硬化性接着剤の硬化物である偏光板をも提供する。
【0026】
この偏光板において、偏光子の一方の面に貼合される保護膜は、紫外線吸収剤が配合されているアセチルセルロース系樹脂フィルムで構成することができる。また、偏光子の少なくとも一方の面に貼合される保護膜は、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、および鎖状ポリオレフィン系樹脂のような、透湿度の低い樹脂のフィルムで構成することもできる。上記の光硬化性接着剤を用いることにより、本発明の偏光板は、偏光子と保護膜の間の180度はく離試験による接着強さが0.6N/25mm以上となるようにすることができる。
【0027】
本発明はさらに、上記いずれかの偏光板と他の光学層との積層体からなる積層光学部材をも提供する。この積層光学部材を構成する他の光学層は、位相差フィルムを含むことが有利である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の光硬化性接着剤は、光カチオン硬化性成分(A)として、脂環式ジエポキシ化合物(A1)、ジグリシジル化合物(A2)および単官能エポキシ化合物(A3)をそれぞれ所定量配合したことで、低粘度でかつ硬化後における接着剤層の貯蔵弾性率を向上させるとともに、偏光子と保護膜との間の接着強度を高めることができる。そのため、偏光子の少なくとも一方の面に、この接着剤を介して透明樹脂からなる保護膜を貼合した偏光板は、冷熱衝撃試験のような激しい温度履歴を受けても、偏光子に割れを生じにくく、耐熱衝撃性に優れている。この偏光板に他の光学層を積層した積層光学部材も、偏光板の機能を十分に発現しながら、耐熱衝撃性に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に透明樹脂からなる保護膜を接着するための光硬化性接着剤を提供するものである。本発明はまた、この光硬化性接着剤を用いて、上記の偏光子に透明樹脂からなる保護膜を貼合した偏光板、さらにはこの偏光板に他の光学層を積層した積層光学部材をも提供するものである。これらの光硬化性接着剤、偏光板、および積層光学部材について、順を追って説明していく。
【0030】
[光硬化性接着剤]
本発明において、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に透明樹脂からなる保護膜を接着するための光硬化性接着剤は、以下の(A)および(B)の二成分を含有する。
(A)光カチオン硬化性成分、および
(B)光カチオン重合開始剤。
【0031】
(光カチオン硬化性成分)
光硬化性接着剤の主成分であり、重合硬化により接着力を与える光カチオン硬化性成分(A)は、以下の三種類の化合物を含有する。
(A1)前記式(I)で示される脂環式ジエポキシ化合物、
(A2)前記式(II)で示されるジグリシジル化合物、および
(A3)前記式(III)で示される単官能エポキシ化合物。
【0032】
光カチオン硬化性成分(A)における脂環式ジエポキシ化合物(A1)の量は、光カチオン硬化性成分(A)の全体量を基準に、60〜75重量%とする。光カチオン硬化性成分(A)中に脂環式ジエポキシ化合物(A1)を60重量%以上含有させることにより、それを含む光硬化性接着剤を硬化させた後の貯蔵弾性率を高くし、たとえば80℃における貯蔵弾性率を1,000MPa以上とすることができ、その接着剤を介して偏光子と保護膜を貼合した偏光板が激しい温度履歴にさらされても、偏光子の割れを防ぐことができる。一方で、その量が75重量%を上回ると、以下に述べるジグリシジル化合物(A2)および単官能エポキシ化合物(A3)の量が相対的に少なくなって、本発明で企図する光硬化性接着剤の低粘度化および偏光子/保護膜間の密着力向上の両立が難しくなる。脂環式ジエポキシ化合物(A1)は、光カチオン硬化性成分(A)の全体量を基準に70重量%以上含有させることが、一層好ましい。
【0033】
また、光カチオン硬化性成分(A)におけるジグリシジル化合物(A2)の量は、5〜35重量%とする。光カチオン硬化性成分(A)中にジグリシジル化合物(A2)を5重量%以上配合することで、それを含む光硬化性接着剤を硬化させた後の貯蔵弾性率を高い値に保ちながら、偏光子と保護膜との間の密着力を高めることができる。一方で、その量が35重量%を上回ると、偏光子と保護膜との間の密着力が十分でなくなるとともに、光硬化性接着剤を硬化させた後の貯蔵弾性率も低くなる傾向にある。偏光子と保護膜との間の密着力や光硬化性接着剤の硬化後の貯蔵弾性率をより一層好ましい値とするうえでは、光カチオン硬化性成分(A)におけるジグリシジル化合物(A2)の量を25重量%以下とすることが、一層好ましい。
【0034】
さらに、光カチオン硬化性成分(A)における単官能エポキシ化合物(A3)の量は、2〜15重量%とする。光カチオン硬化性成分(A)中に単官能エポキシ化合物(A3)を2重量%以上配合することで、光硬化性接着剤の粘度を低下させ、良好な塗工性を示すようになるとともに、偏光子と保護膜との間の密着力を高める効果が発現する。一方で、その量が15重量%を上回ると、光硬化性接着剤を硬化させた後の貯蔵弾性率が十分に高くならず、その接着剤を介して偏光子と保護膜を貼合した偏光板が激しい温度履歴にさらされたときに、偏光子が割れやすくなる。
【0035】
脂環式ジエポキシ化合物(A1)を表す前記式(I)において、RおよびRは各々独立に、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であるが、アルキル基が炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよい。このアルキル基は、式(I)においてXに結合するシクロヘキサン環の位置を1−位として(したがって、2つのシクロヘキサン環におけるエポキシ基の位置はいずれも3,4−位となる)、1−位〜6−位のいずれの位置に結合することもできる。このアルキル基は、もちろん直鎖であってもよいし、炭素数3以上の場合は分岐していてもよい。また上述のとおり、炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよい。脂環構造を有するアルキル基の典型的な例としては、シクロペンチルやシクロヘキシルがある。
【0036】
同じく式(I)において、2つの3,4−エポキシシクロヘキサン環をつなぐXは、酸素原子、炭素数1〜6のアルカンジイル基または前記式(Ia)〜(Id)のいずれかで示される2価の基である。ここで、アルカンジイル基は、アルキレンやアルキリデンを含む概念であり、アルキレンは直鎖であってもよいし、炭素数3以上の場合は分岐していてもよい。
【0037】
また、Xが前記式(Ia)〜(Id)のいずれかで示される2価の基である場合、各式における連結基Y、Y、YおよびYは、各々炭素数1〜20のアルカンジイル基であり、このアルカンジイル基が炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよい。これらのアルカンジイル基ももちろん、直鎖であってもよいし、炭素数3以上の場合は分岐していてもよい。また上述のとおり、炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよい。脂環構造を有するアルカンジイル基の典型的な例としては、シクロペンチレンやシクロヘキシレンがある。
【0038】
式(I)で示される脂環式ジエポキシ化合物(A1)について具体的に説明すると、式(I)におけるXが前記式(Ia)で示される2価の基であり、その式中のaが0である化合物は、3,4−エポキシシクロヘキシルメタノール(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい)と、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい)とのエステル化物である。その具体例を挙げると、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート〔式(I)(ただし、Xはa=0である式(Ia)で示される2価の基)において、R=R=Hの化合物〕、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート〔上と同じXを有する式(I)において、R=6−メチル、R=6−メチルの化合物〕、3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキサンカルボキシレート〔上と同じXを有する式(I)において、R=1−メチル、R=1−メチルの化合物〕、3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキサンカルボキシレート〔上と同じXを有する式(I)において、R=3−メチル、R=3−メチルの化合物〕などがある。
【0039】
式(I)におけるXが式(Ib)で示される2価の基である化合物は、アルキレングリコール類と3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい)とのエステル化物である。式(I)におけるXが式(Ic)で示される2価の基である化合物は、脂肪族ジカルボン酸類と3,4−エポキシシクロヘキシルメタノール(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい)とのエステル化物である。また、式(I)におけるXが式(Id)で示される2価の基である化合物は、3,4−エポキシシクロヘキシルメタノール(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい)のエーテル体(b=0の場合)、または、アルキレングリコール類もしくはポリアルキレングリコール類と3,4−エポキシシクロヘキシルメタノール(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい)とのエーテル化物(b>0の場合)である。
【0040】
ジグリシジル化合物(A2)を表す前記式(II)において、Zは、炭素数1〜9のアルキレン基、炭素数3もしくは4のアルキリデン基、2価の脂環式炭化水素基、または式−C2m−Z−C2n−で示される2価の基であり、ここで−Z−は、−O−、−CO−O−、−O−CO−、−SO−、−SO−、または−CO−であり、mおよびnは各々独立に1以上の整数であるが、両者の合計は9以下である。2価の脂環式炭化水素基の典型的な例としては、シクロペンチレンやシクロヘキシレンがある。
【0041】
式(II)においてZがアルキレン基である化合物は、アルキレングリコールのジグリシジルエーテルである。その具体例を挙げると、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,3−プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどがある。
【0042】
また、式(II)においてZが式−C2m−Z−C2n−で示される2価の基である場合は、Zが炭素数2以上のアルキレン基であり、そのアルキレン基のC−C結合が、−O−、−CO−O−、−O−CO−、−SO−、−SO−、または−CO−で中断されていることに相当する。
【0043】
単官能エポキシ化合物を表す前記式(III)において、Rは、炭素数1〜15のアルキル基である。このアルキル基ももちろん、直鎖であってもよいし、炭素数3以上の場合は分岐していてもよい。このアルキル基は、炭素数が比較的多め、たとえば6以上であるのが好ましく、さらには炭素数6〜10の範囲にあることが好ましい。なかでも分岐したアルキル基であるのが好ましい。式(III)で表される単官能エポキシ化合物の典型的な例として、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0044】
光硬化性接着剤を構成する光カチオン硬化性成分(A)は、以上説明した脂環式ジエポキシ化合物(A1)、ジグリシジル化合物(A2)および単官能エポキシ化合物(A3)を、それぞれ上で説明した割合で含有する。硬化前の光硬化性接着剤の低粘度化、その硬化物の貯蔵弾性率向上、および偏光子と保護膜の間の密着力向上をより一層効果的に図るうえでは、光硬化性接着剤の全体量を基準に、ジグリシジル化合物(A2)および単官能エポキシ化合物(A3)の合計量が25重量%以上となるようにすることが好ましい。
【0045】
光カチオン硬化性成分(A)は、脂環式ジエポキシ化合物(A1)、ジグリシジル化合物(A2)および単官能エポキシ化合物(A3)が上で説明した量となる範囲において、他のカチオン重合性化合物を含んでいてもよい。
【0046】
(光カチオン重合開始剤)
本発明では、以上のような光カチオン硬化性成分を活性エネルギー線の照射によるカチオン重合で硬化させて接着剤層を形成することから、光硬化性接着剤組成物には、光カチオン重合開始剤(B)を配合する。光カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、または電子線の如き活性エネルギー線の照射によって、カチオン種またはルイス酸を発生し、光カチオン硬化性成分(A)の重合反応を開始するものである。光カチオン重合開始剤は、光で触媒的に作用するため、光カチオン硬化性成分(A)に混合しても保存安定性や作業性に優れる。活性エネルギー線の照射によりカチオン種またはルイス酸を生じる化合物として、例えば、芳香族ジアゾニウム塩;芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩;鉄−アレン錯体などを挙げることができる。
【0047】
芳香族ジアゾニウム塩としては、たとえば、次のような化合物が挙げられる。
ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロアンチモネート、
ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロホスフェート、
ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロボレートなど。
【0048】
芳香族ヨードニウム塩としては、たとえば、次のような化合物が挙げられる。
ジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート、
ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、
ジ(4−ノニルフェニル)ヨードニウム ヘキサフルオロホスフェートなど。
【0049】
芳香族スルホニウム塩としては、たとえば、次のような化合物が挙げられる。
トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、
トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、
トリフェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
4,4’−ビス〔ジフェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート、
4,4’−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロアンチモネート、
4,4’−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート、
7−〔ジ(p−トルイル)スルホニオ〕−2−イソプロピルチオキサントン ヘキサフルオロアンチモネート、
7−〔ジ(p−トルイル)スルホニオ〕−2−イソプロピルチオキサントン テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
4−フェニルカルボニル−4’−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィド ヘキサフルオロホスフェート、
4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4’−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィド ヘキサフルオロアンチモネート、
4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4’−ジ(p−トルイル)スルホニオ−ジフェニルスルフィド テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなど。
【0050】
鉄−アレン錯体としては、たとえば、次のような化合物が挙げられる。
キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II) ヘキサフルオロアンチモネート、
クメン−シクロペンタジエニル鉄(II) ヘキサフルオロホスフェート、
キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II) トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタナイドなど。
【0051】
これらの光カチオン重合開始剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらのなかでも特に芳香族スルホニウム塩は、300nm付近の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械強度や接着強度を有する硬化物を与えることができるため、好ましく用いられる。
【0052】
光カチオン重合開始剤(B)の配合量は、光カチオン硬化性成分(A)全体100重量部に対して1〜10重量部とする。光カチオン硬化性成分(A)100重量部あたり光カチオン重合開始剤を1重量部以上配合することにより、光カチオン硬化性成分(A)を十分に硬化させることができ、得られる偏光板に高い機械強度と接着強度を与える。一方、その量が多くなると、硬化物中のイオン性物質が増加することで硬化物の吸湿性が高くなり、偏光板の耐久性能を低下させる可能性があるため、光カチオン重合開始剤(B)の量は、光カチオン硬化性成分(A)100重量部あたり10重量部以下とする。光カチオン重合開始剤(B)の配合量は、光カチオン硬化性成分(A)100重量部あたり2重量部以上とするのが好ましく、また6重量部以下とするのが好ましい。
【0053】
(光硬化性接着剤に配合しうるその他の成分)
本発明の光硬化性接着剤は、以上のようなエポキシ化合物を含む光カチオン硬化性成分(A)および光カチオン重合開始剤(B)に加えて、一般の光硬化性樹脂または接着剤に配合することが知られているその他の成分を含有することもできる。他の成分の好適な例として、光増感剤および光増感助剤を挙げることができる。光増感剤は、光カチオン重合開始剤(B)が示す極大吸収波長よりも長い波長に極大吸収を示し、光カチオン重合開始剤(B)による重合開始反応を促進させる化合物である。また光増感助剤は、光増感剤の作用を一層促進させる化合物である。保護膜の種類によっては、このような光増感剤、さらには光増感助剤を配合するのが好ましいことがある。
【0054】
光増感剤は、380nmよりも長い波長の光に極大吸収を示す化合物であることが好ましい。前記の光カチオン重合開始剤(B)は、300nm付近またはそれよりも短い波長に極大吸収を示し、その付近の波長の光に感応してカチオン種またはルイス酸を発生し、光カチオン硬化性成分(A)のカチオン重合を開始させるが、上記のような光増感剤を配合すれば、それよりも長い波長、特に380nmよりも長い波長の光にも感応するようになる。かかる光増感剤としては、アントラセン系化合物が有利に用いられる。アントラセン系光増感剤の具体例を挙げると、次のような化合物がある。
【0055】
9,10−ジメトキシアントラセン、
9,10−ジエトキシアントラセン、
9,10−ジプロポキシアントラセン、
9,10−ジイソプロポキシアントラセン、
9,10−ジブトキシアントラセン、
9,10−ジペンチルオキシアントラセン、
9,10−ジヘキシルオキシアントラセン、
9,10−ビス(2−メトキシエトキシ)アントラセン、
9,10−ビス(2−エトキシエトキシ)アントラセン、
9,10−ビス(2−ブトキシエトキシ)アントラセン、
9,10−ビス(3−ブトキシプロポキシ)アントラセン、
2−メチル−または2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン、
2−メチル−または2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセン、
2−メチル−または2−エチル−9,10−ジプロポキシアントラセン、
2−メチル−または2−エチル−9,10−ジイソプロポキシアントラセン、
2−メチル−または2−エチル−9,10−ジブトキシアントラセン、
2−メチル−または2−エチル−9,10−ジペンチルオキシアントラセン、
2−メチル−または2−エチル−9,10−ジヘキシルオキシアントラセンなど。
【0056】
光硬化性接着剤に上記のような光増感剤を配合することにより、それを配合しない場合に比べ、接着剤の硬化性が向上する。光カチオン硬化性成分(A)の100重量部に対して光増感剤を0.1重量部以上配合することにより、このような効果が発現する。一方、光増感剤の配合量が多くなると、低温保管時に析出する等の問題が生じることから、その量は、光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対して2重量部以下とするのが好ましい。偏光板のニュートラルグレーを維持する観点からは、偏光子と保護膜との接着力が適度に保たれる範囲で、光増感剤の配合量を少なくするほうが有利であり、たとえば、光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対し、光増感剤の量を0.1〜0.5重量部、さらには0.1〜0.3重量部の範囲とするのが一層好ましい。
【0057】
次に光増感助剤について説明する。光増感助剤にも各種のものがあるが、ナフタレン系化合物が有利に用いられる。ナフタレン系光増感助剤の具体例を挙げると、次のような化合物がある。
【0058】
4−メトキシ−1−ナフトール、
4−エトキシ−1−ナフトール、
4−プロポキシ−1−ナフトール、
4−ブトキシ−1−ナフトール、
4−ヘキシルオキシ−1−ナフトール、
1,4−ジメトキシナフタレン、
1−エトキシ−4−メトキシナフタレン、
1,4−ジエトキシナフタレン、
1,4−ジプロポキシナフタレン、
1,4−ジブトキシナフタレンなど。
【0059】
光硬化性接着剤にナフタレン系光増感助剤を配合することにより、それを配合しない場合に比べ、接着剤の硬化性が向上する。光カチオン硬化性成分(A)の100重量部に対してナフタレン系光増感助剤を0.1重量部以上配合することにより、このような効果が発現する。一方、ナフタレン系光増感助剤の配合量が多くなると、低温保管時に析出する等の問題を生じることから、その量は、光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対して5重量部以下とするのが好ましく、さらには3重量部以下とするのが一層好ましい。
【0060】
(光硬化性接着剤の物性)
本発明の光硬化性接着剤は、先述のとおり、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に保護膜を貼合するために用いられる。これらの偏光子および保護膜のうち少なくとも一方の貼合面にこの接着剤を塗布した後、その接着剤層を介して両者を重ね合わせ、接着剤が硬化される。そして、偏光子および/または保護膜への塗工適性を向上させるためには、その接着剤の粘度は低いほうが好ましい。本発明においては、光カチオン硬化性成分(A)として、上で説明した特定の3種類の化合物を所定割合で配合したことによって、光硬化性接着剤の粘度が低くなり、塗工適性が改善される。具体的には、この光硬化性接着剤は、25℃における粘度が100mPa・sec以下となるようにすることができる。
【0061】
また、偏光子と保護膜との間の密着性を向上させるうえでは、この接着剤を硬化させることにより得られる接着剤層の貯蔵弾性率が高いほど好ましい。本発明においては、やはり光カチオン硬化性成分(A)として、上で説明した特定の3種類の化合物を所定割合で配合したことにより、上記したとおり硬化前の粘度を低い値に保って塗工適性を維持しながら、硬化物の貯蔵弾性率を高めることができる。具体的には、その光硬化性接着剤の硬化物が、80℃において1,000MPa以上の貯蔵弾性率を示すようにすることができる。
【0062】
[偏光板]
本発明では、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の少なくとも一方の面に、上で説明した光硬化性接着剤を介して、透明樹脂からなる保護膜を貼合し、その光硬化性接着剤を硬化させて偏光板とする。本発明では上述したとおり、光硬化性接着剤の硬化物である接着剤層の貯蔵弾性率を高め、偏光子と保護膜との間の密着性を高めることができる。そのため、偏光子と保護膜の間の180度はく離試験による接着強さが0.6N/25mm以上となるようにすることができる。ここで180度はく離試験は、JIS K 6854−2:1999「接着剤−はく離接着強さ試験方法−第2部:180度はく離」に準じて行なわれる。
【0063】
以下、本発明の偏光板を構成する偏光子および保護膜について説明し、さらに偏光板の製造方法について簡単に説明する。
【0064】
(偏光子)
偏光子は、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成される。偏光子を構成するポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂は、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルおよびこれと共重合可能な他の単量体の共重合体であってもよい。酢酸ビニルに共重合される他の単量体として、たとえば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%、好ましくは98〜100モル%の範囲である。ポリビニルアルコール系樹脂はさらに変性されていてもよく、たとえば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用しうる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1,000〜10,000、好ましくは1,500〜5,000の範囲である。
【0065】
偏光子は、このようなポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色して、その二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程を経て、製造される。
【0066】
一軸延伸は、二色性色素による染色の前に行ってもよいし、二色性色素による染色と同時に行ってもよいし、二色性色素による染色の後に行ってもよい。一軸延伸を二色性色素による染色後に行う場合、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。またもちろん、これらの複数の段階で一軸延伸を行うことも可能である。一軸延伸するには、周速の異なるロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶剤により膨潤した状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常4〜8倍程度である。
【0067】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色するには、たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬すればよい。二色性色素として、具体的にはヨウ素または二色性有機染料が用いられる。
【0068】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は通常、ヨウ素およびヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は通常、水100重量部あたり0.01〜0.5重量部程度であり、ヨウ化カリウムの含有量は通常、水100重量部あたり0.5〜10重量部程度である。この水溶液の温度は、通常20〜40℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常30〜300秒程度である。
【0069】
一方、二色性色素として二色性有機染料を用いる場合は、通常、水溶性の二色性有機染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性有機染料の含有量は通常、水100重量部あたり1×10-3〜1×10-2重量部程度である。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を含有していてもよい。この水溶液の温度は、通常20〜80℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常30〜300秒程度である。
【0070】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液に浸漬することにより行われる。ホウ酸水溶液におけるホウ酸の含有量は通常、水100重量部あたり2〜15重量部程度、好ましくは5〜12重量部程度である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合には、このホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有するのが好ましい。ホウ酸水溶液におけるヨウ化カリウムの含有量は通常、水100重量部あたり2〜20重量部程度、好ましくは5〜15重量部である。ホウ酸水溶液への浸漬時間は、通常100〜1,200秒程度、好ましくは150〜600秒程度、さらに好ましくは200〜400秒程度である。ホウ酸水溶液の温度は、通常50℃以上、好ましくは50〜85℃である。
【0071】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、たとえば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬することにより行われる。水洗後は乾燥処理が施されて、偏光子が得られる。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃程度であり、浸漬時間は、通常2〜120秒程度である。その後に行われる乾燥処理は通常、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行われる。乾燥温度は、通常40〜100℃である。また、乾燥処理の時間は、通常120〜600秒程度である。
【0072】
かくして得られるポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の厚さは、10〜50μm程度とすることができる。
【0073】
(保護膜)
上で説明したポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に、先に説明した光硬化性接着剤を介して保護膜を貼合し、光硬化性接着剤を硬化させて偏光板とする。保護膜は、従来から偏光板の保護膜として最も広く用いられているトリアセチルセルロースをはじめとするアセチルセルロース系樹脂フィルムや、トリアセチルセルロースよりも透湿度の低い樹脂フィルムで構成することができる。トリアセチルセルロースの透湿度は、概ね400g/m/24hr程度である。
【0074】
一つの好ましい形態では、偏光子の少なくとも一方の面に貼合される保護膜が、アセチルセルロース系樹脂で構成される。特に偏光子の一方の面に貼合される保護膜は、紫外線吸収剤が配合されているアセチルセルロース系樹脂で構成することもできる。もう一つの好ましい形態では、偏光子の少なくとも一方の面に貼合される保護膜が、トリアセチルセルロースより透湿度の低い樹脂フィルム、たとえば、透湿度が300g/m/24hr以下の樹脂フィルムで構成される。このような透湿度の低い樹脂フィルムを構成する樹脂として、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、鎖状ポリオレフィン系樹脂などを挙げることができる。これらのなかでも、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂および鎖状ポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。さらにもう一つの好ましい形態では、偏光子の一方の面に前記接着剤層を介して、アセチルセルロース系樹脂からなる保護膜が貼合され、偏光子の他方の面に同じく前記接着剤層を介して、上記のような透湿度の低い透明樹脂からなる保護膜が貼合される。
【0075】
アセチルセルロース系樹脂は、セルロースにおける水酸基の少なくとも一部が酢酸エステル化されている樹脂であり、一部が酢酸エステル化され、一部が他の酸でエステル化されている混合エステルであってもよい。アセチルセルロース系樹脂の具体例として、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどを挙げることができる。
【0076】
非晶性ポリオレフィン系樹脂は、ノルボルネンやテトラシクロドデセン(別名ジメタノオクタヒドロナフタレン)、あるいはそれらに置換基が結合した化合物のような、環状オレフィンの重合単位を有する重合体であり、環状オレフィンに鎖状オレフィンおよび/または芳香族ビニル化合物を共重合させた共重合体であってもよい。環状オレフィンの単独重合体、あるいは2種以上の環状オレフィンの共重合体の場合は、開環重合によって二重結合が残るので、そこに水素添加されたものが、非晶性ポリオレフィン系樹脂として一般的に用いられる。なかでも、熱可塑性ノルボルネン系樹脂が代表的である。
【0077】
ポリエステル系樹脂は、二塩基酸と二価アルコールとの縮合重合によって得られる重合体であり、ポリエチレンテレフタレートが代表的である。アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルを主な単量体とする重合体であり、メタクリル酸メチルの単独重合体のほか、メタクリル酸メチルと、アクリル酸メチルのようなアクリル酸エステルや芳香族ビニル化合物などとの共重合体であってもよい。ポリカーボネート系樹脂は、主鎖にカーボネート結合(−O−CO−O−)を持つ重合体であり、ビスフェノールAとホスゲンとの縮合重合によって得られるものが代表的である。鎖状ポリオレフィン系樹脂は、エチレンやプロピレンの如き鎖状オレフィンを主な単量体とする重合体であり、単独重合体や共重合体であることができる。なかでも、プロピレンの単独重合体や、プロピレンに少量のエチレンが共重合されている共重合体が代表的である。
【0078】
このような保護膜は、偏光子に貼合される面とは反対側の面に、ハードコート層、反射防止層、防眩層、または帯電防止層の如き、各種の表面処理層を有していてもよい。保護膜は、このような表面処理層が形成されている場合を含めて、その厚さを5〜150μm程度とすることができる。その厚さは、好ましくは10μm以上であり、また好ましくは120μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。
【0079】
(偏光板の製造方法)
偏光板の製造にあたっては、上で説明した光硬化性接着剤の塗布層を、偏光子と保護膜の貼合面の一方または両方に形成し、その塗布層を介して偏光子と保護膜を貼合し、こうして形成される未硬化の光硬化性接着剤の塗布層を、活性エネルギー線の照射により硬化させ、保護膜を偏光子上に固着させる。光硬化性接着剤の塗布層は、偏光子の貼合面に形成してもよいし、保護膜の貼合面に形成してもよい。塗布層の形成には、たとえば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。また、偏光子と保護膜を両者の貼合面が内側となるように連続的に供給しながら、その間に接着剤を流延させる方式を採用することもできる。各塗工方式には、各々最適な粘度範囲があるため、溶剤を用いて粘度調整を行うことも有用な技術である。このための溶剤には、偏光子の光学性能を低下させることなく、光硬化性接着剤を良好に溶解するものが用いられるが、その種類に特別な限定はない。たとえば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類などの有機溶剤が使用できる。接着剤層の厚さは、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。接着剤層が厚くなると、接着剤の反応率が低下し、偏光板の耐湿熱性が悪化する傾向にある。
【0080】
偏光子と保護膜を接着するにあたり、両者の貼合面の一方または双方には、接着剤の塗布層を形成する前に、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、プライマー処理、またはアンカーコーティング処理の如き易接着処理が施されてもよい。
【0081】
光硬化性接着剤の塗布層に活性エネルギー線を照射するために用いる光源は、紫外線、電子線、X線などを発生するものであればよい。特に、波長400nm以下に発光分布を有する、たとえば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどが好適に用いられる。光硬化性接着剤への活性エネルギー線照射強度は、目的とする組成物毎に決定されるものであり、特に限定されないが、光カチオン重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜100mW/cmとなるようにすることが好ましい。光硬化性接着剤への光照射強度が小さすぎると、反応時間が長くなりすぎ、一方でその光照射強度が大きすぎると、ランプから輻射される熱および光硬化性接着剤の重合時の発熱により、光硬化性接着剤の黄変や偏光子の劣化を生じる可能性がある。光硬化性接着剤への光照射時間は、硬化する組成物毎に制御されるものであって、やはり特に限定されないが、照射強度と照射時間との積で表される積算光量が10〜5,000mJ/cmとなるように設定されることが好ましい。光硬化性接着剤への積算光量が小さすぎると、光カチオン重合開始剤由来の活性種の発生が十分でなく、得られる接着剤層の硬化が不十分となる可能性があり、一方でその積算光量を大きくしようとすると、照射時間が非常に長くなり、生産性向上には不利なものとなる。
【0082】
偏光子の両面に保護膜を貼合する場合、活性エネルギー線の照射はどちらの保護膜側から行ってもよいが、たとえば、一方の保護膜が紫外線吸収剤を含有し、他方の保護膜が紫外線吸収剤を含有しない場合には、紫外線吸収剤を含有しない保護膜側から活性エネルギー線を照射するのが、照射される活性エネルギー線を有効に利用し、硬化速度を高めるうえで好ましい。
【0083】
[積層光学部材]
本発明の偏光板は、偏光板以外の光学機能を有する光学層を積層して、積層光学部材とすることができる。典型的には、偏光板の保護膜に、接着剤や粘着剤を介して光学層を積層貼着することにより、積層光学部材とされるが、その他、たとえば、偏光子の一方の面に本発明に従って光硬化性接着剤を介して保護膜を貼合し、偏光子の他方の面に接着剤や粘着剤を介して光学層を積層貼着することもできる。後者の場合、偏光子と光学層を貼着するための接着剤として、本発明で規定する光硬化性接着剤を用いれば、その光学層は、同時に本発明で規定する保護膜ともなりうる。
【0084】
偏光板に積層される光学層の例を挙げると、液晶セルの背面側に配置される偏光板に対しては、その偏光板の液晶セルに面する側とは反対側に積層される、反射層、半透過反射層、光拡散層、集光板、輝度向上フィルムなどがある。また、液晶セルの前面側に配置される偏光板および液晶セルの背面側に配置される偏光板のいずれに対しても、その偏光板の液晶セルに面する側に積層される位相差フィルムなどがある。
【0085】
反射層、半透過反射層、または光拡散層は、それぞれ反射型の偏光板(光学部材)、半透過反射型の偏光板(光学部材)、または拡散型の偏光板(光学部材)とするために設けられる。反射型の偏光板は、視認側からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置に用いられ、バックライト等の光源を省略できるため、液晶表示装置を薄型化しやすい。また半透過型の偏光板は、明所では反射型として、暗所ではバックライトからの光で表示するタイプの液晶表示装置に用いられる。反射型偏光板としての光学部材は、たとえば、偏光子上の保護膜にアルミニウム等の金属からなる箔や蒸着膜を付設して、反射層を形成することができる。半透過型の偏光板としての光学部材は、前記の反射層をハーフミラーとしたり、パール顔料等を含有して光透過性を示す反射板を偏光板に接着したりすることで形成できる。一方、拡散型偏光板としての光学部材は、たとえば、偏光板上の保護膜にマット処理を施す方法、微粒子含有の樹脂を塗布する方法、微粒子含有のフィルムを接着する方法など、種々の方法を用いて、表面に微細凹凸構造を形成する。
【0086】
さらに、反射拡散両用の偏光板として作用する光学部材を形成することもでき、その場合は、たとえば、拡散型偏光板の微細凹凸構造面にその凹凸構造が反映した反射層を設けるなどの方法が採用できる。微細凹凸構造の反射層は、入射光を乱反射により拡散させ、指向性やギラツキを防止し、明暗のムラを抑制しうるなどの利点を有する。また、微粒子を含有した樹脂層やフィルムは、入射光およびその反射光が微粒子含有層を透過する際に拡散され、明暗ムラを抑制しうるなどの利点も有する。表面微細凹凸構造を反映させた反射層は、たとえば、真空蒸着、イオンプレーティング、又はスパッタリングの如き蒸着やメッキ等の方法により、金属を微細凹凸構造の表面に直接付設することで形成できる。表面微細凹凸構造を形成するために配合する微粒子は、たとえば、平均粒径が0.1〜30μmであるシリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモンの如き無機系微粒子、架橋または非架橋のポリマーの如き有機系微粒子などでありうる。
【0087】
集光板は、光路制御等を目的に用いられるもので、プリズムアレイシートやレンズアレイシート、あるいはドット付設シートなどとして、形成することができる。
【0088】
輝度向上フィルムは、液晶表示装置における輝度の向上を目的に用いられるもので、その例としては、屈折率の異方性が互いに異なる薄膜フィルムを複数枚積層して反射率に異方性が生じるように設計された反射型偏光分離シート、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持した円偏光分離シートなどが挙げられる。
【0089】
他方、光学層として作用する上記した位相差フィルムは、液晶セルによる位相差の補償等を目的に使用される。その例としては、各種プラスチックの延伸フィルム等からなる複屈折性フィルム、ディスコティック液晶やネマチック液晶が配向固定されたフィルム、フィルム基材上に上記の液晶層が形成されたものなどが挙げられる。フィルム基材上に液晶層を形成する場合、フィルム基材として、トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂フィルムが好ましく用いられる。
【0090】
複屈折性フィルムを形成するプラスチックとしては、たとえば、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリプロピレンのような鎖状ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリアミドなどが挙げられる。延伸フィルムは、一軸や二軸等の適宜な方式で処理したものであることができる。なお、位相差フィルムは、広帯域化など光学特性の制御を目的として、2枚以上を組み合わせて使用してもよい。
【0091】
積層光学部材においては、偏光板以外の光学層として位相差フィルムを含むものが、液晶表示装置に適用したときに有効に光学保障を行えることから、好ましく用いられる。位相差フィルムの位相差値(面内および厚み方向)は、適用される液晶セルに応じて、最適なものを選べばよい。
【0092】
積層光学部材は、偏光板と、上述した各種の光学層から使用目的に応じて選択される1層または2層以上とを組み合わせ、2層または3層以上の積層体とすることができる。その場合、積層光学部材を形成する各種光学層は、接着剤や粘着剤を用いて偏光板と一体化されるが、そのために用いる接着剤や粘着剤は、接着剤層や粘着剤層が良好に形成されるものであれば特に限定はない。接着作業の簡便性や光学歪の発生防止などの観点から、粘着剤(感圧接着剤とも呼ばれる)を使用することが好ましい。粘着剤には、アクリル系重合体や、シリコーン系重合体、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどをベースポリマーとするものを用いることができる。なかでも、アクリル系粘着剤のように、光学的な透明性に優れ、適度な濡れ性や凝集力を保持し、基材との接着性にも優れ、さらには耐候性や耐熱性などを有し、加熱や加湿の条件下で浮きや剥がれ等の剥離問題を生じないものを選択して用いることが好ましい。アクリル系粘着剤においては、メチル基やエチル基やブチル基等の炭素数が20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどからなる官能基含有アクリル系モノマーとを、ガラス転移温度が好ましくは25℃以下、さらに好ましくは0℃以下となるように配合した、重量平均分子量が10万以上のアクリル系共重合体が、ベースポリマーとして有用である。
【0093】
偏光板への粘着剤層の形成は、たとえば、トルエンや酢酸エチルなどの有機溶媒に粘着剤組成物を溶解または分散させて10〜40重量%の溶液を調製し、これを偏光板上に直接塗工する方式や、予めプロテクトフィルム上に粘着剤層を形成しておき、それを偏光板上に移着する方式などにより、行うことができる。粘着剤層の厚さは、その接着力などに応じて決定されるが、1〜50μm程度の範囲が適当である。
【0094】
また、粘着剤層には必要に応じて、ガラス繊維やガラスビーズ、樹脂ビーズ、金属粉やその他の無機粉末などからなる充填剤、顔料や着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが配合されていてもよい。紫外線吸収剤には、サリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などがある。
【0095】
積層光学部材は、液晶セルの片側または両側に配置することができる。用いる液晶セルは任意であり、たとえば、薄膜トランジスタ型に代表されるアクティブマトリクス駆動型のもの、スーパーツイステッドネマチック型に代表される単純マトリクス駆動型のものなど、種々の液晶セルを使用して液晶表示装置を形成することができる。積層光学部材と液晶セルの接着には通常、上記したのと同様の粘着剤が用いられる。
【実施例】
【0096】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%および部は、特記ない限り重量基準である。また、以下の例で用いた光カチオン硬化性成分および光カチオン重合開始剤は次のとおりであり、以下それぞれの記号で表示する。
【0097】
(A)光カチオン硬化性成分
(a1) 3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート〔前記式(I)において、R=R=H、X=−COOCH−の化合物〕、
(a2) 1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル〔前記式(II)において、Z=−(CH−の化合物〕、
(a3) 2−エチルヘキシルグリシジルエーテル〔前記式(III)において、R=CH(CH−CH(CHCH)−CH−の化合物〕。
【0098】
(B)光カチオン重合開始剤(表では「開始剤」と略記)
(b1) トリアリールスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート。
【0099】
[実施例1および2ならびに比較例1〜9]
(1)光硬化性接着剤の調製
表1に示す配合割合(単位は部)で各成分を混合した後、脱泡して、光硬化性接着剤液を調製した。なお、光カチオン重合開始剤(b1)は、50%プロピレンカーボネート溶液として配合し、表1にはその固形分量で表示した。
【0100】
【表1】

【0101】
(2)接着剤液の25℃における粘度測定
上で調製したそれぞれの接着剤液につき、Anton Paar社製の回転式粘弾性測定装置“Physica MCR 301”を用いて、温度25℃における粘度を測定した。結果を表2に示した。
【0102】
(3)硬化物の80℃における貯蔵弾性率の測定
ポリエチレンテレフタレートフィルム〔商品名“東洋紡エステルフィルムE7002”、東洋紡績(株)製〕の片面に、塗工機〔バーコーター、第一理化(株)製〕を用いて、上記(1)で調製したそれぞれの接着剤液を硬化後の膜厚が約30μmとなるように塗工した。次に、フュージョンUVシステムズ社製の“Dバルブ”により紫外線を積算光量が3,000mJ/cmとなるように照射して、接着剤を硬化させた。これを5mm×30mmの大きさに裁断し、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥がして接着剤の硬化フィルムを得た。この硬化フィルムをその長辺が引張り方向となるように、アイティー計測制御(株)製の動的粘弾性測定装置“DVA−220”を用いてつかみ具の間隔2cmで把持し、引張りと収縮の周波数を1Hz、昇温速度を3℃/分に設定して、温度80℃における貯蔵弾性率を求めた。結果を表2に示した。
【0103】
(4)偏光板の作製
紫外線吸収剤を含む厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム〔商品名“コニカタックKC8UX2MW”、コニカミノルタオプト(株)製〕の表面にコロナ放電処理を施し、そのコロナ放電処理面に、上で調製したそれぞれの接着剤液を硬化後の膜厚が約2μmとなるように、バーコーターを用いて塗工した。その接着剤層に、厚さ28μmのポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光子を貼合した。また、アセチルセルロース系樹脂からなる厚さ40μmの位相差フィルム〔商品名“N−TAC KC4FR−1”、コニカミノルタオプト(株)製〕の表面にコロナ放電処理を施し、そのコロナ放電処理面に、上と同じ接着剤液を硬化後の膜厚が約2μmとなるように、バーコーターを用いて塗工した。その接着剤層に、上で作製したトリアセチルセルロースフィルムが片面に貼合された偏光子の偏光子側を貼合し、積層物を作製した。この積層物のアセチルセルロース系位相差フィルム側から、ベルトコンベア付き紫外線照射装置(ランプは、フュージョンUVシステムズ社製の“Dバルブ”使用)を用いて積算光量が250mJ/cmとなるように紫外線を照射し、接着剤を硬化させた。こうして、偏光子の両面に保護膜が貼合された偏光板を作製した。
【0104】
(5)180度はく離試験
上記(4)で作製した偏光板を長さ200mm×幅25mmの大きさに裁断した。そして、アセチルセルロース系位相差フィルム側にアクリル系の粘着剤層を設けて、そのアセチルセルロース系位相差フィルムと偏光子の間のはく離強さを測定するための試験片とし、これとは別に、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム側にアクリル系の粘着剤層を設けて、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルムと偏光子の間のはく離強さを測定するための試験片とした。それぞれの試験片の粘着剤層をガラス板に貼り、偏光子と粘着剤側の保護フィルム(アセチルセルロース系位相差フィルムまたは厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム)の間にカッターの刃を入れ、長さ方向に端から30mm剥がして、その剥がした部分を試験機のつかみ部でつかんだ。この状態の試験片を、温度23℃および相対湿度55%の雰囲気中にて、JIS K 6854−2:1999「接着剤−はく離接着強さ試験方法−第2部:180度はく離」に準じて、つかみ移動速度300mm/分で180度はく離試験を行ない、つかみ部の30mmを除く170mmの長さにわたる平均はく離力を求めた。結果を表2に示した。表2の180度はく離強さの項中、「N−TAC/PVA」の列は、上記したアセチルセルロース系位相差フィルムとポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光子の間のはく離強さを表し、「TAC/PVA」の列は、上記した厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルムとポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光子の間のはく離強さを表す。
【0105】
(6)冷熱衝撃試験による偏光板の耐久性評価
上記(4)で作製した偏光板を170mm×110mmの大きさに裁断し、そのアセチルセルロース系位相差フィルム側にアクリル系の粘着剤層を設け、その粘着剤層をガラス板に貼って、冷熱衝撃試験(ヒートショック試験)を行なった。冷熱衝撃試験は、上記のガラス板に貼合された偏光板サンプルを、−35℃で1時間保持し、次に70℃に昇温して1時間保持する操作を1サイクルとし、これを合計300サイクル繰り返すことにより行なった。この試験をそれぞれの偏光板サンプル6枚ずつについて行ない、試験後の偏光子に割れが観察されたものの全サンプル数(6)に対する割合で評価した。結果を表2に示した。
【0106】
【表2】

【0107】
表1および表2からわかるように、光カチオン硬化性成分(A)を(a1)と(a2)の2元系とした比較例1〜2では、保護膜と偏光子との間のはく離強さが、N−TAC/PVA間およびTAC/PVA間とも、0.6N/25mmより大きくはならない。また、比較例3では、接着剤硬化物の弾性率が低く、冷熱衝撃試験において偏光子が割れることがある。光カチオン硬化性成分(A)を(a1)と(a3)の2元系とした比較例4および5では、接着剤硬化物の弾性率が低く、冷熱衝撃試験において偏光子が割れる。光カチオン硬化性成分(A)を(a1)と(a2)と(a3)の3元系とした場合でも、(a3)を20部〔光カチオン硬化性成分(A)中で20%〕配合した比較例8および9は、やはり接着剤硬化物の弾性率が低いため、冷熱衝撃試験において偏光子が割れ、一方で(a1)の配合量を80部以上〔光カチオン硬化性成分(A)中で80%以上〕とした比較例6および7は、保護膜とPVAとの間のはく離強さが0.6N/25mm以上にならない。これに対し、実施例1および2のように、(a1)と(a2)と(a3)を所定割合で配合した接着剤は、低粘度であり、その硬化物が高い弾性率を与えるため、偏光子が割れにくく、密着性の高い偏光板を与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子に、透明樹脂からなる保護膜を貼合するための接着剤であって、
(A)光カチオン硬化性成分100重量部に対し、
(B)光カチオン重合開始剤を1〜10重量部含有し、
前記光カチオン硬化性成分(A)は、その全体量を基準に、
(A1)下式(I):
【化1】

(式中、RおよびRは各々独立に水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表すが、アルキル基が炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよく;
Xは酸素原子、炭素数1〜6のアルカンジイル基または下式(Ia)〜(Id):
【化2】

のいずれかで示される2価の基を表し、ここでY〜Yは各々炭素数1〜20のアルカンジイル基を表すが、炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよく;
aおよびbは各々0〜20の整数を表す。)
で示される脂環式ジエポキシ化合物を60〜75重量%、
(A2)下式(II):
【化3】

(式中、Zは炭素数1〜9のアルキレン基、炭素数3もしくは4のアルキリデン基、2価の脂環式炭化水素基、または式−C2m−Z−C2n−で示される2価の基を表し、ここで−Z−は、−O−、−CO−O−、−O−CO−、−SO−、−SO−、または−CO−を表し、mおよびnは各々独立に1以上の整数を表すが、両者の合計は9以下である。)
で示されるジグリシジル化合物を5〜35重量%、および
(A3)下式(III):
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜15のアルキル基を表す。)
で示される単官能エポキシ化合物を2〜15重量%含有する、光硬化性接着剤。
【請求項2】
単官能エポキシ化合物(A3)を表す式(III)において、Rが炭素数6〜10のアルキル基である請求項1に記載の光硬化性接着剤。
【請求項3】
25℃における粘度が100mPa・sec以下である請求項1または2に記載の光硬化性接着剤。
【請求項4】
その硬化物が、80℃において1,000MPa以上の貯蔵弾性率を示す請求項1〜3のいずれかに記載の光硬化性接着剤。
【請求項5】
二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の少なくとも一方の面に接着剤を介して透明樹脂からなる保護膜が貼合されてなり、前記接着剤は、請求項1〜4のいずれかに記載の光硬化性接着剤の硬化物である、偏光板。
【請求項6】
偏光子の一方の面に貼合される保護膜は、紫外線吸収剤が配合されているアセチルセルロース系樹脂フィルムである請求項5に記載の偏光板。
【請求項7】
偏光子の少なくとも一方の面に貼合される保護膜は、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂および鎖状ポリオレフィン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂のフィルムである請求項5または6に記載の偏光板。
【請求項8】
偏光子と保護膜の間の180度はく離試験による接着強さが0.6N/25mm以上である請求項5〜7のいずれかに記載の偏光板。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載の偏光板と他の光学層との積層体からなる、積層光学部材。
【請求項10】
前記他の光学層は位相差フィルムを含む請求項9に記載の積層光学部材。

【公開番号】特開2012−208250(P2012−208250A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72906(P2011−72906)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】