説明

光硬化性組成物、および光硬化性インクジェットインク

【課題】マレイミド誘導体を含む光硬化性組成物であって、粘度が低く、硬化膜の柔軟性や耐候性に優れた光硬化性組成物を提供する。
【解決手段】一般式(1)


(一般式(1)において、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示し、RとRとは、互いに結合して環を形成してもよく;Rは、分子量15〜600の直鎖または分岐のアルキル基、分子量45〜600のオキシアルキル基またはアリール基を示し;Aは、単結合、メチレン基またはエチレン基を示し;Xは、炭素数3以上の直鎖または分岐のアルキル基、アリール基、−COOR、−CONH、−CONHR、−OR、−SR(Rは分子量15〜600の直鎖または分岐のアルキル基、分子量45〜600のオキシアルキル基またはアリール基)からなる群より選ばれる1価の基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物、および光硬化性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
マレイミド化合物は、モノマーまたは架橋剤として光硬化性組成物に配合されることがある。例えば、電荷移動錯体重合(CT重合)と称される重合反応は、ビニルエーテルをはじめとする電子過多なドナーモノマーと、無水マレイン酸やマレイミドなどの電子不足モノマーとの組み合わせで行う重合反応である。
【0003】
光硬化性組成物に配合されるマレイミドとして、種々の誘導体が提案されている(特許文献1を参照)。特許文献1には、実用的な光強度/光照射量で硬化反応が起こり、常温で液体の多価マレイミド化合物と、それを含む光硬化性樹脂組成物とが提案されている。
【0004】
また、マレイミド誘導体を含む光硬化性組成物を、光硬化性インクジェットインクとして用いることも検討されている(特許文献2を参照)。特許文献2には、マレイミド誘導体を含有する活性エネルギー線硬化性インクジェットインク組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−302278号公報
【特許文献2】特開2003−213171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、インクジェットインクには、インクジェットヘッドからインク液滴として吐出させるため、低粘度であることが求められる。そして、記録媒体に着弾したインク液滴には、速やかに光硬化すること、および得られる硬化膜が柔軟性や耐候性を有することが求められる。
【0007】
ビスマレイミドなどの多価マレイミドは、迅速に光硬化することができるので、それを含む組成物の光硬化性も高まる。しかしながら、前述の特許文献1に記載の多価マレイミド誘導体を含む光硬化性組成物は粘度が高く、インクジェットインクの液滴としてインクジェットヘッドから吐出させることは困難であった。
【0008】
さらに、特許文献1および2に記載のマレイミド誘導体を含む光硬化性組成物の硬化膜は、十分な柔軟性や耐候性を有するものではなかった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、マレイミド誘導体を含む光硬化性組成物であって、粘度が低く、硬化膜の柔軟性や耐候性などに優れた光硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 下記一般式(1)で表されるマレイミド誘導体を含有する、光硬化性組成物。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)において、
およびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示し、RとRとは、互いに結合して環を形成してもよく;
は、分子量15〜600の直鎖または分岐のアルキル基、分子量45〜600のオキシアルキル基またはアリール基を示し;
Aは、単結合、メチレン基またはエチレン基を示し;
Xは、炭素数3以上の直鎖または分岐のアルキル基、アリール基、−COOR、−CONH、−CONHR、−OR、−SR(Rは分子量15〜600の直鎖または分岐のアルキル基、分子量45〜600のオキシアルキル基またはアリール基)からなる群より選ばれる1価の基を示す。)
[2] 前記一般式(1)における、RおよびRは、水素原子またはメチル基を示し;
は、炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルキル基、分子量500以下のポリオキシアルキル基、またはアリール基を示し;Xは、炭素数3以上の分岐のアルキル基を示す、[1]に記載の光硬化性組成物。
[3] RおよびRは、水素原子またはメチル基を示し;Rは、炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルキル基、分子量500以下のポリオキシアルキル基、またはアリール基を示し;Xは、−COOR(Rは炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルキル基、分子量500以下のポリオキシアルキル基、またはアリール基)を示す、[1]に記載の光硬化性組成物。
[4] 前記一般式(1)における、Rは、炭素数3〜18の直鎖または分岐のアルキル基、または分子量59〜500のポリオキシアルキル基を示し;Xは、−COOR(Rは炭素数3〜18の直鎖または分岐のアルキル基、または分子量59〜500のポリオキシアルキル基)を示す、[3]に記載の光硬化性組成物。
【0011】
[5] [1]〜[4]のいずれかに記載の光硬化性組成物を含有する、光硬化性インクジェットインク。
[6] 少なくとも重合性化合物をさらに含有し、前記重合性化合物が、ビニルエーテル化合物またはN−ビニル化合物である、[5]に記載の光硬化性インクジェットインク。
[7] 前記マレイミド化合物のマレイミド基と、ビニルエーテル化合物およびN−ビニル化合物のビニル基の合計との当量比が、20/80〜70/30である、[6]に記載の光硬化性インクジェットインク。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光硬化組成物は十分に粘度が低いため、種々の塗布法によって塗膜にされた後、光硬化されて硬化膜となる。特に、インクジェット法で塗布される光硬化性インクジェットインクとして好適に用いられる。また、得られる硬化膜は、柔軟性や耐候性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光硬化性組成物はマレイミド誘導体を含有し、マレイミド誘導体が一般式(1)で表されることを特徴とする。
【0014】
1.マレイミド誘導体について
本発明の光硬化性組成物に含まれるマレイミド誘導体は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
一般式(1)
【化2】

【0015】
一般式(1)におけるRおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示す。炭素数1〜6のアルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが含まれる。また、RとRが互いに連結して、シクロブチレン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環などの炭化水素環を構成してもよい。RおよびRは、マレイミド環の光硬化感度を高める観点からは、水素原子またはメチル基であり、より好ましくは水素原子である。
【0016】
一般式(1)におけるRは、アルキル基、オキシアルキル基またはアリール基を示す。アルキル基は、側鎖を有さない直鎖状であっても、側鎖を有する分岐鎖状であってもよく、環状構造を含むアルキル基であってもよい。アルキル基は、分子量15〜600であることが好ましく、炭素数1〜18であることがより好ましい。光硬化性組成物の硬化物の柔軟性を向上させる観点からはRが示すアルキル基の炭素数は3以上であることが好ましく、光硬化性組成物の光硬化感度を高める観点からは、Rが示すアルキル基の炭素数は18以下であることが好ましい。つまり、Rが示すアルキル基の炭素数を3〜18とすることで、光硬化感度が良好で、かつ硬化物の柔軟性が高い光硬化性組成物を得ることができる。環状構造を含むアルキル基の例には、シクロペンチル基やシクロヘキシル基などの環状アルキル基が含まれる。
【0017】
オキシアルキル基は、側鎖を有さない直鎖状であっても、側鎖を有する分岐鎖状であってもよい。オキシアルキル基は、分子量が45〜600であることが好ましく、光硬化性組成物の光硬化感度を高める観点からは、500以下であることがより好ましく、400以下であることがさらに好ましい。マレイミド誘導体を含む光硬化性組成物の硬化物の柔軟性を高めるためには、オキシアルキル基の分子量は59以上であることが好ましい。オキシアルキル基は、アルコキシアルキル基(エトキシブチル基など)や、ポリオキシアルキル基であってもよい。ポリオキシアルキル基とは、オキシアルキレンを繰り返し単位として含む置換基であり、オキシエチレンユニットを含む「CH−(OCHCH)n−」や「H−(OCHCH)n−」、オキシプロピレンユニットを含む「CH−(OCH(−CH)CH)m−」や「H−(OCH(−CH)CH)m−」などが例示できる。mおよびnは、それぞれ2以上の整数である。
【0018】
アリール基の例には、フェニル基、ナフチル基などとともに、ベンジル基などの芳香族環を含むアルキル基なども含まれる。アリール基が有する芳香族環の水素原子は、任意の置換基に置換されていてもよい。任意の置換基の例には、アルキル基やアルコキシ基などが含まれる。
【0019】
なかでも、Rは、光硬化性組成物の光硬化感度と、得られる硬化物の柔軟性とを高める観点などから、炭素数3〜18の直鎖もしくは分岐のアルキル基、または分子量59〜500(好ましくは分子量59〜400)のポリオキシアルキル基であることが好ましい。
【0020】
一般式(1)におけるAは、単結合、メチレン基またはエチレン基を示す。Xが電子吸引性基(−COOR、−CONH、−CONHR)であるマレイミド誘導体の光硬化感度を高める観点では、Aが単結合またはメチレン基であることが好ましい。
【0021】
一般式(1)におけるXは、1価の置換基である。Xが示す1価の置換基は、アルキル基、アリール基、−COOR、−CONH、−CONHR、−ORまたは−SRである。
【0022】
アルキル基は、側鎖を有さない直鎖状であっても、側鎖を有する分岐鎖状であってもよいが、光硬化組成物の硬化膜の柔軟性を高める観点からは、側鎖を有する分岐鎖状であることが好ましい。アルキル基の炭素数は1〜18であることが好ましい。光硬化組成物の硬化膜の柔軟性を高める観点からは、AとXの鎖炭素数の合計が3以上であることが好ましく、例えばAが単結合であるとき、Xが示すアルキル基の鎖炭素数は3以上であることが好ましい。
【0023】
アリール基の例には、フェニル基、ナフチル基などとともに、ベンジル基などの芳香族環を含むアルキル基なども含まれる。
【0024】
−COOR、−CONHR、−ORまたは−SRにおけるRは、アルキル基、オキシアルキル基またはアリール基を示す。Rが示すアルキル基、オキシアルキル基およびアリール基は、一般式(1)におけるRが示すアルキル基、オキシアルキル基またはアリール基と同様に定義される。光硬化組成物の硬化膜の柔軟性を高める観点からは、Rが示すアルキル基の鎖炭素数は3以上とすることが好ましく、光硬化性組成物の光硬化感度を高める観点からは、Rが示すアルキル基の鎖炭素数は18以下とすることが好ましい。鎖炭素数とは、アルキル基の主鎖を構成する炭素原子の数を意味し、主鎖に結合している側鎖の炭素数を含まない。Rが示すオキシアルキル基は、光硬化組成物の硬化膜の柔軟性を高める観点からは、分子量59以上とすることが好ましく、光硬化性組成物の光硬化感度を高める観点からは、Rが示すアルキル基の分子量は500以下とすることが好ましい。
【0025】
Xは、合成が比較的容易であるなどの観点から、炭素数3以上の分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。一方、マレイミド誘導体を含む光硬化性組成物の硬化物の柔軟性だけでなく、光硬化感度も高める観点からは、Xが示す1価の置換基は、好ましくは−COOR、−CONHRまたは−CONH(Rは、炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルキル基、分子量500以下のポリオキシアルキル基、またはアリール基)であり、より好ましくは−COORである。Xが示す1価の置換基が−COOR、−CONHRまたは−CONHであるマレイミド誘導体は、その電子吸引効果により反応性(光硬化性)が高められるからである。
【0026】
一般式(1)で表されるマレイミド誘導体の分子量は、300〜1000の範囲であることが好ましく、200〜800の範囲であることがより好ましい。分子量が300未満であるとマレイミド誘導体が結晶化しやすく、それを含む光硬化性組成物をインクとして射出させたときに、目詰まりを生じやすい。一方、分子量が1000超であると、マレイミド誘導体を含む光硬化性組成物の粘度が高くなり、インクジェットインクとしたときの射出安定性が低下しやすい。
【0027】
一般式(1)で表されるマレイミド誘導体は、1つのマレイミド基を有する。そのため、一般式(1)で表されるマレイミド誘導体を含む光硬化性組成物は、ビスマレイミドなどの多価ビスマレイミド化合物を含む光硬化性組成物よりも粘度が低い。
【0028】
また、一般式(1)で表されるマレイミド誘導体は、マレイミド環を構成する窒素原子に対してα位に、−A−Xで示される分岐を有し、かつその分岐が一定の長さを有する。それにより、一般式(1)で表されるマレイミド誘導体を含む光硬化性組成物の硬化膜の柔軟性が高められる。
【0029】
さらに、一般式(1)で表されるマレイミド誘導体は、−A−XにおけるXが電子吸引性を有する基であれば、その電子吸引効果によりマレイミド環の反応性が高められる。それにより、一般式(1)で表されるマレイミド誘導体は、マレイミド環を1つしか含まないにも係わらず、高い光硬化感度を有する。
【0030】
一般式(1)で表されるマレイミド誘導体の具体例を、以下に示す。まず、一般式(1)におけるXが−COORまたは−CONHであるマレイミド誘導体の具体例を示す。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【0031】
一般式(1)におけるXが炭素数3以上のアルキル基または−SRであるマレイミド誘導体の具体例を示す。
【化10】

【化11】

【0032】
一般式(1)におけるXがアリール基であるマレイミド誘導体の具体例を示す。
【化12】

【0033】
マレイミド誘導体の製造方法
一般式(1)で表されるマレイミド誘導体の製造方法は、特に限定されないが、1分子内にアミノ基とカルボキシル基を有する化合物から製造されうる。これらの化合物は、アミノ酸誘導体であり、市販されているか、または合成によって調製することができる。
【0034】
アミノ酸誘導体の例には、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、バリン、ロイシン、イソロイシン、システイン、メチオニン、セリン、トレオニン、フェニルアラニンなどが含まれる。
【0035】
以下において、グルタミン酸を例として、一般式(1)で表されるマレイミド誘導体の製造方法の例を示す。
【化13】

【0036】
ステップAでは、グルタミン酸の2つのカルボキシル基をエステル化して、置換基Rとして「プロピル基」、Xとして「プロピルオキシカルボニル基」を導入する。ステップBでは、アミノ基を、無水マレイン酸と反応させてアミド結合を形成してマレアミド酸とする。ステップCでは、マレアミド酸を閉環反応させてイミドを形成する。各ステップでの反応条件は、適宜選択して行えばよい。
【0037】
原料であるアミノ酸を「メチオニン」や「システイン」とすれば、Xが「−SR」や「−SH」であるマレイミド誘導体を得ることができる。原料であるアミノ酸を「セリン」や「トレオニン」とすれば、Xが「−OH」を有する基であるマレイミド誘導体を得ることができる。原料であるアミノ酸を「バリン」、「ロイシン」または「イソロイシン」とすれば、Xが炭素数3の分岐のアルキル基であるマレイミド誘導体を得ることができる。原料であるアミノ酸を「フェニルアラニン」とすれば、Xがフェニル基であるマレイミド誘導体を得ることができる。
【0038】
2.光硬化性組成物について
本発明の光硬化性組成物は、一般式(1)で表されるマレイミド誘導体を含有する。本発明の光硬化性組成物において、マレイミド誘導体は光重合性モノマーとして用いられうる。さらに、本発明の光硬化性組成物はマレイミド誘導体ともに、他の重合性化合物を含有することが好ましい。他の重合性化合物の例には、ビニルエーテル化合物、(メタ)アクリロイル化合物、N-ビニル化合物などのエチレン性二重結合を有する化合物が含まれるが;好ましくは、ビニルエーテル化合物またはN-ビニル化合物である。ビニルエーテル化合物またはN-ビニル化合物は、電子過多なドナーモノマーであるので、マレイミド誘導体と組み合わせることで、電荷移動錯体重合(CT重合)させることができる。
【0039】
本発明の光硬化性組成物が、マレイミド誘導体とともに、ビニルエーテル化合物およびN-ビニル化合物の少なくとも一方を、モノマーとして含有する場合には、マレイミド誘導体のマレイミド基と、ビニルエーテル化合物およびN-ビニル化合物のビニル基の合計との当量比(マレイミド基/ビニル基)が、20/80〜70/30の範囲にあることが好ましい。マレイミド誘導体とビニルエーテル化合物またはN-ビニル化合物とで、電荷移動錯体を形成しやすくして、光重合性を高めるためである。また、上記比率にすると、光硬化性組成物の粘度を適切な範囲に調整しやすい。上記の範囲を逸脱してビニル基の当量比が高くなると、光硬化感度が不十分となることがある。一方、上記の範囲を逸脱してマレイミド基の当量比が高くなると、粘度が過剰に上昇することがある。そのため、マレイミド基/ビニル基の当量比が上記範囲にある光硬化性組成物は、インクジェットインクとして用いると特に好ましい。
【0040】
マレイミド誘導体の含有量は、光硬化性組成物全体に対して35〜99質量%であることが好ましく、45〜80質量%であることがより好ましい。
【0041】
ビニルエーテル化合物
本発明の光硬化性組成物に含まれうるビニルエーテル化合物は、単官能または二官能以上の多官能ビニルエーテル化合物でありうる。
【0042】
単官能モノビニルエーテル化合物の例には、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、エチルエトキシビニルエーテル、アセチルエトキシエトキシビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、アダマンチルビニルエーテルなどが含まれる。
【0043】
二官能のビニルエーテル化合物の例には、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールビニルエーテル、ブチレンジビニルエーテル、ジブチレングリコールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ノルボルニルジメタノールジビニルエーテル、イソバイニルジビニルエーテル、ジビニルレゾルシン、ジビニルハイドロキノンなどが含まれる。
【0044】
三官能のビニルエーテル化合物の例には、グリセリントリビニルエーテル、グリセリンエチレンオキシド付加物トリビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数6)、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、トリビニルエーテルエチレンオキシド付加物トリビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数3)などが含まれる。
【0045】
四官能以上のビニルエーテル化合物の例には、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンヘキサビニルエーテル、それらのオキシエチレン付加物などが含まれる。
【0046】
上記各ビニルエーテル化合物のうち、より好ましいビニルエーテル化合物は、二官能以上のビニルエーテル化合物である。二官能以上のビニルエーテル化合物を用いると、光硬化感度の点でより好ましい。
【0047】
また、脂環式骨格を有するビニルエーテル化合物の例には、単官能の場合、例えばシクロヘキシルビニルエーテル、アダマンチルビニルエーテルなどを挙げることができる。二官能の場合はシクロヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ノルボルニルジメタノールジビニルエーテル、イソバイニルジビニルエーテルが例として挙げられる。
【0048】
N−ビニル化合物
本発明の光硬化性組成物に含まれうるN-ビニル化合物の例には、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタムなどが含まれる。
【0049】
(メタ)アクリロイル化合物
本発明の光硬化性組成物に含まれうる(メタ)アクリロイル化合物は、単官能であっても多官能であってもよい。
【0050】
単官能(メタ)アクリロイル化合物の例には、イソアミルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、デシルアクリレート、イソミルスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、t-ブチルシクロヘキシルアクリレートなどが含まれる。
【0051】
2官能の(メタ)アクリロイル化合物の例には、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、およびウレタンアクリレートやポリエステルアクリレートの二官能モノマーなどが含まれる。
【0052】
3官能以上の(メタ)アクリロイル化合物の例には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが含まれる。
【0053】
その他、本発明の光硬化性組成物に含まれうる他の重合性化合物として、マレイン酸、マレイン酸エステル類、フマル酸、フマル酸エステル類を挙げることができる。
【0054】
本発明の光硬化性組成物は、光開始剤を含有していてもよい。マレイミド誘導体も光開始剤として作用しうるので、マレイミド誘導体自体を光開始剤としてもよいが、あわせて他の光開始剤を含有することで、光硬化感度をより高めてもよい。これらの他の光開始剤は、必要に応じて溶解物または分散物として、光硬化性組成物に添加される。
【0055】
他の光開始剤の例は特に制限されないが、下記の通りに分類されうる。
【0056】
1)ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ビス-N,N-ジメチルアミノベンゾフェノン、ビス-N,N-ジエチルアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4'-ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類、及びそれらの塩;
2)チオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、クロロチオキサントン、イソプロポキシクロロチオキサントン等のチオキサントン類、及びそれらの塩;
3)エチルアントラキノン、ベンズアントラキノン、アミノアントラキノン、クロロアントラキノン等のアントラキノン類;
4)アセトフェノン類;
5)ベンゾインメチルエーテル等のベンゾインエーテル類;
6)2,4,6-トリハロメチルトリアジン類;
7)1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール2量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(m-メトキシフェニル)イミダゾール2量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-フェニルイミダゾール2量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-フェニルイミダゾール2量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール2量体、2,4-ジ(p-メトキシフェニル)-5-フェニルイミダゾール2量体、2-(2,4-ジメトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール2量体、2,4,5-トリアリールイミダゾール2量体等のイミダゾール類;
8)ベンジルジメチルケタール、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-1-プロパノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、フェナントレンキノン、9,10-フェナンスレンキノン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン類;
9)9-フェニルアクリジン、1,7-ビス(9,9'-アクリジニル)ヘプタン等のアクリジン誘導体;
10)ビスアシルフォスフィンオキサイド、ビスフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド;
11)4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、及びこれらのエチレンオキシド付加物。
【0057】
本発明の光硬化性組成物には、組成物による吸収波長を長波長側にシフトさせる目的で、増感剤が含有されうる。光増感剤の例には、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、スチリルケトン類、クマリン類、ローダミン類、シアニン類、メロシアニン類などが含まれる。また、特開2010−018728号公報などに記載されているジヒドロベンゾチアイン-4-オン増感剤を含んでいてもよい。
【0058】
光増感剤を加える場合の光増感剤の添加量は、光開始剤の添加量の0.1質量倍から2質量倍の範囲が好ましい。
【0059】
また、本発明の光硬化性組成物には、表面硬化性を高める目的で、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸アミル、トリエタノールアミンなどを加えてもよい。
【0060】
本発明の光硬化性組成物には、色材を添加して、有色の光硬化性組成物または光硬化性のインクジェットインクとしてもよい。
【0061】
色材は、染料および顔料いずれでもよいが、光硬化の特性上、光劣化しにくい顔料であることが好ましい。用いられる顔料の例には、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無色無機顔料または有色有機顔料が含まれる。
【0062】
有機顔料の例には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッドなどの不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの溶性アゾ顔料;アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーンなどの建染染料からの誘導体;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系有機顔料;キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系有機顔料;ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系有機顔料;イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系有機顔料;ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系有機顔料;チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロンイエローなどのキノフタロン系有機顔料;イソインドリンイエローなどのイソインドリン系有機顔料;その他の顔料として、フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレットなどが含まれる。
【0063】
有機顔料をカラーインデックス(C.I.)No.で以下に例示する。
【0064】
C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185;
C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61;
C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、177、180、192、202、206、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240;
C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;
C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64;
C.I.ピグメントグリーン7、36;
C.I.ピグメントブラウン23、25、26:
【0065】
上記顔料の中でも、キナクリドン系、フタロシアニン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系、縮合アゾ系、キノフタロン系、イソインドリン系有機顔料などは、耐光性が優れているため好ましい。
【0066】
光硬化性組成物中の、有機顔料の平均粒径は15〜250nmの微細粒子であることが好ましい。有機顔料の平均粒径は、レーザ散乱法による測定される。平均粒径が15nm未満の顔料は、粒径が小さいために耐光性が低下することがある。平均粒径が250nmを超える顔料は、粗大粒子が多く含まれるようになるために、インクジェットヘッドの目詰まりの原因になり、吐出安定性の低下や、サテライトと言われる微小のミスト発生などの問題を引き起こすことがある。ただし、白色度と隠蔽性を付与するために、酸化チタン顔料の平均粒径は150〜300nm、好ましくは180〜250nmとする。
【0067】
また、光硬化性組成物中の顔料の最大粒径は、1μmを越えないようにする。そのため、顔料は十分に分散させるか、またはろ過により粗大粒子を除くことが好ましい。粗大粒子が存在すると、前述の通り吐出安定性が低下する。有機顔料の微細化は公知の分散方法を用いて行うことができる。
【0068】
また、顔料は、酸性処理、塩基性処理、またはシナージストもしくは各種カップリング剤などによる表面処理などの、公知の技術により表面処理されていることが好ましい。それにより、顔料と顔料分散剤との吸着を促進して、分散安定性を確保することができる。
【0069】
光硬化性組成物における顔料の含有量は、十分な濃度および十分な耐光性を得るため、白色を除く顔料の含有量は1.5〜8質量%の範囲であることが好ましく、白色顔料である酸化チタンの含有量は10〜30質量%の範囲であることが好ましい。
【0070】
光硬化性組成物には、顔料を分散するための顔料分散剤が含まれていてもよい。顔料分散剤の例には、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ステアリルアミンアセテート、顔料誘導体などが含まれる。
【0071】
顔料分散剤の具体例としては、BYK Chemie社製の「Anti−Terra−U(ポリアミノアマイド燐酸塩)」、「Anti−Terra−203/204(高分子量ポリカルボン酸塩)」、「Disperbyk−101(ポリアミノアマイド燐酸塩と酸エステル)、107(水酸基含有カルボン酸エステル)、110(酸基を含む共重合物)、130(ポリアマイド)、161、162、163、164、165、166、170(高分子共重合物)」、「400」、「Bykumen(高分子量不飽和酸エステル)」、「BYK−P104、P105(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸)」、「P104S、240S(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸とシリコン系)」、「Lactimon(長鎖アミンと不飽和酸ポリカルボン酸とシリコン)」などが挙げられる。
【0072】
また、顔料分散剤の具体例として、Efka CHEMICALS社製の「エフカ44、46、47、48、49、54、63、64、65、66、71、701、764、766」、「エフカポリマー100(変性ポリアクリレート)、150(脂肪族系変性ポリマー)、400、401、402、403、450、451、452、453(変性ポリアクリレート)、745(銅フタロシアニン系)」;共栄化学社製の「フローレンTG−710(ウレタンオリゴマー)」、「フローノンSH−290、SP−1000」、「ポリフローNo.50E、No.300((メタ)アクリル系共重合物)」;楠本化成社製の「ディスパロンKS−860、873SN、874(高分子分散剤)、#2150(脂肪族多価カルボン酸)、#7004(ポリエーテルエステル型)」などが挙げられる。
【0073】
さらには、顔料分散剤の具体例として、花王社製の「デモールRN、N(ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、MS、C、SN−B(芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、EP」、「ホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子)」、「エマルゲン920、930、931、935、950、985(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)」、「アセタミン24(ココナッツアミンアセテート)、86(ステアリルアミンアセテート)」;ゼネカ社製の「ソルスパーズ5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13240、13940(ポリエステルアミン系)、17000(脂肪酸アミン系)、24000、32000、7000」;日光ケミカル社製の「ニッコールT106(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)、MYS−IEX(ポリオキシエチレンモノステアレート)、Hexagline4−0(ヘキサグリセリルテトラオレート)」、味の素ファインテクノ製のアジスパー821、822、824、ソルスパース24000GR(ルーブリゾール社製)等が挙げられる。
【0074】
これらの顔料分散剤の光硬化性組成物における含有量は、顔料100質量部に対して5〜70質量部、好ましくは10〜50質量部の範囲であることが好ましい。5質量部より少ないと分散安定性が得られず;70質量部より多いと、インクジェットインクとしたときの吐出安定性が劣化する場合がある。
【0075】
更に、これらの顔料分散剤は、0℃において、光硬化組成物中に5質量%以上溶解することが好ましい。溶解性が5質量%未満であると、光硬化組成物を低温保存したときにポリマーゲルまたは顔料の軟凝集体が発生するので、光硬化組成物の保存安定性が劣化し;また、インクジェットインクとしたときの吐出安定性が劣化する。
【0076】
本発明の光硬化性組成物には、保存安定性を得るために、ラジカル重合禁止剤を添加してもよい。
【0077】
ラジカル重合禁止剤の例には、メトキノン(ヒドロキノンモノメチルエーテル)、ハイドロキノン、4-メトキシ-1-ナフトール、ヒンダードアミン系酸化防止剤、含窒素複素環メルカプト系化合物、チオエーテル系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、アスコルビン酸類、硫酸亜鉛、チオシアン酸塩類、チオ尿素誘導体、各種糖類、リン酸系酸化防止剤、亜硝酸塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、ヒドロキシルアミン誘導体、ニトロシルラジカル類、ジシアンジアミドとポリアルキレンポリアミンの重縮合物などが含まれる。特に、ニトロシルラジカル類が好ましい。
【0078】
光硬化性組成物におけるラジカル重合禁止剤の添加量は、10〜5000ppmであることが好ましい。10ppm未満では保存安定性が得られず、光硬化性組成物の粘度が高まったり、撥液性が低下したりする。そのため、インクジェットインクとしての吐出安定性を損なう。一方、5000ppmより多いと、光硬化性組成物の光硬化感度が低下してしまう。
【0079】
本発明の光硬化性組成物には、必要に応じて界面活性剤、滑剤、充填剤、防錆剤、消泡剤、増粘剤、ゲル化剤、ポリマー類など各種の添加剤を含有させることができる。
【0080】
また、必要に応じてエステル系溶剤、エーテル系溶剤、エーテルエステル系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素溶剤、含窒素系有機溶剤など少量の溶剤を添加することもできる。しかしながら、本発明の光硬化性組成物は、過剰量の溶媒を含まずとも低粘度であるので、光硬化性組成物における溶媒の含有量は、30質量%以下とすることができ、10質量%以下としてもよく、実質的に含まなくてもよい。
【0081】
本発明の光硬化性組成物は、光照射されることで硬化されうる。光照射は、紫外線LED、紫外線レーザ、水銀アークランプ、キセノンアークランプ、低圧水銀灯、螢光ランプ、炭素アークランプ、タングステン−ハロゲン複写ランプなどの照射装置を用いて行ってもよいし、太陽光を照射して行ってもよい。好ましくは紫外線を照射して硬化させる。
【0082】
本発明の光硬化性組成物は、基材に塗布後、光照射されて硬化されるのが好ましい。基材に塗布する手段は特に限定されないが、本発明の光硬化性組成物は低粘度であるという特徴を有することから、好ましくはインクジェット法によって塗布されうる。つまり、本発明の光硬化性組成物は、インクジェットインクとして好適に用いられる。
【0083】
3.インクジェットインクについて
前述の通り、本発明の光硬化性組成物は、インクジェットインクとして好適に用いられうる。インクジェットインクは、ミクロンオーダーの径のインクジェットヘッドノズルから吐出されることから、粘度は25℃において5〜100mPa・sであることが好ましく、シェアレート依存性ができるだけ小さいことが好ましい。また、インクジェットインクの表面張力は25℃において22〜35mN/mの範囲にあること、顔料以外に1μmを超えるようなゲル状物質を含まないことが好ましい。
【0084】
また、インクジェットインクの電導度を10μS/cm以下の電導度とし、インクジェットヘッド内部で電気的な腐食が生じないようにすることが好ましい。さらに、コンティニュアスタイプのインクジェット装置に適用する場合には、インクジェットインクの電導度を0.5mS/cm以上に調整することが好ましい。この場合には、インクジェットインクには、電解質を添加して電導度を調整する。
【0085】
インクジェット法で基材に塗布したインクは、光を照射されて硬化する。基材は、従来、各種の用途で使用されている広汎な合成樹脂などであり、特に限定されない。基材の具体例には、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブタジエンテレフタレートなどが含まれる。これらの合成樹脂基材の厚みや形状は何ら限定されない。さらに、基材は金属類、ガラス、印刷用紙などであってもよい。
【0086】
基材に塗布されたインクの光照射は、インクジェットプリンターに具備された光照射装置を用いて行えばよい。照射される光は、好ましくは紫外線である。
【0087】
インクジェット法による記録方法は、インクジェットインクを多数回のパスで記録するシリアル記録方法、および1回のパスで記録するライン記録方法のいずれでもよい。具体的には、インクジェットインクを基材上に付与し、基材上のインクジェットインクに紫外線を照射してインクジェットインクを硬化または半硬化状態とし、この上にフレッシュなインクジェットインクを付与し、活性エネルギー線によりインクジェットインクを硬化させる工程を含むものである。
【0088】
前述の通り、本発明の光硬化性インクジェットインクは、低粘度であるため、射出安定性に優れている。さらに、本発明の光硬化性インクジェットインクは、光硬化感度も良好であり、硬化膜の柔軟性も高いという特徴を有する。そのため、本発明の光硬化性インクジェットインクの硬化膜の耐候性も優れている。
【実施例】
【0089】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0090】
(合成例1)
以下に示されるマレイミド誘導体1を合成した。
マレイミド誘導体1(分子量:311.33)
【化14】

【0091】
ステップA:ディーンスターク分留器および冷却管を備えた容量1Lの三口フラスコに、グルタミン酸44.1g、p−トルエンスルホン酸一水和物62.8g、トルエン300ml、1−プロパノール300mlを仕込み、還流条件下、生成する水を除去しながら6時間反応を行い、反応終了とした。反応液を濃縮して、トルエンおよび1−プロパノールを留去することで、結晶化を開始させて粗結晶を得た。得られた粗結晶をアセトンで洗浄し、再結晶させてグルタミン酸ジプロピルエステルp−トルエンスルホン酸塩の白色結晶を120.1g得た。
ステップA:
【化15】

【0092】
ステップB:滴下ロートおよび温度計を備えた容量1Lの三口フラスコに、ステップAで得たグルタミン酸ジプロピルエステルp−トルエンスルホン酸塩80.7g、アセトン300ml、およびトリエチルアミン24.3gを仕込み、反応溶液を5℃に冷却した。この反応溶液に、予め調製しておいた無水マレイン酸21.6gのアセトン200ml溶液を、滴下ロートから溶液温度を5℃に保ちながら1時間かけて滴下した。滴下終了後、溶液温度を室温に戻してさらに2時間反応を行い、反応終了とした。得られた反応溶液を濃縮してアセトンを留去し、1N塩酸100mlを投入してpH=2とした。この溶液を酢酸エチル200mlに溶解させ、水層を除去した後、さらにこの溶液を純水100mlで2回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを減圧留去して粗グルタミン酸ジプロピルエステルマレアミン酸の濃オレンジ溶液を63.0g得た。
ステップB:
【化16】

【0093】
ステップC:滴下ロート、冷却管、塩化カルシウム管、および温度計を備えた容量1Lの三口フラスコに、ステップBで得た粗グルタミン酸ジプロピルエステルマレアミン酸63.0g、テトラヒドロフラン400ml、および臭化亜鉛67.6gを仕込み、反応溶液を5℃に冷却した。この溶液に、ヘキサメチルジシラザン64.6gを滴下ロートから、溶液温度を5℃に保ちながら1時間かけて滴下した。滴下終了後、反応溶液を還流させてさらに2時間反応を行い、反応終了とした。得られた反応溶液を濃縮してテトラヒドロフランを留去し、酢酸エチル200mlに溶解させて生成した塩をろ過した。得られたろ液に、1N塩酸100mlを加えて10分間撹拌した。この溶液から水層を除去した後、さらに飽和炭酸水素ナトリウム溶液100mlで2回、飽和食塩水で1回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを減圧留去して、マレイミド誘導体1の淡黄色液体を55.0g得た。マレイミド誘導体1は室温で液体であった。
ステップC:
【化17】

【0094】
得られたマレイミド誘導体1の構造は、HNMRおよび13CNMRで確認した。
HNMR(400MHz、CDCl):
6.76(s、2H、−CH=CH−)、4.74(q、1H、N−CH−)、4.10(t、2H、−(C=O)−O−CH−)、4.02(t、2H、−(C=O)−O−CH−)、2.52−2.60(dd、1H、N−CH−CH−)、2.38−2.46(dd、1H、N−CH−CH−)、2.32−2.37(m、2H、−CH−)、1.59−1.68(m、4H、−CH−)、0.93(t、3H、−CH)、0.90(t、3H、−CH).
13C NMR(100MHz、CDCl):
172.2[−(C=O)−O−]、169.9[−(C=O)−O−]、168.7[N−(C=O)]、134.3(−CH=CH−)、67.5[−(C=O)−O−CH−]、66.3[−(C=O)−O−CH−]、51.3(−N−CH−)、30.8(−CH−)、24.1(−CH−)、21.8(2C)(−CH−)、10.3(2C)(−CH).
【0095】
(合成例2〜15)
下記表1に示されるマレイミド誘導体2〜15を用意した。マレイミド誘導体2〜15は、前述と同様に合成により得たか、または市販品を購入した。
【表1】

【0096】
[実施例1−1]
マレイミド誘導体1を用いて、以下の組成の光硬化性組成物1を作製した。
マレイミド誘導体1 97.9質量%
光開始剤(BASF社製Darocure 1173) 2.0質量%
TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-N-オキシル) 0.1質量%
【0097】
[実施例1−2〜実施例1−12]
マレイミド誘導体1をマレイミド誘導体2〜12に変更した以外は、光硬化性組成物1と同様にして光硬化性組成物2〜12を作製した。
【0098】
[比較例1−1〜比較例1−3]
マレイミド誘導体1をマレイミド誘導体13〜15に変更した以外は、光硬化性組成物1と同様にして光硬化性組成物13〜15を作製した。
【0099】
作製した光硬化性組成物1〜15について、以下の方法で出射性、光硬化感度および硬化膜の柔軟性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0100】
出射性の評価
コニカミノルタIJ社製のピエゾヘッド512Lを用いて評価を行った。ヘッド温度を90℃以下でインク粘度が10mPa・sになる温度に設定するか、または90℃でも10mPa・sより大きい場合はヘッド温度を90℃に設定した。8kHzの周波数で、42plのインク液滴を10分間連続吐出し、1L相当のインクを吐出した。その後、ヘッドの欠ノズルの数を調べ、下記基準で評価した。
◎:欠ノズルは認められなかった
○:欠ノズルが1個以上全体の3%未満発生した
△:欠ノズルが全体の3%以上、10%未満発生した
×:欠ノズルが全体の10%以上発生した
【0101】
光硬化感度の評価
得られた光硬化性組成物を、コニカミノルタIJ社製のピエゾヘッド512Lを搭載したUV硬化型プリンタに装填し、PET基材上に、画像解像度720×720dpi(dpiとは1インチ、即ち2.54cm当たりのドット数を表す)のベタ画像を形成した。その後、高圧水銀灯で10、30および100mJ/cmの光量になるように、段階的にUV照射した。それぞれの光量となるようにUV照射後のベタ画像を触診して、硬化の程度を観察した。光硬化感度の評価は、以下の基準で行った。
◎:光量10mJ/cmで硬化した
○:光量10mJ/cmでは硬化しないが、光量30mJ/cmでは硬化した
△:光量30mJ/cmで硬化しないが、光量100mJ/cmでは硬化した
×:光量100mJ/cmでは硬化しなかった
【0102】
硬化膜の柔軟性の評価
得られた光硬化性組成物を、コニカミノルタIJ社製のピエゾヘッド512Lを搭載したUV硬化型プリンタに装填し、塩ビ基材上に、画像解像度720×720dpi(dpiとは1インチ、即ち2.54cm当たりのドット数を表す)のベタ画像を形成した。その後、高圧水銀灯で100mJ/cmの光量でUV照射して、硬化させた。このようにして、画像を形成した塩ビ基材を、外径3mmのステレンス棒に、画像形成面が外側となるように巻き付けた。そのときに画像(硬化膜)に生じたヒビ割れの度合いを目視観察し、下記の基準に基づいて硬化膜の柔軟性を評価した。
◎:折り曲げても(巻き付けても)全くヒビが発生しない
○:5、6回折り曲げる(巻き付ける)と、弱いヒビ割れの発生が認められる
△:2、3回折り曲げる(巻き付ける)と、弱いヒビ割れの発生が認められる
×:1回折り曲げる(巻き付ける)と、明らかにヒビ割れが発生する
【表2】

【0103】
表2に示されるように、本発明のマレイミド誘導体を含む実施例1−1〜1−12の光硬化性組成物は、出射性、光硬化感度および硬化膜の柔軟性の全てを満足することがわかる。一方、本発明のマレイミド誘導体を含まない比較例1−1〜1−3の光硬化性組成物は、出射性、光硬化感度および硬化膜の柔軟性の全てを満足するものではないことがわかる。比較例1−2の光硬化性組成物は、多価マレイミド誘導体を含むため、比較的粘度が高いことがわかる。一方、比較例1−1と1−3の光硬化性組成物は、それに含まれるマレイミド誘導体がXとして電子吸引性基を含まないため、光硬化感度が十分ではないことがわかる。
【0104】
[実施例2−1]
マレイミド誘導体1を用いて、以下の組成のインクジェットインク2−1を作製した。
【0105】
以下の成分を混合し、粒径0.5mmのジルコニアビーズとともにペイントシェーカーで6時間分散混合した。
TEGDVE(トリエチレングリコールジビニルエーテル) 64.8g
マレイミド誘導体1 35.2g
カーボンブラック 2.0g
スルスパース24000GR(ルーブリゾール社製) 1.0g
TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-N-オキシル) 0.1g
【0106】
得られた分散混合液に、以下の成分を混合溶解させて、インクジェットインク2−1を作製した。
DAROCURE TPO(ホスフィンオキシド系光開始剤 BASF製) 5.0g
Quantacure ITX(チオキサントン系光増感剤 Aceto Chemical製) 3.0g
【0107】
[実施例2−2〜実施例2−7]
TEGDVEとマレイミド誘導体1の当量比を表3に示されるように変更した以外は、実施例2−1と同様にしてインクジェットインク2−2〜インクジェットインク2−7を作製した。
【表3】

【0108】
[実施例3−1]
マレイミド誘導体3を用いて、以下の組成のインクジェットインク3−1を作製した。
【0109】
以下の成分を混合し、粒径0.5mmのジルコニアビーズとともにペイントシェーカーで6時間分散混合した。
CHDVE(シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル) 62.1g
マレイミド誘導体3 37.9g
カーボンブラック 2.0g
スルスパース24000GR(ルーブリゾール社製) 1.0g
TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-N-オキシル) 0.1g
【0110】
得られた分散混合液に、以下の成分を混合溶解させて、インクジェットインク3−1を作製した。
DAROCURE TPO(ホスフィンオキシド系光開始剤 BASF製) 5.0g
Quantacure ITX(チオキサントン系光増感剤 Aceto Chemical製) 3.0g
【0111】
[実施例3−2〜実施例3−7]
CHDVEとマレイミド誘導体3の当量比を表4に示されるように変更した以外は、実施例3−1と同様にしてインクジェットインク3−2〜インクジェットインク3−7を作製した。
【表4】

【0112】
[実施例4−1]
マレイミド誘導体10を用いて、以下の組成のインクジェットインク4−1を作製した。
【0113】
以下の成分を混合し、粒径0.5mmのジルコニアビーズとともにペイントシェーカーで6時間分散混合した。
N-ビニルカプロラクタム 65.6g
マレイミド誘導体10 34.4g
カーボンブラック 2.0g
スルスパース24000GR(ルーブリゾール社製) 1.0g
TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-N-オキシル) 0.1g
【0114】
得られた分散混合液に、以下の成分を混合溶解させて、インクジェットインク4−1を作製した。
DAROCURE TPO(ホスフィンオキシド系光開始剤 BASF製) 5.0g
Quantacure ITX(チオキサントン系光増感剤 Aceto Chemical製) 3.0g
【0115】
[実施例4―2〜実施例4―7]
N-ビニルカプロラクタムとマレイミド誘導体10の当量比を表5に示されるように変更した以外は、実施例4−1と同様にしてインクジェットインク4−2〜4−7を作製した。
【表5】

【0116】
実施例2−1〜実施例2−7、実施例3−1〜実施例3−7、および実施例4−1〜実施例4−7において作製したインクジェットインクの、出射性、光硬化感度、および硬化膜の柔軟性を、実施例1と同様の方法で評価した。評価結果が表3〜表5に示されている。
【0117】
実施例2−1〜2−7、実施例3−1〜3−7、実施例4−1〜4−7の結果から、マレイミド化合物のマレイミド基と、ビニル化合物のビニル基との当量比が、20/80〜70/30の範囲内にあるインクジェットインクは、出射性、光硬化感度および硬化膜の柔軟性のバランスに優れることがわかる。一方、マレイミド化合物のマレイミド基の当量が小さいと、光硬化感度と硬化膜の柔軟性が低下し;マレイミド化合物のマレイミド基の当量が大きいと、出射性が低下することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の光硬化組成物は、様々な塗布法によって塗膜にされて、それを光硬化させることで種々の硬化樹脂膜となる。特に、インクジェット法で塗布される光硬化性インクジェットインクとして好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるマレイミド誘導体を含有する、光硬化性組成物。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)において、
およびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を示し、RとRとは、互いに結合して環を形成してもよく;
は、分子量15〜600の直鎖または分岐のアルキル基、分子量45〜600のオキシアルキル基またはアリール基を示し;
Aは、単結合、メチレン基またはエチレン基を示し;
Xは、炭素数3以上の直鎖または分岐のアルキル基、アリール基、−COOR、−CONH、−CONHR、−OR、−SR(Rは分子量15〜600の直鎖または分岐のアルキル基、分子量45〜600のオキシアルキル基またはアリール基)からなる群より選ばれる1価の基を示す。)
【請求項2】
前記一般式(1)における、
およびRは、水素原子またはメチル基を示し;
は、炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルキル基、分子量500以下のポリオキシアルキル基、またはアリール基を示し;
Xは、炭素数3以上の分岐のアルキル基を示す、
請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
およびRは、水素原子またはメチル基を示し;
は、炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルキル基、分子量500以下のポリオキシアルキル基、またはアリール基を示し;
Xは、−COOR(Rは炭素数1〜18の直鎖または分岐のアルキル基、分子量500以下のポリオキシアルキル基、またはアリール基)を示す、
請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)における、
は、炭素数3〜18の直鎖または分岐のアルキル基、または分子量59〜500のポリオキシアルキル基を示し;
Xは、−COOR(Rは、炭素数3〜18の直鎖または分岐のアルキル基、または分子量59〜500のポリオキシアルキル基)を示す、
請求項3に記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の光硬化性組成物を含有する、光硬化性インクジェットインク。
【請求項6】
少なくとも重合性化合物をさらに含有し、
前記重合性化合物が、ビニルエーテル化合物またはN−ビニル化合物である、請求項5に記載の光硬化性インクジェットインク。
【請求項7】
前記マレイミド化合物のマレイミド基と、ビニルエーテル化合物およびN−ビニル化合物のビニル基の合計との当量比が、20/80〜70/30である、請求項6に記載の光硬化性インクジェットインク。


【公開番号】特開2013−1729(P2013−1729A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131570(P2011−131570)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】